ゲスト
(ka0000)
【陶曲】利用された野心
マスター:風亜智疾

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/07/29 22:00
- 完成日
- 2017/08/08 00:10
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
■
極彩色の街ヴァリオスには、商工会と呼ばれるものが2種存在している。
一方は『長老会』。ダリオ・ミネッリを長とする、仕来りと序列を重んじる派閥。
もう一方は『青年会』。エヴァルド・ブラマンデを長とする、若さと斬新さを表に出す派閥。
ヴァリオスで商いを行うものたちは、基本このどちらかに所属し、時に長老会からの嫌味を、時に青年会からの下剋上を狙った行動を。とお互いに切磋琢磨している。
――異変は突然だった。
「ここは自由都市だ。自由都市なのに、自由のない商売を強いられるのは滑稽だと思わないかい?」
突如エヴァルドはそう言うと、長老会に対してヴァリオス市街でのデモ行進を行うと言い始めたのだ。
そもそも青年会が設立された切欠は、長老会による若者への押さえつけへの反骨精神と、いつか自分たちが上に立つのだという野心からのものだった。
その為、周囲は温厚な雰囲気のエヴァルドが起こした行動に僅かな疑問は抱いたが、異を唱える者はいなかった。
斯くして、青年会によるヴァリオス市街のでデモ行進が決行されることとなる。
『我々に自由を!』
『長老会による圧力をなくし、自由な商売を!!』
若さによる勢いで行われるデモ行進は、どこかで歯車が狂ってしまえば危険なものとなるだろう。
「いつかやるだろうとは思っておったが……」
呆れたように呟くダリオは、長老会のメンバーを招集し、会は全員一致でこの事態の鎮圧を警邏へと依頼することと決めた。
■
「……妙ですね」
青年会に所属する『カンパネラ』社長のパメラ・カスティリオーネ(kz0045)は柳眉を寄せる。
彼女の知り得るエヴァルドという青年は、確かにその内に強かな野心を抱いてはいた。
だが、こんな強硬手段に出る様なタイプの人間ではなかったのだ。
商売人をしている為、自分の人を見る目には自信がある。
最後に会ったのはいつだったか。
1週間前に、青年会とは別に商談で会った時には何の異変もなく、温厚なあの人柄のままだった。
ただ、その後すぐに不思議な噂を耳にするようになった。
確か内容は、深夜に、街中で見慣れぬ老紳士が見かけられるようになった、というもの。
それが関係しているのかどうか、パメラには分からない。
だがその噂が広まり始めてから、エヴァルドの様子は急におかしくなり始めたのは事実だ。
「社長はデモに参加されないので?」
商社に勤める一人に問われ、彼女は微笑んだ。それは見事に、美しく。
息を詰めた相手を見据えながら彼女は歌うように告げる。
「何か裏があると読めるような案件に、わたくしが手を出すとでも?」
「いいえ、滅相もないデス……」
「結構。とはいえ、確かに妙ではあります。一度エヴァルドの様子を見ておくべきでしょう」
窓の外。徐々に大きくなる声に微笑みを浮かべたまま、彼女は立ち上がる。
振り返り窓から下を覗き込んだその瞬間だった。
『我々に自由を!』
『何者にも邪魔されない、自由な商売を!!』
「……糸……?」
行進の列の中央。人に囲まれるかのような場所にいるエヴァルドの頭上。そこに、一瞬糸のようなものが見えたのだ。
しかしそれも一瞬。瞬きの後に、それは消えていた。
「……見間違い、でしょうか……?」
けれど。何か必ず裏がある。何者かが、この状況を先導している。
窓から身を離し、つばの広い帽子を手にしたパメラが自らのオフィスから外出しようとするのを、慌てた様子で社員が追いかける。
「パメラ様、どちらへ!?」
帽子をかぶって振り返ったパメラは、いつも通りの微笑みを浮かべて告げるのだった。
「ハンターオフィスへ。明らかに異常な状況ですから。わたくしたちで対処できないことは、彼らの分野です」
極彩色の街ヴァリオスには、商工会と呼ばれるものが2種存在している。
一方は『長老会』。ダリオ・ミネッリを長とする、仕来りと序列を重んじる派閥。
もう一方は『青年会』。エヴァルド・ブラマンデを長とする、若さと斬新さを表に出す派閥。
ヴァリオスで商いを行うものたちは、基本このどちらかに所属し、時に長老会からの嫌味を、時に青年会からの下剋上を狙った行動を。とお互いに切磋琢磨している。
――異変は突然だった。
「ここは自由都市だ。自由都市なのに、自由のない商売を強いられるのは滑稽だと思わないかい?」
突如エヴァルドはそう言うと、長老会に対してヴァリオス市街でのデモ行進を行うと言い始めたのだ。
そもそも青年会が設立された切欠は、長老会による若者への押さえつけへの反骨精神と、いつか自分たちが上に立つのだという野心からのものだった。
その為、周囲は温厚な雰囲気のエヴァルドが起こした行動に僅かな疑問は抱いたが、異を唱える者はいなかった。
斯くして、青年会によるヴァリオス市街のでデモ行進が決行されることとなる。
『我々に自由を!』
『長老会による圧力をなくし、自由な商売を!!』
若さによる勢いで行われるデモ行進は、どこかで歯車が狂ってしまえば危険なものとなるだろう。
「いつかやるだろうとは思っておったが……」
呆れたように呟くダリオは、長老会のメンバーを招集し、会は全員一致でこの事態の鎮圧を警邏へと依頼することと決めた。
■
「……妙ですね」
青年会に所属する『カンパネラ』社長のパメラ・カスティリオーネ(kz0045)は柳眉を寄せる。
彼女の知り得るエヴァルドという青年は、確かにその内に強かな野心を抱いてはいた。
だが、こんな強硬手段に出る様なタイプの人間ではなかったのだ。
商売人をしている為、自分の人を見る目には自信がある。
最後に会ったのはいつだったか。
1週間前に、青年会とは別に商談で会った時には何の異変もなく、温厚なあの人柄のままだった。
ただ、その後すぐに不思議な噂を耳にするようになった。
確か内容は、深夜に、街中で見慣れぬ老紳士が見かけられるようになった、というもの。
それが関係しているのかどうか、パメラには分からない。
だがその噂が広まり始めてから、エヴァルドの様子は急におかしくなり始めたのは事実だ。
「社長はデモに参加されないので?」
商社に勤める一人に問われ、彼女は微笑んだ。それは見事に、美しく。
息を詰めた相手を見据えながら彼女は歌うように告げる。
「何か裏があると読めるような案件に、わたくしが手を出すとでも?」
「いいえ、滅相もないデス……」
「結構。とはいえ、確かに妙ではあります。一度エヴァルドの様子を見ておくべきでしょう」
窓の外。徐々に大きくなる声に微笑みを浮かべたまま、彼女は立ち上がる。
振り返り窓から下を覗き込んだその瞬間だった。
『我々に自由を!』
『何者にも邪魔されない、自由な商売を!!』
「……糸……?」
行進の列の中央。人に囲まれるかのような場所にいるエヴァルドの頭上。そこに、一瞬糸のようなものが見えたのだ。
しかしそれも一瞬。瞬きの後に、それは消えていた。
「……見間違い、でしょうか……?」
けれど。何か必ず裏がある。何者かが、この状況を先導している。
窓から身を離し、つばの広い帽子を手にしたパメラが自らのオフィスから外出しようとするのを、慌てた様子で社員が追いかける。
「パメラ様、どちらへ!?」
帽子をかぶって振り返ったパメラは、いつも通りの微笑みを浮かべて告げるのだった。
「ハンターオフィスへ。明らかに異常な状況ですから。わたくしたちで対処できないことは、彼らの分野です」
リプレイ本文
■
「止まれ!」
ヴァリオスを練り歩くデモ隊の前、馬と共に乗り入れた司祭服姿のアデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)は声を張り上げた。
「一体誰の許しを得て、この行進をしているのか! この通りは市民の生活の道である。責任者は前に出よ!」
デモ隊は思わぬ妨害者に足を止め、そしてアデリシアに近い商人たちは動揺からか顔を見合わせる。
足は止まっただろうか。そう考えていた彼女に対して、デモ隊の中央辺りから鋭い声が飛ぶ。
「権力者が力を以て自由を妨げるのか! 我々は権力者になど屈しない! 自由こそ、我々が求めるものであり、権力者はその真逆に位置するものだ!」
声の主はデモ隊の首謀者と言われているエヴァルドのもの。
(……やはり、妙ですね。まるで人が変わっている)
冷静に分析しつつ、アデリシアは声を張り上げた。
「自由である? 自由と無法を同一視するな。法に依らず自由を主張するならどうなるか、商人が知らぬわけではあるまい?」
諭すような彼女の声に対して、微かにどよめきがデモ隊の中で生まれるが、だがそれもエヴァルドまでは届かない。
否。『今の』エヴァルドの心には届かない。と言うべきだろうか。
もとはといえばこのデモ行進自体が、権力に対しての反抗だったのだ。だとすれば、それを抑えることに権力を纏ってはならなかったのだろう。
(とはいえ、少しでも動揺させられたのは僥倖でしょうか)
――さて、次の手だ。
■
「商売人が暴力、っていうかデモ行進とはちょっと自由が過ぎるんじゃないか?」
そこはこう、腕で勝負だろう。そんなことを思いつつミリア・ラスティソード(ka1287)は屋根の上からデモ隊を観察していた。
静かに傍らに抱えたバケツの中には、水がたっぷり入っている。
色々手段は考えてきたが、相手は一般人でデモ行進は行っているが暴力行為にまでは走っていない。
であれば、取れる手段はエヴァルド以外の頭を冷やさせ彼から引きはがし、エヴァルドに正気を取り戻させることだろう。
(そんじゃ、いってみるか)
ぐっと背伸びを一つ。そののち、ミリアは勢いよく手にしたバケツを――正確には、バケツの中の水を下を歩くデモ隊にぶちまけた。
「うわっ!?」
「なんだこれ、水か!?」
ちょうど列の中央に近い辺りにぶちまけられた水に、デモ隊にどよめきが走る。
水を被ったのはどうやらエヴァルドもだったようで、彼も一瞬足を止めていた。
「少しは頭冷やせたか? 商売人なら商売人らしく、商売で戦うべきだと思うけどな!」
「それだけで手に入れられない自由もあるだろう!」
頭上から降りかかるミリアの声に、エヴァルドが鋭い視線を向ける。
水がかかった程度ではどうやら正気は取り戻せないようだ。
――次の手だ。
■
鈍い音が石畳に響く。
「主催者のエヴァルドと直に話がしたい!」
敵意はないのだと強調するように、自身の武器であるディフェンダーを地面に突き立てたオウカ・レンヴォルト(ka0301)が、声を張り上げ前へ前へと歩み寄る。
入れ替わるように先にデモ隊の足止めをしていたアデリシアが別行動へと移った。
それを見送って、メイム(ka2290)とシルヴィア・オーウェン(ka6372)もオウカと同じく前へと歩を進める。
「あたしたちは長老会から依頼を受けてデモの鎮圧に来たハンターだよ。周りの人にも迷惑になるから、今日は解散して」
そう言ってメイムは街並みを見てみるよう全員に促す。
デモ行進をしていた商人たちがふと周囲を見回せば、活気ある街であるヴァリオスの街中で行われたデモの為に住人たちは家の中から出られず窓から恐々外の様子を見ていた。
「だが……」
「あぁ、エヴァルドさんが……」
「構わない! 自由を得るためだ。今は分からずとも、後になってこの行動の意味が彼らにも分かるだろう」
躊躇うデモ隊を強引に進めるべく、エヴァルドが声を上げた。
対して、オウカが口を開く。
「思想は否定せん。むしろ、そのより高みを目指そうとする志向は発展の基礎となりうるものだ。伸ばすべきものだろう」
デモ隊が更に困惑し始める。
自分たちの行動を少なくとも完全に否定しない人間が、目の前に立ち塞がっている事実が、彼らの足を止めたのだ。
「しかし、長老会の掲げた仕切りの中には、今でも通用するものや、あるべくしてあるものがある。それがあるからこそ保たれているものもあると自覚せねばならない」
「お願いです、止まって下さい。それが純粋な思いではなく、何らかの意図が介入するものであれば、防がねばなりません」
シルヴィアは声をかけつつ、隊の中央辺りをじっと見つめる。
恐らくそこに、主催者であるエヴァルドがいるはずだ。
■
同じころ。
本体とは少し離れたところで、ラスティ(ka1400)は色々なところで情報を得ようと奔走していた。
「エヴァルドがおかしくなった少し前から噂に上がってる『老紳士』ねぇ……」
ヴァリオスだけでなく、そう短時間で行き来が出来るわけでもない場所にも現れているらしいという報告から、彼はそれが同盟内で動き出した『人形』かそれに属するものなのではないかと推測した。
しかし、集めても集めてもただ情報を持つものが口を合わせて言うのは「見かけた」ということだけ。
その老紳士が妙な動きをしていた等という有力な情報は得られない。
「……仕方ねぇか。いったんデモ隊のところに戻ってみるか」
一度情報収集を切り上げ、デモ隊がいるであろう場所を見下ろせる屋上。
ちょうど、ミリアが配置していた場所とは反対側の建物へと舞い戻る。
下ではオウカとメイム、シルヴィアによる説得が試みられていた。
正面の屋上では空になったバケツを振るミリア。
デモ隊中央が濡れているのは、十中八九彼女のバケツの中身が原因だろう。
「エヴァルドは……あそこか」
装備品からロープを取り出し、ぐっと体勢を低く取る。
恐らくこのままいけば、下の3人が説得に成功する。とすれば、残るは明らかに正気ではないエヴァルドだけだ。
■
デモ隊がオウカの言葉とシルヴィアから漂う威圧に足を止め、メイムは小さく息を吐いた。
どうやらここでハンターとしてのスキルを使用してまでエヴァルドを捕獲する必要はなくなりそうだ。
ひらり、3人の傍に屋根の上から降りてきたラスティも合流する。
「えぇいどけ!」
歩みを止めたデモ隊の中央で、しびれを切らしたエヴァルドがオウカたちのいる前方へと人々をかき分けて歩みを進めてくる。
「まぁ待て、落ち着いてくれ。とりあえず落ち着いて話をしよう」
「うるさい! 邪魔をするな!」
エヴァルド以外のデモ隊は既にオウカたちのおかげでこれ以上行進を続ける様子はない。
残されたエヴァルドだけが、その目に異常な光を湛えていた。
「話が通じそうにないな……」
ラスティは悟られぬ程度に舌打ちすると、そっとスキルによる浄化を試みる。
が、エヴァルドに変化は見られない。
となるとこれは洗脳系とはまた少し違うのだろうか?
その様子を見ていたシルヴィアが、ふとエヴァルドの頭上を見て目を眇めた。
「……あれは……」
瞬間、デモ隊が開けた道を反射的に彼女は駆け出した。
目指すはエヴァルド。
「大丈夫だ、落ち着いてくれ」
どよめくデモ隊はオウカやラスティによって落ち着かされ、エヴァルドまでの道は開いた。
相手は一般人。ハンターである彼女が後れを取るわけがない。
万が一の場合には、屋上のミリアが対応するだろう。
一気に間合いを詰めたシルヴィアは、持てる力を全て込めて自身の剣を振り抜く。
目標はエヴァルド――を操る様に伸びていた、糸らしきもの。
音も立てず断ち切られたそれが離れた瞬間、エヴァルドは突然意識を失った。
崩れ落ちる彼を支えたのは念のために捕縛用のロープを手にしていたラスティ。
「落ち着いてほしい。おそらく彼は何者かに操られていた可能性がある。今回のデモも、恐らくは本意ではなかっただろう」
「デモはこれで終わりだよ! ちょっとだけ事情を聞かせて欲しいから、事情を知ってそうな人は残ってね」
オウカとメイムの言葉に、デモ隊の面々は顔を見合わせるのだった。
他方。馬を駆りエヴァルドを「操っている可能性がある」ものがいるだろうと探していたアデリシアの視界の端で、ぷつりとなにかが切られた。
「……切ったのか、それとも切られたのか……」
恐らくは仲間が切ったと同時に、操っていたのだろう誰かも糸を切ったのかもしれない。
これ以上の追跡は不可能だろう。
手綱を引き、アデリシアは小さく嘆息した。
■
意識を取り戻したエヴァルドは、自分がデモ隊を率いて街中を行進していた事実はおぼろげに覚えているものの、なぜそういう行為に走ったのかは覚えていない。と証言した。
何故そのようなことをしたのか分からない。と首を傾げている。
何度考えても、自分がそんなことを思いつくはずがない、と納得できない様子だ。
「得られた情報は少ないな……」
「とはいえ、糸を切れば対象の動きは止められる可能性がある。それを知り得たのは十分な収穫です」
「老紳士についても情報欲しかったけどな」
「この人数でそこまでは難しいんじゃないかなー」
エヴァルドの調書に付き合った面々が口々にそう言い合いながら。
ヴァリオスで起こった不可思議な行進は、多くの謎を残しつつ幕引きとなったのだった。
END
「止まれ!」
ヴァリオスを練り歩くデモ隊の前、馬と共に乗り入れた司祭服姿のアデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)は声を張り上げた。
「一体誰の許しを得て、この行進をしているのか! この通りは市民の生活の道である。責任者は前に出よ!」
デモ隊は思わぬ妨害者に足を止め、そしてアデリシアに近い商人たちは動揺からか顔を見合わせる。
足は止まっただろうか。そう考えていた彼女に対して、デモ隊の中央辺りから鋭い声が飛ぶ。
「権力者が力を以て自由を妨げるのか! 我々は権力者になど屈しない! 自由こそ、我々が求めるものであり、権力者はその真逆に位置するものだ!」
声の主はデモ隊の首謀者と言われているエヴァルドのもの。
(……やはり、妙ですね。まるで人が変わっている)
冷静に分析しつつ、アデリシアは声を張り上げた。
「自由である? 自由と無法を同一視するな。法に依らず自由を主張するならどうなるか、商人が知らぬわけではあるまい?」
諭すような彼女の声に対して、微かにどよめきがデモ隊の中で生まれるが、だがそれもエヴァルドまでは届かない。
否。『今の』エヴァルドの心には届かない。と言うべきだろうか。
もとはといえばこのデモ行進自体が、権力に対しての反抗だったのだ。だとすれば、それを抑えることに権力を纏ってはならなかったのだろう。
(とはいえ、少しでも動揺させられたのは僥倖でしょうか)
――さて、次の手だ。
■
「商売人が暴力、っていうかデモ行進とはちょっと自由が過ぎるんじゃないか?」
そこはこう、腕で勝負だろう。そんなことを思いつつミリア・ラスティソード(ka1287)は屋根の上からデモ隊を観察していた。
静かに傍らに抱えたバケツの中には、水がたっぷり入っている。
色々手段は考えてきたが、相手は一般人でデモ行進は行っているが暴力行為にまでは走っていない。
であれば、取れる手段はエヴァルド以外の頭を冷やさせ彼から引きはがし、エヴァルドに正気を取り戻させることだろう。
(そんじゃ、いってみるか)
ぐっと背伸びを一つ。そののち、ミリアは勢いよく手にしたバケツを――正確には、バケツの中の水を下を歩くデモ隊にぶちまけた。
「うわっ!?」
「なんだこれ、水か!?」
ちょうど列の中央に近い辺りにぶちまけられた水に、デモ隊にどよめきが走る。
水を被ったのはどうやらエヴァルドもだったようで、彼も一瞬足を止めていた。
「少しは頭冷やせたか? 商売人なら商売人らしく、商売で戦うべきだと思うけどな!」
「それだけで手に入れられない自由もあるだろう!」
頭上から降りかかるミリアの声に、エヴァルドが鋭い視線を向ける。
水がかかった程度ではどうやら正気は取り戻せないようだ。
――次の手だ。
■
鈍い音が石畳に響く。
「主催者のエヴァルドと直に話がしたい!」
敵意はないのだと強調するように、自身の武器であるディフェンダーを地面に突き立てたオウカ・レンヴォルト(ka0301)が、声を張り上げ前へ前へと歩み寄る。
入れ替わるように先にデモ隊の足止めをしていたアデリシアが別行動へと移った。
それを見送って、メイム(ka2290)とシルヴィア・オーウェン(ka6372)もオウカと同じく前へと歩を進める。
「あたしたちは長老会から依頼を受けてデモの鎮圧に来たハンターだよ。周りの人にも迷惑になるから、今日は解散して」
そう言ってメイムは街並みを見てみるよう全員に促す。
デモ行進をしていた商人たちがふと周囲を見回せば、活気ある街であるヴァリオスの街中で行われたデモの為に住人たちは家の中から出られず窓から恐々外の様子を見ていた。
「だが……」
「あぁ、エヴァルドさんが……」
「構わない! 自由を得るためだ。今は分からずとも、後になってこの行動の意味が彼らにも分かるだろう」
躊躇うデモ隊を強引に進めるべく、エヴァルドが声を上げた。
対して、オウカが口を開く。
「思想は否定せん。むしろ、そのより高みを目指そうとする志向は発展の基礎となりうるものだ。伸ばすべきものだろう」
デモ隊が更に困惑し始める。
自分たちの行動を少なくとも完全に否定しない人間が、目の前に立ち塞がっている事実が、彼らの足を止めたのだ。
「しかし、長老会の掲げた仕切りの中には、今でも通用するものや、あるべくしてあるものがある。それがあるからこそ保たれているものもあると自覚せねばならない」
「お願いです、止まって下さい。それが純粋な思いではなく、何らかの意図が介入するものであれば、防がねばなりません」
シルヴィアは声をかけつつ、隊の中央辺りをじっと見つめる。
恐らくそこに、主催者であるエヴァルドがいるはずだ。
■
同じころ。
本体とは少し離れたところで、ラスティ(ka1400)は色々なところで情報を得ようと奔走していた。
「エヴァルドがおかしくなった少し前から噂に上がってる『老紳士』ねぇ……」
ヴァリオスだけでなく、そう短時間で行き来が出来るわけでもない場所にも現れているらしいという報告から、彼はそれが同盟内で動き出した『人形』かそれに属するものなのではないかと推測した。
しかし、集めても集めてもただ情報を持つものが口を合わせて言うのは「見かけた」ということだけ。
その老紳士が妙な動きをしていた等という有力な情報は得られない。
「……仕方ねぇか。いったんデモ隊のところに戻ってみるか」
一度情報収集を切り上げ、デモ隊がいるであろう場所を見下ろせる屋上。
ちょうど、ミリアが配置していた場所とは反対側の建物へと舞い戻る。
下ではオウカとメイム、シルヴィアによる説得が試みられていた。
正面の屋上では空になったバケツを振るミリア。
デモ隊中央が濡れているのは、十中八九彼女のバケツの中身が原因だろう。
「エヴァルドは……あそこか」
装備品からロープを取り出し、ぐっと体勢を低く取る。
恐らくこのままいけば、下の3人が説得に成功する。とすれば、残るは明らかに正気ではないエヴァルドだけだ。
■
デモ隊がオウカの言葉とシルヴィアから漂う威圧に足を止め、メイムは小さく息を吐いた。
どうやらここでハンターとしてのスキルを使用してまでエヴァルドを捕獲する必要はなくなりそうだ。
ひらり、3人の傍に屋根の上から降りてきたラスティも合流する。
「えぇいどけ!」
歩みを止めたデモ隊の中央で、しびれを切らしたエヴァルドがオウカたちのいる前方へと人々をかき分けて歩みを進めてくる。
「まぁ待て、落ち着いてくれ。とりあえず落ち着いて話をしよう」
「うるさい! 邪魔をするな!」
エヴァルド以外のデモ隊は既にオウカたちのおかげでこれ以上行進を続ける様子はない。
残されたエヴァルドだけが、その目に異常な光を湛えていた。
「話が通じそうにないな……」
ラスティは悟られぬ程度に舌打ちすると、そっとスキルによる浄化を試みる。
が、エヴァルドに変化は見られない。
となるとこれは洗脳系とはまた少し違うのだろうか?
その様子を見ていたシルヴィアが、ふとエヴァルドの頭上を見て目を眇めた。
「……あれは……」
瞬間、デモ隊が開けた道を反射的に彼女は駆け出した。
目指すはエヴァルド。
「大丈夫だ、落ち着いてくれ」
どよめくデモ隊はオウカやラスティによって落ち着かされ、エヴァルドまでの道は開いた。
相手は一般人。ハンターである彼女が後れを取るわけがない。
万が一の場合には、屋上のミリアが対応するだろう。
一気に間合いを詰めたシルヴィアは、持てる力を全て込めて自身の剣を振り抜く。
目標はエヴァルド――を操る様に伸びていた、糸らしきもの。
音も立てず断ち切られたそれが離れた瞬間、エヴァルドは突然意識を失った。
崩れ落ちる彼を支えたのは念のために捕縛用のロープを手にしていたラスティ。
「落ち着いてほしい。おそらく彼は何者かに操られていた可能性がある。今回のデモも、恐らくは本意ではなかっただろう」
「デモはこれで終わりだよ! ちょっとだけ事情を聞かせて欲しいから、事情を知ってそうな人は残ってね」
オウカとメイムの言葉に、デモ隊の面々は顔を見合わせるのだった。
他方。馬を駆りエヴァルドを「操っている可能性がある」ものがいるだろうと探していたアデリシアの視界の端で、ぷつりとなにかが切られた。
「……切ったのか、それとも切られたのか……」
恐らくは仲間が切ったと同時に、操っていたのだろう誰かも糸を切ったのかもしれない。
これ以上の追跡は不可能だろう。
手綱を引き、アデリシアは小さく嘆息した。
■
意識を取り戻したエヴァルドは、自分がデモ隊を率いて街中を行進していた事実はおぼろげに覚えているものの、なぜそういう行為に走ったのかは覚えていない。と証言した。
何故そのようなことをしたのか分からない。と首を傾げている。
何度考えても、自分がそんなことを思いつくはずがない、と納得できない様子だ。
「得られた情報は少ないな……」
「とはいえ、糸を切れば対象の動きは止められる可能性がある。それを知り得たのは十分な収穫です」
「老紳士についても情報欲しかったけどな」
「この人数でそこまでは難しいんじゃないかなー」
エヴァルドの調書に付き合った面々が口々にそう言い合いながら。
ヴァリオスで起こった不可思議な行進は、多くの謎を残しつつ幕引きとなったのだった。
END
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
質問卓(教えてパメラちゃん ミリア・ラスティソード(ka1287) 人間(クリムゾンウェスト)|20才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2017/07/29 08:12:12 |
|
![]() |
相談と宣言と調整と( ミリア・ラスティソード(ka1287) 人間(クリムゾンウェスト)|20才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2017/07/29 20:42:33 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/07/25 11:09:47 |