【MN】宿題のかわりに肝試し!

マスター:紺堂 カヤ

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
  • duplication
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~12人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
無し
相談期間
5日
締切
2017/08/04 19:00
完成日
2017/08/09 04:14

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「肝試し、ですか?」
 モンド学園の三年生、クロスは面倒そうに顔をしかめた。
「そ、そうよ。何か問題でも?」
 モンド学園の一年生にして理事長の娘、ダイヤ・モンドは精一杯、薄い胸を張った。
「……一応、お尋ねいたしますが。お嬢さまが肝試しをなさるのに、どうして私が参加しなければならないんですか?」
「うっ」
 この学園の理事長の一人娘であるダイヤは、全校生徒から「お嬢様」と呼ばれていた。しかし、強制されてのことではない。皆、親しみをこめてそう呼んでいるのだ。こんなにも嫌悪感をむき出しにして「お嬢さま」と呼ぶのはこのクロスだけである。
「べ、別にしなければならないってわけじゃないわ。ただ、参加したいかと思って声をかけてあげたんじゃないの」
「へえ。そうですか。ご厚意に感謝いたしますが、参加はご辞退いたします」
「どうして!?」
「やりたくないからです。時間の無駄です」
 はっきりキッパリ、クロスは言った。ダイヤの頬がどんどん膨らんでいくが、意に介さない。
 クロスは真面目で地味で目立たない、ただの生徒だ。友だちも少ないし、ダイヤのようなきらきらしたスター性のある生徒とかかわりあいになることなど本来ならばない。だが、このお嬢さまはなぜかやたらとクロスにぶつかってくるのである。
「……あっそう。そうなの。ふーん、そうなのね」
 頬を膨らませていたダイヤは、クロスが一向に顔色を変えないのを見て戦法を変えたらしく、急にニヤニヤしだした。
「なんですその笑いは」
「怖いのね? 無駄、なんて言ってるけど、本当は怖いんでしょ? そっかー、クロス先輩でも怖いもの、あるのねー!」
 クロスは、はあーっ、と大きなため息をついた。あまりにもベタな挑発だ。だが、ベタであるがゆえに腹が立つ。何か言い返そうと口を開きかけたが。
「あ、いいのいいの。そういうことなら参加は結構よ」
 ダイヤがすっぱりと遮った。
「参加希望の生徒だけでやるわ。一応、お伝えしておくけど、今夜、学園の旧校舎前に集合よ。でも、怖いなら来なくていいから無理しないでね、クロス先輩」
 ダイヤはひらひらと手を振って、栗色の髪をさわやかになびかせ、去っていった。
 クロスはもう一度、大きくため息をついた。

 ほどなくして。
 モンド学園の全校放送で、ダイヤのハイテンションな声が流れた。
『全校生徒のみなさーん!! 夏休みが始まるわっ!! たくさんの宿題をやっつけるその前に、肝試しで遊びましょう!! というわけで、ダイヤ主催の肝試し大会を開催するわっ!! 参加希望者は今夜、旧校舎前に集合よーっ!』
 一瞬にして、生徒たちが色めき立つ。
「ダイヤお嬢さまが肝試しだって!? またあの人は面白いこと考えるよね! 私、気になってる先輩誘っちゃおっと!」
「ねえ、でも旧校舎って、最近、夜になると泣き声みたいなのが聞こえるらしいよ?」
「ええっ、ホント!? どうしよう、私やめよっかなあ」
「あたしは参加する! だってあそこ別に変な怪談とかないでしょ? オバケ役に立候補ってのもアリかな?」
「もしかしてダイヤちゃんと手を繋いで歩く、みたいなこともあるかなあ!?」
「バァッカ、お前ちょっと下心ありすぎ!」
 クロスは思った。
 参加したくない。心の底から、参加したくない。
 けれどわかってもいた。
 結局は、参加してしまうのだろうと。
 本日三度目のため息をつきながら、クロスは誰にも聞こえないように呟いた。
「お嬢さまはこんなに人気がおありになるのに、どうして私などにかかずらうのか……」

リプレイ本文

 宵の闇に包まれたモンド学園。いつもなら、しん、と静まり返っているはずなのだが、今夜は賑やかだった。
「肝試しに参加する生徒はこちらへ! 体験役とオバケ役を決めて名簿に登録をお願いします!」
 旧校舎前で声を張り上げているのは、クロスだ。人を集めるだけ集めて自分自身が誰よりもはしゃいでしまっているダイヤの代わりに、参加者に案内をしている。内心、不満でいっぱいだった。
(なぜ私がこんなことを!!!)
 声には出していなくても、この言葉は参加者に筒抜けだ。皆気の毒そうにしつつも面白がってクロスを見ていた。クロスが、ダイヤお嬢さまのお気に入りだということはもはや学園中の常識だ。当のダイヤお嬢さまといえば、集まってくれた生徒たちと歓談していた。
「相変わらず、お嬢さまは楽しそうなことを考えてくれるなぁ」
 鞍馬 真(ka5819)がうきうきと言うと、その隣で大伴 鈴太郎(ka6016)がすでに真っ青な顔をしていた。恨めし気な表情でダイヤを見据える。ダイヤは思わず苦笑して、真に目配せした。
「鈴君、一緒に行かないか? いやー、私は怖くて怖くて堪らなくてね」
 まるっきり棒読みのそのセリフに、鈴太郎はあっさり食いついた。
「しゃーねーなぁ♪ 一緒に行ってやンよクラマ先輩!」
 途端に笑顔になる鈴太郎にダイヤも真も笑う。横を通りすがったGacrux(ka2726)も忍び笑いを漏らした。なんでも、以前こっそり旧校舎へ忍び込んだ時に、誰もいない暗闇の廊下で名前を呼ばれたことがあるという。
「「肝試しは霊を呼び寄せるのかもしれません。……皆さん、気を付けて下さいねえ」
 そう言って去っていくGacruxの背中を、鈴太郎が再び真っ青な顔で見送る。その反応に、Gacruxは内心でほくそ笑むのだった……。



 体験役の生徒たちは、くじ引きで旧校舎の中に入る順番を決め、入り口前に列を作った。一番に中に入るのは玉兎・恵(ka3940)と玉兎 小夜(ka6009)のペア。
「行こか、恵」
 甘い微笑みで手を差し出す小夜に、周囲の生徒は少なからず目を丸くした。剣術部の孤高の剣士として名高い彼女が、あんなデレデレになっているなんて、と。そんな視線も気にせず旧校舎の中へ入って行くふたりの後ろには、ボルディア・コンフラムス(ka0796)と南護 炎(ka6651)が待機していた。
「定番だが、やっぱ外せねぇイベントだよなぁ。何よりいつも知ってる学校でやるってのがいいぜ。……驚かす奴等、なんかスゲェ本気モードみたいだしこいつは期待できそうだな」
 そう言ってボルディアは不敵に笑う。オバケになんぞ負けてたまるか、という気合を背負うこのふたりの雰囲気は、肝試しに臨むというよりは試合前のようであったが、炎の方はわかりやすくボルディアを気にしているようで、見ている方がそわそわしてしまうほどだった。それを見ていたダイヤのすぐ前に並んでいたエルバッハ・リオン(ka2434)が何気なくダイヤに尋ねる。
「ダイヤさんは好きな人がいるんですか?」
「えっ、ええっ? えーっとぉ……」
 どう考えたってダイヤの恋心は周囲にダダ漏れなのに、本人は一応隠しているつもりだったらしい。誤魔化そうとして目を泳がせている。エルは悪戯っぽく微笑んで、いないんですか、と追い打ちをかけた。
「……い、いる、けど」
 ぼそりと小声で白状したダイヤは、そのままひそひそ声でエルに恋の相談を始めた。ふたりのくすくす、と可愛らしい忍び笑いが聞こえ、旧校舎前は少し穏やかな空気に包まれかけた。しかし。
「ひきゃゃゃゃゃ!!!」
 旧校舎の中から、そんな叫び声が聞こえてきた。ボルディアたちの後にひとりで入って行ったアシェ-ル(ka2983)の声だ。
「えええ!? 何だよ今のぉ」
 次に中に入ることになっている鈴太郎がすっかり怯えて尻込みする。真が大丈夫大丈夫、と適当に笑い、鈴太郎の背中を押して校舎の中へ入って行った。それを見送ったダイヤは、顔を真っ青にして叫んだ。
「クロス先輩!! クロス先輩!? お願いだから一緒に行ってくださいー!!!」



 凄まじい悲鳴が聞こえてきた、旧校舎の中はどうなっていたのかというと。
 オバケ役の生徒たちがそれはもう張り切っていた。
「きたきた……」
 廊下の柱の陰に身を隠し、やってくるカップルの姿を確認してそっと呟くのは日高・明(ka0476)だ。近付いてくるカップルのうちの片方、玉兎・恵は彼の妹である。まさか妹も参加しているとは思わず、驚いたが、折角共に参加することになったからには全力で驚かせてやろうと思っていた。
「あ、あははー…ほんと参っちゃいますよねー。お化けとか。そんなのいる訳ないじゃあないですかー。非科学的なのにも程がありますよね!」
 そんなことを言いながら恵は恋人の腕にしがみつくようにしてべったり寄り添って歩いてくる。しがみつかれている小夜の方は少しも怖がる風はなく平気な様子だ。ふたりは順調に、明がトラップを仕掛けたあたりへ差し掛かった。
「ひゃあ!」
 急に髪がひと房持ち上げられ、恵が悲鳴を上げる。
「ここに引っかかっただけだよ。糸に……、のりがついてるのか。地味だけど効果的な仕掛けだね」
小夜が冷静に苦笑しながら恵の髪をほどいてやる。その首筋を目掛けて、明はこんにゃくを当てる。ひやり、と濡れた感触が恵を跳び上がらせた。
「きゃあああ!」
 こんにゃくを避けてバタバタと先へ走ってきたところへ、今度は狼の被り物をしてガアオ、と脅かす。
「ひええええ!」
 たまらず飛びついてきた恵を抱きしめた小夜は、その瞬間、被り物の向こうの明と目が合った。ふたり同時に、ふふふ、と笑いが起こる。
「まったく、悪戯なお兄さんだな」
「え? え? お兄ちゃん?」
 涙目で顔をあげた恵は、大好きな兄が狼の被り物をし、こんにゃくをぶら下げているとわかると、安堵するやら困惑するやらで頬を膨らませた。
「もう!! お兄ちゃん!!」
「あはは、ごめんごめん。でも、イチャつけただろ?」
 明はあっけらかんと言うと、手を振ってべったりくっついたふたりを見送った。きっとこの先ももっときゃーきゃー言わされるトラップがあるだろうと思いつつ。
 明の予想はその通りで、奥へ行けば行くほど、凝った演出が待ち構えていた。
「コンフラムス先輩、ご一緒していただきありがとうございます」
 緊張気味の炎が隣を歩くボルディアにガチガチと挨拶をする。ちょっと手が触れただけでも大げさに「すみません!」と言う炎に、ボルディアの方は少し怪訝そうにしつつ、単純に肝試しを楽しんでいた。
「さあて、何が出てくるか……」
 明の、のりとこんにゃくのトラップを難なく通り抜けたボルディアがわくわくと前を見据える。と。目の前にぐわっと落ちて来たものがあった。
「おおお!?」
 ボルディアが大きくのけ反った拍子に炎にぶつかり、炎はボルディアの肩を両手で支えることとなった。
「す、すみません先輩! だ、大丈夫ですか!?」
 狼狽えつつも、もしかしてちょっといい雰囲気になるのでは、なんて期待してドギマギした炎だったが、ボルディアは目の前にぶら下がっている人体模型に目を輝かせていた。
「おい炎見てみろよコレ! めちゃくちゃよく出来てるぜ! まるで本物みてぇじゃんか!」
 仕掛け人である鳳城 錬介(ka6053)は、その反応を見てがっかりと肩を落とした。本物みたい、も何も理科室から拝借した本物の人体模型である。仕方がない、自分が出て行って再度脅かしてやろう、と気を取り直す。が。
「許さんぞ……貴様……」
 人体模型相手に静かにキレる炎の気迫があまりにも恐ろしく、錬介は出ていくのをやめてひっそりと息をひそめたのだった。次の機会を、待つことにして、ゆっくりと滑車に繋がるロープを引き、人体模型を上へ引き上げた。



 旧校舎前で待っている生徒を恐怖のどん底に陥れた叫び声の持ち主・アシェールは、終始ひゃあひゃあと悲鳴を上げながら廊下を進んでいた。本当なら菓子研究部の仲間と参加するはずだったのが、行き違いがあってひとりぼっちでの参加となってしまったのである。
「跳び跳ねてるのはイナゴですね! 羽根と足をよく取ってました。もちろん、食べる為ですが」
 などと言って廊下を行き来する虫たちににこにこしていたのもつかの間。次々に登場する恐怖のトラップに翻弄されてもう泣きださんばかりである。そんなアシェールを一番震え上がらせたのは。
「何処だぁ……何処に居るぅ……」
 頭から爪先まで武者甲冑に身を包んだ米本 剛(ka0320)だった。面頬の隙間からうっすらと笑い顔が見え、目と口元が青白い夜光塗料で浮かび上がる。両手には血濡れの模造刀。恐ろしいことこの上ない。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
 アシェールは反射的に走って逃げた。すると。
「待ぁぁぁてぇぇぇ! 待たぬかぁぁぁ!」
 剛もまた全速力で追って来たのである。
「う、嘘でしょー!?」
 重い甲冑を着たまま本気のアスリート走りで追ってくる剛に、アシェールは必死の形相だ。もはや泣いている場合ですらない。なんとか振り切り、あとは出口へ向かうだけ、となったときには、へとへとになっていたのであった。
 そのアシェールと剛の恐怖の鬼ごっこの様子は、鈴太郎をパニックにさせた。
「な、なんだよぉおおおお、あの叫び声にドタバタはよぉおおおお」
「あははは、楽しそうだね」
 けろっと笑っている真が信じられない。
「なぁなぁ、廊下往復するだけだよな? 教室には入ンねぇよな?? だ、だって、かったりぃじゃん!?」
 鈴太郎はとにかく早く済ませて帰ってしまおうと歩を進めた。ちらちらと教室を覗いたりする真を引っ張っていく。そんな鈴太郎の前に、どーん、と人体模型が降ってきた。
「うわああああ!?」
 と思うとすぐに、ウサギの着ぐるみが飛び出してきた。口からは髑髏が覗いている。
「ぎゃああああああ!!!!!」
 驚きすぎて傍にいる真を締め上げる鈴太郎。ぐええ、と真が呻いた。
「ちょ……苦しい、ギブ、ギブ……!」
「わああ、大伴さん、俺です! 鞍馬先輩を離してあげてください!」
 たまらず、着ぐるみ姿の錬介が止めに入る。オバケ役が同級生の錬介だとわかり、鈴太郎は廊下にへたり込んだ。
「あんだよもぉ~!」
 べそべそと泣く鈴太郎を、真と錬介が必死に宥める。オバケが慰める、というシュールな絵面のその横を、涼しい顔をしたエルがすり抜けて行った。
「あら、楽しく肝試ししてますわね」
 トラップやオバケの錬介などどこ吹く風、というように優雅に歩いていくエルは、先で待ち構えて襲ってきた剛の攻撃につい反応してしまった。二、三発攻撃を押収してから、ふふ、と微笑む。
「なかなかやりますわね」
「そちらも」
 武者姿の剛がニヤリとする。エルはゆったりと礼をすると、後ろを示してこう言った。
「これからもっと脅かし甲斐のある方々が通りますわよ。ダイヤさんと、クロス先輩も」
「おお、では今一度張り切って、青春を見届けるとしようかな」
 剛はぶん、と血濡れの模造刀を素振りした。



 さて。ダイヤとクロスである。体験メンバーの一番最後の順番となったふたりは、すでに阿鼻叫喚で満ちている旧校舎へと足を踏み入れた。クロスの内心は「どうして私まで」というぼやきでいっぱいだったが、かといって、ここでダイヤを放り出して帰っては学園中からのブーイングは必至だ。
「う、うわあ……」
 怖がっていたダイヤはしかし、実際に旧校舎へ入ってしまってからはむしろ冷静になったようで、一本道の廊下で繰り広げられている地獄絵図に苦笑していた。
 ちょうど、武者甲冑の剛から逃げるために全速力で走ってきたアシェールとすれ違ったところ、というのもタイミングが悪かったようだ。
「……お嬢さま、怖いんですか、これ本当に?」
「えーっと……。とりあえず、行きましょ」
 ムードも何もなく進みだしたふたりだったが、先へ行くにつれて静かになっていく校舎に、だんだんと緊張してきた。それはそうだろう。このふたりが最後の体験者なのである。前を行く生徒たちは廊下を往復し終えて旧校舎から出ていく。悲鳴も喧騒もなくなっていくのは当然だった。
 明のこんにゃく、錬介の人体模型まではなんとか驚くくらいでやり過ごせたのだが、剛の武者姿には、ダイヤはすっかり肝を冷やしたようだった。
「……違ぁう、奴ではなぁい……」
 アシェールのように逃げなかったため、剛はダイヤとクロスの顔を覗き込むと何もせずのしのしと去って行ったが、ダイヤは足をすくませて動けなくなってしまった。
「む、無理……! もう無理よぉおおお……」
「ほら、もうちょっとですから」
 かたかた体を震わせ、歩を止めてしまったダイヤの手を、クロスが仕方なく引く。軽く握っただけの手は、真夏だというのにすっかり冷たくなっていて、ダイヤが本当に怖がっているのだとわかった。
「さあ」
 少しだけ声色を柔らかくして、ダイヤを誘導する。そしてさらに進みだした、そのときに。
『おーい、ダイヤー』
 暗闇の中から、鈴太郎の声が聞こえた。
「え?」
『クロス先輩こんばんは! コンフラムス先輩と参加します!』
 続いて、炎の声も。
「ん?」
『ダイヤー』『ダイヤさん』『お嬢さまー!』『やあクロスくん』『楽しみですねお嬢さま』
 声は次々と増えていき、暗い旧校舎に反響していく。ダイヤの背筋は凍った。何かの仕掛けだろうとわかっているクロスでさえ、一瞬ゾッとした。ダイヤが怯えきって身を寄せてくるのを、クロスは素直に許す。茶化してはいられないような恐ろしさがあった。
「お嬢さま。突き当りです。引き返しますよ」
「う、うん」
 ふたりはそっと、一本道の廊下を引き返す。しかし、呼ばれ続ける名前が気になって、ダイヤはふと後ろを振り返ってしまった。すると。
 ぼわぁり。
 鈍く赤い光で闇に浮かび上がっている……、生首。
「きゃあああああああ!!!!!」
 喉が裂けんばかりに、ダイヤは叫んだ。クロスも迫りくる生首にぎょっとして、ダイヤを抱えるように支えると、ふたりで廊下を走り抜けた。
「おやおや。こんなに怖がってもらえるとはね」
 去っていくふたつの背中を、黒いコートに身を包んだGacrux ( ka2726 )が、不気味に笑って見送っていたのだった……。



 ダイヤの叫び声は、肝試しを終えて旧校舎の外へ出てきた生徒たちにもしっかり聞こえていた。追いかけっこの果てにへとへとになったアーシェルは、それを聞いて暢気に微笑む。
「散々な目に遭いました~。あ、良い悲鳴が聞こえますね~。セイシュンだなぁ~」
 自分もなかなかな悲鳴を上げていたというのに、すっかり棚上げだ。
 錬介の人体模型の後に、さらに剛の武者と、Gacruxの姿なき声、そして生首を味わわされた鈴太郎は、べそべそ泣いて真に手を引かれ、息も絶え絶えに帰ってきた。泣くほどだっただろうかと驚いた面々にどうしたのかと理由を訪ねられる。
「歩いてたら……突然……クラマ先輩にぃ……」
 しゃくりあげながらのそのセリフに、ボルディアと炎が「何ィ!?」と目をむく。真は慌てて釈明した。
「ち、違う、誤解だ……!」
 真の説明を聞きつつ、ちらりと炎が目線を変えると、その先では小夜と恵が寄り添っていた。
「ついててくれて、ありがとうございますよ。うさぎさん」
 そう言って小夜の頬にキスをする恵。小夜は嬉しそうに恵を抱き寄せる。
「お疲れ様、恵。可愛かったよ」
 あまりのアツアツぶりに見ているだけの炎の方が赤くなりつつ、少し羨ましい気持ちで、隣のボルディアを横目で見るのであった。
「はー、はー、はー……」
「つ、疲れた……」
 最後に、ダイヤとクロスが走って出てきた。役目を終えたオバケ役の生徒たちも、ぞろぞろと校舎を出てくる。こうやって姿をさらしてしまえばなんということもないのに、と思うと、皆、妙に笑いがこみあげた。
「はーーー、怖かった……! でも、楽しかったわ! 皆、集まってくれてありがとう!」
 目尻の涙をぬぐいながら、ダイヤが挨拶すると、誰からともなく拍手が起こった。鈴太郎も泣き止んで、やっと呼吸を整える。
「これで、夏休みの補習免除だもんな! 我慢した甲斐があったぜ!」
 そのセリフに、武者甲冑をつけたままの剛が首を傾げる。
「そんな話、ありましたか?」
「ない、と思うけど……」
 ダイヤが困惑気味に返す。たちまち、鈴太郎の顔が恐怖の色に染まった。
「ええええええガセかよぉおおおお!?」
「ある意味、一番の恐怖になってしまいましたわね」
 エルがふふふ、と余裕の微笑みを浮かべる。
「はい、補習、頑張って」
 真がぽん、と鈴太郎の肩を叩き、再び、場は笑いに包まれた。




 そんな様子を、どこか遠い光景として眺めつつ、クロスは、ダイヤと繋いだままの手をいつ離そうか迷っていた。あんなに怖がっていたのに、皆に朗らかに礼を言い、笑い合うダイヤ。そんな彼女が隣にいることこそが、まるで夏の夜の夢のようで。もうしばらくは黙っていよう、などと、クロスはこっそり微笑むのであった。

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参加者一覧

  • 王国騎士団“黒の騎士”
    米本 剛(ka0320
    人間(蒼)|30才|男性|聖導士
  • 挺身者
    日高・明(ka0476
    人間(蒼)|17才|男性|闘狩人
  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムス(ka0796
    人間(紅)|23才|女性|霊闘士
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • 見極めし黒曜の瞳
    Gacrux(ka2726
    人間(紅)|25才|男性|闘狩人
  • 東方帝の正室
    アシェ-ル(ka2983
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • 白兎と重ねる時間
    玉兎・恵(ka3940
    人間(蒼)|16才|女性|猟撃士

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人
  • 兎は今日も首を狩る
    玉兎 小夜(ka6009
    人間(蒼)|17才|女性|舞刀士
  • 友よいつまでも
    大伴 鈴太郎(ka6016
    人間(蒼)|22才|女性|格闘士
  • 流浪の聖人
    鳳城 錬介(ka6053
    鬼|19才|男性|聖導士
  • 覚悟の漢
    南護 炎(ka6651
    人間(蒼)|18才|男性|舞刀士

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依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/07/31 02:23:35
アイコン 相談卓(?)
大伴 鈴太郎(ka6016
人間(リアルブルー)|22才|女性|格闘士(マスターアームズ)
最終発言
2017/08/04 07:23:59