ゲスト
(ka0000)
【幻視】死の無残なるかな【界冥】
マスター:凪池シリル

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/09/22 07:30
- 完成日
- 2017/09/26 11:12
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
※本シナリオには残虐表現を含むショッキングな描写が含まれます。気分を害される方、心臓の弱い方などは注意の上で閲覧を選択してください。
※要するに:若干グロ注意。
それは。再び戦場となった鎌倉クラスタの方角から、ぬるりと姿を現した。
背後であまりに巨大な影が暴れているため、相対的に小さく錯覚してしまう。その姿も相まって、一瞬、緊張感を削がれたものもいたかもしれない。
高さは3メートルほど。お椀に手足を生やしたような気の抜ける姿をした土人形。お椀型と言っても中身は埋まっており、平たい上部に人型の何かがうつ伏せに、頬杖をつく形で寝そべっている。そして、お椀の淵に当たる部分に、5、6個、何かがぶら下げられて揺れていた。
クラスタ周辺に布陣していた連合軍、その一団とある程度の距離まで近づくと、『ソレ』はぶら下がっていたひとつをむず、と掴み、そして人々の群れへとすさまじい勢いで投げつけてくる!
歪なX字を描くようなそれは回転しながら飛んでくると一行の元へと着弾する前に分裂した。それぞれが異なる形の破片となって。
異なる形。くの字であったり球体であったり。散開しながらそれを見つめていた軍人が絶叫を上げたそれは──生々しい肉片だった。腕であり、脚であり、そして一番大きな血袋は空中でさらに千切れ、『中身』をまき散らす。それでも強靭な骨は、重量のある頭部は加速度をしっかり威力として上乗せし、犠牲者たちへと襲い掛かった。
「あ、ああ……そんな、あんな……!」
誰かが、震えた舌先で紡ぐ。許容量を超えた感情が、言葉を成さなかった。分かってしまえばはっきりと認識できる。お椀型のそれからぶら下がっているのは、遺体だった。──チュプ神殿で殺された、部族の戦士たちの。
「……なんで、ここまでっ! どうしたらっ!」
如何なる目的があればここまで非道な行為に手を染められるのか? 頭から血の気が引いて逆におかしな具合に冷静になったものが、相手の全体像をとらえる。土人形の上に寝そべる歪虚。その手元で、何かの書類を捲っている──?
もしかしたら敵の作戦が把握できるのか。そう思った幾人かがスコープで覗こうとし、あるいは偵察手段を飛ばす。
そして、その歪虚の手元にあったのは──
……どう見ても、リアルブルーの寝具が並べられた、ショールームのパンフレットだった。
「うふふふふー。ふふふふふー」
土人形の上で脚をブラブラさせながら、ネネ=グリジュはこの上なく上機嫌だった。
「あっははははは。素敵素敵! ほんと凄い! リアルブルーに来れて良かったですコーリアス様!」
──これが、もうしばらくは眠れていたはずの彼女が今回、二つ返事で協力した理由。
ただ、これだけ。
「こぉれだけ一度にたくさん見られるんならとってもいいのがどれかあるわよね! 最っ高のお布団でたぁくさん寝るんだからぁ……」
うっとりと、彼女は目を細める。
「沢山、栄養、取らなきゃねえ?」
本当に、それだけを。考えうる限り楽にやるために、彼女はこれを用意した。
「ふ、ふざっ……ふざ、けるな……!」
再び血が逆流する。怒りが嫌悪を克服し、声を出させる。
「そんなに、寝たきゃ、二度と目覚めねえようにしてやらあっ……!」
誰かが叫んだ言葉は、ネネの耳に届いたらしい。
「あー。何? そう言えば貴方たちって、死を眠りって表現することがあるんだっけ? あたしそれ理解できないのよねー」
心底。不思議そうに小首をかしげて、彼女は言った。挑発の意図すらなく。それがごく当たり前の感性であるかのように。
「眠りっていう、心底気持ちいいものを、なんでそんな『汚いモノ』と一緒にすんの?」
再び、土人形が遺体を掴んで、振り上げる。あまりにあまりのことに真っ白になった視界で兵士たちはそれを見た。見てしまった。
濁った眼球。血の気の失せた、枯れた手足。不自然な凹凸となった腹部。
まき散らされた肉片──それを抱き、動かなくなった兵士。
せめて安らかであれと祈りを込めた人類の死への幻想を打ち砕くほどに、実際に、死は、死体は、無残で、嫌悪を抱くものなのだと。容赦なく残酷に、彼女は暴いた。
恐慌が、兵士たちを支配する──
「静まれ!」
と、その時、兵士の一団から、それを率いる指揮官であろう男から、声が上がった。
「一般兵は退却しろ! 事態は覚醒者のみで対処する!」
「た、隊長……! ですが、あんな、あんな奴……!」
発狂を、怒りで抑えているのだろう。興奮した兵士が詰め寄るのを、士官らしいその男は首を振って否定する。
「敵の特性を考えるなら、余計な死体は増やすな! 意地でお前が死ぬだけならいいが、それが次の奴を殺す弾丸になるんだ!」
悔しさを隠さずに、士官は叫んだ。そして、懇願するような眼を、ハンターたちへと向ける。
「あんたらが……あんたらが、希望だ……。どうか、あいつを、必ず。それから、願わくば……」
この無常観からも、救いの光を齎してはくれないか。
このまま我々はもう、死者の安らかなることを願う事も出来ないのか、と。
リプレイ本文
「奴はクリムゾンウェストのヴォイドよ! 後退して、早く!」
八原 篝(ka3104)は、叫ぶように言ったが、届いているか。撤退を開始しようとする軍の動きは、迅速とは言い難い。
「まぁ、怒りに駆られるだろう。兵士とは云え心を持っているのだから」
状況を見て、ルイトガルト・レーデル(ka6356)が静かに呟いた。
「……貴女は?」
苛立ちを抑えるように、篝はどこか皮肉気な口調で、つい聞いていた。
「私は……まぁ、ご想像にお任せしよう」
ルイトガルドはやはり抑揚のない声音で答えた。想像しろと言われても分かりづらいと苦笑したくなるが、少なくとも冷静ではありそうだ。篝はそのまま、周りに視線を巡らせる。
「吐きそうってこういう気持ちか……」
意識を合わせると同時に聞こえてきたのはメアリ・ロイド(ka6633)の言葉だ。
「お前が踏みにじった死、そっくりそのまま返す。OK?」
そう言って彼女は己の感情に何らかの折り合いをつけたらしく、呟いて身構える。
「御霊の揺籠、死の安寧を斯様に穢しよるか……何方が醜悪か等と、問うまでもあるまい?」
蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)は紫煙と共にそう吐き出していた。手にした煙管からポトリと灰が落ちる。
スファギ(ka6888)は……分からない。寡黙な男はこれまで何一つ言葉を発することなく、その表情を変えることもない。
リュー・グランフェスト(ka2419)は。
「……後は任せろ」
まず、生者へ、その叫びに応えて言った。全身から立ち昇って見えそうなほどの感情を、しかし必死で抑えた声。溢れそうになるそれを発散するように、彼が先陣を切って走り始める。
「……いくぜ!」
声を張り上げ突進する彼に向かって、土人形が、歪虚兵が、ゆっくりと彼らへと向き直った。
土人形に駆け寄ると、戦士たちの遺体は無造作に、椀状の部位の縁に一部を埋没させるように吊り下げられているのが分かる。それが視認できた瞬間。真っ先に火を噴いたのは篝の銃器だった。英雄の物語にあやかる形で名付け磨き上げた技術が、埋め込まれている部位を正確に叩く。しかし。
(硬い、か……)
予想はしていたが、見た目通りの土くれと言うわけにはいかないようだ。銃弾の嵐は、表面をそれなりには削り取ったが一撃で露出させるというまではいかない。もうしばらく試せばやがては落とせるだろうが、その手間は今は惜しすぎた。
(この際拘束している手ごと足ごと撃つのは仕方ないわ……)
意を決する必要がある。そう判じたのは、彼女だけではない。
放たれる銃弾に、自重で引き千切れていく遺体を覆うように、メアリが放った炎が包んだ。
肉が焼ける異臭が風に乗って周囲に運ばれていく。メアリの攻撃は、悪用されるならばといっそ遺体の破壊を狙ったものだが……肉体というものは、そう簡単に燃え尽きるものではない。生者に対する致死に至る火傷ならばともかく、壊れるほど遺体を焼くとなれば。リアルブルーの高火力の火葬場においても何時間とかかることを考えれば、一瞬の炎でどうにかなるものではなかった。
異臭に顔を歪めたネネが、直後、唇の端を吊り上げる。焼けた遺体の一つを、土人形の手がつかみ取った。対象は、向かってくるハンターたち。
「敵から目を逸らさないで!」
篝の声。投げるものなんて幾らでもあるのに、わざわざ遺体を使うのは意識をそれに誘導するためだ。兵士を狙うのは行動を制限させるため。彼女は、一連の敵の行動を、ただの愉悦ではなく相当の食わせ者であると見ていた。
彼女の声に応えるように、あるいは分かり切っているという風に、ハンターたちは身構えている。蜜鈴はネネが魔法を使えば、あるいは兵士が狙われれば、いつでも魔法で防御を行えるよう待ち構えていた。スファギは、自身が全体の中で行動が遅れがちになることを見越して、初めから全体を見渡して予測の上で行動する構えだ。
その中で、しかし。リューは、飛来する遺体を、それだけをただ見つめていた。
(馬鹿げてると思うか? 上等だ。そうして、侮ってりゃいい……!)
見つめて──見つめ続けて、遺体が近づいてくるままに、動かない。
当然の帰結として。
リューと、放たれた遺体は、そのまま激突した。
リュー自身は、衝撃に備えている。軽く後ろへと飛び、足元から順に接地するように倒れて衝撃を流そうとする。
遺体は、何も出来ずにぶつかるままだ。ダメージを減らすため鎧の固い部分で受けたリューに、押し付けられた骨が砕け中身がつぶれていく感触が鎧越しに伝わってくる。既に損壊していた遺体の腕が、脚が、千切れて飛んで、地面に叩きつけられると砕け散った。
……欠片の一つが、メアリの頬を掠めていった。彼女自身が焼いたそれはかさりとした感触で、生々しさを感じさせることなく地面へと落ちていく。
(ああ。うん。作り物だ)
咄嗟に、彼女はそう思考していた。
思わぬ効果だ。乾いた感触のそれは、彼女のその思い込みをやりやすくする。そうやって彼女は、眼前の無残な光景から、己の手で遺体を傷つけるという行為から、目を背けることで戦い続けていた。
実際に。リューの元に残った遺体は、作り物どころかもうそれが元々人間であったという事すらよく分からない様だ。
千切れて散ったそれは、リューの元にはもう半分ほどしか残っていない。
それでも……それでも彼は、受け止めた遺体を、抱きしめた。
「仇は、討つ」
丁寧な声でそう告げて、敬意を込めて、寝かせるように優しく地面へと横たえた。
……同時に、鳴き声がした。
死者を悼むその気持ちを染み渡らせるように、鳥の鳴き声が、一つ。
それが、頭上を旋回するイヌワシのものだと気がついた兵士たちが、顔を上げる。
『早うお下がり……あぁ、なれど無闇に急くでないよ? ……允が鳴いた折には身を低くするのじゃぞ』
優しくしみわたるような蜜鈴の声が、トランシーバーを通じて兵士たちへと届けられる。
この時だ。
──混乱と絶望にあった兵士たちに、ハンターたちは、その声を、想いを、届かせていた。
リューが、ルイトガルドが、スファギが、土人形に肉薄する。遠距離戦が終わり、本格的な交戦へと突入していた。
やや右脚のバランスが悪いと見たルイトガルドが、そちらへと向けて集中攻撃を開始する。スファギは、その反対側へと回りこんで、これまで観測した機動の、曲げる部分を狙うように打撃を重ねる。
「あんな外道にいいようにされるのは不本意だろう、すぐに解放してやる!」
今一度、己を奮い立たせるようにリューが叫ぶと、手にした刀にマテリアルの輝きが灯った。
論土人形も棒立ちでただ殴られるばかりではない。椀の部分がら土の槍を生やし、前衛目掛け降り注がせてくる。時に死体を突き破りながら生えてくるそれを、ハンターたちは避け、止め、あるいは食らいながらも必死で反撃する。
ルイトガルドが、槍の攻撃を減らせないか、己に向かってくる槍を斬り飛ばすことを試みたが、それらの槍は魔法で土の身体の一部を変化させて生み出しているらしい。土の身体自体を減らすことは出来るが、攻撃の密度は変わらない。……ならば、普通に攻撃する方が効率も安全性も高いと判断して、すぐにやめた。
後衛の篝、蜜鈴、メアリは、一先ずは兵士たちの退却の完了へと意識を注いでいる。ハンターたちの狙いに、ネネはもはや長くは死体を武器にするのは持たないと見ていたらしい。遺体をさっさと使い切ろうとする。土人形が、兵士に向けて遺体を振り上げた。
ぐ、と篝が手にした武器の感触を確かめる。腕に受けるその反動、その意味を受け止めながら、彼女は投げられた遺体へと狙いを定めた。銃弾は遺体を千切りその身体が受けた力の向きを変え、幾つかの『破片』を、兵士たちの集団の手前で失速させる。『残り』が兵士たちへと到達する前に、花咲き乱れる枝の壁がそれを抱きとめるように生み出された。
『然様に容易く手出しはさせぬよ。悪いが、邪魔立てさせてもらいよる』
蜜鈴の術、樹櫻である。衝撃にめきめきと枝が折れ曲がり揺れながら、花が吹雪のように散っていく。
メアリが牽制の射撃を放ち、兵士の撤退を、あるいは前衛で戦う味方を、援護していた。
状況はここまで、ハンターたちの狙い通りと言えたし、ネネの思惑通りとも言えた。彼らは撤退する兵士を守り、部族の戦士の亡骸が悪用されることを防いでる。だが逆にそれは、全力で土人形に集中打が行えていないことでもあった。後に歪虚の戦闘を控え力を出し控えた状態では、中々決定打へとは至らない。
そんな時。リューの、下から突き上げるように放たれた衝撃波が、土人形と、上に乗るネネも巻き込むように放たれた。
油断する彼女を落すべく狙ったものだ。仲間が脚部に攻撃するのの合わせて放たれたそれは……しかしそれなりの広さを持つ場所の中心にいたネネを一発で落とすには至らない。そして、その一撃がもたらしたものは、歪虚への多少のダメージと。
「あたしの……カタログ……」
ここに来て初めての、気怠さと、愉悦以外の感情だった。
「散々此方を愚弄しておいて、己の何も邪魔立てされぬ気でいたと? 其方が奪ったもの、その程度で贖えると思うてか」
蜜鈴が吐き捨てる。
「はぁー? 元々ぐちゃぐちゃだったもんに勝手に騒ぐのが意味不明っての。愉しんでるもの邪魔するとかその方が酷いでしょ?」
「っ……! もうよい話にならぬわ……。斯様に豪語するのじゃ。もはや死の安寧は得られぬと知れ」
睨み付け、ネネが浮かべた魔力弾に蜜鈴は身構える。かくして、土人形が撃破されるより先に、ネネの攻撃がそこに加わることになった。
主にリューへと向けられるその攻撃を、篝のプロテクションが、蜜鈴の水鏡が守る。
リューはなおも、ネネを落すことが出来ないか衝撃波を重ねるが……しかし、『落とそう』という意図でもって攻撃しているのは彼のみだ。他は、まず土人形の動きを止めてからと考えている。彼単独の攻撃では、追いやることは出来ない。
それでも、土人形の脚へのダメージは蓄積していた。ネネがバランスを取ろうとわずかに土人形の重心を下げさせたところで、スファギがその上に単独乗り込むという行動に出た──やはり彼、単独で。
ネネと対峙したスファギは、その最大の力をこめてネネに突きかかり、体勢を崩そうとする。ただ、一人のハンターの力で、真正面から歪虚兵に押し勝つのは難しい。
ネネの足元は全く崩れない。彼女の膂力は彼よりも明らかに強く、鋭さも、重さも、彼女が上だ。そのまま返した鉈の一撃がスファギの胴を襲う。その攻撃は頑健な鎧が受け止めてくれてはいた。スファギは苦悶の声ひとつあげないが、しかしその衝撃が生易しいものだとは思えない。
危機的状況に彼はただ、戦闘に高揚した目をネネのみに向けていた。何かに執着するように敵の動きを見つめ続け、そして恐怖など知らないかのように敵に向け武器を振るい続ける。拾った肉片を投げつけ──こちら側から死者の冒涜に加担するような真似までして──不快感を煽り、隙を産もうとするが、確かに不快げな顔はさせたものの実力差を埋めるには至らなかった。
そして、残るハンターの何人かは困惑を覚えていただろう。……出来ればネネが油断している隙に、土人形から各個撃破したかったと思う者たちは。
土人形は移動力こそ落ちていたが、後どれほどで破壊できるかと言うとまだ読めはしない状態だった。土槍による攻撃は、今もなお前衛を苦しめ続けている。早く土人形から倒さねば。だが、スファギの今の状態を思えば、二人の戦いから目を離すわけにもいかなかった。……正直、篝と蜜鈴は、回復に意識を向けざるを得ない。
この時点で、ハンターたちには連携らしい連携も、作戦らしい作戦も既に機能していなかった。ただ、起こる事態に合わせて動いていくしか無くなっていたのだ。
「土人形風情が掲げて良い命では無い」
そう言って蜜鈴の雷撃がその動きを止めた頃。スファギはもはやボロボロで、回復の尽きた篝が庇うために割って入らざるを得ない状態だった。
「この世界にあった痕跡も残さないよう、すり潰してやるよ!」
もやは絶叫しながらリューはネネに向け、技術と、心、すべてを込めた一撃を叩きつける。竜の頭部をも貫いたとされる一撃だが、歪虚を一撃で絶命させるには至らない。
ルイトガルドもまた、前衛として攻撃に加わるが……卑劣な敵に対し、同じ土俵に立ってたまるかと気負いすぎたのだろうか? リューの攻撃も、ルイトガルドの攻撃も、あまりにも真っ直ぐに過ぎた。
互いに鋭い一撃、二人がかりの攻撃ではあったが、歪虚兵の虚を突くには至らない。素直な打ち合いは、弾き、弾かれ、互いの攻撃が当たったり外れたりを繰り返す。やがて、魔力弾がリューを弾き飛ばしたその瞬間。
「……めんどくさ」
呟きを残し、ネネはハンターたちの眼前でその身を翻した。
「なっ……あっ……!?」
瞬間、呆けてしまっていた。逃亡される、という事を誰も想定していなかったのだ。だが、この場を死守せよと命令も受けたわけでなく個人の愉悦でここに居る彼女が、死ぬまで付き合う義理は確かに無い。
……そして、追いすがるには、この時ハンターは傷つきすぎていた。
慰めがあるとするならば。
土人形が倒されたことで、囚われていた遺体はすべて解放されていたことだろう。
やりきれない表情で、リューが出来る限りの遺品と身体を集め、布をかぶせていた。
「部族の戦士……友よ……おんしの家族、然りと連れ帰ってやろう」
蜜鈴がその一つ一つを、どんな様だろうと優しく愛しく抱きしめ、それから、鎮魂の舞と祈りを捧げる。それを真似るようにして、篝も祈っていた。
(あなた達の魂が赤き地に還り、安らかな眠りにつきますように。祖霊と精霊の導きがありますように……)
仇も討てないようでは、そうもいかないだろうと、どこかで思いながら。
それでも。
(あぁ、そうだ)
ルイトガルドもまた、想いを掲げずにはいられなかった。
(眠れ。死は優しく慈悲深い。讃え、謳い、滅び逝け)
そうして、静かに安寧を願う、それしかできないハンターたちの中。
メアリは、その両目から涙を溢れさせていた。戦いの中、ずっと作り物だと思い込んでいたもの。それが何であるかを正しく理解した瞬間、彼女の中で何かが爆発した。
これが、死。これが人間の、死体。──もしこれが友人だったら。
初めて覚える、恐怖。
気付けば彼女は、ひたすらにごめんなさいごめんなさいと呟いていた。虚ろな目で。無様な泣き顔のまま。
そして、スファギもまた。ハンターオフィスのベッドで目覚めて後。
誰も知らないところで、静かに黙とうをささげているのだった。
八原 篝(ka3104)は、叫ぶように言ったが、届いているか。撤退を開始しようとする軍の動きは、迅速とは言い難い。
「まぁ、怒りに駆られるだろう。兵士とは云え心を持っているのだから」
状況を見て、ルイトガルト・レーデル(ka6356)が静かに呟いた。
「……貴女は?」
苛立ちを抑えるように、篝はどこか皮肉気な口調で、つい聞いていた。
「私は……まぁ、ご想像にお任せしよう」
ルイトガルドはやはり抑揚のない声音で答えた。想像しろと言われても分かりづらいと苦笑したくなるが、少なくとも冷静ではありそうだ。篝はそのまま、周りに視線を巡らせる。
「吐きそうってこういう気持ちか……」
意識を合わせると同時に聞こえてきたのはメアリ・ロイド(ka6633)の言葉だ。
「お前が踏みにじった死、そっくりそのまま返す。OK?」
そう言って彼女は己の感情に何らかの折り合いをつけたらしく、呟いて身構える。
「御霊の揺籠、死の安寧を斯様に穢しよるか……何方が醜悪か等と、問うまでもあるまい?」
蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)は紫煙と共にそう吐き出していた。手にした煙管からポトリと灰が落ちる。
スファギ(ka6888)は……分からない。寡黙な男はこれまで何一つ言葉を発することなく、その表情を変えることもない。
リュー・グランフェスト(ka2419)は。
「……後は任せろ」
まず、生者へ、その叫びに応えて言った。全身から立ち昇って見えそうなほどの感情を、しかし必死で抑えた声。溢れそうになるそれを発散するように、彼が先陣を切って走り始める。
「……いくぜ!」
声を張り上げ突進する彼に向かって、土人形が、歪虚兵が、ゆっくりと彼らへと向き直った。
土人形に駆け寄ると、戦士たちの遺体は無造作に、椀状の部位の縁に一部を埋没させるように吊り下げられているのが分かる。それが視認できた瞬間。真っ先に火を噴いたのは篝の銃器だった。英雄の物語にあやかる形で名付け磨き上げた技術が、埋め込まれている部位を正確に叩く。しかし。
(硬い、か……)
予想はしていたが、見た目通りの土くれと言うわけにはいかないようだ。銃弾の嵐は、表面をそれなりには削り取ったが一撃で露出させるというまではいかない。もうしばらく試せばやがては落とせるだろうが、その手間は今は惜しすぎた。
(この際拘束している手ごと足ごと撃つのは仕方ないわ……)
意を決する必要がある。そう判じたのは、彼女だけではない。
放たれる銃弾に、自重で引き千切れていく遺体を覆うように、メアリが放った炎が包んだ。
肉が焼ける異臭が風に乗って周囲に運ばれていく。メアリの攻撃は、悪用されるならばといっそ遺体の破壊を狙ったものだが……肉体というものは、そう簡単に燃え尽きるものではない。生者に対する致死に至る火傷ならばともかく、壊れるほど遺体を焼くとなれば。リアルブルーの高火力の火葬場においても何時間とかかることを考えれば、一瞬の炎でどうにかなるものではなかった。
異臭に顔を歪めたネネが、直後、唇の端を吊り上げる。焼けた遺体の一つを、土人形の手がつかみ取った。対象は、向かってくるハンターたち。
「敵から目を逸らさないで!」
篝の声。投げるものなんて幾らでもあるのに、わざわざ遺体を使うのは意識をそれに誘導するためだ。兵士を狙うのは行動を制限させるため。彼女は、一連の敵の行動を、ただの愉悦ではなく相当の食わせ者であると見ていた。
彼女の声に応えるように、あるいは分かり切っているという風に、ハンターたちは身構えている。蜜鈴はネネが魔法を使えば、あるいは兵士が狙われれば、いつでも魔法で防御を行えるよう待ち構えていた。スファギは、自身が全体の中で行動が遅れがちになることを見越して、初めから全体を見渡して予測の上で行動する構えだ。
その中で、しかし。リューは、飛来する遺体を、それだけをただ見つめていた。
(馬鹿げてると思うか? 上等だ。そうして、侮ってりゃいい……!)
見つめて──見つめ続けて、遺体が近づいてくるままに、動かない。
当然の帰結として。
リューと、放たれた遺体は、そのまま激突した。
リュー自身は、衝撃に備えている。軽く後ろへと飛び、足元から順に接地するように倒れて衝撃を流そうとする。
遺体は、何も出来ずにぶつかるままだ。ダメージを減らすため鎧の固い部分で受けたリューに、押し付けられた骨が砕け中身がつぶれていく感触が鎧越しに伝わってくる。既に損壊していた遺体の腕が、脚が、千切れて飛んで、地面に叩きつけられると砕け散った。
……欠片の一つが、メアリの頬を掠めていった。彼女自身が焼いたそれはかさりとした感触で、生々しさを感じさせることなく地面へと落ちていく。
(ああ。うん。作り物だ)
咄嗟に、彼女はそう思考していた。
思わぬ効果だ。乾いた感触のそれは、彼女のその思い込みをやりやすくする。そうやって彼女は、眼前の無残な光景から、己の手で遺体を傷つけるという行為から、目を背けることで戦い続けていた。
実際に。リューの元に残った遺体は、作り物どころかもうそれが元々人間であったという事すらよく分からない様だ。
千切れて散ったそれは、リューの元にはもう半分ほどしか残っていない。
それでも……それでも彼は、受け止めた遺体を、抱きしめた。
「仇は、討つ」
丁寧な声でそう告げて、敬意を込めて、寝かせるように優しく地面へと横たえた。
……同時に、鳴き声がした。
死者を悼むその気持ちを染み渡らせるように、鳥の鳴き声が、一つ。
それが、頭上を旋回するイヌワシのものだと気がついた兵士たちが、顔を上げる。
『早うお下がり……あぁ、なれど無闇に急くでないよ? ……允が鳴いた折には身を低くするのじゃぞ』
優しくしみわたるような蜜鈴の声が、トランシーバーを通じて兵士たちへと届けられる。
この時だ。
──混乱と絶望にあった兵士たちに、ハンターたちは、その声を、想いを、届かせていた。
リューが、ルイトガルドが、スファギが、土人形に肉薄する。遠距離戦が終わり、本格的な交戦へと突入していた。
やや右脚のバランスが悪いと見たルイトガルドが、そちらへと向けて集中攻撃を開始する。スファギは、その反対側へと回りこんで、これまで観測した機動の、曲げる部分を狙うように打撃を重ねる。
「あんな外道にいいようにされるのは不本意だろう、すぐに解放してやる!」
今一度、己を奮い立たせるようにリューが叫ぶと、手にした刀にマテリアルの輝きが灯った。
論土人形も棒立ちでただ殴られるばかりではない。椀の部分がら土の槍を生やし、前衛目掛け降り注がせてくる。時に死体を突き破りながら生えてくるそれを、ハンターたちは避け、止め、あるいは食らいながらも必死で反撃する。
ルイトガルドが、槍の攻撃を減らせないか、己に向かってくる槍を斬り飛ばすことを試みたが、それらの槍は魔法で土の身体の一部を変化させて生み出しているらしい。土の身体自体を減らすことは出来るが、攻撃の密度は変わらない。……ならば、普通に攻撃する方が効率も安全性も高いと判断して、すぐにやめた。
後衛の篝、蜜鈴、メアリは、一先ずは兵士たちの退却の完了へと意識を注いでいる。ハンターたちの狙いに、ネネはもはや長くは死体を武器にするのは持たないと見ていたらしい。遺体をさっさと使い切ろうとする。土人形が、兵士に向けて遺体を振り上げた。
ぐ、と篝が手にした武器の感触を確かめる。腕に受けるその反動、その意味を受け止めながら、彼女は投げられた遺体へと狙いを定めた。銃弾は遺体を千切りその身体が受けた力の向きを変え、幾つかの『破片』を、兵士たちの集団の手前で失速させる。『残り』が兵士たちへと到達する前に、花咲き乱れる枝の壁がそれを抱きとめるように生み出された。
『然様に容易く手出しはさせぬよ。悪いが、邪魔立てさせてもらいよる』
蜜鈴の術、樹櫻である。衝撃にめきめきと枝が折れ曲がり揺れながら、花が吹雪のように散っていく。
メアリが牽制の射撃を放ち、兵士の撤退を、あるいは前衛で戦う味方を、援護していた。
状況はここまで、ハンターたちの狙い通りと言えたし、ネネの思惑通りとも言えた。彼らは撤退する兵士を守り、部族の戦士の亡骸が悪用されることを防いでる。だが逆にそれは、全力で土人形に集中打が行えていないことでもあった。後に歪虚の戦闘を控え力を出し控えた状態では、中々決定打へとは至らない。
そんな時。リューの、下から突き上げるように放たれた衝撃波が、土人形と、上に乗るネネも巻き込むように放たれた。
油断する彼女を落すべく狙ったものだ。仲間が脚部に攻撃するのの合わせて放たれたそれは……しかしそれなりの広さを持つ場所の中心にいたネネを一発で落とすには至らない。そして、その一撃がもたらしたものは、歪虚への多少のダメージと。
「あたしの……カタログ……」
ここに来て初めての、気怠さと、愉悦以外の感情だった。
「散々此方を愚弄しておいて、己の何も邪魔立てされぬ気でいたと? 其方が奪ったもの、その程度で贖えると思うてか」
蜜鈴が吐き捨てる。
「はぁー? 元々ぐちゃぐちゃだったもんに勝手に騒ぐのが意味不明っての。愉しんでるもの邪魔するとかその方が酷いでしょ?」
「っ……! もうよい話にならぬわ……。斯様に豪語するのじゃ。もはや死の安寧は得られぬと知れ」
睨み付け、ネネが浮かべた魔力弾に蜜鈴は身構える。かくして、土人形が撃破されるより先に、ネネの攻撃がそこに加わることになった。
主にリューへと向けられるその攻撃を、篝のプロテクションが、蜜鈴の水鏡が守る。
リューはなおも、ネネを落すことが出来ないか衝撃波を重ねるが……しかし、『落とそう』という意図でもって攻撃しているのは彼のみだ。他は、まず土人形の動きを止めてからと考えている。彼単独の攻撃では、追いやることは出来ない。
それでも、土人形の脚へのダメージは蓄積していた。ネネがバランスを取ろうとわずかに土人形の重心を下げさせたところで、スファギがその上に単独乗り込むという行動に出た──やはり彼、単独で。
ネネと対峙したスファギは、その最大の力をこめてネネに突きかかり、体勢を崩そうとする。ただ、一人のハンターの力で、真正面から歪虚兵に押し勝つのは難しい。
ネネの足元は全く崩れない。彼女の膂力は彼よりも明らかに強く、鋭さも、重さも、彼女が上だ。そのまま返した鉈の一撃がスファギの胴を襲う。その攻撃は頑健な鎧が受け止めてくれてはいた。スファギは苦悶の声ひとつあげないが、しかしその衝撃が生易しいものだとは思えない。
危機的状況に彼はただ、戦闘に高揚した目をネネのみに向けていた。何かに執着するように敵の動きを見つめ続け、そして恐怖など知らないかのように敵に向け武器を振るい続ける。拾った肉片を投げつけ──こちら側から死者の冒涜に加担するような真似までして──不快感を煽り、隙を産もうとするが、確かに不快げな顔はさせたものの実力差を埋めるには至らなかった。
そして、残るハンターの何人かは困惑を覚えていただろう。……出来ればネネが油断している隙に、土人形から各個撃破したかったと思う者たちは。
土人形は移動力こそ落ちていたが、後どれほどで破壊できるかと言うとまだ読めはしない状態だった。土槍による攻撃は、今もなお前衛を苦しめ続けている。早く土人形から倒さねば。だが、スファギの今の状態を思えば、二人の戦いから目を離すわけにもいかなかった。……正直、篝と蜜鈴は、回復に意識を向けざるを得ない。
この時点で、ハンターたちには連携らしい連携も、作戦らしい作戦も既に機能していなかった。ただ、起こる事態に合わせて動いていくしか無くなっていたのだ。
「土人形風情が掲げて良い命では無い」
そう言って蜜鈴の雷撃がその動きを止めた頃。スファギはもはやボロボロで、回復の尽きた篝が庇うために割って入らざるを得ない状態だった。
「この世界にあった痕跡も残さないよう、すり潰してやるよ!」
もやは絶叫しながらリューはネネに向け、技術と、心、すべてを込めた一撃を叩きつける。竜の頭部をも貫いたとされる一撃だが、歪虚を一撃で絶命させるには至らない。
ルイトガルドもまた、前衛として攻撃に加わるが……卑劣な敵に対し、同じ土俵に立ってたまるかと気負いすぎたのだろうか? リューの攻撃も、ルイトガルドの攻撃も、あまりにも真っ直ぐに過ぎた。
互いに鋭い一撃、二人がかりの攻撃ではあったが、歪虚兵の虚を突くには至らない。素直な打ち合いは、弾き、弾かれ、互いの攻撃が当たったり外れたりを繰り返す。やがて、魔力弾がリューを弾き飛ばしたその瞬間。
「……めんどくさ」
呟きを残し、ネネはハンターたちの眼前でその身を翻した。
「なっ……あっ……!?」
瞬間、呆けてしまっていた。逃亡される、という事を誰も想定していなかったのだ。だが、この場を死守せよと命令も受けたわけでなく個人の愉悦でここに居る彼女が、死ぬまで付き合う義理は確かに無い。
……そして、追いすがるには、この時ハンターは傷つきすぎていた。
慰めがあるとするならば。
土人形が倒されたことで、囚われていた遺体はすべて解放されていたことだろう。
やりきれない表情で、リューが出来る限りの遺品と身体を集め、布をかぶせていた。
「部族の戦士……友よ……おんしの家族、然りと連れ帰ってやろう」
蜜鈴がその一つ一つを、どんな様だろうと優しく愛しく抱きしめ、それから、鎮魂の舞と祈りを捧げる。それを真似るようにして、篝も祈っていた。
(あなた達の魂が赤き地に還り、安らかな眠りにつきますように。祖霊と精霊の導きがありますように……)
仇も討てないようでは、そうもいかないだろうと、どこかで思いながら。
それでも。
(あぁ、そうだ)
ルイトガルドもまた、想いを掲げずにはいられなかった。
(眠れ。死は優しく慈悲深い。讃え、謳い、滅び逝け)
そうして、静かに安寧を願う、それしかできないハンターたちの中。
メアリは、その両目から涙を溢れさせていた。戦いの中、ずっと作り物だと思い込んでいたもの。それが何であるかを正しく理解した瞬間、彼女の中で何かが爆発した。
これが、死。これが人間の、死体。──もしこれが友人だったら。
初めて覚える、恐怖。
気付けば彼女は、ひたすらにごめんなさいごめんなさいと呟いていた。虚ろな目で。無様な泣き顔のまま。
そして、スファギもまた。ハンターオフィスのベッドで目覚めて後。
誰も知らないところで、静かに黙とうをささげているのだった。
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スファギ(ka6888)
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相談卓 八原 篝(ka3104) 人間(リアルブルー)|19才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2017/09/22 06:12:30 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/09/16 23:05:41 |