ゲスト
(ka0000)
【界冥】キャット・マジック
マスター:近藤豊

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/08/30 12:00
- 完成日
- 2017/09/02 07:39
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
鎌倉クラスタ攻略が開始――各方面から鶴岡八幡宮に向けて進軍が開始される。
メタ・シャングリラは鶴岡八幡宮に残る妨害電波を避けて鎌倉海浜公園にて各地の状況を確認していた。
「おー、やってるねぇ。こりゃデカい戦いになりそうだな」
「油断はいけないザマス。油断すれば、敵に不意を突かれるザマスよ」
メタ・シャングリラ艦長の森山恭子(kz0216)は、ブリッジで鎌倉クラスタ攻略に属するある重要事項を確認していた。
相手は――強化人間ジェイミー・ドリスキル(kz0231)中尉だ。
「ふん。相変わらずの心配性だな、婆さん」
「婆さんじゃないザマス。還暦前ザマス。というか、あたくしのそれ程年齢が変わらない……あれ? なんかアルコールの香りがするザマスよ?」
「ああ? 気のせいだって」
「あっ! また飲んだザマスね! ダメザマス!」
「分かった分かった。それよりデカい猫の話だったな」
デカい猫――それは江ノ島周辺で確認されているサトゥルヌスと呼ばれる半機半獣の化物が原因であった。
一体何が目的かは不明だが、鎌倉に存在する者であれば歪虚でも人間でもすべて襲い掛かる獣であった。その後の観測からサトゥルヌスは東へ進路を変えて進んでいる。
このままいけば鎌倉クラスタを包囲する軍と遭遇する事になる。
そうなれば鎌倉クラスタ攻略に支障が出てしまう。
「猫……可愛らしさがまったく無いザマス」
「あん? 十分可愛いじゃねぇか。たっぷりあやしてやらねぇとな」
「で、それをどうやるザマス?」
「奴は腹を空かせて鎌倉駅東口までやってきてる。そこで奴の注意を引いて南まで誘導する。そこで、俺とヨルズの出番。下馬で待ち伏せて頭を撫でてやるって訳だ」
ドリスキルの作戦は、鎌倉駅東口に現れると予測されるサトゥルヌスに攻撃を加えて誘導。追いつかれないように攻撃を加えながら下馬の交差点まで引き込む。
そして十分に引き付けた上でヨルズによる砲撃でダメージを与える。
「ちょっと待つザマス。いくらヨルズでも動いている相手には早々当たらない気がするザマス。それに普通の砲弾が通用するか不安ザマス」
「おいおい。誰がヨルズに乗っていると思っているんだ? まあ、婆さんの心配も当然だがな」
「婆さんじゃないザマス」
「ああ、悪い。引き付けてから焼夷瑠弾で出鼻を挫く。獣って奴は炎が苦手だろ?
その後は……本部から持ってきた土産の出番だ」
ドリスキルがタッチパネルを操作した後、現れたのは翼の付いた砲弾であった。
「これは?」
「本部が開発した特製のAPだ。
こいつは発射された後、敵の装甲を貫通。一定時間電撃を放った後で爆発する。こいつをあの猫の背中についたアクセサリに叩き込む。奴の放電をこれで封じる」
(……! 本部はサトゥルヌスの存在に気付いて開発中の兵器を送り込んできたザマスね。つまり、この兵器も戦闘データ収集が目的ザマス)
ドリスキルの説明で恭子は本部の意図を探っていた。
ヨルズは試作CAMであり、現在も戦闘データを解析して開発が続いている機体だ。
そして、おそらくこのAPも開発途上の兵器。
実は恭子も、背中にある円筒状の物体を破壊すれば電撃が発生しなくなると予想していた。強力な電撃をかける事でショートを促す事ができれば、サトゥルヌスの電撃は無効化できるかもしれない。
しかし、一発限りで失敗が許されない上、本番で正常に稼働するのだろうか。
「心配そうな顔をするな。必ずあの猫を俺が躾けてやるからよ」
「分かったザマス。で、ハンターに囮役兼サトゥルヌス討伐の手伝いをさせたいザマスね?」
「おっ、話が早い。今回、八重樫の奴は別行動。囮役をやってくれる奴がいねぇんだ」
山岳猟団の八重樫 敦(kz0056)はデュミナスで別部隊の支援行動を行っている。
ヨルズはハンターに囮役と共に追い込んだサトゥルヌスを叩く相手を依頼しようとしていた。
おそらく前回ハンターに護衛してもらった事で、ハンターの力量を試したくなったのだろう。
「ハンターにはねこじゃらし片手に猫を呼び寄せてもらう。うまくやらねぇと猫はねこじゃらしじゃなく、手の方に食らい付くからな。婆さん、気を付けるように伝えておいてくれ」
メタ・シャングリラは鶴岡八幡宮に残る妨害電波を避けて鎌倉海浜公園にて各地の状況を確認していた。
「おー、やってるねぇ。こりゃデカい戦いになりそうだな」
「油断はいけないザマス。油断すれば、敵に不意を突かれるザマスよ」
メタ・シャングリラ艦長の森山恭子(kz0216)は、ブリッジで鎌倉クラスタ攻略に属するある重要事項を確認していた。
相手は――強化人間ジェイミー・ドリスキル(kz0231)中尉だ。
「ふん。相変わらずの心配性だな、婆さん」
「婆さんじゃないザマス。還暦前ザマス。というか、あたくしのそれ程年齢が変わらない……あれ? なんかアルコールの香りがするザマスよ?」
「ああ? 気のせいだって」
「あっ! また飲んだザマスね! ダメザマス!」
「分かった分かった。それよりデカい猫の話だったな」
デカい猫――それは江ノ島周辺で確認されているサトゥルヌスと呼ばれる半機半獣の化物が原因であった。
一体何が目的かは不明だが、鎌倉に存在する者であれば歪虚でも人間でもすべて襲い掛かる獣であった。その後の観測からサトゥルヌスは東へ進路を変えて進んでいる。
このままいけば鎌倉クラスタを包囲する軍と遭遇する事になる。
そうなれば鎌倉クラスタ攻略に支障が出てしまう。
「猫……可愛らしさがまったく無いザマス」
「あん? 十分可愛いじゃねぇか。たっぷりあやしてやらねぇとな」
「で、それをどうやるザマス?」
「奴は腹を空かせて鎌倉駅東口までやってきてる。そこで奴の注意を引いて南まで誘導する。そこで、俺とヨルズの出番。下馬で待ち伏せて頭を撫でてやるって訳だ」
ドリスキルの作戦は、鎌倉駅東口に現れると予測されるサトゥルヌスに攻撃を加えて誘導。追いつかれないように攻撃を加えながら下馬の交差点まで引き込む。
そして十分に引き付けた上でヨルズによる砲撃でダメージを与える。
「ちょっと待つザマス。いくらヨルズでも動いている相手には早々当たらない気がするザマス。それに普通の砲弾が通用するか不安ザマス」
「おいおい。誰がヨルズに乗っていると思っているんだ? まあ、婆さんの心配も当然だがな」
「婆さんじゃないザマス」
「ああ、悪い。引き付けてから焼夷瑠弾で出鼻を挫く。獣って奴は炎が苦手だろ?
その後は……本部から持ってきた土産の出番だ」
ドリスキルがタッチパネルを操作した後、現れたのは翼の付いた砲弾であった。
「これは?」
「本部が開発した特製のAPだ。
こいつは発射された後、敵の装甲を貫通。一定時間電撃を放った後で爆発する。こいつをあの猫の背中についたアクセサリに叩き込む。奴の放電をこれで封じる」
(……! 本部はサトゥルヌスの存在に気付いて開発中の兵器を送り込んできたザマスね。つまり、この兵器も戦闘データ収集が目的ザマス)
ドリスキルの説明で恭子は本部の意図を探っていた。
ヨルズは試作CAMであり、現在も戦闘データを解析して開発が続いている機体だ。
そして、おそらくこのAPも開発途上の兵器。
実は恭子も、背中にある円筒状の物体を破壊すれば電撃が発生しなくなると予想していた。強力な電撃をかける事でショートを促す事ができれば、サトゥルヌスの電撃は無効化できるかもしれない。
しかし、一発限りで失敗が許されない上、本番で正常に稼働するのだろうか。
「心配そうな顔をするな。必ずあの猫を俺が躾けてやるからよ」
「分かったザマス。で、ハンターに囮役兼サトゥルヌス討伐の手伝いをさせたいザマスね?」
「おっ、話が早い。今回、八重樫の奴は別行動。囮役をやってくれる奴がいねぇんだ」
山岳猟団の八重樫 敦(kz0056)はデュミナスで別部隊の支援行動を行っている。
ヨルズはハンターに囮役と共に追い込んだサトゥルヌスを叩く相手を依頼しようとしていた。
おそらく前回ハンターに護衛してもらった事で、ハンターの力量を試したくなったのだろう。
「ハンターにはねこじゃらし片手に猫を呼び寄せてもらう。うまくやらねぇと猫はねこじゃらしじゃなく、手の方に食らい付くからな。婆さん、気を付けるように伝えておいてくれ」
リプレイ本文
鎌倉クラスタ攻略が続く最中、別の地点ではある作戦が進行していた。
強化人間ジェイミー・ドリスキル(kz0231)中尉曰く、『猫をあやすだけの簡単な任務』と言い放っている。
しかし、依頼に参加するハンター達は分かっている。
その猫がこの鎌倉において厄介な生物である事を。
「ハハハッ! あれが、猫? センス無いわね! あの食い意地の汚さを見なさい! 豚よ、豚っ!」
イェジドのヴェインに乗ったエリ・ヲーヴェン(ka6159)は、機械槍「タービュレンス」による渾身撃を放った。
江ノ島で出会った際にも放った一撃であるが、今度は心の刃を乗せている。
機械の部分ではなく、肉体の部分を狙った一撃。
次の瞬間、鎌倉駅南口跡に鳴り響くは――獣の咆哮。
空気を震わせ、己の怒りを周囲へ伝える。
「さて、鬼ごっこの始まりか」
この家屋の残骸が広がる光景の中、トラバントIIのリコ・ブジャルド(ka6450)は県道21号線へ向かって後退を開始。
ガトリングガン「エヴェクサブトスT7」で弾丸をバラ撒きながら獣の注意を引き続ける。
現時点での目的は獣を倒す事ではない。目標地点まで誘導する事にある。
「まだよお楽しみは、これから……子豚にはしっかりと調教しないとねっ!
行くわよ、ヴェイン!」
エリも県道21号線に向かって移動を開始する。
二人の眼前で怒りを露わにする獣――それは、鎌倉周辺で目撃されている半機半獣の生物サトゥルヌスである。
巨大な獅子の体。
尾には毒を吐く大蛇。
体の半分は機械で覆われ、背中には円筒状のパーツから電撃を放ってくる。
そもそも、サトゥルヌスには謎が多い。
一体、何故鎌倉に現れたのかは分からないのだ。
はっきりしている事は、サトゥルヌスに敵味方の区別はない。目の前の相手がハンターであろうと、鎌倉クラスタの狂気でも容赦なく襲い掛かる。
エリが『豚』と称してしまう程、すべての敵に攻撃を仕掛けようとするのだ。
「そら、お出なすった。元気な猫だよ、本当」
鎌倉駅入り口交差点へエリとリコの姿を目視した瀬崎・統夜(ka5046)。
二人が横を通過した事を確認した統夜は、黒騎士の照準をサトゥルヌスへ合わせる。
CAMと同等の巨体。ある程度の距離であればそう簡単には外れない。
「こっちも始めるか。追いついて貰わないと困る鬼ごっこってぇのも面倒ではあるけどな!」
黒騎士から放たれる200mm4連カノン砲。
不気味な声にも聞こえる発射音。同時にサトゥルヌスの体表に派手な爆発が起こる。
歪虚CAM辺りならばこの一撃で足を止めていたかもしれない。
だが、相手は半機半獣の怪物。怒りのままに暴れて留まる気配も見せない。
「やっぱりか。だが、今はこれでいい」
「ほら、行くぞ。その猫にじゃれられると厄介だ」
統夜へ撤退を促すリコ。
既にサトゥルヌスの主な攻撃方法は分かっている。
爪や牙に加え、尻尾の蛇によるアシッドブレス。
さらに背中にある円筒状のパーツから放つ放電。
いずれにしてもサトゥルヌスの周囲にいなければ攻撃を受ける事は無い。
サトゥルヌスが怒って攻撃を仕掛けるとしても、近づかなければ何もできないのだ。
「分かってる。追いつかれたら、その時点で鬼の勝ちだ」
黒騎士はアクティブブラスターを使ってその場から撤退を開始。
サトゥルヌスとの距離が開き始める。
三人の移動開始を確認したリコは一安心。早速、トランシーバーで『相棒』へと通信を送った。
「楽しい楽しいビズの時間だ。そっちも始めろよ、ラスティ」
「分かってる。こっちも追跡を始めている。お前等、かなりモテモテみたいだ。こっちには目もくれなかったぞ」
相棒――ラスティ(ka1400)のウィル・O・ウィスプ改は、未だ鎌倉駅入り口交差点にいた。
瓦礫に隠れてサトゥルヌスをやり過ごした後、追いかけるように移動を開始。
実はサトゥルヌスが本能のまま動く事を危惧したラスティは、逃亡防止や挟撃の為に保険として隠れて移動していた。万一、サトゥルヌスが踵を返した際には、ラスティが姿を見せてサトゥルヌスの注意を惹く手筈である。
しかし、万一の事態が起こらない限り踵を返す事は無さそうだ。
目の前の餌に食らい付くように、サトゥルヌスは必死で三人を追いかけている。
「ま、油断は禁物だ。
こっちは始めたぞ。そっちの準備は大丈夫だろうな、ドリスキル。まさかヨルズの砲身を磨くのに夢中なんてないよな?」
●
「おいおい、誰に言ってるんだ? ヨルズの砲身はいつもピカピカだ。顔が映るぐらいに磨き上げているからな」
ジェイミー・ドリスキル(kz0231)は、試作新型CAMのヨルズと共に下馬の交差点で待機していた。
実はラスティ達が囮となって県道21号線を南下していた理由はここにある。
囮役がサトゥルヌスを鎌倉駅南口から下馬の交差点まで誘引。
そこで待機していたヨルズが砲撃により迎撃する。それも地球統一連合軍で開発中の特製APだ。
このAPは命中すると一定以上の放電をした後で爆発する。満を持して投入された特製APをヨルズ最大の特徴である――155mm大口径滑空砲で叩き込む。そうすれば必ずサトゥルヌスへ大ダメージを与える事ができる、と地球統一連合軍は確信している。
だが、特製APはドリスキルがメタ・シャングリラへ着任してすぐに届けられたらしいが――傍目から見れば兵器の実用実験。これでサトゥルヌスを倒せるとは約束された訳ではない。
「本当に、大丈夫だろうな?」
統夜が、案じて聞き返す。
こうしている間にも三人はサトゥルヌスからの追撃を受けている。隙を見て30mmアサルトライフルを叩き込んでいるが、怯むことなく攻撃した者を追撃してくる。
これでヨルズの砲撃が外れたとあれば、三人の苦労も報われない。
「馬鹿言ってるな。CAMでお前等が体を張っているんだ。俺とヨルズがCAMに遅れを取る訳にはいかねぇだろ」
ドリスキルは、堂々とCAMへのライバル心を燃やす。
地球統一連合軍で冷遇されていた過去を持つドリスキルにとってCAMは越えるべき相手。ヨルズの有能さを世間に知らしめる為には、ここでヨルズの存在をアピールして実績を積んでおきたいのだろう。
「あら? 斬っても花の咲かない鉄の塊の何が面白いのか分からないわ。わたしはこの子の方が良いわ」
戦いの最中でも、エリはヴェインへの想いを大事にしているようだ。
「その調子ならまだ余裕みたいだな。だが、無茶はすんなよ」
そう言って、通信を終えるドリスキル。
口では悪態を付いていても体を張って囮役を買って出たハンターの身を案じていたようだ。
「あの、やっぱりお優しいのですね」
ドリスキルの対応を見ていた沙織(ka5977)は、戦いの中で微笑ましくなった。
下馬の交差点でR7エクスシアに騎乗する沙織であったが、CAM嫌いと聞いてきたドリスキルに対して身構えていた。
嫌われているかと思ったが、噂と違い話せば分かる相手のようだ。
「CAMは好きじゃねぇが、パイロット個人まで嫌いな訳じゃない。それに今は歪虚が相手だ。我が儘が通用しない事は分かってるさ」
「危なくなったらお守りしますね」
「……そうならない事を祈ってる。お嬢ちゃんに守られる程、俺は老いちゃいねぇんでな。むしろ、俺がお嬢ちゃんをエスコートする側だろ?」
軽口を叩くドリスキル。
この様子なら緊張で砲撃を外すという事も無いだろうが、心配事が完全に潰えた訳ではない。
「こっちは猫へ集中する。そっちの方は頼むぜ」
「ああ、今の所は以上なしだ。だが、邪魔が入れば俺とピーターが何とかする」
アーサー・ホーガン(ka0471)は、下馬の交差点で周囲を警戒していた。
双眼鏡でサトゥルヌスの目標地点到達を確認やサトゥルヌスが進路を外れた時の対応役として待機しているのだが、アーサーにはもう一つ重要な役目があった。
ヨルズは特製APの命中率を上げる為、地面にアンカーを打ち込んで耐衝撃に備えていた。それは言い換えれば他の敵が登場した場合、移動ができず攻撃を回避できない。
まさにヨルズは今、無防備な状態なのだ。
そして下馬の交差点は31号線との合流地点。もし西や東から別の敵が現れるとも限らない。
そこでアーサーは交差点の東、ピーターは西に布陣して周囲の警戒に当たっているという訳だ。
「それより本当にそのAPは大丈夫か? ヨルズでテストはしているんだろ?」
「あ? してねぇよ、そんなもん」
あっさりと否定するドリスキル。
アーサーは思わず聞き返した。
「なんだって?」
「だからテストなんてしてねぇよ。軍も一発しか寄越さなかったからな。なーに、横浜で会敵した時のデータがある。こいつを参考にして調整すれば何とかなるだろ」
「だが、それは普通のAPだったんだろ? 特製APと違いはあるのだろう?」
アーサーの疑問は正しい。
特製APとAPは性能が違う。となれば、砲弾の重量も異なる。そうなれば調整を行うにしても誤差は生じる。一発しか無い特製APを確実に命中させる為には、その誤差調整が重要なのだが――。
アーサーの懸念を前に、ドリスキルはあっさりと言い放つ。
「心配ねぇよ。いざとなりゃ、俺が勘で何とかしてやる」
●
「この獣、疲れ知らずか!」
統夜はハイパーブーストでサトゥルヌスを引き離す。
獣であればスタミナが切れて疲れそうなものだが、サトゥルヌスは一向に疲れる気配がない。止まらず走ってくれる分、目標地点までは最短時間で進める。しかし、それは囮となるハンター達の緊張状態が継続し続ける事を意味する。
「だから、あんまりしつこいと……嫌われるって言ってるだろ」
執拗に統夜を追いかけるサトゥルヌスの前に出たリコのトラバントII。
エヴェクサブトスT7で弾丸をばら撒きながら、サトゥルヌスの注意を自分へと向ける。
半機半獣の獣が鬼となった追いかけっこは、延々この調子だ。
後退しながら攻撃するだけでサトゥルヌスは面白いように追いかけてくる。もっとも、命を賭けた追いかけっこだ。
追いつかれれば、サトゥルヌスに飛び掛かられて鋭い牙で噛み砕かれる覚悟が必要となる。
だが、一方で確実にサトゥルヌスへのダメージを蓄積させる者もいる。
「肉のところを刺さないとね? 手が痛くて仕方がないもの……火花より、赤い花を咲かせて頂戴!!」
ヴェインに乗るエリは、サトゥルヌスと並走しながらタービュレンスで同じ場所を何度も突く。
それも機械の部分ではなく、肉体の部分を狙っている。
機械を叩いても『面白くない』、赤い鮮血が噴き出して花を咲かせる肉体の部分でなければならない。今の所、毛で護られている為に出血はしていないが、狙って同じ場所を叩き続ければ出血も時間の問題だ。
「もう、焦らしてくれるわね! ……ヴェイン!」
サトゥルヌスの警戒すべき場所はもう一つある。
尻尾となっている蛇である。走り続けるサトゥルヌスは、両足を動かし続けている以上は爪や牙による攻撃は命中しにくい。
だが、尻尾の蛇は別だ。
上空からでもアシッドブレスを吐きかける事が可能。エリは蛇がヴェインの上空へ向かう事を目視した瞬間、スティールステップを指示。
ヴェインが大きく飛び跳ねた場所に吐きかけられるアシッドブレス。
瓦礫を腐食して白い煙が立ち上る。
「またあの蛇か。本当、邪魔なんだよ!」
統夜は30mmアサルトライフルを蛇に向かって放つ。
移動しながら、それも宙で体をくねらせる蛇だ。弾を適確に命中させるのは難しい。それでも仲間を助けるために牽制しておいた方がいい。
そして、予想通りサトゥルヌスは統夜の方に向けて動き出す。
「聞こえるか? 目の前の横須賀線高架を潜れば目標地点だ。ドリスキルがAPを撃ち込んでから一気に叩くぞ」
後方から追跡するラスティが、トランシーバーで状況を伝える。
予定地点は横須賀線高架を過ぎた辺り。ここへ到達した段階で、ドリスキルがヨルズによる焼夷瑠弾。足を止める辺りからハンター達による攻撃を集中。そこへ次弾を特製APへ切り替えたヨルズがサトゥルヌスを叩き込む手筈となっている。
ここまで戦力を温存する形となっていたラスティであるが、目標地点へ到達した段階で全力を出すつもりだ。
「そっちこそ、遅れるなよ? ビズは最後の最後まで楽しまないとな」
相棒の言葉を前に、余裕を見せるリコ。
目標地点は――もう間もなくである。
●
「来たぞ、目標地点に到達だ」
双眼鏡でサトゥルヌスの動向を見守っていたアーサーが、ドリスキルへ叫ぶ。
囮役の面々は、見事サトゥルヌスの誘引に成功。
そうなれば、ドリスキルのヨルズに出番が回ってくる。
「来たかっ! 俺とヨルズで猫に教えてやるよ。人間に逆らうなってな」
「……あれ? ドリスキルさん、呂律が少しおかしくありませんか?」
ドリスキルの言葉に違和感を覚える沙織。
先程までは普通に喋っていたのだが、今のドリスキルはテンションが高いだけではなく、少々呂律が回っていない。
まさかとは思うが――。
「あの、お酒飲まれてますか?」
「ああ? 細かい事は気にするなよ。こっちの方が集中できるんだ。
各機、猫に初弾を叩き込む。合わせろよ!」
ハンター達にトランシーバーで通信を入れるドリスキル。
一呼吸置いた後、ヨルズの155mm大口径滑空砲が火を噴いた。
震える空気。放たれた砲弾はサトゥルヌスの足下で炸裂。
炎が燃え広がり、サトゥルヌスの全面に壁となって行く手を阻む。
「ピーター! 敵の増援を警戒して西に紅水晶だ」
アーサーは下馬の交差点西側に紅水晶を展開するようにピーターへ指示を出す。
万一、戦闘中に敵の増援が現れてもこれで時間を稼ぐ事ができる。
そして、アーサー自身はソウルエッジを乗せた奏弓「鳴神」による貫通の矢をサトゥルヌスに向かって放っていく。
――ここからハンター達の集中砲火が始まる。
「ようやっと出番だ。遅れるなよ、リコ」
「そっちこそ。退屈過ぎて寝てないよな?」
後方から姿を見せるラスティのウィル・O・ウィスプ改。
リコのトラバントIIと同時にサトゥルヌスを挟み込む。
両機のガトリングガン「エヴェクサブトスT7」が唸りを上げ始め、サトゥルヌスに弾丸の雨を浴びせかける。今度は牽制じゃない、サトゥルヌスの体に弾丸が突き刺さっていく。
さらにリコはプラズマボムを投擲して、サトゥルヌスの足をその場へ釘付けにする。
「沙織、動きを合わせて一気に叩く。やれるか?」
「あ、はいっ! やってみます!」
踵を返した統夜の黒騎士は、反転してサトゥルヌスへ30mmアサルトライフルを向ける。
エイミングに跳弾を合わせて命中率を上昇。サトゥルヌスの柔らかい箇所を狙って弾丸を一極集中。
そこへ沙織のR7エクスシアが魔銃「ナシャート」からファイアスローワーを発射する。
「当てて見せます!」
炸裂する破壊エネルギー。
同じ箇所を集中攻撃する事で確実にダメージを与えていく。
「ちょっと! 焼夷瑠弾を撃つ時は、はっきり言いなさい! もう少しでヴェインが巻き込まれる所だったじゃない!」
ドリスキルへ怒鳴りつけるエリ。
それに対して軽口で帰るドリスキル。
「お、焦って猫に近づいてたのか? 慌てるなよ、嫁の貰い手が少なくなるぞ」
「そのポンコツ……叩き壊すわよ?」
「なかなか勝ち気なお嬢ちゃんだ」
呟くドリスキルの視界には、サトゥルヌスの背中にある円筒状のパーツが目に入っていた。
そして、そのパーツから漏れる電撃の兆候。
サトゥルヌスが放電でハンター達に反撃の準備をしている事は明白だ。
「さて、そろそろメインイベントだ。各機、ぶっ放したら……猫に礼儀を教えてやれ」
再び火を噴いた155mm大口径滑空砲。
今度は焼夷瑠弾ではない。
特別誂えの地球統一連合軍特製APだ。
打ち下ろす形で発射されたAPはサトゥルヌスの円筒状のパーツに風穴を開ける。
次の瞬間、激しいスパーク。
強烈な痛みが走るのだろう。サトゥルヌスに苦悶の表情が見える。
そして――爆発。
大きな衝撃と爆煙が、サトゥルヌス背面のパーツを吹き飛ばした。
「あの酔い方で当てやがった。戦車兵としての腕は確かみたいだな」
アーサーは、ドリスキルの腕前を見直していた。
呂律が回らなくなる程飲んでも、戦車兵としての腕は一流のようだ。
本当に酔えば命中率が上がるような気がしてならない。
「見たか、これがヨルズの力だ!」
「電撃がないなら……ヴェイン。あの蛇、邪魔よ! クラッシュバイトで噛み千切ってしまいなさい!!」
特製APの炸裂に合わせる形で、エリはヴェインに命じる。
ダメージを受けて地面に倒れ込むサトゥルヌスの尾――毒を吐きかける大蛇。このタイミングを逃す手はない。
ヴェインは蛇にクラッシュバイトで食らい付く。
噛み千切るまでは難しいまでも、ヴェインの牙が蛇の体に深く突き刺さる。
「今はチャンスだな。ピーター、行くぞ!」
太刀「鬼神大王」に持ち替えたアーサーは、ピーターと共に前へ出る。
狙うはエリが執拗に叩き続けた肉体部分。大きな傷こそはないが、相応のダメージは与えられているはずだ。アーサーは敢えてこの部分を狙って渾身撃を放つ。
「短い付き合いだったが、お別れの時間だぜ」
強烈な一撃。
噴き出す鮮血が、サトゥルヌスの体に大きな傷と付けた事が分かる。
ここで一撃を加えておけば下馬の交差点から別の方向へ逃走する事を防ぐ事ができる。
アーサーは、ここまで読んでいた。
「これだけ支援してやってんだ、中尉殿じゃなくても当てられるか」
「なにぃ? 俺は……」
「あー、分かった分かった。話はこいつを片付けてから聞くから」
リコは試作電磁加速砲「ドンナー」の照準をサトゥルヌスの背面に合わせる。
特製APが貫いて爆発した場所を、更に攻撃しようというのだ。
「さっさと消えて貰う。悪いが、そういうビズなんだ」
リコは、引き金を引いた。
レールガンのエネルギーが背面のパーツ後を削り取る形で、貫通する。
背中の肉も一緒に削られるのだから、サトゥルヌスは激痛に悶える事しかできない。
「ああ、苦しいだろ? 分かってる。もう終わらせてやるから」
苦悶に歪むサトゥルヌス。
ラスティは、その口はプラズマボム「ネブリーナ」をねじ込んだ。
次の瞬間、サトゥルヌスの体は大きく震える。
体内で爆発した事が明白だ。
複数のハンターによる猛追撃――気付けば、サトゥルヌスは動かなくなっていた。
肉体部分からは血が流れ、機械部分は派手に破損している。
半機半獣の怪物は、活動を停止。
その場に居たハンターの誰もが、そう感じていた。
●
サトゥルヌス討伐後、ドリスキルはヨルズに寄りかかってサトゥルヌスの居た場所を見つめていた。
サトゥルヌスの死骸は――灰となって消え失せた。
風が噴いた後には何も残されていない。これではあの怪物の正体は分からない。
あの怪物が一体何者で、何が目的だったのか。
それは未だに謎のままである。
「酒盛りか?」
ドリスキルの傍らには、統夜の姿があった。
鎌倉クラスタ攻略作戦は現在も進行中だ。鶴岡八幡宮は最前線であり、今も他のハンターが奮闘中だ。
そんな最中、ドリスキルは一人で下馬の交差点にいたのだ。
統夜が気になるのも当然だ。
「そんなんじゃねぇよ。こいつは酔い覚ましみてぇなもんだ」
「酔い覚ましね。俺はてっきり、死んだ猫を慈しんでいるのかと思ったよ」
死んだ猫――サトゥルヌスの事を言っているのは、ドリスキルでも分かる。
おそらくサトゥルヌスを鎌倉へ放った存在がいる。その者は今も何処かでこちらの様子を窺っている。
統夜は直感していた。これで終わりではない、と。
「残念だが、そんな感傷的なもんじゃねぇ。あの猫は何かの目的でここへ送られた。だとするなら……」
「送り込んだ奴が次に何かを仕掛けてくる、だろ?」
統夜はドリスキルの言葉を遮った。
統夜も、そう推測していた。
だとしても、やれる事は眼前の敵を倒すのみ。現れたなら、叩き潰せば良いだけだ。
「へぇ。CAM乗りにしておくには惜しい奴だな」
「あ、話し中でしたか?」
統夜を捜しに来た沙織がやってきた。
男同士での話と察した沙織、近づこうとしたが、反射的に足を止める。
「ああ、そんなんじゃねぇよ」
「そうそう。むさい男よりも可愛いお嬢ちゃんと話をしてた方がいい」
ドリスキルはそう言いながら、沙織を傍らに迎え入れた。
●
『こちらエンドレス。サトゥルヌスの沈黙を確認。鎌倉クラスタ攻略に失敗しました』
『戦闘データは想定以上集まった為、サトゥルヌスの役割は達成しています』
『サトゥルヌスの返却は実現不可能』
『AP-Sへ要報告……次ステージへの要件を定義して下さい』
『条件確認……承認。対応を開始します』
強化人間ジェイミー・ドリスキル(kz0231)中尉曰く、『猫をあやすだけの簡単な任務』と言い放っている。
しかし、依頼に参加するハンター達は分かっている。
その猫がこの鎌倉において厄介な生物である事を。
「ハハハッ! あれが、猫? センス無いわね! あの食い意地の汚さを見なさい! 豚よ、豚っ!」
イェジドのヴェインに乗ったエリ・ヲーヴェン(ka6159)は、機械槍「タービュレンス」による渾身撃を放った。
江ノ島で出会った際にも放った一撃であるが、今度は心の刃を乗せている。
機械の部分ではなく、肉体の部分を狙った一撃。
次の瞬間、鎌倉駅南口跡に鳴り響くは――獣の咆哮。
空気を震わせ、己の怒りを周囲へ伝える。
「さて、鬼ごっこの始まりか」
この家屋の残骸が広がる光景の中、トラバントIIのリコ・ブジャルド(ka6450)は県道21号線へ向かって後退を開始。
ガトリングガン「エヴェクサブトスT7」で弾丸をバラ撒きながら獣の注意を引き続ける。
現時点での目的は獣を倒す事ではない。目標地点まで誘導する事にある。
「まだよお楽しみは、これから……子豚にはしっかりと調教しないとねっ!
行くわよ、ヴェイン!」
エリも県道21号線に向かって移動を開始する。
二人の眼前で怒りを露わにする獣――それは、鎌倉周辺で目撃されている半機半獣の生物サトゥルヌスである。
巨大な獅子の体。
尾には毒を吐く大蛇。
体の半分は機械で覆われ、背中には円筒状のパーツから電撃を放ってくる。
そもそも、サトゥルヌスには謎が多い。
一体、何故鎌倉に現れたのかは分からないのだ。
はっきりしている事は、サトゥルヌスに敵味方の区別はない。目の前の相手がハンターであろうと、鎌倉クラスタの狂気でも容赦なく襲い掛かる。
エリが『豚』と称してしまう程、すべての敵に攻撃を仕掛けようとするのだ。
「そら、お出なすった。元気な猫だよ、本当」
鎌倉駅入り口交差点へエリとリコの姿を目視した瀬崎・統夜(ka5046)。
二人が横を通過した事を確認した統夜は、黒騎士の照準をサトゥルヌスへ合わせる。
CAMと同等の巨体。ある程度の距離であればそう簡単には外れない。
「こっちも始めるか。追いついて貰わないと困る鬼ごっこってぇのも面倒ではあるけどな!」
黒騎士から放たれる200mm4連カノン砲。
不気味な声にも聞こえる発射音。同時にサトゥルヌスの体表に派手な爆発が起こる。
歪虚CAM辺りならばこの一撃で足を止めていたかもしれない。
だが、相手は半機半獣の怪物。怒りのままに暴れて留まる気配も見せない。
「やっぱりか。だが、今はこれでいい」
「ほら、行くぞ。その猫にじゃれられると厄介だ」
統夜へ撤退を促すリコ。
既にサトゥルヌスの主な攻撃方法は分かっている。
爪や牙に加え、尻尾の蛇によるアシッドブレス。
さらに背中にある円筒状のパーツから放つ放電。
いずれにしてもサトゥルヌスの周囲にいなければ攻撃を受ける事は無い。
サトゥルヌスが怒って攻撃を仕掛けるとしても、近づかなければ何もできないのだ。
「分かってる。追いつかれたら、その時点で鬼の勝ちだ」
黒騎士はアクティブブラスターを使ってその場から撤退を開始。
サトゥルヌスとの距離が開き始める。
三人の移動開始を確認したリコは一安心。早速、トランシーバーで『相棒』へと通信を送った。
「楽しい楽しいビズの時間だ。そっちも始めろよ、ラスティ」
「分かってる。こっちも追跡を始めている。お前等、かなりモテモテみたいだ。こっちには目もくれなかったぞ」
相棒――ラスティ(ka1400)のウィル・O・ウィスプ改は、未だ鎌倉駅入り口交差点にいた。
瓦礫に隠れてサトゥルヌスをやり過ごした後、追いかけるように移動を開始。
実はサトゥルヌスが本能のまま動く事を危惧したラスティは、逃亡防止や挟撃の為に保険として隠れて移動していた。万一、サトゥルヌスが踵を返した際には、ラスティが姿を見せてサトゥルヌスの注意を惹く手筈である。
しかし、万一の事態が起こらない限り踵を返す事は無さそうだ。
目の前の餌に食らい付くように、サトゥルヌスは必死で三人を追いかけている。
「ま、油断は禁物だ。
こっちは始めたぞ。そっちの準備は大丈夫だろうな、ドリスキル。まさかヨルズの砲身を磨くのに夢中なんてないよな?」
●
「おいおい、誰に言ってるんだ? ヨルズの砲身はいつもピカピカだ。顔が映るぐらいに磨き上げているからな」
ジェイミー・ドリスキル(kz0231)は、試作新型CAMのヨルズと共に下馬の交差点で待機していた。
実はラスティ達が囮となって県道21号線を南下していた理由はここにある。
囮役がサトゥルヌスを鎌倉駅南口から下馬の交差点まで誘引。
そこで待機していたヨルズが砲撃により迎撃する。それも地球統一連合軍で開発中の特製APだ。
このAPは命中すると一定以上の放電をした後で爆発する。満を持して投入された特製APをヨルズ最大の特徴である――155mm大口径滑空砲で叩き込む。そうすれば必ずサトゥルヌスへ大ダメージを与える事ができる、と地球統一連合軍は確信している。
だが、特製APはドリスキルがメタ・シャングリラへ着任してすぐに届けられたらしいが――傍目から見れば兵器の実用実験。これでサトゥルヌスを倒せるとは約束された訳ではない。
「本当に、大丈夫だろうな?」
統夜が、案じて聞き返す。
こうしている間にも三人はサトゥルヌスからの追撃を受けている。隙を見て30mmアサルトライフルを叩き込んでいるが、怯むことなく攻撃した者を追撃してくる。
これでヨルズの砲撃が外れたとあれば、三人の苦労も報われない。
「馬鹿言ってるな。CAMでお前等が体を張っているんだ。俺とヨルズがCAMに遅れを取る訳にはいかねぇだろ」
ドリスキルは、堂々とCAMへのライバル心を燃やす。
地球統一連合軍で冷遇されていた過去を持つドリスキルにとってCAMは越えるべき相手。ヨルズの有能さを世間に知らしめる為には、ここでヨルズの存在をアピールして実績を積んでおきたいのだろう。
「あら? 斬っても花の咲かない鉄の塊の何が面白いのか分からないわ。わたしはこの子の方が良いわ」
戦いの最中でも、エリはヴェインへの想いを大事にしているようだ。
「その調子ならまだ余裕みたいだな。だが、無茶はすんなよ」
そう言って、通信を終えるドリスキル。
口では悪態を付いていても体を張って囮役を買って出たハンターの身を案じていたようだ。
「あの、やっぱりお優しいのですね」
ドリスキルの対応を見ていた沙織(ka5977)は、戦いの中で微笑ましくなった。
下馬の交差点でR7エクスシアに騎乗する沙織であったが、CAM嫌いと聞いてきたドリスキルに対して身構えていた。
嫌われているかと思ったが、噂と違い話せば分かる相手のようだ。
「CAMは好きじゃねぇが、パイロット個人まで嫌いな訳じゃない。それに今は歪虚が相手だ。我が儘が通用しない事は分かってるさ」
「危なくなったらお守りしますね」
「……そうならない事を祈ってる。お嬢ちゃんに守られる程、俺は老いちゃいねぇんでな。むしろ、俺がお嬢ちゃんをエスコートする側だろ?」
軽口を叩くドリスキル。
この様子なら緊張で砲撃を外すという事も無いだろうが、心配事が完全に潰えた訳ではない。
「こっちは猫へ集中する。そっちの方は頼むぜ」
「ああ、今の所は以上なしだ。だが、邪魔が入れば俺とピーターが何とかする」
アーサー・ホーガン(ka0471)は、下馬の交差点で周囲を警戒していた。
双眼鏡でサトゥルヌスの目標地点到達を確認やサトゥルヌスが進路を外れた時の対応役として待機しているのだが、アーサーにはもう一つ重要な役目があった。
ヨルズは特製APの命中率を上げる為、地面にアンカーを打ち込んで耐衝撃に備えていた。それは言い換えれば他の敵が登場した場合、移動ができず攻撃を回避できない。
まさにヨルズは今、無防備な状態なのだ。
そして下馬の交差点は31号線との合流地点。もし西や東から別の敵が現れるとも限らない。
そこでアーサーは交差点の東、ピーターは西に布陣して周囲の警戒に当たっているという訳だ。
「それより本当にそのAPは大丈夫か? ヨルズでテストはしているんだろ?」
「あ? してねぇよ、そんなもん」
あっさりと否定するドリスキル。
アーサーは思わず聞き返した。
「なんだって?」
「だからテストなんてしてねぇよ。軍も一発しか寄越さなかったからな。なーに、横浜で会敵した時のデータがある。こいつを参考にして調整すれば何とかなるだろ」
「だが、それは普通のAPだったんだろ? 特製APと違いはあるのだろう?」
アーサーの疑問は正しい。
特製APとAPは性能が違う。となれば、砲弾の重量も異なる。そうなれば調整を行うにしても誤差は生じる。一発しか無い特製APを確実に命中させる為には、その誤差調整が重要なのだが――。
アーサーの懸念を前に、ドリスキルはあっさりと言い放つ。
「心配ねぇよ。いざとなりゃ、俺が勘で何とかしてやる」
●
「この獣、疲れ知らずか!」
統夜はハイパーブーストでサトゥルヌスを引き離す。
獣であればスタミナが切れて疲れそうなものだが、サトゥルヌスは一向に疲れる気配がない。止まらず走ってくれる分、目標地点までは最短時間で進める。しかし、それは囮となるハンター達の緊張状態が継続し続ける事を意味する。
「だから、あんまりしつこいと……嫌われるって言ってるだろ」
執拗に統夜を追いかけるサトゥルヌスの前に出たリコのトラバントII。
エヴェクサブトスT7で弾丸をばら撒きながら、サトゥルヌスの注意を自分へと向ける。
半機半獣の獣が鬼となった追いかけっこは、延々この調子だ。
後退しながら攻撃するだけでサトゥルヌスは面白いように追いかけてくる。もっとも、命を賭けた追いかけっこだ。
追いつかれれば、サトゥルヌスに飛び掛かられて鋭い牙で噛み砕かれる覚悟が必要となる。
だが、一方で確実にサトゥルヌスへのダメージを蓄積させる者もいる。
「肉のところを刺さないとね? 手が痛くて仕方がないもの……火花より、赤い花を咲かせて頂戴!!」
ヴェインに乗るエリは、サトゥルヌスと並走しながらタービュレンスで同じ場所を何度も突く。
それも機械の部分ではなく、肉体の部分を狙っている。
機械を叩いても『面白くない』、赤い鮮血が噴き出して花を咲かせる肉体の部分でなければならない。今の所、毛で護られている為に出血はしていないが、狙って同じ場所を叩き続ければ出血も時間の問題だ。
「もう、焦らしてくれるわね! ……ヴェイン!」
サトゥルヌスの警戒すべき場所はもう一つある。
尻尾となっている蛇である。走り続けるサトゥルヌスは、両足を動かし続けている以上は爪や牙による攻撃は命中しにくい。
だが、尻尾の蛇は別だ。
上空からでもアシッドブレスを吐きかける事が可能。エリは蛇がヴェインの上空へ向かう事を目視した瞬間、スティールステップを指示。
ヴェインが大きく飛び跳ねた場所に吐きかけられるアシッドブレス。
瓦礫を腐食して白い煙が立ち上る。
「またあの蛇か。本当、邪魔なんだよ!」
統夜は30mmアサルトライフルを蛇に向かって放つ。
移動しながら、それも宙で体をくねらせる蛇だ。弾を適確に命中させるのは難しい。それでも仲間を助けるために牽制しておいた方がいい。
そして、予想通りサトゥルヌスは統夜の方に向けて動き出す。
「聞こえるか? 目の前の横須賀線高架を潜れば目標地点だ。ドリスキルがAPを撃ち込んでから一気に叩くぞ」
後方から追跡するラスティが、トランシーバーで状況を伝える。
予定地点は横須賀線高架を過ぎた辺り。ここへ到達した段階で、ドリスキルがヨルズによる焼夷瑠弾。足を止める辺りからハンター達による攻撃を集中。そこへ次弾を特製APへ切り替えたヨルズがサトゥルヌスを叩き込む手筈となっている。
ここまで戦力を温存する形となっていたラスティであるが、目標地点へ到達した段階で全力を出すつもりだ。
「そっちこそ、遅れるなよ? ビズは最後の最後まで楽しまないとな」
相棒の言葉を前に、余裕を見せるリコ。
目標地点は――もう間もなくである。
●
「来たぞ、目標地点に到達だ」
双眼鏡でサトゥルヌスの動向を見守っていたアーサーが、ドリスキルへ叫ぶ。
囮役の面々は、見事サトゥルヌスの誘引に成功。
そうなれば、ドリスキルのヨルズに出番が回ってくる。
「来たかっ! 俺とヨルズで猫に教えてやるよ。人間に逆らうなってな」
「……あれ? ドリスキルさん、呂律が少しおかしくありませんか?」
ドリスキルの言葉に違和感を覚える沙織。
先程までは普通に喋っていたのだが、今のドリスキルはテンションが高いだけではなく、少々呂律が回っていない。
まさかとは思うが――。
「あの、お酒飲まれてますか?」
「ああ? 細かい事は気にするなよ。こっちの方が集中できるんだ。
各機、猫に初弾を叩き込む。合わせろよ!」
ハンター達にトランシーバーで通信を入れるドリスキル。
一呼吸置いた後、ヨルズの155mm大口径滑空砲が火を噴いた。
震える空気。放たれた砲弾はサトゥルヌスの足下で炸裂。
炎が燃え広がり、サトゥルヌスの全面に壁となって行く手を阻む。
「ピーター! 敵の増援を警戒して西に紅水晶だ」
アーサーは下馬の交差点西側に紅水晶を展開するようにピーターへ指示を出す。
万一、戦闘中に敵の増援が現れてもこれで時間を稼ぐ事ができる。
そして、アーサー自身はソウルエッジを乗せた奏弓「鳴神」による貫通の矢をサトゥルヌスに向かって放っていく。
――ここからハンター達の集中砲火が始まる。
「ようやっと出番だ。遅れるなよ、リコ」
「そっちこそ。退屈過ぎて寝てないよな?」
後方から姿を見せるラスティのウィル・O・ウィスプ改。
リコのトラバントIIと同時にサトゥルヌスを挟み込む。
両機のガトリングガン「エヴェクサブトスT7」が唸りを上げ始め、サトゥルヌスに弾丸の雨を浴びせかける。今度は牽制じゃない、サトゥルヌスの体に弾丸が突き刺さっていく。
さらにリコはプラズマボムを投擲して、サトゥルヌスの足をその場へ釘付けにする。
「沙織、動きを合わせて一気に叩く。やれるか?」
「あ、はいっ! やってみます!」
踵を返した統夜の黒騎士は、反転してサトゥルヌスへ30mmアサルトライフルを向ける。
エイミングに跳弾を合わせて命中率を上昇。サトゥルヌスの柔らかい箇所を狙って弾丸を一極集中。
そこへ沙織のR7エクスシアが魔銃「ナシャート」からファイアスローワーを発射する。
「当てて見せます!」
炸裂する破壊エネルギー。
同じ箇所を集中攻撃する事で確実にダメージを与えていく。
「ちょっと! 焼夷瑠弾を撃つ時は、はっきり言いなさい! もう少しでヴェインが巻き込まれる所だったじゃない!」
ドリスキルへ怒鳴りつけるエリ。
それに対して軽口で帰るドリスキル。
「お、焦って猫に近づいてたのか? 慌てるなよ、嫁の貰い手が少なくなるぞ」
「そのポンコツ……叩き壊すわよ?」
「なかなか勝ち気なお嬢ちゃんだ」
呟くドリスキルの視界には、サトゥルヌスの背中にある円筒状のパーツが目に入っていた。
そして、そのパーツから漏れる電撃の兆候。
サトゥルヌスが放電でハンター達に反撃の準備をしている事は明白だ。
「さて、そろそろメインイベントだ。各機、ぶっ放したら……猫に礼儀を教えてやれ」
再び火を噴いた155mm大口径滑空砲。
今度は焼夷瑠弾ではない。
特別誂えの地球統一連合軍特製APだ。
打ち下ろす形で発射されたAPはサトゥルヌスの円筒状のパーツに風穴を開ける。
次の瞬間、激しいスパーク。
強烈な痛みが走るのだろう。サトゥルヌスに苦悶の表情が見える。
そして――爆発。
大きな衝撃と爆煙が、サトゥルヌス背面のパーツを吹き飛ばした。
「あの酔い方で当てやがった。戦車兵としての腕は確かみたいだな」
アーサーは、ドリスキルの腕前を見直していた。
呂律が回らなくなる程飲んでも、戦車兵としての腕は一流のようだ。
本当に酔えば命中率が上がるような気がしてならない。
「見たか、これがヨルズの力だ!」
「電撃がないなら……ヴェイン。あの蛇、邪魔よ! クラッシュバイトで噛み千切ってしまいなさい!!」
特製APの炸裂に合わせる形で、エリはヴェインに命じる。
ダメージを受けて地面に倒れ込むサトゥルヌスの尾――毒を吐きかける大蛇。このタイミングを逃す手はない。
ヴェインは蛇にクラッシュバイトで食らい付く。
噛み千切るまでは難しいまでも、ヴェインの牙が蛇の体に深く突き刺さる。
「今はチャンスだな。ピーター、行くぞ!」
太刀「鬼神大王」に持ち替えたアーサーは、ピーターと共に前へ出る。
狙うはエリが執拗に叩き続けた肉体部分。大きな傷こそはないが、相応のダメージは与えられているはずだ。アーサーは敢えてこの部分を狙って渾身撃を放つ。
「短い付き合いだったが、お別れの時間だぜ」
強烈な一撃。
噴き出す鮮血が、サトゥルヌスの体に大きな傷と付けた事が分かる。
ここで一撃を加えておけば下馬の交差点から別の方向へ逃走する事を防ぐ事ができる。
アーサーは、ここまで読んでいた。
「これだけ支援してやってんだ、中尉殿じゃなくても当てられるか」
「なにぃ? 俺は……」
「あー、分かった分かった。話はこいつを片付けてから聞くから」
リコは試作電磁加速砲「ドンナー」の照準をサトゥルヌスの背面に合わせる。
特製APが貫いて爆発した場所を、更に攻撃しようというのだ。
「さっさと消えて貰う。悪いが、そういうビズなんだ」
リコは、引き金を引いた。
レールガンのエネルギーが背面のパーツ後を削り取る形で、貫通する。
背中の肉も一緒に削られるのだから、サトゥルヌスは激痛に悶える事しかできない。
「ああ、苦しいだろ? 分かってる。もう終わらせてやるから」
苦悶に歪むサトゥルヌス。
ラスティは、その口はプラズマボム「ネブリーナ」をねじ込んだ。
次の瞬間、サトゥルヌスの体は大きく震える。
体内で爆発した事が明白だ。
複数のハンターによる猛追撃――気付けば、サトゥルヌスは動かなくなっていた。
肉体部分からは血が流れ、機械部分は派手に破損している。
半機半獣の怪物は、活動を停止。
その場に居たハンターの誰もが、そう感じていた。
●
サトゥルヌス討伐後、ドリスキルはヨルズに寄りかかってサトゥルヌスの居た場所を見つめていた。
サトゥルヌスの死骸は――灰となって消え失せた。
風が噴いた後には何も残されていない。これではあの怪物の正体は分からない。
あの怪物が一体何者で、何が目的だったのか。
それは未だに謎のままである。
「酒盛りか?」
ドリスキルの傍らには、統夜の姿があった。
鎌倉クラスタ攻略作戦は現在も進行中だ。鶴岡八幡宮は最前線であり、今も他のハンターが奮闘中だ。
そんな最中、ドリスキルは一人で下馬の交差点にいたのだ。
統夜が気になるのも当然だ。
「そんなんじゃねぇよ。こいつは酔い覚ましみてぇなもんだ」
「酔い覚ましね。俺はてっきり、死んだ猫を慈しんでいるのかと思ったよ」
死んだ猫――サトゥルヌスの事を言っているのは、ドリスキルでも分かる。
おそらくサトゥルヌスを鎌倉へ放った存在がいる。その者は今も何処かでこちらの様子を窺っている。
統夜は直感していた。これで終わりではない、と。
「残念だが、そんな感傷的なもんじゃねぇ。あの猫は何かの目的でここへ送られた。だとするなら……」
「送り込んだ奴が次に何かを仕掛けてくる、だろ?」
統夜はドリスキルの言葉を遮った。
統夜も、そう推測していた。
だとしても、やれる事は眼前の敵を倒すのみ。現れたなら、叩き潰せば良いだけだ。
「へぇ。CAM乗りにしておくには惜しい奴だな」
「あ、話し中でしたか?」
統夜を捜しに来た沙織がやってきた。
男同士での話と察した沙織、近づこうとしたが、反射的に足を止める。
「ああ、そんなんじゃねぇよ」
「そうそう。むさい男よりも可愛いお嬢ちゃんと話をしてた方がいい」
ドリスキルはそう言いながら、沙織を傍らに迎え入れた。
●
『こちらエンドレス。サトゥルヌスの沈黙を確認。鎌倉クラスタ攻略に失敗しました』
『戦闘データは想定以上集まった為、サトゥルヌスの役割は達成しています』
『サトゥルヌスの返却は実現不可能』
『AP-Sへ要報告……次ステージへの要件を定義して下さい』
『条件確認……承認。対応を開始します』
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 リコ・ブジャルド(ka6450) 人間(リアルブルー)|20才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2017/08/30 10:21:37 |
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質問卓 エリ・ヲーヴェン(ka6159) 人間(クリムゾンウェスト)|15才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2017/08/26 11:39:48 |
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![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/08/27 11:09:31 |