ゲスト
(ka0000)
魔装の少女
マスター:赤山優牙

- シナリオ形態
- シリーズ(新規)
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,300
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 5~5人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/08/01 09:00
- 完成日
- 2017/08/03 21:38
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●あれから
太陽が沈む。今日という一日が終わろうとしている。
フレッサの街の中、見晴らしの良い塔の中に、少女の“住まい”があった。
「……なるほど。それで、ここに居るのじゃな」
差し出されたお茶を飲みながらオキナが納得したように言った。
緑髪の少女――紡伎 希(kz0174)――から、事の顛末を確認していたのだ。
「人は何度でも絶望する……けど、そこから、何度も立ち上がれる想いを、人は示せる……私は、それを証明したいのです」
「気の長い話じゃな。だが、悪くはないのう。儂は……絶望から逃れられんかった……じゃが、儂の後を往く者が、想いを示し続けられると信じる事はできるからの」
穏やかな微笑を浮かべ、オキナはお茶をテーブルに置いた。
「ハンターには儂が手を回しておこう。あと、スキルセットの件もな……まぁ、当てが無い訳じゃないしの」
「ありがとうございます」
「しかし、幽閉で暫くは暇かと思ったのに、希も難儀じゃのう」
先の依頼でネル・ベル(kz0082)に連れ去られた希は、フレッサの街に用意された一室を与えられた。
豪華な調度品に囲まれており、まるで、貴族の令嬢か婦人のような扱いだ。もっとも、メイドが居る訳でもなく、家事全般は全て自分で行わなければならないが。
また、扉の鍵は閉まっていない。いつでも、逃げようと思えば逃げられる状態である。
「……フレッサの街の住民が人質ですから」
「そうじゃろうな」
希はフレッサ領主とネル・ベルとの密談を目撃した。
そして、ネル・ベルに連れられてフレッサの街に幽閉されている。ここから脱出して、ハンターオフィスに駆け込めば、ネル・ベルの陰謀を防げるだろう。
だが、ネル・ベルの討伐を行う前に、あの歪虚は陰謀が失敗したとして、用無しとなったフレッサの街を“片付ける”はずだ。そして、それを防げる手段は……今の所、無い。
「きっと、何らかの機会が来ると信じています」
「いつだって、タイミングが肝心じゃ。慌てる事なく、自らが行う事を成せば良い」
「陰謀の片棒を担ぐのは嫌ですが……」
明確な証拠を得られてはいないがフレッサ領主はネル・ベルの傀儡なのだろう。
貴族派であるフレッサ領主を裏で操り、王家派と争わせる事で王国にダメージを与えるつもりなのだ。
その為、フレッサ領の発展にネル・ベルは力を入れている。発言力を増す為だ。歪虚の割に、打ち出した経済対策に効果が出ているのは皮肉としかいいようがないのだが。
「……こう、考えるといい。希の活躍によって、フレッサの街に住む市民の為になっているとな」
「そうだといいのですが……」
「ともかく、レタニケ領北部の管理を一時的とはいえ、任されたのじゃ。安全確保は大事な事に変わりはしないじゃろ」
レタニケ領での亜人に絡む堕落者ライルの件で、フレッサ領の私兵も少なからず功績を残した。
貴族間同士の睨み合いにより、レタニケ領全ての併合は叶わなかったが、北部一体の管理をフレッサ領主は任される事になったのだ。
大峡谷に近い為、治安は悪い上に、森林と温泉ぐらいしかない僻地なのだが、ネル・ベルはこれらを有効に使うつもりらしい。
「……明朝、出発します」
温泉はフレッサの街の住民が使える保養所にするとの事で、早速、工事の手が入る事になってはいるのだが、亜人の姿がチラチラ目撃された。
希は亜人討伐をネル・ベルに命令されたのだ。
「うむ。現地でハンター達と合流するように調整しておくからの」
●大峡谷に程近い山裾
「遅いぞ、私の従者よ」
人との接触を避ける為、街道から外れ、山の尾根沿いを進んでいた希に、ネル・ベルが声を掛けた。
希は真っ黒なローブのフードを除けて深々と一礼した。
「申し訳ございません、ネル・ベル様。途中、亜人と遭遇しまして」
「……ふむ。特に問題は無かった様子だな」
心配したのを隠すように一瞬、チラリと希の全身を確認したネル・ベル。
「はい。追い払いましたが、まだ、この一帯に潜んでいる可能性が高いです」
「亜人がこれほど出没するのは、住処を追われた可能性が高い。原因を究明し、必要なら解決させねばならん」
レタニケ領を襲った亜人は壊滅させている。
それ以外の亜人が大峡谷から出てきているというのは、何かあったと見る方が自然だろう。
「まずは、直接的な驚異となる亜人を討伐。以後は、大峡谷へと進むぞ」
「仰せのままに……あの……ネル・ベル様……負のマテリアルの影響に関しては如何なされますか?」
歪虚であるネル・ベルは負のマテリアルを放っている。
それほど強烈ではないものの、それでも近くに居る者にとっては良い影響は無い。
「必要な時だけ傍に居るが、調査時は別行動でも構わないだろう……何か、心配事か?」
「人の目に付く事もあるかと思いますし、それに、私は今、武器を持っていないので……」
そういえば武器を身に付けるのは禁止していたなとネル・ベルは思い出した。
従者の姿をもう一度、しっかりと見つめる歪虚。
「ふむ……ならば、必要になったら、偉大なるこの私を持つと良い」
「持……つ、のですか?」
「そうだ。私の従者よ、手にすべき力を語るが良い。私がその力となろう」
そして、緑髪の少女が欲した力の形に、ネル・ベルは【変容】したのだった――。
●あるハンターオフィスにて
受付嬢ミノリは地方のハンターオフィスへと飛ばされていた。
何でも担当者の産休らしく、その間、代わりになる人を探していたという。
「それでも、なんで、わたしなの~」
暇そうにカウンターに身を預ける。
今年の夏は海を満喫しようとしたら、王国の片田舎だ。もちろん、海は近くではない。
「そして、また、亜人討伐依頼だし」
いつもだったら、同僚が返事をしてくれるのだが、生憎、カウンターには誰もいない。
映し出されたモニターには、亜人の調査討伐について記されていた。
レタニケ領より更に北。大峡谷にほど近い山林での活動だ。
「誰か……来て、わたし、暇でしょうがないよー」
ミノリの声が静まり返っているハンターオフィスに響くのであった。
太陽が沈む。今日という一日が終わろうとしている。
フレッサの街の中、見晴らしの良い塔の中に、少女の“住まい”があった。
「……なるほど。それで、ここに居るのじゃな」
差し出されたお茶を飲みながらオキナが納得したように言った。
緑髪の少女――紡伎 希(kz0174)――から、事の顛末を確認していたのだ。
「人は何度でも絶望する……けど、そこから、何度も立ち上がれる想いを、人は示せる……私は、それを証明したいのです」
「気の長い話じゃな。だが、悪くはないのう。儂は……絶望から逃れられんかった……じゃが、儂の後を往く者が、想いを示し続けられると信じる事はできるからの」
穏やかな微笑を浮かべ、オキナはお茶をテーブルに置いた。
「ハンターには儂が手を回しておこう。あと、スキルセットの件もな……まぁ、当てが無い訳じゃないしの」
「ありがとうございます」
「しかし、幽閉で暫くは暇かと思ったのに、希も難儀じゃのう」
先の依頼でネル・ベル(kz0082)に連れ去られた希は、フレッサの街に用意された一室を与えられた。
豪華な調度品に囲まれており、まるで、貴族の令嬢か婦人のような扱いだ。もっとも、メイドが居る訳でもなく、家事全般は全て自分で行わなければならないが。
また、扉の鍵は閉まっていない。いつでも、逃げようと思えば逃げられる状態である。
「……フレッサの街の住民が人質ですから」
「そうじゃろうな」
希はフレッサ領主とネル・ベルとの密談を目撃した。
そして、ネル・ベルに連れられてフレッサの街に幽閉されている。ここから脱出して、ハンターオフィスに駆け込めば、ネル・ベルの陰謀を防げるだろう。
だが、ネル・ベルの討伐を行う前に、あの歪虚は陰謀が失敗したとして、用無しとなったフレッサの街を“片付ける”はずだ。そして、それを防げる手段は……今の所、無い。
「きっと、何らかの機会が来ると信じています」
「いつだって、タイミングが肝心じゃ。慌てる事なく、自らが行う事を成せば良い」
「陰謀の片棒を担ぐのは嫌ですが……」
明確な証拠を得られてはいないがフレッサ領主はネル・ベルの傀儡なのだろう。
貴族派であるフレッサ領主を裏で操り、王家派と争わせる事で王国にダメージを与えるつもりなのだ。
その為、フレッサ領の発展にネル・ベルは力を入れている。発言力を増す為だ。歪虚の割に、打ち出した経済対策に効果が出ているのは皮肉としかいいようがないのだが。
「……こう、考えるといい。希の活躍によって、フレッサの街に住む市民の為になっているとな」
「そうだといいのですが……」
「ともかく、レタニケ領北部の管理を一時的とはいえ、任されたのじゃ。安全確保は大事な事に変わりはしないじゃろ」
レタニケ領での亜人に絡む堕落者ライルの件で、フレッサ領の私兵も少なからず功績を残した。
貴族間同士の睨み合いにより、レタニケ領全ての併合は叶わなかったが、北部一体の管理をフレッサ領主は任される事になったのだ。
大峡谷に近い為、治安は悪い上に、森林と温泉ぐらいしかない僻地なのだが、ネル・ベルはこれらを有効に使うつもりらしい。
「……明朝、出発します」
温泉はフレッサの街の住民が使える保養所にするとの事で、早速、工事の手が入る事になってはいるのだが、亜人の姿がチラチラ目撃された。
希は亜人討伐をネル・ベルに命令されたのだ。
「うむ。現地でハンター達と合流するように調整しておくからの」
●大峡谷に程近い山裾
「遅いぞ、私の従者よ」
人との接触を避ける為、街道から外れ、山の尾根沿いを進んでいた希に、ネル・ベルが声を掛けた。
希は真っ黒なローブのフードを除けて深々と一礼した。
「申し訳ございません、ネル・ベル様。途中、亜人と遭遇しまして」
「……ふむ。特に問題は無かった様子だな」
心配したのを隠すように一瞬、チラリと希の全身を確認したネル・ベル。
「はい。追い払いましたが、まだ、この一帯に潜んでいる可能性が高いです」
「亜人がこれほど出没するのは、住処を追われた可能性が高い。原因を究明し、必要なら解決させねばならん」
レタニケ領を襲った亜人は壊滅させている。
それ以外の亜人が大峡谷から出てきているというのは、何かあったと見る方が自然だろう。
「まずは、直接的な驚異となる亜人を討伐。以後は、大峡谷へと進むぞ」
「仰せのままに……あの……ネル・ベル様……負のマテリアルの影響に関しては如何なされますか?」
歪虚であるネル・ベルは負のマテリアルを放っている。
それほど強烈ではないものの、それでも近くに居る者にとっては良い影響は無い。
「必要な時だけ傍に居るが、調査時は別行動でも構わないだろう……何か、心配事か?」
「人の目に付く事もあるかと思いますし、それに、私は今、武器を持っていないので……」
そういえば武器を身に付けるのは禁止していたなとネル・ベルは思い出した。
従者の姿をもう一度、しっかりと見つめる歪虚。
「ふむ……ならば、必要になったら、偉大なるこの私を持つと良い」
「持……つ、のですか?」
「そうだ。私の従者よ、手にすべき力を語るが良い。私がその力となろう」
そして、緑髪の少女が欲した力の形に、ネル・ベルは【変容】したのだった――。
●あるハンターオフィスにて
受付嬢ミノリは地方のハンターオフィスへと飛ばされていた。
何でも担当者の産休らしく、その間、代わりになる人を探していたという。
「それでも、なんで、わたしなの~」
暇そうにカウンターに身を預ける。
今年の夏は海を満喫しようとしたら、王国の片田舎だ。もちろん、海は近くではない。
「そして、また、亜人討伐依頼だし」
いつもだったら、同僚が返事をしてくれるのだが、生憎、カウンターには誰もいない。
映し出されたモニターには、亜人の調査討伐について記されていた。
レタニケ領より更に北。大峡谷にほど近い山林での活動だ。
「誰か……来て、わたし、暇でしょうがないよー」
ミノリの声が静まり返っているハンターオフィスに響くのであった。
リプレイ本文
●再会
集まった面々をロニ・カルディス(ka0551)が見渡す。
これから亜人共を探索しつつ、狩らなければならないからだ。
「山狩りをするにはいささか頭数が心許ないが……まぁ、この人数でやるしかあるまいな」
通信機は勿論のこと、道具類の準備にも余念はない。
その時だった。脇の森の中から人が姿を現した。
「なんだ?」
警戒心全開でロニは注視する。黒いローブ姿だが、背格好から少女と推測できる。
道に迷った訳でもなさそうなのだが。
「……これからの亜人狩り。私も手伝わせて下さい」
少女の台詞は、ハンター達の目的を知っているという事を意味していた。
つまり、ハンターオフィスかあるいは依頼主の関係者なのだろうか。
「あなたは……」
アニス・エリダヌス(ka2491)が少女の声に反応した。
聞き覚えがある。恋人が娘のように可愛がっていた歪虚に連れ去られたという少女――紡伎 希(kz0174)なのだろう。
間違えるはずはない。フードから見えるゆるふわの緑髪と緑色の瞳。
「貴女は征西部隊……牡丹さんのところで、お会いしましたか」
素顔を隠すような服装には、きっと訳があるのだろう。
だから、アニスはそう声を掛けた。少女はローブのフードをゆっくりと外す。
目元を隠すような仮面をつけているが、間違いなく、希のようだ。
「……ほぅ、仮面の少女ときたかや、仮面仲間ということでワシらと行こうぞ」
星輝 Amhran(ka0724)がツカツカと少女に近づいて握手を求めた。
その手を少女はしっかりと握る。
暖かい手に、星輝は目元が熱くなった。良かったと、無事かどうかともかく生きているのなら、安堵できる。
真剣な眼差しでアイコンタクトをしつつ、小さな声で呟いた。
「ワシラを頼れ」
「……で、キララ様。私にこれを渡されても」
気を遣ったのを台無しにするような少女の台詞。
少女の手にはデリンジャーが握られていた。それを再び、星輝へと戻す。
「なんでじゃ!?」
驚く星輝の横にアルマ・A・エインズワース(ka4901)が進み出る。
少女をジッと眺め――首を傾げた。
「……わぅ? わふー?」
「おひ……いえ、皆さん、“始めまして”」
その台詞は、どこか可笑しいのだが、ハンター達に正体を隠しているつもりはなさそうだ。むしろ、ハンターオフィスに記録として残されてしまう事を警戒している……そんな様子にも感じられた。
だから、アルマは耳元で呟く。
「お約束は、また今度見せてあげるですよー」
返事の代わりに少女は微笑を浮かべて返した。
そこへ、アルラウネ(ka4841)がギュっと少女を抱きしめる。
「とにかく、こうして会えただけでも嬉しいわ」
きっと、少女を大切に思う、この場にいない多くの仲間も抱きしめただろうから。
それ程までに、心配した。そして、少女の姿を今一度、しっかりと眺めた。
「……えっと、名前はなんて呼んだらいいのかしら?」
「皆様がお好きなように。私からは名乗りませんので」
「そう……なら、ノゾミちゃんって呼ばせてもらうわ。ところで、どうしていたの?」
アルラウネの質問に、アニスと星輝も頷く。
「話せる範囲で構いません。今、どのような生活を?」
「ジジイは元気しとるか?」
食いつくような3人の視線に、希は思わずタジタジとなる。
「えと……私はそれなりに何事も無く、過ごしています」
「歪虚に酷い目に合わされてない?」
大真面目に心配するアルラウネの台詞に、突如としてネル・ベル(kz0082)の声が響いた。
「この私が従者にそんな事する訳がない。私の従者には良い生活をさせているぞ」
「どっから、声がしてるんだ?」
ロニが驚くのも無理はない。
全員の視線が希の持つ魔導剣弓のような武器へと集まった。
「このマテリアルの感じ……縁の深い超強い某傲慢様の匂いがするのじゃが、まさか、噂に聞く【変容】という奴かの?」
「白々しい台詞だな、星輝よ」
傲慢歪虚特有の能力の一つ、【変容】。
ネル・ベルはその力で武具へと姿を変えるのだ。
「特に虐げられている……という様子ではなさそうですね」
「そのようだな」
アニスの安堵した言葉にロニは同意する。
そして、道具の再チェックへと戻る。あれは――まぁ、大丈夫だろうと思う事にした。
「わぅ? この武器は歪虚さんなんです? 初めまして……ですよね? アルマって言います」
「まぁ、多分、そうだろうな。どこかで会った気もしないでもないが……私の名はネル・ベルだ。覚えておくといい」
「なんだか初めて会った気がしないですー! 同じですねー!」
瞳を輝かせて希の持つ武器へと一生懸命話しかけるアルマ。
傍目から見ると、玩具に興味津々な犬のようにも……見えるかもしれない。
「わふ! 僕、ネルさんのこと嫌いじゃない感じですっ」
「フフフ。そうだろう。私は偉大なる傲慢だからな」
無駄に勝ち誇った様子のネル・ベルの発言に星輝とアルラウネはお互いの顔を見合わせる。
「いつも通り、チョロいな」
「こんなのでいいのかしら」
いつまでも立ち話をしている場合ではないと気がつき、ハンター達は亜人の探索へと乗り出した。
●探索
「この痕跡は……亜人か?」
ロニが低い姿勢となって木の幹を調べているアルラウネに声を掛けた。
腰に手を当てながら上体を起こすと、アルラウネはロニのいる方向に振り返る。
「……って、あれ、亜人じゃない?」
「思ったより見つけるのが早かったな」
杖を構えたロニだったが、その動きをアルラウネが制した。
「待って……あの、亜人はもしかして……」
そして、『エネミン』と亜人の名を呼んだ。
一瞬、ビクリと身体を震わせ、特徴的な杖をしっかりと握ったまま声を主を探す亜人。
「……敵ではないのか」
「まぁ、敵かどうかと言われると分からないけど」
両肩を竦めるアルラウネに、エネミンという名の亜人が辺りを警戒しながら近寄ってきた。
「オオキイコエ、ダスナ。ミツカルダロ」
「久しぶり! 元気みたいね。何してたの?」
親愛を示す為にギュッとハグして尋ねる。
「ヘンナノオシツケルナ。テキタイシテイタ、グループ、サグッテイタ」
「勢力争いか何かか?」
ロニの質問に首を振りながら亜人は何とかアルラウネの戒めから脱出する。
「チョットチガウ。テリトリーカラ、キュウニ、イナクナッタ」
「何か原因が?」
「……フキツナドウクツ。キット、ソレ。オマエタチ、チカヨラナイホウガ、イイ」
もし人間なら、深刻そうな顔をしていただろう、エネミンはそう言い残すと、森の中へと消えていったのだった。
「不吉な洞窟か……大峡谷には、まだ謎が多いのだな」
ロニが大峡谷の方向を見つめながら、呟いたのだった。
アルラウネとロニの二人がエネミンと遭遇していた頃、アニスとアルマの二人も森の中で亜人を探索していた。
途中、馬もバイクも入れないような所は降りて、なおも探索を続ける。
「なかなか、見つかりませんね」
「こういう、スタンダード? な、お仕事は久しぶりですねぇ」
アニスが方位磁石を片手に位置を確認しながら周囲を見渡し、アルマは犬のように……じゃなくて、探偵のように、足跡や地面の痕跡を探っていた。
地道な二人の探索は、やがて、傷ついた亜人を見つけるに至る。
「……食べ物でも探しているのでしょうか?」
ヒソヒソとした声でアニスが言った。
確かに、亜人は茸や野草の類を見つけ出しては口へと運んでいる。
奇襲すれば、手を掛けずに倒すことはできそうだが……。
「頭使ってみるです?」
「え?」
アルマの言葉にアニスは首を傾げた。
次の瞬間だった。アルマの遠吠え……じゃなくて、叫び声が森に響く。
「わっふぅぅ!!!」
驚愕しない訳がない。
亜人は脱兎の如く、逃げ出した。
「逃げちゃいますね……」
「いいんですよ~。後を付けちゃいましょう」
如何にも楽しそうにアルマが言うのであった。
通信機から入ってくる仲間の連絡を星輝は受け取った。
亜人の住処が分かったという。それに、『不吉な洞窟』というキーワードも得たという。
「全く聞いた事はないが、聞き覚えはあるかの?」
「……オキナに聞いてみれば、何か分かるかもしれません」
大峡谷は王国と帝国を隔ている巨大な谷だ。
その全容は未だ、明らかになっていない。亜人の勢力域でもある秘境なのだ。
「ふむ。まぁ、それは帰ってからじゃな。とりあえずは、亜人じゃな」
星輝の宣言に希は頷いた。
先に歩き出した星輝に対し、希が後ろから声を掛けてきた。
「キララ様……」
「なんじゃ?」
振り返った星輝に視界の中で少女は仮面を外していた。
畏まった様子で、丁寧に頭を下げる。
「ご心配頂きまして、ありがとうございます。私は何度でも、何度でも希望を示し続けたいと思います」
「……そうじゃな」
星輝は口元を緩めながら、応えた。
その間に割って入るかのようにネル・ベルの声が響く。
「まぁ、最後には絶望に至るわけだがな」
「それは、“最後”になってみないと分からんもんじゃ」
大丈夫。希はきっと、絶望したりしない。
星輝はそう思いながら、仲間との合流を目指し、歩き出した。
●魔装
全容は分からないが、亜人の拠点は森の中に広がっているようだ。
頻繁に通っているのだろうと思われる箇所に罠を仕掛けた星輝が通信機のスイッチを入れた。
「準備は万全じゃ」
「分かった。それでは、襲撃を開始する」
ロニの返事と共にアルラウネが抜刀しながら駆け出した。
「負傷者をいたぶる趣味は無いんだけど……殲滅させてもらうわ」
奇声を挙げる亜人を切り伏せる。止めは気にせず、一気に拠点へと踏み入った。
「怪我したら、すぐに言って下さいね」
その背後をアニスとロニが続く。
二人共腕の立つ聖導士である。多少の怪我など、気にせずとも問題はないだろう。
突入したハンター達を支援すべく、アルマの機導術が放たれた。
三筋の光は亜人達に直撃すると、それだけで、敵を粉砕していく。
「わふー。こんにちはですよ。それから、ばいばいですー」
無垢に笑いながら、逃げ惑う、あるいは、傷つき、地面を這い蹲る亜人に容赦なく術を叩き込んでいく。
その姿にネル・ベルの感想の言葉が流れた。
「人間にしておくのか、勿体無い残虐さだな」
「……これも依頼の為。恨みはありませんが、私も戦います」
弓形態で弦を引き絞る希。
負のマテリアルで精製された矢が奇っ怪な飛翔音を響かせる。
不幸にも標的にされた亜人の頭に突き刺さった。
「さすがじゃ! やはり、強力無比な歪虚が変容した武器は強いのじゃ!」
星輝が明らかな営業スマイルで褒め称えた。
もちろん、本気で言っている訳ではない。出来るだけ良い気分にさせておいて、情報を引き出そうとしているのだ。
「相変わらず、見立てが正しいな、星輝よ」
「当然じゃ……あ、亜人が逃げようとしている。あっちには、ワナガハッテナイー」
指さした方角、やや距離がある所に亜人の背中が見える。
「ふむ……私の従者よ。私を星輝に投げ渡すのだ」
「え? あ、はい。分かりました」
大きく振りかぶって希は魔装を投げる。
魔導剣弓のような形をした武器の柄を星輝が見事に受け取った瞬間だった。
一気に視界が変わったと思った瞬間、目の前に亜人が現れた――いや、星輝が瞬間移動したのだった。
「武器の……ままでも、飛べるのか……」
飛んだだけなので、視界が揺らぎ、フラフラする。
星輝は以前にもネル・ベルの瞬間移動を受けた事があるが、あの時よりも、酷い状態だ。
「ふむ。やはり、魔装状態のまま瞬間移動するのは負担が大きいか」
どうやら希の代わりに実験体にされたようだった。
出来ない事はないが、負のマテリアルの調整が難しいのだろう。
「この武器は、危険ですね」
真っ先にアニスが駆け寄り、回復魔法を唱える。
拠点の中へと踏み入っていた意味があったというものだ。
星輝の怪我は無いのだが、負のマテリアルの侵食が酷い。回復魔法を掛けていないと戦闘不能になる可能性もあるだろう。
「逃げ出したのは倒しきったはずだ。後は立てこもりの亜人だけか」
拠点から脱出を図ろうとして罠に掛かり身動きの取れなくなった亜人共を順番に攻撃魔法を放ち終わったロニが一行を見渡しながら言った。
彼の言う通り、残す所は布切れと棒きれを集めて、寄り集まっている一角だけだった。
「全員で一気に畳み込む事も出来そうだが……どうする?」
ロニの疑問の言葉にアルマがピーンと来たようだ。
「纏めて焼き払いますー」
「アルマよ、この私の力、使ってみるといい」
「いいんですかー?」
楽しそうに瞳を輝かせるアルマ。
「興味があるからな。この偉大なる私をアルマの元へ」
「……しょうがないな~」
うっかり落とさないようにと、魔装を確りと抱き締めてアルラウネがアルマの元へと届ける。
一瞬、希が「あっ……」と声を出したのがアルラウネの耳にも入ったが、深く考えるのは止めた。
負のマテリアルを持つ事は身体への負担が大きいかもしれない。ここまで希が無事だったのは、浄化の力以外にも少女の無事を祈った者が居るからだろうか……。
「はい、どうぞ」
「わふ!」
手渡されてグッと柄を握るアルマ。
圧倒的な力を感じた。これが、魔装なのか。
「いく、です~!!」
魔装の機構が青白い炎を放ちながら起動する。
刹那、扇状に破壊のエネルギーが噴出した。竜のブレスとも思える程のその威力は――。
「何も残っていないな」
ロニが言う通り、文字通り、灰塵となっていたのだった。
●大峡谷へ
「……という訳で、この先の大峡谷には『不吉な洞窟』というものがあるかもしれないな」
「亜人が追い出される事と因果関係があるかもししれんのう」
ロニの説明に星輝が冷静に続けた。
今回は大峡谷までは足が届かないのが残念な所だ。
「それでは、次はこの先を目指すとするか」
ネル・ベルの声が響いた。
「わふ! 次も一緒なのです!
嬉しそうに声をあげたアルマ。ちょっと、フラフラしているように見えるのは、先程の魔装の影響だろうか。
人型であればきっと、胸を張って宣言しただろうというほど、ドヤ顔の雰囲気がする声で歪虚は言う。
「そういう事だ。一先ず帰るぞ」
「はい。ネル・ベル様」
仰々しく一礼すると、魔導剣弓を背負い、希は浄化術を行使した。汚染の影響を最小化する為なのだろう。
そして、足早に立ち去る少女の背中に思い出した様にアニスとアルラウネが声を掛ける。
「貴女の為に頑張っている人が沢山います。絶望する事は無いと、覚えていてください」
「今は無理な感じあるけど……お姉さん、ちゃんと迎えに行くからね」
希は笑顔で振り返り、手を振って応えた。
ハンター達は大峡谷から南下してきたと思われる亜人の拠点を発見し、襲撃。
殲滅させると同時に、次の手掛かりを得たのであった。
――次回へ続く。
集まった面々をロニ・カルディス(ka0551)が見渡す。
これから亜人共を探索しつつ、狩らなければならないからだ。
「山狩りをするにはいささか頭数が心許ないが……まぁ、この人数でやるしかあるまいな」
通信機は勿論のこと、道具類の準備にも余念はない。
その時だった。脇の森の中から人が姿を現した。
「なんだ?」
警戒心全開でロニは注視する。黒いローブ姿だが、背格好から少女と推測できる。
道に迷った訳でもなさそうなのだが。
「……これからの亜人狩り。私も手伝わせて下さい」
少女の台詞は、ハンター達の目的を知っているという事を意味していた。
つまり、ハンターオフィスかあるいは依頼主の関係者なのだろうか。
「あなたは……」
アニス・エリダヌス(ka2491)が少女の声に反応した。
聞き覚えがある。恋人が娘のように可愛がっていた歪虚に連れ去られたという少女――紡伎 希(kz0174)なのだろう。
間違えるはずはない。フードから見えるゆるふわの緑髪と緑色の瞳。
「貴女は征西部隊……牡丹さんのところで、お会いしましたか」
素顔を隠すような服装には、きっと訳があるのだろう。
だから、アニスはそう声を掛けた。少女はローブのフードをゆっくりと外す。
目元を隠すような仮面をつけているが、間違いなく、希のようだ。
「……ほぅ、仮面の少女ときたかや、仮面仲間ということでワシらと行こうぞ」
星輝 Amhran(ka0724)がツカツカと少女に近づいて握手を求めた。
その手を少女はしっかりと握る。
暖かい手に、星輝は目元が熱くなった。良かったと、無事かどうかともかく生きているのなら、安堵できる。
真剣な眼差しでアイコンタクトをしつつ、小さな声で呟いた。
「ワシラを頼れ」
「……で、キララ様。私にこれを渡されても」
気を遣ったのを台無しにするような少女の台詞。
少女の手にはデリンジャーが握られていた。それを再び、星輝へと戻す。
「なんでじゃ!?」
驚く星輝の横にアルマ・A・エインズワース(ka4901)が進み出る。
少女をジッと眺め――首を傾げた。
「……わぅ? わふー?」
「おひ……いえ、皆さん、“始めまして”」
その台詞は、どこか可笑しいのだが、ハンター達に正体を隠しているつもりはなさそうだ。むしろ、ハンターオフィスに記録として残されてしまう事を警戒している……そんな様子にも感じられた。
だから、アルマは耳元で呟く。
「お約束は、また今度見せてあげるですよー」
返事の代わりに少女は微笑を浮かべて返した。
そこへ、アルラウネ(ka4841)がギュっと少女を抱きしめる。
「とにかく、こうして会えただけでも嬉しいわ」
きっと、少女を大切に思う、この場にいない多くの仲間も抱きしめただろうから。
それ程までに、心配した。そして、少女の姿を今一度、しっかりと眺めた。
「……えっと、名前はなんて呼んだらいいのかしら?」
「皆様がお好きなように。私からは名乗りませんので」
「そう……なら、ノゾミちゃんって呼ばせてもらうわ。ところで、どうしていたの?」
アルラウネの質問に、アニスと星輝も頷く。
「話せる範囲で構いません。今、どのような生活を?」
「ジジイは元気しとるか?」
食いつくような3人の視線に、希は思わずタジタジとなる。
「えと……私はそれなりに何事も無く、過ごしています」
「歪虚に酷い目に合わされてない?」
大真面目に心配するアルラウネの台詞に、突如としてネル・ベル(kz0082)の声が響いた。
「この私が従者にそんな事する訳がない。私の従者には良い生活をさせているぞ」
「どっから、声がしてるんだ?」
ロニが驚くのも無理はない。
全員の視線が希の持つ魔導剣弓のような武器へと集まった。
「このマテリアルの感じ……縁の深い超強い某傲慢様の匂いがするのじゃが、まさか、噂に聞く【変容】という奴かの?」
「白々しい台詞だな、星輝よ」
傲慢歪虚特有の能力の一つ、【変容】。
ネル・ベルはその力で武具へと姿を変えるのだ。
「特に虐げられている……という様子ではなさそうですね」
「そのようだな」
アニスの安堵した言葉にロニは同意する。
そして、道具の再チェックへと戻る。あれは――まぁ、大丈夫だろうと思う事にした。
「わぅ? この武器は歪虚さんなんです? 初めまして……ですよね? アルマって言います」
「まぁ、多分、そうだろうな。どこかで会った気もしないでもないが……私の名はネル・ベルだ。覚えておくといい」
「なんだか初めて会った気がしないですー! 同じですねー!」
瞳を輝かせて希の持つ武器へと一生懸命話しかけるアルマ。
傍目から見ると、玩具に興味津々な犬のようにも……見えるかもしれない。
「わふ! 僕、ネルさんのこと嫌いじゃない感じですっ」
「フフフ。そうだろう。私は偉大なる傲慢だからな」
無駄に勝ち誇った様子のネル・ベルの発言に星輝とアルラウネはお互いの顔を見合わせる。
「いつも通り、チョロいな」
「こんなのでいいのかしら」
いつまでも立ち話をしている場合ではないと気がつき、ハンター達は亜人の探索へと乗り出した。
●探索
「この痕跡は……亜人か?」
ロニが低い姿勢となって木の幹を調べているアルラウネに声を掛けた。
腰に手を当てながら上体を起こすと、アルラウネはロニのいる方向に振り返る。
「……って、あれ、亜人じゃない?」
「思ったより見つけるのが早かったな」
杖を構えたロニだったが、その動きをアルラウネが制した。
「待って……あの、亜人はもしかして……」
そして、『エネミン』と亜人の名を呼んだ。
一瞬、ビクリと身体を震わせ、特徴的な杖をしっかりと握ったまま声を主を探す亜人。
「……敵ではないのか」
「まぁ、敵かどうかと言われると分からないけど」
両肩を竦めるアルラウネに、エネミンという名の亜人が辺りを警戒しながら近寄ってきた。
「オオキイコエ、ダスナ。ミツカルダロ」
「久しぶり! 元気みたいね。何してたの?」
親愛を示す為にギュッとハグして尋ねる。
「ヘンナノオシツケルナ。テキタイシテイタ、グループ、サグッテイタ」
「勢力争いか何かか?」
ロニの質問に首を振りながら亜人は何とかアルラウネの戒めから脱出する。
「チョットチガウ。テリトリーカラ、キュウニ、イナクナッタ」
「何か原因が?」
「……フキツナドウクツ。キット、ソレ。オマエタチ、チカヨラナイホウガ、イイ」
もし人間なら、深刻そうな顔をしていただろう、エネミンはそう言い残すと、森の中へと消えていったのだった。
「不吉な洞窟か……大峡谷には、まだ謎が多いのだな」
ロニが大峡谷の方向を見つめながら、呟いたのだった。
アルラウネとロニの二人がエネミンと遭遇していた頃、アニスとアルマの二人も森の中で亜人を探索していた。
途中、馬もバイクも入れないような所は降りて、なおも探索を続ける。
「なかなか、見つかりませんね」
「こういう、スタンダード? な、お仕事は久しぶりですねぇ」
アニスが方位磁石を片手に位置を確認しながら周囲を見渡し、アルマは犬のように……じゃなくて、探偵のように、足跡や地面の痕跡を探っていた。
地道な二人の探索は、やがて、傷ついた亜人を見つけるに至る。
「……食べ物でも探しているのでしょうか?」
ヒソヒソとした声でアニスが言った。
確かに、亜人は茸や野草の類を見つけ出しては口へと運んでいる。
奇襲すれば、手を掛けずに倒すことはできそうだが……。
「頭使ってみるです?」
「え?」
アルマの言葉にアニスは首を傾げた。
次の瞬間だった。アルマの遠吠え……じゃなくて、叫び声が森に響く。
「わっふぅぅ!!!」
驚愕しない訳がない。
亜人は脱兎の如く、逃げ出した。
「逃げちゃいますね……」
「いいんですよ~。後を付けちゃいましょう」
如何にも楽しそうにアルマが言うのであった。
通信機から入ってくる仲間の連絡を星輝は受け取った。
亜人の住処が分かったという。それに、『不吉な洞窟』というキーワードも得たという。
「全く聞いた事はないが、聞き覚えはあるかの?」
「……オキナに聞いてみれば、何か分かるかもしれません」
大峡谷は王国と帝国を隔ている巨大な谷だ。
その全容は未だ、明らかになっていない。亜人の勢力域でもある秘境なのだ。
「ふむ。まぁ、それは帰ってからじゃな。とりあえずは、亜人じゃな」
星輝の宣言に希は頷いた。
先に歩き出した星輝に対し、希が後ろから声を掛けてきた。
「キララ様……」
「なんじゃ?」
振り返った星輝に視界の中で少女は仮面を外していた。
畏まった様子で、丁寧に頭を下げる。
「ご心配頂きまして、ありがとうございます。私は何度でも、何度でも希望を示し続けたいと思います」
「……そうじゃな」
星輝は口元を緩めながら、応えた。
その間に割って入るかのようにネル・ベルの声が響く。
「まぁ、最後には絶望に至るわけだがな」
「それは、“最後”になってみないと分からんもんじゃ」
大丈夫。希はきっと、絶望したりしない。
星輝はそう思いながら、仲間との合流を目指し、歩き出した。
●魔装
全容は分からないが、亜人の拠点は森の中に広がっているようだ。
頻繁に通っているのだろうと思われる箇所に罠を仕掛けた星輝が通信機のスイッチを入れた。
「準備は万全じゃ」
「分かった。それでは、襲撃を開始する」
ロニの返事と共にアルラウネが抜刀しながら駆け出した。
「負傷者をいたぶる趣味は無いんだけど……殲滅させてもらうわ」
奇声を挙げる亜人を切り伏せる。止めは気にせず、一気に拠点へと踏み入った。
「怪我したら、すぐに言って下さいね」
その背後をアニスとロニが続く。
二人共腕の立つ聖導士である。多少の怪我など、気にせずとも問題はないだろう。
突入したハンター達を支援すべく、アルマの機導術が放たれた。
三筋の光は亜人達に直撃すると、それだけで、敵を粉砕していく。
「わふー。こんにちはですよ。それから、ばいばいですー」
無垢に笑いながら、逃げ惑う、あるいは、傷つき、地面を這い蹲る亜人に容赦なく術を叩き込んでいく。
その姿にネル・ベルの感想の言葉が流れた。
「人間にしておくのか、勿体無い残虐さだな」
「……これも依頼の為。恨みはありませんが、私も戦います」
弓形態で弦を引き絞る希。
負のマテリアルで精製された矢が奇っ怪な飛翔音を響かせる。
不幸にも標的にされた亜人の頭に突き刺さった。
「さすがじゃ! やはり、強力無比な歪虚が変容した武器は強いのじゃ!」
星輝が明らかな営業スマイルで褒め称えた。
もちろん、本気で言っている訳ではない。出来るだけ良い気分にさせておいて、情報を引き出そうとしているのだ。
「相変わらず、見立てが正しいな、星輝よ」
「当然じゃ……あ、亜人が逃げようとしている。あっちには、ワナガハッテナイー」
指さした方角、やや距離がある所に亜人の背中が見える。
「ふむ……私の従者よ。私を星輝に投げ渡すのだ」
「え? あ、はい。分かりました」
大きく振りかぶって希は魔装を投げる。
魔導剣弓のような形をした武器の柄を星輝が見事に受け取った瞬間だった。
一気に視界が変わったと思った瞬間、目の前に亜人が現れた――いや、星輝が瞬間移動したのだった。
「武器の……ままでも、飛べるのか……」
飛んだだけなので、視界が揺らぎ、フラフラする。
星輝は以前にもネル・ベルの瞬間移動を受けた事があるが、あの時よりも、酷い状態だ。
「ふむ。やはり、魔装状態のまま瞬間移動するのは負担が大きいか」
どうやら希の代わりに実験体にされたようだった。
出来ない事はないが、負のマテリアルの調整が難しいのだろう。
「この武器は、危険ですね」
真っ先にアニスが駆け寄り、回復魔法を唱える。
拠点の中へと踏み入っていた意味があったというものだ。
星輝の怪我は無いのだが、負のマテリアルの侵食が酷い。回復魔法を掛けていないと戦闘不能になる可能性もあるだろう。
「逃げ出したのは倒しきったはずだ。後は立てこもりの亜人だけか」
拠点から脱出を図ろうとして罠に掛かり身動きの取れなくなった亜人共を順番に攻撃魔法を放ち終わったロニが一行を見渡しながら言った。
彼の言う通り、残す所は布切れと棒きれを集めて、寄り集まっている一角だけだった。
「全員で一気に畳み込む事も出来そうだが……どうする?」
ロニの疑問の言葉にアルマがピーンと来たようだ。
「纏めて焼き払いますー」
「アルマよ、この私の力、使ってみるといい」
「いいんですかー?」
楽しそうに瞳を輝かせるアルマ。
「興味があるからな。この偉大なる私をアルマの元へ」
「……しょうがないな~」
うっかり落とさないようにと、魔装を確りと抱き締めてアルラウネがアルマの元へと届ける。
一瞬、希が「あっ……」と声を出したのがアルラウネの耳にも入ったが、深く考えるのは止めた。
負のマテリアルを持つ事は身体への負担が大きいかもしれない。ここまで希が無事だったのは、浄化の力以外にも少女の無事を祈った者が居るからだろうか……。
「はい、どうぞ」
「わふ!」
手渡されてグッと柄を握るアルマ。
圧倒的な力を感じた。これが、魔装なのか。
「いく、です~!!」
魔装の機構が青白い炎を放ちながら起動する。
刹那、扇状に破壊のエネルギーが噴出した。竜のブレスとも思える程のその威力は――。
「何も残っていないな」
ロニが言う通り、文字通り、灰塵となっていたのだった。
●大峡谷へ
「……という訳で、この先の大峡谷には『不吉な洞窟』というものがあるかもしれないな」
「亜人が追い出される事と因果関係があるかもししれんのう」
ロニの説明に星輝が冷静に続けた。
今回は大峡谷までは足が届かないのが残念な所だ。
「それでは、次はこの先を目指すとするか」
ネル・ベルの声が響いた。
「わふ! 次も一緒なのです!
嬉しそうに声をあげたアルマ。ちょっと、フラフラしているように見えるのは、先程の魔装の影響だろうか。
人型であればきっと、胸を張って宣言しただろうというほど、ドヤ顔の雰囲気がする声で歪虚は言う。
「そういう事だ。一先ず帰るぞ」
「はい。ネル・ベル様」
仰々しく一礼すると、魔導剣弓を背負い、希は浄化術を行使した。汚染の影響を最小化する為なのだろう。
そして、足早に立ち去る少女の背中に思い出した様にアニスとアルラウネが声を掛ける。
「貴女の為に頑張っている人が沢山います。絶望する事は無いと、覚えていてください」
「今は無理な感じあるけど……お姉さん、ちゃんと迎えに行くからね」
希は笑顔で振り返り、手を振って応えた。
ハンター達は大峡谷から南下してきたと思われる亜人の拠点を発見し、襲撃。
殲滅させると同時に、次の手掛かりを得たのであった。
――次回へ続く。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/07/28 09:22:37 |
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そーだんたく 星輝 Amhran(ka0724) エルフ|10才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2017/08/01 06:17:32 |