ゲスト
(ka0000)
【陶曲】BOMBER
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2017/10/15 22:00
- 完成日
- 2017/10/23 00:41
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●老人と猿
どこか暗いところ。
オートマトンの抜け殻――バラバラになった頭、手、足、胴――が山と積み上げられている。
「おやモンキチ、どうしたんだいこれは」
「カッツォがよこしてきたんだ。余り物だから好きなだけ使ったらいいってよ。あいつまるで分かってねえよなー。オレ様こういうの好きじゃねえんだよ。人形なんて、女がままごとで使うものじゃんか。こんなのよりもっとかっちょいいのあるじゃん。CAMとかアーマーとかさー」
「オートマトンも悪くないさ。CAMやアーマーにはとても真似出来ない利点がある」
「どんな?」
「人間と見分けがつかないというところだよ。お前はこの間アーマーを操って遊んだね?」
「うん。すぐ倒されちゃって、てんでつまんなかったけどさ」
「そう。だが、もしあれがオートマトンだったとしたらどうだろう? 人間と見分けがつかないんだから、ハンターたちはどこに敵がいるのか分からなくて右往左往する。その間にもっと色々なものを壊せていたとは思わないか?」
「――そりゃ、そうかも。でもラルヴァ様、こいつらじゃ無理だよ。カッツォ戦闘用のパーツ回してくれなかったんだ。なーなー、ラルヴァ様、あいつに言ってくれよー、自分ばっか面白そうなもん独り占めしねーよーによー」
「仕方ないさ。カッツォもカッツオで何かと仕事があるからね……ここは特別にわたしが、バージョンアップに少し手を貸してやるとしよう。今回はお前に、ちょっと手伝ってもらいたいことがあるんだ」
「マジかラルヴァ様! サイコー! なんか武器つけてくれんの? 銃とか、剣とか? オレ様さー、マシンガンつけて欲しい! あのダダダダダッて撃つ奴-!」
「それは機体の性能上難しいな……もっと別の武器をつけてやろう」
「何? 何?」
「爆弾だ。弾ければ回りの人間は、どかーんとふっとんでしまうよ」
「わー! わー! いいなそれ、いいな! 早く作ろうぜ!」
「まあまあ待ちなさい。最も効果的にことを成し遂げるには、前もってよく考えることが必要だよ。騒ぎが起きればハンターたちが来ることは最初から分かってるんだ。ここはひとつ連中にドッキリを仕掛けてやろうじゃないか」
「へえ、いいじゃんいいじゃん。あいつらがキョドるとこ見てー! ところでラルヴァ様、頼みたい仕事って何だ?」
「なに、難しいことじゃない。一定時間連中の目を引き付けてくれればいいんだよ。私はね、あの近辺でちょっと探し物をしなければならないからね――」
●BOMBARD
ハンターのアレックス・バンダーは休みを利用し、商店通りの文具店を訪れていた。
恋人ジュアンからの頼まれだ。長いこと愛用していた万年筆が傷んでしまった。だから、新しいのを買ってきてくれないか。同じ銘柄のがいいんだけど、こっちじゃ売ってなくて――ということだった。
「はあ、恋人への贈り物ですか。それではこちらなぞどうでしょう。金箔と螺鈿を使用いたしました優雅な一品でしてまさに淑女に相応し……ああ、恋人というのは男性でいらっしゃいますか。ではこれなんかいかがですか? 外装は野性味溢れる野牛のレザー使用、軸は質実剛健さを表す鋼鉄……そういうのは似合いそうじゃない? ではこちらのメタリックな……」
商売気と根気を兼ね備えた店員をいなしつつ、頼まれていた銘柄の品――黒色の外装に真鍮の軸がついた、ごくシンプルな形のもの――を買う。
続いてハンターオフィスに向かった。どうせだからこのまま転移門を使い、ジェオルジまで行って渡してこようと。
(そういやカチャの奴、また里に帰ってんだったな。今年は秋祭り役員じゃねえはずだけど……)
そこで歩みが不意に止まる。通りの向こうから、当のジュアンが歩いてくるのが見えたのだ。
(あれ? あいつ今日仕事――だよな?)
そう、仕事のはず。だからこそこちらからジェオルジに行こうとしていたのだ。
何か緊急のことでもあったのだろうか。いや、だとしてもあいつはハンターじゃないんだから、そんな急にこっちには来られないんじゃないか。他人の空似じゃないのか。
あれこれ訝しみながら声をかけようとした途端――爆発が起きた。ジュアンの腰から上が吹き飛び、血と臓物が撒き散らされる。
一瞬にして周囲はパニックに陥った。
「キャアアア!?」
「んな、なんだ!」
「人だ、人が弾けたー!」
アレックスは髪から垂れてくる返り血をそのままに、目を見開いている。
そこに、けたたましい笑い声が響いた。
「ウヒャヒャヒャヒャヒャ! やーいやーい、ひっかかったー! バーカ、バーカ!」
煙突の上でブリキのサルが跳びはねている。
アレックスは我に返った。地面に倒れている下半身から金属的な部品の数々が見えていることに気づいた。
そう、弾けたのは人ではなくオートマトンだったのだ。
撒き散らされた血と臓物が本物であるにしても。
「さーさー、こっからが本番だ! 弾けちゃうぞー!」
モンキチがそう言うなり、オートマトンの残骸が爆発した。先の爆発とは比較にならない強力さで。
それを見下ろし、笑い転げるモンキチ。楽しくてたまらないように跳びはね宙返りをする。
「そーれ、どっかあああん!! どっかーん!!」
どこか暗いところ。
オートマトンの抜け殻――バラバラになった頭、手、足、胴――が山と積み上げられている。
「おやモンキチ、どうしたんだいこれは」
「カッツォがよこしてきたんだ。余り物だから好きなだけ使ったらいいってよ。あいつまるで分かってねえよなー。オレ様こういうの好きじゃねえんだよ。人形なんて、女がままごとで使うものじゃんか。こんなのよりもっとかっちょいいのあるじゃん。CAMとかアーマーとかさー」
「オートマトンも悪くないさ。CAMやアーマーにはとても真似出来ない利点がある」
「どんな?」
「人間と見分けがつかないというところだよ。お前はこの間アーマーを操って遊んだね?」
「うん。すぐ倒されちゃって、てんでつまんなかったけどさ」
「そう。だが、もしあれがオートマトンだったとしたらどうだろう? 人間と見分けがつかないんだから、ハンターたちはどこに敵がいるのか分からなくて右往左往する。その間にもっと色々なものを壊せていたとは思わないか?」
「――そりゃ、そうかも。でもラルヴァ様、こいつらじゃ無理だよ。カッツォ戦闘用のパーツ回してくれなかったんだ。なーなー、ラルヴァ様、あいつに言ってくれよー、自分ばっか面白そうなもん独り占めしねーよーによー」
「仕方ないさ。カッツォもカッツオで何かと仕事があるからね……ここは特別にわたしが、バージョンアップに少し手を貸してやるとしよう。今回はお前に、ちょっと手伝ってもらいたいことがあるんだ」
「マジかラルヴァ様! サイコー! なんか武器つけてくれんの? 銃とか、剣とか? オレ様さー、マシンガンつけて欲しい! あのダダダダダッて撃つ奴-!」
「それは機体の性能上難しいな……もっと別の武器をつけてやろう」
「何? 何?」
「爆弾だ。弾ければ回りの人間は、どかーんとふっとんでしまうよ」
「わー! わー! いいなそれ、いいな! 早く作ろうぜ!」
「まあまあ待ちなさい。最も効果的にことを成し遂げるには、前もってよく考えることが必要だよ。騒ぎが起きればハンターたちが来ることは最初から分かってるんだ。ここはひとつ連中にドッキリを仕掛けてやろうじゃないか」
「へえ、いいじゃんいいじゃん。あいつらがキョドるとこ見てー! ところでラルヴァ様、頼みたい仕事って何だ?」
「なに、難しいことじゃない。一定時間連中の目を引き付けてくれればいいんだよ。私はね、あの近辺でちょっと探し物をしなければならないからね――」
●BOMBARD
ハンターのアレックス・バンダーは休みを利用し、商店通りの文具店を訪れていた。
恋人ジュアンからの頼まれだ。長いこと愛用していた万年筆が傷んでしまった。だから、新しいのを買ってきてくれないか。同じ銘柄のがいいんだけど、こっちじゃ売ってなくて――ということだった。
「はあ、恋人への贈り物ですか。それではこちらなぞどうでしょう。金箔と螺鈿を使用いたしました優雅な一品でしてまさに淑女に相応し……ああ、恋人というのは男性でいらっしゃいますか。ではこれなんかいかがですか? 外装は野性味溢れる野牛のレザー使用、軸は質実剛健さを表す鋼鉄……そういうのは似合いそうじゃない? ではこちらのメタリックな……」
商売気と根気を兼ね備えた店員をいなしつつ、頼まれていた銘柄の品――黒色の外装に真鍮の軸がついた、ごくシンプルな形のもの――を買う。
続いてハンターオフィスに向かった。どうせだからこのまま転移門を使い、ジェオルジまで行って渡してこようと。
(そういやカチャの奴、また里に帰ってんだったな。今年は秋祭り役員じゃねえはずだけど……)
そこで歩みが不意に止まる。通りの向こうから、当のジュアンが歩いてくるのが見えたのだ。
(あれ? あいつ今日仕事――だよな?)
そう、仕事のはず。だからこそこちらからジェオルジに行こうとしていたのだ。
何か緊急のことでもあったのだろうか。いや、だとしてもあいつはハンターじゃないんだから、そんな急にこっちには来られないんじゃないか。他人の空似じゃないのか。
あれこれ訝しみながら声をかけようとした途端――爆発が起きた。ジュアンの腰から上が吹き飛び、血と臓物が撒き散らされる。
一瞬にして周囲はパニックに陥った。
「キャアアア!?」
「んな、なんだ!」
「人だ、人が弾けたー!」
アレックスは髪から垂れてくる返り血をそのままに、目を見開いている。
そこに、けたたましい笑い声が響いた。
「ウヒャヒャヒャヒャヒャ! やーいやーい、ひっかかったー! バーカ、バーカ!」
煙突の上でブリキのサルが跳びはねている。
アレックスは我に返った。地面に倒れている下半身から金属的な部品の数々が見えていることに気づいた。
そう、弾けたのは人ではなくオートマトンだったのだ。
撒き散らされた血と臓物が本物であるにしても。
「さーさー、こっからが本番だ! 弾けちゃうぞー!」
モンキチがそう言うなり、オートマトンの残骸が爆発した。先の爆発とは比較にならない強力さで。
それを見下ろし、笑い転げるモンキチ。楽しくてたまらないように跳びはね宙返りをする。
「そーれ、どっかあああん!! どっかーん!!」
リプレイ本文
●monkey around
爆煙の漂う中現場に駆けつけたハンターたちは、血まみれになったアレックスから、大体の事情を聞き出した。
「来た、来た、来た、また新しい奴らが引っ掛かりに来たー♪ 次には別のところがどかーんといくぞー、いっちゃうぞー」
天竜寺 舞(ka0377)は煙突の上でキャッキャと笑う猿を睨み上げ、毒づく。
「大切な人に似せて爆発させるとか、悪趣味もいいところだねあのエテ公!」
メイム(ka2290)は桜妖精を飛ばす。全ての原因があの猿にあることは間違いない。口ぶりからするに爆弾人形は、今弾けた1体以外にもまだ存在しているようだ。ならばその位置関係を調べておくべきだ、と。
「飛んであんず。」
ファミリアズアイによって妖精と繋がった視界に一帯の俯瞰図が広がる。
猿の位置は確認出来たが、爆弾人形がどれなのかは分からない。
何分にも人の動きが錯綜している。爆発の起きた現場から離れて行く流れが大半だが、逆に離れたところから寄ってくる流れもある。一体何の騒ぎなのかこの目で確かめようとしている人々の群れだ。それが全体の動きを停滞させている。
以上の観測をメイムから聞いたソラス(ka6581)は、魔導マイクの音量を上げアナウンスを始める。
『ただ今人型爆弾が発生しました。皆さん、頑丈な建物内に避難をしてください。1度爆発が起きた場所には、絶対に近づかないでください。2度目の爆発があります。繰り返します、近づかないで――』
マルカ・アニチキン(ka2542)はジュアンの人形が弾けた場所とやじ馬の間に、アースウォールを作った。
猿が煙突の上で揶揄する。
「へへー、お前らどれが爆弾かわかんねーんだろー。バーカバーカ」
全くむかつくエテ公だ。
とはいえ目的は分かりやすい。こちらをおちょくって遊びたいんだろう。なら他の人間に危害を加える確率は低い――こちらに興味が向いている限りは。
思ってジルボ(ka1732)は、不用意に近づこうとする一般人に大声を張り上げた。
「散れっつってんだろ、ガー!!」
だが動けないメイムの警護をしている関係上、場を移動出来ない。なのでアレックスに助力を求める。赤鬼みたいに成り果てている彼なら、追い散らし役に最適というものだ。幾らか負傷しているが、動けないほどのものではない。
「おい、手伝ってくれ。人散らしてきてくれよ」
「――ああ」
「――しゃんとしろよ、そりゃ人間のじゃねえ、豚の血だ。俺狩猟知識あるからさ、そういうの分かるんだ」
「――そうか」
悪夢を払いのけるようにアレックスは頭を振り、避難誘導に取り掛かる。
「おい、人型爆弾ってなんだ?」
「どこにいるんだ、そいつは」
詳しい事情を聞きたがる人々を、とにかく場から遠ざける。
「分からん! でもとにかくここから離れろ!」
●bombard
ジャック・エルギン(ka1522)はせわしく周囲を見回す。そして見つける。父親の姿を。
(親父!? こんなトコで何を…あの仕事馬鹿が昼間っから散歩……?)
絶対にそんなはずがないと頭で分かっても、心は納得しそうにない。こちらを向いて、『ああ、そこにいたのか』という表情で近寄ってくる人形は、それほど父親そのものだった。
ジャックは急いで近くにいた舞に尋ねた。自分に見えている姿を伝えた後で。
「おい、あそこにいる奴、どういう風に見える?」
舞は眉を顰め、答える。
「……えっと……ジャックが言う通りの顔に見えるんだけど」
ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)にもそう見えた。ただ彼女は自分の目だけを頼りにしない。生命感知も併用する。
「ルンルン忍法ニンジャセンサー! ニンジャ感覚に感知――なし!」
決まった。あれは爆弾人形だ。
しかし誰の目にも同じ人物に見えるというのはどういうことなのか。てっきり幻術の一種によって、知り合いのように見せていると思っていたのだが――とりあえず詮索している時間はない。
ジャックは、人形に向け駆け出した。
「悪趣味の極みだな! クソッ、間に合え!」
ソラス、ルンルン、マルカはそれぞれアースウォールを、人形の背後、左、右に立ち上げた。
1度目の爆発が起きた。血と臓物が派手に吹き飛び首も飛ぶ。飛んだ首がジャックの足元に転がってきた。
その『顔』にくっついていた髪、目、鼻、口がもぞもぞ動き、皮膚の内側へ飲み込まれるように消えた。後に残るのは、のっぺらぼうの頭部。
どうやらこの人形は『人の意識に干渉して知り合いに見えるようにしている』のではなく『人の意識を読み取って知り合いに見えるよう自分の形を変えている』らしい。
猿がうれしそうに跳びはねる。
「ブヒャヒャヒャヒャヒャ! 引っ掛かった引っ掛かったー」
「癪に障る高笑いしてんじゃねえ!」
ジャックは残った人形の半身を掴み投げ捨てようとした。
そこで2回目の爆発が起きる。
自身が4枚目の壁となり衝撃の拡散を防ぐジャック。
爆音と振動。群衆の悲鳴。降り落ちてくる細かな瓦礫。
不動シオン(ka5395)は口の端を曲げ、うそぶいた。
「我々をゲームの駒にするつもりか? 残念ながらその手には乗らん。代わりに私が貴様をゲームの駒にしてやる」
メイムは引き続きファミリアズアイを駆使し、群衆の中から人形を見つけだそうとしていた。
アナウンスの効果もあり、現場に向かってくる人の流れはほとんどなくなった。だがその中でもうろうろ居残っている奴がいる。
彼女はトランシーバーを通じ、居残り連中の位置を仲間に伝える。
●imitation
ジルボは爆弾人形を見つけた。
妙に冷静だったり無表情だったりといった違和感は一切感じない。目に映るのはただただ父親である。
もしかしたら本物なのではないか、と一瞬思った。直後それを恥じた。
「おい。そこのおっさん」
声をかけられた相手は立ち止まり振り向いた。
そこにあるのは昔のままの顔。尊敬はしているがもう自分には必要ない。そう思っていた顔。
(俺もまだまだ甘ちゃんだな。チッ不景気な面しやがって)
苦々しい思いを抱きながら周囲に大声を張り上げる。
「下がれー! 爆発するぞー!」
間髪入れず生暖かい液体と塊が飛び散ってきた。
思わず息を詰まらせた直後、2度目の爆発が来る。彼はその直撃を受けた。衝撃波と一緒に大きな瓦礫が飛んできて額に当たる。
「……ってーな畜生」
流れてきた血を拭ってジルボは、瓦礫を蹴り飛ばす。
ソラスの目に映ったのは師の姿である。
爆弾人形がどういう性質のものなのか分かっている以上、他人にあれがどう見えるか聞き確かめる必要もあるまい。
(そもそも本物の師匠ならこの時間は寝てるはずだ)
防御のため爆弾の正面にアースウォールを立ち上げる。
第1の爆発が起きるのは、それよりほんのちょっと早かった。真に迫った人体の崩壊ぶりは、本物でないと分かっていても気持ちがいいものではない。
続いて第2の爆発。彼はその直撃を避けた。身代わりとなった壁がチリのように崩れ去る。
脳裏にちらつくのは、次の疑問だ。
(発煙筒手榴弾の使い方さえ分からなかった猿に、こんな精緻な爆弾が作れるか……?)。
あれは祖父だ。引っ込み思案な自分を小さいときから励ましてくれた存在だ。
でも祖父は随分前に亡くなっている。
だからあれはウソだ。どんなに本当らしく見えていてもウソなのだ。
(……考えない……余計なことは考えない……)
強く心に念じながらマルカは、爆弾人形に向けてアイスボルトを放つ。
祖父は爆発した。惜しみ無く中身をぶちまけて。腰から下は数秒そのまま突っ立っていた後、ゆっくり横倒しになった。
マルカは無意識のうちに心へ蓋をした。影響はすぐさま視覚に現れる。まがい物の残骸にモザイクがかかって見えてきた。
メイムさんやジルボさんには何が見えたのだろう、と彼女は不意に考える。祖父の形をしたものを壊したという事実から逃避するために。
狂気と紙一重の冷静さによって、崩れ行くアースウォールを補充し、爆発の直撃を避けた。壁に遮られた向こう側から、爆風と熱が吹き上がった。
壁が崩れ消えた。
群衆から引きはがすため掴んだ手は柔らかく暖かくまるで本物で、それだけでもいやな気持ちがした。
本物の妹はエトファリカに行ってる筈。だからこれは違う。まさかではない絶対に違う。
己に言い聞かせる所に響く、ぼん、という短い音。その後に生じたのは無残に引きちぎられた半身。臓物の山。
偽物だと分かっていても頭の芯が、かっと熱くなる。
「ウヒャヒャヒャヒャ! 頭から中身被ってやんの、きったねー!」
「やってくれたな下衆猿! ぶっ殺す!」
猿に向かいかける意識を力技で押さえ付け、妹の形をしていたものの残骸を人のいない方角へ、駿足移動しつつ投げた。
手が完全に離れる前に2度目の爆発が起きる。彼女はその直撃を受けた。
ルンルンの前に現れたのは、彼女の理想を体現した超絶イケメンだった。
地縛符に足を取られつつも白い歯を見せさわやかに笑いかけてくるちょっとやんちゃだけど純情で私だけに一途な王子様――それが手を振ってくる。
ルンルンは乙女としての本能に従い、思わず手を振り返した。
途端に爆発が起き吹き飛ぶ王子様。
ルンルンは悲鳴を上げた。悲しみを突き抜け怒りに震えた。
「ああ、私の王子様がぁ……絶対許さないんだから」
血の涙を流しつつ、再度の爆発が己と周囲に与える被害を防ぐため、アースウォールを立ち上げる。
「ジュゲームリリカル……ルンルン忍法どこでも畳返し!」
メイムが見たのはカチャである。
彼女が現在帰省していることは確認済みなので、偽物だと分かっている。分かっていても思わず目を留めてしまった。それほど人形は真に迫ったものだった。
眼を輝かせ頬を上気させ、喜びに溢れた表情で両手を広げてくる。まるで恋しい人に会ったかのように。
その姿が直後無残に弾け散る。生き物の残骸が路上にぶちまけられる。半身が地面に崩れ落ちる。
「嗚呼カチャさん今度は原理主義者に教唆されて……」
嘘泣きを交えた小芝居をしつつメイムは、ファミリアズアイを解いた。ドローミーを発動し、残骸を自分の近くに素早く引き寄せた。そしてアックスを叩きつけた。
強烈な爆発が起きる。彼女はその直撃を受けた。
身に受けた傷を自己治癒で素早く治す。自分が今見た光景に意外と動揺しているのを感じながら。
シオンは見つけた人形の顔をよくよく確かめ、自身の中に眠っていた遠い記憶を呼び覚ました。
ちょっと人を小馬鹿にした皮肉げな眼差し。顎の傷。確かに見覚えがある。これは、かつて自分が秘密組織の私兵をしていたときの仲間だ。そういえばこいつは、あの内乱の後死んだのだろうか。それともまだ生きているのだろうか。
他人事のような思いがシオンの脳裏に閃き消える。
「面白いゲームを用意したのはいいが、私相手にはいささか詰めが甘すぎたようだな?」
ためらいなく銃口を向けようとしたその時、予期せぬことが起きた。路地から人が出てきたのだ。見るからに思慮が足り無さそうな若者数人。手に魔導カメラを持っている。
シオンは彼らに向け怒鳴る。
「――出るな、下がれ!」
その声に若者達はビクッとした。が、避難しようとしない。
「やっぱやばいって。怒られただろ」
「近寄らなきゃ大丈夫だって。こんな絵滅多に撮れないぞ」
人形は唐突な動きでそちらに向け走り出した。
シオンはその行動を阻止しようとしたが、出来なかった。
1度目の爆発が起きる。
「――!!」
シオンは人形の残骸と竦む若者達の間に飛び込んだ。自身が前面に出ることで、少しでも被害を減らそうと。
そこに2度目の爆発が起きる。
彼女はその直撃を受けた。
●draw
「ウキャキャキャキャ! 当たった当たった! ざまあー!」
爆発の後上がる黒煙を見て、喜び手を叩く猿。
アレックスとソラスはシオンと若者達の救援に向かう。
メイムもそちらに向かい、コンバートライフによる治癒を行う。
「ごめんね、あたしだとこんな手段しか取れない。始末付けたら応急処置するよ」
王子様爆発の痛手から抜けられないルンルンは、猿に怒りの目を向けた。
「……絶対許しません……ルンルン忍法モンキーキャッチャー!」
残り少なくなった護符を投げ地縛符を試みる。しかし猿は電光石火の素早さで、術の影響区域から抜け出す。
「そんなヘボ符あたんねーし!」
赤いおけつを叩き舌を出す猿。
そこに雨あられと、ジルボによる連続射撃が浴びせられてきた。
「おうこらクソ猿調子くれてんじゃねーぞコラ!」
猿はそれも避けた。
「当たんねーって言ってんじゃーん。ねえ、バカなの? バカなの?」
瞬間別方面から揃って矢が飛んで来た。ジャックである。
そちら方面からの攻撃は予測していなかったのか、それとも調子に乗り過ぎて注意力が散漫になっていたのか、モンキチの回避が遅れた。
矢の一本が尻に当たった。
「いてっ! 何しやがんだテメー! 人間の癖に生意気だ!」
「それを言うならお前は鉄くずの癖に生意気だ! とっとと錬成工房に逝け!」
と返し続けざまに矢を射るジャック。
猿は屋根の上に駆け上る。
そうはさせじと舞は、猿に向かい手裏剣を飛ばす。爆発の直撃を受け負傷していたが、怒りの前にはそんなこと、物の数ではない。
猿は壁を伝い、縦横無尽に逃げ回る。
舞もまたその後ろを追い、縦横無尽に飛び回る。
「今すぐ鉄くずに変えてやるから観念しな!」
そこに当たるジルボの魔弾。
姿勢を崩す猿。
舞のユナイテッド・ドライブ・ソードが、尾を途中から叩き折る。
「ギッ!」
猿は怒った。歯を剥いた。
壁を蹴り毬のように回転しながら、追う舞に体当たりする。
バランスを崩し地に落ちる舞。
「へへ、ざまあ」
と手を打った猿に、ルンルンの五色光符陣が炸裂。
光に焼かれた猿は焦げた。
「ムキー! よくもやりやがったなー!」
地団太を踏んで、背中の巻ネジを回転させる猿。
急にその動きが止まった。
誰とも知れない声が、どこかから聞こえてくる。
『モンキチ、もういよ。用事は済んだから戻っておいで』
「なんだよう、ラルヴァ様、いいとこなのにー。ちぇー、ちぇー、お前ら、今度会ったらメタメタにしてやるからな! 覚えとけよバーカバーカ!」
捨て台詞を吐き猿は姿を消した。突然現れた足元の魔法陣に吸い込まれるようにして。
マルカは猿が口にした名を呟く。
「ラルヴァ」
その名は確か、復活した嫉妬王のもの。
●continue
今回の騒動の死亡者は2名に留まった。起きた爆発の規模から考えれば、最小限の数字である。
市はその日のうちに、この事故が歪虚によって引き起こされたものであり、断じてオートマトンの特性によるものではないという旨を広報した。
爆煙の漂う中現場に駆けつけたハンターたちは、血まみれになったアレックスから、大体の事情を聞き出した。
「来た、来た、来た、また新しい奴らが引っ掛かりに来たー♪ 次には別のところがどかーんといくぞー、いっちゃうぞー」
天竜寺 舞(ka0377)は煙突の上でキャッキャと笑う猿を睨み上げ、毒づく。
「大切な人に似せて爆発させるとか、悪趣味もいいところだねあのエテ公!」
メイム(ka2290)は桜妖精を飛ばす。全ての原因があの猿にあることは間違いない。口ぶりからするに爆弾人形は、今弾けた1体以外にもまだ存在しているようだ。ならばその位置関係を調べておくべきだ、と。
「飛んであんず。」
ファミリアズアイによって妖精と繋がった視界に一帯の俯瞰図が広がる。
猿の位置は確認出来たが、爆弾人形がどれなのかは分からない。
何分にも人の動きが錯綜している。爆発の起きた現場から離れて行く流れが大半だが、逆に離れたところから寄ってくる流れもある。一体何の騒ぎなのかこの目で確かめようとしている人々の群れだ。それが全体の動きを停滞させている。
以上の観測をメイムから聞いたソラス(ka6581)は、魔導マイクの音量を上げアナウンスを始める。
『ただ今人型爆弾が発生しました。皆さん、頑丈な建物内に避難をしてください。1度爆発が起きた場所には、絶対に近づかないでください。2度目の爆発があります。繰り返します、近づかないで――』
マルカ・アニチキン(ka2542)はジュアンの人形が弾けた場所とやじ馬の間に、アースウォールを作った。
猿が煙突の上で揶揄する。
「へへー、お前らどれが爆弾かわかんねーんだろー。バーカバーカ」
全くむかつくエテ公だ。
とはいえ目的は分かりやすい。こちらをおちょくって遊びたいんだろう。なら他の人間に危害を加える確率は低い――こちらに興味が向いている限りは。
思ってジルボ(ka1732)は、不用意に近づこうとする一般人に大声を張り上げた。
「散れっつってんだろ、ガー!!」
だが動けないメイムの警護をしている関係上、場を移動出来ない。なのでアレックスに助力を求める。赤鬼みたいに成り果てている彼なら、追い散らし役に最適というものだ。幾らか負傷しているが、動けないほどのものではない。
「おい、手伝ってくれ。人散らしてきてくれよ」
「――ああ」
「――しゃんとしろよ、そりゃ人間のじゃねえ、豚の血だ。俺狩猟知識あるからさ、そういうの分かるんだ」
「――そうか」
悪夢を払いのけるようにアレックスは頭を振り、避難誘導に取り掛かる。
「おい、人型爆弾ってなんだ?」
「どこにいるんだ、そいつは」
詳しい事情を聞きたがる人々を、とにかく場から遠ざける。
「分からん! でもとにかくここから離れろ!」
●bombard
ジャック・エルギン(ka1522)はせわしく周囲を見回す。そして見つける。父親の姿を。
(親父!? こんなトコで何を…あの仕事馬鹿が昼間っから散歩……?)
絶対にそんなはずがないと頭で分かっても、心は納得しそうにない。こちらを向いて、『ああ、そこにいたのか』という表情で近寄ってくる人形は、それほど父親そのものだった。
ジャックは急いで近くにいた舞に尋ねた。自分に見えている姿を伝えた後で。
「おい、あそこにいる奴、どういう風に見える?」
舞は眉を顰め、答える。
「……えっと……ジャックが言う通りの顔に見えるんだけど」
ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)にもそう見えた。ただ彼女は自分の目だけを頼りにしない。生命感知も併用する。
「ルンルン忍法ニンジャセンサー! ニンジャ感覚に感知――なし!」
決まった。あれは爆弾人形だ。
しかし誰の目にも同じ人物に見えるというのはどういうことなのか。てっきり幻術の一種によって、知り合いのように見せていると思っていたのだが――とりあえず詮索している時間はない。
ジャックは、人形に向け駆け出した。
「悪趣味の極みだな! クソッ、間に合え!」
ソラス、ルンルン、マルカはそれぞれアースウォールを、人形の背後、左、右に立ち上げた。
1度目の爆発が起きた。血と臓物が派手に吹き飛び首も飛ぶ。飛んだ首がジャックの足元に転がってきた。
その『顔』にくっついていた髪、目、鼻、口がもぞもぞ動き、皮膚の内側へ飲み込まれるように消えた。後に残るのは、のっぺらぼうの頭部。
どうやらこの人形は『人の意識に干渉して知り合いに見えるようにしている』のではなく『人の意識を読み取って知り合いに見えるよう自分の形を変えている』らしい。
猿がうれしそうに跳びはねる。
「ブヒャヒャヒャヒャヒャ! 引っ掛かった引っ掛かったー」
「癪に障る高笑いしてんじゃねえ!」
ジャックは残った人形の半身を掴み投げ捨てようとした。
そこで2回目の爆発が起きる。
自身が4枚目の壁となり衝撃の拡散を防ぐジャック。
爆音と振動。群衆の悲鳴。降り落ちてくる細かな瓦礫。
不動シオン(ka5395)は口の端を曲げ、うそぶいた。
「我々をゲームの駒にするつもりか? 残念ながらその手には乗らん。代わりに私が貴様をゲームの駒にしてやる」
メイムは引き続きファミリアズアイを駆使し、群衆の中から人形を見つけだそうとしていた。
アナウンスの効果もあり、現場に向かってくる人の流れはほとんどなくなった。だがその中でもうろうろ居残っている奴がいる。
彼女はトランシーバーを通じ、居残り連中の位置を仲間に伝える。
●imitation
ジルボは爆弾人形を見つけた。
妙に冷静だったり無表情だったりといった違和感は一切感じない。目に映るのはただただ父親である。
もしかしたら本物なのではないか、と一瞬思った。直後それを恥じた。
「おい。そこのおっさん」
声をかけられた相手は立ち止まり振り向いた。
そこにあるのは昔のままの顔。尊敬はしているがもう自分には必要ない。そう思っていた顔。
(俺もまだまだ甘ちゃんだな。チッ不景気な面しやがって)
苦々しい思いを抱きながら周囲に大声を張り上げる。
「下がれー! 爆発するぞー!」
間髪入れず生暖かい液体と塊が飛び散ってきた。
思わず息を詰まらせた直後、2度目の爆発が来る。彼はその直撃を受けた。衝撃波と一緒に大きな瓦礫が飛んできて額に当たる。
「……ってーな畜生」
流れてきた血を拭ってジルボは、瓦礫を蹴り飛ばす。
ソラスの目に映ったのは師の姿である。
爆弾人形がどういう性質のものなのか分かっている以上、他人にあれがどう見えるか聞き確かめる必要もあるまい。
(そもそも本物の師匠ならこの時間は寝てるはずだ)
防御のため爆弾の正面にアースウォールを立ち上げる。
第1の爆発が起きるのは、それよりほんのちょっと早かった。真に迫った人体の崩壊ぶりは、本物でないと分かっていても気持ちがいいものではない。
続いて第2の爆発。彼はその直撃を避けた。身代わりとなった壁がチリのように崩れ去る。
脳裏にちらつくのは、次の疑問だ。
(発煙筒手榴弾の使い方さえ分からなかった猿に、こんな精緻な爆弾が作れるか……?)。
あれは祖父だ。引っ込み思案な自分を小さいときから励ましてくれた存在だ。
でも祖父は随分前に亡くなっている。
だからあれはウソだ。どんなに本当らしく見えていてもウソなのだ。
(……考えない……余計なことは考えない……)
強く心に念じながらマルカは、爆弾人形に向けてアイスボルトを放つ。
祖父は爆発した。惜しみ無く中身をぶちまけて。腰から下は数秒そのまま突っ立っていた後、ゆっくり横倒しになった。
マルカは無意識のうちに心へ蓋をした。影響はすぐさま視覚に現れる。まがい物の残骸にモザイクがかかって見えてきた。
メイムさんやジルボさんには何が見えたのだろう、と彼女は不意に考える。祖父の形をしたものを壊したという事実から逃避するために。
狂気と紙一重の冷静さによって、崩れ行くアースウォールを補充し、爆発の直撃を避けた。壁に遮られた向こう側から、爆風と熱が吹き上がった。
壁が崩れ消えた。
群衆から引きはがすため掴んだ手は柔らかく暖かくまるで本物で、それだけでもいやな気持ちがした。
本物の妹はエトファリカに行ってる筈。だからこれは違う。まさかではない絶対に違う。
己に言い聞かせる所に響く、ぼん、という短い音。その後に生じたのは無残に引きちぎられた半身。臓物の山。
偽物だと分かっていても頭の芯が、かっと熱くなる。
「ウヒャヒャヒャヒャ! 頭から中身被ってやんの、きったねー!」
「やってくれたな下衆猿! ぶっ殺す!」
猿に向かいかける意識を力技で押さえ付け、妹の形をしていたものの残骸を人のいない方角へ、駿足移動しつつ投げた。
手が完全に離れる前に2度目の爆発が起きる。彼女はその直撃を受けた。
ルンルンの前に現れたのは、彼女の理想を体現した超絶イケメンだった。
地縛符に足を取られつつも白い歯を見せさわやかに笑いかけてくるちょっとやんちゃだけど純情で私だけに一途な王子様――それが手を振ってくる。
ルンルンは乙女としての本能に従い、思わず手を振り返した。
途端に爆発が起き吹き飛ぶ王子様。
ルンルンは悲鳴を上げた。悲しみを突き抜け怒りに震えた。
「ああ、私の王子様がぁ……絶対許さないんだから」
血の涙を流しつつ、再度の爆発が己と周囲に与える被害を防ぐため、アースウォールを立ち上げる。
「ジュゲームリリカル……ルンルン忍法どこでも畳返し!」
メイムが見たのはカチャである。
彼女が現在帰省していることは確認済みなので、偽物だと分かっている。分かっていても思わず目を留めてしまった。それほど人形は真に迫ったものだった。
眼を輝かせ頬を上気させ、喜びに溢れた表情で両手を広げてくる。まるで恋しい人に会ったかのように。
その姿が直後無残に弾け散る。生き物の残骸が路上にぶちまけられる。半身が地面に崩れ落ちる。
「嗚呼カチャさん今度は原理主義者に教唆されて……」
嘘泣きを交えた小芝居をしつつメイムは、ファミリアズアイを解いた。ドローミーを発動し、残骸を自分の近くに素早く引き寄せた。そしてアックスを叩きつけた。
強烈な爆発が起きる。彼女はその直撃を受けた。
身に受けた傷を自己治癒で素早く治す。自分が今見た光景に意外と動揺しているのを感じながら。
シオンは見つけた人形の顔をよくよく確かめ、自身の中に眠っていた遠い記憶を呼び覚ました。
ちょっと人を小馬鹿にした皮肉げな眼差し。顎の傷。確かに見覚えがある。これは、かつて自分が秘密組織の私兵をしていたときの仲間だ。そういえばこいつは、あの内乱の後死んだのだろうか。それともまだ生きているのだろうか。
他人事のような思いがシオンの脳裏に閃き消える。
「面白いゲームを用意したのはいいが、私相手にはいささか詰めが甘すぎたようだな?」
ためらいなく銃口を向けようとしたその時、予期せぬことが起きた。路地から人が出てきたのだ。見るからに思慮が足り無さそうな若者数人。手に魔導カメラを持っている。
シオンは彼らに向け怒鳴る。
「――出るな、下がれ!」
その声に若者達はビクッとした。が、避難しようとしない。
「やっぱやばいって。怒られただろ」
「近寄らなきゃ大丈夫だって。こんな絵滅多に撮れないぞ」
人形は唐突な動きでそちらに向け走り出した。
シオンはその行動を阻止しようとしたが、出来なかった。
1度目の爆発が起きる。
「――!!」
シオンは人形の残骸と竦む若者達の間に飛び込んだ。自身が前面に出ることで、少しでも被害を減らそうと。
そこに2度目の爆発が起きる。
彼女はその直撃を受けた。
●draw
「ウキャキャキャキャ! 当たった当たった! ざまあー!」
爆発の後上がる黒煙を見て、喜び手を叩く猿。
アレックスとソラスはシオンと若者達の救援に向かう。
メイムもそちらに向かい、コンバートライフによる治癒を行う。
「ごめんね、あたしだとこんな手段しか取れない。始末付けたら応急処置するよ」
王子様爆発の痛手から抜けられないルンルンは、猿に怒りの目を向けた。
「……絶対許しません……ルンルン忍法モンキーキャッチャー!」
残り少なくなった護符を投げ地縛符を試みる。しかし猿は電光石火の素早さで、術の影響区域から抜け出す。
「そんなヘボ符あたんねーし!」
赤いおけつを叩き舌を出す猿。
そこに雨あられと、ジルボによる連続射撃が浴びせられてきた。
「おうこらクソ猿調子くれてんじゃねーぞコラ!」
猿はそれも避けた。
「当たんねーって言ってんじゃーん。ねえ、バカなの? バカなの?」
瞬間別方面から揃って矢が飛んで来た。ジャックである。
そちら方面からの攻撃は予測していなかったのか、それとも調子に乗り過ぎて注意力が散漫になっていたのか、モンキチの回避が遅れた。
矢の一本が尻に当たった。
「いてっ! 何しやがんだテメー! 人間の癖に生意気だ!」
「それを言うならお前は鉄くずの癖に生意気だ! とっとと錬成工房に逝け!」
と返し続けざまに矢を射るジャック。
猿は屋根の上に駆け上る。
そうはさせじと舞は、猿に向かい手裏剣を飛ばす。爆発の直撃を受け負傷していたが、怒りの前にはそんなこと、物の数ではない。
猿は壁を伝い、縦横無尽に逃げ回る。
舞もまたその後ろを追い、縦横無尽に飛び回る。
「今すぐ鉄くずに変えてやるから観念しな!」
そこに当たるジルボの魔弾。
姿勢を崩す猿。
舞のユナイテッド・ドライブ・ソードが、尾を途中から叩き折る。
「ギッ!」
猿は怒った。歯を剥いた。
壁を蹴り毬のように回転しながら、追う舞に体当たりする。
バランスを崩し地に落ちる舞。
「へへ、ざまあ」
と手を打った猿に、ルンルンの五色光符陣が炸裂。
光に焼かれた猿は焦げた。
「ムキー! よくもやりやがったなー!」
地団太を踏んで、背中の巻ネジを回転させる猿。
急にその動きが止まった。
誰とも知れない声が、どこかから聞こえてくる。
『モンキチ、もういよ。用事は済んだから戻っておいで』
「なんだよう、ラルヴァ様、いいとこなのにー。ちぇー、ちぇー、お前ら、今度会ったらメタメタにしてやるからな! 覚えとけよバーカバーカ!」
捨て台詞を吐き猿は姿を消した。突然現れた足元の魔法陣に吸い込まれるようにして。
マルカは猿が口にした名を呟く。
「ラルヴァ」
その名は確か、復活した嫉妬王のもの。
●continue
今回の騒動の死亡者は2名に留まった。起きた爆発の規模から考えれば、最小限の数字である。
市はその日のうちに、この事故が歪虚によって引き起こされたものであり、断じてオートマトンの特性によるものではないという旨を広報した。
依頼結果
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テロ対策本部(相談卓) ジルボ(ka1732) 人間(クリムゾンウェスト)|16才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2017/10/15 22:03:46 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/10/10 22:40:12 |