ゲスト
(ka0000)
マゴイ、ソルジャー、ワーカー
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2017/08/02 19:00
- 完成日
- 2017/08/07 23:43
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●コボルド・ワーカー
南洋。人知れず存在しているヒョウタン型の小島。
石切り場の壁面に収まっていた黒い箱が、チャイムを鳴らし呼びかける。
<<お昼です、お昼です。皆さん休憩を取りましょう。涼しくなる夕方まで皆さん休憩を取りましょう>>
せっせと切り出した石を成型していたワーカー・コボルドたちは尻尾を振り、持っていた道具を所定の位置に戻す。
「きゅうけーい」
「きゅーけい」
「ごはんー」
「ごはんー」
「こぼも、いればいいのに」
「ね」
●μ・F・92756471・マゴイ
地下の奥深く。生産機関の一隅。
広い会議室にぽつんと一人、マゴイがいる。
テニスコートほどありそうなテーブルの中央には、淡い緑色に光る大きな立方体が浮かんでいた。テーブルを囲んで並べられた席の前には、薄いパネルが浮かんでいる。
『……新しいワーカーたちは、よい生活習慣――規則正しく働いて無理が来ないように休む――が身につきました。喜ばしいことです、と……とはいえ、あるべきユニオン市民としてはまだ改善点が残っています……皆いまだに親子兄弟という概念……を持っております……それが不要で有害な概念であると理解させるには……教育の充実を図ることはもちろんですが……ウテルスの稼働が不可欠だと思います……エネルギー部門担当者の意見を求めます……』
そこで言葉を切ったマゴイは、「労働管理部門担当者」の席を立ち、「エネルギー部門担当者」の席に着く。
『……現状とてもそこまでの余裕はありません……遺物の中に含まれていた簡易太陽光集積炉だけでは……工作機械を動かし、水と食料を作り出し、ウォッチャーを稼働させ最低限のセキュリティレベルを維持するのが精一杯なのです……環境整備担当者の意見を求めます……』
「環境整備担当者」の席に移る。
『……水と食料については現在様々な環境改良を行っていますから……この先完全自給出来るようになるだろうと思われます……エネルギー部門担当者の意見を求めます……』
「エネルギー部門担当者」の席に戻る。
『……環境整備担当者から今後の見通しについての意見を聞きました……まことに喜ばしいことです……しかし……それで生じた余剰エネルギーを注ぎこんだとしても……ウテルスを稼働させることは出来ません……新たなエネルギープラントが必要です……労働管理部門担当者の意見を求めます……』
「労働管理部門担当者」の席に移動。
『……そのためには……高度な技術力を持ったワーカーが必要となります…選択肢は2つ……新たに外部から迎え入れるか……それとも今いるワーカーが増えるのを待ち、それを教育し直すか……』
マゴイは別にふざけているわけでも遊んでいるわけでもない。
本来なら各々の部門に担当のマゴイが控えていて意見を述べてくれるはずなのだが、今は自分一人しかいない。だから何役もこなしている。『会議において全ての委員は担当の席を外れ不規則発言を行ってはならない』というルールがあるから、発言内容ごとに席を移動している――それだけの話である。
並の人間なら己がしていることの空しさに打ちのめされそうな場面であるが、幸い彼女の神経は(ユニオン基準で見る場合を除き)並ではなかった。
ここにおいて発言された内容は全て機関中央にあるデータ集積所に記録される。それを元にまた会議を行い、最終的に煮詰まった所でステーツマンに裁定を委ねる。
これが正しいやり方だ。
ステーツマンがいてくれたら、とマゴイは思った。ソルジャーがいてくれたら、とも。
自分は肉体を持たない不安定な存在である。そのためずっとこちらの世界にいることが出来ない。アーキテクチャーを一切使わなければ長時間現出していられるが、それだっていつかは限界が来て、亜空間に戻らなければいけなくなる。他者の体を借りても、最終的には同様だ。
自分としてはそういうサイクルに慣れているので別に困らないが、問題はワーカーたちである。ウォッチャーがあるから緊急連絡が取れるのだと言っても、何かあった場合即時対応できる人間が、最低でも一人は常時待機していることが望ましい。
『……ソルジャーについては外部から迎えなくてはならないでしょう……彼らを迎えるに当たってまず必要なのはインカムですが……現在遺物において発見されたものは30……』
言いながらマゴイは自分の前にあるパネルに指を延ばした。字と数字が浮かび上がる。
――現在稼働可能なソルジャー・インカムは31個存在しています――
『……1つ多い……?』
マゴイは再度パネルに触れる。
クリムゾンの地図が浮かび上がった。
インカムの現在地を示す光点が現れる。マゴイが現在いる南洋の島に30。それから大陸に1つ。
●Θ・F・92438・ソルジャー
『うは、面白そうなものがいっぱいじゃ、いっぱいじゃ』
「ぴょこ様、あまりその辺のものを触らないようにし」
『この兜かっこいいのう』
「被らないで被らないでサイズがあってませんから広がりますから」
監視役というかお守り役のハンターたちを引き連れてぴょこが行く。ズンズン行く。
『この紐引っ張ったらどうなるんじゃ』
「ひっぱっちゃだめえっ」
とにかく動く。とにかく触る。行動がいきなりでおおざっぱ。いつぞやちびっこドラゴンのお守りをしたことがあるがそっちのほうがまだ御しやすかったかも知れないと思いつつカチャは、嘆息した。
「スペットさんまだ来ないんですか?」
「刑務所は遠いからなー。まあ、もう少しでこっちに着くそうだから、それまでは我々で頑張ろう……」
すったもんだしつつインカムが保管されている地下倉庫に到着。
頑丈な透明ケースに入ったインカムを見てぴょこ、不服そう。
『なんじゃ、触れんのかのー』
「あいすみませんぴょこさま、まだ調査中ですので」
汗をふきふき弁明に努める案内役のタモン。
魔導伝話が鳴った。
「あ、スペットさんが受付に? はいはい、今行きます」
『おう、すぺも来るのか。来るのか』
跳ねて喜びを表現するぴょこ。
そのときインカムのガラスケースに、女の姿が浮かび上がった。長い黒髪、白い服。整っているが表情に乏しいその顔。
それとまともに目を合わせたカチャが、がくりと膝を折る。
作り物であるぴょこの毛が、ぞわわと立ち上がった。
『きゃー!』
慌てふためき場から逃げようとするぴょこ。
カチャが立ち上がる。額に目玉模様を浮かばせて。その口から出るのは彼女の声ではない。マゴイの声だ。
『……θ?……』
ぴょこが出て行こうとした扉が消えた。
混乱したぴょこは力ずくで壁を破ろうとする。衝撃で部屋全体が揺れた。
カチャが歌うように口ずさむ。
<<落ち着いて、落ち着いて、落ち着いて、落ち着いて>>
ぴょこの動きが急に止まった。
南洋。人知れず存在しているヒョウタン型の小島。
石切り場の壁面に収まっていた黒い箱が、チャイムを鳴らし呼びかける。
<<お昼です、お昼です。皆さん休憩を取りましょう。涼しくなる夕方まで皆さん休憩を取りましょう>>
せっせと切り出した石を成型していたワーカー・コボルドたちは尻尾を振り、持っていた道具を所定の位置に戻す。
「きゅうけーい」
「きゅーけい」
「ごはんー」
「ごはんー」
「こぼも、いればいいのに」
「ね」
●μ・F・92756471・マゴイ
地下の奥深く。生産機関の一隅。
広い会議室にぽつんと一人、マゴイがいる。
テニスコートほどありそうなテーブルの中央には、淡い緑色に光る大きな立方体が浮かんでいた。テーブルを囲んで並べられた席の前には、薄いパネルが浮かんでいる。
『……新しいワーカーたちは、よい生活習慣――規則正しく働いて無理が来ないように休む――が身につきました。喜ばしいことです、と……とはいえ、あるべきユニオン市民としてはまだ改善点が残っています……皆いまだに親子兄弟という概念……を持っております……それが不要で有害な概念であると理解させるには……教育の充実を図ることはもちろんですが……ウテルスの稼働が不可欠だと思います……エネルギー部門担当者の意見を求めます……』
そこで言葉を切ったマゴイは、「労働管理部門担当者」の席を立ち、「エネルギー部門担当者」の席に着く。
『……現状とてもそこまでの余裕はありません……遺物の中に含まれていた簡易太陽光集積炉だけでは……工作機械を動かし、水と食料を作り出し、ウォッチャーを稼働させ最低限のセキュリティレベルを維持するのが精一杯なのです……環境整備担当者の意見を求めます……』
「環境整備担当者」の席に移る。
『……水と食料については現在様々な環境改良を行っていますから……この先完全自給出来るようになるだろうと思われます……エネルギー部門担当者の意見を求めます……』
「エネルギー部門担当者」の席に戻る。
『……環境整備担当者から今後の見通しについての意見を聞きました……まことに喜ばしいことです……しかし……それで生じた余剰エネルギーを注ぎこんだとしても……ウテルスを稼働させることは出来ません……新たなエネルギープラントが必要です……労働管理部門担当者の意見を求めます……』
「労働管理部門担当者」の席に移動。
『……そのためには……高度な技術力を持ったワーカーが必要となります…選択肢は2つ……新たに外部から迎え入れるか……それとも今いるワーカーが増えるのを待ち、それを教育し直すか……』
マゴイは別にふざけているわけでも遊んでいるわけでもない。
本来なら各々の部門に担当のマゴイが控えていて意見を述べてくれるはずなのだが、今は自分一人しかいない。だから何役もこなしている。『会議において全ての委員は担当の席を外れ不規則発言を行ってはならない』というルールがあるから、発言内容ごとに席を移動している――それだけの話である。
並の人間なら己がしていることの空しさに打ちのめされそうな場面であるが、幸い彼女の神経は(ユニオン基準で見る場合を除き)並ではなかった。
ここにおいて発言された内容は全て機関中央にあるデータ集積所に記録される。それを元にまた会議を行い、最終的に煮詰まった所でステーツマンに裁定を委ねる。
これが正しいやり方だ。
ステーツマンがいてくれたら、とマゴイは思った。ソルジャーがいてくれたら、とも。
自分は肉体を持たない不安定な存在である。そのためずっとこちらの世界にいることが出来ない。アーキテクチャーを一切使わなければ長時間現出していられるが、それだっていつかは限界が来て、亜空間に戻らなければいけなくなる。他者の体を借りても、最終的には同様だ。
自分としてはそういうサイクルに慣れているので別に困らないが、問題はワーカーたちである。ウォッチャーがあるから緊急連絡が取れるのだと言っても、何かあった場合即時対応できる人間が、最低でも一人は常時待機していることが望ましい。
『……ソルジャーについては外部から迎えなくてはならないでしょう……彼らを迎えるに当たってまず必要なのはインカムですが……現在遺物において発見されたものは30……』
言いながらマゴイは自分の前にあるパネルに指を延ばした。字と数字が浮かび上がる。
――現在稼働可能なソルジャー・インカムは31個存在しています――
『……1つ多い……?』
マゴイは再度パネルに触れる。
クリムゾンの地図が浮かび上がった。
インカムの現在地を示す光点が現れる。マゴイが現在いる南洋の島に30。それから大陸に1つ。
●Θ・F・92438・ソルジャー
『うは、面白そうなものがいっぱいじゃ、いっぱいじゃ』
「ぴょこ様、あまりその辺のものを触らないようにし」
『この兜かっこいいのう』
「被らないで被らないでサイズがあってませんから広がりますから」
監視役というかお守り役のハンターたちを引き連れてぴょこが行く。ズンズン行く。
『この紐引っ張ったらどうなるんじゃ』
「ひっぱっちゃだめえっ」
とにかく動く。とにかく触る。行動がいきなりでおおざっぱ。いつぞやちびっこドラゴンのお守りをしたことがあるがそっちのほうがまだ御しやすかったかも知れないと思いつつカチャは、嘆息した。
「スペットさんまだ来ないんですか?」
「刑務所は遠いからなー。まあ、もう少しでこっちに着くそうだから、それまでは我々で頑張ろう……」
すったもんだしつつインカムが保管されている地下倉庫に到着。
頑丈な透明ケースに入ったインカムを見てぴょこ、不服そう。
『なんじゃ、触れんのかのー』
「あいすみませんぴょこさま、まだ調査中ですので」
汗をふきふき弁明に努める案内役のタモン。
魔導伝話が鳴った。
「あ、スペットさんが受付に? はいはい、今行きます」
『おう、すぺも来るのか。来るのか』
跳ねて喜びを表現するぴょこ。
そのときインカムのガラスケースに、女の姿が浮かび上がった。長い黒髪、白い服。整っているが表情に乏しいその顔。
それとまともに目を合わせたカチャが、がくりと膝を折る。
作り物であるぴょこの毛が、ぞわわと立ち上がった。
『きゃー!』
慌てふためき場から逃げようとするぴょこ。
カチャが立ち上がる。額に目玉模様を浮かばせて。その口から出るのは彼女の声ではない。マゴイの声だ。
『……θ?……』
ぴょこが出て行こうとした扉が消えた。
混乱したぴょこは力ずくで壁を破ろうとする。衝撃で部屋全体が揺れた。
カチャが歌うように口ずさむ。
<<落ち着いて、落ち着いて、落ち着いて、落ち着いて>>
ぴょこの動きが急に止まった。
リプレイ本文
●ぴょこ=θ=ソルジャー
『理性の声』で動きを止めるぴょこの姿に、天竜寺 詩(ka0396)はハッとした。
(あれに反応するって事は、やっぱりぴょこはθさん? こないだ見たぴょこの本当の姿は間違いじゃなかったんだ)
よかったという思いの後、怒りがむらむら沸き上がってくる。マゴイがぴょこの内面をあまりに無視していると見えて。
「それは使わないでって言ったでしょ!」
マゴイは目をぱちくりさせる。詩がなぜ自分に静止をかけてきたのか、理由が見当つかなくて。
そこで固まったままのぴょこが泣き始めた。そちらの理由も不明なので、なお目を瞬かせる。
『……どうしたことなの?』
訝しげな面持ちでぴょこに歩み寄ろうとするマゴイ。
ディーナ・フェルミ(ka5843)は彼女に先んじてぴょこを抱き上げ、逃げようとした。途端に結界に包まれ、床から浮き上がる。
『のお!?』
「ふぉぉ!?」
ぴょこともども宙で足掻くディーナ。それに話しかけるマゴイ。
『ちょっと……まあお待ちなさい……話……』
『やじゃーやじゃーちょーせいやじゃー!』
ぴょこが泣きわめく。ディーナは手足をバタバタして抗議する。
「何してるの、ぴょこさまを苛めちゃ駄目なのー!」
『……苛めてないけど……』
まあ彼女の主観的にはそうなのだろう。軽く呼び止めたくらいの意識に違いない。
思いながらエルバッハ・リオン(ka2434)は、マゴイに相対した。まずは穏便な態度を示し、説得に持ち込む腹積もり。
「お久しぶりです、マゴイさん」
『……ああ……久しぶり……』
「マゴイさんは何が目的でこられたのでしょうか?」
『……話せば長くなるけど……』
「長くても結構です、お話ください」
リオンの求めに応じマゴイは、保管しているソルジャー・インカムの数が発掘数より1つ多かったこと、どういうことかなと思いその在りかを辿ってみたこと、そしたらここであったこと――という経過をいつものもたもたした口調で説明し始める。
ハンス・ラインフェルト(ka6750)はその間に、ぴょことマゴイの間に移動する。龍宮 アキノ(ka6831)も要警戒の姿勢だ。ぴょこの近くから離れない。
「フフ、奴もソルジャーとやらを狙っているのかい? けどタダではくれられないねぇ」
リナリス・リーカノア(ka5126)は他の人にも聞こえるよう大きい声で、彼らにアドバイスした。
「マゴイはこっちが敵対行動を取らない限り危害を加えてはこないから。攻撃は最後の最後にとっといて。周囲の貴重品に被害が及ぶ方が大変だし――後、カチャの体にも」
ソラス(ka6581)はタモンにスペットへの事情説明等一切を頼んでから、マゴイに向き直る。
「お話の最中相済みません。ぴょこさまの居住地は把握してますし、一先ず結界を解除していただきたいのですが」
『……居住地というのは、どこ……?』
「自由都市同盟領、シャン郡ペリニョン村です」
『……シャン郡ペリニョン村……』
所在を教えてもらったことで納得したらしい。マゴイは結界を解いた。消えた扉が現れる。ディーナとぴょこが床に落ちる。
ぴょこはあたふた部屋の隅に逃げ込んだ。体を丸め、全身ぶるぶる震わせている。
詩はぬいぐるみの体を抱き締め、背中を撫でた。
「皆いるから大丈夫、怖くないよ」
ディーナも同様に撫でさすり、落ち着かせようと試みる。
「安心してくださいなの、私たち英霊様の味方なの」
リナリスは手鏡を持ちだし、ぴょこに自分の顔を見せた。
「よく見てぴょこ、貴女はかつてはθだったかもしれないけど今はふわもこうさぎ英霊、ペリニョン村の守り神、自由な英霊ぴょこだよ!」
続いてペリニョン村商標ストラップを取出し、見せる。
「これがぴょこだよ! 貴女だよ! 村の皆の事やお祭りの事を思い出して! エバーグリーンはもう存在しない!」
『……エバーグリーン自体はまだ存在してるけど』
マゴイから突っ込みが入ったが聞かなかったことにする。
「今や貴女を縛るものは何もない! 何も恐れる事はない! 貴女はぴょこなんだから!」
力強く断言されたことでぴょこは、幾らか平静を取り戻した。
『――そうじゃ、わしは英霊の、ぴょこられうさぎのぴょこなのじゃ!』
勇気を振り絞ってちろっと物陰から顔を出すが、またすぐ引っ込み、ぶるぶるする。
『マゴイが、マゴイがまだこっち見ておる』
声が半泣きだ。彼女にとってマゴイは、よっぽど苦手な相手らしい。
ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)は胸を張り、助太刀を申し出る。
「そんなに慌てなくても大丈夫です、マゴイさんはルールはきちんと守る人だもの、ぴょこさんの今の状況説明したら、分かってくれます、私に任せてください!」
さて、と意気込みつつマゴイとぴょこを見比べた彼女は、重大な疑問にぶち当たった。
「………質問! 私、今のマゴイさんの状態と、英霊さんの区別が良くわかりません、誰か教えてください」
アキノがにやりと口の端を曲げた。
「なるほど、そいつは面白い観点だ。そういやどこに違いがあるんだろうねぇ? 是非本人に聞いてみなくちゃ」
そこにスペットが駆け込んできた。部屋の四方に目を走らせたぴょこを素早く見つけ、走り寄る。
「θ、大丈夫か。マゴイに何ぞされへんかったか?」
ぴょこはスペットの胸倉を掴み訴える。
『すぺ! マゴイがわしをちょーせいしようとするのじゃー! こわいのじゃー!』
ここは流れとして言わずばなるまいと思ったことを迷わず口にするルンルン。
「又吉、愛の告白をするなら今なのです!!」
しかしスペット当人はとてもそんなことをする余裕はなかった。胸倉を掴まれ過ぎて息が詰まりそうになっていたので。
「……待てθ、力緩めえ力……!」
その間にもソラスは、マゴイがぴょこに注目しないよう、次々質問を投げかける。
「彼女は本当にθさんなのですか? 我々も前から知りたく思っていたのですが」
『……ええ……θでほぼ間違いないと思うけど……』
「彼女はどんな部署でどんな仕事をしていたのですか?」
『……前にも言ったと思うけど、私は担当ではないからねえ……そう詳しいことは……陸上部隊に所属していて……担当は外敵の鎮圧と破壊………緊急時には災害援助もするけど……基本的に破壊と生命活動の停止が仕事……』
●ぴょこ=θ≠ソルジャー
スペットも交えた場で皆はマゴイから、『これはθである。θはソルジャーである。ソルジャーであるならワーカーを守るために働くべき。だから一緒に来てもらおうと思う』なる三段論法を聞かされた。
当然ながら反発が出る。まずはディーナが憤慨した。
「自分がやられたら嫌なことを人にするのは間違ってるの、幽霊でもゴーストでもやったらメなの」
『……嫌なことって何のことかしら……』
思い当たる節が皆目無さそうなマゴイ。
アキノはその体に触れようとしてみた。手が、すかりと空を切る。
「なるほど、君は肉体を持たないんだねぇ。だからソルジャーやらワーカーやらを必要としていたわけかい?」
『……肉体を持っていても必要よ……全階級がいてこそユニオンは正しく運営される……幸福を保証することが出来る……』
リオンは、手を挙げて尋ねる。
「話が逸れてしまいますが、ユニオンの法は死者に適用されるのでしょうか?」
『……死者とは法を守るべき主体が存在しなくなっている者のことだから……当然適用されないわね……』
回答を得たリオンは、スペットの背に張り付くぴょこを指さした。
「こちらのぴょこさんは肉体的には完全に死亡した存在になります。Θさんとぴょこさんが同一の存在としても、死者にユニオンの法が適用されないのであれば、彼女を連れて行く理由がないのではないでしょうか?」
マゴイはそれに異を唱える。
『……生きてるでしょう、彼女は……肉体もあるし……』
対しスペットが首を振り、反論を始めた。詩は心の中で彼に、「しっかりね」との声援を送る。
「違う、この中に肉体はあらへん。θはエレメント化しとる。エレメントは人やないやろ。何ならスキャンして確かめてみい。布と綿しかあらへんからな」
そう言われたマゴイは、早速黒い箱『ウォッチャー』を呼び出した。
『ウォッチャー……スキャンを……』
【了解しました、マゴイ】
ほどなくして箱の表面に、画像と文字が浮かんだ。マゴイはその内容を子細に検討し、一言。
『……確かに肉体が存在しないわね……』
「ほらね」と詩は、得意げに胸を張る。
「ぴょこは英霊だよ。つまりもう死んで魂だけになっているの。エバーグリーンは死者に鞭打ってまで働かせるつもり?」
ルンルンも脇から口を挟む。
「ユニオンって、亡くなった方にも法の適応あります? 私の故郷のおフランスだと違うんだけど」
『……英霊とは……?』
マゴイの問いかけにリナリスが、人さし指を立て答える。
「英霊とは人々の信仰によって死亡した英雄の精神が精霊へと変化した存在のことだよ。つまり彼女は、もうクリムゾンウェストの理の中にある。マゴイ、もう貴女に従うべき理由はないと思うけど?」
続けて、ソラスが言った。
「死者ならもうソルジャーではありませんし、記憶もないから無理でしょう」
『……ソルジャーとしての記憶は残っている……そうじゃなければ理性の声に反応したりしない……ということは彼女は、ソルジャーであり続けているのでは……』
ディーナは地団駄踏む思いで、マゴイの理屈に反論する。
「身体がなくて人に憑りつくのは幽霊とかゴーストとかレイスとか……結局死者の総称なの」
マゴイはこめかみに指を当て、自問自答の独り言を始めた。
『……そもそも死者とは肉体と精神が共に消滅した人間のことであって……どちらか片方でも残っている場合……完全に死亡したと言い切れない可能性が……』
アキノはこそっとスペットに聞く。
「キミの国では死ぬことについて、随分定義が細かいんだね」
スペットはぴょこをおんぶしたまま、むすっとした声で言った。
「まあな。とにかくこれは相当微妙な問題や」
マゴイはぴょこに近づいた。身を縮める彼女に聞く。インカムのケースを指さして。
『……あのインカムはあなたが身につけていたもの?』
ぴょこは小さな声で『そうじゃ』と答えた。
それを聞いたマゴイは――多分何か術を使ったのだろう、インカムをガラスケースから抜き取った。
インカムの眼鏡部分に緑色の光が灯った。表面に字のようなものが浮き出てくる。
『……確かに……生体反応がロストした記録がある……一時的とは言え精神と肉体が完全に消失したのであれば……その後にエレメント化したとして……』
宙を見て数分。ようやくマゴイは考えをまとめた。
インカムを置き再度ぴょこに近づき、言う。
『……あなたは、ユニオン法の対象から外れる……私はあなたにユニオンの仕事をするよう命じることは出来ない……』
どうやら諦めてくれたらしい。
場にほっとした空気が流れる中ハンスは、ずっと気になってた問をぶつけてみた。
「ところでマゴイさん。死者にユニオン法が適応されないなら。同じく死者である貴女は、権限もなくユニオンの権益を盗用する背信者であると思いますが……そこはどう考えていらっしゃいますか?」
数秒の間が空いてから、耳を疑うような返答がなされた。
『……死者って、誰が?』
ルンルンは慌てて聞き返す。
「マゴイさんは、英霊とも幽霊とも違うんですか? 私には同じように見えてしまって……今もカチャさんに取り憑いてるし」
『……あー……これは憑依じゃなくてアーキテクチャーによる遠隔操作……』
「すいません見分けがつきません。というか、冗談抜きで死んだ覚えないんですか?」
『ない』
スペットがそこで口を挟む。
「ウソやん! お前転送事故んとき木っ端みじんになっとったやん! オレ見た覚えあんぞ!」
「……と彼は言ってます。あなたご自身の見解は?」
リオンが促す。マゴイが答える。
『……それは通常起きる現象では……転送システムにおいて転送対象物は、次元を超える際の抵抗を限りなく0に近づけるため微細な粒子体に変換される……そして送り込んだ先で再構築される……その意味で言うなら私ばかりでなく彼も一度木っ端みじんになっているはずだけど……?』
それを聞いたスペットは固まった。
「ま、マジか……」
どうも彼にはその話、初耳だったらしい。
アキノは愉快そうにうそぶく。
「おお、いいねえ。いかにもSFっぽくて」
『……私は転送先が不安定な亜空間だったのから、再構築がうまくいかなかった……だから肉体を構築し直すことが出来なかった……と、それだけのことだと思う……』
そこまでの説明を黙って聞いていたハンスは、静かに言った。
「貴女は自分が生きていると思っているようですが、死んだぴょこさまにも直接の死の記憶はない。貴女と同じでしょう? 貴女は……自分が生者だと証明できますか? 生者の証明が出来ない限り、貴女はユニオンの技術を不当に利用する犯罪者と同じでしょう?」
虚を突かれたように動きを止めるマゴイ。明らかな困惑が顔に浮かび始める。
『……証明……記憶があり力を行使出来るのだから、現時点で私は死んでないと言える……しかしこの状態に至る前もし一時的に肉体と精神がロストしていたのだとすると……』
他の事に注意が行ってないのは何よりだと思うソラスは、インカムをこっそり物陰に隠す。返還してくれとでも言いだされたら、また面倒なことになるので。
マゴイの困惑は深まっていくばかり。うろうろ歩きと一人問答が止まらない。
『……これは重要案件……とても……重要……』
額にある目玉模様が薄れ始めた。それが完全に消えてしまう前に詩は、コボルドたちの消息を確かめておく。
「マゴイ、連れて行ったコボルド達は元気?」
『……元気よ……精神的にも肉体的にも安定してる……』
マゴイは去った。代わってカチャが目を覚ます。
「……あの人なんで毎回私に憑こうとしてくるんですか……」
ぐんなりしている所にリナリスが抱き着き、笑顔を浮かべて一言。
「……毎度の事ながらあたし以外の女に簡単に体を許しちゃうなんて……躾が必要だね♪」
「え? えっちょ、ちょーっ!?」
リナリスはカチャをヘッドロックしどこかへ連行していく。スペットにこう言い残して。
「何事も、貴方達の意志次第だから♪ 応援してるー♪」
ぴょこはまだスペットから離れようとしない。マゴイがいなくなっても不安げにしている。
『のう、もうマゴイ来んかのう、来んかのう』
「心配すんなや。来たら俺らがまた追い払うてやるから」
●マゴイ=?
島に戻ったマゴイは会議室に向かい、1人席に着く。
『……新しい議題が発生……私は生きているのか死んでいるのか……』
さて納得がいく結論が得られるか否か。そこは本人にも分からない。
『理性の声』で動きを止めるぴょこの姿に、天竜寺 詩(ka0396)はハッとした。
(あれに反応するって事は、やっぱりぴょこはθさん? こないだ見たぴょこの本当の姿は間違いじゃなかったんだ)
よかったという思いの後、怒りがむらむら沸き上がってくる。マゴイがぴょこの内面をあまりに無視していると見えて。
「それは使わないでって言ったでしょ!」
マゴイは目をぱちくりさせる。詩がなぜ自分に静止をかけてきたのか、理由が見当つかなくて。
そこで固まったままのぴょこが泣き始めた。そちらの理由も不明なので、なお目を瞬かせる。
『……どうしたことなの?』
訝しげな面持ちでぴょこに歩み寄ろうとするマゴイ。
ディーナ・フェルミ(ka5843)は彼女に先んじてぴょこを抱き上げ、逃げようとした。途端に結界に包まれ、床から浮き上がる。
『のお!?』
「ふぉぉ!?」
ぴょこともども宙で足掻くディーナ。それに話しかけるマゴイ。
『ちょっと……まあお待ちなさい……話……』
『やじゃーやじゃーちょーせいやじゃー!』
ぴょこが泣きわめく。ディーナは手足をバタバタして抗議する。
「何してるの、ぴょこさまを苛めちゃ駄目なのー!」
『……苛めてないけど……』
まあ彼女の主観的にはそうなのだろう。軽く呼び止めたくらいの意識に違いない。
思いながらエルバッハ・リオン(ka2434)は、マゴイに相対した。まずは穏便な態度を示し、説得に持ち込む腹積もり。
「お久しぶりです、マゴイさん」
『……ああ……久しぶり……』
「マゴイさんは何が目的でこられたのでしょうか?」
『……話せば長くなるけど……』
「長くても結構です、お話ください」
リオンの求めに応じマゴイは、保管しているソルジャー・インカムの数が発掘数より1つ多かったこと、どういうことかなと思いその在りかを辿ってみたこと、そしたらここであったこと――という経過をいつものもたもたした口調で説明し始める。
ハンス・ラインフェルト(ka6750)はその間に、ぴょことマゴイの間に移動する。龍宮 アキノ(ka6831)も要警戒の姿勢だ。ぴょこの近くから離れない。
「フフ、奴もソルジャーとやらを狙っているのかい? けどタダではくれられないねぇ」
リナリス・リーカノア(ka5126)は他の人にも聞こえるよう大きい声で、彼らにアドバイスした。
「マゴイはこっちが敵対行動を取らない限り危害を加えてはこないから。攻撃は最後の最後にとっといて。周囲の貴重品に被害が及ぶ方が大変だし――後、カチャの体にも」
ソラス(ka6581)はタモンにスペットへの事情説明等一切を頼んでから、マゴイに向き直る。
「お話の最中相済みません。ぴょこさまの居住地は把握してますし、一先ず結界を解除していただきたいのですが」
『……居住地というのは、どこ……?』
「自由都市同盟領、シャン郡ペリニョン村です」
『……シャン郡ペリニョン村……』
所在を教えてもらったことで納得したらしい。マゴイは結界を解いた。消えた扉が現れる。ディーナとぴょこが床に落ちる。
ぴょこはあたふた部屋の隅に逃げ込んだ。体を丸め、全身ぶるぶる震わせている。
詩はぬいぐるみの体を抱き締め、背中を撫でた。
「皆いるから大丈夫、怖くないよ」
ディーナも同様に撫でさすり、落ち着かせようと試みる。
「安心してくださいなの、私たち英霊様の味方なの」
リナリスは手鏡を持ちだし、ぴょこに自分の顔を見せた。
「よく見てぴょこ、貴女はかつてはθだったかもしれないけど今はふわもこうさぎ英霊、ペリニョン村の守り神、自由な英霊ぴょこだよ!」
続いてペリニョン村商標ストラップを取出し、見せる。
「これがぴょこだよ! 貴女だよ! 村の皆の事やお祭りの事を思い出して! エバーグリーンはもう存在しない!」
『……エバーグリーン自体はまだ存在してるけど』
マゴイから突っ込みが入ったが聞かなかったことにする。
「今や貴女を縛るものは何もない! 何も恐れる事はない! 貴女はぴょこなんだから!」
力強く断言されたことでぴょこは、幾らか平静を取り戻した。
『――そうじゃ、わしは英霊の、ぴょこられうさぎのぴょこなのじゃ!』
勇気を振り絞ってちろっと物陰から顔を出すが、またすぐ引っ込み、ぶるぶるする。
『マゴイが、マゴイがまだこっち見ておる』
声が半泣きだ。彼女にとってマゴイは、よっぽど苦手な相手らしい。
ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)は胸を張り、助太刀を申し出る。
「そんなに慌てなくても大丈夫です、マゴイさんはルールはきちんと守る人だもの、ぴょこさんの今の状況説明したら、分かってくれます、私に任せてください!」
さて、と意気込みつつマゴイとぴょこを見比べた彼女は、重大な疑問にぶち当たった。
「………質問! 私、今のマゴイさんの状態と、英霊さんの区別が良くわかりません、誰か教えてください」
アキノがにやりと口の端を曲げた。
「なるほど、そいつは面白い観点だ。そういやどこに違いがあるんだろうねぇ? 是非本人に聞いてみなくちゃ」
そこにスペットが駆け込んできた。部屋の四方に目を走らせたぴょこを素早く見つけ、走り寄る。
「θ、大丈夫か。マゴイに何ぞされへんかったか?」
ぴょこはスペットの胸倉を掴み訴える。
『すぺ! マゴイがわしをちょーせいしようとするのじゃー! こわいのじゃー!』
ここは流れとして言わずばなるまいと思ったことを迷わず口にするルンルン。
「又吉、愛の告白をするなら今なのです!!」
しかしスペット当人はとてもそんなことをする余裕はなかった。胸倉を掴まれ過ぎて息が詰まりそうになっていたので。
「……待てθ、力緩めえ力……!」
その間にもソラスは、マゴイがぴょこに注目しないよう、次々質問を投げかける。
「彼女は本当にθさんなのですか? 我々も前から知りたく思っていたのですが」
『……ええ……θでほぼ間違いないと思うけど……』
「彼女はどんな部署でどんな仕事をしていたのですか?」
『……前にも言ったと思うけど、私は担当ではないからねえ……そう詳しいことは……陸上部隊に所属していて……担当は外敵の鎮圧と破壊………緊急時には災害援助もするけど……基本的に破壊と生命活動の停止が仕事……』
●ぴょこ=θ≠ソルジャー
スペットも交えた場で皆はマゴイから、『これはθである。θはソルジャーである。ソルジャーであるならワーカーを守るために働くべき。だから一緒に来てもらおうと思う』なる三段論法を聞かされた。
当然ながら反発が出る。まずはディーナが憤慨した。
「自分がやられたら嫌なことを人にするのは間違ってるの、幽霊でもゴーストでもやったらメなの」
『……嫌なことって何のことかしら……』
思い当たる節が皆目無さそうなマゴイ。
アキノはその体に触れようとしてみた。手が、すかりと空を切る。
「なるほど、君は肉体を持たないんだねぇ。だからソルジャーやらワーカーやらを必要としていたわけかい?」
『……肉体を持っていても必要よ……全階級がいてこそユニオンは正しく運営される……幸福を保証することが出来る……』
リオンは、手を挙げて尋ねる。
「話が逸れてしまいますが、ユニオンの法は死者に適用されるのでしょうか?」
『……死者とは法を守るべき主体が存在しなくなっている者のことだから……当然適用されないわね……』
回答を得たリオンは、スペットの背に張り付くぴょこを指さした。
「こちらのぴょこさんは肉体的には完全に死亡した存在になります。Θさんとぴょこさんが同一の存在としても、死者にユニオンの法が適用されないのであれば、彼女を連れて行く理由がないのではないでしょうか?」
マゴイはそれに異を唱える。
『……生きてるでしょう、彼女は……肉体もあるし……』
対しスペットが首を振り、反論を始めた。詩は心の中で彼に、「しっかりね」との声援を送る。
「違う、この中に肉体はあらへん。θはエレメント化しとる。エレメントは人やないやろ。何ならスキャンして確かめてみい。布と綿しかあらへんからな」
そう言われたマゴイは、早速黒い箱『ウォッチャー』を呼び出した。
『ウォッチャー……スキャンを……』
【了解しました、マゴイ】
ほどなくして箱の表面に、画像と文字が浮かんだ。マゴイはその内容を子細に検討し、一言。
『……確かに肉体が存在しないわね……』
「ほらね」と詩は、得意げに胸を張る。
「ぴょこは英霊だよ。つまりもう死んで魂だけになっているの。エバーグリーンは死者に鞭打ってまで働かせるつもり?」
ルンルンも脇から口を挟む。
「ユニオンって、亡くなった方にも法の適応あります? 私の故郷のおフランスだと違うんだけど」
『……英霊とは……?』
マゴイの問いかけにリナリスが、人さし指を立て答える。
「英霊とは人々の信仰によって死亡した英雄の精神が精霊へと変化した存在のことだよ。つまり彼女は、もうクリムゾンウェストの理の中にある。マゴイ、もう貴女に従うべき理由はないと思うけど?」
続けて、ソラスが言った。
「死者ならもうソルジャーではありませんし、記憶もないから無理でしょう」
『……ソルジャーとしての記憶は残っている……そうじゃなければ理性の声に反応したりしない……ということは彼女は、ソルジャーであり続けているのでは……』
ディーナは地団駄踏む思いで、マゴイの理屈に反論する。
「身体がなくて人に憑りつくのは幽霊とかゴーストとかレイスとか……結局死者の総称なの」
マゴイはこめかみに指を当て、自問自答の独り言を始めた。
『……そもそも死者とは肉体と精神が共に消滅した人間のことであって……どちらか片方でも残っている場合……完全に死亡したと言い切れない可能性が……』
アキノはこそっとスペットに聞く。
「キミの国では死ぬことについて、随分定義が細かいんだね」
スペットはぴょこをおんぶしたまま、むすっとした声で言った。
「まあな。とにかくこれは相当微妙な問題や」
マゴイはぴょこに近づいた。身を縮める彼女に聞く。インカムのケースを指さして。
『……あのインカムはあなたが身につけていたもの?』
ぴょこは小さな声で『そうじゃ』と答えた。
それを聞いたマゴイは――多分何か術を使ったのだろう、インカムをガラスケースから抜き取った。
インカムの眼鏡部分に緑色の光が灯った。表面に字のようなものが浮き出てくる。
『……確かに……生体反応がロストした記録がある……一時的とは言え精神と肉体が完全に消失したのであれば……その後にエレメント化したとして……』
宙を見て数分。ようやくマゴイは考えをまとめた。
インカムを置き再度ぴょこに近づき、言う。
『……あなたは、ユニオン法の対象から外れる……私はあなたにユニオンの仕事をするよう命じることは出来ない……』
どうやら諦めてくれたらしい。
場にほっとした空気が流れる中ハンスは、ずっと気になってた問をぶつけてみた。
「ところでマゴイさん。死者にユニオン法が適応されないなら。同じく死者である貴女は、権限もなくユニオンの権益を盗用する背信者であると思いますが……そこはどう考えていらっしゃいますか?」
数秒の間が空いてから、耳を疑うような返答がなされた。
『……死者って、誰が?』
ルンルンは慌てて聞き返す。
「マゴイさんは、英霊とも幽霊とも違うんですか? 私には同じように見えてしまって……今もカチャさんに取り憑いてるし」
『……あー……これは憑依じゃなくてアーキテクチャーによる遠隔操作……』
「すいません見分けがつきません。というか、冗談抜きで死んだ覚えないんですか?」
『ない』
スペットがそこで口を挟む。
「ウソやん! お前転送事故んとき木っ端みじんになっとったやん! オレ見た覚えあんぞ!」
「……と彼は言ってます。あなたご自身の見解は?」
リオンが促す。マゴイが答える。
『……それは通常起きる現象では……転送システムにおいて転送対象物は、次元を超える際の抵抗を限りなく0に近づけるため微細な粒子体に変換される……そして送り込んだ先で再構築される……その意味で言うなら私ばかりでなく彼も一度木っ端みじんになっているはずだけど……?』
それを聞いたスペットは固まった。
「ま、マジか……」
どうも彼にはその話、初耳だったらしい。
アキノは愉快そうにうそぶく。
「おお、いいねえ。いかにもSFっぽくて」
『……私は転送先が不安定な亜空間だったのから、再構築がうまくいかなかった……だから肉体を構築し直すことが出来なかった……と、それだけのことだと思う……』
そこまでの説明を黙って聞いていたハンスは、静かに言った。
「貴女は自分が生きていると思っているようですが、死んだぴょこさまにも直接の死の記憶はない。貴女と同じでしょう? 貴女は……自分が生者だと証明できますか? 生者の証明が出来ない限り、貴女はユニオンの技術を不当に利用する犯罪者と同じでしょう?」
虚を突かれたように動きを止めるマゴイ。明らかな困惑が顔に浮かび始める。
『……証明……記憶があり力を行使出来るのだから、現時点で私は死んでないと言える……しかしこの状態に至る前もし一時的に肉体と精神がロストしていたのだとすると……』
他の事に注意が行ってないのは何よりだと思うソラスは、インカムをこっそり物陰に隠す。返還してくれとでも言いだされたら、また面倒なことになるので。
マゴイの困惑は深まっていくばかり。うろうろ歩きと一人問答が止まらない。
『……これは重要案件……とても……重要……』
額にある目玉模様が薄れ始めた。それが完全に消えてしまう前に詩は、コボルドたちの消息を確かめておく。
「マゴイ、連れて行ったコボルド達は元気?」
『……元気よ……精神的にも肉体的にも安定してる……』
マゴイは去った。代わってカチャが目を覚ます。
「……あの人なんで毎回私に憑こうとしてくるんですか……」
ぐんなりしている所にリナリスが抱き着き、笑顔を浮かべて一言。
「……毎度の事ながらあたし以外の女に簡単に体を許しちゃうなんて……躾が必要だね♪」
「え? えっちょ、ちょーっ!?」
リナリスはカチャをヘッドロックしどこかへ連行していく。スペットにこう言い残して。
「何事も、貴方達の意志次第だから♪ 応援してるー♪」
ぴょこはまだスペットから離れようとしない。マゴイがいなくなっても不安げにしている。
『のう、もうマゴイ来んかのう、来んかのう』
「心配すんなや。来たら俺らがまた追い払うてやるから」
●マゴイ=?
島に戻ったマゴイは会議室に向かい、1人席に着く。
『……新しい議題が発生……私は生きているのか死んでいるのか……』
さて納得がいく結論が得られるか否か。そこは本人にも分からない。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/08/02 12:20:26 |
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相談卓だよ 天竜寺 詩(ka0396) 人間(リアルブルー)|18才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2017/08/02 00:00:20 |