ゲスト
(ka0000)
【界冥】鎌倉駅発~クラスタ南部包囲戦~
マスター:紫月紫織

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/08/30 07:30
- 完成日
- 2017/09/10 22:03
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
◆鶴岡八幡宮 西・西南・南包囲網
「もう驚くことでもねえんだろうが……いや、ワイバーンなんか生で目にすることになるとは思わなかったぜ。世界はひろ……広いでいいのかな、いいか」
「リアルブルーでは珍しいそうですね、乗ってみますか?」
「……いや、生身での飛行は遠慮しとくわ」
ふるふると首を振って、絵の前のファンタジーから目を背けた。
鎌倉クラスタ包囲戦。
鶴岡八幡宮の西側・東側・正面の敵を排除するにあたって立案された作戦、それに招集された面々を見渡して、統一連合宙軍の強化人間、神座御 純一は改めて背筋を正す。
クリムゾンウェスト北方、龍園より駆けつけたのはドラグーンのシャンカラ、率いるワイバーンの群れはリアルブルー出身のものには少々刺激が強い。
「ふ、ふふふ……スイパラ特等招待券……今日の僕は一味ちがうよ!」
リアルブルー出身の覚醒者、香藤 玲。
ポケットに大事にしまってあるのはオフィスの受付嬢、モリス女史から交換条件に渡されたチケットである、きっちり買収済みだった。
「すごーい、ワイバーンてはじめて見た」
手を上げて喜んでいるのはエバーグリーン出身のオートマトン、ミモザ。
新米のマークが取れるのはまだもう少し先のようだ。
横須賀線上のあるラインを中心に各地から集った者たちが集まっていた。
鶴岡八幡宮の敵を排除する、そのための西側の始点がここ、北鎌倉駅北部にあった。
「それじゃあ最後にもう一度作戦概要の説明をするぜ!」
拡声器をつかって声を張り上げる純一に、場が静まった。
作戦は至極単純である。
北鎌倉駅北部、豪快に脱線した歪虚列車の残骸よりも少し南に設置したトロッコに乗り、横須賀線を全速で南下。
トロッコの進行に合わせてシャンカラ率いるワイバーン部隊が先行し飛行敵からの護衛にあたる、そのまま敵をひきつけて西の空から鶴岡八幡宮へ侵攻。
トロッコはそのまま横須賀線を進行。途中、浄光明寺付近にてトロッコを切り離し玲の部隊が山岳ルートで鶴岡八幡宮を目指し侵攻する。
部隊数により途中にで更にトロッコを切り離し多角的に攻める。
終点は鎌倉駅、そこからの侵攻は純一が案内を務めるミモザを含めた部隊。
これにより一箇所に集中した戦力を短期間に広域展開することで敵の撹乱を狙う。
という作戦だった。
こんな作戦が展開できるのも、先の戦いにおいて電波塔を破壊し、更に線路を支配していた列車型歪虚の破壊に成功した故である。
「私たちはこの位置から線路にそって、先の交錯地点からまっすぐに攻め込めばいいわけですね」
「おう、どれだけ敵を引きつけられるかがその後の部隊散開に影響してくるから、よろしく頼むぜ」
初めて会う同年代っぽいドラグーンに通じるものがあったのだろうか。
がっしと握手をするさまはすでに戦友っぽい。
「森の中か……まかせてよ、今日の僕なら例え火の中水の中さ!」
「今日は最後まで乗ってていいの? いいの? このまえみたいにならない?」
何かスイッチの入っている玲と、トロッコに興味津々のミモザ。
若年組に若干不安を覚える純一だった。
◆終点 鎌倉駅下車の旅
金属の車輪を止めるブレーキの音がけたたましく響く。
鉄の擦れる音はひどく耳障りで、その先行きが険しいものであることを何処か想像させた。
先陣を切って飛び出した純一が隙無くアサルトライフルを構えるが、どうやらすぐに歪虚とご対面という事態は免れたらしい。
「幸先はいいらしいな。進路はこの先だ」
彼の合図にハンターたちが続く。
純一の案内に従って大通りまで出れば、視界の先には鶴岡八幡宮のあった場所にその姿を晒す鎌倉クラスタを捉えることができた。
「此処から先は開けてるからすぐに見つかるだろう、戦闘になったら俺は出来る限りのアシストに回る。メインのドンパチはまだ不慣れだからな、頼りにしてるぜ?」
戦線は順調に押し上げられた。
だが、その途中において進行は妨げられることとなる。
「純一おにーちゃん、あれもリアルブルーの兵器なの?」
「いや……あんなのに見覚えはねぇな。作ってたんだとしたら悪趣味が過ぎるぜ」
「だよね……」
どう見ても歪虚な外見のそれは、ミモザなりの冗談、軽口の類だったのかもしれない。
あるいは、見たことは愚か想像したこともないそれへの不安か……。
建物の影にかくれ様子を伺う。
まだ動き出す様子はないが、それもこのまま侵攻しなければの話だろう。
幾つもの目玉を粘土のように接合した本体に、生える八本の足。
うごめく目玉はそれぞれが索敵を行っているのだろうか、だとしたら死角と言うものには縁がなさそうだ。
足の先についているのはタイヤを模した有機的な何か。
走るのか、あれ? ていうか、なんだあれ? 戦車か?
落ち着け、動揺するなと自分に言い聞かせる。
歪虚が出鱈目なのは今に始まったことじゃないだろう。
暫定的にであれ、今先導しているのは自分だ、動揺すればそれだけ事態は悪化する。
対歪虚という点においてはいずれも純一より場数を踏んでいる面々は、今のところ動揺する様子はない、だが決断は早いほうがいいだろう。
どのみち包囲戦である以上、撃破しないという判断はない。
見た目から推測できるスペックを即座に伝達する。
「目標敵を"スレイプニル"と呼称、これより戦闘に入る。合図は派手に行くぜ!」
「すれいぷにる?」
「八本足をした神話上の名馬の名前さ、無事ことが終わったら話してやるよ」
ぽん、とミモザの頭を撫でて、純一はアサルトライフルを構え直す。
敵めがけて投げつけられたグレネードが閃光を迸らせる。
爆炎とともに狼煙が上がった。
「もう驚くことでもねえんだろうが……いや、ワイバーンなんか生で目にすることになるとは思わなかったぜ。世界はひろ……広いでいいのかな、いいか」
「リアルブルーでは珍しいそうですね、乗ってみますか?」
「……いや、生身での飛行は遠慮しとくわ」
ふるふると首を振って、絵の前のファンタジーから目を背けた。
鎌倉クラスタ包囲戦。
鶴岡八幡宮の西側・東側・正面の敵を排除するにあたって立案された作戦、それに招集された面々を見渡して、統一連合宙軍の強化人間、神座御 純一は改めて背筋を正す。
クリムゾンウェスト北方、龍園より駆けつけたのはドラグーンのシャンカラ、率いるワイバーンの群れはリアルブルー出身のものには少々刺激が強い。
「ふ、ふふふ……スイパラ特等招待券……今日の僕は一味ちがうよ!」
リアルブルー出身の覚醒者、香藤 玲。
ポケットに大事にしまってあるのはオフィスの受付嬢、モリス女史から交換条件に渡されたチケットである、きっちり買収済みだった。
「すごーい、ワイバーンてはじめて見た」
手を上げて喜んでいるのはエバーグリーン出身のオートマトン、ミモザ。
新米のマークが取れるのはまだもう少し先のようだ。
横須賀線上のあるラインを中心に各地から集った者たちが集まっていた。
鶴岡八幡宮の敵を排除する、そのための西側の始点がここ、北鎌倉駅北部にあった。
「それじゃあ最後にもう一度作戦概要の説明をするぜ!」
拡声器をつかって声を張り上げる純一に、場が静まった。
作戦は至極単純である。
北鎌倉駅北部、豪快に脱線した歪虚列車の残骸よりも少し南に設置したトロッコに乗り、横須賀線を全速で南下。
トロッコの進行に合わせてシャンカラ率いるワイバーン部隊が先行し飛行敵からの護衛にあたる、そのまま敵をひきつけて西の空から鶴岡八幡宮へ侵攻。
トロッコはそのまま横須賀線を進行。途中、浄光明寺付近にてトロッコを切り離し玲の部隊が山岳ルートで鶴岡八幡宮を目指し侵攻する。
部隊数により途中にで更にトロッコを切り離し多角的に攻める。
終点は鎌倉駅、そこからの侵攻は純一が案内を務めるミモザを含めた部隊。
これにより一箇所に集中した戦力を短期間に広域展開することで敵の撹乱を狙う。
という作戦だった。
こんな作戦が展開できるのも、先の戦いにおいて電波塔を破壊し、更に線路を支配していた列車型歪虚の破壊に成功した故である。
「私たちはこの位置から線路にそって、先の交錯地点からまっすぐに攻め込めばいいわけですね」
「おう、どれだけ敵を引きつけられるかがその後の部隊散開に影響してくるから、よろしく頼むぜ」
初めて会う同年代っぽいドラグーンに通じるものがあったのだろうか。
がっしと握手をするさまはすでに戦友っぽい。
「森の中か……まかせてよ、今日の僕なら例え火の中水の中さ!」
「今日は最後まで乗ってていいの? いいの? このまえみたいにならない?」
何かスイッチの入っている玲と、トロッコに興味津々のミモザ。
若年組に若干不安を覚える純一だった。
◆終点 鎌倉駅下車の旅
金属の車輪を止めるブレーキの音がけたたましく響く。
鉄の擦れる音はひどく耳障りで、その先行きが険しいものであることを何処か想像させた。
先陣を切って飛び出した純一が隙無くアサルトライフルを構えるが、どうやらすぐに歪虚とご対面という事態は免れたらしい。
「幸先はいいらしいな。進路はこの先だ」
彼の合図にハンターたちが続く。
純一の案内に従って大通りまで出れば、視界の先には鶴岡八幡宮のあった場所にその姿を晒す鎌倉クラスタを捉えることができた。
「此処から先は開けてるからすぐに見つかるだろう、戦闘になったら俺は出来る限りのアシストに回る。メインのドンパチはまだ不慣れだからな、頼りにしてるぜ?」
戦線は順調に押し上げられた。
だが、その途中において進行は妨げられることとなる。
「純一おにーちゃん、あれもリアルブルーの兵器なの?」
「いや……あんなのに見覚えはねぇな。作ってたんだとしたら悪趣味が過ぎるぜ」
「だよね……」
どう見ても歪虚な外見のそれは、ミモザなりの冗談、軽口の類だったのかもしれない。
あるいは、見たことは愚か想像したこともないそれへの不安か……。
建物の影にかくれ様子を伺う。
まだ動き出す様子はないが、それもこのまま侵攻しなければの話だろう。
幾つもの目玉を粘土のように接合した本体に、生える八本の足。
うごめく目玉はそれぞれが索敵を行っているのだろうか、だとしたら死角と言うものには縁がなさそうだ。
足の先についているのはタイヤを模した有機的な何か。
走るのか、あれ? ていうか、なんだあれ? 戦車か?
落ち着け、動揺するなと自分に言い聞かせる。
歪虚が出鱈目なのは今に始まったことじゃないだろう。
暫定的にであれ、今先導しているのは自分だ、動揺すればそれだけ事態は悪化する。
対歪虚という点においてはいずれも純一より場数を踏んでいる面々は、今のところ動揺する様子はない、だが決断は早いほうがいいだろう。
どのみち包囲戦である以上、撃破しないという判断はない。
見た目から推測できるスペックを即座に伝達する。
「目標敵を"スレイプニル"と呼称、これより戦闘に入る。合図は派手に行くぜ!」
「すれいぷにる?」
「八本足をした神話上の名馬の名前さ、無事ことが終わったら話してやるよ」
ぽん、とミモザの頭を撫でて、純一はアサルトライフルを構え直す。
敵めがけて投げつけられたグレネードが閃光を迸らせる。
爆炎とともに狼煙が上がった。
リプレイ本文
探るように、あるいは確かめるように、ぎょろぎょろと目玉はせわしなく動く。
こちらの居場所を見透かされているかのような薄気味の悪さに、ハンドルを握る手がじんわりと汗ばむのを感じつつ、メアリ・ロイド(ka6633)は大まかな位置を確認する。
路面の状況はひたすら悪く、一瞬操作の手元が狂えばどうなるかわからない、だが走れる。
それだけの確信を持って、メアリはそれと共に征くことを決めた。
「今日は貴方の獅子奮迅ぶりにかかっていますからね…よろしくお願いしますよ」
隣ではハンス・ラインフェルト(ka6750)が馬の鬣を撫でながらゆっくりと声をかけていた、そこに恐れや不安はない。
不安を見せているのはその隣りにいるミモザだった。
歪虚列車もそうであったが、彼女からしてみれば大物続きの相手である。
新調したばかりのオートマチックがきつく握りしめられていた。
「死なないことが1番です。危なくなったら逃げるんですよ? 敵は多分、スピードが出たら中後衛目がけて突っ込んできます。跳ね飛ばされないで逃げられる位置を常に意識しながら戦うように……貴女を守れるのは貴女だけですからね」
「そうですね、生き残ることがまず第一です」
ハンスの言葉にメアリもそのとおりだと頷く。
そして心配いらないとも。
「大丈夫ですよミモザさん、みんな強い人ばかりですから!」
無論私も、そんな自負とともにアシェ-ル(ka2983)は二人を鼓舞する。
そんな言葉に純一も、頼もしいねぇとこぼす。
「狂気連中は無駄にバリエーション豊富だな。どれもおぞましくて困るンだがなァ」
短くなった紙巻煙草を踏み消し、新しい一本を取り出す。
肺腑の奥まで吸い込まれた紫煙がゆっくりと吐き出されて風に溶けた。
どこかゆったりとした間の後、シガレット=ウナギパイ(ka2884)の視線が純一とミモザを捉える。
「お前らは後方から支援を頼む」
「うん、まかせて!」
「了解だ。前を任せることになって申し訳ないと思うが、頼りにしてるぜ」
元気に答えるミモザに対し、純一の思いは少々複雑だった。
だが、とやかく言っても始まるものではない、そう割り切って腰からグレネードを取り出した。
「へへーん、こいつは俺様ちゃん死ぬかもしんねーな」
本気で言っているようには思えず、軽口のそれに聞こえるような事を言いながら、ゾファル・G・初火(ka4407)は自身の倍程もある斧を構える。
「うーん、何で狂気は精神衛生上よろしくない姿をした個体が多いんだろうね?」
「狂ってるからじゃね?」
藤堂 小夏(ka5489)の疑問混じりのつぶやきに、初火のとてもシンプルな回答が返ってきて、思わず納得しそうになる小夏だった。
「そんじゃま、くず鉄を一丁作るとしますかねぇ。どこぞの機導士の如く」
負けることはそもそも想定にない、とばかりに口にしつつ、龍崎・カズマ(ka0178)は油断なくスレイプニルの挙動などに目を光らせる。
勝つことは大前提、だが求めるのはそれ以上。
見る限り、ここより手前の瓦礫は大きく、逆にそれより先の瓦礫は細かく砕けている。
それは何度となく踏み荒らした結果、均されたようにも見える。
「あれが巡回、とは考えにくいよな」
「そうですね。どっちかというと守りでしょうか?」
巡回にしては巨大で、小回りは効きそうにない。あえて表現するならば、それは縄張りを護るための移動砲台だろうか。
――拠点防衛。
そう考えるのがしっくり来る。
「ぶち抜いちまえば終わりじゃねーの?」
「……そうだな」
この戦闘が山場になると、確信して剣の柄に手を伸ばした。
投げられたグレネードは三つ。
一つは高く、一つは鋭く、そして一つは緩やかだった。
それを追って幾つもの目玉が複雑に視線を巡らせる。
純一はくるりと掌を翻す、構えられたオートマチックが弾を吐き出す。
放たれた弾丸は投擲されたグレネードを的確に撃ち抜いて爆炎を上げる。
一つは目くらましのフラッシュグレネード、二つは誘導した視線を妨害するスタングレネード、本命の三つ目着弾し黒い爆炎を上げ、それが合図。
それと同時に、戦場を穏やかな歌が包み込んだ。
「合図の後が地味って訳にはいかねぇよなぁ!」
馬の嘶き、そしてエンジンの雄叫びとともに、全員が一斉に飛び出す。
「オラオラゴルァ! よそ見できねえようにしてやんよ!」
先陣を切るその大斧に、ぞるりと纏う、赤。
吹き出すマテリアルにスレイプニルも気づいたのか、無数の目からビームが吐き出される、その中嵐のような攻撃の中を強引に突き進む初火。
最大最高の一撃を、それを持って、戦端となす!
鎧が攻撃を弾く音、吹き出す赤、舞い散る痛み、それらすべてを飲み込んで、その一手まで届かせる。
それは命を確かに輝かせるもので、まごうことなき彼女にとっての生きがいに他ならない。
ぞぶり、と狂気の肉を引き裂くように、深々と突き立った大斧を前に、スレイプニルは困惑し一度距離を取ろうとする。
そこにあるのはもしかしたら、驚愕だったのかもしれない。
影からずるりと幻が浮き上がった。
手の形をしたそれが這い伸びてぎしりとスレイプニルを捕獲する、突如として足回りが重くなったことにその無数にある目をぎょろりと向けて幾重もの光線を吐き出す。
それをかいくぐるように岩井崎 旭(ka0234)はなおも加速する。
肌をかすめた光線が幾筋もの赤を刻み、それでもなお肉薄する。
「閉じるまぶたもねぇと、ちょっとばかし眩しいぜ!」
大地から吹き上がり空をも焦がす閃光の中、歪虚のタイヤが激しく回転し戒めを振りほどこうとする。
だが――
「検問中だ。歪虚は通行止めだぜェ!」
にやりと口元が嘲笑う、立ち上った閃光が降り注いできた、と見紛うほどの光の杭の群れが突き立ってゆく。
深々と、歪虚を大地に縫い止めんとばかりに。
抵抗するかのように激しく呻きを上げる八つのタイヤそのうちの一つが闇色の閃光とともに寸断される。
激しく大地を掻いていたそれは、支えを失いあらぬ方向へと走り出し近場のビルの壁へと激突して黒いマテリアルを散らす。
口ずさむ穏やかな歌とは対象的に、その一撃は一切の容赦なく苛烈。
「まずは一つ」
降り注ぐレーザーの雨を掻い潜りながら、身の丈ほどの大剣を手に身を翻すようにカズマ疾走る。
その視界に、建物の影から身を隠しながらの射撃を繰り替えす純一を収めつつ……。
そしてそんなカズマを追うように幾つもの視線が追従するそれも想定内。
「そんだけ目があんだから、よそ見はなしだぜェ」
――かわらねェかもだけどよォ、なんて言いながら杖を掲げる。
青く輝く稲妻が湧き上がり周囲を薄ら照らす、直後に電撃がタイヤ二つを巻き込んで弾けた。
動きを制圧されたスレイプニルに可能な反撃と言うのは限られる。
その手数を増やすためだろうか、縦に横にと入った亀裂からぞるりと眼球が分裂し、ぐるりと動くように二度、三度それを繰り返す。
威力よりも手数を取ったのだろうその行為により、瞬く間に降り注ぐビームの数は雨のように増してゆく。
「近くで見るとデカいね……まぁやることはいつもと同じだから関係ないけど」
「装甲型戦車……にしては目玉多すぎてきしょいな。ビームがめんどいから潰していくとするかっ」
バイクでそれぞれ交錯するように走っていたメアリと小夏は途中二手に分かれる。
回避し切ることもままならない攻撃の手数に加え、悪い足場がそれに拍車をかけていた。
結果として回避は思うようには行えず、じわじわと体にもバイクにも焦げ跡が増えていく。
その大半は鎧の硬い部分で阻まれて、ダメージが大きいというわけではない。
ジリ貧になるか、と思われたその時、迸る閃光が小夏の車体を掠めた。
それはタイヤ二つを巻き込んで打ち出されたシガレットの雷撃、タイヤは未だ健在であるものの、大きく破損したそれめがけて刀を振り下ろす。
「視界に入ってるのも不愉快だし、さっさと壊れてくれると嬉しいんだけど」
低く唸るような音が大気を震わせ、タイヤがまた一つ吹き飛んだ。
一方でメアリは進路を最寄りの建物の壁へと向けアクセルをふかす。
上体を持ち上げられたバイクはそのまま建物の壁を駆け上がり空へと翔ぶ。
「よく見えるぜ、視界良好だっ!」
きらりと輝く三条の軌跡がスレイプニルの目玉めがけて突き刺さる、だが攻勢はこれで終わりというわけではない。
空高く舞ったその身は頂点から落下運動へと切り替わる。
限界ギリギリのフルスロットル、メアリの操るバイクがスレイプニルの頭上に降り注ぎ、幾つもの眼球を引き裂きながらも駆け抜けていった。
その背後が、位相がずれたかのように寸断される。
「いやはや、メアリさんも派手ですね」
ゴースロンを駆り、飛来するレーザーを刀で払い、時に防具で受けながらも距離を詰めるハンス。
身の丈以上の大剣が舞刀士特有の動きで光を切り裂きながら肉薄し、高い音を立てる。
流れるように繰り出された斬撃が半壊していたタイヤを捉える。
「これで四つ目、ですかね」
寸断出来るとの確信を持って、ぽつりと漏らす。
ふっ、と気配が薄くなる。
次の瞬間には、タイヤが、幾つもの眼球と共に、空間ごと切り取ったかのように寸断された。
「見れば見るほど気持ち悪いです」
ひょこり、と瓦礫の影から顔を覗かせ、その目玉の増殖プロセスにアシェールは内心で吐き気をもよおしていた。
すでに潰された目玉はスレイプニルが体内に蓄えこんだ負のマテリアルによってか、ぐずぐずに一度溶けたようになり、そこから新たな目玉が沸き上がるかのように現れていた。
おぞましいの一言に尽きる。
だが、潰れた目玉からはしばらく攻撃がなくなるようで、それを目的として純一とミモザが目玉をピンポイントで潰すように射撃を繰り返していた。
それがアシェール側に偏っているのは視界潰しの意味も含めてだ。
そしてほぼスレイプニルの足はとまり、機は熟した。
「線路の時はやりすぎましたが、これなら、どんどん、魔法を撃ちこんでもいいですよね!」
始まる魔法の詠唱は、いつからか穏やかなものから迫力のある力強いものへと変わった歌に乗って、戦場の誰もに聞こえるような力に満ちた物だった。
そこにミモザからの支援が入る。
頃合いと見た純一はグレネードをスレイプニルの頭上高くへと放る。
「どれだけ効果があるかはわからんが……」
(スキルっつーんだっけっか? 羨ましいねぇ)
詠唱中のアシェールと、それに援護を飛ばすミモザを見ながら、思う。
アシェールの左手には強烈な冷気が、そして右手には灼熱の火球が生み出されていた。
頃合いを見計らい、それを解き放つ。
直後、純一の閃光グレネードとは言葉った光が膨れ上がる。
光が収まった頃にはスレイプニルの土手っ腹に巨大なクレーターが出来上がっていた。
「一応、魔術師ですから。私だって、これぐらい!」
立て続けに攻撃を喰らい、スレイプニルは恐慌状態にあった。
何より足回りを封鎖されたことがそれに拍車をかけていただろう。
――迎撃しなければならない。
だが足回りはほぼ完全と言っていいぐらいに制圧されている。
至った結論はシンプルであった。
幾つもに別れていた目玉がくっつき、溶け合い、まんべんなく分布する。
その段階で小夏から全員へ警戒の指示が飛んだ。
凝縮されていく負のマテリアルは、やがて弾けるように吹き出した。
すべての目がせわしなくぎょろぎょろと動きながら、ビームを吐き出し続けたのだ。
それは空間を舐めるようにまんべんなく、埋め尽くすような闇色の光の奔流だった。
周辺の建物をことごとく崩壊させ蹂躙し尽くしたスレイプニルの最大の攻撃は、それでもなおハンターたちには届かない。
全員がそれぞれの手札を用いて耐えしのいでいた。
純一はやや重症気味であるが、戦闘が行えないというほどではなく、ミモザに至っては強い正のマテリアルによって護られていた。
ふわりと溶けるように消えたそれは、誰かの思いだったのかもしれない。
驚愕に見開かれていたかのようなスレイプニルに、ぞぶりと突き立てられる剣があった。
ぎょるり、とスレイプニルの視線が向く。
その瞳に銀色が映っていた。
「今ので終いか? だとしたら、お前さんくず鉄行きだぜ」
大幅に負のマテリアルを放出したスレイプニルはすでに脅威と呼べるほどの存在でもなくなっていた。
吹き荒れる烈風が大地を疾走る。
再び振りおろされた大斧がスレイプニルの胴体を叩き割るかのように突き立てられる。
必死に振り絞られるように放たれるビームは次第に細く、弱々しくなっていった。
スレイプニルに不運があったとするならば、それは紅界のハンターを知らなかったことに尽きるのかもしれない。
塵になるように消えていくスレイプニルを尻目に、それぞれ被害を確認する。
幸いにも死傷者、死傷動物などはなしである。
「おう、大丈夫か? 途中、なんともなかったか?」
そう言って瓦礫にぶち当たっていた純一に声をかける。
「途中? ああ、狂気感染のことか? いや、大丈夫だったぜ、なんか調子よかったしな」
「そうか、ならよかったよ」
おそらくマテリアルの正負についてもよくわかっていないため、純一には質問の意図を悟られてはいないだろう。
だが、この様子では歌術による悪影響は特になさそう、と言うより順当に効果を発揮しているようだ。
「弾幕シューティングみたいだったにゃ」
「ならもう少し避けたほうが良かったのでは?」
正面から避ける気も無く突撃した初火の言葉に、同類でも若干ベクトルは違うものだなとハンスは思う。
「おーうお前ら、怪我の具合見せろ」
「手当しますよー、ミモザさん大丈夫でしたか?」
シガレットとアシェールが一人ずつ確認して回っていた。
「う、うん。なんかふわーってなって、大丈夫だった」
「? 不思議な事もあるものですね」
かくんと二人して首を傾げた。
「それにしても気持ち悪かったなぁ。本当に何をするのかわからないね、VOIDってのは」
「全くですね、そちらは大丈夫ですか?」
「うん、エンジンには被弾なかった。そっちも?」
「ええ、幸いなことに、走るのに支障はなさそうです」
バイクの状態を確認しつつ、小夏とメアリは互いにやり取りしつつ応急処置を済ませていく。
「他のところは上手くやってるかね」
隣で馬の手当をしていた旭の言葉に、先に下車していた面々のことをふと思い出す。
「大丈夫だよきっと」
「ええ、頼もしい味方もついてらっしゃいましたし」
「そっか、そうだな」
見上げた西の空に、高らかに舞うワイバーンの姿が見えた。
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
---|
面白かった! | 12人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
- 東方帝の正室
アシェ-ル(ka2983)
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
相談卓です! アシェ-ル(ka2983) 人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2017/08/30 06:23:00 |
|
![]() |
質問卓~ミモザさんに訊こう!~ アシェ-ル(ka2983) 人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2017/08/28 12:25:14 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/08/28 05:20:20 |