山岳猟団〜インターセプト

マスター:有坂参八

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/11/18 12:00
完成日
2014/11/26 05:52

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-

オープニング

●敵襲
 よく晴れた秋の日。
 辺境の要塞ノアーラ・クンタウに居を構える帝国軍の対歪虚部隊・山岳猟団、その兵舎にて。
 ここ数日は珍しく歪虚との戦闘が無く、今日は団員の多くが、訓練や休養等で要塞にとどまっていた。
「灰色谷から歪虚が現れたぞ。屍骸兵が三〇〇。大群じゃ」
 猟団最年長の老兵シバ(kz0048)が、広前へ足を踏み入れるなり、そう告げた。
 その一言で、部屋の空気は一変し、並んだ男達の顔が殺気立つ。 
「三〇〇だと!」「どこからそんなに湧いてきやがった!」「そんな数、俺達だけで相手するのは初めてじゃねえか」
「……シバ、詳細を報告しろ」
 団員がざわめく中、静かに言葉を発した大男は、団長代理を務める傭兵・八重樫敦(kz0056)だ。
 対するシバも、滔々と報告を続けた。卓上に常に広げられている地図の上の、要塞の北にある峡谷地帯を指差しながら言う。
「屍骸兵はある程度の統制を持って行動しているが、指揮官級がいるかは不明じゃ。敵軍は既に灰色谷を通過し、南下中……この地で迎撃するのはもはや間に合わぬが、しかし目と鼻の先に部族の集落がある」
「集落の部族民達は?」
「既に歪虚に気づいて避難を始めておるが、着の身着のまま逃げるのが精一杯というところじゃな」
「物資を持たずにか」
「然り。冬を前にして、万が一、住処に残した蓄えを壊されれば……」
 僅かな、沈黙。
「……谷と集落の間には、暫く平野が続いていたな」
「うむ。集落を守るためには、かの地で迎え撃つ他あるまい」
 ほんの僅かな時間で、二人と、周囲の団員達は状況把握を進めて行く。
 シバは状況に不釣り合いな薄笑いを浮かべながら、団長である八重樫に問うた。
「どう出る、団長代?」
「集落前の平野部で迎撃する。横陣を組み、歩兵を前に出して真正面から叩き潰す」
『よしッ、待ってましたァ!』
 八重樫の決断は、常に早い。
 団長の決定に、血の気の多い団員達が沸き立ち、すぐさま行動開始する。
 恐れる様子は無い。猟団が崩壊寸前の危機にあった数ヶ月前とは、既に状況が違う。
 ハンター達の助けを経て、補給が整い、他部族間の集団戦闘の概念を知った兵士達だ。
 傭兵出身の団長代の、あるいは歴戦の老兵の目を通しても……彼等はいま徐々に、強兵となりつつあった。

 その団員たちが慌ただしく出撃準備を始める中、シバは八重樫に歩み寄り、小さく囁いた。
「英断じゃが、ちと心配が残るの。歪虚の数は我等の二倍以上ぞ?」
「それしか手段が無いのなら迷う時間が無駄だ。それにシバ……御前には別令がある」「ほう」
 八重樫の答えに、シバは落ち着き払って頷く。
「ハンターを含む機動部隊を結成しろ。俺達が正面からぶつかる間に、敵の側背面を突け」
「ほう、ほう」
「過去の戦闘例からして、屍骸兵は隊列を組む習性こそあるが鈍重で知能は低い。隊列を崩しさえすれば、蹴散らせる」
「……槌と鉄床」
 シバが、呟いた。対する八重樫はーー彼にしては珍しくーー小さく相槌を打った。
「ハンターの招集については任せる。少数精鋭部隊だ、肝の据わったのを集めろ」
「良かろう。お主を信頼するさ」
「……」
 シバの言葉を受けても、八重樫の表情は硬いままだった。
 その仏頂面を尻目に、シバは踵を返し、要塞のハンターソサエティに向かう。

●独り言
 兵舎を出て直ぐに、シバは一度足を止め、天候を見た。
 やや肌寒いが快晴。雲無し、風無し。
 戦闘の障害となる事象は皆無である。
 シバは想う。
 この様な清々しい日、戦場で強敵と相見え、全力で戦い……そして、死ぬならば、我が部族の戦士としてどれほどに幸せだろうと。
 無論、そんな身勝手はもはや通らない。シバは戦士として余りに長く生き残り過ぎており、その過程で、彼が戦う意義も激変してしまった。名誉の戦死を賞賛する彼の部族の同胞は、もう、居ない。
 晴天の下、苦笑の吐息を穏やかに漏らし……シバは、再び足を踏み出した。
「討ち死に日和なんじゃがなァ」

リプレイ本文

●会敵
 ハンターが山岳猟団と共に戦場に到着するのと、隊伍を組んで押し寄せる屍骸兵達が地平の向こうに見え始めたのは、殆ど同時だった。
「へぇ……三〇〇体とは、随分居るな。楽しくなりそうじゃないか」
 先頭に立った影護 絶(ka1077)は、整然と列をなす死者の軍勢を目の前に、しかし不敵に笑う。
 気合いを入れるかの様に指の節を二、三度鳴らしてから、得物である剣を握りしめた。
「ほ、この状況で楽しいとは。見込みがあるな」
 いかにも戦士らしい絶の態度に感嘆の声を上げたのは、シバ……幾人かのハンターは既に顔を見知った、山岳猟団の老兵だった。
「ご無沙汰っす。狼の時以来っスね。今回は、カンナエ……みたいな?」
 帽子を脱いで軽く会釈するテリー・ヴェランダル(ka0911)に対し、よく知っておるの、とシバは笑った。青の世界の古代戦史を知る者は猟団の中でも一握りだったが……どうやらシバには、その知識があるらしかった。

 ハンター達は機動部隊に先駆けて切り込む班と、その突撃を射撃で支援する班に分かれ、そのいずれもが騎馬を用いる方針を取った。
「騎兵突撃か……ボクらの所では、とっくの昔に消えてしまった戦法だな」
 フラン・レンナルツ(ka0170)が、馬上で銃に弾倉を押し込みながら呟いた。
 猟団から借り受けた軍馬には鐙が完備されていたため、銃を扱うにも、然程苦にはならない。
「馬上戦闘なんてやったことねぇけど…まぁ、なんにでも最初はある。なんとかなるだろ」
 絶は、馬上で剣を素振りして、その感触を確かめている。今のところ、大きな不自由はなさそうだ。
 対照的に美作さくら(ka2345)は、借り受けた馬の背の上で、やや緊張した面持ちを浮かべていた。
 それでも、目を閉じて二、三度、長く息を吐けば、少女の面影に、微かな戦士のそれが混じる。
「……ん、よしっ。気合入ってきました。よろしくね、スイ(騅)」
 常用馬の様に臆病ながら、自分によく懐いたその馬の名を呼ぶと……スイは、それに反応するかのように身体を震わせた。
「……こっちの方針は、大体こんな所かなっ。シバさん、後ろはお任せしますよっ!」
 別働隊となるシバ達部族の戦士には、ソフィア =リリィホルム(ka2383)が事前に方針を伝達した。
 老兵はよく纏まった彼女の説明を気に入った様で、二つ返事で首を縦に振る。
「年の功かの」
 シバの誂う様な言葉に、ソフィアはただ、にこりと微笑んで応えてみせた。

 戦闘準備が終わると、猟団の兵士達は、瞬く間に各々の持場に付いた。
 数は劣れど、その動作の精密たるは歪虚の軍勢に何ら引けをとらない。
「死者達の魂を狩る銃騎兵か……」
 ランチェスタ・クロイツ(ka2953)が、敵と味方とを交互にみやり、何かを思考する様に、目を細めた。
「現世を彷徨う死者達よ、神の御許で安らかに眠りにつけ……Amen」
 左手にロザリオを握りしめ、もう片方の手で、胸の前に十字を切る。
 ある者は懐かしそうに、またある者は珍しそうにその光景を見つめる団員達に、今度はライエル・ブラック(ka1450)が、歩み寄った。
「皆さんにも、神のご加護を」
 ライエルは自らも祈り、祝福の言霊を団員達へ紡いだ。
 その祈りを持ってこそ、死地に赴く兵士の備えは、万全となる。
「今の猟団の皆さんには、勝利以外はありえません。全員無事に戻り完勝と行きましょう!」
 少年の言葉に、団員達は大きく沸き立った。
「……村には到達させないよ。守るべき人達のために、軍人の誇りにかけて!」
 アルファス(ka3312)は、背後に佇む部族の村を振り返る。すでに部族の避難は終わっているが、定住生活を行う彼らの住居と蓄えは、即ちその命に等しい。
 彼もまた、何かを祈る様にいちど目を閉じて……再び瞼を開くと、義眼である左の瞳には、覚醒の光が灯されていた。

●交戦
「進撃開始!」
 団長代・八重樫が叫ぶと共に角笛が鳴り、猟団本隊が動いた。
 それと同時に、騎乗したハンターと機動部隊は左側から大きく迂回して駆け出す。
「まずは僕たちの切り込み班が、機動部隊の突撃路を作る。後に続いて、亀裂を広げてくれ!」
 アルファスが馬上から機動部隊に告げた。シバ達が頷くのを確認してから、自らの馬を最高速度へと加速させ、土煙をまきあげて駆けていく。
 狙うのは右翼側背面。全速力で馬を走らせ、奇襲と挟撃を狙う。
 敵陣の右翼側を狙うのはテリーの案だ。屍骸兵は自分の左側に並ぶ味方を護るために、左手に盾を持つ。自然、最右翼の屍骸兵を守る個体は存在せず、そこが弱点となる。
 テリーとランチェスタは馬上から、敵を見下ろす様に猟銃を構えた。
「方陣組んだ相手なんて、七面鳥撃ちも良いとこっスよ!」
 射撃の姿勢を決めたテリーは、旗型安全装置のレバーを発射位置へ引き倒す。
 揺れる馬上では照星を覗くことさえ困難だが、殆ど無関係だ。
 的は、屍骸兵の巨大な方陣そのものなのだから。
「……射程に入った!」
 ランチェスタが、覚醒で鋭い爪の生えた指を、引き金へと掛ける。
 猟銃を構え、遠射を発動した二人が発砲したのは、ほぼ同時。
 強弾の威力も乗せた二発の弾丸は、瞬間、それぞれが屍骸兵を貫き、吹き飛ばす。
 訓練された生粋の軍馬は、銃声を物ともしない。
 二人が立て続けに発砲し、屍骸兵の方陣右翼を乱すと、そこにハンター達の先陣が、放たれた矢の如く突っ込んでいく。
「無理は禁物です、抜けられないと思ったら直ぐに引き返してください!」
 ライエルが、最前列を駆けるソフィアにプロテクションを掛け、叫んだ。だが、彼の視線はソフィアの向こう、屍骸兵達へ向けられている。
「了解! 切り込み班、いくよっ!」
 ソフィアに続き、絶、フラン、さくら、アルファスが、騎乗して突貫する。
 突撃の間際、漸く数体の屍骸兵が対処する動きをみせたが、もう遅い。

「Огонь!」
 フランは先手を打って、馬上からアサルトライフルの強弾を掃射。
 屍骸兵の一体が倒れこみ、隊列が崩れたのを確認してから腰のサーベルを抜き、残りを撫で斬りにする勢いで突入した。

「貫くっ!」
 アルファスは衝突の瞬間、突撃槍を脇に確りと抱え込み、自らの身体に固定した。
 人馬一体の質量を載せ最高速度に達した槍の穂先は、屍骸兵を串刺しにする。

「どきやがれッ!」
 絶は歪虚から受ける初撃を意に介さず、ユナイテッド・ドライブ・ソードを横薙ぎに振るい、スラッシュエッジを放つ。
 馬上から斬りかかられた屍骸兵は、盾をかざす暇も無く首を跳ねられた。

「さぁ、ショータイムだよっ!」
 ソフィアは両手足に宿る覚醒の焔光に尾を引かせながら、マテリアルによって攻性強化したスピア「アサール」の、赤黒の穂先を繰り出す。
 肩口を貫かれた屍骸兵は、まるで槌で叩き潰されたかの様に崩れ落ちた。

「……いけるよね! スイ!」
 さくらが馬の腹をぎゅと腿でおさえると、スイは懸命に応えて加速する。
 闘心昂揚を宿し、唐竹割の如く振り下ろされたクラッシュブロウが、屍骸兵の頭を西瓜の様に砕く。

 フランの発砲からここまで、僅か一瞬の出来事。
 たった五騎の突撃……だが、それは楔の如く、屍骸兵の隊列に食い込んで亀裂を作る。
 しかし、相手は密集した屍骸兵の分厚い方陣である。
 直ぐに馬は足を止められ、切り込んだ五騎には、緩慢な動きの歪虚が殺到した。
「チッ、やっぱ一息で突き抜けるのはムリか……!」
 絶は事前に長剣様式に組み替えて置いた複合剣で側面の屍骸兵を弾き飛ばし、騎馬を反転させる。
 その隙を狙うかの様に、直ぐに隣の屍骸兵が絶に斬りかかろうとするも、その動きは後方から飛来した光弾……ライエルの放つホーリーライトに遮られた。
「横合いから討とうしても無駄ですよ」
 事前に敵を観察し、攻撃の挙動を読めるかは五分五分だったが……賭けは当たり、結果的に仲間を救う。
 そのままライエルは殿となって、屍骸兵の追撃を食い止めた。
「援護する、すぐに離脱してくれ」
 続いて、ランチェスタの水中拳銃が、銃声を放った。
 仲間に群がる歪虚に、牽制射撃を叩き込んでいく。 
「我等も遅れを取るな!」
 最後に、下馬したシバ達猟団の機動部隊が追いつき、陣の亀裂に雪崩れ込んだ。
 打ち合わせてあった通りの、完璧なタイミングだ。
 その隙に、切り込み班はどうにか、敵陣から距離を取る。

「本隊は、長くは持ちそうにないね」
 離脱後、戦場を見渡したフランは、アサルトライフルの弾倉を取り換えながら呟く。
 既に猟団本隊は、屍骸兵と交戦していた。大群に対して寡兵で奮闘しているものの、密集方陣に正面からぶつかっている為、やはり押し負けている。
 退役軍人の直感からくる言葉に、しかし異論を唱える者は居なかった。
「……あんまり慌てないですね、あの歪虚たち」
「端からそんな感情は、ないのだろう。おそらくは」
 微かな焦りの表情を浮かべるさくらに、ランチェスタが告げる。
「敵陣が厚すぎる。繰り返し突っ込んで引っ掻き回そう」
「オッケー、陣形組み直すよっ!」
 アルファスが再び突撃槍を構ると、ソフィアが並び、ハンター達は再び攻撃の姿勢に入った。
 
 ハンターと機動部隊はその後、四度に渡り、浅く突撃しては離脱を繰り返した。
 弱点とも言える右側面からの攻撃に対処しきれていないとはいえ、屍骸兵の数の力は凄まじく、その度に切り込み班の面々……特に先頭を担ったソフィアとアルファスは、激しい攻撃に晒された。
 マテリアルヒーリングによる自己回復と、ライエルのヒーリングを併せて尚、二人は浅からぬ傷を負い続けた。
 戦況が徐々に乱戦に近づく中で、絶は盾を持たない個体を目聡く見つけ出し、次々と討ち取っていく。
「見つけたッ……逃すかよ!」
 スラッシュエッジ、次いでスラッシュエッジ、その次もスラッシュエッジ。
 マテリアルを躊躇なく放出し、暴風雨の如く剣を振るう絶。
「……貴方、ちゃんとペース考えてる?」
「考えた結果の全力全開ってヤツだ。兎に角、数を減らさなきゃ始まらねぇ」
 思わず声を掛けたソフィアに、絶は目線を敵から外さぬまま、真顔で答えた。
「囲まれないように注意して。退路は、ボク達が確保しておく」
 全力全開は、フランも同様だ。
 こちらはありったけの強弾を叩き込み、歪虚を撹乱し、分断する。
 猟団の機動部隊も、ハンターから申し送られた内容に忠実に従いつつ、切り込み班に劣らぬ勢いで敵陣に突撃した。
 ランチェスタは切り込み班を支援する傍ら、気づけば突撃のたびに突出するシバを援護するかの様にーー或いは諌める様にーー彼の周囲の敵を排除していった。
「自分の身を顧みないのは……余り、関心しないな」
「旧い戦士故な、こういう闘い方しか知らぬのよ」
 ランチェスタの言葉に答えるシバの声色から、真意は測れなかったが……
「シバさん、見てて心臓に悪いっスよ」
 苦笑するテリーに突っ込まれると、漸く老兵も頬を緩め、足並みを味方に揃えた。

 やがて、屍骸兵の隊列が少しずつ乱れ始める。
 右翼や背面からの突撃を受け続けた敵陣の中列以降は、既に屍骸兵同士の距離が離れ、かなり密度が薄くなっていた。
「物理的に倒される分には、人と変わらないはずっ……!」
 さくらが、薙刀を鋭く付きだし、屍骸兵をノックバックさせると、まるで将棋倒しの様に周辺の屍骸兵も倒れてしまう。
「よしっ……このまま一気に本隊まで突き抜けるぞ!」
 アルファスが突撃槍の穂先から機導砲を放ちつつ、突撃する。
 隊列を崩した今ならば、鍛えられた軍馬は容易に屍骸兵を蹴散らすことが出来た。
「全く! こんな働き者だったっけなぁ? 俺は」
 続く絶が、屍骸兵を次々討ち取る。
 激戦の中、スラッシュエッジはとうに使い切っているが、お構いなしだ。
「あと少しで押し切れそうっス……!」
 テリーが遠射を用い、最前列の屍骸兵を撃ちぬく。
 とうとう、密集方陣が崩壊し、切り込み班が本隊と合流した。
「足は止めないでっ! このまま掃討するよ!」
 ソフィアの言葉に沸き立つ、猟団員達。
 すぐに連携を失った屍骸兵の各個撃破が始まり、戦局は、瞬く間に逆転した。

●戦い終わり
 その後、一部の屍骸兵は退却のそぶりを見せたものの、ハンター達が騎馬を用いた事が幸いし、全ての歪虚が追撃、討伐された。
 守るべき部族の村も、彼等の奮闘あって、一切被害を受けていない。
 戦局が定まり始めた頃から、ライエルは既に本隊に混じって、重傷者の治療を始めていた。
「怪我は早く手当てしないと、バイキンが入ったら大変なんです」
「手伝うよ。応急処置の訓練は受けてる」
 アルファスがそこに手を貸し、止血や消毒の作業に移る。
 その甲斐があって、殆どの団員は、無事に生還する事ができた。
 だが……唯一、急所に槍の一突きを受けた闘狩人だけは、命を落とす事になった。
「八重樫さん……」
「…………あの男は、即死だった」
 団員の戦死を告げ、目を伏せたライエルに、八重樫は無表情で……お前達の落ち度ではあるまい、と付け足した。
「全力で戦い、死ぬるならば誉れ。せめて、そう思ってやっておくれ。この者の為にな」
 寂しげに呟くシバの言葉に、頷いた者も、また割り切れぬ表情を浮かべた者もいる。
 ただ一貫するのは……誰もが共に、厳粛に、団員の死を弔った。

 ……。

 要塞に戻った後、何人かのハンターは、山岳猟団の予備戦力として登録する事を決めた。
 何かしらの権利も、義務も持つことは無いが……それでも、猟団が戦力を求める時には、まず声を掛けると、シバは語った。
「こっちが全員銃なら、あんな奴ら600m先から殲滅できたんスけど……」
「いや、それ、相当長銃身のライフルじゃないと……数も必要だし」
「そっか……だとするとコストと補給が……」
 テリーとフランは、それぞれの愛銃を整備しながら、今日の戦闘を振り返っている。
 その会話を、シバは何故か興味深そうに聞き入っていた。

 一方、さくらはこの戦いで騎乗したスイを、今後も自分で世話したいと申し出た。
 世話のための費用さえ自分で負担しようとするその姿勢に、担当の猟団員は「特例だが」と付け足した上で、これを許してくれた。
 さくらが新たな愛馬を撫ぜて微笑む傍らで……その光景を眺めながら、ソフィアは懐の紙箱と燐寸に手をのばす。
 仕事の後の、至福の一時。
「お、貴方も一服?」
「…………」
 彼女の隣に現れたのは、煙管を手にしたランチェスタ。ふっと笑って、無言で頷いた。
 ソフィアが火を差し出すと、彼は黙って煙管の先をかざした。
 二人は煙を吸い込み、ゆっくりと吐出す。
 その煙は、揺蕩いながら少しずつ空へ登り……やがて、風に溶けて消えた。

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MVP一覧

  • Gun-ner
    テリー・ヴェランダルka0911
  • 大工房
    ソフィア =リリィホルムka2383

重体一覧

参加者一覧


  • フラン・レンナルツ(ka0170
    人間(蒼)|23才|女性|猟撃士
  • Gun-ner
    テリー・ヴェランダル(ka0911
    人間(蒼)|17才|女性|猟撃士
  • 疾風迅雷
    影護 絶(ka1077
    人間(蒼)|20才|男性|疾影士
  • 仁愛の士
    ライエル・ブラック(ka1450
    人間(紅)|15才|男性|聖導士
  • 山岳猟団即応員
    美作さくら(ka2345
    人間(蒼)|14才|女性|霊闘士
  • 大工房
    ソフィア =リリィホルム(ka2383
    ドワーフ|14才|女性|機導師
  • 山岳猟団即応員
    ランチェスタ・クロイツ(ka2953
    人間(紅)|25才|男性|猟撃士
  • 《聡明》なる天空の術師
    アルファス(ka3312
    人間(蒼)|20才|男性|機導師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン アンデッド倒すよっ!
ソフィア =リリィホルム(ka2383
ドワーフ|14才|女性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2014/11/18 05:53:04
アイコン 質問スレッド
ランチェスタ・クロイツ(ka2953
人間(クリムゾンウェスト)|25才|男性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2014/11/16 11:20:45
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/11/13 11:14:35