ゲスト
(ka0000)
怒れる4匹のユニコーン
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2017/08/26 22:00
- 完成日
- 2017/09/01 01:43
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●エルフハイムの森の中。
木陰の花に群がっていた蜜蜂と蝶々が飛び立つ。太い足と鳴き声が近づいてきたので。
ぎゃおーう。
鳴いているのは、ポニーくらいの大きさをしたドラゴン。色は青。
彼の名はブルー。とあるお金持ちの家に飼われている箱入りドラゴンだ。8匹の仲間と共にご主人の避暑地に来ていたのだが、二日前柵を超えて脱走。気の赴くまま飛んで行き、ふと気が付くと深い森の中。
要は迷子になったのだ。
呼べど叫べど、どこからも返事がない。そしてお腹が空いてきた。
ぎあおー。ぎあおー。
ブルーは人間に育てられてきたので餌の取り方を知らない。ウサギやリス、シカ、イノシシといった動物と時折出くわしても、ただ見過ごすだけ――そもそもそれらの生き物が食べられるものなのだということさえ理解していない。
ぎあう?
なにやら甘ずっぱい匂いがしてきた。のしのし歩いて行ってみると、赤い小さな果物が鈴なりになっていた。
果物が食べられることはブルーも知っている。おやつとして幾度か貰ったことがあるからだ。というわけで食べる。
しかしとてもじゃないがそれだけでは腹を満たせるものじゃない。いやむしろ、余計空腹感が増してきたような気さえしてきた。
もっと何かないかなあと、引き続き森の中をうろつき回る。
ぎゃう?
ブルーは急に立ち止まった。行く手の一角、森の一隅にぽかりと空間が出来ていたのである。
興味を覚え近づいてみると、きれいに揃えられたの真ん中にガラス張りの箱。花に埋もれた少女が1人、その中で眠っていた。
透ける金色の髪。煙るような睫。雪のように白い肌。一目見たら忘れられないような美少女。だがブルーはドラゴンなので、そんなこと意識しない。人間がいたということが嬉しくて尻尾を振る。この人が起きてくれたら食べるものをくれるに違いない。お家に帰ることも出来るに違いない。
ぎゃお、ぎゃお。
鼻先でガラス箱をつつく。しかし少女はなかなか起きない。
声が聞こえないのだろうか?
ぎあーう。
ならば、ということでブルーは、鍵爪のついた前足で、勢いよく箱の上部を叩いた。バリンと小気味いい音がしてガラスが割れた。
ブルーは少女の頬に直接鼻面を擦り付ける。
そのとき、背後でがさりと音がした。
ぎゃう?
振り向くとそこには、ついぞ見たことのない生物たちがいた。
白馬のようにも見えるが額の真ん中に一本角が生えている。皆、こぞって目を血走らせている。
ブルーは知らなかった。自分が今いる場所がエルフハイムの一角だということも、目の前にいる動物たちがユニコーンだということも、ガラスケースの中に入っている少女が人形であり、生身の乙女たちにユニコーンが付きまとわないように配置されている疑似餌であるということも……。
●ドラゴンSOS
「飼ってるドラゴンが行方不明になったって言われてもねえ……そもそも飼っていいものなのかしらってことよ」
ハンターの八橋杏子は見通しの悪い森を仲間と共に、進む。
「脱走対策はしてなかったのかしら?」
「していたけど、風切り羽の伸びが予想以上に早かったそうですよ」
「敵は飛べるからなあ。行動力は人間と比較にならないぞ。おまけにいなくなってもう2日たってるんだろ?」
現在一同は、迷子のドラゴンを捜している。依頼主はとあるお金持ち。9匹の色違いドラゴンを飼っていて、そのうち1匹が逃げたとの由。自由都市同盟内にある本宅から、国境山岳地帯の避暑地に連れてくる最中の出来事だったそうだ。
「しかしでけえ別荘だったよな……」
「軽く運動競技会出来そうでしたよね」
「いいな金持ちは……こちとら庭付き一戸建すら持てないのに……」
「羨むのは止めておきましょう。空しくなるだけです」
ドラゴンは一体どこへ行ってしまったのだろう。こちら方面へ飛んでいくのを見かけたという証言は、この界隈に住む木こり衆から取れているのだが。
心配しながら道なき道を進む。
そのとき、ものすごい叫び声が聞こえた。
ぎゃああああ! ぎゃあおおおおおおお!
バキバキバキバキ木がへし折れる音がする。何事かが起きているのは明らかだ。
ハンターたちは急いで、騒ぎが起きているだろう方向に走りだした。
ぎゃあああおおおんん!
森の中から青いドラゴンが飛び出してきた。
ハンターたちの姿を見るなり駆け寄ってきて、泣くような声を出す。
ごーう、がおーう。
見れば体中が傷だらけ。両翼の翼がきれいにむしられ、まるで丸焼きの鶏みたい。
子供とはいえドラゴンをここまで痛め付ける相手というのは何なのか――その答えは向こうからやってきた。
ドンッ……メキメキメキメキ。
自然破壊をしつつ突進してくるのは純白の体に銀のたてがみの美しき獣。『若く』『美しい』『心の清らな』『処女』をこよなく愛し倒す美しき幻獣、ユニコーン。
それが4匹もいる。フイゴのように鼻息を吹き出し、目は真っ赤に血走り――明らかに激怒しているようだ。
杏子が「げっ」と呻き、しわがれた声を出した。
「……なんであいつらがここにいんの……」
木陰の花に群がっていた蜜蜂と蝶々が飛び立つ。太い足と鳴き声が近づいてきたので。
ぎゃおーう。
鳴いているのは、ポニーくらいの大きさをしたドラゴン。色は青。
彼の名はブルー。とあるお金持ちの家に飼われている箱入りドラゴンだ。8匹の仲間と共にご主人の避暑地に来ていたのだが、二日前柵を超えて脱走。気の赴くまま飛んで行き、ふと気が付くと深い森の中。
要は迷子になったのだ。
呼べど叫べど、どこからも返事がない。そしてお腹が空いてきた。
ぎあおー。ぎあおー。
ブルーは人間に育てられてきたので餌の取り方を知らない。ウサギやリス、シカ、イノシシといった動物と時折出くわしても、ただ見過ごすだけ――そもそもそれらの生き物が食べられるものなのだということさえ理解していない。
ぎあう?
なにやら甘ずっぱい匂いがしてきた。のしのし歩いて行ってみると、赤い小さな果物が鈴なりになっていた。
果物が食べられることはブルーも知っている。おやつとして幾度か貰ったことがあるからだ。というわけで食べる。
しかしとてもじゃないがそれだけでは腹を満たせるものじゃない。いやむしろ、余計空腹感が増してきたような気さえしてきた。
もっと何かないかなあと、引き続き森の中をうろつき回る。
ぎゃう?
ブルーは急に立ち止まった。行く手の一角、森の一隅にぽかりと空間が出来ていたのである。
興味を覚え近づいてみると、きれいに揃えられたの真ん中にガラス張りの箱。花に埋もれた少女が1人、その中で眠っていた。
透ける金色の髪。煙るような睫。雪のように白い肌。一目見たら忘れられないような美少女。だがブルーはドラゴンなので、そんなこと意識しない。人間がいたということが嬉しくて尻尾を振る。この人が起きてくれたら食べるものをくれるに違いない。お家に帰ることも出来るに違いない。
ぎゃお、ぎゃお。
鼻先でガラス箱をつつく。しかし少女はなかなか起きない。
声が聞こえないのだろうか?
ぎあーう。
ならば、ということでブルーは、鍵爪のついた前足で、勢いよく箱の上部を叩いた。バリンと小気味いい音がしてガラスが割れた。
ブルーは少女の頬に直接鼻面を擦り付ける。
そのとき、背後でがさりと音がした。
ぎゃう?
振り向くとそこには、ついぞ見たことのない生物たちがいた。
白馬のようにも見えるが額の真ん中に一本角が生えている。皆、こぞって目を血走らせている。
ブルーは知らなかった。自分が今いる場所がエルフハイムの一角だということも、目の前にいる動物たちがユニコーンだということも、ガラスケースの中に入っている少女が人形であり、生身の乙女たちにユニコーンが付きまとわないように配置されている疑似餌であるということも……。
●ドラゴンSOS
「飼ってるドラゴンが行方不明になったって言われてもねえ……そもそも飼っていいものなのかしらってことよ」
ハンターの八橋杏子は見通しの悪い森を仲間と共に、進む。
「脱走対策はしてなかったのかしら?」
「していたけど、風切り羽の伸びが予想以上に早かったそうですよ」
「敵は飛べるからなあ。行動力は人間と比較にならないぞ。おまけにいなくなってもう2日たってるんだろ?」
現在一同は、迷子のドラゴンを捜している。依頼主はとあるお金持ち。9匹の色違いドラゴンを飼っていて、そのうち1匹が逃げたとの由。自由都市同盟内にある本宅から、国境山岳地帯の避暑地に連れてくる最中の出来事だったそうだ。
「しかしでけえ別荘だったよな……」
「軽く運動競技会出来そうでしたよね」
「いいな金持ちは……こちとら庭付き一戸建すら持てないのに……」
「羨むのは止めておきましょう。空しくなるだけです」
ドラゴンは一体どこへ行ってしまったのだろう。こちら方面へ飛んでいくのを見かけたという証言は、この界隈に住む木こり衆から取れているのだが。
心配しながら道なき道を進む。
そのとき、ものすごい叫び声が聞こえた。
ぎゃああああ! ぎゃあおおおおおおお!
バキバキバキバキ木がへし折れる音がする。何事かが起きているのは明らかだ。
ハンターたちは急いで、騒ぎが起きているだろう方向に走りだした。
ぎゃあああおおおんん!
森の中から青いドラゴンが飛び出してきた。
ハンターたちの姿を見るなり駆け寄ってきて、泣くような声を出す。
ごーう、がおーう。
見れば体中が傷だらけ。両翼の翼がきれいにむしられ、まるで丸焼きの鶏みたい。
子供とはいえドラゴンをここまで痛め付ける相手というのは何なのか――その答えは向こうからやってきた。
ドンッ……メキメキメキメキ。
自然破壊をしつつ突進してくるのは純白の体に銀のたてがみの美しき獣。『若く』『美しい』『心の清らな』『処女』をこよなく愛し倒す美しき幻獣、ユニコーン。
それが4匹もいる。フイゴのように鼻息を吹き出し、目は真っ赤に血走り――明らかに激怒しているようだ。
杏子が「げっ」と呻き、しわがれた声を出した。
「……なんであいつらがここにいんの……」
リプレイ本文
●迷子発見!
視界の悪い森の中、泉(ka3737)が自慢の耳をピコピコ動かす。
聞こえる聞こえる。蹄の音と悲鳴が。
目の前に青いちびっこドラゴンが飛び出してくる。
「にゃぁうっ! いたんじゃもっ!」
泉はそれに飛びつき抱きとめた。
そこへ接近してくるのは自然破壊者、4匹の幻獣。
「……う?……おうまさんもいっしょなんじゃもん?」
違う。馬には角など生えていない。そしてああも美しくない。
「ドラゴンを探していたらユニコーンも一緒か……」
(清らな乙女以外の人間が)目にすることすら激レアな幻獣の登場に、ヴァイス(ka0364)の胸筋が打ち震えた。触ってみたくて触ってみたくて、思わず手がわきわき動く。
「あれって物語に出てくるユニコーン?」
ときめきを隠せない天竜寺 詩(ka0396)の隣で、杏子がしゃがれ声を出す。
「……なんであいつらがここにいんの……」
「杏子さん知り合いなの?」
「あーうん」
小宮・千秋(ka6272)は、無邪気に手を挙げ聞いてみた。
「ほいほーい、確かユニコーンさんは清らかな女性の元にいればおとなしくなるんですよねー。逆にそれ以外の方が近付くと傷付けたり殺したりしちゃうほど気性が荒くなっちゃうとの事ですがー、あのお話は本当なのですかー?」
レオナ(ka6158)も追加で質問する。
「私もエルフハイムでそういう噂は聞いていますが……本当ですか?」
不愉快なことを思い出しているのだろう、杏子の眉間に皺が寄る。
「うん事実。付け加えるなら一定年齢以上の相手には露骨に反応薄いから。それが清らな乙女であっても」
「……ああ……そういうアレなの……」
ユニコーンの内実を知り声のトーンが下がる詩。
翻ってディーナ・フェルミ(ka5843)は、幻獣に何の幻想も抱いていなかった。彼女にとってユニコーンは馬の一種でしかない。
「ユニコーンの馬刺しという素敵ワードが脳内を駆け巡るの……鎮まれ私の暗黒面なの」
エーミ・エーテルクラフト(ka2225)はその呟きに、若干心動かされる。
(……思いもよらない発想ね……本当にどんな味がするのかしら)
各自思うところは色々あれど、まずユニコーンの前進を止めなければいけない。
泉はブルーを背後に回し、戦鎚を地に叩きつける。
「よわいものいじめっこするわるいこだれなんじゃもん!? わるいこはメッ!てするんじゃもん!!」
ユニコーンたちが驚き足を止める。
機を逃さずジルボ(ka1732)とヴァイス(ka0364)は、猛獣たちの前に飛び出した。
「よし皆、ブルーの避難頼むぜ!」
「こいつらは俺とヴァイスが引き受ける!」
詩が茨の祈りを発動させ2人を包み込む。続いてレオナが加護の符を張り付ける。さあ、これで備えはバッチリだ。
先手はジルボ。明記するのが遅れたが、彼は今回まるごとぜんら(女性型)を着込んでいる。ユニコーンは乙女に弱い→対象は人形でもいいらしい→なら意外と着ぐるみでも気を引けるんじゃね? という考えをもとにしての備えだ。
千秋は両手をメガホンにし、後方から応援した。
「ジルボさん、頑張ってくださいですー」
おう!と答えかけたジルボは、ふと引っ掛かりを覚える。
(……あれ? そういや千秋はなんであっち側にいるんだ……男だよな……?)
……まあ細かいことは後回しだ。いざ尋常に勝負。
<ジルボはさそうおどりをおどった!>
「うふ~ん♪ ちょっとだけよ~♪」
<ユニコーンたちはげきどした! このしかくにたいするぼうぎゃくをとりのぞかねばならぬとけついした!>
「あっ踊り子にお触りはNっ」
何のためらいもなく心臓目がけ、一本角がズドン。
「ほうぉ!?」
避けるところに背後から別の1匹が、脇腹をすくい上げるようにズドン。レオナが瑞鳥符で適宜支援するも、たちまち尽きるほどの連続攻撃。急所しか狙ってない。
ジルボはヴァイスにいい笑顔を向けた。
「ちょい交替!」
ハイタッチで選手入れ替え。
紅蓮の炎と見まごうオーラを身に纏うヴァイスは、単身ユニコーンの群れに突撃した。
(こんな所で暴走したユニコーンと会えるとはな……落ち着いた状態からわざわざ危険を犯して暴走させ周囲に迷惑を掛けることをしなくていい今この時がチャンス!)
喜びさえ感じながら両手を広げ待ち受け、頭と角を体の脇に反らし受け止め1匹捕獲。撫でまくる。絹のごとき肌触りを堪能する。
「よーしよしよし! よーしよしよし!」
(これがユニコーンの毛並み……俺は今、伝説を体感している!)
ユニコーンは鼻の穴を膨らませた。全身に血管が浮きあがる。察するにものすごく嫌な状態であるらしい。
嘶き蹄を土にめり込ませ、恐るべき力で押さえつけられている首を、バネのごとく跳ね上げる。
ヴァイスは天高く飛んだ。
泉が歓声をあげた。
「すごいんじゃもん! おそらとんでるんじゃもん!!」
ユニコーンの気がそれている間に詩はガクブルしているブルーを自分の近くに呼び寄せ、ディヴァインウィルの障壁を作った。
エーミは声を潜め、ドラゴンに避難を促す。
(こっちよ、今のうちに)
しかし傷だらけのブルーは、その場にうずくまったまま。
ディーナはむしられた翼を優しく撫でてやりながら、話しかける。
「お腹減ったの? ならもう逃げちゃ駄目なの――もふもふ幻獣も大好きだけど、セクハラ処女厨は本気で伝説にしていい気がするの」
その意見には、杏子が激しく同意した。
「同感ね」
レオナは持参してきた餌を取り出し、後込みするドラゴンを力づけようとする。
「怖かったでしょう? 干し肉食べる? 牛乳もあるわよ」
エーミはひとまずアースウォールを立ち上げた。ユニコーンからブルーが見えないようにするための、応急処置である。
●森の乙女?
ジルボは持ち前の平常心をやや失いそうになっていた。気づけばいつの間にかまるごとぜんらの大半が破け失われ、残るは腰巻き部分のみ。
これ以上の攻撃を受けたら何かどころか全てを失う。そう思った彼はヴァイスに助力を求めようと振り向いた。
「すまねえ、ちょっと交替」
しかしヴァイスはもうすでに、血の海に沈んでいた。ユニコーンにどかどか踏まれながらやり切った表情を浮かべ、サムズアップだけを返してくる。そしてがくりと力つきる。
「ヴァイスうううう!」
かくして1人残るジルボに、ユニコーンたちが目を向けた。
「ギャー! 止めろー!」
気高き怒りの波に飲まれるジルボ。
そこに透き通るような歌声が。
「風に靡く銀の鬣 白く輝く雪の肌 力の証の角掲げ その背に乗せるは穢れ無き乙女 其は伝説のユニコーン 治まり給え鎮まり給え 神聖なその名を穢さぬ為に♪」
ユニコーンたちは一斉に、声がした方へ首を向けた。するとおお、そこには光輪を帯びた片翼の天使が胸の前で手を組み、微笑んでいるではないか。
ユニコーンの1匹が高速で天使の足元に滑り込み、お昼寝ポジションを確保。
「うた、だいせいこうなんじゃもん! ボクもいくんじゃもん!」
天使を巡る悶着が起こる前に、泉が登場。1匹の首もとに抱き着き、頬をすりすり。
「だいじょーぶじゃもん。だれもわるいことしないんじゃもん。なかよしするんじゃもんっ♪」
抱き着かれたユニコーンは彼女に頬擦り仕返した。しつこいくらいに。
「おそとはたのしーけど、もりにかえるんじゃもん。きょーはユニコーンのおうちであそぶんじゃもん」
背中に飛び乗りぺちぺち首筋を叩きぽふぽふ撫でても怒らない。むしろ嬉しそうに尾を振ったりしている。
(聞きしに勝る厨ぶりね……)
壁の後ろから様子を確認したエーミは、杏子に囁いた。
「次は私の番ね、誘導は任せたわよ」
「了解」
短く返して杏子は、ブルーをこっそり森の外まで連れて行く。
「いい子ね、お茶しましょ?」
青いエプロンドレスにハイヒール、エルフ族の帽子と言ったいで立ちで現れたエーミに、ユニコーンの1頭がダッシュで馳せ参じる。
さて残りの1頭はというと……ハンドベルを鳴らすレオナが担当。
「ユニコーンさん、こんにちは。よかったらお話ししませんか?」
ユニコーンはゆっくりレオナに近づき、顔を見た。触ってみても――怒らない。一応乙女と認めたようだ。
しかしディーナがぼろ雑巾となったジルボとヴァイスの治療に当たるため出て来た途端、いきなり方向転換。彼女に長い顔をすりすり。ガン無視されてもすりすり。
レオナは笑顔でユニコーンに近づき角を掴み、自分に顔をねじ向けさせた。
「……今の態度の急変はどういうことですの?」
以上の動きを見た千秋は、これならきっと自分が近づいても大丈夫であろうと思った。なにしろ見た目は完璧に少女なのだからして。
とりあえず、エーミが担当したユニコーンに歩み寄る。詳しくは不明だがブルーがああまで追いかけられていたのは、何かしら理由があるはずだ。そこを聞き出し、誤解を解くのがいいだろう。
「ブルーさんの事は大変申し訳御座いませんでしたー。どうか私たちに免じて見逃して頂けませんでしょうかー」
泉に鬣を撫でられたユニコーンは、しばし静かに聞いていた。が、突如くわと目を見開いた。ガバと立ち上がり棹立ちになり、泉に向け前足を叩き降ろそうとする。
どうやら男の娘は彼らの好みに合わなかったようだ。
千秋は脳天に落ちてくる前足を掴み、投げ飛ばした。一応神様とのことなので、傷つけたくはなかったのだ。
しかしディーナはこのアクシデントを、処女厨セクハラ幻獣伝説化の好機と見た。
「角がなくなったらただのセクハラ牡馬なの、もしかしたらそれなら食べちゃっても怒られないかもなの……」
セイクリッドフラッシュを連打し、メイスで殴り、あやうくユニコーンを馬肉にしかけた。
ちなみにそのときブルーは、無事に森の外へ逃げおおせていたのである。
●おかえり迷子
すっかり元気を取り戻したブルーが元通り生えそろった羽をばたつかせ、飛び上がろうとする。
ディーナは幻獣首輪に繋がった手綱を引いて、その動きを制する。
「ブルーちゃん、駄目なの。勝手に飛んで行くとまた、こわーい角馬がいるところに行っちゃうかもしれないの」
脅しは実によく効いた。ブルーは尻尾の先をびーんと立て、即座に地上へ降りてくる。
ハイレグビキニと化したまるごとぜんらの残滓を身につけたジルボは、ハモニカを吹いてやる。歩行移動の気晴らしとして。
「外の世界がおっかねぇのはもう十分分かっただろ? コレに懲りたらご主人から離れない事だな」
そのとき近くを馬車が通った。車を引いて行く白馬の姿を見たブルーは急いで道の脇に寄る。どうやら今回の体験は、彼に深いトラウマを背負わせてしまったようだ。
千秋はブルーの鼻先を撫で、言い聞かせてやった。
「大丈夫ですよー」
ヴァイスもまた、言い聞かせてやる。
「案じることはないあれはただの馬だ。ユニコーンは違う……手触りが至高だ」
その言葉に杏子は、彼がユニコーンと別れる際、この上なく熱い視線を送っていたことを思い出す。
広大な別荘が見えてきた。敷地を囲む鉄柵の向こうで8色のちびっこドラゴンが、仲間が戻ってきたことに感づいて、わいわい騒いでいる。
「わー、きれいに色が一揃いなの! クレヨンみたいなの!」
歓声をあげるディーナを乗せたまま、ブルーはそちらへ駆け寄った。ジルボも駆け寄り、一頭ずつに呼びかけてやる。
「よう、お前達も元気そうだな! レッド、イエロー、オレンジ、インディゴ、グリーン、バイオレット、ホワイト、ブラック!」
ぐおう、がおう。ぎゃおー、がおがお。
賑やかな声を聞き付けて、依頼主である夫婦が屋敷から出てくる。
「まあ、お帰りブルー。心配していたのよ」
と、奥さん。
主人はハンターたちに礼を述べた。
「いや、ありがとうございます。心配していたんですよ。ご飯を食べていないのじゃないか、悪い獣に襲われているのじゃないかと……ところでここには5名しかおられないようですが、他の方は?」
尋ねる彼にジルボは言った。
「ああ、あいつらは他の用事があるんで、遅れて合流します」
「そうですか。で、あなたは何故そんな姿に……」
「言うに言われぬ事情があってな……ブルーのこと、怒らないでやってくれよ。子供ってのは好奇心の塊だからな。散歩コースを増やすなり何なりして、そこんとこ満たしてやってくれると、脱走もしなくなると思うぜ――ところでこいつに肉やっていいか」
「ええ、かまいませんよ」
ジルボから肉を貰えたブルーは大喜びでひと飲みにする。それを見ているとジルボも、なんだか腹が減ってきた。
「あ゛~づがれだ。俺も肉食いてぇな~肉」
「食べて行かれますか?」
「ええ。ちょうどあの子たちの食事時間なので」
見れば庭の一角で、見事なブロック肉が豪快に焼かれている。
奥様が言った。
「ジェオルジの特選AAA黒毛牛です。それが大好きなんですよ、この子たち」
そんな肉、これまでの人生でついぞ食ったことがない。
その事実にジルボは限りない切なさを覚えた。いや、結局ご馳走になったけど。
●お帰りユニコーン
詩、泉、レオナ、エーミ。4人の乙女たちを背に乗せ、ユニコーンはエルフハイムにご帰還。
事の発端である場所に向かえば、壊れたガラスケースの中で眠る美少女人形。泉は思わず目を見張る。
「ユニコーンたちのおとめ! すっごいきれーなんじゃもん!」
幸いガラスケース以外に損傷はなかったので、それだけ直せばよさそうだ。草の上に散らばった造花を入れ直し。ケースの破片も全部拾ってテープで貼り合わせ、応急手当。
「あとでぎょうしゃさんをよんで、ガラス、もっとじょうぶなのにいれかえてあげるんじゃもん」
彼女がその作業をしている間詩は、侵入者が現れてもむやみと襲ったりしないよう、ユニコーンに言い聞かせる。
「あのね、どんな物事にも理由があるの。それを聞かずに一方的に怒るのは立派な男性とは言えないよ」
しかし思えば人形がここに1体しかないのが問題なのかも。そう考えてセーラー服を着せたまるごとぜんらと竹村早苗のポートレートを場に飾っておく。
エーミはユニコーンたちに改めて茶をふるまった後、念入りに言い聞かせた。
「これから乙女と接するときは、まず相手の都合を確かめてくださいね? 時に乙女がお腹を空かせていることもあるのですから」
ユニコーンたちは深く思うところがあるのか、こくこく頷くような仕草をした。
続けてレオナも厳重注意をしておく。
「いいですか、今後うかつに森の外に出てはいけませんよ。今回のように、あなたたちを熱く激しくモフろうとつけ狙い襲ってくる男性もいるのですから」
ユニコーンたちは身震いしてこくこく頷いた。
どうやら彼らも彼らでまた、かなりのトラウマを負ってしまったらしい。
森の乙女たちにとっては、とてもいい傾向なのである。
視界の悪い森の中、泉(ka3737)が自慢の耳をピコピコ動かす。
聞こえる聞こえる。蹄の音と悲鳴が。
目の前に青いちびっこドラゴンが飛び出してくる。
「にゃぁうっ! いたんじゃもっ!」
泉はそれに飛びつき抱きとめた。
そこへ接近してくるのは自然破壊者、4匹の幻獣。
「……う?……おうまさんもいっしょなんじゃもん?」
違う。馬には角など生えていない。そしてああも美しくない。
「ドラゴンを探していたらユニコーンも一緒か……」
(清らな乙女以外の人間が)目にすることすら激レアな幻獣の登場に、ヴァイス(ka0364)の胸筋が打ち震えた。触ってみたくて触ってみたくて、思わず手がわきわき動く。
「あれって物語に出てくるユニコーン?」
ときめきを隠せない天竜寺 詩(ka0396)の隣で、杏子がしゃがれ声を出す。
「……なんであいつらがここにいんの……」
「杏子さん知り合いなの?」
「あーうん」
小宮・千秋(ka6272)は、無邪気に手を挙げ聞いてみた。
「ほいほーい、確かユニコーンさんは清らかな女性の元にいればおとなしくなるんですよねー。逆にそれ以外の方が近付くと傷付けたり殺したりしちゃうほど気性が荒くなっちゃうとの事ですがー、あのお話は本当なのですかー?」
レオナ(ka6158)も追加で質問する。
「私もエルフハイムでそういう噂は聞いていますが……本当ですか?」
不愉快なことを思い出しているのだろう、杏子の眉間に皺が寄る。
「うん事実。付け加えるなら一定年齢以上の相手には露骨に反応薄いから。それが清らな乙女であっても」
「……ああ……そういうアレなの……」
ユニコーンの内実を知り声のトーンが下がる詩。
翻ってディーナ・フェルミ(ka5843)は、幻獣に何の幻想も抱いていなかった。彼女にとってユニコーンは馬の一種でしかない。
「ユニコーンの馬刺しという素敵ワードが脳内を駆け巡るの……鎮まれ私の暗黒面なの」
エーミ・エーテルクラフト(ka2225)はその呟きに、若干心動かされる。
(……思いもよらない発想ね……本当にどんな味がするのかしら)
各自思うところは色々あれど、まずユニコーンの前進を止めなければいけない。
泉はブルーを背後に回し、戦鎚を地に叩きつける。
「よわいものいじめっこするわるいこだれなんじゃもん!? わるいこはメッ!てするんじゃもん!!」
ユニコーンたちが驚き足を止める。
機を逃さずジルボ(ka1732)とヴァイス(ka0364)は、猛獣たちの前に飛び出した。
「よし皆、ブルーの避難頼むぜ!」
「こいつらは俺とヴァイスが引き受ける!」
詩が茨の祈りを発動させ2人を包み込む。続いてレオナが加護の符を張り付ける。さあ、これで備えはバッチリだ。
先手はジルボ。明記するのが遅れたが、彼は今回まるごとぜんら(女性型)を着込んでいる。ユニコーンは乙女に弱い→対象は人形でもいいらしい→なら意外と着ぐるみでも気を引けるんじゃね? という考えをもとにしての備えだ。
千秋は両手をメガホンにし、後方から応援した。
「ジルボさん、頑張ってくださいですー」
おう!と答えかけたジルボは、ふと引っ掛かりを覚える。
(……あれ? そういや千秋はなんであっち側にいるんだ……男だよな……?)
……まあ細かいことは後回しだ。いざ尋常に勝負。
<ジルボはさそうおどりをおどった!>
「うふ~ん♪ ちょっとだけよ~♪」
<ユニコーンたちはげきどした! このしかくにたいするぼうぎゃくをとりのぞかねばならぬとけついした!>
「あっ踊り子にお触りはNっ」
何のためらいもなく心臓目がけ、一本角がズドン。
「ほうぉ!?」
避けるところに背後から別の1匹が、脇腹をすくい上げるようにズドン。レオナが瑞鳥符で適宜支援するも、たちまち尽きるほどの連続攻撃。急所しか狙ってない。
ジルボはヴァイスにいい笑顔を向けた。
「ちょい交替!」
ハイタッチで選手入れ替え。
紅蓮の炎と見まごうオーラを身に纏うヴァイスは、単身ユニコーンの群れに突撃した。
(こんな所で暴走したユニコーンと会えるとはな……落ち着いた状態からわざわざ危険を犯して暴走させ周囲に迷惑を掛けることをしなくていい今この時がチャンス!)
喜びさえ感じながら両手を広げ待ち受け、頭と角を体の脇に反らし受け止め1匹捕獲。撫でまくる。絹のごとき肌触りを堪能する。
「よーしよしよし! よーしよしよし!」
(これがユニコーンの毛並み……俺は今、伝説を体感している!)
ユニコーンは鼻の穴を膨らませた。全身に血管が浮きあがる。察するにものすごく嫌な状態であるらしい。
嘶き蹄を土にめり込ませ、恐るべき力で押さえつけられている首を、バネのごとく跳ね上げる。
ヴァイスは天高く飛んだ。
泉が歓声をあげた。
「すごいんじゃもん! おそらとんでるんじゃもん!!」
ユニコーンの気がそれている間に詩はガクブルしているブルーを自分の近くに呼び寄せ、ディヴァインウィルの障壁を作った。
エーミは声を潜め、ドラゴンに避難を促す。
(こっちよ、今のうちに)
しかし傷だらけのブルーは、その場にうずくまったまま。
ディーナはむしられた翼を優しく撫でてやりながら、話しかける。
「お腹減ったの? ならもう逃げちゃ駄目なの――もふもふ幻獣も大好きだけど、セクハラ処女厨は本気で伝説にしていい気がするの」
その意見には、杏子が激しく同意した。
「同感ね」
レオナは持参してきた餌を取り出し、後込みするドラゴンを力づけようとする。
「怖かったでしょう? 干し肉食べる? 牛乳もあるわよ」
エーミはひとまずアースウォールを立ち上げた。ユニコーンからブルーが見えないようにするための、応急処置である。
●森の乙女?
ジルボは持ち前の平常心をやや失いそうになっていた。気づけばいつの間にかまるごとぜんらの大半が破け失われ、残るは腰巻き部分のみ。
これ以上の攻撃を受けたら何かどころか全てを失う。そう思った彼はヴァイスに助力を求めようと振り向いた。
「すまねえ、ちょっと交替」
しかしヴァイスはもうすでに、血の海に沈んでいた。ユニコーンにどかどか踏まれながらやり切った表情を浮かべ、サムズアップだけを返してくる。そしてがくりと力つきる。
「ヴァイスうううう!」
かくして1人残るジルボに、ユニコーンたちが目を向けた。
「ギャー! 止めろー!」
気高き怒りの波に飲まれるジルボ。
そこに透き通るような歌声が。
「風に靡く銀の鬣 白く輝く雪の肌 力の証の角掲げ その背に乗せるは穢れ無き乙女 其は伝説のユニコーン 治まり給え鎮まり給え 神聖なその名を穢さぬ為に♪」
ユニコーンたちは一斉に、声がした方へ首を向けた。するとおお、そこには光輪を帯びた片翼の天使が胸の前で手を組み、微笑んでいるではないか。
ユニコーンの1匹が高速で天使の足元に滑り込み、お昼寝ポジションを確保。
「うた、だいせいこうなんじゃもん! ボクもいくんじゃもん!」
天使を巡る悶着が起こる前に、泉が登場。1匹の首もとに抱き着き、頬をすりすり。
「だいじょーぶじゃもん。だれもわるいことしないんじゃもん。なかよしするんじゃもんっ♪」
抱き着かれたユニコーンは彼女に頬擦り仕返した。しつこいくらいに。
「おそとはたのしーけど、もりにかえるんじゃもん。きょーはユニコーンのおうちであそぶんじゃもん」
背中に飛び乗りぺちぺち首筋を叩きぽふぽふ撫でても怒らない。むしろ嬉しそうに尾を振ったりしている。
(聞きしに勝る厨ぶりね……)
壁の後ろから様子を確認したエーミは、杏子に囁いた。
「次は私の番ね、誘導は任せたわよ」
「了解」
短く返して杏子は、ブルーをこっそり森の外まで連れて行く。
「いい子ね、お茶しましょ?」
青いエプロンドレスにハイヒール、エルフ族の帽子と言ったいで立ちで現れたエーミに、ユニコーンの1頭がダッシュで馳せ参じる。
さて残りの1頭はというと……ハンドベルを鳴らすレオナが担当。
「ユニコーンさん、こんにちは。よかったらお話ししませんか?」
ユニコーンはゆっくりレオナに近づき、顔を見た。触ってみても――怒らない。一応乙女と認めたようだ。
しかしディーナがぼろ雑巾となったジルボとヴァイスの治療に当たるため出て来た途端、いきなり方向転換。彼女に長い顔をすりすり。ガン無視されてもすりすり。
レオナは笑顔でユニコーンに近づき角を掴み、自分に顔をねじ向けさせた。
「……今の態度の急変はどういうことですの?」
以上の動きを見た千秋は、これならきっと自分が近づいても大丈夫であろうと思った。なにしろ見た目は完璧に少女なのだからして。
とりあえず、エーミが担当したユニコーンに歩み寄る。詳しくは不明だがブルーがああまで追いかけられていたのは、何かしら理由があるはずだ。そこを聞き出し、誤解を解くのがいいだろう。
「ブルーさんの事は大変申し訳御座いませんでしたー。どうか私たちに免じて見逃して頂けませんでしょうかー」
泉に鬣を撫でられたユニコーンは、しばし静かに聞いていた。が、突如くわと目を見開いた。ガバと立ち上がり棹立ちになり、泉に向け前足を叩き降ろそうとする。
どうやら男の娘は彼らの好みに合わなかったようだ。
千秋は脳天に落ちてくる前足を掴み、投げ飛ばした。一応神様とのことなので、傷つけたくはなかったのだ。
しかしディーナはこのアクシデントを、処女厨セクハラ幻獣伝説化の好機と見た。
「角がなくなったらただのセクハラ牡馬なの、もしかしたらそれなら食べちゃっても怒られないかもなの……」
セイクリッドフラッシュを連打し、メイスで殴り、あやうくユニコーンを馬肉にしかけた。
ちなみにそのときブルーは、無事に森の外へ逃げおおせていたのである。
●おかえり迷子
すっかり元気を取り戻したブルーが元通り生えそろった羽をばたつかせ、飛び上がろうとする。
ディーナは幻獣首輪に繋がった手綱を引いて、その動きを制する。
「ブルーちゃん、駄目なの。勝手に飛んで行くとまた、こわーい角馬がいるところに行っちゃうかもしれないの」
脅しは実によく効いた。ブルーは尻尾の先をびーんと立て、即座に地上へ降りてくる。
ハイレグビキニと化したまるごとぜんらの残滓を身につけたジルボは、ハモニカを吹いてやる。歩行移動の気晴らしとして。
「外の世界がおっかねぇのはもう十分分かっただろ? コレに懲りたらご主人から離れない事だな」
そのとき近くを馬車が通った。車を引いて行く白馬の姿を見たブルーは急いで道の脇に寄る。どうやら今回の体験は、彼に深いトラウマを背負わせてしまったようだ。
千秋はブルーの鼻先を撫で、言い聞かせてやった。
「大丈夫ですよー」
ヴァイスもまた、言い聞かせてやる。
「案じることはないあれはただの馬だ。ユニコーンは違う……手触りが至高だ」
その言葉に杏子は、彼がユニコーンと別れる際、この上なく熱い視線を送っていたことを思い出す。
広大な別荘が見えてきた。敷地を囲む鉄柵の向こうで8色のちびっこドラゴンが、仲間が戻ってきたことに感づいて、わいわい騒いでいる。
「わー、きれいに色が一揃いなの! クレヨンみたいなの!」
歓声をあげるディーナを乗せたまま、ブルーはそちらへ駆け寄った。ジルボも駆け寄り、一頭ずつに呼びかけてやる。
「よう、お前達も元気そうだな! レッド、イエロー、オレンジ、インディゴ、グリーン、バイオレット、ホワイト、ブラック!」
ぐおう、がおう。ぎゃおー、がおがお。
賑やかな声を聞き付けて、依頼主である夫婦が屋敷から出てくる。
「まあ、お帰りブルー。心配していたのよ」
と、奥さん。
主人はハンターたちに礼を述べた。
「いや、ありがとうございます。心配していたんですよ。ご飯を食べていないのじゃないか、悪い獣に襲われているのじゃないかと……ところでここには5名しかおられないようですが、他の方は?」
尋ねる彼にジルボは言った。
「ああ、あいつらは他の用事があるんで、遅れて合流します」
「そうですか。で、あなたは何故そんな姿に……」
「言うに言われぬ事情があってな……ブルーのこと、怒らないでやってくれよ。子供ってのは好奇心の塊だからな。散歩コースを増やすなり何なりして、そこんとこ満たしてやってくれると、脱走もしなくなると思うぜ――ところでこいつに肉やっていいか」
「ええ、かまいませんよ」
ジルボから肉を貰えたブルーは大喜びでひと飲みにする。それを見ているとジルボも、なんだか腹が減ってきた。
「あ゛~づがれだ。俺も肉食いてぇな~肉」
「食べて行かれますか?」
「ええ。ちょうどあの子たちの食事時間なので」
見れば庭の一角で、見事なブロック肉が豪快に焼かれている。
奥様が言った。
「ジェオルジの特選AAA黒毛牛です。それが大好きなんですよ、この子たち」
そんな肉、これまでの人生でついぞ食ったことがない。
その事実にジルボは限りない切なさを覚えた。いや、結局ご馳走になったけど。
●お帰りユニコーン
詩、泉、レオナ、エーミ。4人の乙女たちを背に乗せ、ユニコーンはエルフハイムにご帰還。
事の発端である場所に向かえば、壊れたガラスケースの中で眠る美少女人形。泉は思わず目を見張る。
「ユニコーンたちのおとめ! すっごいきれーなんじゃもん!」
幸いガラスケース以外に損傷はなかったので、それだけ直せばよさそうだ。草の上に散らばった造花を入れ直し。ケースの破片も全部拾ってテープで貼り合わせ、応急手当。
「あとでぎょうしゃさんをよんで、ガラス、もっとじょうぶなのにいれかえてあげるんじゃもん」
彼女がその作業をしている間詩は、侵入者が現れてもむやみと襲ったりしないよう、ユニコーンに言い聞かせる。
「あのね、どんな物事にも理由があるの。それを聞かずに一方的に怒るのは立派な男性とは言えないよ」
しかし思えば人形がここに1体しかないのが問題なのかも。そう考えてセーラー服を着せたまるごとぜんらと竹村早苗のポートレートを場に飾っておく。
エーミはユニコーンたちに改めて茶をふるまった後、念入りに言い聞かせた。
「これから乙女と接するときは、まず相手の都合を確かめてくださいね? 時に乙女がお腹を空かせていることもあるのですから」
ユニコーンたちは深く思うところがあるのか、こくこく頷くような仕草をした。
続けてレオナも厳重注意をしておく。
「いいですか、今後うかつに森の外に出てはいけませんよ。今回のように、あなたたちを熱く激しくモフろうとつけ狙い襲ってくる男性もいるのですから」
ユニコーンたちは身震いしてこくこく頷いた。
どうやら彼らも彼らでまた、かなりのトラウマを負ってしまったらしい。
森の乙女たちにとっては、とてもいい傾向なのである。
依頼結果
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マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/08/21 21:39:40 |
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相談卓だよ 天竜寺 詩(ka0396) 人間(リアルブルー)|18才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2017/08/26 23:22:03 |