ゲスト
(ka0000)
【界冥】月と魔法少女
マスター:葉槻

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~4人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/09/14 19:00
- 完成日
- 2017/09/30 18:57
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
あの日。
先生に『重要な話しがあるから、ご両親に来てもらって』と言われた。
私とパパとママが通された小さな個室では連合軍の制服を着た人がいた。
「初めましてドロシー」
その人はとても紳士だった。
優しく丁寧にわかりやすく私の現状と、これからの話しをした。
「君は選ぶ事が出来る。この話しを受けるか、聞かなかったことにするか」
パパとママはとても困ったように顔を見合わせていたけれど、私の心は決まっていた。
「受けます」
即答した私をびっくり顔で見つめたパパとママに私は笑ってみせた。
「だって、魔法少女になれるのよ? こんな素敵な事って無いわ!」
――ドロシー(kz0230)は懐かしい夢を見て目が覚めた。
「……ヘイ、グリンダ」
『はい、どうしました? ドロシー』
一抱えもある猫のぬいぐるみ……の腹部のポケットから機械越しに女性の声が返る。
「今何時?」
『日本時間で午前5時32分です』
「ねぇ、グリンダ。私、強くなりたいの。どうしたらいい?」
『筋肉トレーニングが必要ですか?』
「うーん、そうじゃないかな」
『ごめんなさい。ドロシーの求めるものがわかりません』
「……うん、ありがとう、グリンダ」
『はい。良い一日を』
火星ゲート偵察へ向かった部隊を護衛するという強化人間部隊にとっておおよそ初めてと言っても過言ではなかった大々的な作戦は、ほぼ失敗に終わった。
運動会で一般人よりは優れた身体能力を有する点をアピールすることは出来たが、だが、それだけだった。
ハンター達の身体能力は強化人間を遥かに超える。
さらには“覚醒”という状態でも大きな差があった。
自分と同じR7エクスシアに乗っているはずのハンター達の活躍は凄まじかった。
その機体のカスタム具合も見たことの無い武装で固められていたが、それ以上に、その武器や銃から放たれるその一撃の強さが違った。
そして何より。
「経験不足、が問題かな……」
今まで訓練は何度もやってきた。
一度の出撃でどれほどの費用がかかるか、ミサイル1つ撃つだけでどれほどの血税が注がれているか。
そういった事実を知った上で、それでも人々を守れるのは自分達しかいないのだと教えられてきた。
それなのに、死んでしまった仲間、守れなかった軍の人々、破壊するしか無かった巡洋艦達。
「……もっと強くならなきゃ……」
ドロシーは決意に満ちた目で前を見るとベッドから飛び起きると、ハンターとの合同訓練の許可を得るために軍会議室へと向かったのだった。
●
「……っ、まだまだ、もう一回お願いします!」
「え、まだやるの?!」
かれこれ2時間ほどになるだろうか。
月から10km離れた宇宙空間でスキル使用無し、メイン武器と銃撃のみという縛りを設けての合同訓練は休憩もなくぶっ通しで行われていた。
「1回休憩しよう。その方が集中力が上がるし」
「でも……」
「根を詰めて一気にやるより、少しずつの積み重ねの方が大事だよ」
ハンター達に諭され、ドロシーは少し不満げに、だが「はい」と素直に従った。
その時だった。
「……待って、レーダーに反応。……狂気だ!!」
仲間の声に一斉に全員が周囲を見回した。
「5時の方向、大型!!」
「他にも来るよ!」
「ここまで来るとか警備艦隊どうなんってんだよ……!?」
ぎりっと操縦桿を握ったドロシーが叫んだ。
「月へは……絶対に行かせないんだから!」
----------解説追記----------
※要注意※
この依頼では『CAMでの戦い方を教えて欲しい』という強化人間達に付き合う、というのが大前提の依頼となっております。
大規模第2フェーズと違い、人魚+イニシャライザーによる特殊空間はありません。
幻獣・ゴーレムでのご参加はシステム上可能ですが、宇宙空間ですので活躍出来ません。
出来る限りご遠慮いただけますようお願い申し上げます。
ジャミングもありませんが、強化人間達とはトランシーバーを通してしか会話が出来ませんので、最低でもお一人様はトランシーバーをご持参いただけますようお願い申し上げます。
【目的】
敵の殲滅
【状況】
あなた達は宇宙空間で強化人間4人対ハンター4人でCAMを使った合同訓練中、警備艦隊をすり抜けて来た狂気達と対峙した。
これ以上月及び地球に接近させるわけには行かないため、ここで何としても殲滅する必要がある。
あの日。
先生に『重要な話しがあるから、ご両親に来てもらって』と言われた。
私とパパとママが通された小さな個室では連合軍の制服を着た人がいた。
「初めましてドロシー」
その人はとても紳士だった。
優しく丁寧にわかりやすく私の現状と、これからの話しをした。
「君は選ぶ事が出来る。この話しを受けるか、聞かなかったことにするか」
パパとママはとても困ったように顔を見合わせていたけれど、私の心は決まっていた。
「受けます」
即答した私をびっくり顔で見つめたパパとママに私は笑ってみせた。
「だって、魔法少女になれるのよ? こんな素敵な事って無いわ!」
――ドロシー(kz0230)は懐かしい夢を見て目が覚めた。
「……ヘイ、グリンダ」
『はい、どうしました? ドロシー』
一抱えもある猫のぬいぐるみ……の腹部のポケットから機械越しに女性の声が返る。
「今何時?」
『日本時間で午前5時32分です』
「ねぇ、グリンダ。私、強くなりたいの。どうしたらいい?」
『筋肉トレーニングが必要ですか?』
「うーん、そうじゃないかな」
『ごめんなさい。ドロシーの求めるものがわかりません』
「……うん、ありがとう、グリンダ」
『はい。良い一日を』
火星ゲート偵察へ向かった部隊を護衛するという強化人間部隊にとっておおよそ初めてと言っても過言ではなかった大々的な作戦は、ほぼ失敗に終わった。
運動会で一般人よりは優れた身体能力を有する点をアピールすることは出来たが、だが、それだけだった。
ハンター達の身体能力は強化人間を遥かに超える。
さらには“覚醒”という状態でも大きな差があった。
自分と同じR7エクスシアに乗っているはずのハンター達の活躍は凄まじかった。
その機体のカスタム具合も見たことの無い武装で固められていたが、それ以上に、その武器や銃から放たれるその一撃の強さが違った。
そして何より。
「経験不足、が問題かな……」
今まで訓練は何度もやってきた。
一度の出撃でどれほどの費用がかかるか、ミサイル1つ撃つだけでどれほどの血税が注がれているか。
そういった事実を知った上で、それでも人々を守れるのは自分達しかいないのだと教えられてきた。
それなのに、死んでしまった仲間、守れなかった軍の人々、破壊するしか無かった巡洋艦達。
「……もっと強くならなきゃ……」
ドロシーは決意に満ちた目で前を見るとベッドから飛び起きると、ハンターとの合同訓練の許可を得るために軍会議室へと向かったのだった。
●
「……っ、まだまだ、もう一回お願いします!」
「え、まだやるの?!」
かれこれ2時間ほどになるだろうか。
月から10km離れた宇宙空間でスキル使用無し、メイン武器と銃撃のみという縛りを設けての合同訓練は休憩もなくぶっ通しで行われていた。
「1回休憩しよう。その方が集中力が上がるし」
「でも……」
「根を詰めて一気にやるより、少しずつの積み重ねの方が大事だよ」
ハンター達に諭され、ドロシーは少し不満げに、だが「はい」と素直に従った。
その時だった。
「……待って、レーダーに反応。……狂気だ!!」
仲間の声に一斉に全員が周囲を見回した。
「5時の方向、大型!!」
「他にも来るよ!」
「ここまで来るとか警備艦隊どうなんってんだよ……!?」
ぎりっと操縦桿を握ったドロシーが叫んだ。
「月へは……絶対に行かせないんだから!」
----------解説追記----------
※要注意※
この依頼では『CAMでの戦い方を教えて欲しい』という強化人間達に付き合う、というのが大前提の依頼となっております。
大規模第2フェーズと違い、人魚+イニシャライザーによる特殊空間はありません。
幻獣・ゴーレムでのご参加はシステム上可能ですが、宇宙空間ですので活躍出来ません。
出来る限りご遠慮いただけますようお願い申し上げます。
ジャミングもありませんが、強化人間達とはトランシーバーを通してしか会話が出来ませんので、最低でもお一人様はトランシーバーをご持参いただけますようお願い申し上げます。
【目的】
敵の殲滅
【状況】
あなた達は宇宙空間で強化人間4人対ハンター4人でCAMを使った合同訓練中、警備艦隊をすり抜けて来た狂気達と対峙した。
これ以上月及び地球に接近させるわけには行かないため、ここで何としても殲滅する必要がある。
リプレイ本文
●手負いの獣
『まだ敵はこちらに気付いていないようですね』
レーダーの動きを確認したドロシーが静かに告げる。
それに対し強化人間達が沈黙を持って応える。
クレール・ディンセルフ(ka0586)はそんな5人の空気を感じ、意を決して口を開いた。
「皆さん、私……あの時、余裕が無かった」
クレールの言葉に、全員がカリスマリス・コロナの赤い機体を見た。
「一緒に戦おうって言えなかった。本当にごめんなさい」
『クレールさん……?』
驚きと疑問。ドロシー(kz0230)の声が戸惑いに揺れた。
「だからこそ、今度こそ勝つため……一緒に戦わせてください!」
クレールの碧い瞳が強い光を放ち真っ直ぐに皆を見つめていることがモニター越しでもわかる。
「ドロシーさん、私達も協力します。今回の訓練を生かして敵を撃退しましょう!」
ユウ(ka6891)のやわらかな声音がそれに重なり、R7エクスシアが拳を突き出した。
『……うん! もちろんだよ!! みんなでたたかお! 月へは絶対に近づけさせないんだから!!』
ドロシーの声を筆頭に他の強化人間達もまた口々に共闘の意を示し、武器を構えた。
「では、向かいましょうか」
天央 観智(ka0896)が穏やかに告げ、まだ見えぬ敵影を睨む。
そんな7人を静かに見守っていた門垣 源一郎(ka6320)は微かに唇に弧を描き、それと同時に強化人間達の真摯さに危うさを抱いていた。
「まだ視認は出来ないですね……ドロシーさんどうですか?」
敵がこちらに気付くまでは攻撃せずに進軍を、という作戦に誰もが同意し、陣形を組んだ状態で8人は暗い宇宙を飛んでいた。
『変化ありません』
「少しでも動きに変化が出たら間違いでも構わない、すぐに報告を」
『はい』
源一郎の訓練の続きのような極めて冷静な声が、一層強化人間達の心を引き締める。
(クウと一緒にこの空を飛んだけど、やっぱり不思議な感覚だね)
ユウは先の作戦でワイバーンで宇宙戦に出たときのことを思い出す。
(訓練は何度もしたけど、実際に動かすのは初めてで足を引っ張らないように注意しないと……)
ある意味強化人間達よりも“乗り慣れていない”R7、そして宇宙という慣れない空間に、慎重に制御を行いつつモニターの先の暗い宇宙を見つめ、横並びにいる赤黒いオファニムの機体を見た。
「セブンさん、よろしくお願いします」
『おう、こちらこそよっしくなぁ』
気さくな口調の7。顔は見ていないが、雰囲気から察するにおそらく十代後半から二十代前半なのだろう。
クレールとバディを組むデュミナスの11はおっとりとしたハスキーヴォイスの姐さん風。
同じくデュミナス乗りで源一郎とバディを組む5は7よりやや軽いノリを感じる兄貴肌。
そして観智とバディを組むドロシー。
リアルブルーより誕生した、強化人間と呼ばれるヒーロー達。
彼らと訓練を通じて過ごしたこの2時間と少しの時間。
彼らの『強くなりたい』という想いはユウから見ても本物で、訓練に打ち込む姿も真面目そのものだった。
なのに。
どうして――
『敵影散開! 距離250』
「迎撃準備!」
ドロシーの報告に源一郎が檄を飛ばす。
そして、前を行くドロシーの横で観智が眼鏡の奥の瞳を細めた。
「……ようやく、肉眼でも確認出来ますね……」
「……なんだか動きがおかしい……?」
観智の声に敵影を捕らえたクレールもまた目を凝らし、モニター越しに凝視する。
徐々に輪郭のハッキリしてくる狂気達。
「傷を……負ってますか?」
ユウが不揃いな触手に気付いて首を傾げた。
「前の作戦の時か、今なのか知らないが、戦って逃げ果せたのか、はぐれた群れなのか……?」
視認した源一郎も潰れたいくつかの目、表面を抉る傷が刀傷や銃創であることに気付き片眉を撥ね上げる。
「だとしても、やることは変わらない」
スナイパーライフル「オブジェクティフMC-051」を構え、敵が射程に来るのを待つ。
「まるで大規模……あの時、私は大型に近づくこともできなかった。でも、私もドロシーさん達も生き延び、経験を積んだ。だから今度こそ! 必ず、殺す!!」
吼えるように叫んだクレールもまた試作型対VOIDミサイル「ブリスクラ」をセットし構える。
「侵攻するVOID群よりも、月面側に常に身を置く様に気を付けて下さい。阻む形になっている限りは、向こうの移動を、ある程度制限出来ている筈ですから。追う側になってしまったら……月面に被害が出る、くらいの積りで」
『……はい!』
観智のアドバイスにドロシーが真摯に頷き、棍を構えるとイニシャライズオーバーを展開した。
観智はぐっとこめかみを押さえ、それから何事もなかったようにロングレンジマテリアルライフルを構えた。
「クレール。まだ耐えろ。ファイブ、射程に敵を捕らえたらコール。カウントゼロで撃て」
源一郎が告げ、クレールも「はい」と指は引き金に掛けたまま応える。
『敵、小型、射程内。10から13へ増加。中型、射程内。大型、あと5、4、3、2、1』
ゼロ、と5が告げると同時にクレールもまた引き金を引いた。
2本のプラズマが光の線を描き大型狂気を巻きこむと大爆発を起こしたのだった。
●可能性の発露
「……ぷ、プラズマ、グレネードぉ……!?」
クレールが驚きと背筋を伝う悪寒と共に5を見る。
「スキルウェポンが使えるのか?」
源一郎も驚きを隠せず問う。
『あ、でも今回の手持ちはこれ1回分だけな。訓練じゃ使っちゃダメって言われてたんだけど、VOID来てんだから、許されるっしょ』
5のあっけらかんとした返答にハンター一同はあんぐりと開いた口が塞がらない。
『皆さん前!』
ドロシーの声に全員が一斉に散開し、レーザーを避ける。
先の攻撃により13体に増えていた小型狂気は9体に減っているが、中型、大型共に健在だった。
『あたし達、あなた達の……スキル? とかは使えないけど、武器や防具に込められた力を扱うことは出来るわよぉ』
『え? 知らないの?』ぐらいな口ぶりにますますハンター達は困惑する。
「え? セブンさん、イレブンさん、ドロシーさんも何かあるんですか?」
ユウが独楽のように回りながらビームを避ける。
『俺はスラスターダッシュ。11はプラズマバーストだっけ?』
『そうよぉ。30はマテリアルビームじゃなかった?』
『このガンが、はい、ビーム出せます。でもさっき5が言ったように、実戦の想定をしていなかったので、全員1回分ずつしかありません』
会話をしつつも放たれるビームを冷静に避け、陣形を乱さないよう前進を続けるハンター達。
「あの撤退戦の時は……」
『あんた達が来たときにはもう弾切れだったからねぇ』
「……前もって教えてほしかった、ですかね」
思わず溢れた恨み節に7が失笑する。
『だって聞かれてなかったし。知らねぇとも思ってなかったし。さっきも5が言ったけど、今日は使う予定もなかったからな』
『通常射程に捕らえた。撃つぞ』
「焦らず的確に。狙撃屋は冷静さが寛容だ」
『了解』
狙撃を開始した5をフォローするべく、源一郎はこの問題を一端思考から追い出して周囲を注意深く観察する。
「ドロシーさん」
『はい、合わせます』
観智のマテリアルライフルが火を吹き、同時にドロシーの構える銃が熱光線を放った。
『アイツら全然こっちに来ねぇな』
「今は堪え時ですよ、セブンさん」
射撃での攻撃が始まってしまえば、移動距離はどうしても落ちる。
それはこちらも敵も同じことで、銃撃戦となってからは両者の距離は中々縮まらない。
陣形を維持するという作戦である以上、遠距離攻撃手段を持たないセブンが敵に迫ることも攻撃に移ることも出来ず歯がゆい思いをしていることはユウには想像に難くなかった。
だが、両者の距離は確実に狭まりつつある。
「次、私とイレブンさんとで道を作ります! ユウさんとセブンさんは一気に大型まで距離を縮めて下さい!」
「はい!」
『了解だ』
『私も掩護します』
ドロシーがマテリアルビームをセットし、照準を合わせる。
源一郎と観智が射程内に侵入した小型狂気を撃ち抜き、射線が通りやすくなるように計らう。
「焦って取りこぼせば元も子もないぞ」
訓練時と変わらぬ源一郎の言葉に全員がより集中力を高めた。
『中型狂気、射線から外れかけてます』
『そいつは俺が引き付ける』
5が狙撃し、注意を引くことで中型の離脱を食い止める。
「よぉし、全員、一斉射撃用意……撃てぇっ!!!」
クレールの絶叫と共にハンター達がいる陣営から大型狂気まで、マテリアルの光が駆け抜けた。
「……っ。セブンさん、行きましょう!」
『おぅ!』
一瞬にして消えたその光の道を辿るようにユウと7が全力移動で大型へと詰め寄る。
「っ……!」
『クレールさん? どうかしましたか?』
「……なんでもないよ、大丈夫!」
トランシーバーだけで、モニターは繋がっていない。それなのに、クレールは笑みを作って強がった。
(……そうだ。きっと気のせい……もしくは狂気のせいだ)
クレールは奥歯を噛み締めて前を見る。
「さぁ、行くよ!!」
クレールの声に全員が応え、ユウと7を追うべく走り出した。
●連携
大型から飛び出てきた小型狂気に体当たりをされ、ユウの機体は大きく回転しながら撥ね飛ばされた。
ダメージとしてはほとんど無く、それ以上に上下の感覚のない世界という不思議な体験に目を瞬かせる。
もちろん、クルクルと回り続けていれば目は回る。だが、周囲の仲間と上下を反転してみても頭に血が上る、という感覚にはならない。
(面白がっている場合じゃないんだろうけど)
宇宙でしか出来ない体験にユウの心は躍った。
『大丈夫か!?』
7の声に「はい」と応えて姿勢を整える。
魔導ワイヤー「フェッセルン」を射出し、大型の触手に絡める。
しかし、意外に脆い触手が千切れてしまって引っ張れない。
だがユウにとって最も想定外だったのは、歌舞はユニット内で発動させた場合、外へは響かない、という点だった。
ほとんどのスキルが壁や樹木などを貫通してその奥に届くことがないように、歌舞もまたユニットの装甲を越えられなかったのだ。
(でも、今わかって良かった)
もっと切羽詰まった状況で知るより、比較的余裕のある今の状況で知る事が出来たのは不幸中の幸いだとユウは前向きに捕らえた。
それに龍唱~破邪~の効果は自機には認められた。この違いを知れたことは大きい。
ユウはマテリアルライフルで撃ちながら再接近を試みると、7の一撃に合わせてマテリアルブレードを振り下ろした。
「増援の射出口は……下! イレブンさん、回り込みましょう!!」
『はぁい♪』
接近戦の混戦となれば陣形を維持するよりも2人ひと組で優位な位置取りを優先した方が確実にダメージを稼げる。
特にトランシーバーで互いの動きを確実に連絡しあい、源一郎のように全体を見渡すことに重きを置く者が1人いれば、穴となった部分へのフォローも早い。
迫ってきた小型を撃ち抜き、中型がその巨体を全力で移動し始めたのを見て源一郎が叫ぶ。
「天央!」
「……はい、大丈夫ですよ」
中型と遥か後方の月との間のポジションを維持しつつ、ドロシーは慣性移動を使いながら引き撃ちし、観智もその隣で後方へと下がりながら周囲を確認してファイアーボールを放った。
「中々、把握する事が多くて……大変ですね。既に無重力環境下でのCAM運用は、何度かしていますけれど……今迄は、遠距離からの射撃ばかりでしたからね。中々、近距離って……難しいと言いますか、平然とやっている人達が凄いと思いますね」
『天央さんでもそう思うんですね……』
意外そうなドロシーの声に思わず観智は小さく微笑んだその時、ファイアーボールの爆煙の向こうからさらに突撃して来た中型狂気を慌てて避けた。
『ほわぁっ!?』
「ドロシーさん!」
『びっくりしたー!』
辛うじてドロシーも避ける事に成功したらしい。
中型は観智とドロシーを轢き損ねた事に気付いたのか方向転換しようとしていた。
「無事か?」
「えぇ、まぁ。中型はこちらで押さえますから……大型を」
「任せて!! ユウさん、セブンさん、ちょっと退いて!」
頼もしいクレールの一言が源一郎と観智の間に割り込んだ。
「やっと……やっと! 捉えたぞ親玉ぁっ!!」
スキルトレースを介し、アルケミックパワーを乗せたプラズマバーストがクレールの狙い通り射出口へと吸い込まれるようにして突き刺さると、大爆発を起こした。
さらにそこにダメ押しするように11のプラズマカッターと5の狙撃が加わり、大型はついに塵となり消えたのだった。
●メビウスの輪
大型さえ潰してしまえば、8人に恐れるものはなかった。
クレールが戦況により扱うスキルウェポンを取り替え、的確に周囲の小型を撃ち落としながら中型を狙い、バディを組む11もまた状況に合わせボムやマテリアルライフルを撃ち込む。
観智もまたスキルトレースによるファイアーボールやマジックアローにより高火力攻撃を叩き付け、その周囲をドロシーが丁寧な射撃でフォローする。
駆けつけたユウと7が中型の周囲をヒットエンドランで斬り付け、5が狙撃に集中出来るよう、源一郎がグロムジャラーで鞭打ちながら盾で守ると同時に状況把握に努め、死角からの小型の接近に注意を呼びかける。
5の狙撃がついに中型を沈めれば、後はもう一方的な勝利だった。
戦闘中の反省点としてはどうしても地面も天井も無いという宇宙空間になかなか慣れることができず、足元からの攻撃に肝を冷やすことがあった事だが、互いにバディを組んだ相手を意識し、フォローをし合うという点に重きを置いていた為に、大きな傷を追う事は無かったのは成果の一つと言えよう。
また成果として何よりも大きかったのは、最初は誰もが制御不能に陥るのを恐れて、慎重に行っていた慣性制御だが、実戦の中で徐々にコツを掴み、ほぼ無意識下で行えるようになった。
「習うより慣れろ、とか……実践に勝る経験なし、とか……そういうことですかね」
月面基地への帰路。
まだ戦闘後の興奮も冷めきらぬ中で何気なく呟いた観智の一言にドロシーが食いついた。
『えっと……それは、ニホンのコトワザですか?』
「えぇ、そうですね」
神霊樹の影響で言語の壁がないためうっかり忘れそうになるが、ドロシー達は基本英語でしゃべっている。
そして観智達の言葉は各々の知る言語でしゃべっていても、神霊樹の影響で届けたい相手に通じているのだ。
軽く意味を説明すると強化人間達は『へー』などと一様に声を上げた。
「あの、セブンさん」
ユウが声を掛けると、通信器越しに笑う声が聞こえた。
『さん付けじゃなくていいって。堅苦しいのは苦手なんだ』
「……セブン、今日はありがとう」
『こちらこそ、あんたのお陰で助かったよ』
ユウと7のやり取りをきっかけに、バディを組んだ相手への感謝と労りの言葉の応酬が始まった。
「ドロシー」
『はい』
間もなく月面基地、というところまで来て源一郎がドロシーを呼び止めた。
「『将来を有望視されたスポーツ選手が練習で体を壊して夢を諦める』……という話はどの業界にもある。だから適切に休むと良い。それが一番の近道だ」
この訓練と戦闘を通して、源一郎はドロシーと、そしてこの強化人間達の危うい真摯さに自分の過去を重ねていた。
源一郎も一度は世の理不尽に嘆いて“正義の味方”を目指した1人だった。
結果は惨憺たるもので、人殺しの鬼が残っただけ――そう、本人は思っている。
その生き方は明るい未来には繋がっていない。だからせめて軍人となるよう誘導したいと、今日一日教官のように振る舞ってきた源一郎だった。
ドロシーはそんな源一郎の深い思いまでは気付かなかっただろう。
「そうですね、お腹いっぱいご飯を食べて、休みますね」
宙軍施設の手前でハンター達4人は強化人間4人と分かれた。
『今日は有り難うございました』
「……無事、基地を守れて良かったですね」
『はい!』
力強く笑うドロシーの顔が見えた気がして、観智も目元を和らげた。
強化人間達の機体がドック内へと消えるのを見送った後、ハンター達も転移門傍に増設されたドックに機体を預け、宇宙服を脱ぐとようやく地に足を付けた。
「地面があって音がするって……なんだか安心しますね」
その場で飛び跳ねて、大きく伸びをするユウの言葉に一同頷きながら、大きく息を吸って吐いた。
「……あの。私の気のせいだったらすみません」
「……クレールさん?」
「負のマテリアル……みたいなものを感じませんでしたか?」
クレールの一言に全員の表情が強張った。
通信器が通じている以上、あの場で言うわけにはいかなかった。
彼らが力を振るう度に感じる不快感や違和感、その正体。
大規模のときはそれどころではなかったし、訓練のときはそれほど感じなかった。
酷く感じ始めたのはスキルウェポンを使い始めてからだ。
「……だが、彼らは……」
「えぇ、彼らの“守りたい”“強くなりたい”という思いは本物だと私も思います」
源一郎が眉間のしわを深める。
「……どういう、ことなんでしょうか……」
観智が眼鏡を外して眉間を揉んだ。
「………………」
ユウは空を見上げ、手を伸ばした。
人工的に作られた空は青く透き通り、憂うことなど何もないのだと言われているようで、ユウは何も掴めないままカラの拳を胸の前で抱きしめる。
「……それでも、ここを守れました」
そんなユウの肩を優しく叩いて観智が頷いて見せる。
「……ですね。彼らの力が何処から来て、どうして負のマテリアルみたいなものを感じるのかはわかりませんけど、一緒に戦えて良かったです」
「私も、そう思います」
クレールの笑顔に強張った表情だったユウもようやく笑顔を見せた。
歩き出した3人の背を追いながら源一郎は宙軍施設の方へと視線を投げた。
“正義の味方”になりたいと、ついぞ人間を辞めたような人物を思い浮かべる。
――その道を選ぶには若すぎる。
源一郎はきつく瞼を閉じて、静かに開くとゆっくりと3人の後を追って再び歩き始めたのだった。
『まだ敵はこちらに気付いていないようですね』
レーダーの動きを確認したドロシーが静かに告げる。
それに対し強化人間達が沈黙を持って応える。
クレール・ディンセルフ(ka0586)はそんな5人の空気を感じ、意を決して口を開いた。
「皆さん、私……あの時、余裕が無かった」
クレールの言葉に、全員がカリスマリス・コロナの赤い機体を見た。
「一緒に戦おうって言えなかった。本当にごめんなさい」
『クレールさん……?』
驚きと疑問。ドロシー(kz0230)の声が戸惑いに揺れた。
「だからこそ、今度こそ勝つため……一緒に戦わせてください!」
クレールの碧い瞳が強い光を放ち真っ直ぐに皆を見つめていることがモニター越しでもわかる。
「ドロシーさん、私達も協力します。今回の訓練を生かして敵を撃退しましょう!」
ユウ(ka6891)のやわらかな声音がそれに重なり、R7エクスシアが拳を突き出した。
『……うん! もちろんだよ!! みんなでたたかお! 月へは絶対に近づけさせないんだから!!』
ドロシーの声を筆頭に他の強化人間達もまた口々に共闘の意を示し、武器を構えた。
「では、向かいましょうか」
天央 観智(ka0896)が穏やかに告げ、まだ見えぬ敵影を睨む。
そんな7人を静かに見守っていた門垣 源一郎(ka6320)は微かに唇に弧を描き、それと同時に強化人間達の真摯さに危うさを抱いていた。
「まだ視認は出来ないですね……ドロシーさんどうですか?」
敵がこちらに気付くまでは攻撃せずに進軍を、という作戦に誰もが同意し、陣形を組んだ状態で8人は暗い宇宙を飛んでいた。
『変化ありません』
「少しでも動きに変化が出たら間違いでも構わない、すぐに報告を」
『はい』
源一郎の訓練の続きのような極めて冷静な声が、一層強化人間達の心を引き締める。
(クウと一緒にこの空を飛んだけど、やっぱり不思議な感覚だね)
ユウは先の作戦でワイバーンで宇宙戦に出たときのことを思い出す。
(訓練は何度もしたけど、実際に動かすのは初めてで足を引っ張らないように注意しないと……)
ある意味強化人間達よりも“乗り慣れていない”R7、そして宇宙という慣れない空間に、慎重に制御を行いつつモニターの先の暗い宇宙を見つめ、横並びにいる赤黒いオファニムの機体を見た。
「セブンさん、よろしくお願いします」
『おう、こちらこそよっしくなぁ』
気さくな口調の7。顔は見ていないが、雰囲気から察するにおそらく十代後半から二十代前半なのだろう。
クレールとバディを組むデュミナスの11はおっとりとしたハスキーヴォイスの姐さん風。
同じくデュミナス乗りで源一郎とバディを組む5は7よりやや軽いノリを感じる兄貴肌。
そして観智とバディを組むドロシー。
リアルブルーより誕生した、強化人間と呼ばれるヒーロー達。
彼らと訓練を通じて過ごしたこの2時間と少しの時間。
彼らの『強くなりたい』という想いはユウから見ても本物で、訓練に打ち込む姿も真面目そのものだった。
なのに。
どうして――
『敵影散開! 距離250』
「迎撃準備!」
ドロシーの報告に源一郎が檄を飛ばす。
そして、前を行くドロシーの横で観智が眼鏡の奥の瞳を細めた。
「……ようやく、肉眼でも確認出来ますね……」
「……なんだか動きがおかしい……?」
観智の声に敵影を捕らえたクレールもまた目を凝らし、モニター越しに凝視する。
徐々に輪郭のハッキリしてくる狂気達。
「傷を……負ってますか?」
ユウが不揃いな触手に気付いて首を傾げた。
「前の作戦の時か、今なのか知らないが、戦って逃げ果せたのか、はぐれた群れなのか……?」
視認した源一郎も潰れたいくつかの目、表面を抉る傷が刀傷や銃創であることに気付き片眉を撥ね上げる。
「だとしても、やることは変わらない」
スナイパーライフル「オブジェクティフMC-051」を構え、敵が射程に来るのを待つ。
「まるで大規模……あの時、私は大型に近づくこともできなかった。でも、私もドロシーさん達も生き延び、経験を積んだ。だから今度こそ! 必ず、殺す!!」
吼えるように叫んだクレールもまた試作型対VOIDミサイル「ブリスクラ」をセットし構える。
「侵攻するVOID群よりも、月面側に常に身を置く様に気を付けて下さい。阻む形になっている限りは、向こうの移動を、ある程度制限出来ている筈ですから。追う側になってしまったら……月面に被害が出る、くらいの積りで」
『……はい!』
観智のアドバイスにドロシーが真摯に頷き、棍を構えるとイニシャライズオーバーを展開した。
観智はぐっとこめかみを押さえ、それから何事もなかったようにロングレンジマテリアルライフルを構えた。
「クレール。まだ耐えろ。ファイブ、射程に敵を捕らえたらコール。カウントゼロで撃て」
源一郎が告げ、クレールも「はい」と指は引き金に掛けたまま応える。
『敵、小型、射程内。10から13へ増加。中型、射程内。大型、あと5、4、3、2、1』
ゼロ、と5が告げると同時にクレールもまた引き金を引いた。
2本のプラズマが光の線を描き大型狂気を巻きこむと大爆発を起こしたのだった。
●可能性の発露
「……ぷ、プラズマ、グレネードぉ……!?」
クレールが驚きと背筋を伝う悪寒と共に5を見る。
「スキルウェポンが使えるのか?」
源一郎も驚きを隠せず問う。
『あ、でも今回の手持ちはこれ1回分だけな。訓練じゃ使っちゃダメって言われてたんだけど、VOID来てんだから、許されるっしょ』
5のあっけらかんとした返答にハンター一同はあんぐりと開いた口が塞がらない。
『皆さん前!』
ドロシーの声に全員が一斉に散開し、レーザーを避ける。
先の攻撃により13体に増えていた小型狂気は9体に減っているが、中型、大型共に健在だった。
『あたし達、あなた達の……スキル? とかは使えないけど、武器や防具に込められた力を扱うことは出来るわよぉ』
『え? 知らないの?』ぐらいな口ぶりにますますハンター達は困惑する。
「え? セブンさん、イレブンさん、ドロシーさんも何かあるんですか?」
ユウが独楽のように回りながらビームを避ける。
『俺はスラスターダッシュ。11はプラズマバーストだっけ?』
『そうよぉ。30はマテリアルビームじゃなかった?』
『このガンが、はい、ビーム出せます。でもさっき5が言ったように、実戦の想定をしていなかったので、全員1回分ずつしかありません』
会話をしつつも放たれるビームを冷静に避け、陣形を乱さないよう前進を続けるハンター達。
「あの撤退戦の時は……」
『あんた達が来たときにはもう弾切れだったからねぇ』
「……前もって教えてほしかった、ですかね」
思わず溢れた恨み節に7が失笑する。
『だって聞かれてなかったし。知らねぇとも思ってなかったし。さっきも5が言ったけど、今日は使う予定もなかったからな』
『通常射程に捕らえた。撃つぞ』
「焦らず的確に。狙撃屋は冷静さが寛容だ」
『了解』
狙撃を開始した5をフォローするべく、源一郎はこの問題を一端思考から追い出して周囲を注意深く観察する。
「ドロシーさん」
『はい、合わせます』
観智のマテリアルライフルが火を吹き、同時にドロシーの構える銃が熱光線を放った。
『アイツら全然こっちに来ねぇな』
「今は堪え時ですよ、セブンさん」
射撃での攻撃が始まってしまえば、移動距離はどうしても落ちる。
それはこちらも敵も同じことで、銃撃戦となってからは両者の距離は中々縮まらない。
陣形を維持するという作戦である以上、遠距離攻撃手段を持たないセブンが敵に迫ることも攻撃に移ることも出来ず歯がゆい思いをしていることはユウには想像に難くなかった。
だが、両者の距離は確実に狭まりつつある。
「次、私とイレブンさんとで道を作ります! ユウさんとセブンさんは一気に大型まで距離を縮めて下さい!」
「はい!」
『了解だ』
『私も掩護します』
ドロシーがマテリアルビームをセットし、照準を合わせる。
源一郎と観智が射程内に侵入した小型狂気を撃ち抜き、射線が通りやすくなるように計らう。
「焦って取りこぼせば元も子もないぞ」
訓練時と変わらぬ源一郎の言葉に全員がより集中力を高めた。
『中型狂気、射線から外れかけてます』
『そいつは俺が引き付ける』
5が狙撃し、注意を引くことで中型の離脱を食い止める。
「よぉし、全員、一斉射撃用意……撃てぇっ!!!」
クレールの絶叫と共にハンター達がいる陣営から大型狂気まで、マテリアルの光が駆け抜けた。
「……っ。セブンさん、行きましょう!」
『おぅ!』
一瞬にして消えたその光の道を辿るようにユウと7が全力移動で大型へと詰め寄る。
「っ……!」
『クレールさん? どうかしましたか?』
「……なんでもないよ、大丈夫!」
トランシーバーだけで、モニターは繋がっていない。それなのに、クレールは笑みを作って強がった。
(……そうだ。きっと気のせい……もしくは狂気のせいだ)
クレールは奥歯を噛み締めて前を見る。
「さぁ、行くよ!!」
クレールの声に全員が応え、ユウと7を追うべく走り出した。
●連携
大型から飛び出てきた小型狂気に体当たりをされ、ユウの機体は大きく回転しながら撥ね飛ばされた。
ダメージとしてはほとんど無く、それ以上に上下の感覚のない世界という不思議な体験に目を瞬かせる。
もちろん、クルクルと回り続けていれば目は回る。だが、周囲の仲間と上下を反転してみても頭に血が上る、という感覚にはならない。
(面白がっている場合じゃないんだろうけど)
宇宙でしか出来ない体験にユウの心は躍った。
『大丈夫か!?』
7の声に「はい」と応えて姿勢を整える。
魔導ワイヤー「フェッセルン」を射出し、大型の触手に絡める。
しかし、意外に脆い触手が千切れてしまって引っ張れない。
だがユウにとって最も想定外だったのは、歌舞はユニット内で発動させた場合、外へは響かない、という点だった。
ほとんどのスキルが壁や樹木などを貫通してその奥に届くことがないように、歌舞もまたユニットの装甲を越えられなかったのだ。
(でも、今わかって良かった)
もっと切羽詰まった状況で知るより、比較的余裕のある今の状況で知る事が出来たのは不幸中の幸いだとユウは前向きに捕らえた。
それに龍唱~破邪~の効果は自機には認められた。この違いを知れたことは大きい。
ユウはマテリアルライフルで撃ちながら再接近を試みると、7の一撃に合わせてマテリアルブレードを振り下ろした。
「増援の射出口は……下! イレブンさん、回り込みましょう!!」
『はぁい♪』
接近戦の混戦となれば陣形を維持するよりも2人ひと組で優位な位置取りを優先した方が確実にダメージを稼げる。
特にトランシーバーで互いの動きを確実に連絡しあい、源一郎のように全体を見渡すことに重きを置く者が1人いれば、穴となった部分へのフォローも早い。
迫ってきた小型を撃ち抜き、中型がその巨体を全力で移動し始めたのを見て源一郎が叫ぶ。
「天央!」
「……はい、大丈夫ですよ」
中型と遥か後方の月との間のポジションを維持しつつ、ドロシーは慣性移動を使いながら引き撃ちし、観智もその隣で後方へと下がりながら周囲を確認してファイアーボールを放った。
「中々、把握する事が多くて……大変ですね。既に無重力環境下でのCAM運用は、何度かしていますけれど……今迄は、遠距離からの射撃ばかりでしたからね。中々、近距離って……難しいと言いますか、平然とやっている人達が凄いと思いますね」
『天央さんでもそう思うんですね……』
意外そうなドロシーの声に思わず観智は小さく微笑んだその時、ファイアーボールの爆煙の向こうからさらに突撃して来た中型狂気を慌てて避けた。
『ほわぁっ!?』
「ドロシーさん!」
『びっくりしたー!』
辛うじてドロシーも避ける事に成功したらしい。
中型は観智とドロシーを轢き損ねた事に気付いたのか方向転換しようとしていた。
「無事か?」
「えぇ、まぁ。中型はこちらで押さえますから……大型を」
「任せて!! ユウさん、セブンさん、ちょっと退いて!」
頼もしいクレールの一言が源一郎と観智の間に割り込んだ。
「やっと……やっと! 捉えたぞ親玉ぁっ!!」
スキルトレースを介し、アルケミックパワーを乗せたプラズマバーストがクレールの狙い通り射出口へと吸い込まれるようにして突き刺さると、大爆発を起こした。
さらにそこにダメ押しするように11のプラズマカッターと5の狙撃が加わり、大型はついに塵となり消えたのだった。
●メビウスの輪
大型さえ潰してしまえば、8人に恐れるものはなかった。
クレールが戦況により扱うスキルウェポンを取り替え、的確に周囲の小型を撃ち落としながら中型を狙い、バディを組む11もまた状況に合わせボムやマテリアルライフルを撃ち込む。
観智もまたスキルトレースによるファイアーボールやマジックアローにより高火力攻撃を叩き付け、その周囲をドロシーが丁寧な射撃でフォローする。
駆けつけたユウと7が中型の周囲をヒットエンドランで斬り付け、5が狙撃に集中出来るよう、源一郎がグロムジャラーで鞭打ちながら盾で守ると同時に状況把握に努め、死角からの小型の接近に注意を呼びかける。
5の狙撃がついに中型を沈めれば、後はもう一方的な勝利だった。
戦闘中の反省点としてはどうしても地面も天井も無いという宇宙空間になかなか慣れることができず、足元からの攻撃に肝を冷やすことがあった事だが、互いにバディを組んだ相手を意識し、フォローをし合うという点に重きを置いていた為に、大きな傷を追う事は無かったのは成果の一つと言えよう。
また成果として何よりも大きかったのは、最初は誰もが制御不能に陥るのを恐れて、慎重に行っていた慣性制御だが、実戦の中で徐々にコツを掴み、ほぼ無意識下で行えるようになった。
「習うより慣れろ、とか……実践に勝る経験なし、とか……そういうことですかね」
月面基地への帰路。
まだ戦闘後の興奮も冷めきらぬ中で何気なく呟いた観智の一言にドロシーが食いついた。
『えっと……それは、ニホンのコトワザですか?』
「えぇ、そうですね」
神霊樹の影響で言語の壁がないためうっかり忘れそうになるが、ドロシー達は基本英語でしゃべっている。
そして観智達の言葉は各々の知る言語でしゃべっていても、神霊樹の影響で届けたい相手に通じているのだ。
軽く意味を説明すると強化人間達は『へー』などと一様に声を上げた。
「あの、セブンさん」
ユウが声を掛けると、通信器越しに笑う声が聞こえた。
『さん付けじゃなくていいって。堅苦しいのは苦手なんだ』
「……セブン、今日はありがとう」
『こちらこそ、あんたのお陰で助かったよ』
ユウと7のやり取りをきっかけに、バディを組んだ相手への感謝と労りの言葉の応酬が始まった。
「ドロシー」
『はい』
間もなく月面基地、というところまで来て源一郎がドロシーを呼び止めた。
「『将来を有望視されたスポーツ選手が練習で体を壊して夢を諦める』……という話はどの業界にもある。だから適切に休むと良い。それが一番の近道だ」
この訓練と戦闘を通して、源一郎はドロシーと、そしてこの強化人間達の危うい真摯さに自分の過去を重ねていた。
源一郎も一度は世の理不尽に嘆いて“正義の味方”を目指した1人だった。
結果は惨憺たるもので、人殺しの鬼が残っただけ――そう、本人は思っている。
その生き方は明るい未来には繋がっていない。だからせめて軍人となるよう誘導したいと、今日一日教官のように振る舞ってきた源一郎だった。
ドロシーはそんな源一郎の深い思いまでは気付かなかっただろう。
「そうですね、お腹いっぱいご飯を食べて、休みますね」
宙軍施設の手前でハンター達4人は強化人間4人と分かれた。
『今日は有り難うございました』
「……無事、基地を守れて良かったですね」
『はい!』
力強く笑うドロシーの顔が見えた気がして、観智も目元を和らげた。
強化人間達の機体がドック内へと消えるのを見送った後、ハンター達も転移門傍に増設されたドックに機体を預け、宇宙服を脱ぐとようやく地に足を付けた。
「地面があって音がするって……なんだか安心しますね」
その場で飛び跳ねて、大きく伸びをするユウの言葉に一同頷きながら、大きく息を吸って吐いた。
「……あの。私の気のせいだったらすみません」
「……クレールさん?」
「負のマテリアル……みたいなものを感じませんでしたか?」
クレールの一言に全員の表情が強張った。
通信器が通じている以上、あの場で言うわけにはいかなかった。
彼らが力を振るう度に感じる不快感や違和感、その正体。
大規模のときはそれどころではなかったし、訓練のときはそれほど感じなかった。
酷く感じ始めたのはスキルウェポンを使い始めてからだ。
「……だが、彼らは……」
「えぇ、彼らの“守りたい”“強くなりたい”という思いは本物だと私も思います」
源一郎が眉間のしわを深める。
「……どういう、ことなんでしょうか……」
観智が眼鏡を外して眉間を揉んだ。
「………………」
ユウは空を見上げ、手を伸ばした。
人工的に作られた空は青く透き通り、憂うことなど何もないのだと言われているようで、ユウは何も掴めないままカラの拳を胸の前で抱きしめる。
「……それでも、ここを守れました」
そんなユウの肩を優しく叩いて観智が頷いて見せる。
「……ですね。彼らの力が何処から来て、どうして負のマテリアルみたいなものを感じるのかはわかりませんけど、一緒に戦えて良かったです」
「私も、そう思います」
クレールの笑顔に強張った表情だったユウもようやく笑顔を見せた。
歩き出した3人の背を追いながら源一郎は宙軍施設の方へと視線を投げた。
“正義の味方”になりたいと、ついぞ人間を辞めたような人物を思い浮かべる。
――その道を選ぶには若すぎる。
源一郎はきつく瞼を閉じて、静かに開くとゆっくりと3人の後を追って再び歩き始めたのだった。
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狂気殲滅作戦相談卓 クレール・ディンセルフ(ka0586) 人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2017/09/14 10:21:43 |
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質問スレッド 天央 観智(ka0896) 人間(リアルブルー)|25才|男性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2017/09/13 06:43:42 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/09/09 06:52:38 |