ゲスト
(ka0000)
外注してもいいですか
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2017/10/05 22:00
- 完成日
- 2017/10/12 23:59
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
滑らかな闇に包まれた空間に音もなく一条の光線が生まれる。
光線は方形を基礎にした幾何学模様を描く。それによって床、壁、天井の存在が明らかになる。
空間の中央に四角い燐光の粒が生じ寄り集まり、形をとる――黒い箱を従えた、白い服の女へと。
彼女の名はマゴイ。亜空間とクリムゾンを行ったり来たりする特殊な――多分英霊である。
●
島の環境整備が整ったお陰で、水と食糧の供給にまるまる費やしていた分のエネルギーを、転移セクションへと振り向けられるようになった。
人工的に作られたマテリアル磁場を利用すれば、以前に比べて少ない力で行き来が出来る。 亜空間で大きな力を使うと、そこをさ迷っている様々なものが反応し、一緒にくっついてきがちだったのだが、それが抑えられるようになった。
とてもいいことだ。
思いながらマゴイはコボルド・ワーカーたちの様子を見に行く。ちゃんと休暇を取っているであろうかと。
●
コボルドたちは休みを思い思いに過ごしていた。
前の巣穴から持ってきたキノコの世話をするもの、水路で泳ぐもの、穴を掘るもの、トカゲを追いかけるもの、色々である。
その中にネコ車を押すグループがいる。車に積まれているのはたくさんの小さなキューブと、太い木の棒。
「おかたづけー」
「おかたづけー」
コボルド語で歌いながら舗装道を行く。
中途でガタガタッとキューブが動くと四方に散り、樽のような木の後ろに隠れ息を顰める。しばらくして恐る恐る戻り、ひっくりかえったネコ車にキューブを積み直し、進む。
何度かそれを繰り返した後彼らは、簡易太陽光集積炉にたどり着いた。目下島全体のエネルギーを賄っている施設だ。
群れ咲く巨大な花とも見える集光器の近くにネコ車を止める。
1匹が棒を取って構える。
1匹がキューブを1つ取って投げる。
小気味いい打撃音と一緒にキューブが飛び、集光器の中に入った――と思った次の瞬間凝縮された光と熱によって跡形もなく弾ける。
コボルドたちは手を叩いて喜ぶ。打者と投手を変え、次のキューブを飛ばす。
全部無くなるまでそれを続けた後、尾を振って健闘をたたえ合う。
「かいしんのいちげき」
「きょうもよくとんだ」
さて帰ろうと皆でネコ車を押し帰ろうとしたところで、皆急におずおず尻尾を縮めた。
いつのまにか、近くにマゴイがいたのである。
『……あなたたち何をしているの……』
コボルドたちはいたずらが見つかった子供のように、もじもじと答えた。
「おかたづけ」
「おかたづけ」
『……先に教えておいたでしょう……私がいないときにそれをするのはやめなさい……危ないのだからと……第一今は休暇中なのだから……仕事をする必要はないのよ……』
その言葉を受けコボルドたちは、しゅんとしてしまった。
「でもまごい、これたのしい」
「おかたづけしたい」
『……それはそれでとてもいいことだけど……休みのときは休まないと……さあ、皆と遊んできなさい……』
●
のっぺりした石作りの格納庫。
マゴイはその片隅に積まれているキューブの山を眺める。
これは自分が島の安全のため、周辺一帯から取り除いた歪虚である。
こんなに溜め込まずとも、一瞬で消滅させることは出来る。だが自分はそうするわけにいかない。市民に害をなす存在を抹消するのは、あくまでもソルジャーの役目。マゴイがしていいのは力を奪うまで。それ以上やってはいけない。
超法規的措置としてステーツマンが許可を出せば消滅もさせられると法には明記してあるが、ユニオン史上それがなされたことは一度もなかった。少なくとも自分が向こうに存在していた時点では。
(……ここにソルジャーがいればねえ……)
現在は苦肉の策としてワーカーに最終処分をさせている。これは、あまりいいことではない。先ほど見たように本人達がその作業を気に入っているとしても。
じゃあどうすればいいか。
(……処理出来そうな人のところへ送った方が……転送セクションを使えば負担は軽いし……)
実際前に一度、そうしたことがある。この世界においてソルジャー的な役割を負う人々――ハンターの大勢いそうなところへ閉じ込めた歪虚を送り込んだのだ。
しかし、それと同じことを同じ形でもう一度やろうとは思わない。彼らとの接触によって知ったことだが、どうやらハンターは労働に対する対価を年給でもなく月給でもなく週給でさえないその場その場の臨時報酬として受け取っているらしい。
ソサエティなんてものを作っているからには、そこが構成員の社会保障を請け負い固定給を支払っているのだろうと思っていたのだが、実態は全然違ったようだ。
悲惨な話だ。それもこれも未発達な社会制度が悪いのだろう。
とにかくそういうことであるならば、歪虚を向こうに送り付けるだけでは相手を無報酬で働かせることになってしまうわけだ。それはユニオンの理念として望ましくないことである。
であるからして、今度は報酬と一緒に送らなければならないだろう。
……そんなことを1人つらつら考えているところ、ウォッチャーから連絡が入った。
【――マゴイ、何者かがインカムの回線を使いアクセスを試みています。現在接続を回避しています】
マゴイの表情が曇った。無断で機関に接触しようとするものには最大限の警戒心を持つのが、彼女の流儀である。
即座に地下の機関へと戻り、会議室に入る。席に座りパネルに手をかざす。
クリムゾンウェストの地図が現れた。インカムがアクセスしてきている地点が光点で示される。
その位置をもっと細かく知ろうとしたところで、ふと手が止まった。
なんだか聞き覚えのある声が聞こえてきたような気がしたのだ。
いや、気がしたではない。確実に聞き覚えがある声。かつてβで今はスペットの声。
『――ゴイ――マゴイ――おるんか――そこ――』
加えてハンターの声も聞こえてくる。
(……一体なにしてるのかしらね……)
訝しみつつマゴイは、ついでなので歪虚をそちらへ送っていいかと話を持ちかけてみることにした。警戒心は持ち続けたまま。
光線は方形を基礎にした幾何学模様を描く。それによって床、壁、天井の存在が明らかになる。
空間の中央に四角い燐光の粒が生じ寄り集まり、形をとる――黒い箱を従えた、白い服の女へと。
彼女の名はマゴイ。亜空間とクリムゾンを行ったり来たりする特殊な――多分英霊である。
●
島の環境整備が整ったお陰で、水と食糧の供給にまるまる費やしていた分のエネルギーを、転移セクションへと振り向けられるようになった。
人工的に作られたマテリアル磁場を利用すれば、以前に比べて少ない力で行き来が出来る。 亜空間で大きな力を使うと、そこをさ迷っている様々なものが反応し、一緒にくっついてきがちだったのだが、それが抑えられるようになった。
とてもいいことだ。
思いながらマゴイはコボルド・ワーカーたちの様子を見に行く。ちゃんと休暇を取っているであろうかと。
●
コボルドたちは休みを思い思いに過ごしていた。
前の巣穴から持ってきたキノコの世話をするもの、水路で泳ぐもの、穴を掘るもの、トカゲを追いかけるもの、色々である。
その中にネコ車を押すグループがいる。車に積まれているのはたくさんの小さなキューブと、太い木の棒。
「おかたづけー」
「おかたづけー」
コボルド語で歌いながら舗装道を行く。
中途でガタガタッとキューブが動くと四方に散り、樽のような木の後ろに隠れ息を顰める。しばらくして恐る恐る戻り、ひっくりかえったネコ車にキューブを積み直し、進む。
何度かそれを繰り返した後彼らは、簡易太陽光集積炉にたどり着いた。目下島全体のエネルギーを賄っている施設だ。
群れ咲く巨大な花とも見える集光器の近くにネコ車を止める。
1匹が棒を取って構える。
1匹がキューブを1つ取って投げる。
小気味いい打撃音と一緒にキューブが飛び、集光器の中に入った――と思った次の瞬間凝縮された光と熱によって跡形もなく弾ける。
コボルドたちは手を叩いて喜ぶ。打者と投手を変え、次のキューブを飛ばす。
全部無くなるまでそれを続けた後、尾を振って健闘をたたえ合う。
「かいしんのいちげき」
「きょうもよくとんだ」
さて帰ろうと皆でネコ車を押し帰ろうとしたところで、皆急におずおず尻尾を縮めた。
いつのまにか、近くにマゴイがいたのである。
『……あなたたち何をしているの……』
コボルドたちはいたずらが見つかった子供のように、もじもじと答えた。
「おかたづけ」
「おかたづけ」
『……先に教えておいたでしょう……私がいないときにそれをするのはやめなさい……危ないのだからと……第一今は休暇中なのだから……仕事をする必要はないのよ……』
その言葉を受けコボルドたちは、しゅんとしてしまった。
「でもまごい、これたのしい」
「おかたづけしたい」
『……それはそれでとてもいいことだけど……休みのときは休まないと……さあ、皆と遊んできなさい……』
●
のっぺりした石作りの格納庫。
マゴイはその片隅に積まれているキューブの山を眺める。
これは自分が島の安全のため、周辺一帯から取り除いた歪虚である。
こんなに溜め込まずとも、一瞬で消滅させることは出来る。だが自分はそうするわけにいかない。市民に害をなす存在を抹消するのは、あくまでもソルジャーの役目。マゴイがしていいのは力を奪うまで。それ以上やってはいけない。
超法規的措置としてステーツマンが許可を出せば消滅もさせられると法には明記してあるが、ユニオン史上それがなされたことは一度もなかった。少なくとも自分が向こうに存在していた時点では。
(……ここにソルジャーがいればねえ……)
現在は苦肉の策としてワーカーに最終処分をさせている。これは、あまりいいことではない。先ほど見たように本人達がその作業を気に入っているとしても。
じゃあどうすればいいか。
(……処理出来そうな人のところへ送った方が……転送セクションを使えば負担は軽いし……)
実際前に一度、そうしたことがある。この世界においてソルジャー的な役割を負う人々――ハンターの大勢いそうなところへ閉じ込めた歪虚を送り込んだのだ。
しかし、それと同じことを同じ形でもう一度やろうとは思わない。彼らとの接触によって知ったことだが、どうやらハンターは労働に対する対価を年給でもなく月給でもなく週給でさえないその場その場の臨時報酬として受け取っているらしい。
ソサエティなんてものを作っているからには、そこが構成員の社会保障を請け負い固定給を支払っているのだろうと思っていたのだが、実態は全然違ったようだ。
悲惨な話だ。それもこれも未発達な社会制度が悪いのだろう。
とにかくそういうことであるならば、歪虚を向こうに送り付けるだけでは相手を無報酬で働かせることになってしまうわけだ。それはユニオンの理念として望ましくないことである。
であるからして、今度は報酬と一緒に送らなければならないだろう。
……そんなことを1人つらつら考えているところ、ウォッチャーから連絡が入った。
【――マゴイ、何者かがインカムの回線を使いアクセスを試みています。現在接続を回避しています】
マゴイの表情が曇った。無断で機関に接触しようとするものには最大限の警戒心を持つのが、彼女の流儀である。
即座に地下の機関へと戻り、会議室に入る。席に座りパネルに手をかざす。
クリムゾンウェストの地図が現れた。インカムがアクセスしてきている地点が光点で示される。
その位置をもっと細かく知ろうとしたところで、ふと手が止まった。
なんだか聞き覚えのある声が聞こえてきたような気がしたのだ。
いや、気がしたではない。確実に聞き覚えがある声。かつてβで今はスペットの声。
『――ゴイ――マゴイ――おるんか――そこ――』
加えてハンターの声も聞こえてくる。
(……一体なにしてるのかしらね……)
訝しみつつマゴイは、ついでなので歪虚をそちらへ送っていいかと話を持ちかけてみることにした。警戒心は持ち続けたまま。
リプレイ本文
依頼内容を聞いた葛音 ミカ(ka6318)は、受信機が乗せてある台に顎を預けたまましかめ面をした。
「……数、多くない?」
確かに。心の中で同意しながらジルボ(ka1732)は、スペットに聞く。
「なあ、この通信後どのくらい続けられる?」
「大体30分くらいやな。それ以上は受信機のバッテリーが持たへん」
「短いなー。もう少し延ばせねえの?」
「今んとこ無理や」
なら送付に関しての話を手早くすませた方がいい。そう思った榊 兵庫(ka0010)、ハンス・ラインフェルト(ka6750)、ソラス(ka6581)は相談を始める。
マゴイは場所の指定を受け付けてくれるそうだ。詩が確かめたところによれば魔術師協会も、敷地を貸してくれるとのこと。
となると残る問題は送り方のみ。
「数だけは多いようだから、ある程度まとめて貰わなくては埒が明かないし、な。それくらいのサービスはしてくれてもバチは当たらないと思うが」
「指定した場所にキューブを縦横高さが10個×10個×10個の立方体になるよう積んでもらうのは? 1mの立方体なら、大体どの複数攻撃の直径にも入りますからね。全員でやるならこれが一番でしょう」
「待ってください。範囲攻撃には敵味方の区別が出来ないものもありますから……一塊にすると、お互い巻き込む結果になりそうな気がします。どうでしょう、私たちは全員で8人いるわけですから、1人頭大体125個程度に小分けしてもらっては?」
彼らがそうしている間、天竜寺 詩(ka0396)がマゴイに話しかける。
「マゴイ、コボルド達は元気にしてる?」
『……しているわよ……』
「そう、ならいいけど。でもそもそも歪虚って、そっちで処理出来ないの?」
『……太陽光集積炉を利用すれば出来なくもないけど法的には正しくない……』
「……何そのSFっぽいもの……」
葛音 水月(ka1895)はその脇から少しいいですかと声をかけ、通話権を譲ってもらった。
「初めまして、葛音 水月と言います。あの、ちょっとだけわがままをお願いしたいんですが、可能なら僕とミカの分は塊でなく一体ずつ送ってもらうように出来ませんか? 効率は落ちちゃうんですけど、戦闘の特訓をさせてあげたいなと思いまして……」
『……いいけど……それで、結局どこに送ればいいのかしら……?』
その質問についてはルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)が応じた。
「今私たちの居る所から、台所の勝手口を出てざーっと……広い所にガンガンガンで」
思い切り適当に送られてしまうに違いない指定だったが、兵庫が急いで上書きし事なきを得る。
「ええとだな、この魔術師協会の敷地内に、8つに分割して送ってくれ。水月とミカの分は除いて、それぞれブロックに積み上げて、互いに20メートルは離して置いてくれ」
『……分かったわ……ではそういうことで……』
話はまとまったようだ。しかし念のため、ジルボが横から付け加える。
「あ、作業が終わるまで通信切らないでくれよ?」
●
「スペット、中庭結界で囲んでくれ。確か指輪使わなくても大きいの出せたろ。協会から指輪取り返してやったんだから働け働け」
ジルボの求めに応じスペットは、急ごしらえの護符を、協会中庭を囲むように張り付けた。「ほな行くで」と言いながら軽く手を合わせる。
護符から光の線が延びた。縦横に伸び、長途で直角に曲がり、また繋がり合い――たちまちのうちに庭全体が四角い結界に包まれた。これで万一の飛び散りが防げるだろう。
兵庫の前に早速ブロックが送られてきた。小ブロックを横に30、縦に20並べた形のものが。
標語は十文字槍を構え呼吸を整え、一気になぎ払う。
最初の壁がほぼ消滅したところで、再度同じ形のブロック塀が送られてくる。
再び呼吸を整え、なぎ払う。
最後に送られてきた縦積みブロック5個の上に、まだ消滅し損ねているものを積み重ね――唐竹割りに叩き伏せる。
ルンルンは自分の前にあるブロック――5×5×5の背後にアースウォールを立てた。なるべく散らばらないようにするためである。
ついでに式神も作った。散らばったとき積み直してくれるようにするためである。
そうしてからおもむろに、五色光符陣を発動。
「都度都度処理しないで溜めておくからこうなるんだからっ」
詩は送られてきたブロック5×5×5ブロックにピュリファイケーションをかけた。
浄化されることで積まれたブロックが外側部分から崩れ、砕けて行く。
しかし、頑固に持ちこたえるのもいる。
形こそ全部同じだが、そもそもはそれぞれ異なった歪虚なのだろう。浄化に弱いもの、強いもの、色々いるに違いない。
「この中にこないだの人魚達が言ってた岩礁の歪虚もいるのかな?」
とつらつら思いながら、残った部分に向けセイクリッドフラッシュを放つ。
ソラスは5×5×5ブロックに向け、ファイアーボールを仕掛けた。
ブロックが弾ける。弾けなかったものは周囲に飛び散った。
彼の飼い犬と飼い猫が面白そうにそれを追い、口にくわえて振り回す。あるいは猫パンチを食らわせ転がし回る。
「ロイ、シー、駄目ですよ! それをこっちに持っておいで!」
「前に戦ったヤツもそうだったけど……歪虚って四角いものなのかな…」
「ミカ……? 今回前回の歪虚がこうなだけだからね?」
ミカと水月の分のブロックは、頼んだ通り1つずつ送られてきている。
というか落ちてきている。5メートルばかり上の中空から。リアルブルー世界の落ちゲーのように。
ミカはそれを地上に到達する前に叩き切っている。
訓練としては最適。しかし数が多い。50を越えたあたりから飽きてきた。妖刀村正をバットのようにフルスイングさせ始める。
「多すぎ……少しは送ってきたヤツが自分で処理したらいいのに……」
水月は最後までやり抜かせようと、励ます。
「まあ、なにか事情があるんだよ。多いけどがんばろ? 一つも的を外してないんだから。全部出来たら後で何か食べに行こう?」
最後の一言がきいただろうか、ミカは姿勢と太刀筋を改めた。
しかしながら視線は離れた場所にいる、ジルボとハンスに向いている。
「う゛~手応えねぇな~弾勿体ねぇな~」
などぼやきながらジルボは割り当て分5×5×5ブロックをアサトライフルで掃射、気持ちいいほど手早く処理を進めている。
ハンスもまた5×5×5ブロックを大剣で斬って斬って瞬く間に消化。
「広範囲に攻撃できるの、いいなぁ……ボクにもできたらなぁ」
ミカの気持ちを察した水月は、ついと進み出てラティラムスを抜いた。
「ミカにも使えるのがあるけどまだ先だから、詳しくは帰ってからステラに聞くといいかもねー」
と言って、縦横無尽の型を教え始める。
●
ブロックの処理を終えたメンバーは、スペットが屋外に持ち出してきた受信機の周囲に群がった。
通信はまだ繋がっている。が、どうにも音質が悪く聞き取りにくい。最初からそんな感じではあったのだが。
「なあ、インカムの調子が悪いんだけどそっちの技術で何とかならない? 協会と連絡が取れりゃいつでも依頼出来るし俺達も駆け付け易いんだけど」
『……調子が悪いのは……そちらの接続機器の問題なので……私側からはどうにも出来ない……』
「あ、そうなんだ。じゃあこっちの改良待ちかー……あ、そうだそうだ。おねぇさん人魚達の間では随分評判がよろしいようで。知ってた? 島周辺の海域を護ってくれる精霊様だとかどうとか言ってたぜ。この間――」
マゴイ自身にも拘わりがあることなのでついでだからと、この間受けた依頼について話してみるジルボ。
その途端、会話に微妙な間が空いた。
彼は、ちょっと焦る。
「おっと警戒するなよ。どうこうしようってワケじゃない。結果的にだが周辺海域の歪虚を処理してくれたおかげで人魚達との交渉もスムーズにいった。その礼を言っておきたくてね、うん。それだけ、ホント。南海の開拓もこれから進んで行くだろうし、なら外部との接触も時間の問題だから、そこんとこ今のうちに考えてくれると――」
……まだ間が空いている。
ジルボはスペットに小声で聞いてみた。
「おい、この話題おねぇさんにはNGだったと思うか?」
「さー……」
難しい顔をしてスペットは、受信機についているダイヤルのあちこちをいじった。
受信の感度が幾らか上がったか、音の入りがよくなる。
すると、ぶつぶつ呟く声が聞こえてきた。
『……ユニオン法に基づいて……占有的経済水域における他国籍の船舶航行は原則無申請で認められる……領海内における船舶航行の通行は、その船舶が属する国、団体、並びに組織が正式に発行する身分証明書が……』
スペット、半眼になって一言。
「なんや一人会議始めよったわ……」
今度は詩が受信機に話しかけた。
「マゴイ、マゴイ、ちょっと聞いて。会議はいったん置いといて」
マゴイは、島の周辺海域に住む人魚達にとってもワーカーであるコボルド達にとっても、大切な存在と見なされている。
しかし彼女は自分がそう思われているについてどう考えるのだろう。
これまで知りえた情報からするとユニオンは『大切な人』を持つことをタブー視しているように思われる。
マゴイはそんなユニオンの価値観に忠実だ。
だとしたら、自分にそういう感情を抱いた相手についてどう思うのだろうか? よもや矯正しようとはしないだろうか。
そのことを問うとマゴイは、こう答えてきた。
『……人魚たちが私についてどう思っていても……私は干渉しない……彼女たちはユニオン市民ではないのだから……ワーカーに関して言うなら……ユニオンの理念について理解不足なだけだと思われるから……これからおいおい学習の機会を増やして行けばいいだけかと思う……特定の1人に特殊な好意的感情を向けるのはよろしくない……皆が皆を同じように好むことが社会の安定をもたらす……』
どうやらユニオンにおいても『好意』という気持ち自体は否定されていないようだ。
ただ、その感情が特定の相手に対して固定化されてしまうのがいけないのだと、こういうことらしい。
『……特定の相手を自分だけに結び付けたいという感情は……所有欲の一形態に他ならない……だからして認められない……』
ところでミカはまだブロックを処理し続けている。
「……にひゃくごじゅうさん、にひゃくごじゅうよん、にひゃくごじゅう、ご! しゅうりょー!」
今、ようやく終わったようだ。
水月は地に伏せた彼女の傍らに寄り、スポーツドリンクを差し出す。
「お疲れ様。一休みしたらデザートかランチでもミカの好きな所に?」
そうだその約束があったと思い出し、がばと起きるミカ。ドリンクをがぶ飲みして渇を癒す。
「ボク、パンケーキが食べたい。ドカっとクリームが乗った奴」
処理が終わるのを待っていたかのように、報酬が送られてきた。ハンターたちの人数分、きっちり8つの小山に分けて。
王国、帝国、自由都市同盟と出所がゴチャゴチャに交ざった硬貨だった。
刻印からしてかなり古いものと見受けられる。しかしどれも今鋳造されたようにピカピカ。
ルンルンは興奮気味に聞いた。受信機に顔を近づけて。
「この報酬ってひょっとして、ユニオンの機密費!?」
『……いいえ……労働管理部門の一般会計予算から出てる……』
ソラスはすかさず確かめた。
「……このお金は、もしやマゴイさんが作ったものですか?」
『……いいえ……環境整備の基礎工事をしているときに、ワーカーが地下から掘り出してきたもの……所有者もいないようだったから……ユニオンの国庫に編入……随分汚れていたから……洗浄消毒して……』
所有者不明の動産、不動産は発見者のものである――という考えはいずこの世界においても健在なようだ。
偽造通貨じゃないならまあいいであろう。思ってソラスは、先に話を進める。今しも受信機のバッテリーが切れそうなのだ。聞けるだけのことは全部聞いておきたい。
「この前、人魚さんがマゴイさんが岩礁を持っていったと話していましたが、何故ですか?」
『……何故って……環境整備のための資材が足りなかったからよ……内部調達では限界があるし……』
「他のところからも、何か持って行ったりしましたか?」
『……そうね、少々……動植物を移植したわ……』
相手の声がどんどん遠くなって行く分だけ、ソラスは声を張り上げる。
「再稼働や環境整備は順調ですか?」
『……整備は……最低限のところは出来上がってる……だけど再稼働の方はまだ……まずはエネルギー問題を解決しないと……そのためにはどんな形のマテリアル炉がいいか考えているところ……水力か火力か地熱か……核融合か……』
ルンルンが脇から口を挟んだ。
「あのー、核融合とか危険なんじゃ……」
『……大丈夫……核融合は危険ではない……天然マテリアル資源に依存しない……環境に優しいエネルギーシステム……でもアーキテクチャーの水準が低いこの世界では……作れそうにない……困ったものね……』
確かに困ったものだとハンスは思った。
依頼を申し出てきたところからするに、少しは柔軟性が出てきたようだ。だが彼女は根本的にあらかじめ持ち合わせているマニュアルに沿ってしか、周囲を理解しようとしていない。
そこを改めてもらいたい。
「この世界はエバーグリーンではないしここにユニオンはない。貴女はできる範囲でこの世界の情報を集める必要があるのではないですか?」
『……この世界がエバーグリーンでないことはその通りだし……情報を集める必要があるのも確かだけれど……ユニオンについてその見解は間違っている……ワーカーとマゴイしかいないという不完全な形でもユニ……』
向こうの声が聞き取れなくなった。
こちらの声は伝わっているようにと願いながら続ける。
「この通信器以外でも、あなたと連絡を手段を確保しておきたいのですが、ご一考いただけますか?」
兵庫は、部外者としてのアドバイスを送る。
「……報酬が出るのならば、受けるものも多いだろう。定期的な間引きが必要というのならば、こちらとしても協力する事は吝かではないからな」
受信機のバッテリーが尽きた。
ソラスは、今更ながら思い出す。
「スペットさん、顔というか頭の事、訊かなくて良かったんですか?」
スペットは頭の猫毛を掻きながら言った。
「しもた……忘れとったわ」
詩は彼の背中を叩く。
「これから先いつでも聞けるよ。お茶を御馳走するよ――皆にもね。そうそう、タモンさんは元気? さっきお見舞いのザッハトルテをね、協会の人に渡して――」
後日、魔術師協会にマゴイ側から、変なものが送られてきた。
方形を基礎にした幾何学模様がついた箱。色は淡い赤。上部に細長い切れ込みが入っている。
何に使うものなのかは――まだ不明である。
「……数、多くない?」
確かに。心の中で同意しながらジルボ(ka1732)は、スペットに聞く。
「なあ、この通信後どのくらい続けられる?」
「大体30分くらいやな。それ以上は受信機のバッテリーが持たへん」
「短いなー。もう少し延ばせねえの?」
「今んとこ無理や」
なら送付に関しての話を手早くすませた方がいい。そう思った榊 兵庫(ka0010)、ハンス・ラインフェルト(ka6750)、ソラス(ka6581)は相談を始める。
マゴイは場所の指定を受け付けてくれるそうだ。詩が確かめたところによれば魔術師協会も、敷地を貸してくれるとのこと。
となると残る問題は送り方のみ。
「数だけは多いようだから、ある程度まとめて貰わなくては埒が明かないし、な。それくらいのサービスはしてくれてもバチは当たらないと思うが」
「指定した場所にキューブを縦横高さが10個×10個×10個の立方体になるよう積んでもらうのは? 1mの立方体なら、大体どの複数攻撃の直径にも入りますからね。全員でやるならこれが一番でしょう」
「待ってください。範囲攻撃には敵味方の区別が出来ないものもありますから……一塊にすると、お互い巻き込む結果になりそうな気がします。どうでしょう、私たちは全員で8人いるわけですから、1人頭大体125個程度に小分けしてもらっては?」
彼らがそうしている間、天竜寺 詩(ka0396)がマゴイに話しかける。
「マゴイ、コボルド達は元気にしてる?」
『……しているわよ……』
「そう、ならいいけど。でもそもそも歪虚って、そっちで処理出来ないの?」
『……太陽光集積炉を利用すれば出来なくもないけど法的には正しくない……』
「……何そのSFっぽいもの……」
葛音 水月(ka1895)はその脇から少しいいですかと声をかけ、通話権を譲ってもらった。
「初めまして、葛音 水月と言います。あの、ちょっとだけわがままをお願いしたいんですが、可能なら僕とミカの分は塊でなく一体ずつ送ってもらうように出来ませんか? 効率は落ちちゃうんですけど、戦闘の特訓をさせてあげたいなと思いまして……」
『……いいけど……それで、結局どこに送ればいいのかしら……?』
その質問についてはルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)が応じた。
「今私たちの居る所から、台所の勝手口を出てざーっと……広い所にガンガンガンで」
思い切り適当に送られてしまうに違いない指定だったが、兵庫が急いで上書きし事なきを得る。
「ええとだな、この魔術師協会の敷地内に、8つに分割して送ってくれ。水月とミカの分は除いて、それぞれブロックに積み上げて、互いに20メートルは離して置いてくれ」
『……分かったわ……ではそういうことで……』
話はまとまったようだ。しかし念のため、ジルボが横から付け加える。
「あ、作業が終わるまで通信切らないでくれよ?」
●
「スペット、中庭結界で囲んでくれ。確か指輪使わなくても大きいの出せたろ。協会から指輪取り返してやったんだから働け働け」
ジルボの求めに応じスペットは、急ごしらえの護符を、協会中庭を囲むように張り付けた。「ほな行くで」と言いながら軽く手を合わせる。
護符から光の線が延びた。縦横に伸び、長途で直角に曲がり、また繋がり合い――たちまちのうちに庭全体が四角い結界に包まれた。これで万一の飛び散りが防げるだろう。
兵庫の前に早速ブロックが送られてきた。小ブロックを横に30、縦に20並べた形のものが。
標語は十文字槍を構え呼吸を整え、一気になぎ払う。
最初の壁がほぼ消滅したところで、再度同じ形のブロック塀が送られてくる。
再び呼吸を整え、なぎ払う。
最後に送られてきた縦積みブロック5個の上に、まだ消滅し損ねているものを積み重ね――唐竹割りに叩き伏せる。
ルンルンは自分の前にあるブロック――5×5×5の背後にアースウォールを立てた。なるべく散らばらないようにするためである。
ついでに式神も作った。散らばったとき積み直してくれるようにするためである。
そうしてからおもむろに、五色光符陣を発動。
「都度都度処理しないで溜めておくからこうなるんだからっ」
詩は送られてきたブロック5×5×5ブロックにピュリファイケーションをかけた。
浄化されることで積まれたブロックが外側部分から崩れ、砕けて行く。
しかし、頑固に持ちこたえるのもいる。
形こそ全部同じだが、そもそもはそれぞれ異なった歪虚なのだろう。浄化に弱いもの、強いもの、色々いるに違いない。
「この中にこないだの人魚達が言ってた岩礁の歪虚もいるのかな?」
とつらつら思いながら、残った部分に向けセイクリッドフラッシュを放つ。
ソラスは5×5×5ブロックに向け、ファイアーボールを仕掛けた。
ブロックが弾ける。弾けなかったものは周囲に飛び散った。
彼の飼い犬と飼い猫が面白そうにそれを追い、口にくわえて振り回す。あるいは猫パンチを食らわせ転がし回る。
「ロイ、シー、駄目ですよ! それをこっちに持っておいで!」
「前に戦ったヤツもそうだったけど……歪虚って四角いものなのかな…」
「ミカ……? 今回前回の歪虚がこうなだけだからね?」
ミカと水月の分のブロックは、頼んだ通り1つずつ送られてきている。
というか落ちてきている。5メートルばかり上の中空から。リアルブルー世界の落ちゲーのように。
ミカはそれを地上に到達する前に叩き切っている。
訓練としては最適。しかし数が多い。50を越えたあたりから飽きてきた。妖刀村正をバットのようにフルスイングさせ始める。
「多すぎ……少しは送ってきたヤツが自分で処理したらいいのに……」
水月は最後までやり抜かせようと、励ます。
「まあ、なにか事情があるんだよ。多いけどがんばろ? 一つも的を外してないんだから。全部出来たら後で何か食べに行こう?」
最後の一言がきいただろうか、ミカは姿勢と太刀筋を改めた。
しかしながら視線は離れた場所にいる、ジルボとハンスに向いている。
「う゛~手応えねぇな~弾勿体ねぇな~」
などぼやきながらジルボは割り当て分5×5×5ブロックをアサトライフルで掃射、気持ちいいほど手早く処理を進めている。
ハンスもまた5×5×5ブロックを大剣で斬って斬って瞬く間に消化。
「広範囲に攻撃できるの、いいなぁ……ボクにもできたらなぁ」
ミカの気持ちを察した水月は、ついと進み出てラティラムスを抜いた。
「ミカにも使えるのがあるけどまだ先だから、詳しくは帰ってからステラに聞くといいかもねー」
と言って、縦横無尽の型を教え始める。
●
ブロックの処理を終えたメンバーは、スペットが屋外に持ち出してきた受信機の周囲に群がった。
通信はまだ繋がっている。が、どうにも音質が悪く聞き取りにくい。最初からそんな感じではあったのだが。
「なあ、インカムの調子が悪いんだけどそっちの技術で何とかならない? 協会と連絡が取れりゃいつでも依頼出来るし俺達も駆け付け易いんだけど」
『……調子が悪いのは……そちらの接続機器の問題なので……私側からはどうにも出来ない……』
「あ、そうなんだ。じゃあこっちの改良待ちかー……あ、そうだそうだ。おねぇさん人魚達の間では随分評判がよろしいようで。知ってた? 島周辺の海域を護ってくれる精霊様だとかどうとか言ってたぜ。この間――」
マゴイ自身にも拘わりがあることなのでついでだからと、この間受けた依頼について話してみるジルボ。
その途端、会話に微妙な間が空いた。
彼は、ちょっと焦る。
「おっと警戒するなよ。どうこうしようってワケじゃない。結果的にだが周辺海域の歪虚を処理してくれたおかげで人魚達との交渉もスムーズにいった。その礼を言っておきたくてね、うん。それだけ、ホント。南海の開拓もこれから進んで行くだろうし、なら外部との接触も時間の問題だから、そこんとこ今のうちに考えてくれると――」
……まだ間が空いている。
ジルボはスペットに小声で聞いてみた。
「おい、この話題おねぇさんにはNGだったと思うか?」
「さー……」
難しい顔をしてスペットは、受信機についているダイヤルのあちこちをいじった。
受信の感度が幾らか上がったか、音の入りがよくなる。
すると、ぶつぶつ呟く声が聞こえてきた。
『……ユニオン法に基づいて……占有的経済水域における他国籍の船舶航行は原則無申請で認められる……領海内における船舶航行の通行は、その船舶が属する国、団体、並びに組織が正式に発行する身分証明書が……』
スペット、半眼になって一言。
「なんや一人会議始めよったわ……」
今度は詩が受信機に話しかけた。
「マゴイ、マゴイ、ちょっと聞いて。会議はいったん置いといて」
マゴイは、島の周辺海域に住む人魚達にとってもワーカーであるコボルド達にとっても、大切な存在と見なされている。
しかし彼女は自分がそう思われているについてどう考えるのだろう。
これまで知りえた情報からするとユニオンは『大切な人』を持つことをタブー視しているように思われる。
マゴイはそんなユニオンの価値観に忠実だ。
だとしたら、自分にそういう感情を抱いた相手についてどう思うのだろうか? よもや矯正しようとはしないだろうか。
そのことを問うとマゴイは、こう答えてきた。
『……人魚たちが私についてどう思っていても……私は干渉しない……彼女たちはユニオン市民ではないのだから……ワーカーに関して言うなら……ユニオンの理念について理解不足なだけだと思われるから……これからおいおい学習の機会を増やして行けばいいだけかと思う……特定の1人に特殊な好意的感情を向けるのはよろしくない……皆が皆を同じように好むことが社会の安定をもたらす……』
どうやらユニオンにおいても『好意』という気持ち自体は否定されていないようだ。
ただ、その感情が特定の相手に対して固定化されてしまうのがいけないのだと、こういうことらしい。
『……特定の相手を自分だけに結び付けたいという感情は……所有欲の一形態に他ならない……だからして認められない……』
ところでミカはまだブロックを処理し続けている。
「……にひゃくごじゅうさん、にひゃくごじゅうよん、にひゃくごじゅう、ご! しゅうりょー!」
今、ようやく終わったようだ。
水月は地に伏せた彼女の傍らに寄り、スポーツドリンクを差し出す。
「お疲れ様。一休みしたらデザートかランチでもミカの好きな所に?」
そうだその約束があったと思い出し、がばと起きるミカ。ドリンクをがぶ飲みして渇を癒す。
「ボク、パンケーキが食べたい。ドカっとクリームが乗った奴」
処理が終わるのを待っていたかのように、報酬が送られてきた。ハンターたちの人数分、きっちり8つの小山に分けて。
王国、帝国、自由都市同盟と出所がゴチャゴチャに交ざった硬貨だった。
刻印からしてかなり古いものと見受けられる。しかしどれも今鋳造されたようにピカピカ。
ルンルンは興奮気味に聞いた。受信機に顔を近づけて。
「この報酬ってひょっとして、ユニオンの機密費!?」
『……いいえ……労働管理部門の一般会計予算から出てる……』
ソラスはすかさず確かめた。
「……このお金は、もしやマゴイさんが作ったものですか?」
『……いいえ……環境整備の基礎工事をしているときに、ワーカーが地下から掘り出してきたもの……所有者もいないようだったから……ユニオンの国庫に編入……随分汚れていたから……洗浄消毒して……』
所有者不明の動産、不動産は発見者のものである――という考えはいずこの世界においても健在なようだ。
偽造通貨じゃないならまあいいであろう。思ってソラスは、先に話を進める。今しも受信機のバッテリーが切れそうなのだ。聞けるだけのことは全部聞いておきたい。
「この前、人魚さんがマゴイさんが岩礁を持っていったと話していましたが、何故ですか?」
『……何故って……環境整備のための資材が足りなかったからよ……内部調達では限界があるし……』
「他のところからも、何か持って行ったりしましたか?」
『……そうね、少々……動植物を移植したわ……』
相手の声がどんどん遠くなって行く分だけ、ソラスは声を張り上げる。
「再稼働や環境整備は順調ですか?」
『……整備は……最低限のところは出来上がってる……だけど再稼働の方はまだ……まずはエネルギー問題を解決しないと……そのためにはどんな形のマテリアル炉がいいか考えているところ……水力か火力か地熱か……核融合か……』
ルンルンが脇から口を挟んだ。
「あのー、核融合とか危険なんじゃ……」
『……大丈夫……核融合は危険ではない……天然マテリアル資源に依存しない……環境に優しいエネルギーシステム……でもアーキテクチャーの水準が低いこの世界では……作れそうにない……困ったものね……』
確かに困ったものだとハンスは思った。
依頼を申し出てきたところからするに、少しは柔軟性が出てきたようだ。だが彼女は根本的にあらかじめ持ち合わせているマニュアルに沿ってしか、周囲を理解しようとしていない。
そこを改めてもらいたい。
「この世界はエバーグリーンではないしここにユニオンはない。貴女はできる範囲でこの世界の情報を集める必要があるのではないですか?」
『……この世界がエバーグリーンでないことはその通りだし……情報を集める必要があるのも確かだけれど……ユニオンについてその見解は間違っている……ワーカーとマゴイしかいないという不完全な形でもユニ……』
向こうの声が聞き取れなくなった。
こちらの声は伝わっているようにと願いながら続ける。
「この通信器以外でも、あなたと連絡を手段を確保しておきたいのですが、ご一考いただけますか?」
兵庫は、部外者としてのアドバイスを送る。
「……報酬が出るのならば、受けるものも多いだろう。定期的な間引きが必要というのならば、こちらとしても協力する事は吝かではないからな」
受信機のバッテリーが尽きた。
ソラスは、今更ながら思い出す。
「スペットさん、顔というか頭の事、訊かなくて良かったんですか?」
スペットは頭の猫毛を掻きながら言った。
「しもた……忘れとったわ」
詩は彼の背中を叩く。
「これから先いつでも聞けるよ。お茶を御馳走するよ――皆にもね。そうそう、タモンさんは元気? さっきお見舞いのザッハトルテをね、協会の人に渡して――」
後日、魔術師協会にマゴイ側から、変なものが送られてきた。
方形を基礎にした幾何学模様がついた箱。色は淡い赤。上部に細長い切れ込みが入っている。
何に使うものなのかは――まだ不明である。
依頼結果
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マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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質問卓 榊 兵庫(ka0010) 人間(リアルブルー)|26才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2017/10/03 21:33:01 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/10/02 07:45:35 |
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相談卓だよ 天竜寺 詩(ka0396) 人間(リアルブルー)|18才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2017/10/05 00:00:48 |