ゲスト
(ka0000)
【初心】龍園より演習試合のお誘い
マスター:鮎川 渓

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- LV1~LV20
- 参加人数
- 7~10人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2017/10/01 12:00
- 完成日
- 2017/10/14 05:31
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
北方の夏は短い。
夏と言えど、龍園のぐるりを囲む野には今なお多くの雪が残り、少し雲が垂れこめれば肌寒さを感じる。
そんな中、今日も龍騎士達は稽古に精を出していた。
龍園からほど近い荒野に、年長の龍騎士・ダルマの怒号が響く。
「おらおらァ! だらしねぇぞ、もう終いか!」
愛用の大戦斧から、穂鞘をつけたままの長槍に持ち替えてはいるが、龍騎士隊の隊長が先々代であった頃から戦場に立ち続けてきた――言い換えれば、それだけの戦場を生き延びてきたダルマは強い。覚醒者となってからの戦闘経験も豊富なダルマとの打稽古は、新米騎士達にとって過酷なものだった。
今もひとりが数度打ち合った後になぎ倒され、そのまま立ち上がれなくなる。
「次ィ! ……何だ、どうした? 遠慮は要らねェぞ!」
10人の新米龍騎士達はすでに疲弊しきっており、気概はあれど進み出ることができずにいた。
「ダルマさん……す、少しは手加減してください」
「穂鞘つけてンだろ、死にゃしねェ。だがな、敵は牙に衣なんかつけちゃくれねェぞ?」
騎士達はダルマの厳しい言葉に唇を噛む。否、言葉そのものは事実で、厳しいのは龍園を取り囲む環境だ。多くの歪虚が跳梁する北方、そのただ中にある龍園を守るには、少しでも力をつけねばならない。
そこへ、北の空から青き飛龍を駆る一団がやって来た。
近隣警邏へ出ていたシャンカラ(kz0226)達が戻ってきたのだ。
シャンカラはダルマ達の姿を見つけると、すぐそばへ降り立つ。
「お疲れ様です。調子は……うん、皆さん大分しごかれたみたいですね」
新米騎士達の這う這うの体を見たシャンカラは、答えを待つまでもなく苦笑した。シャンカラ自身も新米の頃は、ダルマに幾度となく打ちのめされたものだ。
ダルマはシャンカラの外套や手甲が汚れていることに気付いた。
「おう、そっちはどうだった……じゃねェ、いかがでしたか隊長殿。負傷者は?」
「北の岩場の近くで鹿型雑魔5頭を発見、討伐しました。負傷者はありません」
シャンカラは新米騎士達へ休憩に入るよう促すと、ダルマを連れ歩き出した。彼らの目がない方が、ダルマが喋りやすいだろうと思ったのだ。彼自身も言葉を崩し話しだす。
「いつも調練を任せてしまってごめん、ダルマさん。特にあの10人は全員覚醒者だから、同じ覚醒者のダルマさんや僕が相手をするのが良いと思うんだけど、つい任せきりにしてしまって」
「気にすンな、隊長のお前は戦う以外にも色々と仕事があんだからよ。あー大変だなァ、隊長ってヤツぁ」
からから笑うダルマを、シャンカラはじと目で見上げる。
「まさかそういうのが面倒で、僕に隊長職押しつけたってことはないよね?」
ダルマは聞こえぬフリを決め込んだ。
「っつってもなァ、俺とばっか稽古しても偏るよな。本格的な戦場に出す前に、もっと色んな経験積ませてやりてぇモンだが」
「そうだね……警邏に出た先で戦闘になっても、新兵の内は小隊長の指示に従うばかりだからね。もっと、自分達なりの戦い方を模索できる機会があると良いんだけど、」
そこまで言って、シャンカラはぱっと顔を上げた。
「ソサエティに相談してみたらどうかな。ハンターさん達をお招きして、彼らとの手合わせをお願いしてみるとか」
だがダルマはフンッと鼻で笑う。
「馬鹿言え、アイツらまだ覚醒者になって日が浅ェんだぞ? 下級雑魔相手の戦闘経験はいくらかあるが、手練れのハンター相手にしたら一瞬でのされちまわぁ」
「それはそうだね。でも、ソサエティの新人育成プログラムを利用したらどうだろう」
「何だそれ」
「忘れたのかい、ダルマさん?」
シャンカラは先の鎌倉戦で、そのプログラムを介し集まったハンター達の部隊と、同じ戦場で戦ってきていた。それ以前にも龍園で茶会を催した際、同じプログラムを利用し、駆け出しハンター達を募ったこともある(茶会は強欲竜の襲撃を受け、あえなく中断されてしまったが)。
「おー、言われてみりゃあったなァ」
「そうだよ。それにあの時、駆け出しハンターさん方と一緒に防衛線にいたのはダルマさんだったよね?」
「お、おう」
決まりが悪そうに顎髭を撫でたダルマだったが、すぐに気を取り直す。
「駆け出しハンターと新米龍騎士の練習試合か……面白ェんじゃねぇか? 数人ずつの団体戦にするってのはどうだ。仲間との連携を考えるのも良い訓練になんだろ」
「いいね。彼らはまだスキルの運用に不慣れな部分もあるから、ハンターさんの戦い方を見るだけでも参考になるだろうね」
サヴィ君にお願いしてみよう。龍園ハンターオフィスの代表を務める幼馴染の名を口にし、シャンカラは待たせていた飛龍に飛び乗った。早速提案すべく、龍園の方へ去っていく。
ダルマが新米龍騎士達の許へ戻ると、ふたりの話が漏れ聞こえていたようで、10人は目をきらきらさせて待っていた。
「ハンターさん達との演習ですか?」
「手合わせができるんですって!?」
「団体戦かぁ、楽しそうですね!」
「お、おう」
若干彼らの勢いに気圧されながらも、ダルマは早くも手ごたえを感じていた。隊の中での練習試合では、どうしたって決まったメンバーでの繰り返しになってしまう。他所の、しかも広い世界を知るハンター達との試合となれば、期待も気合も高まるというものだ。
ダルマは槍を肩に担ぎ直した。
「よォし。龍騎士として、ハンター達相手に情けねぇ試合はできねぇよな? さ、稽古だ稽古!」
――翌日。シャンカラからソサエティに申し入れた結果、ソサエティは『駆け出しハンター達にとってもいい経験になるだろう』とこれを了承。早速オフィスにて募集が行われることとなった。
北方の夏は短い。
夏と言えど、龍園のぐるりを囲む野には今なお多くの雪が残り、少し雲が垂れこめれば肌寒さを感じる。
そんな中、今日も龍騎士達は稽古に精を出していた。
龍園からほど近い荒野に、年長の龍騎士・ダルマの怒号が響く。
「おらおらァ! だらしねぇぞ、もう終いか!」
愛用の大戦斧から、穂鞘をつけたままの長槍に持ち替えてはいるが、龍騎士隊の隊長が先々代であった頃から戦場に立ち続けてきた――言い換えれば、それだけの戦場を生き延びてきたダルマは強い。覚醒者となってからの戦闘経験も豊富なダルマとの打稽古は、新米騎士達にとって過酷なものだった。
今もひとりが数度打ち合った後になぎ倒され、そのまま立ち上がれなくなる。
「次ィ! ……何だ、どうした? 遠慮は要らねェぞ!」
10人の新米龍騎士達はすでに疲弊しきっており、気概はあれど進み出ることができずにいた。
「ダルマさん……す、少しは手加減してください」
「穂鞘つけてンだろ、死にゃしねェ。だがな、敵は牙に衣なんかつけちゃくれねェぞ?」
騎士達はダルマの厳しい言葉に唇を噛む。否、言葉そのものは事実で、厳しいのは龍園を取り囲む環境だ。多くの歪虚が跳梁する北方、そのただ中にある龍園を守るには、少しでも力をつけねばならない。
そこへ、北の空から青き飛龍を駆る一団がやって来た。
近隣警邏へ出ていたシャンカラ(kz0226)達が戻ってきたのだ。
シャンカラはダルマ達の姿を見つけると、すぐそばへ降り立つ。
「お疲れ様です。調子は……うん、皆さん大分しごかれたみたいですね」
新米騎士達の這う這うの体を見たシャンカラは、答えを待つまでもなく苦笑した。シャンカラ自身も新米の頃は、ダルマに幾度となく打ちのめされたものだ。
ダルマはシャンカラの外套や手甲が汚れていることに気付いた。
「おう、そっちはどうだった……じゃねェ、いかがでしたか隊長殿。負傷者は?」
「北の岩場の近くで鹿型雑魔5頭を発見、討伐しました。負傷者はありません」
シャンカラは新米騎士達へ休憩に入るよう促すと、ダルマを連れ歩き出した。彼らの目がない方が、ダルマが喋りやすいだろうと思ったのだ。彼自身も言葉を崩し話しだす。
「いつも調練を任せてしまってごめん、ダルマさん。特にあの10人は全員覚醒者だから、同じ覚醒者のダルマさんや僕が相手をするのが良いと思うんだけど、つい任せきりにしてしまって」
「気にすンな、隊長のお前は戦う以外にも色々と仕事があんだからよ。あー大変だなァ、隊長ってヤツぁ」
からから笑うダルマを、シャンカラはじと目で見上げる。
「まさかそういうのが面倒で、僕に隊長職押しつけたってことはないよね?」
ダルマは聞こえぬフリを決め込んだ。
「っつってもなァ、俺とばっか稽古しても偏るよな。本格的な戦場に出す前に、もっと色んな経験積ませてやりてぇモンだが」
「そうだね……警邏に出た先で戦闘になっても、新兵の内は小隊長の指示に従うばかりだからね。もっと、自分達なりの戦い方を模索できる機会があると良いんだけど、」
そこまで言って、シャンカラはぱっと顔を上げた。
「ソサエティに相談してみたらどうかな。ハンターさん達をお招きして、彼らとの手合わせをお願いしてみるとか」
だがダルマはフンッと鼻で笑う。
「馬鹿言え、アイツらまだ覚醒者になって日が浅ェんだぞ? 下級雑魔相手の戦闘経験はいくらかあるが、手練れのハンター相手にしたら一瞬でのされちまわぁ」
「それはそうだね。でも、ソサエティの新人育成プログラムを利用したらどうだろう」
「何だそれ」
「忘れたのかい、ダルマさん?」
シャンカラは先の鎌倉戦で、そのプログラムを介し集まったハンター達の部隊と、同じ戦場で戦ってきていた。それ以前にも龍園で茶会を催した際、同じプログラムを利用し、駆け出しハンター達を募ったこともある(茶会は強欲竜の襲撃を受け、あえなく中断されてしまったが)。
「おー、言われてみりゃあったなァ」
「そうだよ。それにあの時、駆け出しハンターさん方と一緒に防衛線にいたのはダルマさんだったよね?」
「お、おう」
決まりが悪そうに顎髭を撫でたダルマだったが、すぐに気を取り直す。
「駆け出しハンターと新米龍騎士の練習試合か……面白ェんじゃねぇか? 数人ずつの団体戦にするってのはどうだ。仲間との連携を考えるのも良い訓練になんだろ」
「いいね。彼らはまだスキルの運用に不慣れな部分もあるから、ハンターさんの戦い方を見るだけでも参考になるだろうね」
サヴィ君にお願いしてみよう。龍園ハンターオフィスの代表を務める幼馴染の名を口にし、シャンカラは待たせていた飛龍に飛び乗った。早速提案すべく、龍園の方へ去っていく。
ダルマが新米龍騎士達の許へ戻ると、ふたりの話が漏れ聞こえていたようで、10人は目をきらきらさせて待っていた。
「ハンターさん達との演習ですか?」
「手合わせができるんですって!?」
「団体戦かぁ、楽しそうですね!」
「お、おう」
若干彼らの勢いに気圧されながらも、ダルマは早くも手ごたえを感じていた。隊の中での練習試合では、どうしたって決まったメンバーでの繰り返しになってしまう。他所の、しかも広い世界を知るハンター達との試合となれば、期待も気合も高まるというものだ。
ダルマは槍を肩に担ぎ直した。
「よォし。龍騎士として、ハンター達相手に情けねぇ試合はできねぇよな? さ、稽古だ稽古!」
――翌日。シャンカラからソサエティに申し入れた結果、ソサエティは『駆け出しハンター達にとってもいい経験になるだろう』とこれを了承。早速オフィスにて募集が行われることとなった。
リプレイ本文
●
試合場所を訪れたハンター達は、数十人の龍騎士達が鳴らす万雷の拍手で迎えられた。
「人、いっぱいです」
少し眠そうな目を瞬き、紅榴石(ka6893)がぽつり。
「お相手は10名だったと記憶しておりますが、」
微笑を浮かべたまま問う空蝉(ka6951)に、シャンカラ(kz0226)が応じる。
「他の者も、皆さんの戦い方に興味津々なんです」
「なァに見学するだけだ」
言い添えるダルマ。ようやく止んだ拍手に、ユリウス・ベルク(ka6832)は紅眼を細めた。
「龍騎士は皆勤勉だね。その上友好的だ」
「こうした関係が築けたのも、ハンターさん方のお陰なんですよ」
嬉しそうに言い、シャンカラはルールを説明していく。
「万が一重体になりかねない攻撃が発動した際は、当方のダルマがフォローに入りますのでご安心を。僕自身は審判を務めさせて頂きますね」
そして一行から回収したメモをめくった。
「回復を辞退されるのは、レオライザーさんとユリウスさんですね? あ、レオライザーさん。出場する試合の記入が見当たらないのですが」
「え、書き漏らしたかい!?」
レオライザー(ka6937)は、しまったと髪を掻き上げる。が、
「私と同じ第二試合だ」
マリナ アルフェウス(ka6934)が共闘者を明記していたため事なきを得た。
「皆様、ご武運を」
エリス・ヘルツェン(ka6723)は初戦に臨む3人を笑顔で送り出す。そんな中、龍人のニーロートパラ(ka6990)がシャンカラに歩み寄った。
「後で手合わせをお願いできませんか? シャンカラさんは憧れといいますか……龍騎士隊長で、かといって驕ることもなく、そして何よりお強いですから」
「いえそんな、」
敬慕の念を示すニーロと、はにかむ隊長の間にほのぼのとした空気が流れる。が、ダルマのジト目に気付いたニーロ、慌てて付け加えた。
「ダルマさんも忘れていませんよ!」
その一言ににっかり笑うと、ダルマも支度にかかる。思わず苦笑したシャンカラ、
「始めましょう!」
気を取り直し声を張った。
●第一試合
「カー! 皆若いのう……。こりゃあじじいの出る幕なぞないかもしれんのう! カッカッカッ!」
新米龍騎士や同行者達を眩しそうに見回すのは、退役龍騎士のヴァン・ヴァルディア(ka6906)。覚醒し、肌艶の良くなった彼は、先程より若返って見える。闊達な笑い声に釣られ、風華(ka5778)も微笑んだ。
「風華、と申します。どうぞ良しなに……このたびは宜しくお願いしますね」
礼儀正しい彼女に好感を抱き、彼らも礼で応じた。
それを後方から眺め小首を傾げたのは、ぷにぷにほっぺの杢(ka6890)だ。
「『演習試合』っで戦う練習だったんずね。んだばこういうのやっでーと、ハンターになったって気がするだんずね」
よく分からぬまま飛び込んでみたらしい。それでも来た以上はけっぱろう(頑張ろう)と、わくわくしながら弓を握り、マテリアルを解放する。瞳が赤く煌めき、白い肌と相まって雪兎のようだ。
この試合、ハンターは前衛に格闘士のヴァンと風華、後衛に猟撃士の杢という構成で挑む。対して龍騎士は前衛に闘狩人と聖導士、後衛に魔術師という編成だ。
風華、ヴァンの行き先を確認すべく目配せする。そして――
「始め!」
幕を切って落とすが如く、シャンカラの手が振り下ろされた。
最初に動いたのは魔術師。防御力に不安のある闘狩人を岩砂で包む。それを待って闘狩人は風華に迫り、同時に踏み出した聖導士が風華へ光の杭を撃つ!
命中すれば移動不能に陥る所だったが、風華は素早く飛び退いた。
「これ、じじいを無視してくれるな!」
ヴァンは聖導士と風華の間に割り込むと、熱気が凝ったような拳を真っ直ぐ繰り出す。盾を構える隙を与えず、強か胴へめり込ませた! ヴァンはナックルを嵌めた手を翳し、
「龍園の外で手に入れた籠手は便利じゃぞ! どれ、若いの! りはびり? に付き合ってもらおうかの!!」
白い歯を見せて笑った。
一方、杢。先手必勝の言葉に倣い、機先を制したいと思っていたが。
「先手はとれねがっただんず……だどもっ」
リグ・サンガマ由来の弓矢を構えると、北方の吹雪を思わす冷気を纏わせ、放つ! 弓の射程は魔術師のそれを凌ぐ。間合いの外から撃ち込んだ矢は、魔術師の脚を射た。だが傷は与えたものの動きを阻害するには至らなかった。
「せば、もういっちょ」
再度弓をよっぴいた時、シャンカラの手が上がった。
「彼はここまでです」
「んぅ?」
きょとんとした杢だったが、魔術師は防御力に難アリだったと思い出す。一撃で体力の7割を失ったようだ。
「だば、援護だんずね」
射る先を見定めるべく、前方へ目を向けた。
髪と瞳を紅く染めた風華は、しとやかな物腰から一転激しく闘狩人を攻めていた。鬼の本能を解き放ち、獣めく低姿勢から牽制・突きと流れるように技を繰り出す。東方で発展した格闘術は、北方の龍騎士にとって未知の術だ。
「これは確実に当てるべく、威力を落とした技……?」
風華の唇が弧を描く。
「訓練、ですしね。少々お遊びがあってもいでしょう」
「決着を急がず、あえて技を披露して下さっていると?」
答えず、風華は再度低く構えた。剣術と拳術の違いを伝えるには、言葉より拳を交わすのが一番だ。
闘狩人が負傷したのを見、聖導士はヴァンの蹴りを躱し様抜き去ろうと試みた。が、すかさず杢の牽制の一矢が飛ぶ。この機をヴァンは逃さなかった。格闘士固有の投げ技で相手を地に転がすと、組み伏せ関節を極める。老龍固――彼に相応しい名の技でもって、若き龍騎士を下した。
「覚えておくと良いぞ若者よ。回復手を自由に動かす陣形なぞ悪手に過ぎる……お主はもう少し自分の重要性を改めるべきじゃの! カッカッカッ!」
●元・第三試合
試合を撮影していたレオが魔導スマホを操作していると、
「め、眼鏡ぇ」
よろよろ歩いてきた少女龍騎士が彼にぶつかった。
「大丈夫ですか?」
すかさずエリスが手を貸す。
「リブ、また眼鏡どっかやったのかァ!?」
「ご、ごめんなさいっ」
ダルマに怒鳴られ、リブと呼ばれた少女は気の毒になるほど身を縮める。シャンカラが困り果てて一同を見回した。
「彼女は第二試合に出場する猟撃士なのですが、眼鏡をなくしてしまったようで……申し訳ありません、先に第三試合を行わせて頂けませんか?」
「わたくしは構いません」
支度を済ませていた空蝉、レオとマリナと頷き合う。先の二試合を観察し自らの試合に活かすつもりだったユリウスも、少女の憐れな様子を見咎め、
「分かった、だからそう叱らないでやってくれ」
言い添えて、紅榴石・エリス・ニーロと共に準備を始めた。
「おらも眼鏡探すだんず」
「オレも。龍騎士隊には初依頼で世話になったしな!」
有志のハンターも眼鏡捜索に乗り出した。
そうして、第三試合が先に執り行われた。
初依頼に意気込む紅榴石、敵前衛の霊闘士を避け、中衛の聖導士を目指す。
「前に出て戦うしか能がありませんが……その分しぶとくいきましょう」
謙遜する彼女だが、前線を担う彼女がいなければ陣形が成り立たない。彼女を援護すべく、ユリウスも聖導士を目標に定める。
「足止めさせて貰おうか」
魔術師である彼がマテリアルを込めた先は、魔術具の巻物ではなく、法具でもあるサークレットだった。聖なる光の杭が出現する――聖導士の術・ジャッジメントだ。
「マジか!」
ダルマ、刮目し地を蹴る。ユリウスはサブクラス習得者だった。それだけでも、彼が新米ハンターの粋に納まらぬ力量の持ち主だと知れる。
聖導士へ飛んだ杭は、割り込んだダルマの戦斧に打ち払われた。手に伝う衝撃にダルマは思わず叫ぶ。
「おいおい、うちの若いの殺す気か!?」
ユリウスは急ぎ首を横に振る。
「まさか! 新米の私にとっても演習は有り難い。彼らとともに成長できればと、」
「これが新米の火力かよ……」
ダルマは痺れた手を振った。
「これは試合、双方に重傷者を出さねぇ事が前提であり絶対だ。俺の見立てじゃ、20人中一番堅そうなのはお前さんだ。そのお前さんですら喰らえば即死を免れん威力だぞ? 重傷者どころか死人が出らぁ」
龍騎士達の装備は事前に並程度だと提示されていた。ジャッジメントは移動力を奪う術だが、光の杭に込められた力は余りにも大きすぎた。駆けつけたシャンカラがとりなす。
「新米だからこそ、ご自身の力量がどれほどのものか分からなかったのでしょう。彼にそのような意図がなかった事は、熱心に観戦していた様子からも窺えます。……とは言え困りましたね。続行するのは少々危険過ぎます」
ユリウスは内心、放ったのが更に高火力の範囲魔法でなかったことに安堵し、顔をあげた。
「すまなかった、攻撃術以外も用意がある。せめて皆の援護役として続けさせてもらえないだろうか」
彼の力に畏怖していた新米龍騎士達も、それならばと頷き合う。ここまでに彼が見せていた真摯な姿勢が信用を得るに足りたのだ。成り行きを見守っていた3人もホッと息をつく。
聖導士が退場した所から試合再開となった。
紫色の幻想的な光を纏わせたエリス、紅榴石へ光を投げかける。
「気を取り直していきましょう」
防御力の高まりを感じた紅榴石、振り返って小さくぺこり。
「感謝します」
そして霊闘士が回復手のエリスへ踏み出したのを見、素早く立ち塞がる。
清廉な蓮の香を醸すニーロもまた、彼女を庇うよう前に立った。
「大丈夫、俺が守ります」
「私もお力になれます様、頑張りますね」
現状を再確認したニーロは、唯一自分だけが射程に収められる猟撃士に狙いをつける。ライフルに装填するは、闇の力を持つ弾丸。
「故郷で不格好なところなんて見せられないですよね……!」
狙い澄まし引き金を引く! マテリアルの籠った弾丸を相手は手甲で受ける。だがその顔は痛みに歪んだ。
一方、紅榴石は苦戦を強いられていた。術で回避を高めた霊闘士になかなか攻撃が通らないのだ。しかし相手の一撃は強力なれど、斧の重みに振り回され命中率は今一つ。守りの構えで突破を防いでいるが、互いに決定打を与えられずにいた。
手数を出して体力を削ぐ事に注力していると、霊闘士の術が発動した。精度と威力を増した一撃が紅榴石の胴を薙ぐ!
「ッ!」
エリスの術もあって退場こそ免れたが、ダメージは軽くない。そんな彼女の目に、氷の矢を出現させた魔術師の姿が飛び込んで来る!
(今あれを受けたら……)
負けるのは惜しくない。が、彼女が敗れれば陣形が崩れる。奥歯を噛みしめた――その時。
彼女の眼前に、突如土壁がせり上がった。ユリウスだ!
「今の内に!」
「はいっ」
ユリウスが促した時にはもう、エリスは術式を組み終えていた。祈りの力で紅榴石を癒す。ユリウスはニーロを振り向く。ニーロは彼の意図を察し頷いた。
霊闘士は壁の前で逡巡していた。回り込むのが早いか砕くのが早いか。
「止まるな!」
フォールシュートを放ちながら、猟撃士が喝を入れる。しかしエリスを狙った弾丸の雨は、ニーロのカバーと、エリス自身が掲げたお菓子めく盾に阻まれた。
「ふふ。チョコレートだからとはいえ、侮ってはいけませんよ?」
そして次の瞬間。発砲音と共に土壁が砕け散った。驚く霊闘士の目にしたのは、飛び散る礫を突き抜け飛びかかって来る紅榴石の姿。この奇襲は避けられず、紅榴石渾身の一撃に膝をつく事となった。
土壁を撃ち破ったニーロは、再度猟撃士へ発砲。彼の銃撃も、幾度も受けて立っていられる代物ではない。猟撃士の体力も3割を切り、試合はハンター側の勝利となった。
●元第二試合
「眼鏡、ありましたよ」
ハンター達のお陰で無事眼鏡を見つけ、リブは何度も頭を下げた。
「今度こそ私達の出番だな」
マリナの得物に、龍騎士達がざわつく。彼女の身体よりも長大で重々しい大型魔導銃。紙すら希少品である龍園に暮らす龍騎士達は、その威容を凝視した。が、注目を集めるのは彼女だけではない。
「撮影を頼めるかい? 自分の動きを確認したいんだ」
「ここ押せばいいだんず?」
杢にスマホを託すレオの、機械鎧めいたライダースーツもまた珍しい。
「かっこいい」
少年の心を持つ龍騎士がぽつり。それに応えレオは颯爽とポーズを決める。
「オレは星を護りし正義の獅子! レオライザー!」
彼に眠るアクターとしての本能が、観衆の期待に応えずにはおれない。龍騎士達は大喝采。
「宜しくお願いいたします」
東方風の衣を身に着け、やはり東方風の抱拳礼を優雅にして見せた空蝉もまた、龍騎士達の目を引いた。開始前から注目を浴びた3人だった。
雰囲気を鋭く変化させたレオ、腹の底から声をあげる。
「特訓といえど、いや特訓だからこそ、手は抜かない! そっちも本気で掛かってきてくれ!」
開始と同時にレオが『跳ぶ』! 相手は前衛に疾影士と闘狩人、後衛に猟撃士リブという構成だ。狙うは奥のリブ。
「他の相手は任せた!」
言い残し、ジェットブーツで敵陣へ突っ込む! だが防御力の乏しいリブは弓の長射程一杯奥へ下がっていた。流石に一息では届かない。
その間に空蝉が変貌を遂げていた。瞬きを忘れた瞳にシグナルランプを明滅させた空蝉、すらりと二刀を抜刀。敵疾影士の速攻を警戒し後退する。レオが前へ出た分、後ろのマリナの守りを固めるつもりだ。重量のある大型銃を扱う彼女は、重み故動けないのだから。
『──ターゲット確認。敵陣前衛ヲ捕捉シマス』
閉じた唇から無機質な声音が響いた。
そしてマリナも動く。蒼いブロックノイズめく幻影に包まれたかと思うと、それが内側から爆ぜ、破片となって彼女の肢体を取り巻いた。リブに照準を合わせる。銃よりも弓の射程が優れている事が多いが、強化した彼女の愛銃は引けを取らない。
「装備換装TypeS、戦闘を開始」
淡々と告げ、移動力を捨て(彼女の場合元よりないのだが)精度と威力を強化。更にマテリアルを込める事で威力を詰み増す。
「……猟撃士は射程が武器であり盾。よって最大の脅威を落とす。模擬戦とは言え戦闘は戦闘――殲滅する」
不穏な言葉に、シャンカラが止めようとしたが既に遅かった。彼女の細い指がトリガーを引く。
「マジか!」
2度目の台詞を吐き、ダルマが飛び込む。だが高い受け防御を誇る大戦斧いえど弾ききる事はできず、跳弾が頬を掠め鮮血が溢れた。
殲滅とは『皆殺し』の意である。
実力の伴わぬ者の言なら気負いの表れともとれようが、彼女はそれを実現にするに足る狂暴なまでの力を有していた。それこそユリウスの光杭を超える程の。
「何で……?」
リブは無傷だがその場にへたり込む。対戦相手ではあるが、共に世界を護る仲間であるはずのハンターから、死に至る一撃を向けられたのだ。戦意喪失した事は誰の目にも明らかだった。
血を滴らせたダルマが吼える。
「殲滅? お前さん一体ここに何をしに来た! 演習は戦の真似事だが、互いに与える傷はホンモンなんだぞ!?」
観戦者達もにわかに色めき立つ。それを制し、シャンカラはキツく眉根を寄せた。
彼女の言動をどうにか好意的に解釈したいが、マリナに龍騎士達と交流を図る様子は見受けられなかった。今でさえその瞳は揺らぎもしない。それが彼女の個性にせよ、初対面の龍騎士達にどうしてそうと知れるだろう。
「止め! 試合は中止――、」
だがリブと組んでいた前衛ふたりは激昂し、マリナへ殺到する!
「違うんだ、オレ達は……!」
闘狩人をレオが、急接近する疾影士を空蝉が抑えるも、仲間を殺されかけたふたりは止まらない。
「退け!」
槍の穂先がレオの胴へ突き出される。シールドで受け、次なる一手も回避するも、防戦ばかりでは相手は止まりそうもない。
「止めてくれ!」
悲痛な叫びと共に、レオは機導砲を照射した。
「……?」
種族故か、人の感情の機微を解さぬ空蝉は、微笑のまま相手の打撃をスペルブレイドで受け流し続ける。戦闘を中止すべきだと理解しているが、相手の攻撃が止まらぬ以上刀を納めることはできない。目を閉じ相手の気配に集中するが、受けきるにも限界がある。
そんな共闘者達の様子を眺め、マリナは表情を動かさぬまま呟く。
「予期せぬエラー。戦闘を停止する」
誰にともない言葉が荒野に落ちた。
●
結局、シャンカラとダルマがふたりを力づくで鎮め、試合は中止された。龍騎士達からは未だ怒気が失せず、ハンター達も予想外の事態に困惑していた。
エリスは意を決し、治癒に回る龍騎士へ歩み寄る。
「あの、私にも回復処置のお手伝いをさせて頂けませんか?」
それを機に、レオは龍騎士達に挨拶と握手行脚を始め、空蝉も手を合わせ礼を尽くしていく。それによりいくらか場の空気が和らいだ。
「シャンカラさん、」
ニーロがシャンカラへ声をかける。同族の彼はとりなそうとしたのだろうが、手合わせの申し入れを思い出したシャンカラは、碧い瞳に一瞬ダルマの流す紅を映した。
「今日は止めておきましょう。僕も今、平静を保てている自信がありませんので」
「……、」
それ以上かける言葉が見つからず、ニーロは小さく礼をした。
覚醒者となり得た常人ならざる力、その意味、その揮い方。
駆け出しである今こそ、今一度その事を惟る必要があるのかもしれない。
ハンター達を、冷たい風が撫でて過ぎた。
試合場所を訪れたハンター達は、数十人の龍騎士達が鳴らす万雷の拍手で迎えられた。
「人、いっぱいです」
少し眠そうな目を瞬き、紅榴石(ka6893)がぽつり。
「お相手は10名だったと記憶しておりますが、」
微笑を浮かべたまま問う空蝉(ka6951)に、シャンカラ(kz0226)が応じる。
「他の者も、皆さんの戦い方に興味津々なんです」
「なァに見学するだけだ」
言い添えるダルマ。ようやく止んだ拍手に、ユリウス・ベルク(ka6832)は紅眼を細めた。
「龍騎士は皆勤勉だね。その上友好的だ」
「こうした関係が築けたのも、ハンターさん方のお陰なんですよ」
嬉しそうに言い、シャンカラはルールを説明していく。
「万が一重体になりかねない攻撃が発動した際は、当方のダルマがフォローに入りますのでご安心を。僕自身は審判を務めさせて頂きますね」
そして一行から回収したメモをめくった。
「回復を辞退されるのは、レオライザーさんとユリウスさんですね? あ、レオライザーさん。出場する試合の記入が見当たらないのですが」
「え、書き漏らしたかい!?」
レオライザー(ka6937)は、しまったと髪を掻き上げる。が、
「私と同じ第二試合だ」
マリナ アルフェウス(ka6934)が共闘者を明記していたため事なきを得た。
「皆様、ご武運を」
エリス・ヘルツェン(ka6723)は初戦に臨む3人を笑顔で送り出す。そんな中、龍人のニーロートパラ(ka6990)がシャンカラに歩み寄った。
「後で手合わせをお願いできませんか? シャンカラさんは憧れといいますか……龍騎士隊長で、かといって驕ることもなく、そして何よりお強いですから」
「いえそんな、」
敬慕の念を示すニーロと、はにかむ隊長の間にほのぼのとした空気が流れる。が、ダルマのジト目に気付いたニーロ、慌てて付け加えた。
「ダルマさんも忘れていませんよ!」
その一言ににっかり笑うと、ダルマも支度にかかる。思わず苦笑したシャンカラ、
「始めましょう!」
気を取り直し声を張った。
●第一試合
「カー! 皆若いのう……。こりゃあじじいの出る幕なぞないかもしれんのう! カッカッカッ!」
新米龍騎士や同行者達を眩しそうに見回すのは、退役龍騎士のヴァン・ヴァルディア(ka6906)。覚醒し、肌艶の良くなった彼は、先程より若返って見える。闊達な笑い声に釣られ、風華(ka5778)も微笑んだ。
「風華、と申します。どうぞ良しなに……このたびは宜しくお願いしますね」
礼儀正しい彼女に好感を抱き、彼らも礼で応じた。
それを後方から眺め小首を傾げたのは、ぷにぷにほっぺの杢(ka6890)だ。
「『演習試合』っで戦う練習だったんずね。んだばこういうのやっでーと、ハンターになったって気がするだんずね」
よく分からぬまま飛び込んでみたらしい。それでも来た以上はけっぱろう(頑張ろう)と、わくわくしながら弓を握り、マテリアルを解放する。瞳が赤く煌めき、白い肌と相まって雪兎のようだ。
この試合、ハンターは前衛に格闘士のヴァンと風華、後衛に猟撃士の杢という構成で挑む。対して龍騎士は前衛に闘狩人と聖導士、後衛に魔術師という編成だ。
風華、ヴァンの行き先を確認すべく目配せする。そして――
「始め!」
幕を切って落とすが如く、シャンカラの手が振り下ろされた。
最初に動いたのは魔術師。防御力に不安のある闘狩人を岩砂で包む。それを待って闘狩人は風華に迫り、同時に踏み出した聖導士が風華へ光の杭を撃つ!
命中すれば移動不能に陥る所だったが、風華は素早く飛び退いた。
「これ、じじいを無視してくれるな!」
ヴァンは聖導士と風華の間に割り込むと、熱気が凝ったような拳を真っ直ぐ繰り出す。盾を構える隙を与えず、強か胴へめり込ませた! ヴァンはナックルを嵌めた手を翳し、
「龍園の外で手に入れた籠手は便利じゃぞ! どれ、若いの! りはびり? に付き合ってもらおうかの!!」
白い歯を見せて笑った。
一方、杢。先手必勝の言葉に倣い、機先を制したいと思っていたが。
「先手はとれねがっただんず……だどもっ」
リグ・サンガマ由来の弓矢を構えると、北方の吹雪を思わす冷気を纏わせ、放つ! 弓の射程は魔術師のそれを凌ぐ。間合いの外から撃ち込んだ矢は、魔術師の脚を射た。だが傷は与えたものの動きを阻害するには至らなかった。
「せば、もういっちょ」
再度弓をよっぴいた時、シャンカラの手が上がった。
「彼はここまでです」
「んぅ?」
きょとんとした杢だったが、魔術師は防御力に難アリだったと思い出す。一撃で体力の7割を失ったようだ。
「だば、援護だんずね」
射る先を見定めるべく、前方へ目を向けた。
髪と瞳を紅く染めた風華は、しとやかな物腰から一転激しく闘狩人を攻めていた。鬼の本能を解き放ち、獣めく低姿勢から牽制・突きと流れるように技を繰り出す。東方で発展した格闘術は、北方の龍騎士にとって未知の術だ。
「これは確実に当てるべく、威力を落とした技……?」
風華の唇が弧を描く。
「訓練、ですしね。少々お遊びがあってもいでしょう」
「決着を急がず、あえて技を披露して下さっていると?」
答えず、風華は再度低く構えた。剣術と拳術の違いを伝えるには、言葉より拳を交わすのが一番だ。
闘狩人が負傷したのを見、聖導士はヴァンの蹴りを躱し様抜き去ろうと試みた。が、すかさず杢の牽制の一矢が飛ぶ。この機をヴァンは逃さなかった。格闘士固有の投げ技で相手を地に転がすと、組み伏せ関節を極める。老龍固――彼に相応しい名の技でもって、若き龍騎士を下した。
「覚えておくと良いぞ若者よ。回復手を自由に動かす陣形なぞ悪手に過ぎる……お主はもう少し自分の重要性を改めるべきじゃの! カッカッカッ!」
●元・第三試合
試合を撮影していたレオが魔導スマホを操作していると、
「め、眼鏡ぇ」
よろよろ歩いてきた少女龍騎士が彼にぶつかった。
「大丈夫ですか?」
すかさずエリスが手を貸す。
「リブ、また眼鏡どっかやったのかァ!?」
「ご、ごめんなさいっ」
ダルマに怒鳴られ、リブと呼ばれた少女は気の毒になるほど身を縮める。シャンカラが困り果てて一同を見回した。
「彼女は第二試合に出場する猟撃士なのですが、眼鏡をなくしてしまったようで……申し訳ありません、先に第三試合を行わせて頂けませんか?」
「わたくしは構いません」
支度を済ませていた空蝉、レオとマリナと頷き合う。先の二試合を観察し自らの試合に活かすつもりだったユリウスも、少女の憐れな様子を見咎め、
「分かった、だからそう叱らないでやってくれ」
言い添えて、紅榴石・エリス・ニーロと共に準備を始めた。
「おらも眼鏡探すだんず」
「オレも。龍騎士隊には初依頼で世話になったしな!」
有志のハンターも眼鏡捜索に乗り出した。
そうして、第三試合が先に執り行われた。
初依頼に意気込む紅榴石、敵前衛の霊闘士を避け、中衛の聖導士を目指す。
「前に出て戦うしか能がありませんが……その分しぶとくいきましょう」
謙遜する彼女だが、前線を担う彼女がいなければ陣形が成り立たない。彼女を援護すべく、ユリウスも聖導士を目標に定める。
「足止めさせて貰おうか」
魔術師である彼がマテリアルを込めた先は、魔術具の巻物ではなく、法具でもあるサークレットだった。聖なる光の杭が出現する――聖導士の術・ジャッジメントだ。
「マジか!」
ダルマ、刮目し地を蹴る。ユリウスはサブクラス習得者だった。それだけでも、彼が新米ハンターの粋に納まらぬ力量の持ち主だと知れる。
聖導士へ飛んだ杭は、割り込んだダルマの戦斧に打ち払われた。手に伝う衝撃にダルマは思わず叫ぶ。
「おいおい、うちの若いの殺す気か!?」
ユリウスは急ぎ首を横に振る。
「まさか! 新米の私にとっても演習は有り難い。彼らとともに成長できればと、」
「これが新米の火力かよ……」
ダルマは痺れた手を振った。
「これは試合、双方に重傷者を出さねぇ事が前提であり絶対だ。俺の見立てじゃ、20人中一番堅そうなのはお前さんだ。そのお前さんですら喰らえば即死を免れん威力だぞ? 重傷者どころか死人が出らぁ」
龍騎士達の装備は事前に並程度だと提示されていた。ジャッジメントは移動力を奪う術だが、光の杭に込められた力は余りにも大きすぎた。駆けつけたシャンカラがとりなす。
「新米だからこそ、ご自身の力量がどれほどのものか分からなかったのでしょう。彼にそのような意図がなかった事は、熱心に観戦していた様子からも窺えます。……とは言え困りましたね。続行するのは少々危険過ぎます」
ユリウスは内心、放ったのが更に高火力の範囲魔法でなかったことに安堵し、顔をあげた。
「すまなかった、攻撃術以外も用意がある。せめて皆の援護役として続けさせてもらえないだろうか」
彼の力に畏怖していた新米龍騎士達も、それならばと頷き合う。ここまでに彼が見せていた真摯な姿勢が信用を得るに足りたのだ。成り行きを見守っていた3人もホッと息をつく。
聖導士が退場した所から試合再開となった。
紫色の幻想的な光を纏わせたエリス、紅榴石へ光を投げかける。
「気を取り直していきましょう」
防御力の高まりを感じた紅榴石、振り返って小さくぺこり。
「感謝します」
そして霊闘士が回復手のエリスへ踏み出したのを見、素早く立ち塞がる。
清廉な蓮の香を醸すニーロもまた、彼女を庇うよう前に立った。
「大丈夫、俺が守ります」
「私もお力になれます様、頑張りますね」
現状を再確認したニーロは、唯一自分だけが射程に収められる猟撃士に狙いをつける。ライフルに装填するは、闇の力を持つ弾丸。
「故郷で不格好なところなんて見せられないですよね……!」
狙い澄まし引き金を引く! マテリアルの籠った弾丸を相手は手甲で受ける。だがその顔は痛みに歪んだ。
一方、紅榴石は苦戦を強いられていた。術で回避を高めた霊闘士になかなか攻撃が通らないのだ。しかし相手の一撃は強力なれど、斧の重みに振り回され命中率は今一つ。守りの構えで突破を防いでいるが、互いに決定打を与えられずにいた。
手数を出して体力を削ぐ事に注力していると、霊闘士の術が発動した。精度と威力を増した一撃が紅榴石の胴を薙ぐ!
「ッ!」
エリスの術もあって退場こそ免れたが、ダメージは軽くない。そんな彼女の目に、氷の矢を出現させた魔術師の姿が飛び込んで来る!
(今あれを受けたら……)
負けるのは惜しくない。が、彼女が敗れれば陣形が崩れる。奥歯を噛みしめた――その時。
彼女の眼前に、突如土壁がせり上がった。ユリウスだ!
「今の内に!」
「はいっ」
ユリウスが促した時にはもう、エリスは術式を組み終えていた。祈りの力で紅榴石を癒す。ユリウスはニーロを振り向く。ニーロは彼の意図を察し頷いた。
霊闘士は壁の前で逡巡していた。回り込むのが早いか砕くのが早いか。
「止まるな!」
フォールシュートを放ちながら、猟撃士が喝を入れる。しかしエリスを狙った弾丸の雨は、ニーロのカバーと、エリス自身が掲げたお菓子めく盾に阻まれた。
「ふふ。チョコレートだからとはいえ、侮ってはいけませんよ?」
そして次の瞬間。発砲音と共に土壁が砕け散った。驚く霊闘士の目にしたのは、飛び散る礫を突き抜け飛びかかって来る紅榴石の姿。この奇襲は避けられず、紅榴石渾身の一撃に膝をつく事となった。
土壁を撃ち破ったニーロは、再度猟撃士へ発砲。彼の銃撃も、幾度も受けて立っていられる代物ではない。猟撃士の体力も3割を切り、試合はハンター側の勝利となった。
●元第二試合
「眼鏡、ありましたよ」
ハンター達のお陰で無事眼鏡を見つけ、リブは何度も頭を下げた。
「今度こそ私達の出番だな」
マリナの得物に、龍騎士達がざわつく。彼女の身体よりも長大で重々しい大型魔導銃。紙すら希少品である龍園に暮らす龍騎士達は、その威容を凝視した。が、注目を集めるのは彼女だけではない。
「撮影を頼めるかい? 自分の動きを確認したいんだ」
「ここ押せばいいだんず?」
杢にスマホを託すレオの、機械鎧めいたライダースーツもまた珍しい。
「かっこいい」
少年の心を持つ龍騎士がぽつり。それに応えレオは颯爽とポーズを決める。
「オレは星を護りし正義の獅子! レオライザー!」
彼に眠るアクターとしての本能が、観衆の期待に応えずにはおれない。龍騎士達は大喝采。
「宜しくお願いいたします」
東方風の衣を身に着け、やはり東方風の抱拳礼を優雅にして見せた空蝉もまた、龍騎士達の目を引いた。開始前から注目を浴びた3人だった。
雰囲気を鋭く変化させたレオ、腹の底から声をあげる。
「特訓といえど、いや特訓だからこそ、手は抜かない! そっちも本気で掛かってきてくれ!」
開始と同時にレオが『跳ぶ』! 相手は前衛に疾影士と闘狩人、後衛に猟撃士リブという構成だ。狙うは奥のリブ。
「他の相手は任せた!」
言い残し、ジェットブーツで敵陣へ突っ込む! だが防御力の乏しいリブは弓の長射程一杯奥へ下がっていた。流石に一息では届かない。
その間に空蝉が変貌を遂げていた。瞬きを忘れた瞳にシグナルランプを明滅させた空蝉、すらりと二刀を抜刀。敵疾影士の速攻を警戒し後退する。レオが前へ出た分、後ろのマリナの守りを固めるつもりだ。重量のある大型銃を扱う彼女は、重み故動けないのだから。
『──ターゲット確認。敵陣前衛ヲ捕捉シマス』
閉じた唇から無機質な声音が響いた。
そしてマリナも動く。蒼いブロックノイズめく幻影に包まれたかと思うと、それが内側から爆ぜ、破片となって彼女の肢体を取り巻いた。リブに照準を合わせる。銃よりも弓の射程が優れている事が多いが、強化した彼女の愛銃は引けを取らない。
「装備換装TypeS、戦闘を開始」
淡々と告げ、移動力を捨て(彼女の場合元よりないのだが)精度と威力を強化。更にマテリアルを込める事で威力を詰み増す。
「……猟撃士は射程が武器であり盾。よって最大の脅威を落とす。模擬戦とは言え戦闘は戦闘――殲滅する」
不穏な言葉に、シャンカラが止めようとしたが既に遅かった。彼女の細い指がトリガーを引く。
「マジか!」
2度目の台詞を吐き、ダルマが飛び込む。だが高い受け防御を誇る大戦斧いえど弾ききる事はできず、跳弾が頬を掠め鮮血が溢れた。
殲滅とは『皆殺し』の意である。
実力の伴わぬ者の言なら気負いの表れともとれようが、彼女はそれを実現にするに足る狂暴なまでの力を有していた。それこそユリウスの光杭を超える程の。
「何で……?」
リブは無傷だがその場にへたり込む。対戦相手ではあるが、共に世界を護る仲間であるはずのハンターから、死に至る一撃を向けられたのだ。戦意喪失した事は誰の目にも明らかだった。
血を滴らせたダルマが吼える。
「殲滅? お前さん一体ここに何をしに来た! 演習は戦の真似事だが、互いに与える傷はホンモンなんだぞ!?」
観戦者達もにわかに色めき立つ。それを制し、シャンカラはキツく眉根を寄せた。
彼女の言動をどうにか好意的に解釈したいが、マリナに龍騎士達と交流を図る様子は見受けられなかった。今でさえその瞳は揺らぎもしない。それが彼女の個性にせよ、初対面の龍騎士達にどうしてそうと知れるだろう。
「止め! 試合は中止――、」
だがリブと組んでいた前衛ふたりは激昂し、マリナへ殺到する!
「違うんだ、オレ達は……!」
闘狩人をレオが、急接近する疾影士を空蝉が抑えるも、仲間を殺されかけたふたりは止まらない。
「退け!」
槍の穂先がレオの胴へ突き出される。シールドで受け、次なる一手も回避するも、防戦ばかりでは相手は止まりそうもない。
「止めてくれ!」
悲痛な叫びと共に、レオは機導砲を照射した。
「……?」
種族故か、人の感情の機微を解さぬ空蝉は、微笑のまま相手の打撃をスペルブレイドで受け流し続ける。戦闘を中止すべきだと理解しているが、相手の攻撃が止まらぬ以上刀を納めることはできない。目を閉じ相手の気配に集中するが、受けきるにも限界がある。
そんな共闘者達の様子を眺め、マリナは表情を動かさぬまま呟く。
「予期せぬエラー。戦闘を停止する」
誰にともない言葉が荒野に落ちた。
●
結局、シャンカラとダルマがふたりを力づくで鎮め、試合は中止された。龍騎士達からは未だ怒気が失せず、ハンター達も予想外の事態に困惑していた。
エリスは意を決し、治癒に回る龍騎士へ歩み寄る。
「あの、私にも回復処置のお手伝いをさせて頂けませんか?」
それを機に、レオは龍騎士達に挨拶と握手行脚を始め、空蝉も手を合わせ礼を尽くしていく。それによりいくらか場の空気が和らいだ。
「シャンカラさん、」
ニーロがシャンカラへ声をかける。同族の彼はとりなそうとしたのだろうが、手合わせの申し入れを思い出したシャンカラは、碧い瞳に一瞬ダルマの流す紅を映した。
「今日は止めておきましょう。僕も今、平静を保てている自信がありませんので」
「……、」
それ以上かける言葉が見つからず、ニーロは小さく礼をした。
覚醒者となり得た常人ならざる力、その意味、その揮い方。
駆け出しである今こそ、今一度その事を惟る必要があるのかもしれない。
ハンター達を、冷たい風が撫でて過ぎた。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
【質問卓】 ニーロートパラ(ka6990) ドラグーン|19才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2017/09/29 12:23:58 |
|
![]() |
【相談卓】 マリナ アルフェウス(ka6934) オートマトン|17才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2017/09/30 20:59:53 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/09/28 08:31:58 |