辺境戦線――。
　激戦の末、怠惰の軍勢を北へ後退させることに成功したハンター達。
　しかしながら現在も怠惰の小部隊による南への散発的な攻撃は続いていた……。

　そこで部族会議はマギア砦を防衛拠点として再整備することを決定。
　それに際し、連合軍に打診を行った。……結果として作業員の他、一人の軍人が派遣されることとなる。

　＊＊＊

「ここがマギア砦ですか……戦闘の傷跡は深いですね」
　ホープ駐留部隊より、一機のＣＡＭと共に、マギア砦の修復の陣頭指揮を任され派遣された一人の青年将校が呟く。
　彼の名は相川・俊一。階級は少尉である。彼と共に派遣された作業員は現地の辺境部族と協力し、早速砦の修復作業を開始した。

　それから数日が経過し、修復作業は順調と思われたが……そこに潜む影があった。
　歪虚。そこらの雑魔では無い。人型である。それは砦に潜伏し、修復作業の様子を窺っていたのだ。
　つまりマギア砦再防備の情報は既に歪虚に察知されていた。
　――情報収集を終えたその歪虚は闇夜に紛れ、すっと姿を消す……。

　＊＊＊

　辺境某所。牙城・焔（kz0191）の拠点。
「……以上の様に、連合軍はマギア砦を修復し、再度防衛拠点化するつもりの様です」
「ふむ、解った。ご苦労」
「はっ」
「……さて、どう動いたものか」
　美しい少女型歪虚にして指揮官クラスである牙城・焔はふむりと顎に手を当てる。
「我々が動き、防備を固める前に一気に叩いてしまっては？」
　初めに焔へ提言したのは焔の部下筆頭である白川・桜。
「桜、そう急くでない。相手は修復中とはいえ砦だ。攻城兵器が必要となる」
「『灼導』兵器を集中投入されては？」
「あれは『とっておき』だ。敵の戦力を把握せぬまま使いたくはない。……『出し惜しみ』と笑うか？」
「いえ、とんでもございません」
　焔の傍に仕える桜は目を瞑りぺこりとお辞儀をし、一歩下がる。
「まずは敵の出方を見てみたいところですね」
　次に口を開いたのは焔の部下その二、菊池・緑。
「それならば巨人の軍勢を差し向けるのはいかがでしょう？　あの子達暇していますよ」
　続いて焔の部下その三、球磨・遥が言った。
「ふむり、それが無難だな。……それでは分散している巨人共を集結させ、マギア砦にちょっかいをかけるとしよう」
　部下に指示を出した後に「ちょっとした攻勢になるぞ……奴らはどう対応してみせるかな」と、悪い笑みを浮かべる焔であった。

　＊＊＊

　ところは変わって修復作業中のマギア砦――。
　相川・俊一少尉がホープへの経過報告の文書を綴っていると……急にけたたましいサイレンが鳴った。
　続いて見張り員から「敵襲ー！　敵襲ー！」との声が上がる。

「何事です！？」
　相川少尉が見張り台へ登ると、見張り員が慌てた様子で言った。
「少尉殿！　巨人の軍勢です！　巨人の軍勢がこちらに向かっています！　あれはサイクロプスです！　サイクロプスが多数！」
「やはり仕掛けてきましたか。すぐに迎撃を出します」
「しかしあの数ですよ？」
「大丈夫。彼らなら持ち堪えてくれるはずです」
　相川少尉は頬に汗を浮かべつつもニッと笑った。

　＊＊＊

　さて、相川少尉と共にＣＡＭ一機がマギア砦に運ばれたのは前述の通りであるが……もちろん、防衛戦力はそれだけではない。
　――ハンターだ。ＣＡＭや魔導アーマー、ゴーレム等を駆るハンター達も作業員の護衛として派遣されていたのだ。
　相川少尉は集合したハンター達の前で指示を出す。
「ハンターさん達、出番ですよ。現在この砦に向かっている多数のサイクロプスが確認されました。ただちに出撃し、迎撃に当たってください」
　相川少尉は一拍置いて続ける。
「正直言うと状況は芳しくありません。既にホープへ増援の要請をしました。これが到着するまで、ハンターの皆さんはなんとか持ちこたえてください」
　相川少尉はハンター達を見回し「厳しい戦いになると思いますが、よろしくお願いします！」敬礼した。

●作戦準備

　怠惰の軍勢――サイクロプスの大群が迫るマギア砦にて――。

「マギア砦を見るとあの時の戦いを思い出すな……」
　R7エクスシア『スヴェーニ』を愛機とするエヴァンス・カルヴィ(ka0639)は修復作業中の砦を見やり、ぽつりと呟く。
（復興してくれてる奴らには不謹慎だと笑われるかもしれないが、こんな大軍相手だ）
「筋違いなリベンジよろしく、ド派手な一戦をたっぷり楽しませてもらおうじゃねぇか！」
　そう言って気合を入れた後に彼は砦内部へ。

　見張り台にやって来たエヴァンスは砦に駐留する兵士二人に双眼鏡とトランシーバーをそれぞれ手渡す。
　それからエヴァンスは兵士二人にやってもらいたいことを説明。
「これがただの正面侵攻で終わるか否か、警戒は必要だ。本当なら避難させるべきだが、今はお前達のような勇敢な観測手が欲しい」
　砦上左右の位置し、砦側から近い砲戦型ゴーレムを運用する紅薔薇(ka4766)や鳳城　錬介(ka6053)らと通信できる場所にそれぞれ展開。
　万が一砦に正面以外から接近する敵を発見した場合に索敵報告をしてもらいたい……という旨を話す。
「もちろん奇襲がないならそれに越したことはねぇ、結果はどうあれ後で好きなだけ酒でも飯でも奢ってやっから気合入れて見張ってくれよ！」
　兵士二人の背中をバンバン叩くエヴァンス。兵士二人は快く了承した。

　R7エクスシア『しげお』を駆るミリア・ラスティソード(ka1287)。
「まぁ、この程度は楽に対処して敵さんにびびってもらわんとな」
　彼女は今回、依頼を解決する為、『敵の早期殲滅』と『砦の被害０』を目的として参加。

　ミリアもエヴァンスと同じく機体に搭乗する前、作戦の準備として砦の中へ。
　砦の責任者――この場合は相川・俊一少尉に、敵軍正面に近接担当、その側面に射撃担当を配置。
　遠距離の砲撃で打撃を与えた後に近接攻撃と中距離の十字射撃を以て殲滅する作戦内容を報告。
　また、砦の人員には多くの目を利用して、もし他方向からの敵や攻撃を発見した際にトランシーバーで連絡をしてほしいと頼んでおいた。

　R7エクスシア『烈風』を駆る榊　兵庫(ka0010)。
「マギア砦を落とさせるわけにはいかないからな。俺も【烈風】と共に全力で当たらせて貰おう」
　兵庫は意気込みと共にコクピットへ身体を滑り込ませた。

「デカさは強さ……とは言わせねぇぜ！！」
　魔導アーマー『プラヴァー』【渡り鳥の騎士】を駆るのはレオーネ・インヴェトーレ(ka1441)。
　レオーネの愛機【渡り鳥の騎士】は白を基調としたカラーリングをしており騎士の鎧をイメージさせる。
　機体とのフィッティングを済ませた彼は主兵装のランスカノン『メテオール』と、シールド『リパルション』を構え、ますます騎士らしい様相となった。

　葛音 水月(ka1895)は妹のような存在のルネ(ka4202)を連れて、愛機・魔導型デュミナス『フロージ（重火兵装）』と依頼に参加。
「一応護衛として来てたけど、大当たりっぽい？」
　突然の敵襲の報に少し驚いたものの「やはり来たか」といった感じで速やかに愛機へ搭乗し迎撃態勢を取る。
　ルネのことは心配だがリアルブルー・地球での活躍を知っているので信頼している。
　また、大規模作戦や依頼で何度もその強さを見ているので「心配は無用かな？」とも思う。
「Volcaniusの実戦をこの目で見るのは初めてかな？」
　作戦会議で決めた陣形の配置に着くついでに水月は機体のカメラを鎮座する刻令ゴーレム『Volcanius』へ向ける。
「ちょっとだけとは言え開発に関わった身としてはその働きに期待したいところ……僕のフロージもそれに負けない活躍をしますけどね！」

　ルネの機体――というか車両は魔導トラック『はうんど』。

　とらっく『はうんど』とは――！
　ルネの情熱が注がれた愛車であり、装甲車風味の魔導トラック。
　リアルブルーへの渡界で得た知識により度々改造されて見た目はとても近代的だ。
　今回は辺境カスタム仕様。枝や葉っぱでアンブッシュ迷彩（もどき？）が施された模様である。

　さっそく運転席に乗車した彼女は双眼鏡とトランシーバーを所持。今回ルネがやりたいのは……
『車両の魅力を引き出したい。レッツ軍用車！　その為に、機動力と車高の低さを活かした遊撃に徹する！』
　ことである。

　紅薔薇の相棒は刻令ゴーレム『Volcanius』【黒】。
「今の砦には防御力がほとんど無いしのう。敵の攻撃が砦に届かない位置で待ち構えるのじゃ」
　作戦としては、砦から少し離れた敵の投石が届かない位置で待ち構え、前衛が正面から敵の進軍を食い止め、後衛が左右の斜め方向から敵を砲撃……という内容。

「おや、団体さんのお出ましですね。最近大人しかったような気がしましたが、いよいよ動きますか」
　鳳城　錬介(ka6053)の相棒も刻令ゴーレム『Volcanius』【崩天丸】。

「サイクロプスの団体さんが登場か……」
　魔導型デュミナス『Freikugel』を駆るゼクス・シュトゥルムフート(ka5529)。
（しかし、偶発的に沸いたにしちゃ不自然なまでに数が多過ぎる）
　ＣＡＭのコクピットに着座したゼクスはふむりと考える。
（確証は無いが、誰かが嗾けた可能性がありそうだな。もしそうだとすれば、その意図はこちらの戦力把握か？）
「どちらにせよまずは片付けるのが先決だな。そうすれば、偶発的か否か分かる筈だ。まっ……出来る事なら、後者であって欲しいものではあるがな」
　などと思案しつつ、操縦桿を握る彼。

（元は作業員の護衛、との依頼だったが……さて。随分と骨の折れそうな依頼になったな）
　魔導型ドミニオンを駆るクラン・クィールス(ka6605)。
（ともあれ……こういうアクシデントも起こり得るのがこういう場所、か。何とか、持ちこたえてみせよう）

　しばらくして各機は陣形を整え、迎撃準備が完了。敵を迎え撃つ――！

●戦闘開始

　展開を完了したハンター達にサイクロプスの軍勢が迫る……。

　魔導トラック『はうんど』のハンドルを握るルネ。
　彼女にとって水月はハンターになる際からお世話になってる、いわば義理の兄。
　彼にとても懐いており今回の行動指針の一部である。
「みず、きーもきてるしねー。うまくいったら、なでてもらう……？　もらおう……！」
　そんなルネは【ターボブースト】を使用して加速。とらっくの機動力を生かしてまずは前線に移動する。
　単独での交戦は避け、車体の低さを活かして待ち伏せ。敵群の様子を観察して味方に随時連絡。

　水月機、『フロージ』は二体のゴーレムの中間に位置。
　敵がロングレンジライフル『ルギートゥスD5』の射程に入り次第、敵先方の中でも突出しているサイクロプスを狙い、射撃。
「それじゃ先手は頂いちゃうとしましょーか」
　前進を阻害し、砲撃に備えて敵の並びを整える。

　さて、砦近く、東側側面に布陣した刻令ゴーレム『Volcanius』【黒】、西側側面に布陣した刻令ゴーレム『Volcanius』【崩天丸】。
　二体のゴーレムがその重砲の射程にサイクロプスの群れを捉えた。
「ふむん……固まって居る敵は良いのじゃが、回り込んだりして、少し離れた位置の敵には要注意なのじゃ」
「では行こうか崩天丸。工事の邪魔をするような困った巨人はお帰り願おう」
　紅薔薇と錬介が言う。二人は連絡を取り合い、同時に砲撃を――開始。
　
　轟音、砲声が空気を揺るがす。ゴーレムの大砲から放たれた【炸裂弾】がサイクロプス群前衛の頭上に降り注ぐ。
　猛烈な砲火により敵前衛の進攻が一時的に止まる。二体のゴーレムは尚も砲撃を続行。
「早めに倒しておかねば気が付けば砦に被害が出るしのう」
　砦への被害ゼロを目指す紅薔薇はその様子を眺めながらうむうむと頷く。初動としては上出来だ。
　ダメージを受け、倒れた最前衛のサイクロプスが妨げとなり、敵の進攻を遅らせている。
　紅薔薇は「敵にダメージを与えること」を優先させており、撃破は二の次――味方の前衛に任せる算段――であった。
「帰らないなら、叩き潰すまで。今回どっちかというと俺より君が主役だね。存分に暴れると良いよ」
　錬介は【崩天丸】にその様に語りかけ、更に砲撃続行の指示。

　水月機、『フロージ』は二体のゴーレムの砲撃により進攻が滞った敵後方・狙いやすい場所へターゲットを変更。
　敵との距離を維持しつつ、【FCS】の補正を受けた【マルチロックオン】により複数の目標へ同時の射撃を行い、敵群全体へダメージを与える。

　しばらくすると……敵も一方的にやられているほどバカではないので強引に突破を図って来た。
　ここからは味方の前衛、ＣＡＭ・魔導アーマー・魔導トラック混成部隊の出番である。
　紅薔薇と錬介は砲撃に味方を巻き込まぬよう、攻撃対象を敵前衛から中衛～後衛に切り替えるよう、二体のゴーレムにそれぞれ指示を出した。

　＊＊＊

　兵庫機は二体のゴーレムによる支援砲撃で敵が怯んでいる隙に一気に間合いを詰めた。
　敵が体勢を立て直す前に、少しでも敵にダメージを与えるべく、搭載銃器による攻撃を開始。
　魔銃『ナシャート』の射程に敵を収めたら、背部の【マジックエンハンサー】を展開。魔導エンジンの出力を上昇させマテリアルの力を高め、射撃。
　光を放つ非実体の弾丸が撃ち出され、それは正確にサイクロプスを貫いた。
　ちなみに魔銃は【リロードキャスト】により、マテリアルエンジンからエネルギーを充填し、リロードを行う。
　……数度射撃後、尚も敵が接近。
　兵庫は兵装をクイックライフル『ウッドペッカー』に切り替え。【マテリアルビーム】を掃射。
　ダメージを受けている敵を狙い、なるべく多数の敵を巻き込み、撃破してゆく。
　――完全に敵との距離が詰まるまで、出し惜しみは無し。兵庫機は次々と傷ついたサイクロプスを撃破していった。

　一方でエヴァンス機は前衛に立つものの、中距離からの射撃をメインに交戦中。
　敵がツインカノン『リンクレヒトW2』の射程に入った段階で攻撃を開始し、距離を保ちつつマシンガン『レストレイント』とも使い分けて戦闘。
「俺がサポートしてやるから、敵連中が砦に近寄らねぇようしっかり縫い付けろよミリア！」

「この砦には指一本触れさせないからな」
　ミリア機はスキルトレースシステムによる【ソウルトーチ】を使用し、敵の注意を自機に引き付け。
　敵が攻撃範囲に入れば一気に突進し斬魔刀『祢々切丸』による【突撃魂】と【刺突一閃】の鋭い一撃でサイクロプスを刺し貫く。
「どんどんやっちまえ、でも誤射だけは勘弁な」
　サイクロプスをまた一体、また一体と貫き倒しながらミリアはゴーレム組に通信を送った。

　レオーネ機は【スキルトレース】にて会敵直前から【伝波増幅】【連結通話】を併用して維持。通信の支援を行う。
「最大３５分はもつし……まぁ何とかなるだろ」
　その後は機体の小回りの良さを生かして遊撃に動く。敵群の隙間を縫って突入し、かく乱。
「小ささだって強さだぜ」
　また、味方ＣＡＭ部隊の後方に回り込もうとするサイクロプスをランスカノン『メテオール』による砲撃で牽制。
「ポジションは一応前衛……だけど、馬鹿正直に突っ込めばクシャッといっちゃうからな」
　ゴーレム二体からの砲撃後に敵群の正面から突撃するところまでは合わせたが、前線の維持はＣＡＭ部隊に任せる。
「こいつを引っ張る、背を向けたら一発よろしく！」
　自身は無理をせず、小柄な機体の優位性を活かし、遊撃や前線での支援行動を行う。
「こいつ狙いだな、誘導するぜ」
　敵を挑発し、引き付ける役回りも担った。

　ルネ機――魔導トラック『はうんど』は、投石が飛んで来てターゲットにされたときは【スモークカーテン】を使用し魔法の煙を発生させ、味方の砲火圏内に一時退避。
『一対一で敵と対峙しない事』を徹底する。
　ルネはえるふの女の子。えるふらしく（？）隠密が好みのようだ。
「やっぱーり、地に足着いたくるまがこのみかなー。もっとひろまればいいのにねー……」

　ゼクス機はトランシーバー用いて味方と連絡取り合い、常に連携を意識して戦闘。
【カスタムタイプ：ハイマニューバ】の機動性上昇と【アクティブスラスター】の機動力を用いて装備兵装の適正距離を保ちつつ、敵群の西側へ移動。砲狙撃戦に適した位置取りをする。
　展開を完了後、【機導の徒】を使用した操縦で効率化を図る。その後にスナイパーライフル『クルーアル』による狙撃を開始。

　クランの魔導型ドミニオンもエクスシア部隊と同様に前衛にてサイクロプス群を迎え撃つ。
「大目的としても前衛としても、今回はあくまで敵の進攻を押し止めるのが目的だ」
　あまり前に出すぎないように気を付け、他のＣＡＭや魔導アーマーと連携し、敵の進軍を正面から受け止めることを意識して行動する。
　まずは二体のゴーレムによる砲撃支援を受け、その後に敵が進撃してこちらの射程内に入ったところで攻撃開始。
　マシンガン『プレートスNH3』で射撃しつつ【アクティブスラスター】を噴かし、大きなダメージを受けている敵を狙い、突撃槍『ヘビーイグニッション』による近接戦で仕留める。

●戦闘中盤

　紅薔薇の刻令ゴーレム『Volcanius』【黒】は【炸裂弾】による砲撃を続行中。
　接近された場合は【キャニスター弾】の使用も考慮していたが前衛の奮闘により、今のところその必要はなさそうだ。
　敵に止めを刺すよりも沢山の敵に傷を与えて弱める事を優先して砲撃位置は決定する
　大きな敵に対しての範囲攻撃の利点を生かして効率的に敵を撃破していく。

　錬介の刻令ゴーレム『Volcanius』【崩天丸】も【炸裂弾】による砲撃を続行中。
　砦に居る観測手の兵士からたまに通信が入るがそれは定時連絡。
　サイクロプスの集団は基本的に前進するのみで砦の側面に回り込んで来るようなことはなかった。

【崩天丸】が【炸裂弾】による砲撃中、錬介自身（生身）も戦闘に参加。
　ゴースロンに騎乗し戦場を駆け回り、【ヒール】や【フルリカバリー】で傷ついた仲間を回復――と考えていたが戦闘は順調に推移し怪我人は出ていない。
　投石を【ホーリーヴェール】で軽減させ、支援する程度であった。

　砲撃位置に居る水月機。前衛が奮戦し敵を押し留めている隙に、弱った敵をロングレンジライフル『ルギートゥスD5』でピンポイントで狙撃してゆく。
「狙い撃ちますよっと」

　＊＊＊

　サイクロプスの一体が兵庫機の近接戦の間合いに入った。兵庫機は兵装を斬機刀『建御雷』に持ち替え、本領を発揮！
　スキルトレースシステムにより【強撃】と【渾身撃】を使用。敵の動きを封じ、榊流【狼牙一式】と【強打】を交えた強烈な一撃を巨人に叩き込み、撃破。
　敵は大きな音を立てて地に伏し、黒い霧となって消滅する……。
「……機体と通してとはいえ、己が武技を振るうのに昂揚するとは、つくづく度がしがたいな。俺も」
　その後も兵庫機は近接戦を主体とし、敵を撃破してゆく。

　ミリア機は変わらず斬魔刀『祢々切丸』による近接格闘戦一本。機体に刀を振るわせ、ひたすらに斬り捨てる。
　敵の攻撃は【マテリアルカーテン】――肩部などのマテリアルエンジンからマテリアルエネルギーをマント状に展開させ、防ぐ。
「ボク達は目の前の敵だけ相手にしてればいい。横のはアイツらにまかせるさ、そうだろ？」

　エヴァンス機は狙いを付け易い位置まで接近を図り、ツインカノン『リンクレヒトW2』とマシンガン『レストレイント』で射撃し、敵の投石を妨害。仲間を支援する。
　サイクロプスの数が増え、ミリア機や兵庫機への圧力が強まれば【危険な挑発】を使用しつつ、兵装を突撃槍『ヘビーイグニッション』に換装し、接近戦を開始。

　レオーネ機はサイクロプスの投石をランスカノン『メテオール』の砲撃で妨害したり、敵の足元をちょこまかと動き回りつつ近接攻撃を仕掛けて気を逸らさせたり。
　仲間と細やかに連絡を取り密に連携、前衛を張るＣＡＭ部隊や砲撃組が確実な一撃を決めるチャンスを作る御膳立てを行う。
　だがそんなレオーネ機を煩わしく感じるサイクロプスも出てくる訳で、狙われた際には【スペルスラスター】やスキルトレースによる【ジェットブーツ】で一気にその場から離脱を図る。
　着地したレオーネ機の傍にちょうど、身体を分厚い鉄板で覆ったサイクロプスを発見。
　そこで彼は勝負に出る。【スペルステーク】を発動したランスカノン『メテオール』で打ち貫く！　……悶えるサイクロプスを横目に先程と同じくすぐさま離脱。

　ルネ機……というか魔導トラック『はうんど』はゴーレム二体の砲撃、及び前衛の突撃が始まったため、戦場全体を見渡せる位置に移動。
　状況を観察しつつ、適宜味方へ通信を送る。
　そして味方機の射線上から逃れようとする敵を発見すればミサイルランチャー『レプリカント』を一斉発射し足止め。射撃後は移動。
　ついでに近接格闘戦を仕掛ける味方ＣＡＭ部隊の死角へ援護射撃を行い、進入を防ぐ。
　あとは敵の動向を隈なく観察。砲撃を担当する水月機や、砲撃の主体となっているゴーレム使い二人とも連絡を密に。取りこぼしや不意打ちによる突破を警戒した。
　もちろん足を止めていると投石の的になるので小まめに移動。ルネはるんるん気分でハンドルを操作する。車輛に関してはこだわりがある模様。
「戦場かけるなら、たいやのしんどうよねー」

　ゼクス機は【高速演算】を使用したスナイパーライフル『クルーアル』にて偏差射撃を行って敵の頭部を狙い、各個撃破を試みる。――既にダメージを受けていた個体数体は撃破出来た。
　頭部を狙えない場合は敵の脚を狙って射撃し、移動を阻害する。
　目標の優先順位は『砦へ投石を行える距離に居る敵＞砦に近い敵＞瀕死の敵』に設定。
　幸い前衛の活躍により砦への接近は未だ許していなかったので、ダメージを受けている敵を集中的に攻撃した。
　また、分厚い鉄板で身体を覆った敵へは小型ミサイルランチャーを一斉発射し、装甲を破壊。撃破を容易にする。

　クラン機は既に敵との近接戦の間合いである。 突撃槍『ヘビーイグニッション』を構え、【アグレッシブ・ファング】を発動して突貫。巨人を刺し貫く。
「大きな図体だ、狙いは付け易い」
　スキルトレースシステムによる【踏込】や【強打】も使用し、速度を乗せた突きや、薙ぎ払いを繰り出す。
「これも持っていけ」
　その後も近接戦を主体とした戦闘を行うクラン機であったが、突撃槍が届かない敵に対しては機鞭『グロムジャラー』を叩き付け、行動を妨害する。
　更にそこから場合により、距離を取っての射撃や肉薄しての近接攻撃で対応した。

●戦闘後半

　紅薔薇はゴーレムの砲撃を自律行動に任せ、生身で行動中。
　しばらく刻令ゴーレム『Volcanius』【黒】の様子を見ていたところ単純な命令での砲撃でも問題ないと判断したためだ。
　紅薔薇自身は味方ＣＡＭ部隊の少し後方に布陣する。
「生身ではさすがにユニットよりも柔らかい。敵の集中攻撃を浴びると少しマズイので彼らに壁になってもらうのじゃ」
　彼女の攻撃は『祈りの剣』を用いた各種【次元斬】を連打。砲撃によりダメージを受けたサイクロプスを斬り刻む。
　ＣＡＭ部隊の後方まで来るサイクロプスとなると最早虫の息である。紅薔薇は手負いの巨人をバッサバッサと捌いてゆく。
　スキルは味方を巻き込まないように発動場所をきちんと調整。間違ってＣＡＭをズンバラリンにしてしまったら洒落にならない。
　近中距離から投石をしてくる敵や、味方の前衛を避けて通ろうとしたり、強引に突破して砦に向かおうとしたりする敵を優先的に斬り伏せる。
　なお、紅薔薇は騎乗しており機動力があるので戦場を縦横無尽に駆けて敵を一体たりとも逃さないように動く。
　また、分厚い鉄板を着込んだ個体を確認したら、指揮官の可能性があると思われるので最優先で叩き斬っておいた。

　錬介も生身で行動中。しかし、もしも【崩天丸】に指示が届かず事故が起きると怖いため一定の距離は保った。
「肉声が届く距離まですぐ戻れるよう気を付けないと」
【崩天丸】が【炸裂弾】を撃ち終ったら～と考えていたがまだ残弾はある。
　しかし戦闘開始から大分時間が経過した。【炸裂弾】の射程外、内側までサイクロプスが浸透して来ている（大分傷つき弱ってはいたが）。
　それに対しては対空砲CC-01にて対応するよう【崩天丸】に指示。更に内側に入り込むようなら【キャニスター弾】で迎撃した。
「出来れば紅薔薇さんのゴーレムとタイミングを合わせたいところですが……難しそうですね」
　西側と東側では敵の進軍状況に差がある。当の紅薔薇も前へ切り込んでいるためゴーレムへの命令変更は難しいだろう。
　錬介は味方の支援は十分だと判断し、聖盾剣『アレクサンダー』を持って【崩天丸】を敵から護衛する。
「やぁ、今回はなかなか忙しいですね」

　＊＊＊

　水月機、ロングレンジライフルの最短射程ギリギリまではそれを使って敵を迎撃。
　それよりも接近されれば200mm4連カノン砲に兵装を切り替えて迎撃。
　更に接近を許すようであればパイルバンカー『フラクタリング』の出番である。
　格闘戦向きではない二体の刻令ゴーレム『Volcanius』の前に出て、【キャニスター弾】の邪魔にならないよう射線と位置取りに注意した。

　ゼクス機、敵群は猛烈な攻撃を受けダメージを受けつつもじりじりと距離を詰めて来る。
【アクティブスラスター】を噴かせて後退しながら、小型ミサイルランチャーを発射し迎撃。
　それでも敵は瀕死になりながら距離を狭めてくる。近接戦の間合いに入った。兵装をCAMシールドに切り替え。
　棍棒による攻撃は衝撃を逃がす形でCAMシールドを構え、受け流す。投石は眼前にCAMシールド構えて衝撃に耐える。
「くっ、ここまで接近されるとは。味方の増援はまだなのか……」

　＊＊＊

　ルネ機――魔導トラック『はうんど』は継続して走り回りつつ戦場を観察。
　混戦になり始めたのでサイクロプスから距離を取りながらの運転を心がける。

　その護衛に付くのはレオーネ機。トラックを狙いに来る敵がいれば最優先で攻撃。ランスカノン『メテオール』の砲撃を叩き込む。
　また、移動系スキルをフル活用して大胆に移動し、ゴーレムのほうへ向かう敵にも積極的に攻撃を仕掛けた。

　＊＊＊

　最前線――。

　数体のサイクロプスに囲まれそうになるクラン機。戦線は三機のエクスシアが支えてくれている――というわけで一時後退。
　マシンガンの射撃を浴びせた後に再度、突撃槍を構えて近接戦を仕掛ける……という戦法を繰り返す。
「ここは、ただでは通さない」

　兵庫機は斬機刀『建御雷』を構え、迫るサイクロプスを【スキルトレース】による動きで何度も斬り付け、撃破する。
「次だ」
　敵が遠ければ銃器に兵装を切り替え――
「魔銃は撃ち尽くしたか……。ならば」
　マシンガン『ラディーレン』に兵装を変更。攻撃を続行する。

　エヴァンス機は、 突撃槍『ヘビーイグニッション』を構え、
「砲撃でダメージを負った奴は！」
　迫るサイクロプスに鋭い突きを繰り出す。
「胴体でもどこで当てやすい箇所を打ち貫けばいい！」
　一体のサイクロプスが許容ダメージを超え、霧散する。
（もし五体満足な野郎なら……投石用の腕、その次に……脚）
　破壊すべき部位に優先順位を付けて効率的な戦闘を行う。
「この戦いが本命の為の時間稼ぎだ、数が多い分殺しきれなくても行動不能にする努力はしねぇとな」

　ミリア機は変わらず、ひたすらに斬魔刀を振るう。斬り付け、突きを見舞い、また一体を撃破。……これで何体目だろうか。
　戦闘開始からどのくらい時間が経過しただろうか…………まあ、良い。この身体、機体が動く限り敵を押し留めてやろうではないか。
　と、ミリア機が次の目標へカメラを向けたとき。

　トランシーバーに、ザザザっと最初ノイズ交じりに通信が入った。
「こちらマギア砦の相川です。ホープからの増援部隊が到着しました！　これより展開を開始します。ハンターの皆さんは後退準備に入ってください！　よくぞ持ち堪えてくれました！　感謝します！！」
　そうして間もなく増援部隊のＣＡＭが前線に展開。ゴーレム二体の激しい砲火に晒されていたサイクロプスの集団はそう時間を掛けずに駆逐されたのだった。

　＊＊＊

　ハンター達の機体はそれ相応の損傷を負っていたものの、全てが小破以下、酷くて中破。大破した機体はなく、搭乗者や操者に怪我は無かった。
　現在はマギア砦に臨時に設けられたハンガーに収められ、応急修理作業を受けている。

　ハンター達も張られたテント内のベッドで休むなり、炊き出しの食事を頬張ったり、戦闘で土や煤に塗れた愛車の掃除をするなりしていた。

　錬介は……ハンガーに収められた刻令ゴーレム『Volcanius』【崩天丸】を撫でた後に、馬小屋で休む愛馬を労った。
「重い荷物を載せてよく駆けました。ありがとう」

　こうしてハンター達の活躍・的確な作戦により、マギア砦は怠惰の軍勢から被害ゼロで守られた。