ゲスト
(ka0000)
黒蜥蜴印のデュミナスたち
マスター:馬車猪

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/08/20 07:30
- 完成日
- 2017/08/28 13:38
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●つまみぐい黒蜥蜴
天が裂けた。
陽光を隠す白い雲が消し飛び、青空に刻まれた亀裂がはっきりと見える。
そんな異常な空の下、全長20メートルのドラゴンとせいぜいCAMの大きさしかないドラゴンが飛んでいた。
『ボス! あんた何に手を出した』
目を血走らせ炎より熱い息を吐くのが20メートル級竜種歪虚。
今にも欠伸をしそうなもう1匹が、災厄の十三魔とも呼ばれるガルドブルムである。
『気づかなかったのか?』
『必死に目を逸らしていたんだよこの蜥蜴野郎!』
最悪の侮辱を吐き出したことにも気づけないほど頭に血が上っている。
空の亀裂が蠢く。
鋭利な刃にも見えるものが亀裂から突き出される。
小さく見えるのは単なる錯覚で、高層ビル並のそれが2匹の竜目がけて直線的に突き込まれた。
小さな精霊たちが砕かれ痕跡すら無くす。
負の力で構成された刃が、直前まで竜がいた場所を空しく行きすぎた。
『チッ、予想以上に温いな』
『どこがだよ!』
『ハンターなら俺が躱しても当ててくるぞ?』
熟練ハンター並の回避術を駆使ししながら2匹が言葉を躱す。
刃と最接近したときでも10メートルは離れていたのに、一度完治した皮膚と鱗が細かくひび割れている。
『休むなら場所考えろ! よりにもよってヴォ』
すくい上げるような刃の一撃。
余波だけで大地に黒い線が引かれ、2匹は左右に分かれて膨大な負の力を躱す。
『傷は治っただろォ?』
『今滅びそうだがな畜生この黒蜥蜴、絶対ぶっ殺』
予兆もなく負の刃が弾けた。
高速かつあまりに巨大な範囲攻撃を回避することはできず、1匹は遠く海のある方向へ、もう1匹はきりもみしながら大地に落ちる。
薄まり消えていく刃の向こうで、キノコ型の土煙が高く立ち上っていた。
●偵察任務
ハンターオフィスに立体の透過ディスプレイが現れる。
風光明媚というには少し趣が足らない、少ししか人の手が入っていない草原が映し出された。
「これが24時間前の映像です。次、8時間前の映像です」
草原が荒野に変わっている。
鳥どころか虫すら見えず、空に至っては微かに傷のようなものすら見える。
「高位強力な歪虚が現れた可能性があります。至急現地に向かい情報収集をお願いします。極めて危険ですので生還を最優先にしてください」
司書パルムが小声で何か言い、それまで説明していた職員がより一層深刻な顔になる。
予告なく映像が切り替わる。
画面の隅には1時間前という赤字のテロップ。
かつて草原だった場所の中央で、魔導型ですらないデュミナスがCAMサイズのスコップで穴を掘っている。
「見ての通り、所属不明のCAMが現地で活動しています。依頼内容は変わりません」
職員の瞳が底光りする。
小さなディスプレイが新たに現れ、サルヴァトーレ・ロッソとハンターズソサエティーからの撃墜許可が表示される。
所属を示すものが何もないので当然だ。
「どうか、お気を付けて」
職員の額に、緊張と恐怖による汗が浮かんでいた。
●黒蜥蜴は土の下
職員が頭を下げる3時間前。
全身を襲う痛みでガルドブルムが目を覚ます。
体が動かない。
守りを固めて不時着した記憶はあるのだが、着地時の衝撃で意識を失っていたらしい。
空気の薄さに耐えて上を見る。
明かりすらない。
周囲が硬いのは土砂の層をぶち抜き岩盤にめり込んだ結果のようだ。
『俺など羽虫ということか』
アレは攻撃ではなかった。
近くを飛ぶ小さなものに向け軽く手(にあたるもの)を振った余波でしかない。
ガルドブルムは、邪魔者とすら認識されていないのだ。
ハンター相手の戦いなら怒りと戦意ではらわたか熱くなるはずだが、超高位の歪虚に対しては平坦な感情しか抱けない。
単なる自然現象に何も感じられない心境に近かった。
竜は器用に肩をすくめ、地上に転がる岩に己の力を裂いて送り込む。
それは徐々に変形し竜がイメージする通りの形になる。
巨大な、スコップを持った、デュミナス。
コミカルですらあるそれが10メートル近い土砂を器用に退け始める。
コピー元が優秀なためか、ガルドブルム製デュミナスの性能はかなり高い。
しかし所詮は乗り手無しのコピーでしかなく、戦闘技術だけでなく戦術にも長けるハンターに勝てるとは全く思えない。
しばらく目を閉じていると、いくつかのCAMが予想外の動きをしているのに気づいた。
『アン? ……ハハッ』
喉が機嫌良く鳴る。
竜の体に気合いがみなぎり、傷ついた鱗と肉が目に見えて再生を開始した。
●ただのデュミナス
目覚めてから1時間で自我が生じた。
スコップを振るうことしかできない同属から離れ、薄い亀裂が入った空を見上げる。
コピー元の性質と歪虚としての性質が衝突している。
使い手をこの場で待つか、生ある者を襲うか、あるいは地面の下の創造主を仕留めて己の力にするか。
己が悩んでいることすら分からず立ち尽くしていると、地平線にハンター達の姿が現れる。
『どちらでも構わんぞ』
スコップが蠢く。
驚いて大きな道具を取り落としてしまう。
スコップは足下の土を取り込んで形を変え、強力な銃器と分厚い盾として再生した。
黒竜を覆う土は未だ分厚い。
歪虚であるデュミナスはコクピットに飢餓感を感じ、縋るように銃と盾に手を伸ばした。
数百メートル向こうから飛んでくる105ミリ弾。
近づけば30ミリの弾幕が立ちふさがり。
分厚い盾と巧みな足捌きが装甲を最大限に活かす。
そんな力を持つ主無きCAMたちが、射程のはるか彼方にいるハンターへ銃口を向けた。
天が裂けた。
陽光を隠す白い雲が消し飛び、青空に刻まれた亀裂がはっきりと見える。
そんな異常な空の下、全長20メートルのドラゴンとせいぜいCAMの大きさしかないドラゴンが飛んでいた。
『ボス! あんた何に手を出した』
目を血走らせ炎より熱い息を吐くのが20メートル級竜種歪虚。
今にも欠伸をしそうなもう1匹が、災厄の十三魔とも呼ばれるガルドブルムである。
『気づかなかったのか?』
『必死に目を逸らしていたんだよこの蜥蜴野郎!』
最悪の侮辱を吐き出したことにも気づけないほど頭に血が上っている。
空の亀裂が蠢く。
鋭利な刃にも見えるものが亀裂から突き出される。
小さく見えるのは単なる錯覚で、高層ビル並のそれが2匹の竜目がけて直線的に突き込まれた。
小さな精霊たちが砕かれ痕跡すら無くす。
負の力で構成された刃が、直前まで竜がいた場所を空しく行きすぎた。
『チッ、予想以上に温いな』
『どこがだよ!』
『ハンターなら俺が躱しても当ててくるぞ?』
熟練ハンター並の回避術を駆使ししながら2匹が言葉を躱す。
刃と最接近したときでも10メートルは離れていたのに、一度完治した皮膚と鱗が細かくひび割れている。
『休むなら場所考えろ! よりにもよってヴォ』
すくい上げるような刃の一撃。
余波だけで大地に黒い線が引かれ、2匹は左右に分かれて膨大な負の力を躱す。
『傷は治っただろォ?』
『今滅びそうだがな畜生この黒蜥蜴、絶対ぶっ殺』
予兆もなく負の刃が弾けた。
高速かつあまりに巨大な範囲攻撃を回避することはできず、1匹は遠く海のある方向へ、もう1匹はきりもみしながら大地に落ちる。
薄まり消えていく刃の向こうで、キノコ型の土煙が高く立ち上っていた。
●偵察任務
ハンターオフィスに立体の透過ディスプレイが現れる。
風光明媚というには少し趣が足らない、少ししか人の手が入っていない草原が映し出された。
「これが24時間前の映像です。次、8時間前の映像です」
草原が荒野に変わっている。
鳥どころか虫すら見えず、空に至っては微かに傷のようなものすら見える。
「高位強力な歪虚が現れた可能性があります。至急現地に向かい情報収集をお願いします。極めて危険ですので生還を最優先にしてください」
司書パルムが小声で何か言い、それまで説明していた職員がより一層深刻な顔になる。
予告なく映像が切り替わる。
画面の隅には1時間前という赤字のテロップ。
かつて草原だった場所の中央で、魔導型ですらないデュミナスがCAMサイズのスコップで穴を掘っている。
「見ての通り、所属不明のCAMが現地で活動しています。依頼内容は変わりません」
職員の瞳が底光りする。
小さなディスプレイが新たに現れ、サルヴァトーレ・ロッソとハンターズソサエティーからの撃墜許可が表示される。
所属を示すものが何もないので当然だ。
「どうか、お気を付けて」
職員の額に、緊張と恐怖による汗が浮かんでいた。
●黒蜥蜴は土の下
職員が頭を下げる3時間前。
全身を襲う痛みでガルドブルムが目を覚ます。
体が動かない。
守りを固めて不時着した記憶はあるのだが、着地時の衝撃で意識を失っていたらしい。
空気の薄さに耐えて上を見る。
明かりすらない。
周囲が硬いのは土砂の層をぶち抜き岩盤にめり込んだ結果のようだ。
『俺など羽虫ということか』
アレは攻撃ではなかった。
近くを飛ぶ小さなものに向け軽く手(にあたるもの)を振った余波でしかない。
ガルドブルムは、邪魔者とすら認識されていないのだ。
ハンター相手の戦いなら怒りと戦意ではらわたか熱くなるはずだが、超高位の歪虚に対しては平坦な感情しか抱けない。
単なる自然現象に何も感じられない心境に近かった。
竜は器用に肩をすくめ、地上に転がる岩に己の力を裂いて送り込む。
それは徐々に変形し竜がイメージする通りの形になる。
巨大な、スコップを持った、デュミナス。
コミカルですらあるそれが10メートル近い土砂を器用に退け始める。
コピー元が優秀なためか、ガルドブルム製デュミナスの性能はかなり高い。
しかし所詮は乗り手無しのコピーでしかなく、戦闘技術だけでなく戦術にも長けるハンターに勝てるとは全く思えない。
しばらく目を閉じていると、いくつかのCAMが予想外の動きをしているのに気づいた。
『アン? ……ハハッ』
喉が機嫌良く鳴る。
竜の体に気合いがみなぎり、傷ついた鱗と肉が目に見えて再生を開始した。
●ただのデュミナス
目覚めてから1時間で自我が生じた。
スコップを振るうことしかできない同属から離れ、薄い亀裂が入った空を見上げる。
コピー元の性質と歪虚としての性質が衝突している。
使い手をこの場で待つか、生ある者を襲うか、あるいは地面の下の創造主を仕留めて己の力にするか。
己が悩んでいることすら分からず立ち尽くしていると、地平線にハンター達の姿が現れる。
『どちらでも構わんぞ』
スコップが蠢く。
驚いて大きな道具を取り落としてしまう。
スコップは足下の土を取り込んで形を変え、強力な銃器と分厚い盾として再生した。
黒竜を覆う土は未だ分厚い。
歪虚であるデュミナスはコクピットに飢餓感を感じ、縋るように銃と盾に手を伸ばした。
数百メートル向こうから飛んでくる105ミリ弾。
近づけば30ミリの弾幕が立ちふさがり。
分厚い盾と巧みな足捌きが装甲を最大限に活かす。
そんな力を持つ主無きCAMたちが、射程のはるか彼方にいるハンターへ銃口を向けた。
リプレイ本文
●敵味方識別
「こちらハンターズソサエティーの龍崎。前方のデュミナス、所属と行動目的を答えろ」
トランシーバーからは雑音しか聞こえない。
ヘッドセットの伝話にも一切反応無し。
魔導型デュミナス【VIRTUE】搭載通信機は途切れ途切れで繋がっているようだが、意味ある反応が返って来ない。
所属不明のCAMは14機。
距離は最短で約500メートル。
いつもならCAMの中に歪虚がいるかどうか程度、龍崎・カズマ(ka0178)の五感で簡単に判別できる。
ただ、地下にある大きな気配が邪魔過ぎる。
「十中八九歪虚だろうがな」
各国とサルバトーレ・ロッソのいずれにも届け出がないCAM部隊である。
つまり、所属を伏せている部隊の可能性がわずかとはいえある。
万一に備えて証拠積み上げておく必要があった。
30秒が経過する。
コクピットを凍てつくような殺気が満たし、しかしカズマの口元は数十秒前と同じだった。
「返答がない場合は攻撃する」
歩行は続けているため彼我の距離が縮まっていく。
敵の前衛8機のうち4機が105ミリの筒先を微かに動かし、【VIRTUE】が射程に入った時点で攻撃を開始した。
カズマは失望も怒りも感じない。
予想通りの展開に対し予定通りの回避機動を行い、12時と4時の咆哮からの砲撃を避けるために踊る。
2発が空しく頭上を通り過ぎる。
残る2発が、【VIRTUE】の胸部と右肩部分に命中してコクピットをわずかに揺らした。
装甲小破未満。全兵装正常稼働中。戦闘続行に問題なし。
HMDの表示を読み取るのと平行して攻撃指示と次の回避行動を完了させる。
砲弾が、カノン砲「スフィーダ99」に小さな揺れを残して極緩い放物線を描き、105mmスナイパーライフル発砲直後のデュミナスへの直撃コースにのる。
デュミナスのCAM用シールドが間に合い分厚い装甲によって防がれる。
しかし【VIRTUE】とは違って本体装甲があまり厚くは無く、スナイパーライフル装備機が後退して僚機との距離が離れた。
「戦士ですらないな」
機体の性能に頼っているだけで連携はばらばら。
攻撃に耐えて敵の最も脆い箇所を狙うという、戦士として最低限の胆力もない。
「行け、しばらく引きつける」
CAMと比べると小さな機体と幻獣が、足止めのための弾幕の無い大地を素晴らしい勢いで駆け抜けていった。
●エースまで後何機
直径30ミリの鉄塊が6つ、回転しながらこちらに向かって来る。
小規模な攻城部隊に匹敵する攻撃力だ。
そして、ハンター向けに調整されたCAMにとっては物足りない攻撃力でしかない。
「こちらの呼びかけに反応なし、ですか……」
緊急事態に備え、スティックとペダルに触れる四肢から適度に力を抜く。
サクラ・エルフリード(ka2598)が比喩でなく人間離れた速度で弾道予測と回避進路の選択を完遂。
脳波を読み取った魔導型デュミナスが、サクラの回避と防御の技をある程度ではあるが再現して見せた。
シールドが少々凹んで機体にダメージもある。
もっともその程度、分厚い装甲と手厚い冗長性を持つサクラ機にとっては単なるかすり傷だ。
「敵と認識してよさそうですね……。奥のは何を掘り出そうとしているやら……」
奥に展開した軽そうな6機のCAMは、ハンターの接近に気づいて戸惑いスコップの動きを止めている。
白兵戦であれば頑丈さを活かして強力な障害にもなっただろうに、今は何の役にも立っていない。
「向かってくるなら迎撃するまでです……。偽物には負けませんよ……」
己の考えをまとめるために口に出し、機体のコンピューターを限界まで使い切り敵の動きを分析する。
CAM基準で細く短い火器が火を噴き、突き出されたCAMシールドを掠めてからデュミナスの脇腹を突き破る。
血も流れず悲鳴も上がらない。
割れた装甲の下から腐りかけのオイルが滲み、緑の剥げた土に零れて大地を汚す。
「硬くは無い。頑丈」
デュミナスがつんのめる。
サクラ機も前進していたため距離を計るのに失敗。
30mmアサルトライフルの使用を諦めシールドもろともぶつかろうとした。
8メートルに達するデュミナスと比べると頼りないほど小さく見える刃が、弾幕にも耐える装甲を豆腐の如く切り裂いた。
骨格に当たる部分まで断たれて全身のバランスが崩れかける。
「歪虚の感触は歪虚1割、未満? ガルドブルムも手足として使っていましたが、いやまさか、そんな事は」
リリティア・オルベール(ka3054)は残心しつつ困惑する。
敵の意図が分からない。
この程度の能力では足止め役もこなせない。
さすがに自然発生ではないだろうし、空に見える不気味な亀裂と関係があるのだろうか。
頭上からトン単位のストンピング。
リリティアは動きの起こりから完全に読み切り、散歩の速度で位置をずらして空振りさせる。
「ああ、これでも敵意を向けているつもりなんですね。成程」
デュミナスの意思が散漫過ぎて敵とすら思えない。
神斬を構え直して初めて本気で敵を見る。
巨体の動きが一瞬止まり、センサーが恐怖に震えるかのように熱を持つ。
「ではこちらも、分かりやすくお返事いたしましょうか!」
両足を斬り飛ばす。落ちてくる上半身に足し、動力部分があると予測できる2箇所を刺し貫く。
センサー周辺の熱が消え装甲も骨格部分も全て砂に戻って地面に広がった。
「そこならもう近接攻撃の射程内です……」
突き抜けた攻撃力を見てもサクラ機の動きに乱れは無い。
人間用突撃槍を手槍の如く扱い、僚機を潰され動揺するデュミナスの脇腹に突き込みコクピット部分を貫く。
嫌な手応えを覚悟していたのに感触自体が無い。
「自律行動? パーツが揃った歪虚CAM?」
予測はいくつか立つが今やることは1つ。
敵の排除だ。
「これをタダの槍だと思わないでください……」
魔導型デュミナスの腕力に耐えるだけでなく、歪虚製CAMの装甲を貫通する威力を持つ強力なだ。
敵が精神的再建を果たした時には既に遅く、中破と大破の中間まで破壊されて片膝をつく。
サクラの瞳に強い光が差し込む。
センサとHMDの間で光の量が減らされているとはいえ、強烈な西日は目が痛いほどだ。
既に空の一部は暗い。
北の地下にある何かを調査するのなら1分でも速く敵CAMを排除しなければならない。
サクラ機が前に進む。
切れ目無く銃撃を行い敵超射程機との距離を詰める。
敵2機の装備は射程の分近くが狙い難いスナイパーライフルと防御用の盾のみ。
近づくのはリリティアが恐ろしすぎ、距離をとって戦おうと後ろに向き直り走り出す。
そこにサクラ機の銃撃が集中する。
あの斬撃ほどの威力はなくても十分に強力で、盾に守られていない背後に10近くの穴を開ける。
まだ無事な1機が半壊機を盾にしようとする。
逃げるための最短距離を選ばないということであり、徒歩とは信じづらい速度のリリティアにあっという間に追いつかれた。
「無防備に前に出てくるなら、ね」
デュミナスの頭部に手裏剣を当ててチェイシングスロー。
ハンターの重装甲機と比べると無いも当然の装甲を近づいて切り裂き、20秒もかからず機能を停止させる。
「後は」
生き残りのデュミナスを弾丸で削り槍で止めを刺す。
サクラはノルマ分のスコアを稼ぎ、次の展開に備えて準備を開始した。
●デュミナス
オファニム【アイゼン】の2対4眼のセンサーが力強い光を放つ。
魔導型内燃機関から引き出されたエネルギーが過不足無く四肢へ供給され、CAMとしては異様とすらいえる早さで敵へ迫る。
「予想通りに歪虚製のCAMですね」
敵は装備の異なるノーマルのデュミナスが2機。
歪虚によりコピーされたというのは恐ろしい事実ではあるものの、各種能力を伸ばす改造もハンターの能力を活かす改装も行われていないので邪魔ではあっても脅威では無い。
「しかもこのようなことが出来るのは高位強力な歪虚。下手に触ると火傷程度では済みそうもありませんな」
米本 剛(ka0320)がスコップデュミナスが掘る地面に視線を向け、空高くにある亀裂を一瞥して眉間に皺を寄せる。
そんな状態でも前から飛んでくる105ミリ弾は全く当たらない。
剛の操作と意思に【アイゼン】が鋭敏に反応し、容易く避けては敵CAMとの距離を0に近づける。
「兎も角、こうなった原因等を調べ敵脅威を排除せねばなりませんね」
地下の気配も上空の亀裂も放置するには問題が大き過ぎる。
まずは近くの障害を排除するため、剛は【アイゼン】の速度を落としてガトリングガンを構えさせた。
スナイパーライフル装備機が焦って命中率を落とす。
もう1機が【アイゼン】を射程内に入れようとアサルトライフル片手に必死に駆ける。
引き金を引く。
スナイパーライフルの10倍、アサルトライフルの3倍以上の頻度で弾が打ちだされ先頭の1機に向かう。
弱い気配の割にはよく躱す。
4割ほど躱すだけなく、厚いシールドを有効活用し【アイゼン】から受ける被害を押さえ込む。
「3割削って残り7割。未改造機でもこれだけ耐えますか」
絶対に勝てるという確信はあるがこのままでは決着前に日没が訪れ成果も中途半端になるかもしれない。
その懸念は空振りする。
敵機がアサルトライフルを構える前に攻撃的なマテリアルが直撃、動力部分から黒い煙が噴出した。
R7エクスシアがマテリアルライフルからランスカノンに持ち替える。
圧倒的な回避能力を誇る【アイゼン】より与しやすい敵とでも思ったのだろう。
敵機が【アイゼン】からじりじり離れつつヴァルナ=エリゴス(ka2651)機にアサルトライフルを向けた。
「劣化がないデュミナスの複製ですか。かつての歪虚CAMより強い可能性はありますが」
スラスターに火を入れる。
小刻みに進路を変えつつ敵機との距離を縮めていき、そもそも当たらない30ミリ弾もスラスター抜きなら当たるはずだった30ミリ弾も全て避けて退路を断つ位置に着地する。
ランスカノンを両手で構え、どうやっても避けられないタイミングで敵機めがけて突き込んだ。
アサルトライフルが捨てられ分厚いシールドが掲げられる。
全長が5メートルあろうがシールドを破壊するほどの威力は無く、ノーマルデュミナスはまだまだ戦えるはずだった。
「判断が甘いこと」
R7の全間接部を制御した上で、ランスカノンに己のマテリアルを注ぐ。
攻めの構えからの攻撃動作の加速。
先端部の当たったシールドが凹む。ランスカノンは止まらず敵機の指をスクラップにしてそのまま正面装甲にめり込ませた。
「足止めのつもりでしょうか」
デュミナスがアサルトライフルを拾おうとしゃがみ込む。
R7が容赦なくランスカノンを振り下ろして今度は上腕を砕く。
見た目以上に頑強なCAMは戦闘力を失わずシールドも取り落とさない。
しかし主力武器を取り戻すことは出来ず、R7の猛攻に一方的な防戦を強いられた。
「いえ」
あの黒蜥蜴、物事を深く考えているようには思えない。
このCAM型の歪虚も、思いつきで造ってたまたま上手に出来ただけなのかもしれない。
「いずれにせよやることは同じですね」
何度目になるか分からない突きで貫く。
コクピットを貫かれた状態で何度もデュミナスが足掻き、ついには力尽きて単なる土砂と化し大地に広がった。
連続していたガトリング砲とスナイパーライフルの砲声が止まる。
デュミナスが背中から倒れ、衝撃に耐えきれずに数十のパーツに砕けて雑に散らばった。
「次が本番です」
【アイゼン】が再装填を行い東へ向く。
敵の数が減ったため、地下にある危険の大きさがこれ以上無くはっきりと感じられた。
●デュミナス部隊
機体と得物のスラスターを順番に吹かし、R7エクスシア【清廉号】がスナイパーライフルの攻撃範囲の内側に入った。
コクピット内。引き締まった表情のロニ・カルディス(ka0551)が目に強い光を浮かべている。
「何の交信もなく得物をこちらに向けているんだ」
【清廉号】が回避行動の途中でマテリアルを円錐形に固める。
進路上にドリルを置かれた30ミリ弾が、頭から中程まで抉られ威力を失った。
「敵か、そうでなくても撃たれて文句は言えないな」
朱色のマテリアルライフルを敵機へ向ける。
敵機体の動きは悪くなく、回避と防御と攻撃が無理なく連なっている。
「範囲攻撃を避ける程度の知恵はあるか」
敵機と敵機の距離は10メートル以上。
今の手札でまとめて攻撃するのは難しい。
「通してもらうぞ」
重く響く声にマテリアルを乗せる。
強力な歪虚には効き辛い……少なくともこの敵機ほど強ければまず効かないはずの響きが装甲をすり抜け、敵機の操縦を大いに乱す。
「弱い歪虚とマテリアル対策が不十分なデュミナスの組み合わせか?」
「お先にー」
魔導アーマー「プラヴァー」の小柄な体が、デュミナスとR7の間をすり抜けた。
異様な気配が漂う地面の上、単に大きいだけのスコップを振るう6機のデュミナスの元へ到着した。
「えぇー」
アームに装備した重機関銃を所在なさげに揺らす。
器用に百面相をするイェジド【スカー】の向こうで、黒の夢(ka0187)がデュミナスに混じって土を掘っていた。
「いいの?」
私に聞くな。
いつでも主を助けにいける位置を保ちながら【スカー】が疲れた息を吐く。
黒の夢が、小さな油圧ショベルに匹敵する量の土を一息で掘る。
その旅に周囲の砂と土が穴に落ちるが掘る速度の方が圧倒的に速い。
「ダーリンの気配がする。こっち?」
十分に硬いはずのスコップの先が変形して異音を発生させる。
黒の夢は平然とした顔で、スコップの向きを変えつつ土をどける。
治癒の痕がはっきり残る何かの尻尾の先が、穴の底から小さく生えていた。
「ダーリン、砂風呂は口元ちゃんと出すのよー?」
一度エレメンタルコールを使ってみると精霊に仲介を拒否される。
もう少し掘ろうとしたとき、いつの間にかスコップデュミナスの動きが止まっていたのに気づいた。
リチェルカ・ディーオ(ka1760)が無言で手を振る。
【スカー】が滑るように主の元へ向かい、黒の夢が心底残念そうにスコップを下ろして【スカー】の背に腰掛けた。
「あの角度だと無理な姿勢で深くまで埋まっているよね。ガルドさーん、もしかしてまたなにかやってしまったのかなー?」
たとえば部下に狙われるほど弱くなってしまったとか。
リチェルカが疑問を口にするのと、デュミナスが高位歪虚の血肉を得ようとスコップを大ぶりするのはだいたい同じタイミングであった。
「何があったか教えてくれないと皆の前でぺろぺろしちゃうのなっ」
黒の夢はただのデュミナスを意識してすらいない。
愛撫の前準備であるかのようにマテリアルに形を与え、生じた翼の幻影が重力の方向を狂わせる。
デュミナスが内側から歪む。
装甲が割れ破片が飛び散り、変形した骨格が機体のあちこちから突き出される。
余波は地面にもおよび、尻尾を含む空間に大きな凹みが出来た。
「ガルドさんの上に蓋してない?」
「ダーリンは健康優良児なのね」
『……れが……』
「ほら」
2体分のパーツが地面に落ちて土に変わって穴を埋める。
残る4体のうち3体は崩壊寸前だ。奇跡的に重力異常から逃れた1体がスコップを杖の如く扱い逃走を始めていた。
「ガルドさんとのいちゃいちゃは任せるよ。後片付けしとくねー」
すぐに敵に襲いかかりはしない。
プラヴァーは良い機体だが幻獣のような圧倒的回避能力はないし、そもそも敵とは射程が違う。
「頑丈さもちょっと不安なんだよね」
尻尾から十分離れた後引き金を引く。
逃走デュミナスが身軽だ。
大量の銃弾が背に当たりかけてかなりの頻度で外れる。
それでも穴の数は増えてダメージも積み重なり、己の生存を絶望視したデュミナスがスコップを構えて振り返る。
「このくらいなら問題ないんだけど」
必要がないので真正面からは向き合わない。
十分距離をとってからまた攻撃。
少し離れた場所で再度の重力異常が発生。
範囲内のデュミナスが1つ残さず粉砕されて粉塵が舞っていた。
「む」
【清廉号】を横跳びさせ30ミリ弾を躱し、本体からのエネルギー供給でマテリアルライフルを再装填させ、その上で【清廉号】を通してマテリアルを振るう。
威力の籠もった弾がノーマルデュミナスの腹部へ命中。
命中箇所だけでなく各関節から小さな火花が散った。
「今、何か」
今度はマテリアルライフルで遠方へ。
黒の夢から逃れようとした死にかけデュミナスが1体、コクピットから腰部にかけてを砕かれその場に崩れ落ちた。
「こちら龍崎。敵味方の動きに変化があった」
「そこから何か見えるか。いや」
ロニが視覚以外の五感に意識を集中。
反撃しようとしたデュミナスがシールドを雑に使って無防備な上半身をさらし、そこへ4発の20ミリ弾がめり込み胸から上下に二分される。
「下の気配が動き出している」
「了解。攻撃開始と撤退の判断はそちらに任せる」
遠く離れた場所で【VIRTUE】が長射程カノン砲に持ち替え、至近距離であるかのようにスナイパーライフル機に砲弾を当て、砕き、何もさせずに射撃だけで止めを刺す。
ロニは一言分かったと答え、強烈な気配の元へ【清廉号】を向かわせた。
尻尾が引っ込んだ。
硬く重い物が無理矢理こじ開けられひび割れる音が大地を通して伝わってくる。
大量の土を貫く武器は手持ちにない。
黒の夢の広範囲破壊術でも効率が悪すぎる。
リリティアの持つ剣でも、威力は足りても長さが全く足り無い。
「やるか」
CAMサイズのスコップを回収し【清廉号】に構えさせる。
表面は崩れかけているが芯の部分はまだ健在だ。
2、3メートル掘るまでならなんとかもつだろう。
「警戒はお願いー。ショベルアーム起動ー」
リチェルカが戻って来て土木作業に参加する。
元々作業用としても開発された「エヴロスト」が実に使い易い。
いつの間にか尻尾が引っ込んだ場所を目に見える速度で凹ませていく。
「日が暮れる」
太陽は半ば隠れて闘争に向かない時刻が迫っている。
ヴァルナは外部スピーカーに回すエネルギーをぎりぎりまで高めてから呼びかけた。
「ガルドブルム、いくつか聞きたいことがあります。話が終わればこちらからは手を出しません。互いに万全でない状態で戦うのは不服でしょう?」
『こ……美味……』
大量の土砂が邪魔で聞き取れない。
既にすっかりやる気になっているのは分かる。
「相変わらず妙な事を。歪虚って埋まると回復するんですか?」
岩同然に硬くなった土砂を、神斬でさくさく刺しながらリリティアがぷんすこする。
「大体何なんですかあの空の傷は! この土地だって、貴方が来るだけでここまで荒れ果てはしないでしょう!」
ぷす。
分厚く滑らかな竜鱗を、2枚纏めて貫いた感触があった。
「むむむ」
リリティアと推定黒竜とのいちゃつきに、黒の夢が可愛らしい嫉妬を表に出す。
ただし吐息は爆撃じみた破壊力を秘め、今にも爆炎が溢れて土砂どころか岩盤まで破壊してしまいそうだ。
いつの間にかリチェルカの姿が遠くにあり、地対空戦闘の準備をすっかり整えていた。
『骨まで舐め削られそうだなァ!』
強固なはずの地面が波打つ。
非常識な圧力が加えられて荒海のように揺れ、砕け、弾け、逆流する土砂の向こうに爛々と輝く竜の瞳が見えた。
「自制心がないのも相変わらずですか。成長のない」
土砂の突風に揺れるR7の中、ヴァルナは淡々と行動指示を済ます。
CAM用錬機剣からマテリアルの刃が伸びる。
土砂の流れをものともせずに、上昇中のガルドブルムの足から腹にかけて見事に突き刺した。
「体調な万全のようですね」
痛手を与えた感触はあってもあまり効いている気がしない。
どこかで骨休みして回復したのだとしても、回復の具合が良すぎる気がする。
「湯治しにいけばと言ったはずなのに」
優れた五感と有り余る命中精度で手裏剣を当て、チェイシングスローで近づき2連撃。
岩と土で半ば埋まった場所では黒竜も本来の回避が出来ず、背中と脇の2カ所を大きく抉られる。
「湯どころか土に漬かっているとはどういう事ですか」
『水じゃ足り無いンでな』
「あっ。まさかこの馬鹿蜥蜴、超高位の歪虚の餌場に手を出しましたね!」
2度目の連撃はガルドブルムが空に上がることで空振る。
負の力に満ちている癖に生き生きし過ぎた赤い血が、刃を伝わりリリティアのガントレットを赤く染める。
『お前等になら蜥蜴呼ばわりされても反論できねェなァ!』
「余裕ぶるのもいい加減にしなさいこのお馬鹿」
手が届かぬ空をみつめるリリティア。
涎を垂らす直前の顔で下を見上げるガルドブルム。
求めているのは肉でも血でも無く、戦いだ。
光が弾けた。
夕日よりもなお赤いブレスが地上にぶつかり渦を巻き、緑無き大地を焼き尽くそうと円の形で広がっていく。
「野郎、自覚のある戦闘狂か」
戦場の中心に【VIRTUE】を突っ込ませる。
機体表面が焼けるのを無視して対空射撃。
黒竜は格好などつけぬ無様とすらいえる動きで回避してみせる。
「空にある裂け目さー、アレってなーにー? ガルドさんがアレつくったのー?」
【VIRTUE】を盾にさせてもらって難を逃れたリチェルカが、援護射撃のついでに疑問を飛ばす。
土と岩から解放された黒竜の動きは非常に軽快で、しかし強力ブレスの疲労が残っているようで攻撃には移れない。
「もしかして裂け目からなにか出てきたのー? あの空の裂け目、向こう側からなんか嫌な感じがするよー」
『知らん。俺は目についた餌を掠めとっだけだ』
「ガルドさん大丈夫? 主に頭」
双方殺す気しかないのに妙になごやかだ。
黒竜はクハッと機嫌良く笑う。
喉の奥から、最初を上回る炎がせりあがる。
「自分が囮になります。余力がある方は反撃に備えてください」
【アイゼン】が銃1挺を手に空を見上げる。
自己犠牲でも妄想に逃げ込んでいる訳でもなく、負けない確信を持って【アイゼン】越しに米本が見上げる。
ガルドブルムの返答はこれまでで最高のブレスだ。
生木も一瞬で炭に変える熱が、回避困難な速度と広がりを以て黒の紅のオファニムに迫る。
米本が一度だけ操縦桿を倒す。
壁の如き炎の、コンマ数秒間隔で生じる薄い箇所を平然と通り抜けて黒蜥蜴に鉄の雨を降らせる。
ブレスを躱しブレスの間合いで反撃するCAMを見て、ガルドブルムが驚愕と歓喜に目を輝かせた。
「これを躱しますか」
「ちょっと待って。亀裂が元、にぃっ!?」
時空が捻れて亀裂が消えた。
正確には正常に近づいたというべきなのだろうが、数キロの距離があるとはいえ近くで影響を受けた者達は堪らない。
ロニが眉間に皺を寄せる。
これまでいくら引き金を引いても当たらなかった弾が、半々程度の確率で当たるようになっている。
理由は分からなくてもチャンスであることは明白だ。
リロードキャストを使い尽くした後はマテリアルカートリッジも使って対空射撃を継続する。
「具合が悪いの?」
『今近づくとお前に食われるくらいにはな』
飛行のコストが増えていた。
費やすエネルギーを跳ね上げないなら動きの精度を落とすしか無く、落とした状態では黒の夢の爆撃連打に耐えられない。
地上に降りて足も使えばいつも通りに戦える。
しかしそのときはリリティアの刃の間合いに入ることになり勝率は大きく下がるだろう。
「あら残念、またハグやキスはおあずけ?」
『応。みっともなく逃げることにするさ』
消えかけの夕日とブレスの残照に照らされ黒い鱗が艶々と輝く。
「次はもっと縛りプレイをしてくれていいよー」
『馬鹿を言え。強敵相手に手を抜く阿呆がどこにいる』
「私の頭の上?」
彼女達以外が口にしていたなら、黒竜は己のマテリアルを半減させてでも土地ごと焼き尽くしていたはずだ。
実際にはにやりと笑い、見事に気配を消して夜闇の中へ消えて行く。
数秒前まで肌がひりつくほど満ちていた戦場の熱が、最初からなかったかのように消え去った。
「かの方が王国の諺にもなる程の脅威なのですね、相対……とは言い難いが参加した価値はあったのでしょうな」
米本は改めて戦い抜く覚悟を決める。
最後の瞬間竜眼がじっと彼を見ていたのは、気のせいでも自意識可能でもなかった。
帰還後にロニが提出した報告書を見てハンターズソサエティーに騒ぎが起こる。
地形が変容するダメージを受けてまだ生きている黒蜥蜴って、予想よりすごく強くないだろうか。
頭を抱える職員とは逆に、ハンターは次も勝つつもりで準備を進めていた。
「こちらハンターズソサエティーの龍崎。前方のデュミナス、所属と行動目的を答えろ」
トランシーバーからは雑音しか聞こえない。
ヘッドセットの伝話にも一切反応無し。
魔導型デュミナス【VIRTUE】搭載通信機は途切れ途切れで繋がっているようだが、意味ある反応が返って来ない。
所属不明のCAMは14機。
距離は最短で約500メートル。
いつもならCAMの中に歪虚がいるかどうか程度、龍崎・カズマ(ka0178)の五感で簡単に判別できる。
ただ、地下にある大きな気配が邪魔過ぎる。
「十中八九歪虚だろうがな」
各国とサルバトーレ・ロッソのいずれにも届け出がないCAM部隊である。
つまり、所属を伏せている部隊の可能性がわずかとはいえある。
万一に備えて証拠積み上げておく必要があった。
30秒が経過する。
コクピットを凍てつくような殺気が満たし、しかしカズマの口元は数十秒前と同じだった。
「返答がない場合は攻撃する」
歩行は続けているため彼我の距離が縮まっていく。
敵の前衛8機のうち4機が105ミリの筒先を微かに動かし、【VIRTUE】が射程に入った時点で攻撃を開始した。
カズマは失望も怒りも感じない。
予想通りの展開に対し予定通りの回避機動を行い、12時と4時の咆哮からの砲撃を避けるために踊る。
2発が空しく頭上を通り過ぎる。
残る2発が、【VIRTUE】の胸部と右肩部分に命中してコクピットをわずかに揺らした。
装甲小破未満。全兵装正常稼働中。戦闘続行に問題なし。
HMDの表示を読み取るのと平行して攻撃指示と次の回避行動を完了させる。
砲弾が、カノン砲「スフィーダ99」に小さな揺れを残して極緩い放物線を描き、105mmスナイパーライフル発砲直後のデュミナスへの直撃コースにのる。
デュミナスのCAM用シールドが間に合い分厚い装甲によって防がれる。
しかし【VIRTUE】とは違って本体装甲があまり厚くは無く、スナイパーライフル装備機が後退して僚機との距離が離れた。
「戦士ですらないな」
機体の性能に頼っているだけで連携はばらばら。
攻撃に耐えて敵の最も脆い箇所を狙うという、戦士として最低限の胆力もない。
「行け、しばらく引きつける」
CAMと比べると小さな機体と幻獣が、足止めのための弾幕の無い大地を素晴らしい勢いで駆け抜けていった。
●エースまで後何機
直径30ミリの鉄塊が6つ、回転しながらこちらに向かって来る。
小規模な攻城部隊に匹敵する攻撃力だ。
そして、ハンター向けに調整されたCAMにとっては物足りない攻撃力でしかない。
「こちらの呼びかけに反応なし、ですか……」
緊急事態に備え、スティックとペダルに触れる四肢から適度に力を抜く。
サクラ・エルフリード(ka2598)が比喩でなく人間離れた速度で弾道予測と回避進路の選択を完遂。
脳波を読み取った魔導型デュミナスが、サクラの回避と防御の技をある程度ではあるが再現して見せた。
シールドが少々凹んで機体にダメージもある。
もっともその程度、分厚い装甲と手厚い冗長性を持つサクラ機にとっては単なるかすり傷だ。
「敵と認識してよさそうですね……。奥のは何を掘り出そうとしているやら……」
奥に展開した軽そうな6機のCAMは、ハンターの接近に気づいて戸惑いスコップの動きを止めている。
白兵戦であれば頑丈さを活かして強力な障害にもなっただろうに、今は何の役にも立っていない。
「向かってくるなら迎撃するまでです……。偽物には負けませんよ……」
己の考えをまとめるために口に出し、機体のコンピューターを限界まで使い切り敵の動きを分析する。
CAM基準で細く短い火器が火を噴き、突き出されたCAMシールドを掠めてからデュミナスの脇腹を突き破る。
血も流れず悲鳴も上がらない。
割れた装甲の下から腐りかけのオイルが滲み、緑の剥げた土に零れて大地を汚す。
「硬くは無い。頑丈」
デュミナスがつんのめる。
サクラ機も前進していたため距離を計るのに失敗。
30mmアサルトライフルの使用を諦めシールドもろともぶつかろうとした。
8メートルに達するデュミナスと比べると頼りないほど小さく見える刃が、弾幕にも耐える装甲を豆腐の如く切り裂いた。
骨格に当たる部分まで断たれて全身のバランスが崩れかける。
「歪虚の感触は歪虚1割、未満? ガルドブルムも手足として使っていましたが、いやまさか、そんな事は」
リリティア・オルベール(ka3054)は残心しつつ困惑する。
敵の意図が分からない。
この程度の能力では足止め役もこなせない。
さすがに自然発生ではないだろうし、空に見える不気味な亀裂と関係があるのだろうか。
頭上からトン単位のストンピング。
リリティアは動きの起こりから完全に読み切り、散歩の速度で位置をずらして空振りさせる。
「ああ、これでも敵意を向けているつもりなんですね。成程」
デュミナスの意思が散漫過ぎて敵とすら思えない。
神斬を構え直して初めて本気で敵を見る。
巨体の動きが一瞬止まり、センサーが恐怖に震えるかのように熱を持つ。
「ではこちらも、分かりやすくお返事いたしましょうか!」
両足を斬り飛ばす。落ちてくる上半身に足し、動力部分があると予測できる2箇所を刺し貫く。
センサー周辺の熱が消え装甲も骨格部分も全て砂に戻って地面に広がった。
「そこならもう近接攻撃の射程内です……」
突き抜けた攻撃力を見てもサクラ機の動きに乱れは無い。
人間用突撃槍を手槍の如く扱い、僚機を潰され動揺するデュミナスの脇腹に突き込みコクピット部分を貫く。
嫌な手応えを覚悟していたのに感触自体が無い。
「自律行動? パーツが揃った歪虚CAM?」
予測はいくつか立つが今やることは1つ。
敵の排除だ。
「これをタダの槍だと思わないでください……」
魔導型デュミナスの腕力に耐えるだけでなく、歪虚製CAMの装甲を貫通する威力を持つ強力なだ。
敵が精神的再建を果たした時には既に遅く、中破と大破の中間まで破壊されて片膝をつく。
サクラの瞳に強い光が差し込む。
センサとHMDの間で光の量が減らされているとはいえ、強烈な西日は目が痛いほどだ。
既に空の一部は暗い。
北の地下にある何かを調査するのなら1分でも速く敵CAMを排除しなければならない。
サクラ機が前に進む。
切れ目無く銃撃を行い敵超射程機との距離を詰める。
敵2機の装備は射程の分近くが狙い難いスナイパーライフルと防御用の盾のみ。
近づくのはリリティアが恐ろしすぎ、距離をとって戦おうと後ろに向き直り走り出す。
そこにサクラ機の銃撃が集中する。
あの斬撃ほどの威力はなくても十分に強力で、盾に守られていない背後に10近くの穴を開ける。
まだ無事な1機が半壊機を盾にしようとする。
逃げるための最短距離を選ばないということであり、徒歩とは信じづらい速度のリリティアにあっという間に追いつかれた。
「無防備に前に出てくるなら、ね」
デュミナスの頭部に手裏剣を当ててチェイシングスロー。
ハンターの重装甲機と比べると無いも当然の装甲を近づいて切り裂き、20秒もかからず機能を停止させる。
「後は」
生き残りのデュミナスを弾丸で削り槍で止めを刺す。
サクラはノルマ分のスコアを稼ぎ、次の展開に備えて準備を開始した。
●デュミナス
オファニム【アイゼン】の2対4眼のセンサーが力強い光を放つ。
魔導型内燃機関から引き出されたエネルギーが過不足無く四肢へ供給され、CAMとしては異様とすらいえる早さで敵へ迫る。
「予想通りに歪虚製のCAMですね」
敵は装備の異なるノーマルのデュミナスが2機。
歪虚によりコピーされたというのは恐ろしい事実ではあるものの、各種能力を伸ばす改造もハンターの能力を活かす改装も行われていないので邪魔ではあっても脅威では無い。
「しかもこのようなことが出来るのは高位強力な歪虚。下手に触ると火傷程度では済みそうもありませんな」
米本 剛(ka0320)がスコップデュミナスが掘る地面に視線を向け、空高くにある亀裂を一瞥して眉間に皺を寄せる。
そんな状態でも前から飛んでくる105ミリ弾は全く当たらない。
剛の操作と意思に【アイゼン】が鋭敏に反応し、容易く避けては敵CAMとの距離を0に近づける。
「兎も角、こうなった原因等を調べ敵脅威を排除せねばなりませんね」
地下の気配も上空の亀裂も放置するには問題が大き過ぎる。
まずは近くの障害を排除するため、剛は【アイゼン】の速度を落としてガトリングガンを構えさせた。
スナイパーライフル装備機が焦って命中率を落とす。
もう1機が【アイゼン】を射程内に入れようとアサルトライフル片手に必死に駆ける。
引き金を引く。
スナイパーライフルの10倍、アサルトライフルの3倍以上の頻度で弾が打ちだされ先頭の1機に向かう。
弱い気配の割にはよく躱す。
4割ほど躱すだけなく、厚いシールドを有効活用し【アイゼン】から受ける被害を押さえ込む。
「3割削って残り7割。未改造機でもこれだけ耐えますか」
絶対に勝てるという確信はあるがこのままでは決着前に日没が訪れ成果も中途半端になるかもしれない。
その懸念は空振りする。
敵機がアサルトライフルを構える前に攻撃的なマテリアルが直撃、動力部分から黒い煙が噴出した。
R7エクスシアがマテリアルライフルからランスカノンに持ち替える。
圧倒的な回避能力を誇る【アイゼン】より与しやすい敵とでも思ったのだろう。
敵機が【アイゼン】からじりじり離れつつヴァルナ=エリゴス(ka2651)機にアサルトライフルを向けた。
「劣化がないデュミナスの複製ですか。かつての歪虚CAMより強い可能性はありますが」
スラスターに火を入れる。
小刻みに進路を変えつつ敵機との距離を縮めていき、そもそも当たらない30ミリ弾もスラスター抜きなら当たるはずだった30ミリ弾も全て避けて退路を断つ位置に着地する。
ランスカノンを両手で構え、どうやっても避けられないタイミングで敵機めがけて突き込んだ。
アサルトライフルが捨てられ分厚いシールドが掲げられる。
全長が5メートルあろうがシールドを破壊するほどの威力は無く、ノーマルデュミナスはまだまだ戦えるはずだった。
「判断が甘いこと」
R7の全間接部を制御した上で、ランスカノンに己のマテリアルを注ぐ。
攻めの構えからの攻撃動作の加速。
先端部の当たったシールドが凹む。ランスカノンは止まらず敵機の指をスクラップにしてそのまま正面装甲にめり込ませた。
「足止めのつもりでしょうか」
デュミナスがアサルトライフルを拾おうとしゃがみ込む。
R7が容赦なくランスカノンを振り下ろして今度は上腕を砕く。
見た目以上に頑強なCAMは戦闘力を失わずシールドも取り落とさない。
しかし主力武器を取り戻すことは出来ず、R7の猛攻に一方的な防戦を強いられた。
「いえ」
あの黒蜥蜴、物事を深く考えているようには思えない。
このCAM型の歪虚も、思いつきで造ってたまたま上手に出来ただけなのかもしれない。
「いずれにせよやることは同じですね」
何度目になるか分からない突きで貫く。
コクピットを貫かれた状態で何度もデュミナスが足掻き、ついには力尽きて単なる土砂と化し大地に広がった。
連続していたガトリング砲とスナイパーライフルの砲声が止まる。
デュミナスが背中から倒れ、衝撃に耐えきれずに数十のパーツに砕けて雑に散らばった。
「次が本番です」
【アイゼン】が再装填を行い東へ向く。
敵の数が減ったため、地下にある危険の大きさがこれ以上無くはっきりと感じられた。
●デュミナス部隊
機体と得物のスラスターを順番に吹かし、R7エクスシア【清廉号】がスナイパーライフルの攻撃範囲の内側に入った。
コクピット内。引き締まった表情のロニ・カルディス(ka0551)が目に強い光を浮かべている。
「何の交信もなく得物をこちらに向けているんだ」
【清廉号】が回避行動の途中でマテリアルを円錐形に固める。
進路上にドリルを置かれた30ミリ弾が、頭から中程まで抉られ威力を失った。
「敵か、そうでなくても撃たれて文句は言えないな」
朱色のマテリアルライフルを敵機へ向ける。
敵機体の動きは悪くなく、回避と防御と攻撃が無理なく連なっている。
「範囲攻撃を避ける程度の知恵はあるか」
敵機と敵機の距離は10メートル以上。
今の手札でまとめて攻撃するのは難しい。
「通してもらうぞ」
重く響く声にマテリアルを乗せる。
強力な歪虚には効き辛い……少なくともこの敵機ほど強ければまず効かないはずの響きが装甲をすり抜け、敵機の操縦を大いに乱す。
「弱い歪虚とマテリアル対策が不十分なデュミナスの組み合わせか?」
「お先にー」
魔導アーマー「プラヴァー」の小柄な体が、デュミナスとR7の間をすり抜けた。
異様な気配が漂う地面の上、単に大きいだけのスコップを振るう6機のデュミナスの元へ到着した。
「えぇー」
アームに装備した重機関銃を所在なさげに揺らす。
器用に百面相をするイェジド【スカー】の向こうで、黒の夢(ka0187)がデュミナスに混じって土を掘っていた。
「いいの?」
私に聞くな。
いつでも主を助けにいける位置を保ちながら【スカー】が疲れた息を吐く。
黒の夢が、小さな油圧ショベルに匹敵する量の土を一息で掘る。
その旅に周囲の砂と土が穴に落ちるが掘る速度の方が圧倒的に速い。
「ダーリンの気配がする。こっち?」
十分に硬いはずのスコップの先が変形して異音を発生させる。
黒の夢は平然とした顔で、スコップの向きを変えつつ土をどける。
治癒の痕がはっきり残る何かの尻尾の先が、穴の底から小さく生えていた。
「ダーリン、砂風呂は口元ちゃんと出すのよー?」
一度エレメンタルコールを使ってみると精霊に仲介を拒否される。
もう少し掘ろうとしたとき、いつの間にかスコップデュミナスの動きが止まっていたのに気づいた。
リチェルカ・ディーオ(ka1760)が無言で手を振る。
【スカー】が滑るように主の元へ向かい、黒の夢が心底残念そうにスコップを下ろして【スカー】の背に腰掛けた。
「あの角度だと無理な姿勢で深くまで埋まっているよね。ガルドさーん、もしかしてまたなにかやってしまったのかなー?」
たとえば部下に狙われるほど弱くなってしまったとか。
リチェルカが疑問を口にするのと、デュミナスが高位歪虚の血肉を得ようとスコップを大ぶりするのはだいたい同じタイミングであった。
「何があったか教えてくれないと皆の前でぺろぺろしちゃうのなっ」
黒の夢はただのデュミナスを意識してすらいない。
愛撫の前準備であるかのようにマテリアルに形を与え、生じた翼の幻影が重力の方向を狂わせる。
デュミナスが内側から歪む。
装甲が割れ破片が飛び散り、変形した骨格が機体のあちこちから突き出される。
余波は地面にもおよび、尻尾を含む空間に大きな凹みが出来た。
「ガルドさんの上に蓋してない?」
「ダーリンは健康優良児なのね」
『……れが……』
「ほら」
2体分のパーツが地面に落ちて土に変わって穴を埋める。
残る4体のうち3体は崩壊寸前だ。奇跡的に重力異常から逃れた1体がスコップを杖の如く扱い逃走を始めていた。
「ガルドさんとのいちゃいちゃは任せるよ。後片付けしとくねー」
すぐに敵に襲いかかりはしない。
プラヴァーは良い機体だが幻獣のような圧倒的回避能力はないし、そもそも敵とは射程が違う。
「頑丈さもちょっと不安なんだよね」
尻尾から十分離れた後引き金を引く。
逃走デュミナスが身軽だ。
大量の銃弾が背に当たりかけてかなりの頻度で外れる。
それでも穴の数は増えてダメージも積み重なり、己の生存を絶望視したデュミナスがスコップを構えて振り返る。
「このくらいなら問題ないんだけど」
必要がないので真正面からは向き合わない。
十分距離をとってからまた攻撃。
少し離れた場所で再度の重力異常が発生。
範囲内のデュミナスが1つ残さず粉砕されて粉塵が舞っていた。
「む」
【清廉号】を横跳びさせ30ミリ弾を躱し、本体からのエネルギー供給でマテリアルライフルを再装填させ、その上で【清廉号】を通してマテリアルを振るう。
威力の籠もった弾がノーマルデュミナスの腹部へ命中。
命中箇所だけでなく各関節から小さな火花が散った。
「今、何か」
今度はマテリアルライフルで遠方へ。
黒の夢から逃れようとした死にかけデュミナスが1体、コクピットから腰部にかけてを砕かれその場に崩れ落ちた。
「こちら龍崎。敵味方の動きに変化があった」
「そこから何か見えるか。いや」
ロニが視覚以外の五感に意識を集中。
反撃しようとしたデュミナスがシールドを雑に使って無防備な上半身をさらし、そこへ4発の20ミリ弾がめり込み胸から上下に二分される。
「下の気配が動き出している」
「了解。攻撃開始と撤退の判断はそちらに任せる」
遠く離れた場所で【VIRTUE】が長射程カノン砲に持ち替え、至近距離であるかのようにスナイパーライフル機に砲弾を当て、砕き、何もさせずに射撃だけで止めを刺す。
ロニは一言分かったと答え、強烈な気配の元へ【清廉号】を向かわせた。
尻尾が引っ込んだ。
硬く重い物が無理矢理こじ開けられひび割れる音が大地を通して伝わってくる。
大量の土を貫く武器は手持ちにない。
黒の夢の広範囲破壊術でも効率が悪すぎる。
リリティアの持つ剣でも、威力は足りても長さが全く足り無い。
「やるか」
CAMサイズのスコップを回収し【清廉号】に構えさせる。
表面は崩れかけているが芯の部分はまだ健在だ。
2、3メートル掘るまでならなんとかもつだろう。
「警戒はお願いー。ショベルアーム起動ー」
リチェルカが戻って来て土木作業に参加する。
元々作業用としても開発された「エヴロスト」が実に使い易い。
いつの間にか尻尾が引っ込んだ場所を目に見える速度で凹ませていく。
「日が暮れる」
太陽は半ば隠れて闘争に向かない時刻が迫っている。
ヴァルナは外部スピーカーに回すエネルギーをぎりぎりまで高めてから呼びかけた。
「ガルドブルム、いくつか聞きたいことがあります。話が終わればこちらからは手を出しません。互いに万全でない状態で戦うのは不服でしょう?」
『こ……美味……』
大量の土砂が邪魔で聞き取れない。
既にすっかりやる気になっているのは分かる。
「相変わらず妙な事を。歪虚って埋まると回復するんですか?」
岩同然に硬くなった土砂を、神斬でさくさく刺しながらリリティアがぷんすこする。
「大体何なんですかあの空の傷は! この土地だって、貴方が来るだけでここまで荒れ果てはしないでしょう!」
ぷす。
分厚く滑らかな竜鱗を、2枚纏めて貫いた感触があった。
「むむむ」
リリティアと推定黒竜とのいちゃつきに、黒の夢が可愛らしい嫉妬を表に出す。
ただし吐息は爆撃じみた破壊力を秘め、今にも爆炎が溢れて土砂どころか岩盤まで破壊してしまいそうだ。
いつの間にかリチェルカの姿が遠くにあり、地対空戦闘の準備をすっかり整えていた。
『骨まで舐め削られそうだなァ!』
強固なはずの地面が波打つ。
非常識な圧力が加えられて荒海のように揺れ、砕け、弾け、逆流する土砂の向こうに爛々と輝く竜の瞳が見えた。
「自制心がないのも相変わらずですか。成長のない」
土砂の突風に揺れるR7の中、ヴァルナは淡々と行動指示を済ます。
CAM用錬機剣からマテリアルの刃が伸びる。
土砂の流れをものともせずに、上昇中のガルドブルムの足から腹にかけて見事に突き刺した。
「体調な万全のようですね」
痛手を与えた感触はあってもあまり効いている気がしない。
どこかで骨休みして回復したのだとしても、回復の具合が良すぎる気がする。
「湯治しにいけばと言ったはずなのに」
優れた五感と有り余る命中精度で手裏剣を当て、チェイシングスローで近づき2連撃。
岩と土で半ば埋まった場所では黒竜も本来の回避が出来ず、背中と脇の2カ所を大きく抉られる。
「湯どころか土に漬かっているとはどういう事ですか」
『水じゃ足り無いンでな』
「あっ。まさかこの馬鹿蜥蜴、超高位の歪虚の餌場に手を出しましたね!」
2度目の連撃はガルドブルムが空に上がることで空振る。
負の力に満ちている癖に生き生きし過ぎた赤い血が、刃を伝わりリリティアのガントレットを赤く染める。
『お前等になら蜥蜴呼ばわりされても反論できねェなァ!』
「余裕ぶるのもいい加減にしなさいこのお馬鹿」
手が届かぬ空をみつめるリリティア。
涎を垂らす直前の顔で下を見上げるガルドブルム。
求めているのは肉でも血でも無く、戦いだ。
光が弾けた。
夕日よりもなお赤いブレスが地上にぶつかり渦を巻き、緑無き大地を焼き尽くそうと円の形で広がっていく。
「野郎、自覚のある戦闘狂か」
戦場の中心に【VIRTUE】を突っ込ませる。
機体表面が焼けるのを無視して対空射撃。
黒竜は格好などつけぬ無様とすらいえる動きで回避してみせる。
「空にある裂け目さー、アレってなーにー? ガルドさんがアレつくったのー?」
【VIRTUE】を盾にさせてもらって難を逃れたリチェルカが、援護射撃のついでに疑問を飛ばす。
土と岩から解放された黒竜の動きは非常に軽快で、しかし強力ブレスの疲労が残っているようで攻撃には移れない。
「もしかして裂け目からなにか出てきたのー? あの空の裂け目、向こう側からなんか嫌な感じがするよー」
『知らん。俺は目についた餌を掠めとっだけだ』
「ガルドさん大丈夫? 主に頭」
双方殺す気しかないのに妙になごやかだ。
黒竜はクハッと機嫌良く笑う。
喉の奥から、最初を上回る炎がせりあがる。
「自分が囮になります。余力がある方は反撃に備えてください」
【アイゼン】が銃1挺を手に空を見上げる。
自己犠牲でも妄想に逃げ込んでいる訳でもなく、負けない確信を持って【アイゼン】越しに米本が見上げる。
ガルドブルムの返答はこれまでで最高のブレスだ。
生木も一瞬で炭に変える熱が、回避困難な速度と広がりを以て黒の紅のオファニムに迫る。
米本が一度だけ操縦桿を倒す。
壁の如き炎の、コンマ数秒間隔で生じる薄い箇所を平然と通り抜けて黒蜥蜴に鉄の雨を降らせる。
ブレスを躱しブレスの間合いで反撃するCAMを見て、ガルドブルムが驚愕と歓喜に目を輝かせた。
「これを躱しますか」
「ちょっと待って。亀裂が元、にぃっ!?」
時空が捻れて亀裂が消えた。
正確には正常に近づいたというべきなのだろうが、数キロの距離があるとはいえ近くで影響を受けた者達は堪らない。
ロニが眉間に皺を寄せる。
これまでいくら引き金を引いても当たらなかった弾が、半々程度の確率で当たるようになっている。
理由は分からなくてもチャンスであることは明白だ。
リロードキャストを使い尽くした後はマテリアルカートリッジも使って対空射撃を継続する。
「具合が悪いの?」
『今近づくとお前に食われるくらいにはな』
飛行のコストが増えていた。
費やすエネルギーを跳ね上げないなら動きの精度を落とすしか無く、落とした状態では黒の夢の爆撃連打に耐えられない。
地上に降りて足も使えばいつも通りに戦える。
しかしそのときはリリティアの刃の間合いに入ることになり勝率は大きく下がるだろう。
「あら残念、またハグやキスはおあずけ?」
『応。みっともなく逃げることにするさ』
消えかけの夕日とブレスの残照に照らされ黒い鱗が艶々と輝く。
「次はもっと縛りプレイをしてくれていいよー」
『馬鹿を言え。強敵相手に手を抜く阿呆がどこにいる』
「私の頭の上?」
彼女達以外が口にしていたなら、黒竜は己のマテリアルを半減させてでも土地ごと焼き尽くしていたはずだ。
実際にはにやりと笑い、見事に気配を消して夜闇の中へ消えて行く。
数秒前まで肌がひりつくほど満ちていた戦場の熱が、最初からなかったかのように消え去った。
「かの方が王国の諺にもなる程の脅威なのですね、相対……とは言い難いが参加した価値はあったのでしょうな」
米本は改めて戦い抜く覚悟を決める。
最後の瞬間竜眼がじっと彼を見ていたのは、気のせいでも自意識可能でもなかった。
帰還後にロニが提出した報告書を見てハンターズソサエティーに騒ぎが起こる。
地形が変容するダメージを受けてまだ生きている黒蜥蜴って、予想よりすごく強くないだろうか。
頭を抱える職員とは逆に、ハンターは次も勝つつもりで準備を進めていた。
依頼結果
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【相談卓】対CAM・埋没黒竜 黒の夢(ka0187) エルフ|26才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2017/08/20 00:14:50 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/08/15 22:39:36 |