ゲスト
(ka0000)
【郷祭】クッキングハンター!
マスター:えーてる
- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
- 1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~10人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 少なめ
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/11/09 22:00
- 完成日
- 2014/11/19 03:15
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
「そうですね。例年以上の盛り上がりですから、試算では動員数は……これくらいでしょうか」
受付嬢イルムトラウトは、事務員でもあり、調査員でもある。
何を言っているのか分からないと思うが、イルムは受付と事務と調査を兼任する超人である。
村長祭の今回の規模をリサーチして、資料に纏め、そこからイベント事の動員人数を予想するくらいは受付業務の片手間でやってしまう。
「あぁ、そうなりますか」
そして、イルムの調査報告を聞いたとある村の村長は、頭を抱えていた。
「やはり足りませんか?」
「えぇ……」
この村の催し物は大食い大会であった。立食会も兼ねており、同盟の秋の味覚を誰でも堪能できるという触れ込みである。
が、とある問題が浮上していた。
「申し訳ありませんが、お任せしてもよろしいですかね」
「勿論、お任せください」
イルムは村長に書類を差し出し、村長は署名を入れた。
●
どうかしたのか、とハンターの一人が声をかけた。イルムがきょろきょろと背後を見回していたからである。
「いえ、大したことでは」
イルムは眼鏡を押し上げると、いつも通りに資料を置いた。
「依頼主は、ジェオルジのとある村です。個人的な縁から持ち込まれた依頼でして、村長祭に合わせて、彼らは大掛かりな食事会を企画しています」
立食パーティーに加えて、目玉の一つに大食い大会もあるらしい。
「ですが、予想される客数・挑戦者数に比して、料理人の数が明らかに不足しております」
見通しの甘さ、リアルブルーからの人口流入、要因は様々あるだろうが、結果として祭りの進行が難しい状況にあった。
「この村祭りに料理担当としてヘルプに入って頂き、料理の供給を安定させ、無事に祭りを終了させてください」
大食い大会では作るものはある程度制限があるが、立食パーティーとして客に振る舞うものは特に制限を設けない。
料理の腕に覚えがあるなら、色々好きな料理を作っても構わない。料理が然程得意でなくても下ごしらえなど出来る事は多々ある。
リアルブルー出身なら郷土料理を持ち出すのも手だろう。
当然、休憩時間に食べ歩きに出るのは可能だ。大食い大会も、その後の仕事に支障をきたさなければ参加して構わない。
「依頼を中継した以上、私も同行しますが……」
イルムはらしくなく言い淀んだ。
「……失礼しました。私も微力ながらお力添えさせて頂きます。よろしくお願いします」
「そうですね。例年以上の盛り上がりですから、試算では動員数は……これくらいでしょうか」
受付嬢イルムトラウトは、事務員でもあり、調査員でもある。
何を言っているのか分からないと思うが、イルムは受付と事務と調査を兼任する超人である。
村長祭の今回の規模をリサーチして、資料に纏め、そこからイベント事の動員人数を予想するくらいは受付業務の片手間でやってしまう。
「あぁ、そうなりますか」
そして、イルムの調査報告を聞いたとある村の村長は、頭を抱えていた。
「やはり足りませんか?」
「えぇ……」
この村の催し物は大食い大会であった。立食会も兼ねており、同盟の秋の味覚を誰でも堪能できるという触れ込みである。
が、とある問題が浮上していた。
「申し訳ありませんが、お任せしてもよろしいですかね」
「勿論、お任せください」
イルムは村長に書類を差し出し、村長は署名を入れた。
●
どうかしたのか、とハンターの一人が声をかけた。イルムがきょろきょろと背後を見回していたからである。
「いえ、大したことでは」
イルムは眼鏡を押し上げると、いつも通りに資料を置いた。
「依頼主は、ジェオルジのとある村です。個人的な縁から持ち込まれた依頼でして、村長祭に合わせて、彼らは大掛かりな食事会を企画しています」
立食パーティーに加えて、目玉の一つに大食い大会もあるらしい。
「ですが、予想される客数・挑戦者数に比して、料理人の数が明らかに不足しております」
見通しの甘さ、リアルブルーからの人口流入、要因は様々あるだろうが、結果として祭りの進行が難しい状況にあった。
「この村祭りに料理担当としてヘルプに入って頂き、料理の供給を安定させ、無事に祭りを終了させてください」
大食い大会では作るものはある程度制限があるが、立食パーティーとして客に振る舞うものは特に制限を設けない。
料理の腕に覚えがあるなら、色々好きな料理を作っても構わない。料理が然程得意でなくても下ごしらえなど出来る事は多々ある。
リアルブルー出身なら郷土料理を持ち出すのも手だろう。
当然、休憩時間に食べ歩きに出るのは可能だ。大食い大会も、その後の仕事に支障をきたさなければ参加して構わない。
「依頼を中継した以上、私も同行しますが……」
イルムはらしくなく言い淀んだ。
「……失礼しました。私も微力ながらお力添えさせて頂きます。よろしくお願いします」
リプレイ本文
●
パーティ開始の少し前から、料理人たちは準備を始める。勿論祭りの最中も追加しなければならないし、冷めたものを出すわけではないが、今のうちにできることはしておかなければ後で困る。
並べられた食材、調理器具を前に、一同の心の内は合戦に赴く戦士のそれであった。
「今回は地道な作業に徹しますよ」
藤田 武(ka3286)が小さく気合を入れると、ミオレスカ(ka3496)はぽつりと呟いた。
「普段何しているんでしょう……」
果たして「今回は」などと前置きをすることなのだろうか。
ともかく、武は至極真面目に料理をしていた。
「リアルブルーの家庭料理はどうでしょう、と思って作ってみたのですが」
といって彼が作ったのは、肉じゃがときんぴらごぼう。
「あ、美味しいですねこれ」
ミオレスカがきんぴらごぼうを摘むと、村の料理人たちもこぞって味見を始めた。
「皆様にも美味しいと思っていただける料理じゃなければ、量が作れませんから」
武は至極全うなことを口にする。彼自身が別段料理が得意というわけではないから、家事でする程度のものだけだ。
「というわけなので、皆さんに美味しく作っていただいて、私はレシピを提供した後はその補佐をしようかと」
村の料理人も本職はいるが、大多数は奥様方である。リアルブルーのものとはいえ、大層な技術を使わない家庭料理は取っ付き易く、作る側からは好評だ。
「申し訳ございません。一番大変な作業を任せてしまい……よろしくお願いいたします」
エリス・カルディコット(ka2572)は、連れてきたフォークス(ka0570)に一礼した。
「依頼報酬は出ないって? あたいはタダでは仕事しないね」
フォークスは手串を火にかけ、香り付けされた肉を焼いている。
彼女は一度咳払いすると、営業用の満面の笑みを浮かべた。
「今回の依頼主はあなたですよ、エリス」
「……善処します」
エリスが作るのはドネルケバブである。シナモン(の類似品)をヨーグルトに混ぜながら、時折パンの様子を見ている。ソースがこぼれづらいようにと表面を少し固めに焼く手はずであった。
「次から次へ違う料理を食べるのですから、手はなるべく汚れない方が良いでしょう」
ただ硬くしすぎてもよくないので、焼き加減が難しい。野菜も顎が疲れないようにとレタスを選んでいる。
「フォークスさん、ちょっと時間が押してます」
「悪かったね、こういうのは不慣れなんだよ」
それでも早さより質である。仮にも客の前に出すものだからだ、とフォークスは呟いた。
意外にも料理が得意というのが、はるな(ka3307)であった。
「はるな、こう見えて、料理なら任せて~ってカンジだしぃ」
所謂V系の外見とは、確かに似つかない。
遠巻きに眺めるエリスの前で、彼女は白米にお酢を流してうちわで扇ぎながら手際よく混ぜ込んでいる。
「味も見目も良くて、一口サイズのモノとか、喜ばれそうじゃん?」
ということで、彼女が作るのは手鞠寿司である。ローストビーフは予め用意した物が既にあるらしいので、パーティ開始に合わせて切り分ければいい。
みるみるうちに酢飯が手のひらサイズに丸められていくのを、ミオレスカは目を丸くして見ていた。
「料理お上手なんですね……」
「んーまぁ、何でも美味しく作る自信はあるけどぉ」
生物はなるべく避けるとの方針なので、炙った鮭やら塩漬け魚卵(イクラに類する)やら錦糸卵を色とりどりに乗せて完成である。
「ってかミオレスカちゃんも上手じゃん! 木苺と林檎のパイとか、かわいーし」
ミオレスカは、小さなパイ生地に甘く煮た果物をせっせと乗せていた。
「あまり料理はしないんですけど、この季節になるとお母さんが作ってくれていたお菓子で、これだけは覚えました」
「へーっ、お母さんの味かぁ」
感心するはるなに、ミオレスカは恥ずかしげにはにかむと、パイを包みながら呟いた。
「おいしくな~れ♪」
●
一方、大食い大会班。
「折角の料理だ。味わって貰いたい所だが、大食いもま、面白いね」
ロラン・ラコート(ka0363)はチキンライス用の具材を刻みながら口にした。
「どうせ量を食べるのなら、そっちも美味しい物を提供したいね」
その言葉に、喜屋武・D・トーマス(ka3424)も頷いた。
「量だけじゃなくて味も満足させたいわよね」
彼は追加オーダー用に塩焼きそばを用意している。
「私は極上の絶品料理はつくれませんが、手早い調理ならお任せくださいませ」
シルウィス・フェイカー(ka3492)の指揮の元、ルーエル・ゼクシディア(ka2473)もあくせく働いた。
「シルウィスさん、パン焼けましたよ」
「でしたらこちらに回して頂けますか。切れ目は私が入れておきましょう」
個々人で色々作れるロランやトーマスと違い、「得意っていうわけじゃないけど、人並みには作れる」くらいのルーエルや数合わせにやってきたような村人たちがシルウィスに従って働いていた。
ひと通り、チキンライス(ちょっと油多め)とホットドッグの量産の目処が立った後、シルウィスとロランも各々追加オーダーを想定して準備を始めた。
「まぁこんくらいの量だったら、食べきってくる気はするよな」
「さぞ健啖家が集まるでしょうからねぇ、多いくらいで丁度いい気もします」
シルウィスは肉に衣を付けて揚げていた。所謂カツだ。
「ルーエルさん、お手伝いお願いできますか」
「勿論」
食べやすいサイズに切った肉を衣で包み、油の中に放り込む。
「リアルブルーでは○○カツと呼ぶそうですが、これは何カツなのでしょう……?」
「えっ、何の肉かわからないんですかこれ」
大丈夫なのかとルーエルは思ったが、まぁ食材の中にあったなら大丈夫だろう。
ロランはパンケーキを焼いていた。
「とりあえずは、量を作れそうで好き嫌いも無さそうだしな」
味の調節用に蜂蜜やジャムも取り寄せてある。
「ついでに立食パーティの方にも出せる様に出来るし、まあ、悪くは無いんじゃないかと思う」
「いいわね、甘ったるいと思ってもお腹に溜まるもの」
トーマスは麺を蒸し、野菜を下茹でしている。塩焼きそばもかなり腹にくるだろう。
と、立食会側からはるなが戻ってきた。
「ちーっす! こっちはどう?」
「ひとまず規定の品は終わったよ。後は個人で備える感じだ」
「おっけーおっけー。じゃーはるなも作ろっかな」
彼女が用意するのはチーズドリアである。バターライスにカレーを掛けたものだ。
「油と小麦粉に炭水化物ですか……」
「結構お腹膨れるよねー」
シルウィスが感心するように呟いた。この面子、半数以上がどうやって脱落者を出させるかに比重が行っている。いや、大会としては当然なのだが。
「あと、熱いからゆっくり食べなきゃいけない=お腹もいっぱいになり易い、って点もあるしぃ……はるなの計画、バッチリじゃん?」
可愛らしくもあくどい笑みに、ルーエルは引きつった笑みを返す。
そうして挑戦者をふるい落とすための準備が着々と進む中、ふとルーエルは気が付いた。
「……そういえば、イルムさんは何処に?」
という言葉にビクン!と肩を跳ねさせたのは、受付嬢イルムトラウト・イトゥリツァガ(kz0067)であった。
「ってそんなとこに。なにしてるんですか?」
「あ、いえ、下ごしらえのお手伝いを……」
歯切れの悪いイルムの言葉に、ルーエルは首を傾げる。
とかやっているうちにトーマスがやって来て、イルムを見て呟いた。
「もしかして、料理出来ないのかしら?」
「うっ」
イルムは胸を押さえた。
「えっマジ? イルムちゃん、なんでもできそーな顔してるのにぃ?」
「ううっ」
イルムは呻いた。最早隠し通すことは出来ない。来なきゃいいのに、人手不足だと聞いたらつい来てしまった。自業自得だ。せめて傷を浅く済ませるためにも、開き直らねばならない。
「お、お察しの通り、料理は何故か上達しないままでして……ロクに作れないわけでは……」
「……二十五でか?」
ロランの言葉で、イルムは撃沈した。
●
ついに祭りが始まった。
ひと通り料理が終わると、大食い大会の準備をしていたハンターたちにはしばらく休憩が出た。出すものが遅れないようにだけ注意してほしいとの事だ。
「さて、じゃあ俺は、立食パーティでも見てくるかな」
「奇遇ですね、私も行きますよ」
ロランとシルウィスは連れ立って立食パーティの方へと入った。
「リアルブルーの料理に興味が有るんでね。自分でも作れたら面白いだろう」
「私、気になります」
二人の目的は合致しているようで、シルウィスはどちらかと言えば食べる方に意識が向いていた。
「食べすぎちゃったらどうしましょう……? いやいや、体重のことは、今は考えないようにしましょうか……」
件のリアルブルーの料理は、主に武が提供していた。
「おや、お二人とも。お一つどうですか?」
といって武は皿を指し示した。肉じゃがやきんぴらごぼうに加えて、ニラ玉に唐揚げ、天ぷらもあった。
「きくらげに類する物があれば、もう一品いけそうだったんですが」
「へぇ……肉じゃがってやつ、どう作るんだ?」
「今は少々忙しいので、後でお教えしましょう。何でしたら手伝っていきますか?」
と指し示した調理場では、ミオレスカが肉を切っていた。
「玉ねぎとお肉の切り方も独特ですね」
リアルブルーの味を学ぼうとしているのが見て取れた。
「よし、俺も手伝おう。どうしたらいいんだ?」
ロランは腕まくりをして厨房へと踏み入る。
一方、シルウィスは食べ過ぎていた。
「このてんぷらというもの、美味しいですね……サクサクです。あっこの唐揚げも……」
数日後、お腹の肉を摘んで絶望する彼女がいるのだが、それはまた別の話だ。
はるなの手鞠寿司やクラッカーは好評だった。ディップの横に添えられた鮮やかな野菜が目を引いている。
「皆が美味しい、楽しいと思ってくれたら、超嬉しいよね~」
お客が皆笑顔で帰っていくのを、はるなも笑顔で見返していた。
エリスとフォークスのケバブも結構な人気を呼んでいた。持ち歩いて食べれるのが評価点のようだ。
「お待たせ致しました。どうぞ、召し上がってください」
「へい、おまち」
二人でなんとか捌ける量だが、これ以上人が増えたら応援を呼ぶしかないだろう。
めまぐるしく受付と調理場を往復する二人。その中で、ぽつりとフォークスは呟いた。
「懐かしいね、こういう雰囲気」
その言葉に対して、エリスは人の波が引くのを待ってから聞き返した。
「それは、故郷の?」
「……さぁて、どうだったかね」
はぐらかした彼女に、エリスは暫く何も言わずに手を動かした。それから、
「……作っていたらお腹が減りましたね」
とだけ口にした。
「お疲れ様、ルーエル君!」
レイン・レーネリル(ka2887)はルーエルを見つけるなりそう声をかけた。
「お腹空いてるでしょ?」
「あはは……。あれだけいい匂いの中で作業してると、いやでもお腹がすいちゃうもの……美味しそうな物、無いかなぁ」
顔を覗きこむレインに、ルーエルは苦笑して答えた。
正直に答えた彼に、レインは一つ頷いた。昼間随分頑張ったようだし、ご褒美は必要だろう。
「よっし、今日はおねーさんがご馳走してあげる!」
「いいの?」
「勿論! おねーさんに任せなさいっ」
それから、幾つかの露店を二人で回った。何れもとても美味しく、二人は満足であった。
ミオレスカの作った一口パイを頬張りながら、レインはふと口元に指を当てた。
「あ、そういえば、イルムさんいるのかな? 元気かな?」
「あぁ、うん、いるけど……」
ルーエルが指差す先では、イルムが無表情に酒をガバ飲みしていた。自棄っぽかった。
「……どしたの、あれ」
「まぁ、色々あったんだよ、うん」
触れないでおくのが彼の優しさであった。
●
大食い大会のエントリーは大方済んだようだ。
「ハンターとして、大会と名のつくものに参加しないわけにはいかねぇ! この大食い勝負……優勝は頂きだぁ!」
エヴァンス・カルヴィ(ka0639)は大声で名乗りを上げると、持ち込んだエールをぐいっと煽った。景気良くばらまかれた酒に、周囲からひゅーひゅーと声援があがる。他にも多くの参加者が名乗りをあげて、席についていた。
イルムが何故かほっとしていた。同僚が来ている可能性があったらしい、なるほど見栄かと一同は納得した。
ちょこちょことミオレスカが料理を配っていくのに向けて、エヴァンスは力こぶを作ってみせた。
「ふ、見てろミオレスカ。ここにある皿全部腹に入れる勢いで平らげてやっからな!」
「本当ですか?」
ミオレスカは目を丸くして彼を見た。
とかなんとかやっているうちに、火蓋は切って落とされた。
――ホットドッグからのチキンライスでは、脱落者は殆どいなかった。まぁ、予定調和ではある。
ということで、追加オーダーが入る。まずはシルウィスの謎カツである。謎とはいえ肉、軽い衣と裏腹に肉は重厚であり、脂分も多めだ。好評のうちにそれなりの量の挑戦者がこれを突破。興味本位の参加者がこの辺りで脱落していった。
「第一波にしては十分でしょう」
お皿を回収しながらシルウィスは呟いた。
続いては、トーマスの塩焼きそばだ。下準備した野菜をその場で炒めて味をつけ、麺と絡めて少々水分を飛ばせば完成である。
「しっかりと味わって食べてね。大食いだからって流し込むだけじゃ美しくないわよ?」
というトーマスの言葉と共に、焼きそばが並べられる。結構な量の炭水化物に、結構な量の脱落者が出始めた。が、まだ少数残っている。
「あら、全滅させるつもりだったのだけれど」
「これがこってりした味だったらヤバかったぜ……」
エヴァンスは呟いた。序盤の威勢はどこへやら、へばりつつあった。
続くロランのパンケーキ。
「大会後半だし、こういうのはどうかと思ってね」
ここにきての甘味は受け入れられ、残った挑戦者はなんとか食べきった。訪れた女性陣に好評だったので、ロランは後で立食会にも持ち込むことにした。
ただまぁ、この甘味も通過点でしかない。
「残したら、激おこなんだから!」
愛嬌たっぷりに言うはるなの、熱々のチーズドリアが待っているのだ。
エヴァンスの顔が引きつる。既に皆満腹、掻き込んでしまいたいこのタイミングでこれだ。エグい。
と、ミオレスカがにこにことエヴァンスの前に皿を置いた。
その皿が妙にデカいことに気付いたエヴァンスは、顔面からさーっと血の気が失せるのを感じた。
「いっぱい食べるって言うから……大盛サービスです!」
ミオレスカは花が咲くような笑みをエヴァンスに向けた。
この後脱落を宣言したエヴァンスを、果たしてミオレスカはどのような目で見ただろうか?
――ともあれ、祭りは大盛況のうちに幕を閉じた。
パーティ開始の少し前から、料理人たちは準備を始める。勿論祭りの最中も追加しなければならないし、冷めたものを出すわけではないが、今のうちにできることはしておかなければ後で困る。
並べられた食材、調理器具を前に、一同の心の内は合戦に赴く戦士のそれであった。
「今回は地道な作業に徹しますよ」
藤田 武(ka3286)が小さく気合を入れると、ミオレスカ(ka3496)はぽつりと呟いた。
「普段何しているんでしょう……」
果たして「今回は」などと前置きをすることなのだろうか。
ともかく、武は至極真面目に料理をしていた。
「リアルブルーの家庭料理はどうでしょう、と思って作ってみたのですが」
といって彼が作ったのは、肉じゃがときんぴらごぼう。
「あ、美味しいですねこれ」
ミオレスカがきんぴらごぼうを摘むと、村の料理人たちもこぞって味見を始めた。
「皆様にも美味しいと思っていただける料理じゃなければ、量が作れませんから」
武は至極全うなことを口にする。彼自身が別段料理が得意というわけではないから、家事でする程度のものだけだ。
「というわけなので、皆さんに美味しく作っていただいて、私はレシピを提供した後はその補佐をしようかと」
村の料理人も本職はいるが、大多数は奥様方である。リアルブルーのものとはいえ、大層な技術を使わない家庭料理は取っ付き易く、作る側からは好評だ。
「申し訳ございません。一番大変な作業を任せてしまい……よろしくお願いいたします」
エリス・カルディコット(ka2572)は、連れてきたフォークス(ka0570)に一礼した。
「依頼報酬は出ないって? あたいはタダでは仕事しないね」
フォークスは手串を火にかけ、香り付けされた肉を焼いている。
彼女は一度咳払いすると、営業用の満面の笑みを浮かべた。
「今回の依頼主はあなたですよ、エリス」
「……善処します」
エリスが作るのはドネルケバブである。シナモン(の類似品)をヨーグルトに混ぜながら、時折パンの様子を見ている。ソースがこぼれづらいようにと表面を少し固めに焼く手はずであった。
「次から次へ違う料理を食べるのですから、手はなるべく汚れない方が良いでしょう」
ただ硬くしすぎてもよくないので、焼き加減が難しい。野菜も顎が疲れないようにとレタスを選んでいる。
「フォークスさん、ちょっと時間が押してます」
「悪かったね、こういうのは不慣れなんだよ」
それでも早さより質である。仮にも客の前に出すものだからだ、とフォークスは呟いた。
意外にも料理が得意というのが、はるな(ka3307)であった。
「はるな、こう見えて、料理なら任せて~ってカンジだしぃ」
所謂V系の外見とは、確かに似つかない。
遠巻きに眺めるエリスの前で、彼女は白米にお酢を流してうちわで扇ぎながら手際よく混ぜ込んでいる。
「味も見目も良くて、一口サイズのモノとか、喜ばれそうじゃん?」
ということで、彼女が作るのは手鞠寿司である。ローストビーフは予め用意した物が既にあるらしいので、パーティ開始に合わせて切り分ければいい。
みるみるうちに酢飯が手のひらサイズに丸められていくのを、ミオレスカは目を丸くして見ていた。
「料理お上手なんですね……」
「んーまぁ、何でも美味しく作る自信はあるけどぉ」
生物はなるべく避けるとの方針なので、炙った鮭やら塩漬け魚卵(イクラに類する)やら錦糸卵を色とりどりに乗せて完成である。
「ってかミオレスカちゃんも上手じゃん! 木苺と林檎のパイとか、かわいーし」
ミオレスカは、小さなパイ生地に甘く煮た果物をせっせと乗せていた。
「あまり料理はしないんですけど、この季節になるとお母さんが作ってくれていたお菓子で、これだけは覚えました」
「へーっ、お母さんの味かぁ」
感心するはるなに、ミオレスカは恥ずかしげにはにかむと、パイを包みながら呟いた。
「おいしくな~れ♪」
●
一方、大食い大会班。
「折角の料理だ。味わって貰いたい所だが、大食いもま、面白いね」
ロラン・ラコート(ka0363)はチキンライス用の具材を刻みながら口にした。
「どうせ量を食べるのなら、そっちも美味しい物を提供したいね」
その言葉に、喜屋武・D・トーマス(ka3424)も頷いた。
「量だけじゃなくて味も満足させたいわよね」
彼は追加オーダー用に塩焼きそばを用意している。
「私は極上の絶品料理はつくれませんが、手早い調理ならお任せくださいませ」
シルウィス・フェイカー(ka3492)の指揮の元、ルーエル・ゼクシディア(ka2473)もあくせく働いた。
「シルウィスさん、パン焼けましたよ」
「でしたらこちらに回して頂けますか。切れ目は私が入れておきましょう」
個々人で色々作れるロランやトーマスと違い、「得意っていうわけじゃないけど、人並みには作れる」くらいのルーエルや数合わせにやってきたような村人たちがシルウィスに従って働いていた。
ひと通り、チキンライス(ちょっと油多め)とホットドッグの量産の目処が立った後、シルウィスとロランも各々追加オーダーを想定して準備を始めた。
「まぁこんくらいの量だったら、食べきってくる気はするよな」
「さぞ健啖家が集まるでしょうからねぇ、多いくらいで丁度いい気もします」
シルウィスは肉に衣を付けて揚げていた。所謂カツだ。
「ルーエルさん、お手伝いお願いできますか」
「勿論」
食べやすいサイズに切った肉を衣で包み、油の中に放り込む。
「リアルブルーでは○○カツと呼ぶそうですが、これは何カツなのでしょう……?」
「えっ、何の肉かわからないんですかこれ」
大丈夫なのかとルーエルは思ったが、まぁ食材の中にあったなら大丈夫だろう。
ロランはパンケーキを焼いていた。
「とりあえずは、量を作れそうで好き嫌いも無さそうだしな」
味の調節用に蜂蜜やジャムも取り寄せてある。
「ついでに立食パーティの方にも出せる様に出来るし、まあ、悪くは無いんじゃないかと思う」
「いいわね、甘ったるいと思ってもお腹に溜まるもの」
トーマスは麺を蒸し、野菜を下茹でしている。塩焼きそばもかなり腹にくるだろう。
と、立食会側からはるなが戻ってきた。
「ちーっす! こっちはどう?」
「ひとまず規定の品は終わったよ。後は個人で備える感じだ」
「おっけーおっけー。じゃーはるなも作ろっかな」
彼女が用意するのはチーズドリアである。バターライスにカレーを掛けたものだ。
「油と小麦粉に炭水化物ですか……」
「結構お腹膨れるよねー」
シルウィスが感心するように呟いた。この面子、半数以上がどうやって脱落者を出させるかに比重が行っている。いや、大会としては当然なのだが。
「あと、熱いからゆっくり食べなきゃいけない=お腹もいっぱいになり易い、って点もあるしぃ……はるなの計画、バッチリじゃん?」
可愛らしくもあくどい笑みに、ルーエルは引きつった笑みを返す。
そうして挑戦者をふるい落とすための準備が着々と進む中、ふとルーエルは気が付いた。
「……そういえば、イルムさんは何処に?」
という言葉にビクン!と肩を跳ねさせたのは、受付嬢イルムトラウト・イトゥリツァガ(kz0067)であった。
「ってそんなとこに。なにしてるんですか?」
「あ、いえ、下ごしらえのお手伝いを……」
歯切れの悪いイルムの言葉に、ルーエルは首を傾げる。
とかやっているうちにトーマスがやって来て、イルムを見て呟いた。
「もしかして、料理出来ないのかしら?」
「うっ」
イルムは胸を押さえた。
「えっマジ? イルムちゃん、なんでもできそーな顔してるのにぃ?」
「ううっ」
イルムは呻いた。最早隠し通すことは出来ない。来なきゃいいのに、人手不足だと聞いたらつい来てしまった。自業自得だ。せめて傷を浅く済ませるためにも、開き直らねばならない。
「お、お察しの通り、料理は何故か上達しないままでして……ロクに作れないわけでは……」
「……二十五でか?」
ロランの言葉で、イルムは撃沈した。
●
ついに祭りが始まった。
ひと通り料理が終わると、大食い大会の準備をしていたハンターたちにはしばらく休憩が出た。出すものが遅れないようにだけ注意してほしいとの事だ。
「さて、じゃあ俺は、立食パーティでも見てくるかな」
「奇遇ですね、私も行きますよ」
ロランとシルウィスは連れ立って立食パーティの方へと入った。
「リアルブルーの料理に興味が有るんでね。自分でも作れたら面白いだろう」
「私、気になります」
二人の目的は合致しているようで、シルウィスはどちらかと言えば食べる方に意識が向いていた。
「食べすぎちゃったらどうしましょう……? いやいや、体重のことは、今は考えないようにしましょうか……」
件のリアルブルーの料理は、主に武が提供していた。
「おや、お二人とも。お一つどうですか?」
といって武は皿を指し示した。肉じゃがやきんぴらごぼうに加えて、ニラ玉に唐揚げ、天ぷらもあった。
「きくらげに類する物があれば、もう一品いけそうだったんですが」
「へぇ……肉じゃがってやつ、どう作るんだ?」
「今は少々忙しいので、後でお教えしましょう。何でしたら手伝っていきますか?」
と指し示した調理場では、ミオレスカが肉を切っていた。
「玉ねぎとお肉の切り方も独特ですね」
リアルブルーの味を学ぼうとしているのが見て取れた。
「よし、俺も手伝おう。どうしたらいいんだ?」
ロランは腕まくりをして厨房へと踏み入る。
一方、シルウィスは食べ過ぎていた。
「このてんぷらというもの、美味しいですね……サクサクです。あっこの唐揚げも……」
数日後、お腹の肉を摘んで絶望する彼女がいるのだが、それはまた別の話だ。
はるなの手鞠寿司やクラッカーは好評だった。ディップの横に添えられた鮮やかな野菜が目を引いている。
「皆が美味しい、楽しいと思ってくれたら、超嬉しいよね~」
お客が皆笑顔で帰っていくのを、はるなも笑顔で見返していた。
エリスとフォークスのケバブも結構な人気を呼んでいた。持ち歩いて食べれるのが評価点のようだ。
「お待たせ致しました。どうぞ、召し上がってください」
「へい、おまち」
二人でなんとか捌ける量だが、これ以上人が増えたら応援を呼ぶしかないだろう。
めまぐるしく受付と調理場を往復する二人。その中で、ぽつりとフォークスは呟いた。
「懐かしいね、こういう雰囲気」
その言葉に対して、エリスは人の波が引くのを待ってから聞き返した。
「それは、故郷の?」
「……さぁて、どうだったかね」
はぐらかした彼女に、エリスは暫く何も言わずに手を動かした。それから、
「……作っていたらお腹が減りましたね」
とだけ口にした。
「お疲れ様、ルーエル君!」
レイン・レーネリル(ka2887)はルーエルを見つけるなりそう声をかけた。
「お腹空いてるでしょ?」
「あはは……。あれだけいい匂いの中で作業してると、いやでもお腹がすいちゃうもの……美味しそうな物、無いかなぁ」
顔を覗きこむレインに、ルーエルは苦笑して答えた。
正直に答えた彼に、レインは一つ頷いた。昼間随分頑張ったようだし、ご褒美は必要だろう。
「よっし、今日はおねーさんがご馳走してあげる!」
「いいの?」
「勿論! おねーさんに任せなさいっ」
それから、幾つかの露店を二人で回った。何れもとても美味しく、二人は満足であった。
ミオレスカの作った一口パイを頬張りながら、レインはふと口元に指を当てた。
「あ、そういえば、イルムさんいるのかな? 元気かな?」
「あぁ、うん、いるけど……」
ルーエルが指差す先では、イルムが無表情に酒をガバ飲みしていた。自棄っぽかった。
「……どしたの、あれ」
「まぁ、色々あったんだよ、うん」
触れないでおくのが彼の優しさであった。
●
大食い大会のエントリーは大方済んだようだ。
「ハンターとして、大会と名のつくものに参加しないわけにはいかねぇ! この大食い勝負……優勝は頂きだぁ!」
エヴァンス・カルヴィ(ka0639)は大声で名乗りを上げると、持ち込んだエールをぐいっと煽った。景気良くばらまかれた酒に、周囲からひゅーひゅーと声援があがる。他にも多くの参加者が名乗りをあげて、席についていた。
イルムが何故かほっとしていた。同僚が来ている可能性があったらしい、なるほど見栄かと一同は納得した。
ちょこちょことミオレスカが料理を配っていくのに向けて、エヴァンスは力こぶを作ってみせた。
「ふ、見てろミオレスカ。ここにある皿全部腹に入れる勢いで平らげてやっからな!」
「本当ですか?」
ミオレスカは目を丸くして彼を見た。
とかなんとかやっているうちに、火蓋は切って落とされた。
――ホットドッグからのチキンライスでは、脱落者は殆どいなかった。まぁ、予定調和ではある。
ということで、追加オーダーが入る。まずはシルウィスの謎カツである。謎とはいえ肉、軽い衣と裏腹に肉は重厚であり、脂分も多めだ。好評のうちにそれなりの量の挑戦者がこれを突破。興味本位の参加者がこの辺りで脱落していった。
「第一波にしては十分でしょう」
お皿を回収しながらシルウィスは呟いた。
続いては、トーマスの塩焼きそばだ。下準備した野菜をその場で炒めて味をつけ、麺と絡めて少々水分を飛ばせば完成である。
「しっかりと味わって食べてね。大食いだからって流し込むだけじゃ美しくないわよ?」
というトーマスの言葉と共に、焼きそばが並べられる。結構な量の炭水化物に、結構な量の脱落者が出始めた。が、まだ少数残っている。
「あら、全滅させるつもりだったのだけれど」
「これがこってりした味だったらヤバかったぜ……」
エヴァンスは呟いた。序盤の威勢はどこへやら、へばりつつあった。
続くロランのパンケーキ。
「大会後半だし、こういうのはどうかと思ってね」
ここにきての甘味は受け入れられ、残った挑戦者はなんとか食べきった。訪れた女性陣に好評だったので、ロランは後で立食会にも持ち込むことにした。
ただまぁ、この甘味も通過点でしかない。
「残したら、激おこなんだから!」
愛嬌たっぷりに言うはるなの、熱々のチーズドリアが待っているのだ。
エヴァンスの顔が引きつる。既に皆満腹、掻き込んでしまいたいこのタイミングでこれだ。エグい。
と、ミオレスカがにこにことエヴァンスの前に皿を置いた。
その皿が妙にデカいことに気付いたエヴァンスは、顔面からさーっと血の気が失せるのを感じた。
「いっぱい食べるって言うから……大盛サービスです!」
ミオレスカは花が咲くような笑みをエヴァンスに向けた。
この後脱落を宣言したエヴァンスを、果たしてミオレスカはどのような目で見ただろうか?
――ともあれ、祭りは大盛況のうちに幕を閉じた。
依頼結果
参加者一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 ミオレスカ(ka3496) エルフ|18才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2014/11/09 03:19:27 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/11/09 13:09:19 |