ゲスト
(ka0000)
龍園 de 飛龍の保育士体験
マスター:葉槻

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/09/20 07:30
- 完成日
- 2017/10/03 23:49
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●北方の夏。リグ・サンガマの夏。
龍人達の間で『カストゥス』と呼ばれる聖なる生き物がいる。
聖なる、とは言うが、要するにただの大きく毛むくじゃらの牛である。
リアルブルーで言うなら恐らくジャコウウシと呼ばれる牛に近い。
彼らは寒さや飢餓にも強いが、負のマテリアルにも強いことが最大の特徴だ。
お陰で龍園では古くからカストゥスを飼育し、乳を搾り、晩春にその毛を刈って糸を紡ぎ、晩夏に雄牛から角を切って細工に用いたりして生活してきた。
「それで、そろそろその角切のシーズンなのだが、今龍園はとんでもなく人不足だ」
相変わらずの仏頂面でサヴィトゥール(kz0228)が龍園のハンターオフィスまでわざわざ出向いてくれたハンター達に向かって説明を開始する。
「何しろ、龍園の夏は酷く短い。この短い期間にやらなければならい事は山のようにある。にも関わらず、龍騎士達はリアルブルーにまで出張中だ。この男手のいる時期だというのに!」
やれやれと言わんばかりに横に首を振る。
肩口に届くさらさらとした直毛がサラサラと揺れた。
「そこで、君たちに依頼だ。今日は龍人総出で雄牛の角刈りを行うので、その間、君たちには飛龍達の面倒を見て欲しい」
「飛龍……? あの、ワイバーン達か」
ハンター達は最近ソサエティから貸与が許可されたワイバーンを、または龍奏作戦で、もしくは別所で共に戦ったワイバーンを思い浮かべる。
「あぁ。そのワイバーンだ」
サヴィトゥールは薄い唇の端を持ち上げると頷いた。
「まぁ、見て貰った方が早いだろう。……こっちだ」
そう言って1人さっさかと歩いて行ってしまう。
ハンター達は慌てて神官服に身を包んだ龍人の後を追った。
「……可愛い……」
氷で出来た洞窟の前。ハンター達の前にいるのは飛龍の幼獣たちだった。
つまり、ワイバーンの赤ちゃんである。
個体差はあれどおおよそ頭の先から尾の先まで全長は2m程、背の高さは1m程しかまだない。
1人では抱えるのに難儀するくらいの大きさ、と言えばわかりやすいだろうか。
「まだ空も飛べない子どもだ。とはいえ、飛龍だからな。引っ掻かれれば痛いし、イヤなことをされれば炎も吐く。気を付けろよ」
洞窟の奥には成獣のワイバーンもいる様だが、何やら様子がおかしい。
そのことに気付いたハンターが問えば、サヴィトゥールは「あぁ」となんでもないような事のようにさらっと告げた。
「あれはもう飛べぬ飛龍だ。今は主にこの幼獣たちの教育係をしてもらっている」
「えっと……?」
困惑するハンター達を前に、サヴィトゥールは指笛を吹いた。
澄んだ高い音を聞いた飛龍達がゆっくりと歩いてくる。
見れば、翼が片方もがれている個体もいれば、片脚を失い、残った片脚と尾でバランスを取りつつ歩いてくる個体もいた。
それらの口の中へと魚を放り入れるとサヴィトゥールはそれぞれの顎を撫でてやる。
「ワイバーンは幻獣に属するそうだが、寿命としては他のドラゴンより短いらしい。これはこの土地の有り様からも言えるが、要するに我々がワイバーンを“戦友”として戦場に引き摺り出すことが主な原因と言えるだろうな」
撫でて貰った飛龍は嬉しそうに目を細めている。
「だが、我々よりは長寿だ。力も強く、自己治癒力も高い。しかし、彼らとて失った部位を再生することは出来ない」
小さな傷なら勇猛な彼らは人と共にまだ戦おうと翼を広げ空を見上げ、大地を蹴る。
しかし、翼を失い、片脚をもがれ、尾を失い、両目を潰されたような飛龍は……死ぬ事なく生き存えてしまった飛龍達はもう飛べない。
「飛龍は勇猛で誇り高い。そのほとんどが戦場で死んでいくが、こうして生き残るものもいる。生き残ったものには後裔の教育係になってもらう。人と生きる上でのルールを幼獣に教え、やたらめったら火を吐かないように躾けたり、何が危険で危険が迫った時にはどうやって逃げるのかを教えたりな」
飛龍を撫でるサヴィトゥールの目元は心なしか柔らかい。
「今ここには幼獣が12体、成獣が13体いる。基本的に成獣の世話はいらん。この幼獣の面倒を見てくれ」
ハンター達へと視線を移したサヴィトゥールは魚の入ったバケツをハンター達一人一人に持たせた。
「まずは餌やり。次に運動。幼獣たちを連れて適当にその辺を走り回ってくれ。次に川で水浴び。……とはいえ、龍園の川は雪解け水だからな。夏とは言え人には刺さるような冷たさだ。わざわざお前達が入らなくとも川まで連れて行けば勝手に飛龍達は水の中に飛び込むだろうから、上がって来たらその身体を拭いてやってくれ」
渡されたカストゥスの毛で出来たバスタオルは12枚。
「遊び疲れたら寝てしまうだろうから、巣穴に戻してやってくれ。後は成獣たちが面倒を見てくれる」
「あの、その間サヴィトゥールさんはどうしているんですか?」
「自分は先ほども言ったが、今日は雄牛の角刈りがある。あれは手慣れた者で無ければ怪我をするか、雄牛を傷付けるからな」
「メーガ」と名を呼べば、先ほどの左の翼がない飛龍がサヴィトゥールへと顔を寄せた。
「メーガはこの群れの長のようなものだ。一応遊ばせるときも水浴びの時もメーガが共に行き、何かあれば対応してくれるだろう」
メーガは黒いつぶらな瞳をぱしぱしと瞬かせてハンター達を見た。
「すまないな、メーガ。今日はすこし賑やかだが、宜しく頼む」
そう告げたサヴィトゥールが魚を投げれば、メーガは器用に魚を口でキャッチする。
美味しそうにそれを咀嚼し飲み込むと、「相分かった」というように声無く吼えたのだった。
龍人達の間で『カストゥス』と呼ばれる聖なる生き物がいる。
聖なる、とは言うが、要するにただの大きく毛むくじゃらの牛である。
リアルブルーで言うなら恐らくジャコウウシと呼ばれる牛に近い。
彼らは寒さや飢餓にも強いが、負のマテリアルにも強いことが最大の特徴だ。
お陰で龍園では古くからカストゥスを飼育し、乳を搾り、晩春にその毛を刈って糸を紡ぎ、晩夏に雄牛から角を切って細工に用いたりして生活してきた。
「それで、そろそろその角切のシーズンなのだが、今龍園はとんでもなく人不足だ」
相変わらずの仏頂面でサヴィトゥール(kz0228)が龍園のハンターオフィスまでわざわざ出向いてくれたハンター達に向かって説明を開始する。
「何しろ、龍園の夏は酷く短い。この短い期間にやらなければならい事は山のようにある。にも関わらず、龍騎士達はリアルブルーにまで出張中だ。この男手のいる時期だというのに!」
やれやれと言わんばかりに横に首を振る。
肩口に届くさらさらとした直毛がサラサラと揺れた。
「そこで、君たちに依頼だ。今日は龍人総出で雄牛の角刈りを行うので、その間、君たちには飛龍達の面倒を見て欲しい」
「飛龍……? あの、ワイバーン達か」
ハンター達は最近ソサエティから貸与が許可されたワイバーンを、または龍奏作戦で、もしくは別所で共に戦ったワイバーンを思い浮かべる。
「あぁ。そのワイバーンだ」
サヴィトゥールは薄い唇の端を持ち上げると頷いた。
「まぁ、見て貰った方が早いだろう。……こっちだ」
そう言って1人さっさかと歩いて行ってしまう。
ハンター達は慌てて神官服に身を包んだ龍人の後を追った。
「……可愛い……」
氷で出来た洞窟の前。ハンター達の前にいるのは飛龍の幼獣たちだった。
つまり、ワイバーンの赤ちゃんである。
個体差はあれどおおよそ頭の先から尾の先まで全長は2m程、背の高さは1m程しかまだない。
1人では抱えるのに難儀するくらいの大きさ、と言えばわかりやすいだろうか。
「まだ空も飛べない子どもだ。とはいえ、飛龍だからな。引っ掻かれれば痛いし、イヤなことをされれば炎も吐く。気を付けろよ」
洞窟の奥には成獣のワイバーンもいる様だが、何やら様子がおかしい。
そのことに気付いたハンターが問えば、サヴィトゥールは「あぁ」となんでもないような事のようにさらっと告げた。
「あれはもう飛べぬ飛龍だ。今は主にこの幼獣たちの教育係をしてもらっている」
「えっと……?」
困惑するハンター達を前に、サヴィトゥールは指笛を吹いた。
澄んだ高い音を聞いた飛龍達がゆっくりと歩いてくる。
見れば、翼が片方もがれている個体もいれば、片脚を失い、残った片脚と尾でバランスを取りつつ歩いてくる個体もいた。
それらの口の中へと魚を放り入れるとサヴィトゥールはそれぞれの顎を撫でてやる。
「ワイバーンは幻獣に属するそうだが、寿命としては他のドラゴンより短いらしい。これはこの土地の有り様からも言えるが、要するに我々がワイバーンを“戦友”として戦場に引き摺り出すことが主な原因と言えるだろうな」
撫でて貰った飛龍は嬉しそうに目を細めている。
「だが、我々よりは長寿だ。力も強く、自己治癒力も高い。しかし、彼らとて失った部位を再生することは出来ない」
小さな傷なら勇猛な彼らは人と共にまだ戦おうと翼を広げ空を見上げ、大地を蹴る。
しかし、翼を失い、片脚をもがれ、尾を失い、両目を潰されたような飛龍は……死ぬ事なく生き存えてしまった飛龍達はもう飛べない。
「飛龍は勇猛で誇り高い。そのほとんどが戦場で死んでいくが、こうして生き残るものもいる。生き残ったものには後裔の教育係になってもらう。人と生きる上でのルールを幼獣に教え、やたらめったら火を吐かないように躾けたり、何が危険で危険が迫った時にはどうやって逃げるのかを教えたりな」
飛龍を撫でるサヴィトゥールの目元は心なしか柔らかい。
「今ここには幼獣が12体、成獣が13体いる。基本的に成獣の世話はいらん。この幼獣の面倒を見てくれ」
ハンター達へと視線を移したサヴィトゥールは魚の入ったバケツをハンター達一人一人に持たせた。
「まずは餌やり。次に運動。幼獣たちを連れて適当にその辺を走り回ってくれ。次に川で水浴び。……とはいえ、龍園の川は雪解け水だからな。夏とは言え人には刺さるような冷たさだ。わざわざお前達が入らなくとも川まで連れて行けば勝手に飛龍達は水の中に飛び込むだろうから、上がって来たらその身体を拭いてやってくれ」
渡されたカストゥスの毛で出来たバスタオルは12枚。
「遊び疲れたら寝てしまうだろうから、巣穴に戻してやってくれ。後は成獣たちが面倒を見てくれる」
「あの、その間サヴィトゥールさんはどうしているんですか?」
「自分は先ほども言ったが、今日は雄牛の角刈りがある。あれは手慣れた者で無ければ怪我をするか、雄牛を傷付けるからな」
「メーガ」と名を呼べば、先ほどの左の翼がない飛龍がサヴィトゥールへと顔を寄せた。
「メーガはこの群れの長のようなものだ。一応遊ばせるときも水浴びの時もメーガが共に行き、何かあれば対応してくれるだろう」
メーガは黒いつぶらな瞳をぱしぱしと瞬かせてハンター達を見た。
「すまないな、メーガ。今日はすこし賑やかだが、宜しく頼む」
そう告げたサヴィトゥールが魚を投げれば、メーガは器用に魚を口でキャッチする。
美味しそうにそれを咀嚼し飲み込むと、「相分かった」というように声無く吼えたのだった。
リプレイ本文
●はじめまして
飛龍達の棲家の雪原に辿り着いたハンター達は一同に喜びと感動の声を上げた。
「うなな、乳母さんの募集じゃないのは残念だけどかわいい子ばかりなのなー」
「皆~、今日は一日よろしくね~♪」
「まぁ、これがワイバーン様の子供なのですね。私、初めて見ます! ふふ、何て可愛らしいのでしょう。今日は一日よろしくお願いしますね」
黒の夢(ka0187)とユリア・クレプト(ka6255)、ファリン(ka6844)が正しく『よちよち』といった二足歩行をする飛龍の子ども達へと視線を合わせて挨拶をする。
(お、大きい……)
犬や猫の子どもを想像して楽しみにしていた浅黄 小夜(ka3062)は体長が1m以上ある子ども達を見て目を丸くする。
それでもまるっこい大きな瞳とか、まだ頭部の方が大きくて全体的にずんぐりむっくりした印象を受ける点など、『まだ子どもなんだな』と感じる部分はあり、ぴゃぁとかきゃぁとかいう少し甲高い声に思わず笑みを浮かべた。
「わぁあ、ちっこい! おっきいけどちっこい!」
声にならない声で囁くように感激しているのはミィナ・アレグトーリア(ka0317)だ。
(みんなの顔見分けられることが出来る様にお世話頑張るんよー)
ぐっ、と拳に力を込めて気合いを入れると、鞄の中から小さな箱を取り出した。
「うな~! 可愛いのな~!!」
箱の中には赤、橙、黄、緑、水、紺各色の花が1つずつついた白と黒のシュシュ。これを手に取って黒の夢が感激の声を上げる。
少し照れ笑いをしながらミィナは手招きに応じてくれた飛龍の子どもの小さなツノにシュシュを取り付ける。
「こうしたら、可愛いし、ツノ飾りにして分かりやすくなるのん!」
「ほわー……可愛いれす♪」
ハーティ(ka6928)が思わず拍手してミィナのアイディアを賞賛する。
事前に、とサヴィトゥール(kz0228)に飛龍の子ども達の名前を聞き出そうとしたハーティだったが、「命名は成龍となってからだ」と言われ、少し凹んでいたところだった。
飛龍は寿命は長い。だが基本的に多産ではないし、繁殖期も来たり来なかったりだ。
そんな中で授かった子どもは飛龍達が全力で守るが、そもそもつい1年前まで歪虚の跋扈する地では自らの身を守れない子どもの生存率は低かった。
今年、12体も子どもがいることが異例なのだ――そう無愛想に告げ、子ども達を見つめるサヴィトゥールの瞳は予想外に柔らかかった。
なお、そのサヴィトゥールはもう既にいない。
本当に最低限の説明と質疑応答を済ませると龍園へと戻っていってしまったからだ。
「みんなも良かったら使ってなー」
ミィナが箱から1番下手なの取り出して腕にはめて見せると、皆喜んでそれを腕にはめた。
「小夜さんも、今回もよろしくね?」
同盟での依頼で何度か一緒になった事がある小夜にこんなところで会えると思わなかったミィナは、見知った顔にほっとしつつシュシュを手渡す。
「……こちらこそ、おおきに」
小夜ははにかみながらシュシュを受け取ると、その手作り特有の暖かさを手のひらに感じた。
「汝も付けるのな~!」
黒の夢が背伸びしてメーガに声を掛ければ、少し困ったように周囲を見回した後、おずおずと頭を下げる。
黒の夢は喜び勇んでツノの先端にちょこんとシュシュをはめると「可愛いのな!」と満面の笑顔。
「初めまして。勇猛なる青き龍の眷属の戦士。あたしはユリア。今日はよろしくお願いするわ」
「メーガ様もお世話をおかけする事もあるかと思いますが、どうぞよろしくお願いします」
ユリアとファリンが並んで挨拶すると、メーガは頷くような仕草の後、すぐ傍で座り込んだ。
どうやら『ここから見守っているから、好きにやってみろ』という事らしい。
「あ、メーガさん」
ハーティがおずおずと差し出したのはバラ、カーネーション、スターチスなどの赤い花々でつくられたブーケ。
「ボクは高い所が怖くて、龍騎士になれませんれした。でも皆さんは立派に戦ってくれたのれすよね」
ありがとうございます、とハーティは花束越しに感謝を伝える。
「切り花なのれ日持ちしませんが、色や香りを楽しんで貰えたら嬉しいれす」
龍園には花はほとんど咲かない。ほんの少し、川辺の草が短い夏の間に小さな白い花を咲かせ、海辺で黄色い花が揺れる程度。
こんなにも鮮やかな花があるのだという事を龍園の外に行って知って以来、ハーティの夢は寒さに強い品種の苗をたくさん育てて郷へ持ち帰り、龍園を花いっぱいの場所にすることになった。
メーガはすん、と鼻を鳴らして匂いを嗅ぎ、一つ吼えると、器用にハーティから花束を皮翼の爪で受け取って洞窟の奥へと持って行く。
「び……びっくりしたのれす……!」
驚いて尻餅をついたハーティを5人は暖かな笑顔と共に見守ったのだった。
●みんなでごはん
「はわぁ! ちゃんと配るからバケツに顔突っ込んじゃダメなんよー?!」
ミィナの悲鳴が上がった。見ればバケツを頭上に抱え、子ども達の体当たりに必死に耐えている。
魚の入ったバケツを前にお預けを食らっていた子ども達はどうやら我慢の限界らしい。
「はいはい、今あげますね」
ユリアが魚を手に取ると、子ども達は歓声を上げながら今度は一気にユリアの元へと駆け寄っていく。
「えぇ!? 落ち着いて、ひとりずつ! ひとりずつよ!」
「こっちにもありますよー」
ファリンが魚を掴んで掲げると、後ろの方にいた子ども達が足音を立ててファリンへと走り寄る。
「……はい」
慌て過ぎて転んでしまった子に小夜が微笑みかけながら魚を差し出す。
「喧嘩はだめなのなー。お行儀良く食べるのなー」
黒の夢が声かけしつつ器用に魚を1匹ずつ口の中へと入れていく。
「ほわぁっ!? ボクは食べられないれすよ!?」
花の香りが残っているのか、不思議そうにハーティを見つめていた子どもがハーティの腕をアマガミし出す。
「痛い! や! くすぐった……わぁああダメれすーっ!」
ハーティが悲鳴と共にひっくり返り、魚が地面に散乱する。
その魚を嬉しそうに拾って食べていく子ども達を見て、絶望的な声を漏らすハーティ。
「大丈夫。紺黒と、緑白が3匹食べたのは確認したわ」
ユリアとファリンが優しくフォローに入る。
「沢山食べるのは元気な証拠……でも食べすぎはダメですよ」
ファリンが6匹目を頂戴しようと口を開ける黄黒のシュシュを付けた子どもから魚を隠すと、悲鳴のような鳴き声と共につぶらな瞳を潤ませてじぃっとファリンを見つめられてしまった。
「……そんなに見つめられても無い魚は出てこないのです。出てきませんよ?」
ミィナは魚の尻尾を持ってつるんと飲み込める様にと気を付けて口の中へと入れてやった。
ユリアは歌を歌い、音楽に乗りながら魚を与えていく。
そんな皆の様子を一足先にバケツを空にした黒の夢が魔導カメラで収めていった。
●いっしょにあそぼ
ファリンは爪で穴が開かないようにと革を巻いたビーチボールでゴールのないサッカーに興じていた。
よちよちとした歩みながらも走り出すと速い子ども達は夢中でボールを追いかけ、短い脚で器用に蹴っていく。
そんな中、ふと後ろへと視線を向けると、先ほどまで元気よく遊んでいた一体がぺしょんと地面につっぷしている。
「どうしたの?」
どうやら食べ過ぎて苦しいのか、元々運動が得意では無い子なのか、黄黒の子の全身から『もう疲れたー』というオーラが出ている。
「あらあら。じゃぁあの子達は私が見てるわ」
唯一戦馬を連れてきていたユリアがボールに夢中になって子ども達がはぐれないよう監督に行き、ファリンはしばらくその子に付き添って休憩することにする。
徐々に復活してきた黄黒の子はファリンから、ツツツ……と離れ、俯いた。
「私とあそんでくれますか?」
離れた距離を詰め、ファリンは笑顔で頭を撫でると、黄黒の子は「ぴゃぁ!」と鳴いてファリンの腕の中へと飛び込んだ。
その様子をカメラに収めていた黒の夢は羨ましくなったが、混ざりたい気持ちをぐっと我慢してシャッターを押し続けたのだった。
「……!!!」
小夜は物凄く一生懸命に遠くへとボールを投げた。
子ども達はそれを見て嬉しそうな歓声を上げながらボールを追いかけていく。
――つまりは、犬とかでよくやる『取ってこーい』というやつだ。
両膝に手を付きはぁはぁと肩で息をしていると、一体の子どもがくりっくりの瞳を輝かせて小夜の前にボールを落とした。
「……もう……取ってきはったんですか……」
その間、僅か10秒ほど。
鬼ごっこにしようかと思ったが飛龍の脚力には到底敵わず、持ってきたボールでドッチボールにしようかと思ったがルールを理解してもらえず。
結局理解してもらえた『取ってこーい』で遊んでいるのだが、小夜より圧倒的に脚力の優る子ども達は、ボールが地面に落ちる前に口でキャッチして持ってくるという有様だった。
『もう一回、ねぇ、もう一回』と言わんばかりのキラキラおめめに射抜かれて、小夜はぐっと意を決するともう何十回目になるかわからない投擲を披露したのだった。
玩具を持って来られなかった悲しみを、身体を使って昇華していくのはハーティ。
「待て待てー! つかまえ……あああ」
その尻尾を掴んだにもかかわらず引き摺られていく。
その様を笑いながら魔導カメラに収めたのはミィナだ。
「うぅ……格好いいところを撮って欲しかったれす……」
「大丈夫大丈夫。ちゃんと格好いいところも撮っとるんよー」
サムズアップして見せるミィナに曖昧な笑みを返しつつ、ふと見れば視線の先では白い息を吐いている小夜が子ども達に囲まれている。
「どうしたのれす?」
「腕が……もう……」
小夜の足元には両手で掴むには丁度いい大きさのボールが転がっている。
「じゃぁ、ボクが代わりに投げてもいいれすか?」
「……いいの?」
「ボク、唯一の男子なのれ、体力使う所はお任せれすっ」
ボールを拾い、「そーれー!」と思いっきり投げた。
子ども達が歓声を上げながらそれを取りに走り、ジャンプ。
――10秒後にはハーティの前にボールが戻ってきていた。
「……これは、大変なのれす……!!」
結局、ハーティも腕が上がらなくなるまでボールを投げ続け運動タイムは終了となったのだった。
●みずあびだいすき
「遠く行っちゃらめれすよぅ!」
膝下まで水の中に入ったハーティが紺黒色の子の背中を洗ってあげながら注意を呼びかける。
「壊れるのは構わないけど、食べちゃだめなのな」
黒の夢は持参した玩具の数々を水中に浮かべ遊び方を教えると、子ども達はそのちいさな玩具を鼻先ですくい、飛ばして遊び始めた。
「……寒く、ないんですか?」
「冷たいれすけど……前は雪解け水でお洗濯とかしてたのれすっ。どんとこーい!」
背中を洗ってあげたいという一心から気合いで水中に入っているハーティに素直に凄いなと思う小夜。
メーガがくいっと黒の夢を促した。
「うな? もうお終い?」
黒の夢が問うと、メーガは頷くような素振りを見せる。
「みんなー、そろそろ上がるのなー。身体を拭くのなー」
一緒にタオルに包まれながら赤白の子の全身を拭いていく。
「ん? この傷はいつ出来たものなのな?」
見れば膝に擦り傷がある。どうやら先ほど遊んでいるときに転んだらしい。
一応回復を頼むことも出来るが、逆に言えば子どものこういった傷というのは勲章であり、次に怪我をしない為の教訓でもある。
「治して貰う?」
黒の夢が問いかけると、子はぱっと腕から逃れわざと脚を踏みならす。『大丈夫だよ』のアピールらしい。
「ん。強い子良い子なのな」
黒の夢の慈愛に満ちた眼差しを、ファリンは逃さずミィナから預かった魔導カメラに収めたのだった。
「みんな上がってるんよー! 泳ぎすぎは逆に疲れるんよ!」
ミィナがウォーターウォークを使って追いかけるのは一番やんちゃな橙白の子だった。
「もー、ようやく捕まえ……きゃぁっ!?」
突然川面が激しく揺れて、ミィナは思わずしゃがみ込んだ。
「……メーガさん?」
橙白の子の前に立ち塞がる様にメーガが立ち、二人を睥睨している。
ぴゃぁ……と子が鳴いて慌てて川岸へと戻っていくのを見て、ミィナはメーガにお礼を言いつつ頭を下げると、今度は身体を拭いてあげるために子を追いかけていった。
そんな様子を赤白の子の身体を拭きながらユリアが優しく見守っていた。
●まだねむく……な……ぃ
「うな? 我輩温かいのかな。それとも疲れて眠たいアピールだろうか……」
黒の夢の豊満な谷間に水黒の子が顔をこすりつけるようにして抱き付いてきたのを柔らかく受け止め、そっと撫でる。
寝れない子にも、既に遊び疲れてる子にも良い眠りになる様にと、子守唄を魔琴「サブラージ」を奏でて小さくうたい始める黒の夢。
その琴の音に小夜は地球の子守唄を思い出した。
巣穴は深く、広い。
ユリアは入口付近で花の香りのお香を焚いていた。
ブーケを渡したときの反応といい、食事のときのハーティへの執着と言い、花の香りが嫌いな訳では無いだろうと予想は立てたが、匂いを嫌がる子はいるかもしれない。
その時はすぐに消そうと様子を見ていたが、どうやら子らは大丈夫なようだ。
ユリアもまた黒の夢の歌に合わせて声を乗せる。
それは母が子を愛しく想う、慈愛の子守歌。
二人の歌声を聞きながら、小夜は甘えん坊な橙黒の子に添い寝を試みていた。
そういえば、まだお迎えした飛龍の寝姿を見た事が無かったと気付いた小夜は、龍が寝るときはどんな風に寝るのだろうと思っていたが、羽を畳んでくるんと丸くなった様子は、玉子に似ている。
(寝るときに……お気に入りの……毛布とか、ぬいぐるみとか……ないんかな……?)
巣穴はタオルと同じ生地が敷かれていて、ふかふかしていて気持ちがいい。
このお陰で床からの底冷えするような冷たさは防がれている。
先ほどまで頻回に欠伸を噛み殺していたハーティがついに水白の子を膝枕したままうとうとと船をこぎ始め。
琴の音が止まると同時に、黒の夢も緑白と緑黒の子にくっつかれながら、水黒の子を抱きしめるようにして眠っており。
黄黒の子がファリンを離さないため、気がつけばファリンも眠りに落ち。
ミィナも橙白と赤黒の子に挟まれるようにて眠っていた。
(……うちも、少しだけ眠っても……えぇかな……?)
そっと頬をよせると、硬い鱗の向こうに確かに熱と鼓動を感じて小夜も気がつけば寝入っていた。
独り寝の出来る子らは各々すやすやととっくに寝息を立てており、そんな5人と12体の子ども達を見て、ユリアは優しく微笑む。
「戦士として巣立つかもしれない幼き仔達。せめて今は優しく心地良い眠りを……」
そっとその様子を黒の夢のカメラに収めたのだった。
飛龍達の棲家の雪原に辿り着いたハンター達は一同に喜びと感動の声を上げた。
「うなな、乳母さんの募集じゃないのは残念だけどかわいい子ばかりなのなー」
「皆~、今日は一日よろしくね~♪」
「まぁ、これがワイバーン様の子供なのですね。私、初めて見ます! ふふ、何て可愛らしいのでしょう。今日は一日よろしくお願いしますね」
黒の夢(ka0187)とユリア・クレプト(ka6255)、ファリン(ka6844)が正しく『よちよち』といった二足歩行をする飛龍の子ども達へと視線を合わせて挨拶をする。
(お、大きい……)
犬や猫の子どもを想像して楽しみにしていた浅黄 小夜(ka3062)は体長が1m以上ある子ども達を見て目を丸くする。
それでもまるっこい大きな瞳とか、まだ頭部の方が大きくて全体的にずんぐりむっくりした印象を受ける点など、『まだ子どもなんだな』と感じる部分はあり、ぴゃぁとかきゃぁとかいう少し甲高い声に思わず笑みを浮かべた。
「わぁあ、ちっこい! おっきいけどちっこい!」
声にならない声で囁くように感激しているのはミィナ・アレグトーリア(ka0317)だ。
(みんなの顔見分けられることが出来る様にお世話頑張るんよー)
ぐっ、と拳に力を込めて気合いを入れると、鞄の中から小さな箱を取り出した。
「うな~! 可愛いのな~!!」
箱の中には赤、橙、黄、緑、水、紺各色の花が1つずつついた白と黒のシュシュ。これを手に取って黒の夢が感激の声を上げる。
少し照れ笑いをしながらミィナは手招きに応じてくれた飛龍の子どもの小さなツノにシュシュを取り付ける。
「こうしたら、可愛いし、ツノ飾りにして分かりやすくなるのん!」
「ほわー……可愛いれす♪」
ハーティ(ka6928)が思わず拍手してミィナのアイディアを賞賛する。
事前に、とサヴィトゥール(kz0228)に飛龍の子ども達の名前を聞き出そうとしたハーティだったが、「命名は成龍となってからだ」と言われ、少し凹んでいたところだった。
飛龍は寿命は長い。だが基本的に多産ではないし、繁殖期も来たり来なかったりだ。
そんな中で授かった子どもは飛龍達が全力で守るが、そもそもつい1年前まで歪虚の跋扈する地では自らの身を守れない子どもの生存率は低かった。
今年、12体も子どもがいることが異例なのだ――そう無愛想に告げ、子ども達を見つめるサヴィトゥールの瞳は予想外に柔らかかった。
なお、そのサヴィトゥールはもう既にいない。
本当に最低限の説明と質疑応答を済ませると龍園へと戻っていってしまったからだ。
「みんなも良かったら使ってなー」
ミィナが箱から1番下手なの取り出して腕にはめて見せると、皆喜んでそれを腕にはめた。
「小夜さんも、今回もよろしくね?」
同盟での依頼で何度か一緒になった事がある小夜にこんなところで会えると思わなかったミィナは、見知った顔にほっとしつつシュシュを手渡す。
「……こちらこそ、おおきに」
小夜ははにかみながらシュシュを受け取ると、その手作り特有の暖かさを手のひらに感じた。
「汝も付けるのな~!」
黒の夢が背伸びしてメーガに声を掛ければ、少し困ったように周囲を見回した後、おずおずと頭を下げる。
黒の夢は喜び勇んでツノの先端にちょこんとシュシュをはめると「可愛いのな!」と満面の笑顔。
「初めまして。勇猛なる青き龍の眷属の戦士。あたしはユリア。今日はよろしくお願いするわ」
「メーガ様もお世話をおかけする事もあるかと思いますが、どうぞよろしくお願いします」
ユリアとファリンが並んで挨拶すると、メーガは頷くような仕草の後、すぐ傍で座り込んだ。
どうやら『ここから見守っているから、好きにやってみろ』という事らしい。
「あ、メーガさん」
ハーティがおずおずと差し出したのはバラ、カーネーション、スターチスなどの赤い花々でつくられたブーケ。
「ボクは高い所が怖くて、龍騎士になれませんれした。でも皆さんは立派に戦ってくれたのれすよね」
ありがとうございます、とハーティは花束越しに感謝を伝える。
「切り花なのれ日持ちしませんが、色や香りを楽しんで貰えたら嬉しいれす」
龍園には花はほとんど咲かない。ほんの少し、川辺の草が短い夏の間に小さな白い花を咲かせ、海辺で黄色い花が揺れる程度。
こんなにも鮮やかな花があるのだという事を龍園の外に行って知って以来、ハーティの夢は寒さに強い品種の苗をたくさん育てて郷へ持ち帰り、龍園を花いっぱいの場所にすることになった。
メーガはすん、と鼻を鳴らして匂いを嗅ぎ、一つ吼えると、器用にハーティから花束を皮翼の爪で受け取って洞窟の奥へと持って行く。
「び……びっくりしたのれす……!」
驚いて尻餅をついたハーティを5人は暖かな笑顔と共に見守ったのだった。
●みんなでごはん
「はわぁ! ちゃんと配るからバケツに顔突っ込んじゃダメなんよー?!」
ミィナの悲鳴が上がった。見ればバケツを頭上に抱え、子ども達の体当たりに必死に耐えている。
魚の入ったバケツを前にお預けを食らっていた子ども達はどうやら我慢の限界らしい。
「はいはい、今あげますね」
ユリアが魚を手に取ると、子ども達は歓声を上げながら今度は一気にユリアの元へと駆け寄っていく。
「えぇ!? 落ち着いて、ひとりずつ! ひとりずつよ!」
「こっちにもありますよー」
ファリンが魚を掴んで掲げると、後ろの方にいた子ども達が足音を立ててファリンへと走り寄る。
「……はい」
慌て過ぎて転んでしまった子に小夜が微笑みかけながら魚を差し出す。
「喧嘩はだめなのなー。お行儀良く食べるのなー」
黒の夢が声かけしつつ器用に魚を1匹ずつ口の中へと入れていく。
「ほわぁっ!? ボクは食べられないれすよ!?」
花の香りが残っているのか、不思議そうにハーティを見つめていた子どもがハーティの腕をアマガミし出す。
「痛い! や! くすぐった……わぁああダメれすーっ!」
ハーティが悲鳴と共にひっくり返り、魚が地面に散乱する。
その魚を嬉しそうに拾って食べていく子ども達を見て、絶望的な声を漏らすハーティ。
「大丈夫。紺黒と、緑白が3匹食べたのは確認したわ」
ユリアとファリンが優しくフォローに入る。
「沢山食べるのは元気な証拠……でも食べすぎはダメですよ」
ファリンが6匹目を頂戴しようと口を開ける黄黒のシュシュを付けた子どもから魚を隠すと、悲鳴のような鳴き声と共につぶらな瞳を潤ませてじぃっとファリンを見つめられてしまった。
「……そんなに見つめられても無い魚は出てこないのです。出てきませんよ?」
ミィナは魚の尻尾を持ってつるんと飲み込める様にと気を付けて口の中へと入れてやった。
ユリアは歌を歌い、音楽に乗りながら魚を与えていく。
そんな皆の様子を一足先にバケツを空にした黒の夢が魔導カメラで収めていった。
●いっしょにあそぼ
ファリンは爪で穴が開かないようにと革を巻いたビーチボールでゴールのないサッカーに興じていた。
よちよちとした歩みながらも走り出すと速い子ども達は夢中でボールを追いかけ、短い脚で器用に蹴っていく。
そんな中、ふと後ろへと視線を向けると、先ほどまで元気よく遊んでいた一体がぺしょんと地面につっぷしている。
「どうしたの?」
どうやら食べ過ぎて苦しいのか、元々運動が得意では無い子なのか、黄黒の子の全身から『もう疲れたー』というオーラが出ている。
「あらあら。じゃぁあの子達は私が見てるわ」
唯一戦馬を連れてきていたユリアがボールに夢中になって子ども達がはぐれないよう監督に行き、ファリンはしばらくその子に付き添って休憩することにする。
徐々に復活してきた黄黒の子はファリンから、ツツツ……と離れ、俯いた。
「私とあそんでくれますか?」
離れた距離を詰め、ファリンは笑顔で頭を撫でると、黄黒の子は「ぴゃぁ!」と鳴いてファリンの腕の中へと飛び込んだ。
その様子をカメラに収めていた黒の夢は羨ましくなったが、混ざりたい気持ちをぐっと我慢してシャッターを押し続けたのだった。
「……!!!」
小夜は物凄く一生懸命に遠くへとボールを投げた。
子ども達はそれを見て嬉しそうな歓声を上げながらボールを追いかけていく。
――つまりは、犬とかでよくやる『取ってこーい』というやつだ。
両膝に手を付きはぁはぁと肩で息をしていると、一体の子どもがくりっくりの瞳を輝かせて小夜の前にボールを落とした。
「……もう……取ってきはったんですか……」
その間、僅か10秒ほど。
鬼ごっこにしようかと思ったが飛龍の脚力には到底敵わず、持ってきたボールでドッチボールにしようかと思ったがルールを理解してもらえず。
結局理解してもらえた『取ってこーい』で遊んでいるのだが、小夜より圧倒的に脚力の優る子ども達は、ボールが地面に落ちる前に口でキャッチして持ってくるという有様だった。
『もう一回、ねぇ、もう一回』と言わんばかりのキラキラおめめに射抜かれて、小夜はぐっと意を決するともう何十回目になるかわからない投擲を披露したのだった。
玩具を持って来られなかった悲しみを、身体を使って昇華していくのはハーティ。
「待て待てー! つかまえ……あああ」
その尻尾を掴んだにもかかわらず引き摺られていく。
その様を笑いながら魔導カメラに収めたのはミィナだ。
「うぅ……格好いいところを撮って欲しかったれす……」
「大丈夫大丈夫。ちゃんと格好いいところも撮っとるんよー」
サムズアップして見せるミィナに曖昧な笑みを返しつつ、ふと見れば視線の先では白い息を吐いている小夜が子ども達に囲まれている。
「どうしたのれす?」
「腕が……もう……」
小夜の足元には両手で掴むには丁度いい大きさのボールが転がっている。
「じゃぁ、ボクが代わりに投げてもいいれすか?」
「……いいの?」
「ボク、唯一の男子なのれ、体力使う所はお任せれすっ」
ボールを拾い、「そーれー!」と思いっきり投げた。
子ども達が歓声を上げながらそれを取りに走り、ジャンプ。
――10秒後にはハーティの前にボールが戻ってきていた。
「……これは、大変なのれす……!!」
結局、ハーティも腕が上がらなくなるまでボールを投げ続け運動タイムは終了となったのだった。
●みずあびだいすき
「遠く行っちゃらめれすよぅ!」
膝下まで水の中に入ったハーティが紺黒色の子の背中を洗ってあげながら注意を呼びかける。
「壊れるのは構わないけど、食べちゃだめなのな」
黒の夢は持参した玩具の数々を水中に浮かべ遊び方を教えると、子ども達はそのちいさな玩具を鼻先ですくい、飛ばして遊び始めた。
「……寒く、ないんですか?」
「冷たいれすけど……前は雪解け水でお洗濯とかしてたのれすっ。どんとこーい!」
背中を洗ってあげたいという一心から気合いで水中に入っているハーティに素直に凄いなと思う小夜。
メーガがくいっと黒の夢を促した。
「うな? もうお終い?」
黒の夢が問うと、メーガは頷くような素振りを見せる。
「みんなー、そろそろ上がるのなー。身体を拭くのなー」
一緒にタオルに包まれながら赤白の子の全身を拭いていく。
「ん? この傷はいつ出来たものなのな?」
見れば膝に擦り傷がある。どうやら先ほど遊んでいるときに転んだらしい。
一応回復を頼むことも出来るが、逆に言えば子どものこういった傷というのは勲章であり、次に怪我をしない為の教訓でもある。
「治して貰う?」
黒の夢が問いかけると、子はぱっと腕から逃れわざと脚を踏みならす。『大丈夫だよ』のアピールらしい。
「ん。強い子良い子なのな」
黒の夢の慈愛に満ちた眼差しを、ファリンは逃さずミィナから預かった魔導カメラに収めたのだった。
「みんな上がってるんよー! 泳ぎすぎは逆に疲れるんよ!」
ミィナがウォーターウォークを使って追いかけるのは一番やんちゃな橙白の子だった。
「もー、ようやく捕まえ……きゃぁっ!?」
突然川面が激しく揺れて、ミィナは思わずしゃがみ込んだ。
「……メーガさん?」
橙白の子の前に立ち塞がる様にメーガが立ち、二人を睥睨している。
ぴゃぁ……と子が鳴いて慌てて川岸へと戻っていくのを見て、ミィナはメーガにお礼を言いつつ頭を下げると、今度は身体を拭いてあげるために子を追いかけていった。
そんな様子を赤白の子の身体を拭きながらユリアが優しく見守っていた。
●まだねむく……な……ぃ
「うな? 我輩温かいのかな。それとも疲れて眠たいアピールだろうか……」
黒の夢の豊満な谷間に水黒の子が顔をこすりつけるようにして抱き付いてきたのを柔らかく受け止め、そっと撫でる。
寝れない子にも、既に遊び疲れてる子にも良い眠りになる様にと、子守唄を魔琴「サブラージ」を奏でて小さくうたい始める黒の夢。
その琴の音に小夜は地球の子守唄を思い出した。
巣穴は深く、広い。
ユリアは入口付近で花の香りのお香を焚いていた。
ブーケを渡したときの反応といい、食事のときのハーティへの執着と言い、花の香りが嫌いな訳では無いだろうと予想は立てたが、匂いを嫌がる子はいるかもしれない。
その時はすぐに消そうと様子を見ていたが、どうやら子らは大丈夫なようだ。
ユリアもまた黒の夢の歌に合わせて声を乗せる。
それは母が子を愛しく想う、慈愛の子守歌。
二人の歌声を聞きながら、小夜は甘えん坊な橙黒の子に添い寝を試みていた。
そういえば、まだお迎えした飛龍の寝姿を見た事が無かったと気付いた小夜は、龍が寝るときはどんな風に寝るのだろうと思っていたが、羽を畳んでくるんと丸くなった様子は、玉子に似ている。
(寝るときに……お気に入りの……毛布とか、ぬいぐるみとか……ないんかな……?)
巣穴はタオルと同じ生地が敷かれていて、ふかふかしていて気持ちがいい。
このお陰で床からの底冷えするような冷たさは防がれている。
先ほどまで頻回に欠伸を噛み殺していたハーティがついに水白の子を膝枕したままうとうとと船をこぎ始め。
琴の音が止まると同時に、黒の夢も緑白と緑黒の子にくっつかれながら、水黒の子を抱きしめるようにして眠っており。
黄黒の子がファリンを離さないため、気がつけばファリンも眠りに落ち。
ミィナも橙白と赤黒の子に挟まれるようにて眠っていた。
(……うちも、少しだけ眠っても……えぇかな……?)
そっと頬をよせると、硬い鱗の向こうに確かに熱と鼓動を感じて小夜も気がつけば寝入っていた。
独り寝の出来る子らは各々すやすやととっくに寝息を立てており、そんな5人と12体の子ども達を見て、ユリアは優しく微笑む。
「戦士として巣立つかもしれない幼き仔達。せめて今は優しく心地良い眠りを……」
そっとその様子を黒の夢のカメラに収めたのだった。
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【質問卓】教えて神官さん! 黒の夢(ka0187) エルフ|26才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2017/09/20 03:35:47 |
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【相談卓】飛龍の子といっしょ 黒の夢(ka0187) エルフ|26才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2017/09/19 23:29:39 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/09/17 13:50:13 |