ゲスト
(ka0000)
剣に斃れ
マスター:湖欄黒江

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/11/04 22:00
- 完成日
- 2014/11/09 21:53
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
商隊護衛の任に加わった元ハンターの剣豪は、奮戦虚しくゴブリンの一団に敗れ去った。
かつての冒険の日々で培われた経験と技術も、老いによる肉体の衰えを補うには僅かに足りず、
数に頼んだゴブリンたちの単純明快な暴力が彼を打ち倒す。
他の護衛の兵士たちはとうに殺され、森の中を通り抜ける細い馬車道は、さながら屠場の様相を呈していた。
満身創痍で地べたを這いずる剣豪の前には、
彼が落としたばかりの愛刀を拾い上げるゴブリンの血みどろの姿。
それは、間違いなくゴブリンどもの勇士であった。
剥き出しの上半身を覆う無数の矢傷と刀傷は、そのゴブリンが幾度となく死地を潜り抜けてきたことを示す。
一見か細く、弱々しくすら見えた手足も、間近にあっては、薄く、硬く、
戦いの中で練り上げられた、一切の無駄のない優秀な筋骨を持つと分かった。
大きな丸い眼は、一点の曇りもない殺意に満ち溢れている。
剣豪は、自身が今日までそうであったように、彼もまた生粋の戦士であると悟った。
あらゆる糧を己が腕力によって勝ち取りながら、金銀にも飽食にも色にも名声にも背を向けて、
求むるはただひとつ、敵の血を啜って永らえる生そのものである、と。
戦いこそが我々の全人生である、と。
それ故、私は安らかな隠居など考えもせず老骨に鞭打って戦いの場へ身を投げ出し、
それ故、彼は武装した護衛に怯みもせず、手下どもを引き連れながらも、真っ先に商隊へ切り込んだ。
そして今夜は彼が勝ち残り、敗れた私は死ぬ。単純明快な法則。
我が目には最早映らずとも、闘争は未来永劫、普く地にあり、
同じ戦士の魂を持つ勝者たちによって引き継がれていくのだろう。
その手にかかって殺されるであろうゴブリンの戦士を前に、剣豪は一種奇妙な愛情と安らぎを覚えた。
彼なら良い、彼なら相応しい。汚らわしき亜人の身であろうと、彼であれば不足はない。
彼は戦い続ける。屠り続ける。彼は私と寸分違わぬ、戦士の魂を持っている。
なれば私もまた、彼の中に生き続けるのだ。即ち私も戦い続け、屠り続ける。これ程の幸福があろうか。
我が分身よ、生き永らえるが良い。
願わくば我が愛刀に、新たな栄光と血を分け与え給え。
その声なき祈りを悟ったかのように、ゴブリンの戦士は彼の剣で彼を刺し殺した。
護衛も商人も死に絶え、商隊の馬車を囲んで動く者は、戦いを生き延びた20匹以上のゴブリンどものみ。
頭目であるゴブリンの戦士は、人血にまみれた顔を拭いもせぬまま、手にした剣を掲げて月に吠える。
新たな武器に、古い魂。『彼』は勝利の雄叫びを上げながらも、脳裏には既に次の戦いを思い浮かべていた。
●
「強力な頭目に率いられたゴブリンの群れが街道に出没している、との報告がありました。
総数は約20匹。人間から奪った武器を使用し、街道各所で通行者を襲撃しています。
彼らの特徴は、知恵者のリーダーに率いられ高い士気を持つこと。
なまじの反撃では怯まず、傷を負ってもあくまで戦い続けようとします。
これまでの犠牲者の中には、商隊の護衛として雇われた傭兵も数多いと聞いています。
作戦もしっかりと立てられているらしく、襲撃が行われるのは必ず夜間。
生存者の証言では、馬車の前方に突然大木が倒れ込んできて道を塞がれ、
何ごとかと飛び出したところ、周囲の木々の中から一斉に矢を射かけられたそうです。
矢を受けて護衛の何人かが倒れた後からは、長剣を掲げたゴブリンを先頭に、
剣や槍、棍棒を手にした群れが馬車を取り囲むようにして襲いかかってきました。
この、長剣のゴブリンこそが彼らのリーダーであると目されています。
他の証言でも、接近戦の際は彼が必ず先頭に立って戦う、
彼の合図を受けて他のゴブリンが逃亡者の追跡に向かう等、それらしい動きが報告されています。
臆病で疑り深い気質であることの多いゴブリンが、かくも意欲的、攻撃的な襲撃を行うのも、
このリーダーあってのことと思われます。彼を倒せば群れは瓦解するでしょうが、
生き残りのゴブリンを数多く出てしまえば、依然として大きな脅威となり得ます。
今回は、確実に群れのリーダーを殺害し、かつ群れの総数を減らす為の作戦プランを、
当ハンターオフィスより提案させて頂きます。
依頼を受けられるハンターの方はそちらをご参考の上、所定の書類にサインした後、
当オフィス貸与の馬車にて現地へ向かって下さい」
商隊護衛の任に加わった元ハンターの剣豪は、奮戦虚しくゴブリンの一団に敗れ去った。
かつての冒険の日々で培われた経験と技術も、老いによる肉体の衰えを補うには僅かに足りず、
数に頼んだゴブリンたちの単純明快な暴力が彼を打ち倒す。
他の護衛の兵士たちはとうに殺され、森の中を通り抜ける細い馬車道は、さながら屠場の様相を呈していた。
満身創痍で地べたを這いずる剣豪の前には、
彼が落としたばかりの愛刀を拾い上げるゴブリンの血みどろの姿。
それは、間違いなくゴブリンどもの勇士であった。
剥き出しの上半身を覆う無数の矢傷と刀傷は、そのゴブリンが幾度となく死地を潜り抜けてきたことを示す。
一見か細く、弱々しくすら見えた手足も、間近にあっては、薄く、硬く、
戦いの中で練り上げられた、一切の無駄のない優秀な筋骨を持つと分かった。
大きな丸い眼は、一点の曇りもない殺意に満ち溢れている。
剣豪は、自身が今日までそうであったように、彼もまた生粋の戦士であると悟った。
あらゆる糧を己が腕力によって勝ち取りながら、金銀にも飽食にも色にも名声にも背を向けて、
求むるはただひとつ、敵の血を啜って永らえる生そのものである、と。
戦いこそが我々の全人生である、と。
それ故、私は安らかな隠居など考えもせず老骨に鞭打って戦いの場へ身を投げ出し、
それ故、彼は武装した護衛に怯みもせず、手下どもを引き連れながらも、真っ先に商隊へ切り込んだ。
そして今夜は彼が勝ち残り、敗れた私は死ぬ。単純明快な法則。
我が目には最早映らずとも、闘争は未来永劫、普く地にあり、
同じ戦士の魂を持つ勝者たちによって引き継がれていくのだろう。
その手にかかって殺されるであろうゴブリンの戦士を前に、剣豪は一種奇妙な愛情と安らぎを覚えた。
彼なら良い、彼なら相応しい。汚らわしき亜人の身であろうと、彼であれば不足はない。
彼は戦い続ける。屠り続ける。彼は私と寸分違わぬ、戦士の魂を持っている。
なれば私もまた、彼の中に生き続けるのだ。即ち私も戦い続け、屠り続ける。これ程の幸福があろうか。
我が分身よ、生き永らえるが良い。
願わくば我が愛刀に、新たな栄光と血を分け与え給え。
その声なき祈りを悟ったかのように、ゴブリンの戦士は彼の剣で彼を刺し殺した。
護衛も商人も死に絶え、商隊の馬車を囲んで動く者は、戦いを生き延びた20匹以上のゴブリンどものみ。
頭目であるゴブリンの戦士は、人血にまみれた顔を拭いもせぬまま、手にした剣を掲げて月に吠える。
新たな武器に、古い魂。『彼』は勝利の雄叫びを上げながらも、脳裏には既に次の戦いを思い浮かべていた。
●
「強力な頭目に率いられたゴブリンの群れが街道に出没している、との報告がありました。
総数は約20匹。人間から奪った武器を使用し、街道各所で通行者を襲撃しています。
彼らの特徴は、知恵者のリーダーに率いられ高い士気を持つこと。
なまじの反撃では怯まず、傷を負ってもあくまで戦い続けようとします。
これまでの犠牲者の中には、商隊の護衛として雇われた傭兵も数多いと聞いています。
作戦もしっかりと立てられているらしく、襲撃が行われるのは必ず夜間。
生存者の証言では、馬車の前方に突然大木が倒れ込んできて道を塞がれ、
何ごとかと飛び出したところ、周囲の木々の中から一斉に矢を射かけられたそうです。
矢を受けて護衛の何人かが倒れた後からは、長剣を掲げたゴブリンを先頭に、
剣や槍、棍棒を手にした群れが馬車を取り囲むようにして襲いかかってきました。
この、長剣のゴブリンこそが彼らのリーダーであると目されています。
他の証言でも、接近戦の際は彼が必ず先頭に立って戦う、
彼の合図を受けて他のゴブリンが逃亡者の追跡に向かう等、それらしい動きが報告されています。
臆病で疑り深い気質であることの多いゴブリンが、かくも意欲的、攻撃的な襲撃を行うのも、
このリーダーあってのことと思われます。彼を倒せば群れは瓦解するでしょうが、
生き残りのゴブリンを数多く出てしまえば、依然として大きな脅威となり得ます。
今回は、確実に群れのリーダーを殺害し、かつ群れの総数を減らす為の作戦プランを、
当ハンターオフィスより提案させて頂きます。
依頼を受けられるハンターの方はそちらをご参考の上、所定の書類にサインした後、
当オフィス貸与の馬車にて現地へ向かって下さい」
リプレイ本文
●
夜半、1台の馬車が森を貫いて延びた街道を駆け抜ける。
進路へ差し向けられたランタンが、道を塞ぐ1本の倒木を照らし出すと、
「……ふーむ」
馬車が障害物の手前10数メートルで停まり、
御者台から小柄な人影――コーシカ(ka0903)が飛び降りる。
彼女は輓馬2頭の間に身を隠しつつ、
危ないときは自分で逃げられるように、馬と車を繋ぐ力綱を外してやった。
(さて、敵はどう出てくるかしらね)
物音に耳をそばだてながら、コーシカはゆっくりと障害物へ歩を進め――
森の中から、矢の雨が降りかかった。
矢は馬車の外板に次々突き刺さるが、内側からの補強によって貫通は免れた。
一方、馬は2頭とも矢を受けて、たちまち死んでしまう。
倒れる馬体をすかさずかわし、コーシカはナイフを利き手に握り込む。
射撃が止むと、鬨の声と共に、武装したゴブリンの群れが四方から姿を現した。
先頭を切るゴブリンの手には、鳥の羽根を模した大きな鍔を持つ、両刃の長剣が握られていた。
●
コーシカに次いで、ハンターオフィス支給の改造馬車から3人の剣士が飛び出す。
「ざくろ、あれがリーダー!」
コーシカの叫びに応えて時音 ざくろ(ka1250)が、正面から襲い来るゴブリン5匹と対峙した。
ざくろは機導術で得物のアルケミックギアブレイドを発光させ、長剣のゴブリンの鼻先で振ってみせる。
「さぁ来い、お前の相手は、ざくろだ!」
長剣のゴブリンを矢面に立たせたまま、4匹がざくろを取り囲もうと左右に広がる。
が、彼の後ろからリリティア・オルベール(ka3054)が牽制のナイフを投げ、敵を易々と近づけさせない。
「リーダーの相手、ひとまずお願いします。後ろは守りますから……」
ざくろが頷く。長剣のゴブリンの攻撃を、まずは受け止めて、
「雷をまとい轟け……ギアブレイド!」
武器に雷光をまとわせ、反撃を繰り出す。
狙いは、群れのリーダーである長剣のゴブリンを生かさず殺さず、その間に手下を残らず狩り尽すこと。
ざくろたちにリーダーの相手を任せ、コーシカは後退した。
馬車の後方からも、更に5匹のゴブリンが接近している。
殺された馬を気にかけていたコーシカだったが、やおら敵へと向き直り、ナイフを放った。
投擲をかわして散開し、コーシカを取り囲もうとするゴブリンたち。
荷台から飛び降りてきたリィフィ(ka2702)が日本刀を振るい、彼らの陣形に割って入る。
コーシカも格闘用の短剣に持ち替えつつ切り込んで、
突き出された剣や槍を打ち払い、リィフィと背中合わせの位置へつく。
「背中は任せた! ちゃっちゃと削ってこう!」
リィフィが言う。コーシカは腕を十字に組んで構え、居並ぶゴブリンたちを睨みつける。
「……絶対に潰す。一匹たりとも逃さないわ」
残りのゴブリンたちも弓やボウガンを捨て、森の中から馬車へと殺到した。
木々の間を滑るように移動する10体の黒い影。
そのうちひとつを、馬車の銃眼から放たれた光が照らし出す。
「喜べよ、スポットライトさッ! 今夜の主役はてめえらだッ!」
毒々沼 冥々(ka0696)はアサルトライフルの銃身に括りつけたライトで敵を照準し、引き金を引いた。
銃眼から差し出された銃口が火を噴いて、目が眩んで足の止まったゴブリン1匹を撃ち殺す。
「うひひひひッ、先制1点ッ」
冥々とフラヴィ・ボー(ka0698)は車内に立て籠ったまま射撃を開始した。
フラヴィも機導砲で、道の右側の茂みから真っ先に飛び出してきた1匹を撃つ。
相手はその場でひっくり返るが、他のゴブリンは怯みもせず、次々と道へ降りてくる。
「そっち、何匹来てるか分かるかい?」
「うひッ、5匹くらい」
冥々の射撃が木立の中を跳ね返り、予期せぬ方向からゴブリンたちを襲う。
フラヴィも機導砲を立て続けに発射し、突撃を抑え込んだ。
それでも敵は、少しずつ馬車の周囲に固まり始める。
「イケメン揃いじゃねーかにゃん!? 冥々たんってばゲロ嬉しーッ!! うひひひひひッ!」
「……」
荷台から馬車へ乗り込もうとする敵を、フラヴィは咄嗟に機導砲で追い払う。
群がるゴブリンを前に、不安が過った。
敵を充分に減らしきるまで、前衛4人は耐えられるだろうか?
●
長剣のゴブリンは手強かった。
フェイントに交えた重たい一撃を、ざくろが盾で受け止める。
片手突きで反撃するも、剣を両手持ちで振るうゴブリンの臂力に押され、思うような攻めができない。
(力で勝負しちゃ駄目だ!)
横一文字の切り払いで相手に間合いを取らせた。
ゴブリンは大人しく下がったかと思うと、すぐさま助走をつけ、半ば飛びかかるように上段で剣を振り下ろす。
それを右にかわし、ギアブレイドにまとわせた電撃で腕を――
相手は踏み込みと同時に反転し、長剣を逆袈裟に切り上げた。かなりの運動能力と反射神経だ。
盾で剣の軌道を逸らし、更に盾の裏側からすくい上げるようにして、こちらの剣を繰り出す。
腕の力だけで振ったので、剣自体の威力はないも同然だ。しかし、
(刀身が触れさえすれば!)
刀身がゴブリンの左肘を打ったかと思うと、エレクトリックショックの電光が迸る。
これで、相手の全身は麻痺する筈――
だったのだが、長剣のゴブリンは1度激しく身震いしただけで、すぐに持ち直した。
(耐えただって!?)
驚くざくろのこめかみを、横ざまに振られた槍が殴打する。
一瞬の攻防の間に、手下のゴブリンが彼の背後を取っていた。
リリティアとの連携にも限界があった。
ざくろが長剣のゴブリンと手下1匹を相手する傍ら、彼女は他3匹を同時に食い止めなければならない。
(数を減らさないと、時音さんを助けることもできない!)
2匹、左右同時の槍の攻撃。前に踏み出す。リリティアのすぐ後ろで、穂先がぶつかり合う。
正面で待ち受けるのは山刀を持ったゴブリン。間合いが近過ぎて刀が振れない。
「はッ」
リリティアの膝蹴りが、身長の低いゴブリンの顎を打ち抜いた。
そのままとどめを刺したいが、後ろにしてきた槍持ちの2匹が追撃にかかっている。もっと前へ逃げる。
振り返って、2匹の突きを刀で打ち落とす。
(こうやって戦っているうちに、時音さんから離れてしまう……!)
「全然数が減らないよぅ!」
リィフィが舞うような動きでコーシカの脇へ滑り出て、前に出過ぎたゴブリンを斬り伏せた。
だが、すぐに別の1匹が外から加わって、
5匹による陣形を保ったまま、敵はコーシカとリィフィのコンビを取り囲む。
「何かがおかしいわね」
コーシカが呟く。彼女の武器を持たない左腕は、何度も攻撃を受け止めたせいで傷だらけだった。
(こちらの作戦は、果たして思い通りに進んでるのかしら?
向かってくる相手の中からリーダーだけを2人で抑え、残り4人で2組を作って雑魚を倒す……)
ゴブリンたちが、一斉に包囲網を狭めて襲ってきた。
コーシカは正面の敵に頭から突っ込んで、突き飛ばす。突破口を作り、リィフィと一緒に囲みを抜け出す。
しかし敵も素早く立て直して、またもふたりを円の中へ追い込んでしまう。
「! コーシカまずいよ、馬車に敵が!」
リィフィが言うが、コーシカには振り返っている暇もない。
向かってきたゴブリンを短剣で斬りつけて押し返しながら、彼女は考えた。
(……ああもう、どうして攻撃役の私たちが、守勢に追い込まれてるんだろう!
私たち、馬車の周りに釘づけにされたまま、ふたりずつに分断されてしまってるじゃない!)
「うひひひひひッ! こいつらゲロ強ぇ! 次から次へとおかわりが来やがるッ!」
荷台や御者台から車内へ侵入するゴブリンを、冥々がライフルの台尻でぶん殴った。
フラヴィも、至近距離からの機導砲で敵の頭を粉々にする。
返り血を拭いながら、彼女は、いつの間にか片腕に深い切り傷を負っていたことに気づく。
「まずいな」
馬車へ取りついた相手を追い払うので、精一杯だった。
これでは他のコンビを助け、順序良く手下の数を減らしていくどころではない。
(四方から来る敵を、そのままで待ち受けてしまった。火力が分散したせいで1匹1匹を仕留めきれない。
結果、敵戦力は大して減らないまま、こちらは対包囲戦を強いられ続けている……!)
御者台を乗り越えようとするゴブリンを、フラヴィが前蹴りで突き落とした。
機導砲で追い打ちしようとするも、別のゴブリンが横から割り込む。
目前で剣を振り回され、急所を狙う余裕もない。兎に角撃って、押し戻した。
「うひひッ、うひひッ、うひひひひッ」
見れば冥々も、額に傷を受けて流血している。
彼女は至って楽しそうだが、形勢はこちらが非常に不利だ。
フラヴィは、馬車の外でリーダーと戦うざくろを見やった。
(リーダーを殺すしかない……が、その余力はもはやあるのか?)
●
マテリアルの防護壁がリリティアの前面に出現し、避けられなかった山刀の一撃を跳ね返した。
(時音さん!?)
ざくろは自分の側にも防御障壁を展開していた。
長剣のゴブリンとその手下の連撃を前に、盾による防御が間に合わないと判断してのことだったが、
「あぅっ……!」
防御壁が攻撃を受け止めて崩れるや否や、更なる長剣の攻撃がざくろの腿を斬りつけた。
「退けッ!」
リリティアが山刀のゴブリンを突き殺し、ざくろの援護に戻る。
ざくろも機導剣を放出し、槍ごと手下のゴブリンを叩き斬った。リリティアが彼を庇うように立ち、
「馬車に戻って下さい! 私が食い止めますから!」
「……ゴメン!」
リリティアは長剣のゴブリンの突進を押し止め、鍔迫り合いの恰好になる。
「全く、こいつらの動きは勉強になるわね、このッ……!」
コーシカが短剣を両手で握り、ゴブリンの1匹と刺し違える。
ゴブリンは腹に短剣を突き立てられ、たちまち絶命するが、
コーシカも左腕を剣で貫かれ、後退りするなり足がふらついた。リィフィが背中で彼女を支える。
「コーシカ!」
「みんな!」
冥々が発砲する合間を縫って、馬車の中からフラヴィが怒鳴った。
「中に戻れ! 下がるんだ!」
「コーシカ、先に行って!」
リィフィはたったひとりでゴブリンと剣を交え、コーシカが馬車へ近づくチャンスを作る。
荷台と御者台の周りは、射撃班ふたりが弾幕でどうにか群れを下がらせて、一瞬だけ空白地帯になっていた。
コーシカとざくろが馬車に戻り、リィフィとリリティアが殿を務める。
(まだ……もう少しだけ、無茶ができる!)
リィフィも手足に傷を負っていたが、マテリアルの体内循環による自己治癒で出血を抑えて戦い続ける。
冥々が荷台からコーシカを引っ張り上げると、自分も馬車に駆け寄った。
「だぁっ! このっ! 邪魔だ邪魔だっ!」
コーシカを追って馬車へ押し寄せたゴブリン数匹。
リィフィは跳躍し、彼らの頭や肩を飛び石のように踏みつけて、荷台の縁へ飛び移る。
そこでくるり、と後ろを向いて、足元へ殺到するゴブリンを刀で乱打した。
●
6人が馬車に立て籠もったことで、敵は荷台と御者台の2方向からしかハンターたちに接近できない。
屋根に登って穴を開けようとする者や、車体側面の、閉めきられた小さな窓へ登ってくる者もいたが、
「あああ溜まんねぇぜゲロヤバいぜくたばれやコラァッ!」
冥々が車内でライフルを乱射し、壁や天井越しに敵を撃ち落とした。
「リリティア、そいつを殺せ! もうこれ以上は無理だ!」
銃声に負けじとフラヴィが叫んだ。
御者台ではリリティアと長剣のゴブリンが、互いに鼻をぶつけんばかりの距離で戦っている。
どちらも得物の長い刀身を使うスペースはなく、柄とそれを握る拳で殴り合うような状態だった。
(押し返せれば!)
リリティアのすぐ後ろでは、ざくろとコーシカがうずくまっている。
荷台からの侵入はリィフィが抑えているが、彼女も負傷している。
リリティアも背水の陣と覚悟して必死に戦いながら、あちこちに傷を負っていた。
長剣のゴブリンが、剣を握ったまま拳で彼女の顔を殴る。
眼鏡が飛び、リリティアは狭い車内へ仰向けに倒れてしまう。
フラヴィが弓を構える――機導砲の残弾は使い果たしてしまった。
彼女の和弓はかなり大きく、6人が乗り込んだ車内でまともに狙いをつけられたものではない。
しかし、他に武器がない。
冥々が空になったライフルの弾倉を落とす――リロードが間に合わない。
こいつも銃で殴るか? それで倒せるか? 斬り殺されるだけになりそうだ。
あるいはそれでも、羊のように大人しく殺されるよりは馬鹿をやって死んだほうが良い。
ゴブリンが突きの構えをする。足元に転がった負傷者たちを、刺し殺す気だ。
フラヴィが弓の弦を引いた。冥々が、ライフルを棍棒のように持ち直した。
ゴブリンが車内へ1歩踏み込んだ。
ざくろが床に座ったまま、機導剣を発動し発光するギアブレイドを両手に握り絞め、ゴブリンの腹に突き刺した。
ギアブレイドが引き抜かれる。ゴブリンの血とはらわたが、ざくろの足元にこぼれ落ちた。
ゴブリンは剣を手元から落とすと、獣のように吠え、膝をつき、そして死んだ。
●
残された手下たちがリーダーの断末魔に動揺し、馬車から後退りを始める。
「……逃がすもんか!」
荷台からリィフィが飛び降りるも、自己治癒で回復しきれなかった疲労と傷が、彼女にその場で膝をつかせた。
冥々とフラヴィも武器を手に飛び出すが、
散り散りに森へと逃げ去っていくゴブリンには、1発を命中させるのが限界だった。
馬車の周囲には、10匹ほどのゴブリンの死体。群れの半数に逃げられてしまったようだ。
「ザマないわね……全く」
左腕を押さえたコーシカが、点々と散らばる屍を荷台から見渡す。出血がひどく、彼女の顔は青ざめている。
「冥々たんがひとりで追っかけて、ぶっ殺してきても良いんだぜ?」
「これ以上は無理だ、怪我人が多すぎる。応急手当とオフィスへの帰還が第一だよ」
フラヴィの言葉に、冥々はただ肩をすくめるだけだった。
ゴブリンが遺した長剣を、ざくろが掲げてみせた。
リリティアは剣に刻まれた無数の傷を調べ、
ゴブリンの手に渡る以前から相当に使い込まれていた業物と見立てる。
「どんな方が使っていたのでしょうか……」
ざくろは、ランタンの灯りに照らされて鈍く光る刀身をじっと見つめた。
ざくろ自身の血に濡れた刃は、どこか魅入られるような、独特の輝きを放っている。
しかし、やがて思い直したように剣を置いて、
「街に戻ったら、これは教会に収めて供養してもらおうよ」
「ええ……剣自体は、まだまだ使えるものだと思いますが」
誰か、これをもう1度手に取ることがあったなら、今度は人を守れるような強さの持ち主であれば良い。
リリティアは剣を前に、祈るように手を合わせた。
夜半、1台の馬車が森を貫いて延びた街道を駆け抜ける。
進路へ差し向けられたランタンが、道を塞ぐ1本の倒木を照らし出すと、
「……ふーむ」
馬車が障害物の手前10数メートルで停まり、
御者台から小柄な人影――コーシカ(ka0903)が飛び降りる。
彼女は輓馬2頭の間に身を隠しつつ、
危ないときは自分で逃げられるように、馬と車を繋ぐ力綱を外してやった。
(さて、敵はどう出てくるかしらね)
物音に耳をそばだてながら、コーシカはゆっくりと障害物へ歩を進め――
森の中から、矢の雨が降りかかった。
矢は馬車の外板に次々突き刺さるが、内側からの補強によって貫通は免れた。
一方、馬は2頭とも矢を受けて、たちまち死んでしまう。
倒れる馬体をすかさずかわし、コーシカはナイフを利き手に握り込む。
射撃が止むと、鬨の声と共に、武装したゴブリンの群れが四方から姿を現した。
先頭を切るゴブリンの手には、鳥の羽根を模した大きな鍔を持つ、両刃の長剣が握られていた。
●
コーシカに次いで、ハンターオフィス支給の改造馬車から3人の剣士が飛び出す。
「ざくろ、あれがリーダー!」
コーシカの叫びに応えて時音 ざくろ(ka1250)が、正面から襲い来るゴブリン5匹と対峙した。
ざくろは機導術で得物のアルケミックギアブレイドを発光させ、長剣のゴブリンの鼻先で振ってみせる。
「さぁ来い、お前の相手は、ざくろだ!」
長剣のゴブリンを矢面に立たせたまま、4匹がざくろを取り囲もうと左右に広がる。
が、彼の後ろからリリティア・オルベール(ka3054)が牽制のナイフを投げ、敵を易々と近づけさせない。
「リーダーの相手、ひとまずお願いします。後ろは守りますから……」
ざくろが頷く。長剣のゴブリンの攻撃を、まずは受け止めて、
「雷をまとい轟け……ギアブレイド!」
武器に雷光をまとわせ、反撃を繰り出す。
狙いは、群れのリーダーである長剣のゴブリンを生かさず殺さず、その間に手下を残らず狩り尽すこと。
ざくろたちにリーダーの相手を任せ、コーシカは後退した。
馬車の後方からも、更に5匹のゴブリンが接近している。
殺された馬を気にかけていたコーシカだったが、やおら敵へと向き直り、ナイフを放った。
投擲をかわして散開し、コーシカを取り囲もうとするゴブリンたち。
荷台から飛び降りてきたリィフィ(ka2702)が日本刀を振るい、彼らの陣形に割って入る。
コーシカも格闘用の短剣に持ち替えつつ切り込んで、
突き出された剣や槍を打ち払い、リィフィと背中合わせの位置へつく。
「背中は任せた! ちゃっちゃと削ってこう!」
リィフィが言う。コーシカは腕を十字に組んで構え、居並ぶゴブリンたちを睨みつける。
「……絶対に潰す。一匹たりとも逃さないわ」
残りのゴブリンたちも弓やボウガンを捨て、森の中から馬車へと殺到した。
木々の間を滑るように移動する10体の黒い影。
そのうちひとつを、馬車の銃眼から放たれた光が照らし出す。
「喜べよ、スポットライトさッ! 今夜の主役はてめえらだッ!」
毒々沼 冥々(ka0696)はアサルトライフルの銃身に括りつけたライトで敵を照準し、引き金を引いた。
銃眼から差し出された銃口が火を噴いて、目が眩んで足の止まったゴブリン1匹を撃ち殺す。
「うひひひひッ、先制1点ッ」
冥々とフラヴィ・ボー(ka0698)は車内に立て籠ったまま射撃を開始した。
フラヴィも機導砲で、道の右側の茂みから真っ先に飛び出してきた1匹を撃つ。
相手はその場でひっくり返るが、他のゴブリンは怯みもせず、次々と道へ降りてくる。
「そっち、何匹来てるか分かるかい?」
「うひッ、5匹くらい」
冥々の射撃が木立の中を跳ね返り、予期せぬ方向からゴブリンたちを襲う。
フラヴィも機導砲を立て続けに発射し、突撃を抑え込んだ。
それでも敵は、少しずつ馬車の周囲に固まり始める。
「イケメン揃いじゃねーかにゃん!? 冥々たんってばゲロ嬉しーッ!! うひひひひひッ!」
「……」
荷台から馬車へ乗り込もうとする敵を、フラヴィは咄嗟に機導砲で追い払う。
群がるゴブリンを前に、不安が過った。
敵を充分に減らしきるまで、前衛4人は耐えられるだろうか?
●
長剣のゴブリンは手強かった。
フェイントに交えた重たい一撃を、ざくろが盾で受け止める。
片手突きで反撃するも、剣を両手持ちで振るうゴブリンの臂力に押され、思うような攻めができない。
(力で勝負しちゃ駄目だ!)
横一文字の切り払いで相手に間合いを取らせた。
ゴブリンは大人しく下がったかと思うと、すぐさま助走をつけ、半ば飛びかかるように上段で剣を振り下ろす。
それを右にかわし、ギアブレイドにまとわせた電撃で腕を――
相手は踏み込みと同時に反転し、長剣を逆袈裟に切り上げた。かなりの運動能力と反射神経だ。
盾で剣の軌道を逸らし、更に盾の裏側からすくい上げるようにして、こちらの剣を繰り出す。
腕の力だけで振ったので、剣自体の威力はないも同然だ。しかし、
(刀身が触れさえすれば!)
刀身がゴブリンの左肘を打ったかと思うと、エレクトリックショックの電光が迸る。
これで、相手の全身は麻痺する筈――
だったのだが、長剣のゴブリンは1度激しく身震いしただけで、すぐに持ち直した。
(耐えただって!?)
驚くざくろのこめかみを、横ざまに振られた槍が殴打する。
一瞬の攻防の間に、手下のゴブリンが彼の背後を取っていた。
リリティアとの連携にも限界があった。
ざくろが長剣のゴブリンと手下1匹を相手する傍ら、彼女は他3匹を同時に食い止めなければならない。
(数を減らさないと、時音さんを助けることもできない!)
2匹、左右同時の槍の攻撃。前に踏み出す。リリティアのすぐ後ろで、穂先がぶつかり合う。
正面で待ち受けるのは山刀を持ったゴブリン。間合いが近過ぎて刀が振れない。
「はッ」
リリティアの膝蹴りが、身長の低いゴブリンの顎を打ち抜いた。
そのままとどめを刺したいが、後ろにしてきた槍持ちの2匹が追撃にかかっている。もっと前へ逃げる。
振り返って、2匹の突きを刀で打ち落とす。
(こうやって戦っているうちに、時音さんから離れてしまう……!)
「全然数が減らないよぅ!」
リィフィが舞うような動きでコーシカの脇へ滑り出て、前に出過ぎたゴブリンを斬り伏せた。
だが、すぐに別の1匹が外から加わって、
5匹による陣形を保ったまま、敵はコーシカとリィフィのコンビを取り囲む。
「何かがおかしいわね」
コーシカが呟く。彼女の武器を持たない左腕は、何度も攻撃を受け止めたせいで傷だらけだった。
(こちらの作戦は、果たして思い通りに進んでるのかしら?
向かってくる相手の中からリーダーだけを2人で抑え、残り4人で2組を作って雑魚を倒す……)
ゴブリンたちが、一斉に包囲網を狭めて襲ってきた。
コーシカは正面の敵に頭から突っ込んで、突き飛ばす。突破口を作り、リィフィと一緒に囲みを抜け出す。
しかし敵も素早く立て直して、またもふたりを円の中へ追い込んでしまう。
「! コーシカまずいよ、馬車に敵が!」
リィフィが言うが、コーシカには振り返っている暇もない。
向かってきたゴブリンを短剣で斬りつけて押し返しながら、彼女は考えた。
(……ああもう、どうして攻撃役の私たちが、守勢に追い込まれてるんだろう!
私たち、馬車の周りに釘づけにされたまま、ふたりずつに分断されてしまってるじゃない!)
「うひひひひひッ! こいつらゲロ強ぇ! 次から次へとおかわりが来やがるッ!」
荷台や御者台から車内へ侵入するゴブリンを、冥々がライフルの台尻でぶん殴った。
フラヴィも、至近距離からの機導砲で敵の頭を粉々にする。
返り血を拭いながら、彼女は、いつの間にか片腕に深い切り傷を負っていたことに気づく。
「まずいな」
馬車へ取りついた相手を追い払うので、精一杯だった。
これでは他のコンビを助け、順序良く手下の数を減らしていくどころではない。
(四方から来る敵を、そのままで待ち受けてしまった。火力が分散したせいで1匹1匹を仕留めきれない。
結果、敵戦力は大して減らないまま、こちらは対包囲戦を強いられ続けている……!)
御者台を乗り越えようとするゴブリンを、フラヴィが前蹴りで突き落とした。
機導砲で追い打ちしようとするも、別のゴブリンが横から割り込む。
目前で剣を振り回され、急所を狙う余裕もない。兎に角撃って、押し戻した。
「うひひッ、うひひッ、うひひひひッ」
見れば冥々も、額に傷を受けて流血している。
彼女は至って楽しそうだが、形勢はこちらが非常に不利だ。
フラヴィは、馬車の外でリーダーと戦うざくろを見やった。
(リーダーを殺すしかない……が、その余力はもはやあるのか?)
●
マテリアルの防護壁がリリティアの前面に出現し、避けられなかった山刀の一撃を跳ね返した。
(時音さん!?)
ざくろは自分の側にも防御障壁を展開していた。
長剣のゴブリンとその手下の連撃を前に、盾による防御が間に合わないと判断してのことだったが、
「あぅっ……!」
防御壁が攻撃を受け止めて崩れるや否や、更なる長剣の攻撃がざくろの腿を斬りつけた。
「退けッ!」
リリティアが山刀のゴブリンを突き殺し、ざくろの援護に戻る。
ざくろも機導剣を放出し、槍ごと手下のゴブリンを叩き斬った。リリティアが彼を庇うように立ち、
「馬車に戻って下さい! 私が食い止めますから!」
「……ゴメン!」
リリティアは長剣のゴブリンの突進を押し止め、鍔迫り合いの恰好になる。
「全く、こいつらの動きは勉強になるわね、このッ……!」
コーシカが短剣を両手で握り、ゴブリンの1匹と刺し違える。
ゴブリンは腹に短剣を突き立てられ、たちまち絶命するが、
コーシカも左腕を剣で貫かれ、後退りするなり足がふらついた。リィフィが背中で彼女を支える。
「コーシカ!」
「みんな!」
冥々が発砲する合間を縫って、馬車の中からフラヴィが怒鳴った。
「中に戻れ! 下がるんだ!」
「コーシカ、先に行って!」
リィフィはたったひとりでゴブリンと剣を交え、コーシカが馬車へ近づくチャンスを作る。
荷台と御者台の周りは、射撃班ふたりが弾幕でどうにか群れを下がらせて、一瞬だけ空白地帯になっていた。
コーシカとざくろが馬車に戻り、リィフィとリリティアが殿を務める。
(まだ……もう少しだけ、無茶ができる!)
リィフィも手足に傷を負っていたが、マテリアルの体内循環による自己治癒で出血を抑えて戦い続ける。
冥々が荷台からコーシカを引っ張り上げると、自分も馬車に駆け寄った。
「だぁっ! このっ! 邪魔だ邪魔だっ!」
コーシカを追って馬車へ押し寄せたゴブリン数匹。
リィフィは跳躍し、彼らの頭や肩を飛び石のように踏みつけて、荷台の縁へ飛び移る。
そこでくるり、と後ろを向いて、足元へ殺到するゴブリンを刀で乱打した。
●
6人が馬車に立て籠もったことで、敵は荷台と御者台の2方向からしかハンターたちに接近できない。
屋根に登って穴を開けようとする者や、車体側面の、閉めきられた小さな窓へ登ってくる者もいたが、
「あああ溜まんねぇぜゲロヤバいぜくたばれやコラァッ!」
冥々が車内でライフルを乱射し、壁や天井越しに敵を撃ち落とした。
「リリティア、そいつを殺せ! もうこれ以上は無理だ!」
銃声に負けじとフラヴィが叫んだ。
御者台ではリリティアと長剣のゴブリンが、互いに鼻をぶつけんばかりの距離で戦っている。
どちらも得物の長い刀身を使うスペースはなく、柄とそれを握る拳で殴り合うような状態だった。
(押し返せれば!)
リリティアのすぐ後ろでは、ざくろとコーシカがうずくまっている。
荷台からの侵入はリィフィが抑えているが、彼女も負傷している。
リリティアも背水の陣と覚悟して必死に戦いながら、あちこちに傷を負っていた。
長剣のゴブリンが、剣を握ったまま拳で彼女の顔を殴る。
眼鏡が飛び、リリティアは狭い車内へ仰向けに倒れてしまう。
フラヴィが弓を構える――機導砲の残弾は使い果たしてしまった。
彼女の和弓はかなり大きく、6人が乗り込んだ車内でまともに狙いをつけられたものではない。
しかし、他に武器がない。
冥々が空になったライフルの弾倉を落とす――リロードが間に合わない。
こいつも銃で殴るか? それで倒せるか? 斬り殺されるだけになりそうだ。
あるいはそれでも、羊のように大人しく殺されるよりは馬鹿をやって死んだほうが良い。
ゴブリンが突きの構えをする。足元に転がった負傷者たちを、刺し殺す気だ。
フラヴィが弓の弦を引いた。冥々が、ライフルを棍棒のように持ち直した。
ゴブリンが車内へ1歩踏み込んだ。
ざくろが床に座ったまま、機導剣を発動し発光するギアブレイドを両手に握り絞め、ゴブリンの腹に突き刺した。
ギアブレイドが引き抜かれる。ゴブリンの血とはらわたが、ざくろの足元にこぼれ落ちた。
ゴブリンは剣を手元から落とすと、獣のように吠え、膝をつき、そして死んだ。
●
残された手下たちがリーダーの断末魔に動揺し、馬車から後退りを始める。
「……逃がすもんか!」
荷台からリィフィが飛び降りるも、自己治癒で回復しきれなかった疲労と傷が、彼女にその場で膝をつかせた。
冥々とフラヴィも武器を手に飛び出すが、
散り散りに森へと逃げ去っていくゴブリンには、1発を命中させるのが限界だった。
馬車の周囲には、10匹ほどのゴブリンの死体。群れの半数に逃げられてしまったようだ。
「ザマないわね……全く」
左腕を押さえたコーシカが、点々と散らばる屍を荷台から見渡す。出血がひどく、彼女の顔は青ざめている。
「冥々たんがひとりで追っかけて、ぶっ殺してきても良いんだぜ?」
「これ以上は無理だ、怪我人が多すぎる。応急手当とオフィスへの帰還が第一だよ」
フラヴィの言葉に、冥々はただ肩をすくめるだけだった。
ゴブリンが遺した長剣を、ざくろが掲げてみせた。
リリティアは剣に刻まれた無数の傷を調べ、
ゴブリンの手に渡る以前から相当に使い込まれていた業物と見立てる。
「どんな方が使っていたのでしょうか……」
ざくろは、ランタンの灯りに照らされて鈍く光る刀身をじっと見つめた。
ざくろ自身の血に濡れた刃は、どこか魅入られるような、独特の輝きを放っている。
しかし、やがて思い直したように剣を置いて、
「街に戻ったら、これは教会に収めて供養してもらおうよ」
「ええ……剣自体は、まだまだ使えるものだと思いますが」
誰か、これをもう1度手に取ることがあったなら、今度は人を守れるような強さの持ち主であれば良い。
リリティアは剣を前に、祈るように手を合わせた。
依頼結果
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相談卓 フラヴィ・ボー(ka0698) 人間(リアルブルー)|18才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2014/11/04 19:40:34 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/11/04 14:40:17 |