ゲスト
(ka0000)
伝説に似た喜劇
マスター:紺堂 カヤ
このシナリオは3日間納期が延長されています。
オープニング
●これは夢
少年は夜道を急いでいた。すっかり遅くなってしまった。今日は珍しい種類の鉱石がたくさん入荷していたから、嬉しくなってあれもこれもと夢中になってしまったのだ。
きっと先生は心配しているだろう。
だが、きっと先生は今日の収穫を喜んでくれるだろう。
はやる気持ちを抑えられず、少年は駆け出す。先生が待っているはずの小さな家へ。
(あれ?)
けれど、家の前まで来て少年は違和感をおぼえた。もう夜遅いというのに、窓に明かりがない。先生がこんな時間に出かけるはずはないのに。
もしかしてあまりにも遅い自分を探しに出てしまったのだろうか、と思いながら、少年は家の扉を開いた。
すると。
「先生!!」
窓から差し込む月明かりがたっぷりとたまっているかのような、そんな床に。
先生が倒れていた。
血を流して。
「先生!? どうしたんですか先生!!」
少年は駆け寄って大人の男の大きな身体を必死に持ち上げた。
「ああ……、セブ……。よかった、無事、で……。そして、最後に、会え、て」
「どういうことなんです、先生! 最後だなんて! 待ってください、すぐに医者を」
慌てる少年の手を、先生は弱々しく握った。そして、ゆるく微笑んで首を横に振った。
「セブ、お前の幸せを、祈って、る……」
それが、最後の言葉だった。
●これは現実
早朝、現実になることだけを夢にみる青年は目覚めた。
今夜も夢をみていた。幾度となく繰り返した夢だった。
同じ夢を何度もみることは珍しくない。まだ現実になっているところに遭遇していない夢の光景ならば、より強く覚えておけることになるため、繰り返しは有難い。
だが。
今夜の夢は有難くない。
今夜の夢はすでに遭遇している過去の出来事であるからだ。それどころか、青年にとって一番の、苦い思い出だ。
けれど皮肉なもので、この夢を一番よくみるのである。
青年と呼べる歳まで成長した少年は、深い深いため息をついた。この夢をみるたびに、忘れようと思っている自分の名前を思い出してしまう。
あのとき、自分は十二歳。あれから、六年の歳月が流れた。
先生を殺したのが誰なのか。そしてなぜ殺されなければならなかったのか。まだ何も、わかっていない。
青年は、この世のものとは思えぬほどに整った己の顔を両手で覆い、低く呻いた。
「……先生……」
その夢をみたからだろう。この日、青年はひどく機嫌が悪かった。
書き溜めた夢日誌の中の夢のひとつに登場した村とよく似た村を見つけ、立ち寄ったのだが。
(これはわざわざ確認に来るほどのことではなかったな……)
今回青年が見た夢は「未来」に起こるはずのこと、であった。しかし、その内容は村の中でのささいな諍い。キイチゴをたくさん収穫できるのは俺だ、いや俺の方が、という実にくだらないことだった。
何か裏があるのでは、としばらくは調べてみたが、特に何もない。時間を無駄にしただけだった。
機嫌が悪いのに加えての疲労感に、青年はぐったりしていた。だから、それは本当に、不機嫌が溜まったが故の考えなしの行動だった。
キイチゴ収穫レースの前日に、酒場で「絶対俺が勝つ!!」と息巻いていた男に、こう言ってしまったのだ。
「あなたは、負けますよ。優勝は、黒い帽子をかぶった金髪の男だ」
その結果。
青年の言うとおり、黒い帽子をかぶった金髪の男が優勝した。知っていた結末を見届け、青年は村を去ろうとしたのだが。
「なあ、あんた! あんたは、伝説の精霊様なんだろう?」
「は?」
「村には伝説があるんだ、なんでも知っている、先のこともなんでもわかる精霊様が、いつか訪れて村を救ってくださる、と。あんたは人間とは思えないほど美しい。それに未来がわかってた」
「残念ながら俺は人間です、未来がわかった、というのはちょっと違う……」
「いいんです、人間に姿をやつしていらっしゃるのでしょう? わかっております」
「いや、その発言ですでに、あなた方が精霊について何も知らないことが丸わかりですが」
「おおお申し訳ない、我々は無知でして。どうぞこちらで我々にご教授を」
「そういうことではなく!」
「ところであなたのお名前は?」
「俺の名前……? さあ、なんだったかな……」
「あああ、わたしどもにはとても名前など教えて貰えないということですな!!!」
「いや、そうではなく!」
みるみる村人に取り囲まれ、立派な家に押し込められ、そして。
そこから出られなくなってしまった。
(う、嘘だろう……?)
青年は、三日耐えた。どんなに違う、と説明しても村人たちはわかってくれない。その上、うっかり明日の天気を予測などして、しかもそれが当たってしまったりしたものだから更に始末が悪くなった。なお、天気を当てたのは空の雲を読んだからであって夢の所為ではない。
名前を覚えていない、という言葉もどうにも違う方向へ解釈され、「人とは違う尊い存在」としての価値を高めてしまっているようだった。
青年は、何度も逃げ出そうとした。しかし。
夜にこっそり抜け出そうとしても見張りがいる。ならば昼間に堂々と出てってやろうとすれば後ろからぞろぞろ人がついてきてパレード状態にされる。
ほとほと困り果てた青年は、手紙を書いた。ハンターオフィスに向けて。
『どうか俺をここから助け出して欲しい。 夢追い人より』
少年は夜道を急いでいた。すっかり遅くなってしまった。今日は珍しい種類の鉱石がたくさん入荷していたから、嬉しくなってあれもこれもと夢中になってしまったのだ。
きっと先生は心配しているだろう。
だが、きっと先生は今日の収穫を喜んでくれるだろう。
はやる気持ちを抑えられず、少年は駆け出す。先生が待っているはずの小さな家へ。
(あれ?)
けれど、家の前まで来て少年は違和感をおぼえた。もう夜遅いというのに、窓に明かりがない。先生がこんな時間に出かけるはずはないのに。
もしかしてあまりにも遅い自分を探しに出てしまったのだろうか、と思いながら、少年は家の扉を開いた。
すると。
「先生!!」
窓から差し込む月明かりがたっぷりとたまっているかのような、そんな床に。
先生が倒れていた。
血を流して。
「先生!? どうしたんですか先生!!」
少年は駆け寄って大人の男の大きな身体を必死に持ち上げた。
「ああ……、セブ……。よかった、無事、で……。そして、最後に、会え、て」
「どういうことなんです、先生! 最後だなんて! 待ってください、すぐに医者を」
慌てる少年の手を、先生は弱々しく握った。そして、ゆるく微笑んで首を横に振った。
「セブ、お前の幸せを、祈って、る……」
それが、最後の言葉だった。
●これは現実
早朝、現実になることだけを夢にみる青年は目覚めた。
今夜も夢をみていた。幾度となく繰り返した夢だった。
同じ夢を何度もみることは珍しくない。まだ現実になっているところに遭遇していない夢の光景ならば、より強く覚えておけることになるため、繰り返しは有難い。
だが。
今夜の夢は有難くない。
今夜の夢はすでに遭遇している過去の出来事であるからだ。それどころか、青年にとって一番の、苦い思い出だ。
けれど皮肉なもので、この夢を一番よくみるのである。
青年と呼べる歳まで成長した少年は、深い深いため息をついた。この夢をみるたびに、忘れようと思っている自分の名前を思い出してしまう。
あのとき、自分は十二歳。あれから、六年の歳月が流れた。
先生を殺したのが誰なのか。そしてなぜ殺されなければならなかったのか。まだ何も、わかっていない。
青年は、この世のものとは思えぬほどに整った己の顔を両手で覆い、低く呻いた。
「……先生……」
その夢をみたからだろう。この日、青年はひどく機嫌が悪かった。
書き溜めた夢日誌の中の夢のひとつに登場した村とよく似た村を見つけ、立ち寄ったのだが。
(これはわざわざ確認に来るほどのことではなかったな……)
今回青年が見た夢は「未来」に起こるはずのこと、であった。しかし、その内容は村の中でのささいな諍い。キイチゴをたくさん収穫できるのは俺だ、いや俺の方が、という実にくだらないことだった。
何か裏があるのでは、としばらくは調べてみたが、特に何もない。時間を無駄にしただけだった。
機嫌が悪いのに加えての疲労感に、青年はぐったりしていた。だから、それは本当に、不機嫌が溜まったが故の考えなしの行動だった。
キイチゴ収穫レースの前日に、酒場で「絶対俺が勝つ!!」と息巻いていた男に、こう言ってしまったのだ。
「あなたは、負けますよ。優勝は、黒い帽子をかぶった金髪の男だ」
その結果。
青年の言うとおり、黒い帽子をかぶった金髪の男が優勝した。知っていた結末を見届け、青年は村を去ろうとしたのだが。
「なあ、あんた! あんたは、伝説の精霊様なんだろう?」
「は?」
「村には伝説があるんだ、なんでも知っている、先のこともなんでもわかる精霊様が、いつか訪れて村を救ってくださる、と。あんたは人間とは思えないほど美しい。それに未来がわかってた」
「残念ながら俺は人間です、未来がわかった、というのはちょっと違う……」
「いいんです、人間に姿をやつしていらっしゃるのでしょう? わかっております」
「いや、その発言ですでに、あなた方が精霊について何も知らないことが丸わかりですが」
「おおお申し訳ない、我々は無知でして。どうぞこちらで我々にご教授を」
「そういうことではなく!」
「ところであなたのお名前は?」
「俺の名前……? さあ、なんだったかな……」
「あああ、わたしどもにはとても名前など教えて貰えないということですな!!!」
「いや、そうではなく!」
みるみる村人に取り囲まれ、立派な家に押し込められ、そして。
そこから出られなくなってしまった。
(う、嘘だろう……?)
青年は、三日耐えた。どんなに違う、と説明しても村人たちはわかってくれない。その上、うっかり明日の天気を予測などして、しかもそれが当たってしまったりしたものだから更に始末が悪くなった。なお、天気を当てたのは空の雲を読んだからであって夢の所為ではない。
名前を覚えていない、という言葉もどうにも違う方向へ解釈され、「人とは違う尊い存在」としての価値を高めてしまっているようだった。
青年は、何度も逃げ出そうとした。しかし。
夜にこっそり抜け出そうとしても見張りがいる。ならば昼間に堂々と出てってやろうとすれば後ろからぞろぞろ人がついてきてパレード状態にされる。
ほとほと困り果てた青年は、手紙を書いた。ハンターオフィスに向けて。
『どうか俺をここから助け出して欲しい。 夢追い人より』
リプレイ本文
その村は実に穏やかで、諍いもなければ飢えもないようであった。村の様子を先に偵察してきたロニ・カルディス(ka0551)が顔をしかめた。
「それほどまでに、誰かに縋らねばならないほど追い詰められてはいないだろうに……」
精霊として一人の青年を崇め奉っている、という村の現状に対する、率直な感想だった。ルベーノ・バルバライン(ka6752)が頷いて同意する。
「平和な村みたいだな。ならば多少の荒事でも大騒ぎになるだろう」
「そうだな。青年が出られずにいるという家の目星もついた。なんでも、ずいぶんと整った顔立ちの青年らしい」
「やはり、あの兄さんか。変な力をもっていると厄介事に巻き込まれやすいみたいだな」
Anbar(ka4037)が呟いた。以前にも、事実を夢に見るという青年に関わったことがあり、もしや、と思っていたのである。
「それにしても、精霊扱いされて困ってるって、面白い依頼よね。私だったらチヤホヤされてみたいなぁ、なんて思うけど」
カーミン・S・フィールズ(ka1559)冗談めかして言ってから、いっそのことそれに乗っかってしまうのも悪くないか、と考えた。助けを求めてきた青年に接触を図るにあたって、村人に気付かれぬようにするのではなく、正面から突破する方法を使うことができるのではないかと思ったのである。
「私も未来を謡う吟遊詩人とかになっちゃおうかな」
「良いのではないでしょうか」
カーミンの案に古川 舞踊(ka1777)が同意した。艶やかな色の小袿をひらりと出してカーミンに着せながら、これで吟遊詩人らしくなりますよ、などと微笑む。カーミンは半信半疑にしつつも、華やかな衣装に顔を綻ばせた。
「では伝言と盛り上げはそちらで頼むぞ」
ルベーノが告げると、カーミンは軽やかに笑って引き受けた。
「では我々は、村で巻き起こす騒動の準備をしよう」
コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)がその場を取りまとめ、星空の幻(ka6980)は力強く頷いた。彼女にとってはこれが初めての依頼だ。気合の入り方も違う。
そうして、一同は青年の救出作戦を開始した。
カーミンはできるだけ目立つようにして村に入った。ロニが聞き込みをしてきてくれた情報をもとに、キイチゴ騒動の顛末を中心にした詩を編む。
「赤き果実を集めしは……」
衣装をひらひらさせながら、よく通る声で謡う。踊り子ではないから、振付はほぼなし。
突然現れた吟遊詩人・カーミンは、すぐに村人の注目を浴びた。行きかう人は皆、足を止め、わざわざ家から出てきて集まってくる人まで現れた。カーミンは人数が充分であることを確かめてから、「未来の内容」を謡う。
「近く現る、黒き脅威。人ならざるモノ。息をひそめよ、心せよ。近く現る、黒き脅威。退けるもまた、人ならざるモノ」
笑みを徐々に消して、視線を鋭くし、気迫を上乗せしていく。村人たちが、固唾を飲んで聞いているのがわかった。すべてを謡い終ると、カーミンは深々とお辞儀をし、真剣な表情を再び笑顔に戻して村人たちに挨拶をした。
「えへ、どうだった?」
可愛らしくはにかむカーミンに拍手が送られる。だが、皆、最後に謡った内容が気になっているようだった。そわそわしている人々の中から、髭面の男が、おずおずと口を開く。
「なあ、あんたも未来のことがわかるのか?」
「ちょっとだけね。占いができる程度よ、たいしたことないわ。そういえば、この村には精霊様がいらっしゃるんですって?」
カーミンが愛想よく受け応えると、集まっていた人々は口々に「精霊様」について話し始めた。いかに素晴らしいか、有難いことか、等々。カーミンは笑い出しそうになるのをこらえてそれらを聞いた後、心から感心したように何度も頷いて、こう申し出た。
「良かったら私にも精霊様に会わせてほしいなぁ、なんて。私の占いの内容を、もっと詳しく教えてくれるかもしれないし」
村人は大喜びで快諾し、カーミンは無事、青年がいる家へと足を踏み入れることに成功したのだった。
「あなたね、ハンターオフィスに手紙をくれたのは」
精霊様とふたりで話がしたい、と言って村人を追い払ってから、カーミンは青年に話しかけた。扉の向こうには見張りが立っているため、声は極力ひそめる。ロニが話していたとおりの整った顔立ちで、青年は頷いた。
「手間をかけてすまない」
青年は疲労の色濃い声で挨拶し、頭を下げた。
「この村は平和だ。特に騒動もない。だからこそ、皆、暇で仕方がないんだ。非日常的な刺激に飢えている」
「あー、なるほど。私が今物凄く歓迎されたっていうのもそういうわけなのね」
カーミンは納得して苦笑した。未来がわかる、精霊様とくれば、それはもう非日常の塊のようなものなのだろう。
「まあ、任せておいて。もう一晩、我慢してもらうわよ」
カーミンが村へ乗り込んだ日の深夜。
村に、不気味な呻き声が響き渡った。
「ぐうううううう……、ごぇえええええ……!」
暗闇の中、黒い影がのしのしふらふらと村の道々を徘徊している。どう見ても人間ではない。
だが。実際のところは人間であった。まるごとゾンビを着たルベーノが、呻き声を上げながら徘徊していたのである。顔も黒く塗りつぶし、よほどの近さで確認しなければわからないであろうという念の入れようだ。当然、恐る恐る家の窓から様子を伺うだけの村人に正体がばれるわけはない。たっぷりと村を怖がらせて、ルベーノは闇夜に紛れて村を出た。
翌朝。村は昨夜の怪物の話題でもちきりだった。ことに、子どもを抱えた家庭の恐怖は並ではない。我が子だけでも村の外へ逃がそうか、などと算段を始めるものまでいた。
「いや。村の外へ出しても安全ではないと思う。あの怪物は、この周囲の村や森を順に徘徊しているようでな」
村人たちの話に割って入ったのは、ロニであった。見慣れぬ男の出現に村人はぎょっとしたものの、ロニが数日前に村を訪れていた男だとわかると気を許して言葉に耳を傾け始めた。
「実は森に遭難者がいる。俺たちはその遭難者を救出するためにやって来たんだが、あの怪物の脅威に、下手に手出しができないのだ。そこで、この村にいるという精霊のことを思い出したんだ」
ロニが滔々と語る。神妙な面持ちでコーネリアも頷いた。
「昨夜、怪物がこの村へ現れたのには理由があるかもしれない。その精霊を狙っている可能性もある」
「なんと!」
村人が一斉にざわつく。
「その可能性も踏まえて、怪物の討伐と遭難者の救出のために彼の協力を得たい。あなた方から頼んではいただけないだろうか」
騒々しさが広がりきる前に、すかさずロニが提案をした。どこか不安そうに顔を見合わせて即答してくれない村人たちに、さらに一言ダメ押しをした。
「遭難者は、彼女の娘なんだ。まだ年端もいかない女の子だ。どうか頼む」
急に自分を示され、コーネリアは狼狽えたが、なんとか取り繕って頭を下げた。
「どうか、頼む」
はたして、同じく年端もゆかぬ子どもを抱えた母親たちの心に火がともった。
かくして、青年は、付き添っていたカーミンと共に家を出た。まるごとぞんびを脱いでしれっと姿を現したルベーノと、舞踊、Anbarが森まで案内する役を申し出る形にし、村を出発した。
「はーーー。助かった……」
久しぶりに自由に出歩くことができるようになった青年は、心から安堵のため息を吐いた。相当にストレスがたまっていたようだ。
「以前はその力が役に立ったが、今回はそうとは言えない状態になってしまったな」
Anbarが苦笑して言うと、以前、という言葉に、青年は首を傾げた。どうやら、初対面ではないはずのAnbarのことも覚えていないようだ。
「すまない……」
申し訳なさそうに肩をすくめる青年に、舞踊が微笑みかける。
「さて。もう一芝居つきあっていただきますね。大丈夫です、こういった茶番で厄介事を解決するのは、リアルブルーではよくあることですから」
「……それ、本当なんでしょうね?」
カーミンがじろり、と疑いの目を向けた。
そんなことを話しながら、村から充分に距離を取り、一行は森の入り口付近で立ち止まった。ハンターたちはきょろきょろと周囲を見回す。
「このあたりで合流の約束だったよな」
ルベーノが呟いたとき、大きな樹の陰から、グラムが姿を現した。
「出番?」
彼女が、遭難者の少女役、というわけだった。すぐに連れ帰ってはあまりに不審であるため、ハンターたちはこれからの流れを青年に説明しつつ、わざと草や土で手足を汚して時間をつぶした。いかにも奮闘しました、という姿でいなければならない。
グラムを連れて村に戻り、怪物は逃がしてしまったから追うために村を離れさせてもらう、という流れにするつもりだ、と説明すると、青年は素直に頷いて承諾した。
「まるごとぞんび、もう一回着て現れた方がいいか?」
ルベーノが尋ねる。姿を現し、そして逃げて行った方が真実味は増すであろう。
「でも、深夜にしか現れない設定にしていたでしょ? ロニたちがその説明まで村人にしてるかもしれないし、それだと、今出て行っては変よ」
「確かにそうだな。夜を待つためにもう一晩ここに留まるのも時間をかけすぎるしな」
カーミンが指摘し、ルベーノはもっともだ、と頷いて納得した。
「では、そろそろ行きましょうか」
舞踊がにっこり笑って促した。
そのころ、村では。
ロニとコーネリアが村人たちと対話を重ね、青年がこの騒動の後に立ち去りやすくなるよう画策していた。
「お嬢さんのこと、心配ね」
「あ、ああ……」
すっかり母親扱いされてしまい、コーネリアは言葉を濁す。眉唾モノの伝説を信じてしまっている、と聞いた時にも感じたことだが、なんとも信じやすいというか、おめでたい人々だ。
「皆の話を聞いていると、そいつが精霊かどうかは分からんな。戻って来たら、当分我々が保護し、その上で何者か調べ上げるべきだろう」
コーネリアはつとめて真剣に、村の女たちに向かってそう語った。妙な精霊信仰が根付いてしまっては、今後ゆゆしき事態にもなりかねない。そういった可能性は、潰しておかねばならないとの考えからだった。
コーネリアとは離れた位置で、ロニは主に男性を相手に話をしていた。実直な語り口のロニの言葉は説得力にあふれており、誰もが真剣に耳を傾けている。
「他に危機にさらされている村があるかもしれない。周囲の危機から守ってもらうためにも、ここにばかり彼を留めない方がいいのではないだろうか」
「確かに……。しかし、では俺たちは何に祈れば……」
「どうだろう、彼の姿を模して、石像を作っては。それに向かって祈るのだ。祈りはきっと、彼に届く」
「それはいい。ちょうどいい石があるか、石工の棟梁に訊いてみよう」
ロニの筋の通った話に、男たちが頷き合った。
と、そこへ。
「おーい! 精霊様たちが帰って来たぞ!!」
グラムを連れ、青年とハンターたちが帰ってきた。グラムは、コーネリアの顔を見つけると迫真の演技で彼女に駆け寄る。
「ママ~っ!!!」
「ぶ、無事で良かった……、良く頑張ったな」
コーネリアはグラムを抱き留め、つたないながらも労う言葉をかけた。感動的な場面に、村人たちから歓声があがり、同時に、男性陣を中心に青年への賛辞が飛んだ。大騒ぎになる前に、と青年は慌てて口を開く。ハンターたちに指示されたとおりのセリフを言った。
「お嬢さんは無事に救出できましたが、怪物は深夜に行動を開始するらしく、まだ捕捉ができていません。引き続き対処するため、俺はこの村を出て怪物を追います」
そして、素早く背を向けた。そこへ。
「待っておくれよ」
女性の声が追いかけてくる。
「この人の言うことには、あんたは精霊かどうか怪しいらしいじゃないか。ね、そうだろう? ちゃんと調べてくれるんだよね?」
女性は、コーネリアに問いかけた。村の男性陣が憤慨する。
「何を言ってるんだ、精霊様に決まってるだろう。この人は精霊様のかわりに石像を作って祈るといい、って言ってくれたぞ」
そして、ロニの方を向いた。
どうにも、噛みあわないことに気がついた村人たちの顔が、みるみる険しくなっていく。
「何だ?」
「どういうことだ?」
不穏な空気を読んで、青年の隣に立っていたAnbarがそっと囁いた。
「走って逃げろ」
青年は浅く頷くと、一直線に駆け出した。
「あっ、逃げた!!!」
「に、逃がすか、ニセ精霊め!!! 追うぞ!!!!!」
そう叫んでいち早く駆け出して追っていくのは、コーネリアだ。グラムを抱えるようにして、駆け出していく。舞踊とAnbar、ルベーノがその後をさらに追っていった。
ロニは引きつる顔を必死に険しくして、カーミンと頷き合う。
「私たち、騙されてたってわけね」
「許しがたい!」
そしてふたりも、全速力で駆け出した。背後では、村人が騒ぐ声がしていたが、振り返る気にはなれなかった。
「まあ、なんとか、最低限、逃げ出すことはできたってことかしら」
「そう、みたいだね」
ぜえはあ、と荒い息を整えながら、カーミンが呟き、グラムが頷いた。青年は何度も何度も深呼吸をしている。舞踊も疲れたように息を漏らす。
「暇を持て余すとは、かくも怖いことですね。リアルブルーも同じことです」
「とにかく、しばらくは周囲に近寄らない方がいいだろうな。遠くへ行くことだ」
ロニが青年の肩を叩いて励ます。青年は、そうします、と頷いた。
「……こんな大騒ぎであっても、また、忘れてしまうのか?」
ふと、Anbarが呟いた。青年は、夢のこと以外忘れてしまう。
「たぶん、忘れてしまうだろうな」
青年は、少し残念そうに言う。じゃあさ、と明るい声を出したのは、ルベーノだ。
「どうせ忘れちまうなら、散々な目に遭った、って笑い飛ばしておこうぜ。その方が、ちょっとは後味がいいだろ。もし不意に思い出したときのためにも」
「それもそうだ」
コーネリアが頷いた。青年も、少し微笑んで、深呼吸をし直した。
あの夢を見たことだけは、忘れられないけれど、それでも、不快感はいつの間にかなくなっているようだった。
「それほどまでに、誰かに縋らねばならないほど追い詰められてはいないだろうに……」
精霊として一人の青年を崇め奉っている、という村の現状に対する、率直な感想だった。ルベーノ・バルバライン(ka6752)が頷いて同意する。
「平和な村みたいだな。ならば多少の荒事でも大騒ぎになるだろう」
「そうだな。青年が出られずにいるという家の目星もついた。なんでも、ずいぶんと整った顔立ちの青年らしい」
「やはり、あの兄さんか。変な力をもっていると厄介事に巻き込まれやすいみたいだな」
Anbar(ka4037)が呟いた。以前にも、事実を夢に見るという青年に関わったことがあり、もしや、と思っていたのである。
「それにしても、精霊扱いされて困ってるって、面白い依頼よね。私だったらチヤホヤされてみたいなぁ、なんて思うけど」
カーミン・S・フィールズ(ka1559)冗談めかして言ってから、いっそのことそれに乗っかってしまうのも悪くないか、と考えた。助けを求めてきた青年に接触を図るにあたって、村人に気付かれぬようにするのではなく、正面から突破する方法を使うことができるのではないかと思ったのである。
「私も未来を謡う吟遊詩人とかになっちゃおうかな」
「良いのではないでしょうか」
カーミンの案に古川 舞踊(ka1777)が同意した。艶やかな色の小袿をひらりと出してカーミンに着せながら、これで吟遊詩人らしくなりますよ、などと微笑む。カーミンは半信半疑にしつつも、華やかな衣装に顔を綻ばせた。
「では伝言と盛り上げはそちらで頼むぞ」
ルベーノが告げると、カーミンは軽やかに笑って引き受けた。
「では我々は、村で巻き起こす騒動の準備をしよう」
コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)がその場を取りまとめ、星空の幻(ka6980)は力強く頷いた。彼女にとってはこれが初めての依頼だ。気合の入り方も違う。
そうして、一同は青年の救出作戦を開始した。
カーミンはできるだけ目立つようにして村に入った。ロニが聞き込みをしてきてくれた情報をもとに、キイチゴ騒動の顛末を中心にした詩を編む。
「赤き果実を集めしは……」
衣装をひらひらさせながら、よく通る声で謡う。踊り子ではないから、振付はほぼなし。
突然現れた吟遊詩人・カーミンは、すぐに村人の注目を浴びた。行きかう人は皆、足を止め、わざわざ家から出てきて集まってくる人まで現れた。カーミンは人数が充分であることを確かめてから、「未来の内容」を謡う。
「近く現る、黒き脅威。人ならざるモノ。息をひそめよ、心せよ。近く現る、黒き脅威。退けるもまた、人ならざるモノ」
笑みを徐々に消して、視線を鋭くし、気迫を上乗せしていく。村人たちが、固唾を飲んで聞いているのがわかった。すべてを謡い終ると、カーミンは深々とお辞儀をし、真剣な表情を再び笑顔に戻して村人たちに挨拶をした。
「えへ、どうだった?」
可愛らしくはにかむカーミンに拍手が送られる。だが、皆、最後に謡った内容が気になっているようだった。そわそわしている人々の中から、髭面の男が、おずおずと口を開く。
「なあ、あんたも未来のことがわかるのか?」
「ちょっとだけね。占いができる程度よ、たいしたことないわ。そういえば、この村には精霊様がいらっしゃるんですって?」
カーミンが愛想よく受け応えると、集まっていた人々は口々に「精霊様」について話し始めた。いかに素晴らしいか、有難いことか、等々。カーミンは笑い出しそうになるのをこらえてそれらを聞いた後、心から感心したように何度も頷いて、こう申し出た。
「良かったら私にも精霊様に会わせてほしいなぁ、なんて。私の占いの内容を、もっと詳しく教えてくれるかもしれないし」
村人は大喜びで快諾し、カーミンは無事、青年がいる家へと足を踏み入れることに成功したのだった。
「あなたね、ハンターオフィスに手紙をくれたのは」
精霊様とふたりで話がしたい、と言って村人を追い払ってから、カーミンは青年に話しかけた。扉の向こうには見張りが立っているため、声は極力ひそめる。ロニが話していたとおりの整った顔立ちで、青年は頷いた。
「手間をかけてすまない」
青年は疲労の色濃い声で挨拶し、頭を下げた。
「この村は平和だ。特に騒動もない。だからこそ、皆、暇で仕方がないんだ。非日常的な刺激に飢えている」
「あー、なるほど。私が今物凄く歓迎されたっていうのもそういうわけなのね」
カーミンは納得して苦笑した。未来がわかる、精霊様とくれば、それはもう非日常の塊のようなものなのだろう。
「まあ、任せておいて。もう一晩、我慢してもらうわよ」
カーミンが村へ乗り込んだ日の深夜。
村に、不気味な呻き声が響き渡った。
「ぐうううううう……、ごぇえええええ……!」
暗闇の中、黒い影がのしのしふらふらと村の道々を徘徊している。どう見ても人間ではない。
だが。実際のところは人間であった。まるごとゾンビを着たルベーノが、呻き声を上げながら徘徊していたのである。顔も黒く塗りつぶし、よほどの近さで確認しなければわからないであろうという念の入れようだ。当然、恐る恐る家の窓から様子を伺うだけの村人に正体がばれるわけはない。たっぷりと村を怖がらせて、ルベーノは闇夜に紛れて村を出た。
翌朝。村は昨夜の怪物の話題でもちきりだった。ことに、子どもを抱えた家庭の恐怖は並ではない。我が子だけでも村の外へ逃がそうか、などと算段を始めるものまでいた。
「いや。村の外へ出しても安全ではないと思う。あの怪物は、この周囲の村や森を順に徘徊しているようでな」
村人たちの話に割って入ったのは、ロニであった。見慣れぬ男の出現に村人はぎょっとしたものの、ロニが数日前に村を訪れていた男だとわかると気を許して言葉に耳を傾け始めた。
「実は森に遭難者がいる。俺たちはその遭難者を救出するためにやって来たんだが、あの怪物の脅威に、下手に手出しができないのだ。そこで、この村にいるという精霊のことを思い出したんだ」
ロニが滔々と語る。神妙な面持ちでコーネリアも頷いた。
「昨夜、怪物がこの村へ現れたのには理由があるかもしれない。その精霊を狙っている可能性もある」
「なんと!」
村人が一斉にざわつく。
「その可能性も踏まえて、怪物の討伐と遭難者の救出のために彼の協力を得たい。あなた方から頼んではいただけないだろうか」
騒々しさが広がりきる前に、すかさずロニが提案をした。どこか不安そうに顔を見合わせて即答してくれない村人たちに、さらに一言ダメ押しをした。
「遭難者は、彼女の娘なんだ。まだ年端もいかない女の子だ。どうか頼む」
急に自分を示され、コーネリアは狼狽えたが、なんとか取り繕って頭を下げた。
「どうか、頼む」
はたして、同じく年端もゆかぬ子どもを抱えた母親たちの心に火がともった。
かくして、青年は、付き添っていたカーミンと共に家を出た。まるごとぞんびを脱いでしれっと姿を現したルベーノと、舞踊、Anbarが森まで案内する役を申し出る形にし、村を出発した。
「はーーー。助かった……」
久しぶりに自由に出歩くことができるようになった青年は、心から安堵のため息を吐いた。相当にストレスがたまっていたようだ。
「以前はその力が役に立ったが、今回はそうとは言えない状態になってしまったな」
Anbarが苦笑して言うと、以前、という言葉に、青年は首を傾げた。どうやら、初対面ではないはずのAnbarのことも覚えていないようだ。
「すまない……」
申し訳なさそうに肩をすくめる青年に、舞踊が微笑みかける。
「さて。もう一芝居つきあっていただきますね。大丈夫です、こういった茶番で厄介事を解決するのは、リアルブルーではよくあることですから」
「……それ、本当なんでしょうね?」
カーミンがじろり、と疑いの目を向けた。
そんなことを話しながら、村から充分に距離を取り、一行は森の入り口付近で立ち止まった。ハンターたちはきょろきょろと周囲を見回す。
「このあたりで合流の約束だったよな」
ルベーノが呟いたとき、大きな樹の陰から、グラムが姿を現した。
「出番?」
彼女が、遭難者の少女役、というわけだった。すぐに連れ帰ってはあまりに不審であるため、ハンターたちはこれからの流れを青年に説明しつつ、わざと草や土で手足を汚して時間をつぶした。いかにも奮闘しました、という姿でいなければならない。
グラムを連れて村に戻り、怪物は逃がしてしまったから追うために村を離れさせてもらう、という流れにするつもりだ、と説明すると、青年は素直に頷いて承諾した。
「まるごとぞんび、もう一回着て現れた方がいいか?」
ルベーノが尋ねる。姿を現し、そして逃げて行った方が真実味は増すであろう。
「でも、深夜にしか現れない設定にしていたでしょ? ロニたちがその説明まで村人にしてるかもしれないし、それだと、今出て行っては変よ」
「確かにそうだな。夜を待つためにもう一晩ここに留まるのも時間をかけすぎるしな」
カーミンが指摘し、ルベーノはもっともだ、と頷いて納得した。
「では、そろそろ行きましょうか」
舞踊がにっこり笑って促した。
そのころ、村では。
ロニとコーネリアが村人たちと対話を重ね、青年がこの騒動の後に立ち去りやすくなるよう画策していた。
「お嬢さんのこと、心配ね」
「あ、ああ……」
すっかり母親扱いされてしまい、コーネリアは言葉を濁す。眉唾モノの伝説を信じてしまっている、と聞いた時にも感じたことだが、なんとも信じやすいというか、おめでたい人々だ。
「皆の話を聞いていると、そいつが精霊かどうかは分からんな。戻って来たら、当分我々が保護し、その上で何者か調べ上げるべきだろう」
コーネリアはつとめて真剣に、村の女たちに向かってそう語った。妙な精霊信仰が根付いてしまっては、今後ゆゆしき事態にもなりかねない。そういった可能性は、潰しておかねばならないとの考えからだった。
コーネリアとは離れた位置で、ロニは主に男性を相手に話をしていた。実直な語り口のロニの言葉は説得力にあふれており、誰もが真剣に耳を傾けている。
「他に危機にさらされている村があるかもしれない。周囲の危機から守ってもらうためにも、ここにばかり彼を留めない方がいいのではないだろうか」
「確かに……。しかし、では俺たちは何に祈れば……」
「どうだろう、彼の姿を模して、石像を作っては。それに向かって祈るのだ。祈りはきっと、彼に届く」
「それはいい。ちょうどいい石があるか、石工の棟梁に訊いてみよう」
ロニの筋の通った話に、男たちが頷き合った。
と、そこへ。
「おーい! 精霊様たちが帰って来たぞ!!」
グラムを連れ、青年とハンターたちが帰ってきた。グラムは、コーネリアの顔を見つけると迫真の演技で彼女に駆け寄る。
「ママ~っ!!!」
「ぶ、無事で良かった……、良く頑張ったな」
コーネリアはグラムを抱き留め、つたないながらも労う言葉をかけた。感動的な場面に、村人たちから歓声があがり、同時に、男性陣を中心に青年への賛辞が飛んだ。大騒ぎになる前に、と青年は慌てて口を開く。ハンターたちに指示されたとおりのセリフを言った。
「お嬢さんは無事に救出できましたが、怪物は深夜に行動を開始するらしく、まだ捕捉ができていません。引き続き対処するため、俺はこの村を出て怪物を追います」
そして、素早く背を向けた。そこへ。
「待っておくれよ」
女性の声が追いかけてくる。
「この人の言うことには、あんたは精霊かどうか怪しいらしいじゃないか。ね、そうだろう? ちゃんと調べてくれるんだよね?」
女性は、コーネリアに問いかけた。村の男性陣が憤慨する。
「何を言ってるんだ、精霊様に決まってるだろう。この人は精霊様のかわりに石像を作って祈るといい、って言ってくれたぞ」
そして、ロニの方を向いた。
どうにも、噛みあわないことに気がついた村人たちの顔が、みるみる険しくなっていく。
「何だ?」
「どういうことだ?」
不穏な空気を読んで、青年の隣に立っていたAnbarがそっと囁いた。
「走って逃げろ」
青年は浅く頷くと、一直線に駆け出した。
「あっ、逃げた!!!」
「に、逃がすか、ニセ精霊め!!! 追うぞ!!!!!」
そう叫んでいち早く駆け出して追っていくのは、コーネリアだ。グラムを抱えるようにして、駆け出していく。舞踊とAnbar、ルベーノがその後をさらに追っていった。
ロニは引きつる顔を必死に険しくして、カーミンと頷き合う。
「私たち、騙されてたってわけね」
「許しがたい!」
そしてふたりも、全速力で駆け出した。背後では、村人が騒ぐ声がしていたが、振り返る気にはなれなかった。
「まあ、なんとか、最低限、逃げ出すことはできたってことかしら」
「そう、みたいだね」
ぜえはあ、と荒い息を整えながら、カーミンが呟き、グラムが頷いた。青年は何度も何度も深呼吸をしている。舞踊も疲れたように息を漏らす。
「暇を持て余すとは、かくも怖いことですね。リアルブルーも同じことです」
「とにかく、しばらくは周囲に近寄らない方がいいだろうな。遠くへ行くことだ」
ロニが青年の肩を叩いて励ます。青年は、そうします、と頷いた。
「……こんな大騒ぎであっても、また、忘れてしまうのか?」
ふと、Anbarが呟いた。青年は、夢のこと以外忘れてしまう。
「たぶん、忘れてしまうだろうな」
青年は、少し残念そうに言う。じゃあさ、と明るい声を出したのは、ルベーノだ。
「どうせ忘れちまうなら、散々な目に遭った、って笑い飛ばしておこうぜ。その方が、ちょっとは後味がいいだろ。もし不意に思い出したときのためにも」
「それもそうだ」
コーネリアが頷いた。青年も、少し微笑んで、深呼吸をし直した。
あの夢を見たことだけは、忘れられないけれど、それでも、不快感はいつの間にかなくなっているようだった。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/08/04 18:59:40 |
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相談卓ってヤツ カーミン・S・フィールズ(ka1559) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2017/08/06 14:08:19 |