【絵本】小さな命と

マスター:風亜智疾

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/10/07 22:00
完成日
2018/04/19 20:38

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 ヴェロニカ・フェッロ(kz0147)は途方に暮れていた。
 家の中はまるで暴風が吹き抜けたように物が散乱しているし、描きかけのスケッチはボロボロだ。
「ど、どうしたらいいの……?」
 思わず涙目になったのも、仕方ないだろう。
 だって、彼女には経験がなかったのだ。

 ――彼女の家の中では、3匹の子猫が大暴れしていた。


 時は半日遡り、深夜。
 相変わらず眠りが浅く短い彼女は、溜息を吐きつつ寝室の窓を開け放った。
 風に当たりながら月明りと星を眺めていれば、心が落ち着くかもしれないという僅かな期待で毎日繰り返している行為だが、残念ながらあまり効果はない。
 ぼんやりと空を見上げているヴェロニカの耳がそれを拾ったのは、本当に偶然だった。
「……え?」
 彼女がハーブを育てている庭のどこかから、小さく何かの鳴き声が聞こえた気がした。
 もう一度耳を澄ませ、風に乗って聞こえてきた鳴き声に目を見開く。
 慌ててショールを羽織り、動かしづらい足をもどかしく思いながらも庭へと急ぐ。
 風に乗って聞こえるそれを頼りにそう狭くもない庭を歩き回り。
 そうしてサンザシの根元で見つけた『それ』を、戸惑いつつ腕に抱え上げる。
 日中はまだ暑い日もあるが、夜は気温がぐっと下がる。
 見たところ腕の中の生き物たちはまだ小さく幼い。
 放っておくことは、出来なかった。


「お願いだから、大人しく……あぁっ! ダメよそれはっ!」
 ひっくり返るマグカップに目もくれず、ベッドサイドからリビングの棚の上に避難させていたぬいぐるみたちをひったくるように腕に抱きこむ。
 間一髪、咥えられることもひっかかれる事もなかったぬいぐるみたちを確認して、ほっと安堵の息を吐く。
 も、束の間。彼女のスカートに爪を立ててよじ登り始めたそれらに、ヴェロニカは思わず泣きだしそうになった。
「もうっ! どうしたらいいのっ……!!」
 このままでは家の中が悲惨なことになる上に、大事なものまでボロボロにされてしまう。
 けれど、放り出すわけにもいかない。
 かといって自分にはこういった経験は皆無で、どうしていいかも分からない。
 彼女と長く過ごしていた中年の男は現在、とある山奥の村に出向いてそこの住人たちと畑仕事にでも精を出していて、頼りには出来ない。
 なにせ、彼女がこういう経験をした事がないのは、その中年の男の忠告のおかげなのだ。
 足が悪い彼女に対して、男は常々こう言っていた。
『いいかお嬢。責任を取れないなら、手を出すな』
 必死にぬいぐるみたちを守りながら、ヴェロニカは家の中で悲鳴を上げる。
「お願いだから、誰かこの子猫たちをどうにかして……!!」

リプレイ本文

■いのりのかぜとともに
「それだけはダメっ……!!」
 ヴェロニカの悲鳴が上がる。
 元気いっぱいの子猫の爪。その先にあったのは、ヴェロニカ宛の手紙と書きかけの返信が一式。
 足の悪いヴェロニカが慌てても、子猫の速さには敵わない。
 涙目になって顔を覆った、次の瞬間。

 リーン。リーン。ノックノック。

 玄関から響いた来客を告げる音と、光られるドアから吹き込む風に、子猫たちの意識が逸れた。
 そちらに興味が映ったのだろう、一目散に走っていく弾丸のようなその子達を呆然と見送って、ヴェロニカは思わずほろりと涙を零したのだった。

 まるで『どこか』で『だれか』が、苦笑しながら彼女を守ろうとするかのような。
 そんなちいさな奇跡が、今回の始まり。

■あいある「めっ」
 やって来たのは、ヴェロニカが自身を愛称で呼ぶことを許している『友達』である浅緋 零(ka4710)をはじめ、過去何度か彼女の依頼に参加し面識にあるクィーロ・ヴェリル(ka4122)、晴風 弥(ka6887)、オグマ・サーペント(ka6921)。そして今回がはじめましてのマリエル(ka0116)にグリムバルド・グリーンウッド(ka4409)だった。
「……ヴェラ」
 玄関から飛び出しそうになった三匹をそれぞれマリエル、グリムバルド、クィーロが咄嗟に捕まえ。
 呆然と床に座り込んでしまっていたヴェロニカの前に、零が屈み込む。

 ちなみに。悲鳴が聞こえた時点で緊急事態だと全員認識していたので、今回はやむなく勝手に入らせてもらっている。
 とはいえヴェロニカはハンターに対してとても好意的な人間であり、また友達である零が先陣を切って入って来たので、全く気にしてはいないだろう。

「レ、レイ……あいたっ!?」
 ぺちっ。と可愛らしい音と共に、咄嗟に自身の額を押さえたヴェロニカが、目を丸くして眼前の零を見やった。
 彼女の額の前には、弾かれて伸ばされた零の中指。
 いわゆるデコピンを友達に放った零が、むっと顔を顰めてみせる。
「ヴェラ。気持ちは分かる……けど、面倒、見れないなら、拾っちゃダメ……だよ」
 諭すように紡がれた言葉に、でも、とヴェロニカが口を開こうとするのを、今度は両頬を押さえることで止めた。
「ダメ」
 なにも零は拾うな。と言っているわけではないのだ。
 ただでさえヴェロニカには身体的ハンデがある。
 子猫が見捨てられないという気持ちも、ちゃんと分かっている。
 だから零は、一人で頑張らずに誰かに頼りなさい。と言いたいのだ。
 例えば――友達。例えば――自分、とか。
「……ごめんなさい」
 しゅんと肩を落とした友人の頭を、いいこいいこ、と撫でる零を見て、クィーロは小さく噴き出した。
(全く、どっちがお姉さんなんだろうね)
 けれど、二人の関係はこれが理想なのかもしれない。とも思いはするけれど。

 簡単に自己紹介を済ませ、また自由気ままに動き出そうとする子猫たちを、グリムバルドがひっ捕まえる。
「元気が一番とはいえ、ここまで元気すぎるのもな」
 苦笑しつつ、ヴェロニカから提供された大きめの籠に猫を入れていく。
「はじめまして、マリエルといいます。かわいいですねぇ」
 ちょんちょん、と猫たち自分の指にじゃれつかせて気を引くマリエルが、ほわりと微笑んだ。
 その隙に全員で嵐が去った後の部屋をまずは軽く片付けて。

 さて、ここからが本題。
 この子猫たち、どうしよう?

■いのちとくらす
 子猫の籠を取り囲むように、ヴェロニカを含め皆でラグの上へと座り。
 オグマが一息入れよう、と淹れた紅茶を手にしつつ。
 まず口を開いたのはヴェロニカの隣、寄り添うように座った零だった。
「……それで、ヴェラは、この子たち……どうしたい……の?」
「それはもちろん、飼ってあげたいわ」
 けれど。彼女は足のこともあって動物を飼ったことがないのだという。
「あのね、ヴェロニカさん。猫は気ままな動物って言われているけど、躾に関してはとても難しいんだ」
 クィーロの言葉に、ヴェロニカがそっと眉を下げた。
 そう。猫は同じく人間と暮らす犬と違い、その躾に根気と時間が必要になる動物だ。
 トイレにしても、爪とぎの場所にしても。悪戯をしていいところ、駄目なところにしても。
 簡単には躾けられない。ある意味「初めて」動物を飼う人にはどこか難しいタイプなのだ。
「安易に可愛いからとかなら、僕は飼わない方がいいと思うな」
 可愛いから。可哀想だから。
 それだけが理由なら、きっと猫もヴェロニカも幸せにはなれない。
 それになにより、猫は人間よりも遥かに寿命が短い。
 子猫たちを幸せにしたいというのなら、覚悟が必要なのだ。その最後まで看取り、送る覚悟が。
「……命を預かるって、そういうことだと思うからね」
 クィーロの言葉と共に、全員の視線がヴェロニカへと向かう。
「ヴェロニカ、俺、子猫たちがヴェロニカの所に来たのって何か理由があると思うんだ」
 弥が人懐こい表情で告げ、マリエルがそっと子猫とヴェロニカを交互に見やった。
「これは縁になるかも、と私も思います。迷っているなら、猫さんと相談するといいですよ」
 猫を抱き、向き合って、己の胸とも、向き合って。
 そっと目を閉じたヴェロニカの背を、ゆっくりと零が撫でる。
 大丈夫だと。何を選択しても、大丈夫だと。慈しみを込めて。
「……私ね、初めてこの子たちを見つけた時、思ったの」
 寒い空の下、身を寄せ合って震えている子猫たちを見つけた時、強く思ったのだ。
 放ってはおけない、と。
 それは確かに、可愛そうだという思いもあった。
 けれど、それだけではないのだ。
「私、今まで沢山の人に守ってもらってきたわ。守られて、そうして思ったの」
 今度は、自分もなにかを『守る』人になりたい。
 小さな命たちはあの時、確かにヴェロニカにしか守れなかった。
 目の前の命を大切に守り通そうとするハンターたちと、自分を比べるのはおこがましいのは分かっている。それでも。そうだとしても。
「命あるものはいつかその灯火を消してしまう。理解しているわ。別れはいつだって、突然だっていうことも」
 子猫たちが大きくなるまで生きていられるか。大きくなっても何年生きられるか。
 それは誰にも分からない。
 人だって、それは同じだ。
「だから私は、目の前のこの小さな命を守りたいの。……みんなのように」
 開いた空色の瞳に、迷いはなかった。
「確かに私は飼い主初心者だわ。だから、その……お願いがあるの」
 全員を見渡して、ヴェロニカは深く頭を下げた。
「どうか私に、この子たちとの暮らし方を……飼い方を、教えてください」
 真摯な言葉と表情に、全員が顔を綻ばせた。

■ねこのそだてかた
 とはいえ、飼い主初心者で足の悪いヴェロニカが飼えるのは一匹だけだろう。
 そう全員で相談して、残りの二匹はマリエルとグリムバルドがそれぞれ引き取りに手を挙げた。
 三匹の子猫たちは籠から出され、あちらへこちらへと動き回っている。
「それじゃあ、三匹のうちどの子を誰が、というのは最後に決めましょう」
「えぇ、そう……あっ!?」
 頷いて子猫を眺めていたヴェロニカが小さく声を上げた。
 その先では、カーテンを引っ張って爪を立てようとしている一匹のやんちゃな虎毛の子猫。
 と、そこにピュッ!と水が放たれた。
 驚いた子猫はカーテンから離れて、とててと別の場所へと移動していく。
「……と、こんな感じでね。躾でなにか悪いことをした場合に叱る方法は一つにしておいた方がいいと思うな」
 その方が子猫も理解しやすいから、とクィーロが言いながら手に持った水鉄砲を見せる。
「これならヴェロニカさんでも手軽に使うことが出来ると思うよ」
 そっとヴェロニカの掌に水鉄砲を置いて、猫を見ているように指をさす。
 ふらりと興味をラグマットのふちへと移した子猫が、勢いよくそれを噛んで引っ張ろうとした瞬間。
 今だ、とクィーロがヴェロニカの肩を叩いた。
 ピュッ!と放たれた水が奇跡的というかなんというか、子猫の鼻頭に当たってしまう。
「あっ……!」
「まぁ、水の勢いはそう強くはないから。大丈夫だよ」
「どうしても水鉄砲がない時は、床を叩いたりしても効果的だな」
 それよりもと猫を見やれば、ラグを引っ張ろうとした猫はぶるぶると顔を振ったあと、別の場所へと移動していた。
 悪いことをしたときのしかり方は、これが一番よさそうだ。

「次は褒めてやる時だな」
 グリムバルドにバトンタッチして、今度は褒めた時の方法だ。
 手には、美味しそうな餌が握られている。
「少しずつ小分けにして、何処にいてもいつでもご褒美にあげられるように」
 子猫のうちにしっかり躾けておけば、あとはご褒美がなくてもちゃんとしてくれる。
 そう言いつつ、グリムバルドはじっと子猫の行動を見ていた。
 ヴェロニカも一緒になって子猫たちを眺めていると、そのうちの一匹。比較的おとなしい茶金の子猫がそわそわと家の隅を歩いていた。
「誰か猫のトイレを庭に近い窓辺に置いてくれ」
「あっ、俺が置いてくる!」
 弥が小走りでトイレ一式を抱え、大きな窓辺にそれらを設置する。
 その隙にクィーロがそわそわしていた猫を抱え上げ、設置されたトイレへと降ろした。
 子猫は数度臭いを確認した後、トイレを無事成功させた。
「わぁっ……!」
「で、こういう時にご褒美として餌や猫用のおやつをやる」
 言いながらグリムバルドはそっと茶金の子猫に餌を与える。
 これを繰り返すことで、猫はトイレをここでするとご褒美がもらえる、と理解していくのだという。
「あと、トイレの場所は、変えない方がいい……って」
 零が呼んだ飼育本の知識から、そしてマリエルも付け加える。
「そうですね。あっちこっち移動してしまったら、猫さんも混乱してしまいますから」
 初めて知る知識ばかり。ヴェロニカはしっかりと頷いた。

■こねこたちのおうちへ
「猫は活動的な生き物ですから。こういうものがあると、いきいきとしてくれますよ」
 そういってヴェロニカから許可を取ったオグマが設置していったのは、眠るときにも使える猫用のハンモック。
「あとは、これ! 元気いっぱい遊べば、あとは静かに寝てくれるだろうしさっ」
 弥が取り出したのは猫じゃらしやネズミのおもちゃ、編まれたボールに小さな紐。
 オグマや弥は、みんなが猫の飼育について指導している間、残った部屋の片づけや猫のための寝床を整えたり、爪とぎの設置をしていたのだ。
「ありがとう、オグマ、弥。いろんなところで爪を研いでいたから、困っていたの」
 苦笑するヴェロニカが視線で示したのは一脚の椅子。
「あー……やられちゃってるね」
 弥もつられて苦笑し、オグマが小さく笑って頷く。
「よければあれも、簡単にですが整えますよ。やすりはありますか?」
「本当? ありがとう」

 そうして日も暮れ初め。
「そろそろ、お暇した方がいいでしょうね」
 マリエルの言葉に、少し用事のあった零以外が立ち上がった。
 マリエルの腕の中には、雪のように白い「トト」と名付けられた雌の子猫。
 グリムバルドの腕には、元気いっぱい遊んで疲れたのか、眠っているやんちゃな虎毛の雄の子猫。
 ちなみに、グリムバルドが連れて帰る猫は、彼のたっての希望からヴェロニカが「ホップ」と名付けた。
 残ったのは大人しめの茶金の雄の子猫。
 初めて飼うヴェロニカに向いた性格の子猫だろうし、何よりヴェロニカがその子猫を選んだのだった。
「ヴェロニカさんは、その猫さんにどんな名前を付けるんですか?」
 マリエルの言葉に、全員が興味深そうに視線を向ける。
 けれど、当のヴェロニカは小さく笑って人差し指を口元へと立て。
「今はまだ、ナイショ」
 楽し気にそういうのだった。

■おてがみです
 後日、今回家へとやって来たメンバー一人一人へ、絵ハガキが届いた。
 そこには「あたらしい家族」という文字と、『luce<ルーチェ>』と書かれたバンダナを巻いた茶金の子猫が描かれていた。







■ふたりの、やくそく
 ヴェロニカの家に残った零は、ヴェロニカの淹れたハーブティーを手に眠る子猫を眺めていた。
 知り合って、もうずいぶん経つ。
 だからこそ、ヴェロニカが何かを言いたいんじゃないか。と零は直感でそう思っていた。
 そうして一人、家に残ったのだが。
 どうやらそれは正解だったようで。
「……ねぇ、レイ」
 密やかに告げられる大切な友達からの言葉を、零は一体どんな気持ちで受け取ったのだろう。
「私――好きなひとが、できたの」
 そういった空色の瞳が見つめる先には、一輪のセンテッドゼラニウムが描かれた絵が飾られていた。


END

依頼結果

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MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • 聖癒の奏者
    マリエル(ka0116
    人間(蒼)|16才|女性|聖導士
  • 差し出されし手を掴む風翼
    クィーロ・ヴェリル(ka4122
    人間(蒼)|25才|男性|闘狩人
  • 友と、龍と、翔る
    グリムバルド・グリーンウッド(ka4409
    人間(蒼)|24才|男性|機導師
  • やさしき作り手
    浅緋 零(ka4710
    人間(蒼)|15才|女性|猟撃士
  • ゲーム好き
    晴風 弥(ka6887
    人間(蒼)|18才|男性|疾影士
  • その幕を降ろすもの
    オグマ・サーペント(ka6921
    ドラグーン|24才|男性|符術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/10/04 22:17:02
アイコン 猫さんのお世話
マリエル(ka0116
人間(リアルブルー)|16才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2017/10/06 21:59:47