【空の研究】秘剣 三日月

マスター:紺堂 カヤ

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/09/24 15:00
完成日
2017/10/01 22:48

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 穏やかな、秋の日であった。しかし王都イルダーナの片隅にある「空の研究所」は、その穏やかさに似合わぬ緊張感を漂わせていた。
「……俺の留守中に、そんなことになってたなんてな……」
 逆立った黄色の髪に白衣、という一見コミカルな外見で顔をしかめているのは、空の研究所の研究員、キランだ。夏の間、長い休みを取って研究旅行に出ていたのだが、その間に、空の研究所はかねてより狙われていた怪しい者たちからの接触を受けているのである。
 そして、その正体が、ほぼわかりかけていた。
「チェーロ家、というのはお前の母親の実家だ、と言っていたな?」
「ええ、そうです」
 頷いたのは、アメリア・マティーナ(kz0179)。空の研究所の所長だ。いつも通りの黒いローブ。フードを目深にかぶり、顔をすっぽりと隠している。
「ここからの話には、もうひとり、加わっていただきましょうねーえ。ああ、おみえになりました」
 アメリアがそう言ったとき、部屋に入ってきたのは、温和な笑顔の男性だった。トリイ・シールズだ。空の研究所の後ろ盾になっている貴族、カリム・ルッツバードの秘書である。
「ようこそ、お越しくださいました。お呼び立てして申し訳ありませんねーえ」
 アメリアが挨拶し、椅子を勧めると、トリイはいえいえ、とにこやかに挨拶を返して席に着いた。キランがぽかん、としてふたりを見ている。
「え、なんでルッツバード氏の秘書がこの話に加わるんだ?」
「この件に関して、協力を仰がなければならないと私が判断したからです」
 アメリアが冷静に返事をした。
「こちらでできることならば、なんでも協力いたしますよ。アメリアさんには、輸送船の件などで借りがありますし」
 イスルダ島への物資運搬のための護衛指揮を、空の研究所に依頼されたのはつい最近のことだ。アメリアは頷いた。
「そのこともあって、この件についての解決……とまではいかなくとも、ある程度の対処を、今のうちにしておくべきだと思ったのですよーお。これからまだ、王国の有事に協力せねばなりませんからねーえ。肝心な時に、奴らに邪魔をされては困ります」
「なるほど」
 トリイが微笑んだ。王国の有事に協力、と、アメリアは今はっきりそう言った。成り行き任せではなく、自ら関わっていく覚悟ができたようだ。キランは、こっそりため息をつく。やはりそうなってしまうのか、と。
「話を進めますねーえ。敵側から自分たちの正体を明かしてくれた恰好ではありますが、この研究所が狙われている一連の出来事に、チェーロ家が関わってることがわかりました。キランが先ほど言ったように、チェーロ家は私の母の実家です。この家からは、教師、学者、研究者、作家などを何人も輩出しています。学問一家なのです。……母は、その一家の中では、落ちこぼれ扱いをされましてねーえ。早くに家を出され、いないものとして扱われてきたようです」
 アメリアは平坦に語った。身内のことを語るときには、感傷的にならぬよう気を付けなければならない。
「母には姉がおりましてねーえ、その姉の娘が、私と同じくらいの年ごろなのですよーお。つまり、私にとってのイトコですねーえ。名前を、シェーラといいます。彼女は、なぜか昔から、私に対抗心を燃やしていましてねーえ。なにかと突っかかってきたのですよーお。……これは、想像になりますが、チェーロ家が関わっているとなるとまず間違いなく、彼女が私に嫌がらせをしているのだと考えるべきだと思いますねーえ」
「嫌がらせっていう域じゃねえぞ?」
 キランが顔を引きつらせる。
「そこが気になっている点でもあるのですがねーえ。シェーラがどうしてここまでのことを仕掛けて来るのか、また、今になってどうして自分たちから正体を明かすような真似をしてきたのかについては、考える必要があります。が、とにかく、まずは次に何か仕掛けられてきたときに対抗する準備を、整えておきたいのですよーお」
「何か、考えがあるのですね」
 これまで黙って聞いていたトリイが静かに問いかけた。アメリアは頷く。
「そこでシールズ氏にお願いがあります。……私と、キランの身代わりを用意していただけませんかねーえ」
「身代わり?」
「はい。これから少しの間、私とキランはここを留守にします。ですが、敵にそれを知られたくないのです」
「なるほど。わかりました、手配しましょう。しかし、留守にする、とは?」
 トリイはあっさり了承しつつ、アメリアの意図を尋ねた。
「とにかく私は自分の身を自分で守れるようにしなければならないと思うのです。それだけで、できることはかなり増えるでしょうからねーえ。そのために、私だけが扱える武器を、取りに行きます」
「取りに行く?」
「はい。とある場所に、隠してありますのでねーえ」
「なあ、それ、俺も行かなくちゃいけねえの?」
 何の相談もなく同行することにされたキランが、困惑気味にアメリアに尋ねた。アメリアは大きく頷いて当然でしょう、と言う。
「あなたの開発した、月眼点液が必要なのですよーお」
 アメリアはそう言うと、滅多に外すことのない、ローブのフードを払い、金髪にふちどられた顔をあらわにした。
「身代わりを置いてもらうからには、本人たる私は変装しなければなりませんねーえ」
 などと、気軽に、おもしろそうに、言う。
「変装とは面白そうですね。ところで、取りに行かれるという、その武器とは?」
 穏やかな笑顔のままのトリイが尋ねた。
「……その武器は、三日月ナイフ、という短剣です」
 アメリアは、青く澄んだ瞳を細めて意味ありげに笑った。

リプレイ本文

 アメリア・マティーナ(kz0179)の要求どおり、トリイ・シールズは身代わりを用意してくれていた。作戦に同行するハンターたちのうちのひとりである雨を告げる鳥(ka6258)の提案を入れ、アメリアの友人・リナが経営するブティックで入れ替わることにした。店にはすでに、アメリアと同じローブを着た女性と、キランそっくりの髪型の男性がいた。
「すげー……」
 キランがぽかんとして身代わりの男性の姿を眺めた。
「おふたりは、これを着て、十分後ほどを目安に、裏口から出てください」
 アメリアの身代わりを務める女性が、白い包みを差し出した。エクラ教徒の巡礼装束だ。アメリアとキランは、身代わりのふたりに丁重に礼を言い、応接室から出て行くのを見送ると素早く着替えて準備を整えた。
「そろそろ、だな」
 巡礼服だけでなくカツラも使用して変装をしたキランが時間を見計らってアメリアに合図をした。ふたり揃って裏口を出ると、そこには、同じ巡礼服に身を包んだ者が四名。堂々と顔を晒し、武器も見えるところに下げている男が、一名。合計、五名が待っていた。
「お待ちしておりました。本日の護衛を務めます、鳳城と申します。よろしくお願い致します」
 巡礼服を着ていない男、鳳城 錬介(ka6053)がにっこりと微笑んでお辞儀をした。演技はすでに始まっているのだ。
「道中よろしくお願いしますね。あ、私のことはルーシィと呼んでね」
 そう挨拶をしつつ、アメリアに目配せをするのはマチルダ・スカルラッティ(ka4172)だ。アメリアとは顔見知り、いや、もはや旧知の中と言っても過言ではない。それゆえに、敵にも覚えられている可能性は非常に高く、偽名も使用して警戒に当たっていた。
「三日月……月というと最初の依頼を思い出すね。どんな剣か楽しみ♪」
 マチルダがこっそり、アメリアに囁く。アメリアがハンターたちに初めて依頼をしたのは、満月に関わる魔法の調査だったのだ。
 移動しつつ、アメリアは今回の依頼について確認をしていった。目的は三日月ナイフを無事入手すること。身代わりを置いている以上、それがバレない限りは尾行される心配はないはずだが、念のための変装である、などなど。
「なんだ、そこまで考えてるなら私たちの仕事、ないじゃない?」
 カーミン・S・フィールズ(ka1559)が肩をそびやかしながら言うと、アメリアは少し笑って、ゆるく首を横に振った。
「ここまでの対策をしたのは、私とキランが戦力にならないから。つまり、身代わり作戦がバレてしまったときには自分たちだけで対処するすべを持たないということですねーえ」
「ひとまず、尾行については警戒している。安心していい」
 鳥がそう言って、振り返らぬまま背後を示した。そこには旅の歌い手としてアメリア一行を追うネーナ・ドラッケン(ka4376)の姿があった。少し離れた立ち位置で、彼女が尾行者の警戒をしているのである。
「こうがっちりガードされると、偉い人になったみたいだな」
 キランが暢気そうに言うので、マチルダとカーミンは少し笑ってしまった。和やかな雰囲気の中、門垣 源一郎(ka6320)が静かにアメリアに尋ねる。
「一つ、確認しておきたい。殺しは無し、か?」
 空の研究を狙う敵がアメリアの血縁にあたる人物であるようだ、ということを踏まえての質問だった。訊きにくいことを口に出した源一郎に、周囲がわずか、息を飲む。アメリアはというと、驚いた様子もなくゆったり微笑んだ。
「そうですねーえ、今回は無し、としていただきましょう。おそらく、まだ黒幕は出てこない。わけもわからず使われている下っ端を殺しても仕方ありませんからねーえ」



 村の入り口付近へ辿り着いたとき、時刻は午後三時をまわっていた。一日の終わりを意識するにはまだ早いが、少しのんびりした空気が流れ始めるころだ。
「私は森で夜を待つわ」
 カーミンがそう申し出て、アメリアの話を聞きながら村と祠付近の地図を作製しはじめた。ネーナは、護衛役の錬介に道を尋ねるふうをよそおって情報交換をした。地図を広げていても、不自然ではないように。
「尾行してくる奴は今のところいないよ」
「そうか、ありがとう。祠はこのあたりらしい」
「じゃあ、ボク明るいうちに一度見てくるね」
 ネーナは笑顔でそう言うと、ぺこりとお辞儀をして先に村へと入って行った。傍からは、単に道案内の礼を言ったように見えただろう。
 周囲に見張りや人影がないことを入念に確認してから、カーミンがひとりリベルタースの森へ向かった。残りの面々は連れだって村の中へ入る。
「お知り合いに挨拶に行く?」
 マチルダが小声で尋ねると、アメリアは頷いた。
「しかし全員でぞろぞろと行っても仕方がありませんから、二手に分かれましょう」
 素早く組み分けをし、アメリアには護衛役の錬介と、修道服姿のままの源一郎が付き添うことにし、キランには鳥とマチルダが付き添って、村の酒場で落ち合うことと決めた。
「腹も減って来たし、ちょうどいいかな」
 暢気に言うキランを見て、アメリアが苦笑する。鳥が、アメリアを安心させるように頷いて見せた。
「彼の不運は私がサポートして防ごう」
「お願いします」
 キランは人類稀に見る不運なのである。マチルダは笑いをかみ殺しつつ、ふたりについて行った。
「では参りましょう、こちらです」
 錬介が案内人らしく先頭に立つ。本当はどこへ向かうかわかっているのはアメリアだけなのだが、ここでアメリアが先導しては不自然だ。アメリアは錬介の機転に感心しながら小声で道を知らせた。
「あの靴屋のある道を、左です」
 そのようにして、スムーズに辿り着くことのできた家には、老夫婦が暮らしていた。突然やってきた巡礼者たちに驚いていたが、アメリアがちらりと顔を見せると、すぐに事情を理解して中へと通してくれた。
「ああ、アメリアお嬢さま。お久しぶりでございます」
「久しぶりですねーえ。まあ、しかし、お嬢さま、はやめていただきましょう」
 アメリアは苦笑すると、ふたりのハンターを紹介するのもそこそこに、本題へ入った。
「三日月ナイフを、持って帰ります。長年、守ってくれたこと、心からお礼を言いますよーお」
「いえいえ、そんなこと。守ると言っても、私たちがやってきたのは祠の外側を掃除するくらいです」
 老夫婦は感慨深げにこくこくと何度も頷いた。
「口を挟んで悪いが。その祠に、怪しい者が近付くようなことはなかっただろうか」
 源一郎が尋ねると、ふたりは顔を見合わせて首を傾げた。
「なかった、と思いますが……。そもそも村の中でも、あの祠の存在を知ってるのは私たちだけですから」
「ああ、でもそういえば、夏の初め頃、村の者たちにやたらと様子を訊いてまわる変な男が来ていたようです。さっき申したとおり、祠の存在など誰も知りませんから、その情報は渡っていないはずですが」
「夏の初め頃……。ふむ。『紙の階』の引っ越しをした頃ですねーえ」
 アメリアが唸った。『紙の階』とはアメリアの所有する個人蔵書の総称である。
「やはり敵は動いてるんですね。警戒しておいてよかった、というところでしょうか」
 錬介が考え込みつつ呟き、アメリアも源一郎も深く頷いた。



 一方、祠の様子を見に行ったネーナは、祠に近付く前にまず、身を隠せそうなポイントを探した。そうしながら、そのようなポイントで見張っている者がいないかどうか入念にチェックする。相当警戒して進んだが、人の姿はひとつもなかった。それどころか野生動物の影もない。岩場で、草木が少ないことが原因だろうと思われた。
 ネーナはそれでも警戒したまま、祠に近付いた。小さな扉はぴったりと閉まっており、その奥を窺うことはできない。扉や鍵を丁寧に調べたが、定期的に掃除されていることはわかるものの、無理にこじ開けようとしたような跡はなかった。
「三日月ナイフ、ね。なかなかに興味深い」
 この奥に身を横たえているはずの秘剣のことを思ってネーナは祠をじっくりと眺め、今夜再び会いまみえることを楽しみにしてその場を去った。
 日が暮れかけている。旅の歌い手として振舞い続けるならば、ここからが本番とも言えるかもしれないと、ネーナは村にひとつだけの酒場へ足を向けた。おそらく仲間もそこにいるだろうと踏んでいたのだが、その予想通り、酒場にはキラン、鳥、マチルダの三人がテーブルを囲んでいた。ほどなくして、そこへアメリアと錬介、源一郎も合流した。ネーナはそれを横目に、酒場の主人にここで歌って良いか交渉しに行った。



 リベルタースの森へ向かったカーミンは、ツリーテントの中で「三日月ナイフ」の偽物を作成しつつ、村の入り口付近を見張っていた。実は、彼女は身内の離反を警戒していたのである。スマホで、仲間からこれまでの情報を知らせてもらい、ふうむ、と考え込む。
「これは何か動きがあってもおかしくないわね……」
 少々前の話になるとはいえ、村の様子を伺っていた者らがいた、というのは見逃せない事実だ。カーミンはシェパードにも警戒させつつ、監視の目を鋭くした。しかし、それをあざ笑うように何事もなく日が暮れてゆく。夜も深まり、村の中の仲間からそろそろ祠へ向かう、と連絡があった。カーミンがそれに応じ移動の支度をしかけたとき。
「ん……?」
 村の入り口から、こそこそと出て行く人影を見つけた。
「怪しい人物、発見ね」
 カーミンは、夜に身を躍らせた。



 夜が、来た。
 アメリアたちは、長く居座った酒場をようやく出ようとしていた。夕方前からテーブルを囲む巡礼服の一団は、否応なく目立った。ネーナが歌を披露し、視線を集めてくれていたが、それもいつまでもというわけにはいかない。夜が近付けば近付くほど、一行の異質さは際立っていった。
「マズいかもしれねえなあ。俺、さっきグラス盛大に割って目立っちゃったしなあ」
 キランが眉を下げる。キランが不注意だったのではなく、グラスを持ってふらふらしていた男がぶつかって来たのだ。まさしく、不運と言えよう。
「とにかく、早くここを出よう。尾行に気を付けろ」
 源一郎が囁いて、全員が酒場の外へ出た。ライトをつけてしばらく遠回りをしながら進んだが、追ってくる者はない。先に酒場を出ていたネーナと合流し、いよいよ祠へ向かう準備に入った。
「よし、アメリア」
「ええ」
 キランが差し出した目薬「月眼点液」を両目に一滴ずつ。ライトを消し、闇の中へ。
「真っ暗、だね」
 マチルダが呟くと、アメリアが笑う気配がした。
「そんなに不安そうな顔をしなくても大丈夫ですよーお」
「え、アメリアさん、見えてるの? と、いうことは」
「はい。月眼点液の効果はばっちりです。私とキランが先導します。服をつかんでもらっても構いません、ついてきてくださいねーえ」
 はっきりと目が見えているアメリアと、キランを頼りに、しかし身を守れるようにと取り囲むようにして、ハンターたちは進んだ。道はどんどん細くなり、岩の感触が足裏に伝わってくるようになると、ハンターたちもだんだんと夜目が効くようになってきた。
「祠は、あれか」
 鳥が、闇の中にもこんもりと小さく盛り上がるシルエットを見つけた。祠の向こうには、夜空。新月の空には、星が瞬いていた。源一郎が、素早く一行から離れ、見通しの悪い所を確認しながら自分の身も隠す。何かあれば、そこから不意打ちの攻撃をするつもりだった。
「では、祠の扉を開きます」
 アメリアは小さな鍵を取り出すと、ハンターたちに守られつつ、祠の扉を開いた。ギギギ、ときしんだ音が、この扉が長い間開かれていなかったことを物語っている。外よりもなお、祠の中は暗かった。慣れたはずの目でも、奥がどうなっているかはわからない。「月眼点液」を使ったアメリアとキランにだけ、見えているようだった。
「……今夜は新月ですのでわかりませんが、この祠には、月明かりが差し込むようになっているのです。その光を、受け続けることこそ、この三日月ナイフの魔法」
 アメリアは小声でそう言うと、ひとり、狭い祠に体をねじ込み、そっと、何かを取り上げた。
「三日月ナイフは、無事に回収しました」
 誰も見ることはかなわなかったが、その顔は笑顔であるようだった。



 祠へ合流をしなかったカーミンを心配しつつ、村を出ると、出たところにすぐ、カーミンが待ち構えていた。その傍らには、縛り上げられた青年がふたり。カーミンが締め上げて聞き出したことによると。
「夏の初めごろに、村にいつもと違う奴らが来たら知らせてくれ、と言っていった男たちがいたらしいわ。錬介たちが老夫婦のとこで聞いてきたのと同じよね、これ。で、知らせたらお金がもらえることになってたんだって。巡礼者は珍しくないけど、宿屋もないこの村にあんな時間までいるのはおかしい、と思って知らせようとしたんですって。まあ、たしかにそうよね。エクラ教巡礼者がいつまでも酒場にいちゃ目立つし不審だわ」
 カーミンが肩をすくめた。マチルダが、もういいだろうと判断してライトをつけたアメリアの顔を覗き込む。
「どうする? 誰に知らせようとしたのか案内させる?」
「……いえ。きっと、その取りまとめをしている者らも下っ端でしょうからねーえ。さして意味はありませんよーお。この人たちも離してやりましょう。こういう目に遭ってもなお、知らせに行くというのならば好きにしたらよい」
 アメリアが静かに告げると、言いようのないその迫力に青年たちは震えあがり、ぶるぶると首を横に振って立ち去った。
「で? 無事に手に入れられたわけ?」
 カーミンに尋ねられ、アメリアは頷く。そっと、懐から一振りのナイフを出した。ライトの光を受け、それは、すらりと輝く。
「キレイなナイフ」
 ネーナが呟く。誰もが、頷いた。
「私は尋ねる。どんな魔法がかかっているのか、と」
 鳥が前のめりになると、アメリアは苦笑した。
「実は、たいしたことではないのですよーお。このナイフは、一定期間月の光を浴びなければ何も切ることができない、という魔法がかかっているのです。つまり、魔法をかけてようやく、ただのナイフになれるというわけですねーえ」
「では、特別な力があるわけではないのだな? それはただのナイフより役に立たないものなのでは?」
 源一郎が眉をひそめた。研究者の考えはわからない、とその顔に書いてあるようだ。
「ええ、そのとおりですねーえ。その辺で良く切れるナイフを買ってきた方がよほどよいでしょう。……しかし。私には、このナイフでなければならないのですよーお。他の人にはガラクタでも、私にだけは、宝物なのです」
 アメリアは感慨深げに呟いて、その美しい刀身を眺めた。そして、新月の空に掲げて見せた。月のない夜に、そのナイフはまるで本物の、三日月のようであった。

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重体一覧

参加者一覧

  • 花言葉の使い手
    カーミン・S・フィールズ(ka1559
    人間(紅)|18才|女性|疾影士
  • 黎明の星明かり
    マチルダ・スカルラッティ(ka4172
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • 光森の舞手
    ネーナ・ドラッケン(ka4376
    エルフ|18才|女性|疾影士
  • 流浪の聖人
    鳳城 錬介(ka6053
    鬼|19才|男性|聖導士
  • 雨呼の蒼花
    雨を告げる鳥(ka6258
    エルフ|14才|女性|魔術師

  • 門垣 源一郎(ka6320
    人間(蒼)|30才|男性|疾影士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
雨を告げる鳥(ka6258
エルフ|14才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2017/09/24 13:19:37
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/09/22 19:23:45