ゲスト
(ka0000)
大剛の砂精霊
マスター:ことね桃

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/10/07 15:00
- 完成日
- 2017/10/16 01:41
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
ゾンネンシュトラール帝国の片隅に広がる荒地。
そこを商人の荷馬車がゴトゴト音を立てながら縦断していく。
荷馬車には美しい織物や絨毯がぎっちりと積まれている。商人はこれから帝都に向かい名のある軍人や貴族に売り込みに行くのだ。
(さすがに今日は帝都入りは無理だろうが、今日は適当な宿場町で宿をとって広場の一角でも借りて織物を売るのも……ん?)
その時、彼は奇妙なものを見た。荒野をひどく粗末な服を纏った一団がのろのろと歩いているのである。いずれも旅の荷など持たず、きょろきょろと周囲を見回しながら。
(旅人、というわけではないよな。集団でこんな荒地で何をやっているんだろう)
一団の境遇に興味はあるが、どこか不気味なものを感じた商人はいっそのこと追い抜いてやれと馬に再度鞭を入れる。馬が嘶く。次の瞬間――目の前の一団が全員揃ってこちらを見た。
「……? う、うわああああっ!!」
商人は思わず叫んだ。なぜなら、その一団の姿が到底生きているとは思えない姿だったからだ。
この世界ではヒトの遺体が歪虚により動く死体「ゾンビ」と化される事件がいくつも起きているというが、まさかそれなのだろうか?
商人は慌てて馬首を返そうとするが、重い荷を乗せた馬車が足場の悪い荒地で急旋回などできるはずもない。
迫ってくる動く死体たちに馬も怯えたのだろう。口から泡を吹きながら我武者羅に駆け出そうとするも、荷馬車の車輪が大きな石に引っかかり身動きがとれなくなった。
(くそっ、ここまでかよ……!)
高価な荷を諦め、馬に乗って逃げようとする商人。だが彼に向かい目の前の一団から中年男のゾンビが思いがけぬ速度で駆け出した。商人が荷馬車を外し馬首を返すまでの僅かな時間に追いつくのでは、と恐怖させるほどの速さだ。
「くそっ、なんなんだよ。こいつらはっ!」
涙が滲み、息がつまり、手が震える。いつもは簡単に外せるはずの馬具がうまく外れない。この商売どころか、この人生がこのような荒地で終わってしまうのか……商人は固く目を瞑った。
――その時、赤茶色の地面が大きく隆起した。表面を覆う砂が4mほどの高さに盛り上がり、左右に筋骨隆々とした手足が形成されていく。そして子供の背ほどもある大きな手が拳の形を作ったかと思うと、飛び掛ったゾンビを一打のもとに粉砕した。
そして完全なヒトの形となった「それ」はゾンビたちをぎろりと睨みつけるなり、手足を乱暴に振り回した。ゾンビたちは果敢に「それ」に挑むものの、次々と潰されていく。
そして、最後。逃げようと背を向けたゾンビに向かい「それ」は足元の岩を拾うと拳で粉砕し、石の礫を上手投げで叩きつけた。
「ギャアアアアッ!?」
蜂の巣のように穴だらけになり、地面に崩れゆくゾンビ。ほんの数分で彼らは二度目の死を迎えたのだった。
「えっ……?」
馬に縋っていた商人は突然の光景にぽかんとした。ゾンビに遭遇しただけでも十分な衝撃であるのに、それが冗談じみた「何か」の登場であっさりと解決したのだから。
いや、果たして「あれ」が自分の見方なのか敵なのかがわからないのだからまだ解決とは言えないだろう。商人は砂の巨人が背を向けている間に、ようやく荷馬車から自由になった馬に乗り逃げ出そうとした。
すると、砂の巨人が背を向けたまま、その容貌にふさわしい地を這うような低い声を放った。
『おい、人間』
「は、はい!」
商人はその厳かな声に、小賢しい浅知恵などこの巨人には通用しないのだと瞬間的に理解した。馬から降り、背筋をぴんと伸ばす。
『お前は強者か?』
「え、ええと……いや、同盟領出身のしがない商人です……」
『強者ではないのだな?』
「ええ、まあ……あの通り、動く死体にも立ち向かえません」
『ふむ、ならば今回は見逃してやる。代わりに帝都から何人かの強者を連れて来い。とびっきりのをな』
その翌日、帝都では手のひらサイズの四大精霊が一柱、火と闇・正義を司るサンデルマンがハンター達を集めて話を始めた。とはいえ、強大な力を制御するのがやっとという状況の彼は長時間話すことができないらしい。隣に控える軍人がサンデルマンの代役として話を進める。
「サンデルマン様によりますと、昨日帝都からかなり離れた荒地に砂の精霊の顕現を感じられたとのことです」
「砂の……? 軽くてなんかあまり強くなさそうな気がしますね」
ハンターのひとりが気楽そうに笑った。それに対しサンデルマンが眉間に小さく皺を寄せ、俯く。
『砂といえど油断はできぬ。無数の粒が集まればその質量は鋼鉄をも圧するだろう』
「……」
思わず固唾を呑むハンターたち。軍人はサンデルマンと彼らの顔をちら、と見てから続ける。
「今回はこの砂の精霊をどうにかして保護したい、というサンデルマン様からのご依頼です。精霊はその体がほぼマテリアルで構成されているゆえ、歪虚を集めてしまいますからね。精霊にいずれはこちらに協力していただく代わりに、安全な場所を提供する……と」
『ただし、帝国領内の精霊はヒトに対する警戒心が非常に強い。複雑な過去を持つがゆえにな。説得は困難を極めるだろう。あちらが納得さえすれば、加護の力も授けられようが……』
サンデルマンが精霊を保護する際に必要となる加護の力を秘めた紙片をハンターたちに差し出した。しかし声が重い。それだけ帝国領内の精霊の抱えている問題が大きいのだろう。
ハンターたちが困ったように顔を見合わせる。
その時だ。軍人のひとりが一枚の紙切れを持って部屋に駆け込んできた。
「ハンターの皆様! 砂の精霊から果たし状がっ!」
「『ええっ!?』」
部屋にいた全員が目を白黒させた。
「えーと……『我は顕現し、体を取り戻したので気分がすこぶる良い。とはいえ、人間どもにかつて襲われた痛みを忘れたわけではない。願わくば、人間の強者どもと今度は真正面からの果し合いを。叶わぬならば、我と同胞の積年の恨みを込めて帝都に向かう』……と。商人が旅の道中、精霊と出会って書き取ったものだそうですが……」
『ふむ。相手はこちらに接触を希望しているようだな』
サンデルマンが小さな顎に手を当てる。ハンターたちは武器を手に取ると黙って立ち上がった。
そこを商人の荷馬車がゴトゴト音を立てながら縦断していく。
荷馬車には美しい織物や絨毯がぎっちりと積まれている。商人はこれから帝都に向かい名のある軍人や貴族に売り込みに行くのだ。
(さすがに今日は帝都入りは無理だろうが、今日は適当な宿場町で宿をとって広場の一角でも借りて織物を売るのも……ん?)
その時、彼は奇妙なものを見た。荒野をひどく粗末な服を纏った一団がのろのろと歩いているのである。いずれも旅の荷など持たず、きょろきょろと周囲を見回しながら。
(旅人、というわけではないよな。集団でこんな荒地で何をやっているんだろう)
一団の境遇に興味はあるが、どこか不気味なものを感じた商人はいっそのこと追い抜いてやれと馬に再度鞭を入れる。馬が嘶く。次の瞬間――目の前の一団が全員揃ってこちらを見た。
「……? う、うわああああっ!!」
商人は思わず叫んだ。なぜなら、その一団の姿が到底生きているとは思えない姿だったからだ。
この世界ではヒトの遺体が歪虚により動く死体「ゾンビ」と化される事件がいくつも起きているというが、まさかそれなのだろうか?
商人は慌てて馬首を返そうとするが、重い荷を乗せた馬車が足場の悪い荒地で急旋回などできるはずもない。
迫ってくる動く死体たちに馬も怯えたのだろう。口から泡を吹きながら我武者羅に駆け出そうとするも、荷馬車の車輪が大きな石に引っかかり身動きがとれなくなった。
(くそっ、ここまでかよ……!)
高価な荷を諦め、馬に乗って逃げようとする商人。だが彼に向かい目の前の一団から中年男のゾンビが思いがけぬ速度で駆け出した。商人が荷馬車を外し馬首を返すまでの僅かな時間に追いつくのでは、と恐怖させるほどの速さだ。
「くそっ、なんなんだよ。こいつらはっ!」
涙が滲み、息がつまり、手が震える。いつもは簡単に外せるはずの馬具がうまく外れない。この商売どころか、この人生がこのような荒地で終わってしまうのか……商人は固く目を瞑った。
――その時、赤茶色の地面が大きく隆起した。表面を覆う砂が4mほどの高さに盛り上がり、左右に筋骨隆々とした手足が形成されていく。そして子供の背ほどもある大きな手が拳の形を作ったかと思うと、飛び掛ったゾンビを一打のもとに粉砕した。
そして完全なヒトの形となった「それ」はゾンビたちをぎろりと睨みつけるなり、手足を乱暴に振り回した。ゾンビたちは果敢に「それ」に挑むものの、次々と潰されていく。
そして、最後。逃げようと背を向けたゾンビに向かい「それ」は足元の岩を拾うと拳で粉砕し、石の礫を上手投げで叩きつけた。
「ギャアアアアッ!?」
蜂の巣のように穴だらけになり、地面に崩れゆくゾンビ。ほんの数分で彼らは二度目の死を迎えたのだった。
「えっ……?」
馬に縋っていた商人は突然の光景にぽかんとした。ゾンビに遭遇しただけでも十分な衝撃であるのに、それが冗談じみた「何か」の登場であっさりと解決したのだから。
いや、果たして「あれ」が自分の見方なのか敵なのかがわからないのだからまだ解決とは言えないだろう。商人は砂の巨人が背を向けている間に、ようやく荷馬車から自由になった馬に乗り逃げ出そうとした。
すると、砂の巨人が背を向けたまま、その容貌にふさわしい地を這うような低い声を放った。
『おい、人間』
「は、はい!」
商人はその厳かな声に、小賢しい浅知恵などこの巨人には通用しないのだと瞬間的に理解した。馬から降り、背筋をぴんと伸ばす。
『お前は強者か?』
「え、ええと……いや、同盟領出身のしがない商人です……」
『強者ではないのだな?』
「ええ、まあ……あの通り、動く死体にも立ち向かえません」
『ふむ、ならば今回は見逃してやる。代わりに帝都から何人かの強者を連れて来い。とびっきりのをな』
その翌日、帝都では手のひらサイズの四大精霊が一柱、火と闇・正義を司るサンデルマンがハンター達を集めて話を始めた。とはいえ、強大な力を制御するのがやっとという状況の彼は長時間話すことができないらしい。隣に控える軍人がサンデルマンの代役として話を進める。
「サンデルマン様によりますと、昨日帝都からかなり離れた荒地に砂の精霊の顕現を感じられたとのことです」
「砂の……? 軽くてなんかあまり強くなさそうな気がしますね」
ハンターのひとりが気楽そうに笑った。それに対しサンデルマンが眉間に小さく皺を寄せ、俯く。
『砂といえど油断はできぬ。無数の粒が集まればその質量は鋼鉄をも圧するだろう』
「……」
思わず固唾を呑むハンターたち。軍人はサンデルマンと彼らの顔をちら、と見てから続ける。
「今回はこの砂の精霊をどうにかして保護したい、というサンデルマン様からのご依頼です。精霊はその体がほぼマテリアルで構成されているゆえ、歪虚を集めてしまいますからね。精霊にいずれはこちらに協力していただく代わりに、安全な場所を提供する……と」
『ただし、帝国領内の精霊はヒトに対する警戒心が非常に強い。複雑な過去を持つがゆえにな。説得は困難を極めるだろう。あちらが納得さえすれば、加護の力も授けられようが……』
サンデルマンが精霊を保護する際に必要となる加護の力を秘めた紙片をハンターたちに差し出した。しかし声が重い。それだけ帝国領内の精霊の抱えている問題が大きいのだろう。
ハンターたちが困ったように顔を見合わせる。
その時だ。軍人のひとりが一枚の紙切れを持って部屋に駆け込んできた。
「ハンターの皆様! 砂の精霊から果たし状がっ!」
「『ええっ!?』」
部屋にいた全員が目を白黒させた。
「えーと……『我は顕現し、体を取り戻したので気分がすこぶる良い。とはいえ、人間どもにかつて襲われた痛みを忘れたわけではない。願わくば、人間の強者どもと今度は真正面からの果し合いを。叶わぬならば、我と同胞の積年の恨みを込めて帝都に向かう』……と。商人が旅の道中、精霊と出会って書き取ったものだそうですが……」
『ふむ。相手はこちらに接触を希望しているようだな』
サンデルマンが小さな顎に手を当てる。ハンターたちは武器を手に取ると黙って立ち上がった。
リプレイ本文
唐突に帝都に送られてきた、砂の精霊からの「果たし状」。6人のハンターは精霊に邂逅するべくそれぞれ異なる思いを胸に荒野を進む。
「まさか精霊直々に果し合いの申し込みとは……素晴らしいな。ドワーフの戦士からすれば実に滾る話だ」
ふいにジーナ(ka1643)が呟いた。テンシ・アガート(ka0589)が向日葵のような笑顔を彼女に向ける。
「ジーナさん、やる気満々だね! 俺達は精霊に日頃からお世話になってるし、力になってあげたいね!」
――ジーナもテンシも精霊や祖霊の力を借りて戦う霊闘士。精霊に戦を求められる機会など滅多にあるものではない。喜びの方向性が異なるものの2人の足取りは揃って軽やかだ。
霊闘士たちの前をゆく南護 炎(ka6651)は得物の具合を改めて確認すると、口もとを軽く引き締めた。
「なあ、皆。今回は真っ向勝負で挑むべきだよな。精霊の信頼に応えられる心の持ち主だと示さないと」
「そうね。ただし、精霊が協力するに値する知恵と力も示さないと。彼は果し合いという形式をとるのだもの」
炎の呼びかけに淡々と応じるのは八原 篝(ka3104)。そこで肩を竦めたのはセレス・フュラー(ka6276)だ。
「要はあたし達の全てに試練を課すってことね。真正面からの果し合いなんて、か弱い女の子のあたしには似合わないけどさ」
冗談めかして小さく肩を揺らすセレス。一行の先頭をゆく龍崎・カズマ(ka0178)は静かに闘志を燃やした。
「果し合いだろうと試練だろうと、やるってんなら付き合うさ。正直なところ、無償の助力や協力ってのは些か気持ちが悪いからな」
そう言い切った彼は精霊の住処を記した地図に目を戻し、現在地を確認した。精霊の住処はこの辺りで間違いない。
ジーナは昂ぶりを抑えるように胸に手を当てると高らかに名乗りを上げた。
「砂の精霊よ、いるのだろう? 私はジーナ。ドワーフの戦士だ。あなたの願う果し合いを叶えるために参じた次第!!」
凛々しい声が荒涼たる大地に響く。すると足元に微弱な揺れが発生した。足元の砂が一行の前に向かって一直線に流れていく。そして砂が小山ほどの塊になったかと思いきや、砂が精悍な四肢と頭部を構築した。
『……強きマテリアルを宿す6人の戦士……お前たちは帝都の強者か?』
体に響く重い声。だがテンシは物怖じなどしない。
「うん、俺達は帝都で果し合いのお話を受けたんだ! こっちは6人いるけどいいかな!?」
『こちらは何人とでも構わんぞ』
巨大な瞳が6人のハンターを品定めするかのように見据える。
そこで篝が一歩前に出た。
「この勝負でこちらが勝ったら、わたし達の話を聞いてもらえないかしら」
『話、だと? 我がお前たちの要求に応じるのではなく、か』
「ええ。でもこれ以上は語らない。今の私達に必要なのは心を燃やす戦いだもの」
『それはそうだ。ならば誓おう。お前たちが我を破ることあらば、その際はお前たちの話に誠をもって応ずると』
篝が「約束ね」と頷き、後退する。次に前に出たのはセレスだ。
「先に宣言しとく。あたしは基本的に毒使いだ。ただ、今回は真正面からの果し合いってことでここに来てる。あなたがもし毒を邪道だと思うなら……あたしは今回毒を使わないことにするよ。精霊さん、回答をお願い」
セレスのまなざしに精霊が眉尻を落とす。そして深く頷いた。
『女、お前は善き人間だな。黙っていたとしても……いや、毒の使用は構わぬ。お前達の全てをもってかかって来るが良い』
精霊が一瞬瞳に宿した悲しみにセレスは小首を傾げた。しかしこれからの戦いに感傷は不要だ。感謝の言葉を告げ、セレスは下がった。
ささやかな対談が終わり、精霊とハンター一行が東西に分かれる。
テンシはその中間地点に立つと、ワンドを強く握りしめた。
「皆、いいね。いざ……尋常に……勝負っ!!」
天に向かって振り上げられるワンド。
ハンター達は精霊に比べれば小兵だが、行動速度はそれをゆうに超える。まずはカズマが精霊に向かい駆け出した。
(サンデルマンへ砂の精霊の情報を尋ねたが、精霊を祀る亜人が絶えたため力を推し量ることができないと言っていた。帝国の精霊が人間を憎む原因はそこにあるのか?)
疑問が脳裏に浮かぶが、精霊の巨大な腕を見て迷いを振り切る。
(全ては戦が終わってからだ。迷いはつまらないミスに繋がる……!)
カズマは体内を巡る「気」の循環をにわかに高めた。そして精霊の懐に潜り込み掌底を打ち込む。マテリアルの奔流はその巨体を揺らしたが精霊はすぐに持ち直した。
しかしその揺らぎを見逃さないのがセレスだ。彼女は精霊の側面に陣取った。
「歌よ、風に乗れ!」
透き通る声が戦場に響き、軽やかなステップのリズムが周囲の仲間たちに力を与える。そして彼女は風の力を帯びた剣を抜いた。
(さっきはありがと。全力で戦わせてもらうよ)
白黄に輝く剣に紫の瘴気じみたオーラが加わる。それを巨大な左手に突き刺すと一気に振り上げた。精霊の左腕からザザザッと砂が滑り落ちていく。精霊のマテリアルを毒が蝕み始めたのだ。
「ん、力を失うと体の維持ができなくなるのね」
篝は精霊と中距離の位置に立ち、自身に守護の祈りを捧げた。続けて構えたのはガトリング砲である。
「砂の体ならば、体を維持できなくなるまで端から削り落としていくわよ」
精霊に射出される弾丸のうちひとつが篝のコントロール下におかれ、鋭い軌道を描く。精霊の左腕より多くの砂が地に落ちた。
炎は全身にマテリアルを漲らせ、筋力を一瞬で向上させた。
「覚悟完了!! 俺の名は南護炎、歪虚を断つ剣なり!!」
彼は一直線に剣を振り上げ、敵に逃げる暇さえ与えぬ強烈な一撃を放った。精霊の腹から無数の砂が飛沫となって噴出す。まるで鮮血のような凄まじさだ。
しかし、精霊が笑う。腹を無事な右手で庇うように覆うとたちまち砂の流出が止まる。マテリアルの流れを調整し、残った砂を繋ぎ合わせたのだ。
「マテリアルで応急処置できるんだ。さすがだね!」
テンシはワンドの先に風魔法の力を集中させ、精霊の足を鋭く打ち据えた。
その背後で霊闘士としての力を解き放ったのはジーナだ。
「今回は小細工無用だな。――鷹よ、鷹よ、白き鷹よ!」
故郷で祀られる白い鷹の祖霊の名を、彼女は敬虔な祈りをもって呼んだ。するとジーナの体に実体を伴う幻影が纏わり、小柄な体が4mに近い巨躯になった! 精霊がにやりと笑う。
「喜んでもらえて光栄だ。戦いは……真正面から視線を合わせて仕掛けるに限る!!」
ジーナが力強く地を蹴る。鉤爪が風と野生の力を纏い、精霊の頭部を2度鋭く抉った。だがそこから精霊の右腕が振り上げられ、ジーナの顎を強かに打った!
「ぐ……かはッ」
意識が薄れたが、せっかくの大舞台で倒れるわけにはいかない。その思いがジーナの意識を繋ぎとめ、巨大な足を地に踏み留めさせる。
(面白いぞ、この感覚……今までの体では体験できなかったものだ!)
彼女は血の滲む口元を拭うと凄絶な笑みを浮かべた。
それと時を同じくして、カズマは2度目の鎧通しを精霊の後方から大腿部へと打ち込んだ。十分に練られた気が精霊の足を不利な状況へと追い込んでいく。
「こっちは集団としての戦闘をさせてもらってるんだ、余所見をしている余裕なんてないと思え!」
その間セレスは歌いながら精霊の右脇に接近した。
(悪いけど、両腕を使わせなくさせてもらうよ)
セレスの紫色の刃が精霊の右腕に向けて振り上げられた。だがそこに頼りなくなった左腕がわざと突き出て、剣先にぐっと押し付けられた。
「なっ!?」
毒を吸った左腕の先端がボロボロと崩れ落ちていく。だが精霊は自信に満ち溢れた表情を変えない。
『我は砂。無限の石の集合体。石を繋ぐ力を解けば、毒など危惧するに値しない』
「ダメになったとこは切り捨てるのね。なら、どこまで我慢できるかしら!」
セレスの歌はその戦意にあわせ、激しさを増していった。
その一方で篝は精霊からの殴打が直撃したジーナを案じた。
「ジーナ、後退を! このままじゃ危ないわ。回復に専念して!!」
だがジーナは腕を胸の前で構えたまま動かない。
「戦士として、ここで退くわけにはいかない」
彼女は仲間たちの攻防を見極め、精霊に渾身の一撃を見舞おうとしているのだ。
篝は唇を噛むとロザリオを強く握り、癒しの言葉を紡いだ。ジーナの傷がみるみる回復していく。
「……感謝する」
篝はジーナに「武運を」と返し、再び銃を構えた。
一方で、炎は深く息を吸い込んだ。己と剣が一体になったような感覚を確かめると再び精霊に鋭く切りかかる。その時精霊の乱暴に振り回す足が左肩を打ったが、炎の闘志は揺るがない。
「俺達の想いを精霊に!」
テンシの風魔法が炎の斬撃に続く。2人の攻撃は精霊の胸の砂を深く抉った。
『ウオオオッ!!?』
精霊が2人の猛攻によろめいたところを、ジーナの爪が追う。
「倒れて休む時間など与えんッ」
獰猛な力が精霊の胸の傷をより深いものにする。
その時、精霊は自身の足元に転がる岩に比較的無事な右手を伸ばした。
「武器にでもするつもり? 余計な仕掛けは無用だ!」
ジーナはファントムハンドで岩を奪おうとするが、僅差で実現ならず。岩は精霊の手の内でまるで軽石のように砕けてしまった。無数の石礫を持った精霊の腕が弓をひくかのように後ろへ引かれる。
カズマは咄嗟にマテリアルの幻影を纏い、精霊の気を惹くように巨大な背を素早く切りつけた。すると精霊の豪腕が礫を握ったまま、カズマの体を砕くべく振り下ろされる。絶対的な恐怖の瞬間――だが、カズマは不敵に笑った。
「待っていた、この瞬間を。これが俺の切り札だッ!!!」
極限のスリルにカズマの身体能力が飛躍的に向上する。驚くことに精霊の拳よりも先に彼の剣が必殺の力を纏って突き出された!
『何!?』
精霊の右腕の内側を構築する砂がごそりと落ちる。精霊の拳そのものはカズマの上半身を打ち据えたが、力を失った拳の一撃は致命傷には到底及ばなかった。
「カズマさん、大丈夫!? ……何を考えてるのかは知らないけど、邪魔させてもらうよ!」
セレスが蝙蝠の形の投具を握り、毒の力を付与した。そして意識を精霊の右腕に集中させ、勢い良く投擲する。
『――ッ!!』
毒の刃を受けた右肩から砂が落ち始めた。
「石の重みに耐え切れないようにすればいいのよね。逃さない!」
篝のガトリング砲が精密な操作のもとに再び弾を発射する。精霊の二の腕が勢いよく爆ぜた。
炎は精霊の正面に立つ心意気を忘れず、剣を振る。
その一方でテンシは霊闘士としての力を解放した。
「あなたはヒトを憎みながらヒトに接触しようと動いてくれた。俺は信じる。霊闘士としての力であなたの真意を証明してみせる!」
砂の力がテンシのもとに集まる。それは砂の精霊と敵対している現状では得られがたい結果のはず、だった。テンシのワンドが砂の棍に変じていく。
『まさか!』
精霊が目を大きく見開いた。テンシが微笑む。
「砂が俺に力を貸してくれた。これはあなたが人間を見捨てていないということ、だよね!」
『うるさい! 黙れ、坊主!!』
精霊が崩れていく体を省みずテンシに肉薄する。そこにジーナが割り込み、鉤爪の錬撃を精霊の肩に喰らわせた。
「……戦の作法のひとつ、感情に溺れてはならない。あなたが望んだ勝負だ、あなたの心を満たす結末でなければ」
精霊が口を真一文字に結んだ。しかしその右腕は限界を迎えようとしている。腕が千切れるその前にと精霊は体をずらして右腕をぐんと振り上げた。無数の石がハンター達を襲う。
「きゃっ!」
セレスと篝の体に拳大の石が衝突する。ジーナは咄嗟に腕で頭や胸を庇ったが、無数の礫の衝撃に大きな悲鳴を上げた。
「皆!! くっ、俺が……俺が守らなければ……!」
炎もまた、石礫で受けた傷の痛みで全身が悲鳴をあげていたが剣を地に衝き立てて辛うじて立ち上がる。
そこで見たものは、自分たちに襲い掛からんとする大きな石。いや、岩だった。
「俺が皆を守る……死亡フラグってのはな、へし折るためにあるんだよッ!!!」
誰よりも前に駆け、剣を強く握る。彼が戦闘で磨いた直感。それが確信となった瞬間、炎は全力で岩弾を打ち返した!
――ドォッ。
鈍い音を立てて、精霊の肩を越えて地に落ちる岩弾。――炎の顔から汗が滴り落ちた。
『仲間のために限界を超えたか、勇敢な人間よ。……感謝しよう、お前たちの全てに』
そう呟く精霊の体もとうに限界を超えていたのだろう。静かに崩れていった。
精霊は砂の山と化した。そこにぽっかりと精霊の顔が浮かぶ。今や喋るのが精一杯で声さえも弱弱しい。
『まさか砂の力で我の本心を暴くなど、思ってもみなかったわ』
精霊は自嘲的に笑った。テンシが言葉を選びながら言う。
「……あなたは果し合いという手段で、過去に囚われずヒトを見極める機会をくれたんだよね。俺には……その過去はわからないけど」
『我は今の世界の有り様を知りたかった。我の同胞を無残に殺した帝国兵が死に絶えているこの時代の人間が、どうなっているのか』
「俺達はどうだった。あんたにとって」
炎がしゃがみ込み、精霊の顔に目線を合わせた。精霊は大きく息を吐く。
『……お前達があの時代の人間どもと同じなら全員を砂に埋め、帝都を砂で覆った。だがお前たちのような人間が当たり前に生きる時代なら……あの時代の真実を知ることさえできれば、十分だ』
篝はその答えに安堵すると、精霊の傍に移動した。
「さて。約束どおり、話を聞いてもらうわ」
精霊が頷く。
「わたしたちは大精霊サンデルマンの依頼で来たの。今なお跋扈する歪虚に勝つには人類だけじゃなく、精霊との共闘が欠かせない。だから帝都に集まって力を貸してほしい、とね。あなたの力を、わたし達に貸してほしいのよ」
『歪虚と戦うのか……我はしばらく使い物にならぬぞ』
難色を示す精霊にセレスが1枚の紙片を差し出した。
「これはサンデルマンからの加護。あなたが人類と共闘してくれるなら守りの力を与えてくれるはず」
精霊が目を瞑り、誓いの言葉を紡ぐ。するとみるみるうちに元の姿を取り戻していった。
『……! これならば帝都へ向かうこともできよう』
「これで契約成立ね。……あ、あなたの名前を尋ねるのを忘れていたわ。伺っていいかしら」
篝の問いに精霊は気前良く答えた。
『我が名はグラン・ヴェル。古い名だ。グランと呼べばいい』
その時ジーナが再び肉体に巨大な幻影を纏い、腰を落としたままの精霊グランへ手を差し出した。
「精霊グランよ、いつか私と一対一の勝負を。こういう勝負なら何度でもしてみたい」
グランは『いいとも、勇猛な娘よ。次は負けんぞ』と笑い、ジーナの白い手をぐっと握った。
「まさか精霊直々に果し合いの申し込みとは……素晴らしいな。ドワーフの戦士からすれば実に滾る話だ」
ふいにジーナ(ka1643)が呟いた。テンシ・アガート(ka0589)が向日葵のような笑顔を彼女に向ける。
「ジーナさん、やる気満々だね! 俺達は精霊に日頃からお世話になってるし、力になってあげたいね!」
――ジーナもテンシも精霊や祖霊の力を借りて戦う霊闘士。精霊に戦を求められる機会など滅多にあるものではない。喜びの方向性が異なるものの2人の足取りは揃って軽やかだ。
霊闘士たちの前をゆく南護 炎(ka6651)は得物の具合を改めて確認すると、口もとを軽く引き締めた。
「なあ、皆。今回は真っ向勝負で挑むべきだよな。精霊の信頼に応えられる心の持ち主だと示さないと」
「そうね。ただし、精霊が協力するに値する知恵と力も示さないと。彼は果し合いという形式をとるのだもの」
炎の呼びかけに淡々と応じるのは八原 篝(ka3104)。そこで肩を竦めたのはセレス・フュラー(ka6276)だ。
「要はあたし達の全てに試練を課すってことね。真正面からの果し合いなんて、か弱い女の子のあたしには似合わないけどさ」
冗談めかして小さく肩を揺らすセレス。一行の先頭をゆく龍崎・カズマ(ka0178)は静かに闘志を燃やした。
「果し合いだろうと試練だろうと、やるってんなら付き合うさ。正直なところ、無償の助力や協力ってのは些か気持ちが悪いからな」
そう言い切った彼は精霊の住処を記した地図に目を戻し、現在地を確認した。精霊の住処はこの辺りで間違いない。
ジーナは昂ぶりを抑えるように胸に手を当てると高らかに名乗りを上げた。
「砂の精霊よ、いるのだろう? 私はジーナ。ドワーフの戦士だ。あなたの願う果し合いを叶えるために参じた次第!!」
凛々しい声が荒涼たる大地に響く。すると足元に微弱な揺れが発生した。足元の砂が一行の前に向かって一直線に流れていく。そして砂が小山ほどの塊になったかと思いきや、砂が精悍な四肢と頭部を構築した。
『……強きマテリアルを宿す6人の戦士……お前たちは帝都の強者か?』
体に響く重い声。だがテンシは物怖じなどしない。
「うん、俺達は帝都で果し合いのお話を受けたんだ! こっちは6人いるけどいいかな!?」
『こちらは何人とでも構わんぞ』
巨大な瞳が6人のハンターを品定めするかのように見据える。
そこで篝が一歩前に出た。
「この勝負でこちらが勝ったら、わたし達の話を聞いてもらえないかしら」
『話、だと? 我がお前たちの要求に応じるのではなく、か』
「ええ。でもこれ以上は語らない。今の私達に必要なのは心を燃やす戦いだもの」
『それはそうだ。ならば誓おう。お前たちが我を破ることあらば、その際はお前たちの話に誠をもって応ずると』
篝が「約束ね」と頷き、後退する。次に前に出たのはセレスだ。
「先に宣言しとく。あたしは基本的に毒使いだ。ただ、今回は真正面からの果し合いってことでここに来てる。あなたがもし毒を邪道だと思うなら……あたしは今回毒を使わないことにするよ。精霊さん、回答をお願い」
セレスのまなざしに精霊が眉尻を落とす。そして深く頷いた。
『女、お前は善き人間だな。黙っていたとしても……いや、毒の使用は構わぬ。お前達の全てをもってかかって来るが良い』
精霊が一瞬瞳に宿した悲しみにセレスは小首を傾げた。しかしこれからの戦いに感傷は不要だ。感謝の言葉を告げ、セレスは下がった。
ささやかな対談が終わり、精霊とハンター一行が東西に分かれる。
テンシはその中間地点に立つと、ワンドを強く握りしめた。
「皆、いいね。いざ……尋常に……勝負っ!!」
天に向かって振り上げられるワンド。
ハンター達は精霊に比べれば小兵だが、行動速度はそれをゆうに超える。まずはカズマが精霊に向かい駆け出した。
(サンデルマンへ砂の精霊の情報を尋ねたが、精霊を祀る亜人が絶えたため力を推し量ることができないと言っていた。帝国の精霊が人間を憎む原因はそこにあるのか?)
疑問が脳裏に浮かぶが、精霊の巨大な腕を見て迷いを振り切る。
(全ては戦が終わってからだ。迷いはつまらないミスに繋がる……!)
カズマは体内を巡る「気」の循環をにわかに高めた。そして精霊の懐に潜り込み掌底を打ち込む。マテリアルの奔流はその巨体を揺らしたが精霊はすぐに持ち直した。
しかしその揺らぎを見逃さないのがセレスだ。彼女は精霊の側面に陣取った。
「歌よ、風に乗れ!」
透き通る声が戦場に響き、軽やかなステップのリズムが周囲の仲間たちに力を与える。そして彼女は風の力を帯びた剣を抜いた。
(さっきはありがと。全力で戦わせてもらうよ)
白黄に輝く剣に紫の瘴気じみたオーラが加わる。それを巨大な左手に突き刺すと一気に振り上げた。精霊の左腕からザザザッと砂が滑り落ちていく。精霊のマテリアルを毒が蝕み始めたのだ。
「ん、力を失うと体の維持ができなくなるのね」
篝は精霊と中距離の位置に立ち、自身に守護の祈りを捧げた。続けて構えたのはガトリング砲である。
「砂の体ならば、体を維持できなくなるまで端から削り落としていくわよ」
精霊に射出される弾丸のうちひとつが篝のコントロール下におかれ、鋭い軌道を描く。精霊の左腕より多くの砂が地に落ちた。
炎は全身にマテリアルを漲らせ、筋力を一瞬で向上させた。
「覚悟完了!! 俺の名は南護炎、歪虚を断つ剣なり!!」
彼は一直線に剣を振り上げ、敵に逃げる暇さえ与えぬ強烈な一撃を放った。精霊の腹から無数の砂が飛沫となって噴出す。まるで鮮血のような凄まじさだ。
しかし、精霊が笑う。腹を無事な右手で庇うように覆うとたちまち砂の流出が止まる。マテリアルの流れを調整し、残った砂を繋ぎ合わせたのだ。
「マテリアルで応急処置できるんだ。さすがだね!」
テンシはワンドの先に風魔法の力を集中させ、精霊の足を鋭く打ち据えた。
その背後で霊闘士としての力を解き放ったのはジーナだ。
「今回は小細工無用だな。――鷹よ、鷹よ、白き鷹よ!」
故郷で祀られる白い鷹の祖霊の名を、彼女は敬虔な祈りをもって呼んだ。するとジーナの体に実体を伴う幻影が纏わり、小柄な体が4mに近い巨躯になった! 精霊がにやりと笑う。
「喜んでもらえて光栄だ。戦いは……真正面から視線を合わせて仕掛けるに限る!!」
ジーナが力強く地を蹴る。鉤爪が風と野生の力を纏い、精霊の頭部を2度鋭く抉った。だがそこから精霊の右腕が振り上げられ、ジーナの顎を強かに打った!
「ぐ……かはッ」
意識が薄れたが、せっかくの大舞台で倒れるわけにはいかない。その思いがジーナの意識を繋ぎとめ、巨大な足を地に踏み留めさせる。
(面白いぞ、この感覚……今までの体では体験できなかったものだ!)
彼女は血の滲む口元を拭うと凄絶な笑みを浮かべた。
それと時を同じくして、カズマは2度目の鎧通しを精霊の後方から大腿部へと打ち込んだ。十分に練られた気が精霊の足を不利な状況へと追い込んでいく。
「こっちは集団としての戦闘をさせてもらってるんだ、余所見をしている余裕なんてないと思え!」
その間セレスは歌いながら精霊の右脇に接近した。
(悪いけど、両腕を使わせなくさせてもらうよ)
セレスの紫色の刃が精霊の右腕に向けて振り上げられた。だがそこに頼りなくなった左腕がわざと突き出て、剣先にぐっと押し付けられた。
「なっ!?」
毒を吸った左腕の先端がボロボロと崩れ落ちていく。だが精霊は自信に満ち溢れた表情を変えない。
『我は砂。無限の石の集合体。石を繋ぐ力を解けば、毒など危惧するに値しない』
「ダメになったとこは切り捨てるのね。なら、どこまで我慢できるかしら!」
セレスの歌はその戦意にあわせ、激しさを増していった。
その一方で篝は精霊からの殴打が直撃したジーナを案じた。
「ジーナ、後退を! このままじゃ危ないわ。回復に専念して!!」
だがジーナは腕を胸の前で構えたまま動かない。
「戦士として、ここで退くわけにはいかない」
彼女は仲間たちの攻防を見極め、精霊に渾身の一撃を見舞おうとしているのだ。
篝は唇を噛むとロザリオを強く握り、癒しの言葉を紡いだ。ジーナの傷がみるみる回復していく。
「……感謝する」
篝はジーナに「武運を」と返し、再び銃を構えた。
一方で、炎は深く息を吸い込んだ。己と剣が一体になったような感覚を確かめると再び精霊に鋭く切りかかる。その時精霊の乱暴に振り回す足が左肩を打ったが、炎の闘志は揺るがない。
「俺達の想いを精霊に!」
テンシの風魔法が炎の斬撃に続く。2人の攻撃は精霊の胸の砂を深く抉った。
『ウオオオッ!!?』
精霊が2人の猛攻によろめいたところを、ジーナの爪が追う。
「倒れて休む時間など与えんッ」
獰猛な力が精霊の胸の傷をより深いものにする。
その時、精霊は自身の足元に転がる岩に比較的無事な右手を伸ばした。
「武器にでもするつもり? 余計な仕掛けは無用だ!」
ジーナはファントムハンドで岩を奪おうとするが、僅差で実現ならず。岩は精霊の手の内でまるで軽石のように砕けてしまった。無数の石礫を持った精霊の腕が弓をひくかのように後ろへ引かれる。
カズマは咄嗟にマテリアルの幻影を纏い、精霊の気を惹くように巨大な背を素早く切りつけた。すると精霊の豪腕が礫を握ったまま、カズマの体を砕くべく振り下ろされる。絶対的な恐怖の瞬間――だが、カズマは不敵に笑った。
「待っていた、この瞬間を。これが俺の切り札だッ!!!」
極限のスリルにカズマの身体能力が飛躍的に向上する。驚くことに精霊の拳よりも先に彼の剣が必殺の力を纏って突き出された!
『何!?』
精霊の右腕の内側を構築する砂がごそりと落ちる。精霊の拳そのものはカズマの上半身を打ち据えたが、力を失った拳の一撃は致命傷には到底及ばなかった。
「カズマさん、大丈夫!? ……何を考えてるのかは知らないけど、邪魔させてもらうよ!」
セレスが蝙蝠の形の投具を握り、毒の力を付与した。そして意識を精霊の右腕に集中させ、勢い良く投擲する。
『――ッ!!』
毒の刃を受けた右肩から砂が落ち始めた。
「石の重みに耐え切れないようにすればいいのよね。逃さない!」
篝のガトリング砲が精密な操作のもとに再び弾を発射する。精霊の二の腕が勢いよく爆ぜた。
炎は精霊の正面に立つ心意気を忘れず、剣を振る。
その一方でテンシは霊闘士としての力を解放した。
「あなたはヒトを憎みながらヒトに接触しようと動いてくれた。俺は信じる。霊闘士としての力であなたの真意を証明してみせる!」
砂の力がテンシのもとに集まる。それは砂の精霊と敵対している現状では得られがたい結果のはず、だった。テンシのワンドが砂の棍に変じていく。
『まさか!』
精霊が目を大きく見開いた。テンシが微笑む。
「砂が俺に力を貸してくれた。これはあなたが人間を見捨てていないということ、だよね!」
『うるさい! 黙れ、坊主!!』
精霊が崩れていく体を省みずテンシに肉薄する。そこにジーナが割り込み、鉤爪の錬撃を精霊の肩に喰らわせた。
「……戦の作法のひとつ、感情に溺れてはならない。あなたが望んだ勝負だ、あなたの心を満たす結末でなければ」
精霊が口を真一文字に結んだ。しかしその右腕は限界を迎えようとしている。腕が千切れるその前にと精霊は体をずらして右腕をぐんと振り上げた。無数の石がハンター達を襲う。
「きゃっ!」
セレスと篝の体に拳大の石が衝突する。ジーナは咄嗟に腕で頭や胸を庇ったが、無数の礫の衝撃に大きな悲鳴を上げた。
「皆!! くっ、俺が……俺が守らなければ……!」
炎もまた、石礫で受けた傷の痛みで全身が悲鳴をあげていたが剣を地に衝き立てて辛うじて立ち上がる。
そこで見たものは、自分たちに襲い掛からんとする大きな石。いや、岩だった。
「俺が皆を守る……死亡フラグってのはな、へし折るためにあるんだよッ!!!」
誰よりも前に駆け、剣を強く握る。彼が戦闘で磨いた直感。それが確信となった瞬間、炎は全力で岩弾を打ち返した!
――ドォッ。
鈍い音を立てて、精霊の肩を越えて地に落ちる岩弾。――炎の顔から汗が滴り落ちた。
『仲間のために限界を超えたか、勇敢な人間よ。……感謝しよう、お前たちの全てに』
そう呟く精霊の体もとうに限界を超えていたのだろう。静かに崩れていった。
精霊は砂の山と化した。そこにぽっかりと精霊の顔が浮かぶ。今や喋るのが精一杯で声さえも弱弱しい。
『まさか砂の力で我の本心を暴くなど、思ってもみなかったわ』
精霊は自嘲的に笑った。テンシが言葉を選びながら言う。
「……あなたは果し合いという手段で、過去に囚われずヒトを見極める機会をくれたんだよね。俺には……その過去はわからないけど」
『我は今の世界の有り様を知りたかった。我の同胞を無残に殺した帝国兵が死に絶えているこの時代の人間が、どうなっているのか』
「俺達はどうだった。あんたにとって」
炎がしゃがみ込み、精霊の顔に目線を合わせた。精霊は大きく息を吐く。
『……お前達があの時代の人間どもと同じなら全員を砂に埋め、帝都を砂で覆った。だがお前たちのような人間が当たり前に生きる時代なら……あの時代の真実を知ることさえできれば、十分だ』
篝はその答えに安堵すると、精霊の傍に移動した。
「さて。約束どおり、話を聞いてもらうわ」
精霊が頷く。
「わたしたちは大精霊サンデルマンの依頼で来たの。今なお跋扈する歪虚に勝つには人類だけじゃなく、精霊との共闘が欠かせない。だから帝都に集まって力を貸してほしい、とね。あなたの力を、わたし達に貸してほしいのよ」
『歪虚と戦うのか……我はしばらく使い物にならぬぞ』
難色を示す精霊にセレスが1枚の紙片を差し出した。
「これはサンデルマンからの加護。あなたが人類と共闘してくれるなら守りの力を与えてくれるはず」
精霊が目を瞑り、誓いの言葉を紡ぐ。するとみるみるうちに元の姿を取り戻していった。
『……! これならば帝都へ向かうこともできよう』
「これで契約成立ね。……あ、あなたの名前を尋ねるのを忘れていたわ。伺っていいかしら」
篝の問いに精霊は気前良く答えた。
『我が名はグラン・ヴェル。古い名だ。グランと呼べばいい』
その時ジーナが再び肉体に巨大な幻影を纏い、腰を落としたままの精霊グランへ手を差し出した。
「精霊グランよ、いつか私と一対一の勝負を。こういう勝負なら何度でもしてみたい」
グランは『いいとも、勇猛な娘よ。次は負けんぞ』と笑い、ジーナの白い手をぐっと握った。
依頼結果
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マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/10/02 19:22:54 |
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相談卓 通りすがりのSさん(ka6276) エルフ|18才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2017/10/07 06:57:47 |