ゲスト
(ka0000)
チュースケの拾い物
マスター:奈華里

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/08/19 19:00
- 完成日
- 2017/08/27 18:54
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
中堅ハンター・バンデラのペットはハムスターである。
名前はチュースケ…なかなか賢いのであるが、その賢さはバンデラの悩みの種である。
それに加えて、生活を共にする事で見えてきたチュースケの性格は頑固だという事だ。
「なあ、チュースケ。いい加減それを返してくれないだろうか?」
バンデラの厳つい顔が今は情けなく見える。
対するチュースケは何処吹く風で…つぶらな瞳を輝かせ、手に抱えた小さな鍵を渡すまいと巣箱へ運んでゆく。
「はぁ~~全く、これだから」
毎朝の恒例行事となりつつあるこの鍵のやり取り。
長年使っている鍵で金属であるのだが、使い込んでいくうちに風合いが木に近付いているからかチュースケのお気に入りになってしまったらしい。ケージの掃除をしている最中に一旦部屋に放つ事をいい事に、決まってチュースケはその鍵を見つけ出し、引き摺っては巣箱やタンスの隙間に隠してしまうのだ。
「頼む。私もこれから仕事なのだ。これでは遅刻してしまう」
ペット相手にバンデラが手を合わせ懇願する。
しかし、チュースケにそれは通じない。バンデラは強く出る事も出来ず、その日は仕方なく留守を知り合いに任せて取り急ぎ仕事に向かい、次の日に渋々スペアを作って…それからは鍵はチュースケのコレクションとなったのは言うまでもない。
(甘いという事はわかっているのだがなぁ…)
知り合いに相談して、それでも躾はちゃんとしないと駄目だとお叱りを受けてきたバンデラが溜息をつく。
頭では判っていても、小動物に手を上げるのは大人としても人間としても間違っている気がするし、愛らしいあの姿を見ているとどうしても心の天秤が許す方に傾いてしまう。
だが、そんな彼に困った問題が発生する。それは鍵事件から二日後の事だった。
「ん? それは何処で拾ったのだ?」
たまにチュースケを連れて外出した日の夜の事。チュースケの手に赤い実を見つけて、彼が尋ねる。
だが、勿論の事チュースケが言葉を話す筈もなく、それに小さく首を傾げるばかり。その時はただの実だと思っていた彼であるが、翌朝も次の朝もその実が齧られた様子がなくて、流石に違和感を覚えた彼である。
(あれは確か木苺…ハムスターは食べないものなのだろうか? いや、食べないにしても腐敗が進んでいないような…)
巣箱の中のそれを覗き込み、まずは外見。少し艶が目立つのは気のせいか。
そうして次に触れてみて、彼はようやくある事に気付く。それは…。
「なんだと……これは、まさか宝石か」
精巧に作られていて判らなかったが、とても硬くよく見れば軸の部分に小さな穴。もしかすると、チェーンか何かを通すためのフックの様なものがそこについていたのかもしれない。
「いかん! こんなものを置いていては」
もし間違ってチュースケが飲み込んだら一発アウトだ。
それにこの宝石…とても手が込んでいるからなかなかの値打ちものと推測される。
(ここまで特徴のあるものならば落とし主が探しているやもしれん)
そこでひょいっとそれをつまんで取り上げる。
だがしかし、チュースケはそれを見逃さなかった。奪われると野生の勘が察知したのか、素早く駆けてくるとバンデラの指からその宝石を奪い、頬袋にしまってしまう。
「!?…駄目だ、チュースケ。そんなもの口に入れては」
『ちぅ』
バンデラの説得にいつもの顔のチュースケ。
「そんな顔をしても駄目だ。いいから吐き出せ! そうだ、出したらおやつをやろう…だから」
『……ちぅ』
必死に交渉に持ち込むもどうやらあれもチュースケのお気に入りに入ってしまったらしく、若干表情を曇らせてから一目散に部屋の隅へと逃げていく。
「ううむ、これは大変な事になったぞ」
ああなると意地でも手放さないチュースケだ。
大きさも鍵より小さいから何処かに隠されてしまえば発見は難しそうだ。
バンデラは一回深く息を吐き出して、一旦作戦を立てようと部屋を離れ行きつけの酒場で麦酒を煽る。
「なあ、聞いたか。あの噂」
そんな折、近くの二人組の話が耳に入って…よく聞けば些か嫌な予感がし始める。
「噂? なんのだよ?」
「宝石だよ、宝石。何でもとある宝石商の旦那が娘の為に特注したルビーのペンダントが無くなったってんで、今大捜索中でよぉ。懸賞金まで出てるから驚きだろう?」
「へぇ、それは大変だなぁ。でそれは盗まれたのか?」
普通考えれば確かに。懸賞が掛かる位となれば名のある盗賊かとバンデラも推測する。だが、話は違うようで。
「いや、どうやら加工ミスがあったとかでペンダントトップの部分だけが抜け落ちたんだと。今、見つけりゃぼろもうけだぜ? 探してみねぇか、木苺の形の…」
「ブッーーーーーーーーッ!?!」
そこでバンデラは豪快に麦酒を噴き出した。
(い、今…木苺の……と言ったか。とすると、チュースケのあれは…)
間違いない。しかし、一体どうすれば――?
ハンター歴の長い彼であるが、ペットとの付き合い方はまだひよっこの彼であった。
名前はチュースケ…なかなか賢いのであるが、その賢さはバンデラの悩みの種である。
それに加えて、生活を共にする事で見えてきたチュースケの性格は頑固だという事だ。
「なあ、チュースケ。いい加減それを返してくれないだろうか?」
バンデラの厳つい顔が今は情けなく見える。
対するチュースケは何処吹く風で…つぶらな瞳を輝かせ、手に抱えた小さな鍵を渡すまいと巣箱へ運んでゆく。
「はぁ~~全く、これだから」
毎朝の恒例行事となりつつあるこの鍵のやり取り。
長年使っている鍵で金属であるのだが、使い込んでいくうちに風合いが木に近付いているからかチュースケのお気に入りになってしまったらしい。ケージの掃除をしている最中に一旦部屋に放つ事をいい事に、決まってチュースケはその鍵を見つけ出し、引き摺っては巣箱やタンスの隙間に隠してしまうのだ。
「頼む。私もこれから仕事なのだ。これでは遅刻してしまう」
ペット相手にバンデラが手を合わせ懇願する。
しかし、チュースケにそれは通じない。バンデラは強く出る事も出来ず、その日は仕方なく留守を知り合いに任せて取り急ぎ仕事に向かい、次の日に渋々スペアを作って…それからは鍵はチュースケのコレクションとなったのは言うまでもない。
(甘いという事はわかっているのだがなぁ…)
知り合いに相談して、それでも躾はちゃんとしないと駄目だとお叱りを受けてきたバンデラが溜息をつく。
頭では判っていても、小動物に手を上げるのは大人としても人間としても間違っている気がするし、愛らしいあの姿を見ているとどうしても心の天秤が許す方に傾いてしまう。
だが、そんな彼に困った問題が発生する。それは鍵事件から二日後の事だった。
「ん? それは何処で拾ったのだ?」
たまにチュースケを連れて外出した日の夜の事。チュースケの手に赤い実を見つけて、彼が尋ねる。
だが、勿論の事チュースケが言葉を話す筈もなく、それに小さく首を傾げるばかり。その時はただの実だと思っていた彼であるが、翌朝も次の朝もその実が齧られた様子がなくて、流石に違和感を覚えた彼である。
(あれは確か木苺…ハムスターは食べないものなのだろうか? いや、食べないにしても腐敗が進んでいないような…)
巣箱の中のそれを覗き込み、まずは外見。少し艶が目立つのは気のせいか。
そうして次に触れてみて、彼はようやくある事に気付く。それは…。
「なんだと……これは、まさか宝石か」
精巧に作られていて判らなかったが、とても硬くよく見れば軸の部分に小さな穴。もしかすると、チェーンか何かを通すためのフックの様なものがそこについていたのかもしれない。
「いかん! こんなものを置いていては」
もし間違ってチュースケが飲み込んだら一発アウトだ。
それにこの宝石…とても手が込んでいるからなかなかの値打ちものと推測される。
(ここまで特徴のあるものならば落とし主が探しているやもしれん)
そこでひょいっとそれをつまんで取り上げる。
だがしかし、チュースケはそれを見逃さなかった。奪われると野生の勘が察知したのか、素早く駆けてくるとバンデラの指からその宝石を奪い、頬袋にしまってしまう。
「!?…駄目だ、チュースケ。そんなもの口に入れては」
『ちぅ』
バンデラの説得にいつもの顔のチュースケ。
「そんな顔をしても駄目だ。いいから吐き出せ! そうだ、出したらおやつをやろう…だから」
『……ちぅ』
必死に交渉に持ち込むもどうやらあれもチュースケのお気に入りに入ってしまったらしく、若干表情を曇らせてから一目散に部屋の隅へと逃げていく。
「ううむ、これは大変な事になったぞ」
ああなると意地でも手放さないチュースケだ。
大きさも鍵より小さいから何処かに隠されてしまえば発見は難しそうだ。
バンデラは一回深く息を吐き出して、一旦作戦を立てようと部屋を離れ行きつけの酒場で麦酒を煽る。
「なあ、聞いたか。あの噂」
そんな折、近くの二人組の話が耳に入って…よく聞けば些か嫌な予感がし始める。
「噂? なんのだよ?」
「宝石だよ、宝石。何でもとある宝石商の旦那が娘の為に特注したルビーのペンダントが無くなったってんで、今大捜索中でよぉ。懸賞金まで出てるから驚きだろう?」
「へぇ、それは大変だなぁ。でそれは盗まれたのか?」
普通考えれば確かに。懸賞が掛かる位となれば名のある盗賊かとバンデラも推測する。だが、話は違うようで。
「いや、どうやら加工ミスがあったとかでペンダントトップの部分だけが抜け落ちたんだと。今、見つけりゃぼろもうけだぜ? 探してみねぇか、木苺の形の…」
「ブッーーーーーーーーッ!?!」
そこでバンデラは豪快に麦酒を噴き出した。
(い、今…木苺の……と言ったか。とすると、チュースケのあれは…)
間違いない。しかし、一体どうすれば――?
ハンター歴の長い彼であるが、ペットとの付き合い方はまだひよっこの彼であった。
リプレイ本文
●役目
バンデラの部屋は割と狭い。まあ、一人暮らしであるからそれも当たり前の事だろう。
ごくありふれた部屋の造りは以下の通り。リビングからはキッチンが見え、寝室は扉で区切られている。その他には風呂とトイレが完備されているというシンプルなものだ。バンデラ自身もそれ程モノにこだわるタイプではないから、最低限の衣類しかなく部屋はとても片付いているように見える。
「思ったより綺麗なお部屋ですね」
ギィと床板が音を立てたのを機に慎重な足運びを心掛けながらフィロ(ka6966)が言う。
(あれ、僕とそれ程変わらない気がするのに何故だろう?)
その軋みに疑問を感じたのはシバ・ミラージュ(ka2094)だ。自分とフィロを見比べて僅かに首を傾げる。
「さあて、んじゃまずはバンデラ! お前からだ」
がしっと肩に手を伸ばしてトリプルJ(ka6653)ことジョナサン・ジュード・ジョンストンが同職のバンデラを捕まえる。その想いもよらない行動に僅かに瞬きをしたバンデラであるが、話を聞けば彼のやり方が気に入らないらしい。
「あんた、俺と同じ中堅だよなぁ。だったら何でブロウビートやファントムハンドを使わねぇんだ?」
飼い主ならばペットの環境作りや躾は何を使ってもちゃんとすべきだと彼は思う。
つまりはハンターとしてのスキルを使ってでもやる時はやるべきだと言いたいらしい。
「まさか使えない訳じゃあねぇだろう?」
バンデラよりも引き締まった筋肉のJが彼に問い質す。
「確かにそれが一番手っ取り早い方法かと思います。ご主人様がどうしてそれをなさらなかったのか、理由がおありでしたら聞かせて下さいませ」
フィロもそれに同意して、静かに尋ねる。
ちなみに余談であるが、彼女がバンデラをご主人様と言ったのには理由がある。彼女実はオートマトンなのだ。そう言う訳で体重もかなりあり、床を軋ませたのであるがシバは全くもってそれに気付いてはいない。
「それは……」
「それは?」
「そんな事大人げないではないか。それにだ。一般の家庭ではスキルなど必要としていない訳だろう。という事はスキルを使わなくとも何かしらうまくすれば穏便に済ませられるという事ではないだろうか? それに、もし能力を使ってチュースケに怖がられたりしたら私は…私は…」
ううっと大きな体を縮こまらせ彼が返す。
「はぁ~全く。おまえそれでも男かよ…まあいいぜ。おまえがどれだけチュースケを思っているのかはよく判った」
とこれはバンデラの女性版ともいえるいいガタイのボルディア・コンフラムス(ka0796)だ。情けないと思うも判らいでもない。
「とりあえず色々聞かせてくれないか? この頑固で生意気そうな可愛いハムスターと交渉する為だ。好みや癖位は把握してるんだろ?」
ヴァイス(ka0364)がチュースケのケージを覗き込みながら言う。
「ああ、勿論だとも。その手の話ならば幾らでも」
「いや、永遠にされても困るから…」
目の輝きが変わった事に気付いてアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)がぼそりと付け加える。
「ではひとまず貴重なタンパク源……もとい、チュースケさんのお話を聞くとしましょう」
ニコニコ笑顔でさらりと何かおかしな事を口走ったシバであったが、それをあえてスルーする仲間達であった。
そして、話し合うと同時にそれぞれの行動が決定していく。
とにかく穏便に何とかしたいバンデラの意志を組んでスキルでの強引なやり方は最終手段に回し、まずは今まで隠されたものの捜索とその場所の今後の利用が出来ない様封鎖する作業を開始する事となる。ただ、それでもやはり勝手に持っていっても無理矢理感が出てしまうので、一芝居。
(ふふっ、ついにこの時が来ました。少し緊張してしまいますが頑張らねば…)
シバはそっと死角に身を潜める。そうして、チュースケを部屋に放つと同時に隠れていた陰から飛び出して…。
「ヒャッハ―! 鼠の隠した宝石を貰いに来たぜー!」
「ぜー」
シバの後ろには棒読みのヴァイス。彼の隣りには彼のペットである柴犬のワンコがいたりする。
そんな二人と一匹を見つけて、チュースケは思わずフリーズした。
それもその筈二人の姿がとても奇妙なのだ。まるごとぜんらを身に纏い(ヴァイスの分はバンデラの押入れにあったモノ)、シバは水中眼鏡装着の釘バットを装備した格好。ヴァイスはまるごとぜんらに龍冠と鍋の蓋を装備しているのだ。普通の人間が見たとしても訳が判らず、フリーズしてしまうに違いない。
(あぁ…何で俺がこんな事……あぁ、ワンコ。そんな目で見るなよ)
不思議な顔で自分を見上げるワンコの瞳にヴァイスが視線を逸らす。だが、シバの方は発案者だけにノリノリだ。
「さぁ、そこの鼠ぃ! 今からおまえのお宝を頂くから覚悟しなぁ~」
釘バッドの釘を嘗める様な演技を大袈裟にして見せて、控えているヴァイスに視線を送る。そうなればもう逃げられない。乗り掛かった舟とばかりにヴァイスも精一杯の演技を見せるのみ。
(これでも舞台に上がった経験はあるんだ。自信を持ってやるしかない)
そう腹を括って、以前の経験を活かして本気の立ち回り。
「いいかァ、今から俺の魔獣がお前のお宝を簡単に見つけるんだからなッ、覚悟しろよぉヒャハハ!」
大袈裟にそう演じて少しばかり戸惑いつつもワンコはチュースケの匂いを頼りに『お宝』探査を始める。
「…ふ、ふふっ。笑っちゃいけないのは解ってるんだけどね」
「流石にあの衣装では…く、くくっ、あははははっ」
キッチンの影から様子を窺っていた残りの面子がそれぞれに笑いを堪える。
(クッ……あいつら…後で見てろよぉ)
ヴァイスはそう思いながら、ここは忍耐で演技を続けるのだった。
●餌付交渉
そして十数分ののち、ワンコの嗅覚によって数々のチュースケのお宝が発見される。
問題の宝石は勿論の事、鍵にボタンに、中には何処で拾ったのかおはじきまで雑じっている。
「ありゃあ、確かに凄いなぁ」
Jがそれを遠目に確認して呟く。
「ハムスターというのは基本的にどの種も冬眠に備えて巣箱に蓄える習性があると本に書いていましたから、もしかするとチュースケさんもその為かと」
フィロが覚えてきた知識をここで披露する。
「餌でもないのに? 判断がつかないとは思えないけど…」
「まぁ、趣味的なものももしかしたらあるのかもな」
その意見に疑問を抱くアルトにボルディアの推測。小さな脳みそでどこまで判っているかは謎であるが、眼前に並べられたお宝の数々に思わずきょろきょろ。興味を示している事を知り、シバが芝居を続行する。
「どうだ。我々にかかればこの程度造作もない事ぉ~、全部我々が頂いていくぞぉ」
『ちぅ!?』
そうして集まったお宝を掬い上げると颯爽と出口へ。それに気付いて、チュースケが動いた。
しゃかしゃかと小さな手足を動かし、持ち去ろうとしたシバの手に登ると慌てて一部を頬袋にしまい込む。
「ちょっと待て~い」
その時だった。バンデラが二人と一匹の泥棒を止めるよう通路に割って入って、その声にチュースケも顔を上げ、視線をバンデラに向ける。
(よし、いけるっ)
ヴァイスが心の中で確信した。そして、
「チッ、家主が戻ったか! ココは逃げるぞ、ワンコ!」
ヴァイスが先にその場を離脱する。して残されたシバはバンデラの睨みに恐れをなして、持っていたものを投げ捨てはけてゆく。そうして部屋に残るは飼い主とペット。優しく投げ出されたチュースケをそっと受け止め、バンデラとチュースケが見つめ合う。
「大丈夫か、チュースケ」
『ちぅ…』
「感動的だね。後もう一押しかな」
それを見計らって、待機していたアルトが自然に割って入る。
「チュースケはバンデラの事好き?」
その問いにちらりと視線を映すチュースケ。意味は理解していないだろうが、声に反応しアルトを見る。
「もし好きだと思っているなら少しだけ話を聞いてくれないかな?」
そう言い取り出したのはチュースケの好きなお野菜とナッツ類。事前にバンデラから聞き、新鮮で美味しいと評判のモノを取り揃えてきたらしい。
「その口に入ってるものはバンデラにとっても大事なもんが多いんだ。これらと取り換えてくれねぇか?」
とこれはボルディアだ。彼女は食べ物に加えて、チュースケが好きそうなきらきらする玩具を仕入れて来ていたらしく、アルト同様チュースケの前に広げ説得を試みる。
「なあ、頼む。チュースケ…せめてあの宝石だけでも」
バンデラもそうチュースケにお願いした。すると、どうだろう。気持ちが伝わったのか、床に下ろされると同時に口の中に入れた筈の物を取り出し始める。
「ちょっ、嘘だろ?」
人間の言葉が判る筈はない。筈はないのだが何を思ったかチュースケは一度取り出し、広げられた品々を品定めするようにうろうろし始める。
「不思議ですねー…」
本になかった行動にフィロが目を丸くする。
「おい、見てる場合か。今のうちに塞ぐぞ」
「あ、はい。そうでした」
その間に先程判明したお宝置き場を確認して、そこへの通路を封鎖しにJとフィロが動き出す。
勿論賃貸だから壁に直接とはいかないが、それでも狭い場所にモノを隠さないよう判った場所の隙間に板を挟んだり簡易的な壁を板で作ったりして塞いでゆく。
「お、また動き出したぞ」
そんなチュースケを泥棒役も変装を解いてこっそり観覧。
チュースケは沢山のご馳走と玩具に目移りしていたが、やはり食べ物第一なのか硬いものを頬袋に仕舞いつつ、時折葉物野菜を齧って見せる。
「可愛いよね~…」
愛らしい仕草に思わずアルトが和む。
「だろう。うちのチュースケは素晴らしく可愛いのだ」
とこれはバンデラだ。顔の筋肉が緩み切ってしまっている。
「はっ、頑固なハムスターって聞いてたが、そうでもないじゃねえか」
ボルディアも依頼を受けた当初はどんなもんかと思っていたがその様子にホッとしているようだ。
「フムフム、鼠さんはこうして大きくなる訳ですね…うちでも繁殖させてそして」
じっと観察していたシバがぼそりと呟く。その言葉にぴたりと動きを止めたチュースケがいて、思わず他の面子も動きを止めてしまうのであった。
●オスの性
野生の勘というのは侮れない。弱肉強食の世界で生きる生き物はそれが鋭いと聞く。
生命の危機を感じたチュースケもその一匹だった。シバの瞳…それは始めからペットを愛でる目ではなかった。だから登場した時も動きを停止してしまったのかもしれない。
『ち、ちぅ!』
何かを悟ってチュースケは慌てて残りのものをえりすぐり、宝石を口に咥えケージへと駆けてゆく。
その早さたるやハムスターとは思えない程俊敏さで人間達は出遅れる。
「いけねぇっ、また持ってかれた!」
ボルディアが慌ててチュースケを追う。
けれど、行先は既に道は塞がれているから、隠す場所としては巣箱しかあり得ない。
「まあ、あそこならば取り返す事は容易いが…」
無断で取り去るのにまだ抵抗があるのだろうバンデラが眉をしかめる。
「あぁ、もう仕方ないなぁ…最終手段だね」
そこで渋々動いたのはアルトだった。
シバには一旦退場して貰って、替わりに部屋の外に待たせていた女性を中へと呼び込む。
「その方は?」
「宝石商の娘さん…訳を話して来て貰ったんだよ。チュースケ君の事を話したら会ってみたいって言ってくれたから」
肩までのブラウンの髪が印象的な優しい雰囲気の十代後半の女性が皆に小さく会釈する。そして、早速逃げ込んだケージを覗き込む。
「フフッ、可愛い子…怯えなくってもよくってよ」
穏やかな声音で娘さんがそう声をかける。
するとさっきとは打って変わって、チュースケは巣箱の中から彼女を見上げる。
その瞬間、何かが動いた気がした。チュースケは咥えていた宝石を取り落とし、頻りに顔をくしくしする。
「……あー、もしかしてチュースケってオスか?」
何となく恥ずかしがっているように見えてヴァイスが尋ねる。それに首を縦に振るバンデラを見て、皆は悟る。
人の世界も動物の世界もどうやら異性には弱いらしい。
「あらあら、お可愛い。そんなに照れなくていいのよ」
宝石商の娘がそう言うと更に中に入り、背を向ける。
「ええーと、チュースケ。この宝石は貰って構わないのか?」
ぽとりと巣箱前に落とされてモノを拾い上げボルディアが問う。
それに返事はなく、しかし彼女が拾い上げるとハッとして巣箱の前へ。
だが、娘に渡されるとチュースケは見つめたまま、取り戻そうとはしない。
「ゴメンナサイね、チュースケさん。でもこれはお父様から頂いた大事なものだから」
娘が言う。それを見つめるチュースケは納得しているのかいないのか。つぶらの瞳を彼女に向けるだけだ。
「代わりにこれを上げるから許してね。気に入って貰えるといいんだけれど」
そんな彼に彼女が取り出したのは向日葵の種だった。器もどことなく高そうなものに見受けられる。
『ちぅ!』
それをチュースケは気に入った様だった。
ケージ内に置かれると同時にせっせとまた頬袋経由で巣箱に運んでゆく。
「あぁ…全くなんだったのだ。私の苦労は…」
バンデラがガクリと項垂れる。そんな彼をハンターらも苦笑して見守る他なかった。
そうして、家の掃除兼リフォームが済んで依頼は無事解決を迎える。
その結末はとても意外なものとなってしまったが、二人の仲が壊れた訳ではないからひとまず成功といったところだろう。
「いいか。もっと飼い主らしく強気に出る事も時に必要だ、いいな」
今回は仕方なく意見をのんで方針を柔らかな方に譲ったが、このままでは駄目だとJがバンデラに忠告する。
「う、うむ…肝に銘じておこう」
そう言う彼であるが、多分あまり変わらないのではないかと思う。
しかし、彼の躾方法にも光が差し始めた。というのもあの後娘さんに話を聞けば、彼女も長年ハムスターを飼ってきているそうで困った事があれば相談にのると言ってくれたのだ。これは願ってもない申し出――先輩がいれば頼もしいかろう。年下の先輩にはなるが、硬派なバンデラの事。下心なしに純粋にハムスター飼育の先輩として彼女を頼りにしたいと思っている。
「まあ、とりあえず一見落着ってな。皆取るぜ~」
ボルディアが皆を集めて記念写真を撮る。
「はぁ~至福の時だ。もっともふもふさせてくれ~」
ヴァイスはチュースケを手に乗せて、ゆっくりじっくり撫でて笑顔を見せる。
動物は人を癒すと言うが、あの時の恥ずかしい思いも今のヴァイスの中ではもう過去の事となっていて…チュースケも大好きなおやつを頬張りながら今回の一件も何処吹く風。けろっとした様子でレンズの方を見つめているのだった。
バンデラの部屋は割と狭い。まあ、一人暮らしであるからそれも当たり前の事だろう。
ごくありふれた部屋の造りは以下の通り。リビングからはキッチンが見え、寝室は扉で区切られている。その他には風呂とトイレが完備されているというシンプルなものだ。バンデラ自身もそれ程モノにこだわるタイプではないから、最低限の衣類しかなく部屋はとても片付いているように見える。
「思ったより綺麗なお部屋ですね」
ギィと床板が音を立てたのを機に慎重な足運びを心掛けながらフィロ(ka6966)が言う。
(あれ、僕とそれ程変わらない気がするのに何故だろう?)
その軋みに疑問を感じたのはシバ・ミラージュ(ka2094)だ。自分とフィロを見比べて僅かに首を傾げる。
「さあて、んじゃまずはバンデラ! お前からだ」
がしっと肩に手を伸ばしてトリプルJ(ka6653)ことジョナサン・ジュード・ジョンストンが同職のバンデラを捕まえる。その想いもよらない行動に僅かに瞬きをしたバンデラであるが、話を聞けば彼のやり方が気に入らないらしい。
「あんた、俺と同じ中堅だよなぁ。だったら何でブロウビートやファントムハンドを使わねぇんだ?」
飼い主ならばペットの環境作りや躾は何を使ってもちゃんとすべきだと彼は思う。
つまりはハンターとしてのスキルを使ってでもやる時はやるべきだと言いたいらしい。
「まさか使えない訳じゃあねぇだろう?」
バンデラよりも引き締まった筋肉のJが彼に問い質す。
「確かにそれが一番手っ取り早い方法かと思います。ご主人様がどうしてそれをなさらなかったのか、理由がおありでしたら聞かせて下さいませ」
フィロもそれに同意して、静かに尋ねる。
ちなみに余談であるが、彼女がバンデラをご主人様と言ったのには理由がある。彼女実はオートマトンなのだ。そう言う訳で体重もかなりあり、床を軋ませたのであるがシバは全くもってそれに気付いてはいない。
「それは……」
「それは?」
「そんな事大人げないではないか。それにだ。一般の家庭ではスキルなど必要としていない訳だろう。という事はスキルを使わなくとも何かしらうまくすれば穏便に済ませられるという事ではないだろうか? それに、もし能力を使ってチュースケに怖がられたりしたら私は…私は…」
ううっと大きな体を縮こまらせ彼が返す。
「はぁ~全く。おまえそれでも男かよ…まあいいぜ。おまえがどれだけチュースケを思っているのかはよく判った」
とこれはバンデラの女性版ともいえるいいガタイのボルディア・コンフラムス(ka0796)だ。情けないと思うも判らいでもない。
「とりあえず色々聞かせてくれないか? この頑固で生意気そうな可愛いハムスターと交渉する為だ。好みや癖位は把握してるんだろ?」
ヴァイス(ka0364)がチュースケのケージを覗き込みながら言う。
「ああ、勿論だとも。その手の話ならば幾らでも」
「いや、永遠にされても困るから…」
目の輝きが変わった事に気付いてアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)がぼそりと付け加える。
「ではひとまず貴重なタンパク源……もとい、チュースケさんのお話を聞くとしましょう」
ニコニコ笑顔でさらりと何かおかしな事を口走ったシバであったが、それをあえてスルーする仲間達であった。
そして、話し合うと同時にそれぞれの行動が決定していく。
とにかく穏便に何とかしたいバンデラの意志を組んでスキルでの強引なやり方は最終手段に回し、まずは今まで隠されたものの捜索とその場所の今後の利用が出来ない様封鎖する作業を開始する事となる。ただ、それでもやはり勝手に持っていっても無理矢理感が出てしまうので、一芝居。
(ふふっ、ついにこの時が来ました。少し緊張してしまいますが頑張らねば…)
シバはそっと死角に身を潜める。そうして、チュースケを部屋に放つと同時に隠れていた陰から飛び出して…。
「ヒャッハ―! 鼠の隠した宝石を貰いに来たぜー!」
「ぜー」
シバの後ろには棒読みのヴァイス。彼の隣りには彼のペットである柴犬のワンコがいたりする。
そんな二人と一匹を見つけて、チュースケは思わずフリーズした。
それもその筈二人の姿がとても奇妙なのだ。まるごとぜんらを身に纏い(ヴァイスの分はバンデラの押入れにあったモノ)、シバは水中眼鏡装着の釘バットを装備した格好。ヴァイスはまるごとぜんらに龍冠と鍋の蓋を装備しているのだ。普通の人間が見たとしても訳が判らず、フリーズしてしまうに違いない。
(あぁ…何で俺がこんな事……あぁ、ワンコ。そんな目で見るなよ)
不思議な顔で自分を見上げるワンコの瞳にヴァイスが視線を逸らす。だが、シバの方は発案者だけにノリノリだ。
「さぁ、そこの鼠ぃ! 今からおまえのお宝を頂くから覚悟しなぁ~」
釘バッドの釘を嘗める様な演技を大袈裟にして見せて、控えているヴァイスに視線を送る。そうなればもう逃げられない。乗り掛かった舟とばかりにヴァイスも精一杯の演技を見せるのみ。
(これでも舞台に上がった経験はあるんだ。自信を持ってやるしかない)
そう腹を括って、以前の経験を活かして本気の立ち回り。
「いいかァ、今から俺の魔獣がお前のお宝を簡単に見つけるんだからなッ、覚悟しろよぉヒャハハ!」
大袈裟にそう演じて少しばかり戸惑いつつもワンコはチュースケの匂いを頼りに『お宝』探査を始める。
「…ふ、ふふっ。笑っちゃいけないのは解ってるんだけどね」
「流石にあの衣装では…く、くくっ、あははははっ」
キッチンの影から様子を窺っていた残りの面子がそれぞれに笑いを堪える。
(クッ……あいつら…後で見てろよぉ)
ヴァイスはそう思いながら、ここは忍耐で演技を続けるのだった。
●餌付交渉
そして十数分ののち、ワンコの嗅覚によって数々のチュースケのお宝が発見される。
問題の宝石は勿論の事、鍵にボタンに、中には何処で拾ったのかおはじきまで雑じっている。
「ありゃあ、確かに凄いなぁ」
Jがそれを遠目に確認して呟く。
「ハムスターというのは基本的にどの種も冬眠に備えて巣箱に蓄える習性があると本に書いていましたから、もしかするとチュースケさんもその為かと」
フィロが覚えてきた知識をここで披露する。
「餌でもないのに? 判断がつかないとは思えないけど…」
「まぁ、趣味的なものももしかしたらあるのかもな」
その意見に疑問を抱くアルトにボルディアの推測。小さな脳みそでどこまで判っているかは謎であるが、眼前に並べられたお宝の数々に思わずきょろきょろ。興味を示している事を知り、シバが芝居を続行する。
「どうだ。我々にかかればこの程度造作もない事ぉ~、全部我々が頂いていくぞぉ」
『ちぅ!?』
そうして集まったお宝を掬い上げると颯爽と出口へ。それに気付いて、チュースケが動いた。
しゃかしゃかと小さな手足を動かし、持ち去ろうとしたシバの手に登ると慌てて一部を頬袋にしまい込む。
「ちょっと待て~い」
その時だった。バンデラが二人と一匹の泥棒を止めるよう通路に割って入って、その声にチュースケも顔を上げ、視線をバンデラに向ける。
(よし、いけるっ)
ヴァイスが心の中で確信した。そして、
「チッ、家主が戻ったか! ココは逃げるぞ、ワンコ!」
ヴァイスが先にその場を離脱する。して残されたシバはバンデラの睨みに恐れをなして、持っていたものを投げ捨てはけてゆく。そうして部屋に残るは飼い主とペット。優しく投げ出されたチュースケをそっと受け止め、バンデラとチュースケが見つめ合う。
「大丈夫か、チュースケ」
『ちぅ…』
「感動的だね。後もう一押しかな」
それを見計らって、待機していたアルトが自然に割って入る。
「チュースケはバンデラの事好き?」
その問いにちらりと視線を映すチュースケ。意味は理解していないだろうが、声に反応しアルトを見る。
「もし好きだと思っているなら少しだけ話を聞いてくれないかな?」
そう言い取り出したのはチュースケの好きなお野菜とナッツ類。事前にバンデラから聞き、新鮮で美味しいと評判のモノを取り揃えてきたらしい。
「その口に入ってるものはバンデラにとっても大事なもんが多いんだ。これらと取り換えてくれねぇか?」
とこれはボルディアだ。彼女は食べ物に加えて、チュースケが好きそうなきらきらする玩具を仕入れて来ていたらしく、アルト同様チュースケの前に広げ説得を試みる。
「なあ、頼む。チュースケ…せめてあの宝石だけでも」
バンデラもそうチュースケにお願いした。すると、どうだろう。気持ちが伝わったのか、床に下ろされると同時に口の中に入れた筈の物を取り出し始める。
「ちょっ、嘘だろ?」
人間の言葉が判る筈はない。筈はないのだが何を思ったかチュースケは一度取り出し、広げられた品々を品定めするようにうろうろし始める。
「不思議ですねー…」
本になかった行動にフィロが目を丸くする。
「おい、見てる場合か。今のうちに塞ぐぞ」
「あ、はい。そうでした」
その間に先程判明したお宝置き場を確認して、そこへの通路を封鎖しにJとフィロが動き出す。
勿論賃貸だから壁に直接とはいかないが、それでも狭い場所にモノを隠さないよう判った場所の隙間に板を挟んだり簡易的な壁を板で作ったりして塞いでゆく。
「お、また動き出したぞ」
そんなチュースケを泥棒役も変装を解いてこっそり観覧。
チュースケは沢山のご馳走と玩具に目移りしていたが、やはり食べ物第一なのか硬いものを頬袋に仕舞いつつ、時折葉物野菜を齧って見せる。
「可愛いよね~…」
愛らしい仕草に思わずアルトが和む。
「だろう。うちのチュースケは素晴らしく可愛いのだ」
とこれはバンデラだ。顔の筋肉が緩み切ってしまっている。
「はっ、頑固なハムスターって聞いてたが、そうでもないじゃねえか」
ボルディアも依頼を受けた当初はどんなもんかと思っていたがその様子にホッとしているようだ。
「フムフム、鼠さんはこうして大きくなる訳ですね…うちでも繁殖させてそして」
じっと観察していたシバがぼそりと呟く。その言葉にぴたりと動きを止めたチュースケがいて、思わず他の面子も動きを止めてしまうのであった。
●オスの性
野生の勘というのは侮れない。弱肉強食の世界で生きる生き物はそれが鋭いと聞く。
生命の危機を感じたチュースケもその一匹だった。シバの瞳…それは始めからペットを愛でる目ではなかった。だから登場した時も動きを停止してしまったのかもしれない。
『ち、ちぅ!』
何かを悟ってチュースケは慌てて残りのものをえりすぐり、宝石を口に咥えケージへと駆けてゆく。
その早さたるやハムスターとは思えない程俊敏さで人間達は出遅れる。
「いけねぇっ、また持ってかれた!」
ボルディアが慌ててチュースケを追う。
けれど、行先は既に道は塞がれているから、隠す場所としては巣箱しかあり得ない。
「まあ、あそこならば取り返す事は容易いが…」
無断で取り去るのにまだ抵抗があるのだろうバンデラが眉をしかめる。
「あぁ、もう仕方ないなぁ…最終手段だね」
そこで渋々動いたのはアルトだった。
シバには一旦退場して貰って、替わりに部屋の外に待たせていた女性を中へと呼び込む。
「その方は?」
「宝石商の娘さん…訳を話して来て貰ったんだよ。チュースケ君の事を話したら会ってみたいって言ってくれたから」
肩までのブラウンの髪が印象的な優しい雰囲気の十代後半の女性が皆に小さく会釈する。そして、早速逃げ込んだケージを覗き込む。
「フフッ、可愛い子…怯えなくってもよくってよ」
穏やかな声音で娘さんがそう声をかける。
するとさっきとは打って変わって、チュースケは巣箱の中から彼女を見上げる。
その瞬間、何かが動いた気がした。チュースケは咥えていた宝石を取り落とし、頻りに顔をくしくしする。
「……あー、もしかしてチュースケってオスか?」
何となく恥ずかしがっているように見えてヴァイスが尋ねる。それに首を縦に振るバンデラを見て、皆は悟る。
人の世界も動物の世界もどうやら異性には弱いらしい。
「あらあら、お可愛い。そんなに照れなくていいのよ」
宝石商の娘がそう言うと更に中に入り、背を向ける。
「ええーと、チュースケ。この宝石は貰って構わないのか?」
ぽとりと巣箱前に落とされてモノを拾い上げボルディアが問う。
それに返事はなく、しかし彼女が拾い上げるとハッとして巣箱の前へ。
だが、娘に渡されるとチュースケは見つめたまま、取り戻そうとはしない。
「ゴメンナサイね、チュースケさん。でもこれはお父様から頂いた大事なものだから」
娘が言う。それを見つめるチュースケは納得しているのかいないのか。つぶらの瞳を彼女に向けるだけだ。
「代わりにこれを上げるから許してね。気に入って貰えるといいんだけれど」
そんな彼に彼女が取り出したのは向日葵の種だった。器もどことなく高そうなものに見受けられる。
『ちぅ!』
それをチュースケは気に入った様だった。
ケージ内に置かれると同時にせっせとまた頬袋経由で巣箱に運んでゆく。
「あぁ…全くなんだったのだ。私の苦労は…」
バンデラがガクリと項垂れる。そんな彼をハンターらも苦笑して見守る他なかった。
そうして、家の掃除兼リフォームが済んで依頼は無事解決を迎える。
その結末はとても意外なものとなってしまったが、二人の仲が壊れた訳ではないからひとまず成功といったところだろう。
「いいか。もっと飼い主らしく強気に出る事も時に必要だ、いいな」
今回は仕方なく意見をのんで方針を柔らかな方に譲ったが、このままでは駄目だとJがバンデラに忠告する。
「う、うむ…肝に銘じておこう」
そう言う彼であるが、多分あまり変わらないのではないかと思う。
しかし、彼の躾方法にも光が差し始めた。というのもあの後娘さんに話を聞けば、彼女も長年ハムスターを飼ってきているそうで困った事があれば相談にのると言ってくれたのだ。これは願ってもない申し出――先輩がいれば頼もしいかろう。年下の先輩にはなるが、硬派なバンデラの事。下心なしに純粋にハムスター飼育の先輩として彼女を頼りにしたいと思っている。
「まあ、とりあえず一見落着ってな。皆取るぜ~」
ボルディアが皆を集めて記念写真を撮る。
「はぁ~至福の時だ。もっともふもふさせてくれ~」
ヴァイスはチュースケを手に乗せて、ゆっくりじっくり撫でて笑顔を見せる。
動物は人を癒すと言うが、あの時の恥ずかしい思いも今のヴァイスの中ではもう過去の事となっていて…チュースケも大好きなおやつを頬張りながら今回の一件も何処吹く風。けろっとした様子でレンズの方を見つめているのだった。
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飼い主&飼いネズミ躾講座? トリプルJ(ka6653) 人間(リアルブルー)|26才|男性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2017/08/18 15:15:58 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/08/18 15:15:46 |