ゲスト
(ka0000)
スライムカフェ、はじめられません!
マスター:あきのそら
オープニング
●冒険都市リゼリオ 小島
「んふふ、ぷにぷに、ぷにゅぷにゅ……♪」
レンガ造りの古いふる~い家の中。
大きな大きな丸眼鏡をかけた少女――マナリアは、ベッドほどもある特大スライムにもたれかかってご満悦だった。
「はぁ~……♪ スライムさんは今日もひんやりしていて、ぷにぷにで、ふよんふよんですねぇ……♪」
木彫りのボウルに持ったフライドポテトを頬張りながら、ブーツを脱ぎさり全身でスライムの感触を楽しむマナリア。
その指先でくにくにとスライムの体表を押しながら感触を確かめ、時には鼻先をくりくりと擦り付けるように顔面で匂いを確かめる。
「む、やっぱりまだ少し消毒薬くさいですね……すんすん」
マナリアはしきりにスライムの匂いを確かめつつ、懐から手帳を取り出して『ベッド 匂い△』などとメモしていく。
「香料を加えて匂いを……いいえ、もっと根本的に解決するには、良いお水を使って洗浄してあげたほうが良いのでしょうか。コスト的にはどちらのほうが良いのでしょう……うむむ」
ひとり、真剣にスライムの匂いについて考える。
「はぁ、スライムカフェを始めるのはまだ先になりそうですねぇ」
スライムカフェ――誰しもが、気軽にスライムと触れ合いながらお茶を楽しめるお店。
そんなお店を開くことが、マナリアの夢だった。
「ここまでたどり着くのも、長い長い道のりでした……」
スライムの研究に人生を捧げてきた彼女の努力によって良性の魔法生物として生まれたスライムたちは安心・安全、人に害を及ぼさない存在としてマナリアと暮らしを共にしていた。
「よいしょ、っと」
スライムから降り、家の中を見回すと、自ら造り上げたスライムたちがコロコロ元気に動き回っている。
――ぷにぷに。
サッカーボール大のスライムはころころと転がり、バランスボール大のスライムはぺとぺとと形を変えながらお掃除。
サイドテーブルのような形をした硬めのスライムはせっせと椅子を運んでいたりしている。
「……ううん! せっかくお店を手に入れたんですもの! 一刻も早く開店して、みんなに美味しいお水を飲ませてあげなきゃですね! みんな~! 工房のほうに集まってくださぁ~い!」
――ぷにぷに、ぷよぷよ。
とことこ集まるスライムたちを引き連れて、マナリアは工房へと移った。
●小島 工房
「うむむむむ……!」
――ぷににぃ……。
マナリアの唸り声に、それぞれ一体ずつ釜に入れられたスライムたちは恐怖に震えていた。。
かれこれ10時間、彼女は工房に立ちっぱなし・悩みっぱなし・失敗しっぱなしなのだ。
「リアルブルーで取れたという秘蔵の『みねらるうおーたー』を混ぜても匂いは若干残った……やっぱり、この『サキュバスの香料』と『インキュバスの香料』を使うしかないのでしょうか……!」
――ぷにっ!!
マナリアの思い悩む声に『それだそれだ! なんでもいいからさっさと混ぜて解放してくれ!』といわんばかりにぷるぷる震えるスライムたち。
そう、スライムたちは、スライムといえど、マナリアの愛と情熱を受けて育ったスライムたちである。
自由に、素直に、まっすぐに育った彼ら・彼女らは、狭い釜の中に10時間も入れられたりなんかするときっちり不満を抱くのである。
「むふふ、みんながそういうなら……えーいっ!」
勢いよく『サキュバスの香料』を二つの釜に。
『インキュバスの香料』を残り二つの釜に混ぜ込むと。
「ん~~~~! とっても良い香りですぅ……!」
工房内には、みるみるうちに、芳醇なお酒のような香りと、甘いお菓子のような香りとが混じりあった心地よい香りで満たされていく。
――ぷににににっ!
『サキュバスの香料』を混ぜた中くらいのサイズのスライムと、小さなサイズのスライムはピンク色を帯びていき。
『インキュバスの香料』を混ぜた特大サイズのスライムと、大きなサイズのスライムは濃い青色を帯びていく。
「ほあぁ~……♪ なんて良い香りなんでしょう……ハッ!」
思わず釜の中へ手が伸びかけた――その時。
ハッとしたマナリアは、咄嗟に口と鼻を塞いだ。
(い、いけません! 量が多すぎました……こ、このままじゃ前後不覚に陥ってしまいます……! ど、どうにかして薄めないと……!)
マナリアが注入器と真水を手に取ろうと、釜から少し離れた瞬間。
――ぶににんっ!
「えぇっ、な、なんでっ……!」
四体のスライムたちは勢いよく飛び出し、そのまま家の外へと飛び出していってしまった。
「あの子たちが勝手に家から出る事なんて……ま、まさか……!」
香料の入っていた瓶に貼られたラベルには『香水としてご利用の場合は100倍、魔法生物にご使用の場合は3~10倍に薄めてお使いください♪』と小さく書かれていた。
「た、たた……大変ですぅーっ!!!」
こうして、マナリアは慌ててハンターオフィスへハンターの派遣と、周辺の島の封鎖を依頼したのでした。
「んふふ、ぷにぷに、ぷにゅぷにゅ……♪」
レンガ造りの古いふる~い家の中。
大きな大きな丸眼鏡をかけた少女――マナリアは、ベッドほどもある特大スライムにもたれかかってご満悦だった。
「はぁ~……♪ スライムさんは今日もひんやりしていて、ぷにぷにで、ふよんふよんですねぇ……♪」
木彫りのボウルに持ったフライドポテトを頬張りながら、ブーツを脱ぎさり全身でスライムの感触を楽しむマナリア。
その指先でくにくにとスライムの体表を押しながら感触を確かめ、時には鼻先をくりくりと擦り付けるように顔面で匂いを確かめる。
「む、やっぱりまだ少し消毒薬くさいですね……すんすん」
マナリアはしきりにスライムの匂いを確かめつつ、懐から手帳を取り出して『ベッド 匂い△』などとメモしていく。
「香料を加えて匂いを……いいえ、もっと根本的に解決するには、良いお水を使って洗浄してあげたほうが良いのでしょうか。コスト的にはどちらのほうが良いのでしょう……うむむ」
ひとり、真剣にスライムの匂いについて考える。
「はぁ、スライムカフェを始めるのはまだ先になりそうですねぇ」
スライムカフェ――誰しもが、気軽にスライムと触れ合いながらお茶を楽しめるお店。
そんなお店を開くことが、マナリアの夢だった。
「ここまでたどり着くのも、長い長い道のりでした……」
スライムの研究に人生を捧げてきた彼女の努力によって良性の魔法生物として生まれたスライムたちは安心・安全、人に害を及ぼさない存在としてマナリアと暮らしを共にしていた。
「よいしょ、っと」
スライムから降り、家の中を見回すと、自ら造り上げたスライムたちがコロコロ元気に動き回っている。
――ぷにぷに。
サッカーボール大のスライムはころころと転がり、バランスボール大のスライムはぺとぺとと形を変えながらお掃除。
サイドテーブルのような形をした硬めのスライムはせっせと椅子を運んでいたりしている。
「……ううん! せっかくお店を手に入れたんですもの! 一刻も早く開店して、みんなに美味しいお水を飲ませてあげなきゃですね! みんな~! 工房のほうに集まってくださぁ~い!」
――ぷにぷに、ぷよぷよ。
とことこ集まるスライムたちを引き連れて、マナリアは工房へと移った。
●小島 工房
「うむむむむ……!」
――ぷににぃ……。
マナリアの唸り声に、それぞれ一体ずつ釜に入れられたスライムたちは恐怖に震えていた。。
かれこれ10時間、彼女は工房に立ちっぱなし・悩みっぱなし・失敗しっぱなしなのだ。
「リアルブルーで取れたという秘蔵の『みねらるうおーたー』を混ぜても匂いは若干残った……やっぱり、この『サキュバスの香料』と『インキュバスの香料』を使うしかないのでしょうか……!」
――ぷにっ!!
マナリアの思い悩む声に『それだそれだ! なんでもいいからさっさと混ぜて解放してくれ!』といわんばかりにぷるぷる震えるスライムたち。
そう、スライムたちは、スライムといえど、マナリアの愛と情熱を受けて育ったスライムたちである。
自由に、素直に、まっすぐに育った彼ら・彼女らは、狭い釜の中に10時間も入れられたりなんかするときっちり不満を抱くのである。
「むふふ、みんながそういうなら……えーいっ!」
勢いよく『サキュバスの香料』を二つの釜に。
『インキュバスの香料』を残り二つの釜に混ぜ込むと。
「ん~~~~! とっても良い香りですぅ……!」
工房内には、みるみるうちに、芳醇なお酒のような香りと、甘いお菓子のような香りとが混じりあった心地よい香りで満たされていく。
――ぷににににっ!
『サキュバスの香料』を混ぜた中くらいのサイズのスライムと、小さなサイズのスライムはピンク色を帯びていき。
『インキュバスの香料』を混ぜた特大サイズのスライムと、大きなサイズのスライムは濃い青色を帯びていく。
「ほあぁ~……♪ なんて良い香りなんでしょう……ハッ!」
思わず釜の中へ手が伸びかけた――その時。
ハッとしたマナリアは、咄嗟に口と鼻を塞いだ。
(い、いけません! 量が多すぎました……こ、このままじゃ前後不覚に陥ってしまいます……! ど、どうにかして薄めないと……!)
マナリアが注入器と真水を手に取ろうと、釜から少し離れた瞬間。
――ぶににんっ!
「えぇっ、な、なんでっ……!」
四体のスライムたちは勢いよく飛び出し、そのまま家の外へと飛び出していってしまった。
「あの子たちが勝手に家から出る事なんて……ま、まさか……!」
香料の入っていた瓶に貼られたラベルには『香水としてご利用の場合は100倍、魔法生物にご使用の場合は3~10倍に薄めてお使いください♪』と小さく書かれていた。
「た、たた……大変ですぅーっ!!!」
こうして、マナリアは慌ててハンターオフィスへハンターの派遣と、周辺の島の封鎖を依頼したのでした。
リプレイ本文
●冒険都市リゼリオ 小島
「いよぉし、捕まえるぞー」
「うぅ、ホントにちょっとくらくらしますね」
ミリア・ラスティソード(ka1287)と葛音 水月(ka1895)は、目的の区画中央の南北に長い島に立っていた。
水月はサキュバスの香料に影響される頭をおさえつつ、二人が向かったのは北の小島。
アーチ状の橋を渡ったところで、二人は何人もの男たちが倒れているのを見つけた。
「だ、大丈夫ですか!?」
水月が駆け寄ると、男たちは全員汗が光らせ無駄に良い顔をしながら親指を立ててみせ。
「ヘッ、久しぶりにイイ拳……もらっちまったぜ」
と、呟いてぱったりと気絶……した風を装って、眠り始めてしまった。
「だ、大丈夫そう、なのかな」
「大丈夫なんじゃない? それにほら、スライムくんみーつけた」
ミリアの指さす先には、確かに件のスライムが居た。
ピンク色をした半透明のぷるぷるな材質、テカテカと陽光を照り返す滑らかな表面をしながらも、片足を上げるような格好で素早いシャドーボクシングをしているサイドテーブルがそこに居た。
「どうやら香料におびき寄せられた人たちは全員ノックアウトされちゃったみたいだし、新しい人がおびき寄せられないうちにやっちゃったほうが良いみたいだね」
「はいっ」
二人は、スライムの陣取る広場へと歩み出る。
向かい合う二人と一体。
品定めするような、スライムの動き。
やがて、スライムの腕……テーブルでいうところの足の一本が、やさしく、ぷにっと。
「おっとっと」
水月を押すと、すぐさまバックステップで飛び下がり。
「へへ、水月はちょっと下がっててってさ」
「そ、そんなぁ」
ミリアとの試合が始まった。
「ほらほら、あそぼーぜー。打たせてあげるよー?」
華麗にステップを踏みながらリズムを取るミリア。
それに合わせるスライムも、挑発されるやいなや鋭いステップでワンツーを入れてくる。
下から抉るようなパンチ兼キックのような一撃、時折浴びせ蹴りのように身体を捻りながら叩きつけられる一撃、およそサイドテーブルに成せる技とは思えないコンビネーションの連打。
気持ちの良いほどに、手の内を次々と見せつける戦い方に思わずミリアは微笑む。
「ひゅー、やるやる。それじゃあボクも……ちょっと本気出してみようかなッ」
スライムの一撃を避けながら、肩を入れ、右ストレートを支柱目がけて叩き込む。
その一撃が、届く瞬間。
ブンッと鈍い風切り音と共に、ミリアの避けた腕の下をくぐるようにもう一本の足がカウンターを入れてきた。
「おっ」
不意の一撃を左腕で防ぐミリア。
吹き飛び、体勢を立て直すスライム。
咄嗟の一撃が、ミリアにとってもスライムにとっても意図しない一撃だったのか、二人の闘志が沸々とボルテージをあげていく。
「うぅぅ……僕だって……」
そんな広場の端っこで体育座りする水月のことも構わず、ミリアとスライムは再び激突するのだった。
●小島 南
ミリアと水月の居る北の小島とは反対側。
ドゥアル(ka3746)と葛音 破矢(ka5838)とレキ・アシュフィール(ka7008)は、特大スライムを見つけていた。
の、だが。
「ん、フライドポテトあげるから……その中で包んで……あ、ダメですか……そうですか……むにゃ……あと5日……」
「なるほど……これは中々、柔らかいな……これは、ひどく、危険な気が……あーーーー……いい……ダメだこれは……鬼を、ダメにしてしまう、スライムだぁ……」
「なーにしてんのよ」
ドゥアルと破矢は完全に特大スライムの虜となっていた。
その寝心地と香料の効果たるや凄まじく、ひとたび首を預ければ如何に引きずられようとも起き上がる気が起きないほど心地よい。
「まったく……」
ちょっぴり呆れ気味になりつつ、レキがぽいぽいとマナリアの作ったフライドポテトをスライムへ投げてやると。
――ぷにぷに、ぷにぷに。
ニンジンに釣られるお馬さんよろしく、ぷにぷにぺとぺとお行儀よくレキの後をついてくる。
完全にスライムの虜と化したドゥアルと破矢を乗せながら。
「むにゃむにゃ……すぴょぴょ……」
「ほしい……これ、ほしい……」
「……ま、連れて帰れればいいわよね」
――ぷにっ、ぷにっ!
「私は寝ないわよ」
――ぷにぃ……。
そうして、レキは特大スライムプラス二人をマナリアのおうちへと連れていったのだった。
●小島 南東
特大スライムがマナリアのおうちへ向かっている頃。
小宮・千秋(ka6272)はマルチーズ、スコティッシュフォールドと一緒に南東の島へとスライムを探しにやってきていた。
「ほいほいほーい、っと。この辺りでよいですかねー」
小島の中央。
橋を渡りきり、出店と民家に囲まれた広場に着いた千秋は二匹を別々の方向へと走らせながら、その場にとどまりファミリアズアイを発動させる。
「マルチーズさん、スコティッシュフォールドさん、宜しくお願いしまーす」
片方の視覚を共有し、範囲外まで離れたら今度は逆の相棒の視覚を共有。
そうして見つけたピンク色の小さなスライムは、質感こそスライムそのものの半透明さを残しているものの、形は完全に猫そのものと化していた。
猫と化し、六人ほどの女の子にこれでもかと全力で追い回されていた。
「おやおやー」
島の中を走り回る一団に追いつきながら、その後ろを走りつつ千秋は頭を捻る。
「このまま放置していれば、存分に遊んだということに……」
――わんっ! わんわん!
「ならないですよねー」
並走する二匹に注意され、スライムを追いかける一団を一瞬で追い抜くほどスピードを上げる。
「なかなか素早いですねー」
スライムはまさしく野良猫の如く、素早い身のこなしで道端の障害物をよけながら駆けまわり、逃げ回る。
――わふわふっ!
千秋に追いついた二匹もまた、それぞれスライムを捕まえんとして幾度もアタックを仕掛けるが、それすらも避け。
そうしていつの間にか広場へと出た一体と一人と二匹は、足を止める。
――ぷにっ。
「もう追いかけっこはおしまいですかー」
にらみ合うスライムと千秋。吹き抜ける風。
屋台の空き缶が、落ちた瞬間。
ごろん、とネコ型スライムはお腹を出して横になったのだった。
「……よーしよしよし?」
――ぷにぃん。
千秋に撫でられ、マルチーズとスコティッシュフォールドに鼻先でむにむにと押されつつ。
チャクラヒールで浄化されていくスライムは、なんとも満足気なのだった。
●小島 西
「無害なスライム、かぁ~……」
十色 乃梛(ka5902)は、西の小島の広場に立っていた。
視線の先には、大人の女性たちに追いかけられジリジリと後ずさる大きめのスライムの姿があった。
「自分で引き付けておいて後ずさってる」
なんとも哀れな状況のスライムを見て、ため息をひとつ漏らしながら。
マナリアの淹れてくれたコーヒー入りの水筒を開けつつ、風上に立ってコーヒーの香りでスライムをおびき寄せる。
すると、濃い青色をしたスライムは女性たちににじり寄られつつも、隙を見て乃梛の方へと走り出した!
「あれ、でもこのまま近づいちゃったら私がインキュバスの香料の影響を受けて正気を失いそうな……」
「問題……ありません……!」
「えっ、ドゥアルさん!?」
走り込んでくるスライムを受け止めるように、飛び出したのはいつの間にか乃梛の後ろに立っていたドゥアルだった。
「ほら……コーヒーをあげますから……大人しくして……」
――ぷにぃっ! ぷにぃっ!
ドゥアルに押し倒され、だばだばと雑にカップに入ったコーヒーをかけられながらも必死に逃げようとするスライム。
「いざ……睡眠タイム……すょ……」
コーヒーがスライムの表面を滑り、全部地面に流れ落ちているのも構わず、断固スライムにしがみついて眠り始めるドゥアル。
「あ、あのぅ……」
固まる乃梛。眠るドゥアル。逃げられないスライム。
香料の効果こそ残っているらしく、未だに女性たちはこちらへおびき寄せられてきているが、しかし。
完全に動きを封じられたスライムへ、乃梛は人差し指を伸ばしてみる。
「…………ぷに」
ちょっぴり触りたかったスライムのお肌はとろけるようにやわっこく、しかし膜のようなものに覆われているためグッと指で押してやると心地よい反発が返ってきた。
「……は、早くマナリアさんのおうちに連れてってあげないと、いけないけど」
ぷに、ぷに、ぷにぷにぷに。
人差し指だけで触れていたのが、段々手のひら、両手、やがて頬ずりするまでになって。
「あぁ……キュアを……サルヴェイションをかけてあげないといけないんだけどぉ……!」
「すぴょ……すぴょ……」
――ぷににぃ!
『なんでもいいから助けてくれ!』と言わんばかりに震えるスライムへ、乃梛がキュアをかけてあげられたのはもう少し――大体、一時間ほど後のことであった。
●マナリアのおうち
「みっ、みなさん本当にありがとうございましたっ! わたしの不注意でとんだご迷惑を……!」
そうして結局。
乃梛がドゥアルと大きなスライムを連れ帰ってきたところで、全てのスライムは正気を取り戻すことに成功していた。
「いやいや、ボクも楽しかったし大丈夫だよ」
中くらいのスライムはミリアと存分に殴り合い、いつの間にやら混ぜ込まれた香料が減っていて、大人しく帰ってくることが出来たので工房でリフレッシュできた。
「んぁ……みずきか……いいぞ、これ……いえにひとつくらい……」
「……絶対ダメ」
「そんなぁ……」
特大スライムは、これでもかと女性たちに囲まれてご満悦。
レキに食べさせてもらったフライドポテトも相まって、るんるん気分で帰宅。中くらいの同様にマナリアの手でリフレッシュしてもらった。
「ん、ほんとにぷよぷよふわふわで気持ちいいわ……」
今も、破矢と乃梛を乗せて絶賛ご満悦中だ。
「マナリア、匂いの問題は毎日ちょっとずつ綺麗なお水とほんのちょっとの香水を混ぜてあげるのはどう?」
「なるほど! 日々のメンテナンスに取り入れてみようと思いますっ!」
そんな乃梛の連れて来た大きなスライムはすっかり女性恐怖症が加速してしまったものの、今は大好きなコーヒーを飲ませてもらって落ち着いていた。
「おーおー、すっかり仲良しさんですねー」
千秋の連れて来た小スライムは、マルチーズとスコティッシュフォールドとすっかり仲良しになっていた。
「マナリアさん、スライムくんたちは毎日メンテナンスしているの?」
「はいっ! 体内のマテリアルが汚染されてしまわないように毎日お水を取り替えて、魔術で練り込んで……色々していますっ!」
「そっか、それじゃあうちのお店には――」
「なんだぁ、みづき……やっぱりうちにおいてみるきになったのかぁ……」
「……なってません!」
「えへへ、いつかみんなが気軽に楽しめるようなお店を開きますねっ」
「うんっ、楽しみにしてる!」
こうして、スライム騒動は一件落着したのでした。
「……最後に、僕も寝てみてもいいかな」
「うふふ、はいっ! 遠慮せずにどーぞっ!
おしまい
「いよぉし、捕まえるぞー」
「うぅ、ホントにちょっとくらくらしますね」
ミリア・ラスティソード(ka1287)と葛音 水月(ka1895)は、目的の区画中央の南北に長い島に立っていた。
水月はサキュバスの香料に影響される頭をおさえつつ、二人が向かったのは北の小島。
アーチ状の橋を渡ったところで、二人は何人もの男たちが倒れているのを見つけた。
「だ、大丈夫ですか!?」
水月が駆け寄ると、男たちは全員汗が光らせ無駄に良い顔をしながら親指を立ててみせ。
「ヘッ、久しぶりにイイ拳……もらっちまったぜ」
と、呟いてぱったりと気絶……した風を装って、眠り始めてしまった。
「だ、大丈夫そう、なのかな」
「大丈夫なんじゃない? それにほら、スライムくんみーつけた」
ミリアの指さす先には、確かに件のスライムが居た。
ピンク色をした半透明のぷるぷるな材質、テカテカと陽光を照り返す滑らかな表面をしながらも、片足を上げるような格好で素早いシャドーボクシングをしているサイドテーブルがそこに居た。
「どうやら香料におびき寄せられた人たちは全員ノックアウトされちゃったみたいだし、新しい人がおびき寄せられないうちにやっちゃったほうが良いみたいだね」
「はいっ」
二人は、スライムの陣取る広場へと歩み出る。
向かい合う二人と一体。
品定めするような、スライムの動き。
やがて、スライムの腕……テーブルでいうところの足の一本が、やさしく、ぷにっと。
「おっとっと」
水月を押すと、すぐさまバックステップで飛び下がり。
「へへ、水月はちょっと下がっててってさ」
「そ、そんなぁ」
ミリアとの試合が始まった。
「ほらほら、あそぼーぜー。打たせてあげるよー?」
華麗にステップを踏みながらリズムを取るミリア。
それに合わせるスライムも、挑発されるやいなや鋭いステップでワンツーを入れてくる。
下から抉るようなパンチ兼キックのような一撃、時折浴びせ蹴りのように身体を捻りながら叩きつけられる一撃、およそサイドテーブルに成せる技とは思えないコンビネーションの連打。
気持ちの良いほどに、手の内を次々と見せつける戦い方に思わずミリアは微笑む。
「ひゅー、やるやる。それじゃあボクも……ちょっと本気出してみようかなッ」
スライムの一撃を避けながら、肩を入れ、右ストレートを支柱目がけて叩き込む。
その一撃が、届く瞬間。
ブンッと鈍い風切り音と共に、ミリアの避けた腕の下をくぐるようにもう一本の足がカウンターを入れてきた。
「おっ」
不意の一撃を左腕で防ぐミリア。
吹き飛び、体勢を立て直すスライム。
咄嗟の一撃が、ミリアにとってもスライムにとっても意図しない一撃だったのか、二人の闘志が沸々とボルテージをあげていく。
「うぅぅ……僕だって……」
そんな広場の端っこで体育座りする水月のことも構わず、ミリアとスライムは再び激突するのだった。
●小島 南
ミリアと水月の居る北の小島とは反対側。
ドゥアル(ka3746)と葛音 破矢(ka5838)とレキ・アシュフィール(ka7008)は、特大スライムを見つけていた。
の、だが。
「ん、フライドポテトあげるから……その中で包んで……あ、ダメですか……そうですか……むにゃ……あと5日……」
「なるほど……これは中々、柔らかいな……これは、ひどく、危険な気が……あーーーー……いい……ダメだこれは……鬼を、ダメにしてしまう、スライムだぁ……」
「なーにしてんのよ」
ドゥアルと破矢は完全に特大スライムの虜となっていた。
その寝心地と香料の効果たるや凄まじく、ひとたび首を預ければ如何に引きずられようとも起き上がる気が起きないほど心地よい。
「まったく……」
ちょっぴり呆れ気味になりつつ、レキがぽいぽいとマナリアの作ったフライドポテトをスライムへ投げてやると。
――ぷにぷに、ぷにぷに。
ニンジンに釣られるお馬さんよろしく、ぷにぷにぺとぺとお行儀よくレキの後をついてくる。
完全にスライムの虜と化したドゥアルと破矢を乗せながら。
「むにゃむにゃ……すぴょぴょ……」
「ほしい……これ、ほしい……」
「……ま、連れて帰れればいいわよね」
――ぷにっ、ぷにっ!
「私は寝ないわよ」
――ぷにぃ……。
そうして、レキは特大スライムプラス二人をマナリアのおうちへと連れていったのだった。
●小島 南東
特大スライムがマナリアのおうちへ向かっている頃。
小宮・千秋(ka6272)はマルチーズ、スコティッシュフォールドと一緒に南東の島へとスライムを探しにやってきていた。
「ほいほいほーい、っと。この辺りでよいですかねー」
小島の中央。
橋を渡りきり、出店と民家に囲まれた広場に着いた千秋は二匹を別々の方向へと走らせながら、その場にとどまりファミリアズアイを発動させる。
「マルチーズさん、スコティッシュフォールドさん、宜しくお願いしまーす」
片方の視覚を共有し、範囲外まで離れたら今度は逆の相棒の視覚を共有。
そうして見つけたピンク色の小さなスライムは、質感こそスライムそのものの半透明さを残しているものの、形は完全に猫そのものと化していた。
猫と化し、六人ほどの女の子にこれでもかと全力で追い回されていた。
「おやおやー」
島の中を走り回る一団に追いつきながら、その後ろを走りつつ千秋は頭を捻る。
「このまま放置していれば、存分に遊んだということに……」
――わんっ! わんわん!
「ならないですよねー」
並走する二匹に注意され、スライムを追いかける一団を一瞬で追い抜くほどスピードを上げる。
「なかなか素早いですねー」
スライムはまさしく野良猫の如く、素早い身のこなしで道端の障害物をよけながら駆けまわり、逃げ回る。
――わふわふっ!
千秋に追いついた二匹もまた、それぞれスライムを捕まえんとして幾度もアタックを仕掛けるが、それすらも避け。
そうしていつの間にか広場へと出た一体と一人と二匹は、足を止める。
――ぷにっ。
「もう追いかけっこはおしまいですかー」
にらみ合うスライムと千秋。吹き抜ける風。
屋台の空き缶が、落ちた瞬間。
ごろん、とネコ型スライムはお腹を出して横になったのだった。
「……よーしよしよし?」
――ぷにぃん。
千秋に撫でられ、マルチーズとスコティッシュフォールドに鼻先でむにむにと押されつつ。
チャクラヒールで浄化されていくスライムは、なんとも満足気なのだった。
●小島 西
「無害なスライム、かぁ~……」
十色 乃梛(ka5902)は、西の小島の広場に立っていた。
視線の先には、大人の女性たちに追いかけられジリジリと後ずさる大きめのスライムの姿があった。
「自分で引き付けておいて後ずさってる」
なんとも哀れな状況のスライムを見て、ため息をひとつ漏らしながら。
マナリアの淹れてくれたコーヒー入りの水筒を開けつつ、風上に立ってコーヒーの香りでスライムをおびき寄せる。
すると、濃い青色をしたスライムは女性たちににじり寄られつつも、隙を見て乃梛の方へと走り出した!
「あれ、でもこのまま近づいちゃったら私がインキュバスの香料の影響を受けて正気を失いそうな……」
「問題……ありません……!」
「えっ、ドゥアルさん!?」
走り込んでくるスライムを受け止めるように、飛び出したのはいつの間にか乃梛の後ろに立っていたドゥアルだった。
「ほら……コーヒーをあげますから……大人しくして……」
――ぷにぃっ! ぷにぃっ!
ドゥアルに押し倒され、だばだばと雑にカップに入ったコーヒーをかけられながらも必死に逃げようとするスライム。
「いざ……睡眠タイム……すょ……」
コーヒーがスライムの表面を滑り、全部地面に流れ落ちているのも構わず、断固スライムにしがみついて眠り始めるドゥアル。
「あ、あのぅ……」
固まる乃梛。眠るドゥアル。逃げられないスライム。
香料の効果こそ残っているらしく、未だに女性たちはこちらへおびき寄せられてきているが、しかし。
完全に動きを封じられたスライムへ、乃梛は人差し指を伸ばしてみる。
「…………ぷに」
ちょっぴり触りたかったスライムのお肌はとろけるようにやわっこく、しかし膜のようなものに覆われているためグッと指で押してやると心地よい反発が返ってきた。
「……は、早くマナリアさんのおうちに連れてってあげないと、いけないけど」
ぷに、ぷに、ぷにぷにぷに。
人差し指だけで触れていたのが、段々手のひら、両手、やがて頬ずりするまでになって。
「あぁ……キュアを……サルヴェイションをかけてあげないといけないんだけどぉ……!」
「すぴょ……すぴょ……」
――ぷににぃ!
『なんでもいいから助けてくれ!』と言わんばかりに震えるスライムへ、乃梛がキュアをかけてあげられたのはもう少し――大体、一時間ほど後のことであった。
●マナリアのおうち
「みっ、みなさん本当にありがとうございましたっ! わたしの不注意でとんだご迷惑を……!」
そうして結局。
乃梛がドゥアルと大きなスライムを連れ帰ってきたところで、全てのスライムは正気を取り戻すことに成功していた。
「いやいや、ボクも楽しかったし大丈夫だよ」
中くらいのスライムはミリアと存分に殴り合い、いつの間にやら混ぜ込まれた香料が減っていて、大人しく帰ってくることが出来たので工房でリフレッシュできた。
「んぁ……みずきか……いいぞ、これ……いえにひとつくらい……」
「……絶対ダメ」
「そんなぁ……」
特大スライムは、これでもかと女性たちに囲まれてご満悦。
レキに食べさせてもらったフライドポテトも相まって、るんるん気分で帰宅。中くらいの同様にマナリアの手でリフレッシュしてもらった。
「ん、ほんとにぷよぷよふわふわで気持ちいいわ……」
今も、破矢と乃梛を乗せて絶賛ご満悦中だ。
「マナリア、匂いの問題は毎日ちょっとずつ綺麗なお水とほんのちょっとの香水を混ぜてあげるのはどう?」
「なるほど! 日々のメンテナンスに取り入れてみようと思いますっ!」
そんな乃梛の連れて来た大きなスライムはすっかり女性恐怖症が加速してしまったものの、今は大好きなコーヒーを飲ませてもらって落ち着いていた。
「おーおー、すっかり仲良しさんですねー」
千秋の連れて来た小スライムは、マルチーズとスコティッシュフォールドとすっかり仲良しになっていた。
「マナリアさん、スライムくんたちは毎日メンテナンスしているの?」
「はいっ! 体内のマテリアルが汚染されてしまわないように毎日お水を取り替えて、魔術で練り込んで……色々していますっ!」
「そっか、それじゃあうちのお店には――」
「なんだぁ、みづき……やっぱりうちにおいてみるきになったのかぁ……」
「……なってません!」
「えへへ、いつかみんなが気軽に楽しめるようなお店を開きますねっ」
「うんっ、楽しみにしてる!」
こうして、スライム騒動は一件落着したのでした。
「……最後に、僕も寝てみてもいいかな」
「うふふ、はいっ! 遠慮せずにどーぞっ!
おしまい
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相談・宣言・提案卓 ミリア・ラスティソード(ka1287) 人間(クリムゾンウェスト)|20才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2017/10/13 23:37:15 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/10/13 12:50:44 |