ゲスト
(ka0000)
【転臨】王の敵は何処に在らん
マスター:ムジカ・トラス

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/08/25 19:00
- 完成日
- 2017/09/10 19:17
みんなの思い出
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オープニング
●
失った。
――何を?
護れなかった。
――何を?
死なせてしまった。
――何を?
届かなかった。
――何に?
この腕が悪いのだ。
――そうだ。あまりにも短い、この腕が。
この足が悪いのだ。
――そうだ。あまりにも遅い、この足が。
この身体が、悪いのだ。
――そうだ。あまりにも脆い、この身体が。
この心が、悪いのだ。
――そうだ。あまりにも弱い、この心が。
万物万象を前に盾であらんとした。けれどそれでは不足した。
武芸百般を修め剣を担わんとした。けれどそれでも不足した。
「そうか。では、契約を?」
己は――――。
●
「先遣隊っつーことかい?」
「まァ、そうなるな」
イスルダ島の奪還作戦。その音頭を取っているダンテ・バルカザール(kz0153)の言葉に、アカシラ(kz0146)は鼻を鳴らした。
「ただの鉄砲玉じゃないか」
「ア? 適材適所だろ」
「アンタらと一緒にするんじゃないよ……ま、否定しないケド、ねぇ」
作戦の準備が慌ただしく進む海岸線を眺めて、呟いた。
概要は既に聞いているところである。海上を押さえ、上陸を敢行し橋頭堡を確保。
更には、イスルダ島は全面『負のマテリアルに汚染されている』ため、浄化を行う必要がある。
アカシラ達が仰せつかったのは、その間の『威力偵察』であった。無論、負のマテリアル領域を突っ切っての大突貫となる。
「現地敵戦力の詳細もなし、周りは汚れ散らかされた後で周囲についても見当もつかない平地、ときたら、襲って下さいって言ってるようなモンじゃないか」
「おっ! 実際その通りなんだケドな。なんだ、話が早ぇじゃねえか!」
「…………」
歯に衣着せぬ物言いに、思わず落胆した。
……勿論、アカシラも事情は解っているのだ。本作戦の一番の骨子は、橋頭堡確保の為に"浄化"を成功させること。つまり、敵の目を引く『囮』と動向を掴む『目』は、必須。となれば、汚染地域に耐性のある鬼であるアカシラ――とその手勢は適材適所に違いない。そのことは解っていたし、黒の隊に登用されたばかりのアカシラとしても戦果は、欲しい。
実際、参戦している貴族たち――とくに大公派も含めて――が手を挙げない位置取りは、悪くない。
「…………って言ってるケド、アタシはどうしたもんかねぇ、"隊長"?」
とはいえ、だ。今は"上役"がいる。視線の先で、地図を眺めてヴィオラ・フルブライト(kz0007)と現地での配置などの調整をしていたエリオット・ヴァレンタイン(kz0025)が顔を上げた。
「好きにして構わない。ヴィオラもそれで良いか?」
「はい。……とはいえ、危険な任務ですから、よろしければ浄化に参加しない戦士団を一部、同道させていただけたら」
「お、良いじゃねえか。頼むぜ!」
「……そういうことなら、否やはないケド、ねぇ」
実際、黒の隊として登用されたアカシラであるが、内情としては【アカシラ傭兵団】そのものが登用された形に近しい。黒の隊の隊長であるエリオットは本命であるヴィオラたちの浄化護衛に入る予定であったため、そこから抜ける形になるのは偲びない所だが、許可は出た。
「具体的にはどうわけるんだい?」
「アカシラんトコと、連絡用にウチの隊員、それから戦士団とハンター達何人かで隊を二つに分けて、上陸地点前方1km地点の探索……って感じだな。引き時は任せる」
「……あいよ」
――別働隊はシシドあたりにさせるとして……あとは足、さね。
王国の名馬であるゴースロンは足が早い。偵察は何も交戦を前提にしなくてもよいのだ。馬さえ借りられるならば、無理をしなければ何とかなる。
と、そう思っていた。
●
街道沿いに探索すること、暫し。
「ハ。何だい、ありゃぁ…………」
正直、目を疑った。遠目に見えるそれは、『鎧』。錆銀の鎧には王国風の意匠。問題は、遠目にみて、それと解ることだ。
「獄炎ほどじゃあないが……きゃむ、とやらよりもデカイんじゃあないかい……」
凄まじい図体だ。大きさは、8メートル……いや、それよりも、大きい。全身甲冑姿――ではあるが、一見すると過剰に肥えた巨人のよう。尤も、腕はそれぞれに長さの違う腕が4本。足は4本と人馬一体のような異形である。それを、全身鎧で包み込んでいる、というような体裁か。
「む」
「お、何か気づいたのかい」
戦士団の一人が、その鎧巨人の剥き出しの腕を見て、何かに気づいたようだ。アカシラが発言を促すと。
「善い、筋肉です。強者ですね」
「……ああ、そうかもしれないねえ」
強行軍にも音を上げない強兵相手だが、アカシラとしては返事に詰まることこの上ないが、そこに。
「……あの鎧の意匠、イスルダ島に向かった近衛隊のもの、ですね。それに、あの盾……」
赤の隊から同道している連絡要員の魔術師が目を細め、絶望に顔を歪ませていた。
その視線の先。
巨人が正面――此方側の大地に突き立てた大盾には、六色の宝玉と獅子と矢弓の紋章が刻まれていた。
「……前近衛隊隊長、アーチボルト・ウェイスバーグの武具、です」
「へえ……」
と、アカシラが呟いた、瞬後。
「■■■■■■■■■■■■■■―――――ッ!!!」
雷霆の如き咆哮が轟いた。
●
距離300メートル。それを越えて届く大音声に耳を塞ぎながら、アカシラは短く指示を飛ばす。馬を反転し帰路へ向ける。
「……ちっ。アンタたちはシシド隊に連絡しな。『こちらデカブツと交戦中。そっちは索敵範囲を広げろ』ってね。あと、あの馬鹿猿にもだ!」
「はっ……しかし、撤退は?」
問い返した赤の隊の魔術師に、アカシラは知らず、笑みを零す。
アカシラは黒の隊所属であり、所属は異なる。しかし、この隊の指揮官はアカシラであることを徹底されているから、騎士団、戦士団の対応は部下のそれだ。その上での進言はアカシラにとっては心地良い好材である。
勿論、当初の案ではその筈だった。しかし敵が大物に過ぎる。混戦状態、かつ未だ落ち着いていない戦線に引き込むのは大公派貴族との連携が取れていない戦場を思えば慎重にならざるを得ない。
「アイツを引き連れて、今の彼処には戻れないさねえ……それに」
赤の隊の通信役の魔術師にちらりと振り返ったアカシラは、唸りながら吐き捨てた。
「戻るまでに追いつかれて、食い物にされちまうだけさね」
鎧巨人――赤の隊の騎士の言葉を借りれば、『アーチボルト』元近衛隊隊長と思しき歪虚は、ゴースロンの馬足に倍する速度で接近してきていた。
「準備が出来次第反転! 浄化が済むまでの時間を稼ぐ!」
刀を抜いたアカシラは声を張る。直感があった。アイツは、自分たちを『待っていた』んじゃない。
ただ、彼処にいた。
――どれだけの間、そこに居たというのか。
「……上等じゃあないか。死ぬんじゃなあないよ! ついでに、アイツの実力の程も、探ってやろうじゃあないか!!!」
失った。
――何を?
護れなかった。
――何を?
死なせてしまった。
――何を?
届かなかった。
――何に?
この腕が悪いのだ。
――そうだ。あまりにも短い、この腕が。
この足が悪いのだ。
――そうだ。あまりにも遅い、この足が。
この身体が、悪いのだ。
――そうだ。あまりにも脆い、この身体が。
この心が、悪いのだ。
――そうだ。あまりにも弱い、この心が。
万物万象を前に盾であらんとした。けれどそれでは不足した。
武芸百般を修め剣を担わんとした。けれどそれでも不足した。
「そうか。では、契約を?」
己は――――。
●
「先遣隊っつーことかい?」
「まァ、そうなるな」
イスルダ島の奪還作戦。その音頭を取っているダンテ・バルカザール(kz0153)の言葉に、アカシラ(kz0146)は鼻を鳴らした。
「ただの鉄砲玉じゃないか」
「ア? 適材適所だろ」
「アンタらと一緒にするんじゃないよ……ま、否定しないケド、ねぇ」
作戦の準備が慌ただしく進む海岸線を眺めて、呟いた。
概要は既に聞いているところである。海上を押さえ、上陸を敢行し橋頭堡を確保。
更には、イスルダ島は全面『負のマテリアルに汚染されている』ため、浄化を行う必要がある。
アカシラ達が仰せつかったのは、その間の『威力偵察』であった。無論、負のマテリアル領域を突っ切っての大突貫となる。
「現地敵戦力の詳細もなし、周りは汚れ散らかされた後で周囲についても見当もつかない平地、ときたら、襲って下さいって言ってるようなモンじゃないか」
「おっ! 実際その通りなんだケドな。なんだ、話が早ぇじゃねえか!」
「…………」
歯に衣着せぬ物言いに、思わず落胆した。
……勿論、アカシラも事情は解っているのだ。本作戦の一番の骨子は、橋頭堡確保の為に"浄化"を成功させること。つまり、敵の目を引く『囮』と動向を掴む『目』は、必須。となれば、汚染地域に耐性のある鬼であるアカシラ――とその手勢は適材適所に違いない。そのことは解っていたし、黒の隊に登用されたばかりのアカシラとしても戦果は、欲しい。
実際、参戦している貴族たち――とくに大公派も含めて――が手を挙げない位置取りは、悪くない。
「…………って言ってるケド、アタシはどうしたもんかねぇ、"隊長"?」
とはいえ、だ。今は"上役"がいる。視線の先で、地図を眺めてヴィオラ・フルブライト(kz0007)と現地での配置などの調整をしていたエリオット・ヴァレンタイン(kz0025)が顔を上げた。
「好きにして構わない。ヴィオラもそれで良いか?」
「はい。……とはいえ、危険な任務ですから、よろしければ浄化に参加しない戦士団を一部、同道させていただけたら」
「お、良いじゃねえか。頼むぜ!」
「……そういうことなら、否やはないケド、ねぇ」
実際、黒の隊として登用されたアカシラであるが、内情としては【アカシラ傭兵団】そのものが登用された形に近しい。黒の隊の隊長であるエリオットは本命であるヴィオラたちの浄化護衛に入る予定であったため、そこから抜ける形になるのは偲びない所だが、許可は出た。
「具体的にはどうわけるんだい?」
「アカシラんトコと、連絡用にウチの隊員、それから戦士団とハンター達何人かで隊を二つに分けて、上陸地点前方1km地点の探索……って感じだな。引き時は任せる」
「……あいよ」
――別働隊はシシドあたりにさせるとして……あとは足、さね。
王国の名馬であるゴースロンは足が早い。偵察は何も交戦を前提にしなくてもよいのだ。馬さえ借りられるならば、無理をしなければ何とかなる。
と、そう思っていた。
●
街道沿いに探索すること、暫し。
「ハ。何だい、ありゃぁ…………」
正直、目を疑った。遠目に見えるそれは、『鎧』。錆銀の鎧には王国風の意匠。問題は、遠目にみて、それと解ることだ。
「獄炎ほどじゃあないが……きゃむ、とやらよりもデカイんじゃあないかい……」
凄まじい図体だ。大きさは、8メートル……いや、それよりも、大きい。全身甲冑姿――ではあるが、一見すると過剰に肥えた巨人のよう。尤も、腕はそれぞれに長さの違う腕が4本。足は4本と人馬一体のような異形である。それを、全身鎧で包み込んでいる、というような体裁か。
「む」
「お、何か気づいたのかい」
戦士団の一人が、その鎧巨人の剥き出しの腕を見て、何かに気づいたようだ。アカシラが発言を促すと。
「善い、筋肉です。強者ですね」
「……ああ、そうかもしれないねえ」
強行軍にも音を上げない強兵相手だが、アカシラとしては返事に詰まることこの上ないが、そこに。
「……あの鎧の意匠、イスルダ島に向かった近衛隊のもの、ですね。それに、あの盾……」
赤の隊から同道している連絡要員の魔術師が目を細め、絶望に顔を歪ませていた。
その視線の先。
巨人が正面――此方側の大地に突き立てた大盾には、六色の宝玉と獅子と矢弓の紋章が刻まれていた。
「……前近衛隊隊長、アーチボルト・ウェイスバーグの武具、です」
「へえ……」
と、アカシラが呟いた、瞬後。
「■■■■■■■■■■■■■■―――――ッ!!!」
雷霆の如き咆哮が轟いた。
●
距離300メートル。それを越えて届く大音声に耳を塞ぎながら、アカシラは短く指示を飛ばす。馬を反転し帰路へ向ける。
「……ちっ。アンタたちはシシド隊に連絡しな。『こちらデカブツと交戦中。そっちは索敵範囲を広げろ』ってね。あと、あの馬鹿猿にもだ!」
「はっ……しかし、撤退は?」
問い返した赤の隊の魔術師に、アカシラは知らず、笑みを零す。
アカシラは黒の隊所属であり、所属は異なる。しかし、この隊の指揮官はアカシラであることを徹底されているから、騎士団、戦士団の対応は部下のそれだ。その上での進言はアカシラにとっては心地良い好材である。
勿論、当初の案ではその筈だった。しかし敵が大物に過ぎる。混戦状態、かつ未だ落ち着いていない戦線に引き込むのは大公派貴族との連携が取れていない戦場を思えば慎重にならざるを得ない。
「アイツを引き連れて、今の彼処には戻れないさねえ……それに」
赤の隊の通信役の魔術師にちらりと振り返ったアカシラは、唸りながら吐き捨てた。
「戻るまでに追いつかれて、食い物にされちまうだけさね」
鎧巨人――赤の隊の騎士の言葉を借りれば、『アーチボルト』元近衛隊隊長と思しき歪虚は、ゴースロンの馬足に倍する速度で接近してきていた。
「準備が出来次第反転! 浄化が済むまでの時間を稼ぐ!」
刀を抜いたアカシラは声を張る。直感があった。アイツは、自分たちを『待っていた』んじゃない。
ただ、彼処にいた。
――どれだけの間、そこに居たというのか。
「……上等じゃあないか。死ぬんじゃなあないよ! ついでに、アイツの実力の程も、探ってやろうじゃあないか!!!」
リプレイ本文
●
「――前隊長について、追加、ですか」
馬を走らせる騎士は息を切らせながらの応答には緊迫が滲んでいる。しかし、動揺はすでに見られない。覚悟はしていたと、そういうことなのだろう。王が居たのだ。かつての死者すべてが敵にいたとしてもおかしくはない。
アーチボルト前近衛隊長の生前の武芸についての、叢雲 伊織(ka5091)、龍華 狼(ka4940) 、柏木 千春(ka3061)、三者の質問に、赤の隊の騎士は困り顔を見せた。
武芸百般、という話はした。それ以上の言葉を探す。
「――最優の騎士と、呼ばれていました。先々王の頃から仕え、無二の武勇を傲ることなく仕えた、騎士。得手も不得手も、私が知る限りではありません」
そうして、ちらりと後方を振り返る。
「"アレ"が、かの御仁であるならば……そして、その武技が未だ残っているのであれば……絡め手で仕留めるのは難しいでしょうね」
話は聞けた。ハンターたちは僅かな打ち合わせの後に反転し、隊列を整える。
土煙をあげて突撃してくる巨人を前にして、前衛に残ったのは三名。レオン(ka5108)、レイオス・アクアウォーカー(ka1990)、それから、千春。三者三様に得物を構えた彼を最前に、中衛にはアカシラと、伊織の姉である叢雲・咲姫(ka5090)、それから狼が入った。咲姫の位置は、今後の戦術を踏まえて必然となる位置。狼はこの高さで、少し離れた位置でじっと出方を見張っている。対してアカシラは、
「アンタらはアタシの後ろだ。何かあったら後方に知らせなきゃならないしね」
と、前後を見据えた上で、騎士と戦士団員を背負う形で間に入った。
そこからやや離れる形で、伊織と黒耀 (ka5677)、さらにフォークス(ka0570)が続く。千春の提案で、前衛が遮蔽になる形をとった。古来の習わし通り、"射線"を遮るための策であった。後方へと伸びていく陣を背に、レイオスは小さく吐き捨てた。
「……動いたな」
遠景に、巨人の上半身に動きが見えた。四本あるうちの、一組の裸腕。それが、弓を引き始めたのだ。長大な体に見合う歪な形状をした巨弓が、地鳴りの中で引かれていく。
●
――武功をあげるにはいい相手だが動き辛い状況は不利だな。
"黒の騎士"として、という序文を飲み込み、遠景に敵を眺めたレイオスは呟いた。負のマテリアルに身体を蝕まれている不快感もさることながら、背筋に差し込まれた悪寒を拭い去れない。
前、近衛隊隊長。王にとって最も近しい『盾』であった男――そしてそれが墜ちた姿を前にして、与しやすい相手と侮ることはできない。
「……時間稼ぎと情報収集。さて、どれだけ粘れるかね」
見れば見るほど、その構えの見事さに目を奪われる。四本の腕と脚。巨大な鎧が張り裂けんほどの巨体。人としての造形を損ないながらも、そこには鉄芯の如く武技が横たわっている。それを見るに至り、レイオスは都合の良い妄想を切って捨てた。歪虚になり、強き身体を手に入れた代償に、かつての武技を捨てることになった――などという可能性を。
「……本人であるかは、さておいて。修練を積んだ方のようですね」
「問題は、俺たちが耐えきれるかどうかだ」
「それも、そうですが……」
レオンの言葉には、少年らしい甘さが残るものだった。さりとて、それを切り捨てるつもりにもなれなかった。傍ら。こちらに距離を寄せる千春を見ると、まっすぐに、"敵"を見つめている。レオンのそれとは意味合いの異なる真剣さ。後方へ攻撃を流すまい、と自らに定めているのだろう。強く、盾を握りしめている。
その姿に、微かに悪寒が晴れた。
「……さあて、どう出る、元隊長」
に、と。太く笑った、その時のことだった。
「走れ!!」
後方から、声が響いた。
●
遡ることしばし。フォークスは両手に抱えた銃の重さに安堵にも似た悦を抱きながらも、眼前の敵に嫌気を覚えてもいた。見るからに、凶暴極まる敵だ。
「大きくて強そうな歪虚ですが……ただ尻尾を巻くわけにはいきませんね!」
フォークスの傍らで、伊織が気合いを入れ、何事をも見逃さぬといわんばかりに目を見開いた。マテリアルの変化を感じて、少年が直感視を発動したのだと知る。彼女もそれに続いた。
挙動は――フォークスが感嘆することはないが――武人のそれ。ただ、轟々と土煙をあげて迫る鎧騎士というだけでも恐ろしいのに、その弓の巨大さが脅威として残る。
「あの矢……少し骨っぽい、ですか?」
「そう見えるケド……」
巨人がつがえた矢は、どこか骨のような節ばった構造になっていると、レオンとフォークス、二人同時に気づく。
そして、矢の向こうに――兜が見えた。なるほど、元は人だというが、しっかりと人外らしい。なにせ、頭部すべてを覆う鋼鉄の兜の隙間から、赤い目が――。
「げ」
―――――目、だ。
それが、矢の向こうに、"まっすぐに"見えている。すぐに、その口から罵倒がこぼれた。自らの愚昧さと、現状の苦さに反吐が出る。
射撃手であるフォークスの身体には、いくつかの鉄則がたたき込まれている。そのうちの一つが――。
「走れ!」
御託を言っている場合じゃない。バイクを加速させつつ叫んだ。
「皆さんも急いで! 前へ!」
同時に気づいたと見える。伊織も動いていた。こちらは馬を駆りながら、黒耀と戦士団員、騎士らの背を押し込むようにして叩く。
「了解!」
騎士と戦士団員は即応したが、異常なまでに闘志を燃やしている黒耀だけ、応答がない。悠然とカード――ではなく符を掲げながら、ようやく走りだす。
「なんて素晴らしいデカブツ……最高に墓地に送り甲斐のあるモンスターカード……ッ!」
「……?」
一時の主がフツフツと殺意を高めている様に困惑でもしていたか。ゴースロンの困惑した目が伊織に届いたが。
――ごめん、僕にも何がなんだか……。
と、心の中で詫びるほか、無かった。
●
「アイツ、こっちを狙ってやがる!」
「……なんだと?」
近づいてくるフォークスの注意の声に、レイオスの言葉に困惑が滲む。
現状の配置の大前提が崩れた、と同義だ。前衛三人は、中後衛の壁になっていた筈だった。それが裏返るのは想定外だった。
と、そこで気づいた。
視線の基点の"高さ"。そして対称的に、矢の角度はレイオスたちを狙っていなかったこと。フォークスたちの前進に併せて、射角が下がってくる。
「――そう、でしたか」
千春の言葉にも、無念が滲んだ。考えた上での行動だった。それが――通じなかった。否、見誤っていた。その事実が、今も傷跡が残る心を、抉った。
アーチボルトの異形。つまりは、巨大であること。それを前にして、2メートルにも届かぬ身長の前衛たちが壁として機能できるのは、せいぜい後方数メートルに過ぎない。それ以遠に限れば、"視界は、通っている"。多少の散会を良しとした結果もあるだろうが、目論見は外れた。
「……いえ、まだ」
呟く。未熟を憂うのは、まだ早い。それは、すでに沢山味わった後なのだから。
僥倖だったのは、フォークスとレオンが注意していたことだ。対象が後衛だったことも幸いした。まだ、"始まってない"。だから。
千春は腰を落とし、盾を掲げた。
矢が、降ってくる。
●
――くっそ、見せつけてくれやがる……!
狼の嘆きを拾うものは、居ない。当然だ。彼だけ、前線から離れているのだから。
「何食べたら彼処まででかくなれるんだ……くっそ……」
怨み深い声だが、ともあれ、少年だけはこの事態を意識していたからこそ、矢の狙いだけに注視していたのだった。
つまり、自分が狙われているかどうか。気づかれているか、どうか。
安全のために、前衛に近づきすぎるのも良くない。なにせ、あの矢の"具合"はまだわからない。少年は、前線からやや離れた位置で矢がこちらに届かないことに賭けて待機している。
「……巻き込まれるのはごめんだしな」
それにしても、あの巨体は羨ましい。堂々と射ち下ろす威風。対して、身を縮めている自分のなんと惨めなことか。
巨人と武具の写真を収めた魔導カメラを懐にしまう。飯の種候補は、命よりも重い。そうしながら、視線は前衛――矢の向かう先を見つめながら、移動を再開した。
護ること。千春にとって、その明快な達成法が、これだ。後衛が前方、つまり前衛側の遮蔽へと迫ったことにより、アーチボルトは狙いをこちらに定めた。巨人の裸腕が微動。微かに、弦が揺れた。
「私が」
短く言う。音は無い。ただ、距離が詰まり、矢が――迫る。矢は鋭く、太く。そして。
「受けます……!」
到達の瞬前、その先端がほどけた。中心には一本の鏃。その周囲を取り巻いていた骨棘が意思あるもののように動き、全身鎧の隙間に突き立ち――そして、衝撃。
「……、く、ぅ」
いかなる剛力によるものか。強力無比な射撃は、その一射で防護を固めた千春の身体に痛痒を与えしめた。
「無事か!」
突きたっていた矢が歪虚に連なるものと見て切り落とそうとしたレイオスの眼前で、周囲から伸びていた無数の骨棘が、役目を終えたかのように消失した。衝撃に耐えきれず、自滅したのだろう。舌打ちが零れる。
矢が抜けても、焼けるような痛みが残った。矢の先に毒でも残ったか。
それでも――守れた。次を見据え、負傷の治療を後回しにする。敵の出方が、まだわからない。これまでの交戦で、アーチボルトは確実に、『戦術』を意識していることが分かったからだ。
「……毒、ですか?」
「そのようです。結構、強力です、ね……」
レオンの気遣う声に痛みを堪える千春が小さくうなずくと、
「歪虚の矢、ってところ……かな。不気味」
「掘れば掘るだけ特殊能力が出てきそうですね」
咲姫が嫌悪を吐き出すように言うと、接近していた黒耀が続いた。好敵手と定めたにしては、いやに艶がある表情であった。
ともあれ、一撃の手応えを確認した千春は後衛へと告げつつ、備えた。敵は、すでに二射目を構えている。
「マテリアルで汚染されている間は、後衛が受けると、危険――来ます!」
「そう何度も……!」
「させません!」
手の内は分かっていた。密集していたことも幸いし、届いた矢、その先端の骨棘をレイオスとレオンが切り落とすことで二射目の被害は押さえた、瞬後。
「■■■■■■■■――――――――ッ!!!」
咆哮に、大地が揺れた。
●
「ぬしラ、は、王敵……なリ……ッ!」
たどたどしく、粘質な声。それが、兜の向こうから響いた。人のそれとは違う、兜の中身が透けて見えるような、声であった。そこに込められた感情の色も、明らかだった。
赫怒、である。王の敵。そう呼ばれるに足る、"侵略者"に対する激憤。
「応射します!」
「その不細工面をしまいなヨ……!」
迫る敵意と巨体に即応するように伊織が後退しながら射撃。フォークスは少しばかり歪虚の動きを待った後に、銃撃を重ねた。
アカシラはフォークスに続く形で戦士団と騎士たちを後方へ下げながら、
「こっちはアタシが請け負うよ!」
と前衛らに告げた。
「頼む!」
レイオスは言い返しながら、構えた。巨人の下半身、四つ足に力が込められるのを目にしたからだ。
「騎兵突撃、ってか」
「っ……! アーチボルトさん、聞いてください……!」
身体にマテリアルを纏わせるレイオスとは対照的に、言葉を投げかけようとするレオン。
しかし。青年の声ごと挽きつぶすように、巨体が加速した。
突撃の最中も、巨人はフォークスらの射撃、その悉くを鎧腕の盾で受け止めていた。損害はごく軽微と見える。
「……今、あの盾光らなかった?」
「僕にも見えました!」
フォークスは弾丸を別な特殊弾に装填し直しながら目を細めた。盾の宝玉のなか、赤いものが一つ、輝いている。着弾の瞬間には、そこから光がはじけ、巨人を包んだようにも見えた。
「……めんどくさそうだネ」
何かしら仕掛けがあると見えて、フォークスが吐き捨てた直後、前方で、轟音がはじけた。
●
「トラップカード、発動ゥ!」
その突撃を予測していた黒耀が、前衛の手前で【怨手】を起動。巨人の足下から無数の黒腕が湧き上がり、闇の沼へと引きずりこむように巨人の四肢に絡みつく。
しかし。それすらも引きちぎって巨人は加速。前衛へと殲撃を打ち込んだ。
「迅、い……っ!」
巨人の突撃は、前方三人でとどめられた。治療の光が飛び始める中で、巨体の動きが"先"に出た。先手必勝を用いて機先を制しようとしただけに、咲姫の困惑も宜なるかな。
「王国騎士団黒の騎士、レイオス! そっちも騎士だと云うなら名乗ってみせろ!」
「■■■■■■■!」
レイオスの言葉を切り捨てるように、続くなぎ払いが前衛へと振り落とされる。同時に、武門の生まれであり、自身も剣士でもある咲姫はその斬光に目を奪われる。そこに籠められた、確かな武技に。
右手に剣を、左手に盾を構えた巨人は、射撃を盾で裁きながら、右手一つと巨体で前衛と相対している。巨体故に細かな回避はできないのだろうが、前衛の攻撃すべてを受け止めて居るのは、技量あってのことか。
――このままでは、一カ所を狙って攻撃するのは難しそう……。
「……」
咲姫は息を殺し、気配を抑える。そうして、左右を見比べ――右側面を選んだ。
巨人の左方向に、少年の影を認めたからだ。
●
――激写成功ぅ……!
狼の心は沸いていた。巨人が前衛に釘付けになっている間に、大きく後方へと回り込んでその姿を魔導カメラに収めた。撮影したのは、巨人の矢が"どこから来ているのか"、である。
とはいえ、声を荒げて伝えるのは危険。魔導短電話も通信不良。故に、戻るしかない。接近の際に利用した左方を移動しながら、さて、と目を向ける。
敵は、裸腕と剣盾をそれぞれに振るい、前衛と後衛両方に圧をかけている。これを見て、狼は今更接近を選ぶつもりは無かった。
さて、どこが美味しいか。息を潜めながら、狙いを定めるべく移動を続けた。
●
「トラップカードは無効、か……手札に加えたくなるモンスターカード……否、重すぎてセット不能か?」
「……?」
さらに二発目の【怨手】が弾かれた黒耀の呟きは、CW育ちの千春には理解を超えた。千春の目が困惑に歪むが、慌てて首を振る。集中だ。治療に手が取られ満足に行動できない中で、自身も光杭を打ち込んでは居るのだが、その足が止まることはただの一度も無い。
「抵抗が、異常に高い……」
「そういうことでしょうね。フフッ、全力でライフを削るしかないようだ……!」
ダメージは通っている筈だが、それでも効果が発動する気配が全く無いのはそういうことかと脳裏にとどめる千春を盾に、黒耀はさらに符を放つ。風雷陣。バサリと投げ上げた符が瞬く間に稲妻に転じて正面から巨人を穿つが、いずれも盾に阻まれた。
――今度は、緑の宝玉……。
それを認めたフォークスが目を細めながら、手持ちの弾丸を変えながら射撃を続ける。
つと、前線に動き。
「ぼくの声が聞こえていますか!? 貴方はアーチボルトさん、ですか……!?」
重装甲を着込んでいるとはいえ、相手は巨人。その斬撃もまた、息をつく間も無い。千春やレイオスに斬撃が向いた合間を縫って、レオンはそう声を張った。
「アーチボルトさんなら聞いて! ここにいるのは王国の騎士だ! 貴方の仲間の筈だろう!」
答えは、無い。しかし。
「つれねえな、元『団長』殿! ダンマリはイケてないぜ!」
不適に笑いながら斬りかかるレイオスの言葉に、背を押された。レオンは攻撃に回ることなく言葉を投げ続ける。
「味方同士で斬り合う理由なんて無いはずだ! そうでしょう!?」
瞬後だ。衝撃が、レオンの身体を打ち抜いた。後方一〇メートルほども吹き飛ばされた後、それが姿勢を落とした馬の膝蹴りだったと分かる。慌てて立ち上がった、そこに。
「――違ウ」
声と、視線が降ってきた。
「ぬしら、ハ、侵略者よ。己は王の盾。王の剣。王敵を滅ぼス、のみ」
赤光が、レオンを見据えた。脊椎に氷柱を差し込まれたような錯覚。殺気に、身体が凍える。
「たとエ、そレが、"王国"であロウと……!! "騎士"を斬ルこ、トにな、ロ、ウと……! ぬしら、が、我ガ王を、奪う、といウ、ならバ!」
「…………!」
レオンはそこで、気づかされた。アーチボルトは、"自分たちが王国の戦力だ"ということに気づいている。その上で敵対し、その上で剣を振るっているのだと。
「なら、此処に居たのもそういうことかい、元団長?」
レイオスの問いには、しかし、斬撃が降ってくる。受け止めるレイオスが痺れる重撃だ。負傷が重なるたびに千春が治癒を施す限りにおいて、支障はない、が。
――他方、レオンは言葉を無くしていた。
「……っ」
言葉は、届かない。あるのはただ断絶だけで、互いに違うものを掲げている。
剣を振るい続けるアーチボルドの口元から、ひび割れた怒号が響いた。
「交わス、ベキ、ハ、言葉、で無ク……剣と、知レ、小童!」
「……残念です……」
悲痛に歪むかんばせが、上がる。しかしその横顔には、決意が見えた。対立は必然。攻撃も防御も、その全てを注いで勝利を掴めと、他ならぬ"敵"が言っている。
「――往きます!」
だから。レオンは往った。
●
――あるいは、そうさせるような言葉だった、と。
アカシラはそんなことを思いながら、骨矢を切り落とし、打ち落とし、叩き落とす。敵の矢は歪虚であるから、斬り殺す、というのが適切か。
間合いが詰まると、巨人の後背から伸びる裸腕が、後方から引き出した骨矢そのものを投擲し始めた。射撃ほどの威力は無いのだろうが、倍の数で迫る骨矢の処理はアカシラをしても面倒極まる。後衛を護りながらの持久戦が必要な戦場であることは分かっているが、撤退条件が定められている現状、フォークスと伊織、騎士たちを死守するのがアカシラの役目だ。
戦果としては――まあ、乏しい。フォークスが銃弾を。伊織が射撃を重ねるが、その悉くが盾に遮られる。前衛から盾を引き剥がせているともいえるが、効果は乏しいと言わざるを得ない。
それでもいいのだ。これは持久戦。いまは情報を持ち帰るのが務めであるし、その意味で、特にフォークスは十分な仕事をしている。
気になっているのは、別のことだ。
「……問題は、アンタが"何"の歪虚かってことだよ、」
予測は付いている。しかし、アカシラがよく知っている"それ"とは異なるあり様であった。あの歪虚が、言葉通りの"敵"である自分たちを前にして、ああも冷静に戦っていられるのが――奇異で仕方が無い。
●
「……ッたく、頑丈だネ……それより、見えたかい?」
「はい……属性、でしょうか……?」
後方、銃弾を変えて射撃したフォークスに、伊織が応じる。互いに矢弾は弾かれ続けているし、狙う先を変えても、盾の巨大さと射角の限界もあって、位置を変えないことにはおそらく、まともな攻撃は通り得ない。しかし、射撃に晒されたとして、耐えられるほどの持久力は二人ともに、無いのだ。とはいえ、収穫はあった。
「六色の宝玉は、各属性に対応していて、被弾時に発動することで本体にも付与される……というところでしょうか。あー、面倒ですね!」
「おかげで、あたいのコイツも泣いてるよ……」
スペルライフルを撫で回すフォークスの目が翳る。幾度かレイターコールドショットを射ちはしたのだが、盾に遮られるとダメージが入らないのか、そもそも異常に耐性が高いのか無効になってしまうのだった。
その時のことだった。
「――――ッ!」
気息一つ。裂帛の気合いとともに側面に回った咲姫が切り込む。鎧に覆われた四足の前足に斬撃を振るった。流石に防御の手が追いつかなかったか、鎧の隙間、狙いをつけたまさにその場所に剣閃を刻む。そのまま飛び退ると、咲姫の眼前で巨人の身体が僅かに傾ぐのが見えた。
――右方、つまり、"こちら”へと。
「と、とと……っ!」
斬撃が降ってくるか、あるいは転倒か。判別が付かずに慌てる咲姫であったが、巨人が体勢を整えたことに安堵を抱く。あるいは、その手に残る手応えとともに。
切る寸前。反対側に、狼が見えた。少年は息を潜めながらも、刀を抜いて上方、巨人の側面を見上げていた。
狙う先が明らかで、そこに機を重ねることもできた。狼は上。咲姫は足、と。
良い手応えだった。その成果を確認すべく、間合いを外して傷を見て――咲姫は目を見開いた。
「……うっそ」
血を吹いていた筈の切り口が、閉じている。この頑強さ。正面からの相対の悉くを受け止める練武に加えて、自己再生。
「……この人数じゃ無理、ってこ、……ッ!?」
どう考えても、手札と手数が足りない。咲姫は言いながら、他に痛撃を与えうる場所を求めて目を巡らせる。
――そうして、"頭上"から、ぶしゃりとあふれた血液が滴り落ちてくる。
●
(取ったァッ!)
狼は小声で喝采を上げた。横合いから放った次元斬で、左の裸腕の根元を断った。目論見はあたり、防御を抜いて肩口そのものに斬撃を入れることができた。
ぼとり、と落ちた腕。遅れて、血管から溢れる血液がどろどろと落ちていく。
「―――と、わ、た……ッ!」
思わず声が漏れたのは、巨人の視線が"こちら"へと届いたからだ。バレた、と馬首を巡らせる。逃げようとしたところで、"それ"に飲まれた。
最初は、怒号。あるいは鳴動だった。巨人の身体全体が震えているかのような発声に大気が震える。
「……ッ、何を……?」
溢れかえる血を避けるように馬首を巡らせたレオンは、予感を覚えた。止めねば、と。
しかし、打ち崩すには練達ぶりが邪魔をする。心の刃を重ねてもそれをもろともせず、攻撃は盾で弾かれた。
「――真っ正面からの相対は、不利ってか」
流石に、レイオスの額にも汗が流れた。達人とは聞いていたが、こうも遮られるとは。気を練って衝撃波を放とうとも、囮――あるいは前衛として正面に位置している限りにおいて、確実に防御が挟まれる。多少の痛痒は与えている手応えはあるが、自己再生が明らかになった現状では、さて、どれほどの効果があるものか。
だが、同時に、勝ち筋も見えては来ている。現状では手札が足りない点をのぞけば・
千春はいつでも治療対応ができるように動向を伺いながら、思考する。
即ち――この歪虚は、"何"か、を。傲慢かとも思っていたが、どこか、違う。この巨体を怠惰と見るか。あるいは――。
「……ここで」
此処が、判別の時だ。だからこそ、千春は待った。巨人の出方を。
黒耀の位置は、歪虚から距離20m。後衛の面々はより距離を取っているので、結果として位置はアカシラに近くなる。
だからこそ、舌打ちが響いた時にすぐに気づけた。アカシラが、こちらを見ている。
「黒耀。アンタのその符でどこまでのやつなら守れるんだい?」
「12メートルほどまで、なら」
「……よし。なら、アタシじゃなくて自分を守りな」
そう言った、直後だった。
気配を感じて、黒耀は符――カードを抜いた。直ぐさま符は鳥へと転じ、黒耀の前面へと展開。
眼前から、業炎が、迫っていた。
●
「姉さん……ッ!」
伊織の叫びが響く。彼は、一部始終を見せつけられることになった。
巨人そのものは、何もしなかった。ただ、肩口から落ちた血。さらには切り落とされた腕。それが突如轟然と燃え上がり、爆炎となって広がると、瞬く間に前衛にまで至り、最前にいたレイオスやレオン、千春はおろか、咲姫や狼まで飲み込んだ。
距離を取っていた伊織やフォークス、騎士たちまでは届かなかったが、黒耀までは届いたらしい。距離の近さ故に、真っ先に確認できたその背に、緊張が見える。生きている。
咲姫の生存も確認できて安堵する伊織とは対照的に、赤く照らされたフォークスの表情が、不快げに歪んだ。
「憤怒、かい」
似た炎を、見たことがあった。憤怒の歪虚の権能の一つ。フォークスは素早く計算する。形勢不利――で済めば良い、が。
フォークスが識る高位の憤怒であれば、これだけでは終わらない。
●
爆炎が通り過ぎた。自ら練り上げたマテリアルを身に纏うことで受けきったレイオスに、すぐに治癒の光が飛んでくる。千春だ。
「無事か……!」
周囲を悠長に確認する愚は犯さない。身を焦がし続ける炎の痛みも無視だ。巨人は、今もまだ動いている。否。
加速した。
「■■■■■■■――――――ッ!」
僅かに後退し間合いを整えた巨人は、大ぶりの剣を振利上げた。節張った剣――これも、矢に倣えば歪虚なのだろう――が、今度は炎を帯びながら迫る。レオンは自らに癒やしの法術を紡ぐ、が。
「離れろ!」
「……ッ!」
しかし、それは、下策だった。薙ぎ払いの一閃。受けきった千春や、全快していたレイオスですら大きく削られる一撃を前に、レオンが施せる法術治癒では限界がある。
「……距離を、取るべき、でした、ね」
僥倖、と言おうか。盾ごと弾き飛ばされたレオンは、かろうじて耐えて見せた。しかし、大きな負傷に膝をつきそうになる。
それだけでは、終わらなかった。剛撃は、延長線上の咲姫にまで及んだのだ。
「く、ぅ……ッ!」
避けきれぬと悟った咲姫が、斬撃に自らの刀を併せて断ち切らんとしたが、適わなかった。得物の硬度、技量、頑強さ、その全てに飲み込まれ、咲姫の身が再び、炎に飲まれた。
「――っ、い、おり……ご、め……」
少女の膝が、折れる。遠くで、伊織の絶叫が響いた。
―・―
炎刃を受け止めるべく残った千春とレイオスに前線を託し、咲姫を引きずってレオンが安全圏まで後退。戦士団員による治療が施される中で、フォークスと伊織、黒耀が援護射撃を開始。
そんな中。
「あ、やっぱ、ダメ?」
潮目の悪さを感じながらも、別な理由で狼は後悔していた。
矢だ。残った裸腕が、矢を掲げている。狼少年よりも大きいそれが、しっかりと狼を照準しているように思えた。
腕を落としたことに対する後悔か? 違う。
炎に飲まれた腹いせにケツのア――否、臀部を狙って次元斬を放ったのだが、どうにもそれが致命的に悪かったような気がする。後方から見た狼は、"鎧が薄い場所"が分かっていた。故にこそであったのだが、その分、目を引いてしまったらしい。
その後ケツを捲って逃げだそうとしたのだが、虫が、良すぎたか。
「やっぱそこは敏感だったりすんの痛……っ」
怒りの投げ矢が直撃し、狼は平原に沈んだ。
●
「ち……っ」
「……撤退条件まで、あと、一人。ですが、これは――」
レイオスの舌打ちに、千春。
「ああ、潮時だな……」
言いながら、レイオスは懐から発煙手榴弾を取り出す。相手の情報は十分知れた。あとは撤退――と、その段で。後方から声が届いた。
「上陸地点、浄化終了!」
連絡を取り合っていた騎士の言葉と同時に、煙幕が湧き上がる。視界が白煙に染まる中、方向転換。同時に、少しだけ間合いを詰めていた黒耀が、頭部へと向かって【五光】を放つ。
「――っ、本当に、頑丈なモンスターだ……!」
痛打、足り得ず。しかしそこで、盾を翳し受け止めた巨人の視線が切れた。此処ぞとばかりに、一息に転進、撤退。
「、ゥ、ゥ……!」
後方から、声が響いた。
「”騎士”、が、逃ゲ、ル、なド……ッ!!!!!」
そこに籠もった憤怒。そして殺気に、撤退していたレイオスの身が、凍えた。紛れもなく自分に向けられたものだと知る。
唯一、”騎士”を名乗った自分に。
声にならぬ怒声を零して、巨人は焔を上げる剣を振り上げ――全力を込めて、投擲。かろうじて振り返り、大刀で受けとめたレイオスであったが、馬上のレイオスごと飲み込むように、その大剣が爆炎に転じる。至近での衝撃を受け止めきれず、炎上しながらレイオスは落馬し――そこで、意識が途絶えた。
「己、ヲ、殺しテ、シメせ……! 貴様ラ、が、王国の、剣、で、アリ、盾、で、アルナラバ……ッ!」
最後に。そんな咆哮を聞いた、気がした。
●
巨人は、それ以上追ってはこなかった。浄化が終了したという声を聞いていたからだろうか。浄化が完了した一帯に足を踏み入れると、体につきまとっていた不快感が消失し、フォークスは漸く、安堵の息を零した。
成果はあったが、個人的には散々だった。なにより、折角の愛銃が相性が悪かったのが腹立たしい。だからというわけではないが、狼を小脇に抱えたアカシラに対し軽口を零す。
「しっかし、アンタが騎士とは……ノブレス・オブリージュってヤツ? 大層ご立派なモンだネ」
「柄じゃないけどねえ」
と、苦笑するアカシラに、フォークスはさもあらん、と納得を抱く。疫病神を自称するアカシラは、その過去もあって距離を取る傾向があった。それは――少しばかり、フォークスに似ているところで。
だからこそ、気になったのだ。彼女が、立場を得るに至った理由を。
そんな視線に気づいたか、アカシラは赤くなった頬を掻きながら、
「……あいつらに、居場所を用意したくなったのさ」
「あいつら?」
「アタシに付いてきたバカどもに、女子供、さね。アタシが仕出かした事の償いはするにしたって……その先も、用意しないと、って。そう思ったのさ」
その点此処は、お上が甘いからね、と太く笑うアカシラに、フォークスは何も言えなかった。帰るべき場所を作ろうという思考を、彼女はいだき得ない。それも、他人のため、となれば。
「……踏み込んだこと聞いたネ」
「大したことじゃないさ」
●
かくして、遭遇戦は終わった。
出方の分からぬ敵を前に、相応の情報を引き出せたことは、十分な功績足り得るといえよう。
なにせ。橋頭堡を確保した現状で――再戦の日は、遠からずやってくることになるであろうから。
「――前隊長について、追加、ですか」
馬を走らせる騎士は息を切らせながらの応答には緊迫が滲んでいる。しかし、動揺はすでに見られない。覚悟はしていたと、そういうことなのだろう。王が居たのだ。かつての死者すべてが敵にいたとしてもおかしくはない。
アーチボルト前近衛隊長の生前の武芸についての、叢雲 伊織(ka5091)、龍華 狼(ka4940) 、柏木 千春(ka3061)、三者の質問に、赤の隊の騎士は困り顔を見せた。
武芸百般、という話はした。それ以上の言葉を探す。
「――最優の騎士と、呼ばれていました。先々王の頃から仕え、無二の武勇を傲ることなく仕えた、騎士。得手も不得手も、私が知る限りではありません」
そうして、ちらりと後方を振り返る。
「"アレ"が、かの御仁であるならば……そして、その武技が未だ残っているのであれば……絡め手で仕留めるのは難しいでしょうね」
話は聞けた。ハンターたちは僅かな打ち合わせの後に反転し、隊列を整える。
土煙をあげて突撃してくる巨人を前にして、前衛に残ったのは三名。レオン(ka5108)、レイオス・アクアウォーカー(ka1990)、それから、千春。三者三様に得物を構えた彼を最前に、中衛にはアカシラと、伊織の姉である叢雲・咲姫(ka5090)、それから狼が入った。咲姫の位置は、今後の戦術を踏まえて必然となる位置。狼はこの高さで、少し離れた位置でじっと出方を見張っている。対してアカシラは、
「アンタらはアタシの後ろだ。何かあったら後方に知らせなきゃならないしね」
と、前後を見据えた上で、騎士と戦士団員を背負う形で間に入った。
そこからやや離れる形で、伊織と黒耀 (ka5677)、さらにフォークス(ka0570)が続く。千春の提案で、前衛が遮蔽になる形をとった。古来の習わし通り、"射線"を遮るための策であった。後方へと伸びていく陣を背に、レイオスは小さく吐き捨てた。
「……動いたな」
遠景に、巨人の上半身に動きが見えた。四本あるうちの、一組の裸腕。それが、弓を引き始めたのだ。長大な体に見合う歪な形状をした巨弓が、地鳴りの中で引かれていく。
●
――武功をあげるにはいい相手だが動き辛い状況は不利だな。
"黒の騎士"として、という序文を飲み込み、遠景に敵を眺めたレイオスは呟いた。負のマテリアルに身体を蝕まれている不快感もさることながら、背筋に差し込まれた悪寒を拭い去れない。
前、近衛隊隊長。王にとって最も近しい『盾』であった男――そしてそれが墜ちた姿を前にして、与しやすい相手と侮ることはできない。
「……時間稼ぎと情報収集。さて、どれだけ粘れるかね」
見れば見るほど、その構えの見事さに目を奪われる。四本の腕と脚。巨大な鎧が張り裂けんほどの巨体。人としての造形を損ないながらも、そこには鉄芯の如く武技が横たわっている。それを見るに至り、レイオスは都合の良い妄想を切って捨てた。歪虚になり、強き身体を手に入れた代償に、かつての武技を捨てることになった――などという可能性を。
「……本人であるかは、さておいて。修練を積んだ方のようですね」
「問題は、俺たちが耐えきれるかどうかだ」
「それも、そうですが……」
レオンの言葉には、少年らしい甘さが残るものだった。さりとて、それを切り捨てるつもりにもなれなかった。傍ら。こちらに距離を寄せる千春を見ると、まっすぐに、"敵"を見つめている。レオンのそれとは意味合いの異なる真剣さ。後方へ攻撃を流すまい、と自らに定めているのだろう。強く、盾を握りしめている。
その姿に、微かに悪寒が晴れた。
「……さあて、どう出る、元隊長」
に、と。太く笑った、その時のことだった。
「走れ!!」
後方から、声が響いた。
●
遡ることしばし。フォークスは両手に抱えた銃の重さに安堵にも似た悦を抱きながらも、眼前の敵に嫌気を覚えてもいた。見るからに、凶暴極まる敵だ。
「大きくて強そうな歪虚ですが……ただ尻尾を巻くわけにはいきませんね!」
フォークスの傍らで、伊織が気合いを入れ、何事をも見逃さぬといわんばかりに目を見開いた。マテリアルの変化を感じて、少年が直感視を発動したのだと知る。彼女もそれに続いた。
挙動は――フォークスが感嘆することはないが――武人のそれ。ただ、轟々と土煙をあげて迫る鎧騎士というだけでも恐ろしいのに、その弓の巨大さが脅威として残る。
「あの矢……少し骨っぽい、ですか?」
「そう見えるケド……」
巨人がつがえた矢は、どこか骨のような節ばった構造になっていると、レオンとフォークス、二人同時に気づく。
そして、矢の向こうに――兜が見えた。なるほど、元は人だというが、しっかりと人外らしい。なにせ、頭部すべてを覆う鋼鉄の兜の隙間から、赤い目が――。
「げ」
―――――目、だ。
それが、矢の向こうに、"まっすぐに"見えている。すぐに、その口から罵倒がこぼれた。自らの愚昧さと、現状の苦さに反吐が出る。
射撃手であるフォークスの身体には、いくつかの鉄則がたたき込まれている。そのうちの一つが――。
「走れ!」
御託を言っている場合じゃない。バイクを加速させつつ叫んだ。
「皆さんも急いで! 前へ!」
同時に気づいたと見える。伊織も動いていた。こちらは馬を駆りながら、黒耀と戦士団員、騎士らの背を押し込むようにして叩く。
「了解!」
騎士と戦士団員は即応したが、異常なまでに闘志を燃やしている黒耀だけ、応答がない。悠然とカード――ではなく符を掲げながら、ようやく走りだす。
「なんて素晴らしいデカブツ……最高に墓地に送り甲斐のあるモンスターカード……ッ!」
「……?」
一時の主がフツフツと殺意を高めている様に困惑でもしていたか。ゴースロンの困惑した目が伊織に届いたが。
――ごめん、僕にも何がなんだか……。
と、心の中で詫びるほか、無かった。
●
「アイツ、こっちを狙ってやがる!」
「……なんだと?」
近づいてくるフォークスの注意の声に、レイオスの言葉に困惑が滲む。
現状の配置の大前提が崩れた、と同義だ。前衛三人は、中後衛の壁になっていた筈だった。それが裏返るのは想定外だった。
と、そこで気づいた。
視線の基点の"高さ"。そして対称的に、矢の角度はレイオスたちを狙っていなかったこと。フォークスたちの前進に併せて、射角が下がってくる。
「――そう、でしたか」
千春の言葉にも、無念が滲んだ。考えた上での行動だった。それが――通じなかった。否、見誤っていた。その事実が、今も傷跡が残る心を、抉った。
アーチボルトの異形。つまりは、巨大であること。それを前にして、2メートルにも届かぬ身長の前衛たちが壁として機能できるのは、せいぜい後方数メートルに過ぎない。それ以遠に限れば、"視界は、通っている"。多少の散会を良しとした結果もあるだろうが、目論見は外れた。
「……いえ、まだ」
呟く。未熟を憂うのは、まだ早い。それは、すでに沢山味わった後なのだから。
僥倖だったのは、フォークスとレオンが注意していたことだ。対象が後衛だったことも幸いした。まだ、"始まってない"。だから。
千春は腰を落とし、盾を掲げた。
矢が、降ってくる。
●
――くっそ、見せつけてくれやがる……!
狼の嘆きを拾うものは、居ない。当然だ。彼だけ、前線から離れているのだから。
「何食べたら彼処まででかくなれるんだ……くっそ……」
怨み深い声だが、ともあれ、少年だけはこの事態を意識していたからこそ、矢の狙いだけに注視していたのだった。
つまり、自分が狙われているかどうか。気づかれているか、どうか。
安全のために、前衛に近づきすぎるのも良くない。なにせ、あの矢の"具合"はまだわからない。少年は、前線からやや離れた位置で矢がこちらに届かないことに賭けて待機している。
「……巻き込まれるのはごめんだしな」
それにしても、あの巨体は羨ましい。堂々と射ち下ろす威風。対して、身を縮めている自分のなんと惨めなことか。
巨人と武具の写真を収めた魔導カメラを懐にしまう。飯の種候補は、命よりも重い。そうしながら、視線は前衛――矢の向かう先を見つめながら、移動を再開した。
護ること。千春にとって、その明快な達成法が、これだ。後衛が前方、つまり前衛側の遮蔽へと迫ったことにより、アーチボルトは狙いをこちらに定めた。巨人の裸腕が微動。微かに、弦が揺れた。
「私が」
短く言う。音は無い。ただ、距離が詰まり、矢が――迫る。矢は鋭く、太く。そして。
「受けます……!」
到達の瞬前、その先端がほどけた。中心には一本の鏃。その周囲を取り巻いていた骨棘が意思あるもののように動き、全身鎧の隙間に突き立ち――そして、衝撃。
「……、く、ぅ」
いかなる剛力によるものか。強力無比な射撃は、その一射で防護を固めた千春の身体に痛痒を与えしめた。
「無事か!」
突きたっていた矢が歪虚に連なるものと見て切り落とそうとしたレイオスの眼前で、周囲から伸びていた無数の骨棘が、役目を終えたかのように消失した。衝撃に耐えきれず、自滅したのだろう。舌打ちが零れる。
矢が抜けても、焼けるような痛みが残った。矢の先に毒でも残ったか。
それでも――守れた。次を見据え、負傷の治療を後回しにする。敵の出方が、まだわからない。これまでの交戦で、アーチボルトは確実に、『戦術』を意識していることが分かったからだ。
「……毒、ですか?」
「そのようです。結構、強力です、ね……」
レオンの気遣う声に痛みを堪える千春が小さくうなずくと、
「歪虚の矢、ってところ……かな。不気味」
「掘れば掘るだけ特殊能力が出てきそうですね」
咲姫が嫌悪を吐き出すように言うと、接近していた黒耀が続いた。好敵手と定めたにしては、いやに艶がある表情であった。
ともあれ、一撃の手応えを確認した千春は後衛へと告げつつ、備えた。敵は、すでに二射目を構えている。
「マテリアルで汚染されている間は、後衛が受けると、危険――来ます!」
「そう何度も……!」
「させません!」
手の内は分かっていた。密集していたことも幸いし、届いた矢、その先端の骨棘をレイオスとレオンが切り落とすことで二射目の被害は押さえた、瞬後。
「■■■■■■■■――――――――ッ!!!」
咆哮に、大地が揺れた。
●
「ぬしラ、は、王敵……なリ……ッ!」
たどたどしく、粘質な声。それが、兜の向こうから響いた。人のそれとは違う、兜の中身が透けて見えるような、声であった。そこに込められた感情の色も、明らかだった。
赫怒、である。王の敵。そう呼ばれるに足る、"侵略者"に対する激憤。
「応射します!」
「その不細工面をしまいなヨ……!」
迫る敵意と巨体に即応するように伊織が後退しながら射撃。フォークスは少しばかり歪虚の動きを待った後に、銃撃を重ねた。
アカシラはフォークスに続く形で戦士団と騎士たちを後方へ下げながら、
「こっちはアタシが請け負うよ!」
と前衛らに告げた。
「頼む!」
レイオスは言い返しながら、構えた。巨人の下半身、四つ足に力が込められるのを目にしたからだ。
「騎兵突撃、ってか」
「っ……! アーチボルトさん、聞いてください……!」
身体にマテリアルを纏わせるレイオスとは対照的に、言葉を投げかけようとするレオン。
しかし。青年の声ごと挽きつぶすように、巨体が加速した。
突撃の最中も、巨人はフォークスらの射撃、その悉くを鎧腕の盾で受け止めていた。損害はごく軽微と見える。
「……今、あの盾光らなかった?」
「僕にも見えました!」
フォークスは弾丸を別な特殊弾に装填し直しながら目を細めた。盾の宝玉のなか、赤いものが一つ、輝いている。着弾の瞬間には、そこから光がはじけ、巨人を包んだようにも見えた。
「……めんどくさそうだネ」
何かしら仕掛けがあると見えて、フォークスが吐き捨てた直後、前方で、轟音がはじけた。
●
「トラップカード、発動ゥ!」
その突撃を予測していた黒耀が、前衛の手前で【怨手】を起動。巨人の足下から無数の黒腕が湧き上がり、闇の沼へと引きずりこむように巨人の四肢に絡みつく。
しかし。それすらも引きちぎって巨人は加速。前衛へと殲撃を打ち込んだ。
「迅、い……っ!」
巨人の突撃は、前方三人でとどめられた。治療の光が飛び始める中で、巨体の動きが"先"に出た。先手必勝を用いて機先を制しようとしただけに、咲姫の困惑も宜なるかな。
「王国騎士団黒の騎士、レイオス! そっちも騎士だと云うなら名乗ってみせろ!」
「■■■■■■■!」
レイオスの言葉を切り捨てるように、続くなぎ払いが前衛へと振り落とされる。同時に、武門の生まれであり、自身も剣士でもある咲姫はその斬光に目を奪われる。そこに籠められた、確かな武技に。
右手に剣を、左手に盾を構えた巨人は、射撃を盾で裁きながら、右手一つと巨体で前衛と相対している。巨体故に細かな回避はできないのだろうが、前衛の攻撃すべてを受け止めて居るのは、技量あってのことか。
――このままでは、一カ所を狙って攻撃するのは難しそう……。
「……」
咲姫は息を殺し、気配を抑える。そうして、左右を見比べ――右側面を選んだ。
巨人の左方向に、少年の影を認めたからだ。
●
――激写成功ぅ……!
狼の心は沸いていた。巨人が前衛に釘付けになっている間に、大きく後方へと回り込んでその姿を魔導カメラに収めた。撮影したのは、巨人の矢が"どこから来ているのか"、である。
とはいえ、声を荒げて伝えるのは危険。魔導短電話も通信不良。故に、戻るしかない。接近の際に利用した左方を移動しながら、さて、と目を向ける。
敵は、裸腕と剣盾をそれぞれに振るい、前衛と後衛両方に圧をかけている。これを見て、狼は今更接近を選ぶつもりは無かった。
さて、どこが美味しいか。息を潜めながら、狙いを定めるべく移動を続けた。
●
「トラップカードは無効、か……手札に加えたくなるモンスターカード……否、重すぎてセット不能か?」
「……?」
さらに二発目の【怨手】が弾かれた黒耀の呟きは、CW育ちの千春には理解を超えた。千春の目が困惑に歪むが、慌てて首を振る。集中だ。治療に手が取られ満足に行動できない中で、自身も光杭を打ち込んでは居るのだが、その足が止まることはただの一度も無い。
「抵抗が、異常に高い……」
「そういうことでしょうね。フフッ、全力でライフを削るしかないようだ……!」
ダメージは通っている筈だが、それでも効果が発動する気配が全く無いのはそういうことかと脳裏にとどめる千春を盾に、黒耀はさらに符を放つ。風雷陣。バサリと投げ上げた符が瞬く間に稲妻に転じて正面から巨人を穿つが、いずれも盾に阻まれた。
――今度は、緑の宝玉……。
それを認めたフォークスが目を細めながら、手持ちの弾丸を変えながら射撃を続ける。
つと、前線に動き。
「ぼくの声が聞こえていますか!? 貴方はアーチボルトさん、ですか……!?」
重装甲を着込んでいるとはいえ、相手は巨人。その斬撃もまた、息をつく間も無い。千春やレイオスに斬撃が向いた合間を縫って、レオンはそう声を張った。
「アーチボルトさんなら聞いて! ここにいるのは王国の騎士だ! 貴方の仲間の筈だろう!」
答えは、無い。しかし。
「つれねえな、元『団長』殿! ダンマリはイケてないぜ!」
不適に笑いながら斬りかかるレイオスの言葉に、背を押された。レオンは攻撃に回ることなく言葉を投げ続ける。
「味方同士で斬り合う理由なんて無いはずだ! そうでしょう!?」
瞬後だ。衝撃が、レオンの身体を打ち抜いた。後方一〇メートルほども吹き飛ばされた後、それが姿勢を落とした馬の膝蹴りだったと分かる。慌てて立ち上がった、そこに。
「――違ウ」
声と、視線が降ってきた。
「ぬしら、ハ、侵略者よ。己は王の盾。王の剣。王敵を滅ぼス、のみ」
赤光が、レオンを見据えた。脊椎に氷柱を差し込まれたような錯覚。殺気に、身体が凍える。
「たとエ、そレが、"王国"であロウと……!! "騎士"を斬ルこ、トにな、ロ、ウと……! ぬしら、が、我ガ王を、奪う、といウ、ならバ!」
「…………!」
レオンはそこで、気づかされた。アーチボルトは、"自分たちが王国の戦力だ"ということに気づいている。その上で敵対し、その上で剣を振るっているのだと。
「なら、此処に居たのもそういうことかい、元団長?」
レイオスの問いには、しかし、斬撃が降ってくる。受け止めるレイオスが痺れる重撃だ。負傷が重なるたびに千春が治癒を施す限りにおいて、支障はない、が。
――他方、レオンは言葉を無くしていた。
「……っ」
言葉は、届かない。あるのはただ断絶だけで、互いに違うものを掲げている。
剣を振るい続けるアーチボルドの口元から、ひび割れた怒号が響いた。
「交わス、ベキ、ハ、言葉、で無ク……剣と、知レ、小童!」
「……残念です……」
悲痛に歪むかんばせが、上がる。しかしその横顔には、決意が見えた。対立は必然。攻撃も防御も、その全てを注いで勝利を掴めと、他ならぬ"敵"が言っている。
「――往きます!」
だから。レオンは往った。
●
――あるいは、そうさせるような言葉だった、と。
アカシラはそんなことを思いながら、骨矢を切り落とし、打ち落とし、叩き落とす。敵の矢は歪虚であるから、斬り殺す、というのが適切か。
間合いが詰まると、巨人の後背から伸びる裸腕が、後方から引き出した骨矢そのものを投擲し始めた。射撃ほどの威力は無いのだろうが、倍の数で迫る骨矢の処理はアカシラをしても面倒極まる。後衛を護りながらの持久戦が必要な戦場であることは分かっているが、撤退条件が定められている現状、フォークスと伊織、騎士たちを死守するのがアカシラの役目だ。
戦果としては――まあ、乏しい。フォークスが銃弾を。伊織が射撃を重ねるが、その悉くが盾に遮られる。前衛から盾を引き剥がせているともいえるが、効果は乏しいと言わざるを得ない。
それでもいいのだ。これは持久戦。いまは情報を持ち帰るのが務めであるし、その意味で、特にフォークスは十分な仕事をしている。
気になっているのは、別のことだ。
「……問題は、アンタが"何"の歪虚かってことだよ、」
予測は付いている。しかし、アカシラがよく知っている"それ"とは異なるあり様であった。あの歪虚が、言葉通りの"敵"である自分たちを前にして、ああも冷静に戦っていられるのが――奇異で仕方が無い。
●
「……ッたく、頑丈だネ……それより、見えたかい?」
「はい……属性、でしょうか……?」
後方、銃弾を変えて射撃したフォークスに、伊織が応じる。互いに矢弾は弾かれ続けているし、狙う先を変えても、盾の巨大さと射角の限界もあって、位置を変えないことにはおそらく、まともな攻撃は通り得ない。しかし、射撃に晒されたとして、耐えられるほどの持久力は二人ともに、無いのだ。とはいえ、収穫はあった。
「六色の宝玉は、各属性に対応していて、被弾時に発動することで本体にも付与される……というところでしょうか。あー、面倒ですね!」
「おかげで、あたいのコイツも泣いてるよ……」
スペルライフルを撫で回すフォークスの目が翳る。幾度かレイターコールドショットを射ちはしたのだが、盾に遮られるとダメージが入らないのか、そもそも異常に耐性が高いのか無効になってしまうのだった。
その時のことだった。
「――――ッ!」
気息一つ。裂帛の気合いとともに側面に回った咲姫が切り込む。鎧に覆われた四足の前足に斬撃を振るった。流石に防御の手が追いつかなかったか、鎧の隙間、狙いをつけたまさにその場所に剣閃を刻む。そのまま飛び退ると、咲姫の眼前で巨人の身体が僅かに傾ぐのが見えた。
――右方、つまり、"こちら”へと。
「と、とと……っ!」
斬撃が降ってくるか、あるいは転倒か。判別が付かずに慌てる咲姫であったが、巨人が体勢を整えたことに安堵を抱く。あるいは、その手に残る手応えとともに。
切る寸前。反対側に、狼が見えた。少年は息を潜めながらも、刀を抜いて上方、巨人の側面を見上げていた。
狙う先が明らかで、そこに機を重ねることもできた。狼は上。咲姫は足、と。
良い手応えだった。その成果を確認すべく、間合いを外して傷を見て――咲姫は目を見開いた。
「……うっそ」
血を吹いていた筈の切り口が、閉じている。この頑強さ。正面からの相対の悉くを受け止める練武に加えて、自己再生。
「……この人数じゃ無理、ってこ、……ッ!?」
どう考えても、手札と手数が足りない。咲姫は言いながら、他に痛撃を与えうる場所を求めて目を巡らせる。
――そうして、"頭上"から、ぶしゃりとあふれた血液が滴り落ちてくる。
●
(取ったァッ!)
狼は小声で喝采を上げた。横合いから放った次元斬で、左の裸腕の根元を断った。目論見はあたり、防御を抜いて肩口そのものに斬撃を入れることができた。
ぼとり、と落ちた腕。遅れて、血管から溢れる血液がどろどろと落ちていく。
「―――と、わ、た……ッ!」
思わず声が漏れたのは、巨人の視線が"こちら"へと届いたからだ。バレた、と馬首を巡らせる。逃げようとしたところで、"それ"に飲まれた。
最初は、怒号。あるいは鳴動だった。巨人の身体全体が震えているかのような発声に大気が震える。
「……ッ、何を……?」
溢れかえる血を避けるように馬首を巡らせたレオンは、予感を覚えた。止めねば、と。
しかし、打ち崩すには練達ぶりが邪魔をする。心の刃を重ねてもそれをもろともせず、攻撃は盾で弾かれた。
「――真っ正面からの相対は、不利ってか」
流石に、レイオスの額にも汗が流れた。達人とは聞いていたが、こうも遮られるとは。気を練って衝撃波を放とうとも、囮――あるいは前衛として正面に位置している限りにおいて、確実に防御が挟まれる。多少の痛痒は与えている手応えはあるが、自己再生が明らかになった現状では、さて、どれほどの効果があるものか。
だが、同時に、勝ち筋も見えては来ている。現状では手札が足りない点をのぞけば・
千春はいつでも治療対応ができるように動向を伺いながら、思考する。
即ち――この歪虚は、"何"か、を。傲慢かとも思っていたが、どこか、違う。この巨体を怠惰と見るか。あるいは――。
「……ここで」
此処が、判別の時だ。だからこそ、千春は待った。巨人の出方を。
黒耀の位置は、歪虚から距離20m。後衛の面々はより距離を取っているので、結果として位置はアカシラに近くなる。
だからこそ、舌打ちが響いた時にすぐに気づけた。アカシラが、こちらを見ている。
「黒耀。アンタのその符でどこまでのやつなら守れるんだい?」
「12メートルほどまで、なら」
「……よし。なら、アタシじゃなくて自分を守りな」
そう言った、直後だった。
気配を感じて、黒耀は符――カードを抜いた。直ぐさま符は鳥へと転じ、黒耀の前面へと展開。
眼前から、業炎が、迫っていた。
●
「姉さん……ッ!」
伊織の叫びが響く。彼は、一部始終を見せつけられることになった。
巨人そのものは、何もしなかった。ただ、肩口から落ちた血。さらには切り落とされた腕。それが突如轟然と燃え上がり、爆炎となって広がると、瞬く間に前衛にまで至り、最前にいたレイオスやレオン、千春はおろか、咲姫や狼まで飲み込んだ。
距離を取っていた伊織やフォークス、騎士たちまでは届かなかったが、黒耀までは届いたらしい。距離の近さ故に、真っ先に確認できたその背に、緊張が見える。生きている。
咲姫の生存も確認できて安堵する伊織とは対照的に、赤く照らされたフォークスの表情が、不快げに歪んだ。
「憤怒、かい」
似た炎を、見たことがあった。憤怒の歪虚の権能の一つ。フォークスは素早く計算する。形勢不利――で済めば良い、が。
フォークスが識る高位の憤怒であれば、これだけでは終わらない。
●
爆炎が通り過ぎた。自ら練り上げたマテリアルを身に纏うことで受けきったレイオスに、すぐに治癒の光が飛んでくる。千春だ。
「無事か……!」
周囲を悠長に確認する愚は犯さない。身を焦がし続ける炎の痛みも無視だ。巨人は、今もまだ動いている。否。
加速した。
「■■■■■■■――――――ッ!」
僅かに後退し間合いを整えた巨人は、大ぶりの剣を振利上げた。節張った剣――これも、矢に倣えば歪虚なのだろう――が、今度は炎を帯びながら迫る。レオンは自らに癒やしの法術を紡ぐ、が。
「離れろ!」
「……ッ!」
しかし、それは、下策だった。薙ぎ払いの一閃。受けきった千春や、全快していたレイオスですら大きく削られる一撃を前に、レオンが施せる法術治癒では限界がある。
「……距離を、取るべき、でした、ね」
僥倖、と言おうか。盾ごと弾き飛ばされたレオンは、かろうじて耐えて見せた。しかし、大きな負傷に膝をつきそうになる。
それだけでは、終わらなかった。剛撃は、延長線上の咲姫にまで及んだのだ。
「く、ぅ……ッ!」
避けきれぬと悟った咲姫が、斬撃に自らの刀を併せて断ち切らんとしたが、適わなかった。得物の硬度、技量、頑強さ、その全てに飲み込まれ、咲姫の身が再び、炎に飲まれた。
「――っ、い、おり……ご、め……」
少女の膝が、折れる。遠くで、伊織の絶叫が響いた。
―・―
炎刃を受け止めるべく残った千春とレイオスに前線を託し、咲姫を引きずってレオンが安全圏まで後退。戦士団員による治療が施される中で、フォークスと伊織、黒耀が援護射撃を開始。
そんな中。
「あ、やっぱ、ダメ?」
潮目の悪さを感じながらも、別な理由で狼は後悔していた。
矢だ。残った裸腕が、矢を掲げている。狼少年よりも大きいそれが、しっかりと狼を照準しているように思えた。
腕を落としたことに対する後悔か? 違う。
炎に飲まれた腹いせにケツのア――否、臀部を狙って次元斬を放ったのだが、どうにもそれが致命的に悪かったような気がする。後方から見た狼は、"鎧が薄い場所"が分かっていた。故にこそであったのだが、その分、目を引いてしまったらしい。
その後ケツを捲って逃げだそうとしたのだが、虫が、良すぎたか。
「やっぱそこは敏感だったりすんの痛……っ」
怒りの投げ矢が直撃し、狼は平原に沈んだ。
●
「ち……っ」
「……撤退条件まで、あと、一人。ですが、これは――」
レイオスの舌打ちに、千春。
「ああ、潮時だな……」
言いながら、レイオスは懐から発煙手榴弾を取り出す。相手の情報は十分知れた。あとは撤退――と、その段で。後方から声が届いた。
「上陸地点、浄化終了!」
連絡を取り合っていた騎士の言葉と同時に、煙幕が湧き上がる。視界が白煙に染まる中、方向転換。同時に、少しだけ間合いを詰めていた黒耀が、頭部へと向かって【五光】を放つ。
「――っ、本当に、頑丈なモンスターだ……!」
痛打、足り得ず。しかしそこで、盾を翳し受け止めた巨人の視線が切れた。此処ぞとばかりに、一息に転進、撤退。
「、ゥ、ゥ……!」
後方から、声が響いた。
「”騎士”、が、逃ゲ、ル、なド……ッ!!!!!」
そこに籠もった憤怒。そして殺気に、撤退していたレイオスの身が、凍えた。紛れもなく自分に向けられたものだと知る。
唯一、”騎士”を名乗った自分に。
声にならぬ怒声を零して、巨人は焔を上げる剣を振り上げ――全力を込めて、投擲。かろうじて振り返り、大刀で受けとめたレイオスであったが、馬上のレイオスごと飲み込むように、その大剣が爆炎に転じる。至近での衝撃を受け止めきれず、炎上しながらレイオスは落馬し――そこで、意識が途絶えた。
「己、ヲ、殺しテ、シメせ……! 貴様ラ、が、王国の、剣、で、アリ、盾、で、アルナラバ……ッ!」
最後に。そんな咆哮を聞いた、気がした。
●
巨人は、それ以上追ってはこなかった。浄化が終了したという声を聞いていたからだろうか。浄化が完了した一帯に足を踏み入れると、体につきまとっていた不快感が消失し、フォークスは漸く、安堵の息を零した。
成果はあったが、個人的には散々だった。なにより、折角の愛銃が相性が悪かったのが腹立たしい。だからというわけではないが、狼を小脇に抱えたアカシラに対し軽口を零す。
「しっかし、アンタが騎士とは……ノブレス・オブリージュってヤツ? 大層ご立派なモンだネ」
「柄じゃないけどねえ」
と、苦笑するアカシラに、フォークスはさもあらん、と納得を抱く。疫病神を自称するアカシラは、その過去もあって距離を取る傾向があった。それは――少しばかり、フォークスに似ているところで。
だからこそ、気になったのだ。彼女が、立場を得るに至った理由を。
そんな視線に気づいたか、アカシラは赤くなった頬を掻きながら、
「……あいつらに、居場所を用意したくなったのさ」
「あいつら?」
「アタシに付いてきたバカどもに、女子供、さね。アタシが仕出かした事の償いはするにしたって……その先も、用意しないと、って。そう思ったのさ」
その点此処は、お上が甘いからね、と太く笑うアカシラに、フォークスは何も言えなかった。帰るべき場所を作ろうという思考を、彼女はいだき得ない。それも、他人のため、となれば。
「……踏み込んだこと聞いたネ」
「大したことじゃないさ」
●
かくして、遭遇戦は終わった。
出方の分からぬ敵を前に、相応の情報を引き出せたことは、十分な功績足り得るといえよう。
なにせ。橋頭堡を確保した現状で――再戦の日は、遠からずやってくることになるであろうから。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談しましょうか レオン(ka5108) 人間(クリムゾンウェスト)|16才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2017/08/25 03:37:52 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/08/23 20:06:53 |