ゲスト
(ka0000)
挙手の影
マスター:石田まきば

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/11/05 22:00
- 完成日
- 2014/11/13 03:40
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●長老会議
エルフハイムの主要4区画のうちのひとつ、オプストハイム。
その最奥地には、古くから神霊樹の分樹が根を下ろしている。
そこは森全体のどの場所よりもマテリアルの純度が高く、常に清浄な空気を湛えている場所でもあった。
マテリアルに親和性を高く持つエルフにとって、その地は聖地と呼べるほどの場所。
そして分樹そのものは常に厳重に守られており、傍に近づくことさえも、限られた存在にしか許されていなかった。
分樹の枝渡りが見えるほどの近く、長老会議所に十数名のエルフが集まっていた。
長老会と呼ばれるエルフハイムの最高機関、そこに所属する長老達。珍しく、ほぼ全員が揃っている。
前例のある案件であれば、大抵は部下達が方針を纏め、長老達は纏められた案から最良と思われるものを選ぶだけで大概の議決は処理される。
昔ながらの生活を守ることを重視する者が多いここエルフハイムにおいて、それが平和の証であり、同時に緩やかな衰退の道を歩んでいるという現実でもあった。
「それで、結果はどうだったと?」
「落選ですね」
「無謀だと言って正解だったな」
先だって、皇帝選挙にエルフハイムの者が出馬するという珍事が起きた。一人がその話を持ち出し、報告担当の役人が答えれば、他の者も口々に言葉を連ねる。
「報告によれば、善戦したと……」
「落選に変わりはなかろう」
大長老の言葉がその場の空気をぴしゃりと制した。長老達の視線が集まったことを確認し、更に言葉を紡ぐ。
「過ぎたことはいい、決めねばならないのは今後のことだ」
「リヒャルト、私情を挟むなよ」
「わかっております」
珍事を起こしたエルフ、ユレイテルの父もこの場に座している。彼も長老の一員なのだ。
「親としての情は、ここに持ち込んでおりません。しかし……愚息の今後を決めるにしても、情報が少なすぎる」
ユレイテルは維新派で、ナデルハイムを拠点としている者達にとって若き旗頭としての立場を確立し始めている。
しかし父親であるリヒャルトもユレイテルの動向を把握しきれてはいない。維新派として活動をするにあたり、ユレイテルはオプストハイムを出て、帝都に近いナデルハイムへと居を移していたからだ。
ナデルハイムには元から維新派のエルフが多く暮らしていたが、今は更に、ユレイテルの協力者が増えているらしい。勿論それが維新派の全てではないが、長老会としても無視できない勢力となっているのは間違いなかった。
「情報源の確保か」
ユレイテルの帝都における思想については長老会でも掴んでいる。しかしそれだけだった。
エルフハイムの存続に影響を及ぼすほどの決定的な行動を起こしてはいないから、今追放や処分などの判断はしない。だが、今後そうなる可能性はある。
ユレイテルの行動規模は年配のエルフ達の想像を超えている可能性があり、早い対処が必要だと感じる恭順派の者が多くなっていた。だからこそ、異例の速度でこの会議が開かれたのだ。
「沙汰は保留のまま、秘密裏に監視をつけるというのは?」
「向こうも警戒するだけだろう」
ユレイテルの件で長老会議が開かれている、そのこと自体は維新派も掴んでいるはずだ。何も対処が行われないとなれば情報を得にくく、逆効果になる。
「他に方法があるとでも?」
議論はなかなか進まない。ある意味いつも通りの光景ではあるのだが。
「……監視役をつける、というのはどうでしょうか」
リヒャルトが口を開いた。
「表向きは私からの支援という形で……少なくとも、息子は断れないと思います」
●ナデルハイム役場
(堂々と見張りをつけに来るとは)
リヒャルトの紹介で来たというパウラを前に、ユレイテルは思考を巡らせていた。
(もうしばらくは静観されると思っていたが、今後は更に気を引き締めなければならない)
自分は致命的なミスをおかしていない。ただ長老会や周辺の恭順派達を刺激するほどの存在になったと言う事なのだろう。
「悪いことではない……か」
良くも悪くも影響力があるとわかったのは朗報だ。そしてこの監視役の存在はユレイテルにとっても使い勝手があった。
「あの、何か?」
不安そうな表情を浮かべた少女に、何でもないと微笑みを向けた。
「君を歓迎するという意味だ。図書館に居たのだったか?」
確認に、パウラが頷く。
「なら書類の作成や事務が頼めるな」
少し間をあけて、考えるそぶりを見せる。
「しばらくは不慣れな仕事に戸惑うこともあるだろう。……そうだな、私の補佐として共に行動してもらう。仕事が増える予定でな、秘書が居てもいいと思っていた」
秘書と言う一言で、パウラが緊張したのがわかる。わかりやすい態度では監視も何もないとユレイテルは思うのだが、この少女が長老会の人選なのか、父の手心が作用しているのか……判断はつきかねた。
(なんにせよ、こちらからも利用すべきだ)
長老会の、ひいては恭順派の反応を伺う手段として、この少女は橋渡し役になるだろうと踏んだ。
●植物雑魔の退治依頼……?
「シャイネさんを指名した仕事が来てますよ」
フクカン(kz0035)がお茶を出しながらシャイネ・エルフハイム(kz0010)に告げる。
「エルフハイムで何があったのかな」
きっとユレイテルからの仕事だろうと聞けば、フクカンも頷く。エルフハイムの仕事にシャイネを同行させるという話は前から出ており、ついにその機会がやってきたのだ。
「ナデルハイム付近に現れた歪虚退治の手伝い……あれっ? エルフハイムって、警備担当の人もいるんですよね?」
「そうだね。敵の数が多いのか……それとも、何か事情でもあるのかもしれないね」
あえてナデルハイム付近と明記してあること等、気になる点は少なくない。
「そういえば、依頼人のユレイテルさんからこんな連絡も来てますね」
「どんなだい?」
フクカンに倣って、シャイネも情報画面をのぞき込む。
『広くはないが二部屋確保している。歪虚退治の後、今後の参考にするための話を聞かせてもらいたい』
「エルフハイムに一晩泊まれるってこと、ですよね」
「そうみたいだね? ということは……」
歪虚退治は切欠、恭順派に対する口実と言ったところなのだろう。
(ふふ、本当に面白い子だね、彼は)
ユレイテルが何を目的にしているのか、シャイネにも全て分かるわけではない。けれど、興味深いことが待っているのは確かだ。
「フクカン君、参加するハンター達に、寝袋を持参するように言ってもらえるかな」
「えっ? 構いませんけど。でも準備されているんじゃないですか?」
「勿論そうだけど。慣れていないと眠れない、なんてこともあると思うしね……念のためだよ♪」
実際にその時にならないとわからないが、ハンモックが人数分、と言う可能性がある。かつてハンモックを愛用していたシャイネは、どうしてもその懸念を捨てきれないのだった。
エルフハイムの主要4区画のうちのひとつ、オプストハイム。
その最奥地には、古くから神霊樹の分樹が根を下ろしている。
そこは森全体のどの場所よりもマテリアルの純度が高く、常に清浄な空気を湛えている場所でもあった。
マテリアルに親和性を高く持つエルフにとって、その地は聖地と呼べるほどの場所。
そして分樹そのものは常に厳重に守られており、傍に近づくことさえも、限られた存在にしか許されていなかった。
分樹の枝渡りが見えるほどの近く、長老会議所に十数名のエルフが集まっていた。
長老会と呼ばれるエルフハイムの最高機関、そこに所属する長老達。珍しく、ほぼ全員が揃っている。
前例のある案件であれば、大抵は部下達が方針を纏め、長老達は纏められた案から最良と思われるものを選ぶだけで大概の議決は処理される。
昔ながらの生活を守ることを重視する者が多いここエルフハイムにおいて、それが平和の証であり、同時に緩やかな衰退の道を歩んでいるという現実でもあった。
「それで、結果はどうだったと?」
「落選ですね」
「無謀だと言って正解だったな」
先だって、皇帝選挙にエルフハイムの者が出馬するという珍事が起きた。一人がその話を持ち出し、報告担当の役人が答えれば、他の者も口々に言葉を連ねる。
「報告によれば、善戦したと……」
「落選に変わりはなかろう」
大長老の言葉がその場の空気をぴしゃりと制した。長老達の視線が集まったことを確認し、更に言葉を紡ぐ。
「過ぎたことはいい、決めねばならないのは今後のことだ」
「リヒャルト、私情を挟むなよ」
「わかっております」
珍事を起こしたエルフ、ユレイテルの父もこの場に座している。彼も長老の一員なのだ。
「親としての情は、ここに持ち込んでおりません。しかし……愚息の今後を決めるにしても、情報が少なすぎる」
ユレイテルは維新派で、ナデルハイムを拠点としている者達にとって若き旗頭としての立場を確立し始めている。
しかし父親であるリヒャルトもユレイテルの動向を把握しきれてはいない。維新派として活動をするにあたり、ユレイテルはオプストハイムを出て、帝都に近いナデルハイムへと居を移していたからだ。
ナデルハイムには元から維新派のエルフが多く暮らしていたが、今は更に、ユレイテルの協力者が増えているらしい。勿論それが維新派の全てではないが、長老会としても無視できない勢力となっているのは間違いなかった。
「情報源の確保か」
ユレイテルの帝都における思想については長老会でも掴んでいる。しかしそれだけだった。
エルフハイムの存続に影響を及ぼすほどの決定的な行動を起こしてはいないから、今追放や処分などの判断はしない。だが、今後そうなる可能性はある。
ユレイテルの行動規模は年配のエルフ達の想像を超えている可能性があり、早い対処が必要だと感じる恭順派の者が多くなっていた。だからこそ、異例の速度でこの会議が開かれたのだ。
「沙汰は保留のまま、秘密裏に監視をつけるというのは?」
「向こうも警戒するだけだろう」
ユレイテルの件で長老会議が開かれている、そのこと自体は維新派も掴んでいるはずだ。何も対処が行われないとなれば情報を得にくく、逆効果になる。
「他に方法があるとでも?」
議論はなかなか進まない。ある意味いつも通りの光景ではあるのだが。
「……監視役をつける、というのはどうでしょうか」
リヒャルトが口を開いた。
「表向きは私からの支援という形で……少なくとも、息子は断れないと思います」
●ナデルハイム役場
(堂々と見張りをつけに来るとは)
リヒャルトの紹介で来たというパウラを前に、ユレイテルは思考を巡らせていた。
(もうしばらくは静観されると思っていたが、今後は更に気を引き締めなければならない)
自分は致命的なミスをおかしていない。ただ長老会や周辺の恭順派達を刺激するほどの存在になったと言う事なのだろう。
「悪いことではない……か」
良くも悪くも影響力があるとわかったのは朗報だ。そしてこの監視役の存在はユレイテルにとっても使い勝手があった。
「あの、何か?」
不安そうな表情を浮かべた少女に、何でもないと微笑みを向けた。
「君を歓迎するという意味だ。図書館に居たのだったか?」
確認に、パウラが頷く。
「なら書類の作成や事務が頼めるな」
少し間をあけて、考えるそぶりを見せる。
「しばらくは不慣れな仕事に戸惑うこともあるだろう。……そうだな、私の補佐として共に行動してもらう。仕事が増える予定でな、秘書が居てもいいと思っていた」
秘書と言う一言で、パウラが緊張したのがわかる。わかりやすい態度では監視も何もないとユレイテルは思うのだが、この少女が長老会の人選なのか、父の手心が作用しているのか……判断はつきかねた。
(なんにせよ、こちらからも利用すべきだ)
長老会の、ひいては恭順派の反応を伺う手段として、この少女は橋渡し役になるだろうと踏んだ。
●植物雑魔の退治依頼……?
「シャイネさんを指名した仕事が来てますよ」
フクカン(kz0035)がお茶を出しながらシャイネ・エルフハイム(kz0010)に告げる。
「エルフハイムで何があったのかな」
きっとユレイテルからの仕事だろうと聞けば、フクカンも頷く。エルフハイムの仕事にシャイネを同行させるという話は前から出ており、ついにその機会がやってきたのだ。
「ナデルハイム付近に現れた歪虚退治の手伝い……あれっ? エルフハイムって、警備担当の人もいるんですよね?」
「そうだね。敵の数が多いのか……それとも、何か事情でもあるのかもしれないね」
あえてナデルハイム付近と明記してあること等、気になる点は少なくない。
「そういえば、依頼人のユレイテルさんからこんな連絡も来てますね」
「どんなだい?」
フクカンに倣って、シャイネも情報画面をのぞき込む。
『広くはないが二部屋確保している。歪虚退治の後、今後の参考にするための話を聞かせてもらいたい』
「エルフハイムに一晩泊まれるってこと、ですよね」
「そうみたいだね? ということは……」
歪虚退治は切欠、恭順派に対する口実と言ったところなのだろう。
(ふふ、本当に面白い子だね、彼は)
ユレイテルが何を目的にしているのか、シャイネにも全て分かるわけではない。けれど、興味深いことが待っているのは確かだ。
「フクカン君、参加するハンター達に、寝袋を持参するように言ってもらえるかな」
「えっ? 構いませんけど。でも準備されているんじゃないですか?」
「勿論そうだけど。慣れていないと眠れない、なんてこともあると思うしね……念のためだよ♪」
実際にその時にならないとわからないが、ハンモックが人数分、と言う可能性がある。かつてハンモックを愛用していたシャイネは、どうしてもその懸念を捨てきれないのだった。
リプレイ本文
●歪虚
森に入る前に遭遇した巡回中の帝国兵からは密猟者かと疑いをもたれ、入った後も警備隊からは矢を向けられる。どちらもシャイネの名と顔でいらぬ嫌疑は避けられたが、エルフハイムに入ること自体初めてのハンター達、特に蒼界からの転移者達はこれから先の道のりの長さ、その片鱗を感じ取り始めていた。
「相変わらずじゃのう」
イーリス・クルクベウ(ka0481)としては、軽くため息をつくしかない。変えていくのはこれから先の事だ、仕事とはいえ折角の里帰りなのだからと、シャイネと共に先頭を進む。
「さっきの違和感が境界線かな」
先ほど感じたマテリアルの変化についてフワ ハヤテ(ka0004)はそう結論付けていた。違和感を感じ取った少し後に警備隊が現れた。警備範囲を定める何かがあるのだろう。
「結界林だと聞いたことがありますね」
マリエル・メイフィールド(ka3005)も感じ取っていたようだ。エルフであれば境界線を通る際に容易に感じ取れるようである。ならばエルティア・ホープナー(ka0727)も気づいているだろう。視線を向ければ、見回りに出していたフォグが戻って来るところだった。
「来るわよ!」
短く上がる声にハンター達が得物を構えた。
「この程度の敵、全力を出すまでも無いが……早急に片付ける」
早急に片付けてしまおうとする君島 防人(ka0181)の意図は全員共通のもの。羽根と尻尾で機動力を得てはいるものの見た目はりんごだ。そう強いものではないはずだ。
(一撃で落ちない?)
初撃で撃ちこんだ矢を受けてもなお飛びかかって来る歪虚にシャーリーン・クリオール(ka0184)は記憶との差異を探る。以前戦ったのは確かに弱い雑魔だったが、目の前のりんごは確実にそれよりも強い。
「止めるから下がって!」
矢負いのりんごに結城 藤乃(ka1904)が追撃を食らわせる。動きを止めることに成功したが羽根はあくまでも飾りのようだ、またすぐに飛び回るだろう。隙のできやすい今が落とし時だ。
(戦力集中が良さそうか? ……いや、動きを制限するのが先か)
別のりんごに狙いを定めて、宮前 怜(ka3256)も一撃を放った。
一回目は8匹、二回目は7匹。歪虚として決して強いわけではなかったが、エルティアとシャーリーンを主軸にした消耗戦となり骨が折れた。マギスタッフで法術は使えないため、回復手段のない他の者達が集中攻撃を受けることを避けねばならなかったからだ。
ナデルハイム入口付近で出迎えたユレイテルが急ぎ回復役を手配する。話をするのはその後になった。
●施設という観点
一時的に人数分の椅子が持ち込まれ、改めて挨拶を交わす。ユレイテルがパウラを、父の紹介できた秘書だと説明する時は、事情を察した者も居た。
「『クルクベウ』を名乗っておるが、エルフハイムの出じゃよ」
「あっ……皆様、お元気ですよ」
イーリスの名前を反芻したあと、家族に面識があると答えるパウラ。最近まで図書館のあるオプストに居た彼女だからこそだろう。特に高齢のエルフは神霊樹に近い土地で暮らす傾向が顕著で、イーリスは思いがけないところで身内の近況を知る。
「会議所が使えればいいのだが、その段階ではないのでな」
集まってくれたことに対しての感謝を込めて、しかし事情につき合せている状況に、ユレイテルが頭を下げた。ナデルハイムを外部に開きたい意思も語る。
「実現可能かどうかはやってみなければわからない。しかし知識がなければ動くこともままならない。だからこそ知恵を貸して欲しい……よろしくお願いします」
(随分と踏み込んで考えているようだが)
恭順派との関係性が繊細なものであることは自明だからこそ、調整が必要だと防人は考える。
(我々は協力者だが部外者だ。決断、展開するのはエルフの仕事だ)
皆で意見を纏め、方向性を決めていく為のコミュニティも必要となるだろう。恭順派に睨まれぬ様、派手な動きは慎むべきで……場合によっては維新派の仲間内でも意見が割れる可能性もある。だから改めてユレイテルの考えがどの程度なのか、見極めようとしていた。
「まず宿だな。ベッドとハンモックの双方が選択出来たら良いんじゃないか。現地のスタイルを試したいのもいるだろうし、寝る時に落ち着かないのは嫌と言うのも当然居る」
「俺はハンモックは問題無いが、他の者までそうとは限るまい。ベッドの方が人の嗜好に合う」
マリエルのように毛布を持ち込む者もいる。部屋を整えたパウラはエルフハイムの外に出たことがないらしく、シャーリーンと防人の言葉で初めて合点がいったようだった。
「施設というより……どのような形でナデルハイムを開いていこうと考えているかでしょうか?」
既に段階的に考えていらっしゃるのかもしれませんけれど、とマリエル。
「多少の語弊がありますが、例えば人間の町のように比較的自由に出入りが出来るような街にしたいのか、それとも範囲を区切ってその中でエルフと人が交流できるようにしていきたいのか……」
その違いで、必要な施設も変わってくると思うからだ。
「エルフハイムを知ってもらう事が第一だと思っている。言葉を借りれば……範囲を区切って、今より自由に出入りが可能になれば、エルフとしての新たな活路が見えるのではないか期待している、と言うのが近いと思う」
ユレイテルは断定した言葉を使わないようにしているようだ。
(時間がかかる事だけは確かだな)
はじめ、怜は目的が漠然としていると感じていた。
(交流か、周知か、導入か。予め想定してはいたのだが……これは)
全てを見据えている気がしてならない。第一、と言った先ほどの言葉にも現れていたと思う。ならば早い段階で目的に合いそうなものはどれか。経験を元に言葉を選ぶ。
「なら、エルフの様々な食を提供すればいいだろうな」
普段食べているものは勿論だが、客人が来た時のもてなし料理、特別な日に食べるご馳走にあたるもの。例を挙げれば考えやすくもなるだろうと示唆する。
「ここは外部に興味を持った者も多いんだったか。なら他種族の料理も出せるといいかもしれないな」
出来れば他種族の料理人を専門で雇って、店も専用にあるといいと伝えはしたが、現状の建造物や森の使い方を見るにどれだけ実行できるかどうか、怜自身その難しさを感じていた。
(言うだけなら簡単だ)
「そもそも煙草があるのかな?」
シャーリーンが気になっていた疑問を口にする。火気は避ける風潮であることは容易に理解できる。
「珍し物好きな者が持ち込むことはあるが」
好んで喫煙者になる者は非常に稀だとの返事に予想通りだと頷く。
「好む者が来た時の対応も決めたほうがいいと思うね」
ひとまず場所を決めて喫煙所を設けるか、まず全面禁煙にして、訪問する客層を見て判断するという考え方もあると。
「不慮の事故で森が火事だなんて、お互いにお互いを遠ざける理由にしかならないわ」
エルティアも強い口調で同意する。
「喫煙に適した場所があるかと言う時点で疑問もあるが、ね」
ここに着くまでにそれらしい場所は見つからなかった。広場があったとしても、植物に溢れているだろうと聞けば、やはり想像通りの場所ばかりのようだった。
●帝国と
「先ずはナデルハイムと、それに近い帝国領の都市、その間の街道の整備……かしら?」
その整備に帝国と協力出来たらいいと思う。藤乃の言葉を受けて、ユレイテルが視線をパウラに向ける。藤乃も視線を向けた。少し文字が乱れたようにも思えたが、仕事には忠実らしい。書面に向かっている表情はうかがい知ることができなかった。
「きちんと舗装されたものではなくて、植物の植え方でそれが道とわかるようにするとかね」
こちらはエルティア。自然を壊さない範囲でと考えるのは彼女がエルフだからだろう。
「後は……街道の中間地点に、帝国の駐屯地を置くのも良いわね」
再び藤乃。
「エルフの警備隊の待機所もね。雑魔が徘徊しているのだもの、定期的な見回りや、街から街への案内人でも付けないと一般人には危険が多いと思うわ」
結界林の理解が周知であれば今の体制でもいいかもしれないが、対外的な体裁も必要だと説くエルティア。
「一緒にしたらどうだい?」
ハヤテが一石を投じる。
「とりあえず帝国との協力関係は必須だろう?」
互いの情報も交換でき、不測の事態にもスピーディーに連携を取ることができるという利点を挙げながら、森この場に辿り着くまでの出来事を思い出す。帝国兵と警備隊がかち合ったわけではないけれど。
(いきなり仲良くなんて虫がいいのだろうね)
実現には根回し以上の何かが必要だろうと見当づける。
「場所としては集落の端でもいいとは思うのさ。ただ入り口に近い位置にあった方がいいとは思うね」
エルフの警備隊も帝国の警備兵も、互いに反発するだけでなく、歪虚を共通の敵として歩み寄れる可能性を示唆するに留めることにした。
「ギルドの出張所を作ったらどうだろう?」
他の皆が言う施設に、出張所の機能を足す形でもいいけれど、色々な意味で情報のやり取りが出来るに越した事は無いとシャーリーンが追加する。
「ならいっそ、その駐屯地を街にしてしまえばどうかしら? 只の街じゃないわ、エルフと人間が共に住める街よ」
更にパウラの文字が乱れたが、気付かないふりを通す。このエルフハイムで影響力を持たないハンターが提案をしてみた、それだけなのだから。
(態度から感情が洩れてるわよ)
心の中でだけ指摘する藤乃。
「互いが共に住む事が普通の場所が作れたら……」
「そうだな、不可侵条約がなければそういった考え方もあるのかもしれない」
ユレイテルの言葉が割り込む。パウラに見えない位置で小さく手を振って合図をしている。
(その先はこの場では止めておいてほしい……つまり、既成事実を切り札として使う気もあるということかしらね)
申し訳なさそうな視線と合わせてそう判断した藤乃は言葉を止めた。意図が通じているという証明でもあるからだ。
「建築様式自体はナデルハイムのものがいいんじゃないかな。内装は帝国式にするとしても」
その方が他のエルフ……うっかり見に来た面倒な人達も文句はないだろう。ハヤテの表現も婉曲なものになった。
「それに、開くことと全てを受け入れることは違うしね」
帝国に染まるわけではないのだと伝わればいいのだが。
「維新派エルフの使節を帝国の各都市に派遣してはどうだ」
ユレイテル自身が赴いても良いとは思うが、と逆の視点で話す防人。
「事務所のようなものは考えているのだが」
前向きな返事だが言葉を選んでいる様子のユレイテルに、役人としての立場もあるのだろうと見当つける。パウラが議事録に終始している様子を確認し、声を潜めた。
「あくまでも漸進的にだな」
彼の考えと自分の認識が近いものであってほしいという期待を込める。
「勿論そのつもりだ。あちらがどう動くのかも、こちらがどこまで可能なのかも。試しながら様子を伺うためにも傍に置いている」
ナデルハイムを開くことは目的であり手段でもあるのだと、言外に込められていた。
危なげなやり取りを聞きながら、マリエルは祈りに似た思いを巡らせていた。
(急すぎる変化は戸惑いと不和ともたらしかねません、どうか急がず、少しずつ……)
自分も街に出たエルフだからこそ、維新派の主張もわかる。けれど変化を恐れる恭順派の気持ちもわかる。変化への流れを悪くないと思うからこそ、この場に居るけれど、周囲への配慮は大事だと感じていた。
●文化
エルティアが空中通路を示す。
「私達エルフからすれば日常よ? でも多種族を入れるとなれば、危険でしか無いわ」
訪れるのはハンターだけではないのだと繰り返す。この部屋に案内される際皆が危なげなく登れたのは、覚醒者だからこそだ。
「人の子が興味本位ででも渡ってみれば、あっという間に真っ逆さま。無駄に恨まれる原因を作るだけ……そして石頭な爺様達を喜ばせるだけよ」
その為には視野も広く持たなければいけないの、と続いた。
「エルフ独自の民芸品を取り扱う店、商人達との取引所も設けてはどうかの?」
「あとは……エルフの衣服や装飾品の販売も、効果があるかもしれない」
例えばシャイネが持っているような木の葉飾りがそれにあたるだろうか。街でもエルフが身に着けているのを見かけるから、気になっているものは多いのではないかと怜は睨んでいた。
「観光案内所と案内役も必須じゃな」
他区画や不可侵地域に迷い込む者を未然に防ぐためだ。あくまでもナデルハイムだけを外部に開こうとしているのだとわかるからこそ。
「それを避けるためにも、初めの内は監視として案内役や案内所が必要じゃろう」
説明の合間に、意図したキーワードを織り交ぜる。イーリスがちらりと視線を向けた先で、パウラの方がびくりと震えた。ユレイテルもその様子を見て取ったようで、視線が重なる。
「物は試しじゃ」
沈黙が下りないようにとイーリスは言葉を続ける。せめて宿の改善が済んでからだろうけれどと前置いて。
「問題点を探るべく、わしらの様な理解あるハンターを中心に小規模の観光旅行を企画してはどうじゃ?」
さりげなく「ハンターとしての本来の仕事」が関わらない形の手段を挙げておく。この言葉がどう効果をもたらすのか、出来れば早く結果が出ればいいと思う。
「興味深い。……感謝する」
ユレイテルの謝辞はいくつもの意味が含まれているようだった。
●一夜明けて
記録のまとめをしているパウラを見つけ、声をかける藤乃。
「良い所よね……改めて藤乃よ、よろしくね」
樹に凭れとりとめのない話題で緊張をほぐそうと試みるうちに、怜も加わった。
「ね、貴方は私達の事、どう思う?」
「人間やブルーには興味があるか、それとも怖いか?」
「本が……リアルブルーの物語が、たくさんあるらしいって。でも私は外に出たことがなくて、怖いと思う事も……あ、いえなんでもっ」
二人から尋ねられ、興味という言葉に反応したパウラ。本が好きなのだろう、楽しそうに続けかけてすぐ、どこか慌てたように口を閉ざした。
「……こんな良い所を護る為なら、人だって自然を愛し、大切にしたくなりそうね……でも、その愛する気持ちを人に伝える為には、外と繋がりを持つしかないの」
ユレイテルの居るだろう方向を見ながら、独り言のように零す藤乃。
「なんて、そういう考え方もある、かもね?」
もう少しだけ、この綺麗な空気を楽しませてもらうわと微笑んだ。
「パウラ、彼は彼なりの考えを以てエルフを導こうとしている」
防人は帰りがけに声をかけた。
「お前もただ上の駒として働くのみならず、自らの考えを持つ事だ」
恭順派と繋がっている可能性はあえて指摘しない。ただユレイテルの傍に立つ覚悟を問うような形で。
森に入る前に遭遇した巡回中の帝国兵からは密猟者かと疑いをもたれ、入った後も警備隊からは矢を向けられる。どちらもシャイネの名と顔でいらぬ嫌疑は避けられたが、エルフハイムに入ること自体初めてのハンター達、特に蒼界からの転移者達はこれから先の道のりの長さ、その片鱗を感じ取り始めていた。
「相変わらずじゃのう」
イーリス・クルクベウ(ka0481)としては、軽くため息をつくしかない。変えていくのはこれから先の事だ、仕事とはいえ折角の里帰りなのだからと、シャイネと共に先頭を進む。
「さっきの違和感が境界線かな」
先ほど感じたマテリアルの変化についてフワ ハヤテ(ka0004)はそう結論付けていた。違和感を感じ取った少し後に警備隊が現れた。警備範囲を定める何かがあるのだろう。
「結界林だと聞いたことがありますね」
マリエル・メイフィールド(ka3005)も感じ取っていたようだ。エルフであれば境界線を通る際に容易に感じ取れるようである。ならばエルティア・ホープナー(ka0727)も気づいているだろう。視線を向ければ、見回りに出していたフォグが戻って来るところだった。
「来るわよ!」
短く上がる声にハンター達が得物を構えた。
「この程度の敵、全力を出すまでも無いが……早急に片付ける」
早急に片付けてしまおうとする君島 防人(ka0181)の意図は全員共通のもの。羽根と尻尾で機動力を得てはいるものの見た目はりんごだ。そう強いものではないはずだ。
(一撃で落ちない?)
初撃で撃ちこんだ矢を受けてもなお飛びかかって来る歪虚にシャーリーン・クリオール(ka0184)は記憶との差異を探る。以前戦ったのは確かに弱い雑魔だったが、目の前のりんごは確実にそれよりも強い。
「止めるから下がって!」
矢負いのりんごに結城 藤乃(ka1904)が追撃を食らわせる。動きを止めることに成功したが羽根はあくまでも飾りのようだ、またすぐに飛び回るだろう。隙のできやすい今が落とし時だ。
(戦力集中が良さそうか? ……いや、動きを制限するのが先か)
別のりんごに狙いを定めて、宮前 怜(ka3256)も一撃を放った。
一回目は8匹、二回目は7匹。歪虚として決して強いわけではなかったが、エルティアとシャーリーンを主軸にした消耗戦となり骨が折れた。マギスタッフで法術は使えないため、回復手段のない他の者達が集中攻撃を受けることを避けねばならなかったからだ。
ナデルハイム入口付近で出迎えたユレイテルが急ぎ回復役を手配する。話をするのはその後になった。
●施設という観点
一時的に人数分の椅子が持ち込まれ、改めて挨拶を交わす。ユレイテルがパウラを、父の紹介できた秘書だと説明する時は、事情を察した者も居た。
「『クルクベウ』を名乗っておるが、エルフハイムの出じゃよ」
「あっ……皆様、お元気ですよ」
イーリスの名前を反芻したあと、家族に面識があると答えるパウラ。最近まで図書館のあるオプストに居た彼女だからこそだろう。特に高齢のエルフは神霊樹に近い土地で暮らす傾向が顕著で、イーリスは思いがけないところで身内の近況を知る。
「会議所が使えればいいのだが、その段階ではないのでな」
集まってくれたことに対しての感謝を込めて、しかし事情につき合せている状況に、ユレイテルが頭を下げた。ナデルハイムを外部に開きたい意思も語る。
「実現可能かどうかはやってみなければわからない。しかし知識がなければ動くこともままならない。だからこそ知恵を貸して欲しい……よろしくお願いします」
(随分と踏み込んで考えているようだが)
恭順派との関係性が繊細なものであることは自明だからこそ、調整が必要だと防人は考える。
(我々は協力者だが部外者だ。決断、展開するのはエルフの仕事だ)
皆で意見を纏め、方向性を決めていく為のコミュニティも必要となるだろう。恭順派に睨まれぬ様、派手な動きは慎むべきで……場合によっては維新派の仲間内でも意見が割れる可能性もある。だから改めてユレイテルの考えがどの程度なのか、見極めようとしていた。
「まず宿だな。ベッドとハンモックの双方が選択出来たら良いんじゃないか。現地のスタイルを試したいのもいるだろうし、寝る時に落ち着かないのは嫌と言うのも当然居る」
「俺はハンモックは問題無いが、他の者までそうとは限るまい。ベッドの方が人の嗜好に合う」
マリエルのように毛布を持ち込む者もいる。部屋を整えたパウラはエルフハイムの外に出たことがないらしく、シャーリーンと防人の言葉で初めて合点がいったようだった。
「施設というより……どのような形でナデルハイムを開いていこうと考えているかでしょうか?」
既に段階的に考えていらっしゃるのかもしれませんけれど、とマリエル。
「多少の語弊がありますが、例えば人間の町のように比較的自由に出入りが出来るような街にしたいのか、それとも範囲を区切ってその中でエルフと人が交流できるようにしていきたいのか……」
その違いで、必要な施設も変わってくると思うからだ。
「エルフハイムを知ってもらう事が第一だと思っている。言葉を借りれば……範囲を区切って、今より自由に出入りが可能になれば、エルフとしての新たな活路が見えるのではないか期待している、と言うのが近いと思う」
ユレイテルは断定した言葉を使わないようにしているようだ。
(時間がかかる事だけは確かだな)
はじめ、怜は目的が漠然としていると感じていた。
(交流か、周知か、導入か。予め想定してはいたのだが……これは)
全てを見据えている気がしてならない。第一、と言った先ほどの言葉にも現れていたと思う。ならば早い段階で目的に合いそうなものはどれか。経験を元に言葉を選ぶ。
「なら、エルフの様々な食を提供すればいいだろうな」
普段食べているものは勿論だが、客人が来た時のもてなし料理、特別な日に食べるご馳走にあたるもの。例を挙げれば考えやすくもなるだろうと示唆する。
「ここは外部に興味を持った者も多いんだったか。なら他種族の料理も出せるといいかもしれないな」
出来れば他種族の料理人を専門で雇って、店も専用にあるといいと伝えはしたが、現状の建造物や森の使い方を見るにどれだけ実行できるかどうか、怜自身その難しさを感じていた。
(言うだけなら簡単だ)
「そもそも煙草があるのかな?」
シャーリーンが気になっていた疑問を口にする。火気は避ける風潮であることは容易に理解できる。
「珍し物好きな者が持ち込むことはあるが」
好んで喫煙者になる者は非常に稀だとの返事に予想通りだと頷く。
「好む者が来た時の対応も決めたほうがいいと思うね」
ひとまず場所を決めて喫煙所を設けるか、まず全面禁煙にして、訪問する客層を見て判断するという考え方もあると。
「不慮の事故で森が火事だなんて、お互いにお互いを遠ざける理由にしかならないわ」
エルティアも強い口調で同意する。
「喫煙に適した場所があるかと言う時点で疑問もあるが、ね」
ここに着くまでにそれらしい場所は見つからなかった。広場があったとしても、植物に溢れているだろうと聞けば、やはり想像通りの場所ばかりのようだった。
●帝国と
「先ずはナデルハイムと、それに近い帝国領の都市、その間の街道の整備……かしら?」
その整備に帝国と協力出来たらいいと思う。藤乃の言葉を受けて、ユレイテルが視線をパウラに向ける。藤乃も視線を向けた。少し文字が乱れたようにも思えたが、仕事には忠実らしい。書面に向かっている表情はうかがい知ることができなかった。
「きちんと舗装されたものではなくて、植物の植え方でそれが道とわかるようにするとかね」
こちらはエルティア。自然を壊さない範囲でと考えるのは彼女がエルフだからだろう。
「後は……街道の中間地点に、帝国の駐屯地を置くのも良いわね」
再び藤乃。
「エルフの警備隊の待機所もね。雑魔が徘徊しているのだもの、定期的な見回りや、街から街への案内人でも付けないと一般人には危険が多いと思うわ」
結界林の理解が周知であれば今の体制でもいいかもしれないが、対外的な体裁も必要だと説くエルティア。
「一緒にしたらどうだい?」
ハヤテが一石を投じる。
「とりあえず帝国との協力関係は必須だろう?」
互いの情報も交換でき、不測の事態にもスピーディーに連携を取ることができるという利点を挙げながら、森この場に辿り着くまでの出来事を思い出す。帝国兵と警備隊がかち合ったわけではないけれど。
(いきなり仲良くなんて虫がいいのだろうね)
実現には根回し以上の何かが必要だろうと見当づける。
「場所としては集落の端でもいいとは思うのさ。ただ入り口に近い位置にあった方がいいとは思うね」
エルフの警備隊も帝国の警備兵も、互いに反発するだけでなく、歪虚を共通の敵として歩み寄れる可能性を示唆するに留めることにした。
「ギルドの出張所を作ったらどうだろう?」
他の皆が言う施設に、出張所の機能を足す形でもいいけれど、色々な意味で情報のやり取りが出来るに越した事は無いとシャーリーンが追加する。
「ならいっそ、その駐屯地を街にしてしまえばどうかしら? 只の街じゃないわ、エルフと人間が共に住める街よ」
更にパウラの文字が乱れたが、気付かないふりを通す。このエルフハイムで影響力を持たないハンターが提案をしてみた、それだけなのだから。
(態度から感情が洩れてるわよ)
心の中でだけ指摘する藤乃。
「互いが共に住む事が普通の場所が作れたら……」
「そうだな、不可侵条約がなければそういった考え方もあるのかもしれない」
ユレイテルの言葉が割り込む。パウラに見えない位置で小さく手を振って合図をしている。
(その先はこの場では止めておいてほしい……つまり、既成事実を切り札として使う気もあるということかしらね)
申し訳なさそうな視線と合わせてそう判断した藤乃は言葉を止めた。意図が通じているという証明でもあるからだ。
「建築様式自体はナデルハイムのものがいいんじゃないかな。内装は帝国式にするとしても」
その方が他のエルフ……うっかり見に来た面倒な人達も文句はないだろう。ハヤテの表現も婉曲なものになった。
「それに、開くことと全てを受け入れることは違うしね」
帝国に染まるわけではないのだと伝わればいいのだが。
「維新派エルフの使節を帝国の各都市に派遣してはどうだ」
ユレイテル自身が赴いても良いとは思うが、と逆の視点で話す防人。
「事務所のようなものは考えているのだが」
前向きな返事だが言葉を選んでいる様子のユレイテルに、役人としての立場もあるのだろうと見当つける。パウラが議事録に終始している様子を確認し、声を潜めた。
「あくまでも漸進的にだな」
彼の考えと自分の認識が近いものであってほしいという期待を込める。
「勿論そのつもりだ。あちらがどう動くのかも、こちらがどこまで可能なのかも。試しながら様子を伺うためにも傍に置いている」
ナデルハイムを開くことは目的であり手段でもあるのだと、言外に込められていた。
危なげなやり取りを聞きながら、マリエルは祈りに似た思いを巡らせていた。
(急すぎる変化は戸惑いと不和ともたらしかねません、どうか急がず、少しずつ……)
自分も街に出たエルフだからこそ、維新派の主張もわかる。けれど変化を恐れる恭順派の気持ちもわかる。変化への流れを悪くないと思うからこそ、この場に居るけれど、周囲への配慮は大事だと感じていた。
●文化
エルティアが空中通路を示す。
「私達エルフからすれば日常よ? でも多種族を入れるとなれば、危険でしか無いわ」
訪れるのはハンターだけではないのだと繰り返す。この部屋に案内される際皆が危なげなく登れたのは、覚醒者だからこそだ。
「人の子が興味本位ででも渡ってみれば、あっという間に真っ逆さま。無駄に恨まれる原因を作るだけ……そして石頭な爺様達を喜ばせるだけよ」
その為には視野も広く持たなければいけないの、と続いた。
「エルフ独自の民芸品を取り扱う店、商人達との取引所も設けてはどうかの?」
「あとは……エルフの衣服や装飾品の販売も、効果があるかもしれない」
例えばシャイネが持っているような木の葉飾りがそれにあたるだろうか。街でもエルフが身に着けているのを見かけるから、気になっているものは多いのではないかと怜は睨んでいた。
「観光案内所と案内役も必須じゃな」
他区画や不可侵地域に迷い込む者を未然に防ぐためだ。あくまでもナデルハイムだけを外部に開こうとしているのだとわかるからこそ。
「それを避けるためにも、初めの内は監視として案内役や案内所が必要じゃろう」
説明の合間に、意図したキーワードを織り交ぜる。イーリスがちらりと視線を向けた先で、パウラの方がびくりと震えた。ユレイテルもその様子を見て取ったようで、視線が重なる。
「物は試しじゃ」
沈黙が下りないようにとイーリスは言葉を続ける。せめて宿の改善が済んでからだろうけれどと前置いて。
「問題点を探るべく、わしらの様な理解あるハンターを中心に小規模の観光旅行を企画してはどうじゃ?」
さりげなく「ハンターとしての本来の仕事」が関わらない形の手段を挙げておく。この言葉がどう効果をもたらすのか、出来れば早く結果が出ればいいと思う。
「興味深い。……感謝する」
ユレイテルの謝辞はいくつもの意味が含まれているようだった。
●一夜明けて
記録のまとめをしているパウラを見つけ、声をかける藤乃。
「良い所よね……改めて藤乃よ、よろしくね」
樹に凭れとりとめのない話題で緊張をほぐそうと試みるうちに、怜も加わった。
「ね、貴方は私達の事、どう思う?」
「人間やブルーには興味があるか、それとも怖いか?」
「本が……リアルブルーの物語が、たくさんあるらしいって。でも私は外に出たことがなくて、怖いと思う事も……あ、いえなんでもっ」
二人から尋ねられ、興味という言葉に反応したパウラ。本が好きなのだろう、楽しそうに続けかけてすぐ、どこか慌てたように口を閉ざした。
「……こんな良い所を護る為なら、人だって自然を愛し、大切にしたくなりそうね……でも、その愛する気持ちを人に伝える為には、外と繋がりを持つしかないの」
ユレイテルの居るだろう方向を見ながら、独り言のように零す藤乃。
「なんて、そういう考え方もある、かもね?」
もう少しだけ、この綺麗な空気を楽しませてもらうわと微笑んだ。
「パウラ、彼は彼なりの考えを以てエルフを導こうとしている」
防人は帰りがけに声をかけた。
「お前もただ上の駒として働くのみならず、自らの考えを持つ事だ」
恭順派と繋がっている可能性はあえて指摘しない。ただユレイテルの傍に立つ覚悟を問うような形で。
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【相談】ナデルハイムの語らい 君島 防人(ka0181) 人間(リアルブルー)|25才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2014/11/05 20:56:57 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/11/03 01:10:06 |