ゲスト
(ka0000)
人形の道
マスター:篠崎砂美

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 10~10人
- サポート
- 0~10人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/06/21 12:00
- 完成日
- 2014/06/26 08:20
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
ここは、同盟領内にある蒸気工場都市フマーレです。
日々、様々な製品が製造され、各地へと出荷されていきます。
大量の輸送は船便が基本ですが、陸路も使われないわけではありません。今回の依頼は、そんな陸路で荷物を運んでほしいというものでした。
荷物の種類は陶器製の人形です。量は、馬車に5台ほど。
「これだけの量なら、船で運んだ方がよくありませんか?」
報酬が悪くないので請け負ったものの、わざわざ陸路だなんてとあなたたちは依頼主である工場長に訊ねました。
「いや、以前はそうしたんだが、途中で壊されてしまってねえ。それで、ルートを変えることにしたんだ」
何でも、輸送を妨害する者たちがいるのだということです。だからこそ、護衛も兼ねての輸送の依頼が来たわけなのですが。
「なあに、俺たちがいれば、野盗だろうが、怪盗だろうが、あっけなくやっつけてみせるぜ」
「いやいや、犯人を捕まえるよりは、荷物を無事に届けてほしいんだよ。なにしろ特殊な荷物で、実にもって壊れやすいんでね。なので、輸送は慎重に行ってほしいんだ。ある程度の損傷は歩留まりの範囲内だが、損失には変わりないからねえ」
なんだか、工場長は、ある程度壊れるのは諦めているみたいです。いったい、どんな人形なのでしょうか。
「ええと、ふぃぎあとか言うんだったか? 何でも、ヴァリオスやリゼリオでは流行っているそうで。今回の物は、今ヴァリオスで人気のアイドルをモデルにしているらしいんだが、奇抜な格好でパンツ見せてる人形でね。それで、細かい部分が多くて、非常に壊れやすいんだよ。まあ、私にはあまり理解できないんだが、これも請け負った仕事だから」
本当に、何でこんなのが流行っているんだろうという顔で、工場長が言いました。
本来なら、樹脂素材などで作るフィギアなのでしょうが、依頼主の工場ではそういう素材はないので陶器で作っています。そのため、非常に脆くて衝撃に弱いのでした。箱には入ってはいますが、きっちりと固定されているわけでもなさそうで、いかにもよく分からない物を商品化しているといったところです。
いろいろと突っ込みたい部分もありますが、納期の問題もあるので急がねばなりません。大箱に詰められた商品を載せた荷馬車に分乗すると、あなたたちは一路ヴァリオスの倉庫を目指したのでした。
日々、様々な製品が製造され、各地へと出荷されていきます。
大量の輸送は船便が基本ですが、陸路も使われないわけではありません。今回の依頼は、そんな陸路で荷物を運んでほしいというものでした。
荷物の種類は陶器製の人形です。量は、馬車に5台ほど。
「これだけの量なら、船で運んだ方がよくありませんか?」
報酬が悪くないので請け負ったものの、わざわざ陸路だなんてとあなたたちは依頼主である工場長に訊ねました。
「いや、以前はそうしたんだが、途中で壊されてしまってねえ。それで、ルートを変えることにしたんだ」
何でも、輸送を妨害する者たちがいるのだということです。だからこそ、護衛も兼ねての輸送の依頼が来たわけなのですが。
「なあに、俺たちがいれば、野盗だろうが、怪盗だろうが、あっけなくやっつけてみせるぜ」
「いやいや、犯人を捕まえるよりは、荷物を無事に届けてほしいんだよ。なにしろ特殊な荷物で、実にもって壊れやすいんでね。なので、輸送は慎重に行ってほしいんだ。ある程度の損傷は歩留まりの範囲内だが、損失には変わりないからねえ」
なんだか、工場長は、ある程度壊れるのは諦めているみたいです。いったい、どんな人形なのでしょうか。
「ええと、ふぃぎあとか言うんだったか? 何でも、ヴァリオスやリゼリオでは流行っているそうで。今回の物は、今ヴァリオスで人気のアイドルをモデルにしているらしいんだが、奇抜な格好でパンツ見せてる人形でね。それで、細かい部分が多くて、非常に壊れやすいんだよ。まあ、私にはあまり理解できないんだが、これも請け負った仕事だから」
本当に、何でこんなのが流行っているんだろうという顔で、工場長が言いました。
本来なら、樹脂素材などで作るフィギアなのでしょうが、依頼主の工場ではそういう素材はないので陶器で作っています。そのため、非常に脆くて衝撃に弱いのでした。箱には入ってはいますが、きっちりと固定されているわけでもなさそうで、いかにもよく分からない物を商品化しているといったところです。
いろいろと突っ込みたい部分もありますが、納期の問題もあるので急がねばなりません。大箱に詰められた商品を載せた荷馬車に分乗すると、あなたたちは一路ヴァリオスの倉庫を目指したのでした。
リプレイ本文
●出発
「わあ、ここがフマーレ? 麗美、同盟初めてだしぃ、おもしろーい」
天川 麗美(ka1355)が、周囲をキョロキョロと見回して言った。普段は教会でシスターをしているため、今日もそのような服装でやってきている。
「あれって陶器製? 有名なお土産物なの? 特産品とか?」
慎重に運ばれていく荷物を見て、コレコ=レコーレ(ka1337)が首をかしげた。
「さあ、別に特産品じゃない気がするが。ああ、オレはラビット・ギア・ハイネ(ka1059)だ。みんな、よろしくな」
「ボクはコレコ=レコーレだよ、よろしく。ごにゃ~ぽ☆」
「ごにゃぽ? はっはっはっ、おもしろいやつであるな」
ラビットの自己紹介に答えたコレコの声を聞いて、銀灰色の瞳をしたドワーフ少女が豪快に笑った。
ドワーフの特性なのか、二人とも陽気で豪快だ。
「ボクは、ディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271)なのだ。よろしくである! なあに、ボクがいれば、大船に乗った気でいていいのだ」
自分が担当する馬車の荷物をロープでしっかりと縛り、隙間に砂袋を詰めながらディアドラが言った。豪華なアクセサリーをたくさんつけた元気っ子だ。
「慎重に運ばなきゃならないほど細かい造型なのかな。これはちょっと興味があるな」
ふむと、ラビットが腕を組んで考える。
フィギア自体は化粧箱に入れられたうえで、輸送用の大箱に入れられている。そのため、中を確認することができない。
「大丈夫よぉ、一応はちゃんと箱に入ってるんだしぃ」
麗美が、適当に答えた。
「それだったら、もっと適当に運ぶだろう。ああ、あんたが、オレと一緒に先頭の馬車に乗るお嬢さんか。ラビットだ。よろしく。道中は、慎重にな」
「ええっと、頑張ります! 天川麗美です」
さすがにはしゃぎすぎているかなと、麗美があらためて挨拶を返した。
「ねえねえ、フィギアってどんなのでしょう? 何でも、アイドルのフィギアだとか」
「さあ、リアルブルーでも集めている人はいたみたいだけど。うーん、それを集める人や、それを壊したがる人の考えなんてよく分からないわよ」
摩耶(ka0362)のつぶやきに、幸地 優子(ka0922)がやれやれという風に答えた。
銀髪を綺麗に結い上げた清楚なお嬢様風の摩耶や、こちらは銀髪をツインテールにして大きなリボン飾りをつけた優子の方が、よほど美少女ではあるのだが、さすがにフィギアになることはあったとしても、集める方にはなりそうもなかった。
「人形ねえ。女子供の遊び道具だと思ったが、時代は変わったのか」
おかしなものだと、弥勒 明影(ka0189)が苦笑した。
「よしと、こんなかんじかな」
多少の遊びがあった方が衝撃に強いかなと思い、ややゆるめに箱をロープで縛り終えたタディーナ=F=アース(ka0020)が一息ついた。こちらは、黒髪シュートカットの活動的なお姉様という感じだ。
「まったく、緩衝材ぐらいちゃんとさせておいてほしいですわよね」
依頼主である工場長を相手取って、月影 夕姫(ka0102)が文句を言っていた。ちょっと興奮気味に頭をゆらす度に、ポニーテールにした茶色い髪の先が、ゆらゆらと腰の辺りでゆれる。同時に、ふわりとした大きな結び目のあるリボンが、髪を結った根元当たりでゆらいでいた。
「いやあ、箱も商品だとかで。一応、指定された化粧箱を作って入れたんだけどねえ。肝心の商品が小窓から見えなくちゃダメとかで、化粧箱の中に何も詰められなかったんだよ。やっぱりいけなかったかなあ」
「いけないに決まっているじゃないですか」
飄々と言う工場長に、夕姫が続けた。それを聞いて、満月美華(ka0515)が、豪奢な縦ロールの赤毛を、これまた豪華な胸と共にゆらしながらうなずいた。
「納期が厳しくてなあ、そこまで手が回らなかったんだよ。なにせ、作っただけ支払いしてくれると言うんでな、頑張っちまった。それを、どこの誰かは知らんが、妨害してきて困ってるんだ。とにかく、君たち十人で、なるべくたくさん届けてくれ。頼んだぞ」
「よし、出発だ!」
ラビットと麗美の乗った馬車を先頭に、キャラバンが出発した。二台目には、夕姫とディアドラ、続いて摩耶と優子、明影とコレコ、タディーナと美華と続く。
●第一の障害
「さてと、この道を行くのが定番だし、無難かな。遠回りしても、トラブルに遭いやすくなるだけだしな。男はこう、どーんっと行くのが正道よお」
麗美に飲み物を勧め、ラビットが地図でルートを確かめた。
「にしても、シスターと一緒の旅ってえのも、おつなもんだ」
「あら、お上手ですねえ」
カラカラと笑うラビットに、麗美が微笑みかけた。普段は調子がいいが、一応目上であるラビットには、シスターとして礼節のある態度をとっている。
「それでは、ちょっと様子を見て参りますわ」
道が森の中の一本道にさしかかったので、麗美が先行して問題がないか調べに行った。直感は麗美の方が数段優れているので、ラビットよりも罠などを発見しやすいからだ。
錫杖で道をトントンと叩きながら異常がないか調べていくと、あっさりと落とし穴を発見する。
「おーい、落とし穴があるそうだー」
麗美から報告を受けたラビットが、他の馬車にむかって叫んだ。
「落とし穴だなんて、定番過ぎるよねえ」
コレコが御者台で苦笑する。
「避けて通れそうか?」
「この程度の穴なら大丈夫でしょう。先行して調べていきますから、うまく後をついてきてくださいね」
ラビットに答えると、他に穴はないかと麗美が先へと進んでいった。
実際、穴自体は人が落ちるような物ではなく、走っていたら足を取られるほどの浅い物だ。だが、それだけに気づきにくく、しかも、荷物を壊すには充分な衝撃だとも言える。
穴の小ささを逆手にとって、うまく車輪の間を通してラビットが突破していく。
「オレの轍の跡を辿ってきてくれ」
ラビットの指示に従って、馬車は無事に森の中を抜けていった。
●第二の障害
森を抜けて、一行はちょっとした峠にさしかかった。
「しかし、フィギアとは、どういう物なのだ?」
替わって先頭に立った馬車の上で、ディアドラが夕姫に訊ねた。馬たちのコンディションを考えて、定期的に馬車順を入れ替えている。平地が得意な馬もいれば、坂道が得意な馬もいるからだ。
「思いっきり趣味に走った人形かなあ。いろいろなポーズをとったりしてて、作りが細かいのよねえ」
「趣味の美術品であるのか」
なんとなく納得して、ディアドラがうなずいた。
「私は、リボン集めが趣味なの」
「それはそれは」
しばらく、二人で趣味の話で盛りあがる。
「そろそろ、登り切るのである。月影殿、よろしく頼んだぞ」
手綱を操りながらディアドラが言った。
「任せといてよね」
いったん馬車を止めさせて、夕姫が道を調べに行った。こういう坂のような所に、また落とし穴があったらたまらない。
慎重に調べていくと、やはり、仕掛けがしてあった。地面に氷が敷き詰められていたのだ。どうやら、地面に四角く切り出した大きな氷を埋めてあるらしい。
「氷なら、魔導砲で吹き飛ばせるけど……」
さすがに、道のど真ん中にある氷に魔導砲を放ったら、さっきの落とし穴どころではない大穴があいてしまいそうだ。
「氷の罠があるから、滑らないように工夫してー!」
大声でディアドラに告げると、そばに生えている草を刈って、滑り止めの代わりにと氷の上に撒いてみる。
「これで、滑らなく……あわわわわわ!」
夕姫が足をのっけてみると、すってんころりとみごとに転んだ。そのまま坂の下へと滑っていきそうになるのを、あわてて身を捻って止める。
「何をやってるのだ」
馬車の車輪に滑り止めのロープを巻きつけたディアドラが少し呆れる。他の馬車にも同じようにするように言うと、自分の馬車を見ていてくれるように頼んで、荷台から砂袋を下ろした。荷を固定するために隙間に詰めていた物だが、これを滑り止めに使うしかないだろう。
夕姫と協力してディアドラが氷の上に砂を撒いて滑り止めにすると、一行はゆっくりと馬車を進めていった。一台ずつ進め、何かあってもいいように周囲を数人で囲んで対応する。
幸いにして、馬車は滑ることもなく、時間はかかったが無事に坂を下りることができた。
●第三の障害
平地に出た一行は、今度は摩耶と優子の馬車を先頭にして進んでいった。
「今のところは、何もないみたいね」
先行して道を調べてきた優子が、摩耶に言った。やさしく馬をなでて、落ち着かせて立ち止まらせる。
「じゃあ、交代ですね」
今度は摩耶が偵察役をすべく御者台から下りてくる。
「ねえ、あなた、リアルブルーから来たの?」
「ええ、そうですが」
優子に聞かれて、摩耶がうなずいた。
「わたくしは、少し前にこの世界に来たのよね。ちょっと先輩さんかな。で、最近、向こうはどうなってたの? いや、ちょっとは気になるじゃない」
「ええと……」
そう聞かれても、摩耶としても優子があちらでいつどこにいたのか分からないので、ちょっと答えようがなかった。仕方ないので、適当に説明してお茶を濁す。
「じゃあ、先を見てきます」
そそくさと摩耶が駆け出していくと、道の前方に物陰から小さな影が現れた。
「何者です!」
さては雑魔かと身構えると、飛び出してきた子犬が不思議そうに小首をかしげた。ほとんどチワワにしか見えない。
「ちわっ?」
「かっ、かわいい~!」
ランアウトで一気に駆け寄った摩耶が、子犬の頭をなでた。まずい、完全に魅了されている。
「ちわっ♪」
「かっ、かわいいわ~!」
その時だった、ドドドドとけたたましい勢いで優子が駆けてきた。
「犬、犬! 犬!! きゃーっ、きゃーっ!!」
もう一目散に子犬に駆け寄ると、有無をも言わせずにだきあげてぎゅーっと渾身の力でだきしめる。こちらも完全に魅了状態だ。
「ちょ、ちょっと、馬車!」
その怒濤の勢いに我に返った摩耶が、あわてて無人になった馬車の所に駆け戻っていった。先ほど優子が落ち着かせたのが幸いしたのか、馬車はそこで乗り手を待っていてくれた。
「よしよし、いいこですねー」
「ちょっと、どうしたの。これも、また敵の罠?」
様子を見に来たコレコに言われて、馬をなでてやっていた摩耶があわてて優子の方を振り返る。
「ぢ、ぢわ~」
泡を吹いて圧死寸前だった子犬が、何とかもがいて優子の腕から脱出していった。そのまま、目にもとまらぬ速さで優子から離れていく。と、突然立ち止まると、その身体からは想像もつかないもの凄い声で激しく吠えだした。
もっとも、全力で優子から逃げだしていたので、遥か遠くから吠えられてもさすがに馬たちも動揺はしなかったが。
「ああ、戻ってきてー」
優子の願いもむなしく、子犬は激しく吠えながら逃げていった。
●第四の障害
「それでね、その戦いを観戦していた時に食べたお饅頭がとっても美味しかったんだよ」
のどかな畑の中の道を先導しながら、コレコが隣に座る明影にむかってずっと喋り続けていた。話題と言えば、お気に入りの格闘技の興業の話と、御当地名物の美味しい物の話ばかりだ。
「そうそう、青汁飲む?」
「う、ううむ」
さすがに断るのは失礼だろうと、明影が涼しい顔でもらった青汁を飲み干した。
「美味しい?」
すかさずコレコが訊ねる。
いや、飲めないほどではないが、喜んで飲むほどの物でもない。とりあえず適当にごまかすと、明影がコップをコレコに返した。
ところが、そんなやりとりをしていたものだから、異変に気づくのが完全に遅れてしまった。
「ぶもおぉぉ!!」
どこから現れたのか、かなり大きな暴れ牛が、こちらにむかって突進してくる。
「コレコ、出番だ!」
「まかしといて、ごにゃ~ぽ☆」
明影に言われて、待ってましたとコレコが飛び出した。ラウンドシールドを低く構えて真正面から暴れ牛を受けとめに走る。コレコいわく、受けの美学である。
「あ~れ~。ごにゃ~ぽ!」
激しい激突の直後、コレコが大きく宙を舞って吹っ飛ばされていった。さすがに、牛の突進の方が力が上だったらしい。クルクルと宙を舞ったコレコが、頭から畑に落っこちて、両足を天にむけて開いたまま、柔らかい地面に突き刺さる。
「やるな。ならば仕方ない。非情と言うなよ、これも任務なら少しもためらわぬ」
すぐさま馬車を飛び降りた明影が、サーベルを手にして暴れ牛に突っ込んでいった。その眉間めがけて、鋭い突きの一撃を繰り出す。
だが、その一撃を頭を下げてぎりぎりで躱すと、牛がその角で明影の足を掬い上げた。
「うおお!?」
ポーンと投げ上げられた明影が、コレコと同じ運命を辿り、地面に逆さに突き刺さった。
邪魔者を排除した暴れ牛が、無人の馬車に激突した。凄まじい陶器の砕け散る音がして、馬車がひっくり返った。
「ぶもももー!」
勝ちどきを揚げた暴れ牛だが、すぐさま後続の馬車から魔導砲の攻撃が始まったのを見て、あわてて逃げだしていった。
●第五の障害
新たに美華とタディーナの馬車を先頭にした一行は、山道を進んでいた。
明影とコレコに大した怪我もなく、馬車も走れる状態だったが、さすがに荷物は全滅だった。パーフェクトではなくなったが、まだこの程度なら想定内ですむ。
「なんでこんな道通るんだか。さっきみたいに荷物やられたら面目が立たないだろうに。あーあ、御者がいれば、のんびりと荷台で警戒できたのになあ」
御者台で手綱を握りながら、タディーナがぼやいた。
美華の方は、周囲を警戒して、視界のいい後方から左右の崖の上を見ている。正面からの障害はタディーナに任せるとして、ここでは上からの妨害も警戒する必要があったからだ。
すると、予想通り、崖の上で人影が動いた。直後に、上から大きな石が転がり落ちてくる。馬車を潰すほどの大きさではないが、直撃したら衝撃で荷は粉々だろう。
「タディーナ、落石!」
美華が叫んだ。
「走れ!」
タディーナが、馬車を全速で走らせると、上から落ちてくる石にむかってマジックアローを放つ。光の矢が命中してわずかに浮きあがった岩に、美華からもマジックアローが飛んだ。跳ね上がった岩が、粉々に砕けて馬車の荷台を飛び越えるようにして反対側の崖にばらばらとぶつかった。
「くそ!」
犯人があわてて逃げようとするところを、美華がマジックアローで狙撃した。足許を光の矢が霞め、よろけた犯人が崖を滑り落ちてくる。
馬車をコレコに任せた明影が、素早く犯人を取り押さえた。他に仲間がいないかディアドラが周囲を警戒する間に、美華がロープで犯人をグルグル巻きにしていった。
「さあ、キリキリと吐いてもらおうか。なんでこんなことしたんだ?」
タディーナが身動きのできない犯人に詰め寄った。
「そうです。あなた単独犯ですか? まさか、フィギアのライバル業者の差し金とかいうのではないでしょうね」
組織的犯罪を疑って、夕姫が詰問する。
「まあまあ、きっと、フィギアのモデルのファンなんですよ」
ここで袋叩きにしてもまずいだろうと、摩耶が皆をなだめた。
「ああ、そうだよ。俺は、アットリーチェちゃんの大ファンだ!」
「まあ、誰がモデルかと思ったら、あのアイドルだったんですね」
犯人の口から飛び出したアイドルの名前に、思わず摩耶がうなずいた。最近売り出し中の人気アイドルで、リゼリオ経由でグラビア写真集が希少本としてヴァリオスにも回ってくることもある。
「ファンなら、なぜ壊す!」
コツンと犯人を殴って、タディーナが言った。
「できが悪いんだよ! あんなのアットリーチェちゃんじゃないやい!」
「まあ、熱狂的なファンでしたのね」
無茶苦茶な理由を言う犯人に同情するかのような摩耶に、そういう問題かと全員が突っ込んだ。
●ヴァリオス倉庫街
荷物が壊れた馬車の荷台に犯人を放り込んで、一行は届け先の倉庫に辿り着いた。
「御苦労様。ええと、四台も無事だったそうだね」
荷物を受け取りに来た商人のコッレツィオが、一同を出迎えた。フィギアを売りさばいている商人らしいが、なぜかあまり嬉しそうな顔をしていない。
「今後は、ちゃんと梱包材を入れてくださいね」
「あれはいいんだよ」
忠告する夕姫にむかって、コッレツィオがぶっきらぼうに答えた。
ちょうどそこへ、犯人を引き取りに同盟軍陸軍のアルマート・トレナーレ少佐がやってきた。
「今後、こういうことは陸軍に頼んでほしいものですな」
輸送の護衛ぐらいこちらに回せという少佐に、コッレツィオが「あの陸軍にねえ」という顔をする。
「盗難事件も起きているので、今後は事前に報告してほしいものですな」
そう言うと、少佐はむっとした顔のまま犯人を連れていった。
「ところで、どんなフィギアなのか、余にも見せてくれぬか」
気になってしょうがないと、ディアドラが倉庫に運ばれる箱の一つに飛びついた。コッレツィオが止めるのも聞かずに、中味を確かめてみる。
「こ、これは……!」
中から出てきたフィギアを見て、明影が唖然とした。これは、どこの雑魔だろう。どこをどう見ても、アイドルのアットリーチェとは似ても似つかない。いや、はたしてこれを人間のフィギアと呼んでもいいのだろうか!?
「これは、犯人に少し同情します」
摩耶の言葉に、うんうんと優子たちがうなずいた。
「わあ、ここがフマーレ? 麗美、同盟初めてだしぃ、おもしろーい」
天川 麗美(ka1355)が、周囲をキョロキョロと見回して言った。普段は教会でシスターをしているため、今日もそのような服装でやってきている。
「あれって陶器製? 有名なお土産物なの? 特産品とか?」
慎重に運ばれていく荷物を見て、コレコ=レコーレ(ka1337)が首をかしげた。
「さあ、別に特産品じゃない気がするが。ああ、オレはラビット・ギア・ハイネ(ka1059)だ。みんな、よろしくな」
「ボクはコレコ=レコーレだよ、よろしく。ごにゃ~ぽ☆」
「ごにゃぽ? はっはっはっ、おもしろいやつであるな」
ラビットの自己紹介に答えたコレコの声を聞いて、銀灰色の瞳をしたドワーフ少女が豪快に笑った。
ドワーフの特性なのか、二人とも陽気で豪快だ。
「ボクは、ディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271)なのだ。よろしくである! なあに、ボクがいれば、大船に乗った気でいていいのだ」
自分が担当する馬車の荷物をロープでしっかりと縛り、隙間に砂袋を詰めながらディアドラが言った。豪華なアクセサリーをたくさんつけた元気っ子だ。
「慎重に運ばなきゃならないほど細かい造型なのかな。これはちょっと興味があるな」
ふむと、ラビットが腕を組んで考える。
フィギア自体は化粧箱に入れられたうえで、輸送用の大箱に入れられている。そのため、中を確認することができない。
「大丈夫よぉ、一応はちゃんと箱に入ってるんだしぃ」
麗美が、適当に答えた。
「それだったら、もっと適当に運ぶだろう。ああ、あんたが、オレと一緒に先頭の馬車に乗るお嬢さんか。ラビットだ。よろしく。道中は、慎重にな」
「ええっと、頑張ります! 天川麗美です」
さすがにはしゃぎすぎているかなと、麗美があらためて挨拶を返した。
「ねえねえ、フィギアってどんなのでしょう? 何でも、アイドルのフィギアだとか」
「さあ、リアルブルーでも集めている人はいたみたいだけど。うーん、それを集める人や、それを壊したがる人の考えなんてよく分からないわよ」
摩耶(ka0362)のつぶやきに、幸地 優子(ka0922)がやれやれという風に答えた。
銀髪を綺麗に結い上げた清楚なお嬢様風の摩耶や、こちらは銀髪をツインテールにして大きなリボン飾りをつけた優子の方が、よほど美少女ではあるのだが、さすがにフィギアになることはあったとしても、集める方にはなりそうもなかった。
「人形ねえ。女子供の遊び道具だと思ったが、時代は変わったのか」
おかしなものだと、弥勒 明影(ka0189)が苦笑した。
「よしと、こんなかんじかな」
多少の遊びがあった方が衝撃に強いかなと思い、ややゆるめに箱をロープで縛り終えたタディーナ=F=アース(ka0020)が一息ついた。こちらは、黒髪シュートカットの活動的なお姉様という感じだ。
「まったく、緩衝材ぐらいちゃんとさせておいてほしいですわよね」
依頼主である工場長を相手取って、月影 夕姫(ka0102)が文句を言っていた。ちょっと興奮気味に頭をゆらす度に、ポニーテールにした茶色い髪の先が、ゆらゆらと腰の辺りでゆれる。同時に、ふわりとした大きな結び目のあるリボンが、髪を結った根元当たりでゆらいでいた。
「いやあ、箱も商品だとかで。一応、指定された化粧箱を作って入れたんだけどねえ。肝心の商品が小窓から見えなくちゃダメとかで、化粧箱の中に何も詰められなかったんだよ。やっぱりいけなかったかなあ」
「いけないに決まっているじゃないですか」
飄々と言う工場長に、夕姫が続けた。それを聞いて、満月美華(ka0515)が、豪奢な縦ロールの赤毛を、これまた豪華な胸と共にゆらしながらうなずいた。
「納期が厳しくてなあ、そこまで手が回らなかったんだよ。なにせ、作っただけ支払いしてくれると言うんでな、頑張っちまった。それを、どこの誰かは知らんが、妨害してきて困ってるんだ。とにかく、君たち十人で、なるべくたくさん届けてくれ。頼んだぞ」
「よし、出発だ!」
ラビットと麗美の乗った馬車を先頭に、キャラバンが出発した。二台目には、夕姫とディアドラ、続いて摩耶と優子、明影とコレコ、タディーナと美華と続く。
●第一の障害
「さてと、この道を行くのが定番だし、無難かな。遠回りしても、トラブルに遭いやすくなるだけだしな。男はこう、どーんっと行くのが正道よお」
麗美に飲み物を勧め、ラビットが地図でルートを確かめた。
「にしても、シスターと一緒の旅ってえのも、おつなもんだ」
「あら、お上手ですねえ」
カラカラと笑うラビットに、麗美が微笑みかけた。普段は調子がいいが、一応目上であるラビットには、シスターとして礼節のある態度をとっている。
「それでは、ちょっと様子を見て参りますわ」
道が森の中の一本道にさしかかったので、麗美が先行して問題がないか調べに行った。直感は麗美の方が数段優れているので、ラビットよりも罠などを発見しやすいからだ。
錫杖で道をトントンと叩きながら異常がないか調べていくと、あっさりと落とし穴を発見する。
「おーい、落とし穴があるそうだー」
麗美から報告を受けたラビットが、他の馬車にむかって叫んだ。
「落とし穴だなんて、定番過ぎるよねえ」
コレコが御者台で苦笑する。
「避けて通れそうか?」
「この程度の穴なら大丈夫でしょう。先行して調べていきますから、うまく後をついてきてくださいね」
ラビットに答えると、他に穴はないかと麗美が先へと進んでいった。
実際、穴自体は人が落ちるような物ではなく、走っていたら足を取られるほどの浅い物だ。だが、それだけに気づきにくく、しかも、荷物を壊すには充分な衝撃だとも言える。
穴の小ささを逆手にとって、うまく車輪の間を通してラビットが突破していく。
「オレの轍の跡を辿ってきてくれ」
ラビットの指示に従って、馬車は無事に森の中を抜けていった。
●第二の障害
森を抜けて、一行はちょっとした峠にさしかかった。
「しかし、フィギアとは、どういう物なのだ?」
替わって先頭に立った馬車の上で、ディアドラが夕姫に訊ねた。馬たちのコンディションを考えて、定期的に馬車順を入れ替えている。平地が得意な馬もいれば、坂道が得意な馬もいるからだ。
「思いっきり趣味に走った人形かなあ。いろいろなポーズをとったりしてて、作りが細かいのよねえ」
「趣味の美術品であるのか」
なんとなく納得して、ディアドラがうなずいた。
「私は、リボン集めが趣味なの」
「それはそれは」
しばらく、二人で趣味の話で盛りあがる。
「そろそろ、登り切るのである。月影殿、よろしく頼んだぞ」
手綱を操りながらディアドラが言った。
「任せといてよね」
いったん馬車を止めさせて、夕姫が道を調べに行った。こういう坂のような所に、また落とし穴があったらたまらない。
慎重に調べていくと、やはり、仕掛けがしてあった。地面に氷が敷き詰められていたのだ。どうやら、地面に四角く切り出した大きな氷を埋めてあるらしい。
「氷なら、魔導砲で吹き飛ばせるけど……」
さすがに、道のど真ん中にある氷に魔導砲を放ったら、さっきの落とし穴どころではない大穴があいてしまいそうだ。
「氷の罠があるから、滑らないように工夫してー!」
大声でディアドラに告げると、そばに生えている草を刈って、滑り止めの代わりにと氷の上に撒いてみる。
「これで、滑らなく……あわわわわわ!」
夕姫が足をのっけてみると、すってんころりとみごとに転んだ。そのまま坂の下へと滑っていきそうになるのを、あわてて身を捻って止める。
「何をやってるのだ」
馬車の車輪に滑り止めのロープを巻きつけたディアドラが少し呆れる。他の馬車にも同じようにするように言うと、自分の馬車を見ていてくれるように頼んで、荷台から砂袋を下ろした。荷を固定するために隙間に詰めていた物だが、これを滑り止めに使うしかないだろう。
夕姫と協力してディアドラが氷の上に砂を撒いて滑り止めにすると、一行はゆっくりと馬車を進めていった。一台ずつ進め、何かあってもいいように周囲を数人で囲んで対応する。
幸いにして、馬車は滑ることもなく、時間はかかったが無事に坂を下りることができた。
●第三の障害
平地に出た一行は、今度は摩耶と優子の馬車を先頭にして進んでいった。
「今のところは、何もないみたいね」
先行して道を調べてきた優子が、摩耶に言った。やさしく馬をなでて、落ち着かせて立ち止まらせる。
「じゃあ、交代ですね」
今度は摩耶が偵察役をすべく御者台から下りてくる。
「ねえ、あなた、リアルブルーから来たの?」
「ええ、そうですが」
優子に聞かれて、摩耶がうなずいた。
「わたくしは、少し前にこの世界に来たのよね。ちょっと先輩さんかな。で、最近、向こうはどうなってたの? いや、ちょっとは気になるじゃない」
「ええと……」
そう聞かれても、摩耶としても優子があちらでいつどこにいたのか分からないので、ちょっと答えようがなかった。仕方ないので、適当に説明してお茶を濁す。
「じゃあ、先を見てきます」
そそくさと摩耶が駆け出していくと、道の前方に物陰から小さな影が現れた。
「何者です!」
さては雑魔かと身構えると、飛び出してきた子犬が不思議そうに小首をかしげた。ほとんどチワワにしか見えない。
「ちわっ?」
「かっ、かわいい~!」
ランアウトで一気に駆け寄った摩耶が、子犬の頭をなでた。まずい、完全に魅了されている。
「ちわっ♪」
「かっ、かわいいわ~!」
その時だった、ドドドドとけたたましい勢いで優子が駆けてきた。
「犬、犬! 犬!! きゃーっ、きゃーっ!!」
もう一目散に子犬に駆け寄ると、有無をも言わせずにだきあげてぎゅーっと渾身の力でだきしめる。こちらも完全に魅了状態だ。
「ちょ、ちょっと、馬車!」
その怒濤の勢いに我に返った摩耶が、あわてて無人になった馬車の所に駆け戻っていった。先ほど優子が落ち着かせたのが幸いしたのか、馬車はそこで乗り手を待っていてくれた。
「よしよし、いいこですねー」
「ちょっと、どうしたの。これも、また敵の罠?」
様子を見に来たコレコに言われて、馬をなでてやっていた摩耶があわてて優子の方を振り返る。
「ぢ、ぢわ~」
泡を吹いて圧死寸前だった子犬が、何とかもがいて優子の腕から脱出していった。そのまま、目にもとまらぬ速さで優子から離れていく。と、突然立ち止まると、その身体からは想像もつかないもの凄い声で激しく吠えだした。
もっとも、全力で優子から逃げだしていたので、遥か遠くから吠えられてもさすがに馬たちも動揺はしなかったが。
「ああ、戻ってきてー」
優子の願いもむなしく、子犬は激しく吠えながら逃げていった。
●第四の障害
「それでね、その戦いを観戦していた時に食べたお饅頭がとっても美味しかったんだよ」
のどかな畑の中の道を先導しながら、コレコが隣に座る明影にむかってずっと喋り続けていた。話題と言えば、お気に入りの格闘技の興業の話と、御当地名物の美味しい物の話ばかりだ。
「そうそう、青汁飲む?」
「う、ううむ」
さすがに断るのは失礼だろうと、明影が涼しい顔でもらった青汁を飲み干した。
「美味しい?」
すかさずコレコが訊ねる。
いや、飲めないほどではないが、喜んで飲むほどの物でもない。とりあえず適当にごまかすと、明影がコップをコレコに返した。
ところが、そんなやりとりをしていたものだから、異変に気づくのが完全に遅れてしまった。
「ぶもおぉぉ!!」
どこから現れたのか、かなり大きな暴れ牛が、こちらにむかって突進してくる。
「コレコ、出番だ!」
「まかしといて、ごにゃ~ぽ☆」
明影に言われて、待ってましたとコレコが飛び出した。ラウンドシールドを低く構えて真正面から暴れ牛を受けとめに走る。コレコいわく、受けの美学である。
「あ~れ~。ごにゃ~ぽ!」
激しい激突の直後、コレコが大きく宙を舞って吹っ飛ばされていった。さすがに、牛の突進の方が力が上だったらしい。クルクルと宙を舞ったコレコが、頭から畑に落っこちて、両足を天にむけて開いたまま、柔らかい地面に突き刺さる。
「やるな。ならば仕方ない。非情と言うなよ、これも任務なら少しもためらわぬ」
すぐさま馬車を飛び降りた明影が、サーベルを手にして暴れ牛に突っ込んでいった。その眉間めがけて、鋭い突きの一撃を繰り出す。
だが、その一撃を頭を下げてぎりぎりで躱すと、牛がその角で明影の足を掬い上げた。
「うおお!?」
ポーンと投げ上げられた明影が、コレコと同じ運命を辿り、地面に逆さに突き刺さった。
邪魔者を排除した暴れ牛が、無人の馬車に激突した。凄まじい陶器の砕け散る音がして、馬車がひっくり返った。
「ぶもももー!」
勝ちどきを揚げた暴れ牛だが、すぐさま後続の馬車から魔導砲の攻撃が始まったのを見て、あわてて逃げだしていった。
●第五の障害
新たに美華とタディーナの馬車を先頭にした一行は、山道を進んでいた。
明影とコレコに大した怪我もなく、馬車も走れる状態だったが、さすがに荷物は全滅だった。パーフェクトではなくなったが、まだこの程度なら想定内ですむ。
「なんでこんな道通るんだか。さっきみたいに荷物やられたら面目が立たないだろうに。あーあ、御者がいれば、のんびりと荷台で警戒できたのになあ」
御者台で手綱を握りながら、タディーナがぼやいた。
美華の方は、周囲を警戒して、視界のいい後方から左右の崖の上を見ている。正面からの障害はタディーナに任せるとして、ここでは上からの妨害も警戒する必要があったからだ。
すると、予想通り、崖の上で人影が動いた。直後に、上から大きな石が転がり落ちてくる。馬車を潰すほどの大きさではないが、直撃したら衝撃で荷は粉々だろう。
「タディーナ、落石!」
美華が叫んだ。
「走れ!」
タディーナが、馬車を全速で走らせると、上から落ちてくる石にむかってマジックアローを放つ。光の矢が命中してわずかに浮きあがった岩に、美華からもマジックアローが飛んだ。跳ね上がった岩が、粉々に砕けて馬車の荷台を飛び越えるようにして反対側の崖にばらばらとぶつかった。
「くそ!」
犯人があわてて逃げようとするところを、美華がマジックアローで狙撃した。足許を光の矢が霞め、よろけた犯人が崖を滑り落ちてくる。
馬車をコレコに任せた明影が、素早く犯人を取り押さえた。他に仲間がいないかディアドラが周囲を警戒する間に、美華がロープで犯人をグルグル巻きにしていった。
「さあ、キリキリと吐いてもらおうか。なんでこんなことしたんだ?」
タディーナが身動きのできない犯人に詰め寄った。
「そうです。あなた単独犯ですか? まさか、フィギアのライバル業者の差し金とかいうのではないでしょうね」
組織的犯罪を疑って、夕姫が詰問する。
「まあまあ、きっと、フィギアのモデルのファンなんですよ」
ここで袋叩きにしてもまずいだろうと、摩耶が皆をなだめた。
「ああ、そうだよ。俺は、アットリーチェちゃんの大ファンだ!」
「まあ、誰がモデルかと思ったら、あのアイドルだったんですね」
犯人の口から飛び出したアイドルの名前に、思わず摩耶がうなずいた。最近売り出し中の人気アイドルで、リゼリオ経由でグラビア写真集が希少本としてヴァリオスにも回ってくることもある。
「ファンなら、なぜ壊す!」
コツンと犯人を殴って、タディーナが言った。
「できが悪いんだよ! あんなのアットリーチェちゃんじゃないやい!」
「まあ、熱狂的なファンでしたのね」
無茶苦茶な理由を言う犯人に同情するかのような摩耶に、そういう問題かと全員が突っ込んだ。
●ヴァリオス倉庫街
荷物が壊れた馬車の荷台に犯人を放り込んで、一行は届け先の倉庫に辿り着いた。
「御苦労様。ええと、四台も無事だったそうだね」
荷物を受け取りに来た商人のコッレツィオが、一同を出迎えた。フィギアを売りさばいている商人らしいが、なぜかあまり嬉しそうな顔をしていない。
「今後は、ちゃんと梱包材を入れてくださいね」
「あれはいいんだよ」
忠告する夕姫にむかって、コッレツィオがぶっきらぼうに答えた。
ちょうどそこへ、犯人を引き取りに同盟軍陸軍のアルマート・トレナーレ少佐がやってきた。
「今後、こういうことは陸軍に頼んでほしいものですな」
輸送の護衛ぐらいこちらに回せという少佐に、コッレツィオが「あの陸軍にねえ」という顔をする。
「盗難事件も起きているので、今後は事前に報告してほしいものですな」
そう言うと、少佐はむっとした顔のまま犯人を連れていった。
「ところで、どんなフィギアなのか、余にも見せてくれぬか」
気になってしょうがないと、ディアドラが倉庫に運ばれる箱の一つに飛びついた。コッレツィオが止めるのも聞かずに、中味を確かめてみる。
「こ、これは……!」
中から出てきたフィギアを見て、明影が唖然とした。これは、どこの雑魔だろう。どこをどう見ても、アイドルのアットリーチェとは似ても似つかない。いや、はたしてこれを人間のフィギアと呼んでもいいのだろうか!?
「これは、犯人に少し同情します」
摩耶の言葉に、うんうんと優子たちがうなずいた。
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相談用掲示板(21日正午迄) 幸地 優子(ka0922) 人間(リアルブルー)|15才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2014/06/21 11:02:22 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/06/16 23:08:53 |