• 陶曲

【陶曲】捻子の反乱、刀

マスター:佐倉眸

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~9人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/08/13 19:00
完成日
2017/08/19 01:29

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 会議を始めます。
 この数度の戦いに同行した案内人を自称する受付嬢が、管轄のオフィスの職員を集めて話し始めた。
 黒い捻子の歪虚について、先の戦いの報告から抜粋してボードに箇条書きにされている。
 まずは、と案内人は項目を順に指していく。

 その歪虚が伸ばす糸は身体に刺さり、刺さった部位が操られる。
 最初の被害者であるハンターの椎木も、次の被害者である中年夫婦も右腕だったことから、特に右腕周辺が狙われる可能性が高いようだが、椎木は肘近く、夫婦は肩と上腕の中程ということもあり、特に部位の限定は無さそうに思われた。
 この糸は切断により除去が可能だが、抜くことは不可能或いはそれに近い。
 これは椎木と夫婦の傷の比較から。糸を抜こうとした椎木は糸の刺さった部分に傷を作っていたが、夫婦は無傷かそれに近い。救出まで一手遅れた夫が小さな傷を残したが、翌日には瘡蓋になっていたそうだ。
 糸の強度は不明、糸によって異なるか、同一かも分かっていないが、今までの3つの例は何れも切断と消滅が確認された。
 糸に操られている間、対象に意識はある。しかし、糸に操られている部位はその限りでは無い。
 椎木は自傷により、夫婦は抑も戦闘の技能を持っておらず、体力も乏しかった。それにも関わらず、彼等は得物を確りと握り、操られている腕は救出に向かったハンターを的確に狙った。

 この前ハンターさんが頑張ってくれましたからと案内人はホワイトボードから向き直る。
「つまり、操られたところを抑え込んで、糸をすぱっと切って頂くのが効率的です。それから、この歪虚自体について、更に幾つか報告が有ります」

 捻子自体への攻撃が非常に困難、或いは不可能だが、糸への攻撃は、糸の伸縮や操られた対象からの妨害を考慮し、容易とは言えないまでも、可能。
 捻子は集まることで言語を使う。思想、思考、或いは思慕。感情のように思える言動を取っていたが、先日の件で6体の集合から2体減少した際、それらの動きが見られなくなった。
 もう1つ、この集合の基盤となっているものは歪虚化していない。前回回収されたブリキの缶は攻撃を受けて拉げ、捻子の穿たれていた部分が黒ずんでいたが、その缶が動き出すようなことは起こっていない。

「繰り返すようですが! この歪虚への対策は被害者を確保した上で、速やかに糸を切断することです」

 案内人の声が響いた。
 資料の最後、現在確認されている捻子の歪虚の残数4。

「しかし、初めてこの歪虚と同様の黒い捻子を見付けた時は1体でした。たった1つの黒い小さな捻子が、大量の金属部品を操っていました。それが7体集まって、今は4体。今後増えないとは言い切れません」

 対策が立った今、他の事件にも手が十分足りているとは言えない中で、攻めるか、守るか。


 攻めましょう。
 長い沈黙を破った声が1つ。
 同調する様に沸き上がった幾つもの声。
 再び一般市民へ被害が及ぶ前に、速やかにこの歪虚の撃退を望む。

 目撃地域付近での調査の人員を増やす。
 万が一に備え、3人一組での行動を基本とする。
 1人が被害に遭った場合、1人が抑え、もう1人が切る。
「……えーっと? つまり、抑えたり切ったりのどっちも出来るハンターさんを3人組でって事ですか?」

 難しいなぁ。
 案内人は依頼を掲示しながら呟いた。
 調査だけに終わってしまい、成果の上がらないことだってあり得るのだから。
 そう考えると人数は割きにくい、けれど。
 証言と考察を終えた椎木とルエルは協力する旨を伝えると、退席し街の巡回へ戻ろうとしている。
 彼等の他にもフマーレの隅の小さなあの街を思ってくれるハンターはきっといることだろう。

 情報と、方針と纏めた資料を見直して、案内人はそこへもう1つ添えることにした。

 見込み通りか、或いは。
 集まったハンターに案内人は資料を配る。
「今回の調査の作戦は以上です。今更言うことでは無いと思いますが、作戦中も一般市民の方々の安全を優先して下さい。それから、こちらを」
 案内人が資料に添えて差し出した小さな笛。
 首から提げられる紐を付けた、簡素な物。
「トランシーバーなどをお持ちかとは存じますが、十分に手が空く状況とは限りません。必要に応じてお使い下さい。音はトランシーバの半分ほどの距離までは十分に届きます。それなりの音量がありますので、本当に必要な時に限って下さいね」

 工業区の一角、小さな工場が集まった通り。
 その中ほどを折れた所には先日の時計店と鍛冶屋も有る。
 日が昇って落ちるまで、職人の声や蒸気の音、機械の動く金属音が賑やかに、あるところでは動力の水車を回し幾台もの紡績機械を動かしている。
 通りは広いとは言えず、小径へ入ってしまえば見通しが利きづらい。
 小さな捻子を見付けるのには骨が折れそうだ。
 戦闘が発生すれば戦いにくくもあるだろう。
 開けていても工場の並ぶ中、遮蔽になるものが幾つも積まれている。
 これでは、たしかに、探すより誘い出す方がいい。


 転がった捻子1つ。2つ3つ4つ。
 釣られて来たのか、5つ、6つ。
 風に嬲られ、行き交う人の足を揶揄い。辿り着いたのは刀鍛冶。
 拵えを施す前の刀に穿たれた2つの目釘穴に、うっかりそれは丁度良く収まってしまったらしい。

 影に潜み、蒸気の音の間を縫って、街並みを裂く刀が3振り。
 刀鍛冶は盗難の届けを出したが、果たして。

リプレイ本文


「人と金属を操る捻子ねぇ」
 報告を聞きながらヒース・R・ウォーカー(ka0145)が呟く。
 書面を追った穂積 智里(ka6819)が考え込むように傾げる首を起こし尋ねた。
「最低でも4体、なんですよね?」
 集まっていれば良いんですが。どう動くかはまだ分からない。
 赤い瞳を瞬き、2人の様子を見詰めた神立 雷音(ka6136)がもう1件の報せに目を留める。刀の盗難報告らしい。

「先手を打つと言ってもそう容易い事じゃないとは思うけど……」
 厄介な手合いだと作戦範囲の地図へ視線を移すユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)が自身の得物を見る。
 刀の盗難というのも気にくわない。
「何をしようが勝手だし、仕事は変わらないが」
 同じく地図を辿った東條 奏多(ka6425)は指を街中に留める。一般人に危害を加えるのは頂けない。
 アリア・セリウス(ka6424)も静かに頷いた。
「惨劇の戯曲奏でる歯車は不要よ」
 人を操る糸も、悪意の捻子も。荷物から取り出す剣を再開と情熱の言葉を頂き咲き誇る白い花をあしらうドレスの袖に忍ばせる。

 ジェーン・ノーワース(ka2004)の指が地図に置かれる。ここに向かうと言うように。
 トランシーバーを準備して、黒く円らな瞳が仮面越しに仲間を見上げた。
「ふっふっふー、恨み骨髄な捩子歪虚討伐ですぅ」
 やる気に溢れる声で星野 ハナ(ka5852)が視線を返す。
「ただの捻子如きが人間に牙を剥くとは……その愚かさを破滅を以て償わせてやる!」
 コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)も風変わりな歪虚に狼狽えることも無く、装填済みの自動拳銃のグリップに手を掛ける。

「集まっている状態で笛を吹くのは合理的だと思いますけど、そうでないなら各班で……」
 穂積がトランシーバを取る。通信は問題なく、音も明瞭だ。
 ヒースが地図に置いた指で細い道を辿る。神立がそこで構わないと2人を見詰めながらにっこりと頷いた。
「早く片付けよう」
 取り返しのつかないことになる前に。東條が腰を浮かせ、アリアとユーリが続く。
 これ以上、不穏な音色は流させない。頷くアリアが静かに告げる。
「やるしかないか。放っておくとまた同じ事が繰り返されるだけだし」
 得物を差して、奮い立たせるように声を。
 そして、ハンター達は街へ向かった。


 東條達3人が向かったのは、商店が連なる賑やかな通り、少し戻れば工場が連なり、裏に入れば仄暗い。
 3人は先ず、盗難届の出された鍛冶屋へ。
 荒らされた店内を片付けて、他の被害を確かめているらしく忙しない。
 盗まれた刀は3振りで、何れも研ぎ上がったばかりの鋭いものだという。
「ありがとう……最近の不審な出来事や物品の動きはそれだけね?」
 アリアが尋ねると、店主はそれだけだと頷く。
「その調査でこの辺りを回ってるんだ。どんな些細なことでも聞かせてくれないか?」
 東條が尋ねると店主は考え込んでから、やはり思い付かないと首を振った。
 会話の間店内を回ったユーリは2人の側に戻ると、店内に異変は見られなかったと伝える。
 店が買い物もままならない状態では客を待つことも出来ないだろう。他の店も回って聞き込みを続けるべく3人は店を出た。
 少なからず人通りがある。別の店へ向かう途中、アリアは1人の青年を呼び止めた。
「この辺りで不穏な噂、不気味な雰囲気や音など噂や話になっている場所を探しているの」
 人の思いの集まりやすい物や場所。マテリアルの集まりやすい場所の特徴を思いながら。
 東條とユーリも近くの店を覗いて不審な動きを訪ねて歩く。
 しかし、有益な情報には行き当たらない。

 ジェーン、コーネリア、星野の3人も鍛冶屋へ向かうが、その後は金属音の響く工場へ向かう。
「……盗難以外にも、不自然な損傷、破損……」
 見回す工場の様子は機械が煩い程に動いて、行き交う人々も忙しないが、見える限りの街の様子に不自然さはない。
 尋ねた方が良いだろうか。ジェーンは声を掛けられそうな住人を探し、人目に付きにくいところに重点を置いたコーネリアは工房の隙間や物陰を覗き込む。
 僅かな動きさえ落とすまいとマテリアルを込める相貌は険しく。吊り上がる目と口角、歯を剥いて開く瞳孔に稲妻の閃光が映り込む。
「この辺でぇ、不自然に金属くずが落ちてたとか気がついたことありますぅ?」
 盗難事件があったから。そう、星野は職人に声を掛けた。
 鉈を手にした職人が唸って首を捻り考え込む。
 その手の話しは、今のところ春頃に聞いたきり。その時に散らかった部品も既に処分されているだろう。
 話し込む星野の背後、コーネリアの視界の端に光りがちらついた。
 振り返る、向かいの屋根に翻った一振りの刀。
 危ない。咄嗟にジェーンと星野が構えた時には、既に伸ばされた糸が職人に向かう。
 彼が狙われたのかと、押さえようとした星野の腕に糸は落ちて刺さった。
 舞うように振り下ろされた刀が、星野の眼前を掠めて屋根に戻る。
 陽光に刃紋を煌めかせるそれは空に切っ先を掲げて浮かんでいる。
「歪虚ですぅ、ここから離れて下さいぃ」
 動かぬ手は符を引くこともままならないが、グローブと籠手で守る手で糸を掴み、周囲に危機を知らせる声を掛ける。
 一般人が操られなくて良かったと言うべきかと、ジェーンはトランシーバーに連絡を入れる。
 端的に、出没と星野が操られたこと、確認出来た敵は刀が一振り。
「離れていてくれるかしら? 危ないわよ」
 職人に声を掛け、鞭を構える。
「あの糸……捻子はそこか。歪虚、潰してやる」
 コーネリアが眇める視線で敵を睨む。纏う稲妻の幻影が歪虚への怒りに色を変えて走る。
 ジェーンが放った鞭の拘束に合わせて接近、糸を削ぐようにナイフを押し当てた。

 連絡を受け取った東條は工場の方へ目を向けた。
 然程離れている訳でも無い。ハンターが操られているなら、攻撃の手を増やすためにも加勢に向かった方が良さそうだ。
 佩いた太刀に手を掛けて歩いてきた道を駆け戻るように3人に合流する。
 星野とその腕に繋がる糸をジェーンが捌き、出来た隙を狙ってコーネリアのナイフが翻る。星野は片腕を塞がれ、その腕の動きに得物を構えることさえ妨げられている。
 糸の先は中空に翻る刀に、その刀の茎には捻子が2つ覗える。
 1つは糸へ、もう1つは刀を操っているのだろう。
「あの捻子を叩く」
 以前と同じ物なら、糸に続く捻子への攻撃でも星野の拘束が緩むはずだ。
 東條が解いた鞭で空を打ち、茎を見据える。コーネリアも糸を止めるべく銃口を刀へ照星を捻子に据える。
 合わせる様にジェーンが糸を鞭で絡め、星野も自身の腕を抱えて押さえる。

 その瞬間、刀が空気を裂いて星野に向かって振り下ろされる。
 咄嗟にそれを手甲で弾き、至近に迫るそれを狙って額に飾る紅玉を介したマテリアルの光を放つ。
 刀を撃ち落とすように放たれる鞭の破裂音が、銃声が響き、再度星野を狙う刃をジェーンが捉え糸が張る。
 得物を太刀に戻すと、東條は強く地面を蹴ってその糸へ刃を滑らせる。
 罅の入る捻子をコーネリアの弾丸が凍て付かせ、星野が放つ光りに灼かれた瞬間に砕けた黒い塵は風に逆らうように流れていく。

 中空へ放り出された刀が落ちながら軒へ刺さり、放り出されたもう1つの捻子がどこへともなく転がっていった。
 腕の動きを確かめて星野が刀を引き抜くと捻子の触れていたらしい茎が黒ずんでいる。
 盗まれたという刀だろうか。
 刀をオフィスへ届け、これまでの報告とは異なり操っていた星野を狙った歪虚の動きを報告し、ハンター達はそれぞれの調査へ戻る。


 賑やかな通りの裏へ向かった、ヒース、神立、穂積の3人。
「一般の方の被害は減らさないと絶対まずいです」
 穂積が喋りながら見回す通りは細く、明かりは建物の隙間からの陽差しばかりで仄暗い。
 マテリアルの明かりが足元と行く先を照らしている。
 人影の乏しさに、話を聞ける相手もいない。
「目につきやすい囮になった方が良いってことでしょうか……」
 聞き込みをするにも、敵の目を惹くにも。思わずそんな言葉が零れた。
 屋根に地面に視線を動かす。
 敵の動きの推測が難しい。高いところから糸を飛ばしてくるのだろうが、思い込みが過ぎるのは良くない。
 ヒースも道を眺めたり、振り返ったりしながら頷いて、厄介な敵だと呟いた。
「だからこそ、力ではなく頭を使って対処しろという事なんだろうねぇ」
 丁度通り過ぎた店の裏口が開く。
 エプロンを着けた店員が出てきて端材を放り込んだ箱を置く。
 それに気付いた神立が手を伸ばし、肩を叩いて2人を呼び止めた。

 この辺りは店の並びの裏側に当たる。表では戻ってきた東條がユーリとアリアに状況を伝え、そしてトランシーバーからヒースへも戦闘の発生と終了の連絡を入れた。
「……情報さえあれば対処はできるさぁ」
 操った対象を攻撃したという情報を受け、ヒースが応じる。
 穂積は店員に不審な捩子や金属の部品を見ていないかと尋ね、その隣で神立は紙に鉛筆を走らせる。
 この辺りで盗難事件が起きたことへの注意喚起、そして、金属片、捻子の歪虚が目撃されている事への警戒を示す。
 店員は置いたばかりの端材を一瞥したが、そこに歪んだ気配は無い。
 そういうことなら気を付けておく。そう言って店員は店内に戻っていった。

 2人が話し終える頃には、ヒースも連絡を終える。出没した歪虚は刀を操っているらしい、届けの出された品だろう。
 盗まれたのは3振りだ。4つの捻子がどうそれらを操っているのか、或いは、敵が増えて一振りを数個で操っているのか。
 穂積が青みがかった目を伏せて考え込む。

 神立の吠える声に耽り始めた思考が途切れ、歯車を頂く白い杖を握ってヒースの腕に取り付く。
 鎧うマテリアルで自身を守りながら、糸の刺さった腕を抱えた。
「情報は、あるって……言っただろぉ」
 糸の刺さった右手は穂積に、その手が左腰に届く前に差した柄は左手で掴む。
 逆手に引き抜くと、糸に据えて削ぐように走らせる。柔らかそうに揺れる糸は、しかし、刃と擦れると耳障りな金属音を響かせた。

 神立の声は近くで聞き込みを続けていたユーリとアリアにも届いた。
 状況を告げるヒースの声も、断片的に拾われて届く。
 連絡を終えた神立は拵に四つ足の獣を思わせる線画をあしらう刀の柄に手を掛ける。
 その身に雷の幻影を帯びて、同じ画を思わせる模様が左腕に。幻影は右腕に集まり、マテリアルの収束に伴い、様々な図を浮かび上がらせては消える刃を抜き放つ。
 集まった光が失せると、ヒースの糸を狙い構える腕には槍を燃す模様が煌めいている。
 マテリアルの刃を翻し、神立は糸に切っ先を向けた。
 ヒースも糸を断とうとしているが、自身と穂積の2人掛かりで押さえて尚、その手は刀を掴もうとヒースの左手に向かう。
 片腕を封じられる以上の行動の制限に、ヒースは眉を寄せ、捕らわれた右手を、糸に繋がる先の刀を睨む。

 回転しながら下りてくる刀を穂積が弾き、神立の刃は糸を追う。
 独特な意匠の鞘の内でマテリアルを練る刀は抜き様に鋭い一閃を放つ。
 妨げようと中空から空気を薙いで下りてくる敵を、穂積のマテリアルの鎧が受け留め、引いた瞬間に向けられる白い杖が放つ光りが射抜く。
「漸く見つけた……今度は刀に擬態して。見逃せないわね。ここで潰させてもらうわよ」
 しなやかに伸びた腕が青い刀身の刀を操り、白銀の髪を靡かせて合流するユーリは、祈りとマテリアルを込めて雷光が青白く輝く切っ先を糸に向ける。
 落雷の音を背負い、纏う幻影はその肌にも刺青の如く雷の模様を浮かび上がらせ、一息に間合いを詰め切って刃に糸を捉える。
 敵の刀は再び舞い上がり、そしてその柄をヒールの右手へ向けて下りてくる。
 ヒースが遠ざける彼自身の得物を諦めて、捻子の操る刀を握らせようとする動き。
 鎧を纏い直し、穂積は杖を敵へ向け、神立とユーリ糸を捉える刀を構える。
 淡い光の幻影を揺らし、縦長の瞳孔を開いて敵を見据えたアリアが、袖に隠した刀を取り、抑えられた糸をマテリアルを込めて叩き斬るように振り下ろした。
 邪を退ける伝承を持つ透明な刀身が閃いて、その周囲に白銀の光りが散る。
 糸の切れた瞬間に動きを取り戻したヒースの手は馴染んだ得物を握る。
 敵に向かって駆る脚に血の色の皮膜の翼の幻影を羽ばたかせ、マテリアルの幻影をその刀身に纏わせて捻子を狙って振り下ろした。

 空に翻りその攻撃から逃れる刀は屋根を越える。
 店の表まで追ったハンター達に東條が拾った刀を見せるが、どこで外れたのか、茎には既に捻子は跡形も無い。

 店を巡っての聞き込みに東條、ユーリ、アリアの3人も戻るが、そこへ先刻別れた青年が戻ってきた。
 心当たりがあると言う彼に着いて歩きながら、アリアはいくつかの質問をする。
 火事のこと、仮面の旅一座のこと。何れも街中の事だと首を横に揺らして知らないという。
 連れて来られたのはゴミの集積所。
 ハンターさんを連れてくるのは心苦しいけれど。言いながら青年は端材の箱を示した。
 ここは金属も沢山ある。前の事件の物も捨てられて、幾らか残っているだろう。
 彼が摘まんだ捻子に3人が構えるが、それはネジ山の潰れた鈍色の唯の捻子だった。
「良い雰囲気の場所では無いわ。でも、想い、感情。それがマテリアルになるのなら」
 アリアに頷き、鞭を束ねながら東條がその周囲を見回した。
「どんな些細なことも、気を付けて置きたい」
 端材の山には不穏な雰囲気はあるが、すぐに検められる物では無い。
 オフィスへ戻ろうかと歩き始めるとトランシーバに通信が入る。
 全ての刀の回収の報せだった。


 ハンターに回収された物が2振りと、道ばたで拾われた物が1振り。何れも浄化が必要な状態だったが、被害を出すこと無く終えて受付嬢と、鍛冶屋は安堵している様子だった。
 状況の説明に受付嬢は首を傾げたが、星野とヒース、それから鍛冶屋へと視線を移す。

「……仮説ですけれども、恐らく、刃物、或いは金属か、無機物でなければ、この捻子が操った対象に攻撃を行わせる武器として見なさないのでしょう。星野さんを攻撃したこと、ヒースさんに刀を握らせようとしたところからも、もしかするとこの歪虚は捻子単体でも、行動に多少の差違が見られるのかも知れません。それから、星野さんへの攻撃から、恐らく歪虚自身が糸を外せないという仮説も立てられますが……やはり腕の切断は控えたいところですね」

 もう一件、受付嬢は東條達が向かった集積所の場所を地図に書き留める。
「そんな場所が有ったんですね……こちらも調査に向かう必要が生じるかも知れません」
 今回はご協力に感謝します。受付嬢はハンター達を見回してにっこりと笑って頭を下げた。

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MVP一覧

  • 紅の月を慈しむ乙女
    アリア・セリウスka6424

重体一覧

参加者一覧

  • 真水の蝙蝠
    ヒース・R・ウォーカー(ka0145
    人間(蒼)|23才|男性|疾影士
  • 龍奏の蒼姫
    ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239
    エルフ|15才|女性|闘狩人
  • グリム・リーパー
    ジェーン・ノーワース(ka2004
    人間(蒼)|15才|女性|疾影士
  • 非情なる狙撃手
    コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561
    人間(蒼)|25才|女性|猟撃士
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師
  • 陽だまりのように微笑んで
    神立 雷音(ka6136
    鬼|15才|女性|舞刀士
  • 紅の月を慈しむ乙女
    アリア・セリウス(ka6424
    人間(紅)|18才|女性|闘狩人
  • 背負う全てを未来へ
    東條 奏多(ka6425
    人間(蒼)|18才|男性|疾影士
  • 私は彼が好きらしい
    穂積 智里(ka6819
    人間(蒼)|18才|女性|機導師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/08/12 19:15:36
アイコン 相談卓
東條 奏多(ka6425
人間(リアルブルー)|18才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2017/08/13 18:43:04