ゲスト
(ka0000)
【転臨】イスルダ島沖海戦
マスター:赤山優牙

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/08/24 19:00
- 完成日
- 2017/09/04 19:20
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●刻令術式外輪船フライング・システィーナ号、出港直後の事
『軍師騎士』ノセヤは頭を悩ませていた。
新装備関連の事ではない。修理と共に追加された新しい装備は、これからの戦いに、とても有効に働くはずだ。
問題なのは、戦術的な動きの事であった。いよいよ、イスルダ島奪還の作戦が開始され、再編した王国海軍がその先陣を切る事になるのは当然の事。
敵の迎撃はあるだろう。イスルダ島の傲慢歪虚の海上兵力は度重なる戦いで確実に減らしている以上、大規模な海戦にはならないのではないか……というのが、ノセヤの予測だった。
「上陸中を狙ってくるはず。そこに戦力を集中されては、上陸部隊はひとたまりもない……」
古地図に落とし込まれた駒を見つめる。
その中でも上陸しやすいのは港だろう。だが、港が機能を残しているとは思えない。
あとは海岸線から上陸するしかないが、それはかなりのリスクを伴う。
港にしろ、海岸線にしろ、上陸作戦中の船は大きく身動きができないのだ。空を飛べる歪虚や雑魔もいるはずなので、大きな損害に繋がる。
「やはり、囮作戦しかないか」
ブツブツと独り言を呟くようにノセヤは言った。
上陸を見せかけて先行し、敵勢力を迎撃するのだ。もし、敵が襲ってこなければ、そのまま上陸する事だって出来る。
「その為には、相手の意表を突きたい……何か、手段はないものか……」
「凄く悩んでいるようですね」
作戦室に現れたのは水の精霊ソルラだった。
消耗した力を取り戻したようで、生き生きしているようにも見える。
「そうですね。イスルダ島の歪虚を驚かすような手段が無いかと」
「プラトニス様みたいに、何か、出来れば良いですけど、私にはそこまで力は無いですね」
「海中から進撃して奇襲とか出来ればとかは出来ないという事ですか?」
ノセヤの質問にソルラは苦笑を浮かべた。
「それこそ、プラトニス様なら出来るかもしれませんが、私には、とても……」
さすがに世の中、そう甘くは無いようだ。
「そう……ですよね」
「あ。でも、仲間の精霊に呼びかけて、海流の向きや速さを変える事は、出来るかもしれません」
水の精霊の言葉にノセヤはガタっと席を立ち上がった。
「ほ、本当ですか!?」
「やった事ないですけど、私は、元々、王国西部の海流の流れを司る精霊の一つだったので……仲間達の力を借りれば、出来ると思います」
「それで充分です。お願いしてもいいんですか?」
その問いにソルラは微笑を浮かべて頷いたのだった。
●傲慢歪虚
「ぬぁにぃぃぃぃぃ!?」
驚きの声がある部屋の中で響き渡った。
声の主は傲慢に属する歪虚のようだ。金属製の皮膚のようなもので、身体を所々、覆っている。目の部分にはスコープ付きのゴーグルのようなものを身につけていた。
「偵察隊の話によると、数隻が先行しているようで。その中には例の巨大船も混じっていると」
藻に覆われた人型の何かが、震えながら報告していた。
「おのれぇぇぇぇぇ!」
「ウーザー様、このままでは……」
「分かっておるわぁぁぁぁぁ!」
手に持っていた書類のようなものの束を壁に投げつける。
この傲慢歪虚ウーザー・イマッドは、港を防衛する長を自認していた。人間側の動きには注視しており、上陸に合わせて兵力を配置する準備を行っていたのだ。
それが、予想よりも早く、王国海軍は接近しているという。これでは防衛戦に間に合わない。
「こうなる上は、少しでも時間を稼ぐしかあるまいぃぃぃぃぃ!」
「お、仰る通りです!」
平伏する配下に向かって、ウーザーは命令した。
彼には独自の戦力がある。かつて、王国内で兵器開発の研究者でいた時に、散々、馬鹿にされ実現出来なかった発想を元に造った戦力が。
「目に物見せてくれるわぁぁぁぁぁ!」
戦力の集中を欠ける事にはなるだろうが、先行している王国海軍は僅か数隻。
そんなもの、偉大なる自分が開発した新雑魔で沈めてしまえばいい。それから、じっくりと迎撃の準備を整えればいいのだ。
「私も出撃するぞぉぉぉぉぉ!」
ウーザーは足早に部屋から出ていく。
これで戦果を上げれば、傲慢歪虚の中でその地位を更に上げる事ができる。
そうすれば、更なる新兵器に着手しやすくなるというものだ。そして、新兵器を揃え、自分を馬鹿にしていた王国に復讐するのだ。
●イスルダ沖
最上甲板の上に立つ水の精霊ソルラが、その精霊の力を行使している。
周囲を幾つもの水玉が舞いながら、蒼いオーラが弧を描きながら天へと昇っていた。
「これは、速い……」
ノセヤがその様子を見守っていた。
ソルラが仲間の精霊に呼び掛けて、海流の向きや速さを操っているのだ。
その範囲は極めて小さく、フライング・システィーナ号と数隻の中型帆船しか恩恵が得られないが、囮艦隊は物凄い速さでイスルダ島へと向かっている。
「傲慢歪虚が、王国を出発した船の速度から到着時刻を計算しているのなら……絶対に意表を突ける」
イスルダ島を本拠地とする傲慢歪虚の勢力が持つ情報網は不明だ。
彼らの事だ。出港の事は何らかの手段で知っているだろう。
「メフィストを始め、傲慢歪虚は人並み外れた知性を持つ者も居る……だからこそ、付け入る隙が生じるはず……」
いよいよ、イスルダ島が肉眼でも見えてきた。
不気味な雰囲気を発している歪虚島。
歪虚によって奪われた島。奪還は王国の悲願だ。この、フライング・システィーナ号がその真価を発揮する刻でもある。
(ソルラ先輩、ランドル船長……)
心の中で呟くノセヤ。目を閉じて静かに祈る。
二人の想いが、ハンター達の尽力でここまで繋いだ。ここから先は、“自分達”で紡いでいかなければならない。
そんな決意の中、警報が鳴った。傲慢勢力を発見したのだろう。
「対空対艦戦用意! これより、本船並びに護衛する軍艦はイスルダ島奪還作戦を開始する。各員、一層、奮励努力せよ!」
戦端が開かれようとしていた。
『軍師騎士』ノセヤは頭を悩ませていた。
新装備関連の事ではない。修理と共に追加された新しい装備は、これからの戦いに、とても有効に働くはずだ。
問題なのは、戦術的な動きの事であった。いよいよ、イスルダ島奪還の作戦が開始され、再編した王国海軍がその先陣を切る事になるのは当然の事。
敵の迎撃はあるだろう。イスルダ島の傲慢歪虚の海上兵力は度重なる戦いで確実に減らしている以上、大規模な海戦にはならないのではないか……というのが、ノセヤの予測だった。
「上陸中を狙ってくるはず。そこに戦力を集中されては、上陸部隊はひとたまりもない……」
古地図に落とし込まれた駒を見つめる。
その中でも上陸しやすいのは港だろう。だが、港が機能を残しているとは思えない。
あとは海岸線から上陸するしかないが、それはかなりのリスクを伴う。
港にしろ、海岸線にしろ、上陸作戦中の船は大きく身動きができないのだ。空を飛べる歪虚や雑魔もいるはずなので、大きな損害に繋がる。
「やはり、囮作戦しかないか」
ブツブツと独り言を呟くようにノセヤは言った。
上陸を見せかけて先行し、敵勢力を迎撃するのだ。もし、敵が襲ってこなければ、そのまま上陸する事だって出来る。
「その為には、相手の意表を突きたい……何か、手段はないものか……」
「凄く悩んでいるようですね」
作戦室に現れたのは水の精霊ソルラだった。
消耗した力を取り戻したようで、生き生きしているようにも見える。
「そうですね。イスルダ島の歪虚を驚かすような手段が無いかと」
「プラトニス様みたいに、何か、出来れば良いですけど、私にはそこまで力は無いですね」
「海中から進撃して奇襲とか出来ればとかは出来ないという事ですか?」
ノセヤの質問にソルラは苦笑を浮かべた。
「それこそ、プラトニス様なら出来るかもしれませんが、私には、とても……」
さすがに世の中、そう甘くは無いようだ。
「そう……ですよね」
「あ。でも、仲間の精霊に呼びかけて、海流の向きや速さを変える事は、出来るかもしれません」
水の精霊の言葉にノセヤはガタっと席を立ち上がった。
「ほ、本当ですか!?」
「やった事ないですけど、私は、元々、王国西部の海流の流れを司る精霊の一つだったので……仲間達の力を借りれば、出来ると思います」
「それで充分です。お願いしてもいいんですか?」
その問いにソルラは微笑を浮かべて頷いたのだった。
●傲慢歪虚
「ぬぁにぃぃぃぃぃ!?」
驚きの声がある部屋の中で響き渡った。
声の主は傲慢に属する歪虚のようだ。金属製の皮膚のようなもので、身体を所々、覆っている。目の部分にはスコープ付きのゴーグルのようなものを身につけていた。
「偵察隊の話によると、数隻が先行しているようで。その中には例の巨大船も混じっていると」
藻に覆われた人型の何かが、震えながら報告していた。
「おのれぇぇぇぇぇ!」
「ウーザー様、このままでは……」
「分かっておるわぁぁぁぁぁ!」
手に持っていた書類のようなものの束を壁に投げつける。
この傲慢歪虚ウーザー・イマッドは、港を防衛する長を自認していた。人間側の動きには注視しており、上陸に合わせて兵力を配置する準備を行っていたのだ。
それが、予想よりも早く、王国海軍は接近しているという。これでは防衛戦に間に合わない。
「こうなる上は、少しでも時間を稼ぐしかあるまいぃぃぃぃぃ!」
「お、仰る通りです!」
平伏する配下に向かって、ウーザーは命令した。
彼には独自の戦力がある。かつて、王国内で兵器開発の研究者でいた時に、散々、馬鹿にされ実現出来なかった発想を元に造った戦力が。
「目に物見せてくれるわぁぁぁぁぁ!」
戦力の集中を欠ける事にはなるだろうが、先行している王国海軍は僅か数隻。
そんなもの、偉大なる自分が開発した新雑魔で沈めてしまえばいい。それから、じっくりと迎撃の準備を整えればいいのだ。
「私も出撃するぞぉぉぉぉぉ!」
ウーザーは足早に部屋から出ていく。
これで戦果を上げれば、傲慢歪虚の中でその地位を更に上げる事ができる。
そうすれば、更なる新兵器に着手しやすくなるというものだ。そして、新兵器を揃え、自分を馬鹿にしていた王国に復讐するのだ。
●イスルダ沖
最上甲板の上に立つ水の精霊ソルラが、その精霊の力を行使している。
周囲を幾つもの水玉が舞いながら、蒼いオーラが弧を描きながら天へと昇っていた。
「これは、速い……」
ノセヤがその様子を見守っていた。
ソルラが仲間の精霊に呼び掛けて、海流の向きや速さを操っているのだ。
その範囲は極めて小さく、フライング・システィーナ号と数隻の中型帆船しか恩恵が得られないが、囮艦隊は物凄い速さでイスルダ島へと向かっている。
「傲慢歪虚が、王国を出発した船の速度から到着時刻を計算しているのなら……絶対に意表を突ける」
イスルダ島を本拠地とする傲慢歪虚の勢力が持つ情報網は不明だ。
彼らの事だ。出港の事は何らかの手段で知っているだろう。
「メフィストを始め、傲慢歪虚は人並み外れた知性を持つ者も居る……だからこそ、付け入る隙が生じるはず……」
いよいよ、イスルダ島が肉眼でも見えてきた。
不気味な雰囲気を発している歪虚島。
歪虚によって奪われた島。奪還は王国の悲願だ。この、フライング・システィーナ号がその真価を発揮する刻でもある。
(ソルラ先輩、ランドル船長……)
心の中で呟くノセヤ。目を閉じて静かに祈る。
二人の想いが、ハンター達の尽力でここまで繋いだ。ここから先は、“自分達”で紡いでいかなければならない。
そんな決意の中、警報が鳴った。傲慢勢力を発見したのだろう。
「対空対艦戦用意! これより、本船並びに護衛する軍艦はイスルダ島奪還作戦を開始する。各員、一層、奮励努力せよ!」
戦端が開かれようとしていた。
リプレイ本文
水の精霊とその仲間の精霊が魅せた力……。
海流の動きに介入し、フライング・システィーナ号と護衛の軍船は恐るべき速さで海上を疾走するかのように走り抜けた。
高速での移動という目的を達成したので、精霊の力は弱まったが、それでも、影響が完全になくなる訳ではない。
船首付近でその様子を見つめていた皐月=A=カヤマ(ka3534)は、ポツリと呟いた。
「この船に乗るのもちょっとぶりかな」
最後に乗ったのは昨年だっただろうか。
その間に色々な事があったのは皐月も知っている。
「……あの騎士の人の事とか、大変だったみたいだけど」
今もきっと、その悲しみを背負っている者も居るだろう。
それでも、時は流れていく。残った者が背負い続ける事で。
「俺はあんま関わってなかったし、安易な事言うのは失礼か……」
だから、皐月は黙するように静かに目を閉じた。
そんな主の雰囲気を感じたのが、相棒のイェジドが寄り添う。
敵襲を知らせる警告音が船内に響いた。いよいよ戦闘開始だ。
皐月は閉じていた目を開き、いつになく真剣な眼差しでイスルダ島をみつめた。
「イスルダ島奪還作戦、成功させねーとな」
●発艦
「ウォーターウォークを掛けました。カウントは忘れないように。皆様にご武運を」
レイレリア・リナークシス(ka3872)が魔法をユニットへの付与を終えて、敵艦へと向かう仲間達に声を掛けた。
人数が少し多くなったが、特には問題ないだろう……制限時間内であれば。
「はやてにおまかせですの!」
威勢良く八劒 颯(ka1804)の魔導アーマーGustavが海上へと飛び出す。
遥か遠く先に見える敵艦へと向かってこれから突撃し、歪虚船にドリルを突き立てるつもりだ。
揺れる波間に降り立ったGustavは横転するんじゃないかという動きを一瞬見せたが、なんとか脚で踏ん張った。
それを見届け、前方の安全を確保できたと判断したキヅカ・リク(ka0038)が愛機インスレーターを進ませる。
「……敵との陣形の相性が悪い。今回は少し派手に行かなきゃダメ、か。ま、いつも通り……あんまり期待はしないでよ!」
距離と勢いを稼ぐ為に甲板先でスロットルを全開。
「キヅカ・リク、インスレーター……get ready!!」
轟音と共に発艦していく仲間の機体を見つめながら、自分の機体――ウォルフ・ライエ――を移動させる央崎 枢(ka5153)。
今回、機体を機動力と白兵戦向けに調整しているが、どこまでやれるかはやってみなければ分からない。
「一番槍は任せたよ、リク。俺達も続く!」
パネルを素早く叩き、スラスターの出力を調整。
その間に、リクの機体がコースから進む。波はあるようだが、いけない訳ではないのだろう。
「……Go!!」
加護を祈りながら、しかし、それを口にする事なく、枢は気合の掛け声と共に発進した。
最後に出るのは、アルバ・ソル(ka4189)だった。
「いくよ、ローゼス!」
紅きエクスシアがマテリアルエンジンの唸り声と共に発艦。
揺れる波間へと強引に降り立った。
計4機のユニットで敵艦隊へ向かう事になる。25人という防衛人数から攻撃に割り振るにはこれが限界の数といえよう。
●一斉射撃
次々と対艦攻撃に向かう仲間の機体が海面へと発艦。
それを見届ける暇もなく、空から鳥人雑魔が向かって来る。そんな状況下ではあるものの、フライング・システィーナ号の甲板に集まった一部の機体は銃口を敵艦の方角へと向けていた。
「ふふふ、彼我の距離は……ちょうどいい塩梅じゃ。どうれ、まずは驚かせてやろう」
ミグ・ロマイヤー(ka0665)が不敵な笑みを浮かべていた。
左手で素早く愛機ハリケーン・バウ・Cのパネルを視線を向けずに正確に叩く。
「敵艦に向けて一斉に射撃するぞ。カウントを出したのじゃ!」
通信機を通じて響いた彼女の声にジーナ(ka1643)は了解と答えつつ、モニターに映る外の状況を確認する。
歪虚船に、鳥人雑魔が無数……。
「色々出てきたな……だが、予想の範囲内か」
正直、精霊の海流操作にはさしものジーナも驚いた。
しかし、敵の多さには驚きもしない。歪虚が支配する島へ攻め込むのだ。それぐらいの兵力、予想できない訳がない。
「こちらは準備済みだ」
長大なカノン砲を構える。
人が操れる代物ではない事は一目瞭然だ。ユニットだからこそ持てる巨大な装備である。
「こちらmercenario。同様よ」
マリィア・バルデス(ka5848)が冷静に答える。
最終調整に余念がない。揺れる船上からの遠距離攻撃だ。神経も使う。
「CAMでこんなふうに海戦、ね……考えたこともなかったわね」
フライング・システィーナ号の甲板で砲塔の代わりになるのだ。
この船には固定武装は無いというが、強力無比なユニットがズラリと並んだだけで、その戦力は計り知れないものがあるだろう。
下手な砲塔を載せるよりも戦力になるはずだ。
「此処で落ちては提言した意味もない。守るとも、当然だ」
エクスシアに乗るストゥール(ka3669)は射撃の準備を整えつつ、そう呟いた。
この船を活かす為にノセヤに提言した。提言内容全てが採用された訳ではないだろう。限られた時間での工事の合間に、何でも新装備を搭載しているという。
「待たせた。準備は万全だ」
必ず守りきると心の中で誓いながら通信機に向かって宣言する。
甲板に機体を固定させる音、ミサイルの発射口が開く音などが通信機を通じて重なった。
「敵艦に向けて一斉攻撃じゃ!」
ミグの叫びと共に右手を挙げ、モニターのカウント数が0になった。
瞬間、轟音と煙が甲板上を包み込んだ。
複数の対VOIDミサイルが鳥人雑魔などとは比べ物にならない速度で飛翔した。
●進軍
敵味方の砲撃が頭上を飛び交う。
それよりも高い所を鳥人雑魔が駆け抜ける。
「どうやら、鳥人雑魔はこちらには向かってこないよう、か」
アルバの台詞の通り、遥か頭上を飛ぶ鳥人雑魔はひたすらフライング・システィーナ号へと向かっているようだ。
「向こうが来ないから、こちらの攻撃も届かないな」
機体が転倒しないように上手に操縦しながら枢が空を見上げる。
まるで、雲霞のようだ。びっしりと埋め尽くされている様相は不気味に思えた。
「敵が気がついていないだけの可能性もあるかもしれません」
「だろうね」
もしくは、ユニット数機程度など、構うほどの存在ではない……と見ている可能性もある。
だとすれば、それは傲慢というものだ。僅か4機ではあるものの、取り付けさえすれば無視はできないはずだ。
「これだけの速度で迫られるとは思っていないかもしれない」
リクが会話の中に入ってきた。
機体は海上を恐るべき速さで駆け抜けていた。転倒しなかった機体が居たのは単なる幸運に過ぎない。
「これが水の精霊の力……海流を操作出来るなんて……」
厳密に言うと水の精霊(ソルラ)と彼女の仲間の精霊達の力が残したものだ。
海流の動きを操作し、フライング・システィーナ号と随伴艦を運んだ。その流れは急激に止まるものではない。
真っ直ぐとイスルダ島へと向かう海流はまるで、高速で動くランニングマシーンのようなものと化していた。
逆方向ではない事は幸運な事だろう。
「今後もこの手の海戦が続くのであれば、ホバー的な装備や水中戦に強い新型が欲しくなりますね~」
颯が器用に波間から波間へとジャンプしながら、そんな事を言った。
彼女は以前、その様な提案もした事があるだけに、今回、間に合わなかったのは残念な事だ。
「いよいよ、近くなってきたですの!」
嬉々としてドリルを回転し始める颯。
ようやく、敵歪虚船がハンター達に気がついたのか、船上からの散発的な攻撃が飛んできた。
●対艦砲撃
「距離を維持しているように見えるわ」
長距離射撃を繰り返しながら言ったマリィアの台詞にストゥールが応える。
「気持ち悪い動きをするな」
ハンター達の方が砲撃の有効距離はあった。その間に打ち込んだミサイルや射撃に効果が無い訳ではない。
歪虚船はフライング・システィーナ号を射程に収める程は強引に近づいたのだろう。
距離が縮む前に後進するのだ。どんな原理で動いているか分からないが、バックギアでも備わっているのか。
モニターに映った飛翔体をジーナは見逃さなかった。魔導レーダーは正しく作動しているようだ。
「鳥人雑魔じゃない……敵の船からの射出体!」
「負のマテリアルの塊じゃ! 射撃でも撃ち落とせるはず!」
ハリケーン・バウ・Cの肩口に装着されているミサイルランチャーのハッチが開くと多連装のミサイルが大空へと飛ぶ。
複雑な弧をいくつも描いて、それらは次々と負マテ塊に直撃、粉砕した。
「対艦攻撃を維持しつつ、敵弾の迎撃か」
楽はさせてくれないという事かと心の中で続け、ジーナはカノウ砲の照準を取りやめ、機関砲の操作へと移る。
幾つもの負マテ塊の中から、フライング・システィーナ号の船尾を狙っているものを選ぶと射撃ボタンを押した。
ダダダダッ!と曳光弾が弾道を表し、ジーナは微修正を加え、負マテ塊へと導く。
外輪船の弱点でもある外輪を守ろうというのだ。
一方、ストゥールのエクスシアはロングレンジのマテリアル兵器で敵船に狙いを定めていた。
「残数1か……」
マテリアル兵器は弾数に限りがある。
再装填するには、カートリッジが必要なのだ。そして、今回、それを持ち合わせてはいない。
「もうすぐ、リク達が接敵するはずじゃ」
敵艦への攻撃に向かっているハンター達から連絡を受けているミグが告げる。
味方が戦っている所へは無理には射撃できない。誤爆する恐れが高いからだ。
「向こうは気にした様子ないみたいだけどね」
ジーナの言う通り、鳥人雑魔を気にせずに歪虚船は負マテ塊を射出してくる。
犠牲など気にしないという事なのか、そもそも、雑魔如きに気を配る必要はないという事なのだろうか。
「だとしても、こちらは、これだけのCAMや魔導アーマーが連射しているのよ。圧勝は当然じゃないかしらね?」
油断は禁物だろうが、マリィアが頼もしい仲間達をモニターで確認した。
甲板にずらりと並んでいる様々な機体。これで負けようならば、そもそも、イスルダ島を攻略する事は不可能ともいえるかもしれない。
●対空戦開始
ゴマ粒のように彼方の空に見えているのが、鳥人型の雑魔だとすぐに分かった。
空を埋め尽くすという表現が分かりやすいだろうかと、オファニムに乗るオウカ・レンヴォルト(ka0301)は思った。
「多対多、要は戦略、か……」
魔導レーダーには敵味方の位置が刻一刻と表示されていた。
また、機導師としての力で何人かと通信も共有。
対空戦で必要なものは何か……フライング・システィーナ号の広い船体を守るには、各々の役割の把握、そして、連携が必要だろう。
「味方の、位置取りは、問題、無いよう、だな」
対空砲火は単体で単発を打ち上げるより、其々が連携しあって迎撃するのが効果的だ。
つまり、弾幕を張るというのは敵の侵入コースを阻むと同時に、敵の回避スペースも塞ぐ事を意味している。
それを行う為には位置取りは重要だ。特にフライング・システィーナ号の最上甲板は広大なのだから。
刻令ゴーレムであるセントヘレンズの最終調整を終わり、砲身を空中へと向けるリュラ=H=アズライト(ka0304)。
「砲撃は、この子に任せるしかないけど……やれるだけ、やらないと……」
少しばかり自信なさげなのは、彼女自身が近接型を自認しているというのもあるかもしれない。
しかし、彼女が操作・指示する刻令ゴーレムは最新の砲撃専用のものである。
遠距離での砲撃が得意なこのゴーレムには様々なタイプの弾をマテリアルの力で放つ事ができる。
敵が射程に入った事を確認し、砲撃を開始。
豪快な音と共に発射された弾丸は、到達距離まで一瞬にして飛翔し、爆発した。
「砲撃戦……どこか、心が躍るような……」
胸に手を当てるリュラ。
契約した精霊が砲撃と強い関わりがあったかもしれない。琥珀色の瞳に自身の周囲を舞う鷲の幻影が映った。
大空からの襲撃。対抗するハンター達から打ち上げられる高射砲を連想させるゴーレムの砲撃。
それらを冷静にみつめながら、久延毘 大二郎(ka1771)は口を開いた。
「おやおや、随分な団体さんのお出ましだな……そうか、鳥人ね……」
雑魔は人型だった。ただし、両腕に該当する箇所は翼であり、鳥人と呼称する理由には値するだろう。
「何を我々から奪い、栄誉とするのかは知らんが……そう簡単には君達にタンガタ・マヌの称号は与えられんな」
考古学者らしい言葉を呟き、タクトのようなものを振り、白衣を翻す。
タンガタ・マヌとはリアルブルーのある島に由来する称号だ。
儀式を乗り越えた勇敢な者に送られる称号らしいが、到底、鳥人雑魔とは掛け離れているのは当たり前の事。
「さて、私は、この甲板で鳥人の迎撃を行うとしよう」
ゴーレムの砲撃は強力だ。だが、その強力さと引き換えに懐に入り込まれると有効距離外となってしまう。
そんな時こそ、魔法が有効なのだ。
同じように魔法で迎え撃とうと対空砲火をレイレリアは見つめていた。
「一歩ずつ……着実に、あの地への開放の為に、進んで参りましょう」
潮風が彼女の長い髪を揺らした。
視線の先、イスルダ島が見えている。
あの島を歪虚の手から開放する為には越えなければいけない障害が多い。
負のマテリアルに当てられ、汚染されているだろう。今は汚染浄化術も発達しているので、汚染された場所は浄化していけばいいだけだ。
だが、問題は、浄化する為には汚染源となる歪虚勢力を退けていけなければならない。
それは、歪虚との戦闘が予想される。そして、島に上陸する為には、まずは制海権の確保は必至。
「出来るだけ、船に近づけさずに戦えれば」
敵の射程に入る前に可能な限り撃ち落とす事が出来ればそれだけ危険は減るというもの。
レイレリアはしっかりと杖を握った。
炸裂弾が空いっぱい広がり、次々と鳥人雑魔が被弾していく中、爆煙を抜けて炸裂弾の防衛ラインを突破してくる雑魔。
「あらあら。一杯いるわね」
コントラルト(ka4753)が双眼鏡を下ろした。敵を観測していたのだが、砲火を抜けてきたのがいれば、対処が必要だからだ。
近すぎてゴーレムの有効射程の内側に入り込まれているが、慌てる事なく、コントラルトはゴーレムの指示を継続したままにする。
周囲からも、接近してきた雑魔に対し、銃撃や魔法が撃ち上がる。
「打ち放題ってやつかしらね」
味方と同じ場所を撃っても意味がないので、その辺り、ゴーレムの砲撃予定場所を連絡。
どんどんと鳥人雑魔がやって来るが、なるべく遠くを狙うようにコントラルトは心掛ける。
それだけ敵は無数に飛んでくるのだから。
戦闘が開始されると最上甲板は慌ただしくなった。
基本的にはハンターしかいないのだが、船員達も協力できる事があれば手伝っている。
そんな中、北谷王子 朝騎(ka5818)がアルテミス小隊の制服を模したワンピースを着た状態でキョロキョロとしていた。
「2代目ソルラさんの為にも、新生アルテミス隊の一員として朝騎も頑張りまちゅ」
青の隊の騎士にしてアルテミス小隊の小隊長であった騎士ソルラが戦死して日が経った。
今、この船には、ソルラの姿を模した水の精霊がいる。もっとも、アルテミス小隊は事実上解散した事になっているので、新生という形で今がある訳ではないのだが。
その辺はハンターが個々に思うこととして良いだろうが、問題は……。
「ない! ないでしゅよ! 隠れられる場所が!」
柱などの影に隠れて敵の動きをこっそり観察するつもりでいたのに、最上甲板には柱は立っていなかったのだ。
これは、フライング・システィーナ号が全通式甲板――早い話、真っ平らに作られているから他ならない。
慌て続ける朝騎を不思議に見ていた鳳城 錬介(ka6053)だったが、気を取り直してゴーレムに指示を与える。
「まずは邪魔者を吹き飛ばさないといけないね……頼りにしてるよ、崩天丸」
崩天丸という名の刻令ゴーレムから返事は無い。
しかし、錬介の指示通りに確実に反応を示してくれる。
ゴゴゴと鈍い音を響かせながら砲身を挙げた。狙いは鳥人雑魔の編隊。
「発射です!」
合図と共にゴーレム砲が火を吹く。
炸裂弾が飛び、目標地点で霰玉を撒き散らす。それに巻き込まれれば大きなダメージを与えられるのだ。
確かな手応えを感じながら砲撃指示を出す錬介。
その近くで、同じようにゴーレムに指示を出しているハンター……否、(自称)忍者が居た。
「ルンルン忍法と吃驚ニンジャメカ、ニンタンクちゃんの力を駆使して!」
ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)が胸を揺らしながらゴーレムに指示をだす。
「フライング・システィーナ号に迫る歪虚をバンバン落としちゃいます!」
大輪牡丹という胸が大きそうな名前のゴーレムから発射される炸裂弾。
爆発という確かに大きな華を咲かせていた。
「大輪牡丹ちゃん、その名の通り空に大きく打ち上げ花火を上げるのです!」
ついでに、その“花火”というもので、左舷の弾幕も厚くなるのは夏の風物詩という(ルンルン談)。
少なくとも、フライング・システィーナ号は左右にバランスよくハンター達が配置されているので、特別、左舷の弾幕が薄くなるというのは現状……無いようだが。
「鳥人雑魔が抜けました!」
錬介が警戒する言葉を告げる。
確かに対空砲火をくぐり抜けて鳥人雑魔が向かってくる。それに対し、ルンルンは符を構えた。
目にも止まらぬ速さで九字を切ると、符術を行使する。
「(高速で九字を切り)ジュゲ(省略)……ルンルン忍法光と雷の花火! 空に輝け大輪の花☆」
光り輝く結界が出現し、それに巻き込まれた鳥人雑魔が蒸発した。
対空砲火によるダメージも蓄積されていたのだろう。
こうして、フライング・システィーナ号の長い対空戦が始まったのだった。
●対空砲撃
次から次へと飛来する鳥人雑魔。
歪虚船への対艦攻撃を行っていたハンター達も、味方機が敵艦に取り付いたのもあるが、対空攻撃へと移行していた。
「タンクのミグじゃ、圧してまいるぞ!」
甲板中央で機体をどでんと大きく存在をアピールするミグ。
それを狙ってか、あるいはたまたまか鳥人雑魔が組んで急降下してくる。
「対空にも有用な数少ない武器だ。冥土まで堪能していけ!」
ジーナの機体が持つ機関砲が火を吹く。
一体ずつ、確実に仕留めていくとジーナは決めていた。負マテ塊を落とされた後、鳥人雑魔は尚も戦闘を継続してくるのだ。
「そっちに行ったよ」
「了解よ」
機関砲の射撃が直撃し怯んでコースが変わった所、マリィアが追撃を掛けてる。
宙で踊るように身体を弾かせ、鳥人雑魔が霧散した。
その霧散したスペースへ別の雑魔が突っ込んでくる。
ストゥールはその動きを見逃さなかった。
甲板の上を滑るように機体を走らせながら、白色のシールドを掲げる。
「この船は島攻略の為の重要な足がかりだ……」
もし、フライング・システィーナ号が無ければどんな展開になっていたのか想像つかない。
きっと、今以上に苦しい戦いが求められるだろう。最悪、イスルダ島の攻略作戦が遅れていた可能性もある。
それだけ、船に転移門が搭載されているという事は重要な意味を持つのだ。さらに、CAMが運用できるというのも大きい。転移門から補充が受けられるのは帝国や同盟の最新鋭軍艦と比べても遜色ないだろう。
その船を実質的に指揮しているノセヤが真剣にハンター達から話を聞くというのは、それだけ、ハンター達を信頼し、そして、この船に想いを込めているのだろう。
ならば、それに応えるのはハンターとして当然の事。
静かな熱意を込めて、ストゥールは負マテ塊が投下されるコースへと先回りすると盾を構えた。銃撃のような鳥人雑魔からの射撃を無視し、落ちてくる負マテ塊に意識を集中させる。
「未熟な身の上ではあるが、矢除け弾除けにでも、使われればそれでいい」
投下されたそれをストゥールの機体は盾で弾き飛ばした。
船からやや遠くに着弾したそれは水柱を高く上げて爆発する。
「多少の揺れ位、大した事はないのじゃのう」
機導師としての力をフル活用するミグの機体操作。
愛機ハリケーン・バウ・Cはそれに忠実に応える。
通信機から逐一入ってくる他のハンター達からの連絡や報告。コックピットに表示される無数の雑魔。モニターに映る外の映像……様々な情報に戸惑う事なく、ミグは一瞬にして危険度の高い雑魔を選ぶと彼我の距離を推測。
「これならどうじゃ」
8連の多弾頭ミサイルを発射。推進時の煙が幾本もの弧を描いて鳥人雑魔へと追いすがった。
1発目2発目と追いつけなかったミサイルが爆発する中、残りのミサイルが次々に雑魔へと命中すると空中で木っ端微塵と化していく。
味方の弾幕は充分に濃い。それで完全に塞げるかというと、そうでも無いかもしれないが、打ち上がる砲火を見てジーナはふと思った声を発した。
「今回だけは歪虚に憐れみを覚え……ないな。自業自得だ」
射撃戦特化型にカスタムされた濃緑色のデュミナスから打ち出される機関砲は雑魔を狙い撃つ。
形成された弾幕に自ら突っ込んでいく鳥人雑魔が何回か弾けると負マテ塊を抱えたまま海面へ墜落。
大爆発を起こして居なくなった。
「外輪に簡単に近づけると思うな」
機関銃の銃口が再び宙を向いた。
マリィアは唐突に鳴り出した警告音に素早く反射する。
モニターを確認すると、いつの間にかに甲板上に全身が藻に包まれた人型の雑魔が真後ろに居たのだ。
「どこから!?」
海面から泳いで上がってきたのか、空中から落下してきたのか不明だが、そこに居るという事実は変わらない。
そして、放置しておいていい訳でもない。格闘戦になるが、マリィアは慌てなかった。猟撃士は本来、接近戦を行う職ではない。
だが、対応できるスキルが無い訳ではない。特殊な戦闘術を機体にトレースさせた。
「懐に入り込んだつもりなのかしら」
ガチャと音を立てて銃口を向けると、零距離から強引に発射。
本来であれば危険な行為だが、これができるからこそ、猟撃士なのだろう。
大響音と共に藻雑魔は砕け散ったのだった。
●藻雑魔襲来
ジルボ(ka1732)は砲撃専用のゴーレムに指示を出しながら、双眼鏡で鳥人雑魔を確認していた。
野鳥の会――ではなく、注意深く見ていたのは、鳥人雑魔が抱えている負マテ塊だ。
大抵は爆弾型の負マテ塊だが、中には魚雷型というのもある。これは厄介な代物だとジルボは感じていた。
「広い射角は取らせないぜ」
海は広く、基本的に遮蔽物はない。
爆撃は目標へ直接叩き込まなければならないが、魚雷型は比較的自由に多方面から狙う事が出来るのだ。
「……なんだ、ありゃ」
思わず二度見。鳥人雑魔が爆弾型とも魚雷型でも無い別の何かを運んでいた。
よく見ると、人型をした藻のようにも見える。
警告の連絡を受け取ったジュード・エアハート(ka0410)も銃撃の合間に鳥人雑魔を確認する。
「直接、乗り込むつもりなのかな?」
だとしたら愚かな事だ。この最上甲板には連戦のハンター達が待ち構えているのだから。
それに、全通式であるので、仮に運良く甲板に乗り込めても隠れる場所もない。
しっかりと龍弓を引き絞るジュード。
「ここで射程の長さと命中率を活かさなきゃ猟撃士のクラスが泣くからね」
揺れる船上だが、だからこそ、射撃に特化している猟撃士の力が求められるし、それに応えられるからこそ、猟撃士なのだ。
プライドを込めたその一撃が外れる訳がない。鳥人雑魔の首元に深々と矢が刺さった。
それで墜落しながら鳥人雑魔は塵と化すが、運搬されていた藻雑魔は消え去らなかった。そのまま海へと飛び込むと海面を滑るように船に迫ってくる。
「藻雑魔は海面を移動できるようだね」
そう仲間に告げながら、再び矢を番える。
飛び交う中から、再び藻雑魔を抱えている鳥人雑魔を見つけると今度はマテリアルを込めて矢を放った。
真紅の軌道を描いた矢はさながら真っ赤な猟犬のように、標的を撃ち抜いた。マテリアルの力で変則的な動きをみせたそれは、藻雑魔ごと、鳥人雑魔を射抜ききる。
「取り付かれてるなら……」
そう言いながら、鈴胆 奈月(ka2802)はドミニオンから降りた。それまで受け持っていた対空戦は仲間に任せる。
モニターに表示されていたのは、海面を漂っている多数の藻雑魔。それらがフライング・システィーナ号に取付き、登ってこようとしているのだ。
「海上戦も慣れてきたもんだな……」
咄嗟にドミニオンから降りて白兵戦に移行するというのも、そのおかげかもしれない。
杖を握りながらマテリアルを集中させて、頑張って側面を登る藻雑魔にLEDライトからデルタレイを放つ。
哀れな藻雑魔は直撃を受けると海面へと落ちていった。
「でも……これは、防ぎきれないか?」
船の側面を甲板から身体を出してみると、びっしりという程ではないにせよ、藻雑魔が登ってきているのであった。
高瀬 未悠(ka3199)が鳥人雑魔が抱えているものの中に藻雑魔が居ると大声で叫んでいた。
動物霊の力を借り、拳銃で対空戦に参加していた。爆弾型の負マテ塊を爆発させれば運んでいる鳥人雑魔にダメージを与えられると思ったら、偶然にも、爆弾型ではなく藻雑魔だったのだ。
彼女はすぐに日本刀に持ち替えた。既に何人かのハンターが気がついているようだが、対空戦を投げ出す訳にはいかないようもある。
「私にとって戦う事は守る事。1体でも多く倒して1秒でも長く戦い続けてみせる」
そんな決意と共に抜刀した。鞘は海面から登ってきた藻雑魔に投げつけてやった。
そこに激しい戦場に似つかない、緩やかな旋律が流れ出した。
連れてきたユグディラのミラがリュートで奏でているのだ。
ユグディラが奏でる曲はただのBGMではない。魔法的なその力を持っているのだ。
「動けなくなるまで守り抜くわ……絶対に」
未悠は甲板に這い上がってきた藻雑魔に対して斬りかかった。
●繋いだ先に立つ
至近弾を受けたのか、あるいは大きな波を越えたのか、船が大きく揺らいだ。
まともに狙いが付けられないがそれでも錬介はゴーレムに砲撃指示を出す。何度かの揺れを耐え、顔を挙げた時、視界の中に見えていた島がより近く感じられた。
いよいよ、島は目の前だ。その光景が、イスルダ沖での海戦の時を思い出させた。
「……ついにこの日がやって来ましたね。あの日は遥か遠くにあったあの島も、今はこんなに近い」
掴むように手を伸ばした。
もちろん、届くわけではない。島を握るようにグッと拳を作り、目を閉じる。
「沢山傷ついて、失って……でも、諦めずに繋いで……此処まで来ましたよ」
この戦いで制海権を奪えば、島攻略への重要な足がかりとなる。
逆にフライング・システィーナ号が沈む事があれば、これまでの犠牲は無駄になるだろう。
「必ず取り戻します……どうか、見守っていてください」
閉じていた目をカッと開いた。
ゴーレムに素早く指示を出すしつつ、負傷したハンターやダメージを受けたユニットに対して回復魔法を使って支援していくのであった。
異変を逸早く察知したのは朝騎だった。
仲間が撃ち落としたはずの鳥人雑魔が海面に漂っていたのだ。
「おかしいのでちゅ!」
歪虚や雑魔は倒されれば消滅する。海面に漂っているという事は倒し損ねたのだろう。
うーと唸りながら付近の海面を凝視した。アンカーブーツで固定した所が体重を支えて軋む。
「見つけたでちゅ!」
恐らく、海面に漂いながら発射したのだろう。魚雷の形をした負マテ塊が一直線にフライング・システィーナ号の横腹目掛けて向かって来る。
咄嗟に符を取り出すと直撃しそうな箇所に向かって投げつけた。
「あぁ! 揺れるでちゅ!」
残念ながら貼り付けた場所付近は波で揺れているので、動いてしまう。
そうなると折角、張った場所でない所に魚雷が突き刺さる可能性も。
「ぎょ、魚雷でちゅよぉ!!!」
だから、朝騎は大声を挙げて仲間に知らせた。
激しい銃撃音が響く中、一体、どれだけの人に彼女の叫び声が聞こえたのか分からない。いや……もしかして、聞こえていないかもしれない。
ふと、そんな不安を覚えた時だった。
「ジュゲームリリカルクルク(略)」
「こ、この声は!?」
「……地面じゃないけど、地縛しちゃうぞ♪ ルンルン忍法! 動きにくーいの術!」
魚雷の進行方向に不可思議な結界が形成されていく。
ルンルンが放った地縛符の術だ。これは空間に作用される結界の一つであるので、術の名前に反して海でも充分に通用する。
その空間に入ってきた魚雷型の負マテ塊の速さが鈍った。
「これで充分に対処できるでちゅ! ありがとうでちゅ! って、もう居ないでちゅ!」
なぜなら、ルンルンは忍者なのだから。
朝騎は気を取り直して符にマテリアルを込めて投げる。狙いは海面近くをゆっくりと進む魚雷。
稲妻が出現し、負マテ塊を直撃。巨大な爆発を起こした。
オファニムのレーダーが探知する歪虚の動きを徐々にオウカは分かってきた。
注視していたおかげかもしれない。爆撃を狙う鳥人雑魔はフライング・システィーナ号に追いつくようなスピードで船体に沿うようなコースを取るのだ。
「レーダーによる、捜索は続けて、いるが、網を、掻い潜って、侵攻するケースも、考えられる」
爆撃を狙っている鳥人雑魔の動きを仲間や艦橋に連絡。
回避する為にフライング・システィーナ号が大きく舵を切る。それに合わせるように船とは対角を描くような機動をみせる鳥人雑魔もいる。
それらは魚雷型の負マテ塊を持つタイプだ。爆撃の際は投下なので、一番当たりやすいコースを狙ってくるが、魚雷型の場合、船の動きを読んで、横腹目掛けて投下する必要がある。
「違和感でも、何でも、いい。妙に、感じたことが、あったら、自己完結せずに、皆報告を頼む」
そう呼び掛けながら自由自在に飛び回る鳥人雑魔をレーダーとモニターに映る映像で確認。
爆撃型でも魚雷型でも無い飛び方をする存在に気がついた。
「これは……これが、藻雑魔を、降下させるタイプだ」
鳥人雑魔はそれぞれが役割を持って攻めている。ただの雑魔に組織だった動きができるとは思えない。
という事は、指揮官が居るはずである。オウガは対空戦を続けながら、なおも、レーダーをみつめるのであった。
炎の力を宿した破壊のエネルギーが杖先から噴出する。
コントラルトが接近してきた鳥人雑魔へと放ったものだ。その衝撃に驚き、姿勢を変えたのが運の尽き。
負マテ塊にも機導術が直撃し、爆散した。
「残数は……もう少しね」
ゴーレムが撃ち続けている炸裂弾の残りを把握したコントラルト。
炸裂弾を全て使い切ったら、搭載させている対空砲を使って対空戦闘を継続させるつもりだ。
「本当にキリがないわね」
「同感です」
魔法を放ったレイレリアが応えた。
鳥人雑魔の数がそれだけ多いという事だろう。それでも、フライング・システィーナ号に致命的なダメージは無かった。
ハンター達が居る広大な甲板には幾つか、爆弾タイプの負マテ塊が落下したが、甲板を突き破るという事も無い。それは、CAMなどの大型ユニットが甲板上で戦闘しても船体への影響を最低限にする為に敷き詰められた特殊な鉄板のおかげでもある。
「今気がついたけど、これ……うっすらと魔法陣みたいのが見えるわね」
「……法術陣かもしれませんね」
なんとか見えるか見えないか程度に甲板に刻まれているのは、法術刻印かもしれない。
法術陣を応用した武具が最近、チラホラ見られている。愛用しているハンターも多く、例えば、タワーシルドに法術刻印を施した盾は絶大なる防御力を持つ。
「同様の仕組みが施されていたならば、堅いわけですね」
感心するレイレリアの言葉にコントラルトは思い出した。
「そういえば、ノセヤさんは魔術師だったはず……なるほどね」
武具に使える技術が船に使えない訳がない。
事実は分からないが、ノセヤの考える事だ。充分にあり得るだろう。
「大事な船を囮にするという事はそれに見合う防御力を満たしたからと」
妙に納得した表情でコントラルトは杖を掲げて意識を集中させる。
防御力を満たしたのであれば、後は迎撃に足る火力も想定しているはず。そして、フライング・システィーナ号には固定武装はなく、火力を受け持つのはハンター達だけだ。
であればこそ、ノセヤが想定している以上の火力を見せつけようと思ったのだった。
「……けど、こっちも……“死ぬがよい”っ!」
霊闘士としての能力最大限に発揮させて、リュラが分厚い槍を振るう。
それで甲板上に現れた藻雑魔を粉砕すると、すぐさまゴーレムへと取り付く。
一度、指示をいれておけば撃つだけならできるが、やはり、細かい指示を与えるには乗り手が必要なのだ。
「また出た……」
ゆっくりと指示を出してくれる時間的な余裕を与えないつもりか、リュラの視界の中に再び藻雑魔が見える。
白兵戦の役目を受け持ったハンター達も居るが、やはり、敵の数の多さとフライング・システィーナ号の甲板の広さに全てを捌ききれていないようだ。
「指示を続けたまえ、リュラ君」
そういってゴーレム脇に姿を現したのは、大二郎だった。
指し棒のような物で甲板上に出現した雑魔を指す。
「歪虚空挺部隊いや歪虚陸戦隊ともいうべきか。それにしても、藻だらけだ」
何やら藻雑魔は身震いしつつ大二郎に向かって走り出してきた。
想定した以上に早いようだ。藻のくせに。
しかし、大二郎は慌てた様子も無く魔法の詠唱に入る。
「……出のは希望の火、沈み逝くは落日の火。興き、滅び、繰り返し、炎となれ。 火弾――八尺瓊勾玉」
猛烈な炎の衝撃が藻雑魔に襲いかかる。
大二郎の魔法威力は強大だった。その一撃で吹き飛びながら消滅する雑魔。
「ありがとうございます」
「次も雑魔が出現したら、私が対処しよう。リュラ君は的確にゴーレムを使って鳥人を撃ち落とすのだ」
弾幕を張るというのはそれだけでも意味があるが、より正確に狙うのであれば指示に専念できている方が良いだろう。
対空戦時々白兵戦をこなしつつ、対空戦闘はなおも継続していくのだった。
●対艦戦
フライング・システィーナ号の甲板から仲間達が攻撃していたのが一斉に止まる。
リクが連絡を入れたからでもあるし、空からの襲撃への対処の為でもあるだろう。
「どれが旗艦か分からないけど、中心の船から叩く!」
先陣を切るリクの機体に歪虚船から負のマテリアルの弾丸が雨の様に放たれる。
それらの隙間に巧みに機体を操作させつつ盾を構えながら滑り込ませた。浮遊機構を持つガンポッドが発砲。
双方の銃撃が飛び交う中、機体は巨大な斬艦刀を振り上げた。
歪虚船が回頭し船首が斜めになっている所へ、突撃の勢いそのままに刀を振り下ろした。
「た゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!」
一説によると斬艦刀は文字通り、戦艦の装甲を切り裂く事が理論上可能な事からその名前を与えられた。
歪虚船が想定していた戦艦では無かったかもしれないが、リクの機体が振り下ろした長大な刀は、その船首を切り落としたのだった。
「いくのですわぁ!」
甲高い金属音を響かせ、颯が駆るGustavのドリルが高回転する。
船首が切り落とされた歪虚船に向かって一直線に突撃する。波の影響を受けて跳ねながらもそのドリルが深々と船体を抉った。
「びりびり電撃どりる!」
ドリルの先端から、青白いマテリアルの光線が放たれる。
船を貫いた光線。歪虚船そのものに零距離射撃するのはこれが初めてではない。何らかの対策を取られている可能性もあったが、それは心配過ぎだったようだ。
「好機っ!」
枢の叫び声と共に、青と黒のドミニオンが海面を弾け飛んだ。
真横に突き出した刀で歪虚船の船体を切りつけながら船尾に向かって走る。
「狙わして貰います!」
船体に入った傷に沿うように、アルバのローゼスがマテリアルライフルを放つ。
紫色の光線が歪虚船を稲妻のように走った。
次の瞬間、ゆっくりと転覆しながら消滅していく。
残った船は砲撃戦のダメージもあったのもあってか、強力なハンターの存在に驚き、一斉に回頭を始める。
「……行けるか……あと、数隻!」
次の目標を定め、フルスロットルで機体を走らせるリク。
回頭して横腹を見せている為か、歪虚船から、寄せ付けないように弾幕が張られてきた。
「俺が囮になる。リクはその隙に!」
スラスター全開で波を裂いて前面に出た枢。
弾幕が集中するが、残っていた海流の動きに乗った事もあり、弾幕には捕まらない。
急激に弾幕が薄くなる。アルバがスキルトーレスで放った火珠が歪虚船の防衛機能を壊しているのだ。
「積極的に壊して行きますよ」
「助かります!」
宇宙用の機動スラスターを全開にし、インスレーターが海面から飛び上がった。
そのまま、歪虚船の甲板へと強引に降りつつ、刀を深々と突き刺して杖代わりにする。
歪虚船が姿勢を直そうと藻掻く所を颯は見逃さない。
「喫水線にドリルです!」
ガリガリと不気味な音を立てて船体を抉り砕いていく。
そこから大量の海水が船内へと入り、ますます船足が遅くなった。
「よし! このまま攻撃を継続する!」
ガンポットで銃撃を繰り返しつつ、リクは叫ぶ。数隻全てを撃破する事は難しいかもしれないが、それでも可能な限り沈めれば、その分、敵の海上兵力に打撃を与える事ができる。
制海権を得る為には必要な戦果なはずなのだから。
●白兵戦
這い上がってくる藻雑魔の数は決して多いわけではない。
しかし、広い船体を完全に守るのは無理があった。最上甲板まで登ってきた藻雑魔を見つけては倒すしかない。
「援護する!」
遊撃的に動いていたのは皐月だった。
イェジドの背に乗って、戦力が手薄そうな所を転戦していたのだ。
同時にイェジドは頼もしい戦力にもなる。対空戦闘ではあまり、役には立たないかもしれないが、今は十二分に意味があった。
「頼んだよ」
藻雑魔を皐月に任せるジュード。
拳銃に持ち替えようとした手はしなやかに、素早く矢筒へと伸ばした。
白兵戦の準備をしていなかった訳ではないが、魔術師達の支援を継続したかった為だ。
フライング・システィーナ号の広さは射程という意味でも気をつけなければならなかい。幅だけでもかなりの広さがある船だ。援護の為の射程もそれに見合う武器で無ければならない。
「行動を鈍らせるね」
青色の戦闘用ドレスが潮風で揺れて際どいが気にしている場合ではないし、今更、恥ずかしがる事でもない。
下着が公然の前で丸見えになる事自体に関しては、後で怒られる可能性が無いわけではないだろうけど。
ジュードが放ったマテリアルの矢が雨となって鳥人雑魔の動きを鈍らせる。
次の目標を確認している間に、皐月もイェジドと共に藻雑魔を倒していた。
「よし……今度はあっちか!」
甲板の一角、藻雑魔が固まって出現してきていた。
それらに立ち向かっているのは未悠だった。
致命傷は負っていないが、ミラの援護があるとはいえ、多勢に無勢だ。
「まだ動ける……まだ戦える……」
肩で激しく呼吸しながら、体内のマテリアルを練って、傷を回復させた。
スキルは尽きかけている。だが、決して心は折れない。諦めたりしない。
「私はまだ……守れる……!」
不屈の闘志をみせた未悠は刀を正眼に構えた。
まだまだ戦いは終わらないのだ。こんな所で倒れる訳にはいかない。
「良い意気込みじゃん」
感心しながら皐月が隣についた。
未悠を挟むように皐月のイェジドも並ぶ。
その時、藻雑魔らが一斉に襲いかかってきた。数で押し切るつもりなのだろうか。しかし、出鼻を挫くように矢雨が降った。
振り返るとジュードが爽やかな笑顔で弓を振っている。
「よし、いくわ!」
押されるより押す。二人と1匹が藻雑魔の群れへと突貫した。
その様子に付近に居た奈月は急いで自機へと乗り込んだ。何か嫌な予感がしたからだ。
開いたままのコックピットに乗り込むと素早くコントロールパネルを打つ。待機モードだったドミニオンが緊急起動する。
「地味かもしれないが……ま、だからこそ、こうして好き勝手動けるんだ」
モニターに映るのは藻雑魔が組体操でもやっているような光景。
藻雑魔自体は大した強さではない。しかし、寄あつまる事で驚異にもなる場合があるだろう。
「悪いな……それは阻止だ」
スラスターを吹かして一気に距離を詰めると、アーマーペンチで握りつぶす。
集まろうとしていた所を妨害されてボロボロと離れる所を皐月と未悠が見逃す訳がない。
現れた藻雑魔を倒しきると、次の敵を探し求め、甲板を走り出すハンター達。
そこへ、ジルボの緊迫した声で通信が入った。
「何か変なのを抱えているのがいるぜ」
見上げた彼ら彼女らが見たのは、鳥人雑魔にぶら下がる歪虚の姿だった。
●その名は“ウーザー”
対艦戦も対空戦も優勢だ。ワイバーンに騎乗していたUisca Amhran(ka0754)は空の上でそう思っていた。
「ソルラさん、ランドル船長、とうとうここまで来ましたよ……。イスルダ島は必ず奪還します!」
逝った二人の悲願だった。いや、二人だけじゃない。大勢の人々の願いと想いが掛かっているのだ。
仲間の対空射撃の邪魔にならない所で戦っていたUiscaだったが、ジルボからの連絡を受けて双眼鏡を覗き込んだ。
だが、敵の数が多すぎて分からない。おまけに頭上からだとぶら下がっているという歪虚が見えないのだ。
「イスカ! 見つけたよ!」
通信機を通して恋人の瀬織 怜皇(ka0684)から連絡が入った。
怜皇はエクスシアに搭乗していた。その魔導レーダーとモニターを通じて発見したのだ。
言われた目印の先、鳥人雑魔の軌道から推測して、Uiscaは急降下。問題の鳥人雑魔に奇襲を仕掛けた。
「指揮官が居るなら組織だった動きも納得です!」
幻獣砲が火を噴き、Uiscaの符が舞った。
それで鳥人雑魔は消滅――残ったのは海面へと落下していく。
怜皇は確かに見た。海に落下していくそれが、両腕を広げると翼が出現。海面スレスレに飛行しているのだ。
「倒し……きれてない!」
すぐさまにUiscaに連絡を入れると驚きの返事。
「追うわ! 援護を」
「甲板より下に入って、イスカ! 味方の対空砲火を避けられる!」
「ありがとう!」
指揮官らしき目標を追うUiscaのワイバーン。
一足先に船へ到着するその存在に近い場所へと移動する怜皇。向こうの方が先に船に取り付けるだろう。
今、対空戦の真っ只中だ。相手によっては大惨事を引き起こす可能性もある。
その怜皇の不安は予想もしない偶然によって防がれる事になった。
「砲戦ゴーレムはこのような戦にこそ最大の力を発揮するのじゃ。見せてやろうかのう。我等をのせて『戦艦』となった、この船の力を」
満足気な顔で紅薔薇(ka4766)が刀を振るって藻雑魔を排除しつつ、黒という名の刻令ゴーレムを見上げた。
カスタマイズした黒は対空戦で凄まじい働きを見せていた。これなら、対空や対艦に合わせ調整すれば、フライング・システィーナ号はいつだって砲撃戦艦にも防空戦艦にもなり得る。
「ほう……なるほどぉぉぉ! これは凄く素晴らしい発想だぁぁぁぁぁぁ!」
「そうじゃろうそうじゃろうって、何者じゃ!」
思わず同意してしまったが、そんな無駄に語尾の長い言葉を発する仲間がいない事に気がつき、紅薔薇は刀先を突然現れた歪虚に向けた。
「私は偉大なるウーザー・イマッド様じゃぁぁぁぁぁ!」
「直接乗り込んでくるとはいい度胸じゃ」
「素晴らしすぎる私の頭脳の前にひれ伏せぇぇぇぇぇ!」
直後、負のマテリアルが紅薔薇に襲いかかる。
傲慢の歪虚が使える【強制】という固有能力だ。抵抗出来なかった者は歪虚が命じるままに行動してしまう。
酷い場合は、自害せよという命令や仲間を攻撃しろという命令もあり、幾度となくハンターを苦しめている力だ。
「何の真似じゃ?」
紅薔薇は容易く抵抗した。
負のマテリアルが強くなかったというのもあったかもしれないが、あれぐらいであれば、何度掛けらようとも抵抗できるだろう。
ウーザーにとって運が無かったのは、この歴戦のハンターが目の前に現れた事だっただろう。
そして、ハンター達にとっては幸運としか言いようがない。
紅薔薇はゴーレムに繰り返しの指示を与えると、刀を構えた。傲慢歪虚である事が分かった以上、油断は禁物だ。
「ふむぅぅぅ」
歪虚はマジマジと紅薔薇を見つめる。スコープ付きのゴーグルのようなものが伸縮する。
何かの術かと思って身構える紅薔薇にウーザーは絶叫した。激しい対空砲火など聞こえなくなるほどの大声で。
「貴様のぉぉぉ! 戦闘能力は548ぃぃぃ! 体重45キロォォォ! 胸のサイズはぁぁぁ!! スモールえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
個人情報の保護というものはこのウーザーの前では無い……のかもしれない。
いや、あっているかどうか、確かめる術は本人以外持ち合わせていないのだが。
一瞬、銃撃音も静まり返る出来事から時間を動かすように紅薔薇が叫び返した。
「スモールAではないのじゃぁぁぁぁぁぁ!!」
怒りの次元斬が放たれるが、高らかな笑い声を上げながらウーザーは気持ち悪い回避行動で避け切った。
以外と俊敏だ。
「これなら!」
そこへ怜皇がマテリアルライフルを放つ。
巨大な光線のようなものがウーザー目掛けて伸びてくるが、それさえもヒラリと身を翻してかすりもしなかった。
「それがCAMですかぁぁぁ。とんだ、ポンコツだぁぁぁぁぁぁ」
「そうとは限りませんよ」
余裕の表情をみせるウーザーは突如、背後から猛烈な衝撃を受けた。
ワイバーンで海側から接近したUiscaの攻撃だった。
「想いを、そして、勝利を、繋ぎますっ!」
スタっと甲板に飛び降りたUiscaをウーザーは注意深く観察する。
「貴様のぉぉぉ! 戦闘能力は519ぅぅぅ! スリーサイズは上からぁぁぁぬぁ!?」
ウーザーの言葉を遮るように、Uiscaが魔法を唱え、紅薔薇が刀を振るった。
光の衝撃がウーザーに直撃し幾つもの刃が襲いかかる。
スコープ付きのゴーグルは直撃を受けたにも関わらず、壊れている様子には見えない。
「覚悟しなさい!」
「覚悟するのじゃ!」
二人の気迫にやれやれといった感じに両腕を上げるウーザー。
攻撃は当たっているので、効いていない訳ではなさそうだが……ただの並歪虚では、ないのかもしれない。
「全くぅぅぅ。極めて好戦的な人間共めぇぇぇぇぇぇ」
「その長ったらしい語尾はなんじゃ?」
先ほどからうざったらしい事、この上ない。
「教えてやろうぅぅぅ。文字数を食うのじゃぁぁぁぁ」
天を大げさに指差すウーザー。
その言葉にUiscaが怜皇のCAMを見上げた。
「……意味、分かります?」
「イスカ、あまり、気にしなくていいと思いますよ」
実は傲慢の歪虚ではなく、狂気の歪虚なのかもしれないとか一瞬思ったが、言葉に出すと無駄に長そうな気がして、怜皇は次の攻撃の準備に意識を集中させた。
一方のウーザーの話は続く。
「それはぁぁぁぁ! 貴様らが負けた歴史書の事じゃぁぁぁぁぁぁ!」
「妾らは負けはせんのじゃ!」
「小煩い小娘めぇぇぇ。胸がそこのエルフと同じ位になってからいえぇぇぇぇぇ!」
「……」
もはや、会話する事すら疲れてくる歪虚の言葉。
怒りを込めて紅薔薇は今一度、刀を構えた。この歪虚はここで倒しておかなければ、後で絶対に禍根を残す。まず、自分が。
「勝利の記録に無駄な文字数を掛ける訳にはいかんからのう。さっさと退場じゃ!」
渾身の次元斬を繰り出したか、それは読まれていたようだ。
空間を切り裂く刃を避けて余裕のポーズを取る。
その隙が出来るのを待っていた怜皇が再びマテリアルレーザーを放った。
直撃を受けて甲板から落下するウーザー。高らかな笑い声とも語尾の長い叫び声ともどちらとも考えられそうな言葉を残して。
「さらばだぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
急いで甲板の縁まで行って覗き込んだが、海上にウーザーはいなかった。
両腕を広げ、海面スレスレを飛行している。
「間に合わない……」
ワイバーンを呼び寄せている間に遠くに飛び去ってしまうだろう。
何よりも深手を与えられなかったのが残念だった。
「きっとあれが指揮官。逃げ去れば、この組織的な雑魔の襲撃も収まるはず」
怜皇の言った通り、以後、鳥人雑魔の動きは単調なものとなり、やがて、撤退していくのである。
その頃、船尾近くで甲板から下ろした梯子に捕まって龍崎・カズマ(ka0178)は海面に漂う藻雑魔を攻撃していた。
「考え過ぎなら、それで十分なんだがね」
以前の報告書で水中からの奇襲攻撃を受けていた事は知っていた。
万が一というのも考えられる。フライング・システィーナ号はイスルダ島攻略の要ともいえる存在。
そこで、カズマは梯子に捕まって待機していたのだ。
藻雑魔が現れた時は、一瞬、本気で心配したものだが、頑張って船をよじ登りだしたのを見て安堵していた。
「……歪虚か?」
カズマは疾影士としての能力で気配を極力隠していたのが幸を期したようだ。
両腕を翼のように伸ばして滑空する歪虚はカズマに気がついていない。
静かに銃から剣の柄を手に取る。マテリアル状の刃が形成された。
「ハァッ!」
気合の掛け声と共に梯子から飛び降り様、歪虚へと斬りかかった。
ざっくりと確かな手応えを感じる。
「ぎゃぁぁぁ! おのれぇぇぇぇぇぇ!!」
歪虚が叫び声を挙げた。無事に逃げ切れそうだと思った矢先の奇襲だっただけに精神的なショックも大きかったようだ。
空中で姿勢を整えながら振り返ってカズマの姿を確認した。
「許さんぞぉぉぉ! 貴様ぁぁぁ! 覚えてろぉぉぉぉぉ!」
「逃したか……」
波間に漂いながらカズマは呟く。
這う這うの体でイスルダ島へと向けてウーザーは逃げ去っていくのだった。
●勝利
何かの残骸に捕まりプカプカと浮かぶハンター達の機体。
ウォーターウォークの効力は消えていた。戻る事も出来たのだが、敵船を追いかけているうちに海流の流れから外れてしまったからだ。
「海面を浮き沈みするのも、悪くはないかもしれませんね」
周囲を気遣ってかアルバがそんな事を言いながら、機体の頭を海面から出していた。
フライング・システィーナ号が向かって来るのが分かった。時期に回収されるだろう。
「大勝利ですわ!」
楓がGustavの頂辺で威風堂々と胸を張っている。
味方に被害が無かった訳ではない。それでも、元々の戦力差や戦果を考慮すれば、それは確かに大勝利と呼ぶに相応しい結果なのかもしれない。
「結局、対空戦までは間に合わなかったか……」
イスルダ島をジッとみつめつつ枢が言った。
敵艦隊撃破後は速やかに母艦の直掩に戻るはずだったが、そうなかなか上手くいかないものだ。
それでも、仲間達はしっかり守りきったのだ。それぞれが役割を果たしたという事でいいはず。特に鳥人雑魔はかなりの数を撃墜したようだ。
「なに、まだまだ戦いは始まったばかりさ」
枢へリクがそんな言葉を掛ける。
確かに、この戦いで全てが終わった訳ではない。いや、むしろ、ここからが本番である。
イスルダ島の制海権と敵航空兵力を撃滅したのは、島に上陸する為の目標の一つに過ぎない。
真の目的はイスルダ島の奪還なのだから。
水の精霊(ソルラ)とその仲間の力で主力艦隊より先行し、囮となったフライング・システィーナ号。
ハンター達は軽微な損害を受けつつも、敵航空兵力と海上兵力を迎撃した。歪虚側に多大なる損害を与え、制海権の奪取に成功したのだった。
おしまい。
●葬花
幾本か美しい花が青い海原に流れていく。
その様子を眺め、ジルボは自分がやった事なのに『似合わないな』と苦笑を浮かべた。
いつの間にかに脇にはエロディラが居たが、ジルボと同じように流れていく花を見つめている。
「良い女だったよな~」
深い関係だったという訳ではなかったが、少なくとも冗談を言い合える仲だった。
スっとエロディラを抱き上げたジルボ。
「ところで、水の精霊様も同じ下着……って、なんだ、これ……」
エロディラに尋ねようとした所で、このエロ猫が女性ものの下着を持っている事に気がついた。
何気なく手に取って確認しようとしたその時だった。
「下着泥棒だぁ!」
「あそこにいるぞ!」
「ジルボ……お前……」
振り返ってみると仲間達の姿。
「い……ち、違う。これは、だ、な……」
「問答無用じゃ! 観念せい! ジルボ!」
その言葉にエロディラを抱えて走り出すジルボ。追いかけるハンター達。
ドタバタと騒がしい様子の中、女性の笑う声が――ジルボには聞こえた気がしたのだった。
海流の動きに介入し、フライング・システィーナ号と護衛の軍船は恐るべき速さで海上を疾走するかのように走り抜けた。
高速での移動という目的を達成したので、精霊の力は弱まったが、それでも、影響が完全になくなる訳ではない。
船首付近でその様子を見つめていた皐月=A=カヤマ(ka3534)は、ポツリと呟いた。
「この船に乗るのもちょっとぶりかな」
最後に乗ったのは昨年だっただろうか。
その間に色々な事があったのは皐月も知っている。
「……あの騎士の人の事とか、大変だったみたいだけど」
今もきっと、その悲しみを背負っている者も居るだろう。
それでも、時は流れていく。残った者が背負い続ける事で。
「俺はあんま関わってなかったし、安易な事言うのは失礼か……」
だから、皐月は黙するように静かに目を閉じた。
そんな主の雰囲気を感じたのが、相棒のイェジドが寄り添う。
敵襲を知らせる警告音が船内に響いた。いよいよ戦闘開始だ。
皐月は閉じていた目を開き、いつになく真剣な眼差しでイスルダ島をみつめた。
「イスルダ島奪還作戦、成功させねーとな」
●発艦
「ウォーターウォークを掛けました。カウントは忘れないように。皆様にご武運を」
レイレリア・リナークシス(ka3872)が魔法をユニットへの付与を終えて、敵艦へと向かう仲間達に声を掛けた。
人数が少し多くなったが、特には問題ないだろう……制限時間内であれば。
「はやてにおまかせですの!」
威勢良く八劒 颯(ka1804)の魔導アーマーGustavが海上へと飛び出す。
遥か遠く先に見える敵艦へと向かってこれから突撃し、歪虚船にドリルを突き立てるつもりだ。
揺れる波間に降り立ったGustavは横転するんじゃないかという動きを一瞬見せたが、なんとか脚で踏ん張った。
それを見届け、前方の安全を確保できたと判断したキヅカ・リク(ka0038)が愛機インスレーターを進ませる。
「……敵との陣形の相性が悪い。今回は少し派手に行かなきゃダメ、か。ま、いつも通り……あんまり期待はしないでよ!」
距離と勢いを稼ぐ為に甲板先でスロットルを全開。
「キヅカ・リク、インスレーター……get ready!!」
轟音と共に発艦していく仲間の機体を見つめながら、自分の機体――ウォルフ・ライエ――を移動させる央崎 枢(ka5153)。
今回、機体を機動力と白兵戦向けに調整しているが、どこまでやれるかはやってみなければ分からない。
「一番槍は任せたよ、リク。俺達も続く!」
パネルを素早く叩き、スラスターの出力を調整。
その間に、リクの機体がコースから進む。波はあるようだが、いけない訳ではないのだろう。
「……Go!!」
加護を祈りながら、しかし、それを口にする事なく、枢は気合の掛け声と共に発進した。
最後に出るのは、アルバ・ソル(ka4189)だった。
「いくよ、ローゼス!」
紅きエクスシアがマテリアルエンジンの唸り声と共に発艦。
揺れる波間へと強引に降り立った。
計4機のユニットで敵艦隊へ向かう事になる。25人という防衛人数から攻撃に割り振るにはこれが限界の数といえよう。
●一斉射撃
次々と対艦攻撃に向かう仲間の機体が海面へと発艦。
それを見届ける暇もなく、空から鳥人雑魔が向かって来る。そんな状況下ではあるものの、フライング・システィーナ号の甲板に集まった一部の機体は銃口を敵艦の方角へと向けていた。
「ふふふ、彼我の距離は……ちょうどいい塩梅じゃ。どうれ、まずは驚かせてやろう」
ミグ・ロマイヤー(ka0665)が不敵な笑みを浮かべていた。
左手で素早く愛機ハリケーン・バウ・Cのパネルを視線を向けずに正確に叩く。
「敵艦に向けて一斉に射撃するぞ。カウントを出したのじゃ!」
通信機を通じて響いた彼女の声にジーナ(ka1643)は了解と答えつつ、モニターに映る外の状況を確認する。
歪虚船に、鳥人雑魔が無数……。
「色々出てきたな……だが、予想の範囲内か」
正直、精霊の海流操作にはさしものジーナも驚いた。
しかし、敵の多さには驚きもしない。歪虚が支配する島へ攻め込むのだ。それぐらいの兵力、予想できない訳がない。
「こちらは準備済みだ」
長大なカノン砲を構える。
人が操れる代物ではない事は一目瞭然だ。ユニットだからこそ持てる巨大な装備である。
「こちらmercenario。同様よ」
マリィア・バルデス(ka5848)が冷静に答える。
最終調整に余念がない。揺れる船上からの遠距離攻撃だ。神経も使う。
「CAMでこんなふうに海戦、ね……考えたこともなかったわね」
フライング・システィーナ号の甲板で砲塔の代わりになるのだ。
この船には固定武装は無いというが、強力無比なユニットがズラリと並んだだけで、その戦力は計り知れないものがあるだろう。
下手な砲塔を載せるよりも戦力になるはずだ。
「此処で落ちては提言した意味もない。守るとも、当然だ」
エクスシアに乗るストゥール(ka3669)は射撃の準備を整えつつ、そう呟いた。
この船を活かす為にノセヤに提言した。提言内容全てが採用された訳ではないだろう。限られた時間での工事の合間に、何でも新装備を搭載しているという。
「待たせた。準備は万全だ」
必ず守りきると心の中で誓いながら通信機に向かって宣言する。
甲板に機体を固定させる音、ミサイルの発射口が開く音などが通信機を通じて重なった。
「敵艦に向けて一斉攻撃じゃ!」
ミグの叫びと共に右手を挙げ、モニターのカウント数が0になった。
瞬間、轟音と煙が甲板上を包み込んだ。
複数の対VOIDミサイルが鳥人雑魔などとは比べ物にならない速度で飛翔した。
●進軍
敵味方の砲撃が頭上を飛び交う。
それよりも高い所を鳥人雑魔が駆け抜ける。
「どうやら、鳥人雑魔はこちらには向かってこないよう、か」
アルバの台詞の通り、遥か頭上を飛ぶ鳥人雑魔はひたすらフライング・システィーナ号へと向かっているようだ。
「向こうが来ないから、こちらの攻撃も届かないな」
機体が転倒しないように上手に操縦しながら枢が空を見上げる。
まるで、雲霞のようだ。びっしりと埋め尽くされている様相は不気味に思えた。
「敵が気がついていないだけの可能性もあるかもしれません」
「だろうね」
もしくは、ユニット数機程度など、構うほどの存在ではない……と見ている可能性もある。
だとすれば、それは傲慢というものだ。僅か4機ではあるものの、取り付けさえすれば無視はできないはずだ。
「これだけの速度で迫られるとは思っていないかもしれない」
リクが会話の中に入ってきた。
機体は海上を恐るべき速さで駆け抜けていた。転倒しなかった機体が居たのは単なる幸運に過ぎない。
「これが水の精霊の力……海流を操作出来るなんて……」
厳密に言うと水の精霊(ソルラ)と彼女の仲間の精霊達の力が残したものだ。
海流の動きを操作し、フライング・システィーナ号と随伴艦を運んだ。その流れは急激に止まるものではない。
真っ直ぐとイスルダ島へと向かう海流はまるで、高速で動くランニングマシーンのようなものと化していた。
逆方向ではない事は幸運な事だろう。
「今後もこの手の海戦が続くのであれば、ホバー的な装備や水中戦に強い新型が欲しくなりますね~」
颯が器用に波間から波間へとジャンプしながら、そんな事を言った。
彼女は以前、その様な提案もした事があるだけに、今回、間に合わなかったのは残念な事だ。
「いよいよ、近くなってきたですの!」
嬉々としてドリルを回転し始める颯。
ようやく、敵歪虚船がハンター達に気がついたのか、船上からの散発的な攻撃が飛んできた。
●対艦砲撃
「距離を維持しているように見えるわ」
長距離射撃を繰り返しながら言ったマリィアの台詞にストゥールが応える。
「気持ち悪い動きをするな」
ハンター達の方が砲撃の有効距離はあった。その間に打ち込んだミサイルや射撃に効果が無い訳ではない。
歪虚船はフライング・システィーナ号を射程に収める程は強引に近づいたのだろう。
距離が縮む前に後進するのだ。どんな原理で動いているか分からないが、バックギアでも備わっているのか。
モニターに映った飛翔体をジーナは見逃さなかった。魔導レーダーは正しく作動しているようだ。
「鳥人雑魔じゃない……敵の船からの射出体!」
「負のマテリアルの塊じゃ! 射撃でも撃ち落とせるはず!」
ハリケーン・バウ・Cの肩口に装着されているミサイルランチャーのハッチが開くと多連装のミサイルが大空へと飛ぶ。
複雑な弧をいくつも描いて、それらは次々と負マテ塊に直撃、粉砕した。
「対艦攻撃を維持しつつ、敵弾の迎撃か」
楽はさせてくれないという事かと心の中で続け、ジーナはカノウ砲の照準を取りやめ、機関砲の操作へと移る。
幾つもの負マテ塊の中から、フライング・システィーナ号の船尾を狙っているものを選ぶと射撃ボタンを押した。
ダダダダッ!と曳光弾が弾道を表し、ジーナは微修正を加え、負マテ塊へと導く。
外輪船の弱点でもある外輪を守ろうというのだ。
一方、ストゥールのエクスシアはロングレンジのマテリアル兵器で敵船に狙いを定めていた。
「残数1か……」
マテリアル兵器は弾数に限りがある。
再装填するには、カートリッジが必要なのだ。そして、今回、それを持ち合わせてはいない。
「もうすぐ、リク達が接敵するはずじゃ」
敵艦への攻撃に向かっているハンター達から連絡を受けているミグが告げる。
味方が戦っている所へは無理には射撃できない。誤爆する恐れが高いからだ。
「向こうは気にした様子ないみたいだけどね」
ジーナの言う通り、鳥人雑魔を気にせずに歪虚船は負マテ塊を射出してくる。
犠牲など気にしないという事なのか、そもそも、雑魔如きに気を配る必要はないという事なのだろうか。
「だとしても、こちらは、これだけのCAMや魔導アーマーが連射しているのよ。圧勝は当然じゃないかしらね?」
油断は禁物だろうが、マリィアが頼もしい仲間達をモニターで確認した。
甲板にずらりと並んでいる様々な機体。これで負けようならば、そもそも、イスルダ島を攻略する事は不可能ともいえるかもしれない。
●対空戦開始
ゴマ粒のように彼方の空に見えているのが、鳥人型の雑魔だとすぐに分かった。
空を埋め尽くすという表現が分かりやすいだろうかと、オファニムに乗るオウカ・レンヴォルト(ka0301)は思った。
「多対多、要は戦略、か……」
魔導レーダーには敵味方の位置が刻一刻と表示されていた。
また、機導師としての力で何人かと通信も共有。
対空戦で必要なものは何か……フライング・システィーナ号の広い船体を守るには、各々の役割の把握、そして、連携が必要だろう。
「味方の、位置取りは、問題、無いよう、だな」
対空砲火は単体で単発を打ち上げるより、其々が連携しあって迎撃するのが効果的だ。
つまり、弾幕を張るというのは敵の侵入コースを阻むと同時に、敵の回避スペースも塞ぐ事を意味している。
それを行う為には位置取りは重要だ。特にフライング・システィーナ号の最上甲板は広大なのだから。
刻令ゴーレムであるセントヘレンズの最終調整を終わり、砲身を空中へと向けるリュラ=H=アズライト(ka0304)。
「砲撃は、この子に任せるしかないけど……やれるだけ、やらないと……」
少しばかり自信なさげなのは、彼女自身が近接型を自認しているというのもあるかもしれない。
しかし、彼女が操作・指示する刻令ゴーレムは最新の砲撃専用のものである。
遠距離での砲撃が得意なこのゴーレムには様々なタイプの弾をマテリアルの力で放つ事ができる。
敵が射程に入った事を確認し、砲撃を開始。
豪快な音と共に発射された弾丸は、到達距離まで一瞬にして飛翔し、爆発した。
「砲撃戦……どこか、心が躍るような……」
胸に手を当てるリュラ。
契約した精霊が砲撃と強い関わりがあったかもしれない。琥珀色の瞳に自身の周囲を舞う鷲の幻影が映った。
大空からの襲撃。対抗するハンター達から打ち上げられる高射砲を連想させるゴーレムの砲撃。
それらを冷静にみつめながら、久延毘 大二郎(ka1771)は口を開いた。
「おやおや、随分な団体さんのお出ましだな……そうか、鳥人ね……」
雑魔は人型だった。ただし、両腕に該当する箇所は翼であり、鳥人と呼称する理由には値するだろう。
「何を我々から奪い、栄誉とするのかは知らんが……そう簡単には君達にタンガタ・マヌの称号は与えられんな」
考古学者らしい言葉を呟き、タクトのようなものを振り、白衣を翻す。
タンガタ・マヌとはリアルブルーのある島に由来する称号だ。
儀式を乗り越えた勇敢な者に送られる称号らしいが、到底、鳥人雑魔とは掛け離れているのは当たり前の事。
「さて、私は、この甲板で鳥人の迎撃を行うとしよう」
ゴーレムの砲撃は強力だ。だが、その強力さと引き換えに懐に入り込まれると有効距離外となってしまう。
そんな時こそ、魔法が有効なのだ。
同じように魔法で迎え撃とうと対空砲火をレイレリアは見つめていた。
「一歩ずつ……着実に、あの地への開放の為に、進んで参りましょう」
潮風が彼女の長い髪を揺らした。
視線の先、イスルダ島が見えている。
あの島を歪虚の手から開放する為には越えなければいけない障害が多い。
負のマテリアルに当てられ、汚染されているだろう。今は汚染浄化術も発達しているので、汚染された場所は浄化していけばいいだけだ。
だが、問題は、浄化する為には汚染源となる歪虚勢力を退けていけなければならない。
それは、歪虚との戦闘が予想される。そして、島に上陸する為には、まずは制海権の確保は必至。
「出来るだけ、船に近づけさずに戦えれば」
敵の射程に入る前に可能な限り撃ち落とす事が出来ればそれだけ危険は減るというもの。
レイレリアはしっかりと杖を握った。
炸裂弾が空いっぱい広がり、次々と鳥人雑魔が被弾していく中、爆煙を抜けて炸裂弾の防衛ラインを突破してくる雑魔。
「あらあら。一杯いるわね」
コントラルト(ka4753)が双眼鏡を下ろした。敵を観測していたのだが、砲火を抜けてきたのがいれば、対処が必要だからだ。
近すぎてゴーレムの有効射程の内側に入り込まれているが、慌てる事なく、コントラルトはゴーレムの指示を継続したままにする。
周囲からも、接近してきた雑魔に対し、銃撃や魔法が撃ち上がる。
「打ち放題ってやつかしらね」
味方と同じ場所を撃っても意味がないので、その辺り、ゴーレムの砲撃予定場所を連絡。
どんどんと鳥人雑魔がやって来るが、なるべく遠くを狙うようにコントラルトは心掛ける。
それだけ敵は無数に飛んでくるのだから。
戦闘が開始されると最上甲板は慌ただしくなった。
基本的にはハンターしかいないのだが、船員達も協力できる事があれば手伝っている。
そんな中、北谷王子 朝騎(ka5818)がアルテミス小隊の制服を模したワンピースを着た状態でキョロキョロとしていた。
「2代目ソルラさんの為にも、新生アルテミス隊の一員として朝騎も頑張りまちゅ」
青の隊の騎士にしてアルテミス小隊の小隊長であった騎士ソルラが戦死して日が経った。
今、この船には、ソルラの姿を模した水の精霊がいる。もっとも、アルテミス小隊は事実上解散した事になっているので、新生という形で今がある訳ではないのだが。
その辺はハンターが個々に思うこととして良いだろうが、問題は……。
「ない! ないでしゅよ! 隠れられる場所が!」
柱などの影に隠れて敵の動きをこっそり観察するつもりでいたのに、最上甲板には柱は立っていなかったのだ。
これは、フライング・システィーナ号が全通式甲板――早い話、真っ平らに作られているから他ならない。
慌て続ける朝騎を不思議に見ていた鳳城 錬介(ka6053)だったが、気を取り直してゴーレムに指示を与える。
「まずは邪魔者を吹き飛ばさないといけないね……頼りにしてるよ、崩天丸」
崩天丸という名の刻令ゴーレムから返事は無い。
しかし、錬介の指示通りに確実に反応を示してくれる。
ゴゴゴと鈍い音を響かせながら砲身を挙げた。狙いは鳥人雑魔の編隊。
「発射です!」
合図と共にゴーレム砲が火を吹く。
炸裂弾が飛び、目標地点で霰玉を撒き散らす。それに巻き込まれれば大きなダメージを与えられるのだ。
確かな手応えを感じながら砲撃指示を出す錬介。
その近くで、同じようにゴーレムに指示を出しているハンター……否、(自称)忍者が居た。
「ルンルン忍法と吃驚ニンジャメカ、ニンタンクちゃんの力を駆使して!」
ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)が胸を揺らしながらゴーレムに指示をだす。
「フライング・システィーナ号に迫る歪虚をバンバン落としちゃいます!」
大輪牡丹という胸が大きそうな名前のゴーレムから発射される炸裂弾。
爆発という確かに大きな華を咲かせていた。
「大輪牡丹ちゃん、その名の通り空に大きく打ち上げ花火を上げるのです!」
ついでに、その“花火”というもので、左舷の弾幕も厚くなるのは夏の風物詩という(ルンルン談)。
少なくとも、フライング・システィーナ号は左右にバランスよくハンター達が配置されているので、特別、左舷の弾幕が薄くなるというのは現状……無いようだが。
「鳥人雑魔が抜けました!」
錬介が警戒する言葉を告げる。
確かに対空砲火をくぐり抜けて鳥人雑魔が向かってくる。それに対し、ルンルンは符を構えた。
目にも止まらぬ速さで九字を切ると、符術を行使する。
「(高速で九字を切り)ジュゲ(省略)……ルンルン忍法光と雷の花火! 空に輝け大輪の花☆」
光り輝く結界が出現し、それに巻き込まれた鳥人雑魔が蒸発した。
対空砲火によるダメージも蓄積されていたのだろう。
こうして、フライング・システィーナ号の長い対空戦が始まったのだった。
●対空砲撃
次から次へと飛来する鳥人雑魔。
歪虚船への対艦攻撃を行っていたハンター達も、味方機が敵艦に取り付いたのもあるが、対空攻撃へと移行していた。
「タンクのミグじゃ、圧してまいるぞ!」
甲板中央で機体をどでんと大きく存在をアピールするミグ。
それを狙ってか、あるいはたまたまか鳥人雑魔が組んで急降下してくる。
「対空にも有用な数少ない武器だ。冥土まで堪能していけ!」
ジーナの機体が持つ機関砲が火を吹く。
一体ずつ、確実に仕留めていくとジーナは決めていた。負マテ塊を落とされた後、鳥人雑魔は尚も戦闘を継続してくるのだ。
「そっちに行ったよ」
「了解よ」
機関砲の射撃が直撃し怯んでコースが変わった所、マリィアが追撃を掛けてる。
宙で踊るように身体を弾かせ、鳥人雑魔が霧散した。
その霧散したスペースへ別の雑魔が突っ込んでくる。
ストゥールはその動きを見逃さなかった。
甲板の上を滑るように機体を走らせながら、白色のシールドを掲げる。
「この船は島攻略の為の重要な足がかりだ……」
もし、フライング・システィーナ号が無ければどんな展開になっていたのか想像つかない。
きっと、今以上に苦しい戦いが求められるだろう。最悪、イスルダ島の攻略作戦が遅れていた可能性もある。
それだけ、船に転移門が搭載されているという事は重要な意味を持つのだ。さらに、CAMが運用できるというのも大きい。転移門から補充が受けられるのは帝国や同盟の最新鋭軍艦と比べても遜色ないだろう。
その船を実質的に指揮しているノセヤが真剣にハンター達から話を聞くというのは、それだけ、ハンター達を信頼し、そして、この船に想いを込めているのだろう。
ならば、それに応えるのはハンターとして当然の事。
静かな熱意を込めて、ストゥールは負マテ塊が投下されるコースへと先回りすると盾を構えた。銃撃のような鳥人雑魔からの射撃を無視し、落ちてくる負マテ塊に意識を集中させる。
「未熟な身の上ではあるが、矢除け弾除けにでも、使われればそれでいい」
投下されたそれをストゥールの機体は盾で弾き飛ばした。
船からやや遠くに着弾したそれは水柱を高く上げて爆発する。
「多少の揺れ位、大した事はないのじゃのう」
機導師としての力をフル活用するミグの機体操作。
愛機ハリケーン・バウ・Cはそれに忠実に応える。
通信機から逐一入ってくる他のハンター達からの連絡や報告。コックピットに表示される無数の雑魔。モニターに映る外の映像……様々な情報に戸惑う事なく、ミグは一瞬にして危険度の高い雑魔を選ぶと彼我の距離を推測。
「これならどうじゃ」
8連の多弾頭ミサイルを発射。推進時の煙が幾本もの弧を描いて鳥人雑魔へと追いすがった。
1発目2発目と追いつけなかったミサイルが爆発する中、残りのミサイルが次々に雑魔へと命中すると空中で木っ端微塵と化していく。
味方の弾幕は充分に濃い。それで完全に塞げるかというと、そうでも無いかもしれないが、打ち上がる砲火を見てジーナはふと思った声を発した。
「今回だけは歪虚に憐れみを覚え……ないな。自業自得だ」
射撃戦特化型にカスタムされた濃緑色のデュミナスから打ち出される機関砲は雑魔を狙い撃つ。
形成された弾幕に自ら突っ込んでいく鳥人雑魔が何回か弾けると負マテ塊を抱えたまま海面へ墜落。
大爆発を起こして居なくなった。
「外輪に簡単に近づけると思うな」
機関銃の銃口が再び宙を向いた。
マリィアは唐突に鳴り出した警告音に素早く反射する。
モニターを確認すると、いつの間にかに甲板上に全身が藻に包まれた人型の雑魔が真後ろに居たのだ。
「どこから!?」
海面から泳いで上がってきたのか、空中から落下してきたのか不明だが、そこに居るという事実は変わらない。
そして、放置しておいていい訳でもない。格闘戦になるが、マリィアは慌てなかった。猟撃士は本来、接近戦を行う職ではない。
だが、対応できるスキルが無い訳ではない。特殊な戦闘術を機体にトレースさせた。
「懐に入り込んだつもりなのかしら」
ガチャと音を立てて銃口を向けると、零距離から強引に発射。
本来であれば危険な行為だが、これができるからこそ、猟撃士なのだろう。
大響音と共に藻雑魔は砕け散ったのだった。
●藻雑魔襲来
ジルボ(ka1732)は砲撃専用のゴーレムに指示を出しながら、双眼鏡で鳥人雑魔を確認していた。
野鳥の会――ではなく、注意深く見ていたのは、鳥人雑魔が抱えている負マテ塊だ。
大抵は爆弾型の負マテ塊だが、中には魚雷型というのもある。これは厄介な代物だとジルボは感じていた。
「広い射角は取らせないぜ」
海は広く、基本的に遮蔽物はない。
爆撃は目標へ直接叩き込まなければならないが、魚雷型は比較的自由に多方面から狙う事が出来るのだ。
「……なんだ、ありゃ」
思わず二度見。鳥人雑魔が爆弾型とも魚雷型でも無い別の何かを運んでいた。
よく見ると、人型をした藻のようにも見える。
警告の連絡を受け取ったジュード・エアハート(ka0410)も銃撃の合間に鳥人雑魔を確認する。
「直接、乗り込むつもりなのかな?」
だとしたら愚かな事だ。この最上甲板には連戦のハンター達が待ち構えているのだから。
それに、全通式であるので、仮に運良く甲板に乗り込めても隠れる場所もない。
しっかりと龍弓を引き絞るジュード。
「ここで射程の長さと命中率を活かさなきゃ猟撃士のクラスが泣くからね」
揺れる船上だが、だからこそ、射撃に特化している猟撃士の力が求められるし、それに応えられるからこそ、猟撃士なのだ。
プライドを込めたその一撃が外れる訳がない。鳥人雑魔の首元に深々と矢が刺さった。
それで墜落しながら鳥人雑魔は塵と化すが、運搬されていた藻雑魔は消え去らなかった。そのまま海へと飛び込むと海面を滑るように船に迫ってくる。
「藻雑魔は海面を移動できるようだね」
そう仲間に告げながら、再び矢を番える。
飛び交う中から、再び藻雑魔を抱えている鳥人雑魔を見つけると今度はマテリアルを込めて矢を放った。
真紅の軌道を描いた矢はさながら真っ赤な猟犬のように、標的を撃ち抜いた。マテリアルの力で変則的な動きをみせたそれは、藻雑魔ごと、鳥人雑魔を射抜ききる。
「取り付かれてるなら……」
そう言いながら、鈴胆 奈月(ka2802)はドミニオンから降りた。それまで受け持っていた対空戦は仲間に任せる。
モニターに表示されていたのは、海面を漂っている多数の藻雑魔。それらがフライング・システィーナ号に取付き、登ってこようとしているのだ。
「海上戦も慣れてきたもんだな……」
咄嗟にドミニオンから降りて白兵戦に移行するというのも、そのおかげかもしれない。
杖を握りながらマテリアルを集中させて、頑張って側面を登る藻雑魔にLEDライトからデルタレイを放つ。
哀れな藻雑魔は直撃を受けると海面へと落ちていった。
「でも……これは、防ぎきれないか?」
船の側面を甲板から身体を出してみると、びっしりという程ではないにせよ、藻雑魔が登ってきているのであった。
高瀬 未悠(ka3199)が鳥人雑魔が抱えているものの中に藻雑魔が居ると大声で叫んでいた。
動物霊の力を借り、拳銃で対空戦に参加していた。爆弾型の負マテ塊を爆発させれば運んでいる鳥人雑魔にダメージを与えられると思ったら、偶然にも、爆弾型ではなく藻雑魔だったのだ。
彼女はすぐに日本刀に持ち替えた。既に何人かのハンターが気がついているようだが、対空戦を投げ出す訳にはいかないようもある。
「私にとって戦う事は守る事。1体でも多く倒して1秒でも長く戦い続けてみせる」
そんな決意と共に抜刀した。鞘は海面から登ってきた藻雑魔に投げつけてやった。
そこに激しい戦場に似つかない、緩やかな旋律が流れ出した。
連れてきたユグディラのミラがリュートで奏でているのだ。
ユグディラが奏でる曲はただのBGMではない。魔法的なその力を持っているのだ。
「動けなくなるまで守り抜くわ……絶対に」
未悠は甲板に這い上がってきた藻雑魔に対して斬りかかった。
●繋いだ先に立つ
至近弾を受けたのか、あるいは大きな波を越えたのか、船が大きく揺らいだ。
まともに狙いが付けられないがそれでも錬介はゴーレムに砲撃指示を出す。何度かの揺れを耐え、顔を挙げた時、視界の中に見えていた島がより近く感じられた。
いよいよ、島は目の前だ。その光景が、イスルダ沖での海戦の時を思い出させた。
「……ついにこの日がやって来ましたね。あの日は遥か遠くにあったあの島も、今はこんなに近い」
掴むように手を伸ばした。
もちろん、届くわけではない。島を握るようにグッと拳を作り、目を閉じる。
「沢山傷ついて、失って……でも、諦めずに繋いで……此処まで来ましたよ」
この戦いで制海権を奪えば、島攻略への重要な足がかりとなる。
逆にフライング・システィーナ号が沈む事があれば、これまでの犠牲は無駄になるだろう。
「必ず取り戻します……どうか、見守っていてください」
閉じていた目をカッと開いた。
ゴーレムに素早く指示を出すしつつ、負傷したハンターやダメージを受けたユニットに対して回復魔法を使って支援していくのであった。
異変を逸早く察知したのは朝騎だった。
仲間が撃ち落としたはずの鳥人雑魔が海面に漂っていたのだ。
「おかしいのでちゅ!」
歪虚や雑魔は倒されれば消滅する。海面に漂っているという事は倒し損ねたのだろう。
うーと唸りながら付近の海面を凝視した。アンカーブーツで固定した所が体重を支えて軋む。
「見つけたでちゅ!」
恐らく、海面に漂いながら発射したのだろう。魚雷の形をした負マテ塊が一直線にフライング・システィーナ号の横腹目掛けて向かって来る。
咄嗟に符を取り出すと直撃しそうな箇所に向かって投げつけた。
「あぁ! 揺れるでちゅ!」
残念ながら貼り付けた場所付近は波で揺れているので、動いてしまう。
そうなると折角、張った場所でない所に魚雷が突き刺さる可能性も。
「ぎょ、魚雷でちゅよぉ!!!」
だから、朝騎は大声を挙げて仲間に知らせた。
激しい銃撃音が響く中、一体、どれだけの人に彼女の叫び声が聞こえたのか分からない。いや……もしかして、聞こえていないかもしれない。
ふと、そんな不安を覚えた時だった。
「ジュゲームリリカルクルク(略)」
「こ、この声は!?」
「……地面じゃないけど、地縛しちゃうぞ♪ ルンルン忍法! 動きにくーいの術!」
魚雷の進行方向に不可思議な結界が形成されていく。
ルンルンが放った地縛符の術だ。これは空間に作用される結界の一つであるので、術の名前に反して海でも充分に通用する。
その空間に入ってきた魚雷型の負マテ塊の速さが鈍った。
「これで充分に対処できるでちゅ! ありがとうでちゅ! って、もう居ないでちゅ!」
なぜなら、ルンルンは忍者なのだから。
朝騎は気を取り直して符にマテリアルを込めて投げる。狙いは海面近くをゆっくりと進む魚雷。
稲妻が出現し、負マテ塊を直撃。巨大な爆発を起こした。
オファニムのレーダーが探知する歪虚の動きを徐々にオウカは分かってきた。
注視していたおかげかもしれない。爆撃を狙う鳥人雑魔はフライング・システィーナ号に追いつくようなスピードで船体に沿うようなコースを取るのだ。
「レーダーによる、捜索は続けて、いるが、網を、掻い潜って、侵攻するケースも、考えられる」
爆撃を狙っている鳥人雑魔の動きを仲間や艦橋に連絡。
回避する為にフライング・システィーナ号が大きく舵を切る。それに合わせるように船とは対角を描くような機動をみせる鳥人雑魔もいる。
それらは魚雷型の負マテ塊を持つタイプだ。爆撃の際は投下なので、一番当たりやすいコースを狙ってくるが、魚雷型の場合、船の動きを読んで、横腹目掛けて投下する必要がある。
「違和感でも、何でも、いい。妙に、感じたことが、あったら、自己完結せずに、皆報告を頼む」
そう呼び掛けながら自由自在に飛び回る鳥人雑魔をレーダーとモニターに映る映像で確認。
爆撃型でも魚雷型でも無い飛び方をする存在に気がついた。
「これは……これが、藻雑魔を、降下させるタイプだ」
鳥人雑魔はそれぞれが役割を持って攻めている。ただの雑魔に組織だった動きができるとは思えない。
という事は、指揮官が居るはずである。オウガは対空戦を続けながら、なおも、レーダーをみつめるのであった。
炎の力を宿した破壊のエネルギーが杖先から噴出する。
コントラルトが接近してきた鳥人雑魔へと放ったものだ。その衝撃に驚き、姿勢を変えたのが運の尽き。
負マテ塊にも機導術が直撃し、爆散した。
「残数は……もう少しね」
ゴーレムが撃ち続けている炸裂弾の残りを把握したコントラルト。
炸裂弾を全て使い切ったら、搭載させている対空砲を使って対空戦闘を継続させるつもりだ。
「本当にキリがないわね」
「同感です」
魔法を放ったレイレリアが応えた。
鳥人雑魔の数がそれだけ多いという事だろう。それでも、フライング・システィーナ号に致命的なダメージは無かった。
ハンター達が居る広大な甲板には幾つか、爆弾タイプの負マテ塊が落下したが、甲板を突き破るという事も無い。それは、CAMなどの大型ユニットが甲板上で戦闘しても船体への影響を最低限にする為に敷き詰められた特殊な鉄板のおかげでもある。
「今気がついたけど、これ……うっすらと魔法陣みたいのが見えるわね」
「……法術陣かもしれませんね」
なんとか見えるか見えないか程度に甲板に刻まれているのは、法術刻印かもしれない。
法術陣を応用した武具が最近、チラホラ見られている。愛用しているハンターも多く、例えば、タワーシルドに法術刻印を施した盾は絶大なる防御力を持つ。
「同様の仕組みが施されていたならば、堅いわけですね」
感心するレイレリアの言葉にコントラルトは思い出した。
「そういえば、ノセヤさんは魔術師だったはず……なるほどね」
武具に使える技術が船に使えない訳がない。
事実は分からないが、ノセヤの考える事だ。充分にあり得るだろう。
「大事な船を囮にするという事はそれに見合う防御力を満たしたからと」
妙に納得した表情でコントラルトは杖を掲げて意識を集中させる。
防御力を満たしたのであれば、後は迎撃に足る火力も想定しているはず。そして、フライング・システィーナ号には固定武装はなく、火力を受け持つのはハンター達だけだ。
であればこそ、ノセヤが想定している以上の火力を見せつけようと思ったのだった。
「……けど、こっちも……“死ぬがよい”っ!」
霊闘士としての能力最大限に発揮させて、リュラが分厚い槍を振るう。
それで甲板上に現れた藻雑魔を粉砕すると、すぐさまゴーレムへと取り付く。
一度、指示をいれておけば撃つだけならできるが、やはり、細かい指示を与えるには乗り手が必要なのだ。
「また出た……」
ゆっくりと指示を出してくれる時間的な余裕を与えないつもりか、リュラの視界の中に再び藻雑魔が見える。
白兵戦の役目を受け持ったハンター達も居るが、やはり、敵の数の多さとフライング・システィーナ号の甲板の広さに全てを捌ききれていないようだ。
「指示を続けたまえ、リュラ君」
そういってゴーレム脇に姿を現したのは、大二郎だった。
指し棒のような物で甲板上に出現した雑魔を指す。
「歪虚空挺部隊いや歪虚陸戦隊ともいうべきか。それにしても、藻だらけだ」
何やら藻雑魔は身震いしつつ大二郎に向かって走り出してきた。
想定した以上に早いようだ。藻のくせに。
しかし、大二郎は慌てた様子も無く魔法の詠唱に入る。
「……出のは希望の火、沈み逝くは落日の火。興き、滅び、繰り返し、炎となれ。 火弾――八尺瓊勾玉」
猛烈な炎の衝撃が藻雑魔に襲いかかる。
大二郎の魔法威力は強大だった。その一撃で吹き飛びながら消滅する雑魔。
「ありがとうございます」
「次も雑魔が出現したら、私が対処しよう。リュラ君は的確にゴーレムを使って鳥人を撃ち落とすのだ」
弾幕を張るというのはそれだけでも意味があるが、より正確に狙うのであれば指示に専念できている方が良いだろう。
対空戦時々白兵戦をこなしつつ、対空戦闘はなおも継続していくのだった。
●対艦戦
フライング・システィーナ号の甲板から仲間達が攻撃していたのが一斉に止まる。
リクが連絡を入れたからでもあるし、空からの襲撃への対処の為でもあるだろう。
「どれが旗艦か分からないけど、中心の船から叩く!」
先陣を切るリクの機体に歪虚船から負のマテリアルの弾丸が雨の様に放たれる。
それらの隙間に巧みに機体を操作させつつ盾を構えながら滑り込ませた。浮遊機構を持つガンポッドが発砲。
双方の銃撃が飛び交う中、機体は巨大な斬艦刀を振り上げた。
歪虚船が回頭し船首が斜めになっている所へ、突撃の勢いそのままに刀を振り下ろした。
「た゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!」
一説によると斬艦刀は文字通り、戦艦の装甲を切り裂く事が理論上可能な事からその名前を与えられた。
歪虚船が想定していた戦艦では無かったかもしれないが、リクの機体が振り下ろした長大な刀は、その船首を切り落としたのだった。
「いくのですわぁ!」
甲高い金属音を響かせ、颯が駆るGustavのドリルが高回転する。
船首が切り落とされた歪虚船に向かって一直線に突撃する。波の影響を受けて跳ねながらもそのドリルが深々と船体を抉った。
「びりびり電撃どりる!」
ドリルの先端から、青白いマテリアルの光線が放たれる。
船を貫いた光線。歪虚船そのものに零距離射撃するのはこれが初めてではない。何らかの対策を取られている可能性もあったが、それは心配過ぎだったようだ。
「好機っ!」
枢の叫び声と共に、青と黒のドミニオンが海面を弾け飛んだ。
真横に突き出した刀で歪虚船の船体を切りつけながら船尾に向かって走る。
「狙わして貰います!」
船体に入った傷に沿うように、アルバのローゼスがマテリアルライフルを放つ。
紫色の光線が歪虚船を稲妻のように走った。
次の瞬間、ゆっくりと転覆しながら消滅していく。
残った船は砲撃戦のダメージもあったのもあってか、強力なハンターの存在に驚き、一斉に回頭を始める。
「……行けるか……あと、数隻!」
次の目標を定め、フルスロットルで機体を走らせるリク。
回頭して横腹を見せている為か、歪虚船から、寄せ付けないように弾幕が張られてきた。
「俺が囮になる。リクはその隙に!」
スラスター全開で波を裂いて前面に出た枢。
弾幕が集中するが、残っていた海流の動きに乗った事もあり、弾幕には捕まらない。
急激に弾幕が薄くなる。アルバがスキルトーレスで放った火珠が歪虚船の防衛機能を壊しているのだ。
「積極的に壊して行きますよ」
「助かります!」
宇宙用の機動スラスターを全開にし、インスレーターが海面から飛び上がった。
そのまま、歪虚船の甲板へと強引に降りつつ、刀を深々と突き刺して杖代わりにする。
歪虚船が姿勢を直そうと藻掻く所を颯は見逃さない。
「喫水線にドリルです!」
ガリガリと不気味な音を立てて船体を抉り砕いていく。
そこから大量の海水が船内へと入り、ますます船足が遅くなった。
「よし! このまま攻撃を継続する!」
ガンポットで銃撃を繰り返しつつ、リクは叫ぶ。数隻全てを撃破する事は難しいかもしれないが、それでも可能な限り沈めれば、その分、敵の海上兵力に打撃を与える事ができる。
制海権を得る為には必要な戦果なはずなのだから。
●白兵戦
這い上がってくる藻雑魔の数は決して多いわけではない。
しかし、広い船体を完全に守るのは無理があった。最上甲板まで登ってきた藻雑魔を見つけては倒すしかない。
「援護する!」
遊撃的に動いていたのは皐月だった。
イェジドの背に乗って、戦力が手薄そうな所を転戦していたのだ。
同時にイェジドは頼もしい戦力にもなる。対空戦闘ではあまり、役には立たないかもしれないが、今は十二分に意味があった。
「頼んだよ」
藻雑魔を皐月に任せるジュード。
拳銃に持ち替えようとした手はしなやかに、素早く矢筒へと伸ばした。
白兵戦の準備をしていなかった訳ではないが、魔術師達の支援を継続したかった為だ。
フライング・システィーナ号の広さは射程という意味でも気をつけなければならなかい。幅だけでもかなりの広さがある船だ。援護の為の射程もそれに見合う武器で無ければならない。
「行動を鈍らせるね」
青色の戦闘用ドレスが潮風で揺れて際どいが気にしている場合ではないし、今更、恥ずかしがる事でもない。
下着が公然の前で丸見えになる事自体に関しては、後で怒られる可能性が無いわけではないだろうけど。
ジュードが放ったマテリアルの矢が雨となって鳥人雑魔の動きを鈍らせる。
次の目標を確認している間に、皐月もイェジドと共に藻雑魔を倒していた。
「よし……今度はあっちか!」
甲板の一角、藻雑魔が固まって出現してきていた。
それらに立ち向かっているのは未悠だった。
致命傷は負っていないが、ミラの援護があるとはいえ、多勢に無勢だ。
「まだ動ける……まだ戦える……」
肩で激しく呼吸しながら、体内のマテリアルを練って、傷を回復させた。
スキルは尽きかけている。だが、決して心は折れない。諦めたりしない。
「私はまだ……守れる……!」
不屈の闘志をみせた未悠は刀を正眼に構えた。
まだまだ戦いは終わらないのだ。こんな所で倒れる訳にはいかない。
「良い意気込みじゃん」
感心しながら皐月が隣についた。
未悠を挟むように皐月のイェジドも並ぶ。
その時、藻雑魔らが一斉に襲いかかってきた。数で押し切るつもりなのだろうか。しかし、出鼻を挫くように矢雨が降った。
振り返るとジュードが爽やかな笑顔で弓を振っている。
「よし、いくわ!」
押されるより押す。二人と1匹が藻雑魔の群れへと突貫した。
その様子に付近に居た奈月は急いで自機へと乗り込んだ。何か嫌な予感がしたからだ。
開いたままのコックピットに乗り込むと素早くコントロールパネルを打つ。待機モードだったドミニオンが緊急起動する。
「地味かもしれないが……ま、だからこそ、こうして好き勝手動けるんだ」
モニターに映るのは藻雑魔が組体操でもやっているような光景。
藻雑魔自体は大した強さではない。しかし、寄あつまる事で驚異にもなる場合があるだろう。
「悪いな……それは阻止だ」
スラスターを吹かして一気に距離を詰めると、アーマーペンチで握りつぶす。
集まろうとしていた所を妨害されてボロボロと離れる所を皐月と未悠が見逃す訳がない。
現れた藻雑魔を倒しきると、次の敵を探し求め、甲板を走り出すハンター達。
そこへ、ジルボの緊迫した声で通信が入った。
「何か変なのを抱えているのがいるぜ」
見上げた彼ら彼女らが見たのは、鳥人雑魔にぶら下がる歪虚の姿だった。
●その名は“ウーザー”
対艦戦も対空戦も優勢だ。ワイバーンに騎乗していたUisca Amhran(ka0754)は空の上でそう思っていた。
「ソルラさん、ランドル船長、とうとうここまで来ましたよ……。イスルダ島は必ず奪還します!」
逝った二人の悲願だった。いや、二人だけじゃない。大勢の人々の願いと想いが掛かっているのだ。
仲間の対空射撃の邪魔にならない所で戦っていたUiscaだったが、ジルボからの連絡を受けて双眼鏡を覗き込んだ。
だが、敵の数が多すぎて分からない。おまけに頭上からだとぶら下がっているという歪虚が見えないのだ。
「イスカ! 見つけたよ!」
通信機を通して恋人の瀬織 怜皇(ka0684)から連絡が入った。
怜皇はエクスシアに搭乗していた。その魔導レーダーとモニターを通じて発見したのだ。
言われた目印の先、鳥人雑魔の軌道から推測して、Uiscaは急降下。問題の鳥人雑魔に奇襲を仕掛けた。
「指揮官が居るなら組織だった動きも納得です!」
幻獣砲が火を噴き、Uiscaの符が舞った。
それで鳥人雑魔は消滅――残ったのは海面へと落下していく。
怜皇は確かに見た。海に落下していくそれが、両腕を広げると翼が出現。海面スレスレに飛行しているのだ。
「倒し……きれてない!」
すぐさまにUiscaに連絡を入れると驚きの返事。
「追うわ! 援護を」
「甲板より下に入って、イスカ! 味方の対空砲火を避けられる!」
「ありがとう!」
指揮官らしき目標を追うUiscaのワイバーン。
一足先に船へ到着するその存在に近い場所へと移動する怜皇。向こうの方が先に船に取り付けるだろう。
今、対空戦の真っ只中だ。相手によっては大惨事を引き起こす可能性もある。
その怜皇の不安は予想もしない偶然によって防がれる事になった。
「砲戦ゴーレムはこのような戦にこそ最大の力を発揮するのじゃ。見せてやろうかのう。我等をのせて『戦艦』となった、この船の力を」
満足気な顔で紅薔薇(ka4766)が刀を振るって藻雑魔を排除しつつ、黒という名の刻令ゴーレムを見上げた。
カスタマイズした黒は対空戦で凄まじい働きを見せていた。これなら、対空や対艦に合わせ調整すれば、フライング・システィーナ号はいつだって砲撃戦艦にも防空戦艦にもなり得る。
「ほう……なるほどぉぉぉ! これは凄く素晴らしい発想だぁぁぁぁぁぁ!」
「そうじゃろうそうじゃろうって、何者じゃ!」
思わず同意してしまったが、そんな無駄に語尾の長い言葉を発する仲間がいない事に気がつき、紅薔薇は刀先を突然現れた歪虚に向けた。
「私は偉大なるウーザー・イマッド様じゃぁぁぁぁぁ!」
「直接乗り込んでくるとはいい度胸じゃ」
「素晴らしすぎる私の頭脳の前にひれ伏せぇぇぇぇぇ!」
直後、負のマテリアルが紅薔薇に襲いかかる。
傲慢の歪虚が使える【強制】という固有能力だ。抵抗出来なかった者は歪虚が命じるままに行動してしまう。
酷い場合は、自害せよという命令や仲間を攻撃しろという命令もあり、幾度となくハンターを苦しめている力だ。
「何の真似じゃ?」
紅薔薇は容易く抵抗した。
負のマテリアルが強くなかったというのもあったかもしれないが、あれぐらいであれば、何度掛けらようとも抵抗できるだろう。
ウーザーにとって運が無かったのは、この歴戦のハンターが目の前に現れた事だっただろう。
そして、ハンター達にとっては幸運としか言いようがない。
紅薔薇はゴーレムに繰り返しの指示を与えると、刀を構えた。傲慢歪虚である事が分かった以上、油断は禁物だ。
「ふむぅぅぅ」
歪虚はマジマジと紅薔薇を見つめる。スコープ付きのゴーグルのようなものが伸縮する。
何かの術かと思って身構える紅薔薇にウーザーは絶叫した。激しい対空砲火など聞こえなくなるほどの大声で。
「貴様のぉぉぉ! 戦闘能力は548ぃぃぃ! 体重45キロォォォ! 胸のサイズはぁぁぁ!! スモールえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
個人情報の保護というものはこのウーザーの前では無い……のかもしれない。
いや、あっているかどうか、確かめる術は本人以外持ち合わせていないのだが。
一瞬、銃撃音も静まり返る出来事から時間を動かすように紅薔薇が叫び返した。
「スモールAではないのじゃぁぁぁぁぁぁ!!」
怒りの次元斬が放たれるが、高らかな笑い声を上げながらウーザーは気持ち悪い回避行動で避け切った。
以外と俊敏だ。
「これなら!」
そこへ怜皇がマテリアルライフルを放つ。
巨大な光線のようなものがウーザー目掛けて伸びてくるが、それさえもヒラリと身を翻してかすりもしなかった。
「それがCAMですかぁぁぁ。とんだ、ポンコツだぁぁぁぁぁぁ」
「そうとは限りませんよ」
余裕の表情をみせるウーザーは突如、背後から猛烈な衝撃を受けた。
ワイバーンで海側から接近したUiscaの攻撃だった。
「想いを、そして、勝利を、繋ぎますっ!」
スタっと甲板に飛び降りたUiscaをウーザーは注意深く観察する。
「貴様のぉぉぉ! 戦闘能力は519ぅぅぅ! スリーサイズは上からぁぁぁぬぁ!?」
ウーザーの言葉を遮るように、Uiscaが魔法を唱え、紅薔薇が刀を振るった。
光の衝撃がウーザーに直撃し幾つもの刃が襲いかかる。
スコープ付きのゴーグルは直撃を受けたにも関わらず、壊れている様子には見えない。
「覚悟しなさい!」
「覚悟するのじゃ!」
二人の気迫にやれやれといった感じに両腕を上げるウーザー。
攻撃は当たっているので、効いていない訳ではなさそうだが……ただの並歪虚では、ないのかもしれない。
「全くぅぅぅ。極めて好戦的な人間共めぇぇぇぇぇぇ」
「その長ったらしい語尾はなんじゃ?」
先ほどからうざったらしい事、この上ない。
「教えてやろうぅぅぅ。文字数を食うのじゃぁぁぁぁ」
天を大げさに指差すウーザー。
その言葉にUiscaが怜皇のCAMを見上げた。
「……意味、分かります?」
「イスカ、あまり、気にしなくていいと思いますよ」
実は傲慢の歪虚ではなく、狂気の歪虚なのかもしれないとか一瞬思ったが、言葉に出すと無駄に長そうな気がして、怜皇は次の攻撃の準備に意識を集中させた。
一方のウーザーの話は続く。
「それはぁぁぁぁ! 貴様らが負けた歴史書の事じゃぁぁぁぁぁぁ!」
「妾らは負けはせんのじゃ!」
「小煩い小娘めぇぇぇ。胸がそこのエルフと同じ位になってからいえぇぇぇぇぇ!」
「……」
もはや、会話する事すら疲れてくる歪虚の言葉。
怒りを込めて紅薔薇は今一度、刀を構えた。この歪虚はここで倒しておかなければ、後で絶対に禍根を残す。まず、自分が。
「勝利の記録に無駄な文字数を掛ける訳にはいかんからのう。さっさと退場じゃ!」
渾身の次元斬を繰り出したか、それは読まれていたようだ。
空間を切り裂く刃を避けて余裕のポーズを取る。
その隙が出来るのを待っていた怜皇が再びマテリアルレーザーを放った。
直撃を受けて甲板から落下するウーザー。高らかな笑い声とも語尾の長い叫び声ともどちらとも考えられそうな言葉を残して。
「さらばだぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
急いで甲板の縁まで行って覗き込んだが、海上にウーザーはいなかった。
両腕を広げ、海面スレスレを飛行している。
「間に合わない……」
ワイバーンを呼び寄せている間に遠くに飛び去ってしまうだろう。
何よりも深手を与えられなかったのが残念だった。
「きっとあれが指揮官。逃げ去れば、この組織的な雑魔の襲撃も収まるはず」
怜皇の言った通り、以後、鳥人雑魔の動きは単調なものとなり、やがて、撤退していくのである。
その頃、船尾近くで甲板から下ろした梯子に捕まって龍崎・カズマ(ka0178)は海面に漂う藻雑魔を攻撃していた。
「考え過ぎなら、それで十分なんだがね」
以前の報告書で水中からの奇襲攻撃を受けていた事は知っていた。
万が一というのも考えられる。フライング・システィーナ号はイスルダ島攻略の要ともいえる存在。
そこで、カズマは梯子に捕まって待機していたのだ。
藻雑魔が現れた時は、一瞬、本気で心配したものだが、頑張って船をよじ登りだしたのを見て安堵していた。
「……歪虚か?」
カズマは疾影士としての能力で気配を極力隠していたのが幸を期したようだ。
両腕を翼のように伸ばして滑空する歪虚はカズマに気がついていない。
静かに銃から剣の柄を手に取る。マテリアル状の刃が形成された。
「ハァッ!」
気合の掛け声と共に梯子から飛び降り様、歪虚へと斬りかかった。
ざっくりと確かな手応えを感じる。
「ぎゃぁぁぁ! おのれぇぇぇぇぇぇ!!」
歪虚が叫び声を挙げた。無事に逃げ切れそうだと思った矢先の奇襲だっただけに精神的なショックも大きかったようだ。
空中で姿勢を整えながら振り返ってカズマの姿を確認した。
「許さんぞぉぉぉ! 貴様ぁぁぁ! 覚えてろぉぉぉぉぉ!」
「逃したか……」
波間に漂いながらカズマは呟く。
這う這うの体でイスルダ島へと向けてウーザーは逃げ去っていくのだった。
●勝利
何かの残骸に捕まりプカプカと浮かぶハンター達の機体。
ウォーターウォークの効力は消えていた。戻る事も出来たのだが、敵船を追いかけているうちに海流の流れから外れてしまったからだ。
「海面を浮き沈みするのも、悪くはないかもしれませんね」
周囲を気遣ってかアルバがそんな事を言いながら、機体の頭を海面から出していた。
フライング・システィーナ号が向かって来るのが分かった。時期に回収されるだろう。
「大勝利ですわ!」
楓がGustavの頂辺で威風堂々と胸を張っている。
味方に被害が無かった訳ではない。それでも、元々の戦力差や戦果を考慮すれば、それは確かに大勝利と呼ぶに相応しい結果なのかもしれない。
「結局、対空戦までは間に合わなかったか……」
イスルダ島をジッとみつめつつ枢が言った。
敵艦隊撃破後は速やかに母艦の直掩に戻るはずだったが、そうなかなか上手くいかないものだ。
それでも、仲間達はしっかり守りきったのだ。それぞれが役割を果たしたという事でいいはず。特に鳥人雑魔はかなりの数を撃墜したようだ。
「なに、まだまだ戦いは始まったばかりさ」
枢へリクがそんな言葉を掛ける。
確かに、この戦いで全てが終わった訳ではない。いや、むしろ、ここからが本番である。
イスルダ島の制海権と敵航空兵力を撃滅したのは、島に上陸する為の目標の一つに過ぎない。
真の目的はイスルダ島の奪還なのだから。
水の精霊(ソルラ)とその仲間の力で主力艦隊より先行し、囮となったフライング・システィーナ号。
ハンター達は軽微な損害を受けつつも、敵航空兵力と海上兵力を迎撃した。歪虚側に多大なる損害を与え、制海権の奪取に成功したのだった。
おしまい。
●葬花
幾本か美しい花が青い海原に流れていく。
その様子を眺め、ジルボは自分がやった事なのに『似合わないな』と苦笑を浮かべた。
いつの間にかに脇にはエロディラが居たが、ジルボと同じように流れていく花を見つめている。
「良い女だったよな~」
深い関係だったという訳ではなかったが、少なくとも冗談を言い合える仲だった。
スっとエロディラを抱き上げたジルボ。
「ところで、水の精霊様も同じ下着……って、なんだ、これ……」
エロディラに尋ねようとした所で、このエロ猫が女性ものの下着を持っている事に気がついた。
何気なく手に取って確認しようとしたその時だった。
「下着泥棒だぁ!」
「あそこにいるぞ!」
「ジルボ……お前……」
振り返ってみると仲間達の姿。
「い……ち、違う。これは、だ、な……」
「問答無用じゃ! 観念せい! ジルボ!」
その言葉にエロディラを抱えて走り出すジルボ。追いかけるハンター達。
ドタバタと騒がしい様子の中、女性の笑う声が――ジルボには聞こえた気がしたのだった。
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
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面白かった! | 31人 |
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依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 鬼塚 陸(ka0038) 人間(リアルブルー)|22才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2017/08/24 06:19:59 |
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なせなにノゾミちゃん! 鬼塚 陸(ka0038) 人間(リアルブルー)|22才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2017/08/20 23:08:46 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/08/23 19:40:22 |