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【界冥】クラスタ包囲・西地上部隊【初心】

マスター:鮎川 渓

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
LV1~LV20
参加人数
3~5人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2017/08/30 19:00
完成日
2017/09/06 12:59

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


「もう驚くことでもねえんだろうが……いや、ワイバーンなんか生で目にすることになるとは思わなかったぜ。世界はひろ……広いでいいのかな、いいか」
「リアルブルーでは珍しいそうですね、乗ってみますか?」
「……いや、生身での飛行は遠慮しとくわ」
 ふるふると首を振って、絵の前のファンタジーから目を背けた。

 鎌倉クラスタ包囲戦。
 鶴岡八幡宮の西側・東側・正面の敵を排除するにあたって立案された作戦、それに招集された面々を見渡して、統一連合宙軍の強化人間、神座御 純一は改めて背筋を正す。
 クリムゾンウェスト北方、龍園より駆けつけたのはドラグーンのシャンカラ(kz0226)、率いるワイバーンの群れはリアルブルー出身のものには少々刺激が強い。
「ふ、ふふふ……スイパラ特等招待券……今日の僕は一味ちがうよ!」
 リアルブルー出身の覚醒者、香藤 玲(kz0220)。
 ポケットに大事にしまってあるのはオフィスの受付嬢、モリス女史から交換条件に渡されたチケットである、きっちり買収済みだった。
「すごーい、ワイバーンてはじめて見た」
 手を上げて喜んでいるのはエバーグリーン出身のオートマトン、ミモザ(kz0227)。
 新米のマークが取れるのはまだもう少し先のようだ。

 横須賀線上のあるラインを中心に各地から集った者たちが集まっていた。
 鶴岡八幡宮の敵を排除する、そのための西側の始点がここ、北鎌倉駅北部にあった。

「それじゃあ最後にもう一度作戦概要の説明をするぜ!」

 拡声器をつかって声を張り上げる純一に、場が静まった。
 作戦は至極単純である。

 北鎌倉駅北部、豪快に脱線した歪虚列車の残骸よりも少し南に設置したトロッコに乗り、横須賀線を全速で南下。
 トロッコの進行に合わせてシャンカラ率いるワイバーン部隊が先行し飛行敵からの護衛にあたる、そのまま敵をひきつけて西の空から鶴岡八幡宮へ侵攻。
 トロッコはそのまま横須賀線を進行。途中、浄光明寺付近にてトロッコを切り離し玲の部隊が山岳ルートで鶴岡八幡宮を目指し侵攻する。
 部隊数により途中にで更にトロッコを切り離し多角的に攻める。
 終点は鎌倉駅、そこからの侵攻は純一が案内を務めるミモザを含めた部隊。
 これにより一箇所に集中した戦力を短期間に広域展開することで敵の撹乱を狙う。
 という作戦だった。

 こんな作戦が展開できるのも、先の戦いにおいて電波塔を破壊し、更に線路を支配していた列車型歪虚の破壊に成功した故である。

「僕たちはこの位置から線路にそって、先の交錯地点からまっすぐに攻め込めばいいわけですね」
「おう、どれだけ敵を引きつけられるかがその後の部隊散開に影響してくるから、よろしく頼むぜ」
 初めて会う同年代っぽいドラグーンに通じるものがあったのだろうか。
 がっしと握手をするさまはすでに戦友っぽい。
「森の中か……まかせてよ、今日の僕なら例え火の中水の中さ!」
「今日は最後まで乗ってていいの? いいの? このまえみたいにならない?」
 何かスイッチの入っている玲と、トロッコに興味津々のミモザ。
 若年組に若干不安を覚える純一だった。




「香藤さん、」
 共にクラスタ西方の包囲へ当たる玲を、シャンカラが呼び止めた。
「玲でいいよ。地上から精一杯援護するからヨロシクね!」
 とんっと胸を叩く玲。シャンカラも一通り挨拶した後、おずおずと作戦の資料写真を取り出した。そこには、クラスタ西方を守護しているという巨大な歪虚の姿が映し出されている。
 人型をした緑青色の巨大な身体。ふくよかな姿形は得も言われぬ貫禄を醸しており、そのヘアスタイルはシャンカラが度肝を抜かれるほど斬新だ。
「じゃあ、玲君。この巨大歪虚は、一体何を模してこんな姿をしているのでしょう? こちらではこういったスタイルが流行っているんですか?」
「んんー流行ってはない、かな。それ大仏さんの真似してるんだよ」
「ダイ?」
「大仏」
「ダイブツ?」
「大仏」
 そう――今回クラスタ包囲西方を担う者達にとって最大の強敵は、鎌倉の大仏を模した巨大人型歪虚なのだ。

 え、ちょっと待って、そんなデッカいの相手すんの?

 彼らのやりとりにたまげたのは、トロッコに乗り込もうとしていた駆け出しハンター達だ。今回彼らは、『リアルブルーで小型狂気歪虚と戦うけど、回復役のサポーターがいて安心安全な依頼だよ☆』という、大雑把極まりない説明をされ鎌倉の地に転移してきた。
 それなのに、そんな巨大な歪虚と戦うだなんて聞いてない……と、誰からともなく顔を見合わせた時だ。察した玲が慌てて振り返る。
「あ、ごめんね! 詳しい説明まだだったよね。安心して、僕らが大仏さんみたいな狂気歪虚……もう大仏さんでいっか……と戦うワケじゃないから!」
 玲はハンター達の背を押しやってトロッコに乗り込むと、腰を落ち着けてから話を切り出した。
「今回僕らはクラスタ西側の敵を制圧しに行くワケだけど、さっきの神座御さんの説明の通り、西側を目指すのは僕達だけじゃないんだ。ワイバーンに乗ったシャンカラさん達の飛行部隊が先行して、例の大仏さんと戦ってくれるんだよ」

 え、じゃあ自分達は何すんの?

「その大仏さんの周りには、取り巻きの小型狂気歪虚がうようよしてるんだ。当然、飛行部隊が大仏さんを狙えば邪魔してくる。そこで、僕達は陸路で山を越え、取り巻きに気付かれないようこっそり近づく。それから奇襲をかけて、飛行部隊が大仏さんに専念できるように取り巻きをやっつけよう! っていう作戦なんだぁ」
 玲は取り出した地図を指さしながら、軽い口調で説明していく。
「山越えはー……そうだなぁ。木が倒れてたりして足場は良くないみたいだけど、ハンターの足なら20分程度だと思うな。もちろん、途中で敵に出くわすこともあると思う。けど、そこで大騒ぎして援軍に囲まれるようなことになったら大変だから、なるべく大人しく山を越えたいところだね」

 もし大仏がこっちに向かってきたら?

 玲は今まさに飛龍に乗り飛び立とうとしているシャンカラ達を指さす。
「あっちはデッカい大仏さんを相手取ろうっていう猛者揃いだからね。なんとかなるなるーってか、して貰わないと困るー」
 けろりと笑うと、玲はポケットから色とりどりの小さなキャンディを取り出し、全員の口に押し込んだ。
「だいじょぶだいじょぶ、回復だけはちゃーんとするから。ねっ♪」


リプレイ本文


 香藤 玲(kz0220)はそわそわしていた。
 何故か。
 同じトロッコ内に、機械鎧を模したアクションスーツ姿の若者がいるからだ。蒼界出身の玲は特撮モノを観て育った。
「か、カッコイイっ……ヒーローみたいだね!」
 言われて、レオライザー(ka6937)は地図から顔をあげる。
「そうとも! オレは星を護りし正義の獅子! レオラ、」
「あまり大きな声を出しますと」
 名乗りを上げようとした彼を、同じく地図を見ていた木綿花(ka6927)が押しとどめた。彼らの少し前方の上空では、露払いを担う飛行部隊が交戦中だ。
「ごめんね、つい興奮しちゃって」
「お互い静かに行こう」
 玲とレオは小さく頷き合った。そこへ、美少女オーラを漂わすシエル・ユークレース(ka6648)が小声で話しかける。
「玲くん、この前ぶりーっ。また一緒に頑張ろうね!」
「よろしくーシエルおねえさんっ」
 玲はにへっと笑う。が、シエルは内心小首を傾げていたり。
(おねーさん……? 玲くん楽しそうだし、まあいっか!)
 そう。シエル、華のある顔立ちだが少年である。玲はすっかり勘違いしていた。
「えへへ、お仕事だけど、一緒に行けるのは嬉しいな♪」
「玲さん、今回も回復は任せたよ」
 口を添えたのは、シエルとはある意味真逆の男装の麗人・氷雨 柊羽(ka6767)。彼女もシエル同様、鎌倉戦に参加するのは2度目だ。
「柊羽おねえさんもヨロシクねー!」
「玲ちゃん。しーっ、よ?」
 木綿花は子供を諭すよう唇に指当て、声量を上げた玲を窘めた。しょうもないサポーターである。
「あっ、トロッコが切り離されるみたいですよ」
 銀の髪を風に遊ばせながら、作戦を確認していたファリン(ka6844)が前方を指す。
 飛行部隊の姿も、それを追って行った歪虚の気配ももうない。鎌倉駅へ向かう前車両との連結が切り離され、玲はレオの手を借りブレーキレバーを引いた。
 降りれば、すぐそこに越えるべき小山が聳えている。

 ファリンは名残惜し気にトロッコを見やった。
「トロッコ……終わってしまいましたね。とても楽しかったのですけど。……と、いけません。まずはお仕事に集中しましょう」
 言って、マテリアルを解放する。たちまち彼女の赤褐色の肌は白へ、銀髪は桃色に色を変え、頭頂部からは柔らかそうな兎耳がぴょこんと生えた。
「はい。及ばずながらも作戦成功の為に、私の役割を頑張って務めさせていただきます」
 龍人である木綿花の身体には、龍の幻影が重なった。
 右半身に黒く煌めく狼の文様を現したシエルは、鈴が鳴らぬよう布を巻きつけ準備万端。
 柊羽は、用途の異なる2種の矢がきちんとある事を確認し、山を仰いだ。
「山中では体力もスキルも、できれば温存しておきたいね」
「さーんせい♪」
 シエルが頷いたところで、纏わす空気を鋭く変化させたレオが、
「仲間が待ってる。行こう!」
 勇ましく声を張ると、
「おー!」
 玲は元気に拳を掲げた。途端、今度は4人から一斉に「シーッ!」と窘められたのだった。
(レオの名誉の為に言っておくと、彼は玲と違いうっかりさんなのではない。ヒーローを自認する彼は、覚醒すると身振りや声が自然と大きくなってしまうのだ)



 敵との遭遇が懸念された山越えだが、驚く事に戦場へ辿り着く間際まで、敵と出くわす事は一度もなかった。
 その要因は、早く戦場に着けるよう急いで静かに移動すると、全員で意見を揃えていた事がまずひとつ。加えて、先導する柊羽とファリンが、探索に有利なスキルを備えていた事が大きかった。
 柊羽は切れ長の目を光らせ、警戒しながら歩く。猟撃士ならではの直感視、そして鋭敏視覚を備えた彼女は、風に揺れる梢に惑わされる事なく敵の有無を見定めた。
 ファリンは超聴覚を発動し、兎耳を小刻みに揺らしながら周囲の物音を探る。
 実は一度敵とニアミスしかけていたのだが、ファリンと殿のシエルが持ち前の幸運を発揮しこれを回避していた。更に、暗記が得意な木綿花とレオがルートを記憶していたので、地図を確認しながら歩くというロスを防げたのだ。
 一行はものの15分足らずで山の麓に差しかかった。

 山を下りきろうかという頃になると、木々の間から激しい閃光が漏れてきた。飛行部隊が大仏型歪虚との戦闘を開始しているようだ。
「よしっ、オレ達も」
「待って」
 ランニングスキル持ちで、体力に余裕のあるレオが前へ出ようとした時だ。柊羽が片腕を広げ彼を止めた。そして坂の下に生い茂る薮を目で示す。
「あの辺りで何かが動いた」
 ファリンもぴくっと兎耳を動かし、
「……足音はしませんね。浮遊型のみのようですが、葉擦れの音からして1,2匹ではないようです」
 敵が少ないなら槍で一突きにしようと思っていた木綿花、小首を傾げる。
「どうしましょうか? もうすぐそこが戦場です。このままなだれ込んでしまいます?」
 しとやかな口調で大胆な意見を口にする彼女に、シエルは青い双眸を細めた。
「じゃあ全速力でばーっといっちゃおっか!」
 そして各々準備して来た魔導マイクや鈴を取り出す。双眼鏡を手に戦場の様子を探っていた玲は、表情を引き締めて言う。
「苦戦してるみたい……皆、ヨロシクお願いするよっ」
「何だって!? 仲間の危機だ、行こう!」
 レオの咆哮を機に、六人は風のように山を駆け下りた。



 茂みを抜ければ拓けた空間が広がっていた。前方に佇むは、大仏を模した不敬な巨大歪虚。その周囲を青き飛龍を駆る飛行部隊が飛び交っている。その手前で、マテリアルを炎のように燃やし、無数の虫型歪虚を引きつけ交戦中のシャンカラ(kz0226)がいた。飛行部隊の消耗に比べ、大仏型歪虚は今なお五体満足で立っている。厳しい戦いを強いられているのは明らかだ。
 だからこそ、時間をかけずに来られたのは大きかった。
 一番の瞬発力を誇るシエル、戦場に躍り出ると魔導拡声機をオンにする。こうした機械類が使えるようになったのも、先の鎌倉戦で各地の電波塔を破壊したお陰だ。すぅっと息を吸い、
「遠からんものは音に聞け、近くばよって目にも見よー! 地上部隊、ただいま参上ッ☆」
 2本の指をピッと目許に当て、凛々しくも可愛らしくキメる。動きに合わせ、手首につけた鈴がしゃらりと鳴った。
 その横で、拡声機で増幅された太鼓の音が響きだす。ファリンだ。踊り子である彼女は、腰につけた太鼓を打ち鳴らし、敵を舞踏……否、武闘に誘うよう嫣然と微笑む。
「さあ、狂気の皆様踊りましょう? こんなこともあろうかと、出陣の音色は覚えておきました!」
 同じリズムの繰り返しな気がしなくもないが、無粋な事を言ってはいけない。短い準備期間の間で、懸命に陣太鼓を覚えてきたのだ。
 レオも山中で潜めていた声を今とばかりに解放する。まずは1発派手に空へ機導砲を放って――と思っていたレオだったが、ここで残念なお知らせが。機導砲の効果対象は『敵』。つまり何もない空へぶっ放す事はできないのだ!
「あ」
 どうするヒーロー!? どうするレオライザー!?
 するとそこへ、先程置き去りにして来た虫型歪虚の小群が飛来した。背後からの襲撃に絶体絶命のピンチ――否! 彼は生まれながらのヒーロー(だと本人は信じて疑わない)。ピンチをチャンスに変えるのがヒーローだ。背を反らすと、先頭の1匹に向け機導砲を放った! そして爆散する敵をバックに名乗りを上げる!
「オレは星を護りし正義の獅子! レオライザー! 人々の信仰を穢し、我が物顔で地上を占拠する歪虚! 今日が貴様らの最後だ!」
 拡声機に負けじと腹の底から吼える。ポーズも決まったッ!

 これだけの大騒ぎだ。大仏を取り巻くように浮遊していた虫型歪虚どもは、シャンカラのソウルトーチに引きつけられているものを除き、一斉にこちらへ向かって来た! 更に少し遅れて、大仏の背後から湧いて出た大小の人型歪虚どもが、盾や剣を地に擦りながらゆっくりと歩いてくる。
「結構いるね」
 3人の後方で玲がごくりと喉を鳴らすと、
「あっちの部隊のために、もっと引きつけないと」
 消音性に優れたエルヴィン・アローから、矢羽のような形の石に持ち替えた柊羽が言う。指先でその石を撫でると、呪紋が発動し光の矢が現れた。火と風の加護を持つ弓に番えよっぴき放てば、光矢は熱風を巻き起こし飛ぶ!
 ターゲッティングを使った矢は、大きな眼球へ吸い込まれていく。目玉を穿たれた虫擬きは、もがきながらシエルの少し先に落ちた。けれどもレーザーを放つ気配はない。
「思った通り……目を潰せばレーザーを使えなくなるよ!」
 柊羽は、先の電波塔破壊時にその事を学んでいた。今回の敵も同様のようだ。それを聞いた木綿花がたおやかに微笑む。
「本職の猟撃士様のように行くかは分かりませんが、私も狙っていきましょう」
 だが矢を番え、飛び交う飛龍達を視界に収めた途端、元龍騎士である彼女の眼差しが熱を帯びる。
「天翔け連なるワイバーン――あの子はいないようですが――龍騎士隊の頃が懐かしく思い出されます。ここで確と援護できねば恥というもの……!」
 気を吐くと四方に矢を射かけた。鳥の名を冠した長弓から放たれる矢は、鳥の鳴き声めく鋭い音を響かせ空を裂く!
 直接後方の歪虚達へ飛んでいく煌めく光矢、そして囀る矢は、更に奥の敵をも釣り出す事に成功した! 十二分に敵の気を引くと、木綿花も前線へ打って出た。帯に垂らした鈴が凛と鳴る。そして3人に合流すると、押し寄せる敵の迎撃にあたった。

 柊羽の威嚇射撃で動きを止めた擬人型へ、すかさずシエルがランアウトで突っ込んで行く。レイピアを閃かせ、太い胴を刺し貫く!
 刀身を深くめり込ませた刹那、シエルは己が左半身に白狼の文様が浮かぶのを見た。右半身に浮かばせた黒狼と対になった白狼の姿に、思わず頬を緩ませる。
「応援ありがとー、お兄ちゃんっ。柊羽さんもありがと、さっすが♪」
「期待に添えて何より。……っ! 気を付けて、触手が来るっ」
「そうはさせるか! 唸れ、ライザーロッド!」
 人型が反撃に繰り出した触手を、レオの機導剣が薙ぎ払う! が、先程の小群の残党がしつこく彼の背を狙っていた。虫擬きの眼が光り、レーザーを放つかに見えた――次の瞬間、虫擬きの身体は一条の光に灼き払われる。木綿花だ!
「死角から狙うとは卑怯な。歪虚に言った所で詮無いですが」
 レオは思うように動かない己の身体に歯噛みする。
「目覚めてから訓練はしたけど……いや。たとえ力が戻っていなくとも、オレは戦いを止めない!」
「ええ、気を引き締めていきましょうっ」
 ととんっと太鼓を叩いて、ファリン。柄に「阿」の字が刻まれた愛用の槍に持ち替え、その重みと射程を活かし大きく振り抜く!

「――よしっ。隊長さん、聞こえる?」
 5人の手腕を見て取った玲は、魔導スマフォでシャンカラを呼び出す。
「今引きつけてくれてる敵、こっちで受け持つよ。だから、」
 そこまで言った時だ。
 大仏歪虚の打撃を喰らい、飛龍の背から叩き落されたひとりのハンターが、真っ逆さまに堕ちていくのが見えた!
「ああっ!」
 それを見た6人の口から思わず声が漏れる。
 シャンカラが受け止めたものの、未だソウルトーチの効果が切れていない彼には無数の敵がまとわりついている。傍にいる訳にもいかず、撤退するよう促すのが見て取れた。
「おのれダイブツ、赦せないな! 一刻も早くこちらに任せるよう言ってくれ!」
「らじゃーヒーロー! 隊長さん、トーチが切れるタイミングでこっちに来て!」
 シャンカラは大きく旋回し、周囲の敵を根こそぎ引きつけると、猛スピードでこちらへ滑空してきた。そんな彼を追い無数の虫型が雲霞の如く押し寄せる! だが敵はそればかりではない。歩みの遅い人型どもが、その下でぞろぞろと歩を進めてきている。
「壮観ですね」
 ファリンの額に汗が光る。
「本当に。けれど退くわけにはいきません」
「ああ! ……しかし、初任務が思いのほか重要な戦いになったな」
 木綿花とレオはこれが初の戦闘依頼だ。なのにとんだハードな戦場だとレオは苦笑い。けれど傍らのシエルはにこっと笑い飛ばす。
「最初がコレなら度胸ついちゃうよ、ねっ?」
 片目を瞑って振り向けば、柊羽が銀髪を揺らし首肯する。
「間違いないね」
 敵を引き連れたシャンカラが、前衛のすぐ目の前まで接近する。彼のオーラがふっと消えた。ソウルトーチが切れたのだ。
『すみません皆さん。宜しくお願いします!』
 玲のスマフォと前方から同時にシャンカラの声が響く。彼は敵を振り切るべく、垂直に天高く飛翔する。翼が巻き起こす風が一同の頬を打った。そして、彼を追ってきたそ勢いそのままに押し寄せる群れと対峙する。
「いっくよー!」
 言うなりシエルが飛び出す! たちまち大混戦となった。敵味方が入り乱れ、穢れた緑のレーザー光が乱舞する。だがハンター達は互いに協力し合い、着実に敵を討ち取っていく。
「すまない、オレに力を……! いや、彼女が先だ! 持ち堪えてみせる!」
「じゃあ範囲回復するねっ」
「玲くん後ろ! 敵!」
「玲さん、もう少し傍にっ」
「突いても灼いてもきりがありません」
「でも少しずつ減って来ていますよ!」
 スキルは回数に限りがあるが、山中で戦闘を避けて来たため、各々存分に技を揮う事ができた。それでもスキルが尽きてしまうと、己が力と持てる武器を全力で叩きつけ、一匹でも多く倒すべく戦い続けたのだった。



 大仏型歪虚が倒れた時には、一行の総討伐数は百に届いていた。歪虚の気配が消えると、流石に疲れてその場に腰を下ろす。
「お疲れ様ー、僕もうダメぇ」
「いやぁ、なんとか勝てて良かったな……!」
 レオと頷き合いながら、玲は皆に回復術を投げかける。ファリンがぱっと顔をあげた。
「帰りもまたトロッコ、乗せて貰えるでしょうか?」
 余程気に入ったようだ。けれど玲はごめんねと首を振る。
「そうですかぁ」
 兎耳を垂らすファリン。柊羽は元気付けようと別の話題を探した。
「そうそう、玲さん。『すいぱら』って甘い物が食べられるお店なんだよね? そのうち連れて行ってくれたら嬉しいな?」
「それイイねっ♪」
「甘い物っ?」
「どこにあるんですか?」
「え、今度は甘味処に歪虚が出るのか!?」
「違う違う」
 誰もが疲労困憊していたが、任務を果たした達成感から、表情は晴れやかだった。

 そんな5人の顔を見回し、玲は考えた。
 帰還したらサポーターとして、オフィスに色々と報告する事がある。皆の働きはどうだったか。特筆すべき功労者として誰を推挙するか――考えに考えて、やめた。今回は全員が作戦の趣旨を尊重して動き、所持品や個性をフル活用した事でこの結果が得られたのだ。あえて誰かを推す事はせず、代わりに全員に追加でご褒美を貰えないか話そうと決めたのだった。

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    人間(紅)|15才|男性|疾影士
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    氷雨 柊羽(ka6767
    エルフ|17才|女性|猟撃士
  • 淡雪の舞姫
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    人間(紅)|15才|女性|霊闘士
  • 虹彩の奏者
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    ドラグーン|21才|女性|機導師
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    レオライザー(ka6937
    オートマトン|19才|男性|機導師

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氷雨 柊羽(ka6767
エルフ|17才|女性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2017/08/30 08:16:02
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/08/26 18:53:12
アイコン 質問卓
シエル・ユークレース(ka6648
人間(クリムゾンウェスト)|15才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2017/08/28 10:24:08