ゲスト
(ka0000)
勇者なき村
マスター:DoLLer

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~10人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/11/06 09:00
- 完成日
- 2014/11/14 06:42
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
夕暮れ。冬が近づき始め、木々の葉が徐々に色づく中、その訪れは随分と早くなっていた。カラスの鳴き声が赤から黒へと移り変わるグラデーションの中で響くと、少女は何とも言えない焦燥感に苛まされる。
「大丈夫」
一緒に森を捜索するハンターが声をかけた。その気遣いに少女は本当にその場で泣き崩れてしまいたくなった。今の彼女の心の中はこの黄昏と同じ。希望の光が徐々に薄らぎ、絶望という闇が色濃くなってくる。
少女には大好きな少年がいた。将来、ハンターになるのだと語っていた快活な少年。毎日、大人に交じって木こりとして働き、ちょっとした時間があれば独学で剣術の練習などしていた。人の好意には気づかない鈍感者だけど、いつも明るくて、そして物怖じしない。少女が泣きそうな時はいつだって励ましてくれた。
そんな彼がコボルトを発見したと聞いて飛び出ていった時、自分もついて行けば良かったと、今は心底後悔していた。
少年は一人でコボルトを2匹も退治した経験があった。少女は薬士を生業としている関係で、森に良く入ってた時、たまたま出くわした時、少年が退治してくれた。その時から村の勇者だった。
だから昨日、コボルトを見かけた。という知らせを聞いて一にも二にもなく剣を持って飛び出ていった少年を、止めることはできなかった。それから1日が過ぎ、今日も間もなく終わりを迎えようとしている。村長が心配してハンターに依頼してくれたのはありがたかったが、少女はもう待つなんてできなかった。連れて行かなければ一人ででもいくから! と駄々をこねて無理やりに同行したのだ。
闇が一段と濃くなる。もう遠い西の果てしか陽光は届かない。不安と焦燥感で胸が潰れそうになる。
これ以上の捜索はできないだろう。いつ打ち切られるのか、それまでに何かしらの手がかりを掴みたい。少女は暗い獣道に目を凝らしていた。
不意に僅かに獣臭が鼻をついた。野生動物特有の臭い。
「これは……」
先ほどまでの調子と違うハンターの声が聞こえた。
そちらを振り返れば、ハンターが明かりで照らしている繁みがあった。元々人があまり立ち位置いるような場所ではない。好き勝手に生えている繁みであったが、確かにそれは自然とは違った。一部だけ枝葉が折れて、内部の葉のない幹や枝が露出している。そして刃物で切り取ったような鋭い切り口。地面はまるで踏み荒らしたかのように凹凸していた。間違いない、戦いの跡だ。
「!!」
少女は思わず駆けだそうとしたのをギリギリでハンターに止められた。奥にコボルトがいるのかもしれない。と。
そして準備をして、改めて少女はハンターに守られながらその繁みをゆっくりと乗り越えた。
この森にこんな場所があったのだろうか。
景色は全く違っていた。ずっと続くであろうと思っていた森はそこでぷっつりと切れて、残光を残す空を一面に臨むことができた。あたり木々はなぎ倒され、いくつかはまるで赤子が作る建物のように乱雑に積み上げられていた。そして散らばる木の実、野菜の屑。野生動物の残骸……。それが延々と続き、一番向こう側は崖のようになっていて、空を映し出しているのだ。
コボルトの住処だとハンターが教えてくれた。しかもかなり大きい。5,60匹くらいの集団だろうと。しかし住処というには生き物のいる様子は見られない。ひっそりとし、木々のざわめきだけがかすかに聞こえるだけだった。
少女は少年の名前を呼んだ。最初は小さく、段々と大きく。
その内、緊張で崩れ落ちそうになる足をヨロヨロと進ませながら一歩、また一歩と進んでいく。そこに。影の山に隠れる見覚えのある靴が見えた。山はどうやら数体のコボルトの死骸であった。そしてその影に……靴と……。
ああ。
見たくなかった。
だが、まるで呪いでも受けたかのように視線が動かせない。
ハンターがそっと彼女の視界をその体で覆った。それで彼女はすべてを悟ってしまった。
少年は帰らぬ人となってしまったのだと。
絶叫すら上げることもできなくなった少女の横で、コボルトの遠吠えが聞こえた。一瞬、身が震えたが自分ではどうにもできない脱力感に少女は動くこともままならなかった。夕闇に次々と響くコボルトの遠吠え。それは少女たちを見つけた合図だと思っていたが、ハンター達が身構えて辺りを警戒するも遠吠えばかりでまったく空気は変わらない。むしろ遠ざかっているように聞こえた。
少年の勇気によって、コボルトは逃げ出した?
でも聞こえる方角は村の方。逃げるならそちらからも離れていくはずだ。
「あ、あぁ……村が……みんなが!」
わかってしまった。
低能のコボルトと言えども、村を守っていたのが少年だということには感づいたのだろうか。
これから秋は終わりを告げ、冬がやってくる。食べ物がどこに貯蓄されているのも。
勇者を失った村にコボルトは急襲をかけようというのだ。
その証拠に崖下を覗き込んだハンターが危急の声を上げていた。
「大丈夫」
一緒に森を捜索するハンターが声をかけた。その気遣いに少女は本当にその場で泣き崩れてしまいたくなった。今の彼女の心の中はこの黄昏と同じ。希望の光が徐々に薄らぎ、絶望という闇が色濃くなってくる。
少女には大好きな少年がいた。将来、ハンターになるのだと語っていた快活な少年。毎日、大人に交じって木こりとして働き、ちょっとした時間があれば独学で剣術の練習などしていた。人の好意には気づかない鈍感者だけど、いつも明るくて、そして物怖じしない。少女が泣きそうな時はいつだって励ましてくれた。
そんな彼がコボルトを発見したと聞いて飛び出ていった時、自分もついて行けば良かったと、今は心底後悔していた。
少年は一人でコボルトを2匹も退治した経験があった。少女は薬士を生業としている関係で、森に良く入ってた時、たまたま出くわした時、少年が退治してくれた。その時から村の勇者だった。
だから昨日、コボルトを見かけた。という知らせを聞いて一にも二にもなく剣を持って飛び出ていった少年を、止めることはできなかった。それから1日が過ぎ、今日も間もなく終わりを迎えようとしている。村長が心配してハンターに依頼してくれたのはありがたかったが、少女はもう待つなんてできなかった。連れて行かなければ一人ででもいくから! と駄々をこねて無理やりに同行したのだ。
闇が一段と濃くなる。もう遠い西の果てしか陽光は届かない。不安と焦燥感で胸が潰れそうになる。
これ以上の捜索はできないだろう。いつ打ち切られるのか、それまでに何かしらの手がかりを掴みたい。少女は暗い獣道に目を凝らしていた。
不意に僅かに獣臭が鼻をついた。野生動物特有の臭い。
「これは……」
先ほどまでの調子と違うハンターの声が聞こえた。
そちらを振り返れば、ハンターが明かりで照らしている繁みがあった。元々人があまり立ち位置いるような場所ではない。好き勝手に生えている繁みであったが、確かにそれは自然とは違った。一部だけ枝葉が折れて、内部の葉のない幹や枝が露出している。そして刃物で切り取ったような鋭い切り口。地面はまるで踏み荒らしたかのように凹凸していた。間違いない、戦いの跡だ。
「!!」
少女は思わず駆けだそうとしたのをギリギリでハンターに止められた。奥にコボルトがいるのかもしれない。と。
そして準備をして、改めて少女はハンターに守られながらその繁みをゆっくりと乗り越えた。
この森にこんな場所があったのだろうか。
景色は全く違っていた。ずっと続くであろうと思っていた森はそこでぷっつりと切れて、残光を残す空を一面に臨むことができた。あたり木々はなぎ倒され、いくつかはまるで赤子が作る建物のように乱雑に積み上げられていた。そして散らばる木の実、野菜の屑。野生動物の残骸……。それが延々と続き、一番向こう側は崖のようになっていて、空を映し出しているのだ。
コボルトの住処だとハンターが教えてくれた。しかもかなり大きい。5,60匹くらいの集団だろうと。しかし住処というには生き物のいる様子は見られない。ひっそりとし、木々のざわめきだけがかすかに聞こえるだけだった。
少女は少年の名前を呼んだ。最初は小さく、段々と大きく。
その内、緊張で崩れ落ちそうになる足をヨロヨロと進ませながら一歩、また一歩と進んでいく。そこに。影の山に隠れる見覚えのある靴が見えた。山はどうやら数体のコボルトの死骸であった。そしてその影に……靴と……。
ああ。
見たくなかった。
だが、まるで呪いでも受けたかのように視線が動かせない。
ハンターがそっと彼女の視界をその体で覆った。それで彼女はすべてを悟ってしまった。
少年は帰らぬ人となってしまったのだと。
絶叫すら上げることもできなくなった少女の横で、コボルトの遠吠えが聞こえた。一瞬、身が震えたが自分ではどうにもできない脱力感に少女は動くこともままならなかった。夕闇に次々と響くコボルトの遠吠え。それは少女たちを見つけた合図だと思っていたが、ハンター達が身構えて辺りを警戒するも遠吠えばかりでまったく空気は変わらない。むしろ遠ざかっているように聞こえた。
少年の勇気によって、コボルトは逃げ出した?
でも聞こえる方角は村の方。逃げるならそちらからも離れていくはずだ。
「あ、あぁ……村が……みんなが!」
わかってしまった。
低能のコボルトと言えども、村を守っていたのが少年だということには感づいたのだろうか。
これから秋は終わりを告げ、冬がやってくる。食べ物がどこに貯蓄されているのも。
勇者を失った村にコボルトは急襲をかけようというのだ。
その証拠に崖下を覗き込んだハンターが危急の声を上げていた。
リプレイ本文
「見えたっ」
暗闇の獣道を疾駆していたレイオス・アクアウォーカー(ka1990)が叫んだ。何度も繁みに視界を阻まれて完全にその姿を捕らえることはできないが、確かに村を遥かに見据える場所でコボルドの群れに追いついたようだ。レイオスは愛馬クミンシードの腹を蹴って勢いを強めた。
急な下り道をリズムよく跳ねた。そして大きく跳躍すると、ちょうど眼下にコボルドの影が映る。
「あれだけの数を目の前にして、彼は逃げなかったんだね……」
十司 志狼(ka3284)はぽつりと呟いた。瞳の奥にはこことは違う光景が少しだけ、ダブって見えた。それを振り払い岩井崎 旭(ka0234)と共に彼の愛馬サラダの背に乗るルーフィを見た。彼女は震えながらも口を真一文字にしてじっと耐えているようであった。
「いいかい?」
「はい……これ以上、何も失わないために。負けてちゃいけないから」
ルーフィの小さな頷きを見届け、志狼はデリンジャーを高く掲げ、発砲した。空砲の軽く高い音が一帯に響き渡る。
「コボルドども! それ以上は行かせないっ!」
同時に先行していたクミンシードの馬上からレイオスは松明で最後尾を走っていたコボルドの眼前を薙ぎ払った。真っ赤な光がまるで棒のように伸びる。
それに気づいた何体かのコボルドが進行方向を変え、レイオスの横から飛びかかって来た。
「光あれっ!」
シェール・L・アヴァロン(ka1386)の高らかな声と共に閃光は、闇を切り裂いて奔るとレイオスを襲おうとしていたコボルドの眼前を突き抜けると同時に、そのまた向こう、変わらず山を駆け下りていくコボルドに突き刺さった。
「突き抜ける! ルーフィ、しっかり掴まってろよ!! サラダ、頼んだぜっ」
コボルドの編隊が僅かに崩れるのを見計らって、旭が愛馬サラダに合図をかけた。同時にまっすぐ駆け下りていた愛馬サラダは方向を少し変えて、道なき道に進路を取る。獣道はほとんどコボルドに占有されている以上、こうするしかコボルドを抜かす方法はない。
コボルドが旭の姿に気付いたのか、吠え声で仲間に合図を送った。
が、次の瞬間、その喉元に矢尻が突き刺さる。
「あなた達の相手は、こっちよ」
ファラ・ザルクマイア(ka2958)はそう言うと立て続けに矢を放ち、旭の馬影を捕らえそうな端にいるコボルド達の注意を次々と引きつける。同時にコボルドの群れのど真ん中を突き抜けるようにしてロニ・カルディス(ka0551)が馬を走らせた。背を向けて走るコボルドを容赦なく踏みつけるとそのまま群れの戦闘を目指しながら、シャインによって闇夜を蹴散らす降魔の木刀を引き抜いてみせた。
「悪いが、村にはこれだけの団体客は受け入れられないんでな。ここから先は……通せない」
馬首を巡らせたロニはそう言い放った。
視界の端でアルファス(ka3312)が旭と共に駆け抜けていく。
「無理しませんように」
引きつけ役を買って出たメンバーには恐らく聞こえないであろう音量で一言漏らし、アルファスはそのまま旭の先導をしていく。自分が通れば、繁みは踏み鳴らされ旭とルーフィは通りやすくなるはずだ。引きつけは完璧だったようで、旭やアルファスを狙って走るコボルドの姿はない。が、まだ村を目指すコボルドの姿は多く、まだ半分にも満ていない。しかし、臨戦態勢を取るコボルドに阻まれるとどうしても先頭を走るコボルドには手が出せない。
「これならっ……どうだっ!!」
キヅカ・リク(ka0038)は腰からブランデーを引き抜いて、コボルドの頭上を狙って投げた。ロニの輝く得物に僅かに照らされたその瓶をファラが射抜いた。軽く澄んだガラスが砕ける音と共に降り注ぐ破片とアルコール。それに合わせるようにしてレイオスが松明を投げた。
闇が吹き飛んだ。
鮮烈な輝きと共に鬼火のような炎がコボルドに降り注いだ。炎がブランデーに着火したのだ。
村を優先するコボルドの多くもさすがにこの異変に気付いたのか、足を止めた。まだ村に向かうコボルドもいるが少数派となっている。
「私達の力が試される時……ね」
炎に照らされる無数の紅い瞳にシェールはそう独り言ちた。
●
「見境なくわらわらと……うっとおしいんだよ、ほんとにもう!」
キヅカはアサルトライフルを足元に群がるコボルドに向かって掃射しつつ叫んだ。火をつけて敵を引きつけた彼には一番多くのコボルドが群がり、8体を一人で相手していた。やはり数が違いすぎる。
背後から飛びかかって来る気配を感じ、キヅカは銃身を大きく振って、背後から襲い掛かるコボルドに叩きつけ、そのまま引き金を引いた。アサルトライフルが唸りをあげて、地面に叩きつけられたコボルドの体が数度跳ねる。
「次はどいつ……っ」
次なる敵を探した瞬間、左ひざが燃えるような痛みを覚えた。薄汚れた短剣を握ったコボルドが足にしがみつくようにしてキヅカを落馬させようと攻撃を加えていた。振り払おうとライフルをそちらに向けた瞬間。今度は後頭部に鈍い衝撃が走った。視界がゆれて足元のコボルドにすら照準が合わせられない。その間にも別のコボルドが腕に噛り付き、そのまま体重をかけて一気に馬から引きずり下ろされる。
「キヅカさんっ!!」
志狼が叫んで即座にヒールを飛ばし、治療にあたる。しかし、志狼にもコボルドの攻撃は止まらない。その行動を止めんとばかりにコボルドがタックルしてくる。ヒールの魔力はキヅカになんとか発動させたものの、タックルは避けきれずにもんどりうって倒れ、その勢いで山の斜面を転がり落ちたところで木に引っかかってようやく止まる。それを追うようにしてコボルドが襲い掛かる。
「背中ががら空きだぜっ?」
レイオスは自分の相手しているコボルドも捨て置き踏み込んだ。一閃すると志狼に襲い掛かったコボルドはそのまま首と胴体が別れた。そのまま続いてキヅカの方へと走りこむ。方々を助ける間に、背を向けられないように円陣を組ませることに成功すれば対処もしやすくなる……。
「!」
キヅカや志狼が相手をしていたコボルドが一斉にレイオスに牙をむいて襲い掛かった。視界はコボルドで埋まる。逃げ道が……ない。
「レイオスっ」
ファラが矢を放った。それは正確に胸を貫き、絶命させたが、焼け石に水だ。あっという間にコボルドの山に埋もれてレイオスの姿は見えなくなる。何とかどかせないとっ。ファラの視線がレイオスに向かっているのを知ったのか、矢を何とか防ごうと身を低くしていた別のコボルドが好機と睨んで、襲い掛かってくる。その攻撃を避けきれず番えた矢は力なく足元に落ちる。
「厄介だな……数の暴力か」
ロニは歯噛みした。木刀でうまく威嚇し、コボルドの攻撃を抑え込んではいるものの、他のメンバーが倒れればそれもできなくなる。ヒールなどでダメージを抑え込んでいるものの、敵の攻勢が強すぎて反撃がままならない。
助けたい。だが、ここを退くわけにもいかない。
「くっそぉぉぉぉ!!」
キヅカの声が響いた。両手両足を抑え込まれた上に、喉元にコボルドのアギトが開く。身もだえしてもコボルドの拘束は外れない。
……誰も守れないのか?
コボルドの巣穴で見かけたアルドの死体が脳裏に映る。
と、その瞬間、カラコロン、とカウベルの澄んだ音が耳に届く。
「風さん、お願い、力を貸してぇぇぇぇえ!!!」
幼い声と共にロニの眼前まで届くような暴風が吹き荒れると、キヅカを覆っていたコボルドが吹き飛んだ。ベル(ka1896)だ。瞳に涙を浮かべながら、コボルドを睨みつける。かなり走ったのか、それとも恐怖か。足がガクガクと震え、息も上がっている。それでもベルは再び詠唱し、次は志狼のコボルドに向かってウォーターシュートを叩きこんだ。
「ま、負けない……負けないんだからっ!!」
「だね。大群とはいえ、コボルドに負けるわけにはいかないっすからね」
ベルの横から、新たな赤い光がぼうっと浮かび上がり、虎牙 こうき(ka2980)の顔が照らし出される。ファイアエンチャントを受けたレイピアは緩やかに円を描くと、残光を走らせながらレイオスに覆いかぶさっていたコボルドを貫く。
手の空いたコボルドが虎牙に向かって走り出す。
が。まるで何かにつまずいたかのように山の斜面に倒れ伏してしまう。
「どっちを向いているんだ? おまえの敵はこっちだ」
コボルドの背後にロニが立っていた。気が付けばロニが敵対していたコボルドは皆同じように倒れ伏し、苦悶の声を上げるばかりであった。
完全に敵を引きつけていたロニは走り出したが、足取りが少し乱れる。傷だらけの体は思うようにいう事を聞いてくれない。そこに志狼を攻撃していたコボルドが横から牙をむいた。
「……っく」
ロニは祈る。
体よ……動け!
「大いなる自然よ。癒しと加護を授け給わんことを!」
シェールのヒールを詠唱する声が響いた。それと同時にロニの体を縛っていた重量感がふわりと溶けてなくなる。自然と体がコボルドの懐へと流れ、牙をかわす。見ればシェールもコボルドの連撃で血まみれになっていたが、それでも全体の戦況の把握をしていたおかげで、誰も脱落には至っていない。
ロニは反撃を試みようと攻撃してきたコボルドを見やった。が、コボルドは地に足を付けた後そのまま動かなかった。その背から的確に心臓を射抜かれていた。
「あと一息よっ! コボルドだって余裕はないはずだからっ!」
ファラは地面に落ちた矢を拾い上げて、新たに構える。もはや矢すらもほとんど尽きてしまっている。だが、ここでじっとしているわけにはいかないのだ。まだ村に行ってしまったコボルドがいるのだから。
ベルはレイオスを襲っていたコボルドに立て続けにウォーターシュートを放つと、山のように連なっていたコボルドが弾け飛び、間からレイオスの手が見えた。その手は血で真っ赤に染まっていたが、自由が効くのを確認すると、素早く太刀を逆手に持ち替え、重なっていたコボルドの首に突き立てた。
「代理まで……負けるわけにはいかないんだっ!」
力なく崩れ落ちるコボルドを掴みあげて隣のコボルドに叩きつけると、レイオスはそのコボルドごとまとめて貫いた。その顔はもはや燃えるような赤毛と血糊で、すべてが赤く染まっていた。
4倍以上の数がいたはずのコボルドももはやハンターと同程度の数にまで減っていた。戦いに気を煽り立てられたコボルドはまだ反撃しようと唸り声を上げていたが、虎牙は軽く踏み込むと、次の瞬間にはもその首にレイピアを突き付けていた。
「まだやるか? 命を無駄にするなよ」
殺気のこもった声。
コボルドはその冷徹な声にようやく周りの状況を飲み込めるほどの判断力を取り戻したようだった。
全力で抑え込んだはずのキヅカはすでに志狼の手助けも借りて立ち上がり、銃口をこちらに向けている。コボルド死骸はあちらこちらに散らばり、もはやまともに立っているのが少ないくらいだ。
コボルドは少しずつ後ずさりして、そのまま逃げ去った。
「全滅させられなかったか……」
レイオスは少々悔しそうだった。アルドの無念は晴らせなかったか。と思うと、口惜しさが残る。
「村に急ぎましょう。まだ……あそこは戦いの音が響いています」
シェールの静かな声にレイオスは頷いた。
まだ戦いは終わっていない。
●
機導砲が火を吹いて、コボルドの口頭を貫いた。
アルファスはもはや立っているのもままならず、愛馬に体を預けたまま、ステッキだけを前に向けていた。ぽとり、ぽとりとステッキの先から血が滴るのは先ほど肩に穿たれた傷からの出血だ。
「大丈夫か? アルファス」
覚醒し、ミミズクような頭部となった旭がアルファスに声をかけた。淡く光る青のマントは自らの血と返り血で大部分が紫色になっていた。白い羽毛で覆われた頭部も血で汚れている。
「機導砲は……今ので最後です」
だが、それでもどくわけにはいかない。背にした扉の向こうにはルーフィをはじめ、村の女子供がいるのだ。
旭とアルファスはコボルドの襲撃よりも早く村に戻り、襲いくる危機について説明した。アルドを失って呆然自失としていたルーフィもよく動いてくれたおかげで、避難は極めてスムーズに行われた。村の食糧庫を意図的に開放して、ハンターを攻撃するコボルドと、食糧庫を襲うコボルドに戦力を分散させたのも功を奏した。そうでなければ今二人はここで話すことすらできなかったであろう。村は被害を被ってはいるが、まだハンター以外の怪我人はいない。
だが奮戦にも陰りが見え始める。スキルを使い果たすほどに全力を尽くしてもなお、目の前にはまだ5体のコボルドが取り巻いている。
それでもアルファスは唸るコボルドに向かって冷たい笑みを浮かべてみせる。義眼の目が闇夜の中で怪しく輝きを放つ。
「さぁ、どうしました? 早く僕を殺さないと……せっかく奪った食糧も口にする機会を失いますよ?」
食糧は取り返せばいい。その為に離脱させるわけにはいかない。力は使い果たしても敵を引きつける方法がなくなったわけではない。
「じっとしてな。後は俺がやる。これ以上先には進ませねぇから」
その言葉の隙を狙ってコボルドが走り出した。
旭は覚醒で現れた幻影の翼を広げて、その勢いを殺した。そして勢いよく懐に飛び込むとコボルドを跳ね飛ばし、横にいたコボルドにレイピアを叩きこんだ。
だが、次の瞬間真後ろからコボルドが捨て身の一撃で旭の腰に錆びたナイフを突き立てられる。
「!!」
倒れるわけにはいかない。痛みをこらえながら、旭は反転し、背後のコボルドを蹴り飛ばした。
そこに猛然と襲い掛かる残りのコボルド。
「のやろォ!!!!」
旭が怒号を放つ。
同時にアルファスが馬を走らせて一体のコボルドに盾を構えて走らせる。もはや恰好など気にしてはいられない。武器がなければこの体でも止めてやる。
鈍い衝撃と共に視界が盾の裏地で埋まる。もはやどういう態勢なのか、残ったコボルドがどこにいるのかもわからない。それでもアルファスは抵抗のかかる方に向けて必死に馬を走らせた。
そして急に軽くなる。位置がずれたか? 旭が倒してくれたのか?
いや、微かに耳に届いたのはキヅカの銃声だ。アサルトライフルの機構音は少しだけリアルブルーにいた時の訓練を思い出させる。
「これ以上はやらせないっ」
馬蹄の音が自分の馬のものだけではないと気づく。続いて魔法が生み出す暴風が辺りを駆け巡った。
旭はもう一度気を吐くと、猛り狂い、ナイフを振り回して突っ込んでくるコボルドに向かって突っ込んだ。
「アルドの死は無駄にはさせねぇッ!!」
腕に鈍い痛みが走る。それはコボルドのナイフがかすめたからだ。だが、それと引き換えに旭のレイピアはその獰猛な瞳を貫いていた。
●
「ありがとうございました。おかげで村のみんなは怪我することもありませんでした。こうしていられるのは本当に皆様のおかげです」
ルーフィはそう言って深々と頭を下げた。
戦いが終わり、一夜明けて。
太陽がその光でもって、ハンター達の軌跡を知らしめてくれた。闇夜でほとんど見えなかったその顔に血がついていない者はいないほどだった。周りにはコボルドの死骸が点々とし、彼らが破った木の壁や、奪った食糧の欠片などが散らばっていた。だが、ハンターの前に膝を折り感謝する村の人々の顔には傷はなく、また絶望している様子もなかった。
そんな村の奥に、アルドの墓が建てられた。墓と言っても、墓標代わりに彼が使っていた剣が立てられ、ルーフィが集めた花環がそれを飾る。
「だいじょーぶ?」
ベルがルーフィに問いかけた。それは自分への問いかけだったのかもしれない。恐怖に身をすくませる自分。未熟な自分は本当に役立てたのだろうかという不安が、ルーフィを気遣う言葉にどうしても混ざってしまう。
ルーフィは、その言葉にしばらく目を閉じていたが、やがて儚げながらも精一杯の笑顔を作って見せる。
「うん。アルドは、そして皆さんが大切なことを教えてくれたもの。助けられたこの命、大切にして。それから、もっともっと強くなるね。みんながみんなを守れるように」
笑顔が少し崩れて、涙がこぼれる。
それでも、ルーフィの強い輝きは消えなかった。
アルドの、ハンター達の勇気は、新たな勇気を生み育んでいく。
暗闇の獣道を疾駆していたレイオス・アクアウォーカー(ka1990)が叫んだ。何度も繁みに視界を阻まれて完全にその姿を捕らえることはできないが、確かに村を遥かに見据える場所でコボルドの群れに追いついたようだ。レイオスは愛馬クミンシードの腹を蹴って勢いを強めた。
急な下り道をリズムよく跳ねた。そして大きく跳躍すると、ちょうど眼下にコボルドの影が映る。
「あれだけの数を目の前にして、彼は逃げなかったんだね……」
十司 志狼(ka3284)はぽつりと呟いた。瞳の奥にはこことは違う光景が少しだけ、ダブって見えた。それを振り払い岩井崎 旭(ka0234)と共に彼の愛馬サラダの背に乗るルーフィを見た。彼女は震えながらも口を真一文字にしてじっと耐えているようであった。
「いいかい?」
「はい……これ以上、何も失わないために。負けてちゃいけないから」
ルーフィの小さな頷きを見届け、志狼はデリンジャーを高く掲げ、発砲した。空砲の軽く高い音が一帯に響き渡る。
「コボルドども! それ以上は行かせないっ!」
同時に先行していたクミンシードの馬上からレイオスは松明で最後尾を走っていたコボルドの眼前を薙ぎ払った。真っ赤な光がまるで棒のように伸びる。
それに気づいた何体かのコボルドが進行方向を変え、レイオスの横から飛びかかって来た。
「光あれっ!」
シェール・L・アヴァロン(ka1386)の高らかな声と共に閃光は、闇を切り裂いて奔るとレイオスを襲おうとしていたコボルドの眼前を突き抜けると同時に、そのまた向こう、変わらず山を駆け下りていくコボルドに突き刺さった。
「突き抜ける! ルーフィ、しっかり掴まってろよ!! サラダ、頼んだぜっ」
コボルドの編隊が僅かに崩れるのを見計らって、旭が愛馬サラダに合図をかけた。同時にまっすぐ駆け下りていた愛馬サラダは方向を少し変えて、道なき道に進路を取る。獣道はほとんどコボルドに占有されている以上、こうするしかコボルドを抜かす方法はない。
コボルドが旭の姿に気付いたのか、吠え声で仲間に合図を送った。
が、次の瞬間、その喉元に矢尻が突き刺さる。
「あなた達の相手は、こっちよ」
ファラ・ザルクマイア(ka2958)はそう言うと立て続けに矢を放ち、旭の馬影を捕らえそうな端にいるコボルド達の注意を次々と引きつける。同時にコボルドの群れのど真ん中を突き抜けるようにしてロニ・カルディス(ka0551)が馬を走らせた。背を向けて走るコボルドを容赦なく踏みつけるとそのまま群れの戦闘を目指しながら、シャインによって闇夜を蹴散らす降魔の木刀を引き抜いてみせた。
「悪いが、村にはこれだけの団体客は受け入れられないんでな。ここから先は……通せない」
馬首を巡らせたロニはそう言い放った。
視界の端でアルファス(ka3312)が旭と共に駆け抜けていく。
「無理しませんように」
引きつけ役を買って出たメンバーには恐らく聞こえないであろう音量で一言漏らし、アルファスはそのまま旭の先導をしていく。自分が通れば、繁みは踏み鳴らされ旭とルーフィは通りやすくなるはずだ。引きつけは完璧だったようで、旭やアルファスを狙って走るコボルドの姿はない。が、まだ村を目指すコボルドの姿は多く、まだ半分にも満ていない。しかし、臨戦態勢を取るコボルドに阻まれるとどうしても先頭を走るコボルドには手が出せない。
「これならっ……どうだっ!!」
キヅカ・リク(ka0038)は腰からブランデーを引き抜いて、コボルドの頭上を狙って投げた。ロニの輝く得物に僅かに照らされたその瓶をファラが射抜いた。軽く澄んだガラスが砕ける音と共に降り注ぐ破片とアルコール。それに合わせるようにしてレイオスが松明を投げた。
闇が吹き飛んだ。
鮮烈な輝きと共に鬼火のような炎がコボルドに降り注いだ。炎がブランデーに着火したのだ。
村を優先するコボルドの多くもさすがにこの異変に気付いたのか、足を止めた。まだ村に向かうコボルドもいるが少数派となっている。
「私達の力が試される時……ね」
炎に照らされる無数の紅い瞳にシェールはそう独り言ちた。
●
「見境なくわらわらと……うっとおしいんだよ、ほんとにもう!」
キヅカはアサルトライフルを足元に群がるコボルドに向かって掃射しつつ叫んだ。火をつけて敵を引きつけた彼には一番多くのコボルドが群がり、8体を一人で相手していた。やはり数が違いすぎる。
背後から飛びかかって来る気配を感じ、キヅカは銃身を大きく振って、背後から襲い掛かるコボルドに叩きつけ、そのまま引き金を引いた。アサルトライフルが唸りをあげて、地面に叩きつけられたコボルドの体が数度跳ねる。
「次はどいつ……っ」
次なる敵を探した瞬間、左ひざが燃えるような痛みを覚えた。薄汚れた短剣を握ったコボルドが足にしがみつくようにしてキヅカを落馬させようと攻撃を加えていた。振り払おうとライフルをそちらに向けた瞬間。今度は後頭部に鈍い衝撃が走った。視界がゆれて足元のコボルドにすら照準が合わせられない。その間にも別のコボルドが腕に噛り付き、そのまま体重をかけて一気に馬から引きずり下ろされる。
「キヅカさんっ!!」
志狼が叫んで即座にヒールを飛ばし、治療にあたる。しかし、志狼にもコボルドの攻撃は止まらない。その行動を止めんとばかりにコボルドがタックルしてくる。ヒールの魔力はキヅカになんとか発動させたものの、タックルは避けきれずにもんどりうって倒れ、その勢いで山の斜面を転がり落ちたところで木に引っかかってようやく止まる。それを追うようにしてコボルドが襲い掛かる。
「背中ががら空きだぜっ?」
レイオスは自分の相手しているコボルドも捨て置き踏み込んだ。一閃すると志狼に襲い掛かったコボルドはそのまま首と胴体が別れた。そのまま続いてキヅカの方へと走りこむ。方々を助ける間に、背を向けられないように円陣を組ませることに成功すれば対処もしやすくなる……。
「!」
キヅカや志狼が相手をしていたコボルドが一斉にレイオスに牙をむいて襲い掛かった。視界はコボルドで埋まる。逃げ道が……ない。
「レイオスっ」
ファラが矢を放った。それは正確に胸を貫き、絶命させたが、焼け石に水だ。あっという間にコボルドの山に埋もれてレイオスの姿は見えなくなる。何とかどかせないとっ。ファラの視線がレイオスに向かっているのを知ったのか、矢を何とか防ごうと身を低くしていた別のコボルドが好機と睨んで、襲い掛かってくる。その攻撃を避けきれず番えた矢は力なく足元に落ちる。
「厄介だな……数の暴力か」
ロニは歯噛みした。木刀でうまく威嚇し、コボルドの攻撃を抑え込んではいるものの、他のメンバーが倒れればそれもできなくなる。ヒールなどでダメージを抑え込んでいるものの、敵の攻勢が強すぎて反撃がままならない。
助けたい。だが、ここを退くわけにもいかない。
「くっそぉぉぉぉ!!」
キヅカの声が響いた。両手両足を抑え込まれた上に、喉元にコボルドのアギトが開く。身もだえしてもコボルドの拘束は外れない。
……誰も守れないのか?
コボルドの巣穴で見かけたアルドの死体が脳裏に映る。
と、その瞬間、カラコロン、とカウベルの澄んだ音が耳に届く。
「風さん、お願い、力を貸してぇぇぇぇえ!!!」
幼い声と共にロニの眼前まで届くような暴風が吹き荒れると、キヅカを覆っていたコボルドが吹き飛んだ。ベル(ka1896)だ。瞳に涙を浮かべながら、コボルドを睨みつける。かなり走ったのか、それとも恐怖か。足がガクガクと震え、息も上がっている。それでもベルは再び詠唱し、次は志狼のコボルドに向かってウォーターシュートを叩きこんだ。
「ま、負けない……負けないんだからっ!!」
「だね。大群とはいえ、コボルドに負けるわけにはいかないっすからね」
ベルの横から、新たな赤い光がぼうっと浮かび上がり、虎牙 こうき(ka2980)の顔が照らし出される。ファイアエンチャントを受けたレイピアは緩やかに円を描くと、残光を走らせながらレイオスに覆いかぶさっていたコボルドを貫く。
手の空いたコボルドが虎牙に向かって走り出す。
が。まるで何かにつまずいたかのように山の斜面に倒れ伏してしまう。
「どっちを向いているんだ? おまえの敵はこっちだ」
コボルドの背後にロニが立っていた。気が付けばロニが敵対していたコボルドは皆同じように倒れ伏し、苦悶の声を上げるばかりであった。
完全に敵を引きつけていたロニは走り出したが、足取りが少し乱れる。傷だらけの体は思うようにいう事を聞いてくれない。そこに志狼を攻撃していたコボルドが横から牙をむいた。
「……っく」
ロニは祈る。
体よ……動け!
「大いなる自然よ。癒しと加護を授け給わんことを!」
シェールのヒールを詠唱する声が響いた。それと同時にロニの体を縛っていた重量感がふわりと溶けてなくなる。自然と体がコボルドの懐へと流れ、牙をかわす。見ればシェールもコボルドの連撃で血まみれになっていたが、それでも全体の戦況の把握をしていたおかげで、誰も脱落には至っていない。
ロニは反撃を試みようと攻撃してきたコボルドを見やった。が、コボルドは地に足を付けた後そのまま動かなかった。その背から的確に心臓を射抜かれていた。
「あと一息よっ! コボルドだって余裕はないはずだからっ!」
ファラは地面に落ちた矢を拾い上げて、新たに構える。もはや矢すらもほとんど尽きてしまっている。だが、ここでじっとしているわけにはいかないのだ。まだ村に行ってしまったコボルドがいるのだから。
ベルはレイオスを襲っていたコボルドに立て続けにウォーターシュートを放つと、山のように連なっていたコボルドが弾け飛び、間からレイオスの手が見えた。その手は血で真っ赤に染まっていたが、自由が効くのを確認すると、素早く太刀を逆手に持ち替え、重なっていたコボルドの首に突き立てた。
「代理まで……負けるわけにはいかないんだっ!」
力なく崩れ落ちるコボルドを掴みあげて隣のコボルドに叩きつけると、レイオスはそのコボルドごとまとめて貫いた。その顔はもはや燃えるような赤毛と血糊で、すべてが赤く染まっていた。
4倍以上の数がいたはずのコボルドももはやハンターと同程度の数にまで減っていた。戦いに気を煽り立てられたコボルドはまだ反撃しようと唸り声を上げていたが、虎牙は軽く踏み込むと、次の瞬間にはもその首にレイピアを突き付けていた。
「まだやるか? 命を無駄にするなよ」
殺気のこもった声。
コボルドはその冷徹な声にようやく周りの状況を飲み込めるほどの判断力を取り戻したようだった。
全力で抑え込んだはずのキヅカはすでに志狼の手助けも借りて立ち上がり、銃口をこちらに向けている。コボルド死骸はあちらこちらに散らばり、もはやまともに立っているのが少ないくらいだ。
コボルドは少しずつ後ずさりして、そのまま逃げ去った。
「全滅させられなかったか……」
レイオスは少々悔しそうだった。アルドの無念は晴らせなかったか。と思うと、口惜しさが残る。
「村に急ぎましょう。まだ……あそこは戦いの音が響いています」
シェールの静かな声にレイオスは頷いた。
まだ戦いは終わっていない。
●
機導砲が火を吹いて、コボルドの口頭を貫いた。
アルファスはもはや立っているのもままならず、愛馬に体を預けたまま、ステッキだけを前に向けていた。ぽとり、ぽとりとステッキの先から血が滴るのは先ほど肩に穿たれた傷からの出血だ。
「大丈夫か? アルファス」
覚醒し、ミミズクような頭部となった旭がアルファスに声をかけた。淡く光る青のマントは自らの血と返り血で大部分が紫色になっていた。白い羽毛で覆われた頭部も血で汚れている。
「機導砲は……今ので最後です」
だが、それでもどくわけにはいかない。背にした扉の向こうにはルーフィをはじめ、村の女子供がいるのだ。
旭とアルファスはコボルドの襲撃よりも早く村に戻り、襲いくる危機について説明した。アルドを失って呆然自失としていたルーフィもよく動いてくれたおかげで、避難は極めてスムーズに行われた。村の食糧庫を意図的に開放して、ハンターを攻撃するコボルドと、食糧庫を襲うコボルドに戦力を分散させたのも功を奏した。そうでなければ今二人はここで話すことすらできなかったであろう。村は被害を被ってはいるが、まだハンター以外の怪我人はいない。
だが奮戦にも陰りが見え始める。スキルを使い果たすほどに全力を尽くしてもなお、目の前にはまだ5体のコボルドが取り巻いている。
それでもアルファスは唸るコボルドに向かって冷たい笑みを浮かべてみせる。義眼の目が闇夜の中で怪しく輝きを放つ。
「さぁ、どうしました? 早く僕を殺さないと……せっかく奪った食糧も口にする機会を失いますよ?」
食糧は取り返せばいい。その為に離脱させるわけにはいかない。力は使い果たしても敵を引きつける方法がなくなったわけではない。
「じっとしてな。後は俺がやる。これ以上先には進ませねぇから」
その言葉の隙を狙ってコボルドが走り出した。
旭は覚醒で現れた幻影の翼を広げて、その勢いを殺した。そして勢いよく懐に飛び込むとコボルドを跳ね飛ばし、横にいたコボルドにレイピアを叩きこんだ。
だが、次の瞬間真後ろからコボルドが捨て身の一撃で旭の腰に錆びたナイフを突き立てられる。
「!!」
倒れるわけにはいかない。痛みをこらえながら、旭は反転し、背後のコボルドを蹴り飛ばした。
そこに猛然と襲い掛かる残りのコボルド。
「のやろォ!!!!」
旭が怒号を放つ。
同時にアルファスが馬を走らせて一体のコボルドに盾を構えて走らせる。もはや恰好など気にしてはいられない。武器がなければこの体でも止めてやる。
鈍い衝撃と共に視界が盾の裏地で埋まる。もはやどういう態勢なのか、残ったコボルドがどこにいるのかもわからない。それでもアルファスは抵抗のかかる方に向けて必死に馬を走らせた。
そして急に軽くなる。位置がずれたか? 旭が倒してくれたのか?
いや、微かに耳に届いたのはキヅカの銃声だ。アサルトライフルの機構音は少しだけリアルブルーにいた時の訓練を思い出させる。
「これ以上はやらせないっ」
馬蹄の音が自分の馬のものだけではないと気づく。続いて魔法が生み出す暴風が辺りを駆け巡った。
旭はもう一度気を吐くと、猛り狂い、ナイフを振り回して突っ込んでくるコボルドに向かって突っ込んだ。
「アルドの死は無駄にはさせねぇッ!!」
腕に鈍い痛みが走る。それはコボルドのナイフがかすめたからだ。だが、それと引き換えに旭のレイピアはその獰猛な瞳を貫いていた。
●
「ありがとうございました。おかげで村のみんなは怪我することもありませんでした。こうしていられるのは本当に皆様のおかげです」
ルーフィはそう言って深々と頭を下げた。
戦いが終わり、一夜明けて。
太陽がその光でもって、ハンター達の軌跡を知らしめてくれた。闇夜でほとんど見えなかったその顔に血がついていない者はいないほどだった。周りにはコボルドの死骸が点々とし、彼らが破った木の壁や、奪った食糧の欠片などが散らばっていた。だが、ハンターの前に膝を折り感謝する村の人々の顔には傷はなく、また絶望している様子もなかった。
そんな村の奥に、アルドの墓が建てられた。墓と言っても、墓標代わりに彼が使っていた剣が立てられ、ルーフィが集めた花環がそれを飾る。
「だいじょーぶ?」
ベルがルーフィに問いかけた。それは自分への問いかけだったのかもしれない。恐怖に身をすくませる自分。未熟な自分は本当に役立てたのだろうかという不安が、ルーフィを気遣う言葉にどうしても混ざってしまう。
ルーフィは、その言葉にしばらく目を閉じていたが、やがて儚げながらも精一杯の笑顔を作って見せる。
「うん。アルドは、そして皆さんが大切なことを教えてくれたもの。助けられたこの命、大切にして。それから、もっともっと強くなるね。みんながみんなを守れるように」
笑顔が少し崩れて、涙がこぼれる。
それでも、ルーフィの強い輝きは消えなかった。
アルドの、ハンター達の勇気は、新たな勇気を生み育んでいく。
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質問卓 鬼塚 陸(ka0038) 人間(リアルブルー)|22才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2014/11/01 22:02:22 |
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相談卓 鬼塚 陸(ka0038) 人間(リアルブルー)|22才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2014/11/06 07:18:15 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/11/03 23:06:18 |