ゲスト
(ka0000)
宝探し
マスター:江口梨奈

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 6~8人
- サポート
- 0~8人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/11/02 19:00
- 完成日
- 2014/11/10 02:24
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
がらくたを押し込んでいた箱を整理していてレオンは、覚えのないものを見つけた。
「なんだ、これ……?」
折り紙の人形である。隙間から文字が見えたので、開いてみると、変な文章があった。
『○のぶなより
たたみたぎみったたつめのたくたぬたぎ
たうしろたたよったつたたのいたちょうた
みたたぎたひとつたためのやたまたもたも
たまたえたよたったつめのたくたぬぎたた』
「あー……、これは、たしか……」
思い出した、10年ぐらい前まで隣に住んでいた、ネーちゃんと呼んでいた少女のことを。
当時のネネは、自分より3、4歳は上のはずだから、8歳ぐらいだったろうか。活発というかやんちゃな、木に登っては枝を折ったり、虫を素手で掴んだりする女の子で、幼い自分は常に圧倒されながらも憧れていた記憶がある。嬉しいことに自分もネネに気に入られていて、「アンタはあたしと結婚するのよ」などと決めつけられていた。
そして、この変な文章は、その約束をしたときのものだ。確か、婚約の証拠として、何かを木の根本に埋めた、その隠し場所を示したのだった。
数年後、ネネは寄宿舎のある街の学校へ進学することになって、家から出て行った。それっきり会っていないし、今まで忘れていた。
不思議なもので、ネネが帰ったという報せを聞いたのが、この翌日であった。
田舎の垢は街で洗われて、日焼けしていた肌は白く、髪は丁寧に櫛が入れられて、ネネはすっかり綺麗な娘になっていた。溜息の出そうな艶っぽさは、それも当然か、結婚が決まったのだという。
レオンは嬉しかった。初恋の少女が綺麗な娘になり、幸福に満ちている姿が見られたのだ。これを喜ばずにはいられようか。
そこでレオンは、何となく格好付けた祝福をしたくなって、ふと思いついた。
幼い頃に婚約の証拠として埋めた何か、これを一緒に掘り返してみよう。
箱の中身を、「俺じゃなくて、本当に結婚する人に渡すべきだよ」なんて言いながら渡すのだ。
さて、問題は、その中身が分からないことである。子供のしたことだから、もしかしたらロマンのカケラもないものかもしれない。箱いっぱいのダンゴムシや、びっしり敷き詰めたセミの抜け殻だったらどうしよう。あらかじめ確認するべきかと、とりあえず探し出して掘り出してみることにした。
当時に遊び場にしていたのは、大人からは遠いから止めろと禁止されていた森だ。ブナやコナラがふんだんに茂り、かくれんぼにもドングリ拾いにもピッタリの場所だった。
そこに、○印の付いたブナの木を見つけた。
「『○のぶなより』って、これのことだろうけど……」
その後に続く文章の意味が分からない。深く考えずに、まず手始めにそのブナの根元を掘ってみることにした。
陽がくれかかった。目的のものは見つからない。
「あー……腰が痛てぇ……」
と、凝り固まった体を伸ばそうと立ち上がり、胸を反らせたときだ。
上空から音もなく、ばかでかい鳥が鉤爪をこちらに向けて襲いかかってきたのが見えた。
「え、うわぁ、うわああっ!!」
間一髪だ、横に飛び退くと、鉤爪は勢いで地面に突き刺さった。
「やばいやばいやばい、バケモンだ!!」
それはまともな鳥ではない、歪虚に違いなかった。胴体は人間ほどもある、翼を広げると、その倍になるだろう。鉤爪はシャベルのように地面をえぐれさせ、あんなものに掴まれたら自分の内臓など簡単に潰されてしまう。
レオンは薄暗くなった森の中を、周りの木々にぶつかりながら必死に逃げる。フクロウに似た巨鳥は羽音もさせず、木を器用に避けながら追ってくる。そしてまたも、鉤爪を自分に向けてきた。
もうダメだ、と思ったが、レオンは無事だった。代わりに、一匹のタヌキらしきケモノが鉤爪に捉えられていた。
宝探しどころではない。息も切れ切れに村に戻ったレオンは、すぐにハンターオフィスへ連絡を入れるよう要請した。
「なんだ、これ……?」
折り紙の人形である。隙間から文字が見えたので、開いてみると、変な文章があった。
『○のぶなより
たたみたぎみったたつめのたくたぬたぎ
たうしろたたよったつたたのいたちょうた
みたたぎたひとつたためのやたまたもたも
たまたえたよたったつめのたくたぬぎたた』
「あー……、これは、たしか……」
思い出した、10年ぐらい前まで隣に住んでいた、ネーちゃんと呼んでいた少女のことを。
当時のネネは、自分より3、4歳は上のはずだから、8歳ぐらいだったろうか。活発というかやんちゃな、木に登っては枝を折ったり、虫を素手で掴んだりする女の子で、幼い自分は常に圧倒されながらも憧れていた記憶がある。嬉しいことに自分もネネに気に入られていて、「アンタはあたしと結婚するのよ」などと決めつけられていた。
そして、この変な文章は、その約束をしたときのものだ。確か、婚約の証拠として、何かを木の根本に埋めた、その隠し場所を示したのだった。
数年後、ネネは寄宿舎のある街の学校へ進学することになって、家から出て行った。それっきり会っていないし、今まで忘れていた。
不思議なもので、ネネが帰ったという報せを聞いたのが、この翌日であった。
田舎の垢は街で洗われて、日焼けしていた肌は白く、髪は丁寧に櫛が入れられて、ネネはすっかり綺麗な娘になっていた。溜息の出そうな艶っぽさは、それも当然か、結婚が決まったのだという。
レオンは嬉しかった。初恋の少女が綺麗な娘になり、幸福に満ちている姿が見られたのだ。これを喜ばずにはいられようか。
そこでレオンは、何となく格好付けた祝福をしたくなって、ふと思いついた。
幼い頃に婚約の証拠として埋めた何か、これを一緒に掘り返してみよう。
箱の中身を、「俺じゃなくて、本当に結婚する人に渡すべきだよ」なんて言いながら渡すのだ。
さて、問題は、その中身が分からないことである。子供のしたことだから、もしかしたらロマンのカケラもないものかもしれない。箱いっぱいのダンゴムシや、びっしり敷き詰めたセミの抜け殻だったらどうしよう。あらかじめ確認するべきかと、とりあえず探し出して掘り出してみることにした。
当時に遊び場にしていたのは、大人からは遠いから止めろと禁止されていた森だ。ブナやコナラがふんだんに茂り、かくれんぼにもドングリ拾いにもピッタリの場所だった。
そこに、○印の付いたブナの木を見つけた。
「『○のぶなより』って、これのことだろうけど……」
その後に続く文章の意味が分からない。深く考えずに、まず手始めにそのブナの根元を掘ってみることにした。
陽がくれかかった。目的のものは見つからない。
「あー……腰が痛てぇ……」
と、凝り固まった体を伸ばそうと立ち上がり、胸を反らせたときだ。
上空から音もなく、ばかでかい鳥が鉤爪をこちらに向けて襲いかかってきたのが見えた。
「え、うわぁ、うわああっ!!」
間一髪だ、横に飛び退くと、鉤爪は勢いで地面に突き刺さった。
「やばいやばいやばい、バケモンだ!!」
それはまともな鳥ではない、歪虚に違いなかった。胴体は人間ほどもある、翼を広げると、その倍になるだろう。鉤爪はシャベルのように地面をえぐれさせ、あんなものに掴まれたら自分の内臓など簡単に潰されてしまう。
レオンは薄暗くなった森の中を、周りの木々にぶつかりながら必死に逃げる。フクロウに似た巨鳥は羽音もさせず、木を器用に避けながら追ってくる。そしてまたも、鉤爪を自分に向けてきた。
もうダメだ、と思ったが、レオンは無事だった。代わりに、一匹のタヌキらしきケモノが鉤爪に捉えられていた。
宝探しどころではない。息も切れ切れに村に戻ったレオンは、すぐにハンターオフィスへ連絡を入れるよう要請した。
リプレイ本文
●日暮れの森へ
「宝探しって、ロマンチックよね」
と、クレア グリフィス(ka2636)は言い、「聞くだけでわくわくするな」とリューリ・ハルマ(ka0502)も嬉しそうだ。謎の持ち主であるレオンは「だろう?」と、まだどんな宝があるかも分からないのに得意そうな顔をし、けれど、すぐ沈んだ顔になった。その宝探しのために危ない目に遭ったことを思い出したのだ。
「心配しないで。私たちが来たからには、大船に乗ったつもりでいてよ、ね?」
と、リューリは他の仲間に同意を求める。皆が同様に頷く中、ナル(ka3448)は親指の爪に乗せたコインを弾き、手の甲で受け止めた。
「……表、ね。大丈夫、成功するわ」
未来を占う、彼女の昔からの習慣だ。これに従って、悔いたことはない。今回もうまくいくだろう、歪虚退治も、少年の宝探しも、その先にある作戦も。
「ははは早く行こうよ、まっくらになるまえに!」
そんな悠長なことをしているナルを急かすように、ノノトト(ka0553)は震える声で訴えた。歪虚は怖くないが、暗闇は怖い。未だ一人で夜中に用足しにすら行けないほどだ。
「分かってるって、心配するな。誰だって暗い中の作業はごめんだ」
そうなだめるのは、ルシエド(ka1240)だ。ノノトトは、自分と同い年ぐらいの彼がちっとも怖がっていないので、羨ましそうにみつめた。……もっとも、見た目では分からないが、ルシエドはノノトトよりかなり年上なのだけれど。
「あなた達……囮、大丈夫……?」
ナルとルシエド、ふたりが空を飛ぶヴォイドへの囮を買って出ているのを気遣う、ズィルバーン・アンネ・早咲(ka3361)。先にヴォイドに遭遇した少年から話を聞くに、逃げられたのが幸運と思えるほどの素早さだったという。
(たしか彼は、そばに偶々タヌキがいて、それが身代わりになったって……)
「そういえば、タヌキは大丈夫かな?」
アンネの心情を知ってか知らずか、モカ・プルーム(ka3411)はそう口に出した。アンネは思わず、モカの顔を見る。自分と同じように、小さな獣をいたわる仲間がいたことに心がかすかに揺れた。
「見つかるといいですね」
言いながらも、可能性は低いだろう、とユナイテル・キングスコート(ka3458)は思っている。相手は人間の内臓を潰しかねない鉤爪を持った、危険な歪虚なのだ。
可能性を少しでも高めるなら、彼女たちは一刻も早く、その歪虚を退治しなければならない。
夕闇に備えて十分な灯りを用意し、ハンター達はいよいよ巨大フクロウの縄張りを目指した。
●巨鳥
見た目には何の変哲もない、この国によくある森だ。子供が遊ぶには少々荒れすぎているが、ここを遊び場にしていたのだというのだから、レオンもかなりやんちゃな子供だったのだろう。
やや開けたところに、幹に○印を付けたブナの木があった。おそらく、ここでレオンは作業をしていた。そこからまた少し離れた場所に、赤い染みと、動物の抜けた毛がごっそり落ちていた。
(タヌキ……、の、毛……?)
残念な結果だった。けれど、それでめそめそしてはいられない。
「さて、どう動こうかしら?」
現地に立ち、周囲の様子を見て、ナルはルシエドに声をかけた。
「そうだな……」
ルシエドはキラキラ光るネックレスをもう一度服の上になるように付け直した。
「ここを基点に、じゃあオレはこの方角へ。あんたは逆に。それでいいか?」
「問題ないわ」
互いの打ち合わせが終わったところで、クレアが彼らに『運動強化』を施す。そのクレアを護るのは、ノノトトの役割だ。
「フ、フクロウが掴みかかってきても、ふんばって耐えるからね」
「頼りにしてるわよ」
グラマーな美女がウィンクしながらノノトトの肩に手をかけると、小さなナイトは耳まで赤くなった。
「あなたには私が付かせてもらおう、頼りないかもしれないでしょうが」
「……そんなこと、ない」
同じく、囮の支援にかかるアンネを護るのは、ユナイテルの役目だ。ユナイテルにとって、歪虚退治という仕事は初めてなので、足らないところがあるかもしれない。けれど、命のやり取りをする場面に遭遇したことがないわけではない、決してアンネの足手まといにはならないだろう。
「私は、ここに隠れてるからね。大丈夫、みんなの邪魔にならないようにするから!」
「ボクも目立たないように気をつけるね」
リューリとモカも、囮役を常に視界に捉える位置に自分たちの場所を見出した。
そうして、全員が息を潜め、静かに、静かに、歪虚の動きを待った。
どのくらい時間が経っただろうか。
陽はほとんど沈み、辛うじて木々の輪郭線が見える程度だ。もう少し長引けば真っ暗闇になり、初めて訪れたこの場所でハンター達はまともに動けないかもしれない。
(灯りが、必要か……?)
ルシエドは、LEDライトのスイッチを入れた。胸のクリスタルネックレスに光が反射する。
「うしろーーーーーー!!!」
唐突に、ノノトトが絶叫した。その声に驚いて振り返るルシエド。その時にはもう、巨大な影が今まさに覆い被さろうとしていた。
「チッ」
飛び退るのに精一杯の時間しかなかった。体を土で汚しながら転がる。巨大なフクロウは、気味が悪いほど何の音も立てず、なおも羽ばたき続け、空に浮いたまま進路を変え、手頃な獲物を捉えようとする。
『キキィッ』
だが、それを抑えたのはリューリのレイピアだった。『クラッシュブロウ』で威力の増したそれは風の精霊をこちらの味方に付け、空を飛ぶものの勢いを殺した。
「致命傷は無理、か」
本体から切り離された何枚かの羽根が落ちていく。息絶えさせるほどではないが、高く飛ぶ力は削げたかもしれない。
「えいっ、こっちだ!」
そこへモカが『ランアウト』で飛び出し、すかさず足首に向かってショートソードを斬りつけた。自分の胴体ほどもある太さの足首に突き立てると、およそ獣の血液とはほど遠い腐ったような液体を噴出させた。あまりの腐臭にモカは顔をゆがめ、その一瞬に手がゆるんでしまった。
「わ、わ、こっちにくる!」
フクロウの狙いが、ルシエドからモカに変わった。モカは、持てる精霊の力の全てを避けることに注ぎ込み、仲間達がいる方向へ走る。
「あいにくと、そこも私の射程内よ」
囮役を取られ、やや残念そうにナルは言いながらも、早々に役割を切り替える。動き回ることを止め、魔導拳銃を構え、クレアの援護によって高められた威力を持つ弾丸を放った。『射程内』の言葉通り、鉤爪を持った足が砕け散った。
(まだ……そのまま)
アンネの魔導銃が、歪虚に照準を合わせている。巨鳥の翼はまだ生きている。一度降りてきた敵だ、空に逃がさないよう、何より動きを封じることが第一と考える。
「…………今!」
調整を済ませた銃の引き金に添えたままでいた人差し指に力を込めた。『機導砲』が光を放ち、フクロウの翼の付け根を貫いた。
『キキィッ、キィイッ』
かなりのダメージを与えられたか、歪虚の羽ばたきは左右バラバラになり、あれほど静かだった動きは一転、耳障りな音を生み続けている。
もう一撃くわえるべく、暴れる目標に再び狙いを定める。彼女の前にはユナイテルが盾を構えて護ってくれているのだ、引き金をひくことに集中すればよい。またも射出された機導砲は、反対の翼をもぎ取った。巨大なフクロウは地響きを立てて落ち、しかし踏ん張ろうにも足がなく、無様にもがくだけだった。
「続けていくよ!」
とどめを。
全てはハンター達に有利となった。夜の闇を自由に飛びまわっていた歪虚は、まばゆいマテリアルの輝きで浄化されたのだった。
●宝探し
「え? 宝探し、するの……?」
もうとうに月も星も見えている。用意された灯りがあるとはいえ、その灯りの向こうは真っ暗闇。ノノトトは早く帰りたいのだが、他の皆はレオンの宝を探すという。
「夜のピクニックも、趣がありますよ」
ユナイテルが呑気な事をいい、ノノトトはとんでもない、と首を振る。じゃあ一人で先に帰る……などということが出来るわけもなく、ユナイテルの服の裾をつまんで、泣く泣く後を付いていった。
「○のブナの下にはなかったんだよね? じゃあやっぱり、続く文章にヒミツがあるのかな?」
モカはレオンに聞いた暗号文を読み返す。
「……随分、同じ字が多いね?」
「10年ぐらい前って言ってたから、8歳かそこらの子が考えた暗号よね? そんな、複雑なものじゃないわよ」
「これ、きっと、初歩的な暗号……。そのまま読もうとしても、読めない……」
「じゃあ、その多い字を消してみて……あら、文章になったわ」
『〇のぶなより みぎみっつめのくぬぎ うしろよっつのいちょう みぎひとつめのやまもも まえよっつめのくぬぎ』……彼女たちの推測は正解だった。その文章の通りにそれぞれの木があり、最後のクヌギの下からあっさりと、布でぐるぐる巻きにされたものが出てきたのだった。
「最初に中身を見る権利があるのは、やっぱりレオンさんよね?」
リューリの意見に誰も反対のはずはなく、見つけ出されたお宝と共に、皆は森を後にした。
さて、歪虚退治の報告に村に戻り、皆に賑やかに労われる中、ハンター達はこっそりとレオンを呼び出した。
「いったい中身は何かしら?」
宝探しに関わったものとして、中身が気になるのは仕方がない。
「どうせだから、箱の中身以外に、花束とか添えて贈れば?」
と、ルシエドは提案した。綺麗なお隣のお姉さんへの祝福として、泥まみれの昔の思い出だけでは物足りなくはないか。
「ま、それも、中身を見てから……」
レオンは布をほどき、くるまれていた木箱に手をかける。やはり10年も土の下にあったのだ、布で覆うとも雨水は染み泥は溝を埋め木箱はボロボロになっている。きっと中身も泥だらけだろう……と思ったが、蓋を開けてみるとネネの何と周到なことか、更にガラス瓶が入っていて、目的のものはその中だった。
ごくり、と生唾を飲み、ガラス瓶の中身を確認する。
レオンの体中に鳥肌が立ち、それは隣にいたハンター達が見ても分かるほどだった。
…………ああ、そう言えばネーちゃんは、虫を素手で掴むのが平気な娘だった!
「……えっと、花束を贈る、それ、いい考え。貰った、そのアイデア、貰いましたー」
引きつった笑顔でレオンは言い、静かに木箱の蓋を閉め、また布でぐるぐる巻きにした。
皆もそれ以上は、何も聞かなかった。
「宝探しって、ロマンチックよね」
と、クレア グリフィス(ka2636)は言い、「聞くだけでわくわくするな」とリューリ・ハルマ(ka0502)も嬉しそうだ。謎の持ち主であるレオンは「だろう?」と、まだどんな宝があるかも分からないのに得意そうな顔をし、けれど、すぐ沈んだ顔になった。その宝探しのために危ない目に遭ったことを思い出したのだ。
「心配しないで。私たちが来たからには、大船に乗ったつもりでいてよ、ね?」
と、リューリは他の仲間に同意を求める。皆が同様に頷く中、ナル(ka3448)は親指の爪に乗せたコインを弾き、手の甲で受け止めた。
「……表、ね。大丈夫、成功するわ」
未来を占う、彼女の昔からの習慣だ。これに従って、悔いたことはない。今回もうまくいくだろう、歪虚退治も、少年の宝探しも、その先にある作戦も。
「ははは早く行こうよ、まっくらになるまえに!」
そんな悠長なことをしているナルを急かすように、ノノトト(ka0553)は震える声で訴えた。歪虚は怖くないが、暗闇は怖い。未だ一人で夜中に用足しにすら行けないほどだ。
「分かってるって、心配するな。誰だって暗い中の作業はごめんだ」
そうなだめるのは、ルシエド(ka1240)だ。ノノトトは、自分と同い年ぐらいの彼がちっとも怖がっていないので、羨ましそうにみつめた。……もっとも、見た目では分からないが、ルシエドはノノトトよりかなり年上なのだけれど。
「あなた達……囮、大丈夫……?」
ナルとルシエド、ふたりが空を飛ぶヴォイドへの囮を買って出ているのを気遣う、ズィルバーン・アンネ・早咲(ka3361)。先にヴォイドに遭遇した少年から話を聞くに、逃げられたのが幸運と思えるほどの素早さだったという。
(たしか彼は、そばに偶々タヌキがいて、それが身代わりになったって……)
「そういえば、タヌキは大丈夫かな?」
アンネの心情を知ってか知らずか、モカ・プルーム(ka3411)はそう口に出した。アンネは思わず、モカの顔を見る。自分と同じように、小さな獣をいたわる仲間がいたことに心がかすかに揺れた。
「見つかるといいですね」
言いながらも、可能性は低いだろう、とユナイテル・キングスコート(ka3458)は思っている。相手は人間の内臓を潰しかねない鉤爪を持った、危険な歪虚なのだ。
可能性を少しでも高めるなら、彼女たちは一刻も早く、その歪虚を退治しなければならない。
夕闇に備えて十分な灯りを用意し、ハンター達はいよいよ巨大フクロウの縄張りを目指した。
●巨鳥
見た目には何の変哲もない、この国によくある森だ。子供が遊ぶには少々荒れすぎているが、ここを遊び場にしていたのだというのだから、レオンもかなりやんちゃな子供だったのだろう。
やや開けたところに、幹に○印を付けたブナの木があった。おそらく、ここでレオンは作業をしていた。そこからまた少し離れた場所に、赤い染みと、動物の抜けた毛がごっそり落ちていた。
(タヌキ……、の、毛……?)
残念な結果だった。けれど、それでめそめそしてはいられない。
「さて、どう動こうかしら?」
現地に立ち、周囲の様子を見て、ナルはルシエドに声をかけた。
「そうだな……」
ルシエドはキラキラ光るネックレスをもう一度服の上になるように付け直した。
「ここを基点に、じゃあオレはこの方角へ。あんたは逆に。それでいいか?」
「問題ないわ」
互いの打ち合わせが終わったところで、クレアが彼らに『運動強化』を施す。そのクレアを護るのは、ノノトトの役割だ。
「フ、フクロウが掴みかかってきても、ふんばって耐えるからね」
「頼りにしてるわよ」
グラマーな美女がウィンクしながらノノトトの肩に手をかけると、小さなナイトは耳まで赤くなった。
「あなたには私が付かせてもらおう、頼りないかもしれないでしょうが」
「……そんなこと、ない」
同じく、囮の支援にかかるアンネを護るのは、ユナイテルの役目だ。ユナイテルにとって、歪虚退治という仕事は初めてなので、足らないところがあるかもしれない。けれど、命のやり取りをする場面に遭遇したことがないわけではない、決してアンネの足手まといにはならないだろう。
「私は、ここに隠れてるからね。大丈夫、みんなの邪魔にならないようにするから!」
「ボクも目立たないように気をつけるね」
リューリとモカも、囮役を常に視界に捉える位置に自分たちの場所を見出した。
そうして、全員が息を潜め、静かに、静かに、歪虚の動きを待った。
どのくらい時間が経っただろうか。
陽はほとんど沈み、辛うじて木々の輪郭線が見える程度だ。もう少し長引けば真っ暗闇になり、初めて訪れたこの場所でハンター達はまともに動けないかもしれない。
(灯りが、必要か……?)
ルシエドは、LEDライトのスイッチを入れた。胸のクリスタルネックレスに光が反射する。
「うしろーーーーーー!!!」
唐突に、ノノトトが絶叫した。その声に驚いて振り返るルシエド。その時にはもう、巨大な影が今まさに覆い被さろうとしていた。
「チッ」
飛び退るのに精一杯の時間しかなかった。体を土で汚しながら転がる。巨大なフクロウは、気味が悪いほど何の音も立てず、なおも羽ばたき続け、空に浮いたまま進路を変え、手頃な獲物を捉えようとする。
『キキィッ』
だが、それを抑えたのはリューリのレイピアだった。『クラッシュブロウ』で威力の増したそれは風の精霊をこちらの味方に付け、空を飛ぶものの勢いを殺した。
「致命傷は無理、か」
本体から切り離された何枚かの羽根が落ちていく。息絶えさせるほどではないが、高く飛ぶ力は削げたかもしれない。
「えいっ、こっちだ!」
そこへモカが『ランアウト』で飛び出し、すかさず足首に向かってショートソードを斬りつけた。自分の胴体ほどもある太さの足首に突き立てると、およそ獣の血液とはほど遠い腐ったような液体を噴出させた。あまりの腐臭にモカは顔をゆがめ、その一瞬に手がゆるんでしまった。
「わ、わ、こっちにくる!」
フクロウの狙いが、ルシエドからモカに変わった。モカは、持てる精霊の力の全てを避けることに注ぎ込み、仲間達がいる方向へ走る。
「あいにくと、そこも私の射程内よ」
囮役を取られ、やや残念そうにナルは言いながらも、早々に役割を切り替える。動き回ることを止め、魔導拳銃を構え、クレアの援護によって高められた威力を持つ弾丸を放った。『射程内』の言葉通り、鉤爪を持った足が砕け散った。
(まだ……そのまま)
アンネの魔導銃が、歪虚に照準を合わせている。巨鳥の翼はまだ生きている。一度降りてきた敵だ、空に逃がさないよう、何より動きを封じることが第一と考える。
「…………今!」
調整を済ませた銃の引き金に添えたままでいた人差し指に力を込めた。『機導砲』が光を放ち、フクロウの翼の付け根を貫いた。
『キキィッ、キィイッ』
かなりのダメージを与えられたか、歪虚の羽ばたきは左右バラバラになり、あれほど静かだった動きは一転、耳障りな音を生み続けている。
もう一撃くわえるべく、暴れる目標に再び狙いを定める。彼女の前にはユナイテルが盾を構えて護ってくれているのだ、引き金をひくことに集中すればよい。またも射出された機導砲は、反対の翼をもぎ取った。巨大なフクロウは地響きを立てて落ち、しかし踏ん張ろうにも足がなく、無様にもがくだけだった。
「続けていくよ!」
とどめを。
全てはハンター達に有利となった。夜の闇を自由に飛びまわっていた歪虚は、まばゆいマテリアルの輝きで浄化されたのだった。
●宝探し
「え? 宝探し、するの……?」
もうとうに月も星も見えている。用意された灯りがあるとはいえ、その灯りの向こうは真っ暗闇。ノノトトは早く帰りたいのだが、他の皆はレオンの宝を探すという。
「夜のピクニックも、趣がありますよ」
ユナイテルが呑気な事をいい、ノノトトはとんでもない、と首を振る。じゃあ一人で先に帰る……などということが出来るわけもなく、ユナイテルの服の裾をつまんで、泣く泣く後を付いていった。
「○のブナの下にはなかったんだよね? じゃあやっぱり、続く文章にヒミツがあるのかな?」
モカはレオンに聞いた暗号文を読み返す。
「……随分、同じ字が多いね?」
「10年ぐらい前って言ってたから、8歳かそこらの子が考えた暗号よね? そんな、複雑なものじゃないわよ」
「これ、きっと、初歩的な暗号……。そのまま読もうとしても、読めない……」
「じゃあ、その多い字を消してみて……あら、文章になったわ」
『〇のぶなより みぎみっつめのくぬぎ うしろよっつのいちょう みぎひとつめのやまもも まえよっつめのくぬぎ』……彼女たちの推測は正解だった。その文章の通りにそれぞれの木があり、最後のクヌギの下からあっさりと、布でぐるぐる巻きにされたものが出てきたのだった。
「最初に中身を見る権利があるのは、やっぱりレオンさんよね?」
リューリの意見に誰も反対のはずはなく、見つけ出されたお宝と共に、皆は森を後にした。
さて、歪虚退治の報告に村に戻り、皆に賑やかに労われる中、ハンター達はこっそりとレオンを呼び出した。
「いったい中身は何かしら?」
宝探しに関わったものとして、中身が気になるのは仕方がない。
「どうせだから、箱の中身以外に、花束とか添えて贈れば?」
と、ルシエドは提案した。綺麗なお隣のお姉さんへの祝福として、泥まみれの昔の思い出だけでは物足りなくはないか。
「ま、それも、中身を見てから……」
レオンは布をほどき、くるまれていた木箱に手をかける。やはり10年も土の下にあったのだ、布で覆うとも雨水は染み泥は溝を埋め木箱はボロボロになっている。きっと中身も泥だらけだろう……と思ったが、蓋を開けてみるとネネの何と周到なことか、更にガラス瓶が入っていて、目的のものはその中だった。
ごくり、と生唾を飲み、ガラス瓶の中身を確認する。
レオンの体中に鳥肌が立ち、それは隣にいたハンター達が見ても分かるほどだった。
…………ああ、そう言えばネーちゃんは、虫を素手で掴むのが平気な娘だった!
「……えっと、花束を贈る、それ、いい考え。貰った、そのアイデア、貰いましたー」
引きつった笑顔でレオンは言い、静かに木箱の蓋を閉め、また布でぐるぐる巻きにした。
皆もそれ以上は、何も聞かなかった。
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ぶりーふぃんぐルーム ズィルバーン・アンネ・早咲(ka3361) 人間(リアルブルー)|15才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2014/11/02 17:33:43 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/10/28 22:41:38 |