農業生産地帯、ジェオルジ内にある、とある村。そこでは毎年この村長祭に合わせて、ある催しが開催されていた

「ごった煮鍋？」
　その村を訪れたあるハンターは、その村で行われている風習を耳にした。
「ああ。この季節は収穫の季節だからね。村の作物や畜産物、狩猟の成果をまるごと鍋で煮て、皆で実り多い秋をお祝いしようって風習があるんだ」
　ハンターが尋ねると青年は快く応えてくれる。この季節になるとこのジェオルジ内全体が賑わう為、この行事の為にこの村を訪れるハンターも少なくなく、それぞれが持ち寄った食材もごった煮にするそうなのだ。
「ただ、ちょっと困った事があってね」
「困った事？」
　青年が顔を顰めつつ言う。なんでも、鍋全体の味を調える調味料の材料となる山菜の群生地に、凶暴な獣が棲みついてしまったそうなのだ。
「ごった煮鍋は収穫物だけじゃなく、持ち寄った色んなものを入れる。それでも皆が美味しく食べられるのはその調味料あってのことなんだ。もしその調味料が用意出来ないと、今年の鍋は悲惨な事になってしまうかもしれないんだ……」
　所謂闇鍋みたくなってしまうということだろう。確かに年に一度ある盛大な鍋パーティがそのような形で終わってしまうというのは、村にとっても参加者にとっても好ましい事ではないのは明らかだ。
「そういうことだったら、俺達ハンターに任せてくれよ。困ってる人を助けるのがハンターの仕事だ。その獣を退治すりゃ、鍋会に間に合うのかい？」
　それを聞いた青年の顔に光が戻る。
「あ、ああ！　勿論だとも、願ってもない申し出だ！　是非頼ませてもらいたい！」
「よし、それじゃあちょっと仲間に声をかけてくるな」

　こうしてこのハンターの報せを聞いたハンター達は、獣退治の為に山に繰り出すのだった。
　

●お騒がせの獣退治

「ハンターの皆さん、こっちです」
　案内役を任された村の青年は山道を先導して歩いてゆく。
「わざわざご足労頂いてありがとうございます。この先に、例の調味料を作るための山菜が群生しているんですが……」
　青年は度々振り向きつつ、ハンター達に言葉をかけてゆく。今回の依頼は鍋会の調味料を作るのに必要な山菜の近くに棲みついた獣の撃退だ。
「美味しいご飯の邪魔をするやつは、この桃花ちゃんが許さなぁい！」
「そうだな。美味い料理が食べられなくなる事は非常に由々しき事態だ。全力を持って問題解決に当たらねばな」
　銀　桃花(ka1507)とビスマ・イリアス(ka1701)は美味しい食事を食べる事の出来る村の行事を邪魔する獣たちの駆除にやる気を出している様子だ。美味しい食事というのはそれだけで幸せなものだ。故にそれを阻む存在は許せないだろう。
「わるいのたおして、いっぱいたべよう！　やまなべ♪やみなべ♪」
「うん、いっぱい食べよう。さっさと、倒して……」
　キルシッカ・レヴォントゥリ(ka1300)とミノア・エデン(ka1540)の二人はむしろこの後の鍋を楽しみにしている様子だ。特にミノアはここ数日まともな食事にありつけていないらしく、ぐぎゅうう……と腹の虫を鳴らしている。声にもキルシッカと比べてかなり切実な感情が籠っている。
「なんだか動物さんには申し訳ないですけれど、皆さんが困ってらっしゃるのを無視することは出来ませんわ」
「そーだよね。調味料抜きで食べる鍋料理なんて最悪だしねー」
　ロジー・ビィ(ka0296)は獣退治にはあまり乗り気でないらしい。向こうは動物。決して悪気は無いのに追い払うという事に負い目を感じているらしい。だが解決しなければ村の皆が困ると、気持ちを引き締める。超級まりお(ka0824)もまた、村の皆が困っているのを見過ごすことは出来ない様子だ。
「そろそろ、目的地に着きます」
　村の青年の足取りが慎重になり、小声になる。ハンター達もそれに続いて息を潜める。キルシッカはそっと青年の近くに移動し、耳打ちする。
「わるいのがどーんってきたら、わたしのうしろにきてね」
「あ……ありがとうございます」
　やがて群生地に辿り着いた一行。青年が指差すと、そこには珍しい形をした山菜が沢山生えている。ふわりと甘いような苦いような、だが不思議と安心感が湧く草の匂いが鼻孔をつつく。
「いい匂いですわね……」
「ええ、この季節が一番、あの山菜の香りがよくなる季節なんです。それを利用して作った調味料が、鍋の味と風味を整えるんですよ」
　良い香りにうっとりとするロジーに青年が小声で説明する。
「目標はあれかな？」
　ミノアが指差すと、そこには巨大な獣が座っていた。体長2ｍはあろうと思われる狼のような獣、あれが今回の元凶らしい。そこへ茂みから複数の獣が現れる。
「あれがリーダーってことかな？」
「そのようだな。この香りにつられてここに棲みついたのかもしれんな」
「あのおっきいの、おいしいのかな……」
　桃花とビスマは武器を構える。それに気づいたか、獣たちもこちらを向き、途端に唸り声をあげる。友好的な雰囲気ではなさそうだ。キルシッカだけは別の感想を抱いているようだが……。
「選んだ縄張りが悪かったってことで、退治させて貰うよ」
　言葉が通じないとは解っているが、追い払う事に少しの後ろめたさを感じて獣たちに言い放つまりお。その言葉を皮切りに、戦闘が開始された。　

●山菜を巡る戦い

最初に飛び掛かってきた獣と相対するのはロジー。振り下ろされる爪をクラウンナイツで弾き、そのまま振り下ろされた爪目掛けてグラディウスを叩き込んだ。
「ギャウ！？」
　爪を叩き割られた獣は弾き飛ばされ、覚束ない足取りで着地する。
「命までは取りたくないのです。逃げては下さいませんか？」
　ロジーは剣を構えつつ獣に訴えかける。言葉は通じずとも、武器となる爪や牙を破壊すれば戦意を削ぐ事が出来ると考えての行動だ。実際獣は割られた爪の痛みに、飛び掛かろうとはせずにこちらの動きを伺っている様子だ。
　だが他の獣はそうはいかない。次々とハンター達へと襲い掛かる。
そこへまりおはすかさず八握剣をスローイングする。全く投げる気配を見せなかったところからの投擲に、獣のうち一体は回避が叶わず傷を負う。その隙を見逃さずにミノアが踏み込み、クレイモアの腹で狼を強打。衝撃に耐えきれずに狼は吹き飛ぶ。
（出来れば捕獲したいんだけど、あの大きさを捕まえるには道具がいりそうなんだよね……）
　ミノアは狩猟知識により獣の挙動を把握し、捕獲を試みようとするが……生け捕るには何か道具が必要そうだと、普通に倒すことに専念する。
　ハンターの迎撃に一瞬獣たちが怯んだところへ桃花は飛び込む。狙いは一番巨大な群れのリーダーと思しき獣だ。
「まとめてお星様になってもらうんだから！」
　野生の瞳によりたじろいだ隙を見逃さず、彼女のモーニングスターは意外にも容易にリーダー格の獣を捉える。大きい分、挙動はあまり俊敏ではないようだ。だが、深く切り込んでしまった桃花の背後に別の獣が迫る。
　そこへ同じく飛び込んできたのはビスマだ。ランアウトにより割り込むように獣を斬り付けて桃花の背後をカバーする。爪が一瞬だけ掠ってしまうが、大した傷ではない。
「リーダーを叩くのはうまく行きそうだな。だが無理はするなよ」
「うん！　大胆、且つ慎重にいくよ。背中は預けるからね、おじさん！」
二人は背中合わせに立ち回る。リーダーを守らんとその二人に獣が飛び込んでゆき、他のメンバーがそれをカバーする陣形になった。遠巻きに青年とキルシッカがそれを眺めていたが……。
「はっ、あぶない！」
「えっ！？」
　そんな二人に一匹の獣が飛び掛かる。群れから離れて様子を伺っていたのだろう。キルシッカはすかさず青年を庇い、腕でその牙を受け止めると、闘争をのせたナックルの一撃を獣の腹部に叩き込む。比較的小柄だった獣はキルシッカの一撃に耐えられず吹き飛ばされた。
「よわいものいじめ、だめだよ！」
「あ、ありがとうございます……！」
　青年のお礼にキルシッカはにっこりと微笑み返す。続けて別の獣が飛び掛かってくるも、動物霊の力で防御力を高めたキルシッカは難なく迎撃をしてゆく。大多数の獣は桃花とビスマに向かっている為、キルシッカ一人でも村人を守りきれそうだ。
「おいたが、過ぎますわよっ！」
　ロジーは前線近くに切り込みつつもカウンタースタイルを崩さない。襲い掛かってきた獣の動きを小剣で制し、牙や爪を狙って剣でそれを叩き割る。次第に獣たちの戦意は削がれていったが……。
「ワォン！」
　リーダーと思しき獣の咆哮により、再び戦意を取り戻してゆく獣たち。攻撃力が上がった気配がする。
「やはり、リーダーを叩かないといけないようですわね……」
「ロジー、あわせるよ！」
　ミノアの呼びかけにロジーは頷くと、二人揃ってリーダーへと踏み込み、グラディウスとクレイモアで攻撃する。2方向からの攻撃を回避しきれず、リーダーの体に傷がつく。
　怯んだそこへと、まりおが瞬脚で飛び込んだ。
「隙を見逃さないのが、ボス戦の肝だからね！」
　村雨丸によって怯んだリーダーの前足を斬り付け、体制が崩れるも、リーダーはその牙でまりおを捉えようとする。まりおはすかさず跳躍して回避しつつ、リーダーの獣を思い切り『踏みつける』。
「ギャウ！？」
　前足を負傷しているリーダーはそのまま前のめりに体制を大きく崩す。そこへ桃花が踏み込み、鈍器を振り下ろした。
「チャンスは逃さないのが肉食系女子の神髄よー！」
　見事にタイミングのあった一撃をまともに受け、リーダーの獣はその場で動かなくなった。リーダーが倒れた事で旗色が悪くなったと察した他の獣は、蜘蛛の子を散らしたようにその場から逃げていった。


●ごった煮鍋会

　群生地を奪還したハンター達。村人たちに感謝されつつの凱旋だ。
「皆様、本当にありがとうございます。山菜も無事採取出来ましたから、すぐに調味料に加工して鍋会をしたいと思いますよ」
「えへへーいっぱいうごいたから、おなかすいた！」
「ご飯だー！」
　キルシッカとミノアは待ってましたとばかりに笑顔をふりまく。やがて夕刻、夕飯の時間が近づいてきた辺りで、夕日に照らされる巨大な鍋がいくつか、村の広場に用意された。
「お集まり頂いた皆様、大変お待たせ致しました！　ただいまこれより、『ごった煮鍋会』を開催したいと思います！」
　村の代表である、ハンター達の案内を行った青年が声を張り上げて鍋会の開始を宣言する。鍋からは例の山菜の独特な香りが強く立ち込めており、不思議と食欲をそそられる。
　さて、この鍋会はこの調味料の性質上『何でも入れて良い』事になっている。村人やハンター達は思い思いの食材を鍋に放り込んでいる。勿論今回の依頼を担当したハンター達もそれぞれたくさんの食材を持ち寄っている。
「やっぱりお鍋には旬のものよね！　根野菜を持参したわ！」
　桃花は旬の野菜を取り出す。白菜や玉ねぎなど、鍋にはうってつけだ。
「料理は全然だけど、下拵えくらいなら出来るから任せてね♪だけど、やっぱりお鍋だしお肉が欲しいところだね」
「そう言うと思って、丁度今特性の肉団子を拵えてきたぞ」
　何気なく桃花が口にしたと同じタイミングでビスマが多数の肉団子を持参する。持ち寄った鶏肉のミンチを生姜で味を整えた彼自慢の一品だ。鍋に入れると、じゅわっと肉汁が広がり、出汁の味がより濃厚なものになる。
「わー！　ビスマおじさん流石！」
「鍋に合うように作ったからな。他にはどのような食材があるだろうか？　この時期なら茸各種が嬉しい所だが」
「その言葉を待ってました！　じゃじゃ～ん♪クリムゾン産の超電磁マツタケ～♪」
ビスマの何気ない一言にまりおが食材を取り出す。確かになんか電撃みたいにギザギザしている。
「……大丈夫なの、それ？」
「大丈夫だよー。おいしいからいっぱい採ってきた！　あと名前は知らないから勝手に命名！　とりあえず火通せば大丈夫だよ！」
　どうやら帰り道に見つけて採ってきたらしい。毒見はしたということらしいが、名前も知らないという事で不安が立ち込める。
　よい子の諸君は決して真似はしないように！　身長が小さくなっても知らないぞ！
「あ、それは大丈夫な奴だね」
　ミノアがその茸を見て一言。彼女は野宿生活が長く、サバイバルの経験が豊富だ。食べれるものと食べられないものの区別はしっかりとついてるらしく、彼女の一言で確信を獲れたまりおは茸を鍋に投入する。
「ミノアも山菜をとってきたんだー！　皆知らないけど、これ栄養あって美味しいんだよ！」
　ミノアが取り出したのは同じく帰り道に採取したという山菜だ。どれもこれも見覚えはあるものの、食べられるという話は初耳だ。だがミノアの経験と知識を理解している一行はさして止めはしない。山菜もまた鍋で煮こまれていく。
「えへへー、わたしはリアルブルーのともだちからおいしいものいっぱいもらってきたよー！」
　そう言って彼女が荷物から取り出したものは。

　ポテトチップス、カップ麺、ツナ缶、レトルトカレー。

「……急に鍋にあるまじき食材になったね」
「茸よりも極彩色な事になりそうなんだけど」
リアルブルー出身の桃花とまりおは物凄く微妙な反応だ。
「まあ！　リアルブルーの食材なんですのね！　とっても興味深いですわ！　ふふっ……私も、今日の為にとっておきのモノを持ってきましたの！」
　にっこりと微笑みながらロジーは荷物から、あるものを取り出した。それは

「これですわー！」
　くさやの干物。そしてドリアン


「「…………」」
「あ、だめなにおい……」
　まりお、桃花の顔からは更に表情が消える。キルシッカも漂ってくる臭いに警戒心を露わにした。
「きっと良い出汁と素敵な王様気分を味わえましてよっ！」
　ドヤァッ！　という顔のまま、周囲の声も聴かずにささっと捌いて鍋に投入するロジー。いよいよ闇鍋になってきたぞぉぉぉぉとリアルブルー出身のハンターが叫び始める。
「さて皆様、食材を入れたところでそろそろ煮込みましょう！」
　村の青年の号令で、鍋にはそれぞれ蓋がなされる。数分後に完成の予定だ。
「……3日ぶりのご飯、まともなものになりますように」
　ミノアは切実に呟いた。

●鍋会の行方

「さて、それでは皆さん、頃合いですので、召し上がりましょう！」
　号令と同時に蓋が開けられ、閉じ込められていた湯気と香りがふわぁっと広がる。巨大な複数の鍋は空の下の村の広場でさえ、鍋の香りを充満させる。
　一行の鍋は……

　山菜と野菜、そして茸が豪勢な鍋に、主菜たる肉団子。
それをカレーとラーメンが優しく包みこみ、粉々になったポテトチップスが歯ごたえにアクセントを加える。サバ缶は見た目的に割とマッチしていた

　そして見事に調味料の香りを相殺した干物とドリアン！！！
　他の鍋のように、この鍋会独特の香りは漂ってはいなかった……

　だが
「……調味料の勝利だな、これは」
　試しに食べてみたビスマが存外悪くないといった口調で感想を吐露する。臭いは相殺しているが、味としてはしっかりと整ってるようだ。調味料の健闘に敬礼。
「ま、まぁ、もっとカオスな事にならなくてよかったよ。食事で残機減らされたくないしね」
「ほんとだよー。闇鍋にはなっちゃったけど、おじさんの肉団子もおいしいしね」
　闇鍋の事を知るリアルブルー出身のまりおと桃花も、無事な味に胸を撫で下ろしてる。
「……まともなご飯だぁ！」
　見た目的にはアレだが食べれるものと知り、ミノアは鍋をがつがつとかき込む。
「……（すんすん）このにおいは、おいしいにおい……！　いっぱいたべられる！　よい！」
　そして消滅したと思われる匂いだったが、野生児であるキルシッカの嗅覚は誤魔化せない。しっかりと効果を発揮した調味料の安全な匂いを嗅ぎ分け、もりもりと鍋を食べ始めた。
「うむ。依頼の完遂と、美味い鍋に感謝しよう」
ビスマは出された酒で、村人と乾杯した。
「うふふ、鍋って美味しいものなのですわね。今日の経験を活かして、次回以降の鍋にも必ず干物とドリアンを……」
「それは絶対にやめて！？」
　味をしめたロジーに、桃花が必死な口調で制止する。彼女には一度しっかりとお話しをした方が良さそうだ。現に鍋の近くを通りかかった村人や他のハンターは鍋の中身に戦々恐々としているのに……。


　こうして、ごった煮鍋会はあたたかな味と芳醇な香りに満たされ、無事に幕を下ろした。
　皆でつつく鍋というのは、これからの季節に格別なものだ。
　報告書を読んだ皆様も、ぜひ試してみてはいかがだろうか？

　でも干物やドリアンは入れてはいけない。私との約束だ！