ゲスト
(ka0000)
【界冥】遠泳し隊
マスター:赤山優牙

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/07/21 19:00
- 完成日
- 2017/07/25 04:05
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●東方―龍尾城
八代目征夷大将軍である立花院 紫草(kz0126)からの呼び出しを受け、十鳥城代官の一人、仁々木 正秋(ににぎ せいしゅう)はある一室に居た。
床は畳ではない。板床に西方から取り寄せたテーブルと椅子が置かれている。噂によると西方からの客人を招く特別な部屋……らしい。
「おい、正秋。いくらなんでも待たされ過ぎじゃないか」
耳元でぼやいたのは、正秋の親友である菱川 瞬(ひしかわ しゅん)だった。
彼の言う通り、正秋と瞬の二人がこの部屋に通されてから、かなりの時間が経過していた。
おまけに、その間、茶の一杯すら出てこないのだ。
「全く、下級武家だからって、ば……」
「無礼だぞ、瞬」
「お前は真面目過ぎるんだよ」
瞬の言葉を遮った正秋に返す。
元来、真面目な性格をしている。大人になってくれば、少しは“遊び”も覚えるものかと思ったら、その逆を進む一方だ。
「それにしても、なんだろうな。“相応の負担”ってのは」
伸びてきた茶色の髪をいじりながら瞬は疑問を口にする。
少し前の事だ。幕府から『幕府体制維持の為に、十鳥城にも“相応の負担”を』という様な内容の書状が届いた。
復興途上である十鳥城に負担できる余力はない。お金も食料も特産品もギリギリの状態なのだ。
「律儀に守るあたりが、お前らしいけどよ」
「少しは黙って待てないのか、瞬」
“相応の負担”を出す事が難しい中、それでも、やはり、幕府からの呼び掛けであれば、応えない訳にはいかない。
十鳥城はハンターと幕府の支援があってこそ、解放されたのだ。それゆえ、ハンターにも幕府にも恩義がある。
その時、戸が開き、紫草が姿を現した。供回りは……居ないようだ。
「お待たせしましたね」
「いえ! そんな事はありません!」
正秋がビシっと椅子から立ち上がって答える。
しぶしぶ、瞬もそれに倣う。
「この度の十鳥城からの申し出、誠に嬉しく思う」
「勿体無いお言葉! 恐縮です!」
「では、早速ですが、先に本題をお伝えしますね」
手に持っていた資料を掲げる紫草。
その表紙には『鎌倉クラスタ』と書かれていたのだった。
●日本――森戸海岸付近
幕府から連合軍への応援という名目での“相応の負担”。つまる所、これは兵役だ。
正秋と瞬は、“相応の負担”という事で、ハンターオフィスを通じてリアルブルーへと送られた。
立場的には二人はハンター枠である。今回の作戦に幕府から紹介されたハンターという事だ。
「リアルブルーのこの国は、俺らの国と似ているって噂だが、こう見ると、全然似てないな」
ギラギラと輝く太陽の光が降り注ぐ。
甲冑姿に、通行人が怪しげな視線を向けてくるのも、瞬には理解できなかった。
「……お。あの女、良い身体してるな」
「げ、現地の人を、ジ、ジロジロみるな」
そわそわしながらいう正秋の説得力も無いが。
そんなこんなで待ち合わせていると、路地からランニングシャツ姿の厳つい軍人達が姿を現した。
なんでも、メタ・シャングリラの部隊の一つらしいが……船から強制退去でもされたのだろうか。
「お前達が作戦の要となるハンター達か」
ムキムキの筋肉質の身体から流れる汗が太陽の光に煌めいた。
「俺の名は、ヤマダ・カオル。小隊を預かる者……だぁー!」
自己紹介と共に眩しい程のポージング。
グラズヘイム王国にはやたら筋肉質な高位精霊が姿を現したというが、筋肉加減でいうと、きっと、こんな感じなのかもしれないと瞬は思った。
「筋肉ぅ~ヤマダ! 廃ッ! よろしく、だぁー!」
「やめろ。そのポージングのまま、迫ってくるんじゃねぇ」
「筋肉が足らんぞ、若人!」
ガシっと瞬の甲冑を掴むと、無造作に外しにかかる。
「や、やめろー!」
「廃ッ!」
あっという間に、瞬は剥かれてしまった。
褌姿となって呆然とする瞬。
「くそう……どうなってるんだ。って、正秋も、なんで、褌姿なんだよ!?」
「作戦を聴いていなかったのか?」
「作戦?」
首を傾げる瞬。
正秋は指先を海岸へと向けた。
「目的地である逗子マリーナまで、遠泳だ」
「な、なんだって……」
瞬は絶句したのだった。
―――――――――――――――
○解説
●目的
アンテナ塔の破壊
●内容
森戸海岸付近から逗子マリーナに隣接する小坪漁港まで隠密裏に遠泳し奇襲攻撃にて塔を破壊する
●状況
ハンターは全員、森戸海岸の神社から出発する
出発時刻は真夜中。2~3時間の遠泳で漁港に到着し、逗子マリーナ中央の交差点にそびえ立つアンテナ塔を破壊する作戦
同行者は正秋と瞬とヤマダ・カオル(と彼の部下数名)
八代目征夷大将軍である立花院 紫草(kz0126)からの呼び出しを受け、十鳥城代官の一人、仁々木 正秋(ににぎ せいしゅう)はある一室に居た。
床は畳ではない。板床に西方から取り寄せたテーブルと椅子が置かれている。噂によると西方からの客人を招く特別な部屋……らしい。
「おい、正秋。いくらなんでも待たされ過ぎじゃないか」
耳元でぼやいたのは、正秋の親友である菱川 瞬(ひしかわ しゅん)だった。
彼の言う通り、正秋と瞬の二人がこの部屋に通されてから、かなりの時間が経過していた。
おまけに、その間、茶の一杯すら出てこないのだ。
「全く、下級武家だからって、ば……」
「無礼だぞ、瞬」
「お前は真面目過ぎるんだよ」
瞬の言葉を遮った正秋に返す。
元来、真面目な性格をしている。大人になってくれば、少しは“遊び”も覚えるものかと思ったら、その逆を進む一方だ。
「それにしても、なんだろうな。“相応の負担”ってのは」
伸びてきた茶色の髪をいじりながら瞬は疑問を口にする。
少し前の事だ。幕府から『幕府体制維持の為に、十鳥城にも“相応の負担”を』という様な内容の書状が届いた。
復興途上である十鳥城に負担できる余力はない。お金も食料も特産品もギリギリの状態なのだ。
「律儀に守るあたりが、お前らしいけどよ」
「少しは黙って待てないのか、瞬」
“相応の負担”を出す事が難しい中、それでも、やはり、幕府からの呼び掛けであれば、応えない訳にはいかない。
十鳥城はハンターと幕府の支援があってこそ、解放されたのだ。それゆえ、ハンターにも幕府にも恩義がある。
その時、戸が開き、紫草が姿を現した。供回りは……居ないようだ。
「お待たせしましたね」
「いえ! そんな事はありません!」
正秋がビシっと椅子から立ち上がって答える。
しぶしぶ、瞬もそれに倣う。
「この度の十鳥城からの申し出、誠に嬉しく思う」
「勿体無いお言葉! 恐縮です!」
「では、早速ですが、先に本題をお伝えしますね」
手に持っていた資料を掲げる紫草。
その表紙には『鎌倉クラスタ』と書かれていたのだった。
●日本――森戸海岸付近
幕府から連合軍への応援という名目での“相応の負担”。つまる所、これは兵役だ。
正秋と瞬は、“相応の負担”という事で、ハンターオフィスを通じてリアルブルーへと送られた。
立場的には二人はハンター枠である。今回の作戦に幕府から紹介されたハンターという事だ。
「リアルブルーのこの国は、俺らの国と似ているって噂だが、こう見ると、全然似てないな」
ギラギラと輝く太陽の光が降り注ぐ。
甲冑姿に、通行人が怪しげな視線を向けてくるのも、瞬には理解できなかった。
「……お。あの女、良い身体してるな」
「げ、現地の人を、ジ、ジロジロみるな」
そわそわしながらいう正秋の説得力も無いが。
そんなこんなで待ち合わせていると、路地からランニングシャツ姿の厳つい軍人達が姿を現した。
なんでも、メタ・シャングリラの部隊の一つらしいが……船から強制退去でもされたのだろうか。
「お前達が作戦の要となるハンター達か」
ムキムキの筋肉質の身体から流れる汗が太陽の光に煌めいた。
「俺の名は、ヤマダ・カオル。小隊を預かる者……だぁー!」
自己紹介と共に眩しい程のポージング。
グラズヘイム王国にはやたら筋肉質な高位精霊が姿を現したというが、筋肉加減でいうと、きっと、こんな感じなのかもしれないと瞬は思った。
「筋肉ぅ~ヤマダ! 廃ッ! よろしく、だぁー!」
「やめろ。そのポージングのまま、迫ってくるんじゃねぇ」
「筋肉が足らんぞ、若人!」
ガシっと瞬の甲冑を掴むと、無造作に外しにかかる。
「や、やめろー!」
「廃ッ!」
あっという間に、瞬は剥かれてしまった。
褌姿となって呆然とする瞬。
「くそう……どうなってるんだ。って、正秋も、なんで、褌姿なんだよ!?」
「作戦を聴いていなかったのか?」
「作戦?」
首を傾げる瞬。
正秋は指先を海岸へと向けた。
「目的地である逗子マリーナまで、遠泳だ」
「な、なんだって……」
瞬は絶句したのだった。
―――――――――――――――
○解説
●目的
アンテナ塔の破壊
●内容
森戸海岸付近から逗子マリーナに隣接する小坪漁港まで隠密裏に遠泳し奇襲攻撃にて塔を破壊する
●状況
ハンターは全員、森戸海岸の神社から出発する
出発時刻は真夜中。2~3時間の遠泳で漁港に到着し、逗子マリーナ中央の交差点にそびえ立つアンテナ塔を破壊する作戦
同行者は正秋と瞬とヤマダ・カオル(と彼の部下数名)
リプレイ本文
●水着大会in森戸海岸
「ウオォォォ! すげぇな、全員、女じゃねぇか!」
「夜中に大声出すな、瞬。みっともない」
集まったハンターの面々を、やらしい視線で眺めた瞬が発した言葉に、正秋が言う。
ジロジロと舐めまわすような瞬の視線とは対象的に、正秋はどこに視線を向けていいのか、泳ぐ前に既に目が溺れているようだ。
「正秋殿、先日は世話になった。瞬殿も御健勝なようで何よりだ」
そんな正秋の男心(?)を知ってか知らずか、銀 真白(ka4128)が大胆にもパレオをはだけながら声を掛ける。
「今回はハンターとしての依頼。目的地まで遠泳での移動か……」
そう言葉を続けながら、案内人である筋肉――ヤマダ・カオル――に視線を一瞬向けた。
あの筋肉は相当なものだ。なるほど、つまり、これは歪虚がおっ立てたという汚らしいアンテナを破壊するついでに筋肉を鍛錬する依頼なのだろうと真白は超理解する。
「まずはしっかりと準備運動が大切。正秋殿も、さぁ」
それでパレオを外したのだろうが、さすがに暗い中でビキニ姿というのは、なかなか、男には厳しい光景でもある。
「は、はぁい!」
いつになく甲高い声とガチガチの動きで準備運動を開始する正秋。
しかし、さっそく準備運動を始めた正秋に対抗心を燃やしたのか、ミィリア(ka2689)がグッと拳を掲げた。
「正秋さんや瞬さんは勿論、隊長さん達にも負けないんだから……!」
華やかな夏の花の絵が可愛らしさと陽気さを魅せている水着姿のミィリアが無駄に気合を入れ出して体操を始める。
「一面に広がる海!」
と言っても、夜中なので、青い海ではなく真っ黒な海でイメージもヘチマもないが……。
それでも彼女の脳内では夏っぽい海のイメージが広がっているのだろう。
「滾る女子力! これぞ、夏! 体力勝負と来ちゃあ、頑張るっきゃないよね!」
飛び跳ねる程の準備運動。
跳ねているのは身体だけ……のように見えるのは、きっと、暗いからだろう。
煩悩を振り払おうと必死に体操を続ける正秋に無情にもフェリア(ka2870)が近づいて挨拶をしてきた。
「私はフェリア。よろしくね」
「よ、よ、よろしくお願いします。正秋です」
フェリアの長い銀髪が光を反射しているように見えて、より一層、美しさを際立たせていた。
「まさか、こんな遠くまで泳ぎにくる事になるとは思わなかったわ」
「それは拙者も、です!」
彼女も準備運度の為に、パレオを外す。
その仕草が堪らなく艶かしい様相で、思わず、正秋は視線をズラした。
これ以上、凝視していたら、海に入る前に何かなってしまうかもしれない。
ティス・フュラー(ka3006)も準備運動を始めていた。周りは女性ハンターが多いが、そうなると、逆に体型的な事とか気になる所でもある。
普段は装備でガチガチに固める者も多い中、今回は遠泳の為に、皆、水着姿だ。否応にも身体のラインは見えてしまうというもの。
(ここまでやってきておいて、こんなこと言うのもどうかと思うけど……実は、遠泳って、あんまり自信ないのよね)
泳げない訳ではないが、これほどの遠泳ということであれば、初体験かもしれない。
自信は無いが、ハンターとしての意地はある。それに、対策も一応、考えてある。足りないとすれば、むしろ、胸とか尻のラインかもしれない。
(お姉様ほど見栄えの良い体してる訳でもないのに、なんで、こんなの着てきちゃったんだろ、私……)
ビキニ姿なのを今更後悔しつつ、それとなく、目立たないような位置へ移動する。
とにかく、海に入ってしまえば、見えないのだから、それまでの辛抱だ。
「皆も準備運動を終えたら、水分も補給しておいた方がいいぞ」
周囲に声を掛けて白山 菊理(ka4305)が自身の分も合わせ、ヤマダに頼んでおいた飲料を箱詰めしていた。
口調はやや女性らしくは無いが、それは口調だけで、スタイルは美しいラインを描いていた。
黒のビキニ姿が、暗闇の中で色気を漂わせている。
「これはラッキーな依頼だ。ここは、天国か……」
「ジロジロと見て、その視線、なんとかならないの、瞬?」
菊理の肢体に熱い視線を向けている瞬に、シェルミア・クリスティア(ka5955)が冷たい言葉を投げた。
「お前は……まぁ、頑張れ。せめて、お姉さんのようになってからだな」
「……どうやら、本気で死にたいのかしら」
防水対策を為に袋の中に入れた符をわざわざ取り出すシェルミア。
肌のケアの為に持ってきたケア用品を箱詰めする前に、瞬を箱詰めにして湾に沈めてあげようかというような雰囲気を感じ、脱兎の如く、逃げ出す瞬。そして、それを追いかけるシェルミアを眺め、ヤマダがポージングを決めながら言った。
「正しく、これが青春の一コマ、だぁ! 廃ッ!!」
●遠泳するハンター
「長距離を泳ぐのなんて、どれ位、久しぶりだろうなぁ……」
シェルミアが泳ぎながら、そんな言葉を口にした。
覚醒者と言えども、無限の体力を持つ訳ではない。それでも、覚醒中は一般人よりかは遥かに体力も筋力も持久力もあるのは確かだ。
「上手く波に乗れればいいけど」
「疲れてきた人が居れば、ウォーターウォーク掛けるわ」
そう言って海の上を歩いているのはティスだった。
もっとも、波があるので、ちゃんとは歩けない。揺れ動く地面の上に立っているようなものだ。
何度か転倒してはいるが泳ぐよりかは体力を使わない。
「使用回数に限りがあるから、最後には泳がないといけなくなるけど」
泳いでいる人を置いてはいけないので、やがて、魔法の効果も切れる。
マテリアルには限りがあるので、ティスも泳ぐ事にはなるだろう。
「体力に自信の無い方、魔法で援護しますね」
フェリアも声を掛けるが、見たところ、脱落しそうな人はいなそうだった。自身が一番心配だと思っていただけにフェリアからは安堵の表情が見える。
案内役であるヤマダも改めて覚醒者の持つ力に驚いている様子なので、今回の遠泳は予想以上に上手くいっているともいえるかもしれない。
「この調子ならば、夜明け前には着きそうか?」
全身を上手く使いながら波間を泳ぐ菊理は、ヤマダに声を掛けた。
泳ぎながら話すと呼吸が乱れそうでもあるが、到着時間は大切な事だ。
「そんな感じ、だぁ! 僅かばかり、筋肉を休める時間もあるだろう」
「それなら、上陸したら小休止、か」
箱に詰めた水が役に立つし、仲間が持ち込んだスキンケア用品も使えるだろう。
のんびりしていられないが肌は女性の命、これも大事な事だ。
「正秋殿、泳ぐ姿勢は大事だ。どうだろう、私は乱れていないだろうか」
真白の無垢な一言に思わず、呼吸を乱す正秋。
月明かりの中、波間の間に見える白い肌に魅入られてしまいそうになるのをグッと抑える。
「み、乱れていない……ように見えます」
変に意識してしまいそうなので、正秋は気持ちを切り替えてペースを上げる。
このままでは、ずっと女子の素肌を見ていたと後で瞬に言われかねない。
傍目から見ると気合を入れて泳ぎだしたようにも見え――早速、ミィリアが反応する。
「さすが、正秋さん……これは、ミィリアも負けてはいられないのでござる!」
無駄に闘争心を高め、メラメラと燃え上がるミィリア。
それの動きに触発されて筋肉ヤマダが嬉しそうな声を挙げる。
「良い筋肉の動き、だぁ! よぉし! もっと、もっと筋肉をぉ!」
――若干ペースが上がり、瞬の悲痛な声が響いたのだった。
●奇襲戦
小さい港ではあるが、歴史は古く、昔から鎌倉に新鮮な魚介類を提供していたという。
そこへハンター達は遠泳を終えて上陸した。僅かに時間的な余裕があるので、水分を補給し、小休止する。
「俺達は、帰りの小舟を探してくる。お前達の筋肉に、武運をォォォ、祈る!」
ヤマダが部下を伴って港へ消えていった。彼らは帰りの手段を得る為に人力の船を探しにいくのだ。
一方、ハンター達は、アンテナ塔の破壊を目指す事になる。
「あれが……アンテナ塔ね」
フェリアが指差した方角――逗子マリーナ――に、それはそびえ立っていた。
一見すると鉄製のアンテナのようにも見えるが、負のマテリアルを放っているのが僅かに感じられる。
「それでは早く倒しますか。折角の水着も見せる相手が歪虚では張り合いがないもの」
「それも、そうだな」
シールドを構えて菊理がフェリアの台詞に同意する。
一行は頷くと、固まって駆け出す。今回、遠泳の為に装備に制限があった。
それぞれが役割を持って戦う為には、お互いの連携が要となる。
夜明けが近くなってきたのか、若干明るくなって戦闘にも支障は無さそうなあたり、襲撃のタイミングはバッチリだ。
「ここなら届きそうね」
ティスが念の為にアースウォールで壁を作り出すと、フェリアと頷く。
二人の水着魔術師が攻撃魔法を行使した。衝撃と同時に響き渡る轟音。
それで敵も襲撃に気がついたようだ。前後からわらわらと狂気の歪虚が姿を現す。
次の瞬間、いくつもの符がハンター達の周囲に飛翔すると、結界を構築する。
「移動したら狂気対策にまた構築するから」
シェルミアが創り出したものだ。狂気の歪虚には精神的な影響を与える能力を持つ歪虚も居るというからだ。
後方から現れた歪虚に対し、四肢に武器を装着した真白と、褌一丁で小ぶりな刀を持つ瞬が迎え撃つ。
「数が多い。前衛は連携を」
「よっしゃ、ようやく俺の出番だな」
二人が仲間達の背中を守るように敵と対峙すれば、アンテナ塔に近づく為、ミィリアと正秋は道を塞ぐ歪虚へと斬りかかった。
相手は人の形を成した狂気歪虚だ。人が使っていたと思われる武器を手にしている。
「にしても人型の……なんで、ビキニなんだろ……正秋さん、ああいうの好みだったりするでござる?」
「ああいう水着は、皆さんの方が似合っていると、思います」
真面目に答えるあたり、彼らしいところだ。
人型歪虚がビキニ姿なのは何かの理由があるのかと勘ぐりたくはなるが、所詮は狂気の歪虚。人間の武器を持っている事を鑑みれば、装備の一種という認識……なのかもしれない。
「このまま押していけそう、だな」
術師を狙った射撃を菊理が受け止めた。
後衛職による魔法攻撃、前衛職による足止めと戦いは優勢のまま進んでいるのは明らかだ。
蠢蠢と更に現れる狂気の歪虚共。それに対し、桃色の髪を靡かせて、ミィリアが刀を振り上げる。
「そろそろ……いくで、ござる!」
大声で後方に呼び掛け、合わせるように真白も拳を掲げた。
「ミィリア殿! 今こそ!」
以前にも似たような事をやっていたような二人。
ここに来て、その再来となった。ミィリアと真白から炎のようなオーラが噴出する。
「ますます女子力アゲアゲなミィリアをご覧あれでござる! 来るならかかってこーい!!」
身体全体から溢れ出る筋力……もとい、マテリアル。
アゲアゲした女子力に対してではないが、闘狩人のスキルの都合上、狂気の歪虚は標的を、二人のビキニ侍へと向ける。
「この隙は逃さないわ。五方の理を持って、千里を束ねよ……」
符が再び宙を駆ける中、シェルミアの詠唱が響く。
同時に二人の魔術師の詠唱も重なった。
「原初の赤……生命の根源、我が手に集いて、劔となれ!」
「……風よ、大空を貫く稲妻となり、我らに仇を成す者に天罰を!」
3人の術師が放った魔法が敵を薙ぎ払い、吹き飛ばしていく。
アンテナ塔の装甲のように寄り集まっていた歪虚が次々に消し飛んでいく中、術師らの攻撃魔法は続く。
「露払いはこんな感じね」
炎と雷の魔法を適切に続けるティスの言う通り、アンテナを守っていた歪虚は尽く消え去った。
取り巻きのように現れた人型歪虚も前衛が足止めしている。敵の増援は予想されるが、今はまだ気配は見えない。
支柱の様な脚が剥き出しとなったアンテナ塔は無防備。絶好のチャンスだ。
「行くわ」
菊理が剣の柄を握ると、マテリアルが氷の刃を形成した。
そして、一気に距離を詰めると、アンテナ塔へと斬りかかった。
「こんな格好だが、騎士の真似事といこうか!」
轟音と共に支柱が叩き切れ――アンテナ塔が崩壊を始めた。
ハンター達が目的を達した瞬間だった。
●帰るまでも依頼のうち
太陽が顔を出し、辺りは完全に朝を迎えていた。
歪虚の追撃は散慢としていた。アンテナ塔を破壊されて慌てふためいているのだろうか。無事に上陸した漁港へと戻った一行。
「よぉし! 無事に任務達成、だぁ! 筋肉が歓喜の声を上げているぞぉぉ!」
無駄なポージングで出迎えた筋肉ヤマダとその部下達。
ハンター達に用意されたのはオール付きのボートだ。
「……ちょっと待て、まさか、帰りはこれを漕ぐのか?」
瞬の言葉は、一行の気持ちを代弁していた。
「そう……みたいね。大丈夫、瞬なら、やれるわ」
「妙に優しい声を今更掛けるんじゃねぇよ、シェルミア」
オールの数は全員分は無い――つまり、瞬が大丈夫という事は、そういう意味だ。
「やってくれるというなら、助かるわ。ありがとう」
容赦なくオールを押し付けるように手渡すティス。
素肌が一瞬、当たったような気もしないでもないが、これも女の武器だ。
「……頼りにしている」
追い打ちを掛けるように菊理が微笑を浮かべて、瞬の背中をポンと叩いた。
ここまでされて動かない訳にはいかない。妙な気合の声を上げて瞬はボートへと乗り込んだ。
「残りのオールは……いいのですか? お任せして?」
フェリアが申し訳なさそうな、心配そうな視線をミィリアと真白に向けた。
「大丈夫でござるよ! まだ、筋肉がやれると言っているでござる」
「これも鍛錬となれば、私がここで引き下がる訳にはいかない」
刀ではなくオールを持つ二人の侍。
この二人がやるというのであれば、正秋もやらない訳にはいかない。
シェルミアはオールを彼に丁寧に手渡す。後ろで瞬が扱いが違うとか何か言っているが、それはスルーした。
「そういえば、幕府に対して思う所があるなら、いっその事、改革目的で中に入っちゃえば?」
渡しながら小さく声を掛けた。
上手く立ち回って幕府内での立場を得られたら復興にも繋がるはずだ。
「わたしはスメラギ君や紫草さん、それに……十鳥城の皆の力になれるなら、私は出来る限りの事は考えるよ」
「拙者自身に……どこまで出来るか分からないですが、精一杯、頑張りたいと思います」
これから先、幕府との関係は続くだろう。
代官としての役目を確りと果たすとシェルミアの言葉に、正秋は気持ち新たに決意するのであった。
森戸海岸付近から小坪漁港まで遠泳したハンター達は鮮やかな奇襲戦を展開。
狂気歪虚を退けつつ、目的であったアンテナ塔を破壊し、依頼を達成した。
また、正秋は幕府との関係に、一つの決意を心の中に深く、刻み込むのであった。
おしまい。
「ウオォォォ! すげぇな、全員、女じゃねぇか!」
「夜中に大声出すな、瞬。みっともない」
集まったハンターの面々を、やらしい視線で眺めた瞬が発した言葉に、正秋が言う。
ジロジロと舐めまわすような瞬の視線とは対象的に、正秋はどこに視線を向けていいのか、泳ぐ前に既に目が溺れているようだ。
「正秋殿、先日は世話になった。瞬殿も御健勝なようで何よりだ」
そんな正秋の男心(?)を知ってか知らずか、銀 真白(ka4128)が大胆にもパレオをはだけながら声を掛ける。
「今回はハンターとしての依頼。目的地まで遠泳での移動か……」
そう言葉を続けながら、案内人である筋肉――ヤマダ・カオル――に視線を一瞬向けた。
あの筋肉は相当なものだ。なるほど、つまり、これは歪虚がおっ立てたという汚らしいアンテナを破壊するついでに筋肉を鍛錬する依頼なのだろうと真白は超理解する。
「まずはしっかりと準備運動が大切。正秋殿も、さぁ」
それでパレオを外したのだろうが、さすがに暗い中でビキニ姿というのは、なかなか、男には厳しい光景でもある。
「は、はぁい!」
いつになく甲高い声とガチガチの動きで準備運動を開始する正秋。
しかし、さっそく準備運動を始めた正秋に対抗心を燃やしたのか、ミィリア(ka2689)がグッと拳を掲げた。
「正秋さんや瞬さんは勿論、隊長さん達にも負けないんだから……!」
華やかな夏の花の絵が可愛らしさと陽気さを魅せている水着姿のミィリアが無駄に気合を入れ出して体操を始める。
「一面に広がる海!」
と言っても、夜中なので、青い海ではなく真っ黒な海でイメージもヘチマもないが……。
それでも彼女の脳内では夏っぽい海のイメージが広がっているのだろう。
「滾る女子力! これぞ、夏! 体力勝負と来ちゃあ、頑張るっきゃないよね!」
飛び跳ねる程の準備運動。
跳ねているのは身体だけ……のように見えるのは、きっと、暗いからだろう。
煩悩を振り払おうと必死に体操を続ける正秋に無情にもフェリア(ka2870)が近づいて挨拶をしてきた。
「私はフェリア。よろしくね」
「よ、よ、よろしくお願いします。正秋です」
フェリアの長い銀髪が光を反射しているように見えて、より一層、美しさを際立たせていた。
「まさか、こんな遠くまで泳ぎにくる事になるとは思わなかったわ」
「それは拙者も、です!」
彼女も準備運度の為に、パレオを外す。
その仕草が堪らなく艶かしい様相で、思わず、正秋は視線をズラした。
これ以上、凝視していたら、海に入る前に何かなってしまうかもしれない。
ティス・フュラー(ka3006)も準備運動を始めていた。周りは女性ハンターが多いが、そうなると、逆に体型的な事とか気になる所でもある。
普段は装備でガチガチに固める者も多い中、今回は遠泳の為に、皆、水着姿だ。否応にも身体のラインは見えてしまうというもの。
(ここまでやってきておいて、こんなこと言うのもどうかと思うけど……実は、遠泳って、あんまり自信ないのよね)
泳げない訳ではないが、これほどの遠泳ということであれば、初体験かもしれない。
自信は無いが、ハンターとしての意地はある。それに、対策も一応、考えてある。足りないとすれば、むしろ、胸とか尻のラインかもしれない。
(お姉様ほど見栄えの良い体してる訳でもないのに、なんで、こんなの着てきちゃったんだろ、私……)
ビキニ姿なのを今更後悔しつつ、それとなく、目立たないような位置へ移動する。
とにかく、海に入ってしまえば、見えないのだから、それまでの辛抱だ。
「皆も準備運動を終えたら、水分も補給しておいた方がいいぞ」
周囲に声を掛けて白山 菊理(ka4305)が自身の分も合わせ、ヤマダに頼んでおいた飲料を箱詰めしていた。
口調はやや女性らしくは無いが、それは口調だけで、スタイルは美しいラインを描いていた。
黒のビキニ姿が、暗闇の中で色気を漂わせている。
「これはラッキーな依頼だ。ここは、天国か……」
「ジロジロと見て、その視線、なんとかならないの、瞬?」
菊理の肢体に熱い視線を向けている瞬に、シェルミア・クリスティア(ka5955)が冷たい言葉を投げた。
「お前は……まぁ、頑張れ。せめて、お姉さんのようになってからだな」
「……どうやら、本気で死にたいのかしら」
防水対策を為に袋の中に入れた符をわざわざ取り出すシェルミア。
肌のケアの為に持ってきたケア用品を箱詰めする前に、瞬を箱詰めにして湾に沈めてあげようかというような雰囲気を感じ、脱兎の如く、逃げ出す瞬。そして、それを追いかけるシェルミアを眺め、ヤマダがポージングを決めながら言った。
「正しく、これが青春の一コマ、だぁ! 廃ッ!!」
●遠泳するハンター
「長距離を泳ぐのなんて、どれ位、久しぶりだろうなぁ……」
シェルミアが泳ぎながら、そんな言葉を口にした。
覚醒者と言えども、無限の体力を持つ訳ではない。それでも、覚醒中は一般人よりかは遥かに体力も筋力も持久力もあるのは確かだ。
「上手く波に乗れればいいけど」
「疲れてきた人が居れば、ウォーターウォーク掛けるわ」
そう言って海の上を歩いているのはティスだった。
もっとも、波があるので、ちゃんとは歩けない。揺れ動く地面の上に立っているようなものだ。
何度か転倒してはいるが泳ぐよりかは体力を使わない。
「使用回数に限りがあるから、最後には泳がないといけなくなるけど」
泳いでいる人を置いてはいけないので、やがて、魔法の効果も切れる。
マテリアルには限りがあるので、ティスも泳ぐ事にはなるだろう。
「体力に自信の無い方、魔法で援護しますね」
フェリアも声を掛けるが、見たところ、脱落しそうな人はいなそうだった。自身が一番心配だと思っていただけにフェリアからは安堵の表情が見える。
案内役であるヤマダも改めて覚醒者の持つ力に驚いている様子なので、今回の遠泳は予想以上に上手くいっているともいえるかもしれない。
「この調子ならば、夜明け前には着きそうか?」
全身を上手く使いながら波間を泳ぐ菊理は、ヤマダに声を掛けた。
泳ぎながら話すと呼吸が乱れそうでもあるが、到着時間は大切な事だ。
「そんな感じ、だぁ! 僅かばかり、筋肉を休める時間もあるだろう」
「それなら、上陸したら小休止、か」
箱に詰めた水が役に立つし、仲間が持ち込んだスキンケア用品も使えるだろう。
のんびりしていられないが肌は女性の命、これも大事な事だ。
「正秋殿、泳ぐ姿勢は大事だ。どうだろう、私は乱れていないだろうか」
真白の無垢な一言に思わず、呼吸を乱す正秋。
月明かりの中、波間の間に見える白い肌に魅入られてしまいそうになるのをグッと抑える。
「み、乱れていない……ように見えます」
変に意識してしまいそうなので、正秋は気持ちを切り替えてペースを上げる。
このままでは、ずっと女子の素肌を見ていたと後で瞬に言われかねない。
傍目から見ると気合を入れて泳ぎだしたようにも見え――早速、ミィリアが反応する。
「さすが、正秋さん……これは、ミィリアも負けてはいられないのでござる!」
無駄に闘争心を高め、メラメラと燃え上がるミィリア。
それの動きに触発されて筋肉ヤマダが嬉しそうな声を挙げる。
「良い筋肉の動き、だぁ! よぉし! もっと、もっと筋肉をぉ!」
――若干ペースが上がり、瞬の悲痛な声が響いたのだった。
●奇襲戦
小さい港ではあるが、歴史は古く、昔から鎌倉に新鮮な魚介類を提供していたという。
そこへハンター達は遠泳を終えて上陸した。僅かに時間的な余裕があるので、水分を補給し、小休止する。
「俺達は、帰りの小舟を探してくる。お前達の筋肉に、武運をォォォ、祈る!」
ヤマダが部下を伴って港へ消えていった。彼らは帰りの手段を得る為に人力の船を探しにいくのだ。
一方、ハンター達は、アンテナ塔の破壊を目指す事になる。
「あれが……アンテナ塔ね」
フェリアが指差した方角――逗子マリーナ――に、それはそびえ立っていた。
一見すると鉄製のアンテナのようにも見えるが、負のマテリアルを放っているのが僅かに感じられる。
「それでは早く倒しますか。折角の水着も見せる相手が歪虚では張り合いがないもの」
「それも、そうだな」
シールドを構えて菊理がフェリアの台詞に同意する。
一行は頷くと、固まって駆け出す。今回、遠泳の為に装備に制限があった。
それぞれが役割を持って戦う為には、お互いの連携が要となる。
夜明けが近くなってきたのか、若干明るくなって戦闘にも支障は無さそうなあたり、襲撃のタイミングはバッチリだ。
「ここなら届きそうね」
ティスが念の為にアースウォールで壁を作り出すと、フェリアと頷く。
二人の水着魔術師が攻撃魔法を行使した。衝撃と同時に響き渡る轟音。
それで敵も襲撃に気がついたようだ。前後からわらわらと狂気の歪虚が姿を現す。
次の瞬間、いくつもの符がハンター達の周囲に飛翔すると、結界を構築する。
「移動したら狂気対策にまた構築するから」
シェルミアが創り出したものだ。狂気の歪虚には精神的な影響を与える能力を持つ歪虚も居るというからだ。
後方から現れた歪虚に対し、四肢に武器を装着した真白と、褌一丁で小ぶりな刀を持つ瞬が迎え撃つ。
「数が多い。前衛は連携を」
「よっしゃ、ようやく俺の出番だな」
二人が仲間達の背中を守るように敵と対峙すれば、アンテナ塔に近づく為、ミィリアと正秋は道を塞ぐ歪虚へと斬りかかった。
相手は人の形を成した狂気歪虚だ。人が使っていたと思われる武器を手にしている。
「にしても人型の……なんで、ビキニなんだろ……正秋さん、ああいうの好みだったりするでござる?」
「ああいう水着は、皆さんの方が似合っていると、思います」
真面目に答えるあたり、彼らしいところだ。
人型歪虚がビキニ姿なのは何かの理由があるのかと勘ぐりたくはなるが、所詮は狂気の歪虚。人間の武器を持っている事を鑑みれば、装備の一種という認識……なのかもしれない。
「このまま押していけそう、だな」
術師を狙った射撃を菊理が受け止めた。
後衛職による魔法攻撃、前衛職による足止めと戦いは優勢のまま進んでいるのは明らかだ。
蠢蠢と更に現れる狂気の歪虚共。それに対し、桃色の髪を靡かせて、ミィリアが刀を振り上げる。
「そろそろ……いくで、ござる!」
大声で後方に呼び掛け、合わせるように真白も拳を掲げた。
「ミィリア殿! 今こそ!」
以前にも似たような事をやっていたような二人。
ここに来て、その再来となった。ミィリアと真白から炎のようなオーラが噴出する。
「ますます女子力アゲアゲなミィリアをご覧あれでござる! 来るならかかってこーい!!」
身体全体から溢れ出る筋力……もとい、マテリアル。
アゲアゲした女子力に対してではないが、闘狩人のスキルの都合上、狂気の歪虚は標的を、二人のビキニ侍へと向ける。
「この隙は逃さないわ。五方の理を持って、千里を束ねよ……」
符が再び宙を駆ける中、シェルミアの詠唱が響く。
同時に二人の魔術師の詠唱も重なった。
「原初の赤……生命の根源、我が手に集いて、劔となれ!」
「……風よ、大空を貫く稲妻となり、我らに仇を成す者に天罰を!」
3人の術師が放った魔法が敵を薙ぎ払い、吹き飛ばしていく。
アンテナ塔の装甲のように寄り集まっていた歪虚が次々に消し飛んでいく中、術師らの攻撃魔法は続く。
「露払いはこんな感じね」
炎と雷の魔法を適切に続けるティスの言う通り、アンテナを守っていた歪虚は尽く消え去った。
取り巻きのように現れた人型歪虚も前衛が足止めしている。敵の増援は予想されるが、今はまだ気配は見えない。
支柱の様な脚が剥き出しとなったアンテナ塔は無防備。絶好のチャンスだ。
「行くわ」
菊理が剣の柄を握ると、マテリアルが氷の刃を形成した。
そして、一気に距離を詰めると、アンテナ塔へと斬りかかった。
「こんな格好だが、騎士の真似事といこうか!」
轟音と共に支柱が叩き切れ――アンテナ塔が崩壊を始めた。
ハンター達が目的を達した瞬間だった。
●帰るまでも依頼のうち
太陽が顔を出し、辺りは完全に朝を迎えていた。
歪虚の追撃は散慢としていた。アンテナ塔を破壊されて慌てふためいているのだろうか。無事に上陸した漁港へと戻った一行。
「よぉし! 無事に任務達成、だぁ! 筋肉が歓喜の声を上げているぞぉぉ!」
無駄なポージングで出迎えた筋肉ヤマダとその部下達。
ハンター達に用意されたのはオール付きのボートだ。
「……ちょっと待て、まさか、帰りはこれを漕ぐのか?」
瞬の言葉は、一行の気持ちを代弁していた。
「そう……みたいね。大丈夫、瞬なら、やれるわ」
「妙に優しい声を今更掛けるんじゃねぇよ、シェルミア」
オールの数は全員分は無い――つまり、瞬が大丈夫という事は、そういう意味だ。
「やってくれるというなら、助かるわ。ありがとう」
容赦なくオールを押し付けるように手渡すティス。
素肌が一瞬、当たったような気もしないでもないが、これも女の武器だ。
「……頼りにしている」
追い打ちを掛けるように菊理が微笑を浮かべて、瞬の背中をポンと叩いた。
ここまでされて動かない訳にはいかない。妙な気合の声を上げて瞬はボートへと乗り込んだ。
「残りのオールは……いいのですか? お任せして?」
フェリアが申し訳なさそうな、心配そうな視線をミィリアと真白に向けた。
「大丈夫でござるよ! まだ、筋肉がやれると言っているでござる」
「これも鍛錬となれば、私がここで引き下がる訳にはいかない」
刀ではなくオールを持つ二人の侍。
この二人がやるというのであれば、正秋もやらない訳にはいかない。
シェルミアはオールを彼に丁寧に手渡す。後ろで瞬が扱いが違うとか何か言っているが、それはスルーした。
「そういえば、幕府に対して思う所があるなら、いっその事、改革目的で中に入っちゃえば?」
渡しながら小さく声を掛けた。
上手く立ち回って幕府内での立場を得られたら復興にも繋がるはずだ。
「わたしはスメラギ君や紫草さん、それに……十鳥城の皆の力になれるなら、私は出来る限りの事は考えるよ」
「拙者自身に……どこまで出来るか分からないですが、精一杯、頑張りたいと思います」
これから先、幕府との関係は続くだろう。
代官としての役目を確りと果たすとシェルミアの言葉に、正秋は気持ち新たに決意するのであった。
森戸海岸付近から小坪漁港まで遠泳したハンター達は鮮やかな奇襲戦を展開。
狂気歪虚を退けつつ、目的であったアンテナ塔を破壊し、依頼を達成した。
また、正秋は幕府との関係に、一つの決意を心の中に深く、刻み込むのであった。
おしまい。
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
---|
面白かった! | 9人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/07/16 10:02:33 |
|
![]() |
泳ぐ前の準備から(相談 シェルミア・クリスティア(ka5955) 人間(リアルブルー)|18才|女性|符術師(カードマスター) |
最終発言 2017/07/21 08:50:23 |