カールスラーエコロシアム完成記念闘技会!

マスター:T谷

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/11/11 19:00
完成日
2014/11/18 21:29

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 その簡素な作りの通路は、壁越しに聞こえてくる幾多の声に埋め尽くされていた。聞こえてくる野太い歓声に心が弾むはずもなく、鍛えあげられた筋肉に覆われた無骨な背中を小さく丸める二人の男の背中には、どこか哀愁が漂っていた。
「……なあ、なんで俺らなんだよ」
 か細い声で、髭面の男が呟く。
「俺も聞きたいですよ……というか、先輩があそこで断ってくれたらよかったのに……」
 もう一人の男は、角張った顔に似合わないレンズの小さな眼鏡をかけている。その顔色は悪く、先程からしきりに腹の辺りを手で擦ってはうめき声を漏らしていた。髭面の男に文句を言うも、その声は震えて覇気は一切感じられない。
 二人共が熊のような肉体に鎧を着こみ、剣と槍を携えている。平時ならば、屈強な第二師団員として威厳と風格をその姿に見ることができるのだろう。しかし今、二人は生まれたての子鹿のような足取りで弱々しく少しずつ、通路を進むことしかできない。
「断れるわけねえだろ……団長直々の命令だぞ。スザナ副団長も怖えが、あっちだってめっちゃ怖えよ、超怖えよ」
「……ですよね」
 二人は揃ってため息をつく。
 団長の威風堂々とした姿はこの上なく頼もしく、二人に限らず多くの団員から尊敬とともに慕われている。その背中について戦場に赴けば、どんな相手も粉砕できると信じられる。
 ……だが、だからこそ正面切って彼女と対するのは、相応の度胸が必要だった。当然、その団長から賜った大任を断ることなどできるはずもない。あの、戦場や練兵場で度々見られる、正に”鬼”と言える姿を目にしていれば尚更だ。
 通路の終点が近づいてくる。同時に、響く野太い声たちもより鮮明に大きく耳を打つ。反対側の通路から歩いてきた、同じく顔色の悪い四人の団員と合流する。しかし会話はない。見ればその四人とも顔色が悪く、お互いの気持は同じなのだと親近感を抱いた。
 戦う前から戦友と化した六人は、扉の前でそれが開くのを待つ。痛む心臓を抑え、逃げ出したくなる足を震わせながら。
「レディースエーンドジェントルメーン! お待たせしましたっ、カールスラーエコロシアム完成記念闘技会、ハンター対第二師団の男達! 開幕です!」
 永遠に続いて欲しかった時間が、歓声と共に終わりを告げた。



 その日、朝も早いうちからガッチリとした体格の二人の第二師団上等兵が、師団本部三階に位置する師団長執務室へと呼び出されていた。普段は使う機会のない階段を上がりながら、髭面と眼鏡の男二人は不安と緊張に押しつぶされそうになっている。
「俺ら、何かしたんすかね」
 眼鏡の男、ウーリ上等兵が不安げに問いかける。
「いやしてねえだろ、多分」
 髭面のヤコブ上等兵も首をひねる。ただの兵士が団長に呼び出されるなど、余程のことだ。しかし、これといった心当たりはない。
 先日の、新兵教練にハンターを頼った件だろうか。しかし、それは上の命令で彼らが地下の建築に回されたからだ。
 新兵教導隊の教官である彼らが建築の手伝いに回されるというのも今回が初めてではなかったし、この団の団員で、今更大工仕事についてミスをする人間など新人でない限りそうそういないだろう。大工仕事は第二師団の訓練の一つでもある。団に配属されて以降散々金槌を握ってきた以上、その点については、彼らもそれなりの自信を持っていた。
 となれば、建築の不備で呼び出される覚えもない。
 不安を持ったまま、二人は執務室の前に辿り着く。そしてヤコブが、恐る恐る重厚感溢れる大きな木の扉をノックすると、
「おう、入れ」
 すぐさま中から、低めの女性の声が二人を促した。
 重い扉をゆっくり開けると、第二師団長シュターク・シュタークスンが扉正面の執務机に腰を預けて立っていた。二人が、団長に就任して日の浅いシュタークとまともに向き合ったのはこれが初めてだったが、平素ですら発せられる迫力に大の男が気圧そうになった。
 男性団員の中で散々叫ばれている「団長があと二回り小さかったら」という評判は間違いだと瞬時に思う。二回りではない、三回りだ。
 顔形は整っているし、スタイルもいい。胸も大きければ露出した腹や腕、足も鋼のような筋肉に覆われ傍目で分かる程に引き締まっている。褐色の肌も好きな人間にもたまらないだろう。
 だが、とにかく背が高い。男としても大き目の体格を持つヤコブよりも、ゆうに頭半個分以上大きかった。更に肉食獣のようなプレッシャーも相まって、覚醒してもいないのに”鬼”と形容したくなるその姿は、実際の身長以上の巨大ささえ感じさせた。
「さて、ヒゲとメガネ……あーっと、お前ら名前なんつったっけ」
「は、新兵教導隊教官ヤコブ・フィリッツ上等兵であります!」
「同じく、ウーリ・ベルレ上等兵であります!」
 背筋を伸ばし、軍生活で刷り込まれた条件反射で二人は大きく腹から声を出す。
「あいよ、ヤコブとウーリね。じゃ、早速お前らに命令だ」
 そして告げられた次の言葉に、二人の額に冷たい汗が流れる。
「お前ら、昼からの闘技会に出場な」
「……へ?」
 意味が分からず、二人の頭が真っ白になった。
 師団都市カールスラーエ要塞の地下には、有事に備えたシェルターが設置されている。ドワーフの力を借りて作られた金属の壁面を持つ地下空間は、都市の非戦闘員を全て収容して余りあるほどの広大さだ。だが、有事以外にその空間を遊ばせておくのは勿体無い。そこで、当時団長であったスザナ・エルマンの提案により、地下に簡易的な闘技場の建設が提案されたのだ。
 そして先日、ようやくとそれなりに立派な闘技場ができたことは、この都市に住む誰もが知っている。
 二人も今日がお披露目になると聞いて、仕事が終われば見物に行くつもりだった。
「あ、あの、なんで俺達が……? 団長とかスザナ副団長が出るんじゃ……」
 それがいきなり、出場という単語を浴びせられている。訳が分からない。
「いや、ホントはあたしが出ようと思ってんだけどな、ジジイ……ハルクス副団長に止められちまってよ。なんか、『闘技場はあくまで訓練施設であり娯楽であるべからず』だと。だから華のあるあたしやスザナじゃなくて、お前らみたいなむさっ苦しいのを出して必要以上に盛り上がらないようにするんだとよ。……それにスザナなんか出してみろよ、せっかくの新築が血まみれになっちまう。毎回あいつ監禁すんのすげえ面倒だから、どっかで発散させてやりてえんだけどな」
 だから頼むぞ、と団長は豪快な笑みで二人に当日の流れが記された書類を渡した。几帳面な文字は、ハルクス副団長のものだ。
 どうやら、二人に断るという選択肢はないらしい。
 散々人前で剣術を教えてきた二人ではあるが、それが完全な見世物となると全く勝手が違う。
 生まれてこの方、華々しい舞台に立つことのなかった地味な二人の大舞台が、今、幕を開けようとしていた。

リプレイ本文

「それじゃあ、行くよメトロノーム!」
「……わたしも、ですか?」
「その方が絶対盛り上がるって!」
 係員に促され、闘技場への扉が開いた瞬間、時音 ざくろ(ka1250)はメトロノーム・ソングライト(ka1267)の手を引いてくるりとステップを踏み、元気一杯な歌声と共に歓声の中へ飛び出していった。
「我が身に過ぎた大役ですが……」
 ざくろに引っ張られるメトロノームも、会場を盛り上げること自体に異論はない。ゆっくりと口を開き、静かに歌を紡ぎだす。
「みんなー、今日はざくろ達の試合、応援してね!」
 歓声にも負けないその歌声は、観客席の男共のテンションを天井知らずに盛り上げる。爆音のような歓声が上がる中、ざくろの歌に合わせたメトロノームの朗々としたコーラスもまた、その空気を作り出す一役を買っていた。
 続いて十色 エニア(ka0370)、樹導 鈴蘭(ka2851)、リリティア・オルベール(ka3054)、ミネット・ベアール(ka3282)が姿を現せば、更に観客の野太い声援は大きくなっていった。観客の大半を占めるむさ苦しい男共は彼女達?の麗しい容姿に釘付けになっていて、最後尾を務めていた東郷 猛(ka0493)とシガレット=ウナギパイ(ka2884)らの入場に気づいているかも疑問なほどの熱狂ぶりだ。
「全く、どこの世界でも男ってのは同じだな」
「……あの中の半分が男だってことは、知らない方が幸せなんだろうなァ」
 猛が苦笑いを浮かべれば、シガレットは憐憫を帯びた目で辺りを見渡した。
「半分……え、ぼ、僕も入ってるのっ?」
 シガレットの言葉に、耳聡く鈴蘭が慌てて振り返る。
「まあ」
「なァ」
 男らしい男二人は小柄な鈴蘭を見、そして顔を見合わせた。
「遠くから見たら、勘違いしちゃっても仕方ないと思うなー」
 ついでに鈴蘭と同じ境遇のはずのエニアも追い打ちをかける。
「エニアさんはそれでいいのっ?」
「うーん……」
 エニアは、少しだけ考えるような振りをして、
「いいんじゃない? だってその方が面し……無用に幻滅させる必要もないしね」
 あっけらかんとそう言った。鈴蘭はその言葉に、がっくりと肩を落とす。
「娯楽不足らしいですし、仕方ない……のでしょうか?」
 励ますようにリリティアが声を掛ければ、鈴蘭は落とした肩もそのままに「仕方ないのかな……」と呟いている。
「あの、剣の持ち方って、これでいいんでしたっけ」
 長大な刀の握りを確かめながら、ミネットは振り返る。彼女は彼女で色々と異なる価値観の鬩ぎ合いで忙しいらしく、背後の掛け合いには気づいていなかったようだ。
「うーん、振り回すより突いた方が効率よく仕留められそうですね……」
「いや、仕留めたら駄目だろう」
 刀身を見つめ、ミネットの狩人としての本能が頭の中で計算を始める。しかしそれも猛の声に遮られ、ミネットは我に返ったように慌てて顔を上げた。
「そ、そうですよね! 流石に人間は食べられませんからね!」
「え、食べ……?」
 慌てたミネットの大声は、聞きつけた全員に何とも言えない表情を植え付けて。違うんですよとミネットは、また慌てて弁解をするのだった。



 そうして、熱を持つ空気の中をハンター達は会場の中心に向けて歩いて行く。向かいには、熊のような体躯を持つ大男が六人、既に武器を片手に待機していた。しかし、その勇猛そうな体格とは裏腹に、彼らは一様に顔色を青くして、武器を持つ手もだらりと垂れ下がって空いた手で腹を擦っている。
「今日は宜しくお願いします」
 そんな彼らに、ざくろは満面の笑みでぺこりと頭を下げる。
「おう、よろしくな」
 返ってきた声に、覇気はない。先頭に立つリーダー格と見られる二人の男も、挨拶に片手を上げて応えたものの、小さな声で「これは訓練」と繰り返し自分に言い聞かせている。
「おいおい、そんな調子で大丈夫なのかァ?」
「ああ、大丈夫だ。戦闘が始まりゃ、否応にも上がってくらあよ」
 木刀を肩に乗せたシガレットのからかうような口調にも、彼らに苛立つような色は見られない。しかし彼らも深呼吸を何度か繰り返す内に、慣れてきたのか顔色が良くなっているようにも見えた。
『さあ、両者がバトルフィールドに集結しました! 開幕記念闘技会、ハンターVS師団員! 勝つのはどっちだっ!』
 会場に設置された魔導拡声器が、いよいよ試合開始の秒読みを告げ、歓声もまた先程までとは違った熱を帯びていく。
 ハンター達はそれぞれに武器を構え、体内のマテリアルを活性化させていく。
「あーもう、ごちゃごちゃ考えてても仕方ねえ。やられる前にやれだ、てめえら!」
 未だ額に冷や汗を残しながらも、ハンター達の戦闘態勢に呼応し師団員達はようやくと奮起のために檄を飛ばし始める。その声が僅かに震えていたことには、言及しないほうがいいのかもしれない。
『それでは、両者見合って……』
 全員が、武器を構える。辺りの騒々しさとは切り離された静謐な空間が、この瞬間だけ場を支配し――
『試合、開始ぃっ!』
 拡声器からの声と同時に、数えきれない闘志が会場中から怒涛のごとく押し寄せる。坩堝と化した闘技場の中心で、二つのチームが地面を蹴り、激突した。



 まず大きな動きを見せたのは、猛だ。仲間達が相手に向かって行くと同時に、相手側の先陣にむけてブロウビートを発動する。
「うおおおお!」
 両手で大きく自らの胸を叩き、威嚇を行う。それは、彼の纏う巨大生物の幻影も相まって、覚醒者ではない兵士に原始的な恐怖を想起させた。ひ、と小さく声を上げ、一人の兵士が動きを止める。
「連携を乱すなよ!」
 恐慌に陥った兵の動きに合わせて、リーダーの一人、髭面のヤコブが叫ぶ。すると、流れるように隊列は形を変えて、一人を庇うように移行する。代わりに前に出たのは、メイスと盾で武装した二人の聖導士だ。彼らは自らにプロテクションをかけると、盾を前にし一直線に突っ込んでくる。
「ざくろさん、今回もよろしくお願いしますね!」
「うん、頑張ろうね!」
 そこに割り込んだのは、リリティアとざくろだ。リリティアはマテリアルを足に込め、回避と移動を強化。ざくろはサーベルで聖導士の気を引くように、向かってくるその盾に向けて斬り込んだ。
 聖導士はざくろの攻撃を盾で防ぐと、受け止めた刃を盾で思い切り弾き飛ばす。
 思いの外強力な衝撃に、ざくろは体勢を大きく崩す。
「女に手を上げんのは癪だがな!」
「……やっぱり間違えられてるー!」
 その動きを予見していたかのように、もう一人の聖導士がざくろに向けて既にメイスを大きく振りかぶっていた。
「させませんよ!」
 そしてメイスが振り下ろされる寸前、側面に回りこんでいたリリティアがメイスごと聖導士の体を薙いでいた。マテリアルを宿した精緻な一撃は、違わずメイスの柄を弾き飛ばす。
 確かな手応えだがしかし、聖導士は流れるように次の行動に移っていた。
 聖導士が左右に跳び退る。その瞬間、
「……っ!」
 その間から、空間を抉るように槍の穂先が飛び出した。
「おっと危ねェ!」
 ざくろを狙った眼鏡の闘狩人、ウーリの一撃を、シガレットはざくろを押しのける形で、盾でどうにか受け流すことに成功する。
「お前の相手はこっちだぜ! コイツはお前みたいなガラが悪いのを叩くのに丁度いいからなァ」
「いい動き、ですね!」
 シガレットが煽る言葉もそのままに、盾の上部で槍の柄を擦り上げ穂先を跳ねさせるように突っ込むと、ウーリも負けじとシガレットの力を利用して槍を回転させ石突を下から振り上げる。
 金属同士のぶつかる高音が、二人の耳朶を強く叩いた。シガレットの盾が弾かれる。互いに一瞬の空白が生まれ、
「やり過ぎるなよ」
「大丈夫よ、調整したから」
 そこにウィンドガストを纏ったエニアの、パイルバンカーが、炸裂音と共にウーリに襲いかかった。寸での所でウーリは身を反らすも、脇腹を掠めた杭は小さくない衝撃を与え、大きくたたらを踏ませた。

「ふんっ!」
 相撲で培った猛の巨体が、盾を構えたまま砲弾のようにヤコブへと突撃した。ウーリと共に前に出ようとした矢先の出来事だ。ヤコブは咄嗟に長刀を縦にし猛の突進を受け止める。
 本来ならば、ヤコブの背後にウーリが付く流れだ。しかし、一人を庇う都合で陣形が変わっている。
 ヤコブは、力任せに押し付けられる猛の盾を躱そうと動くが、猛は猛然と両足に力を込め、一歩も引かない。
「引けば押せ、押さば押せ。これが相撲の戦いだ!」
「スモウって何だよ邪魔だよ畜生!」
 真横で炸裂音が響くも、猛はそちらに目をやる暇を与えない。盾でヤコブの視界を遮り続ける。
「対人戦闘は初めてですが……」
 猛とヤコブの間で動く盾の隙間を縫って、ミネットが長刀で突きを繰り出す。
「ぬあっ!」
 ヤコブは盾によって死角を増やされ、襲う不意打ちを感覚だけで身を屈めて回避するが、明らかに首を狙った白刃に冷や汗を流す。しかしその直後には、猛の、祖霊の力を込めた篭手が、屈むヤコブに向けて大きく振りかぶられていた
「ふんっ!」
 ズドンと、人体に向けて放ったとは思えない音が鈍く響く。ヤコブは片腕でそれを受け止めるが、抑え切れない衝撃が体を貫く。
「ぐぉっ!」
 思わずうめき声を上げ、ヤコブは大きくその場から跳び退った。

 戦列を回りこむようにして、一般兵が走りこんできていた。彼は大きな力を持たないが、それでも懐に潜り込めば支援を妨害するくらいは出来る。
 しかしその眼前に、鈴蘭とメトロノームが立ち塞がった。鈴蘭は身長よりも長い、殺傷力を下げるため鞘の付いたままの薙刀を大きく構え直す。恐慌に動きの止まった兵を狙いたかったが、相手側の連携によってその動きは潰されている。
「戦闘の華には僕はなれないからね……! ただ戦うだけだよ!」
 鈴蘭は猛然と、一般兵へ走り寄る。同時に、メトロノームの紡ぐ包み込むような旋律に合わせて、会場の砂が舞い上がり、鈴蘭の体を鎧のように覆っていった。
「やぁっ!」
 鈴蘭は薙刀を思い切り振り上げる。その先端は風を切り、慌てて構えられた盾を容赦なく弾き飛ばす。負けじと長剣を手に地面を蹴る一般兵にくるりと薙刀を回して石突での一撃を見舞うと、先ほどとは打って変わったメトロノームの涼やかな旋律で今度はその身に風を纏う。
 一般兵の長剣は、為す術もなく風に流され鈴蘭を捉えることができない。
 鈴蘭は更に薙刀を振るう。顔を重点的に、倒すことを最優先にした戦い方だ。
「盛り上がりなんてこの際関係ないかな……負けるのはごめんなんだ!」
 もう一人の一般兵が立ち直り、戦いに参戦するも、状況の改善は見込めなかった。
 最後にメトロノームが心を燃え立たせる旋律で鈴蘭の薙刀に炎を灯せば、一般兵は項垂れて両手を上に挙げた。

「隠し腕だっ!」
 攻撃を外した隙を突かれたその一撃を、機導の腕に動かされた盾が自動的に受け止める。
「リリティア、今だよ!」
「任せて下さい!」
 機導術を見たことがないのか俄に動揺する聖導士を、リリティアの白刃が襲う。鎧を大きく凹ませる程の威力をもって、その一撃は聖導士に叩きつけられた。
「てめえ!」
 次いで脇から振り下ろさたメイスがリリティアに迫るも、マルチステップで跳び回る彼女を掠めるだけだ。
「どうしたんですか? こんな小娘にも当てられないんですか?」
 息を上げ、体力も減ってきているが、それでもリリティアは表情に仮面を張り付かせる。
「ざくろさん、リリティアさん!」
 そこに、一般兵を降参させた鈴蘭とメトロノームが駆け付けた。
 拮抗していた実力は、一気に傾く。
「ざくろの想いを刃に、輝け光の剣!」
「そろそろ、終わらせますよ!」
「いい勉強になったよ、ありがとね!」
 ざくろは舞踏のステップで相手を翻弄するように間合いを詰め、リリティアは自在に地を蹴って右に左に跳び回る。追って鈴蘭も飛び出し、メトロノームは歌とともに支援を送る。
 光り輝く機導の剣が、研ぎ澄まされた一閃が、炎を纏う長大な薙刀が――二人の聖導士の意識を、華麗に刈り取っていった。

 ヤコブとウーリは体勢を立て直す。普段の通り、ヤコブを前にウーリが後ろから支援に回る形だ。
 盾でぶちかます猛の攻撃をヤコブは長刀で弾き返し、ヤコブが身を反らした瞬間に息を合わせた槍が隙間を縫って襲い来る。
 エニアは纏う風で攻撃を踊るように躱し、パイルバンカーの音やインパクトを利用してヤコブを翻弄する。
「至近距離なら、文句はないでしょ?」
 更に返す刀で、虎視眈々と隙を狙うウーリをウォーターシュートで迎撃し、炸裂する衝撃がヤコブにまで及べばミネットは猛獣の如く跳びかかり、その長刀は的確に急所を狙っていく。
「強いですね。純粋に強いです。これを狩るには……」
 呟きながら、獲物を狩る冷徹さを表情に滲ませるミネットの剣閃に決まった型はない。ヤコブはその対応に苦心しながらも、ギリギリでミネットの攻撃を捌いていく。
「お、お嬢ちゃん、殺す気満々だなおい!」
 ヤコブが思わず口にすれば、
「あ……ご、ごめんなさい! つい……あ、いえ、人間は食べませんよ!」
「え、食べ……?」
「ちょ、引かないで下さいよ! 違うんです~!」
 ミネットは、はっと我に返って慌てて跳び退いた。
「あぁ……全力で戦って、かつ仕留めずに勝利するってどういう事なのか本当にわかりません……」
 ミネットの嘆きは、会場の歓声に紛れて消える。狩人の本能を持て余すこういう場は、彼女には向いていないのかもしれない。



『さあ、試合の判定は……!』
 それは、誰の目にも明らかだった。しかし、それでも会場は先程までが嘘のようにしんと静まり返っている。
『勝者、ハンターチィィィィム!』
 その瞬間に、莫大な歓声が沸き上がった。正々堂々としたハンター達の戦いぶりに、観客達も満足げだ。
 最後にハンター達が集結し、八対二という状況になった時点で、ヤコブとウーリは降参の意を告げていた。これ以上やっても無駄な怪我を負うだけだという判断は、観客達にも充分に伝わっている。彼らの敵は、人間ではないのだ。これはあくまでただの訓練。結果さえ分かればそれでいい。
 ハンター達は笑顔で手を振って、歓声に応えている。最後にざくろとメトロノームがもう一度歌を披露すれば、試合の熱も相まって、会場は熱狂の渦に巻き込まれた。
 そうして、記念すべき最初の試合は大盛況の内に幕を閉じた。師団員達のストレスも、少なからず解消できたことだろう。
 ついでに、エニアやざくろ、鈴蘭にも、この件で大勢のファン(野郎)が出来たことは、言うまでもない。

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MVP一覧

  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろka1250
  • アルテミスの調べ
    メトロノーム・ソングライトka1267

重体一覧

参加者一覧

  • 【ⅩⅧ】また"あした"へ
    十色・T・ エニア(ka0370
    人間(蒼)|15才|男性|魔術師
  • 優しき力
    東郷 猛(ka0493
    人間(蒼)|28才|男性|霊闘士
  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろ(ka1250
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • アルテミスの調べ
    メトロノーム・ソングライト(ka1267
    エルフ|14才|女性|魔術師
  • 世界の北方で愛を叫ぶ
    樹導 鈴蘭(ka2851
    人間(紅)|14才|男性|機導師
  • 紫煙の守護翼
    シガレット=ウナギパイ(ka2884
    人間(紅)|32才|男性|聖導士
  • The Fragarach
    リリティア・オルベール(ka3054
    人間(蒼)|19才|女性|疾影士
  • ♯冷静とは
    ミネット・ベアール(ka3282
    人間(紅)|15才|女性|猟撃士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓だワン
東郷 猛(ka0493
人間(リアルブルー)|28才|男性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2014/11/11 18:31:54
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/11/06 00:15:41