友人に似た詐欺師

マスター:紺堂 カヤ

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/10/12 19:00
完成日
2017/10/17 08:51

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●これは夢
 空が、高い。
 木々も、家も、ずいぶんと大きく見える。
 どこか不思議な世界へ迷い込んでしまったのではなく、単に自分が小さいだけなのだとすぐに気がついた。
 目の前に両手を広げてみると、リンゴの実さえ片手では持てないほどの大きさだ。
 ここはどこだろう、と周囲を見回す。柔らかな草が生い茂っている。同じくらいの年頃の子どもが駆け回っていた。そのどの顔にも、見覚えはないが、たぶんそれは、自分が忘れてしまっているだけなのだろうと判断した。
 ああ、これは、過去の夢なのだ、とひとりうなずいたとき。
 後ろから、どん、と何かがぶつかってきた。
「つかまえたぞ、ほら、次はお前が鬼だぜ、セブ」
 ぶつかってきたのは、ひとりの少年だった。明るい赤毛を短く刈り込み、勝気そうに釣りあがった目をしていた。
「何ぼーっとしてんだよ。鬼が追いかけなきゃ鬼ごっこにならないだろ。おーい、みんな、次はセブが鬼だぜー! 鬼さんこちら、手の鳴るほうへー!」
 手を叩きながら走り出した少年を追うため、駆け出そうと、して。


●これは現実
 駆け出そうとして、青年は目覚めた。
 クリーム色のカーテンがふっくらと光を纏っているのが見えて、朝が来ていることを知る。
 青年はゆっくりと起き上がり、寝台の上で大きなため息をついた。端正な白皙の顔に、ため息は良く似合う。
 今回の夢がいつのものなのか悩む必要はなかったから、ため息はその所為ではない。いつのものなのかわかるからこその、ため息だった。
 あれは、過去だ。青年自身の、過去だ。
 いくつくらいの頃であろうか。ずいぶん幼い様子だった。間違いなく、先生はまだ生きていた頃だ。
 赤毛の少年が、セブ、と呼んだ声が耳にこびりついていた。
 出会う人すべてに、「忘れてしまった」と言うことにしている、自分の名前。
 覚えていた。
 本当は、覚えているのだ。
 夢以外の、ほかのことはすべて忘れてしまうのに、これだけは。名前だけは。どうしても、忘れられなかった。
「忘れてしまっても、かまわないのに」
 ひとりきりの朝の空気に、そのつぶやきはひっそりと溶けた。



 旅を続けている青年の次の目的地は、明確には決まっていなかった。目的地を定められるような、はっきりした夢を近頃はみていないのだ。ノートに書き記してある、これまでにみた夢の中の光景を探すために歩き回るしかない。
「久しぶりにはっきりした夢をみたとおもったら、あれだしな」
 昨夜みたばかりの、少年の頃の自分の夢を思い出して青年は顔をしかめた。あんな夢はなんの役にも立たない。
「……これから寒くなるし、南の方にでも行くか」
 非常に安直な理由で、青年が歩き始めたそのとき。
 後ろから、どん、と何かがぶつかってきた。
「ああ、わりぃわりぃ、ちょっと急いでたもんで」
 ぶつかってきたのは、青年と同じ年頃の男だった。明るい赤毛を短く刈り込み、小狡そうに釣り上がった目をしていた。
「ん!? んんん!? お前、セブじゃねーか!!!」
 青年の顔を見ると、彼は驚いたような笑顔になった。
「オレだよ、ピートだよ、覚えてないのか?」
「……いや。人違いでは?」
 目を逸らしつつ青年はそう返したが、人違いではないということはわかっていた。彼は、青年のことを「セブ」と呼んだから。
「人違いなわけねえよ、お前のそのキレイな顔を間違えるわけねえ。ま、お前は昔から物忘れがひどかったからな。オレのことなんて覚えてなくても仕方ないけどよ」
 赤毛の男……ピートはそう言うと、青年の肩を親しげに抱いて歩き出した。
「え、ちょっと」
「ま、折角会えたんだからさ、お前ちょっと付き合えよ、仕事手伝ってくれねえか。友だちだろ」
「は!?」
 ピートは青年の困惑を無視してどんどん喋り、どんどん前進した。青年は抵抗を早々に諦めた。
 その、ピートの話によると。
 とある商店の仕入れ用の荷馬車の護衛をする仕事を受けたが、仲間が集まらなくて焦っていた。そこに偶然、青年と出会えたから手伝ってほしい、ということだった。
「護衛、って……。そんなこと俺には無理だ。ハンターじゃないんだから」
「オレだってハンターじゃない。大丈夫さ。お前、確か弓矢はそこそこ使えたはずだろ?」
「ああ、まあ……」
 確かに、青年は弓の腕だけはそこそこだ。しかし、よくそんなことまで覚えているものだ、と青年は感心した。どんな偶然かはわからないが、ピートは昨夜みた夢に出てきたあの少年だろう。ピート自身のことは少しも覚えていないが、夢のことなら覚えている。
 結局、ピートに引きずられてきた青年は、荷馬車の護衛につくことになった。商店の主人が、前金を配っていく。護衛は、ピートと青年以外にも数名がいるようだった。なんだ、仲間がいるんじゃないか、と思うと、ピートは渋い顔をしていた。
「あいつら、本物のハンターじゃねえか。ちぇ、あの主人、話が違うぜ。オレだけに任せるようなこと言っておいて」
 途端に剣呑になったピートから、青年は距離を置いて、荷馬車の端に座った。馬やバイクで移動できる者は周囲をそれで固めて進むが、青年は荷馬車に乗るしかない。荷馬車は、近頃山賊がよく出るという道を通らねばならない。
 出発して、ほどなくたってから。あれ、と不思議そうな声が御者からした。青年の方を振り返って、尋ねる。
「なあ、あんたの友だち、姿が見えないぞ? どうしたんだ?」
「……え?」
 ピートは、前金だけを受け取って逃げてしまったようだった……。

リプレイ本文

 馬車の荷台にも、周囲にも。
 ピートの姿はなかった。意図的に極力顔を合わせないようにしていた青年は、ピートがいつ姿を消したのかはもちろん、そもそも出発時どのあたりにいたのかも知らなかった。
 出発していくらも経っていない。山賊が出た時の対処方法などを、簡単に再確認しておこう、という話がハンターたちの間で出ていた矢先のことだった。
「はー……困ったやっちゃなぁ……」
 御者台の近くに腰かけていた白藤(ka3768)が呆れたような声を出した。配られた前金はもちろん持ち逃げ、ということになる。ピートの分も、残りの者たちに配分されるなら悪いことばかりでもないが、とウィーダ・セリューザ(ka6076)などは考えたりするわけだが、放置はできないと考える者もいた。
「君は、いくつですか」
 青年の隣へ移動してきた神代 誠一(ka2086)が尋ねた。
「十八です」
 年齢だけは、忘れてしまうと厄介では、と思いノートに記しているのであった。青年の答えを聞いて、誠一はふむ、と頷く。
「では、友人であるという彼も同じくらいの年齢なんでしょうね。この歳でこんなことをしてるってことは相応の指導をしてくれる人がいなかったってこと、か」
 誠一は小さくため息をつくと、緑色のオーラを放って覚醒した。メガネのブリッジを持ち上げつつ、ハンターたちに向かっては穏やかに言う。
「仕事柄ちょっとほっとけないし、捕まえてきます。何かあれば短伝話へ連絡ください。直ぐ戻りますので」
「うちも手を貸すよ」
 白藤もそう申し出て、ふたりは馬車を離れた。それを見送り、魔導二輪に乗ったエラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)が、ゴースロンに騎乗し傍を歩ませているウィーダに声をかけた。
「フィロ様に連絡をしていただけませんか? 状況説明を」
「ああ、そうだね、了解」
 ウィーダは頷いて、ひとり魔導バイクで先行し警戒にあたっているフィロ(ka6966)に短伝話で連絡を取った。
 その様子を黙って見守ったのち、青年はハンターたちと御者に向かって頭を下げた。
「……すまない」
 ピートのことは何も知らないに等しいが、皆、青年とピートを友人同士だと思っているのだ。一言では言い表せない申し訳なさを、青年は感じていた。Anbar(ka4037)が、そんな彼に馬の上から笑いかける。
「兄さんの所為じゃない、気にするなよ。荷馬車の護衛なんてどういう風の吹き回しかと思ったが、あのピートってやつに巻き込まれたんだな」
 その言葉で、青年は少し肩の力を抜くことができた。出発前に「久しぶりだな」と声をかけてきたAnbarは、おそらく以前に青年と顔を合わせているのだろう。しかし、やはりと言うべきか青年に記憶はなく、それにも罪悪感があった。けれど、Anbarは特に気にした様子もなく気軽な態度で、それが青年には有難かった。
 ただ、ピートのことではひとつ気になっていることがあった。
(偶然なんだろうか。俺が、ピートと出会ったことは)
『護衛がいつの間にかいない、ですか? 盗賊団が内通者を忍び込ませる手口の王道に思えますが、皆さまいかがお考えでしょうか』
 状況を把握したフィロの言葉を短伝話ごしに聞いて、ウィーダとエラは頷き合った。
「充分考えられることですね。警戒を強めましょう」
 緊張感が増したハンターたちの様子に、青年の背筋も伸びた。



 ピートを探しに出た白藤と誠一は、目立つ赤毛を目印にして街道を見渡していた。誠一はアクセルオーバーを使用し、ピートを見つけたらすぐにランアウトで全力疾走できるように構えている。だが、そこまでの構えは必要なかったことが、すぐにわかった。なにしろ周囲の見通しの良い街道である。こそこそと逃げおおせるには不向きこの上ない場であった。その上徒歩で、あの赤毛でびくびくと何度も振り返りながら、という挙動不審ぶり。馬車がおもちゃほどに小さく見える距離まで離れたところで、ふたりはすぐ、それらしき人影を見つけた。
「こうもあっさり見つかるとはなぁ」
 白藤の苦笑とセリフは聞こえていないはずだが、ピートはふたりの姿に気が付いて慌てて走り出した。しかし。
「逃がしませんよ」
「ヒィッ!!!」
 誠一に、一瞬のうちに距離を詰められ、ピートは恐怖に喉を引きつらせた。それでも何とか逃げ出そうとデタラメに両腕を振り回して暴れる。とっさに拾ったらしい木の枝で誠一に殴りかかるが、この程度のかすり傷など、誠一にとっては何でもない。あっさり縄で縛り上げられた。
「離せー!!!」
「離すわけないでしょう」
「うっ……、おねーさん助けて!!!」
 誠一とやりあうことなど到底無理だと悟り、暴れて逃げることを早々に諦めたピートは傍で苦笑している白藤に哀れっぽい声をかけた。小物感を隠そうともしないその転換ぶりに、白藤はますます苦笑する。
「助けへんよ、そんなん」
「さて。言いたいことはありますが、まずは馬車に合流しましょう」
「お仕事の途中やからね」
 誠一がピートを担ぎ上げ、白藤は馬車の護衛を続けている仲間たちへ短伝話で連絡を入れる。
「トンズラ坊主捕まえたでー」
『ご苦労様です、白藤様。ではひとつ、確認してほしいことがあるのですが』
 短伝話から返ってきたのはフィロの声で、ピートが山賊の手引き役なのではないかを確認したいという。正直に吐くかどうかはわからないが、と思いつつ、白藤と誠一がピートに問いただそうとした、そのとき。短伝話から再びフィロの声がした。
『前方に土煙です。馬が走ってきます。おそらく、敵かと』
 白藤は駆け出し、誠一は縛り上げたままピートを放り出してランアウトを再び使用した。



 敵は射程外であるため馬車まで戻る、とフィロから連絡があり、他のハンターたちはそれぞれに応戦準備を整えた。ことのほか緊張しているのは御者と青年である。
「隠れていた方がいいと思います」
 エラが御者に向かって言うと、御者は緊張しつつも憤然として言い返した。
「護衛があんたらの仕事であるように、馬車を御すのが俺の仕事だ」
 それを聞いていた青年は、黙って御者の隣に移動すると、弓に矢をつがえた。ここの守りを請け負う、という姿勢を示したのだ。Anbarが青年に頷いて見せた。
「うん、任せた。敵をどうにかしようと思わなくていいから、自衛に努めてくれ」
「わかった」
 青年がしっかりと返事をしたとき。ダン、ダン、と銃声が聞こえた。敵の姿はまだ見えない。
 馬車を曳いていた馬が、驚いてヒイイイン、と嘶き、足を乱した。御者が慌てて落ち着かせ、馬車の歩みを止める。
「威嚇射撃でしょうか。護衛のついていない馬車ならば、それだけで荷を置いて逃げる可能性も高いですからね」
 エラが冷静に言い、進行方向を睨んだ。馬の群れによる振動を引き連れて、フィロが姿を現す。その後ろから、振動だけではなく敵の姿も見えてきた。思いのほか距離を詰められていたらしく、フィロはライフルの射程距離ギリギリにいた。先ほどの威嚇射撃は、フィロを狙ったものでもあったようで、数発、フィロの足や肩をかすめていた。ダメージの程度としてはたいしたことはない。フィロは馬車から少し距離を取ってバイクを反転させ、金剛を使用した。敵を迎え撃つ姿勢を取ったのである。
「よし、じゃあ行くか」
 Anbarが闘心昂揚を自らに施しながら、馬を駆って行った。敵中に突っ込むのだ。そのあとをウィーダが追う。しかし彼女は敵中へ突っ込むつもりはない。
「ボクは後衛狙いで行くよ」
「離れすぎないでくださいね」
 エラが後ろから声をかけた。
「わかってる。ガウスジェイル、あてにさせてもらうよ」
 そして龍矢「シ・ヴァユ」をつがえ、敵一団の後方を狙った。馬の足に当たるよう、角度を調節して放たれた矢は見事、狙い通りに的中し、お手本のように完璧に、敵が落馬した。
「!? ライフル所持者が前衛にいます。Anbarさんもフィロさんも避けて、突っ込んでくるつもりですね!」
 敵の身なりや行動の様子を観察していたエラが、気がついた。ウィーダが落馬させた男がサバイバルナイフでAnbarに斬りかかる。Anbarは手加減したおかげでかすり傷を負ったものの、男をあっさり返り討ちにした。定石というものを無視してくる相手であるらしい。護衛を潰せなくても、荷だけ奪えればよい、ということなのだろうか。
「賊としては正しいのかもしれませんが、リスク管理が杜撰すぎますね」
 エラは呟くと、効果範囲内に馬車とウィーダがいるのを確認してから、ガウスジェイルを発動させた。賊が発砲した弾は、ことごとく逸れていく。明らかに苛立った顔つきになった、その男は。
「お待たせしました、今戻りました」
 馬車の後ろからランアウトにて駆けつけた誠一の、アサルトディスタンスによって華麗に斬り伏せられた。
「ああ、生け捕りにしたいところだったんですが、とっさのことで。力加減ができませんでしたね」
さらっと恐ろしいことを口にした誠一だが、残りのふたりはそれを聞いても怯むことがなかった。賊ながらたいしたものではある、が。
「はいはーいストップストップ、そっからは来やんとってや」
 誠一より遅れて馬車に戻ってきた白藤が、レイターコールドショットによってひとりの動きを封じた。すると。もうひとりが、ライフルを真っ直ぐ、青年に向ける。明らかに一般人だとわかっての狙いだった。誠一が対処しようとしたときに。
 パシッ。
 青年が、矢を放った。矢は男の左太ももをとらえる。
「ぐぅううっ!!」
 男は呻きながら落馬した。エラが少しだけ驚いて、青年の顔を見る。青年は特に表情を変えていなかったが、わずかに眉を下げてエラに視線を返した。
「すまない。守ってくれているとはわかっていたんだが、直接銃口を向けられてつい」
「ええ腕やんか、坊や。でもまあ、ここから打つんはえぇけど前に出たらあかんよ?」
 白藤が笑って青年を褒める。白藤の攻撃を食らった男と、青年の矢を受けた男は捕縛することにした。誠一が押さえ込もうとしたところへAnbarが戻ってきて、ファントムハンドで拘束した。銃を持った三人はこれで片がついたことになる。
「あっちもだいたい片付いてる」
 Anbarが報告したとおり、サバイバルナイフを持った男たちのうち、残りひとりだけがフィロの攻撃やウィーダの矢から器用に逃げ回っている様子だった。その男は、仲間が誰も残っていないと見るや、血相を変えた。これまではとりあえず攻撃から逃げ回っていれば、仲間となんとかできるとでも思っていたらしい。
「クソッ!!」
 毒づいたかと思うと、大きく馬の腹を蹴って逃走を図った。捕らえられている仲間を助ける気はないらしい。
 背中を見せた、その賊を。

タァン!

 フィロが、銃で打ち抜いた。背中を貫かれた男が落馬し、馬だけが走り去っていく。ウィーダが少し驚いたように目を見開いたのを見て、フィロは小首をかしげ問いかけた。
「積み荷を奪われないこと、また以後このような賊が発生しないようきちんと処理することが必要であると考えましたが、何かありましたでしょうか」
「いいや、それで正しいさ」
 ウィーダは肩をすくめてから頷いた。かくして、ハンターたちは荷馬車を守りきった。



 捕縛したふたりの男を問い詰めたところ、このあたりで山賊行為を行っていたのは彼らだけであるという。奪った積荷はその場で分け、売り払うようにしていたため、アジトなども存在しないとのことだった。なお、内通者を使ったこともないという。彼らの扱いは地元の警邏に任せることとして、ハンターたちは、御者の了承を得て、少しだけ道を引き返した。すなわち。
「ピート、回収せなな」
 白藤が笑う。青年の顔は、少し曇った。そんな彼に、フィロが声をかける。
「遠い昔に道が別れた方をこの短時間で説得するのも、その方の生き方に責任を持つのも難しいことではないかと考えます」
 ピートに手を差し伸べる必要があるのかと、そう問いかけているのだと、青年は正しく理解して頷いた。
「彼のことを少しも覚えていなかった俺に、彼を説得する権利はない。そして今日のことも忘れてしまうだろう。だから、責任を持つことはできない。彼には自分で立ち上がってもらわないと」
 少しうつむいていたが、青年はきっぱりとそう言った。
 ピートは縛り上げられた状態で、芋虫のように身体をくねらせていた。足は縛られていないものの両腕が使えず、上手く立ち上がることができないでいたようだ。
「あああ、戻ってきてくれたぁあああ! すびばせんでしたぁああ」
 半泣きのピートを助け起こし、縄を解いてやったのは誠一だった。
「反省しているようですから、改めて説教することもないかもしれませんが……、しかし、ただ働きで得ようとした金は回収しましょうか。護衛のごの字もしていない君が手にする物じゃないですね」
「はいぃ……、お返ししばすぅ」
 素直に差し出された前金は、ウィーダが受け取った。
「も、持ち逃げなんてしないよ!? ちゃんと雇い主に渡すって!」
 誰も疑ってなどいないのに、そんなことを言う。エラや白藤が笑って、少し場が和んだところで、Anbarが青年に問いかけた。
「兄さんから、何か言っておくことはないのか?」
 そのセリフにびくりと身を震わせたのは、ピートの方だった。表情の変化に乏しい青年をおそるおそる見やる。
「セブ……、ごめん……」
「俺のことはいいんだ。もう同じことをしないでくれたら。……それより、ひとつだけ教えてくれないか。お前が、俺に再会したのは、偶然か?」
「……実は」
 ピートは少しうつむくと、ポケットからビー玉ほどの大きさの、緑色の石を取り出した。宝石、と呼べるような澄んだ美しい石だった。青年の目が見開かれる。
「これを、知らない男からもらったんだ。これを持っていると、懐かしい人間に会えるかもしれないぞ、って。すっげー胡散臭い奴だったけど、もらえるものはもらっとけ、と思って持ってたんだ。それが、三日前のことさ。そしたら、セブを見かけたからさ、声かけたんだけど」
「知らない男……、そいつはどんな奴だった?」
 目元を厳しくして、青年が問う。
「うーん、別になんてことない……、あ、でも、目の色が変な感じだったな。虹色っていうか、あれは玉虫色っていうのか? 不気味な目だったぜ」
「……玉虫色の、目の男」
「知り合いか?」
「いや、知り合いではない」
「もしかして、ユング家のやつとかか?」
「ユング家?」
 何それ、とばかりに首を傾げたのは白藤だ。青年は、ひとつ、ため息をついてから答えた。
「ユング家は、俺の生家だ。ひとかけらの記憶も残ってはいないが、な」
 青年は、ピートから受け取った緑色の石を、ぎゅっと握り締めた。何か大きな意図が、動いているように感じられてならなかった。

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MVP一覧

  • その力は未来ある誰かの為
    神代 誠一ka2086

重体一覧

参加者一覧

  • その力は未来ある誰かの為
    神代 誠一(ka2086
    人間(蒼)|32才|男性|疾影士
  • 世界は子供そのもの
    エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142
    人間(蒼)|30才|女性|機導師
  • 天鵞絨ノ空木
    白藤(ka3768
    人間(蒼)|28才|女性|猟撃士
  • 願いに応える一閃
    Anbar(ka4037
    人間(紅)|19才|男性|霊闘士
  • 碧落の矢
    ウィーダ・セリューザ(ka6076
    エルフ|17才|女性|猟撃士
  • ルル大学防諜部門長
    フィロ(ka6966
    オートマトン|24才|女性|格闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
ウィーダ・セリューザ(ka6076
エルフ|17才|女性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2017/10/12 13:00:06
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/10/08 15:13:52