ゲスト
(ka0000)
【郷祭】祭の舞台へ
マスター:佐倉眸

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/11/04 19:00
- 完成日
- 2014/11/12 14:02
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
黄金に色ずく穀物の畑に風が渡る。
秋まきの麦を植えたばかりの黒い畑には少しずつ若い緑の芽が伸び始め、そろそろ麦踏みの支度が始まっている。
甘く実った果物の籠を積んで、この集落の長の姪に当たり、年老いた長に代わって集落をまとめている黒髪の妙齢、コニアは祭の支度が進む広場を眺めた。
ジェオルジの北東、山の麓から拓いてきた広い畑を守るエルフの集落、それがコニア達のの暮らす場所。その集落の中心に設けた広場では、今、着々と祭の支度が進められている。
「首尾はどう?」
「上々、夕方には終わるよ。何てったって、今年は特別だからね」
「そうね」
コニアは広場の畑に目を向ける。
集落の畑と違い、その畑はとても小さく、人が転がったくらいの大きさしか無い。
広場の中心に小さな畑が2つ、それぞれ、春の畑・秋の畑と名付けられている。
秋の畑には、今年の実りが重くその実を垂れていた。
季節ごと、村で祀る精霊にその折々の実りを贈る。
コニアの集落で催されるささやかな祭が、今年はジェオルジ村の祭に合わせて少しばかり大がかりな物になっていた。
●
今年の秋の贈り物は村を上げて生産した重たい豆のような実を付ける蔓。
実の中身はつるりとした豆では無く、柔らかい米のような粒が詰まっている。
実に触れて熟し具合を確かめ、コニアはほっと息を吐いた。今年もいい祭の日を迎えられそうだ。
祭は夜に行われる。
贈り物の畑の前に小さな舞台を組み、その年に選ばれた舞い手が、祭に集まった人々の祈りの中、舞を披露する。
細かな作法は口伝らしいが、その舞は祭ごとに変わるらしい。
「コニア! 暇してるならさ、ローナちゃんのとこ行ってあげなよ。緊張して目ぇ回してたよ」
「ありがとう、そうするわ。キリも無理して目を回さないように」
かがり火を組んでいた同じ年頃の友人に促されて、コニアは広場に隣接した集会所へ向かった。
今年の舞い手はローナというコニアよりも幾らか若い少女だった。
集会所で時間までは練習をしたり、化粧や衣装を合わせていると聞いている。
コニアが集会所のドアへ手を掛けると慌てて飛び出してきた中年の女性とぶつかった。
「あら、コニアちゃん。今呼びに行こうと思っていたのよ」
「どうかされました?」
「それが…………ローナが倒れてしまって」
●
その女性、ローナの母親に連れられて控え室に宛がわれた集会所の一室に入ると、そこには練習中の軽装のまま、顔を赤くし仰向けに横たわっているローナの姿があった。
額も頬も見るからに熱く、息も上がっている。
暫くして駆けつけた医者が言うには、練習の疲れと緊張の所為で体が参っているとのこと。
「ゆっくり休んで2、3日で元気になりますよ」
「ごめんなさいね、無理するなって、言っていたんだけど……」
医者が祭の参加は無理だろうと首を横に振ると、母親は深く溜息を吐いてローナの額を撫でながら言う。
突然がらりと扉が開いた。
「コニア、どうしたの。何か医者の先生、走ってきたじゃん………ローナ?」
「――――何でもないわ。みんなに気にせず準備を続けて、って、伝えてもらえる?」
「…………コニア?」
医者の様子に慌てて後を追ってきたキリが、横たわるローナを見つけて口を噤み視線を揺らす。外の広場からは、支度を進める声が聞こえてくる。
「私が転んでしまったの、足首を捻ってしまったから、ローナのお母さんが慌てて先生を呼んでくれたのだけど、大したことは無かったわ……ローナも、お祭りをとても楽しみにしているの……だから」
倒れてしまう程、練習に打ち込んでいたことをコニアもキリも知っていた。
「あたしも、手伝うから!」
しかし、舞台でそれを披露できる状態では無いことも分かっている。
どうしようと俯いて考え込むコニアの肩をキリがぎゅっと抱き締めた。
集会所のドアがノックされた。
「コニアちゃん、ここ、部屋空いてるよな? ハンターさんが祭見に来たってよ。まだ早いよな。茶でも飲んで日暮れまで待ってて貰って」
支度にかり出されていた青年の声。
キリは口角を上げ、コニアと目を合わせると、2人でこくりと頷いた。
黄金に色ずく穀物の畑に風が渡る。
秋まきの麦を植えたばかりの黒い畑には少しずつ若い緑の芽が伸び始め、そろそろ麦踏みの支度が始まっている。
甘く実った果物の籠を積んで、この集落の長の姪に当たり、年老いた長に代わって集落をまとめている黒髪の妙齢、コニアは祭の支度が進む広場を眺めた。
ジェオルジの北東、山の麓から拓いてきた広い畑を守るエルフの集落、それがコニア達のの暮らす場所。その集落の中心に設けた広場では、今、着々と祭の支度が進められている。
「首尾はどう?」
「上々、夕方には終わるよ。何てったって、今年は特別だからね」
「そうね」
コニアは広場の畑に目を向ける。
集落の畑と違い、その畑はとても小さく、人が転がったくらいの大きさしか無い。
広場の中心に小さな畑が2つ、それぞれ、春の畑・秋の畑と名付けられている。
秋の畑には、今年の実りが重くその実を垂れていた。
季節ごと、村で祀る精霊にその折々の実りを贈る。
コニアの集落で催されるささやかな祭が、今年はジェオルジ村の祭に合わせて少しばかり大がかりな物になっていた。
●
今年の秋の贈り物は村を上げて生産した重たい豆のような実を付ける蔓。
実の中身はつるりとした豆では無く、柔らかい米のような粒が詰まっている。
実に触れて熟し具合を確かめ、コニアはほっと息を吐いた。今年もいい祭の日を迎えられそうだ。
祭は夜に行われる。
贈り物の畑の前に小さな舞台を組み、その年に選ばれた舞い手が、祭に集まった人々の祈りの中、舞を披露する。
細かな作法は口伝らしいが、その舞は祭ごとに変わるらしい。
「コニア! 暇してるならさ、ローナちゃんのとこ行ってあげなよ。緊張して目ぇ回してたよ」
「ありがとう、そうするわ。キリも無理して目を回さないように」
かがり火を組んでいた同じ年頃の友人に促されて、コニアは広場に隣接した集会所へ向かった。
今年の舞い手はローナというコニアよりも幾らか若い少女だった。
集会所で時間までは練習をしたり、化粧や衣装を合わせていると聞いている。
コニアが集会所のドアへ手を掛けると慌てて飛び出してきた中年の女性とぶつかった。
「あら、コニアちゃん。今呼びに行こうと思っていたのよ」
「どうかされました?」
「それが…………ローナが倒れてしまって」
●
その女性、ローナの母親に連れられて控え室に宛がわれた集会所の一室に入ると、そこには練習中の軽装のまま、顔を赤くし仰向けに横たわっているローナの姿があった。
額も頬も見るからに熱く、息も上がっている。
暫くして駆けつけた医者が言うには、練習の疲れと緊張の所為で体が参っているとのこと。
「ゆっくり休んで2、3日で元気になりますよ」
「ごめんなさいね、無理するなって、言っていたんだけど……」
医者が祭の参加は無理だろうと首を横に振ると、母親は深く溜息を吐いてローナの額を撫でながら言う。
突然がらりと扉が開いた。
「コニア、どうしたの。何か医者の先生、走ってきたじゃん………ローナ?」
「――――何でもないわ。みんなに気にせず準備を続けて、って、伝えてもらえる?」
「…………コニア?」
医者の様子に慌てて後を追ってきたキリが、横たわるローナを見つけて口を噤み視線を揺らす。外の広場からは、支度を進める声が聞こえてくる。
「私が転んでしまったの、足首を捻ってしまったから、ローナのお母さんが慌てて先生を呼んでくれたのだけど、大したことは無かったわ……ローナも、お祭りをとても楽しみにしているの……だから」
倒れてしまう程、練習に打ち込んでいたことをコニアもキリも知っていた。
「あたしも、手伝うから!」
しかし、舞台でそれを披露できる状態では無いことも分かっている。
どうしようと俯いて考え込むコニアの肩をキリがぎゅっと抱き締めた。
集会所のドアがノックされた。
「コニアちゃん、ここ、部屋空いてるよな? ハンターさんが祭見に来たってよ。まだ早いよな。茶でも飲んで日暮れまで待ってて貰って」
支度にかり出されていた青年の声。
キリは口角を上げ、コニアと目を合わせると、2人でこくりと頷いた。
リプレイ本文
●
集会所の一室にハンター達は通された。艶を帯びた年代物の長椅子にクッションを置き、テーブルには古い傷や稚い落書きの跡が窺える、集落の憩いの場らしい素朴な部屋だ。
咄嗟に足を挫いたという少女の容態を心配する青年に問題ないと笑ってみせ、コニアはキリとその部屋に向かう。ローナを部屋に寝かせ、母親がハンター達の席に茶を並べた。
「あ、あのっ」
ローナの様子を見に行くと母親が退室し、依頼を伝えた少女達が押し黙る。その沈黙の中、ミネット・ベアール(ka3282)が手を上げた。
「お祭りは私達の部族でも大切な意味を持ってました」
上擦る声を飲み込んで、「だから」と切な声が訴える。
「少々見せて貰いましたが、あの衣装ですよね。ミネットのサイズになら、合うように直せるよ」
「私も、舞踏の芸は修めているんだ。道化として手を貸してやるぜ」
ザレム・アズール(ka0878)が控えの部屋の衣装を思い出して首を傾がせ、リズリエル・ュリウス(ka0233)がミネットの手を取って口角を上げる。腕の程は、テントで待つメイドにでもと目を細めて。
「手伝うことは構いません……ですが、まずはこの集落のことを知っておくべきではないでしょうか?」
J(ka3142)が少女達の顔を交互に見詰める。禁忌に触れてしまってはいけませんから、詳しい方に伺っておくべきかと。彼女はそう語り、カップを片手に指を立てる。
「なら、私も聞き込みに回ろうかしら? いろんな人に、どういうお祭りが好きか聞いてみましょう」
エリシャ・カンナヴィ(ka0140)が空いたカップを茶托に置いた。
「お前らだけに大舞台に上がれなんて言わねぇよ――よし、まずは師範を呼び出して貰えるか?」
エヴァンス・カルヴィ(ka0639)の言葉に、コニアは頷き走って行った。
「なあ、舞台で剣舞なんてできねぇかな?」
「あら、私も――そうね、子どもなんかは派手なことが好きそうな気がするし」
エヴァンスとエリシャに問われてキリは歯を見せて笑う。任せて下さい、と。
エリシャが子どもから老人まで広く話を聞いて、好まれそうな舞台を考えると部屋を出て、ザレムが衣装を取りに控え室へ向かう。エヴァンスとキリはコニアに連れられた師範と入れ違うように舞台へ向かった。
エリシャが集会所を出ると、祭の支度が進む広場の中心から少し離れたところに子ども達がいた。
客人が珍しいのか、子ども達が顔を見合わせながら近付いてくる。
「こんにちはっ……」
「お祭りへようこそ、楽しんでいって下さいね」
挨拶をしたきり言葉に詰まった年下の子どもに変わり前に出た少女が、エリシャを見上げてにこりと笑む。
「そうね。……ねえ、少し良いかしら?」
集まってきた子ども達に、どういうお祭りが好き、と尋ねると彼らは楽しげな声で喋り始めた。
舞台ではキリが図面を広げ、集落の青年達に追加の木材を運ばせながらエヴァンスと話していた。春とは違うね、とそれを見た子どもの1人が言った。
「春?」
「春のお祭りはもっとちっさい舞台だった。前の秋も、そう。今日は違うのかな?」
「特別なことは嫌いかしら?」
「ううん、楽しいことは好き!」
はしゃぎながら去って行く子ども達を見送り、エリシャは舞台の方へ向かった。
担いでいた箱馬を下ろし、キリが振り返った。
「子ども達、どうでした? 舞台ですけど、板を足して広げておいて、お2人の剣舞が終わったら、元の形に戻します。それでどうでしょう?」
「ええ、構わないわ……ここの人たちにも話を聞いてみたいんだけど、いいかしら?」
「じゃ、俺も丸太を貰ってくるか……師範にも話しておきてぇし」
数人の青年が木材を置き2人に従う。キリは舞台に残って準備を続けるようだ。
集落のこと、祭のこと、一番詳しいのはやはり叔父だろうと、コニアが師範と杖を引き摺る長に手を貸しながら戻ってきた。
長を残し、道中に事情を聞かされた師範はミネットとリズリエルを連れて控え室へ向かう。
ジェイが居住まいを正して長に話し掛けた。
「私は、芸事には疎いのですが……この集落では、どのようなことが禁忌と見なされるのでしょうか?」
長は皺に紛れたような目をいっそう細めてジェイを見詰める。客人が集落のトラブルに真摯に対応している姿を喜んでいるのだろう。けれど、微笑むばかりで言葉を発さない。
青年達に話を聞き終えたエリシャと丸太の手配を終えたエヴァンスが戻ってくると、新しい客人に目を瞬かせまた、微笑んだ。
「――こんなに、大勢来て貰えたなら、きっと、いい祭になる……」
ジェイが首を傾がせる。ザレムが縫い掛けの手を止めて顔を上げた。
長はそちらへ顔を向け、指の丸い皺だらけの手を揺らして続けて続けてと促した。
「衣装に、――」
使えない色などは、と尋ね掛けてジェイが口を噤んだ。
「きれいに、したら精霊も喜ぶだろう……普段、あまり派手にはしないが……折角、来てくれたんだ、窮屈なことはしなくてもいい」
長が緩慢に手を伸ばし、いくつかの飾り紐を選び取るとジェイの手に乗せた。紅色に金糸を飾る艶やかなそれは、代わりに舞うと真っ先に手を上げたミネットの髪によく映えそうな色をしていた。
謝辞を一言置いて、ジェイはその紐を握り控え室に向かった。飾ってあげれば、緊張が解れて士気が上がるかも知れない、と。
ザレムが調整を終えた衣装を広げて眺め、長もそれを見て良い出来だと頷く。
「もう少し、舞台で映える装飾を加えても良いかも知れないな……」
ヴェールか、リボンか、羽衣のようにひらひらと舞台の上で翻ると華やかだろう。
その様子をにこにこと眺めていた長は満足げに頷くと、ゆっくりと腰を上げた。
椅子に座って拍子を刻んでいた師範はぴたりと手を止めて、もう一度、と声を張った。
「は、はいっ」
振り付けを違えたことを自覚していたミネットはすぐに元の場所へ戻り、最初の姿勢を作る。
リズリエルとミネットが一つのフレーズを通し終えた頃、ジェイが扉をそっと開けた。
「お疲れ様――ミネットさん、これを付けてみて下さい」
「お、似合ってるぜ、可愛いと思うぞ」
紐を髪に括ると、膨らんだ端の金糸が振りに合わせて揺れる穂のように見える。
「長が渡してくれました。ミネットさんの髪に合うと思いましたので」
師範がぽん、と手を打って、少し休憩にしましょうかと2人とジェイを側へ呼んだ。
「あなたたちも、急にこんなこと頼まれて大変だったわね。ローナに代わって礼を言うわ――この舞はね……」
穏やかな口調で師範が語った。彼女が彼女の師から綿々と伝え聞かされている舞の異味、精霊への感謝と、贈り物を現す舞。贈り物が代わる度に舞が変わるため、毎回変わると言われているその舞も、今回は本当に前例がない。苗を植え付けてからずっとこの作物を贈るための舞を作り続けてきたと。
リズリエルが黙って立ち上がり鏡に向かって流れを確かめる。ジェイはミネットの髪に飾った紐を直し、ミネットも舞の練習を再開した。
「……一番大事な、感謝を伝える部分と、今年の贈り物を現す部分だけは、踊って貰おうと思ったのよ」
傾き掛けた夕日が差し込む中、ローナが倒れたと聞き中止も考えたという彼女が、2人を見詰めて嬉しそうに微笑んだ。
差し入れの中に見つけたカボチャを一つ選び取って、ジェイは集会所の厨房へ向かった。
●
日が落ちる前に、ザレムはミネットに衣装を着付けていた。十分動けることを確かめて、最後に房を飾った柔らかな布を羽織らせる。二連の房は畑の実りによく似ていた。
ジェイの作った温かなスープをミネットに差し出し、衣装を整えながら背を叩く。
「大丈夫。観客席はカボチャ畑と思えばなんてことはない。衣装もよく似合っているよ」
祭を見に来た集落の人々にも温まるお茶を振る舞おうと、ブランデーの瓶を持って出ていく。不安げに彷徨った手をジェイとリズリエルが握って励ます。
「さて、今から私は兎のぬいぐるみだ!」
「ちゃ、ちゃんとやれることはやりましたし……」
上擦った声が聞こえたのか、ローナが青い顔のままで目を覚ました。
「ローナさんの想い、しっかり届けてきますね!」
ミネットの言葉を浮かびきらない意識の中で聞くローナに、兎の着ぐるみを纏ったリズリエルが飛び跳ねる。
「あなたのぬいぐるみが、心配して動き出してしまいました。舞台は任せてゆっくり休んで下さい」
ジェイがローナを寝かせ、リズリエルも兎の首で頷いた。
甘いお茶にブランデーを少し、温まりますよ、と差し出してその香りを喜んだ年嵩のエルフ達が舞台の見物に集まっていく。支度した分を配り終えるとザレムも舞台の端へ向かう。
篝火が灯り
一筋の矢が見物客の視線を掠う。
舞台に立てられた丸太を、不意に現れた男の一太刀が叩き割る。
かん、と高く鼓が鳴った。
篝火の揺らめきの中、エヴァンスは身の丈を越える大剣を操り、丸木を二つに、四つにと切り割っていく。
刀身に炎の光が映り、その軌跡が空間を薙ぐと硬く重い木が呆気ない程簡単に割れる。木片を散らし、上段から一息に切り下ろして六つに、八つに。割れた木が反らした体の際を飛んでいく。茶色の髪が炎を映して揺れ、切っ先が一際大きな弧を描くと、それを貫くように細く鋭い刃が横切った。
正円を描くように切っ先が巡り、柔らかく広がるスカートの襞が空気を含み揺れる。
端から端へ、軽やかに響く笛に合わせてエリシャの刀が舞い踊る。相貌が光を映し、人形めいて整った顔が視線一つぶれさせず、艶やかに剣を掲げた。
魅入っていた観客の中、紛れ込んでいた兎が1匹。
その切っ先に誘われるように舞台へ上がり、篝火が迫ると広がっていた舞台の端が片付けられた。
元通りになった舞台へ、もの悲しい笛が語る。兎は持ち主の無事を祈り、兎の体でぎこちなく舞の動きを真似た。
硬い動き、首を傾げる所作と、大袈裟な慌てよう。観客達の間に小さな笑い声が広がる。
兎は祈る。せめてこの身が、と。
視線を遮る矢が飛んで、舞台の上には化粧を施した道化師の少女が1人、兎と入れ替わって佇んでいた。
転調、舞の音に近い音を笛が奏で、鼓が拍子を刻み始める。
リズリエルは兎同様にぎこちなく動き始め、少しずつ滑らかな動きを身につけていく。
ぬいぐるみの祈りが届き、持ち主の代わりに舞うことができた。
そして、更に音は転調する。
だいじょうぶ、大丈夫、とミネットは舞台の影で祈っていた。
ジェイさんにもザレムさんにも、と、伝えられたことを思い出しながら、髪の飾り紐に触れて、カボチャカボチャと繰り返す。
纏った衣装を見下ろして深呼吸。ローナの母は似合っていると励ましてくれた。
しっかり届けてくるって言ったんだから。
次の高い音でまた矢が放たれる。そしたら、舞台へ上がらなくては。
笛の音が滑らかに流れ、少しずつ音を上げていく。釣られるように鼓動が高鳴った。
ミネットに気付いたリズリエルが視線を寄越すと、その目に飛び込むように舞台へ上がる。矢が放たれる中背中合わせに影を重ね、ターンの瞬間に主役を交代する。
リズリエルが舞台から捌けていき、笛の音が最高潮に達した。
ヴェールが揺れる、贈り物を模した衣装の飾りが揺れる。
精霊に感謝を伝える、贈り物は名付けを待つ温かな穀物。
夜の闇を煌々と照らし炎が揺れる。その光を受けて衣装が艶やかな影を描き、空を仰げば揺れる青い髪に朱の光が混じる。指先まで真っ直ぐに伸ばし、おにぎりを握る様に窪みを装えばそこに温もりを感じた気がした。
カボチャと言い聞かせながら観客に走らせる視線が微笑んで舞台を見詰めるジェイと師範を見つけ、ここまで繋いでくれたエヴァンスとエリシャを見つけた。兎に戻ったリズリエルと弓を携えたザレムも見守っている。
喝采の中、舞を終えた。
●
祭はまだ続いている。贈り物の実りを捧げた舞台に近付く者はないが、それぞれ屋台や集会所で寛いでいる。
エリシャもそんな集団の一つに缶ビールを片手に紛れ込んだ。
「一杯、如何ですか」
焚き火に頬を照らした中年の男女が振り返る。
「さっきの嬢ちゃんか」
「可愛かったわよ」
グラスにビールを注ぎ分けて、年嵩の1人が怪訝な顔を見せる。
「ビール、この辺りじゃ、珍しいと思って」
「ほう……うん。飲んだことはないが、美味いな」
「へえ、あたしも一口頂戴よ」
そしてビールを気に入ったらしいその女性が空のグラスを置いてエリシャに話し掛けた。
「……舞い手って、あなたたちだったのね。てっきり女の子の誰かだと思ってた。あなたみたいに、剣で舞えるのはここらにはいないけど……新鮮で良かったわ」
その集まりに、ジェイが小鍋とカップを手に混ざる。
「どうしたの?」
「ミネットさんたちが落ち着くと思って……少し多めに作りました。皆さんもどうぞ」
温め直したカボチャのスープは甘く食欲をそそる。
「ありがたいわ、緊張が切れてお腹が空いていたみたい……あなたも、ビール如何?」
匂いに釣られ、また数人、大人達の集まりが賑やかになる。
毛布を被り、集会所の窓から外を覗いていたローナと彼女の母親が近付く足音に振り返った。
「こんばんは」
「よう、起きたのか」
「はい……あ、あの、ありがとうございましたっ――」
慌てた声が乾いた唇から零れた。エヴァンスを見上げて頬を赤らめる。毛布に埋まって、ただでさえ赤い顔を更に染める娘にくすくすと笑いながら、母親が辞儀を添える。
「助けて頂いてありがとうございました。最初の剣の演舞、とても素敵でした」
見とれてたんですよ、と母親がローナの頭をぽんと撫でる。
そうか、とエヴァンスが頬を掻くと、廊下の端から、見つけたと声が響いた。
「ここにいたんだ。コニアとみんながお礼を言いたいって、あたしとローナちゃんからも」
キリがローナの手を引いて走ってくる。コニアが息を整えて、エヴァンスを見上げると、更に廊下からミネットとリズリエルが駆けつけて、賑やかな気配にザレムも顔を覗かせる。
師範と長に会ってきたというミネットがぺこりと髪を揺らして頭を下げる。
「リズリエルさんも、ザレムさん、エヴァンスさんもありがとうございます!」
毛布を引き摺ってローナがミネットの手を取った。間近に顔を覗き込み、円らな目を瞬いて、頬を紅潮させたままで微笑んだ。
「踊れなかったのは残念だったけど、あなたが私の伝えたかったことを伝えてくれた気がするの……今日あなたが来てくれて本当に良かったって思ってるの――だから、ありがとう。お祭り、楽しんでいってね」
囁く様に告げてローナは、毛布を被り直して母親に付き添われ控え室へ戻っていった。
ミネットは2人の少女と、ハンターの仲間を見詰めて満面の笑顔を見せる。
「皆でお祭りを楽しみましょう!」
集会所の一室にハンター達は通された。艶を帯びた年代物の長椅子にクッションを置き、テーブルには古い傷や稚い落書きの跡が窺える、集落の憩いの場らしい素朴な部屋だ。
咄嗟に足を挫いたという少女の容態を心配する青年に問題ないと笑ってみせ、コニアはキリとその部屋に向かう。ローナを部屋に寝かせ、母親がハンター達の席に茶を並べた。
「あ、あのっ」
ローナの様子を見に行くと母親が退室し、依頼を伝えた少女達が押し黙る。その沈黙の中、ミネット・ベアール(ka3282)が手を上げた。
「お祭りは私達の部族でも大切な意味を持ってました」
上擦る声を飲み込んで、「だから」と切な声が訴える。
「少々見せて貰いましたが、あの衣装ですよね。ミネットのサイズになら、合うように直せるよ」
「私も、舞踏の芸は修めているんだ。道化として手を貸してやるぜ」
ザレム・アズール(ka0878)が控えの部屋の衣装を思い出して首を傾がせ、リズリエル・ュリウス(ka0233)がミネットの手を取って口角を上げる。腕の程は、テントで待つメイドにでもと目を細めて。
「手伝うことは構いません……ですが、まずはこの集落のことを知っておくべきではないでしょうか?」
J(ka3142)が少女達の顔を交互に見詰める。禁忌に触れてしまってはいけませんから、詳しい方に伺っておくべきかと。彼女はそう語り、カップを片手に指を立てる。
「なら、私も聞き込みに回ろうかしら? いろんな人に、どういうお祭りが好きか聞いてみましょう」
エリシャ・カンナヴィ(ka0140)が空いたカップを茶托に置いた。
「お前らだけに大舞台に上がれなんて言わねぇよ――よし、まずは師範を呼び出して貰えるか?」
エヴァンス・カルヴィ(ka0639)の言葉に、コニアは頷き走って行った。
「なあ、舞台で剣舞なんてできねぇかな?」
「あら、私も――そうね、子どもなんかは派手なことが好きそうな気がするし」
エヴァンスとエリシャに問われてキリは歯を見せて笑う。任せて下さい、と。
エリシャが子どもから老人まで広く話を聞いて、好まれそうな舞台を考えると部屋を出て、ザレムが衣装を取りに控え室へ向かう。エヴァンスとキリはコニアに連れられた師範と入れ違うように舞台へ向かった。
エリシャが集会所を出ると、祭の支度が進む広場の中心から少し離れたところに子ども達がいた。
客人が珍しいのか、子ども達が顔を見合わせながら近付いてくる。
「こんにちはっ……」
「お祭りへようこそ、楽しんでいって下さいね」
挨拶をしたきり言葉に詰まった年下の子どもに変わり前に出た少女が、エリシャを見上げてにこりと笑む。
「そうね。……ねえ、少し良いかしら?」
集まってきた子ども達に、どういうお祭りが好き、と尋ねると彼らは楽しげな声で喋り始めた。
舞台ではキリが図面を広げ、集落の青年達に追加の木材を運ばせながらエヴァンスと話していた。春とは違うね、とそれを見た子どもの1人が言った。
「春?」
「春のお祭りはもっとちっさい舞台だった。前の秋も、そう。今日は違うのかな?」
「特別なことは嫌いかしら?」
「ううん、楽しいことは好き!」
はしゃぎながら去って行く子ども達を見送り、エリシャは舞台の方へ向かった。
担いでいた箱馬を下ろし、キリが振り返った。
「子ども達、どうでした? 舞台ですけど、板を足して広げておいて、お2人の剣舞が終わったら、元の形に戻します。それでどうでしょう?」
「ええ、構わないわ……ここの人たちにも話を聞いてみたいんだけど、いいかしら?」
「じゃ、俺も丸太を貰ってくるか……師範にも話しておきてぇし」
数人の青年が木材を置き2人に従う。キリは舞台に残って準備を続けるようだ。
集落のこと、祭のこと、一番詳しいのはやはり叔父だろうと、コニアが師範と杖を引き摺る長に手を貸しながら戻ってきた。
長を残し、道中に事情を聞かされた師範はミネットとリズリエルを連れて控え室へ向かう。
ジェイが居住まいを正して長に話し掛けた。
「私は、芸事には疎いのですが……この集落では、どのようなことが禁忌と見なされるのでしょうか?」
長は皺に紛れたような目をいっそう細めてジェイを見詰める。客人が集落のトラブルに真摯に対応している姿を喜んでいるのだろう。けれど、微笑むばかりで言葉を発さない。
青年達に話を聞き終えたエリシャと丸太の手配を終えたエヴァンスが戻ってくると、新しい客人に目を瞬かせまた、微笑んだ。
「――こんなに、大勢来て貰えたなら、きっと、いい祭になる……」
ジェイが首を傾がせる。ザレムが縫い掛けの手を止めて顔を上げた。
長はそちらへ顔を向け、指の丸い皺だらけの手を揺らして続けて続けてと促した。
「衣装に、――」
使えない色などは、と尋ね掛けてジェイが口を噤んだ。
「きれいに、したら精霊も喜ぶだろう……普段、あまり派手にはしないが……折角、来てくれたんだ、窮屈なことはしなくてもいい」
長が緩慢に手を伸ばし、いくつかの飾り紐を選び取るとジェイの手に乗せた。紅色に金糸を飾る艶やかなそれは、代わりに舞うと真っ先に手を上げたミネットの髪によく映えそうな色をしていた。
謝辞を一言置いて、ジェイはその紐を握り控え室に向かった。飾ってあげれば、緊張が解れて士気が上がるかも知れない、と。
ザレムが調整を終えた衣装を広げて眺め、長もそれを見て良い出来だと頷く。
「もう少し、舞台で映える装飾を加えても良いかも知れないな……」
ヴェールか、リボンか、羽衣のようにひらひらと舞台の上で翻ると華やかだろう。
その様子をにこにこと眺めていた長は満足げに頷くと、ゆっくりと腰を上げた。
椅子に座って拍子を刻んでいた師範はぴたりと手を止めて、もう一度、と声を張った。
「は、はいっ」
振り付けを違えたことを自覚していたミネットはすぐに元の場所へ戻り、最初の姿勢を作る。
リズリエルとミネットが一つのフレーズを通し終えた頃、ジェイが扉をそっと開けた。
「お疲れ様――ミネットさん、これを付けてみて下さい」
「お、似合ってるぜ、可愛いと思うぞ」
紐を髪に括ると、膨らんだ端の金糸が振りに合わせて揺れる穂のように見える。
「長が渡してくれました。ミネットさんの髪に合うと思いましたので」
師範がぽん、と手を打って、少し休憩にしましょうかと2人とジェイを側へ呼んだ。
「あなたたちも、急にこんなこと頼まれて大変だったわね。ローナに代わって礼を言うわ――この舞はね……」
穏やかな口調で師範が語った。彼女が彼女の師から綿々と伝え聞かされている舞の異味、精霊への感謝と、贈り物を現す舞。贈り物が代わる度に舞が変わるため、毎回変わると言われているその舞も、今回は本当に前例がない。苗を植え付けてからずっとこの作物を贈るための舞を作り続けてきたと。
リズリエルが黙って立ち上がり鏡に向かって流れを確かめる。ジェイはミネットの髪に飾った紐を直し、ミネットも舞の練習を再開した。
「……一番大事な、感謝を伝える部分と、今年の贈り物を現す部分だけは、踊って貰おうと思ったのよ」
傾き掛けた夕日が差し込む中、ローナが倒れたと聞き中止も考えたという彼女が、2人を見詰めて嬉しそうに微笑んだ。
差し入れの中に見つけたカボチャを一つ選び取って、ジェイは集会所の厨房へ向かった。
●
日が落ちる前に、ザレムはミネットに衣装を着付けていた。十分動けることを確かめて、最後に房を飾った柔らかな布を羽織らせる。二連の房は畑の実りによく似ていた。
ジェイの作った温かなスープをミネットに差し出し、衣装を整えながら背を叩く。
「大丈夫。観客席はカボチャ畑と思えばなんてことはない。衣装もよく似合っているよ」
祭を見に来た集落の人々にも温まるお茶を振る舞おうと、ブランデーの瓶を持って出ていく。不安げに彷徨った手をジェイとリズリエルが握って励ます。
「さて、今から私は兎のぬいぐるみだ!」
「ちゃ、ちゃんとやれることはやりましたし……」
上擦った声が聞こえたのか、ローナが青い顔のままで目を覚ました。
「ローナさんの想い、しっかり届けてきますね!」
ミネットの言葉を浮かびきらない意識の中で聞くローナに、兎の着ぐるみを纏ったリズリエルが飛び跳ねる。
「あなたのぬいぐるみが、心配して動き出してしまいました。舞台は任せてゆっくり休んで下さい」
ジェイがローナを寝かせ、リズリエルも兎の首で頷いた。
甘いお茶にブランデーを少し、温まりますよ、と差し出してその香りを喜んだ年嵩のエルフ達が舞台の見物に集まっていく。支度した分を配り終えるとザレムも舞台の端へ向かう。
篝火が灯り
一筋の矢が見物客の視線を掠う。
舞台に立てられた丸太を、不意に現れた男の一太刀が叩き割る。
かん、と高く鼓が鳴った。
篝火の揺らめきの中、エヴァンスは身の丈を越える大剣を操り、丸木を二つに、四つにと切り割っていく。
刀身に炎の光が映り、その軌跡が空間を薙ぐと硬く重い木が呆気ない程簡単に割れる。木片を散らし、上段から一息に切り下ろして六つに、八つに。割れた木が反らした体の際を飛んでいく。茶色の髪が炎を映して揺れ、切っ先が一際大きな弧を描くと、それを貫くように細く鋭い刃が横切った。
正円を描くように切っ先が巡り、柔らかく広がるスカートの襞が空気を含み揺れる。
端から端へ、軽やかに響く笛に合わせてエリシャの刀が舞い踊る。相貌が光を映し、人形めいて整った顔が視線一つぶれさせず、艶やかに剣を掲げた。
魅入っていた観客の中、紛れ込んでいた兎が1匹。
その切っ先に誘われるように舞台へ上がり、篝火が迫ると広がっていた舞台の端が片付けられた。
元通りになった舞台へ、もの悲しい笛が語る。兎は持ち主の無事を祈り、兎の体でぎこちなく舞の動きを真似た。
硬い動き、首を傾げる所作と、大袈裟な慌てよう。観客達の間に小さな笑い声が広がる。
兎は祈る。せめてこの身が、と。
視線を遮る矢が飛んで、舞台の上には化粧を施した道化師の少女が1人、兎と入れ替わって佇んでいた。
転調、舞の音に近い音を笛が奏で、鼓が拍子を刻み始める。
リズリエルは兎同様にぎこちなく動き始め、少しずつ滑らかな動きを身につけていく。
ぬいぐるみの祈りが届き、持ち主の代わりに舞うことができた。
そして、更に音は転調する。
だいじょうぶ、大丈夫、とミネットは舞台の影で祈っていた。
ジェイさんにもザレムさんにも、と、伝えられたことを思い出しながら、髪の飾り紐に触れて、カボチャカボチャと繰り返す。
纏った衣装を見下ろして深呼吸。ローナの母は似合っていると励ましてくれた。
しっかり届けてくるって言ったんだから。
次の高い音でまた矢が放たれる。そしたら、舞台へ上がらなくては。
笛の音が滑らかに流れ、少しずつ音を上げていく。釣られるように鼓動が高鳴った。
ミネットに気付いたリズリエルが視線を寄越すと、その目に飛び込むように舞台へ上がる。矢が放たれる中背中合わせに影を重ね、ターンの瞬間に主役を交代する。
リズリエルが舞台から捌けていき、笛の音が最高潮に達した。
ヴェールが揺れる、贈り物を模した衣装の飾りが揺れる。
精霊に感謝を伝える、贈り物は名付けを待つ温かな穀物。
夜の闇を煌々と照らし炎が揺れる。その光を受けて衣装が艶やかな影を描き、空を仰げば揺れる青い髪に朱の光が混じる。指先まで真っ直ぐに伸ばし、おにぎりを握る様に窪みを装えばそこに温もりを感じた気がした。
カボチャと言い聞かせながら観客に走らせる視線が微笑んで舞台を見詰めるジェイと師範を見つけ、ここまで繋いでくれたエヴァンスとエリシャを見つけた。兎に戻ったリズリエルと弓を携えたザレムも見守っている。
喝采の中、舞を終えた。
●
祭はまだ続いている。贈り物の実りを捧げた舞台に近付く者はないが、それぞれ屋台や集会所で寛いでいる。
エリシャもそんな集団の一つに缶ビールを片手に紛れ込んだ。
「一杯、如何ですか」
焚き火に頬を照らした中年の男女が振り返る。
「さっきの嬢ちゃんか」
「可愛かったわよ」
グラスにビールを注ぎ分けて、年嵩の1人が怪訝な顔を見せる。
「ビール、この辺りじゃ、珍しいと思って」
「ほう……うん。飲んだことはないが、美味いな」
「へえ、あたしも一口頂戴よ」
そしてビールを気に入ったらしいその女性が空のグラスを置いてエリシャに話し掛けた。
「……舞い手って、あなたたちだったのね。てっきり女の子の誰かだと思ってた。あなたみたいに、剣で舞えるのはここらにはいないけど……新鮮で良かったわ」
その集まりに、ジェイが小鍋とカップを手に混ざる。
「どうしたの?」
「ミネットさんたちが落ち着くと思って……少し多めに作りました。皆さんもどうぞ」
温め直したカボチャのスープは甘く食欲をそそる。
「ありがたいわ、緊張が切れてお腹が空いていたみたい……あなたも、ビール如何?」
匂いに釣られ、また数人、大人達の集まりが賑やかになる。
毛布を被り、集会所の窓から外を覗いていたローナと彼女の母親が近付く足音に振り返った。
「こんばんは」
「よう、起きたのか」
「はい……あ、あの、ありがとうございましたっ――」
慌てた声が乾いた唇から零れた。エヴァンスを見上げて頬を赤らめる。毛布に埋まって、ただでさえ赤い顔を更に染める娘にくすくすと笑いながら、母親が辞儀を添える。
「助けて頂いてありがとうございました。最初の剣の演舞、とても素敵でした」
見とれてたんですよ、と母親がローナの頭をぽんと撫でる。
そうか、とエヴァンスが頬を掻くと、廊下の端から、見つけたと声が響いた。
「ここにいたんだ。コニアとみんながお礼を言いたいって、あたしとローナちゃんからも」
キリがローナの手を引いて走ってくる。コニアが息を整えて、エヴァンスを見上げると、更に廊下からミネットとリズリエルが駆けつけて、賑やかな気配にザレムも顔を覗かせる。
師範と長に会ってきたというミネットがぺこりと髪を揺らして頭を下げる。
「リズリエルさんも、ザレムさん、エヴァンスさんもありがとうございます!」
毛布を引き摺ってローナがミネットの手を取った。間近に顔を覗き込み、円らな目を瞬いて、頬を紅潮させたままで微笑んだ。
「踊れなかったのは残念だったけど、あなたが私の伝えたかったことを伝えてくれた気がするの……今日あなたが来てくれて本当に良かったって思ってるの――だから、ありがとう。お祭り、楽しんでいってね」
囁く様に告げてローナは、毛布を被り直して母親に付き添われ控え室へ戻っていった。
ミネットは2人の少女と、ハンターの仲間を見詰めて満面の笑顔を見せる。
「皆でお祭りを楽しみましょう!」
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/10/31 08:35:08 |
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相談卓 エリシャ・カンナヴィ(ka0140) エルフ|13才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2014/11/04 14:21:49 |