ゲスト
(ka0000)
【界冥】誰がために武士はある【初心】
マスター:近藤豊

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- LV1~LV20
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/10/03 22:00
- 完成日
- 2017/10/05 22:49
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「困りましたね、これは」
ノアーラ・クンタウの執務室で、ヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)は報告を見てそう呟いた。
独り言。
聞く者がいない言葉を口にした後、ヴェルナーは厄介な状況を前に対策を思案し始める。
「邪魔するぞ」
そこへ現れたのは詩天からきた水野 武徳(kz0196)。
その背後には楠木家の楠木 香(kz0140)の姿もあった。
二人は扉をノックもせずに入室。本来であれば苦言も呈されるのだが――。
「ノックもなし、ですか。まあ、わざとでしょうから気にしません」
ヴェルナーは一切表情を変えずに言い放った。
武徳は先日東西交流会で西方の文化に触れている。
その際、ノックの事も知っていたはずだ。
それでも敢えて無視したのは、ヴェルナーを怒らそうとしたのだろう。
相手を怒らせて出方を見るのは武徳の常套手段である。
「そんな事はないぞ? わしがそのノックとやらを忘れていたのかもしれん」
「東方でも相手が話している部屋に何も言わずに入る事はしないと思いますが?」
「そうなのか? 水野殿、まさかそのノックとやらを部屋に入る前にするのが礼儀だったのか?」
ヴェルナーの言葉に続いて香が口を挟んできた。
二方から攻められる武徳は思わず、面倒そうな顔を浮かべる。
「おや、話が合いますね。あなたは?」
「失礼しました。私はエトファリカ連邦武家四十八家門二十位、楠木家の家長で楠木香と申します」
実は、西方に来たのは初めての香。
西方で勝手な振る舞いを続ける武徳を懸念した香が、勝手にお目付役として同行。だが、初めての西方でやや緊張した面持ちだ。
「ご丁寧にありがとうございます。私はこのノアーラ・クンタウを預かるヴェルナー・ブロスフェルトと申します。
で、水野さん。御用はなんでしょう? 遊びにきた訳ではないのですよね」
「せっかちじゃなぁ。まあ良い。実は詩天で奇妙な敵が現れたのでな。その報告に来たのよ」
武徳の言う奇妙な敵――それは先日、詩天の大霊寺で確認された狂気の歪虚についてだ。
東方を活動地域にしている歪虚は憤怒だった。
こちらの敵であれば武徳も気にする事はないのだが、聞けば狂気はリアルブルーに由来する敵になる。
何故、狂気が突如現れたのか。
その事が気になってヴェルナーの元を訪れたようだ。
「その情報はこちらにも入っています。詩天だけではありません。リゼリオや他の地域でも確認されています。現在、ハンターズソサエティや連合軍で調査を進めております」
「そうじゃったか。詩天だけではなかったか」
「水野殿、その話はなんだ? 私は初耳だ? まさか……幕府に報告していない事件があったのか?」
狂気の登場に驚く香。
不信に思いながら、武徳へ迫る。
「いや、そうじゃったかな? 忘れておった。すまんのう」
「その言葉。信じて良いのか?」
香は不信感を抱いているようだ。
そんな武徳と香のやり取りを前にして、ヴェルナーがある事を思い付く。
「……あ。水野さんがいらっしゃったのですから、水野さんにお願いするのも良いですね」
「なんじゃ? わしに願いとな?」
「実は、その狂気がこのノアーラ・クンタウ付近にも姿を現したのです。この要塞の北、森の中にある小高い山があるのですが、ここに狂気の一団が集まっているという報告がありました」
ノアーラ・クンタウ北。聖地と中間地点に存在する森に『タレス台地』と呼ばれる場所がある。ここに狂気の一団が集まりつつあるという情報がヴェルナーの元へもたらされたのだ。
ヴェルナーがさらに言葉を続ける。
「タレス台地からノアーラ・クンタウまでは歩いて半日程度。もし、その一団がノアーラ・クンタウへ襲ってくれば対応せねばなりません」
「なるほど。狂気を撃退しろという訳か」
「はい。水野さんにはハンターを指揮していただきたいのです。お願いしても宜しいですか?」
「指揮ねぇ。そう言いながら、おぬし……わしがどう料理するのか見定めようというのではないか?」
武徳は直感的に察した――自分が試されている事に。
ヴェルナーなら帝国や連合軍、辺境の戦士を集めれば対処できるだろう。それでも武徳に任せるという事は、狂気をどのように相手取るか注視しようとしているのだ。
「いえいえ。誤解ですよ」
「どうだかな」
「水野殿! 何を疑われるか!
ヴェルナー殿が困っておいでなのだ。西方諸国も我らの仲間! 我々は武士としてそれに答える義務がある!」
二人の関係を知らない香が、大声を上げながら口を挟んできた。
近くに居ながらの大声で、思わず武徳は耳を塞ぐ。
「大声を出すな。聞こえとるわい」
「ならば、答えは一つ。我らは刀を手に戦うべきだ!」
真っ直ぐな性格の香には、駆け引きという言葉はない。
困っている者があるなら、武士として戦う覚悟なのだ。
「致し方あるまい。今回はわしらが何とかしよう。まったく、とんだお目付役じゃな」
面倒そうな武徳は、大きくため息をついた。
●
「あれが狂気か」
タレス台地に集う浮遊型狂気を、香は台地の下から隠れて確認していた。
既に台地周辺には多くの浮遊型狂気が集結。人型狂気の姿も確認できており、今も敵は増加し続けている。
「ふむ。こやつら、性懲りも無く現れておるな」
「水野殿、あやつ等を見ているだけで何か背筋が寒くなるのだが……」
「臆したか、楠木殿?」
「な、何を申すか! 臆してなどおらん!」
慌てて否定する楠木。
その姿を見て、武徳は思わず鼻で笑う。
「大声を出すな。さっきも申したぞ」
「す、すまぬ。それより策を聞かせてもらえぬか?」
「分かった」
武徳は地図を開いた。
ヴェルナーからもらったタレス台地周辺の地図だ。
「我らはこの南側におる。ここから全員で台地に攻め上がっても、敵に狙い撃ちされるだけじゃ。
この為、敵を台地から引き摺り降ろす」
「どうやるのだ?」
「まず、南から攻めて敵を誘き寄せる。先日、大霊寺での戦いで奴らは人間を見ればまっすぐ襲ってくるのが分かっておる。ここでおぬしとハンターが可能な限り敵を惹き付けるのじゃ。
そして敵が台地から降りたところを見計らって側面より別働部隊が左右から急襲。一気に敵を叩くのじゃ」
武徳は地図で順を追って説明していた。
このまま台地を登れば激突は必至。しかも正面から狂気と戦っては被害は拡大する。被害を最小限に食い止める為には、有利な状況で戦うべきだ。
「ハンターと共に久しぶりの一戦。滾ってきた!」
気合い充分の香。
一方、武徳は軽く笑みを浮かべる。
「この戦い、一気に終わらせるぞ」
ノアーラ・クンタウの執務室で、ヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)は報告を見てそう呟いた。
独り言。
聞く者がいない言葉を口にした後、ヴェルナーは厄介な状況を前に対策を思案し始める。
「邪魔するぞ」
そこへ現れたのは詩天からきた水野 武徳(kz0196)。
その背後には楠木家の楠木 香(kz0140)の姿もあった。
二人は扉をノックもせずに入室。本来であれば苦言も呈されるのだが――。
「ノックもなし、ですか。まあ、わざとでしょうから気にしません」
ヴェルナーは一切表情を変えずに言い放った。
武徳は先日東西交流会で西方の文化に触れている。
その際、ノックの事も知っていたはずだ。
それでも敢えて無視したのは、ヴェルナーを怒らそうとしたのだろう。
相手を怒らせて出方を見るのは武徳の常套手段である。
「そんな事はないぞ? わしがそのノックとやらを忘れていたのかもしれん」
「東方でも相手が話している部屋に何も言わずに入る事はしないと思いますが?」
「そうなのか? 水野殿、まさかそのノックとやらを部屋に入る前にするのが礼儀だったのか?」
ヴェルナーの言葉に続いて香が口を挟んできた。
二方から攻められる武徳は思わず、面倒そうな顔を浮かべる。
「おや、話が合いますね。あなたは?」
「失礼しました。私はエトファリカ連邦武家四十八家門二十位、楠木家の家長で楠木香と申します」
実は、西方に来たのは初めての香。
西方で勝手な振る舞いを続ける武徳を懸念した香が、勝手にお目付役として同行。だが、初めての西方でやや緊張した面持ちだ。
「ご丁寧にありがとうございます。私はこのノアーラ・クンタウを預かるヴェルナー・ブロスフェルトと申します。
で、水野さん。御用はなんでしょう? 遊びにきた訳ではないのですよね」
「せっかちじゃなぁ。まあ良い。実は詩天で奇妙な敵が現れたのでな。その報告に来たのよ」
武徳の言う奇妙な敵――それは先日、詩天の大霊寺で確認された狂気の歪虚についてだ。
東方を活動地域にしている歪虚は憤怒だった。
こちらの敵であれば武徳も気にする事はないのだが、聞けば狂気はリアルブルーに由来する敵になる。
何故、狂気が突如現れたのか。
その事が気になってヴェルナーの元を訪れたようだ。
「その情報はこちらにも入っています。詩天だけではありません。リゼリオや他の地域でも確認されています。現在、ハンターズソサエティや連合軍で調査を進めております」
「そうじゃったか。詩天だけではなかったか」
「水野殿、その話はなんだ? 私は初耳だ? まさか……幕府に報告していない事件があったのか?」
狂気の登場に驚く香。
不信に思いながら、武徳へ迫る。
「いや、そうじゃったかな? 忘れておった。すまんのう」
「その言葉。信じて良いのか?」
香は不信感を抱いているようだ。
そんな武徳と香のやり取りを前にして、ヴェルナーがある事を思い付く。
「……あ。水野さんがいらっしゃったのですから、水野さんにお願いするのも良いですね」
「なんじゃ? わしに願いとな?」
「実は、その狂気がこのノアーラ・クンタウ付近にも姿を現したのです。この要塞の北、森の中にある小高い山があるのですが、ここに狂気の一団が集まっているという報告がありました」
ノアーラ・クンタウ北。聖地と中間地点に存在する森に『タレス台地』と呼ばれる場所がある。ここに狂気の一団が集まりつつあるという情報がヴェルナーの元へもたらされたのだ。
ヴェルナーがさらに言葉を続ける。
「タレス台地からノアーラ・クンタウまでは歩いて半日程度。もし、その一団がノアーラ・クンタウへ襲ってくれば対応せねばなりません」
「なるほど。狂気を撃退しろという訳か」
「はい。水野さんにはハンターを指揮していただきたいのです。お願いしても宜しいですか?」
「指揮ねぇ。そう言いながら、おぬし……わしがどう料理するのか見定めようというのではないか?」
武徳は直感的に察した――自分が試されている事に。
ヴェルナーなら帝国や連合軍、辺境の戦士を集めれば対処できるだろう。それでも武徳に任せるという事は、狂気をどのように相手取るか注視しようとしているのだ。
「いえいえ。誤解ですよ」
「どうだかな」
「水野殿! 何を疑われるか!
ヴェルナー殿が困っておいでなのだ。西方諸国も我らの仲間! 我々は武士としてそれに答える義務がある!」
二人の関係を知らない香が、大声を上げながら口を挟んできた。
近くに居ながらの大声で、思わず武徳は耳を塞ぐ。
「大声を出すな。聞こえとるわい」
「ならば、答えは一つ。我らは刀を手に戦うべきだ!」
真っ直ぐな性格の香には、駆け引きという言葉はない。
困っている者があるなら、武士として戦う覚悟なのだ。
「致し方あるまい。今回はわしらが何とかしよう。まったく、とんだお目付役じゃな」
面倒そうな武徳は、大きくため息をついた。
●
「あれが狂気か」
タレス台地に集う浮遊型狂気を、香は台地の下から隠れて確認していた。
既に台地周辺には多くの浮遊型狂気が集結。人型狂気の姿も確認できており、今も敵は増加し続けている。
「ふむ。こやつら、性懲りも無く現れておるな」
「水野殿、あやつ等を見ているだけで何か背筋が寒くなるのだが……」
「臆したか、楠木殿?」
「な、何を申すか! 臆してなどおらん!」
慌てて否定する楠木。
その姿を見て、武徳は思わず鼻で笑う。
「大声を出すな。さっきも申したぞ」
「す、すまぬ。それより策を聞かせてもらえぬか?」
「分かった」
武徳は地図を開いた。
ヴェルナーからもらったタレス台地周辺の地図だ。
「我らはこの南側におる。ここから全員で台地に攻め上がっても、敵に狙い撃ちされるだけじゃ。
この為、敵を台地から引き摺り降ろす」
「どうやるのだ?」
「まず、南から攻めて敵を誘き寄せる。先日、大霊寺での戦いで奴らは人間を見ればまっすぐ襲ってくるのが分かっておる。ここでおぬしとハンターが可能な限り敵を惹き付けるのじゃ。
そして敵が台地から降りたところを見計らって側面より別働部隊が左右から急襲。一気に敵を叩くのじゃ」
武徳は地図で順を追って説明していた。
このまま台地を登れば激突は必至。しかも正面から狂気と戦っては被害は拡大する。被害を最小限に食い止める為には、有利な状況で戦うべきだ。
「ハンターと共に久しぶりの一戦。滾ってきた!」
気合い充分の香。
一方、武徳は軽く笑みを浮かべる。
「この戦い、一気に終わらせるぞ」
リプレイ本文
辺境――要塞『ノアーラ・クンタウ』の北に位置するタレス台地。
台地と呼称するには非常に奇妙な地形であった。
山のような地形でありながら、山頂部は平ら。台地と呼ぶにはかなり不格好な地形である。
何故、その場所がタレス台地と呼ばれているかは分からない。
ただ、はっきりしているのは――この山頂部に狂気の歪虚が集っている事だ。
「台地とは、地形が台のように見える場所。そう記憶しているのだけれど……。台地と表現するには大分異なると思考するわ。上が平らで台に見える、と言われれば程度の苦しいラインかしら。歪虚もよくこんな場所に集まったわね」
サフィーア(ka6909)は、少し離れた場所からタレス台地を見つめていた。
思考と呼ばれるものが希薄な狂気眷属の雑魔がタレス台地に現れた理由は分からない。
だが、あの敵が一団となってノアーラ・クンタウを襲撃される訳にはいかない。
特に狂気は見た者に恐怖を与える特性がある。ハンターには耐性があるが、多数の一般人が目にすれば騒ぎは拡大する事になる。
「そんな事を言ってもわしも知らん。何せ、こんな場所は初めてじゃからな」
三条家軍師の水野 武徳(kz0196)の声からは、面倒だという感情が漏れていた。
武徳は東方――エトファリカ連邦国の詩天と呼ばれる地域から来ていた。東方でも狂気の歪虚が確認された事を懸念して西方へやってきたのだが、再び狂気の歪虚と戦う羽目になるとは考えていなかったようだ。
「水野殿! ここが何処であろうと歪虚を見つけて放置とは、許されませぬ。ここで我らが見過ごせば、必ず西方の人々に仇を為す……」
「ああ、分かった分かった。耳元で怒鳴るのはよせ」
武徳の一言を聞いて武徳に物申すのは楠木 香(kz0140)。
薙刀を手にする女性武将ではあるが、これでも武家四十八家門二十位の楠木家家長である。幕府から不信感を抱かれる武徳を監視する為、共に西方へ来る事になったようだが、香の方は武徳と違って士気は高いようだ。
「武徳はんは、狂気の歪虚さんにご縁があるんやろか。こないに歪虚がぎょうざんおったら、よう散歩も出来ひんね」
花瑠璃(ka6989)は、先日武徳が戦った大霊寺の奪還戦において参加したハンターだ。
つまり、武徳が狂気の歪虚と遭遇した時に花瑠璃も同じ場所にいた。まさか再び狂気の歪虚に対して武徳と戦うとは思っていなかった。
「嫌な縁じゃな。まったく、勘弁願いたい。
……さて、皆の衆。今から策を伝える」
武徳は筆で描かれたタレス台地周辺の地図を広げた。
おそらく、武徳自身が周囲を調べて作った即興の地図なのだろう。
武徳の言葉に促されてハンター達は地図の周囲へと集まってくる。
「敵と戦うにはあの場所は厄介じゃ。まず、あの場所から敵を引き離す必要がある。
楠木殿、ミヨ、ファリンは囮となって敵をあの場所から誘引してもらう」
「分かった」
「本当に、どうしてあんな所にいるのでしょうね? ……何処にいようと戦うだけなのですが、不思議です」
香の後に続いてファリン(ka6844)が言葉を続けた。
ファリンが不思議がってはいるが、狂気に理屈は通じないのかも知れない。ならば、目の前の指示に従って戦うしかないだろう。
「そして敵を引き摺り出して伏兵で倒すのか。俗に言う『TSURINOBUSE』って奴だろ?
なら、死ぬ気でやらねぇとな」
ミヨ・アガタ(ka0247)の言葉に武徳は少々驚いたようだ。
ハンターから具体的な策の名前が出るとは思わなかったようだ。
「ほう。おぬし、知っておるのか」
「リアルブルーでも薩摩の島津って連中が得意だったって聞いたな。まあ、何にしてもこっちはやるべき事をやるだけだ」
ミヨには、目的がある。
その目的達成の為には、依頼を確実に成功させて報酬を手にする必要がある。
仮に別の策が準備されていたとしても、ミヨは与えられた役目を果たすだけだ。
「心強いな。頼りにしておるぞ。
さて、囮役がタレス台地から平地にまで来た瞬間が攻撃の機会じゃ。右翼からは楊、ユーレンが敵の集団を囲む」
「……私も尽力させていただきます。よろしくお願い致します」
楊 玲花(ka5716)が深々と頭を下げる。
囮役が誘引して敵を平地まで誘き寄せた所で、伏せていたハンターが両方から攻撃を仕掛けて三方から敵を殲滅する作戦である。
楊は、そのうちの右翼を担当する。
(何やら上の方では思惑があるようですが、命のやり取りに挑む以上、余分な事は考えずに目の前へ集中した方が良さそうですね)
心の中で楊は呟く。
依頼を受けるに当たって、依頼の発注者が思惑を持っている事は分かっていた。
だが、ハンターは依頼者の思惑に振り回される必要は無い。依頼された内容を要求以上に応えればいい。それも歪虚と命を賭して戦うのだ。細事に振り回される事無く、今は目の前の敵に集中したいところだ。
一方、同じ右翼を担当するユーレン(ka6859)は、武徳の言葉を無視して悩み続けていた。
「うーむ。我もまだまだ精進が足りぬようだ」
「おぬし、聞いておったか? おぬしは合図をしたら……」
「目の前の敵を倒せば良いのだろう? 聞いておるわ」
苦言を呈そうとした武徳に対して、ユーレンはさらっと返した。
話を聞いていた事を主張したいのだろうが、その顔は未だ暗いままだ。
「なんじゃ。何をそんなに悩んでおる?」
「一体、いつになったら持てるやら……先が長いと感じておってのう」
ユーレンが話すには、今回の依頼で大鎖鎌『死転』を持ち込めなかったのを悔やんでいるようだ。
死転を手にしていれば颯爽と右翼で奮戦するつもりだったのだが、力量不足でそれが叶わなかった。仕方なく、片手鎚「ミートハンマー」を手に依頼へ参加しているが、死転への想いが捨てきれなかったようだ。
「安心せい。今回は叶わなかったが、いずれここにいる者達は強くなる。その時は、死転を手に戦う事も出てくるじゃろう」
「そうか。そういうものかのう」
「そうじゃ。以前手を貸してくれたハンターも皆、そのような悩みを抱えておったぞ」
ユーレンを励ます武徳。
しかし、そこへ香が口を挟む。
「水野殿、時間があまり無いのではないか?」
「そうじゃ。いかん、話の続きじゃ。
左翼からはサフィーアと花瑠璃が担当じゃ。囲んで敵を撃ち漏らすな」
「はいな。任せておれやす」
武徳の言葉に機嫌良く応える花瑠璃。
今回も散歩の邪魔になる歪虚を排除する為に容赦する気はないようだ。
「サフィーアはんとうまい事やっておきます。……ね、サフィーアはん?」
「ええ。
私は『殺戮人形』、お人形はお人形らしく……歪虚はすべて殲滅してあげるわ」
オートマトンのサフィーア(ka6909)は、人形という言葉を使っただけあって顔に一切の表情を出さなかった。
敵を見れば確実に殲滅する。
敵を刈り続ける殺戮人形――殺戮という行為が自らの存在意義として疑う気配もない。 左翼として敵の前に出れば、初依頼であっても一切容赦するつもりはない。
ただひたすらに、銀霊剣「パラケルスス」を振るい続けるであろう。
「殺戮人形か。怖いのう。じゃが、わしらは間違って攻撃せんでくれ」
「効率の良い歪虚殲滅に仲間は必要不可欠。そのように考察しています」
節々にオートマトンらしさを醸し出すサフィーアに、武徳は言葉を選んでいるようだ。
以前の依頼でもオートマトンが参加した事があったが、時折見せる人間らしくない部分に武徳はいつも対応に苦慮しているようだ。嫌っているのではなく、困っているに近い。
そのうち慣れるだろう。
そう考えたサフィーアは、敢えて沈黙を守った。
「まあよい。では、間もなく刻限じゃ。
――それでは各々、抜かりなく」
●
「行くぞ……覚悟しろっ!」
香は薙刀を手に浮遊型狂気へ振り下ろした。
薙刀の重量と遠心力を乗せた刃は、宙を浮く目玉を叩き落とす。
拉げた目玉は、地面に転がってそのまま動かなくなる。
しかし、その周囲にいた狂気の歪虚は一斉に香の方へと向かって来る。
「最初から全力……手加減なしでやろうってんなら、手伝うよ」
ミヨは防性強化と攻性強化をミヨとファリンに付与する。
先が長い戦いを危惧して、二人に強化を施したのだ。
「頑張って走りましょう……これが終わったら兄様に『ばいく』を習おうかしら」
ファリンは、十文字槍「人間無骨」によるワイルドラッシュを発動。
狂気の群れに向けて繰り出される連撃。
ここで無理に倒す必要はない。人を見れば襲ってくる狂気の歪虚だが、確実に囮役に目を向けさせて誘引するのが目的だ。
「なかなかやるな」
「楠木様、あまり攻撃に集中し過ぎないで下さいね。私達の役目は別にありますから」
ファリンは香に釘を刺した。
武徳の作戦では、有利な場所に引き寄せてから殲滅を図る手筈。ここで手間取っていては、連携している他のハンターに気苦労をかけさせるだけだ。
「ああ、分かっている。後退するのだったな」
香は大きく薙刀を横に薙いだ後、斜面をゆっくりと降り始めた。
それを見てファリンも移動を開始する。
「じゃあ、こっちも軽く慣らし運転といきますか」
ミヨは魔導機械楽器「オーケストラ」を奏で始めた。
人を見れば襲ってくる習性があるのであれば、必要以上の爆音あげれば自然とこちらへ寄ってくるはずだ。
ミヨの狙いは想定通り。狂気の歪虚達はミヨに向かって移動を開始、一斉にミヨに向かって集まり始めた。
「……でも、ちょっと集まりすぎたかな?」
だが、ミヨにも想定外の事もあった。
予想よりも多くの歪虚が集まってきた為だ。一部は香やファリンにも流れているものの、集団の真ん中付近の一団が一斉にミヨへ向かって動き出したのだ。
宙を浮く事のできる相手である為、回り込んで一斉にミヨへ向かい始めたのである。
このまま行けば、ミヨが集中砲火を受ける可能性もある。
「させるかっ!」
走り込んできた香がミヨへ向かう集団へ横から薙刀の一撃を浴びせかける。
大きく振るわれた薙刀は、多数の目玉を吹き飛ばす。
ミヨを救う為でもあったが、その行為は一気に香を孤立させる。
目玉から発射されるレーザー。
それも多方向から発射されるレーザーは、香もすべてを防ぐ事はできない。
「くっ!」
レーザーが香の体に命中して、香の顔に苦悶の表情が表れる。
だが――。
「ミヨ、その武器で音を出し続けろ」
「え、本気?」
香の言葉にミヨは思わず聞き返した。
ミヨのオーケストラを奏でるという事は、今香が行った無謀とも思える行為を繰り返す事になるからだ。
しかし、香はきっぱりと断言する。
「この方法が一番早く敵を引き寄せられると判断しただけだ」
「……わかった」
ミヨは再びオーケストラを奏で始めた。
「水野様、お願いします!」
ファリンは人間無骨を大きく上へ掲げる。
それは後方にいる武徳の長弓隊への要請を意味していた。
「狙うは敵の一団。決してハンター達に当てるな」
長弓隊から放たれる多数の矢。
放物線を描きながら、次々と人型狂気へ降り注ぐ。
囮役の面々は、確実に平地へと近づいていった。
●
平地への誘引に成功した囮役の面々。
それを受けた右翼、左翼のハンター達は息を合わせて同時に飛び出した。
このタイミングは見事と言って差し支えない。
ミヨが魔導スマートフォンで右翼の楊、左翼のサフィーアと情報共有し続けていた事が大きな理由であった。
そして――ここからハンター達の攻勢が始まる。
「出番か。なら、戦い続けるだけだ」
ユーレンはセイクリッドフラッシュを乗せたミートハンマーを振り下ろす。
地面に落ちる目玉。
ハンマーの痕が目玉へしっかりと残っている。
狂気達からすれば、側面より突然ハンターが現れたのだ。対応に遅れが生じる。
奇襲は見事成功したと考えて良いだろう。
「聞くところに依れば、人型の方がより厄介との事。
ならば、厄介な敵を先に倒しておく方が、皆さんの負担を減らすことに繋がりますね」
楊は宙に符を放り投げた。
次の瞬間、符は稲妻となって人型へと落ちてくる。銃や剣を手にできる人型を危険視した楊は、風雷符で人型の狂気を狙って攻撃していた。中間距離から攻撃されるかもしれないからだ。
次々と落ちる稲妻。
その傍らでユーレンは周囲を見回す。
「逃がさない」
ユーレンは手裏剣「旋風」で、離れた目玉を狙い撃つ。
今回の策では敵を包囲する事が肝。
包囲を破られれば、逆に包囲される可能性があるからだ。ユーレンは離れた敵にも対応する為、旋風も準備していた。
だが、それは別の懸念を生み出す。
「気を付けて下さい。敵はまだまだいますから」
楊は別の符を取り出した。
桜幕符。
桜吹雪の幻影がユーレン近くの敵を襲う。周囲に気を配るという事は、注意力が散漫になる。一瞬の隙が致命的な一撃を受けるかもしれないのだ。
「ありがたい」
ユーレンは惑う目玉へ再びセイクリッドフラッシュによるミートハンマー。
渾身の一撃が目玉を次々葬り去っていく。
一方、左翼のハンター達も奮戦していた。
「ほな、行きますえ」
花瑠璃の火炎符が、人型を焼き焦がす。
黒煙を放ちながら地面へ崩れ落ちる人型。
だが、ここで手を止める訳にはいかない。
周囲にいる狂気はまだまだいるのだから。
花瑠璃は次なる符に手かける。
その傍らではサフィーアが銀霊剣「パラケルスス」を構えていた。
「『殺戮』を始めるわ」
マジックアローとファイアアローを次々と放つサフィーア。
隙を見て手近のパラケルススによる近接攻撃を忘れてはいない。
さらに――。
「逃がさないわ。あなた達はここで消えるの。
跡形もなく、完全に」
逃れようとする狂気の前に、アースウォールが行く手を阻む。
逃げ場を失い、惑う浮遊型。
その間にもサフィーアは、一体一体確実に倒していく。
一体たりとも逃がさない。
まさに『殺戮人形』と称するに相応しい行動だ。
「よう気張りはりますなぁ」
「そんな事はないわ。ただ、敵を倒しているだけ」
楽しげな花瑠璃と、淡々と『作業を繰り返す』サフィーア。
気付けば二人の前にいた狂気の群も、次々と倒されていった。
●
狂気は四散。
無事ハンターによって撃退されていった。
数体逃げていったものもいるが、これだけ派手に倒されれば狂気も寄ってこないだろう。
「……だそうだ。これで満足かな?」
元々の依頼発案者であるヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)へ報告に来た武徳。
してやったり、という笑みを隠す気もないようだ。
「そうですか。それは何よりです」
「これは貸しじゃからな?」
「構いません。
それより、西方で狂気が現れ出したのかが気になります。リアルブルーで一体何が……」
台地と呼称するには非常に奇妙な地形であった。
山のような地形でありながら、山頂部は平ら。台地と呼ぶにはかなり不格好な地形である。
何故、その場所がタレス台地と呼ばれているかは分からない。
ただ、はっきりしているのは――この山頂部に狂気の歪虚が集っている事だ。
「台地とは、地形が台のように見える場所。そう記憶しているのだけれど……。台地と表現するには大分異なると思考するわ。上が平らで台に見える、と言われれば程度の苦しいラインかしら。歪虚もよくこんな場所に集まったわね」
サフィーア(ka6909)は、少し離れた場所からタレス台地を見つめていた。
思考と呼ばれるものが希薄な狂気眷属の雑魔がタレス台地に現れた理由は分からない。
だが、あの敵が一団となってノアーラ・クンタウを襲撃される訳にはいかない。
特に狂気は見た者に恐怖を与える特性がある。ハンターには耐性があるが、多数の一般人が目にすれば騒ぎは拡大する事になる。
「そんな事を言ってもわしも知らん。何せ、こんな場所は初めてじゃからな」
三条家軍師の水野 武徳(kz0196)の声からは、面倒だという感情が漏れていた。
武徳は東方――エトファリカ連邦国の詩天と呼ばれる地域から来ていた。東方でも狂気の歪虚が確認された事を懸念して西方へやってきたのだが、再び狂気の歪虚と戦う羽目になるとは考えていなかったようだ。
「水野殿! ここが何処であろうと歪虚を見つけて放置とは、許されませぬ。ここで我らが見過ごせば、必ず西方の人々に仇を為す……」
「ああ、分かった分かった。耳元で怒鳴るのはよせ」
武徳の一言を聞いて武徳に物申すのは楠木 香(kz0140)。
薙刀を手にする女性武将ではあるが、これでも武家四十八家門二十位の楠木家家長である。幕府から不信感を抱かれる武徳を監視する為、共に西方へ来る事になったようだが、香の方は武徳と違って士気は高いようだ。
「武徳はんは、狂気の歪虚さんにご縁があるんやろか。こないに歪虚がぎょうざんおったら、よう散歩も出来ひんね」
花瑠璃(ka6989)は、先日武徳が戦った大霊寺の奪還戦において参加したハンターだ。
つまり、武徳が狂気の歪虚と遭遇した時に花瑠璃も同じ場所にいた。まさか再び狂気の歪虚に対して武徳と戦うとは思っていなかった。
「嫌な縁じゃな。まったく、勘弁願いたい。
……さて、皆の衆。今から策を伝える」
武徳は筆で描かれたタレス台地周辺の地図を広げた。
おそらく、武徳自身が周囲を調べて作った即興の地図なのだろう。
武徳の言葉に促されてハンター達は地図の周囲へと集まってくる。
「敵と戦うにはあの場所は厄介じゃ。まず、あの場所から敵を引き離す必要がある。
楠木殿、ミヨ、ファリンは囮となって敵をあの場所から誘引してもらう」
「分かった」
「本当に、どうしてあんな所にいるのでしょうね? ……何処にいようと戦うだけなのですが、不思議です」
香の後に続いてファリン(ka6844)が言葉を続けた。
ファリンが不思議がってはいるが、狂気に理屈は通じないのかも知れない。ならば、目の前の指示に従って戦うしかないだろう。
「そして敵を引き摺り出して伏兵で倒すのか。俗に言う『TSURINOBUSE』って奴だろ?
なら、死ぬ気でやらねぇとな」
ミヨ・アガタ(ka0247)の言葉に武徳は少々驚いたようだ。
ハンターから具体的な策の名前が出るとは思わなかったようだ。
「ほう。おぬし、知っておるのか」
「リアルブルーでも薩摩の島津って連中が得意だったって聞いたな。まあ、何にしてもこっちはやるべき事をやるだけだ」
ミヨには、目的がある。
その目的達成の為には、依頼を確実に成功させて報酬を手にする必要がある。
仮に別の策が準備されていたとしても、ミヨは与えられた役目を果たすだけだ。
「心強いな。頼りにしておるぞ。
さて、囮役がタレス台地から平地にまで来た瞬間が攻撃の機会じゃ。右翼からは楊、ユーレンが敵の集団を囲む」
「……私も尽力させていただきます。よろしくお願い致します」
楊 玲花(ka5716)が深々と頭を下げる。
囮役が誘引して敵を平地まで誘き寄せた所で、伏せていたハンターが両方から攻撃を仕掛けて三方から敵を殲滅する作戦である。
楊は、そのうちの右翼を担当する。
(何やら上の方では思惑があるようですが、命のやり取りに挑む以上、余分な事は考えずに目の前へ集中した方が良さそうですね)
心の中で楊は呟く。
依頼を受けるに当たって、依頼の発注者が思惑を持っている事は分かっていた。
だが、ハンターは依頼者の思惑に振り回される必要は無い。依頼された内容を要求以上に応えればいい。それも歪虚と命を賭して戦うのだ。細事に振り回される事無く、今は目の前の敵に集中したいところだ。
一方、同じ右翼を担当するユーレン(ka6859)は、武徳の言葉を無視して悩み続けていた。
「うーむ。我もまだまだ精進が足りぬようだ」
「おぬし、聞いておったか? おぬしは合図をしたら……」
「目の前の敵を倒せば良いのだろう? 聞いておるわ」
苦言を呈そうとした武徳に対して、ユーレンはさらっと返した。
話を聞いていた事を主張したいのだろうが、その顔は未だ暗いままだ。
「なんじゃ。何をそんなに悩んでおる?」
「一体、いつになったら持てるやら……先が長いと感じておってのう」
ユーレンが話すには、今回の依頼で大鎖鎌『死転』を持ち込めなかったのを悔やんでいるようだ。
死転を手にしていれば颯爽と右翼で奮戦するつもりだったのだが、力量不足でそれが叶わなかった。仕方なく、片手鎚「ミートハンマー」を手に依頼へ参加しているが、死転への想いが捨てきれなかったようだ。
「安心せい。今回は叶わなかったが、いずれここにいる者達は強くなる。その時は、死転を手に戦う事も出てくるじゃろう」
「そうか。そういうものかのう」
「そうじゃ。以前手を貸してくれたハンターも皆、そのような悩みを抱えておったぞ」
ユーレンを励ます武徳。
しかし、そこへ香が口を挟む。
「水野殿、時間があまり無いのではないか?」
「そうじゃ。いかん、話の続きじゃ。
左翼からはサフィーアと花瑠璃が担当じゃ。囲んで敵を撃ち漏らすな」
「はいな。任せておれやす」
武徳の言葉に機嫌良く応える花瑠璃。
今回も散歩の邪魔になる歪虚を排除する為に容赦する気はないようだ。
「サフィーアはんとうまい事やっておきます。……ね、サフィーアはん?」
「ええ。
私は『殺戮人形』、お人形はお人形らしく……歪虚はすべて殲滅してあげるわ」
オートマトンのサフィーア(ka6909)は、人形という言葉を使っただけあって顔に一切の表情を出さなかった。
敵を見れば確実に殲滅する。
敵を刈り続ける殺戮人形――殺戮という行為が自らの存在意義として疑う気配もない。 左翼として敵の前に出れば、初依頼であっても一切容赦するつもりはない。
ただひたすらに、銀霊剣「パラケルスス」を振るい続けるであろう。
「殺戮人形か。怖いのう。じゃが、わしらは間違って攻撃せんでくれ」
「効率の良い歪虚殲滅に仲間は必要不可欠。そのように考察しています」
節々にオートマトンらしさを醸し出すサフィーアに、武徳は言葉を選んでいるようだ。
以前の依頼でもオートマトンが参加した事があったが、時折見せる人間らしくない部分に武徳はいつも対応に苦慮しているようだ。嫌っているのではなく、困っているに近い。
そのうち慣れるだろう。
そう考えたサフィーアは、敢えて沈黙を守った。
「まあよい。では、間もなく刻限じゃ。
――それでは各々、抜かりなく」
●
「行くぞ……覚悟しろっ!」
香は薙刀を手に浮遊型狂気へ振り下ろした。
薙刀の重量と遠心力を乗せた刃は、宙を浮く目玉を叩き落とす。
拉げた目玉は、地面に転がってそのまま動かなくなる。
しかし、その周囲にいた狂気の歪虚は一斉に香の方へと向かって来る。
「最初から全力……手加減なしでやろうってんなら、手伝うよ」
ミヨは防性強化と攻性強化をミヨとファリンに付与する。
先が長い戦いを危惧して、二人に強化を施したのだ。
「頑張って走りましょう……これが終わったら兄様に『ばいく』を習おうかしら」
ファリンは、十文字槍「人間無骨」によるワイルドラッシュを発動。
狂気の群れに向けて繰り出される連撃。
ここで無理に倒す必要はない。人を見れば襲ってくる狂気の歪虚だが、確実に囮役に目を向けさせて誘引するのが目的だ。
「なかなかやるな」
「楠木様、あまり攻撃に集中し過ぎないで下さいね。私達の役目は別にありますから」
ファリンは香に釘を刺した。
武徳の作戦では、有利な場所に引き寄せてから殲滅を図る手筈。ここで手間取っていては、連携している他のハンターに気苦労をかけさせるだけだ。
「ああ、分かっている。後退するのだったな」
香は大きく薙刀を横に薙いだ後、斜面をゆっくりと降り始めた。
それを見てファリンも移動を開始する。
「じゃあ、こっちも軽く慣らし運転といきますか」
ミヨは魔導機械楽器「オーケストラ」を奏で始めた。
人を見れば襲ってくる習性があるのであれば、必要以上の爆音あげれば自然とこちらへ寄ってくるはずだ。
ミヨの狙いは想定通り。狂気の歪虚達はミヨに向かって移動を開始、一斉にミヨに向かって集まり始めた。
「……でも、ちょっと集まりすぎたかな?」
だが、ミヨにも想定外の事もあった。
予想よりも多くの歪虚が集まってきた為だ。一部は香やファリンにも流れているものの、集団の真ん中付近の一団が一斉にミヨへ向かって動き出したのだ。
宙を浮く事のできる相手である為、回り込んで一斉にミヨへ向かい始めたのである。
このまま行けば、ミヨが集中砲火を受ける可能性もある。
「させるかっ!」
走り込んできた香がミヨへ向かう集団へ横から薙刀の一撃を浴びせかける。
大きく振るわれた薙刀は、多数の目玉を吹き飛ばす。
ミヨを救う為でもあったが、その行為は一気に香を孤立させる。
目玉から発射されるレーザー。
それも多方向から発射されるレーザーは、香もすべてを防ぐ事はできない。
「くっ!」
レーザーが香の体に命中して、香の顔に苦悶の表情が表れる。
だが――。
「ミヨ、その武器で音を出し続けろ」
「え、本気?」
香の言葉にミヨは思わず聞き返した。
ミヨのオーケストラを奏でるという事は、今香が行った無謀とも思える行為を繰り返す事になるからだ。
しかし、香はきっぱりと断言する。
「この方法が一番早く敵を引き寄せられると判断しただけだ」
「……わかった」
ミヨは再びオーケストラを奏で始めた。
「水野様、お願いします!」
ファリンは人間無骨を大きく上へ掲げる。
それは後方にいる武徳の長弓隊への要請を意味していた。
「狙うは敵の一団。決してハンター達に当てるな」
長弓隊から放たれる多数の矢。
放物線を描きながら、次々と人型狂気へ降り注ぐ。
囮役の面々は、確実に平地へと近づいていった。
●
平地への誘引に成功した囮役の面々。
それを受けた右翼、左翼のハンター達は息を合わせて同時に飛び出した。
このタイミングは見事と言って差し支えない。
ミヨが魔導スマートフォンで右翼の楊、左翼のサフィーアと情報共有し続けていた事が大きな理由であった。
そして――ここからハンター達の攻勢が始まる。
「出番か。なら、戦い続けるだけだ」
ユーレンはセイクリッドフラッシュを乗せたミートハンマーを振り下ろす。
地面に落ちる目玉。
ハンマーの痕が目玉へしっかりと残っている。
狂気達からすれば、側面より突然ハンターが現れたのだ。対応に遅れが生じる。
奇襲は見事成功したと考えて良いだろう。
「聞くところに依れば、人型の方がより厄介との事。
ならば、厄介な敵を先に倒しておく方が、皆さんの負担を減らすことに繋がりますね」
楊は宙に符を放り投げた。
次の瞬間、符は稲妻となって人型へと落ちてくる。銃や剣を手にできる人型を危険視した楊は、風雷符で人型の狂気を狙って攻撃していた。中間距離から攻撃されるかもしれないからだ。
次々と落ちる稲妻。
その傍らでユーレンは周囲を見回す。
「逃がさない」
ユーレンは手裏剣「旋風」で、離れた目玉を狙い撃つ。
今回の策では敵を包囲する事が肝。
包囲を破られれば、逆に包囲される可能性があるからだ。ユーレンは離れた敵にも対応する為、旋風も準備していた。
だが、それは別の懸念を生み出す。
「気を付けて下さい。敵はまだまだいますから」
楊は別の符を取り出した。
桜幕符。
桜吹雪の幻影がユーレン近くの敵を襲う。周囲に気を配るという事は、注意力が散漫になる。一瞬の隙が致命的な一撃を受けるかもしれないのだ。
「ありがたい」
ユーレンは惑う目玉へ再びセイクリッドフラッシュによるミートハンマー。
渾身の一撃が目玉を次々葬り去っていく。
一方、左翼のハンター達も奮戦していた。
「ほな、行きますえ」
花瑠璃の火炎符が、人型を焼き焦がす。
黒煙を放ちながら地面へ崩れ落ちる人型。
だが、ここで手を止める訳にはいかない。
周囲にいる狂気はまだまだいるのだから。
花瑠璃は次なる符に手かける。
その傍らではサフィーアが銀霊剣「パラケルスス」を構えていた。
「『殺戮』を始めるわ」
マジックアローとファイアアローを次々と放つサフィーア。
隙を見て手近のパラケルススによる近接攻撃を忘れてはいない。
さらに――。
「逃がさないわ。あなた達はここで消えるの。
跡形もなく、完全に」
逃れようとする狂気の前に、アースウォールが行く手を阻む。
逃げ場を失い、惑う浮遊型。
その間にもサフィーアは、一体一体確実に倒していく。
一体たりとも逃がさない。
まさに『殺戮人形』と称するに相応しい行動だ。
「よう気張りはりますなぁ」
「そんな事はないわ。ただ、敵を倒しているだけ」
楽しげな花瑠璃と、淡々と『作業を繰り返す』サフィーア。
気付けば二人の前にいた狂気の群も、次々と倒されていった。
●
狂気は四散。
無事ハンターによって撃退されていった。
数体逃げていったものもいるが、これだけ派手に倒されれば狂気も寄ってこないだろう。
「……だそうだ。これで満足かな?」
元々の依頼発案者であるヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)へ報告に来た武徳。
してやったり、という笑みを隠す気もないようだ。
「そうですか。それは何よりです」
「これは貸しじゃからな?」
「構いません。
それより、西方で狂気が現れ出したのかが気になります。リアルブルーで一体何が……」
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/10/01 12:34:02 |
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相談卓 花瑠璃(ka6989) 鬼|20才|女性|符術師(カードマスター) |
最終発言 2017/10/03 16:44:06 |