ゲスト
(ka0000)
【界冥】リゼリオ・クライシス
マスター:cr
- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
- 1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~10人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/09/13 12:00
- 完成日
- 2017/09/22 01:44
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
ある日のリゼリオ。その日のハンターオフィスには珍しい顔が揃っていた。
「ミリアさんの仰られるとおりでした。大変助かりました」
「そうですか? それならこれからも何なりとお申し付けください」
会話をしていたのはハンターオフィス受付嬢のモア・プリマクラッセとオートマトンのルビー。モアは優秀な商人であり優秀な受付嬢だが、そんな彼女でも舌を巻くほどルビーの仕事は速かった。溜まっていた書類の整理などがあっという間に終わっていく。
「それでは報酬をお支払します」
「いえ、この程度でしたら結構です」
「いけません」
まず感情らしきものを出さない鉄面皮のモアが珍しくきっぱりと、はっきりとルビーの考えを否定する。
「仕事をしたのなら対価として報酬を受け取らなければいけません。それが正しい取引というものです。我々商人は正しい取引をするのが仕事ですから」
「それじゃあ……お言葉に甘えて、いただきますね」
そんな時、ハンターオフィスに別の女性が入ってきた。
●
「……ここであってる?」
「よくいらっしゃいました、サファイアさん」
彼女の名はサファイア。彼女もオートマトンだった。つまりここにはオートマトンが二人揃ったわけである、といっても感動の再会なんてことにはならず普通に会話が始まる。
「……今日は何?」
「今日は先日のお仕事の報酬をお支払するため来ていただきました」
「うん、わかった」
「あ……」
サファイアが先日した仕事というのは海水浴場で行われるプロレス大会に参加するというものである。ルビーはそれをたまたま観戦しており、サファイアがその時出場したレスラーであることに気づいたのだが、サファイアの方は気づく余地もなかった。
このように何の変哲もないハンターオフィスの日常は過ぎていく、はずだった。
●
「大変です!」
そんな時、別の職員が飛び込んでくる。
「リゼリオにおそらく狂気のものと思われる歪虚が現れました!」
「詳しく説明をお願いします」
大事件が起きているのだが、モアは商人らしく冷静沈着に状況を進めていく。
「リゼリオ入り口付近の広場に突如歪虚の大群が現れました! 相当な量の模様で……」
「具体的な数字を確認してもらえますか? こちらはこれに対する対処を正式な依頼にするため手続きを行います。幸いこの街にはハンターの皆さんは数多く居ます。対応して頂ける方はすぐに見つかるはずです」
慌てる職員を落ち着かせるように、モアが淡々とやるべきことを支持している中、先に動く者が居た。
「モアさん、それでは私が行きます。余りお役に立てないかもしれませんが、対抗する戦力は一人でも多く必要な状況でしょう?」
「……任せて。戦うのは得意」
ルビーとサファイア、二人のオートマトン達が飛び出していった。その背中を見ながら、モアは一言こう述べた。
「では我々も急ぎましょう。……ご武運を」
ある日のリゼリオ。その日のハンターオフィスには珍しい顔が揃っていた。
「ミリアさんの仰られるとおりでした。大変助かりました」
「そうですか? それならこれからも何なりとお申し付けください」
会話をしていたのはハンターオフィス受付嬢のモア・プリマクラッセとオートマトンのルビー。モアは優秀な商人であり優秀な受付嬢だが、そんな彼女でも舌を巻くほどルビーの仕事は速かった。溜まっていた書類の整理などがあっという間に終わっていく。
「それでは報酬をお支払します」
「いえ、この程度でしたら結構です」
「いけません」
まず感情らしきものを出さない鉄面皮のモアが珍しくきっぱりと、はっきりとルビーの考えを否定する。
「仕事をしたのなら対価として報酬を受け取らなければいけません。それが正しい取引というものです。我々商人は正しい取引をするのが仕事ですから」
「それじゃあ……お言葉に甘えて、いただきますね」
そんな時、ハンターオフィスに別の女性が入ってきた。
●
「……ここであってる?」
「よくいらっしゃいました、サファイアさん」
彼女の名はサファイア。彼女もオートマトンだった。つまりここにはオートマトンが二人揃ったわけである、といっても感動の再会なんてことにはならず普通に会話が始まる。
「……今日は何?」
「今日は先日のお仕事の報酬をお支払するため来ていただきました」
「うん、わかった」
「あ……」
サファイアが先日した仕事というのは海水浴場で行われるプロレス大会に参加するというものである。ルビーはそれをたまたま観戦しており、サファイアがその時出場したレスラーであることに気づいたのだが、サファイアの方は気づく余地もなかった。
このように何の変哲もないハンターオフィスの日常は過ぎていく、はずだった。
●
「大変です!」
そんな時、別の職員が飛び込んでくる。
「リゼリオにおそらく狂気のものと思われる歪虚が現れました!」
「詳しく説明をお願いします」
大事件が起きているのだが、モアは商人らしく冷静沈着に状況を進めていく。
「リゼリオ入り口付近の広場に突如歪虚の大群が現れました! 相当な量の模様で……」
「具体的な数字を確認してもらえますか? こちらはこれに対する対処を正式な依頼にするため手続きを行います。幸いこの街にはハンターの皆さんは数多く居ます。対応して頂ける方はすぐに見つかるはずです」
慌てる職員を落ち着かせるように、モアが淡々とやるべきことを支持している中、先に動く者が居た。
「モアさん、それでは私が行きます。余りお役に立てないかもしれませんが、対抗する戦力は一人でも多く必要な状況でしょう?」
「……任せて。戦うのは得意」
ルビーとサファイア、二人のオートマトン達が飛び出していった。その背中を見ながら、モアは一言こう述べた。
「では我々も急ぎましょう。……ご武運を」
リプレイ本文
●
「狂気の歪虚、家も学校も壊されて……やだな。思い出しちゃう」
焦りは魔導バイクのスロットルをいつもより強く回させる。天王寺茜(ka4080)はシートの上で流れる景色を見送りながら、冒険都市リゼリオの街中を飛ばしていた。日常を営む街を突如として破壊するために現れた歪虚、それが彼女にはかつて見た光景と重なって見えた。
「頑張ろう。LH044みたいな光景は、もう見たくないから」
「リゼリオが……戦場に……。……止めないと」
ラウィーヤ・マクトゥーム(ka0457)はこの町で日常を営む一人だった。彼女はこの街で生まれ育ち、今も「海燕の寝座亭」という酒場を経営している。そんな彼女がモアからの緊急依頼を受けることが出来たのはまさに僥倖と言ってよかった。歪虚達が居るという場所へ急ぐ。
「ルビー、サファイヤ、間に合って良かった」
「茜さん、一緒に戦ってくれるんですね。ありがとうございます」
「うん、わかった。指示をお願いする」
茜は見知った顔を見てバイクから飛び降りる。流れるように目の前に敵を滅ぼすべく彼女達は動く。さらにモアが出した依頼を受けてラウィを始めとする他のハンター達も入ってきた。トラウマがもたらす恐怖を信頼が和らげてくれていた。
●
視界が広がる。リゼリオの入り口には埋め尽くさんばかりのおびただしい数の歪虚の群れが居た。
(私の、生まれた街。……そうだけど、でも、そうじゃなくて……。うん……私は、この街の人達が……この街が)
あまりの数に士気がくじかれそうになる。だがここにはラウィのよく知る顔が居た。
「女将、無事か」
そう声をかけたのはバケツのような大きな兜を始め全身を鎧に覆ったユルゲンス・クリューガー(ka2335)だった。そして彼は使い込まれた愛用の戦槌を握り、歪虚達に向かい合う。
「このリゼリオを歪虚の手勢が蹂躙しようなどと、片腹痛いわ」
そしてもう一人、ラウィに声をかける者が居た。
「ふん、ここに攻め込んで来るなんてね」
彼女はカーミン・S・フィールズ(ka1559)。ラウィはこの街の酒場の女将であるが、同時に700年前から流れを受け継ぐ傭兵団の長でもある。そしてユルゲンスもカーミンも、その団の一員であった。
共に正面を向くユルゲンスとラウィに対し、右側に回り込むように走り出すカーミン。少しの言葉で作戦を固め、各自が持ち場に着く。
「あらあら、街中にまで来られると困っちゃうわね。さくっと片付けましょうか」
「リゼリオはみんなの街なの。歪虚なんかの居場所はどこにもないの。ファリスも全力で攻撃するの!」
「……ターゲットを確認、任せて」
コントラルト(ka4753)とファリス(ka2853)、それにサファイアが並び立つ。彼女達もラウィ達と同じく正面を受け持つ。
作戦はこうだった。左右と正面の三方に展開し、取り囲むように包囲を狭め殲滅する。しかしこの作戦を成功させるためには一つの問題が合った。物量は敵のほうが多い。量を生かしさらなる広範囲に広がられると結果各個撃破の憂き目にあう。そのためには誰かが敵を集める必要があった。
それをするのがラウィだった。だがそれは、つまり囮になるということだ。成功すれば敵の集中攻撃にさらされる。
「……この街が、好きなんです」
それでも彼女は覚悟を固めた。そんな彼女に、側に立つ者が声をかけた。
「任せてください。こう見えても防御は得意なんです」
右腕に巨大な機械拳と透明な盾を展開したルビーだった。彼女の柔らかな微笑みにラウィは一つ頷き、そして意識を集中した。
次の刹那、ラウィに体から煌々とマテリアルの輝きが立ち上る。その強い輝きを無視できるものなど誰も居なかった。
●
「うじゃうじゃと……場所が場所だけに数が多いのはちと難儀するのぅ。飛んでおらなんだら纏めて轢き倒してやるところなんじゃが」
その頃、広場の左側に動いていた星輝 Amhran(ka0724)は戦場の様子にうんざりした面持ちでそうつぶやいていた。轢き倒すとの言葉どおり、彼女はその小柄な体をバイクのシートに収めている。
「リゼリオ、に歪虚、ですか……」
その隣にこちらもバイクに乗って来た瀬織 怜皇(ka0684)がつぶやく。
「どんな敵が来ても、愛の力で乗り越えるよっ」
だがすぐに彼の恋人であるUisca Amhran(ka0754)がやはりバイクに乗って並んだ。ついでに言えば彼女はキララの妹である。
三人は敵を確認すると一つ頷き、同時にバイクのアクセルを吹かした。一気に速度を上げた三台のバイクが左側から歪虚達を挟む様に走り出した。
「数が多い。人形型の足止めからの、小型の斉射は脅威となりうる」
反対側ではカーミンが戦況を確認していた。彼女は状況を素早く把握し思案を巡らせる。
「数的優位が逆転したら、敵はこの広場より街の小路に入りたがるかも。街に敵砲火を届かせない為、建物の手前20mラインが絶対防衛線」
そこに茜と央崎 遥華(ka5644)がやって来た。こちらはこの三人が受け持つことになっている。
遥華は後ろに下がり、あえて歪虚達を直視しないようにしていた。狂気の伝染を懸念し、この位置から援護のために動く。
皆の立ち位置が決まったところで、カーミンは歪虚達に一言こう告げた。
「でも、入りたいなら入って? 位置を変え、背に狙いすました一射をくれてやるわ?」
●
その時歪虚は一斉に正面にいる一点に向けて移動を開始していた。狂気の歪虚達はおおよそ知性らしき知性を持たない。マテリアルの輝きに包まれたラウィをただ狙って押し寄せる。彼女が囮になるという計画は狙い通り、いや、上手く行き過ぎていた。
圧倒的な物量の歪虚達が一斉にその眼からレーザー放つ。光の豪雨とも言えるそれが押し寄せる。
だがラウィの前にはルビーが居た。彼女は広場を奔る光線の前に立ち、機械拳を構える。そして光線が着弾するその瞬間、ルビーはそれを大きく振るう。その巨大な武器を苦もなく軽やかに動かせば、その物量が嘘のようにほぼ全て弾かれていった。
「ごめんなさい、ラウィさん。一つ逸してしまいました」
ルビーの言うとおり、彼女が弾きそこねた光線はラウィの頬をかすめたただ一発だった。この程度の傷など怪我のうちに入らない。
「大丈夫です。……皆さん、居ますから」
その時他のハンター達は前に出ていた。ラウィの元へと殺到していた歪虚達は、狙う的が一つに集まっていたことを意味する。コントラルトは少し意識を集中して魔導機械を操作すれば、業火が巻き起こり一瞬のうちに扇状に広がって歪虚達を焼き払っていく。
「……爆炎よ。弾け、敵を焼き焦がせ!」
そしてファリスの詠唱が完成すると業火をその身に浴びた歪虚達の残党の中心に白く輝く火球が一つ、産み出されていた。その火球は見る見るうちに巨大化していき、轟音とともに炸裂した。周囲を白い炎が埋め尽くし、その後にはほとんど何も残っていなかった。
二人の攻撃で大きく広がった空間にユルゲンスとサファイアが出る。彼我の戦力は一気に逆転していたが、まだまだ残党は残っているし、この状況でまだ残っている敵はすなわち一筋縄ではいかない相手と言う事が出来た。ユルゲンスはそこに仁王立ちし、敵襲に身構えた。
「さあ来るがいい、叩き潰してくれる」
●
右側に陣取っていた三人、攻撃の火蓋を切ったのは遥華だった。
「我が意を示し穿て」
彼女の前に青白く輝く魔法陣が現れ、エネルギー体の魔法の矢が放たれる。その矢は狙いを外すことはない。銃器を手にした人型の歪虚にゆるやかなカーブを描いて飛び、そして貫く。その矢の軌道を追いかけるようにカーミンは愛馬を駆っていた。
「少しの間だから、言うことを聞いて。あなたは私が守るわ」
そして彼女は弓に矢を三本まとめてつがえ、一気に引き絞り放った。三本の矢は戦場を貫き、そしてコントラルトとファリス、二人の生み出した炎に焼かれふらふらと漂っていた小型歪虚達に同時に命中していた。
「2度も住む場所を奪わせたりしない!」
アカネはカーミンを追いかけるようにバイクを走らせていた。スロットルを捻る。手からマテリアルが彼女の鉄馬に伝わり、さらに加速していく。歪虚と間合いを保ちながら走る彼女の前に光の三角形が現れ、程なくしてその頂点から光線が迸った。それは一瞬のうちに漂う歪虚達を貫き、地に落としていた。
地面に墜落する前に歪虚達は風に吹かれ塵へと変わっていく。あれほどの数が居た歪虚達は一瞬のうちに殲滅されていた。
●
「一気に巻き込んで対処していきたいところです、ね」
左側でバイクを並んで走らせていた姉妹と瀬織の前に歪虚達が見える。おそらくこちらとほぼ同じ大きさの人型のそれ、そして遥かに大きなサイズの歪虚が一体。瀬織はバイクを巧みに操り間合いを取りながら歪虚達に三本の光線を放つ。だが、それは一本はかわされ、一本は斬り払われてしまった。
もっともこの事は想定していた。動く相手ならかわされることも止められることもあるだろう。そうしないためには動きを止めれば良い。その動きを止めるための切り札が今飛び込んでいった。
それはキララだった。
狂気の歪虚は目の前の命の輝きを全て貪ろうとする、その本能にのみ従って動く。歪虚達は皆ラウィの方に目を向けていたが、流石に目の前にキララが飛び込んでくればそちらへ向かう。その時キララが鎮魂の歌を奏で始めていたことに気付く余地など無かった。
命無き存在にとってその美しい歌は苦しみを与えるものに他ならない。目に見えて動きの鈍った歪虚達に攻撃を与えることなど容易い。
瀬織が炎を浴びせかけ、そこにイスカが拳を突き出す。彼女の腕からカードが現れると、それを取り投げつける。するとそれは空中で別れ雷と化して降り注いだ。
「傲慢の強制の方が余程強いわ。狂気とはこの程度かや! ほれ、もっと近う来やれ?」
歪虚達の中心で、キララはそう勝ち誇っていた。しかし歪虚はこの程度では滅びなかった。再び動き出した人型のそれらは、手にした大型武器を振り回してくる。
キララはそれをひらり、ひらりとかわす。だが、突き出された大型ランスの先端が急加速し彼女の小さな体を今まさに貫こうとしていた。それは死角から来た想定外の一撃だった。
しかしその槍はキララを貫くことは無かった。
「絶対に傷つけさせはしません!」
瀬織の展開した障壁が歪虚の体を弾き飛ばし、その穂先を明後日の方向へと逸らしていた。
●
ユルゲンスが長年連れ添った戦槌を手に、今まで何度もそうしてきたように構えを取れば、その偉丈夫の体に戦場の匂いが纏われる。対峙する相手が恐るべき存在なのかを判断する知性など持ち合わせていない狂気の歪虚だが、それでもその存在感に威圧されたのか動きが鈍くなる。そこで一喝。
「戦わんと欲するなら即ち死闘と心得るがいい!」
そのまま戦槌を振りぬけば歪虚の頭がひしゃげる程のダメージを与えていた。しかし歪虚は生命あるものとは別の理に生きるもの。この程度で動きを止めはしない。
そこにコントラルトは三本の光線を飛ばす。動きを鈍らせていた歪虚達にそれをかわす方法など存在しない。光線に貫かれ、たたらを踏む歪虚達。ファリスはその動きを見ながら、己の位置を調整していた。そして。
「……雷光よ。敵を射抜き貫け!」
稲妻が奔る。光の速さで広場を駆け抜けたそれは、綺麗に歪虚達を一直線に貫いていた。
そこにラウィが踏み込む。剣が届くその位置まで踏み込んだ彼女は、手にしていた剣を真っ直ぐ振り下ろした。彼女のマテリアルに反応し切っ先が光り輝く。その光が残像となって残り歪虚を斬り裂こうとする。が、ここに来て歪虚は後ろに飛びのいてかわしていた。
しかし彼女には共に戦う仲間が居た。歪虚が飛びのいて生まれた距離をサファイアが一足で縮める。顔と顔が触れんばかりまで近づいたところで、全速力の拳が放たれた。
瞬きの間に衝突音は三度鳴った。その拳を全段叩き込まれて、歪虚が活動を続けることなど出来るわけがなかった。
●
歪虚から放たれた銃弾が茜に向かって飛んでくる。その時遥華は呪文を唱えた。風が吹き、それが茜の体に纏われる。それが彼女の体を加速し、迫り来る銃弾から退けてみせる。
だが歪虚達はそんなことはお構い無しにこちらへ迫ってくる。背後にはリゼリオの街。市街地への侵入が何を意味するのか。ハンター達はそれを許すわけには行かない。
側面に回りこんだ茜からは敵の姿が良く見える。魔導機械の仕込まれた杖の先端を開き素早く操作すれば光線が放たれ歪虚達を確実に襲っていく。歪虚に逃れる場所は無い。
しかしその時放たれた銃弾の一発が運悪く茜の腕を捉えていた。血の華が咲く。苦痛で顔をしかめる茜。
「ルビー達は撃たせないわよ!」
だが茜の闘志は萎えなかった。その強い意志を表すかのように、彼女の前に神々しく輝く光の杭が現れ放たれた。
歪虚は巨大な斧を振り回そうとしていた。そこに杭が突き刺さる。まるで地面に縫いとめられたかの様に動きを止める歪虚。
そこを遥華は見逃さない。彼女が術式を完成させれば冷気の嵐が吹き荒れ、歪虚の体を氷漬けにしていく。
その時カーミンは愛馬と共に急加速していた。マテリアルが彼女達の体を押し、速度は驚異的なレベルに上がっていく。
鞍上の彼女はいつの間にか弓から銃に手に持つものを変え死角から迫っていた。その銃から弾丸が一つ放たれる。マテリアルを込められ加速したそれは一瞬で歪虚を貫き、沈黙させていた。
コントラルトは正面後方で光線をいくつも飛ばしていた。牽制と支援のために放たれたそれにより、歪虚達の居場所はますます狭くなっていく。残る敵はただ一つ。
「……火箭よ。敵を焼き貫け!」
それを討ち滅ぼすため、ファリスは炎の矢を放った。紅い軌跡と共にそれは大きな歪虚の体を貫く。
そして正面から推し進んでいた者達はそこにたどり着いていた。しかし、その時ラウィの動きが止まった。かつて見た歪虚の脅威。かつて見せられた終末の景色。それが彼女の心と体をずらし、動きを鈍らせる。
その時、それを打ち払う様に澄んだ音が鳴った。それは人馬一体となって加速していたカーミンのナイフが歪虚の体を穿ち、サファイアの連打が叩きつけられた音だった。それは勝利を告げる鐘の音だった。
「敵は強大で、これはきっと、始まりに過ぎなくて……。それでも、だからこそ……」
ラウィは剣を振るった。
「……行かせません」
「この戦、我々の勝利だ!」
合わせるようにユルゲンスの戦槌が叩きつけられる。元がCAMであろうそれは硬く堅牢に出来ている。だが槌がもたらす衝撃は浸透し内部から破壊していく。
だが、歪虚はまだ動いていた。腕を上げ、そこから禍々しい紫色の負のマテリアルの奔流を放つ。
「私もレオを、みんなを絶対に守るのっ」
その先にはイスカが居た。祈りの唄を彼女が歌えば、目の前に光の壁が現れる。その壁は一瞬のうちに飲み込まれる。しかし砕けた壁が、盾が、イスカ自身がその奔流を食い止めていた。煌めく燐光と共に、傷を負ったとは言え彼女は立っていた。
イスカは癒やすために、そして勇気を奮い起こすために再び歌いだした。その歌声を背にキララは空を駆ける。手には紅の長爪、額には巨大な角、そして黒尾。その身を半ば龍と同一化し、圧倒的な加速で駆け抜ける。
「紅の者じゃが蒼のメカオタク並には色々と知識は蓄えておるでの~? うんたらかんたら敵を知れば百戦危うからずとかいうやつかの!」
そして速度に乗ったまま、彼女は太刀を振り抜いた。それで今しがたマテリアルレーザーを放った腕は斬り落とされていた。
「これが私たちの愛の力ですっ」
仕上げはイスカと瀬織、二人だった。イスカの放つ雷と瀬織の放つ炎が重なる。そこを覆うように桜吹雪が吹き荒れる。その桜吹雪が晴れたときには、その後には何も残っていなかった。
●
戦いは終わった。被害らしい被害も出ていない。コントラルトは一般人が巻き込まれた可能性を気にしていたが、そのような被害も出ていなかった。
「無事に終わったようですね」
「うん……」
オートマトンの二人が胸をなでおろした頃、そこにキララが近づいてきた。
「ところで、オートマタとは珍しいのぅ! 色々触らせて貰えんじゃろうか? い ろ い ろ と」
手をわきわきしながら近づいてくる彼女に、何をしてこようとしているのか理解していないルビー達。そのことに気づいた茜が何とか押さえる。
「良かったら私、帰り道に何か買って帰るから、お昼にしない?」
そして茜は二人にそう声をかけた。
「この様子じゃ本部待機になりそうだし、腹が減っては何とやら、でしょ」
「確かにそうですね。私は少しぐらい食べなくても大丈夫ですが」
その時、ルビーのもとに遥華が何かを持って近づいてきた。
「ルビーが大渓谷で皆と初めて会ってから一年だね」
そして彼女は手にしたものを差し出す。
「Happy birthday♪」
仲間達の思いも込められたドレス。それを受け取ったルビーは、彼女が自分が目覚めた日のことを祝ってくれているのだと把握していた。だからこう答えた。
「ありがとうございます。大切にします。……これからもずっと」
「狂気の歪虚、家も学校も壊されて……やだな。思い出しちゃう」
焦りは魔導バイクのスロットルをいつもより強く回させる。天王寺茜(ka4080)はシートの上で流れる景色を見送りながら、冒険都市リゼリオの街中を飛ばしていた。日常を営む街を突如として破壊するために現れた歪虚、それが彼女にはかつて見た光景と重なって見えた。
「頑張ろう。LH044みたいな光景は、もう見たくないから」
「リゼリオが……戦場に……。……止めないと」
ラウィーヤ・マクトゥーム(ka0457)はこの町で日常を営む一人だった。彼女はこの街で生まれ育ち、今も「海燕の寝座亭」という酒場を経営している。そんな彼女がモアからの緊急依頼を受けることが出来たのはまさに僥倖と言ってよかった。歪虚達が居るという場所へ急ぐ。
「ルビー、サファイヤ、間に合って良かった」
「茜さん、一緒に戦ってくれるんですね。ありがとうございます」
「うん、わかった。指示をお願いする」
茜は見知った顔を見てバイクから飛び降りる。流れるように目の前に敵を滅ぼすべく彼女達は動く。さらにモアが出した依頼を受けてラウィを始めとする他のハンター達も入ってきた。トラウマがもたらす恐怖を信頼が和らげてくれていた。
●
視界が広がる。リゼリオの入り口には埋め尽くさんばかりのおびただしい数の歪虚の群れが居た。
(私の、生まれた街。……そうだけど、でも、そうじゃなくて……。うん……私は、この街の人達が……この街が)
あまりの数に士気がくじかれそうになる。だがここにはラウィのよく知る顔が居た。
「女将、無事か」
そう声をかけたのはバケツのような大きな兜を始め全身を鎧に覆ったユルゲンス・クリューガー(ka2335)だった。そして彼は使い込まれた愛用の戦槌を握り、歪虚達に向かい合う。
「このリゼリオを歪虚の手勢が蹂躙しようなどと、片腹痛いわ」
そしてもう一人、ラウィに声をかける者が居た。
「ふん、ここに攻め込んで来るなんてね」
彼女はカーミン・S・フィールズ(ka1559)。ラウィはこの街の酒場の女将であるが、同時に700年前から流れを受け継ぐ傭兵団の長でもある。そしてユルゲンスもカーミンも、その団の一員であった。
共に正面を向くユルゲンスとラウィに対し、右側に回り込むように走り出すカーミン。少しの言葉で作戦を固め、各自が持ち場に着く。
「あらあら、街中にまで来られると困っちゃうわね。さくっと片付けましょうか」
「リゼリオはみんなの街なの。歪虚なんかの居場所はどこにもないの。ファリスも全力で攻撃するの!」
「……ターゲットを確認、任せて」
コントラルト(ka4753)とファリス(ka2853)、それにサファイアが並び立つ。彼女達もラウィ達と同じく正面を受け持つ。
作戦はこうだった。左右と正面の三方に展開し、取り囲むように包囲を狭め殲滅する。しかしこの作戦を成功させるためには一つの問題が合った。物量は敵のほうが多い。量を生かしさらなる広範囲に広がられると結果各個撃破の憂き目にあう。そのためには誰かが敵を集める必要があった。
それをするのがラウィだった。だがそれは、つまり囮になるということだ。成功すれば敵の集中攻撃にさらされる。
「……この街が、好きなんです」
それでも彼女は覚悟を固めた。そんな彼女に、側に立つ者が声をかけた。
「任せてください。こう見えても防御は得意なんです」
右腕に巨大な機械拳と透明な盾を展開したルビーだった。彼女の柔らかな微笑みにラウィは一つ頷き、そして意識を集中した。
次の刹那、ラウィに体から煌々とマテリアルの輝きが立ち上る。その強い輝きを無視できるものなど誰も居なかった。
●
「うじゃうじゃと……場所が場所だけに数が多いのはちと難儀するのぅ。飛んでおらなんだら纏めて轢き倒してやるところなんじゃが」
その頃、広場の左側に動いていた星輝 Amhran(ka0724)は戦場の様子にうんざりした面持ちでそうつぶやいていた。轢き倒すとの言葉どおり、彼女はその小柄な体をバイクのシートに収めている。
「リゼリオ、に歪虚、ですか……」
その隣にこちらもバイクに乗って来た瀬織 怜皇(ka0684)がつぶやく。
「どんな敵が来ても、愛の力で乗り越えるよっ」
だがすぐに彼の恋人であるUisca Amhran(ka0754)がやはりバイクに乗って並んだ。ついでに言えば彼女はキララの妹である。
三人は敵を確認すると一つ頷き、同時にバイクのアクセルを吹かした。一気に速度を上げた三台のバイクが左側から歪虚達を挟む様に走り出した。
「数が多い。人形型の足止めからの、小型の斉射は脅威となりうる」
反対側ではカーミンが戦況を確認していた。彼女は状況を素早く把握し思案を巡らせる。
「数的優位が逆転したら、敵はこの広場より街の小路に入りたがるかも。街に敵砲火を届かせない為、建物の手前20mラインが絶対防衛線」
そこに茜と央崎 遥華(ka5644)がやって来た。こちらはこの三人が受け持つことになっている。
遥華は後ろに下がり、あえて歪虚達を直視しないようにしていた。狂気の伝染を懸念し、この位置から援護のために動く。
皆の立ち位置が決まったところで、カーミンは歪虚達に一言こう告げた。
「でも、入りたいなら入って? 位置を変え、背に狙いすました一射をくれてやるわ?」
●
その時歪虚は一斉に正面にいる一点に向けて移動を開始していた。狂気の歪虚達はおおよそ知性らしき知性を持たない。マテリアルの輝きに包まれたラウィをただ狙って押し寄せる。彼女が囮になるという計画は狙い通り、いや、上手く行き過ぎていた。
圧倒的な物量の歪虚達が一斉にその眼からレーザー放つ。光の豪雨とも言えるそれが押し寄せる。
だがラウィの前にはルビーが居た。彼女は広場を奔る光線の前に立ち、機械拳を構える。そして光線が着弾するその瞬間、ルビーはそれを大きく振るう。その巨大な武器を苦もなく軽やかに動かせば、その物量が嘘のようにほぼ全て弾かれていった。
「ごめんなさい、ラウィさん。一つ逸してしまいました」
ルビーの言うとおり、彼女が弾きそこねた光線はラウィの頬をかすめたただ一発だった。この程度の傷など怪我のうちに入らない。
「大丈夫です。……皆さん、居ますから」
その時他のハンター達は前に出ていた。ラウィの元へと殺到していた歪虚達は、狙う的が一つに集まっていたことを意味する。コントラルトは少し意識を集中して魔導機械を操作すれば、業火が巻き起こり一瞬のうちに扇状に広がって歪虚達を焼き払っていく。
「……爆炎よ。弾け、敵を焼き焦がせ!」
そしてファリスの詠唱が完成すると業火をその身に浴びた歪虚達の残党の中心に白く輝く火球が一つ、産み出されていた。その火球は見る見るうちに巨大化していき、轟音とともに炸裂した。周囲を白い炎が埋め尽くし、その後にはほとんど何も残っていなかった。
二人の攻撃で大きく広がった空間にユルゲンスとサファイアが出る。彼我の戦力は一気に逆転していたが、まだまだ残党は残っているし、この状況でまだ残っている敵はすなわち一筋縄ではいかない相手と言う事が出来た。ユルゲンスはそこに仁王立ちし、敵襲に身構えた。
「さあ来るがいい、叩き潰してくれる」
●
右側に陣取っていた三人、攻撃の火蓋を切ったのは遥華だった。
「我が意を示し穿て」
彼女の前に青白く輝く魔法陣が現れ、エネルギー体の魔法の矢が放たれる。その矢は狙いを外すことはない。銃器を手にした人型の歪虚にゆるやかなカーブを描いて飛び、そして貫く。その矢の軌道を追いかけるようにカーミンは愛馬を駆っていた。
「少しの間だから、言うことを聞いて。あなたは私が守るわ」
そして彼女は弓に矢を三本まとめてつがえ、一気に引き絞り放った。三本の矢は戦場を貫き、そしてコントラルトとファリス、二人の生み出した炎に焼かれふらふらと漂っていた小型歪虚達に同時に命中していた。
「2度も住む場所を奪わせたりしない!」
アカネはカーミンを追いかけるようにバイクを走らせていた。スロットルを捻る。手からマテリアルが彼女の鉄馬に伝わり、さらに加速していく。歪虚と間合いを保ちながら走る彼女の前に光の三角形が現れ、程なくしてその頂点から光線が迸った。それは一瞬のうちに漂う歪虚達を貫き、地に落としていた。
地面に墜落する前に歪虚達は風に吹かれ塵へと変わっていく。あれほどの数が居た歪虚達は一瞬のうちに殲滅されていた。
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「一気に巻き込んで対処していきたいところです、ね」
左側でバイクを並んで走らせていた姉妹と瀬織の前に歪虚達が見える。おそらくこちらとほぼ同じ大きさの人型のそれ、そして遥かに大きなサイズの歪虚が一体。瀬織はバイクを巧みに操り間合いを取りながら歪虚達に三本の光線を放つ。だが、それは一本はかわされ、一本は斬り払われてしまった。
もっともこの事は想定していた。動く相手ならかわされることも止められることもあるだろう。そうしないためには動きを止めれば良い。その動きを止めるための切り札が今飛び込んでいった。
それはキララだった。
狂気の歪虚は目の前の命の輝きを全て貪ろうとする、その本能にのみ従って動く。歪虚達は皆ラウィの方に目を向けていたが、流石に目の前にキララが飛び込んでくればそちらへ向かう。その時キララが鎮魂の歌を奏で始めていたことに気付く余地など無かった。
命無き存在にとってその美しい歌は苦しみを与えるものに他ならない。目に見えて動きの鈍った歪虚達に攻撃を与えることなど容易い。
瀬織が炎を浴びせかけ、そこにイスカが拳を突き出す。彼女の腕からカードが現れると、それを取り投げつける。するとそれは空中で別れ雷と化して降り注いだ。
「傲慢の強制の方が余程強いわ。狂気とはこの程度かや! ほれ、もっと近う来やれ?」
歪虚達の中心で、キララはそう勝ち誇っていた。しかし歪虚はこの程度では滅びなかった。再び動き出した人型のそれらは、手にした大型武器を振り回してくる。
キララはそれをひらり、ひらりとかわす。だが、突き出された大型ランスの先端が急加速し彼女の小さな体を今まさに貫こうとしていた。それは死角から来た想定外の一撃だった。
しかしその槍はキララを貫くことは無かった。
「絶対に傷つけさせはしません!」
瀬織の展開した障壁が歪虚の体を弾き飛ばし、その穂先を明後日の方向へと逸らしていた。
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ユルゲンスが長年連れ添った戦槌を手に、今まで何度もそうしてきたように構えを取れば、その偉丈夫の体に戦場の匂いが纏われる。対峙する相手が恐るべき存在なのかを判断する知性など持ち合わせていない狂気の歪虚だが、それでもその存在感に威圧されたのか動きが鈍くなる。そこで一喝。
「戦わんと欲するなら即ち死闘と心得るがいい!」
そのまま戦槌を振りぬけば歪虚の頭がひしゃげる程のダメージを与えていた。しかし歪虚は生命あるものとは別の理に生きるもの。この程度で動きを止めはしない。
そこにコントラルトは三本の光線を飛ばす。動きを鈍らせていた歪虚達にそれをかわす方法など存在しない。光線に貫かれ、たたらを踏む歪虚達。ファリスはその動きを見ながら、己の位置を調整していた。そして。
「……雷光よ。敵を射抜き貫け!」
稲妻が奔る。光の速さで広場を駆け抜けたそれは、綺麗に歪虚達を一直線に貫いていた。
そこにラウィが踏み込む。剣が届くその位置まで踏み込んだ彼女は、手にしていた剣を真っ直ぐ振り下ろした。彼女のマテリアルに反応し切っ先が光り輝く。その光が残像となって残り歪虚を斬り裂こうとする。が、ここに来て歪虚は後ろに飛びのいてかわしていた。
しかし彼女には共に戦う仲間が居た。歪虚が飛びのいて生まれた距離をサファイアが一足で縮める。顔と顔が触れんばかりまで近づいたところで、全速力の拳が放たれた。
瞬きの間に衝突音は三度鳴った。その拳を全段叩き込まれて、歪虚が活動を続けることなど出来るわけがなかった。
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歪虚から放たれた銃弾が茜に向かって飛んでくる。その時遥華は呪文を唱えた。風が吹き、それが茜の体に纏われる。それが彼女の体を加速し、迫り来る銃弾から退けてみせる。
だが歪虚達はそんなことはお構い無しにこちらへ迫ってくる。背後にはリゼリオの街。市街地への侵入が何を意味するのか。ハンター達はそれを許すわけには行かない。
側面に回りこんだ茜からは敵の姿が良く見える。魔導機械の仕込まれた杖の先端を開き素早く操作すれば光線が放たれ歪虚達を確実に襲っていく。歪虚に逃れる場所は無い。
しかしその時放たれた銃弾の一発が運悪く茜の腕を捉えていた。血の華が咲く。苦痛で顔をしかめる茜。
「ルビー達は撃たせないわよ!」
だが茜の闘志は萎えなかった。その強い意志を表すかのように、彼女の前に神々しく輝く光の杭が現れ放たれた。
歪虚は巨大な斧を振り回そうとしていた。そこに杭が突き刺さる。まるで地面に縫いとめられたかの様に動きを止める歪虚。
そこを遥華は見逃さない。彼女が術式を完成させれば冷気の嵐が吹き荒れ、歪虚の体を氷漬けにしていく。
その時カーミンは愛馬と共に急加速していた。マテリアルが彼女達の体を押し、速度は驚異的なレベルに上がっていく。
鞍上の彼女はいつの間にか弓から銃に手に持つものを変え死角から迫っていた。その銃から弾丸が一つ放たれる。マテリアルを込められ加速したそれは一瞬で歪虚を貫き、沈黙させていた。
コントラルトは正面後方で光線をいくつも飛ばしていた。牽制と支援のために放たれたそれにより、歪虚達の居場所はますます狭くなっていく。残る敵はただ一つ。
「……火箭よ。敵を焼き貫け!」
それを討ち滅ぼすため、ファリスは炎の矢を放った。紅い軌跡と共にそれは大きな歪虚の体を貫く。
そして正面から推し進んでいた者達はそこにたどり着いていた。しかし、その時ラウィの動きが止まった。かつて見た歪虚の脅威。かつて見せられた終末の景色。それが彼女の心と体をずらし、動きを鈍らせる。
その時、それを打ち払う様に澄んだ音が鳴った。それは人馬一体となって加速していたカーミンのナイフが歪虚の体を穿ち、サファイアの連打が叩きつけられた音だった。それは勝利を告げる鐘の音だった。
「敵は強大で、これはきっと、始まりに過ぎなくて……。それでも、だからこそ……」
ラウィは剣を振るった。
「……行かせません」
「この戦、我々の勝利だ!」
合わせるようにユルゲンスの戦槌が叩きつけられる。元がCAMであろうそれは硬く堅牢に出来ている。だが槌がもたらす衝撃は浸透し内部から破壊していく。
だが、歪虚はまだ動いていた。腕を上げ、そこから禍々しい紫色の負のマテリアルの奔流を放つ。
「私もレオを、みんなを絶対に守るのっ」
その先にはイスカが居た。祈りの唄を彼女が歌えば、目の前に光の壁が現れる。その壁は一瞬のうちに飲み込まれる。しかし砕けた壁が、盾が、イスカ自身がその奔流を食い止めていた。煌めく燐光と共に、傷を負ったとは言え彼女は立っていた。
イスカは癒やすために、そして勇気を奮い起こすために再び歌いだした。その歌声を背にキララは空を駆ける。手には紅の長爪、額には巨大な角、そして黒尾。その身を半ば龍と同一化し、圧倒的な加速で駆け抜ける。
「紅の者じゃが蒼のメカオタク並には色々と知識は蓄えておるでの~? うんたらかんたら敵を知れば百戦危うからずとかいうやつかの!」
そして速度に乗ったまま、彼女は太刀を振り抜いた。それで今しがたマテリアルレーザーを放った腕は斬り落とされていた。
「これが私たちの愛の力ですっ」
仕上げはイスカと瀬織、二人だった。イスカの放つ雷と瀬織の放つ炎が重なる。そこを覆うように桜吹雪が吹き荒れる。その桜吹雪が晴れたときには、その後には何も残っていなかった。
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戦いは終わった。被害らしい被害も出ていない。コントラルトは一般人が巻き込まれた可能性を気にしていたが、そのような被害も出ていなかった。
「無事に終わったようですね」
「うん……」
オートマトンの二人が胸をなでおろした頃、そこにキララが近づいてきた。
「ところで、オートマタとは珍しいのぅ! 色々触らせて貰えんじゃろうか? い ろ い ろ と」
手をわきわきしながら近づいてくる彼女に、何をしてこようとしているのか理解していないルビー達。そのことに気づいた茜が何とか押さえる。
「良かったら私、帰り道に何か買って帰るから、お昼にしない?」
そして茜は二人にそう声をかけた。
「この様子じゃ本部待機になりそうだし、腹が減っては何とやら、でしょ」
「確かにそうですね。私は少しぐらい食べなくても大丈夫ですが」
その時、ルビーのもとに遥華が何かを持って近づいてきた。
「ルビーが大渓谷で皆と初めて会ってから一年だね」
そして彼女は手にしたものを差し出す。
「Happy birthday♪」
仲間達の思いも込められたドレス。それを受け取ったルビーは、彼女が自分が目覚めた日のことを祝ってくれているのだと把握していた。だからこう答えた。
「ありがとうございます。大切にします。……これからもずっと」
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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教えて、モア姉様! ファリス(ka2853) 人間(クリムゾンウェスト)|13才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2017/09/07 21:53:16 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/09/10 22:53:37 |
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相談卓 カーミン・S・フィールズ(ka1559) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2017/09/12 22:19:33 |