ゲスト
(ka0000)
南海に進路を取れ
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2017/09/25 19:00
- 完成日
- 2017/10/01 03:05
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●ポルトワール
海運会社グリーク商会では、家族会議が行われている。
次期会長と目されている長女ニケが、現会長である母を前にして話し込んでいる。
二月前に起きた新造船沈没事故によって生じた負債については、事故を起こした当事者からお釣りが出るほど補填した。おかげで資本金は増えた。
しかし本業自体の収益は、横這い傾向が続いている。
あちこちで歪虚による騒ぎが起きているのも原因の一つだろうが、やはり最も大きな問題は新市場の開拓が出来ていない所にあるのではないだろうか。
現在のところ商会は、西方の各港湾都市としか取引をしていない。グリーク商会は現会長が創設したものだ。企業としてはまだまだ新参の部類に入る。古参勢力と既存のパイを奪い合うことに力を注ぐより、新たなパイを求める努力をすべきではないだろうか。
そこまで話が進んだところであくびが聞こえてきた。
目を向ければ金髪の美少年――弟のナルシスが肘掛によりかかるようにして、頬杖をついている。
「相変わらず金のことばかり考えてるね姉さんは。ねえ、僕もう帰っていい? 正直ここに僕がいる意味ってないよね?」
ニケは銀縁眼鏡を光らせた。弟につかつか歩み寄り、耳を引っ張る。
「いっ、た、た! 何すんだよ!」
「何すんだよじゃないでしょナルシス……金が無くて人間どうやって生きていけると思うの? ええ? びた一文稼がないでのうのうとヒモ生活してる人間には分からないだろうけどね」
母親はすぐさま娘を止めに入った。彼女はいつも息子に甘い。
「これやめなさいニケ。ナルシスをいじめるのは」
「いじめてないわよ母さん。これは躾よ」
と言いながら指を放すニケ。耳をさすってナルシスは、舌を出す。
「暴力をふるう人間ってすぐそういう言い訳するんだよね。ねえ父さん」
話しかけられた父は一拍遅れてパイプの煙を吐き出した。
「ん? んむ」
なんだか分からない生返事。察するに話を聞いていなかったらしい。まあ、彼はいつもこんな調子だ。
「ナルシス、あんたそういえばこの間幽霊船退治に連れて行ったとき、宝島の地図を海に捨てたっけね」
都合の悪い話が蒸し返される気配を感じたナルシスは、姉の顔から目をそらした。
「やだなあ、まだあのこと根に持ってるの? あの時僕言ったじゃない。あんな地図絶対作り物だよって。大体さあ、海賊の宝だの将軍の埋蔵金だの旧帝国の隠された軍資金だの九割九分九厘ただの噂だよ噂。そうだったらいいのになって気持ちが押さえられなくて生み出された妄想だよ。ねえ父さん」
「ん? んむ」
●南海方面
マストにはためくは白地に青十字の旗。
帆に風を受け波を蹴立てて進むのはグリーク商会の高速商船。乗っているのは船員5名とハンターたち。そして。
「ていうかさー、なんでまた僕がさあ、付き合わされてんの。僕の身に何かあったら、マリーおねえさん号泣しちゃうと思うんだけどー」
「黙んなさい」
不平たらたらの操舵手ナルシス。臨時船長のニケ。
彼らは今、南海に出ているところ。目的は南海における独自航路の開拓。めでたく浄化を果たした海賊船船長の日記を参考にして、これまであまり探索が進んでいない海域を調査する。
13魔のカッツォ・ヴァイが異世界から連れてきたオートマトンを使い、人魚の島で騒ぎを起こしたのはつい最近のこと。同盟海域の中でさえ危険はあるのだ。そこから離れるのなら、ハンターの存在はなお欠かせないものとなる。
ちなみにハンターのうちには、カチャも含まれている。本日彼女は酔い止め持参であるので、さほど船酔いに悩まされていない――だからって気分爽快というわけでもないが。
ニケが日誌を片手に、言う。
「この先には、『鮫の顎』と言われている岩礁地帯があるそうです。牙みたいに尖った岩礁が所狭しと立ち並んでいる。引き込まれた船は腹を破られて沈む、おまけに多数の歪虚が潜んでいるとのこと。必ず迂回して通ることと記してありますね」
操舵室から顔を出し、ナルシスが愚痴る。
「何でそんなところにわざわざ行かなきゃなんないのかな。全く意味がわかんないんだけどー」
「いいから操船に集中してナルシス」
●鮫の顎
いざ来てみれば『鮫の顎』は、言われていたほど危険な場所ではなかった。
確かに潮の流れがぶつかりあちこち波立ってはいるのだが、肝心の岩礁らしきものは――ほとんど見当たらない。林立どころかお互い同士遠く離れ、ぽつりぽつりと寂しげにそびえているばかり。
「……ここが『鮫の顎』?」
構えていただけに拍子抜けしたような気持ちを隠せないハンターたち。
ニケは日誌と目の前の光景を見比べ戸惑う。
「いや――確かにここで間違いないはずなんですけど……」
ナルシスが鬼の首でも取ったように文句を言い始めた。
「ほーらほら、だからそんな日誌なんかさあ、アテになんないんだって、僕最初から言ったじゃない」
そこに口笛のような音が聞こえた。空耳ではない。船の下から聞こえる。
皆が船縁を覗いてみれば、2人の女人魚がいた。双子なのだろうか、顔がそっくりだ。
「初めまして、こんにちは。私はリンです」
「私はランです。つかぬ事をお伺い致しますが、あなたたちは強いですか?」
ハンターなので強いと言えば強い。そう答えると彼女たちは、安心したような顔をした。
「それでは少し、お頼みしたいことがあります」
「この海域にいる歪虚を、退治していただけませんか?」
「岩礁が大幅に間引かれたのに、まだ居残っているものがいまして……」
ニケは身を乗り出す。
「え? 岩礁が間引かれたって……どういうことなんですか?」
リンとランは顔を見合わせ、ひそひそ話し合ってから答えた。
「二ヶ月ほど前のことでしょうか」
「ここに見慣れない精霊様が現れまして」
「あのたくさんの岩を持って行ってもいいかしら、建築材料にしたいのだけどと、通りがかった私たちに聞かれました」
「私たちはいいですよと答えました」
「それから一週間ほどたってまたここを通ってみると」
「この通り岩礁が、すっかりなくなっていたのです」
「巣食っていた歪虚もその大半がいなくなっていました」
その話を聞いたカチャの脳裏に、危険信号めいた何かが点滅し始める。
(……まさか……でもそういうことやりそうな人だか精霊だかって……あの人しか……)
直後、けたたましい鳴き声が響いた。人魚たちは一目散に水の中へ潜ってしまう。
取り残された岩礁の陰から翼竜形の歪虚が出てきた。それが群れをなし、船に向かって飛んでくる。
ハンターたちはひとまず揃って迎撃態勢をとった。人魚に話の続きを聞くのは、あれを殲滅した後だ。
海運会社グリーク商会では、家族会議が行われている。
次期会長と目されている長女ニケが、現会長である母を前にして話し込んでいる。
二月前に起きた新造船沈没事故によって生じた負債については、事故を起こした当事者からお釣りが出るほど補填した。おかげで資本金は増えた。
しかし本業自体の収益は、横這い傾向が続いている。
あちこちで歪虚による騒ぎが起きているのも原因の一つだろうが、やはり最も大きな問題は新市場の開拓が出来ていない所にあるのではないだろうか。
現在のところ商会は、西方の各港湾都市としか取引をしていない。グリーク商会は現会長が創設したものだ。企業としてはまだまだ新参の部類に入る。古参勢力と既存のパイを奪い合うことに力を注ぐより、新たなパイを求める努力をすべきではないだろうか。
そこまで話が進んだところであくびが聞こえてきた。
目を向ければ金髪の美少年――弟のナルシスが肘掛によりかかるようにして、頬杖をついている。
「相変わらず金のことばかり考えてるね姉さんは。ねえ、僕もう帰っていい? 正直ここに僕がいる意味ってないよね?」
ニケは銀縁眼鏡を光らせた。弟につかつか歩み寄り、耳を引っ張る。
「いっ、た、た! 何すんだよ!」
「何すんだよじゃないでしょナルシス……金が無くて人間どうやって生きていけると思うの? ええ? びた一文稼がないでのうのうとヒモ生活してる人間には分からないだろうけどね」
母親はすぐさま娘を止めに入った。彼女はいつも息子に甘い。
「これやめなさいニケ。ナルシスをいじめるのは」
「いじめてないわよ母さん。これは躾よ」
と言いながら指を放すニケ。耳をさすってナルシスは、舌を出す。
「暴力をふるう人間ってすぐそういう言い訳するんだよね。ねえ父さん」
話しかけられた父は一拍遅れてパイプの煙を吐き出した。
「ん? んむ」
なんだか分からない生返事。察するに話を聞いていなかったらしい。まあ、彼はいつもこんな調子だ。
「ナルシス、あんたそういえばこの間幽霊船退治に連れて行ったとき、宝島の地図を海に捨てたっけね」
都合の悪い話が蒸し返される気配を感じたナルシスは、姉の顔から目をそらした。
「やだなあ、まだあのこと根に持ってるの? あの時僕言ったじゃない。あんな地図絶対作り物だよって。大体さあ、海賊の宝だの将軍の埋蔵金だの旧帝国の隠された軍資金だの九割九分九厘ただの噂だよ噂。そうだったらいいのになって気持ちが押さえられなくて生み出された妄想だよ。ねえ父さん」
「ん? んむ」
●南海方面
マストにはためくは白地に青十字の旗。
帆に風を受け波を蹴立てて進むのはグリーク商会の高速商船。乗っているのは船員5名とハンターたち。そして。
「ていうかさー、なんでまた僕がさあ、付き合わされてんの。僕の身に何かあったら、マリーおねえさん号泣しちゃうと思うんだけどー」
「黙んなさい」
不平たらたらの操舵手ナルシス。臨時船長のニケ。
彼らは今、南海に出ているところ。目的は南海における独自航路の開拓。めでたく浄化を果たした海賊船船長の日記を参考にして、これまであまり探索が進んでいない海域を調査する。
13魔のカッツォ・ヴァイが異世界から連れてきたオートマトンを使い、人魚の島で騒ぎを起こしたのはつい最近のこと。同盟海域の中でさえ危険はあるのだ。そこから離れるのなら、ハンターの存在はなお欠かせないものとなる。
ちなみにハンターのうちには、カチャも含まれている。本日彼女は酔い止め持参であるので、さほど船酔いに悩まされていない――だからって気分爽快というわけでもないが。
ニケが日誌を片手に、言う。
「この先には、『鮫の顎』と言われている岩礁地帯があるそうです。牙みたいに尖った岩礁が所狭しと立ち並んでいる。引き込まれた船は腹を破られて沈む、おまけに多数の歪虚が潜んでいるとのこと。必ず迂回して通ることと記してありますね」
操舵室から顔を出し、ナルシスが愚痴る。
「何でそんなところにわざわざ行かなきゃなんないのかな。全く意味がわかんないんだけどー」
「いいから操船に集中してナルシス」
●鮫の顎
いざ来てみれば『鮫の顎』は、言われていたほど危険な場所ではなかった。
確かに潮の流れがぶつかりあちこち波立ってはいるのだが、肝心の岩礁らしきものは――ほとんど見当たらない。林立どころかお互い同士遠く離れ、ぽつりぽつりと寂しげにそびえているばかり。
「……ここが『鮫の顎』?」
構えていただけに拍子抜けしたような気持ちを隠せないハンターたち。
ニケは日誌と目の前の光景を見比べ戸惑う。
「いや――確かにここで間違いないはずなんですけど……」
ナルシスが鬼の首でも取ったように文句を言い始めた。
「ほーらほら、だからそんな日誌なんかさあ、アテになんないんだって、僕最初から言ったじゃない」
そこに口笛のような音が聞こえた。空耳ではない。船の下から聞こえる。
皆が船縁を覗いてみれば、2人の女人魚がいた。双子なのだろうか、顔がそっくりだ。
「初めまして、こんにちは。私はリンです」
「私はランです。つかぬ事をお伺い致しますが、あなたたちは強いですか?」
ハンターなので強いと言えば強い。そう答えると彼女たちは、安心したような顔をした。
「それでは少し、お頼みしたいことがあります」
「この海域にいる歪虚を、退治していただけませんか?」
「岩礁が大幅に間引かれたのに、まだ居残っているものがいまして……」
ニケは身を乗り出す。
「え? 岩礁が間引かれたって……どういうことなんですか?」
リンとランは顔を見合わせ、ひそひそ話し合ってから答えた。
「二ヶ月ほど前のことでしょうか」
「ここに見慣れない精霊様が現れまして」
「あのたくさんの岩を持って行ってもいいかしら、建築材料にしたいのだけどと、通りがかった私たちに聞かれました」
「私たちはいいですよと答えました」
「それから一週間ほどたってまたここを通ってみると」
「この通り岩礁が、すっかりなくなっていたのです」
「巣食っていた歪虚もその大半がいなくなっていました」
その話を聞いたカチャの脳裏に、危険信号めいた何かが点滅し始める。
(……まさか……でもそういうことやりそうな人だか精霊だかって……あの人しか……)
直後、けたたましい鳴き声が響いた。人魚たちは一目散に水の中へ潜ってしまう。
取り残された岩礁の陰から翼竜形の歪虚が出てきた。それが群れをなし、船に向かって飛んでくる。
ハンターたちはひとまず揃って迎撃態勢をとった。人魚に話の続きを聞くのは、あれを殲滅した後だ。
リプレイ本文
●迎撃/ボート組
本船左舷からジルボ(ka1732)、天竜寺 詩(ka0396)、マルカ・アニチキン(ka2542)の乗ったボートが、右舷からソラス(ka6581)、ルベーノ・バルバライン(ka6752)の乗ったボートが動きだす。向かってくる翼竜たちを挟み撃ち、囲い込み、本船に残った仲間たちと一網打尽にする作戦だ。
●迎撃/本船組
ファリス(ka2853)とエルバッハ・リオン(ka2434)はいち早く甲板に陣取った。
「……人魚さん達の為に歪虚をきちんと倒しておくの。ファリスも頑張るの」
「岩礁を持って行った精霊というのも気になりますが、今は敵の迎撃ですね」
メイム(ka2290)は臨時船長ニケと、操舵手であるナルシスに呼びかけた。
「ニケさん、そのピカピカ眼鏡外して。ナルシス君お姉さん引っ張って船倉に退避、これが一番楽で安全だから頑張って」
彼らが避難した後、今度は船員たちに指示を飛ばす。
「船員さんアンカーと畳帆! その後船倉に退避!――カチャさん、エルさん達が魔術で弾幕してくれる間に、船倉入り口に移動、防衛するよ」
「はいっ」
カチャとともに昇降口の周囲へと慌ただしく陣取る。何があってもここだけは死守しなければならない。
●迎撃/ボート組
挟み撃ち作戦は序盤からつまづいた。右舷のボートが動かなくなったのだ。原因はソラスが船体にウォーターウォークをかけたから。ボートは魔法をかけられたことで水面上に乗り上げ、陸揚げ状態。これでは舟としてまともに進むことが出来ない。
(――しまった!)
すぐその理屈に気づいたソラスは魔導マイクを使い、周囲に情報を拡散する。
『すいません、私のミスです! こちらのボートは10分間動けなくなりました!』
左舷ボートは前へ前へ出て行く。
本体であろう大きな船から離れているものの方が襲いやすいと思ったか、翼竜たちは我先にそちらへ群れ集まってきた。
マルカが射程距離を伸ばしたファイアボールを放つ。詩は魔導銃を空に向け引き金を引く。
どちらも命中しなかったが、かまわない。この段階では撃ち落とすことが目的ではないのだ。脅して、群れの動きを制御させることさえ出来ればいい。
攻撃を受けた翼竜たちは一旦高度を上げた。
しかしなかなか思う方向に集まろうとしない。カバー仕切れずがら空きになっている右舷側へ回り込んでいこうとする。
そうはさせじとルベーノが、囮を買って出る。
「ははははは、こんなところでマゴイの情報を得られるとは……これが幸運の風か」
彼は走る、海の上を――ボートに乗ったメンバーは皆前もって、ウォーターウォークをかけてもらっているのである(加えて詩がハンター全員に、茨の祈りを付与している)。
豪快に笑いながら、全身をマッスルトーチで光らせる。
「どうした蜥蜴ども、降りてこないのか!」
知性が低い翼竜は彼の精神的な挑発について、どうとも思わなかった。
しかし1人群れから離れた彼を襲いやすい対象と見た。何羽かが、そちらに向かって行く。
詩が歌う。かつてグラン・アルキトゥスに対抗するため謳われていた人魚の歌を。
効果範囲内にある翼竜の動きが鈍った。それに合わせてソラスが、ファイアボールを打ち込む。ボートから降り、揺れる海の上を徒歩で移動しながら。
警戒し始めた翼竜は、一層ばらけていく。そのぼやけた群体の外側を削るようにして、ジルボが、ライフルを撃ちこんだ。
「くそっ、散らばるな!」
●迎撃/本船組
1羽が射程距離に入ったと見たカチャが発砲する。結果は、さっぱり当たらなかった。
「ああ、一発無駄にしちゃった……」
「ドンマイドンマイ、次が来るよ!」
とメイムが言った直後、ジルボによって被弾した1羽が本船に突っ込んできた。
すかさず彼女は迎撃する。この海域に来る途中拾ってきたもっちゃりかっぱを使って。
「行ってファミリアアタック!」
「カパ~!」
赤いオーラに包まれた緑色の妖精が歪虚と正面衝突し、炎に包ませながら落下させる。
(……メイム姉様に負けられないの、ファリスもいっぱい落とすの!)
意気盛んなファリスは、マルカのファイアボールで追い込まれてきた翼竜に魔杖を向ける。
「……爆炎よ。弾け、敵を焼き焦がせ!」
火球が弾け宙を焦がす。巻き込まれた3羽のうち1羽が消し飛んだ。残りは羽を焦がしながらも、すんでのところで離脱した。
それにリオンがファイアアローをぶつけ、落とす。
●迎撃/ボート組
ウォーターウォークの時間切れが近づいている。ソラスは急いでボートに駆け戻り、離れているルベーノに告げた。
『ルベーノさん。早く戻ってきてください! ウォータウォークが切れますから!』
「おお!」
襲ってきた翼竜の顔面に連打を加え沈没させたルベーノは、戻ろうとした。が、その足を止めた。続けて2羽翼竜が向かってきたからである。
戦いを挑まれて背を向けるわけにはいかない。
「蜥蜴か……歪虚でなければ戦利品のバックにしたり肉を食べたりしたんだが……残念だ」
にやりと笑って全身のマテリアルを集中させ、手のひらから放出した。
「覇-っ!!」
練り込まれたマテリアルの衝撃が翼竜の1羽を突き抜け、背後にいたもう1羽もまた貫き、粉砕する。
ちょうどそこでウォータウォークの効果が切れた。ルベーノは水に落ちる。しかし慌てず泳いで行く。水泳は得意なのだ。回収しに来たソラスのボートに乗りこんでいく。
そこへ翼竜たちが群がろうとする。
ジルボはフォールシュートでその動きを牽制した。マルカもまた、ファイアーボールを放った。
まとめて数羽が水に落ちた。そのうちの1羽が溺れまいともがき、両翼の爪でボートにしがみついてくる。小さな舟がたちまち傾く。
引きはがしにかかろうとした詩は、足に噛み付かれた。相手が沈んで行くのと同時にそのまま引きずり込まれかける。
ジルボは急いで彼女の体を掴み踏ん張った。
「離せ! てめえ往生際が悪すぎるぞ!」
盾で歪虚の頭を殴り口を離させ、水底へ叩き込む。
その間にマルカは詩へ、ウォーターウォークをかけ直した。自分とジルボの分もあわせて。
右舷ボートが動けるようになったので、この時点から歪虚の追い込みが、俄然スムーズになった。
●迎撃/本船組
「伸びろドローミ~」
メイムは鈍色の鎖によって絡め落とした翼竜に斧を叩きつけ、粉砕する。
ファリスは氷の矢を放つ。レクイエムやファイアボールによってすでに動きを鈍らせている個体を優先させて。
「……氷箭よ。敵を貫き凍らせ!」
まだ元気のある個体がリオンのファイアーボールをかいくぐり本船へ向かってくる。
それがいきなり急降下した。ソラスのグラビティフォールがかかったのだ。
俄然やりやすくなってきた。思いながらメイムは、ブーメランのように斧を投げる。
「カチャさんも射撃だ~目標を狙い撃てー♪」
カチャの弾丸が1羽に当たった。きりもみしながら落ちて行く。
初めての成功に喜ぶ間もなく背後に気配。
振り向いてみれば船縁に翼竜がへばり付き甲板に上ってこようとしている。カチャは急いでそちらに駆け寄り銃口を向け撃った。急所を外れた。歪虚が暴れ鋭い爪で、今日に限って防具をつけていない腹を刺した。
カチャはそのまま銃口を翼竜の頭に押し付け、残りの弾を撃ち込んだ。歪虚が消えて行く。
メイムは急ぎカチャの傷を、もっちゃりかっぱを介したコンバートライフで修復する……。
翼竜がファイアーボールで、メガフレアボムで、セイクリッドフラッシュで、銃弾で落とされて行く。
残存数5、4、3、2、1……。ゼロ。
リオンは海の彼方まで見回した。間違いなくもう1匹も残っていないと確認出来たところで、肩の力を抜く。晴れ晴れとした表情でカチャに話しかける。
「カチャさんと一緒に戦うのは久しぶりでしたね」
「そういえば――そうでしたね。普段によく会いますから、そんな感じしなかったですけど」
マルカがボートの上から人魚たちに無事を知らせている。
ぱしゃんと水しぶきが上がった。彼女の呼びかけに応え、水面に人魚たちが上がってきたのだ。
歪虚が倒されたことに安堵し、きゃっきゃと嬉しげに跳びはねるうるわしき人魚たち。
その光景を見下ろすファリスもまた、嬉しそうだ。
「……よかったの。人魚さん喜んでるの」
しかしメイムはそういった単純な感想を抱かなかった。カチャの袖を引っ張り、耳打ちする。
「カチャさんあの人魚善良だと思う?」
「え? 急にどうしたんですかメイムさん」
「……いや、さっきなんか口裏合わせしてたよね。あの二人。あたしたちが岩礁のこと聞いたときに」
「……考え過ぎじゃないですか? 裏があるようには見えませんけど」
ところで明記するまでもないことだが、人魚は基本的に服を着ない。まばゆい南国の光の下、そのたわわな胸は惜し気もなく晒されっぱなしだ。ルベーノにとってもソラスにとってもやや、目の毒である。
だがジルボだけは正面からさわやかに見つめている。
「う~む確かに異形ではある、あるんだが……何ともいえない艶めかしさが」
詩がその脇腹をスタッフの先端でつつき、注意した。
「ジルボさん、ジロジロ見たら失礼だよ」
マルカは人魚たちを呼び寄せ、お願いした。
「初対面で申し訳ないのですが、その綺麗な身体に魅了されて、海に落下する人が出るかもしれませんのでそのう……互いのトラブル回避の為に、人がいる際はなるべく上半身は……胸だけでも隠していただけないかと……」
とりあえず人魚たちは長い髪を、胸の上へと垂らし直してくれた。
最後に船倉へと避難していた人々が出てきた。ナルシスがニケと言い合いをしている。
「は? 帰る? そんなわけないでしょう。まだ調査が残ってるんだから」
「はぁ? まだこの場にいるなんて冗談じゃないよ、そんなに南海大冒険したいなら姉さん1人でやってくれない?」
リオンは最初からこのヒモ気質少年にいい感情を持っていない。ので、氷の微笑を向け黙らせる。
「ナルシスさん、忙しいので静かにしてもらえますか」
●南海調査
歪虚の始末がついた後一同は、改めて周辺海域の調査に取り組むとした。ひとまず今回はそれを終わらせたら帰還する。この先もなお進めるだけの物資は持ってきていないのだ。
マルカの勧めもあってニケは、今後この界隈に赴く際問題が起きないよう、長に挨拶をしておきたいということを、ルンとリンに告げた。
「よいですよ」
「それでは少しお待ちを」
と言い2人が去って十分後、遠方から歌声が聞こえてきた。
見れば長なのだろう人魚が、リン、ランとともに近づいてくる。黒い髪に茶褐色の肌をした南国風美女である――頭から尾の先まで推定3メートルという、実に雄大な体格の。
「話は聞きましたよ! うちの若い子たちを助けてくれたそうで! ありがとうございます!」
「……ど、どうも」
予想を越えた相手の大きさにやや気圧されるニケ。
そこからの交渉は彼女に一任するとしたハンターたちは、再度ボートに乗り込み海域調査に赴く。ルンとリンに案内してもらいつつ。
カチャを使ったマゴイ召喚が不発に終わったメイムは、残念そうに零す。
「カチャがあんなに呼んだのに出てこないなんて、マゴイも冷たいよねー」
腑に落ちない顔でカチャが返す。
「私そこまであの人のこと呼んでませんけど……」
人魚姉妹に詩は、自分が知っているマゴイの容姿を伝え、聞いた。
「――という感じの人じゃない、精霊様って」
彼女らはそれに、驚いた顔をした。
「確かにその通りの方ですが」
「何故ご存じなのですか?」
やはり精霊様=マゴイで間違いないか。確信を抱いたソラスは、畳み掛けるように言う。
「彼女は、私たちの知り合いなのです。しかし連絡が取れなくて……この付近におられるなら会いに行きたいのですが……何処から来られたか分かりませんか?」
双子の人魚は顔を見合わせ、またひそひそ囁き合う。
それが気になって仕方ないメイムは、思い切って聞いてみた。
「ねえ、さっきから自分たちだけで何話してるの?」
彼女の質問について人魚たちは、あけすけに答えてくれた。
「相談しているんです」
「あなたたちがどういうひとなのか」
「お願い通り歪虚を退治してくれましたから、私たちにとっては信頼出来る方々と判明しましたが」
「はたして精霊様にとってもそうなのかどうなのか、と……」
「あなたたちは精霊様に会ってどうなさるおつもりなのですか?」
その後続いた2人の話から判明したのは彼女らが――というかこの界隈に住んでいる人魚全体が――歪虚を追い払える強力な精霊がこの界隈に居着いてくれたのなら、そのままそっとしておきたい。連れて行かれたりすると困るので、その居場所は極力教えたくない……と思っているということであった。
詩は話術を駆使し、マゴイをどこかに連れて行くつもりはないのだ。ただ、会って話がしたいだけなのだと懇切丁寧に説明する。
それでリンたちもようやく安心したらしい。顔を見合わせにっこりする。
「ね、この辺りの島で最近急にコボルドが現れたり人工物が出来たり海に排水が流れたりしだした所ってない?」
詩の言葉に続いてジルボは、手製の地図を取り出した。
「こんな感じの島な。なんかこう瓢箪みたいな形した……」
「あります。この辺りでなくもっとずっと行った先ですが」
「だけどいつもあるわけじゃありません」
「時々なくなったりします」
ファリスは首をかしげ、聞き返す。
「……どういうことなの?」
「精霊様が隠してしまわれるんです」
「どこかへ出掛けられるときに、そうしているようです」
なるほど結界術に長けた彼女なら、島を隠してしまうくらいはやるであろう――と納得するルベーノ。
ジルボは、ふと父親が『人魚は歌でヒトを誘う』と言っていたのを思い出した。
「お二人さんは歌える? 良けりゃ聴かせて欲しいな」
リンとランが歌い始めた。澄んだ声で。
♪ユニオン、ユニオン、いいところ
みんなであそんでたのしいな、おべんきょうしてたのしいな
ユニオン、ユニオン、いいところ
みんなでおやすみたのしいな、おしごとをしてたのしいな♪
リオンは思わず問い質した。
「……ええと、今の歌は人魚の間に伝わっているものですか?」
「いいえ」
「精霊様が時々歌っておられますものです」
マルカは歌のお返しにフルートを奏でる。人魚たちに出会えた喜びをこめて。するとパルムが楽しげに踊りだした。
ルベーノは水平線に向けて呼びかける。どこにいるか知らない相手に、聞こえているようにと願いつつ。
「そろそろ秋祭りだ、皆で行けるよう準備は整ったか? 休暇体験させるのだろう?」
今回グリーク商会は、周辺海域の詳細なデータを得、人魚たちと友好関係を構築することに成功した。
その成果は今後必ず役に立つことだろう。
本船左舷からジルボ(ka1732)、天竜寺 詩(ka0396)、マルカ・アニチキン(ka2542)の乗ったボートが、右舷からソラス(ka6581)、ルベーノ・バルバライン(ka6752)の乗ったボートが動きだす。向かってくる翼竜たちを挟み撃ち、囲い込み、本船に残った仲間たちと一網打尽にする作戦だ。
●迎撃/本船組
ファリス(ka2853)とエルバッハ・リオン(ka2434)はいち早く甲板に陣取った。
「……人魚さん達の為に歪虚をきちんと倒しておくの。ファリスも頑張るの」
「岩礁を持って行った精霊というのも気になりますが、今は敵の迎撃ですね」
メイム(ka2290)は臨時船長ニケと、操舵手であるナルシスに呼びかけた。
「ニケさん、そのピカピカ眼鏡外して。ナルシス君お姉さん引っ張って船倉に退避、これが一番楽で安全だから頑張って」
彼らが避難した後、今度は船員たちに指示を飛ばす。
「船員さんアンカーと畳帆! その後船倉に退避!――カチャさん、エルさん達が魔術で弾幕してくれる間に、船倉入り口に移動、防衛するよ」
「はいっ」
カチャとともに昇降口の周囲へと慌ただしく陣取る。何があってもここだけは死守しなければならない。
●迎撃/ボート組
挟み撃ち作戦は序盤からつまづいた。右舷のボートが動かなくなったのだ。原因はソラスが船体にウォーターウォークをかけたから。ボートは魔法をかけられたことで水面上に乗り上げ、陸揚げ状態。これでは舟としてまともに進むことが出来ない。
(――しまった!)
すぐその理屈に気づいたソラスは魔導マイクを使い、周囲に情報を拡散する。
『すいません、私のミスです! こちらのボートは10分間動けなくなりました!』
左舷ボートは前へ前へ出て行く。
本体であろう大きな船から離れているものの方が襲いやすいと思ったか、翼竜たちは我先にそちらへ群れ集まってきた。
マルカが射程距離を伸ばしたファイアボールを放つ。詩は魔導銃を空に向け引き金を引く。
どちらも命中しなかったが、かまわない。この段階では撃ち落とすことが目的ではないのだ。脅して、群れの動きを制御させることさえ出来ればいい。
攻撃を受けた翼竜たちは一旦高度を上げた。
しかしなかなか思う方向に集まろうとしない。カバー仕切れずがら空きになっている右舷側へ回り込んでいこうとする。
そうはさせじとルベーノが、囮を買って出る。
「ははははは、こんなところでマゴイの情報を得られるとは……これが幸運の風か」
彼は走る、海の上を――ボートに乗ったメンバーは皆前もって、ウォーターウォークをかけてもらっているのである(加えて詩がハンター全員に、茨の祈りを付与している)。
豪快に笑いながら、全身をマッスルトーチで光らせる。
「どうした蜥蜴ども、降りてこないのか!」
知性が低い翼竜は彼の精神的な挑発について、どうとも思わなかった。
しかし1人群れから離れた彼を襲いやすい対象と見た。何羽かが、そちらに向かって行く。
詩が歌う。かつてグラン・アルキトゥスに対抗するため謳われていた人魚の歌を。
効果範囲内にある翼竜の動きが鈍った。それに合わせてソラスが、ファイアボールを打ち込む。ボートから降り、揺れる海の上を徒歩で移動しながら。
警戒し始めた翼竜は、一層ばらけていく。そのぼやけた群体の外側を削るようにして、ジルボが、ライフルを撃ちこんだ。
「くそっ、散らばるな!」
●迎撃/本船組
1羽が射程距離に入ったと見たカチャが発砲する。結果は、さっぱり当たらなかった。
「ああ、一発無駄にしちゃった……」
「ドンマイドンマイ、次が来るよ!」
とメイムが言った直後、ジルボによって被弾した1羽が本船に突っ込んできた。
すかさず彼女は迎撃する。この海域に来る途中拾ってきたもっちゃりかっぱを使って。
「行ってファミリアアタック!」
「カパ~!」
赤いオーラに包まれた緑色の妖精が歪虚と正面衝突し、炎に包ませながら落下させる。
(……メイム姉様に負けられないの、ファリスもいっぱい落とすの!)
意気盛んなファリスは、マルカのファイアボールで追い込まれてきた翼竜に魔杖を向ける。
「……爆炎よ。弾け、敵を焼き焦がせ!」
火球が弾け宙を焦がす。巻き込まれた3羽のうち1羽が消し飛んだ。残りは羽を焦がしながらも、すんでのところで離脱した。
それにリオンがファイアアローをぶつけ、落とす。
●迎撃/ボート組
ウォーターウォークの時間切れが近づいている。ソラスは急いでボートに駆け戻り、離れているルベーノに告げた。
『ルベーノさん。早く戻ってきてください! ウォータウォークが切れますから!』
「おお!」
襲ってきた翼竜の顔面に連打を加え沈没させたルベーノは、戻ろうとした。が、その足を止めた。続けて2羽翼竜が向かってきたからである。
戦いを挑まれて背を向けるわけにはいかない。
「蜥蜴か……歪虚でなければ戦利品のバックにしたり肉を食べたりしたんだが……残念だ」
にやりと笑って全身のマテリアルを集中させ、手のひらから放出した。
「覇-っ!!」
練り込まれたマテリアルの衝撃が翼竜の1羽を突き抜け、背後にいたもう1羽もまた貫き、粉砕する。
ちょうどそこでウォータウォークの効果が切れた。ルベーノは水に落ちる。しかし慌てず泳いで行く。水泳は得意なのだ。回収しに来たソラスのボートに乗りこんでいく。
そこへ翼竜たちが群がろうとする。
ジルボはフォールシュートでその動きを牽制した。マルカもまた、ファイアーボールを放った。
まとめて数羽が水に落ちた。そのうちの1羽が溺れまいともがき、両翼の爪でボートにしがみついてくる。小さな舟がたちまち傾く。
引きはがしにかかろうとした詩は、足に噛み付かれた。相手が沈んで行くのと同時にそのまま引きずり込まれかける。
ジルボは急いで彼女の体を掴み踏ん張った。
「離せ! てめえ往生際が悪すぎるぞ!」
盾で歪虚の頭を殴り口を離させ、水底へ叩き込む。
その間にマルカは詩へ、ウォーターウォークをかけ直した。自分とジルボの分もあわせて。
右舷ボートが動けるようになったので、この時点から歪虚の追い込みが、俄然スムーズになった。
●迎撃/本船組
「伸びろドローミ~」
メイムは鈍色の鎖によって絡め落とした翼竜に斧を叩きつけ、粉砕する。
ファリスは氷の矢を放つ。レクイエムやファイアボールによってすでに動きを鈍らせている個体を優先させて。
「……氷箭よ。敵を貫き凍らせ!」
まだ元気のある個体がリオンのファイアーボールをかいくぐり本船へ向かってくる。
それがいきなり急降下した。ソラスのグラビティフォールがかかったのだ。
俄然やりやすくなってきた。思いながらメイムは、ブーメランのように斧を投げる。
「カチャさんも射撃だ~目標を狙い撃てー♪」
カチャの弾丸が1羽に当たった。きりもみしながら落ちて行く。
初めての成功に喜ぶ間もなく背後に気配。
振り向いてみれば船縁に翼竜がへばり付き甲板に上ってこようとしている。カチャは急いでそちらに駆け寄り銃口を向け撃った。急所を外れた。歪虚が暴れ鋭い爪で、今日に限って防具をつけていない腹を刺した。
カチャはそのまま銃口を翼竜の頭に押し付け、残りの弾を撃ち込んだ。歪虚が消えて行く。
メイムは急ぎカチャの傷を、もっちゃりかっぱを介したコンバートライフで修復する……。
翼竜がファイアーボールで、メガフレアボムで、セイクリッドフラッシュで、銃弾で落とされて行く。
残存数5、4、3、2、1……。ゼロ。
リオンは海の彼方まで見回した。間違いなくもう1匹も残っていないと確認出来たところで、肩の力を抜く。晴れ晴れとした表情でカチャに話しかける。
「カチャさんと一緒に戦うのは久しぶりでしたね」
「そういえば――そうでしたね。普段によく会いますから、そんな感じしなかったですけど」
マルカがボートの上から人魚たちに無事を知らせている。
ぱしゃんと水しぶきが上がった。彼女の呼びかけに応え、水面に人魚たちが上がってきたのだ。
歪虚が倒されたことに安堵し、きゃっきゃと嬉しげに跳びはねるうるわしき人魚たち。
その光景を見下ろすファリスもまた、嬉しそうだ。
「……よかったの。人魚さん喜んでるの」
しかしメイムはそういった単純な感想を抱かなかった。カチャの袖を引っ張り、耳打ちする。
「カチャさんあの人魚善良だと思う?」
「え? 急にどうしたんですかメイムさん」
「……いや、さっきなんか口裏合わせしてたよね。あの二人。あたしたちが岩礁のこと聞いたときに」
「……考え過ぎじゃないですか? 裏があるようには見えませんけど」
ところで明記するまでもないことだが、人魚は基本的に服を着ない。まばゆい南国の光の下、そのたわわな胸は惜し気もなく晒されっぱなしだ。ルベーノにとってもソラスにとってもやや、目の毒である。
だがジルボだけは正面からさわやかに見つめている。
「う~む確かに異形ではある、あるんだが……何ともいえない艶めかしさが」
詩がその脇腹をスタッフの先端でつつき、注意した。
「ジルボさん、ジロジロ見たら失礼だよ」
マルカは人魚たちを呼び寄せ、お願いした。
「初対面で申し訳ないのですが、その綺麗な身体に魅了されて、海に落下する人が出るかもしれませんのでそのう……互いのトラブル回避の為に、人がいる際はなるべく上半身は……胸だけでも隠していただけないかと……」
とりあえず人魚たちは長い髪を、胸の上へと垂らし直してくれた。
最後に船倉へと避難していた人々が出てきた。ナルシスがニケと言い合いをしている。
「は? 帰る? そんなわけないでしょう。まだ調査が残ってるんだから」
「はぁ? まだこの場にいるなんて冗談じゃないよ、そんなに南海大冒険したいなら姉さん1人でやってくれない?」
リオンは最初からこのヒモ気質少年にいい感情を持っていない。ので、氷の微笑を向け黙らせる。
「ナルシスさん、忙しいので静かにしてもらえますか」
●南海調査
歪虚の始末がついた後一同は、改めて周辺海域の調査に取り組むとした。ひとまず今回はそれを終わらせたら帰還する。この先もなお進めるだけの物資は持ってきていないのだ。
マルカの勧めもあってニケは、今後この界隈に赴く際問題が起きないよう、長に挨拶をしておきたいということを、ルンとリンに告げた。
「よいですよ」
「それでは少しお待ちを」
と言い2人が去って十分後、遠方から歌声が聞こえてきた。
見れば長なのだろう人魚が、リン、ランとともに近づいてくる。黒い髪に茶褐色の肌をした南国風美女である――頭から尾の先まで推定3メートルという、実に雄大な体格の。
「話は聞きましたよ! うちの若い子たちを助けてくれたそうで! ありがとうございます!」
「……ど、どうも」
予想を越えた相手の大きさにやや気圧されるニケ。
そこからの交渉は彼女に一任するとしたハンターたちは、再度ボートに乗り込み海域調査に赴く。ルンとリンに案内してもらいつつ。
カチャを使ったマゴイ召喚が不発に終わったメイムは、残念そうに零す。
「カチャがあんなに呼んだのに出てこないなんて、マゴイも冷たいよねー」
腑に落ちない顔でカチャが返す。
「私そこまであの人のこと呼んでませんけど……」
人魚姉妹に詩は、自分が知っているマゴイの容姿を伝え、聞いた。
「――という感じの人じゃない、精霊様って」
彼女らはそれに、驚いた顔をした。
「確かにその通りの方ですが」
「何故ご存じなのですか?」
やはり精霊様=マゴイで間違いないか。確信を抱いたソラスは、畳み掛けるように言う。
「彼女は、私たちの知り合いなのです。しかし連絡が取れなくて……この付近におられるなら会いに行きたいのですが……何処から来られたか分かりませんか?」
双子の人魚は顔を見合わせ、またひそひそ囁き合う。
それが気になって仕方ないメイムは、思い切って聞いてみた。
「ねえ、さっきから自分たちだけで何話してるの?」
彼女の質問について人魚たちは、あけすけに答えてくれた。
「相談しているんです」
「あなたたちがどういうひとなのか」
「お願い通り歪虚を退治してくれましたから、私たちにとっては信頼出来る方々と判明しましたが」
「はたして精霊様にとってもそうなのかどうなのか、と……」
「あなたたちは精霊様に会ってどうなさるおつもりなのですか?」
その後続いた2人の話から判明したのは彼女らが――というかこの界隈に住んでいる人魚全体が――歪虚を追い払える強力な精霊がこの界隈に居着いてくれたのなら、そのままそっとしておきたい。連れて行かれたりすると困るので、その居場所は極力教えたくない……と思っているということであった。
詩は話術を駆使し、マゴイをどこかに連れて行くつもりはないのだ。ただ、会って話がしたいだけなのだと懇切丁寧に説明する。
それでリンたちもようやく安心したらしい。顔を見合わせにっこりする。
「ね、この辺りの島で最近急にコボルドが現れたり人工物が出来たり海に排水が流れたりしだした所ってない?」
詩の言葉に続いてジルボは、手製の地図を取り出した。
「こんな感じの島な。なんかこう瓢箪みたいな形した……」
「あります。この辺りでなくもっとずっと行った先ですが」
「だけどいつもあるわけじゃありません」
「時々なくなったりします」
ファリスは首をかしげ、聞き返す。
「……どういうことなの?」
「精霊様が隠してしまわれるんです」
「どこかへ出掛けられるときに、そうしているようです」
なるほど結界術に長けた彼女なら、島を隠してしまうくらいはやるであろう――と納得するルベーノ。
ジルボは、ふと父親が『人魚は歌でヒトを誘う』と言っていたのを思い出した。
「お二人さんは歌える? 良けりゃ聴かせて欲しいな」
リンとランが歌い始めた。澄んだ声で。
♪ユニオン、ユニオン、いいところ
みんなであそんでたのしいな、おべんきょうしてたのしいな
ユニオン、ユニオン、いいところ
みんなでおやすみたのしいな、おしごとをしてたのしいな♪
リオンは思わず問い質した。
「……ええと、今の歌は人魚の間に伝わっているものですか?」
「いいえ」
「精霊様が時々歌っておられますものです」
マルカは歌のお返しにフルートを奏でる。人魚たちに出会えた喜びをこめて。するとパルムが楽しげに踊りだした。
ルベーノは水平線に向けて呼びかける。どこにいるか知らない相手に、聞こえているようにと願いつつ。
「そろそろ秋祭りだ、皆で行けるよう準備は整ったか? 休暇体験させるのだろう?」
今回グリーク商会は、周辺海域の詳細なデータを得、人魚たちと友好関係を構築することに成功した。
その成果は今後必ず役に立つことだろう。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
相談卓 マルカ・アニチキン(ka2542) 人間(クリムゾンウェスト)|20才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2017/09/24 23:55:00 |
|
![]() |
【質問卓】 メイム(ka2290) エルフ|15才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2017/09/24 01:53:19 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/09/20 18:25:31 |