• 界冥

【界冥】インターセクション

マスター:赤山優牙

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~5人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/08/16 07:30
完成日
2017/08/21 10:21

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●リゼリオにて
「……今度はなんだよ……」
 嫌そうに呟いたのは、エトファリカ連邦国の帝であるスメラギ(kz0158)だった。
 手には『八代目征夷大将軍』からの書状。そして、スメラギの目の前には東方の武将――鳴月 牡丹(kz0180)。
「だから、書いてある通りだって、スメラギ様」
「……難しい文字が多すぎだっつーの」
 開いた書状を牡丹に投げ渡した。
 あの将軍はわざと難しい文字を並べて書いてきたとしか思えない。
「端的に言うと、ボクも、クリムゾンウェスト諸国の連合軍に加わるって事さ」
「幕府軍はどうするんだよ」
「えと……一応は傭兵団って事かな。幕府が支援しているけど」
 牡丹は観戦武官としてグラズヘイム王国へと足を運んだ。
 そこで、諸々の出来事があった訳だが、幕府としてはより多くの戦いを経験し、ノウハウを持ち帰る必要があると感じたようだ。
 特にリアルブルーでは文明が異なる事もあり、“今後の事”も考えれば、様々な戦いを経験しておきたい所。
 そこで、これまでほぼ単独で連合軍に協力してきたスメラギを支援する意味でも、傭兵団を結成する運びとなったのだ。
「俺様の働きが足りないっつー訳じゃねえよな?」
「ほら、憤怒王も倒したし、詩天の方のごたごたも終わったって聞いてるし。幕府軍も暇なんじゃ?」
「暇って……ったく、紫草のやろう……好き勝手言いやがって」
 息荒く言ったスメラギ。
「そういえば、結婚するんだって?」
「しねーよ!」
 スメラギが目を見開いて力強く拒否した。
 どこから、そんな話を聞きつけてくるのか。
 一方の牡丹はニヤニヤとした表情を浮かべていた。
「真っ赤になっちゃって。スメラギ様もあれだね。成長したって事だね」
「うるせーよ! てか、俺様は帝だぞ! 言葉使いに気をつけろよ」
「いや……まったく、説得力も威厳もないし。今もボクの胸の方、チラチラみt……」
 台詞の途中でスメラギが慌てて割って入る。
「だぁー! もう、いいから。分かったよ! 牡丹が好きなように戦場に行けばいいって」
「やったー! 最初はスメラギ様の護衛からって言われてたから、嫌だったんだよね」
「やめろ! 押し付けてくるんじゃねぇ!」
 なんとか牡丹を引き剥がす。
 これでも鍛えているつもりなのだが、相手が悪い。
「それじゃ、スメラギ様、ボクは早速行ってくるけど、戻ってくるまでに子供の一人や二人、楽しみにしてるよ」
「だから、そうじゃねぇって言ってるだろ!」
 手をヒラヒラを振りながら立ち去る牡丹に対し、スメラギの叫び声が辺りに響いていったのだった。

●リアルブルー
 作戦の打ち合わせの為、リアルブルーの賑やかそうな都市に転移してきた牡丹。
 時間に制限があるので今日は顔合わせのようなものだ。
「……やばい。待ち合わせ時間、間違えてる」
 どう逆算したのか1時間近くは早い。
 かといって、顔合わせをするはずの相手に、『早く来て』などと言えるはずもない。
「仕方ない……街中を歩いてみよっかな。折角のリアルブルーだし」
 そんな訳で街に繰り出した。
 途中、なにやら話しかけてくる野郎共もいい加減、ウザくなってきた時の事、暑さから逃れるように、ある店へと入る。
「わおっ!」
 牡丹が驚くも無理はない。
 その店は、可愛い雰囲気全開の衣服が売られていたからだ。
「……香姫だったら、似合ってたかな」
 土産として買う事が出来ないのが残念な所ではある。
 どれもこれも、やはり、クリムゾンウェストとは違う。
 何着か手を掛けようとするが――戻すという行為を繰り返していた時だった。
「これなんか、似合うんじゃないかしら?」
 声を掛けてきたのは、スレンダーな美女だった。
 年齢は、牡丹よりも幾分か上だろう。身長も変わらないように見えるが、その細く引き締まった四肢とくびれが美しさを際立たせていた。
 店員なのかと思い牡丹は苦笑を浮かべる。
「えっと……特に買うつもりとかなくて」
「いいんじゃない。気になるものがあれば、試着しちゃって。買うかどうかはその後、決めればいい事だし」
 軽いノリで美女は言うと、先ほどまで牡丹が手を伸ばそうとしていた服を手に取った。
 そして、牡丹の肢体を眺める。
「……胸、大きいわね」
「よく言われるよ。邪魔な時もあるけど」
「それは、贅沢というもの」
 はぁ~とため息をついて、美女は一瞬、自分の胸と牡丹の胸を比べた。
 気を取り直して、手にした服を持ったまま、牡丹を試着室へと連れてくる。
「じゃ、ちょっと着てみてよ」
「そ、それじゃ……まぁ、ボクが似合うとは思えないけど」
 そういって、試着室の扉を閉める牡丹だった。

 ===試着中===

「終わった?」
「着替え終わったけど……これ、いいのかな……」
 牡丹が美女の問い掛けに途切れ途切れに答える。
 そして、深い紺色のハイウェストのスカートに、フリルのついた白いブラウス姿で試着室から出てきた。
 腰部に入ったコルセットによる腰のくびれと、豊満な胸が、メリハリのある身体を強調している。
「良いじゃん! あれだね。なんか、殺せそうな服装だね」
「着慣れない感じだよ」
「あとは、髪型かな。髪留め、外して流してみなよ」
 その言葉に従って、牡丹は天然石を花の形に加工した中華風の髪留めを外す。
 美しい茶色の長い髪がふんわりと広がった。
「凄い……自分で言うのもなんだけど、黙っていれば、お嬢様みたい」
 鏡に映った己の姿に、牡丹はそんな事を言った。
「うん。いいね。これでデートとかいけば、もう、イチコロだよ」
「いや、さすがにデートとか行ってる場合じゃ――あぁぁぁ!!」
 牡丹は思わず叫んだ。
 待ち合わせの時刻は既に過ぎていたからだ。顔合わせとはいえ、遅刻するとは情けない。
「ボク、待ち合わせが!」
「ふふ。大丈夫だよ、牡丹さん」
 美女の台詞に驚く。
「なんで、ボクの名前を」
 すっかり店員だと思っていた美女は手馴れた動きで名刺を取り出すと、それを牡丹に手渡した。
「私の名前は、星加籃奈。今回、牡丹さんと一緒に戦う、スペリオルだよ」

●目的
 鎌倉に入る為の抜け道の一つ、名越切通。
 三方を山に囲まれた鎌倉に入る為の入口の一つだ。もっとも、現在としては主要街道として機能はしていない。
 名越切通の下を鉄道と県道がトンネルで通っているからだ。
 地図上で逗子方向から県道を進み示した籃奈。差し棒が止まった所は隧道の入口だった。
「この隧道を抜けた先、次の隧道との間に交差点がある」
 隧道は上りと下りの二本に分かれていた。
「その交差点に強力な歪虚が居座っている。それを討伐するのが、私達の任務さ」
 鎌倉に入る道は他にもある。しかし、この県道は横須賀方向から陸路で鎌倉に入る為の最短ルートでもある。
 歪虚を撃破して県道を取り返す重要性は計り知れない。
「今回はお互い初見。共同作戦とは言難いかもしれないけど、期待しているよ」
 籃奈の言葉が作戦室に響いたのだった。

リプレイ本文

●出撃
 隧道の中は瓦礫で散乱としていた。
 崩落の危険性は無いという事だが、照明も消えているので、僅かな灯りといえば、入口と出口から差し込んでくる太陽の日差しだけだ。
 クリムゾンウェストでは見られなかった照明器具の残骸を避けながらアメリア・フォーサイス(ka4111)は慎重に前に進む。
「こうしてリアルブルーに時折帰って来られる様になったとはいえ……」
 その心中は複雑であった。転移者である彼女にとってリアルブルーは故郷ともいえる。
 それが、歪虚の襲来で危機に瀕しており、安全では無いとなると、歪虚との戦いはこれからも続くのだろうと思う。
「早く、こんな戦いはしなくても良いようにしたいですねぇ……」
「本当にそうよね」
 アイビス・グラス(ka2477)がアメリアの言葉に同意する。
 思わず来た道を振り返った。ハンター達以外には誰もいない。
「名古屋クラスタの時に日本に来た事あるけど、後から知ったのよね……」
「何を、ですか?」
「まさか、テレビ中継で撮られてたって……余り目立ちたくないのよ、私」
 思い出したくないのだろうか、目を逸らしながらアイビスは言った。
 その理由をアメリアは問わなかった。覚醒状態に入った、アイビスは淡いオーラが獣の耳と尻尾を形作っている。覚醒状態にあるからとはいえ、事情を知らないリアルブルーの一般人から見たら奇異に見られるかもしれない。
「ボクは断然、目立ちたいと思うけどね。で、テレビって何?」
 会話を聞いていたのか、後ろから鳴月 牡丹(kz0180)の声が隧道の中に響いた。
 東方の武将である牡丹は、目立てば目立つ程に、自身の活躍がそのまま自身と家名の評価に繋がるからだろう。
「撮った物を、映写する、装置の事、だ」
 応えたのは転移者でもあるオウカ・レンヴォルト(ka0301)だった。
 そのオウカの説明に、牡丹はポンと手を叩いた。
「あれかー! 駅で見かけたおっきいモニターみたいのか。それじゃ、ボクの活躍、この世界に見せないとね」
 グッと拳を握り、ササッと前に出ようとした牡丹の襟首をグッとイレーヌ(ka1372)が掴む。
「あまり一人で突っ込み過ぎないように、な」
「大丈夫だよ」
「心配する必要は無いだろうが、“共同”作戦なのだろう?」
 この女将軍の事だ。このまま鎌倉クラスタに投入しても、きっと、無事に帰ってくるだろう。
 だが、今回の戦いは、強化人間の部隊との共同作戦なのだ。突出し過ぎるのは別の意味で問題にもなろう。
「それにしても、まったく……随分と、間の悪い、歪虚だ……」
「なんで?」
 オウカの言葉にイレーヌが尋ねる。
 微笑を浮かべて両肩を竦めた彼に代わり、楽しそうに牡丹が言った。
「出発前に聞いたけど、この隧道、有名な幽霊スポットだってね!」
 ピタリと一向の足が止まる。
 話によると怪奇小説にも出てきたとか出てこないとか。
「……聞いてないよ」
 誰かがそんな声をあげた。
 もっとも、今回のメンバーの中に怪談話が苦手という者は居なそうだが……。
「騒がしい発砲音が聞こえる隧道よりも、これなら、幽霊屋敷の方が怖いと思わない? 菊理」
 怖がっている様子が全く見えないイレーヌが、そんな事を先頭を歩く白山 菊理(ka4305)に訊く。
 暗いからか暑さの為か、若干、顔が赤いようにも見える菊理が答えた。
「そう……だろう、な」
 そして、咳払いをわざとらしく一つしてから言った。
「そろそろ、トンネルを抜けるぞ。先行部隊が居るが、奇襲に注意だ」
 隣の隧道を通って強化人間である星加籃奈が率いる部隊が、戦闘を開始している様子だ。
 だからといって、こちらの隧道に奇襲が無いとは限らない。
「向こうは射撃戦を展開したいという事から、邪魔をしないようにしないと」
 作戦前の打ち合わせで籃奈の希望を聞いていた菊理はそう言った。
 ハンターといえども、射線上に入ってしまえば大変な事になるだろう。ちなみに、万が一、射線に入ってきても射撃を止める事はしないという事らしい。

●討伐
 隧道を抜けた先、状況はすぐに分かった。
 強化人間である籃奈が両腕に装着するような盾を構えつつ最前線に立っていた。
 彼女の周囲を目玉の雑魔が取り付いているが、頑健な守りに徹している。その後ろから、部隊員らが一斉に射撃を放っていた。
「あれが、強化人間……なのですね~」
 アメリアが愛銃を構えながら言う。
 戦い方には慣れが感じられる。しかし……。
「火力が足りていない?」
 薔薇の花飾りが付いた短杖を掲げながら菊理が呟いた。
 籃奈が守りに徹している事を良い事に目玉の雑魔が取り付いている。それを排除すべく、部隊員らは射撃を繰り返しているようだが、倒しても倒してもキリがないようだ。
「新しく生成される分まで追いついていない……それなら」
 狙う場所は歪虚本体。その中でも、新しく目玉の雑魔が生成される場所だった。
「露払いをするっ!」
 アメリアの狙いを把握したのか、菊理がマテリアルを練り、意識を集中させる。
 目玉雑魔が群れを成している所へ向けて杖先を向けた。
「纏めて焼き尽くす!」
 業火とも言えるマテリアルの炎が噴出した。
 その衝撃の直撃を受けて弱まる雑魔を部隊員らが見逃さず、一斉攻撃。一瞬とはいえ、その一角を一層する。
「見えたですっ!」
 生成口は歪虚の本体の真ん中ほど。装甲板のようなもので囲われていた。
 歪虚本体は下部より上がぐるぐると動く時があるようで、それに合わせ、生成口も本体から生えている砲身も位置を変える。
 それでも狙いを続けるアメリアに対し、ひたすら耐えていた籃奈が驚きの声を挙げる。
「狙えるのか!?」
「それが、猟撃士、ですわ」
 肢体に流れるマテリアルを指先に集束させる。指先と弾丸を繋ぐイメージが完成したその時、アメリアは引き金を引いた。
 発射された弾丸は生成された雑魔を貫くと、変則的な動きを見せて、二度、生成口を直撃する。
 危機を感じたのだろう。籃奈に取り付いていた目玉雑魔が3匹程、アメリアに向かって突進してきた。
「そうはさせない」
 菊理が機導術を操り、光輝く三角形を作り出す。
 その頂点から迸った光の筋が雑魔共に直撃する。
「……これが、ハンター。なるほど、確かに強い」
 全身鎧のようなプロテクトスーツのバイザーを上げて、籃奈は興味の目をハンターに向ける。
 これほどの力を持つのだ。名古屋や函館のクラスタを攻略できるわけだと思った。
 同時に、それは、強化人間としての限界というのも感じずにはいられない。
「……いや、まだまだ、伸び代はあるはずだ」
 呟くようにいうと、籃奈はバイザーを下ろす。
 新しく生成される雑魔は居ないにしても、これまで出現した雑魔を全て倒しきれないと次に進めないからだ。

 一方、残ったハンター達と牡丹は直接、歪虚への攻撃を開始していた。
 飛ぶように戦場を立体的に駆けているのはアイビスだった。
「見せてあげる。今までの私――疾影士――じゃないって事をね!」
 歪虚の側面にはびっしりと火器類の銃口が生えていた。
 そこから放たれる幾つもの弾丸の雨。それらをアイビスは華麗に避け、あるいは、受け弾いていた。
 疾影士としての速さに格闘士としての頑丈さを持ち合わせたその動きは、今まので彼女とは違う。
「ますます、強くなったようだね、アイビス君は」
 食い入るようにジッと見つめてよそ見をしながら、牡丹は銃弾を拳で弾いた。
「牡丹さんには敵わないだろうけどね」
「そんな事はないさ。どうやら、無二の存在へと至る道を見つけたようだね」
「だと、いいけど」
 パッと幾人か知り合いのハンターをアイビスは浮かべた。
 彼ら彼女らに追い付くことは、いや、その後をついていく事すらも困難なのは分かっている。しかし、自分のスタンスは一つしかない。
 そのスタンスを牡丹は真似できないし、牡丹自身の目指す道でもない。だからこそ、役割があり、助け合い、支え合う関係が大切なのだろう。
「それじゃ、もう少し、遊んでやるかい?」
 牡丹がニヤリと笑った。
 この余裕がある意味羨ましいと思いながら、アイビスは頷いた。
「いつまでも交差点に居座るなんて道路交通法違反な歪虚だからね。排除よ」
 二人の戦士が囮となって歪虚の注意を引いている間に、イレーヌとオウカは背部に近い方の側面へと回っていた。
 戦車のキャタピラのような物が幾重にも張りめぐされている歪虚の下部が重低音を響かせ動き出した。
 もっとも、歪虚本体が動くという訳ではなく、接近した二人を威嚇する為のもののようだ。
「新たに身に付けた技を打ち込んでみるか」
 カオスセラミックで作られたグローブにマテリアルを高めるイレーヌ。
 覚醒者のデータを元に、その力をより引き出す為の機構が備わっているのだ。
 ワンステップ踏んでからの強烈な左ストレート。
 合わせるように歪虚のサブアームが盾で防ごうとしたが、盾ごと、イレーヌは歪虚に拳を叩き込む。
 マテリアルの特殊な流れが衝撃となって、確かにダメージを与えた事は実感できた。
「まさか、普段、おじぃ(ユグディラ)の修行に付き合わされていた成果が、こんな形で役立つとはな……」
 どんな事でも意味はあるという事か。
 思った以上のダメージだったのか、歪虚の注意が彼女に向く。
 強烈な射撃。しかし、直撃する前に出現した光の膜のような機導術の盾がイレーヌを護る。
 オウカが機導術で援護しているのだ。
「次は、目玉、か……」
 彼の言う通り、射撃が通らないとみたのか、裏側に居た目玉雑魔が向かってくる。
 それをイレーヌは指を鳴らして魔法を発動させた。聖導士としての能力だ。衝撃の波動が急速に広がって、歪虚や雑魔へと遅いかかる。
 続けて、光の筋が駆け巡り、敵を撃ち貫いていった。オウカが機導術を放ったのだ。
「このまま、一気に、押せそう、だな」
「大きいダメージを受けた人がいたら、回復魔法使うからね」
 周囲に呼びかける程の余裕があるオウカとイレーヌ。
 ふと、遠くからの視線に気がついた。どうやら、強化人間の籃奈がイレーヌの戦いぶりを見ていたようだ。
 雑魔の攻撃を盾を使って弾き飛ばすと、オウカを頷きあう。攻守が交代する為だ。
 空いたスペースに長大な刀を振りかざし歪虚へと迫るオウカ。マテリアルを刀に流し込み、より巨大化した刀を形作った。
「こいつは、どうだ……?」
 歪虚本体に叩き下ろし、轟音が響き渡った。
 一瞬、歪虚の上部の動きが止まる。
 そのチャンスにアイビスと牡丹が必殺の一撃を入れるかのように動いた。
「アイビス君に、美味しい所は譲ってあげるよ!」
 回転する上部と下部の境目を狙って、牡丹がありったけの一撃を叩き込むと同時に、アメリアと歪虚に接近した菊理の援護が飛んできた。
「歪虚の盾を持つアームの動きを鈍らせます」
「機械で形作られているなら、少しは通じるか」
 冷気を纏った射撃攻撃。そして、電撃を纏った機導術。
 それらが効いたのか、確実に歪虚の動きが緩慢となった。
「これが、もう一つの私――格闘士――の力! ただ前に進むだけよッ!!」
 信号機や積み上がった瓦礫などを足場に飛び上がったアイビスが拳を繰り出した。
 その一撃は歪虚の上部。モニターのように光っていた所を深く抉り落とす。
 同時に歪虚からの反撃が止まった。
「よし! 全員、一斉射撃!!」
 籃奈の声が響き、待ってましたと言わんばかりの砲火が放たれ――交差点に居座っていた歪虚は消滅したのだった。

●交差
 残った目玉雑魔も掃討して作戦は完了となった。
 危険なものが無いか確認を部下に命じると籃奈はバイザーを外した。
「さすが、覚醒者だな。素晴らしい戦いぶりだったよ」
「まぁ、ボクも含め、これぐらいは大した事はないさ」
 自信満々に答える牡丹。
 そんな二人に菊理は軽く頭を下げて言った。
「今回はありがとう。また会う事があれば、宜しく頼むよ」
「戦場に立つ限り、すぐにでも遭いそうだけど。敵にならなければ心強いとよくわかったさ」
 苦笑を浮かべる籃奈。
 それほどまでに、ハンター達の力を感じたという事なのだろう。
「特に、防勢と攻勢の両立については、勉強になった。今回の戦いを踏まえ、私の研究に役立つというもの」
「星加さん達はどの様な事を?」
 アメリアの質問に籃奈は微笑を浮かべる。
「強化人間向けの新兵器の開発さ。この装備もそう」
 両腕に装着した盾のようなものをみせる。
 全身鎧のような防具と合わせれば隙は無い。だが、攻勢に回ると攻撃手段が無いようにも見える。
「攻勢をスキルで補う。補助火力としては申し分ないというのがよくわかった」
 その視線はイレーヌに向けられていた。
 だから戦いの最中、見られていたのかとイレーヌは分かった。
「強化人間というのはどう生まれたんだ?」
 率直なイレーヌの質問に籃奈は両腕をあげる。
 それは答えてはいけないからというような雰囲気は感じられなかった。
「マテリアルを使った特殊な人体改造……みたいなイメージかな。私は眠ったままやって貰ったから、詳細は分からないけど」
「そんな、もの……なのか……」
 オウカが眉をひそめた。
 手術みたいなものなのだろうか。
「私にとって最大の感心は敵を倒せる新兵器の開発だからね。強化人間自体については、それに付随するものだから」
 籃奈の割り切っている様子はサバサバとしていた。
「私から、尋ねてもいい?」
「どうぞ。えっと、アイビスさんかな?」
 遠慮がちに訊くアイビスに応える籃奈。
「スペリオルという人から、私達と『違うモノ』を感じるのだけど……気のせいかしら?」
 それは確かにハンター達は感じていた。
 端的に言ってしまうと、強化人間から負のマテリアルが感じられた。それは、本来、歪虚が持つ力だ。
 強化人間から戦闘中に発せられるそれは、もっとも、アイビスみたいな覚醒時の変化を籃奈はしなかった。この辺りは個人差があるのかもしれないが。
「そう? 私には分からないけど。それじゃ、皆で帰還しましょうか」
 和やかに笑い、籃奈はハンター達に言ったのであった。


 県道を居座っていた歪虚を、強化人間(スペリオル)星加籃奈が率いる部隊や牡丹と共に打ち破ったハンター達。
 これにより、横須賀方向から鎌倉に入る陸路の一つは確保が完了したのであった。


 おしまい。


●疑念
「手合わせと思ったけど、考え事? 牡丹?」
 イレーヌの言葉に頷きながら応える牡丹。
 牡丹は先に進む籃奈の後ろ姿をジッと見つめていた。
「あぁ……ごめんね。ちょっと気になってさ」
 牡丹が考え事なんて珍しいとでも軽口を叩こうかと思ったイレーヌだったが、それを口にはしなかった。
 それは、牡丹の表情があまりにも深刻そうだったからだ。
「……いや、有り得ない……でも……なんで……」
 ブツブツと呟く牡丹の声は、確かにイレーヌの耳に聞こえていたのだった。

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重体一覧

参加者一覧

  • 和なる剣舞
    オウカ・レンヴォルト(ka0301
    人間(蒼)|26才|男性|機導師
  • 白嶺の慧眼
    イレーヌ(ka1372
    ドワーフ|10才|女性|聖導士
  • 戦いを選ぶ閃緑
    アイビス・グラス(ka2477
    人間(蒼)|17才|女性|疾影士
  • Ms.“Deadend”
    アメリア・フォーサイス(ka4111
    人間(蒼)|22才|女性|猟撃士
  • 黒髪の機導師
    白山 菊理(ka4305
    人間(蒼)|20才|女性|機導師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
白山 菊理(ka4305
人間(リアルブルー)|20才|女性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2017/08/15 21:31:06
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/08/13 00:18:56
アイコン 【質問卓】教えて、牡丹さん
イレーヌ(ka1372
ドワーフ|10才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2017/08/15 13:24:07