ゲスト
(ka0000)
人魚の泉
マスター:あきのそら

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 6~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/10/07 12:00
- 完成日
- 2017/10/12 22:40
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●人魚の森
「ぐぅッ……!?」
女騎士が膝をつく。
「キキキ、ザコダゾ、ザコダゾ」
「オレタチ、ハツショウリ!」
ゴブリンたちが勝利を確信して、高く高く槍を振りあげた――その時。
「ぽひょえ~♪」
「ギギッ!? ノロイ! ノロイ!」
間の抜けた歌声に、慌てて逃げていくゴブリンたち。
「ノロイ、ヤダ!」
ゴブリンたちの後ろで棍棒を構えていたジャイアントまでもが、木をなぎ倒しながら逃げていく。
「い、いったい、何が……うっ」
そこで、女騎士の意識は途絶えた。
●???
「ぽひょ、ぽひょひょ……ひょぅえ~~♪」
「う……なんて滅茶苦茶な歌詞なのに良い歌声なんだ……」
心地よい間の抜けた歌声に目を覚ますと、そこは森に囲まれた小さな泉だった。
青白い輝きを放つ岩、その周りに広がる透き通った泉、そして岩に腰かける人魚。
「良い声だなんて……やんっ、照れてしまいますわんっ」
「に、人魚……!?」
その、美しい人魚こそがおかしな歌の正体だった。
「あ、貴女が私を助けてくれた、のか?」
初めて見る人魚の姿に思わず目をぱちくりさせながら問いかけると、当の本人は楽しそうに水面をちゃぷちゃぷいわせながら笑う。
「んふふ、その通りよ覚醒者さん♪」
人魚は器用に身体だけを水面から出し、スイスイと岸辺まで泳いでくる。
「ど、どうしてゴブリンたちは逃げ出したのだ。貴女の歌声に、何か魔力でも?」
「ううん、あいつらアタシたちの森に住みつこうとしたから『森の奥から聞こえる歌声は悪魔の歌だぞ~呪われるぞ~』って噂を流しただけよん。結局住みつかれちゃったんだけどねん♪」
「あ、悪魔の歌……」
確かに悪魔的な歌詞ではあったが、そんな噂でゴブリンたちが引いて行ったなんて……にわかには信じがたいがさっきの逃げっぷりを見るに本当なんだろう。
「しかし、ゴブリンたちに貴女の言葉は通じないだろう? どうやって噂を?」
「アタシたちは動物と話せる魔法だけは使えるのよん。森の動物や小鳥さんたちにそういう噂が流れてるフリをしてもらったの。歌が聞こえたら死んだフリをするか、一目散に逃げて~って」
「そんなことが出来るのか!?」
「えぇ、みんな賢い子ばっかりなんだから」
「し、しかし、死んだフリなどすればゴブリンたちの餌食になってしまうのでは……?」
「んふふ、ここのゴブリンたちは余所の奴に比べて一際頭が弱いみたいでね。仕掛けて一発目から信じてくれたわぁ、アタシの歌には何かあるみたいだ~ってね。」
「一際、頭がよわい……」
私はそんなゴブリンたちに後れを取ったのか……と、少し落ち込む騎士。
「それで、騎士様さんはどうしてこんなところへ?」
「あ、あぁ。この森にゴブリンたちが出るというのでな。武者修行がてら討伐に来たのだが……この様だ」
傷ついた鎧に、土まみれの身体。
自分で見ても情けない姿に、騎士は思わず笑いがこみ上げてきてしまう。
「んふふっ、そうねぇ。ゴブリンたちに敵わないのに、こんな森の奥まで来ちゃったのは笑うしかないわねぇ」
「う、嘘でもそんなことないと言ってくれないかな!?」
「だぁってぇ。騎士様さんはどうやってここから帰るつもりなのかしらん?」
「どう、って……そりゃあ元来た道を戻って、森の外へ」
「ここは森の奥地も奥地。どの道を通ったところでゴブリンたちに囲まれちゃうのは確実ですわ」
「うっ、た、確かに……」
「んふふ、とーりーあーえーずっ! 泉にゆっくり浸かって、傷と疲れを癒していって♪ 詳しい話は、そのあとにしましょ?」
「い、いや、さすがにこんな森の中で……」
「温水よ、この泉」
「温かいのか!?」
「タオルもあるわよ♪」
「何故あるっ!」
と、なんだかんだ言いながら。
騎士は人魚に言われるがまま、泉に浸かってしばしの間休息をとることにしたのだった。
●人魚の泉
そして、温泉よろしく温かい泉に浸かりながら人魚とアレコレ話していたら。
「海岸沿いのおうちを持っているの!? すごいっ! とってもステキじゃないっ!」
「そ、そこまで食いつくことだろうか」
人魚は、海岸沿いの家――騎士の持ち家に対して、何故か興味津々だった。
「食いつくことよっ! アタシたち人魚は元々海の女神にして妖精……嵐で飛ばされる前、ずぅっと昔は岩礁で歌ったものだったわぁ……」
「嵐で飛ばされた!? と、飛ばされてこんなところまで来たのか!?」
「懐かしいわぁ、歌うアタシたちのことを海の男たちがデレデレ覗き込んできては勝手に落ちたり、座礁したり……あぁ、楽しかったわねぇ」
「………………」
この人魚のほうが歌詞よりも歌よりもよっぽど悪魔なんじゃないだろうかと、騎士は思った。
「って、そうじゃなくておうちよおうちっ! ねぇ、アタシを貴女のおうちに連れていってくれなぁい?」
「えっ、えぇ!? ウチに来ることは、構わないのだが……まずここから帰れないからこうして泉で休憩しているわけでだな」
「だいじょぶだいじょぶ! 連れていってくれるっていうなら協力するからっ! ね?」
「協力ぅ……?」
自信満々に言ってみせる悪魔的人魚に、どこかうさんくささを感じながら。
帰れるのならば、と人魚の協力を得る事にしたのだった。
●森の出口
そして、泉を出発してすぐ。
「ほ、ホントに出られた」
「んふふーっ! 言った通りでしょ?」
人魚をお姫様抱っこしたまま、騎士は一度も剣を抜くことなく森の出口にまで到達出来てしまっていた。
「アタシたちの歌声さえあれば、あんなやつらびびって出てこないんだから。頭が単純なのよ、た・ん・じゅ・んっ」
「いくらなんでも接敵せずに出られるわけがないと思っていたが、まさか本当に無傷で出られるとは……ハハ、本当に命の恩人だな、キミは」
「んふふっ、いい女でしょ? アタシって♪」
「ふふ、そうかもしれないな」
その悪戯な笑顔も、騎士にとってはすっかり天使の笑顔になっていた。
「それじゃあおうちまで連れてってね?」
「あぁ! まかせておけ!」
そう言って、彼女を抱きかかえながら騎士は帰路に着いたのだった。
「あ、そうそう! アタシの姉妹があと三人、森の中に泉を構えて待ってるからそっちもよろしくね♪」
「なにっ!? さっ、三人も!?」
「おねがぁい……♪ 騎士様さんだってぇ、可愛い子がたくさん居た方がウレシイでしょぉ……♪」
「う、ぐ……い、依頼に出しておきます……」
そうして、今度こそ私たちは帰路に着いたのだった!
「……ギギ、アイツラ、ウソツイテタナ?」
――森の奥から、私たちを睨み付けるゴブリンたちの視線に気づかないままに。
「ぐぅッ……!?」
女騎士が膝をつく。
「キキキ、ザコダゾ、ザコダゾ」
「オレタチ、ハツショウリ!」
ゴブリンたちが勝利を確信して、高く高く槍を振りあげた――その時。
「ぽひょえ~♪」
「ギギッ!? ノロイ! ノロイ!」
間の抜けた歌声に、慌てて逃げていくゴブリンたち。
「ノロイ、ヤダ!」
ゴブリンたちの後ろで棍棒を構えていたジャイアントまでもが、木をなぎ倒しながら逃げていく。
「い、いったい、何が……うっ」
そこで、女騎士の意識は途絶えた。
●???
「ぽひょ、ぽひょひょ……ひょぅえ~~♪」
「う……なんて滅茶苦茶な歌詞なのに良い歌声なんだ……」
心地よい間の抜けた歌声に目を覚ますと、そこは森に囲まれた小さな泉だった。
青白い輝きを放つ岩、その周りに広がる透き通った泉、そして岩に腰かける人魚。
「良い声だなんて……やんっ、照れてしまいますわんっ」
「に、人魚……!?」
その、美しい人魚こそがおかしな歌の正体だった。
「あ、貴女が私を助けてくれた、のか?」
初めて見る人魚の姿に思わず目をぱちくりさせながら問いかけると、当の本人は楽しそうに水面をちゃぷちゃぷいわせながら笑う。
「んふふ、その通りよ覚醒者さん♪」
人魚は器用に身体だけを水面から出し、スイスイと岸辺まで泳いでくる。
「ど、どうしてゴブリンたちは逃げ出したのだ。貴女の歌声に、何か魔力でも?」
「ううん、あいつらアタシたちの森に住みつこうとしたから『森の奥から聞こえる歌声は悪魔の歌だぞ~呪われるぞ~』って噂を流しただけよん。結局住みつかれちゃったんだけどねん♪」
「あ、悪魔の歌……」
確かに悪魔的な歌詞ではあったが、そんな噂でゴブリンたちが引いて行ったなんて……にわかには信じがたいがさっきの逃げっぷりを見るに本当なんだろう。
「しかし、ゴブリンたちに貴女の言葉は通じないだろう? どうやって噂を?」
「アタシたちは動物と話せる魔法だけは使えるのよん。森の動物や小鳥さんたちにそういう噂が流れてるフリをしてもらったの。歌が聞こえたら死んだフリをするか、一目散に逃げて~って」
「そんなことが出来るのか!?」
「えぇ、みんな賢い子ばっかりなんだから」
「し、しかし、死んだフリなどすればゴブリンたちの餌食になってしまうのでは……?」
「んふふ、ここのゴブリンたちは余所の奴に比べて一際頭が弱いみたいでね。仕掛けて一発目から信じてくれたわぁ、アタシの歌には何かあるみたいだ~ってね。」
「一際、頭がよわい……」
私はそんなゴブリンたちに後れを取ったのか……と、少し落ち込む騎士。
「それで、騎士様さんはどうしてこんなところへ?」
「あ、あぁ。この森にゴブリンたちが出るというのでな。武者修行がてら討伐に来たのだが……この様だ」
傷ついた鎧に、土まみれの身体。
自分で見ても情けない姿に、騎士は思わず笑いがこみ上げてきてしまう。
「んふふっ、そうねぇ。ゴブリンたちに敵わないのに、こんな森の奥まで来ちゃったのは笑うしかないわねぇ」
「う、嘘でもそんなことないと言ってくれないかな!?」
「だぁってぇ。騎士様さんはどうやってここから帰るつもりなのかしらん?」
「どう、って……そりゃあ元来た道を戻って、森の外へ」
「ここは森の奥地も奥地。どの道を通ったところでゴブリンたちに囲まれちゃうのは確実ですわ」
「うっ、た、確かに……」
「んふふ、とーりーあーえーずっ! 泉にゆっくり浸かって、傷と疲れを癒していって♪ 詳しい話は、そのあとにしましょ?」
「い、いや、さすがにこんな森の中で……」
「温水よ、この泉」
「温かいのか!?」
「タオルもあるわよ♪」
「何故あるっ!」
と、なんだかんだ言いながら。
騎士は人魚に言われるがまま、泉に浸かってしばしの間休息をとることにしたのだった。
●人魚の泉
そして、温泉よろしく温かい泉に浸かりながら人魚とアレコレ話していたら。
「海岸沿いのおうちを持っているの!? すごいっ! とってもステキじゃないっ!」
「そ、そこまで食いつくことだろうか」
人魚は、海岸沿いの家――騎士の持ち家に対して、何故か興味津々だった。
「食いつくことよっ! アタシたち人魚は元々海の女神にして妖精……嵐で飛ばされる前、ずぅっと昔は岩礁で歌ったものだったわぁ……」
「嵐で飛ばされた!? と、飛ばされてこんなところまで来たのか!?」
「懐かしいわぁ、歌うアタシたちのことを海の男たちがデレデレ覗き込んできては勝手に落ちたり、座礁したり……あぁ、楽しかったわねぇ」
「………………」
この人魚のほうが歌詞よりも歌よりもよっぽど悪魔なんじゃないだろうかと、騎士は思った。
「って、そうじゃなくておうちよおうちっ! ねぇ、アタシを貴女のおうちに連れていってくれなぁい?」
「えっ、えぇ!? ウチに来ることは、構わないのだが……まずここから帰れないからこうして泉で休憩しているわけでだな」
「だいじょぶだいじょぶ! 連れていってくれるっていうなら協力するからっ! ね?」
「協力ぅ……?」
自信満々に言ってみせる悪魔的人魚に、どこかうさんくささを感じながら。
帰れるのならば、と人魚の協力を得る事にしたのだった。
●森の出口
そして、泉を出発してすぐ。
「ほ、ホントに出られた」
「んふふーっ! 言った通りでしょ?」
人魚をお姫様抱っこしたまま、騎士は一度も剣を抜くことなく森の出口にまで到達出来てしまっていた。
「アタシたちの歌声さえあれば、あんなやつらびびって出てこないんだから。頭が単純なのよ、た・ん・じゅ・んっ」
「いくらなんでも接敵せずに出られるわけがないと思っていたが、まさか本当に無傷で出られるとは……ハハ、本当に命の恩人だな、キミは」
「んふふっ、いい女でしょ? アタシって♪」
「ふふ、そうかもしれないな」
その悪戯な笑顔も、騎士にとってはすっかり天使の笑顔になっていた。
「それじゃあおうちまで連れてってね?」
「あぁ! まかせておけ!」
そう言って、彼女を抱きかかえながら騎士は帰路に着いたのだった。
「あ、そうそう! アタシの姉妹があと三人、森の中に泉を構えて待ってるからそっちもよろしくね♪」
「なにっ!? さっ、三人も!?」
「おねがぁい……♪ 騎士様さんだってぇ、可愛い子がたくさん居た方がウレシイでしょぉ……♪」
「う、ぐ……い、依頼に出しておきます……」
そうして、今度こそ私たちは帰路に着いたのだった!
「……ギギ、アイツラ、ウソツイテタナ?」
――森の奥から、私たちを睨み付けるゴブリンたちの視線に気づかないままに。
リプレイ本文
●人魚の森 東の沼
「っくぅーっ! わくわくしてきたあ!」
人魚の森、その鬱蒼とした木々の間を抜けたヴァイス(ka0364)とロジャー=ウィステリアランド(ka2900)は背の低い草が生い茂った沼地へとたどり着いていた。
馬を引きながら、テンション高めにズンズン歩くロジャーを尻目に、ヴァイスは辺りを見回す。
「ゴブリンどもは……居ねえみたいだな」
沼地を囲む木々が、風になびく。
小鳥のさえずりと虫の鳴き声……いたって普通の森と変わらない、生き物たちの声以外には何も聞こえない。
「あー、ごほん。俺達はあんたの姉妹に頼まれて保護に来たハンターだ! あんたに危害を加えるつもりはない、まずは顔を出してくれないか」
ヴァイスの声に鳥が羽ばたく。
が、沼地は静かなもので、反応はない。
「ヘッヘ、そんなんで来るかよ。まぁ見とけって!」
ロジャーは手綱をヴァイスに渡すと、得意気に手を叩いて、懐から取り出したパンをちぎって投げ入れる。
「ほぅらほぅら! こっちだぞーぅ!」
「……鯉じゃねえんだからそんなんで来るわけねえだろ」
と、ヴァイスが呆れ顔を見せた瞬間。
――ベチャァンッ!!
沼の中から人魚が姿を現し、ロジャーの投げ入れたパンを空中でキャッチしてみせたのだった。
「………………てめぇは鯉か」
「人魚でふけろ、もぐもぐ」
人魚はちぎられたパンをもがもが食べながら、ジロジロと二人を見定める。
「して、貴方たちは一体全体どこの誰」
「あっ、あぁあ俺たちはあのその」
「……変態?」
「違う。アンタの姉妹……の、同居人になる予定の奴から依頼されてきたハンターだ。コイツを見れば分かると聞いて来たんだが」
「ん……お、おー!」
依頼人の連れていた人魚から預かった地図を見せると、けだるげな人魚は少しばかり目を輝かせて。
「わかった、ついていく」
と、頷いてくれた。
「そいつは良かった。さっさと行くとしよう」
ヴァイスは踵を返し、無線機を取り出す。
「あ、あぁ! じゃあほら、手を掴んで! 馬に乗せてやるからさ!」
ヴァイスと入れ替わるように、人魚の前にかがみこんだロジャーであったが。
「んー」
はいどうぞといわんばかりに手だけを差し出した人魚は、これっぽっちも這い上がろうとしないものだから。
「あ、ちょ、ま、ままま待てって! 沼から尾っぽを引き抜いてからでないと流石に引っこ抜くのは無理なんじゃないかって思うんだけど……!?」
「ん、んー……? えいっ」
「――のわあっ!」
「のわー」
――べちゃぁ。
二人揃って沼にダイブしてしまった。
「……なーにしてやがる」
「へ、へへ、悪いんだけど引き上げて?」
「ったく、オラ……よッ!」
「おごおっ!?」
「お゛ッ!?」
通信を終えて戻ってきたヴァイスに呆れられながら、腕が引っこ抜けそうな勢いで引き上げられる人魚とロジャーなのだった。
「腕……とれる……」
「さ、さんきゅー、ヴァイス……げふぅ……」
●人魚の森 北西の洞窟
ヴァイスたちが沼に到着する少し前。
ネフィリア・レインフォード(ka0444)とユナイテル・キングスコート(ka3458)は北西にある洞窟へと入っていた。
「人魚さんには初めてあうのだ♪ どんな子か楽しみだねー♪」
「えぇ、このまま無事会えれば良いのですが……」
薄暗いものの、二人並んで歩けるほど大きな洞窟の中。
二人は、少し進むとすぐさま、透き通るような歌声と柔らかな光を放つ泉へとたどり着いた。
「この歌声は……なるほど、良い声ですね」
「だっ、誰っ!?」
大きな水音と共に小さな女の子のような声が響いてくる。
音の先。
泉の中には、少女のような人魚が居た。
「彼女が件の人魚のようですね」
「おー、なんか元気な人魚さんなのだ! 僕はネフィなのだ、海までよろしくなのだー♪」
「は、はぁ!? 海!? な、何の話……っていうか近付くんじゃないわよ!」
泉の中央でぼんやりと光る岩に隠れながら、警戒を示す人魚だったがネフィリアはざぶざぶお構いなしに泉へ足を踏み入れる。
「ちょ、ちょっとお! 何を勝手に――」
「ご機嫌よう、私は騎士ユナイテル。そちらはネフィ。貴女を迎えに来ました」
「む、迎えなんて頼んでないわよ!」
「いーからいーからー♪」
「よ、よくないわよっ!」
「私たちは貴女の姉妹より依頼を受け、お迎えにあがったのですが」
「し、姉妹……? 妹たちが、私を迎えに……?」
「そーなのだ! 海の近くのおうちにみんなで集合~ってことみたいなのだ!」
「海の近く……! ほ、本当なんでしょうねっ」
「行ってみればわかるのだー♪」
ざぶっ、とネフィリアは勢いよく人魚を抱きかかえる。
「さ、洞窟の出口で私の騎馬が待っています。その先には、貴女の姉妹も」
「っ、い、いいわ……付いて行ってあげる。た、ただし丁重に扱いなさいよっ!? 良いわね!?」
「わかったのだー♪」
「やっ、ちょっ、ゆっくり――ひ、ひゃああっ!」
ネフィリアの全速力に悲鳴を上げながらも。
ぴったりと並走するユナイテルに見守られながら、人魚は洞窟を飛び出すことになるのでした。
●人魚の森 南の滝
ネフィリアたちが泉にたどり着いた頃。
天王寺茜(ka4080)と星野 ハナ(ka5852)も、南の滝へとたどり着いていた。
「ひゃっ、ぅ……」
「うーん、だいぶ警戒されちゃってますね、ハナさん」
「んきゃーっ! かわいいですぅ!」
岩の影に隠れて、こちらをチラチラ伺う人魚のバレバレで隠れ切れていない仕草にハナはメロメロな様子だった。
「こんにちは、私たち姉妹の人魚さんから頼まれてきたの」
「こんにちはー、お姉さん?に言われてお迎えにきましたよぅ」
「ぅ、ぅぅ」
二人は少しだけ近づいて、ご挨拶してみるものの人魚は一向に警戒を解こうとはしなかった。
「あっ、そうだ。姉妹の人魚さんからあなたの好物も聞いてきたのよ」
そこで、茜はマシュマロの入った袋を取り出してみせる。
「甘いモノが好物って聞いてきたんだけど、マシュマロは好きかな」
「ま、ま、ままま……!」
微動だにしない人魚。
マシュマロは嫌いだった? それとも甘いモノ好きって話自体、何か違ったのかな……茜がそう思い始めた、その時。
「まっ、ましゅまろっっっ……!」
ものすごい勢いのスライド移動で近寄ってきたかと思ったら、茜の指につままれたマシュマロをそのまま口でぱくりと食べてしまった。
「あむっ、あむあむ……マシュマロ、あまあまぁ……!」
「ほぅら、私の手作りクッキーもあるですよぅ」
「くっきー! あむっ!」
ハナから差し出されるお菓子も同じく食いつく人魚は、ほっぺをリスのように膨らませながらいっぱいのお菓子を頬張り。
「あまあまあぁあぁ……!」
大変ご満悦だった。
「うふふふふふー、素直な可愛い子は大好きですぅ」
「あまあまぁ~……!」
「ふふっ」
ハナに撫でられながら、お菓子を口いっぱいに頬張り幸せそうな人魚を見て、茜は思わず頬がゆるんでしまうのだった。
●人魚の森 西
「くぅぅ……! この湿った感じっつーか、ぬったりした感じっつーか、ひやっとした感じっつーか……! こ、こいつが人魚の、お、女の子の素肌っ……!」
「沼のドロじゃねえのか、それ」
茜とハナが人魚とお菓子を頬張っている頃。
一足先に動き出したヴァイスたちは、馬にロジャーと人魚を乗せて森の西側を歩いていた。
適当な枝を切りながら、人魚の肌が傷つかないよう前をあるくヴァイスが足を止める。
「さて、出口ももうすぐのはずだが……そう簡単にはいかなそうだな」
ヴァイスの視線の先には、いくつかの折れた大木があった。
しかも、折れた幹から伸びる枝先にはまだ青々とした葉が付いている。
「人魚さんよ、しっかり掴まっといてくれよな」
ロジャーは、グッと手綱を握り直す。
「……変態?」
「いや、冗談じゃなくってね!?」
「あー……団体」
「いや、俺らは三人……え、団体?」
人魚の指さす先。
ロジャーたちの行く道の先に、ちょうどゴブリンの団体とジャイアントが通りかかっているところだった。
「ギギ、ニンゲン! ニンゲンダ!」
「チッ」
ヴァイスたちを見るや否や走ってくるゴブリンたち。
そのこめかみを掠るように、空気が破裂するような爆音を伴ったライトニングボルトが迸る。
「ギ、ギェ……?」
足を止め、放心するゴブリンたちにロジャーが馬を降りて歩み寄る。
「あー、悪いな。はは、こっちの人は気性が荒くって。お、よく見りゃそこのイケてる巨人のダンナ、美味いモンが分かりそうな面してるじゃんか! どうだい、見逃してくれたらこの酒を差し上げますよ」
ロジャーの褒め言葉に満更でもないジャイアントとお酒が飲みたそうなゴブリンたち。
「ギギ、デモ、ニンゲン……」
リーダーらしきゴブリンが渋る様子を見せる、が。
「あぁ?」
「ギギッ! イ、イタダク!」
ヴァイスの眼光にビビったゴブリンたちは、ロジャーからお酒を受け取ると一目散に森の中へと消えていったのだった。
「はは、ゴブリンも逃げ出す強面ハンターつって売り出したらいいんじゃねーの?」
「お前も痺れたいみたいだな?」
「じ、冗談だって! さー先を急ごうか人魚さんや! もうすぐ森の出口だぜ!」
●人魚の森 中央
「あーもうお尻が痛い! もうちょっと静かに歩けないわけ!?」
一方、ネフィリアとユナイテルたちは森の中央辺りへと出ていた。
「少し休憩してから動くとしましょう。この泉から伸びる道ならば、出口まで一直線に駆け抜けられるはずです」
そう言って馬を止めたのは、人魚の居ない泉だった。
「なんかタオル見つけたのだー!」
「それは良い。席にかけてくれますか」
ネフィリアが人魚の席へタオルを敷き、そこへ人魚が腰かける。
「何か白馬に乗った王子様に連れられたお姫様みたいなのだ?」
「ひっ、姫様って、そんな今更ご機嫌取りしたって別にそんなごにょごにょごにょ……」
「むむ、何かお邪魔さんの気配がする」
照れる人魚を尻目に、ネフィリアとユナイテルは身構える。
風に揺れる木々の向こう、森の向こうから大勢の足音が小さく聞こえた。
「敵か……? 申し訳ありません、一曲お願いできますか」
「ふぇっ、あっ、しょ、しょうがないわね……んっ、こほんこほん……~♪」
人魚の歌声が、森に響く。
しかし、小さく聞こえる足音が止まることはない。
「歌声が効いていない? ネフィ、突破しましょう」
「よーし、ちょっと追い払って来るー」
勢いよく、ネフィリアが森の中へと駆け出していく。
「はーい、悪いことする子はこっちに来るのだ」
「ギッ!?」
ゴブリンの一体が、ネフィリアのファントムハンドに引き寄せられ。
「そしてお仕置きのパンチなのだー♪」
「ギーッ!?」
問答無用のワイルドラッシュを受けて、即座に逃げていく。
「あやや? もう遊ばないのかな? かな?」
一目散に逃げ帰って行くゴブリンたちに、拍子抜けするネフィリアなのだった。
「ユナイテルさーん、何かすぐ逃げてったのだー」
「それは何よりだ、今のうちに急ごう」
「はーいなのだー」
●人魚の森 南
ヴァイスたち、そしてネフィリアに襲われたゴブリンたちが逃げるように南側へと走っている頃。
「はい、えぇ、私たちもそろそろ森を抜けられるはずです」
「はい、あーんですぅ」
「あーんっ」
「んー! 上手ですぅ!」
茜とハナは魔導スマートフォンで仲間の到着を聞きながら、人魚を馬に乗せ、歩いていた。
終始、ハナの手から渡されるお菓子を頬張る人魚と、それを幸せそうに愛でるハナ。
そんな二人を微笑ましい様子だと見つめる茜の前へ。
「ンギギ、ギ……?」
「ゴブリンっ!」
ゴブリンたちは、やってきてしまった。
「ぴっ……!」
ゴブリンたちを怖がる人魚。異変を感じ取るハナ。構える茜。
「ギ、ニンゲン、コワイ!」
「あなたたち、いったいどういうつもりですぅ……?」
「ギッ!?」
「私達を襲おうとかいい度胸ですよぅ!? 人魚ちゃんは頭を下げて隠れて下さいぃ!」
式神を呼び出したハナは、それに人魚を守らせると。
一瞬のうちに符を揃え、眩い焼けるような光を展開しながらゴブリンたちへ突っ込んでいく。
「ちょ、ハナさん!?」
「まとめてブッコロですぅ!」
「ギギギーッ!!」
散々ハンターたちにボコボコにされ続けたゴブリンたちは、ハナが動き出すのと同時に逃げ出していた。
「ちょ、もう逃げてます! もう逃げてますから!」
「ふぅーっ! ふううーっ!!」
「あ、ほら、キャンディの詰め合わせありますよ! 人魚さんにあげたらきっと喜びます! ね!」
「ふしゅるるる……それじゃあ遠慮なくいただいて、もっかいあーんしてくるですぅ!」
「……ほぅ」
必死にハナを引き留める茜の活躍によって、なんとか森が焼け野原になることはなかった。
「はい、キャンディですよぅ。あーんっ」
「あーんっ!」
すぐさまお菓子を頬張る人魚と愛でるハナの図に戻ったのを見て、ホッと一息ついた茜は魔導スマートフォンを再び取り出し、ヴァイスたちへ連絡をとばす。
「もうすぐ、着くと思います……はい、ゴブリンたちと会ったんですけど、ハナさんがおっぱらったので……全力で」
●街道
「またそのうちお菓子をもって会いに来ますぅ、元気でいてくださいねぇ!」
森を出たところで合流したハンターたちは、依頼人である女騎士と荷車に乗った悪魔的作詞力の人魚へ、それぞれ姉妹を受け渡していた。
「お菓子、まってます……!」
「あはは、よかったら残りも持ってって」
すっかりハナの手渡しお菓子がお気に入りな人魚は、最後まで愛でられ続けながら茜からお菓子を受け取ったり。
「お疲れ様でした。貴女の歌声は本当に美しかった、ありがとう」
「こっ、こちらこそ、そのぅ、ちょっとは楽しかったわ」
「ネフィも人魚さんとお散歩たのしかったのだ! また抱っこさせてほしいのだー♪」
「ちょ、あ、頭を撫でないでっ!」
ネフィリアとユナイテルに守ってもらった人魚も、なんだかんだ満更ではなかったようで。
「ま、怪我がなくて何よりだな。お疲れ」
「ん、二人もおつかれ」
「あ、あぁあ、あの、よ、よよよ良かったら俺とそのあのそのそういう良い感じの関係にですね」
「あ、そうそう」
「なに!?」
「ドロがそんなに好きなら、あそこ。好きに使っていいから」
「…………ありがたいっす」
「ふふ」
ヴァイスとロジャーに運ばれた人魚も、快適な道中に満足なようだった。
「それじゃあ皆さん、ありがとうございました」
荷車に乗った四人の人魚と女騎士を見送りながら、ハンターたちは爽やかな風に吹かれつつ、依頼完了を実感するのだった。
「さーて、それじゃあみんなで帰るのだー♪」
「ロジャー、あんまり近くを歩くなよ。ドロがかかる」
「ひどいんじゃねーのかなあ!?」
おしまい
「っくぅーっ! わくわくしてきたあ!」
人魚の森、その鬱蒼とした木々の間を抜けたヴァイス(ka0364)とロジャー=ウィステリアランド(ka2900)は背の低い草が生い茂った沼地へとたどり着いていた。
馬を引きながら、テンション高めにズンズン歩くロジャーを尻目に、ヴァイスは辺りを見回す。
「ゴブリンどもは……居ねえみたいだな」
沼地を囲む木々が、風になびく。
小鳥のさえずりと虫の鳴き声……いたって普通の森と変わらない、生き物たちの声以外には何も聞こえない。
「あー、ごほん。俺達はあんたの姉妹に頼まれて保護に来たハンターだ! あんたに危害を加えるつもりはない、まずは顔を出してくれないか」
ヴァイスの声に鳥が羽ばたく。
が、沼地は静かなもので、反応はない。
「ヘッヘ、そんなんで来るかよ。まぁ見とけって!」
ロジャーは手綱をヴァイスに渡すと、得意気に手を叩いて、懐から取り出したパンをちぎって投げ入れる。
「ほぅらほぅら! こっちだぞーぅ!」
「……鯉じゃねえんだからそんなんで来るわけねえだろ」
と、ヴァイスが呆れ顔を見せた瞬間。
――ベチャァンッ!!
沼の中から人魚が姿を現し、ロジャーの投げ入れたパンを空中でキャッチしてみせたのだった。
「………………てめぇは鯉か」
「人魚でふけろ、もぐもぐ」
人魚はちぎられたパンをもがもが食べながら、ジロジロと二人を見定める。
「して、貴方たちは一体全体どこの誰」
「あっ、あぁあ俺たちはあのその」
「……変態?」
「違う。アンタの姉妹……の、同居人になる予定の奴から依頼されてきたハンターだ。コイツを見れば分かると聞いて来たんだが」
「ん……お、おー!」
依頼人の連れていた人魚から預かった地図を見せると、けだるげな人魚は少しばかり目を輝かせて。
「わかった、ついていく」
と、頷いてくれた。
「そいつは良かった。さっさと行くとしよう」
ヴァイスは踵を返し、無線機を取り出す。
「あ、あぁ! じゃあほら、手を掴んで! 馬に乗せてやるからさ!」
ヴァイスと入れ替わるように、人魚の前にかがみこんだロジャーであったが。
「んー」
はいどうぞといわんばかりに手だけを差し出した人魚は、これっぽっちも這い上がろうとしないものだから。
「あ、ちょ、ま、ままま待てって! 沼から尾っぽを引き抜いてからでないと流石に引っこ抜くのは無理なんじゃないかって思うんだけど……!?」
「ん、んー……? えいっ」
「――のわあっ!」
「のわー」
――べちゃぁ。
二人揃って沼にダイブしてしまった。
「……なーにしてやがる」
「へ、へへ、悪いんだけど引き上げて?」
「ったく、オラ……よッ!」
「おごおっ!?」
「お゛ッ!?」
通信を終えて戻ってきたヴァイスに呆れられながら、腕が引っこ抜けそうな勢いで引き上げられる人魚とロジャーなのだった。
「腕……とれる……」
「さ、さんきゅー、ヴァイス……げふぅ……」
●人魚の森 北西の洞窟
ヴァイスたちが沼に到着する少し前。
ネフィリア・レインフォード(ka0444)とユナイテル・キングスコート(ka3458)は北西にある洞窟へと入っていた。
「人魚さんには初めてあうのだ♪ どんな子か楽しみだねー♪」
「えぇ、このまま無事会えれば良いのですが……」
薄暗いものの、二人並んで歩けるほど大きな洞窟の中。
二人は、少し進むとすぐさま、透き通るような歌声と柔らかな光を放つ泉へとたどり着いた。
「この歌声は……なるほど、良い声ですね」
「だっ、誰っ!?」
大きな水音と共に小さな女の子のような声が響いてくる。
音の先。
泉の中には、少女のような人魚が居た。
「彼女が件の人魚のようですね」
「おー、なんか元気な人魚さんなのだ! 僕はネフィなのだ、海までよろしくなのだー♪」
「は、はぁ!? 海!? な、何の話……っていうか近付くんじゃないわよ!」
泉の中央でぼんやりと光る岩に隠れながら、警戒を示す人魚だったがネフィリアはざぶざぶお構いなしに泉へ足を踏み入れる。
「ちょ、ちょっとお! 何を勝手に――」
「ご機嫌よう、私は騎士ユナイテル。そちらはネフィ。貴女を迎えに来ました」
「む、迎えなんて頼んでないわよ!」
「いーからいーからー♪」
「よ、よくないわよっ!」
「私たちは貴女の姉妹より依頼を受け、お迎えにあがったのですが」
「し、姉妹……? 妹たちが、私を迎えに……?」
「そーなのだ! 海の近くのおうちにみんなで集合~ってことみたいなのだ!」
「海の近く……! ほ、本当なんでしょうねっ」
「行ってみればわかるのだー♪」
ざぶっ、とネフィリアは勢いよく人魚を抱きかかえる。
「さ、洞窟の出口で私の騎馬が待っています。その先には、貴女の姉妹も」
「っ、い、いいわ……付いて行ってあげる。た、ただし丁重に扱いなさいよっ!? 良いわね!?」
「わかったのだー♪」
「やっ、ちょっ、ゆっくり――ひ、ひゃああっ!」
ネフィリアの全速力に悲鳴を上げながらも。
ぴったりと並走するユナイテルに見守られながら、人魚は洞窟を飛び出すことになるのでした。
●人魚の森 南の滝
ネフィリアたちが泉にたどり着いた頃。
天王寺茜(ka4080)と星野 ハナ(ka5852)も、南の滝へとたどり着いていた。
「ひゃっ、ぅ……」
「うーん、だいぶ警戒されちゃってますね、ハナさん」
「んきゃーっ! かわいいですぅ!」
岩の影に隠れて、こちらをチラチラ伺う人魚のバレバレで隠れ切れていない仕草にハナはメロメロな様子だった。
「こんにちは、私たち姉妹の人魚さんから頼まれてきたの」
「こんにちはー、お姉さん?に言われてお迎えにきましたよぅ」
「ぅ、ぅぅ」
二人は少しだけ近づいて、ご挨拶してみるものの人魚は一向に警戒を解こうとはしなかった。
「あっ、そうだ。姉妹の人魚さんからあなたの好物も聞いてきたのよ」
そこで、茜はマシュマロの入った袋を取り出してみせる。
「甘いモノが好物って聞いてきたんだけど、マシュマロは好きかな」
「ま、ま、ままま……!」
微動だにしない人魚。
マシュマロは嫌いだった? それとも甘いモノ好きって話自体、何か違ったのかな……茜がそう思い始めた、その時。
「まっ、ましゅまろっっっ……!」
ものすごい勢いのスライド移動で近寄ってきたかと思ったら、茜の指につままれたマシュマロをそのまま口でぱくりと食べてしまった。
「あむっ、あむあむ……マシュマロ、あまあまぁ……!」
「ほぅら、私の手作りクッキーもあるですよぅ」
「くっきー! あむっ!」
ハナから差し出されるお菓子も同じく食いつく人魚は、ほっぺをリスのように膨らませながらいっぱいのお菓子を頬張り。
「あまあまあぁあぁ……!」
大変ご満悦だった。
「うふふふふふー、素直な可愛い子は大好きですぅ」
「あまあまぁ~……!」
「ふふっ」
ハナに撫でられながら、お菓子を口いっぱいに頬張り幸せそうな人魚を見て、茜は思わず頬がゆるんでしまうのだった。
●人魚の森 西
「くぅぅ……! この湿った感じっつーか、ぬったりした感じっつーか、ひやっとした感じっつーか……! こ、こいつが人魚の、お、女の子の素肌っ……!」
「沼のドロじゃねえのか、それ」
茜とハナが人魚とお菓子を頬張っている頃。
一足先に動き出したヴァイスたちは、馬にロジャーと人魚を乗せて森の西側を歩いていた。
適当な枝を切りながら、人魚の肌が傷つかないよう前をあるくヴァイスが足を止める。
「さて、出口ももうすぐのはずだが……そう簡単にはいかなそうだな」
ヴァイスの視線の先には、いくつかの折れた大木があった。
しかも、折れた幹から伸びる枝先にはまだ青々とした葉が付いている。
「人魚さんよ、しっかり掴まっといてくれよな」
ロジャーは、グッと手綱を握り直す。
「……変態?」
「いや、冗談じゃなくってね!?」
「あー……団体」
「いや、俺らは三人……え、団体?」
人魚の指さす先。
ロジャーたちの行く道の先に、ちょうどゴブリンの団体とジャイアントが通りかかっているところだった。
「ギギ、ニンゲン! ニンゲンダ!」
「チッ」
ヴァイスたちを見るや否や走ってくるゴブリンたち。
そのこめかみを掠るように、空気が破裂するような爆音を伴ったライトニングボルトが迸る。
「ギ、ギェ……?」
足を止め、放心するゴブリンたちにロジャーが馬を降りて歩み寄る。
「あー、悪いな。はは、こっちの人は気性が荒くって。お、よく見りゃそこのイケてる巨人のダンナ、美味いモンが分かりそうな面してるじゃんか! どうだい、見逃してくれたらこの酒を差し上げますよ」
ロジャーの褒め言葉に満更でもないジャイアントとお酒が飲みたそうなゴブリンたち。
「ギギ、デモ、ニンゲン……」
リーダーらしきゴブリンが渋る様子を見せる、が。
「あぁ?」
「ギギッ! イ、イタダク!」
ヴァイスの眼光にビビったゴブリンたちは、ロジャーからお酒を受け取ると一目散に森の中へと消えていったのだった。
「はは、ゴブリンも逃げ出す強面ハンターつって売り出したらいいんじゃねーの?」
「お前も痺れたいみたいだな?」
「じ、冗談だって! さー先を急ごうか人魚さんや! もうすぐ森の出口だぜ!」
●人魚の森 中央
「あーもうお尻が痛い! もうちょっと静かに歩けないわけ!?」
一方、ネフィリアとユナイテルたちは森の中央辺りへと出ていた。
「少し休憩してから動くとしましょう。この泉から伸びる道ならば、出口まで一直線に駆け抜けられるはずです」
そう言って馬を止めたのは、人魚の居ない泉だった。
「なんかタオル見つけたのだー!」
「それは良い。席にかけてくれますか」
ネフィリアが人魚の席へタオルを敷き、そこへ人魚が腰かける。
「何か白馬に乗った王子様に連れられたお姫様みたいなのだ?」
「ひっ、姫様って、そんな今更ご機嫌取りしたって別にそんなごにょごにょごにょ……」
「むむ、何かお邪魔さんの気配がする」
照れる人魚を尻目に、ネフィリアとユナイテルは身構える。
風に揺れる木々の向こう、森の向こうから大勢の足音が小さく聞こえた。
「敵か……? 申し訳ありません、一曲お願いできますか」
「ふぇっ、あっ、しょ、しょうがないわね……んっ、こほんこほん……~♪」
人魚の歌声が、森に響く。
しかし、小さく聞こえる足音が止まることはない。
「歌声が効いていない? ネフィ、突破しましょう」
「よーし、ちょっと追い払って来るー」
勢いよく、ネフィリアが森の中へと駆け出していく。
「はーい、悪いことする子はこっちに来るのだ」
「ギッ!?」
ゴブリンの一体が、ネフィリアのファントムハンドに引き寄せられ。
「そしてお仕置きのパンチなのだー♪」
「ギーッ!?」
問答無用のワイルドラッシュを受けて、即座に逃げていく。
「あやや? もう遊ばないのかな? かな?」
一目散に逃げ帰って行くゴブリンたちに、拍子抜けするネフィリアなのだった。
「ユナイテルさーん、何かすぐ逃げてったのだー」
「それは何よりだ、今のうちに急ごう」
「はーいなのだー」
●人魚の森 南
ヴァイスたち、そしてネフィリアに襲われたゴブリンたちが逃げるように南側へと走っている頃。
「はい、えぇ、私たちもそろそろ森を抜けられるはずです」
「はい、あーんですぅ」
「あーんっ」
「んー! 上手ですぅ!」
茜とハナは魔導スマートフォンで仲間の到着を聞きながら、人魚を馬に乗せ、歩いていた。
終始、ハナの手から渡されるお菓子を頬張る人魚と、それを幸せそうに愛でるハナ。
そんな二人を微笑ましい様子だと見つめる茜の前へ。
「ンギギ、ギ……?」
「ゴブリンっ!」
ゴブリンたちは、やってきてしまった。
「ぴっ……!」
ゴブリンたちを怖がる人魚。異変を感じ取るハナ。構える茜。
「ギ、ニンゲン、コワイ!」
「あなたたち、いったいどういうつもりですぅ……?」
「ギッ!?」
「私達を襲おうとかいい度胸ですよぅ!? 人魚ちゃんは頭を下げて隠れて下さいぃ!」
式神を呼び出したハナは、それに人魚を守らせると。
一瞬のうちに符を揃え、眩い焼けるような光を展開しながらゴブリンたちへ突っ込んでいく。
「ちょ、ハナさん!?」
「まとめてブッコロですぅ!」
「ギギギーッ!!」
散々ハンターたちにボコボコにされ続けたゴブリンたちは、ハナが動き出すのと同時に逃げ出していた。
「ちょ、もう逃げてます! もう逃げてますから!」
「ふぅーっ! ふううーっ!!」
「あ、ほら、キャンディの詰め合わせありますよ! 人魚さんにあげたらきっと喜びます! ね!」
「ふしゅるるる……それじゃあ遠慮なくいただいて、もっかいあーんしてくるですぅ!」
「……ほぅ」
必死にハナを引き留める茜の活躍によって、なんとか森が焼け野原になることはなかった。
「はい、キャンディですよぅ。あーんっ」
「あーんっ!」
すぐさまお菓子を頬張る人魚と愛でるハナの図に戻ったのを見て、ホッと一息ついた茜は魔導スマートフォンを再び取り出し、ヴァイスたちへ連絡をとばす。
「もうすぐ、着くと思います……はい、ゴブリンたちと会ったんですけど、ハナさんがおっぱらったので……全力で」
●街道
「またそのうちお菓子をもって会いに来ますぅ、元気でいてくださいねぇ!」
森を出たところで合流したハンターたちは、依頼人である女騎士と荷車に乗った悪魔的作詞力の人魚へ、それぞれ姉妹を受け渡していた。
「お菓子、まってます……!」
「あはは、よかったら残りも持ってって」
すっかりハナの手渡しお菓子がお気に入りな人魚は、最後まで愛でられ続けながら茜からお菓子を受け取ったり。
「お疲れ様でした。貴女の歌声は本当に美しかった、ありがとう」
「こっ、こちらこそ、そのぅ、ちょっとは楽しかったわ」
「ネフィも人魚さんとお散歩たのしかったのだ! また抱っこさせてほしいのだー♪」
「ちょ、あ、頭を撫でないでっ!」
ネフィリアとユナイテルに守ってもらった人魚も、なんだかんだ満更ではなかったようで。
「ま、怪我がなくて何よりだな。お疲れ」
「ん、二人もおつかれ」
「あ、あぁあ、あの、よ、よよよ良かったら俺とそのあのそのそういう良い感じの関係にですね」
「あ、そうそう」
「なに!?」
「ドロがそんなに好きなら、あそこ。好きに使っていいから」
「…………ありがたいっす」
「ふふ」
ヴァイスとロジャーに運ばれた人魚も、快適な道中に満足なようだった。
「それじゃあ皆さん、ありがとうございました」
荷車に乗った四人の人魚と女騎士を見送りながら、ハンターたちは爽やかな風に吹かれつつ、依頼完了を実感するのだった。
「さーて、それじゃあみんなで帰るのだー♪」
「ロジャー、あんまり近くを歩くなよ。ドロがかかる」
「ひどいんじゃねーのかなあ!?」
おしまい
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 ロジャー=ウィステリアランド(ka2900) 人間(クリムゾンウェスト)|19才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2017/10/06 21:48:37 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/10/04 01:49:17 |