• 陶曲

【陶曲】呪いの砂雨

マスター:真柄葉

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~5人
サポート
0~3人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/10/05 07:30
完成日
2017/10/17 01:04

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

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オープニング

●同盟領西部のとある渓谷
「オーライ、オーライ!!」
 渓谷に野太い声が響き渡った。
「ゆっくりだ、ゆっくり降ろせよ!!」
 薄いシャツをびっしょりと汗に濡らし、屈強な男達が何mもある木材を組み上げていく。
 10段にもなろうかというこの本格的な木の足場は、とあるものを掘りだすために組まれていた。
「傷つけるなよ! 慎重に周りを削っていくんだ!!」
 何人もの男達がつるはしやシャベルを手に、堅く固まった砂岩層をがりがりと削り取っていく。

「進捗はどうだ?」
 炎天下の中、汗を流す工作兵の元に、杖を突いた老齢な偉丈夫が現れた。
「こ、これは元す――いつッ!?」
「ここに元帥はおらんぞ」
「し、失礼しましたっ! 名誉大将閣――うぐぉおっ!?」
「退役兵に閣下はいらん」
「も、申し訳ありません……」
 歴戦の拳骨を何度も叩き落とされた兵士は目から熱いものを流しながらも、大層な肩書を持ったこの老人イザイア・バッシ(kz0104)に現場の進捗を事細かに説明していく。
「ふむ……やはり同型か」
「はい、多少の差異はあれ、各地で発見されている『腕』と同じものと考えられます。素材――といっても何で出来ているかまだ解明できていないのですが、それも同じであるだろうとの事です」
「であろう、か。詳しい話が聞きたいな。魔術師協会の人間はどこだ?」
「そ、それが……」
「どうした?」
「はい、魔術師協会から派遣されてきた術師の方は、『腕』発見と同時に報告が必要だと、ヴァリオスに戻られました」
 自分が悪いわけでもないのに、兵士は申し訳なさそうにそう答えた。
「おいおい、頼んだのはそっちだろう。職場放棄は軍法会議もんだぞ」
「なにぶん相手は魔術師の方ですので……」
「しかし、こんな辺鄙な場所に老人を出張らせて……こりゃ、ジルダのばばぁには追加請求せにゃならんな」
 魔術師協会の長たる人物の名を出し、ばばぁと言ってのける人間などこの広い同盟領においてもこの老人だけだろう。
 イザイアは申し訳なさそうに首を垂れる兵士の頭を乱暴になでつけると、再び足場の上へ視線を遣った。
「うん? 見慣れん顔が居るな。新兵か?」
「あ、いえ、あの方々はハンターズソサエティからの応援で作業を手助けしてくれています」
「ほう、そりゃ頼もしいな」
「同盟軍も最近の歪虚騒ぎで人手が不足していますから……」
 比較的動きの鈍かった同盟領内の歪虚達が、ここ数カ月、活性化している。
 同盟領を守る同盟軍も各地に現れた歪虚に対応する為、様々な場所へ派兵していた。
「そんなクソ忙しい時に穴掘りを手伝えとはな。あのばばぁ、今度会ったら覚えとけよ」
 そう言ってイザイアは、砂岩から顔を覗かせる巨大な『腕』に視線を向ける。

●渓谷の端
『おや、何やら賑やかですねぇ』
 片眼を閉じ、四本の腕を器用に組んだ長身が彼方の空へ顔を向けた。
『人間どもが集まって何を――なんと、あれはまさか』
 思わず閉じていた片目を開き、黄金色の瞳が見開かれる。
『……フフフ、道理で胸の奥がざわめくはずですねぇ』
 フフフとほくそ笑んだクラーレ・クラーラ(kz0225)は、再び片眼を閉じると遥か彼方へ意識を飛ばす。

(な、なんでこんな所に歪虚がいるの……!?)
 クラーレの立っている場所の直下。
 崖下のえぐれた場所に身を潜めた一人の女兵士が、無意識に上がる鼓動を必死になだめようとしていた。
(何とかこの事を報告しなくちゃ……)
 女兵士は定期連絡の為にポルトワールとこの現場を週に一度往復している。
 その道中、まだ強い日差しを避け足を休めようと岩陰に入った時、頭上から聞こえ漏れた声に咄嗟に息を殺したのだ。
(も、もしかして、今発掘してるモノを狙って……?)
 崖上からひしひしと感じる圧倒的な威圧感に、とめどなく流れる冷や汗を拭いながら女兵士は耳を澄ませる。

『しかし、いつの間に復活したのやら。カッツオ辺りがいらぬ世話でも焼いたのでしょうかねぇ。まったく、そのまま寝かせていればいいものを』
 組んだ四本の腕を解いたクラーレ。
『しかし……動くこともできず、ただ人間どもの手に落ちるだけ。なんとも滑稽じゃありませんか』
 クククと口元を小さく震わせるクラーレは、閉じていた片目を開いた。
『まぁ、特に回収する義理はありませんが……腐っても御方の一部。利用させてもらいましょうかねぇ。ハンターの方々の活躍を彩るいい餌として』
 指で顎の輪郭をなぞりながらクラーレは独り言ちる。
『とは言ったものの……この辺りには大して『素材』になりそうなものがありませんねぇ』
 辺りを見渡すクラーレはどこか残念そうにそう呟いた。その目に映るのは渓谷の脇に広がるのは秋風にたなびく黄金色の小麦畑。
『仕方ありません、あれで行きますか』
 そう言って、クラーレは指を軽く鳴らした。

●現場
「落とすぞ! 下の奴、気を付けろよ!!」
 振り下ろされたつるはしがガンっと小気味の良い音を響かせ、砂岩を断層から剥がし落とした。
「一体、どんだけ埋まってるんだ……?」
 『腕』は表面に現れている部分だけで、すでに10mを超す。
 その両端はいまだ砂岩の中に埋まっており、全体像はまだ見えずにいた。
「他で見つかった中には30m位あるものもあるらしいぞ」
「はぁ? そんなにでかいのかよ。あと何m掘ればいいんだ……早くポルトワールに帰りてぇ……」
「ほら、文句言わないで掘る掘る! ハンターの人達の方がよっぽど頑張ってるじゃない!」
「へいへーい……」
 ハンター達もいつもの武器を発掘道具に持ち替え、発掘作業に汗を流す。
「それにしても……」
 作業現場の監督でもある女性士官は、部下達にハッパをかけると共に、改めて『腕』と呼ばれるものを見つめた。
 まるで大地に突き刺さる様に垂直に埋まったそれは、まるで陶器人形の体の一部のようにも見える。
「詮索するのは私達の役目じゃないわね――さぁ、もうすぐお昼よ! 気合入れなさい!」
 時計に目を遣り時間を確認した女性士官が、再度はっぱをかけた。
 そんな時だった。
 現場にけたたましく異変を知らせる銅鑼の音が響いたのは――。

リプレイ本文

●作業現場
 まるで夏の日々が舞い戻ってきたかのような好天に、作業する者達の額には粒の汗が浮かんでいた。
「もう少し右です! ――はい、止めてください!」
「りょーかい」
 崖下を覗き込む鳳城 錬介(ka6053)の指示に、ロベリア・李(ka4206)は崖上に据えられた魔導クレーンを巧みに操る。

「ざくろ達は、一分前のざくろ達より進化する、一回転すればほんの少しだけ前に進む」
 天へと向かって一直線に掲げたドリルの先端に陽光を浴びせ、時音 ざくろ(ka1250)が吠える。
「それがドリルなんだよ!!」
 まるで原動力に己の魂をあてるように、ざくろは『腕』の埋まる砂岩の層を鋭く尖ったドリルの先端を穿ち続けていた。
 一方、その横では。
「――質感は陶器……いや、磁器に近いか。大変に興味深い」
 ざくろの活躍により露わになった『腕』を眺め、エアルドフリス(ka1856)が呟いた。
「しかし、あまりにも特徴がないな……これは魔術師協会のお歴々も苦労するはずか」
 造りや質、醸し出す雰囲気など、どれも一級品の『匂い』がする。
 だが、それだけなのだ。それ以外の何も感じる事ができず、エアルドフリスはふと横に付き添う相方ジュード・エアハート(ka0410)に視線を向けた。
「ジュード、悪いがそこの文献を取って――」
 持参した古書を開こうと相方に取ってくれるよう頼んだ、そんな時だった。作業現場に異変を告げる銅鑼の音が鳴り響いた――。

●崖上
「あれは……なに? 秋風に揺らめく黄金の穂――ってわけじゃないわよね」
 ロベリアはクレーンの操縦を止め、遠方を注視した。
「……はっきりとはわかりませんが、ただの自然現象ではなさそうですね」
 同じ目標を見つめる錬介。崖上に広がっていた麦畑が丸々一つの塊となって動いているようにも見える。
「となると、答えは一つか。歪虚ね」
「この発掘物を嗅ぎつけてきたのでしょうか」
「その可能性はあるわね。このまま作業を続けるわけにはいかないわね。中断してアレを迎え撃つわよ」
「しかし、武器が……」
 と、ロベリアの提案に錬介が不安を声にする。
 発掘作業の手伝いということもあって、いつも手にしている武器類は休憩場所へと置いてきていた。
「弱音を吐いている場合じゃないよ! ここは戦場になったんだ。ざくろ達ハンターが皆を護らなくちゃならないんだよ!」
 軽装に軽武装、それでも今はこれで対処しなければならない。
 頼りなさげに見えたざくろの確固たる意志に、ロベリアと錬介は互いに視線を交えると大きく頷いた。

 しかし、ここに更なる悪い知らせが――。
『下にも湧いている。数えきれない数だ』
 その声はトランシーバーを通じて聞こえてきたシルヴェイラ(ka0726)の声だった。
「挟み撃ち、というわけですか……」
『こちらは迎撃を行いつつ、作業員の避難を優先させる』
「逃がせる場所なんてあるの……?」
『……何とかしよう』
 ざくろの問いに珍しく歯切れ悪く答えたシルヴェイラ。
「やるかやられるか、時間の問題ってわけね」
「やるかやられるかじゃないよ! やるんだ!」
「そうですね。この現状を打破してこその覚醒者です」
 二人の力強い言葉に、年長者であるロベリアは嬉しそうに頷いた。

「上は何とか抑えてくれそうだ」
 トランシーバーの通話スイッチを離し、シルヴェイラが不自然に落ち着いた声で呟く。
「そりゃあ頼もしい限りだ。こっちも気張らんとな」
「大した装備はないがな」
「はっ! 杖なんざ無くても、その気になりゃどうとでもなる!」
 シルヴェイラの言葉を否定するかのように、エアルドフリスは内なるマテリアルの本流を最大限に収束させ、蒼き火球を放った。
「ふぅむ、奴ら戦力的には大した事は無いな。守るだけなら何とかなるか……しかし、ジュードはこんな時にどこに行ったんだ」
 火球は少なくない数の人形を藁に返すも、エアルドフリスの表情は晴れない。いつの間にか姿の消えていた相棒ジュードの姿はどこにも見えなくなっていた。

●渓谷の端
『これはこれは。既にハンターの方々がいらっしゃいましたか』
 崖上から聞こえる声がどこか弾んでいるように聞こえた。
『餌などとわざわざ小細工を弄する手間が省けましたねぇ。実に結構。……しかし、折角の舞台であるというのに些か観客が少ないですねぇ』
 今度は思案しているのか。少しの時間沈黙が続く。
『――ああ、そうですね。いい考えが浮かびました。では、ハンターの皆さん、素晴らしい戦いぶりを期待いたしますよぉ』
 そう言ったかと思うと、パチンと乾いた指弾音が聞こえた。

●現場
「落ち着かんかっ!!」
 平静を失った兵士達に雷の如く怒号が降り注ぐ。
「崖下の者は足場を登れ! 急げよ!」
 兵士達は怒号の主イザイア・バッシを視界に捉えると、表情を一気に引き締め、一糸乱れぬ行動を開始した。
「流石、元・元帥閣下だな。一喝で兵が縮み上がっている。よしこちらも――おい、どうした、顔色が優れないぞ」
 イザイアの手腕に兵士達の避難誘導は不要と判断したシルヴェイラは、迎撃を受け持っていたエアルドフリスの顔色を見て驚いた。
「何でもない――いや、なんでもあるな。何だこりゃ、身体が重い」
 藁人形達との距離はゆっくりと縮まってきている。

 崖上では――。
「装着マテリアルアーマー!」
 仄かな青光がざくろの内より出でその身を包み込んだ。
「ここがお前達の火葬場だ! ……燃え尽きろ、拡散――」
 射程ギリギリ。先陣を切って突っ込んでくる藁人形に対し、ざくろは指で照準計を形作る。
「ヒート……って、ええっ!?」
 今まさに、藁人形の先頭に向け、マテリアルの灼熱を浴びせようかとした、その瞬間。
「動きが止まった……? なっ!?」
 突然、動きを止めた藁人形達は、九十度向きを変えると次々と崖下に身を投げた。
「どういう事……?」
 突如好転した崖上の戦況に、ロベリアは呆気にとられる。
「まずいですね。相手は戦力を集中させてきたようです」
「そんなっ!? 下で戦ってる二人が――うんん、逃げようとしてる兵士の人達が危ないっ!」
「はい、急いで下の援護に――」
「待って」
 崖を雪崩落ちる藁人形に倣って崖下へと向かおうとした二人を、ロベリアが止めた。
「なんで止めるんだよ、ロベリア! 急がないと」
「……なにか考えがあるんですか?」
 表情に焦りを滲ませながらも、ロベリアの次の句を待つ二人。
「わざわざ敵の土俵に踏み入る事は無いのよ。地の利はこちらにあるんだから」
 そんな二人に対しロベリアは口元に不敵な笑みを浮かべ、崖を降りていく最後の藁人形を見送った。
『下の攻勢が強まった。そちらはどうだ?』
 その時、トランシーバーから足場で奮戦するシルヴェイラの声が届く。
「こちらは好転しました。そちらの援護に向かい――ええ、はい。そうです――」
 錬介が応答し、互いの戦況を伝えていく。
「――呪い? どういうことですか……?」
 大まかな状況を報告したあった後、シルヴェイラから漏れた単語に、錬介は表情を曇らせた。
『便宜上、そう呼ぶ。あの人形を倒せば倒しただけ身体が重くなる。エアルドフリスは既にいくつか喰らった』
「そ、そんな……! それじゃ、敵を倒せないじゃないか!」
『いや、倒すことは可能だ。この呪いはどうやら移動を阻害するだけのようだ』
「それじゃ、敵を倒せるんだ……でも、動けなくなる。うーん……」
「わかったわ。こっちは何とかするから任せて」
 むむむと唸るざくろとは対照的に、気軽に返事を返したロベリア。
「ロ、ロベリア!? そんなに簡単に返事して」
「大丈夫よ。言ったでしょ、地の利はこちらにあるって」
 不安げな表情を向けてくるざくろに、ロベリアは人好きしそうな笑みを浮かべた。

「動けなくなる……。遠距離殲滅手段を持たない俺に出来ることは……」
 一方、呪いの性質と自らの能力を天秤にかけ、錬介は深く思考に沈む。

「……とはいっても、事を起こすなら呪いを受ける前に、か。下の戦況を見てもあまり時間はなさそうね。よし! ざくろ、飛べる?」
「え? 何いきなり……飛べる……?」
「そう、飛べる?」
 かくりと首をかしげるざくろに、ロベリアは視線で崖の対岸を指す。
「片側からじゃ、二人で対処してもこの谷幅すべてをカバーするのは無理よ。移動できなくなるならなおの事ね。だから――」
 と、ロベリアはスゥと息を吸い込むとざくろの瞳を真っ直ぐ見据えた。
「両崖から下を援護するわ、十字砲火よ」
「じゅ、十字砲火!?」
 ロベリアの口から突いて出た言葉に、ざくろの心がざわつく。
「で、でも、飛ぶにしても距離が……」
 発掘現場は渓谷でも谷幅が狭い場所にある。しかし、それでも50m程あるだろうか。
 流石のざくろもその距離に二の足を踏むが、ロベリアはニッとほほ笑むとクレーンのレバーを前に倒した。
「残りはたかだか20mそこそこよ。男の子だもん、飛べるわね?」
 水平まで倒され最大長に伸ばされたクレーンジブは、渓谷のほぼ中間まで伸びている。
「も、もちろんっ! このくらいの裂け目、ざくろのジェットブーツにかかれば一足飛びだよ!」
 そこまで言われれば否というわけにはいかない。
 ざくろは覚悟を決めクレーンジブに足を掛けると、一気にその細橋を駆け――飛んだ。

●両岸
「ざくろ、呪われる覚悟はできた?」
「覚悟? そんなものする必要があるの?」
 飛び移る際に何処かにぶつけたのか、少し赤くなった鼻頭を摩りながら、ざくろは平然と答える。
「必要があるのって、行動できなくなるかもしれないのよ?」
「そんなのどうってことないよ! だって、ざくろ達は『腕』を、そして何より、兵士の皆を護らなくちゃならないんだから!」
 対岸でグッと拳を握るざくろに、ロベリアはヒュゥと口笛を鳴らした。
「流石男の子ね。立派な覚悟だわ。いいわ、お姉さんも付き合ってあげる」
 見目は頼りなさそうに見えても、そこは一流のハンターとして名を上げてきたざくろ。
 ロベリアは対岸に渡った即席の相棒を頼もしそうに見つめ微笑んだ。
「ロベリアさん、ざくろさん。すみません、ここはお任せします」
 クレーン側に残っていた錬介が、定位置に着いたロベリア、そして対岸のざくろに声をかける。
「お任せって、どこに行く気よ?」
「防衛の必要がなくなったこの場所に俺の居場所はない。俺は、俺を活かせる場所へ移ります」
 そう言って錬介は二人の返事を待たずに踵を返した。

●足場中段
「いやはや、よくもまぁ、これだけ大量によく造ったもんだ」
「感心している場合じゃないと思うがな」
 エアルドフリス、シルヴェイラ両名が足場を目指し突進してくる藁人形に、炎のマテリアルを浴びせ続けていた。
「……もうずいぶん倒しただろう、呪いの方は大丈夫か?」
「なぁに、別に術の発動を阻害されるわけじゃあない。こちらが動かなければどうというこたぁないさ。それよりそっちはどうなんだ?」
「なに、きみほどではないさ」
 藁人形を一体倒すごとに重くなる身体。しかし、幸いかな会話やスキルの行使などに支障はない。
「しかし……本当に数が多いな……流石にこのままじゃ、打ち尽くしてジリ貧か」
「上からの援護も間もなく始まるだろう。今は耐えるしかない」
 二人が浴びせる炎雨は確実に敵の数を削ってはいるが、次から次へと湧いてくる無制限とも思える数に二人の表情にも余裕が無くなってきていた。
「せめて、ジュードが居れば――」
 徐々に悪化する戦況に、エアルドフリスは言い知れぬ『寒さ』を右肩に感じ思わず弱音を漏らした、その時。

 ヒュンヒュン――パシッ。

「っ!? これは――」
 無意識につかみ取った長杖。手に馴染むこの感触は、休憩所に置いてきた我杖だった。
「ははは、そういう事か。100点。100点だ、ジュード!」
 道理で隣にいないはずだ。とエアルドフリスはほくそ笑む。いつの間にかいなくなっていたと思った相方は、敵の気配を察知するや、すぐさま皆の武器を取りに降りていたのだ。
 遠方で「えへへ」と自慢げに微笑む相方を幻視しつつ、エアルドフリスは眼下で蠢く有象無象を再び睨み付ける。
「さぁて、竈の火入れといこうじゃあないか!」
 呪いの影響を鑑みて移動を放棄したようにどっかと腰を下ろしたエアルドフリスは改めて詠唱を始めた。
「――均衡の裡に理よ路を変えよ。我が血に流るる命の炎、矢となりて我が敵を貫け!」
 詠唱と共に杖の先に生成されたマテリアルの息吹を感じエアルドフリスはニヤリと口元を歪めると、相方が決死の覚悟で届けてくれた獲物をぐっと握りしめ、満ち溢れた力を解放する。
 夏日を思わせる煌く太陽にも負けぬ蒼き太陽が、渓谷に顕出した。

「これが本気の威力ですか。すさまじいですね」
 足場を下りながら目撃した火球の威力に、錬介は素直に感嘆の声を上げる。
 しかし、数の暴力か、それでも抜けてくる個体が幾体もいた。
「あれを取り付かせるわけにはいかない」
 最早はしごを使うのも億劫とばかりに、錬介はほとんど落下に近い速度で足場を下る。
「あれは!」
 落下の中、キラリと光る白銀を見つけ錬介は思わず手を伸ばした。
「ありがとうございます……!」
 それは休憩所から足場まで戻ってきていたジュードが、錬介の姿を見つけ投げて寄こした錬介の得物だった。

 ズンっ!

 落下中に受け取った盾剣の重量を加え、錬介が着地と共に土煙を舞い上げる。
「さぁ、ここを通りたければ、俺を退けてからにするんですね!!」
 普段の物静かな錬介からは想像もできない程大きな咆哮を発した。

 ここにハンター達の陣形が完成した。
 足場上部に陣取ったシルヴェイラが司令塔。戦況の趨勢をつぶさに観察しトランシーバーを通じ仲間達へ伝えつつ、火雨にて援護に徹する。
 両岸からの十字砲火。ロベリアのFT/M2、ざくろの拡散ヒートレイ。
 足場中段からは真打。エアルドフリスの蒼炎箭・獄が放たれる。
 不動の呪いなど固定砲台と化した三人にはまるで無意味。三点から放たれる超威力の炎撃は、谷底に無数に実った麦藁を刈り取っていく。
 そして、そんな業火の中を辛うじて抜けてきた藁人形達も、終着点で鉄壁の防陣を張る錬介に切り裂かれ、藁束へと還っていった。

●渓谷の端
『おぉ、素晴らしい! 即席とは思えない見事な連携ですねぇ! あの程度の作品では相手にもなりませんか!』
 声が踊っている。
『いやぁ、しかし、これ程のものが見られるのでしたらもっと観客の多い場所でやるべきでした。実に勿体ない』
 今度は悔しそうに。
『と、今更言っても仕方ありませんかぁ。まぁ、この活躍が噂として広まってくれることを祈りましょうかねぇ。御方の腕も無事、人間側に渡るでしょうし、功績は計り知れないでしょうねぇ。ククク……』
 その言葉を最後に、巨大な気配は跡形もなく消えてしまった。

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MVP一覧

  • 時の手綱、離さず
    シルヴェイラka0726
  • 流浪の聖人
    鳳城 錬介ka6053

重体一覧

参加者一覧

  • 時の手綱、離さず
    シルヴェイラ(ka0726
    エルフ|21才|男性|機導師
  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろ(ka1250
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • 赤き大地の放浪者
    エアルドフリス(ka1856
    人間(紅)|30才|男性|魔術師
  • 軌跡を辿った今に笑む
    ロベリア・李(ka4206
    人間(蒼)|38才|女性|機導師
  • 流浪の聖人
    鳳城 錬介(ka6053
    鬼|19才|男性|聖導士

サポート一覧

  • ジュード・エアハート(ka0410)

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
ロベリア・李(ka4206
人間(リアルブルー)|38才|女性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2017/10/04 23:18:50
アイコン 質問卓
エアルドフリス(ka1856
人間(クリムゾンウェスト)|30才|男性|魔術師(マギステル)
最終発言
2017/10/03 16:18:16
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/09/30 02:47:36
アイコン 解説項修正のお詫び
ホリー=アイスマン(kz0204
人間(リアルブルー)|28才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言