• 陶曲

【陶曲】:決戦!ゴブリンの竪穴

マスター:深夜真世

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
5~10人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/09/29 12:00
完成日
2017/10/12 23:42

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「嫉妬の歪虚王、ラルヴァの腕ぇ?!」
 同盟領の蒸気工業都市郊外の旧グリス氏邸執務室で、アマリリス商会代表の少女、アムの素っ頓狂な声が響いた。
「お嬢様、お屋敷にいた時からそういうレディにそぐわない声を出さないよう言われていたと思いますが……」
 執務卓の前にいた執事、バモスが恭しく言う。
「それとこれとは話は別。セル鉱山のメイスンたちは大丈夫なんでしょうね?!」
 どん、と机を叩いたのは仲間を思ったからこそ。子どもっぽく裏返った声を上げたのではないことを理解したバモス、「失礼しました」と一礼しつつ説明する。
「ゴブリンの竪穴こと、セル王墓の暗号を解いたハンターたちが慎重にもいったん秘密の扉を閉じたまま引き上げたため、まず大丈夫です」
 もっとも、秘密の扉の先を視覚共有した式符を突入させて白く陶器のように滑らかな巨大な腕とセル王らしい幽霊がいて襲い掛かって来たというのだからいったん扉を閉じるしかなかったのだが。
「大丈夫って、モータルの義勇隊が駐屯していたポカラは大樹歪虚と昆虫歪虚がその巨大な腕を掘り出しに来たっていうじゃない」
「セル鉱山の方は、ポカラと違って事前に歪虚が攻めて来るなどということはありませんでした。同じケースではないでしょう。……なにせかつて滅んだ魔法一族「セルリア」の、よりにもよって王墓の中です。セル王と歪虚王の関係は不明ですが、ポカラと違ってしっかり守られていると見ることもできます」
 バモスの意見はともかく、実際に歪虚の動きはセル鉱山の方にはない。
「ま、ポカラの方もあって魔術師協会広報室と関係ができていてよかったわ。これはそっちに丸投げしてしまっていい案件よね?」
「一応、そうですね」

 ちなみにアマリリス商会。
 セル鉱山の開発に参入し、事業失敗と事業主の自殺、その後遺族の夜逃げを手伝った縁もあり買い取りに成功。失敗の根源だった質の悪い鉄鉱石の採掘からこれまでも産出していた良質な蛍石や石英の産出に切り替え需要の増すCAMの光学レンズ需要にこたえたことで軌道に乗っていた。そのうち、これまであるとされていた良質な鉄鉱石の鉱床も発見。時を同じくして、巨大歪虚に村を壊滅させられたポカラ村民を作業員として受け入れることで増産体制も確立。とにかくうまくいっていた。
 その後、受け入れたポカラ村民の希望とアムの仲間のモータルが以前から義勇隊を結成したかったこと、可変魔道アーマー「ビルドムーバー」をアマリリス商会に売り込んで来た技術者集団「十三夜」が戦闘配備実績を欲しがっていたことから、魔術師協会広報室に掛け合い巨大歪虚の見張りとポカラ村の土地確保をするため常駐警備業務を受託。駐屯地を築いていた。
 ところが先日、大樹歪虚率いる昆虫歪虚軍団により駐屯地は陥落。
 大樹歪虚たちは村の地下から白い巨大な腕を発掘したという。
 魔術師協会によると、嫉妬の歪虚王「ラルヴァ」の腕で、破壊が必要であるという。
 こちらはすでにハンターの奪還部隊を編成して対応していた。
 そして今度は、セル鉱山近くにあるゴブリンの竪穴から、同じくラルヴァの腕が目撃された。
 これも、魔術師協会がハンターを募り破壊に乗り出すことになる。

「でも、セル王と嫉妬歪虚になにか繋がりがあるのかしら?」
「それはないそうです。嫉妬王は最近復活したらしく、それまで四散していた腕も具現化してなかったそうです」
 つまり、最近になって地中のあちこちに腕が具現化して復活した、と。
 ポカラ村がこれまで巨大歪虚に襲われたことはなかったこと、セル鉱山周辺でも特に奪還のための歪虚が集まってきていないことなどがそう判断できる理由だという。
「破壊しなかったらどうなるの?」
「歪虚王のもとに戻って真の力を発揮することになるということです」

 とにかく、セル王墓最下層の玄室に突入し、ラルヴァの腕を破壊してもらえる人、求ム。

リプレイ本文


 ゴブリンの竪穴、セル王墓第一階層最奥の石板祭壇の間にて。
 メンバーは隠し扉の前で第二階層玄室への秘密の扉が開くのを待っていた。
「前回、下で腕がいきなり襲ってきたから注意です!」
 ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)が前に玄室への扉を開いた時に偵察したことを口にした。
「確かそうだったな」
「ここに来た以上、カラクリを解き明かさなきゃメシも喉を通らないねぇ」
 榊 兵庫(ka0010)が頷き警戒。龍宮 アキノ(ka6831)も横にいる。すでに前のめり。
「まあ、腕の方はここに閉じ込めておく分には問題ないだろう」
 壊せばいいのだからな、とエメラルド・シルフィユ(ka4678)。
「あと、セル王の幽霊がいるのかな?」
「そうそう。副葬品室の幽霊は重なってダメージを狙ってたから多分同じ攻撃してくるだろうね」
 ランタンを巡らせ前回の様子を聞く霧雨 悠月(ka4130)に、天竜寺 舞(ka0377)が頷く。
「それにしても、あの時の竪穴がまさかこんな事になるとはな……たまげたぜ」
 ジャック・エルギン(ka1522)、ちょうど一年前を懐かしそうに。
「何にしても世に出すものではないでしょう」
 ハンス・ラインフェルト(ka6750)は大剣「獄門刀」の柄に手を掛けている。即殺到して封殺の構え。
「ここから出られないように、だね……じゃメルクーアさん、お願いなんだよ」
 狐中・小鳥(ka5484)が振り向いた。
「それじゃ、行くわよ……『かねのおと』」
 メルクーア(ka4005)、祭壇の五穴十列の石板に宝玉を順にはめていった。
 ――ちゃり~ん!
 どこからともなく響く金貨の音とともに、目の前の壁が開き、地下への階段が姿を現した!
 同時に全員が突入した。

 だだっ、と階段を駆け下りた勢いのまま悠月が腰を落としたまま滑るように突入。
「ふふっ……ドキドキするね」
 悠月、ランタンを掲げ周りに注意の視線を巡らせる。
「さて、王様はどこかねぇ?」
「単独行動はマズい。連携の上相互補完だ」
 アキノが悠月の右後ろに続き、左後ろを固めた兵庫が全体に声を飛ばす。
「まさか本当に金貨の音がして開くとはねぇ」
「仕掛けに気を付けろよ?」
 ハンスは半ば呆れ、ジャックが玄室自体への注意を呼び掛ける。
「壁はニンジャとお友達なのです」
「……いるな」
 大外左に広がったルンルンと、右に展開しつつ目を細めるエメラルド。
 広い室内に大きな白い腕が横たわっているのを発見した。
「何かしらお宝でも出てくるかと思いきや、王様の幽霊と大きな腕だなんてね」
 後方中央にいる小鳥はハンディライトを照らしつつ汗たら~。王冠を被った幽霊までいるのだ。
 それらが侵入者に気付き動き出した瞬間!
 ――ごごご……ぴしゃっ!
「あれ、閉まっちゃった?」
 背後からの音に振り返るメルクーア。
「お約束か!」
 舞の激しいツッコミ。気持ちは分かる。
「でもまあ今は気にしてる場合じゃないね」
 それだけ言い残して舞が前に上がったのは、閉まった壁に丸い穴が四つ並んでいたから。明らかにお約束っぽい。
「あらあ、意味ありげ……金貨でもはまりそうねぇ」
 メルクーアの方はしげしげと観察するが、前線では戦闘の火ぶたが切って落とされていた。



 まずは腕が皆のいる中心に突っ込んできていた。
 それぞれ左右に避け、腕は閉まった扉に激突する。
「危ないわねぇ。それよりまた何かアイテムが……わっ!」
 最後尾にいたメルクーアの声が最後途切れたのは、腕が周囲を無差別に攻撃すべく回転運動をしたから。
「ちょっと何すんの!」
 メルクーア、至近距離から機導砲ドーン!
「いきなりだね」
「景気付けよ、景気付け♪ それよりなんか効いてない風?」
 腕の反対側、射線上にいた小鳥の声にメルクーアの疑問。
 一方、逆サイド。
「アイテム? コインなら床に……くっ!」
 右に流れて腕の攻撃を避けていた悠月、足元に金貨が落ちているのを発見したがそれどころではない。
 セル王の幽霊がこちらにやって来て手に持った長剣で斬りかかって来たのだ。幽霊、まずは一直線にここに来たようで。
「またか……一応試しておこう」
 こちらにいたアキノ、そで下からヒドゥンハンドをチラ見せしつつ掲げた手から機導砲。幽霊の胴体を穿つが、これは素通りする。予想通りの結果ににやりと笑む。
「……腕の方の対処は任せた」
 ここへ逆サイドを捨てて兵庫が飛び込んで来た。
 十文字槍「人間無骨」を掲げて突進するが、敵が剣を合わせてくる。
「そちらの始末が終わるまで何とかこちらを抑えてみせる」
 願ったり、と兵庫。剣ごと幽霊を押し込む。
 が、剣を外し重なってダメージを与える幽霊。兵庫、何とか距離を取って逃れる。
「ああ。そう言えばそうだったかね」
 そこへアキノ。薙刀「羅漢」が円弧を描き幽霊を襲う。
 もちろん、わざと剣で受けさせ幽霊の動きを止める。
 その背後!
「ちょっと試させてもらおうかな」
 悠月が幽霊のバックを取った!
 腰を落とし日本刀「白狼」が遠吠えするような音とともに振り抜くが幽霊の身体をすり抜ける。
「この隙に金貨を」
 押さえていたアキノの叫び。悠月、頷く。

 こちら、腕。
「突進から回転……まずは一直線の攻撃を止めればよいか?」
 一番遠くにいたエメラルド、まずは腕を止めるべく最前線へと上がる。ロングソード「クリスタルマスター」を振るうが斬るというより相手の攻撃を受ける構え。止めれば数的優位にある味方が動くはずとの考えだ。
 が、突進してくるとの読みは外れた。
 何と、腕は肩の方を地に付けたまま支点にして前腕部を持ち上げ、かぎ状に指を曲げた手で大上段から袈裟に払いのけに来たのだ!
「横からか!」
 想定外の攻撃に吹っ飛ばされるエメラルド。
 ただ、無駄ではなかった。
 舞が別方向から腕を観察していた!
「まったく腕だけで動くとか……」
 舞、もちろんエメラルドを攻撃した直後の隙を見逃さない。このタイミングで軸足で大きく地を蹴った!。
「シュールすぎるっての!」
 一気に間合いを詰め腰ダメに構えていたユナイテッド・ドライブ・ソード抜き放つ。複数の刃が複雑に伸び長刀になると同時に斬り付けた。
 さらにその陰からハンスが横に流れ姿を現した。
 回り込んでいた理由は明白。
「ここで名誉挽回の機会を得られるとは! セル王の熱烈な信者になりそうです、よっ」
 円舞の動きを生かして、次元斬!
 ざすっ、と空間を斬る。
 先の舞の攻撃と合わせ、びくんと跳ねた腕から表皮がパリンと弾けて散った。
「仲間を巻き込まず……何度でも」
 さらにハンス、円舞で回り込み激しい打ち込みのできる場所へ移る。どこで名誉を失ったと感じてしまったかは他の依頼の譲るが、動きも瞳も気合も鋭い。
「さあ、次はどう動く?」
 納刀の構えを見せる舞、次の隙を狙っている。

 この時、ジャック。
「舞、飛ばしすぎんなよ!」
 パリィグローブ「ディスターブ」の左手を地に付き激戦区から離脱していた。
 ふと見る地面に、「T」の文字の彫られた金貨。
「メルクーアがなんか言ってたっけか?」
 ほぼ同時に、悠月。
「そういえばこっちにもあったね」
 先に発見していた金貨を拾う。こちらは「K」の文字。
「何だ?」
 幽霊と戦っていた兵庫は突然方向を変えた王に戸惑う。
「俺か……くそっ」
 ジャックに向かっていったのだ。不意打ちを食らう。
「ん?」
 アキノはこの動きに既視感を覚えていた。
「メルクーア、頼む」
 ジャックは金貨をメルクーアにパス。この時には兵庫が到着して王の剣を狙い押さえていた。

 金貨に関してはこちらでも。
「ほい、ほいっ、だよ」
 小鳥、大技を出したハンスの合間に踊るようなステップで腕との間合いを詰めていた。
 まずは赤い光が炎のような禍炎剣で打ち込み、波打つ波紋が美しく光る細身の日本刀「景幸」で斬り付ける。パシン、と表皮が散った後にさらにダメージ。腕の一部分が特に凹んだ。
「あっ!」
 ただ、ここで腕は地面のどこかに手を付こうとしていた。
「また回転、あるよ!」
 舞の警告。バックステップで離れる小鳥。
 その時!
「読み通り、そこでトラップカード発動です……更に、ルンルン忍法どこでも畳返し! お前の技は封じたのです」
 先読みして仕掛けた地縛符で手を付いたところがドロドロに!
 それでも強引に回転に入ろうとしたところ、アースウォールがどどんと立ち回転の初動を抑えた!
「さらにジュゲームリリカル…ルンルン忍法ニンジャパワー! 目覚めて貴方のニンジャ力」
 ルンルン、符の大バーゲン。
 これを受けた舞、ハンスが壁の向こうに回り込んで再び電光石火に次元斬!
 おや、小鳥は。
「先にこれを、だよ……メルクーアさん!」
 小鳥、落ちた金貨を発見していた。回り込んで攻撃する前に器用に足先で地面のコインの端を踏んで浮かせ、すかさず足のアウトサイドでパスする。文字は「M」だった。
 そして戦線復帰。
「腕だけしかないのに器用に攻撃して……はわっ」
 いや、向こうから王の幽霊がこちらにわざわざ来ていた。突減の攻撃を受けて尻餅をつく。
 ここでアキノが到着。
「前と似てないか?」
「そう言えば副葬品室がそうだったような?」
 王を抑えつつ聞くアキノ。小鳥は起き上がりつつ同意する。
「何となく分かった。誰か、あそこを!」
 メルクーアが横をジェットブーツで駆け抜けながら叫んでいる。
「よっしゃ、任せとけ」
 これに逆サイドのジャックが反応。というか、奥の祭壇と石棺は気になっていた。
 メルクーアは屈んで金貨回収。文字は「I」。
「あったぜ……石棺の中には何もなし、だ」
 ジャックは祭壇前の床で「E」の金貨を発見して拾う。ついでに祭壇など調べたが特にめぼしい物はなし。石棺は蓋がずれて開いていた。
「よし、後は壁の四つのくぼみね」
 ジャックからパスを受けたメルクーアが走る。
 が、ここで腕がまたしても大回転。
「回復なら任せておけ!」
「え?」
 エメラルドが左手の拳を突き上げて言うのだから舞としては突っ込まざるを得ない。
「私は聖導士だ! 回復くらいできるにきま……」
 誤解されたが、左手のナックルにはちゃんとホーリーシンボルがあった。
「メルクーアさんすみません、少し試したいことがありまして」
 ここでハンス、メルクーアの持つ金貨を失敬して腕の下にちゃりーん、と投じてみた。
「わっ!」
 幽霊、金貨の音には反応せずメルクーアに突撃。
「……音はともかく金貨に反応、ですか」
「とにかくこの乱戦を何とかするのだ!」
 考えるハンスの横からアキノが幽霊に。エレキトリックショックを試すが痺れない。幽霊担当の兵庫も来た。
「だったら腕の方がいいだろう、行くぞ!」
「全員攻撃ですか」
 ジャックの声に兵庫が反転。
「こっちは任せて。……はい、注目」
 兵庫と入れ替わりに悠月がステップ・イン。幽霊の前に出てウインクしながらムーンライトリングをかざす。テンプテーションで注意を引くが。
「ダメかな? じゃ、力ずくで」
 結局、白狼を刀に合わせ幽霊を止める。
「勝負所だな。俺が腕の表面を砕く! 叩き込んでやれ!」
 ジャック、バックステップから黒々としたロングボウから「貫徹の矢」。相手の守りを崩してお膳立てする。
 やるならいまだ!
「次元斬ならわたしもできるよ♪」
「こうなったらニンジャ最後の武器を使っちゃうんだから!」
 小鳥、逆サイドからハンスを呼ぶ。それについに最終兵器を抜くルンルン。
 悠月が足止めする間に、全員で腕に対して攻撃。
「では!」
 ハンスと小鳥の次元斬が左右から交差し、正面からルンルンの赤いリボルバーが光線を放つ。
 さらに正面、兵庫が突っ込む。
「……護るばかりで鬱憤が溜まったのでな。八つ当たりだが、貴様で晴らさせて貰おう」
 貫くという意味では今日初めての本気の一撃を十文字槍で繰り出す。スキルで毒を付けたあたり、いかにも八つ当たり。
 同時に、腕の後背。
「こちらが暴れる、というのがこれまでのパターンだ」
「手が足りぬならもちろん加勢する」
 アキノとエメラルドが肩側に。振り回される前にアキノのエレキトリックショックとエメラルドのホーリーセイバーが大地に叩きつけるように打ち込まれた。
 そして正面。兵庫の影から舞が居合の刀を抜こうとしているッ!
「塵も残さず消え失せな!」
 ひるむように指を広げた手の平に水平の居合と電光石火が入るのだった。
「よし!」
 全員の会心の声。
 腕は砕けることはなかったが、表面をぼろぼろにしてばたと地に伏せた。



 力尽きたように床に横たわる腕を背に、メルクーアは四つ穴の壁に陣取っていた。
「時は金なり。お金好きな王ならこの暗号だと思う」
 五つの内、四つの金貨を選択して「TIME」の順ではめてみた。穴と金貨の大きさはぴったりで、これに違いないとの確信がある。
 ――ごーん、ごーん、ごごご……。
 時を告げる鐘のような音が鳴り響き、入った時に閉じた壁が開いた。
「ほら、正解。……なぜか一つ余るけど」
 気分良く振り返ったメルクーアだが、その表情が青ざめた。
 何と、脱出口が開いたとたん、腕から幽霊のようなものが数体わき出したのだ!
 それだけではない、腕ががばっと起き上がり出口に殺到。さらに王の幽霊も悠月をかわしてものすごい勢いでやって来たではないか!
「わっ、ちょっと!」
 吹っ飛ばされるメルクーア。
 腕はものすごい勢いで階段を駆け上がり脱出。王の幽霊は手にした剣でコインを壁から弾いて再び扉は閉じた。
「……何か起きるかもしれないとは思ったが」
「金貨をもう一度ばらまきましょう」
 兵庫、動揺を抑え残った新たな幽霊に対応すべくいち早く動く。ハンスはメルクーアを救うべく床に落ちた金貨四枚を遠くへばらまいた。予想通り王はいったんそちらへ。


深呼吸、ほら世界が変わる


 悠月は皆を鼓舞する歌をうたって落ち着かせる。虚を突かれ止まってしまった味方もこれで落ち着きを取り戻した。
「とにかくもう一度扉を開いて腕を追うよ!」
 舞の声に皆が頷いた。
「とはいえ、王を何とかしないとさっきの二の舞か」
 ふむう、と回復魔法を掛けつつエメラルド。
「こっちの幽霊は明らかに歪虚だな」
 アキノ、王の腕から湧いて出た幽霊にエレキトリックショック。効いたので王の幽霊とは別物と判断。
「次に出てくる時は、仮面の超絶美形じゃないと許さないんだからっ!!」
 ルンルン、ロマンを込めて歪虚幽霊に銃撃。
「王は相変わらず、か……」
 ジャックは剣に持ち替え王を抑えている。
「実ははあっちの墓の方にも何か仕掛けあるのかな?」
 小鳥の呟き。
 これにジャックが反応した。
「それだ! そういや一枚余ってたコインは『K』だろ?」
「ちゃんとあるわよん!」
 歪虚幽霊戦線に加わっていたメルクーア、ジャックの声に五枚目の金貨を出し石棺のほうへ十とブーツ。
 そして、ずれた上蓋の隙間から中に入れた。
 ――ちゃりんーん!
 はっ、と振り向きやって来る王の幽霊。
 石棺に入ったところで閉じると、封印に成功した。



 こうして玄室から無事に脱出したが、すでに腕はどこにもいなかった。
 後に魔術師協会担当者に報告すると、腕が単独で動けないのに動いていたことに対する考察が足りなかったことを謝られた。
 腕は、幽霊型歪虚多数が玄室に回収に来ていた模様。王の幽霊に攻撃されたので頑丈な腕の中に潜み動かしていたらしい。
 最後、玄室から腕が脱出するときに周りを抑えるため幽霊歪虚数体が出てきたため支える力が弱まっていたのか、脱出ルートは引きずったような跡で分かった。
 依頼結果としては討伐失敗ではあるが、魔法協会の事前の想定が甘かったこと、腕に大ダメージを与えたことから一定の評価をもらうこととなる。

「最後、竪穴の外に幽霊歪虚がたくさん湧いて竪穴に入って行ったかと思うと大きな腕が浮いて来て、そのまま森に消えたらしいよ」
 舞が紅茶を飲みながら話した。
 ここはゴブリンの竪穴近くのセル鉱山街。竪穴から出た後、管理棟の一室で一行が休憩していた。
「見張っていた我々ではどうしようもありませんでした」
「まあ、幽霊歪虚が襲って来なくて良かったんじゃないかな?」
 現地にした覚醒者のメイスンが申し訳なさそうに言うのを小鳥が慰めた。
 周りでは、エメラルドの剣を悠月が鑑賞し、その横からルンルンが自分の銃を見てみて~とかきゃいきゃい。
「結局あの玄室、何がしたかったんだ?」
 ジャック、紅茶をすすりつつ疑問を呈する。
「盗掘目的で誰かが入ると鐘の音で王が目覚める、とか?」
「もしかしたら強欲な王を閉じ込めてたのかもしれませんよ」
 メルクーアの王道な見立てに、ひねくれたハンスの見方。
「……後世の者が、か? ありうるな」
 兵庫、まだ少し八つ当たりしたりない様子で。
「腕は王の攻撃を食らってすでに小さくなっていたんだろう? 呉越同舟か、面白いな。……世界はまだまだ謎に包まれてるねぇ」
 謎は謎を呼ぶ義務がある、とばかりにアキノは満足そう。
「後は、ラルヴァだね」
 悠月はこちらを気にして伏し目がち。
 ただ、すぐに笑顔に戻った。
「次に出てくる時は仮面の超絶美形じゃないと……」
「ルンルン、それはもう聞いたぞ」
 エメラルドの止める早さに皆が失笑。

 が、後にまさかあのような姿を見ることになるとは思いもしなかったのである。

依頼結果

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  • 笑顔で元気に前向きに
    狐中・小鳥ka5484

重体一覧

参加者一覧

  • 亜竜殺し
    榊 兵庫(ka0010
    人間(蒼)|26才|男性|闘狩人
  • 行政営業官
    天竜寺 舞(ka0377
    人間(蒼)|18才|女性|疾影士
  • 未来を示す羅針儀
    ジャック・エルギン(ka1522
    人間(紅)|20才|男性|闘狩人
  • Pクレープ店員
    メルクーア(ka4005
    ドワーフ|10才|女性|機導師
  • 感謝のうた
    霧雨 悠月(ka4130
    人間(蒼)|15才|男性|霊闘士
  • 悲劇のビキニアーマー
    エメラルド・シルフィユ(ka4678
    人間(紅)|22才|女性|聖導士
  • 笑顔で元気に前向きに
    狐中・小鳥(ka5484
    人間(紅)|12才|女性|舞刀士
  • 忍軍創設者
    ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784
    人間(蒼)|17才|女性|符術師
  • 変わらぬ変わり者
    ハンス・ラインフェルト(ka6750
    人間(蒼)|21才|男性|舞刀士
  • 好奇心の化物
    龍宮 アキノ(ka6831
    人間(蒼)|26才|女性|機導師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/09/28 11:11:55
アイコン 相談だよー
狐中・小鳥(ka5484
人間(クリムゾンウェスト)|12才|女性|舞刀士(ソードダンサー)
最終発言
2017/09/29 00:19:46