• 郷祭1014

【郷祭】楽しいキノコ狩り

マスター:樹シロカ

シナリオ形態
イベント
難易度
易しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/11/07 07:30
完成日
2014/11/17 01:01

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●キノコ狩り
 まだ登りきらない太陽の光に、草の上で朝露がキラキラ輝いていた。
「朝早くからお集まりいただいて申し訳ありません、ハンターの皆様」
 農耕推進地域ジェオルジの若き領主、セスト・ジェオルジ(kz0034)はいつも通りの生真面目な表情のままで挨拶する。
「幸い良い天気のようです。でも山歩きですから、迷子にならないよう、そして喉が乾かないように気をつけてください」
 各人に簡単な地図や方位磁針、水や軽食等が入ったポケット付きの肩掛けカバンが配布される。
 そこで普段あまり表情を変えないセストが珍しく、心底残念そうな顔つきになった。
「僕が一緒に行くことができれば良かったのですが……」
 かなり行きたかったらしい。だが祭の間、彼は多忙を極めている。
 今回の依頼はキノコ狩りである。
 香りと味のバランスがよく肉厚で、焼いてよし、煮て良し。乾燥させても美味という、リアルブルーでもポルチーニとして知られたキノコ。これをキノコ鍋にして領民や来客に振る舞う予定なのだ。
 だが、たかが「キノコ狩り」を、わざわざハンターに依頼するには理由がある。
 山道から大きく外れなければ迷子になることはないだろう。だが、その道ときたらアップダウンが激しく、樹木が生い茂り見通しも悪い。
 しかも村長祭を狙ってやってきた目端の利く連中が、やはりこのキノコを採りつくして高く売りつけようとしている噂もあるらしい。
 そこで体力に秀でるハンターに依頼が回ってきた訳だ。
「申し訳ありませんが、お昼に間に合わせたいので、日が高くなる頃までにお願いします。それから大事なことなのですが……」
 セストがキノコの特徴を書きつけた紙を配る。
「これにそっくりの『ニセポル』があります。こちらは毒性が強く、食用には向きません。間違わないように気をつけてくださいね」
 キノコの特徴を説明するセストは、なんだかいつもより楽しそうに見えた。

リプレイ本文

●いざ山へ
 地図を広げ、ユージーン・L・ローランド(ka1810)は説明に聞き入っていた。
「キノコ……ですか。そういえば食卓に乗る前の姿を見るのは初めてかもしれませんね」
 セスト・ジェオルジ(kz0034)が語るノコの特徴や、生えている場所、山での注意点。
 食材を採取することの難しさ。それを意識したことのない自分の見識の狭さに、苦笑が漏れた。
「セストさんは自領の事を良く御存じなのですね。良い領主様です」
 ユージーン自身がそうありたいと思う姿だ。だが、セストは表情を崩さないままに軽く会釈する。
「恐れ入ります。でも僕は、こういったことに興味があるだけなのです」
 そこにアル・シェ(ka0135)が声をかけた。妹のアイ・シャ(ka2762)は、隣でいつもの通り愛想よく笑っている。
「確認しておきたいのだが、一斉に好き勝手採ってよいものなのか?」
 山菜などは、手当たり次第に採っていると絶滅してしまう。好き勝手に盗ったのでは、山を荒らす集団と変わりないと思うのだ。
「そうですね、まだ小さい物は採らずにおいて頂けますか。それから笠に傷の付いた物はどうせ食べられませんから、それも残しておいてください」
「分かった。何事も節度をもっ……アイシャ、人の話を聞いているのか?」
「え? 勿論ですよ。邪魔する者は全力排除ですよね?」
 に~さまとのデートを邪魔する奴は、かもしれない。アイ・シャは無邪気な笑みを向ける。
「話は最後まで聞くように。全く、大丈夫か?」
 アル・シェは妹に改めて注意点を言い聞かせる。
「わかりましたわ、に~さま♪ じゃあ、遭遇しないようにいたしましょう♪」
 アイ・シャは兄の腕を引き、邪魔者が現れない奥地へと。

 エルム(ka0121)は軽く伸びをし、山の空気を胸一杯に吸い込む。
「せっかくここまで来たんだもの、このまま帰るのもアレだしね。ついでにキノコ狩りも手伝っていこうか!」
「話には聞いてイタケレド、実際にやるのは初めてナンダヨ。楽しみー!」
 いつでも楽しそうなアルヴィン = オールドリッチ(ka2378)だが、やっぱり今日も楽しそうだ。
「宜しくお願いします、エルムさん、アルヴィンさん」
 セストが声をかけると、アルヴィンは穏やかな笑顔を向ける。
「セスト君も一緒に行けタラ良かったんダケド。お忙しいのは仕方ナイヨネ、変わりに沢山採って来るネ☆」
「さっさと済ませて帰ってくるわ。鍋を楽しみにね!」
 エルムはセストに向かってひらひらと手を振った。
「行ってらっしゃい。皆さん……怪我には……気を付けて下さいね」
 鍋の準備のために残る神杜 静(ka1383)が一同を見送る。

●キノコ採り
 足元の落ち葉はしっとりと湿り、枝からは冷たい雫が滴り落ちる。
「皆の者! 山を舐めてはいかんぞ! これほど見通しの悪い場所では迷子になる事は死を意味しかねん!」
 ディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271)が大真面目に胸を張る。
「くれぐれも迷子になるな! ではボクに続けッ! ……冷たッ!?」
 留内陽平(ka0291)は額の水滴を拭った。
「美味いもんのためならどこへでも行く……てのが、人の歴史かあ」
「茸って美味しいし、ヘルシーでいっぱい食べても太らない神の食べ物よね!」
 銀 桃花(ka1507)は厳しい山道をものともせず、賑やかにお喋りを続ける。
「キノコだけ食ってればな。他のモンも食うだろうが」
 天宮 紅狼(ka2785)は同郷のよしみでついて来たものの、いつも通りの賑やかさにややうんざりした表情になる。
 だが桃花はそんなことは全く気にしない。
「さー、いっぱい狩るわよっ」
 早速目についた一群をガンガンむしり始める。正直、ニセかどうかは気にしていない。

「あー……誘われてつい来ちまったけど、正直メンド臭……」
 デルフィーノ(ka1548)が早くもぼやく。そもそも昼が苦手なのに、早朝から叩き起こされたのでは気合の入るはずもない。
「何か言ったかの?」
 ルリリィミルム(ka2221)がくるりと振り向く。
「って違います、ごめんなさい」
 何となくこの娘には弱い。
「ならいいのじゃ。さあキノコ狩り! デルフィーノ、吃驚する位沢山採るのじゃ!」
 うきうきと先に立って歩くルリリィミルムは、元気いっぱいだ。
「デルフィーノはキノコ料理は好きかの? 我は好きじゃぞ」
「……ま、嫌いじゃねーけど、まぁまぁってトコ? だって腹いっぱいにならなさそうじゃん?」
 キノコ鍋には例の「ブツ」が入らないのはいいのだが。
「大量に食せば腹も膨れようぞ。その為にも先ず採らなければじゃ。行くのじゃ、デルフィーノ!」
「へいへい……」
 諦め顔のデルフィーノの傍を、風のように身軽に時音 ざくろ(ka1250)が駆け抜ける。
「ちゃんとニセポルの見分け方も聞いたもんね♪ さあっ、キノコ狩りの冒険に出発! 沢山取って来ちゃうもん」
「ばうばうっ」
 お伴のわんこも張り切っているようだ。
 静架(ka0387)も逸る愛犬の頭を軽く撫でる。
「頼みますよヨミ」
 鹿に猪、山鳥に兎。この季節の山は自然の恵みの宝庫だ。
 平素は物静かな目に、ヤル気が漲っていた。

 ナナート=アドラー(ka1668)が優雅な手つきで、髪をかきあげた。
「これぐらいは大丈夫よねん」
 樹木の表皮に目印を刻む。迷子にならないための方策だ。
「ボクも準備はしてきたぞ」
 ディアドラは鞄から小袋を取り出した。中身は細かく砕いたパン屑だ。
「ここは故事に倣って、帰路を確保するぞ」
 移動しながら少しずつパン屑を零して行くのだ。帰りはパン屑を辿れば真っ直ぐ元の場所に……
「あっ、それは食べちゃ駄目だよ!!」
 ざくろが飼い犬を引っ張る。しつけられた犬は勝手に食べはしないが、興味深そうに匂いを嗅いでいる。
「うん、こっちにありそうだね」
 辺りの植物を確認し、ざくろが指さす。
「おおっ、早速見つけたぞ!」
 ディアドラが声を上げた。見ると、茶色いコロンとしたキノコが、大きな木の根元にびっしり生えていた。
「間違えてニセポルを採らない様にしないとねん」
 ナナートが屈みこみ、採ったキノコをひっくり返す。一応、笠や石突きの状態を確認するが、何とも判断が難しい。
「流石にこれは専門の者でないとわからんな。とりあえず持てるだけ持っていくことにして、現地で確認してもらうことにしよう」
「それもそうよね」
 早くも投げた。
「よーし、これが匂いだよ。わかるね?」
 ざくろは飼い犬にキノコの匂いを嗅がせる。ナナートは感心したように呟いた。
「あらん、それはいい方法ねえ」
「時間制限もあるしねっ、冒険家として他のキノコ採り集団に負けるわけにはいかないもん」
 ざくろは頬を紅潮させ、拳を握って見せた。

 ディッシュ・ハーツ(ka1048)は、ルーキフェル・ハーツ(ka1064)とウェスペル・ハーツ(ka1065)に言って聞かせる。
「いいか、アルさんに迷惑かけるなよ?」
「大丈夫だお! ディッシュやセラには負けないお!」
「ふおー! 競争なの!!」
 全然聞いてねえ。だが、アルヴィース・シマヅ(ka2830)は重厚な面を穏やかにほころばせた。
「お二人の事はお任せくださいませ。では、後ほど」
 セラ・グレンフェル(ka1049)がくすくす笑った。
「たくさん採れるといいね! でもウィズとルークは迷子にならないように気をつけてね」
「キノコ狩りだおーーー!!!」
「負けないのーーーー!!!」
 セラの注意もそこそこに、ルーキフェルとウェスペルは猛然と山へ。
「ああ、行っちゃった……」
「では我々も参りましょうか、お姫様」
 ディッシュが軽く片目をつぶり、セラは悪戯っぽい目を向ける。
「そうね。私も頑張るね! ふふー、宝探しは小さい頃から得意なのよ!」
 アルヴィースが一緒なら、ちびっこ二人も大丈夫だろう。ディッシュと二人きりの山歩きに、セラの足取りは弾むように軽くなる。
 ディッシュはセラの歩調に合わせて、一緒に歩く。
「適当に休憩も挟んで、な。慣れない山なんだから」
「わかってるわ! あ、ほら、あそこに!」
 明るい笑い声が遠ざかって行く。

 入れ替わるように、木立の間に微かな悲鳴が流れた。
「マジ勘弁しろよ、お前らには野生の本能ってのはねのか!?」
 傍の大木にしがみついたデルフィーノの足元で、小さなリスが小首を傾げていた。
「可愛いのう。ほれデルフィーノ、捕まえてやろうぞ。ペットにすると良いのじゃ♪」
 ルリリィミルムが金色の髪を揺らして大げさに飛びかかると、リスは素早く木立を駆け上がる。
「いやいやいや、可愛いとかないから! マジ危ねー……触られるトコだったワ」
 どういう訳かデルフィーノは動物が苦手なのだ。身震いしながら相棒を睨みつける。
「オマエ……俺が動物苦手なの、知っててやってるだろ?」
「何のことじゃ? ……おおっあんな所にうりぼうが居るのじゃ! 猪肉も好きじゃぞ。デルフィーノ! 捕まえに行くのじゃ!」
「俺様は行かねえぞ! ったく……命が幾つ合っても足りねーぜ」
 がっくりと木の根元に座りこむデルフィーノ。何ゆえ山に来たのか。
「はぁ……迂闊だったぜ。これからは注意しねえと……」
 ぽふん。豊かな黒髪に飛び乗るのは先刻のリス。絹を裂くような悲鳴が山の間を木霊して行った。

 アイ・シャがアル・シェの袖を引っ張った。
「に~さま、キノコ以外が鍋に入ってもいいですよね?」
 キノコ採りに熱中していたアル・シェが顔を上げと、大きなイノシシが鼻息荒くこちらを睨んでいた。
「……下拵えが大変そうだ、そいつはやめておけ」
 そういう問題なのだろうか。
「熊とかは確かにちょっと重いでしょうけれど……これぐらいなら何とかなりませんでしょうか?」
 むむーと不満げなアイ・シャの背後の藪が、音を立てた。
 飛び出してきたのは、うり坊とルリリィミルム。
「待つのじゃー!!」
 どうやら大イノシシの様子がおかしいのは、うり坊と逸れた為らしかった。
 一緒になってうり坊を追いかけようとするアイ・シャと、ルリリィミルムの襟首を掴まえるアル・シェ。
「本来の仕事が先だ」
「「は~い……」」
 無事に合流したイノシシの親子を無念そうに見送る肉食系女子二人であった。

●山の迷路
 慎重に山を行く面々もいれば、そうでない者もいて。
「森の中ならエルちゃんも40年くらい前は家族と暮らしていたしー。大船に乗ったつもりでいてよー」
 エリス・ブーリャ(ka3419)は鼻歌まじりで、道なき道をずんずん進む。
 ちなみに根拠はない。
「何かこのキノコ、じいちゃんに似てる……『エルちゃん、強く生きるんじゃよ』なんてね。じいちゃん生きてるけど!」
 ひとり芝居も絶好調だ。
「アレ、何かこのキノコ、カワイイ! ほらほら、パルムみたいダヨネ!」
 アルヴィンが赤だの紫だの、全力で【採 る な】モードのキノコを、どんどん籠に放り込む。
「これ友達にお土産トカしたいケド……今回は難しソウカナ?」
 三日月 壱(ka0244)がアルヴィンの籠を覗き込み、にこにこ笑う。
「沢山採れましたね! でもまだ目的のキノコが足りないみたいですし、頑張りましょうね!」
 人畜無害の笑顔の下には、腹黒い本性。
(くくく……皆毒キノコを食っちまえば面白くなりそうだよなぁ!)
 そもそもこのメンバーに加わったのも、団体で行動して迷子のリスクを回避する為。だが人選が正しかったかは謎である。
「あれ? これって大丈夫なやつだっけ?」
 エリスが指さすのは、ポルチーニっぽいキノコの群生だった。
「どうだろう、いざとなると判別がつきにくいな……」
 陽平が唸る。貰った注意書きを読み返すが、やはり判りにくい。
「……ちょっと食べてみて、そうすればわかる」
「大丈夫ですよ、大丈夫なキノコですよ! 間違いないです、採って行きましょう!」
 壱が天真爛漫な笑顔で断言し、どんどん籠に放り込んだ。
 ユージーンがまじまじと巨木を撫でる。
「では、これと同じ種類の木を狙い撃ちしましょうか。むやみに歩き回って、迷ってしまってはいけませんしね」
「ソレがイイね! 一応ココまでは、目印付けて来たんダヨ。ほら、アッチに……」
 アルヴィンは途中、何ヶ所かで木の枝にカラフルなキノコを突き刺してきたのだが。この団体でうろつき回った結果、最後に挿した場所は既に分からなくなっていた。
「……あれ? わかんなくなっちゃった。ゴメンネ☆」
 悪びれない笑顔が日の光に明るく輝く。集団迷子の発生である。

 ヨミの唸り声に、静架は身を低くする。
 イノシシの親子だった。静架は弓を下ろし、愛犬の鼻面を押さえる。
(子連れでは仕方がありませんね)
 親子連れは狩らないのが狩人の掟だ。
 イノシシは暫くして山の奥へを姿を消した。良く見ると、鼻づらで掘り返していた辺りには大量のキノコが。
 リアルブルーではキヌガサタケやアミガサタケと呼ばれる、形こそ奇妙だが美味と言われるものだ。
「成程、イノシシは鼻が効きますからね」
 見逃した例という訳ではないだろうが、大量のキノコが手に入った。もちろん、全てを取りつくすのは避ける。
「こんなものでしょうか」
 腰のベルトには兎や山鳥が下がり、籠には大量のキノコ。まずまずの成果だ。
「さあ帰りますか。……ヨミ?」
 愛犬が今度はクンクンと鼻を鳴らしている。
「……どうしたんですか?」
 藪を分けると、どこかで見た集団がいた。
「あ、もしかして帰り道わかったりしますか!?」
 壱が振り向き、頭を掻いた。


 シェリア・プラティーン(ka1801)はいつもより生き生きして見えた。
「私、キノコ料理って大好きですの! 沢山採って返りますわよ♪」
 元気いっぱい、険しい山道をどんどん進む。ティーア・ズィルバーン(ka0122)はその後ろをついていく。
「張り切るのはいいが迷子になるんじゃねぇぞ」
 からかうように声をかけつつ、一定間隔で木に目印をつける。
「子供扱いは失礼ですわよ! お仕事だから、ですわ!」
 つんとそっぽを向くシェリア。別にティーアを嫌っている訳ではないが、育ちの良さが災いし、男性に対しフランクに接することができないようだ。
 ティーアもその辺りは分かっている。
「お、こっちにもやっぱ、似たようなものがあるんだな」
 ふと道の脇に変わったキノコを見つけて足を止めた。シェリアが戻ってきて覗き込む。
「これを食べる勇気は、私にはありませんわ……」
 眉をひそめたのも無理はない。一見、とてもではないがまともとは思えない毒々しい色合いだ。
「向こうじゃこれらだって食えたから大丈夫だって……たぶん」
 最後はやや自信なさげにも聞こえたが、ティーアはキノコを籠に入れた。
「あら、あの木、この説明どおりじゃありません?」
 シェリアが不意に、道から少しそれた藪の向こうに生えた巨木に向かって駆け出した。
「おい待て、あんまり走ると危ない……!」
 キノコが生えているということは、腐った木も多いということだ。慌ててティーアも後を追いかける。
「大丈夫ですわ! ……ッ、きゃあああ!?」
「おいっ、シェリア!?」
 慌てて手を掴むが、二人一緒に山肌を滑り落ちてしまった。
「……って……! 大丈夫か?」
「……ゴメンなさい……私が軽率でしたわ……」
 泥まみれで枯葉まみれのシェリアがうっすら涙を浮かべて座り込んでいた。シェリアに怪我がないのを確認し、ティーアは内心安堵する。
「別に謝る必要はねぇよ。完全に遭難ってわけじゃねぇんだしな」
 余程驚いたのだろう、微かに震える肩を抱き寄せると重みがかかる。
 が、その少し後。髪を撫でる手を払いのけ、シェリアは数メートル飛びのいた。
「なな、何をしておりますの!?」
 真っ赤になって抗議するシェリアに、ティーアは軽く肩をすくめる。
「その元気なら大丈夫だな。ああ、ここから登れそうだぞ。ほら」
 しばしの葛藤の後、シェリアは差し出された手を握った。


 アルヴィースが長身を屈めて木の枝を避ける。
「成程、なかなか大変な山道でございますな」
 言葉ほどには疲れも見せず、見事な健脚ぶりだ。その先を、元気に歌いながらルーキフェルとウェスペルが飛び跳ねて行く。
「余り奥まで行ってはなりませんぞ。ああほら、こんなところに」
 肉厚のやや固いキノコを早速見つけ、双子を手招きする。
「しまー、すごいお!」
「うー、これで覚えたなの!」
 興奮で顔を赤くして、キノコを握り締める双子。
「おおっ、あっちのがおっきいですおー!?」
 ルーキフェルが叫んで駆け出す。小さいぶん、藪の隙間から見渡せたらしい。
「セストにいっぱい持って帰るなの! うーの目利きがうなるの!」
 ウェスペルは「ふん!」と鼻息荒く、反対方向へ。
 後にはひとりアルヴィースが取り残された。
「おや、あっという間に深入りされましたな……」

 無鉄砲に飛び込んだ結果は、当然迷子で。
「う? ……るーとしまー、どこですなの?」
 ウェスペルは途方に暮れる。
「みんな迷子、いくないの」
 どうやら自分が迷子とは認めないらしい。

 まったく同じような状況で、ルーキフェルも首を傾げていた。
「……ふぉ? うーもしまーもいないお? みんなまいごですかお??」
 やっぱり、迷子になったのは自分ではないらしい。
「うーが心配だお……二人ともるーが見つけますお!」
 うお~っと、藪を駆け抜けるちびっこ。だが直後に足を止め、鋭い目つきで辺りを見回す。
「おにくぅの気配がしますお!」

 アルヴィースは片手にブロッコリー、別の片手に干し肉を結び付けた釣竿を握り、器用に振るった。
「おお、こんなところにブロッコリーの群生が! おお、これは美味そうな肉ですなあ!」
 ひゅんっ。
 がさがさっ。
 釣糸の先には、そっくりなエルフの子供がくっついてきた。
「しまーの罠だったの、いくないの……でもちょっと助かりましたなの」
 大好物のブロッコリーをポケットに入れながら、ウェスペルがばつが悪そうに下を向く。
「勝手に奥に行ってはいけませんぞ」
「……一番大きいの、うーにあげるお」
 ルーキフェルがウェスペルの籠にキノコを入れた。二番目はセストにあげる分だ。
「さて、そろそろ時間ですぞ。戻りましょう」
 そろそろ太陽が真上にかかりつつあった。

●試食会
 何とか全員が時間までに戻ってきた。
「ざくろ冒険家だもん。ほら、ちゃんと迷子のみんなも保護してきたよ!」
 セストが目を丸くする。
「……ざくろさん、その方達は……?」
「えっ?」
 どうやら別の団体の迷子だったらしいが、一同山から連れて帰って貰ったことを大いに感謝し、採ったキノコも置いて去っていった。
「も、もちろん知ってたもん!!」
 ざくろが顔を真っ赤にしてわたわたとセストと迷子集団を見比べる。

 そして肝心のキノコはというと……。
「戻ったおー! 干し肉も持ってきましたので、入れてくださいお!」
 ルーキフェルが鼻の穴をふくらませて、大きなキノコを差し出した。
「お待たせなの!」
 ウェスペルも籠一杯のキノコを誇らしげに見せる。
「ずいぶん沢山ですね。これでキノコ鍋もたくさん作れます、有難うございます」
 セストが他の慣れた者を呼び、キノコの山を寄り分け始めた。
「君子危うきに近寄らず、である。ボクはセストを信用しているぞ!」
 ディアドラはジャッジを押しつけるのも堂々と。まあそれが一番安全で確実だろう。
「これがニセポル……見分けがつかないなの」
 ウェスペルはしゃがみこんで、キノコを見つめている。
「何、ボクちゃん食べたいの?」
 にゅーっと顔を出したエリスに、ウェスペルがびくっと肩を震わせた。
「え、あの、なんでもないなの……!!」
「遠慮しなくてもいーんだよ! なんならあっちでお鍋でもいっちゃおうか? ……食べないかぁ」
 ポケットを押さえて走って行くちびっこを、エリスは残念そうに見送った。
 壱がニセポルの籠を取り上げる。
「こっちは危ないので、別の所に運んでしまいますね!」
 その声に手伝いの人が振り向き、空き地を指さした。
「あちらに地面に穴を掘ってあります。後で燃やしますので、そこへ捨てておいてください!」
「はーい!」
 壱の声はとても爽やかに響いた。……爽やか過ぎる程に。

 静架とざくろが捕らえた獲物を調理担当へ渡すと、アル・シェも加わり、手早く下処理を済ませる。
「皆さん……お疲れ様です……では、後は、引き受けますね」
 静が山盛りのキノコを前に、暫し思案する。
「それにしても……沢山ありますねえ」
 キノコ鍋以外にもいろいろな料理ができそうである。
 シェリアも張り切ってエプロンを身につけた。
「今日は腕を振るいますわ!」
 ディッシュがそれぞれの種類ごとに分けた可食キノコを、セラが真剣な表情で取り上げる。
「こうするんだったよね」
 キノコの石突きを落とし、小さな刷毛や濡れ布巾で汚れを丁寧に取り除く。水洗いすると折角の旨味が飛んでしまうからだ。
「よく覚えていたね、大したものだよ。うん、やっぱりいい香りだね、最高だ」
 元々料理はあまり得意ではないセラが、一生懸命努力しているのを知っている。だからディッシュは頑張りを褒める。
 ウェスペルが横から覗き込もうとぴょんぴょん飛び上がった。
「キノコはブロッコリーと炒めてもきっとおいしいの!!」
「せっかく美味しいキノコなんだもの、炒めたりパスタと和えたり、サラダもいいよね!」
 セラの提案に、ディッシュは他の材料を見回した。ルークの干し肉を使えば、美味いスープができそうだ。シメに米などを入れるのもいいだろう。
「ところで、これは何かな?」
 ウェスペルがさりげなく置いたキノコをディッシュが笑顔で取り上げた。
「……なんでもないなの」
 何故ばれた。疑惑のニセポルを後に、ウェスペルは速攻でその場を離れた。
 エルムが材料と他のメンバーの調理を見渡して、提案する。
「ねーねー、キノコのシチューも作ってみようよ! きっとおいしいよ!」
「あら、いいわねん。あとこっち、ちょっと分けてもらってもいいのかしらん?」
 ナナートがひと山のキノコと山鳥の肉を指さした。
「ポルチーニは鶏肉と良く合うのよん?」
 玉葱、白菜、その他諸々の野菜を鍋に入れ、白ワインと牛乳を加えて最後に生クリーム投入。
「よし! 洋風キノコ鍋完成っと。皆、たんと食べて頂戴♪」
「こちらも……完成です」
 静が大皿に綺麗に並べた料理を、満足そうに眺めた。

「じゃあ早速デスが、いただきマス!」
 アルヴィンが嬉しそうにお椀を手にした。
「へえ、コンナ味にナルんだ。キノコって美味しいンダネ!」
 暖かい食べ物を入れたお腹が、ほかほかと温まってくる。
「やっぱりおにくおいしいですお……!」
「やっぱりブロッコリーおいしいですの……!」
 ルーキフェルとウェスペルも、スプーンを手にうっとり。
 その顔を見ていると、アルヴィースの顔も自然と笑顔になる。
「皆で採った物を、皆で頂く。こういうのはとても楽しいものですな」
「うむ、偶にはこういう庶民の食事も珍しくて良いものだな。おかわりだ!」
 ディアドラが元気な声を上げる横では、陽平も忙しくスプーンを動かしている。

 エルムは取り分けてもらったキノコ鍋を早速口に運ぶ。
「へーっ、おいしい!」
 採りたてのキノコの芳醇な香り、肉の旨味、ほど良く煮えた野菜も絶妙な味わいだ。
「近くにこんなにおいしいキノコが生えてるんじゃ、ゴブリンとかもそりゃ棲みつくよね」
 少し前の依頼を思い出す。あのときは芋だったか。
「……あの後、村は大丈夫なのかな。あとでセストさんにでもきいてみるか」
「なあに、考え事? ……あら。美味しいわね。これどうやって作ったのん?」
 ナナートが嬉しそうにリゾットを口に運ぶ。
「簡単だよ。まず、スープを……」
 美味しいと言われて気分を良くしたディッシュが、作り方を説明するのを、ナナートは興味深そうに聞いていた。
「皆さん……よく食べますねえ……おかわり要りますか?」
 微笑みながら静が空になった食器を片づけて回る。
 食べるよりも作る方が専門で、皆が美味しいと言って笑うのを見るのが嬉しい性質だ。
「あ、ください! 本当にすっごくおいしいよ……!」
 目をキラキラさせてざくろが呟く。
 ざくろだけではない。朝早くから山歩きでぺこぺこになった皆は、いくらでも料理を平らげてしまいそうだ。
「おい、試食なんだから、キノコはひとり一口もあれば十分だろう」
 アル・シェが皆の余りの健啖ぶりに呆れたように口を挟んだ。
 これでは本来の目的を忘れ、全部のキノコを食べてしまいかねない。
「大丈夫のよう……です。ほら……あちらに」
 静が指さす方を見ると、別に用意された大鍋が祭の会場へと運ばれて行くところだった。
「そうか。なら、俺達も少し貰うか」
「に~さま、わたくしがよそってあげますね。ほら、具も沢山でおいしそうですわ」
 アイ・シャが大盛りのお椀をアル・シェに手渡す。

 シェリアはおずおずと自分が作ったキノコのソテーをティーアに差し出した。
「いいとこのお嬢ちゃんの割に料理ができるとは意外だな」
 笑いながら受け取るティーアの様子を横目に、少し離れて座るシェリア。
「無理して食べなくても、構わないのですわ……!」
 強がっているが気になって仕方がない。見た目は綺麗に出来ている料理だが……
(これは……少し教えたほうがいいかもしれんな)
 ティーアはそう思いつつも、何気ない表情を崩さずきれいに平らげた。
「ごちそーさん。うん、今度は別の料理にも挑戦してみろよ。手伝うぜ」
「考えておきますわっ」
 お皿をひったくるように取り戻すと、シェリアは紅潮する頬を見られないようにさっと席を立った。

 ルリリィミルムが満面の笑みでデルフィーノに振り向く。
「キノコがこんなに美味いとはの! 驚きなのじゃ!」
「……どこがだ!!!」
 わざとのように、ピーマンとキノコのソテーが乗ったお皿が目の前にあった。ピーマンはデルフィーノの天敵だ。
(こいつ、無意識でこういう仕打ちをしやがる……!)
 きょとんとした顔でキノコを頬張るルリリィミルムを、デルフィーノが睨みつける。

 ユージーンは袖を引っ張られてふと振り向いた。エルムがじっと一点を見つめている。
「ねー、あっちのお鍋、どうなのかな。ユーちゃん、エルちゃんのかわりに食べて来てよ」
「……」
 ユージーンは穏やかな微笑みで、だが断固とした拒否の意思をにじませた。
 あっちの鍋、とは。

「うひゃははははははは!!!!」
 壱がいきなり笑いだした。
 誰かに食べさせようとニセポルを確保し、それを別の鍋に投入した所までは良かったのだが。
「おいしいんだけど、クッソ、なんだ、これ……!!!!」
 涙を流して転がる壱。悪戯しようとした天罰か、何故か自分が真っ先に食べる羽目になっていたのだ。
「そっちにもお鍋あるの? それもちょーだい♪」
 桃花はパスタやリゾットを平らげ、移動してきた。鍋がたっぷり残っているのに惹かれたらしい。
 紅狼はこの状況で残っている鍋というのに、微かな危機感を覚えてはいた。だが……
「見た目は普通のキノコと変わらんな。……って、桃花も食うのか? 腹壊しても何だし普通のにしといた方が……」
「大丈夫よー!」
 止める間もなくぱくつく桃花。
「……うふっ、なんだこっちのも美味しいじゃなーい♪ くー兄も、男ならガッといけー☆」
「分かった。分かったから、耳元で大きな声出すな!」
 何だかんだで好奇心に負けて、紅狼も鍋を口にする。
「味もフツーなんだが……クククッ」
 紅狼は自分自身に驚く。普段表情の変化に乏しく、笑顔を見せることのない紅狼だ。それが今、笑っている。
 というか、大笑いだ!
「クハハ……ハハハハ……ッ!!! 何だ、これは……!!!」
「あっははは! くー兄の笑顔凶悪過ぎ! まじやばいーウケるー♪」
 桃花が紅狼を見て涙を流して笑い転げている。
「……桃花、人を指差して笑うの止めろ! 笑顔が怖くて悪かったな! フハハ、ハ……!!」
 苦情を言いながら笑い続ける紅狼。その顔は普段使わない表情筋を無理に使っている為、幼子なら泣きだしそうなほどに凶悪だ。
「いいじゃない、可愛いよー? スマホとかデジカメあったら絶対撮っとくのに、残念だわ……!」
 紅狼の背中をバシバシ叩きながら、桃花はまだ笑い続ける。
「くっそ。もう二度と人前で笑わねえからな……!」
 その隣で静架は淡々とお代わりを続ける。
「もう一杯頂けますか? ……あ、肉がもっと多めだと嬉しいです」
 危険物と分かっていても、食への探求が尽きることはなく。
 ただ静架も口調はいつものままだが、覆面に隠れた口元はずっと笑っていた。


 セラはその惨状から目を離せないでいた。
「ニセポルって……ああなっちゃうのね……!」
 つくづくディッシュが食べずに済んで良かったと思う。
「でもアレ、味はどうなんだろな……」
 エルムも気にはなっていた。だが、理性が好奇心に勝ったようだ。流石にあの状態になるのは勘弁願いたいとは思う。
 それでも。
「食べ物でみんなが笑顔になるのは、いいことだよね」
 みんながそうして幸せになればいい。
 鍋の残りを綺麗に食べ終え、エルムも満足そうに息をつくのだった。


<了>

依頼結果

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参加者一覧

  • 魔弾の射手
    エルム(ka0121
    エルフ|17才|女性|魔術師
  • アックスブレード「ツヴァイシュトースツァーン」マイスター
    ティーア・ズィルバーン(ka0122
    人間(蒼)|22才|男性|疾影士
  • 探求者
    アル・シェ(ka0135
    エルフ|28才|男性|疾影士
  • あざといショタあざとい
    三日月 壱(ka0244
    人間(蒼)|14才|男性|霊闘士
  • 大王の鉄槌
    ディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271
    人間(紅)|12才|女性|闘狩人
  • 陽光
    留内陽平(ka0291
    人間(蒼)|20才|男性|聖導士
  • アークシューター
    静架(ka0387
    人間(蒼)|19才|男性|猟撃士

  • ディッシュ・ハーツ(ka1048
    人間(紅)|25才|男性|疾影士
  • 護りの細腕
    セラ・グレンフェル(ka1049
    人間(紅)|14才|女性|聖導士
  • がんばりやさん
    ルーキフェル・ハーツ(ka1064
    エルフ|10才|男性|闘狩人
  • がんばりやさん
    ウェスペル・ハーツ(ka1065
    エルフ|10才|男性|魔術師
  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろ(ka1250
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • 浪漫配達人
    神杜 静(ka1383
    人間(蒼)|25才|男性|聖導士
  • 身も心も温まる
    銀 桃花(ka1507
    人間(蒼)|16才|女性|霊闘士
  • 誘惑者
    デルフィーノ(ka1548
    エルフ|27才|男性|機導師
  • ミワクノクチビル
    ナナート=アドラー(ka1668
    エルフ|23才|男性|霊闘士
  • 白金の盾
    シェリア・プラティーン(ka1801
    人間(紅)|19才|女性|聖導士
  • はるかな理想を抱いて
    ユージーン・L・ローランド(ka1810
    人間(紅)|17才|男性|聖導士
  • 金の鍵抱く聖導女
    ルリリィミルム(ka2221
    エルフ|14才|女性|聖導士
  • 嗤ウ観察者
    アルヴィン = オールドリッチ(ka2378
    エルフ|26才|男性|聖導士
  • 愛おしき『母』
    アリア(ka2394
    人間(紅)|14才|女性|疾影士
  • Bro-Freaks
    アイ・シャ(ka2762
    エルフ|18才|女性|疾影士
  • 漂泊の狼
    天宮 紅狼(ka2785
    人間(蒼)|27才|男性|闘狩人
  • やさしい魔法をかける指
    アルヴィース・シマヅ(ka2830
    ドワーフ|50才|男性|機導師
  • 混沌系アイドル
    エリス・ブーリャ(ka3419
    エルフ|17才|女性|機導師

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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/11/06 23:37:34