ゲスト
(ka0000)
【幻視】激突の肉弾戦(刺激臭あり)
マスター:近藤豊

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/08/10 19:00
- 完成日
- 2017/08/11 09:16
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「さて、お前達。遺跡をどうやって奪うんだい?」
歪虚レディとも呼ばれるトーチカ・J・ラロッカは、部下のモルッキーとセルトポへ問いかけた。
ビックマーの命令によりチュプ大神殿を探し求めていたトーチカ一味であったが、自作の地図を落とした上にハンターが先に大神殿を発見してしまうという失態を犯す。
このままではビックマーへ顔向けできないとトーチカ一味はチュプ大神殿へ侵攻を開始しようとしていた。
「そりゃ、力づくでどーんっと壁を壊して登場でおます」
「で、壁を壊してどうするんだい? その先にはあいつらが待っているんだろう?」
「……あ、そうだったでおます」
歪虚の中でもトップクラスのバカッぷりで知られるトーチカ一味。
セルトポは力自慢だが、頭の足りなさも自慢の一つ。
目の前の壁を破壊する事は得意だが、その先は行き当たりばったり。まさにトーチカ一味らしい戦略である。
「まったく、お前達は本当に馬鹿なんだから」
「まあまあ。ここは一つ、全国女子中学生の恋人であるモルッキーのお任せあれ」
トーチカ一味の開発担当、モルッキー。
ちょっと犯罪的な香りのする発言もあるが、これでもトーチカ一味の頭脳。
モルッキーには何か腹案があるようだ。
「へぇ。なら、ここはモルッキーの作戦に任せようじゃないのさ。
さあ、お前達。奴らに吠え面かかせてやるんだよ!」
「アイアイサッサー!」
●
「ヴェルナー様、敵襲です」
チュプ遺跡を探索中のヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)の元へ一報が入る。
既に付近でも慌ただしく動き始めている所を見れば、複数箇所から敵が襲撃を行っているのだろう。
「襲撃した敵は?」
「以前ヴェドル襲撃を企んだトーチカ一味と思われます」
「そうですか……あの方々ですか」
ヴェルナーはため息をつく。
先日、巨大グランドワーム『ロックワン』を使ってドワーフの地下城襲撃を企んだトーチカ一味。ロックワンはともかく、襲撃してきたトーチカ一味自身は残念な面々としてヴェルナーに記憶されている。
それならば、こちらも『残念な者』を投入して事態を収束させたい。
「ヨアキムさんはいらっしゃいますか?」
「おう、ここいるぜ」
ドワーフ王ヨアキム(kz0011)。
頭の残念ぶりではトーチカ一味とデッドヒート。つい先程まで探索と称して遺跡に転がっていた石を高く積み上げる競争に興じていた。
既に辺境ドワーフに伝わる戦闘衣装とされる昭和のヤンキーが着用していたバンカラルックと鉄下駄に着替え中だった。
「私はここで遺跡を守ります。ヨアキムさんは敵を撃退していただけますか?」
「おう、任せとけ! 野郎どもっ! 出番だ!」
ヨアキムと呼応するドワーフの面々。
強面の親父達が密集するだけで周囲の体温上昇。
さらに独特の酸味を孕んだ香りが周囲に充満する気がする。
「よろしく頼みますよ」
ヴェルナーが厄介者を追い払えた瞬間であった。
●
「うぉい、出てきやがれ! ワシは逃げも隠れもせんぞ!」
敵が侵入してきたと思われる遺跡の大穴に大声で呼び掛けるヨアキム。
敵が何を仕掛けてきているかも不明なのに、前面から堂々と呼び掛けている。危険が来ても腕力で何とかすれば良い。その程度でしか考えていない脳筋系らしい発想だ。
そして、ヨアキムについてラッキーだったのは敵もまた脳筋系だった事だ。
「あ、呼んだでおますか?」
穴からひょっこり顔を出すのはトーチカ一味のデブモグラ――セルトポであった。
手製のシャベルを片手に現れ、コミカルな外見。
だが、騙されてはいけない。デブキャラらしく、力『だけ』は一級品である。
「あ。久しぶりじゃねぇか。元気してたか」
「ああ、これは丁寧な挨拶……じゃないでおます! さっさとこの遺跡から出ていくでおます!」
「あぁん?」
馬鹿同士の会話はいろいろ複雑だ。
理解するのも一苦労だが、歪虚相手に容赦する必要もない。
「言ってくれるじゃねぇか。また、ぶん殴られてぇのか?」
「ふふ。今日はひと味違うでおますよ」
そう言って手にしていたのは、掌サイズの陶器。
水筒のように何か中に入っているのだろうか。
セルトポは徐に遺跡の地面へ陶器を叩き付ける。
次の瞬間、地面から匂い立つ激臭。
生ゴミが夏場の日差しで照らされた時に放つ異臭。地下の遺跡だけあって強烈な刺激臭に逃げ場はない。
「く、くせぇ!」
「なんだこりゃ!」
「うわっ、ひでぇ!」
ヨアキムの後方にいるドワーフ達からも声が上がる。
その様子を見ていたセルトポは思わず笑いが込み上げる。
「わっはっは! これの中身は辺境南部の漁村で使われていた魚の漬け汁でおます。継ぎ足しで使われた漬け汁は強烈な匂いを放つでおます」
どうやらこれがモルッキーがセルトポに与えた作戦らしい。
リアルブルーで言えば『くさやの漬け汁』。
服に付着すれば三日は取れないという激臭を放つ液体。
セルトポはこれを武器にハンター達を遺跡から追い出すつもりのようだ。
その証拠にセルトポの背後から現れたパペットマンの手にも同じ陶器が握られている。
「なるほど、やるじゃねぇか。ワシも本気を出さねぇといけねぇな」
歪虚レディとも呼ばれるトーチカ・J・ラロッカは、部下のモルッキーとセルトポへ問いかけた。
ビックマーの命令によりチュプ大神殿を探し求めていたトーチカ一味であったが、自作の地図を落とした上にハンターが先に大神殿を発見してしまうという失態を犯す。
このままではビックマーへ顔向けできないとトーチカ一味はチュプ大神殿へ侵攻を開始しようとしていた。
「そりゃ、力づくでどーんっと壁を壊して登場でおます」
「で、壁を壊してどうするんだい? その先にはあいつらが待っているんだろう?」
「……あ、そうだったでおます」
歪虚の中でもトップクラスのバカッぷりで知られるトーチカ一味。
セルトポは力自慢だが、頭の足りなさも自慢の一つ。
目の前の壁を破壊する事は得意だが、その先は行き当たりばったり。まさにトーチカ一味らしい戦略である。
「まったく、お前達は本当に馬鹿なんだから」
「まあまあ。ここは一つ、全国女子中学生の恋人であるモルッキーのお任せあれ」
トーチカ一味の開発担当、モルッキー。
ちょっと犯罪的な香りのする発言もあるが、これでもトーチカ一味の頭脳。
モルッキーには何か腹案があるようだ。
「へぇ。なら、ここはモルッキーの作戦に任せようじゃないのさ。
さあ、お前達。奴らに吠え面かかせてやるんだよ!」
「アイアイサッサー!」
●
「ヴェルナー様、敵襲です」
チュプ遺跡を探索中のヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)の元へ一報が入る。
既に付近でも慌ただしく動き始めている所を見れば、複数箇所から敵が襲撃を行っているのだろう。
「襲撃した敵は?」
「以前ヴェドル襲撃を企んだトーチカ一味と思われます」
「そうですか……あの方々ですか」
ヴェルナーはため息をつく。
先日、巨大グランドワーム『ロックワン』を使ってドワーフの地下城襲撃を企んだトーチカ一味。ロックワンはともかく、襲撃してきたトーチカ一味自身は残念な面々としてヴェルナーに記憶されている。
それならば、こちらも『残念な者』を投入して事態を収束させたい。
「ヨアキムさんはいらっしゃいますか?」
「おう、ここいるぜ」
ドワーフ王ヨアキム(kz0011)。
頭の残念ぶりではトーチカ一味とデッドヒート。つい先程まで探索と称して遺跡に転がっていた石を高く積み上げる競争に興じていた。
既に辺境ドワーフに伝わる戦闘衣装とされる昭和のヤンキーが着用していたバンカラルックと鉄下駄に着替え中だった。
「私はここで遺跡を守ります。ヨアキムさんは敵を撃退していただけますか?」
「おう、任せとけ! 野郎どもっ! 出番だ!」
ヨアキムと呼応するドワーフの面々。
強面の親父達が密集するだけで周囲の体温上昇。
さらに独特の酸味を孕んだ香りが周囲に充満する気がする。
「よろしく頼みますよ」
ヴェルナーが厄介者を追い払えた瞬間であった。
●
「うぉい、出てきやがれ! ワシは逃げも隠れもせんぞ!」
敵が侵入してきたと思われる遺跡の大穴に大声で呼び掛けるヨアキム。
敵が何を仕掛けてきているかも不明なのに、前面から堂々と呼び掛けている。危険が来ても腕力で何とかすれば良い。その程度でしか考えていない脳筋系らしい発想だ。
そして、ヨアキムについてラッキーだったのは敵もまた脳筋系だった事だ。
「あ、呼んだでおますか?」
穴からひょっこり顔を出すのはトーチカ一味のデブモグラ――セルトポであった。
手製のシャベルを片手に現れ、コミカルな外見。
だが、騙されてはいけない。デブキャラらしく、力『だけ』は一級品である。
「あ。久しぶりじゃねぇか。元気してたか」
「ああ、これは丁寧な挨拶……じゃないでおます! さっさとこの遺跡から出ていくでおます!」
「あぁん?」
馬鹿同士の会話はいろいろ複雑だ。
理解するのも一苦労だが、歪虚相手に容赦する必要もない。
「言ってくれるじゃねぇか。また、ぶん殴られてぇのか?」
「ふふ。今日はひと味違うでおますよ」
そう言って手にしていたのは、掌サイズの陶器。
水筒のように何か中に入っているのだろうか。
セルトポは徐に遺跡の地面へ陶器を叩き付ける。
次の瞬間、地面から匂い立つ激臭。
生ゴミが夏場の日差しで照らされた時に放つ異臭。地下の遺跡だけあって強烈な刺激臭に逃げ場はない。
「く、くせぇ!」
「なんだこりゃ!」
「うわっ、ひでぇ!」
ヨアキムの後方にいるドワーフ達からも声が上がる。
その様子を見ていたセルトポは思わず笑いが込み上げる。
「わっはっは! これの中身は辺境南部の漁村で使われていた魚の漬け汁でおます。継ぎ足しで使われた漬け汁は強烈な匂いを放つでおます」
どうやらこれがモルッキーがセルトポに与えた作戦らしい。
リアルブルーで言えば『くさやの漬け汁』。
服に付着すれば三日は取れないという激臭を放つ液体。
セルトポはこれを武器にハンター達を遺跡から追い出すつもりのようだ。
その証拠にセルトポの背後から現れたパペットマンの手にも同じ陶器が握られている。
「なるほど、やるじゃねぇか。ワシも本気を出さねぇといけねぇな」
リプレイ本文
チュプ大神殿を襲撃したトーチカ一味を前に、部族会議とハンターは防衛戦へ望む。
遺跡に残り防衛に努める辺境要塞管理者ヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)は、敵へと向かうハンター達を見送っていた。
「歪虚と戦うのは初めてで緊張しますが、大切な遺跡れすもんね。頑張るれすよ!」
事実上、歪虚との戦闘が初めてというハーティ(ka6928)。
歪虚との戦いは初めてな為にやや心配な面持ちだ。
「よく分からねぇが、以前妻が世話になったらしいんだ。だったら、ちょっとは挨拶してやらねぇとな」
セルゲン(ka6612)は、いつになく気合いが入っていた。
それは以前の依頼で妻がトーチカ一味のセルトポと遭遇していた事に起因する。夫として、ハンターとして『挨拶』してやらなければ気が済まない。
「私怨での戦闘は気をつけて下さい。思わぬ油断が生じますので」
真面目なヴェルナーは、セルゲンに忠告する。
しかし、セルゲンも既に幾つかの修羅場を乗り越えている。
「ご忠告どうも。だから俺は目の前の奴に全力をぶつけるだけだ」
「なるほど」
「あ、初めての歪虚と思ったら緊張してきたのれす」
ハーティは緊張のあまり、手汗に気付いた。
これで武器がすっぽ抜けても堪らない。
「そうやって汗を拭いておかないといざって時に……って、それは俺の服だ!」
ハーティが拭っていた布はセルゲンの着ていた服の裾であった。
「あ、赤鬼さんの服だったれすか」
「まあいい、さっさと行くぞ」
セルゲンに促されて戦いの場へと向かうハーティ。
二人の背中を見送るヴェルナーの傍らに、そっと姿を見せるハンターがいた。
「あ、あの……。ヴェルナーさんがおこまりみたいなので頑張り……ます」
桜憐りるか(ka3748)がヴェルナーへ挨拶にやってきた。
「頼もしいですね。ですが、絶対に無理はいけません。そのお似合いの新しい衣装を穢す前にお戻り下さい」
「ヴェルナーさん……」
ヴェルナーの言葉に、りるかは心に火が灯る。
「あたし……やります。やってみせます」
戦場で全力を尽くそうと意気込むりるかであった。
●
「く、くせぇ!」
「ダメだ、鼻が曲がる!」
遺跡でドワーフ達から上がる悲鳴。
原因は歪虚が投げ込んできた陶器の中身だ。
「むわっはっは。どうでおますか? モルッキーが準備した『魚の漬け汁』は」
陶器の中身は辺境南部の漁村で使われていた魚の漬け汁である。
悪臭とも言うべき汁は強烈の一言に尽きる。
「なかなかやるじゃねぇか。うちのモンを一発でビビらせるたぁな」
辺境ドワーフ王の戦装束である学ランに鉄下駄姿のヨアキム(kz0011)は、セルトポを前に闘志を燃やしていた。
連合軍随一の馬鹿であるが、トーチカ一味とは頭の中でもデットヒートを繰り広げているようだ。
「うげ……この匂いはマジか……」
リュー・グランフェスト(ka2419)は苦虫を噛み潰したような渋い顔を浮かべる。
鼻を摘まんでみても、鼻腔の奥へへばりついた匂いは簡単に消えない。
こうなれば我慢して進む他ない。
「ヨアキム、狙うならあの陶器を投げている奴だ。あいつさえ黙らせれば正面からぶっ叩ける」
「そうか。汁を投げる泥人形を優先だな」
リューの提案に小さく頷くヨアキム。
この戦いの厄介な点は、魚の漬け汁に尽きる。
これを止められれば、後は肉弾戦。力押しだけでも勝つ事は可能だろう。
「では、敵の大将首は私が。剣客なら当然です」
ハンス・ラインフェルト(ka6750)は、一歩前に出る。
剣に生きるならば、強敵と戦いたい。
その為にも、ここはセルトポを狙う為に動くつもりだ。
「俺も行くぞ。奴には礼をしなきゃならねぇ」
宣言通りセルゲンもセルトポをターゲットする。
そうなれば、残るメンバーでパペットマンを倒していく事にする。
「よしっ。それで行くぜ」
「何を言っているでおますか! さっさと道を開けないと魚の漬け汁塗れになるでおますよ!」
目の前でこそこそと密談している様子を目にしたセルトポは、のけ者扱いされたと気付いて熱り立つ。
その感情の変化を察知したジーナ(ka1643)は、周囲のドワーフ達に叫んだ。
「稚拙な策だ。ドワーフの戦士が随分と舐められたものだ。
落ち着け。冷静さを保つ平常心、ドワーフとしての耐久の高さ……戦士としての立ち向かうは今だ」
ジーナの言葉が、ドワーフの達に染み込んでいく。
一瞬の沈黙。
その言葉を理解したのだろう。沈黙は戦士の咆哮へと変わっていく。
「そうだ! ドワーフの力を見せてやれ!」
「行け! 臆するな!」
「ガンホー! ガンホー!」
ジーナの言葉を理解した戦士達は、剣を片手にパペットマンへ襲い掛かっていく。
突然の士気向上に歪虚側は一瞬気圧される。
「こじ開ける! いけえ!!」
リューが、セルゲンとハンスへ呼び掛ける。
リューが戦闘に立ってセルトポへの道を切り拓く。
大きく踏み込み、剛刀「大輪一文字」を突き出した。
同時に大輪一文字から発するマテリアルが、輝きと共に一直線に敵陣を引き裂く。
「な!? いきなり格好いい技を繰り出したでおます! 聞いてないでおます!」
唐突に繰り出された竜貫に驚嘆するセルトポ。
割れた敵陣に分けは居るセルゲンとハンス。
――こうして、歪虚とハンター達の戦いが始まった。
●
「ヨアキム王。肩を並べて戦う事、ドワーフとして誉れ高い。今日の私は珍しく……高揚している!」
ジーナは、ヨアキムに背を預けながらグイントクローでパペットマンを貫いた。
ドワーフであるジーナにとって辺境ドワーフの王は一つ上の存在であった。
行動に馬鹿なものが多い気もするが、それ以上に大きすぎる懐と王としての偉大さ。ドワーフである誉れをヨアキムに感じているようだった。
「そいつぁよかった。だが、どうする? 連中……数は多い。高揚しているだけじゃ蹴散らせねぇぜ?」
ヨアキムの右ストレートが、パペットマンを吹き飛ばす。
実はハンター達の抱える問題は魚の漬け汁だけではない。殺到するパペットマンの数であった。おそらくトーチカ一味が大量生産しているのだろうが、遺跡にできた風穴から次々と溢れ出てくる。行動は単純なのだが、数が多い分休む暇もない。
「臆する事は無い。既に一度戦っている」
放物線を描く陶器をラントシールドで防御したジーナは、そのままラントシールドでパペットマンを突き押した。
そう、実はジーナは以前も同じような策をセルトポ相手に体験している。当時は投擲される泥の攻撃で前に出られなかった。
しかし、ジーナはあの頃よりも強くなっている。
「何度でも言ってやる。同胞の膝元で好き勝手はさせん!」
ジーナは、陶器を投げるパペットマンに向かってワイルドラッシュを繰り出した。
進路上のパペットマンを蹴散らして、突き進むジーナ
陶器を握るパペットマンの前に到達する頃には、進路上に泥の塊しか存在していなかった。
「やるじゃねぇか! ワシも滾ってきたぞ!」
ヨアキムも筋肉充填で体にマテリアルを満たす。
ヨアキムの拳に漢の魂が刻まれる。
そんなヨアキムを背中で感じながら、ジーナが眼前にいたパペットマンにグイントクローを叩き込んだ。
「ドワーフを愚弄する者は、許さない」
●
「ひどい匂い……です。お願いです……さっさと、お引き取りくださいですの……」
匂いを防ぐ為にバンダナをマスク代わりにするりるか。
しかし、完全に匂いを防ぐ事はできない。
それが魚の漬け汁の臭気が強い事を意味している。
臭いに怯むりるか。
そこへ陶器を投げつけようとするパペットマン。
「ダメ、ですの」
りるかは進路上にアースウォールを展開。
突如現れた土壁に遮られて陶器は派手に砕け散る。
新しい服な上、先程ヴェルナーへお披露目した衣装を魚の漬け汁で穢す訳にはいかないのだ。
「りるかさん、大丈夫れすか?」
狙われたりるかを心配してハーティが駆け寄ってきた。
傷付いたハンターを癒そうと回っているのだが、ジーナはヨアキムと良いコンビとなってパペットマンを蹴散らしていた。
そこで手薄になると感じたりるかの方へやってきたのだ。
「あたしは、大丈夫……それより、ドワーフさんを……」
りるかは視線でハーティにドワーフの回復を促した。
周囲では指揮が上がったドワーフ達がパペットマンと肉薄していた。しかし、彼らは覚醒者ではない。戦士として戦えば、傷付く事もある。今は遺跡へ一人でも通さない為にドワーフの回復が必要だ。
「分かったのです。ドワーフの皆さんは、任せて欲しいのれす」
ハーティは傷付いたドワーフを探し出す。
そして、視界に苦しそうなドワーフを見つけると、退魔銃「イェーガークロイツ」でシャドウブリッドを発動。
影が構ったかのような黒い塊がドワーフを襲おうとしているパペットマンを捉える。
吹き飛ぶパペットマン。
その隙にハーティは傷付いたドワーフへと駆け出していた。
「行かせねぇよ。こっからは漢の花道って奴だ」
リューもまた、パペットマンと肉薄していた。
セルトポを助けに行こうとするパペットマンへ立ちはだかる。
守りの構えを取りながら、剛刀「大輪一文字」の切っ先を向ける。
大切な事は敵を倒すよりも、パペットマンを防ぎ通さない事。
なら、踏ん張りべき場所は決まっている。
「……ちっ。もうちょっと力を温存したかったんだけどなぁ。仕方ねぇ!」
ケイオスチューンでオーラを纏ったリュー。
極限まで高められたマテリアルが解放され、自然と大輪一文字を構え直すリュー。
触れば今にも火傷しそうな程、高まる体温。
呼吸の一つ一つが、温まった戦場を更に熱くさせる。
「悪いが、ちょっと手加減はできねぇ。やり過ぎちまう前に謝っておく」
空気が震える。
それに合わせて、リューは動き出した。
●
「これはクサヤの匂いを肴に酒が飲めるので、当分ツマミ要らずという事でしょうか。余計な気遣いありがとうございます。お礼代わりに貴方の首を置いて行っていただきましょうかッ」
丁寧な挨拶の後、日本刀「風花」を手に間合いを詰めるハンス。
反射的にセルトポはシャベルを盾に対抗する。
刀とシャベルが擦り合って火花を散らす。
「ご丁寧な挨拶でおますが、首は置いていけないでおます」
生真面目に返答するセルトポ。
「なら、強引にいただきます」
セルトポの腹につま先を突き立てるハンス。
突然の腹痛に苦しむセルトポ。
さらにハンスはもう一撃蹴りを入れてセルトポとの距離を置いた。
「くっ。以前あったハンターと違うでおます」
「以前あったハンター? そりゃ、うちの妻の事か?」
戦斧「ネメシス」を肩に乗せてゆっくりと歩み寄るセルゲン。
「おい。以前、妻が世話になったようだな」
「え?」
立ち上がりながら、記憶を振り絞るセルトポ。
そもそもセルゲンは誰が妻なのかも話していない。それでも思い出そうとする辺り、馬鹿のトップアスリート。しかし、セルゲンに容赦する気配はない。
「お前に覚えがあろうがなかろうが、関係ない。お前に言っておきたい事がある」
神妙な面持ちで迫るセルゲン。
一呼吸置いた後、セルゲンはセルトポへ叫んだ。
「やーい、おマヌケ臆病モグラー」
「なんだとでおます!」
突然の罵詈雑言に怒り出すセルトポ。
感情に任せて走り出す。
しかし、これこそセルゲンが待ち望んだ展開だ。
「ほれ」
「ぐっ!」
セルトポはセルゲンが出したファントムハンドに束縛される。
筋力充填から繰り出されたファントムハンド。セルトポの怪力なら逃げられそうな気もするが、馬鹿なセルトポは力での脱出を忘れている。
「な、なんでおますか? 体が動かないでおます」
「お前。仮にもモグラだろうがっ。モグラなら鼻が良いはずだろう。お前、本当にモグラか?」
セルゲンは疑問だった。
この魚の漬け汁は激臭だ。それに対して鼻が敏感なモグラが本当に無事でいられるのか。
何かしら異臭対策がされているのではないか。
「ほう。それは興味深い。では、これは如何でしょう?」
ハンスは地面に落ちていた陶器の蓋を外すとセルトポの顔面近くへ押しつけた。
広まる異臭。
ここでセルゲンは勘違いしていた事に気付く。
馬鹿なセルトポが『事前に対策』という方向に思考が向くはずないのだ。
「く、くさいでおます! もうダメでおます!」
実はセルトポもやせ我慢していただけであった。
顔に近付けられた異臭に悶絶するセルトポ。
「その臭い匂いを近付けるなでおます!」
シャベルでハンスが手にしていた陶器を割るセルトポ。
陶器の中身がハンストセルゲンにかかる。
「ぬわっはっは。これで臭い汁がお前達にも……」
「クサヤの香りですね。一杯いただきたところです」
「ああ、臭いな。だからなんだ?」
ここでセルトポは致命的な問題に今更気付いた。
ハンスはクサヤが無くても香りだけで日本酒を楽しめると考えている時点で、魚の漬け汁は脅威にもなっていない。
セルゲンも妻はいるが、だからといって臭いを前に臆する気配はなかった。
つまり、二人とも臭いを障害と考えていないのだ。
これはこの計画の根本に関わる問題だ。
「隙ありだ。くらいやがれ!」
次の瞬間、リューのソウルエッジを乗せた突きがセルトポを捉えた。
吹き飛ばされるセルトポ。
体が派手に遺跡の壁へとぶち当たり、風穴を開ける。
隙を突いた攻撃にセルトポへ攻撃が見事に決まる。
「どうだっ!」
駆け寄るリュー。
だが、そこには壁の穴と別に破壊されたシャベルと地面に空いたもう一つの穴があった。
「覚えているでおます! 次は必ず勝つでおます!」
穴を通して負け犬の遠吠えが聞こえてくる。
どうやら、危険を察してセルトポは逃げ出したようだ。
ハンターとドワーフの尽力でセルトポとパペットマンは撤退していった。
遺跡にも被害らしい被害もない。
だが、ハンター側にある程度の被害も出ていた。
「おい、ハーティ」
ハーティに話し掛けるセルゲン。
振り返るハーティ。
そこへ直撃する魚の漬け汁。
明らかにセルゲンから放たれている。
「なんですか、赤鬼さん」
「しばらく泊めろ」
セルトポよりも妻が怖いセルゲンであった。
遺跡に残り防衛に努める辺境要塞管理者ヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)は、敵へと向かうハンター達を見送っていた。
「歪虚と戦うのは初めてで緊張しますが、大切な遺跡れすもんね。頑張るれすよ!」
事実上、歪虚との戦闘が初めてというハーティ(ka6928)。
歪虚との戦いは初めてな為にやや心配な面持ちだ。
「よく分からねぇが、以前妻が世話になったらしいんだ。だったら、ちょっとは挨拶してやらねぇとな」
セルゲン(ka6612)は、いつになく気合いが入っていた。
それは以前の依頼で妻がトーチカ一味のセルトポと遭遇していた事に起因する。夫として、ハンターとして『挨拶』してやらなければ気が済まない。
「私怨での戦闘は気をつけて下さい。思わぬ油断が生じますので」
真面目なヴェルナーは、セルゲンに忠告する。
しかし、セルゲンも既に幾つかの修羅場を乗り越えている。
「ご忠告どうも。だから俺は目の前の奴に全力をぶつけるだけだ」
「なるほど」
「あ、初めての歪虚と思ったら緊張してきたのれす」
ハーティは緊張のあまり、手汗に気付いた。
これで武器がすっぽ抜けても堪らない。
「そうやって汗を拭いておかないといざって時に……って、それは俺の服だ!」
ハーティが拭っていた布はセルゲンの着ていた服の裾であった。
「あ、赤鬼さんの服だったれすか」
「まあいい、さっさと行くぞ」
セルゲンに促されて戦いの場へと向かうハーティ。
二人の背中を見送るヴェルナーの傍らに、そっと姿を見せるハンターがいた。
「あ、あの……。ヴェルナーさんがおこまりみたいなので頑張り……ます」
桜憐りるか(ka3748)がヴェルナーへ挨拶にやってきた。
「頼もしいですね。ですが、絶対に無理はいけません。そのお似合いの新しい衣装を穢す前にお戻り下さい」
「ヴェルナーさん……」
ヴェルナーの言葉に、りるかは心に火が灯る。
「あたし……やります。やってみせます」
戦場で全力を尽くそうと意気込むりるかであった。
●
「く、くせぇ!」
「ダメだ、鼻が曲がる!」
遺跡でドワーフ達から上がる悲鳴。
原因は歪虚が投げ込んできた陶器の中身だ。
「むわっはっは。どうでおますか? モルッキーが準備した『魚の漬け汁』は」
陶器の中身は辺境南部の漁村で使われていた魚の漬け汁である。
悪臭とも言うべき汁は強烈の一言に尽きる。
「なかなかやるじゃねぇか。うちのモンを一発でビビらせるたぁな」
辺境ドワーフ王の戦装束である学ランに鉄下駄姿のヨアキム(kz0011)は、セルトポを前に闘志を燃やしていた。
連合軍随一の馬鹿であるが、トーチカ一味とは頭の中でもデットヒートを繰り広げているようだ。
「うげ……この匂いはマジか……」
リュー・グランフェスト(ka2419)は苦虫を噛み潰したような渋い顔を浮かべる。
鼻を摘まんでみても、鼻腔の奥へへばりついた匂いは簡単に消えない。
こうなれば我慢して進む他ない。
「ヨアキム、狙うならあの陶器を投げている奴だ。あいつさえ黙らせれば正面からぶっ叩ける」
「そうか。汁を投げる泥人形を優先だな」
リューの提案に小さく頷くヨアキム。
この戦いの厄介な点は、魚の漬け汁に尽きる。
これを止められれば、後は肉弾戦。力押しだけでも勝つ事は可能だろう。
「では、敵の大将首は私が。剣客なら当然です」
ハンス・ラインフェルト(ka6750)は、一歩前に出る。
剣に生きるならば、強敵と戦いたい。
その為にも、ここはセルトポを狙う為に動くつもりだ。
「俺も行くぞ。奴には礼をしなきゃならねぇ」
宣言通りセルゲンもセルトポをターゲットする。
そうなれば、残るメンバーでパペットマンを倒していく事にする。
「よしっ。それで行くぜ」
「何を言っているでおますか! さっさと道を開けないと魚の漬け汁塗れになるでおますよ!」
目の前でこそこそと密談している様子を目にしたセルトポは、のけ者扱いされたと気付いて熱り立つ。
その感情の変化を察知したジーナ(ka1643)は、周囲のドワーフ達に叫んだ。
「稚拙な策だ。ドワーフの戦士が随分と舐められたものだ。
落ち着け。冷静さを保つ平常心、ドワーフとしての耐久の高さ……戦士としての立ち向かうは今だ」
ジーナの言葉が、ドワーフの達に染み込んでいく。
一瞬の沈黙。
その言葉を理解したのだろう。沈黙は戦士の咆哮へと変わっていく。
「そうだ! ドワーフの力を見せてやれ!」
「行け! 臆するな!」
「ガンホー! ガンホー!」
ジーナの言葉を理解した戦士達は、剣を片手にパペットマンへ襲い掛かっていく。
突然の士気向上に歪虚側は一瞬気圧される。
「こじ開ける! いけえ!!」
リューが、セルゲンとハンスへ呼び掛ける。
リューが戦闘に立ってセルトポへの道を切り拓く。
大きく踏み込み、剛刀「大輪一文字」を突き出した。
同時に大輪一文字から発するマテリアルが、輝きと共に一直線に敵陣を引き裂く。
「な!? いきなり格好いい技を繰り出したでおます! 聞いてないでおます!」
唐突に繰り出された竜貫に驚嘆するセルトポ。
割れた敵陣に分けは居るセルゲンとハンス。
――こうして、歪虚とハンター達の戦いが始まった。
●
「ヨアキム王。肩を並べて戦う事、ドワーフとして誉れ高い。今日の私は珍しく……高揚している!」
ジーナは、ヨアキムに背を預けながらグイントクローでパペットマンを貫いた。
ドワーフであるジーナにとって辺境ドワーフの王は一つ上の存在であった。
行動に馬鹿なものが多い気もするが、それ以上に大きすぎる懐と王としての偉大さ。ドワーフである誉れをヨアキムに感じているようだった。
「そいつぁよかった。だが、どうする? 連中……数は多い。高揚しているだけじゃ蹴散らせねぇぜ?」
ヨアキムの右ストレートが、パペットマンを吹き飛ばす。
実はハンター達の抱える問題は魚の漬け汁だけではない。殺到するパペットマンの数であった。おそらくトーチカ一味が大量生産しているのだろうが、遺跡にできた風穴から次々と溢れ出てくる。行動は単純なのだが、数が多い分休む暇もない。
「臆する事は無い。既に一度戦っている」
放物線を描く陶器をラントシールドで防御したジーナは、そのままラントシールドでパペットマンを突き押した。
そう、実はジーナは以前も同じような策をセルトポ相手に体験している。当時は投擲される泥の攻撃で前に出られなかった。
しかし、ジーナはあの頃よりも強くなっている。
「何度でも言ってやる。同胞の膝元で好き勝手はさせん!」
ジーナは、陶器を投げるパペットマンに向かってワイルドラッシュを繰り出した。
進路上のパペットマンを蹴散らして、突き進むジーナ
陶器を握るパペットマンの前に到達する頃には、進路上に泥の塊しか存在していなかった。
「やるじゃねぇか! ワシも滾ってきたぞ!」
ヨアキムも筋肉充填で体にマテリアルを満たす。
ヨアキムの拳に漢の魂が刻まれる。
そんなヨアキムを背中で感じながら、ジーナが眼前にいたパペットマンにグイントクローを叩き込んだ。
「ドワーフを愚弄する者は、許さない」
●
「ひどい匂い……です。お願いです……さっさと、お引き取りくださいですの……」
匂いを防ぐ為にバンダナをマスク代わりにするりるか。
しかし、完全に匂いを防ぐ事はできない。
それが魚の漬け汁の臭気が強い事を意味している。
臭いに怯むりるか。
そこへ陶器を投げつけようとするパペットマン。
「ダメ、ですの」
りるかは進路上にアースウォールを展開。
突如現れた土壁に遮られて陶器は派手に砕け散る。
新しい服な上、先程ヴェルナーへお披露目した衣装を魚の漬け汁で穢す訳にはいかないのだ。
「りるかさん、大丈夫れすか?」
狙われたりるかを心配してハーティが駆け寄ってきた。
傷付いたハンターを癒そうと回っているのだが、ジーナはヨアキムと良いコンビとなってパペットマンを蹴散らしていた。
そこで手薄になると感じたりるかの方へやってきたのだ。
「あたしは、大丈夫……それより、ドワーフさんを……」
りるかは視線でハーティにドワーフの回復を促した。
周囲では指揮が上がったドワーフ達がパペットマンと肉薄していた。しかし、彼らは覚醒者ではない。戦士として戦えば、傷付く事もある。今は遺跡へ一人でも通さない為にドワーフの回復が必要だ。
「分かったのです。ドワーフの皆さんは、任せて欲しいのれす」
ハーティは傷付いたドワーフを探し出す。
そして、視界に苦しそうなドワーフを見つけると、退魔銃「イェーガークロイツ」でシャドウブリッドを発動。
影が構ったかのような黒い塊がドワーフを襲おうとしているパペットマンを捉える。
吹き飛ぶパペットマン。
その隙にハーティは傷付いたドワーフへと駆け出していた。
「行かせねぇよ。こっからは漢の花道って奴だ」
リューもまた、パペットマンと肉薄していた。
セルトポを助けに行こうとするパペットマンへ立ちはだかる。
守りの構えを取りながら、剛刀「大輪一文字」の切っ先を向ける。
大切な事は敵を倒すよりも、パペットマンを防ぎ通さない事。
なら、踏ん張りべき場所は決まっている。
「……ちっ。もうちょっと力を温存したかったんだけどなぁ。仕方ねぇ!」
ケイオスチューンでオーラを纏ったリュー。
極限まで高められたマテリアルが解放され、自然と大輪一文字を構え直すリュー。
触れば今にも火傷しそうな程、高まる体温。
呼吸の一つ一つが、温まった戦場を更に熱くさせる。
「悪いが、ちょっと手加減はできねぇ。やり過ぎちまう前に謝っておく」
空気が震える。
それに合わせて、リューは動き出した。
●
「これはクサヤの匂いを肴に酒が飲めるので、当分ツマミ要らずという事でしょうか。余計な気遣いありがとうございます。お礼代わりに貴方の首を置いて行っていただきましょうかッ」
丁寧な挨拶の後、日本刀「風花」を手に間合いを詰めるハンス。
反射的にセルトポはシャベルを盾に対抗する。
刀とシャベルが擦り合って火花を散らす。
「ご丁寧な挨拶でおますが、首は置いていけないでおます」
生真面目に返答するセルトポ。
「なら、強引にいただきます」
セルトポの腹につま先を突き立てるハンス。
突然の腹痛に苦しむセルトポ。
さらにハンスはもう一撃蹴りを入れてセルトポとの距離を置いた。
「くっ。以前あったハンターと違うでおます」
「以前あったハンター? そりゃ、うちの妻の事か?」
戦斧「ネメシス」を肩に乗せてゆっくりと歩み寄るセルゲン。
「おい。以前、妻が世話になったようだな」
「え?」
立ち上がりながら、記憶を振り絞るセルトポ。
そもそもセルゲンは誰が妻なのかも話していない。それでも思い出そうとする辺り、馬鹿のトップアスリート。しかし、セルゲンに容赦する気配はない。
「お前に覚えがあろうがなかろうが、関係ない。お前に言っておきたい事がある」
神妙な面持ちで迫るセルゲン。
一呼吸置いた後、セルゲンはセルトポへ叫んだ。
「やーい、おマヌケ臆病モグラー」
「なんだとでおます!」
突然の罵詈雑言に怒り出すセルトポ。
感情に任せて走り出す。
しかし、これこそセルゲンが待ち望んだ展開だ。
「ほれ」
「ぐっ!」
セルトポはセルゲンが出したファントムハンドに束縛される。
筋力充填から繰り出されたファントムハンド。セルトポの怪力なら逃げられそうな気もするが、馬鹿なセルトポは力での脱出を忘れている。
「な、なんでおますか? 体が動かないでおます」
「お前。仮にもモグラだろうがっ。モグラなら鼻が良いはずだろう。お前、本当にモグラか?」
セルゲンは疑問だった。
この魚の漬け汁は激臭だ。それに対して鼻が敏感なモグラが本当に無事でいられるのか。
何かしら異臭対策がされているのではないか。
「ほう。それは興味深い。では、これは如何でしょう?」
ハンスは地面に落ちていた陶器の蓋を外すとセルトポの顔面近くへ押しつけた。
広まる異臭。
ここでセルゲンは勘違いしていた事に気付く。
馬鹿なセルトポが『事前に対策』という方向に思考が向くはずないのだ。
「く、くさいでおます! もうダメでおます!」
実はセルトポもやせ我慢していただけであった。
顔に近付けられた異臭に悶絶するセルトポ。
「その臭い匂いを近付けるなでおます!」
シャベルでハンスが手にしていた陶器を割るセルトポ。
陶器の中身がハンストセルゲンにかかる。
「ぬわっはっは。これで臭い汁がお前達にも……」
「クサヤの香りですね。一杯いただきたところです」
「ああ、臭いな。だからなんだ?」
ここでセルトポは致命的な問題に今更気付いた。
ハンスはクサヤが無くても香りだけで日本酒を楽しめると考えている時点で、魚の漬け汁は脅威にもなっていない。
セルゲンも妻はいるが、だからといって臭いを前に臆する気配はなかった。
つまり、二人とも臭いを障害と考えていないのだ。
これはこの計画の根本に関わる問題だ。
「隙ありだ。くらいやがれ!」
次の瞬間、リューのソウルエッジを乗せた突きがセルトポを捉えた。
吹き飛ばされるセルトポ。
体が派手に遺跡の壁へとぶち当たり、風穴を開ける。
隙を突いた攻撃にセルトポへ攻撃が見事に決まる。
「どうだっ!」
駆け寄るリュー。
だが、そこには壁の穴と別に破壊されたシャベルと地面に空いたもう一つの穴があった。
「覚えているでおます! 次は必ず勝つでおます!」
穴を通して負け犬の遠吠えが聞こえてくる。
どうやら、危険を察してセルトポは逃げ出したようだ。
ハンターとドワーフの尽力でセルトポとパペットマンは撤退していった。
遺跡にも被害らしい被害もない。
だが、ハンター側にある程度の被害も出ていた。
「おい、ハーティ」
ハーティに話し掛けるセルゲン。
振り返るハーティ。
そこへ直撃する魚の漬け汁。
明らかにセルゲンから放たれている。
「なんですか、赤鬼さん」
「しばらく泊めろ」
セルトポよりも妻が怖いセルゲンであった。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/08/10 00:42:49 |
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あくしゅーの中のたたかい? ハーティ(ka6928) ドラグーン|17才|男性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2017/08/10 16:20:18 |