ゲスト
(ka0000)
【初心】闇に惑う蛮勇の少年
マスター:ことね桃

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- LV1~LV20
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/09/06 12:00
- 完成日
- 2017/09/19 11:16
このシナリオは3日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
ある地方に廃鉱がある。
そこはかつて良質の鉄が採れることで知られたが、その採掘にあまりにも多くの人が押し寄せ、ほんの5年のうちに掘り尽くされてしまった。
今は錆びついた鎖が入り口を封鎖し、「立ち入り禁止」と書かれたプレートが風に虚しく揺れるだけ。
かつてこの鉱山のおかげで潤った麓の村人たちも、廃鉱になってから20年が経過した今となってはこの地の存在を忘れかけていたのだった。
そんなある日のこと。
「裏のデカい山の立ち入り禁止のとこ、昔は坑道だったらしいぜ」
学校からの帰り道に麓の村の少年ジャンが友人たちを集め、廃鉱の話題を切り出した。
すると子供たちの多くに心当たりがあるようで次々と反応を示す。
「ああ、俺もとーちゃんから聞いたことあるよ。あそこから出てきた鉄がいい値段で売れたんだって。中にはハンターが使う剣や鎧になったものもあるんだぞって言ってた」
「うちのじいちゃんは鉱山で警備の責任者をしてたんだぜ。今じゃ信じられないくらい給料をもらってたっていうから、よっぽどいい鉄が埋まってたんだろうな」
件の山の名産品だった鉄の逸話を聞き、ジャンは満足そうに何度も頷いた。
「そうなんだよ。あの山は昔、宝の山だったんだ。でも大人達は鉄が見つからなくなった途端、諦めてあそこを立ち入り禁止にしてしまったんだよな」
どこか訳知り顔の彼に対し、友人達は不思議そうに目を瞬かせた。
「うん、それは知ってるけど……で、それがどうしたんだ?」
その質問にジャンはようやく本題に入れるとばかりに満面の笑みを浮かべた。
「実は夕べ、親父たちが寄合所であそこの調査をしようって話をしていたんだ。俺は外から話し声を少し聞いただけだから詳しいことはわからない。でもあそこになんか凄いものがあるらしい。大人たちが調査する前に俺らでお宝探しに行かないか!?」
ジャンからの思いがけない情報提供と提案に子供達は目を白黒させた。
「えっ、それは聞いたことないよ。……でも立ち入り禁止のとこに入ってもいいのかなあ」
「凄いものってなんだろ。鉄じゃないなら金? それとも宝石?」
「まさか! そんな価値のあるものなら閉鎖する前に話に出てもおかしくないだろ」
「気にはなるけど……バレたら父ちゃん母ちゃんだけじゃなくて、先生にも怒られそうだなあ……」
不安が入り混じるざわめきに、少々気の短いジャンは苛立ちを含んだ声を放った。
「ああ、もうわかったよ! それじゃあ俺が1人で先行調査してやる。何か見つかったら明日教えてやるから、そしたら今度は皆で行こうぜ」
「ジャン、無茶はダメだよ。父ちゃんが言ってた。あそこは人が勝手に穴を開けて道を作ったから危ないところがいっぱいあるんだ、ずっと放ってたから中がどうなっているのかわからないんだよって……」
おずおずと心配そうに声をかける友人。
しかしガキ大将のジャンは一度言ったことを撤回することなどできない。
「うるさいな! 俺はお前らと違って勇気があんだよ。絶対すげえモン見つけてくっから待ってろよな!」
ふん、と鼻息を荒くして駆け出す彼を友人達は心配そうに見送った。
その日の夜、ジャンは早めの夕食をとった後に古いランタンを持ってこっそりと裏口から外出した。
誰にも見つからぬよう茂みの間を縫うように移動し、坑道の入り口間近の木陰に身を隠す。
入り口の前では村の若い男がランタンを手に周囲を監視していたが、ジャンが石を遠くに投げつけて音を立てると、男は音の正体を確認するべく持ち場から離れていく。その僅かな隙にジャンは錆びた鎖を掻い潜って坑道へと侵入を果たした。
無言のまま歩き続けたジャンがようやく辿りついたのは月の光が一切届かぬ広い空洞だった。おそらくはここで鉱夫たちが休憩したり、ミーティングを行われていたのだろう。
そのかつての賑わいの面影は今は全く存在せず、闇しかない。ランタンに炎を灯す手がぶるりと震える。しかしまだ道半ば。ここで退いてはガキ大将の名がすたる。
「すげーハクリョク……いやいや、ここで男を見せねーと!」
ジャンはお菓子を詰めたリュックサックを担ぎ直し、ランタンを高く掲げると闇の中に足を大きく踏み出すのだった。
その頃、ジャンの家では大きな騒ぎとなっていた。
大切な息子が突然姿を消しただけでなく、どうやらあの危険な坑道に向かったらしいというのだから。
ジャンの母が息子の友人や監視役の男から事情を聴くと真っ青な顔で夫に報告する。
「まさかあの子が『雑魔がいるかもしれない坑道』に行ってしまうなんて……!」
「ああ、ハンターに調査を依頼する矢先にこんなことになるとは……」
あの坑道から奇妙な音が聞こえるという話が一昨日からこの村で話題となっていた。
廃鉱から鈍く響いてくる、規則的な複数の重い音。まるで、足音のような。
その奇妙さから村の有志が集まり、ハンターオフィスに坑道の調査を依頼しようと決めたのが昨日の夜のことだった。
しかし日中に用事が立て込み、これから相談に行こうと思っていたところのこの事態である。
父は逸る気持ちを抑えつつ、ハンターオフィスに向けて全力で馬を走らせた。
ジャンの父から事情を聴いたオフィスの受付嬢は苦い表情を浮かべ、集まったハンターたちに状況を説明する。
「今回の依頼は坑道という、非常に入り組んだ地形での探索活動となります。おまけに雑魔もいるかもしれない……そのため複数のグループに依頼することにしました」
受付嬢は自分の目の前に並ぶ、まだ初々しさの残るハンター達の顔をじっと見た。
「あなたたちはまだ経験の浅いハンターです。しかしベテランのハンターも続きますので、臆することなく力を尽くしてください。暗闇と恐怖に竦んでいるであろう少年を救うために」
ハンター達は頷きあうと、それぞれの得物を手にオフィスから旅立つのだった。
そこはかつて良質の鉄が採れることで知られたが、その採掘にあまりにも多くの人が押し寄せ、ほんの5年のうちに掘り尽くされてしまった。
今は錆びついた鎖が入り口を封鎖し、「立ち入り禁止」と書かれたプレートが風に虚しく揺れるだけ。
かつてこの鉱山のおかげで潤った麓の村人たちも、廃鉱になってから20年が経過した今となってはこの地の存在を忘れかけていたのだった。
そんなある日のこと。
「裏のデカい山の立ち入り禁止のとこ、昔は坑道だったらしいぜ」
学校からの帰り道に麓の村の少年ジャンが友人たちを集め、廃鉱の話題を切り出した。
すると子供たちの多くに心当たりがあるようで次々と反応を示す。
「ああ、俺もとーちゃんから聞いたことあるよ。あそこから出てきた鉄がいい値段で売れたんだって。中にはハンターが使う剣や鎧になったものもあるんだぞって言ってた」
「うちのじいちゃんは鉱山で警備の責任者をしてたんだぜ。今じゃ信じられないくらい給料をもらってたっていうから、よっぽどいい鉄が埋まってたんだろうな」
件の山の名産品だった鉄の逸話を聞き、ジャンは満足そうに何度も頷いた。
「そうなんだよ。あの山は昔、宝の山だったんだ。でも大人達は鉄が見つからなくなった途端、諦めてあそこを立ち入り禁止にしてしまったんだよな」
どこか訳知り顔の彼に対し、友人達は不思議そうに目を瞬かせた。
「うん、それは知ってるけど……で、それがどうしたんだ?」
その質問にジャンはようやく本題に入れるとばかりに満面の笑みを浮かべた。
「実は夕べ、親父たちが寄合所であそこの調査をしようって話をしていたんだ。俺は外から話し声を少し聞いただけだから詳しいことはわからない。でもあそこになんか凄いものがあるらしい。大人たちが調査する前に俺らでお宝探しに行かないか!?」
ジャンからの思いがけない情報提供と提案に子供達は目を白黒させた。
「えっ、それは聞いたことないよ。……でも立ち入り禁止のとこに入ってもいいのかなあ」
「凄いものってなんだろ。鉄じゃないなら金? それとも宝石?」
「まさか! そんな価値のあるものなら閉鎖する前に話に出てもおかしくないだろ」
「気にはなるけど……バレたら父ちゃん母ちゃんだけじゃなくて、先生にも怒られそうだなあ……」
不安が入り混じるざわめきに、少々気の短いジャンは苛立ちを含んだ声を放った。
「ああ、もうわかったよ! それじゃあ俺が1人で先行調査してやる。何か見つかったら明日教えてやるから、そしたら今度は皆で行こうぜ」
「ジャン、無茶はダメだよ。父ちゃんが言ってた。あそこは人が勝手に穴を開けて道を作ったから危ないところがいっぱいあるんだ、ずっと放ってたから中がどうなっているのかわからないんだよって……」
おずおずと心配そうに声をかける友人。
しかしガキ大将のジャンは一度言ったことを撤回することなどできない。
「うるさいな! 俺はお前らと違って勇気があんだよ。絶対すげえモン見つけてくっから待ってろよな!」
ふん、と鼻息を荒くして駆け出す彼を友人達は心配そうに見送った。
その日の夜、ジャンは早めの夕食をとった後に古いランタンを持ってこっそりと裏口から外出した。
誰にも見つからぬよう茂みの間を縫うように移動し、坑道の入り口間近の木陰に身を隠す。
入り口の前では村の若い男がランタンを手に周囲を監視していたが、ジャンが石を遠くに投げつけて音を立てると、男は音の正体を確認するべく持ち場から離れていく。その僅かな隙にジャンは錆びた鎖を掻い潜って坑道へと侵入を果たした。
無言のまま歩き続けたジャンがようやく辿りついたのは月の光が一切届かぬ広い空洞だった。おそらくはここで鉱夫たちが休憩したり、ミーティングを行われていたのだろう。
そのかつての賑わいの面影は今は全く存在せず、闇しかない。ランタンに炎を灯す手がぶるりと震える。しかしまだ道半ば。ここで退いてはガキ大将の名がすたる。
「すげーハクリョク……いやいや、ここで男を見せねーと!」
ジャンはお菓子を詰めたリュックサックを担ぎ直し、ランタンを高く掲げると闇の中に足を大きく踏み出すのだった。
その頃、ジャンの家では大きな騒ぎとなっていた。
大切な息子が突然姿を消しただけでなく、どうやらあの危険な坑道に向かったらしいというのだから。
ジャンの母が息子の友人や監視役の男から事情を聴くと真っ青な顔で夫に報告する。
「まさかあの子が『雑魔がいるかもしれない坑道』に行ってしまうなんて……!」
「ああ、ハンターに調査を依頼する矢先にこんなことになるとは……」
あの坑道から奇妙な音が聞こえるという話が一昨日からこの村で話題となっていた。
廃鉱から鈍く響いてくる、規則的な複数の重い音。まるで、足音のような。
その奇妙さから村の有志が集まり、ハンターオフィスに坑道の調査を依頼しようと決めたのが昨日の夜のことだった。
しかし日中に用事が立て込み、これから相談に行こうと思っていたところのこの事態である。
父は逸る気持ちを抑えつつ、ハンターオフィスに向けて全力で馬を走らせた。
ジャンの父から事情を聴いたオフィスの受付嬢は苦い表情を浮かべ、集まったハンターたちに状況を説明する。
「今回の依頼は坑道という、非常に入り組んだ地形での探索活動となります。おまけに雑魔もいるかもしれない……そのため複数のグループに依頼することにしました」
受付嬢は自分の目の前に並ぶ、まだ初々しさの残るハンター達の顔をじっと見た。
「あなたたちはまだ経験の浅いハンターです。しかしベテランのハンターも続きますので、臆することなく力を尽くしてください。暗闇と恐怖に竦んでいるであろう少年を救うために」
ハンター達は頷きあうと、それぞれの得物を手にオフィスから旅立つのだった。
リプレイ本文
人の手で強引に広げられた洞窟――古びた坑道へ8人のハンターが到着した。
そこに依頼人である、ジャンの両親が荒い息を吐きながら駆け寄る。
「こちらが鉱山の地図とジャンの上着です。地図は20年前のものですので、地形の変わっている場所があるかもしれません。お役に立つかどうか」
「ううん、大丈夫……助かり、ます……」
地図を所望していたプルメリア(ka6983)は父親から地図を受け取ると小麦色の頬を緩めた。
ミモザ・エンヘドゥ(ka6804)は上着を預かると両親に向かって一礼した。
「たしかにお預かりしました。こちらは捜索目的のみに使用し、救助が終わり次第速やかにお返しします」
ミモザの真面目な声音に信頼感を抱いたのだろう。母親が僅かながらも微笑み、彼女に願う。
「ジャンに会ったらこの上着を着せてやってくれませんか。坑道は湿気寒いので……」
「了承しました、必ずや」
子を想う母の情に何か感ずるものがあったのだろう、ミモザが深く頷く。
その後方でシグ(ka6949)は胸元で拳を握り、決意を新たにした。
(お父さんとお母さんの顔、声……これを見て、聞いて、放っておくなんてできない。家族は、幸せなものなんだ。幸せでなきゃいけないんだ)
ネフィルト・ジェイダー(ka6838)は一足先に坑道に踏み込み、行く先を見据える。そこには深い闇しかない。彼は赤の癖毛をくしゃりと撫で、ため息を吐いた。
「こんな場所に入っていくとは、勇気があるのぅ。入ったことは後で諭さねばならんが、その勇気は褒めてやらないといかんの」
坑道の中はひどく静かで、水が滴り落ちる音でさえ耳に響く。
プルメリアは華奢な肩に落ちた雫を指先で拭った。
「冷たい、です……。こんな場所に長くいたら風邪をひくです……。早くジャン君を、助けなきゃ……」
その声に頷いたのはリュンルース・アウイン(ka1694)。普段は穏やかな銀の瞳にはっきりとした決意の色が浮かんでいる。
「うん。私は子どもは元気なのが良いと思うけれど、こういうのは危ないから何としても助けないとね」
その様子を濡羽 香墨(ka6760)は兜の奥の瞳でじっと見た。しかし彼女は黙したまま、自らの盾に光を宿らせると周囲の観察を開始した。
神立 雷音(ka6136)は今まで目を覆っていた布を外した。可憐な瞳が闇の奥の風景を捉える。
(久々の目隠し……目は無事に闇に慣れたみたい。次は……)
雷音は光源を手にする仲間たちに小さく首をかしげてみせた。それは作戦開始を確認する仕草だった。
埜月 宗人(ka6994)が力強く頷く。
その瞬間、今まで微笑みを浮かべていた雷音が獣のごとく険しい顔に変わった。
口を左右に大きく引き、地を這うような唸り声を放つ雷音。続けて放たれた耳を貫かんばかりの哮りに仲間達は思わず息を呑んだ。そして、渾身の咆哮が坑道内に幾重にも反響する。それに反応するものを求め、全員で耳を澄ませ目を凝らす。しかし、反応はない。
今度はネフィルトが「よし、今度は我の出番じゃな!」と軽く胸を叩いた。
「おーい! ジャンとやらー!! 助けに来たぞー!!!」
先の咆哮と同じように次々と反響するネフィルトの声。すると北東の方角から微かな音が聞こえた。
「音が、しましたね」
ミモザが言う。プルメリアが地図を見た。
「北東方面は細い道が網の目のように、なっています……。もしジャン君がそこにいて……坑道内に雑魔がいるなら危ない、かと……」
早速宗人が北東への道にライトを向けた。すると子供の足跡と、地面に大きな窪みがいくつもあることに気づいた。
「これは……ジャン君のいたずらって線はないやろな。殊更急がないとあかんな」
坑道内の探索は一行が想定していた以上に迅速に進んだ。
何しろ20年間誰も入ることのなかった坑道だ。人の足跡はジャンのものしかない。また、道が狭まっている場所では壁についた手の跡も貴重な手がかりとなった。
まず先行したのが雷音だ。彼女は難所を壁歩きで攻略しながら周囲の様子を窺う。
プルメリアも前方を歩む。彼女は地図をこまめに確認しては道のひとつも見落としのないように注意した。
リュンルースは呼びかけを繰り返した。彼が安心して姿を見せてくれるよう、やさしい言葉を選びながら。
「ジャン君、無事かな? この坑道には雑魔がいて危ないんだ。もし動けないなら声だけでもいい、どうか返事をしてくれないか」
なかなか返事は返ってこない。しかし彼は諦めることなく呼びかけを続けた。
シグは分岐点に蛍光色のペイント弾で目印がつけた。一刻も早くジャンを家族のもとへ帰すため、帰り道に迷わぬようにと。
時折ぬかるみなどで足跡を見失った際に活躍したのがミモザと香墨だった。ミモザは超嗅覚を駆使し、ジャンの服の匂いを元に進むべき道を皆に示す。香墨は路地裏生活の経験をもとに、言葉こそ少ないが適切なアドバイスを行う。
こうして全員の協力が調和し、たどり着いた先にあったのは小さな扉だった。
香墨が光を放つ盾を抱え、足下を見つめる。
「子供の足跡、だけ。雑魔は来てない」
リュンルースが頷く。彼は扉を軽くノックして先ほどと同じ内容の呼びかけを行った。
すると勢いよく扉が開かれた。
「兄ちゃんたち、ハンターなの!? 俺を助けに来てくれたの!?」
真っ暗な部屋から飛び出してきたのは泥だらけの少年ジャンだった。
「さっきすごい音が聞こえたんだ。そいつ、雑魔かもしれない! 絶対強いやつだよ!!」
雷音は僅かに苦笑した。まさか目の前にいる物静かな少女が咆哮の主だと少年は思うまい。
ネフィルトはジャンの目線に合わせて腰を落として宥めた。
「わかっとる、早くここから出んとのう。それよりも怪我はないかのー?」
よくよく見るとジャンの歩き方がおかしい。転んで足でも捻ったのだろうか。
香墨がジャンの足に手を伸ばした。甲冑で全身を隙間なく隠す彼女の姿にジャンは思わず息を呑む。しかし、鎧の中からの声に彼は安堵した。
「じっとしてて」
じんわりと広がる光がジャンの足の痛みを和らげていく。
「ありがとう! 鎧のお姉ちゃん」
無邪気に礼を言うジャンに香墨はふい、と顔を逸らした。
ぶっきらぼうな香墨の態度。不安そうに眉尻を下げたジャンに、ふわりとあたたかな上着がかけられた。ミモザが彼の母親との約束を果したのだ。きょとんとする彼にミモザは静かに言う。
「あなたのお母様からの心遣いですよ。それと、ここに長居は無用。ジャン、すぐに外に向かいますよ」
ミモザの理知的な声に頷いたジャンはすぐさまリュックサックを回収し、早足でハンター達のところに戻る。その様にネフィルトはふんわりと微笑んだ。
「よしよし、皆がいるから安心じゃ。一緒に出るかの」
一行はシグのペイント弾のほのかな光を頼りに帰路を急ぐ。
なお、本隊と距離をおき、先ほどと同じく天井や壁を伝い歩きながら先行するのが雷音だ。
彼女が歩みを進める中で、ふとぬかるみに何かが押し付けられるような音が聞こえた。
咄嗟に後続のプルメリアたちに視線を送る。彼女達も異音に気づいたようで小さく首を振った。
音のなった方向へ雷音が歩みを進め、プルメリア、宗人、ミモザも続く。
鈍い音が少しずつ大きくなっていく。後方に残った4人はジャンを囲んだ。その息の詰まるような空気をジャンも感じ取ったのだろう。ハンター達にすがるような視線を送った。
「大丈夫、必ずジャン君をおうちに帰す、ですから……」
前方を警戒するプルメリアはジャンに少しでも勇気を与えられるようにと声を高くした。
雷音は音の主に向かい、迅速に移動した。ただの獣だったならば良い、だが……遭遇した相手は石を無造作に積んで人の形を成したような奇妙なモノだった。
(……!)
天井に張り付いていた雷音は足を止めた。丁度向こう側からプルメリアたちがやってくる。そして、後方でリュンルースがジャンに緑の風の守護を与える姿も確認できた。後方の守りは十分だろう、と彼女は思う。
雷音はまず、天井を強く蹴った。雑魔の頭らしき石に剣で強烈な一撃を見舞うために。
『ギィンッ!!』
耳をつんざくような音。そして頭部の石が真っ二つに割れ、地に転がった。
(やった!?)
地面に足を着いた雷音が油断することなく、剣を鞘へ戻した。防御を捨て、攻撃に専念する構えだ。
そして振り返ると、雑魔は体をぐらりと傾かせたものの、何事もなかったかのように体勢を立て直す様子が視界に入る。
「血の通わぬ、石の集合体……命が費える瞬間まで戦うのですね。ならばお付き合いしましょう!」
ミモザが自身に向けてウィンドガストを発動させた。
一方、シグは雑魔が討伐班に気をとられている間にジャンを安全な場所へ避難させるべく行動を開始した。
「落ち着いて、ゆっくり深呼吸して。混乱するのはわかる。だからこそ落ち着くんだ」
彼は怯えるジャンをしっかりと抱きしめると、壁歩きで天井へと登った。高い場所からなら狭い無数の道も一望できる。
少しでも安全なところへ、と視線をめぐらせるシグ。だが彼は「うっ」と小さく声を漏らした。もう1体の石人形が後方から迫ってきているのだ。
「後方から敵1体が来ますっ!」
シグはジャンを片腕で強く抱きなおすと、もう片方の手で銃を握って着地した。
「挟み撃ちですか……意地悪です……」
プルメリアはいつでも後方に駆け寄れる位置で気を練り、三節棍の先端にマテリアルを集中させた。
「気功波です……えいやー……!」
のんびりした声だが、十分な気迫が篭っていたようだ。マテリアルが一気に放出され、雑魔の右肩から先が消し飛んだ。
「おお、やるなあ! 俺も負けられへんでっ」
宗人もまた雑魔に迫る。すると雑魔は無事な左腕を伸ばし、その先端から石を射出した。大人の握り拳ほどもある石が宗人の脇腹に直撃する。
「ぐっ! 頭も右手もやられたくせに根性あるやん。ええわ、存分にやりあおうや!」
敵が逃げずに攻撃してきたのは十分に注意をひけている証拠。宗人はにっと笑うと、無駄の無い太刀筋で雑魔を袈裟懸けに切り裂いた。
後方の戦いも熾烈を極めていた。こちらの雑魔は意外にも足が早く、彼の攻撃をひきつけるべくネフィルトが誰よりも前に出た。
「お主の相手は我じゃよ!」
光り輝く宝剣を構えたネフィルトは足を止めず、雑魔に肉薄した瞬間横一文字に閃いた。腹の石がボロボロと落ちたが、それでも雑魔の足は止まらない。物陰に隠れるだけで精一杯のジャンに雑魔は石を集めた腕を力任せに叩きつけようと振り上げた。
青ざめ、腰をぺたんと落としてしまうジャン。その前に立ち塞がったのは鎧の少女だった。
「……きずつけないって約束だから、私はジャンを守る……はやく、にげて」
香墨がその身を盾にし、ジャンを守ったのだ。鎧には雑魔の力任せの打撃で大きな傷がついていた。
「ジャンは死にたいの? 私は死ぬのは怖いけど。……ぼさっとしない、はやくにげて」
淡々とした言葉の中に秘められた、複雑な感情。それを裏づけするかのように香墨が紡いだものは、ジャンの身を守る祈りの言葉だった。
一方、力任せの一撃で僅かな隙が出来た雑魔を貫いたのはリュンルースのウィンドスラッシュだった。
(ジャン君は私の相棒を子どもにしたような雰囲気があるんだ。だから放っておけない……!)
胸を深く抉られた雑魔はたちまち動きが荒くなり、無茶苦茶に腕を振り回し始めた。そこに駆けつけたのは雷音だった。
(これで、おしまいっ!!)
雷音の守りを捨てた刃が破壊の力を増し、後方の雑魔を一刀両断にする。
「闇の中で静かにお眠りなさい!」
続けて前方の1体がミモザのクラッシュブロウによって粉砕された。雑魔は土に倒れこみ石が散乱するも、やがて真っ白な灰になって、消えた。
両者とも雑魔の攻撃を受けて血を流したが、それでも少年を守りぬけたことに小さく笑みを浮かべた。
それからほどなくして、9名はあたたかな空気の漂う外界に戻ることができた。
残党の存在を懸念して8名のハンターは再度探索を試みるも、雑魔の存在は欠片も感じ取れなくなっていた。後はこの地にマテリアルの歪みが生じないよう、定期的な確認を村に勧めておけば十分だろう。
報告が進む中、再会を果した親子は互いに唇を噛み締め、向き合っていた。
「……親父、母ちゃん……」
「お前、何で相談もなしに坑道に行ったんだ。もし雑魔がいなくても、岩盤が崩れる可能性だってあったんだぞ。もしお前に何かあったら……っ」
涙を流しながら息子を抱きしめる両親。ジャンは自分の過ちを心の底から悔いた。しかし今の気持ちを伝える方法がわからない。
「お父さんとお母さん、青ざめた顔で……本当に、心の底から、心配していたよ」
シグは家族に強く抱きしめられているジャンを羨ましいと思う。あとはジャンが今の気持ちを素直に言えば良いだけだ。
雷音は急いでメモ紙に言葉を綴る。『謝ろう?』と書いた紙をジャンに差し出すと、彼は戸惑ったように雷音の顔を見た。その時、彼女の表情はジャンの本当の「勇気」の背を押すように優しい微笑を浮かべていた。
ジャンがこくん、と頷く。
「ご、ごめんなさい……!」
嗚咽交じりの謝罪。両親は息子をもう一度、強く抱きしめるとハンター達に深く頭を下げた。
ジャンの父親がハンターオフィスに報告に向かった後、ハンター達はジャンとその母親とともに山を下りることになった。ハンター達に寄合所で温かい食事を用意すると張り切っている母親。香墨は空腹だったようで、その提案に珍しく乗り気な様子だった。
それと時を同じくしてジャンが落ち着いた頃を見計らい、ハンター達は「勇気」の本当の意味をジャンに伝えていく。
「ジャン、あんな坑道に入っていくとは勇気があって良きことじゃ。じゃが……良きことであるのは『無事で帰って来た時』だけだのう。怪我をしてしまったら家族も、友人も悲しんでしまうからのう」
ネフィルトの言葉に黙って頷くジャン。ミモザが続く。
「成したいことがあるならば、それができるように強くなることです」
神妙な顔のジャンにリュンルースは微笑んだ。
「勇敢と無謀は違うものだと知って、それでも前に進む勇気があるならきみはきっと強くなれるよ。今よりもね」
「ああ。勇気って言うんは、大事なものを護ったり、誰かと肩を並べて何かを成し遂げる為に振り絞る力の事を勇気ちゅうんや。ほんまに強くなりたいなら、そこをはき違えたらあかん。自分ならできるで、男やろ?」
拳を作って、ジャンの前に突き出して見せたのは宗人だ。
「……俺、兄ちゃんたちみたいに強くなれるかな? 誰かを守れるぐらい、強くなりたいよ」
宗人の拳に小さな拳がコツンとぶつかる。宗人は「おう」とだけ答えて、笑った。
そこに依頼人である、ジャンの両親が荒い息を吐きながら駆け寄る。
「こちらが鉱山の地図とジャンの上着です。地図は20年前のものですので、地形の変わっている場所があるかもしれません。お役に立つかどうか」
「ううん、大丈夫……助かり、ます……」
地図を所望していたプルメリア(ka6983)は父親から地図を受け取ると小麦色の頬を緩めた。
ミモザ・エンヘドゥ(ka6804)は上着を預かると両親に向かって一礼した。
「たしかにお預かりしました。こちらは捜索目的のみに使用し、救助が終わり次第速やかにお返しします」
ミモザの真面目な声音に信頼感を抱いたのだろう。母親が僅かながらも微笑み、彼女に願う。
「ジャンに会ったらこの上着を着せてやってくれませんか。坑道は湿気寒いので……」
「了承しました、必ずや」
子を想う母の情に何か感ずるものがあったのだろう、ミモザが深く頷く。
その後方でシグ(ka6949)は胸元で拳を握り、決意を新たにした。
(お父さんとお母さんの顔、声……これを見て、聞いて、放っておくなんてできない。家族は、幸せなものなんだ。幸せでなきゃいけないんだ)
ネフィルト・ジェイダー(ka6838)は一足先に坑道に踏み込み、行く先を見据える。そこには深い闇しかない。彼は赤の癖毛をくしゃりと撫で、ため息を吐いた。
「こんな場所に入っていくとは、勇気があるのぅ。入ったことは後で諭さねばならんが、その勇気は褒めてやらないといかんの」
坑道の中はひどく静かで、水が滴り落ちる音でさえ耳に響く。
プルメリアは華奢な肩に落ちた雫を指先で拭った。
「冷たい、です……。こんな場所に長くいたら風邪をひくです……。早くジャン君を、助けなきゃ……」
その声に頷いたのはリュンルース・アウイン(ka1694)。普段は穏やかな銀の瞳にはっきりとした決意の色が浮かんでいる。
「うん。私は子どもは元気なのが良いと思うけれど、こういうのは危ないから何としても助けないとね」
その様子を濡羽 香墨(ka6760)は兜の奥の瞳でじっと見た。しかし彼女は黙したまま、自らの盾に光を宿らせると周囲の観察を開始した。
神立 雷音(ka6136)は今まで目を覆っていた布を外した。可憐な瞳が闇の奥の風景を捉える。
(久々の目隠し……目は無事に闇に慣れたみたい。次は……)
雷音は光源を手にする仲間たちに小さく首をかしげてみせた。それは作戦開始を確認する仕草だった。
埜月 宗人(ka6994)が力強く頷く。
その瞬間、今まで微笑みを浮かべていた雷音が獣のごとく険しい顔に変わった。
口を左右に大きく引き、地を這うような唸り声を放つ雷音。続けて放たれた耳を貫かんばかりの哮りに仲間達は思わず息を呑んだ。そして、渾身の咆哮が坑道内に幾重にも反響する。それに反応するものを求め、全員で耳を澄ませ目を凝らす。しかし、反応はない。
今度はネフィルトが「よし、今度は我の出番じゃな!」と軽く胸を叩いた。
「おーい! ジャンとやらー!! 助けに来たぞー!!!」
先の咆哮と同じように次々と反響するネフィルトの声。すると北東の方角から微かな音が聞こえた。
「音が、しましたね」
ミモザが言う。プルメリアが地図を見た。
「北東方面は細い道が網の目のように、なっています……。もしジャン君がそこにいて……坑道内に雑魔がいるなら危ない、かと……」
早速宗人が北東への道にライトを向けた。すると子供の足跡と、地面に大きな窪みがいくつもあることに気づいた。
「これは……ジャン君のいたずらって線はないやろな。殊更急がないとあかんな」
坑道内の探索は一行が想定していた以上に迅速に進んだ。
何しろ20年間誰も入ることのなかった坑道だ。人の足跡はジャンのものしかない。また、道が狭まっている場所では壁についた手の跡も貴重な手がかりとなった。
まず先行したのが雷音だ。彼女は難所を壁歩きで攻略しながら周囲の様子を窺う。
プルメリアも前方を歩む。彼女は地図をこまめに確認しては道のひとつも見落としのないように注意した。
リュンルースは呼びかけを繰り返した。彼が安心して姿を見せてくれるよう、やさしい言葉を選びながら。
「ジャン君、無事かな? この坑道には雑魔がいて危ないんだ。もし動けないなら声だけでもいい、どうか返事をしてくれないか」
なかなか返事は返ってこない。しかし彼は諦めることなく呼びかけを続けた。
シグは分岐点に蛍光色のペイント弾で目印がつけた。一刻も早くジャンを家族のもとへ帰すため、帰り道に迷わぬようにと。
時折ぬかるみなどで足跡を見失った際に活躍したのがミモザと香墨だった。ミモザは超嗅覚を駆使し、ジャンの服の匂いを元に進むべき道を皆に示す。香墨は路地裏生活の経験をもとに、言葉こそ少ないが適切なアドバイスを行う。
こうして全員の協力が調和し、たどり着いた先にあったのは小さな扉だった。
香墨が光を放つ盾を抱え、足下を見つめる。
「子供の足跡、だけ。雑魔は来てない」
リュンルースが頷く。彼は扉を軽くノックして先ほどと同じ内容の呼びかけを行った。
すると勢いよく扉が開かれた。
「兄ちゃんたち、ハンターなの!? 俺を助けに来てくれたの!?」
真っ暗な部屋から飛び出してきたのは泥だらけの少年ジャンだった。
「さっきすごい音が聞こえたんだ。そいつ、雑魔かもしれない! 絶対強いやつだよ!!」
雷音は僅かに苦笑した。まさか目の前にいる物静かな少女が咆哮の主だと少年は思うまい。
ネフィルトはジャンの目線に合わせて腰を落として宥めた。
「わかっとる、早くここから出んとのう。それよりも怪我はないかのー?」
よくよく見るとジャンの歩き方がおかしい。転んで足でも捻ったのだろうか。
香墨がジャンの足に手を伸ばした。甲冑で全身を隙間なく隠す彼女の姿にジャンは思わず息を呑む。しかし、鎧の中からの声に彼は安堵した。
「じっとしてて」
じんわりと広がる光がジャンの足の痛みを和らげていく。
「ありがとう! 鎧のお姉ちゃん」
無邪気に礼を言うジャンに香墨はふい、と顔を逸らした。
ぶっきらぼうな香墨の態度。不安そうに眉尻を下げたジャンに、ふわりとあたたかな上着がかけられた。ミモザが彼の母親との約束を果したのだ。きょとんとする彼にミモザは静かに言う。
「あなたのお母様からの心遣いですよ。それと、ここに長居は無用。ジャン、すぐに外に向かいますよ」
ミモザの理知的な声に頷いたジャンはすぐさまリュックサックを回収し、早足でハンター達のところに戻る。その様にネフィルトはふんわりと微笑んだ。
「よしよし、皆がいるから安心じゃ。一緒に出るかの」
一行はシグのペイント弾のほのかな光を頼りに帰路を急ぐ。
なお、本隊と距離をおき、先ほどと同じく天井や壁を伝い歩きながら先行するのが雷音だ。
彼女が歩みを進める中で、ふとぬかるみに何かが押し付けられるような音が聞こえた。
咄嗟に後続のプルメリアたちに視線を送る。彼女達も異音に気づいたようで小さく首を振った。
音のなった方向へ雷音が歩みを進め、プルメリア、宗人、ミモザも続く。
鈍い音が少しずつ大きくなっていく。後方に残った4人はジャンを囲んだ。その息の詰まるような空気をジャンも感じ取ったのだろう。ハンター達にすがるような視線を送った。
「大丈夫、必ずジャン君をおうちに帰す、ですから……」
前方を警戒するプルメリアはジャンに少しでも勇気を与えられるようにと声を高くした。
雷音は音の主に向かい、迅速に移動した。ただの獣だったならば良い、だが……遭遇した相手は石を無造作に積んで人の形を成したような奇妙なモノだった。
(……!)
天井に張り付いていた雷音は足を止めた。丁度向こう側からプルメリアたちがやってくる。そして、後方でリュンルースがジャンに緑の風の守護を与える姿も確認できた。後方の守りは十分だろう、と彼女は思う。
雷音はまず、天井を強く蹴った。雑魔の頭らしき石に剣で強烈な一撃を見舞うために。
『ギィンッ!!』
耳をつんざくような音。そして頭部の石が真っ二つに割れ、地に転がった。
(やった!?)
地面に足を着いた雷音が油断することなく、剣を鞘へ戻した。防御を捨て、攻撃に専念する構えだ。
そして振り返ると、雑魔は体をぐらりと傾かせたものの、何事もなかったかのように体勢を立て直す様子が視界に入る。
「血の通わぬ、石の集合体……命が費える瞬間まで戦うのですね。ならばお付き合いしましょう!」
ミモザが自身に向けてウィンドガストを発動させた。
一方、シグは雑魔が討伐班に気をとられている間にジャンを安全な場所へ避難させるべく行動を開始した。
「落ち着いて、ゆっくり深呼吸して。混乱するのはわかる。だからこそ落ち着くんだ」
彼は怯えるジャンをしっかりと抱きしめると、壁歩きで天井へと登った。高い場所からなら狭い無数の道も一望できる。
少しでも安全なところへ、と視線をめぐらせるシグ。だが彼は「うっ」と小さく声を漏らした。もう1体の石人形が後方から迫ってきているのだ。
「後方から敵1体が来ますっ!」
シグはジャンを片腕で強く抱きなおすと、もう片方の手で銃を握って着地した。
「挟み撃ちですか……意地悪です……」
プルメリアはいつでも後方に駆け寄れる位置で気を練り、三節棍の先端にマテリアルを集中させた。
「気功波です……えいやー……!」
のんびりした声だが、十分な気迫が篭っていたようだ。マテリアルが一気に放出され、雑魔の右肩から先が消し飛んだ。
「おお、やるなあ! 俺も負けられへんでっ」
宗人もまた雑魔に迫る。すると雑魔は無事な左腕を伸ばし、その先端から石を射出した。大人の握り拳ほどもある石が宗人の脇腹に直撃する。
「ぐっ! 頭も右手もやられたくせに根性あるやん。ええわ、存分にやりあおうや!」
敵が逃げずに攻撃してきたのは十分に注意をひけている証拠。宗人はにっと笑うと、無駄の無い太刀筋で雑魔を袈裟懸けに切り裂いた。
後方の戦いも熾烈を極めていた。こちらの雑魔は意外にも足が早く、彼の攻撃をひきつけるべくネフィルトが誰よりも前に出た。
「お主の相手は我じゃよ!」
光り輝く宝剣を構えたネフィルトは足を止めず、雑魔に肉薄した瞬間横一文字に閃いた。腹の石がボロボロと落ちたが、それでも雑魔の足は止まらない。物陰に隠れるだけで精一杯のジャンに雑魔は石を集めた腕を力任せに叩きつけようと振り上げた。
青ざめ、腰をぺたんと落としてしまうジャン。その前に立ち塞がったのは鎧の少女だった。
「……きずつけないって約束だから、私はジャンを守る……はやく、にげて」
香墨がその身を盾にし、ジャンを守ったのだ。鎧には雑魔の力任せの打撃で大きな傷がついていた。
「ジャンは死にたいの? 私は死ぬのは怖いけど。……ぼさっとしない、はやくにげて」
淡々とした言葉の中に秘められた、複雑な感情。それを裏づけするかのように香墨が紡いだものは、ジャンの身を守る祈りの言葉だった。
一方、力任せの一撃で僅かな隙が出来た雑魔を貫いたのはリュンルースのウィンドスラッシュだった。
(ジャン君は私の相棒を子どもにしたような雰囲気があるんだ。だから放っておけない……!)
胸を深く抉られた雑魔はたちまち動きが荒くなり、無茶苦茶に腕を振り回し始めた。そこに駆けつけたのは雷音だった。
(これで、おしまいっ!!)
雷音の守りを捨てた刃が破壊の力を増し、後方の雑魔を一刀両断にする。
「闇の中で静かにお眠りなさい!」
続けて前方の1体がミモザのクラッシュブロウによって粉砕された。雑魔は土に倒れこみ石が散乱するも、やがて真っ白な灰になって、消えた。
両者とも雑魔の攻撃を受けて血を流したが、それでも少年を守りぬけたことに小さく笑みを浮かべた。
それからほどなくして、9名はあたたかな空気の漂う外界に戻ることができた。
残党の存在を懸念して8名のハンターは再度探索を試みるも、雑魔の存在は欠片も感じ取れなくなっていた。後はこの地にマテリアルの歪みが生じないよう、定期的な確認を村に勧めておけば十分だろう。
報告が進む中、再会を果した親子は互いに唇を噛み締め、向き合っていた。
「……親父、母ちゃん……」
「お前、何で相談もなしに坑道に行ったんだ。もし雑魔がいなくても、岩盤が崩れる可能性だってあったんだぞ。もしお前に何かあったら……っ」
涙を流しながら息子を抱きしめる両親。ジャンは自分の過ちを心の底から悔いた。しかし今の気持ちを伝える方法がわからない。
「お父さんとお母さん、青ざめた顔で……本当に、心の底から、心配していたよ」
シグは家族に強く抱きしめられているジャンを羨ましいと思う。あとはジャンが今の気持ちを素直に言えば良いだけだ。
雷音は急いでメモ紙に言葉を綴る。『謝ろう?』と書いた紙をジャンに差し出すと、彼は戸惑ったように雷音の顔を見た。その時、彼女の表情はジャンの本当の「勇気」の背を押すように優しい微笑を浮かべていた。
ジャンがこくん、と頷く。
「ご、ごめんなさい……!」
嗚咽交じりの謝罪。両親は息子をもう一度、強く抱きしめるとハンター達に深く頭を下げた。
ジャンの父親がハンターオフィスに報告に向かった後、ハンター達はジャンとその母親とともに山を下りることになった。ハンター達に寄合所で温かい食事を用意すると張り切っている母親。香墨は空腹だったようで、その提案に珍しく乗り気な様子だった。
それと時を同じくしてジャンが落ち着いた頃を見計らい、ハンター達は「勇気」の本当の意味をジャンに伝えていく。
「ジャン、あんな坑道に入っていくとは勇気があって良きことじゃ。じゃが……良きことであるのは『無事で帰って来た時』だけだのう。怪我をしてしまったら家族も、友人も悲しんでしまうからのう」
ネフィルトの言葉に黙って頷くジャン。ミモザが続く。
「成したいことがあるならば、それができるように強くなることです」
神妙な顔のジャンにリュンルースは微笑んだ。
「勇敢と無謀は違うものだと知って、それでも前に進む勇気があるならきみはきっと強くなれるよ。今よりもね」
「ああ。勇気って言うんは、大事なものを護ったり、誰かと肩を並べて何かを成し遂げる為に振り絞る力の事を勇気ちゅうんや。ほんまに強くなりたいなら、そこをはき違えたらあかん。自分ならできるで、男やろ?」
拳を作って、ジャンの前に突き出して見せたのは宗人だ。
「……俺、兄ちゃんたちみたいに強くなれるかな? 誰かを守れるぐらい、強くなりたいよ」
宗人の拳に小さな拳がコツンとぶつかる。宗人は「おう」とだけ答えて、笑った。
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依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/09/02 09:44:05 |
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ジャン君救出作戦! シグ(ka6949) オートマトン|15才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2017/09/06 01:03:29 |