ゲスト
(ka0000)
夏祭りの事件簿
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2017/07/23 19:00
- 完成日
- 2017/07/29 00:06
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
自由都市同盟の中にある、田舎の小都市。
建物と建物の間に挟まれた路地にて、サングラスをかけたドレッドヘアのおっさんが子供相手に商売をしていた。
「さあお立ちあい。これぞ今リゼリオで大はやりのCAMドールだ。最新の型も揃ってるぞ。買うなら今、今しかない!」
逆さにした空き箱の上に並んでいるのはCAMを模したブリキ人形。それぞれ勇ましくポーズを取っている。しかし田舎の子供の目から見てもそれは――なんとなくパチ臭かった。実際パチものなのだからしょうがないが。
どの集団にも一人はいるマニア小僧が、早速ケチをつけ始める。
「おじさん、この機体のここんところ、カラーリング違くない? 持ってるのは魔導砲のはずだよね。エンブレムのロゴもなんか見た事ないような……」
しかしおっさん負けてはいない。そういう反応が来ることは想定済みだ。
「見たことない? そりゃ当然だ。何しろこれはまだ発売されていない新型だからな」
「発売されていない新型を、おじさんなんで持ってるの」
「なんでなんで」
「実はおじさん、こっそり会社の倉庫から持ち出してきたんだ。発売前の品をな」
秘密っぽいこと、悪っぽいことに興味を示すお年頃の子供たちは、その告白によって一層引き込まれた。
「君たちのような地方に住む子供は、いつも流行りのおもちゃを手に入れられない。この近辺のおもちゃ屋に流行のおもちゃが入ってくるのは、都会での流行がすでに終わった後――そうじゃないか?」
思い当たるところありありな子供たちは、うんうんと揃って頷いた。
「いつもいつもそれじゃあ、あまりにもかわいそう……というわけでおじさん、新製品をこっそり発売することにしたんだよ。みんな、このことはお父さんお母さん並びに先生には内緒にしてくれよ。でないとおじさん、おもちゃメーカーをクビになっちゃうからな? そうそう、言っておくがこの品は全品原価5割引だ。赤字覚悟の大出血サービスだ。子供に笑顔になってほしい、その一念でおじさんはやっているからな、儲けは度外視だよ。在庫はここに並んでいる分しかないからね? 早く買わないとなくなっちゃうぞ」
●
ドレッドのおっさんことブルーチャーはCAMドールが完売した後大急ぎで店を畳み、場から移動した。単独でのパチ商売のコツは、一カ所に長居しないこと。これに尽きる。
滞在する地で裏稼業の元締め(程度の差はあれど、そういうものはどこにでもいる)から後ろ盾を得られるなら別だが、それは難しい。バッタ物製造等の罪で刑務所入りし脱獄しまた掴まって刑務所入りし更に脱獄し……現在指名手配の身の上。関わるリスクが高い相手については裏社会も、なかなか面倒を見てくれないものだ。
そそくさ別の町に移動し、宿を取り、一息つく。ドレッドヘアのかつらを縫いで禿げ頭を拭き拭き、銭勘定。
せいぜい1週間分の生活費くらいにしかならない。子供相手のパチ商売では、たいして稼げるわけもなし。
ブルーチャーは椅子に腰掛けブランデーを飲む。
俺だって一時は(パチものを作る)工場の社長でもあったのだ。それが今やそのへんの粗大ごみ置き場から鉄屑を拾いしょぼい自前の玩具を作って売る行商人――何という落ちぶれ方だ。
「わしがこんな不遇をかこっていていいのか? いやよくねえ。絶対によくねえ」
ぶつぶつ文句を呟きながら窓の外を見れば、花火が上がっていた。どうやら今日はこの周辺で、祭りがあるらしい。
●
「お姉さんにはこの花が似合うと思うなあ」
「えっ? そ、そう?」
「うん。きれいな緑の髪してるもの。黄色はすごーく映えると思うんだ」
「すいませんこれくださーい♪」
自分が金を出し買った月下草の花を口だけ出したナルシスから髪に飾ってもらい、至福満面なマリー。
「毎度ありがとうございましたー」
祭りの雑踏へ戻って行く二人を見送った花屋の店主ベムブルは、手伝いに来ていたコボルドコボちゃんに目を向けた。難しい顔をして、クリムゾンの地図を見ている。なんでも最近仲間が遠いところへ連れて行かれてしまったので、その行方を捜しているのだそうだが……とりあえず地図を逆さまに見てしまっていることを教えてあげるべきかどうか。
そんなことを思っていると、新しいお客がやってきた。ドレッドヘアの中年男だ。夜だというのになぜかサングラスをかけている。
「いらっしゃいませ」
愛想よく迎えた店主に男は、不機嫌そうな声で答えた。
「いや、わしは客じゃねえ。花なんか買う気はねえんだ」
ベムブルはそれを聞いても、ちっとも気にした様子がなかった。
「そうですか。見るだけでも結構ですよ。花はきれいなものですからね」
男は少し黙った後、ぽつりと言った。
「……そうだな」
そんな彼らの姿を、通りの向こうから観察しているものたちがいた。祭りの警備をしているハンターたちである。
「……おい。あのおっさん、警察から回ってきた手配書の奴に似てないか?」
「ああ……似てるな。確かめた方がいいか」
リプレイ本文
●ただ今見回り中
浴衣姿のソラス(ka6581)はカイン・シュミート(ka6967)とお祭りの警備。手にはフランクフルトと林檎飴。お供につくのは柴犬のロイとパピヨンのルラクス、虎猫のフラウ。
肉が焼ける匂い、砂糖が焦げる香り、氷を砕く音、歓声、囁き声、笑い声。そんなものがごたまぜに通りを流れて行く。
「カインさんの故郷にはどんなお菓子が?」
「ドラグーンつっても俺の故郷、西方だからなー。そうそう珍しいもんねえんだけど……しっかし暑いなー。今何度なんだよこれ」
行く手に人だかりが見えてきた。『リアルブルーの味・タピオカジュース』と銘打った屋台が出ている。
「……おいしいんでしょうか」
自分もちょっと並ぼうかな、と思うソラス。
そこで行き交う人々が立ち止まり空を見上げた。大玉が上がったのだ。あちこちから歓声が上がる。そんな中1人の男だけが、足も止めず顔も上げず歩いて行く。
集団から外れたその姿はソラスの目を引いた。ついで、カインの目も。
仙堂 紫苑(ka5953)は呻いた。
「あぢい……」
祭り会場の警備であるなら、パワードスーツは物々し過ぎる――という考えから商人より貰った「まるごとうさぎ」を被っているのだが、完全に蒸し風呂状態だ。
「……まずい……目の前が真っ暗だ……」
「紫苑さん、それはサングラスをかけているからだと思うですよ」
「あ、そうか」
アルマ・A・エインズワース(ka4901)の突っ込みによって少し我を取り戻し、サングラスを額の上に持ち上げる。視界がクリアになった。でも暑さは変わらない。
「にしてもやっぱり夏に着ぐるみは暑っちーな、きついぞ……」
どこかの物陰で一度まるごとうさぎを脱ぎ、クールダウンしようか。そんなことを思っていると、通りの向こうからソラスがやってきた。
かなり接近してから、世間話をするような表情で話しかけてくる。周囲に響かぬよう、声を極力押さえて。
「……向こうに不審者を見かけました。多分手配書の人じゃないかと思うんですが――今カインさんが尾行してます……」
「はい、着付けしゅーりょー。うん可愛い♪」
リナリス・リーカノア(ka5126)は、浴衣を着終えたカチャのお尻をぽんと叩く。前者はカールさせた髪を、後者は首飾りを編み込んだ髪をアップさせている。いつもよりぐんと、華やいだ雰囲気だ。
「リナリスさん、本当にこれ着るとき、下着を着けないんですか?」
決まり悪げにもじもじするカチャに、いい笑顔で返す。
「うん本当。浴衣の時は下着はつけないんだよ♪ 特に女の子は♪」
「本当に本当ですか?」
「本当に本当に本当。ノー下着こそがこの民族衣装のキモだよ♪」
「だってこれ、うっかりめくれでもしたら大事故ですよ」
「大丈夫大丈夫、あたしも浴衣姿だし履いてないし。何かあっても一蓮托生だよ♪」
「いや、一蓮托生でも事故なのは一緒……」
押し問答している真っ最中、トランシーバーからの声。ソラスだ。
『もしもし。今、手配者らしき人を見つけました。これから警察に連絡しますので――』
「分かった、私たちもすぐ行くよ。花屋さんのところだね?」
いったんトランシーバーを切った天竜寺 詩(ka0396)は、帽子の庇を下げゴーグルをかけた。マルカ・アニチキン(ka2542)はカーニバルアイマスクをかける。両者、ブルーチャーが自分たちの顔を覚えているかもしれないことを考慮したのだ。
この程度の変装でも一定の効果はあるはず。確保前に感づかれ、逃げられては困る。
●指名手配犯発見
「ベムブルさーんっ! 近くまで来たので、寄ってみましたっ」
「あっ、アルマさんお久しぶりー」
花屋の店先で長身のエルフと短駆のドワーフが親愛のハグ。コボちゃんが地図から顔を上げ、うるさそうに言う。
「わるまー?」
「こっ……コボちゃん、僕の名前言えるようになったんですかー! うれしいですーっ!」
暑苦しい勢いに押され、店先を離れようとするブルーチャー。
アルマはその動きを見逃さなかった。服の裾を掴んで逃がさないようにし、怒涛のコミニュケーション攻撃。
「お兄さん、お花すきです? 僕もすきですー。どれがすきですー?」
彼が時間稼ぎしている間に仲間たちが、ゆるゆる周囲を囲んで行く。ブルーチャーに気取られないように。
「……さあな、わしは花の名前などほとんど知らんし……ただあれは気にいっている方だな」
と言ってブルーチャーが指さしたのは、胡蝶蘭の鉢だった。
「わしが昔社長だったときには、色んなところからあの花が贈答品として贈られてきたもんだ……」
至近距離まで来たソラスが、さりげなく会話に参加する。
「あなたは社長さんだったんですか?」
「ああ。工場を持っていたんだ工場を。今のこのなりじゃ信じられないだろうけどな」
現在が不遇だと過去の自慢をしたくなるものなのだろうか。猫を肩にし耳傾けるカインは、そんなことを思う。
「いえいえそんなことは……ところでその髪型決まってますね。どうやってセットしてるんですか?」
ソラスがドレッドヘアに手をかけた。髪がずるうっと滑り落ちる。下から現れたのは手配書にある通りの禿げ頭。
「うおっ!?」
かつらを拾い上げ、大急ぎで元に戻すブルーチャー。ソラスは恐縮を全身で表し、詫びる。
「ごめんなさい。お詫びに花でも」
「い、いや、いい。気にするな。じゃあな」
そそくさと踵を返すブルーチャー。その顔にロップイヤーのぬいぐるみが、ぼすんと当たった。リナリスである。
「ちょっと待っておじさん♪」
同時に詩がブルーチャーの肩に手を置いた。庇とゴーグルを上げ、顔を見せる。
「ブルーチャーさん、だよね? パチモノ工場の社長さんだった」
彼女が誰であるか分かったのだろう。ついで、自分が囲まれていることも。ブルーチャーは俄然しらを切り始める。
「いや、人違いだ。知らんそんな奴は知らん知らん」
カインは折り畳んだ手配書を広げ、彼の前に差し出した。
「どう見てもあんただよな?――俺、面識ねぇから質問。何で、モノ作るんだ?」
「……」
「単純に効率のいい金稼ぎか?」
畳み掛けてくる相手にブルーチャーは、怒ったような早口で返した。
「スクラップから人形作るのは、効率のいい金稼ぎにゃならねえよ。手間ばかり食って、手に入るのは端金だ――ただ、何か作っていないといられねえんだ。それだけのことだ」
その回答に紫苑は、職人魂の共鳴とでも言うべきシンパシーを覚えた。
マルカがマスクを外し、ブルーチャーに向き直った。口から出たのは、率直な褒め言葉。
「リサイクルで自前の玩具を作って売るなんて凄い才能じゃないですか……!……問題はご自身の立場と取り扱う商品の著作権だけです」
詩がブルーチャーの肩を掴み、目を正面から見据えながら話した。かつて彼が組んでいたスペットの近況について。ついでスペットにかかわる諸問題について――エバーグリーンのこと、マゴイのこと――をあらいざらい。そして、こう締めくくった。
「マゴイの居場所探知や結界を破るのに機械的な知識が必要になるかもしれない。協力してくれたら刑期も短くなると思うんだ」
ブルーチャーが額にしわを寄せ、呟いた。
「ちょっと見ない間に大層なことになってたんだな、猫の旦那は」
ソラスは先のない生活から脱するよう、改めて彼に説く。
「玩具作りが好きなら廉価品より、衣食住の保証された所で技能を磨いてプロになりませんか? セコい人生とはさよならしましょう」
カインは彼の肩を叩き、夜空に咲いては散って行く花火を指さす。
「もし、誰かが喜んだのが嬉しかったなら、ここで勝負してみねぇ? 服役して、その期間を修行に充て、自分が本物になるって勝負だが。手配犯のままじゃパチモンだし、いずれ身の危険だってあんだろ。ああいう、沢山の誰かに喜ばれるモノ作る本物になりたくねぇか?」
「……わしゃもう40だぞ? これから服役して世間に出てきたとして、やり直せる年じゃねえよ」
アルマは穏やかな笑みを、悲壮な顔のおっさんに向けた。
「何言ってんですか、40なんてまだまだ若いですよ。僕の知り合いにトマーゾ先生っていう人がいるんですけど、軽く100歳越えてなお現役。3つの世界を股にかけ活躍中なのです」
「……そんな特殊例を出されてもな……」
半眼になるブルーチャーにリナリスが近づき、ぬいぐるみを掲げる。
「貴方自動人形作れるんだよね? この位のぬいぐるみの中に機械を内蔵して歩いたりパンチしたり体操したり踊ったり、録音した音声を再生させたりする事できる? 貴方さえよければ、バシリア刑務所と村の人に話通すから、刑務所でぴょこの動くぬいぐるみを作る職人になってもらいたいんだ。売り出せば大ヒット間違いなし♪ 出所後は専属職人になれるかもだし――何よりフェイクじゃない」
黙り込むブルーチャー。
紫苑が咳払いし、話しかける。
「ブルーチャーさん、でしたっけ。あなたの犯罪履歴については聞きましたが……型もなしでガラクタから人形を作るなんて、ずいぶんと器用ですね……俺の工房で働きませんか……? ああ、まあ、条件はとりあえず刑期を終えることになりますが」
それを受けマルカはブルーチャーに、将来への展望を示した。
「新しい商品を作るのはいかがですか……予想ではスペットさんやぴょこさんが今後人々にブームを巻き起こすと思います。本人達の偽りないドラマティックストーリー性込みであの愛らしい容姿をグッズ化すれば誰にも責められずお金持ちに……!」
「……刑期を終えたら、わしは幾つになってることやら」
嘆き節が交じっているが、どうやら自首する気にはなったらしい。詩はそのことを、彼自身のために喜んだ。
「……私とある商会と関係があって、そこは元盗賊や山賊が沢山働いてるの。鉱山関係だけど最近アクセ作りもしてるし、手先の器用さは役に立つと思うんだ。その気があるなら出所後そこに紹介する事は約束するよ。だからお願い。自首して真面目に刑期を務めて欲しいな」
そう言いながら、アマリリスの鉢を渡す。
「商会の花。花言葉は『誇り』。自分の技術に誇りをもって。きっといつか花開くから」
リナリスは鉢を受け取ったブルーチャーの背を叩く。力を込めて。
「ほーら、今から再就職先より取り見取りじゃん! 大丈夫だよ!」
●再度見回り中
クレープ屋台の前に並ぶマリーとナルシス。
マルカは街路樹の陰に隠れて、彼らを見守る。近くに行き話しかけたいのは山々だが、その勇気が出ない。ナルシスへの扶養義務をマリーに深く負わせてしまうきっかけを作ってしまった、という罪悪感があるもので。
詩にはそうした屈託がないので遠慮なく近づく。こんばんは、の挨拶をしてから質問。
「デート?」
「うん、そう」
ナルシスはすらっと答えたが、マリーは全力で赤面した。
「デートだなんて、そんな、やだもうっ♪」
とか言いながらとてもうれしそうだ。明らかに財布は自分持ちなのだけど。
詩は彼女がクレープを受け取るタイミングを見計らって、ナルシスに耳打ちする。自分を生んだ母と育ての母のことを、脳裏に思い浮かべながら。
「マリーさんと一緒にいる間は絶対浮気しないでね」
下の兄にどことなく似た美少年は、目を細めて言った。
「分かってる。そんなことしても僕にメリットないからね。やらないよ」
メリットがあったらやるのかとまぜ返したくなるところだが、とりあえず当面の平穏は確保されているようだ。
戻ってきた詩から会話内容を教えてもらったマルカは、今後マリーが依頼をしてくる際はより一層奮闘しようという決意を新たにした。
「ねーねー、いいじゃん。1人なんでしょ?」
「いえその、連れがいますんで」
「じゃあそいつが来るまで一緒にいてもいいじゃん。せっかく祭りに来たんだからさー」
1人警備を続けていたカチャは、ナンパ2人組に絡まれていた。年の頃は15、6か。柄がよく無いので本当なら蹴飛ばしたいのだが何しろ下着を着けてないという弱みがあるので通常通りの振る舞いが出来ぬ次第。
そこへ折よくリナリスが戻ってきた。
「カチャー」
「あっ、連れが戻って来たんでそれじゃあ」
そそくさ去ろうとするカチャ。しかし相手もしつこい。帯を掴んで引き留める。
「あ、連れって女の子なんだ? ダブルデートしようぜ♪」
帯が緩んではだけたら大変なことになるのであわてて両手で押さえるカチャ。
そこにリナリスが抱き着いた。浅からぬ深さのキスをし、ナンパ組に舌を出す。
「……という訳でこの子はあたしのなんで♪ 他をあたってね~♪」
予想外な出来事に目を丸くするナンパ組は、いきなり背後からヘッドロックされる。
「私が遊んであげるわよ、坊やたち」
それをしたのは誰あろう、カチャの母、ケチャ。
後ろから綿飴を持った男の子が、ひょいと顔を出す。カチャの弟、キクルだ。
「あ、お姉ちゃん」
「おおお、お母さん、キクル、どうしてここに!?」
「あ、お母様お久しぶりですー。キクルくんもお久♪」
うろたえる自分の娘と抜かりなく挨拶してくるリナリスを交互に見比べ母、一言。
「……一応下は履きなさいね?」
それだけ言い残しナンパ少年たちを連行して行く。
何で見えないのにばれたの。呆然と立ち尽くすカチャに、リナリスが頬を擦りよせた。
「ね、あっちの休憩所行こうよ。緩んだ帯直してあげるから♪ キスだけじゃ物足りないや♪」
ブルーチャーが出頭して行った後アルマは、ことの経緯をベムブルに説明した。それから改めて紫苑に、ベムブルとコボちゃんを紹介した。
「紫苑さん、ベムブルさんとコボちゃんです。お仕事の関係で会ったおともだちですー」
「ああ、どうも。アルマがいつも迷惑かけてます――おいアルマ! くっつくな! 暑いだろうが!」
「もふもふは至高です」
ベムブルは紫苑に手を差し出し、にっこり笑った。
「いいえ、アルマさんにはいつも、よくしていただいておりますよ。初めまして、どうぞよろしく」
「あ、はい」
コボちゃんは一声吠えた後さっさと席に戻り、またぞろ地図を見始める。相変わらず逆さまに。
それに気づいたアルマは紫苑から離れ、側に行く。
「……わぅ? コボちゃん、地図逆さまですよー」
「わわわま?」
「正しくはこう見るんですよ。僕らが今いるところはここです」
懇切丁寧に教えてやる所にベムブルが、青い花の鉢を持ってくる。
「そうそう、新作のお花出たんですよ。スカイブルーって言うんです。お一つどうですか?」
「あ、いいですねー。いただいていきますー」
ソラスとカインはほどよく冷えたタピオカジュースを飲みながら、夜空を見上げる。
「で、さっきのおっさん。そのスペットってのがいる刑務所に入るのか?」
「そうなるように、と願いますね」
黒を背景に、花火が咲いては消えていく。涼しい風が吹き始めた。
浴衣姿のソラス(ka6581)はカイン・シュミート(ka6967)とお祭りの警備。手にはフランクフルトと林檎飴。お供につくのは柴犬のロイとパピヨンのルラクス、虎猫のフラウ。
肉が焼ける匂い、砂糖が焦げる香り、氷を砕く音、歓声、囁き声、笑い声。そんなものがごたまぜに通りを流れて行く。
「カインさんの故郷にはどんなお菓子が?」
「ドラグーンつっても俺の故郷、西方だからなー。そうそう珍しいもんねえんだけど……しっかし暑いなー。今何度なんだよこれ」
行く手に人だかりが見えてきた。『リアルブルーの味・タピオカジュース』と銘打った屋台が出ている。
「……おいしいんでしょうか」
自分もちょっと並ぼうかな、と思うソラス。
そこで行き交う人々が立ち止まり空を見上げた。大玉が上がったのだ。あちこちから歓声が上がる。そんな中1人の男だけが、足も止めず顔も上げず歩いて行く。
集団から外れたその姿はソラスの目を引いた。ついで、カインの目も。
仙堂 紫苑(ka5953)は呻いた。
「あぢい……」
祭り会場の警備であるなら、パワードスーツは物々し過ぎる――という考えから商人より貰った「まるごとうさぎ」を被っているのだが、完全に蒸し風呂状態だ。
「……まずい……目の前が真っ暗だ……」
「紫苑さん、それはサングラスをかけているからだと思うですよ」
「あ、そうか」
アルマ・A・エインズワース(ka4901)の突っ込みによって少し我を取り戻し、サングラスを額の上に持ち上げる。視界がクリアになった。でも暑さは変わらない。
「にしてもやっぱり夏に着ぐるみは暑っちーな、きついぞ……」
どこかの物陰で一度まるごとうさぎを脱ぎ、クールダウンしようか。そんなことを思っていると、通りの向こうからソラスがやってきた。
かなり接近してから、世間話をするような表情で話しかけてくる。周囲に響かぬよう、声を極力押さえて。
「……向こうに不審者を見かけました。多分手配書の人じゃないかと思うんですが――今カインさんが尾行してます……」
「はい、着付けしゅーりょー。うん可愛い♪」
リナリス・リーカノア(ka5126)は、浴衣を着終えたカチャのお尻をぽんと叩く。前者はカールさせた髪を、後者は首飾りを編み込んだ髪をアップさせている。いつもよりぐんと、華やいだ雰囲気だ。
「リナリスさん、本当にこれ着るとき、下着を着けないんですか?」
決まり悪げにもじもじするカチャに、いい笑顔で返す。
「うん本当。浴衣の時は下着はつけないんだよ♪ 特に女の子は♪」
「本当に本当ですか?」
「本当に本当に本当。ノー下着こそがこの民族衣装のキモだよ♪」
「だってこれ、うっかりめくれでもしたら大事故ですよ」
「大丈夫大丈夫、あたしも浴衣姿だし履いてないし。何かあっても一蓮托生だよ♪」
「いや、一蓮托生でも事故なのは一緒……」
押し問答している真っ最中、トランシーバーからの声。ソラスだ。
『もしもし。今、手配者らしき人を見つけました。これから警察に連絡しますので――』
「分かった、私たちもすぐ行くよ。花屋さんのところだね?」
いったんトランシーバーを切った天竜寺 詩(ka0396)は、帽子の庇を下げゴーグルをかけた。マルカ・アニチキン(ka2542)はカーニバルアイマスクをかける。両者、ブルーチャーが自分たちの顔を覚えているかもしれないことを考慮したのだ。
この程度の変装でも一定の効果はあるはず。確保前に感づかれ、逃げられては困る。
●指名手配犯発見
「ベムブルさーんっ! 近くまで来たので、寄ってみましたっ」
「あっ、アルマさんお久しぶりー」
花屋の店先で長身のエルフと短駆のドワーフが親愛のハグ。コボちゃんが地図から顔を上げ、うるさそうに言う。
「わるまー?」
「こっ……コボちゃん、僕の名前言えるようになったんですかー! うれしいですーっ!」
暑苦しい勢いに押され、店先を離れようとするブルーチャー。
アルマはその動きを見逃さなかった。服の裾を掴んで逃がさないようにし、怒涛のコミニュケーション攻撃。
「お兄さん、お花すきです? 僕もすきですー。どれがすきですー?」
彼が時間稼ぎしている間に仲間たちが、ゆるゆる周囲を囲んで行く。ブルーチャーに気取られないように。
「……さあな、わしは花の名前などほとんど知らんし……ただあれは気にいっている方だな」
と言ってブルーチャーが指さしたのは、胡蝶蘭の鉢だった。
「わしが昔社長だったときには、色んなところからあの花が贈答品として贈られてきたもんだ……」
至近距離まで来たソラスが、さりげなく会話に参加する。
「あなたは社長さんだったんですか?」
「ああ。工場を持っていたんだ工場を。今のこのなりじゃ信じられないだろうけどな」
現在が不遇だと過去の自慢をしたくなるものなのだろうか。猫を肩にし耳傾けるカインは、そんなことを思う。
「いえいえそんなことは……ところでその髪型決まってますね。どうやってセットしてるんですか?」
ソラスがドレッドヘアに手をかけた。髪がずるうっと滑り落ちる。下から現れたのは手配書にある通りの禿げ頭。
「うおっ!?」
かつらを拾い上げ、大急ぎで元に戻すブルーチャー。ソラスは恐縮を全身で表し、詫びる。
「ごめんなさい。お詫びに花でも」
「い、いや、いい。気にするな。じゃあな」
そそくさと踵を返すブルーチャー。その顔にロップイヤーのぬいぐるみが、ぼすんと当たった。リナリスである。
「ちょっと待っておじさん♪」
同時に詩がブルーチャーの肩に手を置いた。庇とゴーグルを上げ、顔を見せる。
「ブルーチャーさん、だよね? パチモノ工場の社長さんだった」
彼女が誰であるか分かったのだろう。ついで、自分が囲まれていることも。ブルーチャーは俄然しらを切り始める。
「いや、人違いだ。知らんそんな奴は知らん知らん」
カインは折り畳んだ手配書を広げ、彼の前に差し出した。
「どう見てもあんただよな?――俺、面識ねぇから質問。何で、モノ作るんだ?」
「……」
「単純に効率のいい金稼ぎか?」
畳み掛けてくる相手にブルーチャーは、怒ったような早口で返した。
「スクラップから人形作るのは、効率のいい金稼ぎにゃならねえよ。手間ばかり食って、手に入るのは端金だ――ただ、何か作っていないといられねえんだ。それだけのことだ」
その回答に紫苑は、職人魂の共鳴とでも言うべきシンパシーを覚えた。
マルカがマスクを外し、ブルーチャーに向き直った。口から出たのは、率直な褒め言葉。
「リサイクルで自前の玩具を作って売るなんて凄い才能じゃないですか……!……問題はご自身の立場と取り扱う商品の著作権だけです」
詩がブルーチャーの肩を掴み、目を正面から見据えながら話した。かつて彼が組んでいたスペットの近況について。ついでスペットにかかわる諸問題について――エバーグリーンのこと、マゴイのこと――をあらいざらい。そして、こう締めくくった。
「マゴイの居場所探知や結界を破るのに機械的な知識が必要になるかもしれない。協力してくれたら刑期も短くなると思うんだ」
ブルーチャーが額にしわを寄せ、呟いた。
「ちょっと見ない間に大層なことになってたんだな、猫の旦那は」
ソラスは先のない生活から脱するよう、改めて彼に説く。
「玩具作りが好きなら廉価品より、衣食住の保証された所で技能を磨いてプロになりませんか? セコい人生とはさよならしましょう」
カインは彼の肩を叩き、夜空に咲いては散って行く花火を指さす。
「もし、誰かが喜んだのが嬉しかったなら、ここで勝負してみねぇ? 服役して、その期間を修行に充て、自分が本物になるって勝負だが。手配犯のままじゃパチモンだし、いずれ身の危険だってあんだろ。ああいう、沢山の誰かに喜ばれるモノ作る本物になりたくねぇか?」
「……わしゃもう40だぞ? これから服役して世間に出てきたとして、やり直せる年じゃねえよ」
アルマは穏やかな笑みを、悲壮な顔のおっさんに向けた。
「何言ってんですか、40なんてまだまだ若いですよ。僕の知り合いにトマーゾ先生っていう人がいるんですけど、軽く100歳越えてなお現役。3つの世界を股にかけ活躍中なのです」
「……そんな特殊例を出されてもな……」
半眼になるブルーチャーにリナリスが近づき、ぬいぐるみを掲げる。
「貴方自動人形作れるんだよね? この位のぬいぐるみの中に機械を内蔵して歩いたりパンチしたり体操したり踊ったり、録音した音声を再生させたりする事できる? 貴方さえよければ、バシリア刑務所と村の人に話通すから、刑務所でぴょこの動くぬいぐるみを作る職人になってもらいたいんだ。売り出せば大ヒット間違いなし♪ 出所後は専属職人になれるかもだし――何よりフェイクじゃない」
黙り込むブルーチャー。
紫苑が咳払いし、話しかける。
「ブルーチャーさん、でしたっけ。あなたの犯罪履歴については聞きましたが……型もなしでガラクタから人形を作るなんて、ずいぶんと器用ですね……俺の工房で働きませんか……? ああ、まあ、条件はとりあえず刑期を終えることになりますが」
それを受けマルカはブルーチャーに、将来への展望を示した。
「新しい商品を作るのはいかがですか……予想ではスペットさんやぴょこさんが今後人々にブームを巻き起こすと思います。本人達の偽りないドラマティックストーリー性込みであの愛らしい容姿をグッズ化すれば誰にも責められずお金持ちに……!」
「……刑期を終えたら、わしは幾つになってることやら」
嘆き節が交じっているが、どうやら自首する気にはなったらしい。詩はそのことを、彼自身のために喜んだ。
「……私とある商会と関係があって、そこは元盗賊や山賊が沢山働いてるの。鉱山関係だけど最近アクセ作りもしてるし、手先の器用さは役に立つと思うんだ。その気があるなら出所後そこに紹介する事は約束するよ。だからお願い。自首して真面目に刑期を務めて欲しいな」
そう言いながら、アマリリスの鉢を渡す。
「商会の花。花言葉は『誇り』。自分の技術に誇りをもって。きっといつか花開くから」
リナリスは鉢を受け取ったブルーチャーの背を叩く。力を込めて。
「ほーら、今から再就職先より取り見取りじゃん! 大丈夫だよ!」
●再度見回り中
クレープ屋台の前に並ぶマリーとナルシス。
マルカは街路樹の陰に隠れて、彼らを見守る。近くに行き話しかけたいのは山々だが、その勇気が出ない。ナルシスへの扶養義務をマリーに深く負わせてしまうきっかけを作ってしまった、という罪悪感があるもので。
詩にはそうした屈託がないので遠慮なく近づく。こんばんは、の挨拶をしてから質問。
「デート?」
「うん、そう」
ナルシスはすらっと答えたが、マリーは全力で赤面した。
「デートだなんて、そんな、やだもうっ♪」
とか言いながらとてもうれしそうだ。明らかに財布は自分持ちなのだけど。
詩は彼女がクレープを受け取るタイミングを見計らって、ナルシスに耳打ちする。自分を生んだ母と育ての母のことを、脳裏に思い浮かべながら。
「マリーさんと一緒にいる間は絶対浮気しないでね」
下の兄にどことなく似た美少年は、目を細めて言った。
「分かってる。そんなことしても僕にメリットないからね。やらないよ」
メリットがあったらやるのかとまぜ返したくなるところだが、とりあえず当面の平穏は確保されているようだ。
戻ってきた詩から会話内容を教えてもらったマルカは、今後マリーが依頼をしてくる際はより一層奮闘しようという決意を新たにした。
「ねーねー、いいじゃん。1人なんでしょ?」
「いえその、連れがいますんで」
「じゃあそいつが来るまで一緒にいてもいいじゃん。せっかく祭りに来たんだからさー」
1人警備を続けていたカチャは、ナンパ2人組に絡まれていた。年の頃は15、6か。柄がよく無いので本当なら蹴飛ばしたいのだが何しろ下着を着けてないという弱みがあるので通常通りの振る舞いが出来ぬ次第。
そこへ折よくリナリスが戻ってきた。
「カチャー」
「あっ、連れが戻って来たんでそれじゃあ」
そそくさ去ろうとするカチャ。しかし相手もしつこい。帯を掴んで引き留める。
「あ、連れって女の子なんだ? ダブルデートしようぜ♪」
帯が緩んではだけたら大変なことになるのであわてて両手で押さえるカチャ。
そこにリナリスが抱き着いた。浅からぬ深さのキスをし、ナンパ組に舌を出す。
「……という訳でこの子はあたしのなんで♪ 他をあたってね~♪」
予想外な出来事に目を丸くするナンパ組は、いきなり背後からヘッドロックされる。
「私が遊んであげるわよ、坊やたち」
それをしたのは誰あろう、カチャの母、ケチャ。
後ろから綿飴を持った男の子が、ひょいと顔を出す。カチャの弟、キクルだ。
「あ、お姉ちゃん」
「おおお、お母さん、キクル、どうしてここに!?」
「あ、お母様お久しぶりですー。キクルくんもお久♪」
うろたえる自分の娘と抜かりなく挨拶してくるリナリスを交互に見比べ母、一言。
「……一応下は履きなさいね?」
それだけ言い残しナンパ少年たちを連行して行く。
何で見えないのにばれたの。呆然と立ち尽くすカチャに、リナリスが頬を擦りよせた。
「ね、あっちの休憩所行こうよ。緩んだ帯直してあげるから♪ キスだけじゃ物足りないや♪」
ブルーチャーが出頭して行った後アルマは、ことの経緯をベムブルに説明した。それから改めて紫苑に、ベムブルとコボちゃんを紹介した。
「紫苑さん、ベムブルさんとコボちゃんです。お仕事の関係で会ったおともだちですー」
「ああ、どうも。アルマがいつも迷惑かけてます――おいアルマ! くっつくな! 暑いだろうが!」
「もふもふは至高です」
ベムブルは紫苑に手を差し出し、にっこり笑った。
「いいえ、アルマさんにはいつも、よくしていただいておりますよ。初めまして、どうぞよろしく」
「あ、はい」
コボちゃんは一声吠えた後さっさと席に戻り、またぞろ地図を見始める。相変わらず逆さまに。
それに気づいたアルマは紫苑から離れ、側に行く。
「……わぅ? コボちゃん、地図逆さまですよー」
「わわわま?」
「正しくはこう見るんですよ。僕らが今いるところはここです」
懇切丁寧に教えてやる所にベムブルが、青い花の鉢を持ってくる。
「そうそう、新作のお花出たんですよ。スカイブルーって言うんです。お一つどうですか?」
「あ、いいですねー。いただいていきますー」
ソラスとカインはほどよく冷えたタピオカジュースを飲みながら、夜空を見上げる。
「で、さっきのおっさん。そのスペットってのがいる刑務所に入るのか?」
「そうなるように、と願いますね」
黒を背景に、花火が咲いては消えていく。涼しい風が吹き始めた。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/07/23 08:10:18 |
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相談卓だよ 天竜寺 詩(ka0396) 人間(リアルブルー)|18才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2017/07/23 10:37:06 |