ゲスト
(ka0000)
アマリリス~ポカラ駐屯地の危機
マスター:深夜真世

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/08/31 22:00
- 完成日
- 2017/09/14 01:02
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
ここは同盟領のどこか。「ポカラ」と呼ばれた村のあった地域。
アマリリス商会のモータル率いる義勇隊が、今日も村の跡地を山城化する作業に精を出していた。同商会の管理するセル鉱山に受け入れた村の難民から跡地の管理を任され、魔術師協会広報部に掛け合って大型歪虚の動向を探る任務の委託を取り付けてから結構な月日が経過している。
「モータル、セル鉱山のメイスンから手紙が届いた」
村の建物が大型歪虚に破壊しつくされたのちに建てた宿舎にいたリーダーのモータルは、物資の定期便のチェック中にそんな声を掛けられた。
「ありがとう、見せてくれ」
商会仲間のメイスンには、ここの村民から聞いてもらいたいことを手紙に書いて託していた。
返答はというと――
前略
モータル、義勇隊任務お疲れ様です。
先日受け取った手紙の質問を村民に聞いてみました。
・村に、何か歪虚に狙われる秘密があるか?
→心当たりはない
・昔もこんなに歪虚に襲われていたのか?
→こんなことは今までなかった。最近になって突然のことだ。
以前にも聞いた通り、改めて聞いても同じ回答です。
これに加え、改めて私の方から聞いてみたことも添えておきます。
・最近、突然とのことですが、心当たりはありますか?
→まったく、ない。
偶然、と結論付けるほかはないが、石工としては受け入れがたい結果です。
一つ石組みがずれていた場合、その石に問題なくても離れた場所や意外な個所で組んでいる石に問題があると考えるからです。このケースの場合は、その離れた場所のものはより大きな問題を抱えていることが多いことも特徴です。
何か、大きな問題がどこかで発生していないか心配です。
「その、大きな問題ってのが分かればね」
モータル、手紙を丁寧に折り畳んだ。
「森の奥に昆虫やら大型の歪虚が発生して、一直線に森の外に攻めて来た場所がここ、って考えるしかねぇだろ」
義勇隊仲間で元ならず者のキアンが寄って来て口を尖らせた。
「それだと一方的に攻められるだけだろ?」
「ま、性には合わねぇな」
ため息のモータル。軽口を叩くキアン。
「それより、外堀の作業は?」
「森方面だけだからな。かなり進んでいる」
現在、先の大蜘蛛歪虚退治で雇ったハンターたちの提言にしたがい、駐屯地の周りに堀を作っている。川は離れているため空堀であること、落ちた敵が横に大きく移動させないため、などの理由から一本の長い堀ではなく、二重でところどころが切れている。相互に切れ目を補っているため、森から一直線に来る敵を必ず一度は防ぐ形になっている。
「ビルドムーバー使ってるから楽なんだがよ……先の大蜘蛛歪虚といい羽根蟻歪虚といい、空も移動するから意味ねぇんじゃねぇか?」
なお、ハンターたちは同時に地対空防衛を想定しゴーレムの運用を提案していたが、いくら魔術師協会広報部の協力を取り付けたとはいえ、ハンター登録していない覚醒者の義勇隊にユニット貸与の許可は出なかった。アマリリス商会は闇の密売人「ベンド商会」の後ろ盾があるが、こちらのルートからの調達も不可能。可変型魔導アーマー「ビルドムーバー」を数台所有しているのが、これは試作した技術者集団「十三夜」から直に仕入れているため。ちなみにビルドムーバーのハンターソサエティ正式ユニット採用を狙っていたが、これはすでに頓挫している。
「まあ、その土で土塁も築いている。飛んでくる蟻酸は放物線を描くが、土塁があるのとないのではずいぶん違うはず」
もちろん、森から木々を伐採しているが、こちらは柵になどに使うより宿舎など生活環境の向上に活用しているのが現実だ。
とにかく、形としてはリアルブルーの日本でいう、戦国時代の山城と似たような形となっていた。
この時。
「た、大変だ~!」
物見櫓の方から叫び声が。
「どうしたっ!」
「森から……樹が……大樹が……」
「な、なんだ、あの空に浮いた大木は」
「一体、何の樹だ?」
「……歪虚の樹、としか考えられんな」
口々にこぼし、呆然と視線を向ける駐屯隊の面々。
指差す先には、横に枝を伸ばして大きく広がった、まるでマッシュルームかカリフラワーかというようなシルエットの大樹が……森の上、宙に浮いていたのだ!
しかも、ゆっくりとこちらに向かってきている。
「まずい。魔術師協会広報室に連絡を!」
「ハンターをすぐ呼べっ! ユニットで戦えるのだ!」
すぐに救援要請を飛ばす。
というわけで、ポカラ村を守ってくれる人、求ム。
アマリリス商会のモータル率いる義勇隊が、今日も村の跡地を山城化する作業に精を出していた。同商会の管理するセル鉱山に受け入れた村の難民から跡地の管理を任され、魔術師協会広報部に掛け合って大型歪虚の動向を探る任務の委託を取り付けてから結構な月日が経過している。
「モータル、セル鉱山のメイスンから手紙が届いた」
村の建物が大型歪虚に破壊しつくされたのちに建てた宿舎にいたリーダーのモータルは、物資の定期便のチェック中にそんな声を掛けられた。
「ありがとう、見せてくれ」
商会仲間のメイスンには、ここの村民から聞いてもらいたいことを手紙に書いて託していた。
返答はというと――
前略
モータル、義勇隊任務お疲れ様です。
先日受け取った手紙の質問を村民に聞いてみました。
・村に、何か歪虚に狙われる秘密があるか?
→心当たりはない
・昔もこんなに歪虚に襲われていたのか?
→こんなことは今までなかった。最近になって突然のことだ。
以前にも聞いた通り、改めて聞いても同じ回答です。
これに加え、改めて私の方から聞いてみたことも添えておきます。
・最近、突然とのことですが、心当たりはありますか?
→まったく、ない。
偶然、と結論付けるほかはないが、石工としては受け入れがたい結果です。
一つ石組みがずれていた場合、その石に問題なくても離れた場所や意外な個所で組んでいる石に問題があると考えるからです。このケースの場合は、その離れた場所のものはより大きな問題を抱えていることが多いことも特徴です。
何か、大きな問題がどこかで発生していないか心配です。
「その、大きな問題ってのが分かればね」
モータル、手紙を丁寧に折り畳んだ。
「森の奥に昆虫やら大型の歪虚が発生して、一直線に森の外に攻めて来た場所がここ、って考えるしかねぇだろ」
義勇隊仲間で元ならず者のキアンが寄って来て口を尖らせた。
「それだと一方的に攻められるだけだろ?」
「ま、性には合わねぇな」
ため息のモータル。軽口を叩くキアン。
「それより、外堀の作業は?」
「森方面だけだからな。かなり進んでいる」
現在、先の大蜘蛛歪虚退治で雇ったハンターたちの提言にしたがい、駐屯地の周りに堀を作っている。川は離れているため空堀であること、落ちた敵が横に大きく移動させないため、などの理由から一本の長い堀ではなく、二重でところどころが切れている。相互に切れ目を補っているため、森から一直線に来る敵を必ず一度は防ぐ形になっている。
「ビルドムーバー使ってるから楽なんだがよ……先の大蜘蛛歪虚といい羽根蟻歪虚といい、空も移動するから意味ねぇんじゃねぇか?」
なお、ハンターたちは同時に地対空防衛を想定しゴーレムの運用を提案していたが、いくら魔術師協会広報部の協力を取り付けたとはいえ、ハンター登録していない覚醒者の義勇隊にユニット貸与の許可は出なかった。アマリリス商会は闇の密売人「ベンド商会」の後ろ盾があるが、こちらのルートからの調達も不可能。可変型魔導アーマー「ビルドムーバー」を数台所有しているのが、これは試作した技術者集団「十三夜」から直に仕入れているため。ちなみにビルドムーバーのハンターソサエティ正式ユニット採用を狙っていたが、これはすでに頓挫している。
「まあ、その土で土塁も築いている。飛んでくる蟻酸は放物線を描くが、土塁があるのとないのではずいぶん違うはず」
もちろん、森から木々を伐採しているが、こちらは柵になどに使うより宿舎など生活環境の向上に活用しているのが現実だ。
とにかく、形としてはリアルブルーの日本でいう、戦国時代の山城と似たような形となっていた。
この時。
「た、大変だ~!」
物見櫓の方から叫び声が。
「どうしたっ!」
「森から……樹が……大樹が……」
「な、なんだ、あの空に浮いた大木は」
「一体、何の樹だ?」
「……歪虚の樹、としか考えられんな」
口々にこぼし、呆然と視線を向ける駐屯隊の面々。
指差す先には、横に枝を伸ばして大きく広がった、まるでマッシュルームかカリフラワーかというようなシルエットの大樹が……森の上、宙に浮いていたのだ!
しかも、ゆっくりとこちらに向かってきている。
「まずい。魔術師協会広報室に連絡を!」
「ハンターをすぐ呼べっ! ユニットで戦えるのだ!」
すぐに救援要請を飛ばす。
というわけで、ポカラ村を守ってくれる人、求ム。
リプレイ本文
●
ポカラ駐屯地から見た北部の森とその上空は幻想的ですらあった。
ぎゃあぎゃあと鳥が騒ぎ逃げるその上を、ゆっくりと超巨大な大樹が根元の大地ごと浮き上がってこちらにやってきているのだから。
「わあ。あのきなんのきいのきのき……じゃなかった、きになるきーだったりするかも」
駐屯地では、ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)が刻令ゴーレム「Volcanius」の「ニンタンク『大輪牡丹』」(ka5784unit002)の横で驚いている。手をひさしのようにしている通り、まだまだ遠い。
それでも大きい。
「あー、あの大樹が浮いてる姿、映画で見た事があるな~。天空の城とかいう奴」
天竜寺 舞(ka0377)は魔導型デュミナス「弁慶」(ka0377unit001) のハッチを開け、そこに立っている。
「ええと、空にそびえる何とかの城?」
「それは最強のロボットに与えられる称号がZの話」
ルンルンのボケに付き合い突っ込む舞。冗談は手短にするつもりがルンルンのペースに巻き込まれる。
「久し振りです……一体何があったんですか?」
そんな二人は放っておいて振り返り、サクラ・エルフリード(ka2598)が駐屯地のリーダー、モータルに聞く。
「何があったも何も、一方的ですよ」
「小さな王の蟲を連れて来たら大きな王の蟲の大群が、という話は聞いたことがあるので」
モータルの言葉に納得するサクラ。舞から「それは風の谷」というツッコミが飛んでくる。
その時だった。
「変化がありましたの」
魔導アーマー量産型「Gustav」(ka1804unit002) の四本足の右前膝あたりに立つ八劒 颯(ka1804)が静かに言った。
「わぁ、でっかい木から沢山虫が出てきた」
夢路 まよい(ka1328)は手を合わせるようにして瞳キラキラ。
宙に浮く大樹歪虚から大カブトムシ歪虚複数が飛び立ったのだ。
「虫……ですか」
「いや、小さな王の蟲は連れて来てないです!」
振り返るサクラの視線に語気を荒げるモータル。
「なかなかファンタジーですね」
「何が原因か分からないが、こうも立て続けに事が起きるとは、な。真剣に周辺の徹底的な調査を上申する必要があるかもしれないな」
離れた場所では魔導型デュミナス「Phobos」(ka0018unit001)のハッチを開けシートに座って目視確認していたクオン・サガラ(ka0018)が呟き、隣の魔導型デュミナス「Falke」(ka0895unit003) に搭乗しようとしているアバルト・ジンツァー(ka0895)も振り返り思いを巡らせている。
この時、大樹歪虚の根元に変化があった。
「……何か落としたな?」
不動シオン(ka5395)が目を細め注目する。もちろんほかの仲間も。
「わぁ、今度はたくさん幼虫が出て来た」
まよいの言う通り、ぼろぼろと根元の大地が崩れ土と一緒に白く丸まった幼虫が落ちて来たのだ。
幼虫歪虚はぼとっと大地に落ちると地面に潜って……。
「こっちに来ますの」
「さしずめ地上部隊というところか」
颯の呟きにアバルトの解説。
「……初手から「生産施設付の移動要塞」持ってきますか…あの木」
さらにクオンが事態の重大さに気付き呆れ……いや、静かに気合を入れハッチを閉めた。
「あれははやてにお任せですの!」
グスタフに乗り込んだ颯が連絡してくる。
「ユニット種別で行動は大体分かるが、後で各自行動を簡単に知らせてくれ」
アバルトもフォルケに乗り込み呼び掛ける。両肩の鷹の意匠が、いや、カーキの機体全体が動き出す。
「巨大樹木に巨大昆虫……今度も私を楽しませてくれるのだろう?」
シオンもイェジド(ka5395unit001) にまたがった。弾かれるように山城化された駐屯地から飛び出し、草原を力強く疾駆する。
「ふぅん。カブトムシ、あんまり空高くは飛ばないんだ」
まよいはグリフォン「イケロス」(ka1328unit002) の背中に乗る途中で空を見てぽそり。
「虫はそんなに好きではないですし、さっさと退治してしまいましょう…」
サクラもワイバーン(ka2598unit005)の頭を撫でて騎乗。まよいとともに飛び立った。
●
敵の侵攻は、当然空を飛ぶ大カブトムシが早い。
「大量の虫達の行軍…。あまり見ていて気持ちいいものではないですね、これ……」
空を行くサクラがまずは敵と当たりそうだ。地上ではぼこぼこぼこっと大地が盛り上がり地中を幼虫が進んでいるのが分かる。
(空戦は初めてでしたね……)
サクラ、聖導士として霊槍「グングニル」と盾を手に戦馬を駆り戦場を行くたびも駆け抜けた。騎乗戦闘はお手のものだが、空となると話は違う。
「きっと何とかなるでしょう…。頼みますよ…」
高速接近するカブトムシを遠くに、ワイバーンの身体を撫でてやる。
――ドッ、ドッ!
これを合図にワイバーンが口を噛み獣機銃「シエージュR4」を発射。
敵、真正面からでもあり余裕でかわしてくる。
そして相互が高速接近しているだけに射程圏内からの接近はほぼ一瞬だったりする。昆虫のつやつやする巨体が目の前だ。
「こう大きいと不気味ですが……近接戦なら得意な間合いですよ…。私を甘く見ないことですね…」
眉を顰めグングニル投擲。
すれ違いざまに命中するが敵表面、結構固い。それでもダメージを与え戻ってきたところをキャッチする。
「手を変えましょう」
サクラ、後方上空振り返りつつ旋回する。
振り向いた上空には、まよいがいた。
「やぱり空から攻撃し放題だね! 昆虫採集、頑張っちゃおっと♪」
まよいの乗るイケロス、距離をロスしたが加速してより上空に位置していた。
もちろん、敵先頭のカブトムシを攻撃する予定だ。いまサクラと一体がすれ違った。
「でも、固まってくれないね……」
まよい、しょぼん。
「でもでも、網を一回振っただけでたくさん捕れるわけでもないしね!」
実際の虫取りを持ち出し気を取りなおしつつ、ぐーんと急降下。
「油断したら射程からすぐ逃げそうだね……グラビティーフォールだよ!」
深紅の杖を振るって紫色の重力波。がすん、とカブトムシの飛行が崩れる。そこへ反転したサクラからの銃撃。敵、高度を下げた。
「やった……あれ?」
ここで黄色い雨が。当たるとひりひり痛い。
酸だ!
上を見ると、放物線を描いて落ちてきている。前方に縦回転しているカブトムシがいた。
酸を上にまき散らしているのだ。
「動いた方がよさそうだね、イケロス」
むしろ酸放出している敵の方が狙いやすい、とそちらに向かう。
一方、地上部隊。
「ルンルン忍法第零占術……私がみんなの進むべき未来を教えちゃうんだからっ☆」
最後方ではルンルンが禹歩で吉凶を感知するなど援護射撃に向く場所へと移動していた。
でもって場所確保。
「ニンタンク『大輪牡丹』ちゃん、空に大きく花火を打ち上げるのです!」
双眼鏡で敵確認。戦況もばっちり見回して一点を指差す。
「ニンジャ弾壱式霞礫装填……てーっ!」
凛々しく支持するルンルンの背後にそびえる大輪牡丹、単発式長射程のカノン砲「スフィーダ99」を発射。どーん、と激しい砲撃音が響く。後方から爆風が散り低反動ながら機体が揺らぐ。
が、遠くを高速飛行するカブトムシに当てるのはなかなか難易度が高い。砲弾は惜しくも外れる。
「でも味方に突っ込もうとしたのは止められたのです。このまま支援砲撃を続けちゃいます!」
双眼鏡で覗いてお目めパチクリさせて先の攻撃の戦術的効果を再確認。
まったく戦意低下せず効果的な砲撃を続ける。
この時、アバルトはトランシーバーなどで味方と通信していた。
「この間もそうだけど……また虫だよ!」
「まずは……今の所は飛行できないCAMからすれば数の多い幼虫をどうにかする事ですね」
吠える舞、そして冷静なクオンの声。
「……了解。上を当たろう」
アバルト、二人の行動指針から自らの取るべき行動を通信して知らせる。
「……気にせず存分に戦ってくれればそれでいい」
回線を切ってから呟くとフォルケを操作。4連カノン砲の長い砲身を斜め上空に構える。軽く落とした腰は高威力の証。もちろん反動も高いが……。
「砲射撃戦に特化して調整してるんでね」
――ギャーン!
砲身横の幽霊マークを思わすような不気味な発射音と衝撃を残し、第一射。
が、空を高速で飛ぶ大カブトムシにかわされる。
「連射性能がいいのが売りでね」
――ギャーン……どぅ。
二発目は命中。ルンルンより近い位置にいたのも奏功した。
羽ばたく羽に命中し炸裂。敵はバランスを崩して落ちた。が、動く。地上のみで戦うつもりのようだ。
「なるほど。……固まらず単独で戦おうとするだけはある」
ならば手数で勝負するのみ、と弾幕を張る。
アバルトの表情が生き生きしているのは、ある狙いも視野に入れているからだったりする。
●
そして前線。
瞬脚により機械とは思えない足さばきで弁慶が高速移動していた。
舞だ。
「地表がポコポコ波打ってるね!」
ちゃき、と手にしたのはワイヤーウィップ「ジルベルリヒト」。
それを伸ばして振りかぶりつつ、最後はアクティブスラスターで横から回り込む。
やがて目の前に迫った地面の盛り上がりを……横からぶっ叩いた!
「ほうら、隠れてないででておいで~」
バシバシとベラ様の鞭は痛いよ?状態。
回転良く高速連打で土が弾かれ出てきた白いぶよぶよの体表にも入った!
――がばっ!
土から幼虫歪虚が出て来た。エビぞりで飛び上がり丸まって着地。舞の弁慶もそれを背にしてざしりと着地。身を沈めて衝撃を和らげる。
で、振り向く。
この時、幼虫歪虚はまた土に潜ろうとしていた。体表は柔らかく、先のダメージはあまりなさそうだ。
「させないよ!」
舞、予期していた。
着地と同時に弁慶は換装。その武器を前に掲げて突っ込んだ!
「いくら表面がぶよぶよでも、電動のこぎりの回転には耐えられるかな?」
何と、掲げた武器は魔導鋸槍「ドレーウング」。
刺さった槍の先で丸い刃が高速回転している!
敵の体表は避けぶしゃしゃと体液が散りまくる。が、ざくっと前につんのめった。敵が土に逃げようとしているのだ。
ただ、遅い。体が避けてうまく連動して動かないのだ。
「逃がさないよ!」
振り向き弁慶を思わせるような豪快な薙ぎ払い。電動のこぎりで脚部をばっさりだ。穂先を引いての突きで敵を屠った。
その横の起伏では、四足の機体が平らな底部を見せるほどの大ジャンプをしていた。
颯のグスタフだ。
そこへカブトムシ歪虚。
いや、果敢にも飛んでくる大カブトムシに真っ向勝負に挑んだのだ!
「硬い外殻に覆われた背中と比べて柔らかいはずですの」
グスタフの手にはアーマードリル「轟旋」。
対するカブトムシ、颯のグスタフに気付きやや下に。角を前面に正面を向く。
これで颯の狙いは外されたが……。
――ガツッ!
敵の角、食らった。
ただ左肩部。半身の状態だったので衝撃は緩和される。
そして半身だったのは当然……。
「びりびり轟き天を穿つですの!」
フックのように横から敵後部の羽の付け根を狙った!
――どりどりどりっ!
ばしっ、と敵の羽が根元から散る。ふわっとすれ違ったグスタフは四脚で力強く大地に着地。カブトムシは地に落ちた。もちろん、普通に足を使ってまず距離を取るように逃げるが。
そして振り返るが、カブトムシは追わない。
「ドリルで溝を一直線に掘れば幼虫もそこで一旦止まるのでしょうが」
地を行く幼虫が先だ。
いや、アバルトの落としたカブトムシが横から突っ込んで来たぞ。
ガツッ、と横からの衝撃に耐え、身をひねる。
「アッパーカットですの!」
うまい。
カブトムシ底部にドリルを突き出し、敵の突進力を利用しひっくり返した。
「止めですの!」
後は料理するだけだ。
一見、幼虫歪虚への備えが弱いように見えるが、そうでもない。
イジェドに跨ったシオンが幼虫歪虚の侵攻に目を光らせていた。
「これはゲームだ」
野に放たれた餓狼のごとく縦横無尽に戦場を駆け抜け、狙いを定める。
「基地に侵攻されるか、それを阻止できるかを競うゲームだ!」
地面が盛り上がる手前側面に入るとイジェドから飛び降り斬龍刀「天墜」で薙ぎ払い。
――どしっ!
柄の長さが非常に長い天墜をぶん回して敵進行方向からぶちかまし。盛り上がっていた土が弾け幼虫の白い体表が見えた。
幼虫、一瞬びくっと止まるが、もちろん再び土に潜り前進しようとする。
「マウントロックだ!」
『ガウッ!』
シオンの指示でイジェドが全体重を前肢に掛けて地中に潜ろうとした幼虫を横倒し。
敵は地中からの建造物破壊特化の属性のようだ。こちらに襲い掛かってくる様子がない。
それがやや、気に食わない。
「私の身に傷一つ付けられん奴には、何のときめきも感じないな」
シオン、不満をぶつけるように刺突一閃。ぶよぶよの身体だが、これはダメージが通ったようでびくっと震える。
とはいえ虫の類はなかなかくたばらない。幼虫、逃げるようにうごめく。
これを見て冷笑するや否や。
「守りが固いだけでは強いとは言えんぞ?」
今度は縦に振るい渾身のダウンスイング「閃火爆砕」。爆炎のような閃光が煌めきの中、天墜が敵を深く深くえぐった。
「次!」
長髪をなびかせ再びイジェドに。降り注ぐ酸の雨に濡れるが意にも介さない。
残された幼虫、ぴくりとも動かない。
●
時は若干遡る。
「……了解。上を当たろう」
クオンはアバルトの呟きを通信機で聞いた。
現在、幼虫歪虚の接近するかなり手前で止まっていた。前衛部隊の舞、颯、シオンらが追い抜いて行く。
「基本的には接近戦ができないですからね」
クオンの乗る「フォボス」は、狙撃寄りにこだわってカスタムしていた。右手に持ったツインカノン「リンクレヒトW2」は大型で、肩にはミサイルランチャー「レプリカント」を装備。適正な距離を保った戦いが必須となるが、今回の敵は近寄って来るぞ?
「幸い、侵攻方向は分かりやすいので……」
フォボス、スラスターを使いジャンプ。
ぐっと前傾姿勢を取ると、肩のミサイルランチャーを下方に向けて発射した。
刹那!
――ガツッ!
「カブトムシ、速いですね」
空を縦横無尽に飛んでいたカブトムシ歪虚の体当たりを食らった。
撃ったミサイルは狙い通り大地に命中して大きな穴をあけていた。水平発射すると爆発時に深く掘れそうになく、そもそも命中精度は高くないので山なり発射は不安が残る。
それで跳躍して発射したのだが、そこはカブトムシ歪虚の縄張りということだったようだ。しかも酸の雨も降ってるし。
しかし。
――ギャーン、ギャーン!
アバルトがとにかく空の敵に撃っている。
「待て待て待てーっ!」
まよいはイケロスの飛翔の翼でカブトムシの後方上空をキープして追い回し、とにかくグラビティフォール。
「捉えました。確実に数を減らして行きたい所ですね…」
サクラもワイバーンを敵後方やや上、左右どちらかに軸をずらした形で追いすがりホーリーライト。
空戦二人が確実に敵の飛行力をそぐ間に、地対空でアバルトが手数重視の攻撃。
これにより、早期にカブトムシは地上行動オンリーになっていった。
「これで遠慮なく……」
クオン、再び穴を掘ろうとジャンプするが、もう幼虫歪虚は先に開けた穴に差し掛かっていた。がくりとつんのめって穴に落ちる。
「……とどめになりますか」
手にしたカノン砲で先の穴にぶっ放す。
すり鉢状の中での炸裂は効果的で、見事仕留めることに成功した。
ちなみにアバルト。
「大砲の弾で地面を掘り返した、なんて話はよく耳にしたが……」
こちらもフォルケでスラスタージャンプ。
「なかなか効果はあるものだな」
四連カノンで幼虫歪虚の行く手に穴をあけ、落ちたところを再びジャンプしアサルトで一掃する。
こちら、空。
「逃げる知恵くらいあるのかな?」
まよいが空中縦回転して酸の雨をまき散らしている敵にグラビティ―フォールをぶちかましていた。一瞬高度を下げふらふらしたのち、距離を取る動きをしてまた酸を四方八方に撒く。確かに地上の歪虚は基本土の中なのでこの戦法が有効だ。
「それじゃ、無理に追わないかな。その代わり……」
追うのをあっさりあきらめ反転した。
カブトムシ、いい気になってさらに酸の雨を降らせるが……。
――グサッ!
「向こうが数的有利ですし、確実に数を減らして行きたい所ですね…」
別方向からサクラのワイバーンが来ていた。グングニルを投げて弱っていた敵を撃墜だ。
一方、離脱したまよい。
「地上にいると巻き込みやすいね」
飛ぶことができなくなり地を這うカブトムシと地中を行く幼虫が近くなったところへ駆けつけ両方巻き込み重力波。敵地上部隊の侵攻を遅らせることに多く貢献している。
とはいえ、やはり地上に降りたカブトムシが邪魔で広範囲に展開する幼虫歪虚を防ぎきれないでいた。
そこに、最後方で援護射撃をしていたルンルンがついに最前線参戦!
「火炎弾を2斉射なのです! たまーやー、かぎやー、ろってんまいやー!」
花火のように燃える弾を大輪牡丹に撃たせつつ前進させ、自らも最前線へ走る!
そして敵幼虫の前に地縛符セット。
「トラップカードオープン! 土雷防御…ルンルン忍法土蜘蛛の術……えええっ!」
格好良く決めたが、敵は地表とはいえ土の中。トラップ発動せず敵の侵攻に巻き込まれる!
そこへ、止まったこと前提で大輪牡丹からフレンドリーファイヤ―。果たしてルンルンの運命は……。
「そんな敵には天罰なのです!」
吹っ飛ばされていた分味方の砲撃に巻き込まれず。立体感覚を生かし空中で身をひねると土からむき出しになった敵に風雷陣を見舞う。
こちら、颯。
――がしゃん!
「行かせませんですの」
一匹倒す間に抜かれた敵にジェットブーツで追い付いた。
そしてドリルをバットのように振り敵を止める。
ここで、ドリル回転オン!
「ドリルは刺し貫くだけの武器ではないのです! びりびり電撃どりる!」
バットのように使ってもかっ飛ばさないのがコツである。
「止まってるなら……」
この敵に、後ろから舞の弁慶が俊脚で迫った。
「後ろからも電動のこぎりで削っちゃうよ!」
前はびりびり電撃ドリル、後ろは回転のこぎりになった槍先を突っ込まれた敵、体液をまき散らしながら壮絶に果てる。
この時、アバルト。
「…まあ、こっちを気にしてくれるのは助かる」
――ド・ド・ドッ……。
羽をやられたカブトムシが目の敵のように地上を移動し迫っていたのだ。
一匹をアサルトライフルで到達前に仕留めたが、別方向からもう一匹。
いや、歩くのをやめて最後の力を振り絞り跳び、角を構えて突っ込んで来た!
「普段なら下がって撃つが…」
アバルト、敵の捨て身の攻撃に敬意を表した。
アサルトを捨て後背から三日月斧、バルディッシュに換装。横薙ぎにカブトムシの角に合わせた!
――ガキッ、ガガガ……。
「…後は狙うまでもない」
振った動きで軸をずらし、角に斧の先を滑らせた。
敵、自らの突進力をいなされその威力を逆に食らい、すれ違った後にくたばった。
そして、ポカラ駐屯地前。
幼虫歪虚数匹はここまで迫っていた。飛ぶことのできないカブトムシも護衛についている。
乱戦に紛れてこの本隊に賭けた、と言ったところだ。
「カブトムシ……まだ生きているとは。結構固かったのが災いしましたね」
クオン、気付いてカノン砲でとにかく撃つ。
「大輪牡丹ちゃん、分が悪いけどアレを!」
ルンルンは刻令ゴーレムにキャニスター弾の発射指令。
大地で炸裂する砲弾と空からばら撒かれる弾でカブトムシは減速する。
が、地中の幼虫はまだぼこぼこと地面を掘り起こし速度も衰えない。
「あの速度だと地面掘りと止めはできませんが」
クオン、今度は幼虫に照準。言葉通り止めを刺すことができないのがネックだが、撃つ!
もう駐屯地は目の前なのだ。躊躇する暇はない。
そこへ!
「先を越したと思ったか?」
減速したカブトムシらをぶち抜き、クオンが土をはがし一瞬止めた幼虫に追いつく一匹のイジェド。
「もしもそうなら片腹痛い」
その背に乗るは、「一本気戦士」こと不動シオン。
斬龍刀「天墜」を振りかぶり……。
「切り捨てる!」
どしゅっ、どしゅっと二匹を屠った。
「……最後の最後は堀があったが、掘り返されるわけにはいかないだろう」
目の前に迫っていた駐屯地の堀を見やりつつ、刀を収めた。
しかし、事態はこの間にも進展していた。
●
「あれ?」
最初に異変に気付いたのは、空中にいたまよいだった。
「まさか、これも突っ込んでくるのかな?」
地上の敵が片付いたようなので戦況確認をしていると、最後尾の森近くに浮いていた大樹歪虚の前進を確認したのだ。
「く、流石にあの大物の相手は不可能ですね…」
サクラも気付いた。
「空に浮いてるだけじゃ手も足もでないですの」
颯も引く。
「戦力の逐次投入か……いや、何か事情が変わったのか?」
アバルトも敵が最初からこれをやらないことをいぶかしんでいる。
「新たなゲームに備えるべきだろう」
攻撃が届かないのではつまらない、とばかりにシオンも後退。
それでも、あきらめない者もいる。
「てーっ!」
ルンルン、大輪牡丹に砲撃指令。どうん、と機体を揺るがせ砲弾を撃ち込む。狙いは幹だ。
「指をくわえて見ているわけにはいかないでしょう」
クオンもスラスタージャンプで接近しつつミサイル発射。枝葉を狙う。
「真打だね!」
舞は逆に、勇んで敵に突っ込み根っこを狙った!
ぎゃん、と根の先を切り落としたが、敵はびくともしない。
反対に上から蔦が鞭のようにしなって来た。
「わっ! ちょっとこれどうなってんのよ!」
かろうじて絡めとられるのは回避。そのままスラスターをふかして離脱。
そしてクオンのミサイルは枝葉の中で炸裂するが、直撃の枝の他はしなって威力を逃がしていた。
「記録させてもらいますよ……うわっ」
敵の動向を観察し撮影していると突然、蔦同士が絡まって槍となったものが飛んで来た。思わぬ反撃に綺麗に食らう。
一方、ルンルンの攻撃は幹に当たるも表皮は剥ぐ程度。
「タンクは怪獣と相性悪い伝統なのです」
ルンルン、しょもと肩を落とす。
結局、ゆっくり堂々とした飛行前進をした大樹歪虚はポカラ駐屯地の目の前まで接近した。
「なんて大きさだ……」
「くそっ。村人とここを守るって約束したんだぞ!」
駐屯地を守る義勇兵たちは逃げなかった。敵が攻撃してこないのも理由の一つだが、一度奪われ奪還した村を再び奪われるのかというやりきれなさがあったからかもしれない。加えて、社会から冷遇されたり盗賊に身を落としながらも義勇隊に加わり再起し、村人たちの期待を受け魔術師協会広報室から委託されたという、自らの希望と誇りもここにあったから。
「何をしている。撤退しろ!」
「モータル、これは無理です」
戻ったシオンが叫び、モータルにはサクラが強く言った。
「すまない……皆、すまない」
モータル、目の前に迫る圧倒的な大きさの禍々しい大樹を背にうなだれた。
そして腕を上げる。
「全軍……撤退」
くやしさの中、腕に力をこめる。肩を震わせている。
が、皆の反応は鈍い。
もしかしたらいまならここを離れた村人の気持ちが分かるかもしれない。
結成したばかりの義勇隊の、最初の立派な砦だったのだ。
そんな共感する思いの中、ハンターの鉄機たちが戻って来る。
「何やってんの、モータルが逃げなきゃ部下も逃げないでしょ!」
舞がハッチを開けて叫ぶ。
「データは取りました。再戦があれば、ぜひ」
「次がある。悔やむなら備えるべきだろう」
クオンとアバルトもいったん止まり操縦席を開けて声を張る。
「先に逃げるといいですの」
颯は、もしも逃げないなら壁になるしかないと敵に正対する。
「もしも逃げないなら、少しなら戦えるかな?」
まよいも酸を浴びて見るからに傷ついていたが、皆に背を向け敵に向く。
「タンクは遅いから先に行きくのです」
ルンルンはわざと目立つように退避。
これで義勇隊はわらわらと引き始めた。
「まだ分かんないの!?」
「連れて行きます」
爆発した舞に、強引にモータルをワイバーンに乗せようとするサクラ。
「いや……あれも一緒に」
モータル、可変魔道アーマー「ビルドムーバー」を指差した。サクラ、安心してモータルを放す。
「畜生ーーーっ!」
モータルとは別のビルドムーバーに乗り込んだ荒くれ者のキアンは全身全霊を絞った叫びとともにアクセルを踏んだ。
こうして無事に全軍撤退。
大樹歪虚はポカラ駐屯地に着地し、根を下ろした。
ポカラ駐屯地から見た北部の森とその上空は幻想的ですらあった。
ぎゃあぎゃあと鳥が騒ぎ逃げるその上を、ゆっくりと超巨大な大樹が根元の大地ごと浮き上がってこちらにやってきているのだから。
「わあ。あのきなんのきいのきのき……じゃなかった、きになるきーだったりするかも」
駐屯地では、ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)が刻令ゴーレム「Volcanius」の「ニンタンク『大輪牡丹』」(ka5784unit002)の横で驚いている。手をひさしのようにしている通り、まだまだ遠い。
それでも大きい。
「あー、あの大樹が浮いてる姿、映画で見た事があるな~。天空の城とかいう奴」
天竜寺 舞(ka0377)は魔導型デュミナス「弁慶」(ka0377unit001) のハッチを開け、そこに立っている。
「ええと、空にそびえる何とかの城?」
「それは最強のロボットに与えられる称号がZの話」
ルンルンのボケに付き合い突っ込む舞。冗談は手短にするつもりがルンルンのペースに巻き込まれる。
「久し振りです……一体何があったんですか?」
そんな二人は放っておいて振り返り、サクラ・エルフリード(ka2598)が駐屯地のリーダー、モータルに聞く。
「何があったも何も、一方的ですよ」
「小さな王の蟲を連れて来たら大きな王の蟲の大群が、という話は聞いたことがあるので」
モータルの言葉に納得するサクラ。舞から「それは風の谷」というツッコミが飛んでくる。
その時だった。
「変化がありましたの」
魔導アーマー量産型「Gustav」(ka1804unit002) の四本足の右前膝あたりに立つ八劒 颯(ka1804)が静かに言った。
「わぁ、でっかい木から沢山虫が出てきた」
夢路 まよい(ka1328)は手を合わせるようにして瞳キラキラ。
宙に浮く大樹歪虚から大カブトムシ歪虚複数が飛び立ったのだ。
「虫……ですか」
「いや、小さな王の蟲は連れて来てないです!」
振り返るサクラの視線に語気を荒げるモータル。
「なかなかファンタジーですね」
「何が原因か分からないが、こうも立て続けに事が起きるとは、な。真剣に周辺の徹底的な調査を上申する必要があるかもしれないな」
離れた場所では魔導型デュミナス「Phobos」(ka0018unit001)のハッチを開けシートに座って目視確認していたクオン・サガラ(ka0018)が呟き、隣の魔導型デュミナス「Falke」(ka0895unit003) に搭乗しようとしているアバルト・ジンツァー(ka0895)も振り返り思いを巡らせている。
この時、大樹歪虚の根元に変化があった。
「……何か落としたな?」
不動シオン(ka5395)が目を細め注目する。もちろんほかの仲間も。
「わぁ、今度はたくさん幼虫が出て来た」
まよいの言う通り、ぼろぼろと根元の大地が崩れ土と一緒に白く丸まった幼虫が落ちて来たのだ。
幼虫歪虚はぼとっと大地に落ちると地面に潜って……。
「こっちに来ますの」
「さしずめ地上部隊というところか」
颯の呟きにアバルトの解説。
「……初手から「生産施設付の移動要塞」持ってきますか…あの木」
さらにクオンが事態の重大さに気付き呆れ……いや、静かに気合を入れハッチを閉めた。
「あれははやてにお任せですの!」
グスタフに乗り込んだ颯が連絡してくる。
「ユニット種別で行動は大体分かるが、後で各自行動を簡単に知らせてくれ」
アバルトもフォルケに乗り込み呼び掛ける。両肩の鷹の意匠が、いや、カーキの機体全体が動き出す。
「巨大樹木に巨大昆虫……今度も私を楽しませてくれるのだろう?」
シオンもイェジド(ka5395unit001) にまたがった。弾かれるように山城化された駐屯地から飛び出し、草原を力強く疾駆する。
「ふぅん。カブトムシ、あんまり空高くは飛ばないんだ」
まよいはグリフォン「イケロス」(ka1328unit002) の背中に乗る途中で空を見てぽそり。
「虫はそんなに好きではないですし、さっさと退治してしまいましょう…」
サクラもワイバーン(ka2598unit005)の頭を撫でて騎乗。まよいとともに飛び立った。
●
敵の侵攻は、当然空を飛ぶ大カブトムシが早い。
「大量の虫達の行軍…。あまり見ていて気持ちいいものではないですね、これ……」
空を行くサクラがまずは敵と当たりそうだ。地上ではぼこぼこぼこっと大地が盛り上がり地中を幼虫が進んでいるのが分かる。
(空戦は初めてでしたね……)
サクラ、聖導士として霊槍「グングニル」と盾を手に戦馬を駆り戦場を行くたびも駆け抜けた。騎乗戦闘はお手のものだが、空となると話は違う。
「きっと何とかなるでしょう…。頼みますよ…」
高速接近するカブトムシを遠くに、ワイバーンの身体を撫でてやる。
――ドッ、ドッ!
これを合図にワイバーンが口を噛み獣機銃「シエージュR4」を発射。
敵、真正面からでもあり余裕でかわしてくる。
そして相互が高速接近しているだけに射程圏内からの接近はほぼ一瞬だったりする。昆虫のつやつやする巨体が目の前だ。
「こう大きいと不気味ですが……近接戦なら得意な間合いですよ…。私を甘く見ないことですね…」
眉を顰めグングニル投擲。
すれ違いざまに命中するが敵表面、結構固い。それでもダメージを与え戻ってきたところをキャッチする。
「手を変えましょう」
サクラ、後方上空振り返りつつ旋回する。
振り向いた上空には、まよいがいた。
「やぱり空から攻撃し放題だね! 昆虫採集、頑張っちゃおっと♪」
まよいの乗るイケロス、距離をロスしたが加速してより上空に位置していた。
もちろん、敵先頭のカブトムシを攻撃する予定だ。いまサクラと一体がすれ違った。
「でも、固まってくれないね……」
まよい、しょぼん。
「でもでも、網を一回振っただけでたくさん捕れるわけでもないしね!」
実際の虫取りを持ち出し気を取りなおしつつ、ぐーんと急降下。
「油断したら射程からすぐ逃げそうだね……グラビティーフォールだよ!」
深紅の杖を振るって紫色の重力波。がすん、とカブトムシの飛行が崩れる。そこへ反転したサクラからの銃撃。敵、高度を下げた。
「やった……あれ?」
ここで黄色い雨が。当たるとひりひり痛い。
酸だ!
上を見ると、放物線を描いて落ちてきている。前方に縦回転しているカブトムシがいた。
酸を上にまき散らしているのだ。
「動いた方がよさそうだね、イケロス」
むしろ酸放出している敵の方が狙いやすい、とそちらに向かう。
一方、地上部隊。
「ルンルン忍法第零占術……私がみんなの進むべき未来を教えちゃうんだからっ☆」
最後方ではルンルンが禹歩で吉凶を感知するなど援護射撃に向く場所へと移動していた。
でもって場所確保。
「ニンタンク『大輪牡丹』ちゃん、空に大きく花火を打ち上げるのです!」
双眼鏡で敵確認。戦況もばっちり見回して一点を指差す。
「ニンジャ弾壱式霞礫装填……てーっ!」
凛々しく支持するルンルンの背後にそびえる大輪牡丹、単発式長射程のカノン砲「スフィーダ99」を発射。どーん、と激しい砲撃音が響く。後方から爆風が散り低反動ながら機体が揺らぐ。
が、遠くを高速飛行するカブトムシに当てるのはなかなか難易度が高い。砲弾は惜しくも外れる。
「でも味方に突っ込もうとしたのは止められたのです。このまま支援砲撃を続けちゃいます!」
双眼鏡で覗いてお目めパチクリさせて先の攻撃の戦術的効果を再確認。
まったく戦意低下せず効果的な砲撃を続ける。
この時、アバルトはトランシーバーなどで味方と通信していた。
「この間もそうだけど……また虫だよ!」
「まずは……今の所は飛行できないCAMからすれば数の多い幼虫をどうにかする事ですね」
吠える舞、そして冷静なクオンの声。
「……了解。上を当たろう」
アバルト、二人の行動指針から自らの取るべき行動を通信して知らせる。
「……気にせず存分に戦ってくれればそれでいい」
回線を切ってから呟くとフォルケを操作。4連カノン砲の長い砲身を斜め上空に構える。軽く落とした腰は高威力の証。もちろん反動も高いが……。
「砲射撃戦に特化して調整してるんでね」
――ギャーン!
砲身横の幽霊マークを思わすような不気味な発射音と衝撃を残し、第一射。
が、空を高速で飛ぶ大カブトムシにかわされる。
「連射性能がいいのが売りでね」
――ギャーン……どぅ。
二発目は命中。ルンルンより近い位置にいたのも奏功した。
羽ばたく羽に命中し炸裂。敵はバランスを崩して落ちた。が、動く。地上のみで戦うつもりのようだ。
「なるほど。……固まらず単独で戦おうとするだけはある」
ならば手数で勝負するのみ、と弾幕を張る。
アバルトの表情が生き生きしているのは、ある狙いも視野に入れているからだったりする。
●
そして前線。
瞬脚により機械とは思えない足さばきで弁慶が高速移動していた。
舞だ。
「地表がポコポコ波打ってるね!」
ちゃき、と手にしたのはワイヤーウィップ「ジルベルリヒト」。
それを伸ばして振りかぶりつつ、最後はアクティブスラスターで横から回り込む。
やがて目の前に迫った地面の盛り上がりを……横からぶっ叩いた!
「ほうら、隠れてないででておいで~」
バシバシとベラ様の鞭は痛いよ?状態。
回転良く高速連打で土が弾かれ出てきた白いぶよぶよの体表にも入った!
――がばっ!
土から幼虫歪虚が出て来た。エビぞりで飛び上がり丸まって着地。舞の弁慶もそれを背にしてざしりと着地。身を沈めて衝撃を和らげる。
で、振り向く。
この時、幼虫歪虚はまた土に潜ろうとしていた。体表は柔らかく、先のダメージはあまりなさそうだ。
「させないよ!」
舞、予期していた。
着地と同時に弁慶は換装。その武器を前に掲げて突っ込んだ!
「いくら表面がぶよぶよでも、電動のこぎりの回転には耐えられるかな?」
何と、掲げた武器は魔導鋸槍「ドレーウング」。
刺さった槍の先で丸い刃が高速回転している!
敵の体表は避けぶしゃしゃと体液が散りまくる。が、ざくっと前につんのめった。敵が土に逃げようとしているのだ。
ただ、遅い。体が避けてうまく連動して動かないのだ。
「逃がさないよ!」
振り向き弁慶を思わせるような豪快な薙ぎ払い。電動のこぎりで脚部をばっさりだ。穂先を引いての突きで敵を屠った。
その横の起伏では、四足の機体が平らな底部を見せるほどの大ジャンプをしていた。
颯のグスタフだ。
そこへカブトムシ歪虚。
いや、果敢にも飛んでくる大カブトムシに真っ向勝負に挑んだのだ!
「硬い外殻に覆われた背中と比べて柔らかいはずですの」
グスタフの手にはアーマードリル「轟旋」。
対するカブトムシ、颯のグスタフに気付きやや下に。角を前面に正面を向く。
これで颯の狙いは外されたが……。
――ガツッ!
敵の角、食らった。
ただ左肩部。半身の状態だったので衝撃は緩和される。
そして半身だったのは当然……。
「びりびり轟き天を穿つですの!」
フックのように横から敵後部の羽の付け根を狙った!
――どりどりどりっ!
ばしっ、と敵の羽が根元から散る。ふわっとすれ違ったグスタフは四脚で力強く大地に着地。カブトムシは地に落ちた。もちろん、普通に足を使ってまず距離を取るように逃げるが。
そして振り返るが、カブトムシは追わない。
「ドリルで溝を一直線に掘れば幼虫もそこで一旦止まるのでしょうが」
地を行く幼虫が先だ。
いや、アバルトの落としたカブトムシが横から突っ込んで来たぞ。
ガツッ、と横からの衝撃に耐え、身をひねる。
「アッパーカットですの!」
うまい。
カブトムシ底部にドリルを突き出し、敵の突進力を利用しひっくり返した。
「止めですの!」
後は料理するだけだ。
一見、幼虫歪虚への備えが弱いように見えるが、そうでもない。
イジェドに跨ったシオンが幼虫歪虚の侵攻に目を光らせていた。
「これはゲームだ」
野に放たれた餓狼のごとく縦横無尽に戦場を駆け抜け、狙いを定める。
「基地に侵攻されるか、それを阻止できるかを競うゲームだ!」
地面が盛り上がる手前側面に入るとイジェドから飛び降り斬龍刀「天墜」で薙ぎ払い。
――どしっ!
柄の長さが非常に長い天墜をぶん回して敵進行方向からぶちかまし。盛り上がっていた土が弾け幼虫の白い体表が見えた。
幼虫、一瞬びくっと止まるが、もちろん再び土に潜り前進しようとする。
「マウントロックだ!」
『ガウッ!』
シオンの指示でイジェドが全体重を前肢に掛けて地中に潜ろうとした幼虫を横倒し。
敵は地中からの建造物破壊特化の属性のようだ。こちらに襲い掛かってくる様子がない。
それがやや、気に食わない。
「私の身に傷一つ付けられん奴には、何のときめきも感じないな」
シオン、不満をぶつけるように刺突一閃。ぶよぶよの身体だが、これはダメージが通ったようでびくっと震える。
とはいえ虫の類はなかなかくたばらない。幼虫、逃げるようにうごめく。
これを見て冷笑するや否や。
「守りが固いだけでは強いとは言えんぞ?」
今度は縦に振るい渾身のダウンスイング「閃火爆砕」。爆炎のような閃光が煌めきの中、天墜が敵を深く深くえぐった。
「次!」
長髪をなびかせ再びイジェドに。降り注ぐ酸の雨に濡れるが意にも介さない。
残された幼虫、ぴくりとも動かない。
●
時は若干遡る。
「……了解。上を当たろう」
クオンはアバルトの呟きを通信機で聞いた。
現在、幼虫歪虚の接近するかなり手前で止まっていた。前衛部隊の舞、颯、シオンらが追い抜いて行く。
「基本的には接近戦ができないですからね」
クオンの乗る「フォボス」は、狙撃寄りにこだわってカスタムしていた。右手に持ったツインカノン「リンクレヒトW2」は大型で、肩にはミサイルランチャー「レプリカント」を装備。適正な距離を保った戦いが必須となるが、今回の敵は近寄って来るぞ?
「幸い、侵攻方向は分かりやすいので……」
フォボス、スラスターを使いジャンプ。
ぐっと前傾姿勢を取ると、肩のミサイルランチャーを下方に向けて発射した。
刹那!
――ガツッ!
「カブトムシ、速いですね」
空を縦横無尽に飛んでいたカブトムシ歪虚の体当たりを食らった。
撃ったミサイルは狙い通り大地に命中して大きな穴をあけていた。水平発射すると爆発時に深く掘れそうになく、そもそも命中精度は高くないので山なり発射は不安が残る。
それで跳躍して発射したのだが、そこはカブトムシ歪虚の縄張りということだったようだ。しかも酸の雨も降ってるし。
しかし。
――ギャーン、ギャーン!
アバルトがとにかく空の敵に撃っている。
「待て待て待てーっ!」
まよいはイケロスの飛翔の翼でカブトムシの後方上空をキープして追い回し、とにかくグラビティフォール。
「捉えました。確実に数を減らして行きたい所ですね…」
サクラもワイバーンを敵後方やや上、左右どちらかに軸をずらした形で追いすがりホーリーライト。
空戦二人が確実に敵の飛行力をそぐ間に、地対空でアバルトが手数重視の攻撃。
これにより、早期にカブトムシは地上行動オンリーになっていった。
「これで遠慮なく……」
クオン、再び穴を掘ろうとジャンプするが、もう幼虫歪虚は先に開けた穴に差し掛かっていた。がくりとつんのめって穴に落ちる。
「……とどめになりますか」
手にしたカノン砲で先の穴にぶっ放す。
すり鉢状の中での炸裂は効果的で、見事仕留めることに成功した。
ちなみにアバルト。
「大砲の弾で地面を掘り返した、なんて話はよく耳にしたが……」
こちらもフォルケでスラスタージャンプ。
「なかなか効果はあるものだな」
四連カノンで幼虫歪虚の行く手に穴をあけ、落ちたところを再びジャンプしアサルトで一掃する。
こちら、空。
「逃げる知恵くらいあるのかな?」
まよいが空中縦回転して酸の雨をまき散らしている敵にグラビティ―フォールをぶちかましていた。一瞬高度を下げふらふらしたのち、距離を取る動きをしてまた酸を四方八方に撒く。確かに地上の歪虚は基本土の中なのでこの戦法が有効だ。
「それじゃ、無理に追わないかな。その代わり……」
追うのをあっさりあきらめ反転した。
カブトムシ、いい気になってさらに酸の雨を降らせるが……。
――グサッ!
「向こうが数的有利ですし、確実に数を減らして行きたい所ですね…」
別方向からサクラのワイバーンが来ていた。グングニルを投げて弱っていた敵を撃墜だ。
一方、離脱したまよい。
「地上にいると巻き込みやすいね」
飛ぶことができなくなり地を這うカブトムシと地中を行く幼虫が近くなったところへ駆けつけ両方巻き込み重力波。敵地上部隊の侵攻を遅らせることに多く貢献している。
とはいえ、やはり地上に降りたカブトムシが邪魔で広範囲に展開する幼虫歪虚を防ぎきれないでいた。
そこに、最後方で援護射撃をしていたルンルンがついに最前線参戦!
「火炎弾を2斉射なのです! たまーやー、かぎやー、ろってんまいやー!」
花火のように燃える弾を大輪牡丹に撃たせつつ前進させ、自らも最前線へ走る!
そして敵幼虫の前に地縛符セット。
「トラップカードオープン! 土雷防御…ルンルン忍法土蜘蛛の術……えええっ!」
格好良く決めたが、敵は地表とはいえ土の中。トラップ発動せず敵の侵攻に巻き込まれる!
そこへ、止まったこと前提で大輪牡丹からフレンドリーファイヤ―。果たしてルンルンの運命は……。
「そんな敵には天罰なのです!」
吹っ飛ばされていた分味方の砲撃に巻き込まれず。立体感覚を生かし空中で身をひねると土からむき出しになった敵に風雷陣を見舞う。
こちら、颯。
――がしゃん!
「行かせませんですの」
一匹倒す間に抜かれた敵にジェットブーツで追い付いた。
そしてドリルをバットのように振り敵を止める。
ここで、ドリル回転オン!
「ドリルは刺し貫くだけの武器ではないのです! びりびり電撃どりる!」
バットのように使ってもかっ飛ばさないのがコツである。
「止まってるなら……」
この敵に、後ろから舞の弁慶が俊脚で迫った。
「後ろからも電動のこぎりで削っちゃうよ!」
前はびりびり電撃ドリル、後ろは回転のこぎりになった槍先を突っ込まれた敵、体液をまき散らしながら壮絶に果てる。
この時、アバルト。
「…まあ、こっちを気にしてくれるのは助かる」
――ド・ド・ドッ……。
羽をやられたカブトムシが目の敵のように地上を移動し迫っていたのだ。
一匹をアサルトライフルで到達前に仕留めたが、別方向からもう一匹。
いや、歩くのをやめて最後の力を振り絞り跳び、角を構えて突っ込んで来た!
「普段なら下がって撃つが…」
アバルト、敵の捨て身の攻撃に敬意を表した。
アサルトを捨て後背から三日月斧、バルディッシュに換装。横薙ぎにカブトムシの角に合わせた!
――ガキッ、ガガガ……。
「…後は狙うまでもない」
振った動きで軸をずらし、角に斧の先を滑らせた。
敵、自らの突進力をいなされその威力を逆に食らい、すれ違った後にくたばった。
そして、ポカラ駐屯地前。
幼虫歪虚数匹はここまで迫っていた。飛ぶことのできないカブトムシも護衛についている。
乱戦に紛れてこの本隊に賭けた、と言ったところだ。
「カブトムシ……まだ生きているとは。結構固かったのが災いしましたね」
クオン、気付いてカノン砲でとにかく撃つ。
「大輪牡丹ちゃん、分が悪いけどアレを!」
ルンルンは刻令ゴーレムにキャニスター弾の発射指令。
大地で炸裂する砲弾と空からばら撒かれる弾でカブトムシは減速する。
が、地中の幼虫はまだぼこぼこと地面を掘り起こし速度も衰えない。
「あの速度だと地面掘りと止めはできませんが」
クオン、今度は幼虫に照準。言葉通り止めを刺すことができないのがネックだが、撃つ!
もう駐屯地は目の前なのだ。躊躇する暇はない。
そこへ!
「先を越したと思ったか?」
減速したカブトムシらをぶち抜き、クオンが土をはがし一瞬止めた幼虫に追いつく一匹のイジェド。
「もしもそうなら片腹痛い」
その背に乗るは、「一本気戦士」こと不動シオン。
斬龍刀「天墜」を振りかぶり……。
「切り捨てる!」
どしゅっ、どしゅっと二匹を屠った。
「……最後の最後は堀があったが、掘り返されるわけにはいかないだろう」
目の前に迫っていた駐屯地の堀を見やりつつ、刀を収めた。
しかし、事態はこの間にも進展していた。
●
「あれ?」
最初に異変に気付いたのは、空中にいたまよいだった。
「まさか、これも突っ込んでくるのかな?」
地上の敵が片付いたようなので戦況確認をしていると、最後尾の森近くに浮いていた大樹歪虚の前進を確認したのだ。
「く、流石にあの大物の相手は不可能ですね…」
サクラも気付いた。
「空に浮いてるだけじゃ手も足もでないですの」
颯も引く。
「戦力の逐次投入か……いや、何か事情が変わったのか?」
アバルトも敵が最初からこれをやらないことをいぶかしんでいる。
「新たなゲームに備えるべきだろう」
攻撃が届かないのではつまらない、とばかりにシオンも後退。
それでも、あきらめない者もいる。
「てーっ!」
ルンルン、大輪牡丹に砲撃指令。どうん、と機体を揺るがせ砲弾を撃ち込む。狙いは幹だ。
「指をくわえて見ているわけにはいかないでしょう」
クオンもスラスタージャンプで接近しつつミサイル発射。枝葉を狙う。
「真打だね!」
舞は逆に、勇んで敵に突っ込み根っこを狙った!
ぎゃん、と根の先を切り落としたが、敵はびくともしない。
反対に上から蔦が鞭のようにしなって来た。
「わっ! ちょっとこれどうなってんのよ!」
かろうじて絡めとられるのは回避。そのままスラスターをふかして離脱。
そしてクオンのミサイルは枝葉の中で炸裂するが、直撃の枝の他はしなって威力を逃がしていた。
「記録させてもらいますよ……うわっ」
敵の動向を観察し撮影していると突然、蔦同士が絡まって槍となったものが飛んで来た。思わぬ反撃に綺麗に食らう。
一方、ルンルンの攻撃は幹に当たるも表皮は剥ぐ程度。
「タンクは怪獣と相性悪い伝統なのです」
ルンルン、しょもと肩を落とす。
結局、ゆっくり堂々とした飛行前進をした大樹歪虚はポカラ駐屯地の目の前まで接近した。
「なんて大きさだ……」
「くそっ。村人とここを守るって約束したんだぞ!」
駐屯地を守る義勇兵たちは逃げなかった。敵が攻撃してこないのも理由の一つだが、一度奪われ奪還した村を再び奪われるのかというやりきれなさがあったからかもしれない。加えて、社会から冷遇されたり盗賊に身を落としながらも義勇隊に加わり再起し、村人たちの期待を受け魔術師協会広報室から委託されたという、自らの希望と誇りもここにあったから。
「何をしている。撤退しろ!」
「モータル、これは無理です」
戻ったシオンが叫び、モータルにはサクラが強く言った。
「すまない……皆、すまない」
モータル、目の前に迫る圧倒的な大きさの禍々しい大樹を背にうなだれた。
そして腕を上げる。
「全軍……撤退」
くやしさの中、腕に力をこめる。肩を震わせている。
が、皆の反応は鈍い。
もしかしたらいまならここを離れた村人の気持ちが分かるかもしれない。
結成したばかりの義勇隊の、最初の立派な砦だったのだ。
そんな共感する思いの中、ハンターの鉄機たちが戻って来る。
「何やってんの、モータルが逃げなきゃ部下も逃げないでしょ!」
舞がハッチを開けて叫ぶ。
「データは取りました。再戦があれば、ぜひ」
「次がある。悔やむなら備えるべきだろう」
クオンとアバルトもいったん止まり操縦席を開けて声を張る。
「先に逃げるといいですの」
颯は、もしも逃げないなら壁になるしかないと敵に正対する。
「もしも逃げないなら、少しなら戦えるかな?」
まよいも酸を浴びて見るからに傷ついていたが、皆に背を向け敵に向く。
「タンクは遅いから先に行きくのです」
ルンルンはわざと目立つように退避。
これで義勇隊はわらわらと引き始めた。
「まだ分かんないの!?」
「連れて行きます」
爆発した舞に、強引にモータルをワイバーンに乗せようとするサクラ。
「いや……あれも一緒に」
モータル、可変魔道アーマー「ビルドムーバー」を指差した。サクラ、安心してモータルを放す。
「畜生ーーーっ!」
モータルとは別のビルドムーバーに乗り込んだ荒くれ者のキアンは全身全霊を絞った叫びとともにアクセルを踏んだ。
こうして無事に全軍撤退。
大樹歪虚はポカラ駐屯地に着地し、根を下ろした。
依頼結果
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面白かった! | 8人 |
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依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/08/28 00:47:30 |
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相談卓だよ 天竜寺 舞(ka0377) 人間(リアルブルー)|18才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2017/08/31 19:56:54 |