• 東幕

【東幕】学問のススメ

マスター:紺堂 カヤ

シナリオ形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/10/17 15:00
完成日
2017/10/23 09:15

みんなの思い出

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オープニング

●小さな商人の大きな商売
 エトファリカ連邦国、天ノ都の空は高く澄み渡っている。気持ちの良い風が吹き抜け、大地の埃をさらってゆく。
 小さな幌馬車の御者台に座るひとりの少年が、風の行く末を見上げて目を細めた。さらさらと黒髪をなびかせるその面差しは、誰もがついうっとりしてしまうほど愛らしいものだった。
「こういう日は、よく売れるんだ」
 少年──史郎は、街道を進み、大きな屋敷の前へ馬車をつけた。とある織物問屋だ。天ノ都に現在、着実に店舗を増やしている優良企業である。
「やあ史郎くん、よく来たね。注文の反物は手に入ったかな」
「こんにちは、番頭さん。ばっちりですよ。さすがの目利きですね、この柄は今年流行しますよ」
「こりゃあ上物だ。この天ノ都でこれほどのものを見られる日が来るとはねえ。高くつくかね」
「ええ、まあ。ですが、ずいぶんたくさん仕入れていただきましたからね、少しオマケしますよ」
「そうかい、それは有難いね」
 弾むような声の調子で史郎が気前の良いセリフを吐くと、問屋の番頭はたちまち上機嫌になった。史郎は、このタイミングを逃さない。黒い瞳がきらりと光る。
「ところで番頭さん。この反物によく合う、宝石なんかもいかがです?」
「宝石?」
「ええ。西方からいいものを仕入れられたんです。ちょっと宝石商にツテができましてね。なんせ物流が安定しませんから、ずいぶん待たされましたけど、待った甲斐があったというものです。いかがです、ご覧になるだけでも」
「う、うーん、まあ見るだけなら……」
「ありがとうございます」
 史郎は、この世で一番とも思われるほどの輝かしい笑顔を見せた。



 織物問屋や薬問屋を相手に商売を順調に済ませた史郎は、品物などを厳重に自宅に仕舞い置いたあと、市場の方へ足を向けた。青果や乾物、日用品と、市場には「生活」のにおいがあふれている。史郎は、それを胸いっぱいに吸い込んだ。
「どうだい、ぼうや、見ていっておくれー!」
 見目麗しく、人当たりもよい史郎は、様々な店から声をかけられ続けた。それに返事をしながら、史郎は人々の様子に目を配る。このあたりの取引は安定してきた。ようやく、といったところではあるが。南の方はまだまだ厳しいらしい。
「柿が安いよ!」
「松茸、ひとつどうだね!」
 活気のある呼び込み。市井は順調な回復を見せているかに思われる。だが、きな臭い噂も聞こえてくる。
「殺し屋家業が儲かってるって本当?」
「噂だろ、そんなの。ようやく歪虚が出なくなったってのに、そんな奴らに横行されてたまるかよ」
「なあ、それより、夜な夜な忍が暗躍してるらしいぜ、こっちの方が気になるよ」
(忍、ね……)
 史郎が少しだけ、笑みをこぼしたそのとき。
「あっ、史郎兄ちゃん! 久しぶり!」
 史郎よりも一回り小さな少年が呼び止めた。着丈の合わない着物を着て、焼き栗の入った籠をかかえて売り歩いているこの少年はまだ十歳にもならないはずだ。家族総出で働いている。
「おう、久しぶり。どうだ、今日は。よく売れるだろ」
「うん、まあ、いつもよりはね。ねえ、史郎兄ちゃん、またさ、勉強教えてよ。っていうかさ、旅の話聞かせてよ」
 前のめりになる少年のその言葉で、彼が本当にやりたいのは商売ではないことがわかる。ましてや、「焼き栗売り」ではありえない。史郎は厳しい顔つきになりそうな自分を抑え込んで、カラリと笑って見せた。
「おう、明日にでも行ってやるよ。皆集めとけ」
「うん! じゃあね!」
 少年に手を振って、史郎は足音もなく小路へ入った。


●寺子屋
 乳飲み子同然の幼さだったという。
 史郎が、拾われたときの話である。彼は、橋のたもとに捨てられていた子だった。一滴の血のつながりもない初老の男が偶然拾い、引き取り、育ててくれた。そればかりか、商人の仕事も、それ以外の仕事も、ひとりでやっていけるようにと仕込んでくれた。商売で世話になっている高貴な血筋の邸宅にも出入りをさせて、そこで行儀見習いのようなこともした。おかげで、史郎は十五歳にして一人前だ。
 誰もが生きることだけで精一杯あった中でのことである。養父には、感謝してもしきれない。
 だが。もちろん、そんな恵まれた教育環境にある子どもなど少ない。読み書きすら出来ぬ子が、この国にはあふれている。
 史郎は、そうした勉強の場を得られなかった子どもたちに、読み書きやそろばんを教えていた。不定期開校される「寺子屋」のようなものだ。不定期なのは、史郎が巡業に出るからであるが、史郎がその旅の中で見たものの話も、子どもたちが楽しみにしていることのひとつだった。
 明日は、久しぶりにその寺子屋の開校だ。
 だが。
「は!? 三十人!?」
 いつもは十人そこそこの寺子屋参加希望者が、三倍に膨れ上がっているというのだ。
「史郎兄ちゃんが久しぶりに帰って来たぞ、って声かけたら、そんなことになっちゃってさ」
 焼き栗売りの少年がへへへ、と笑う。史郎はこめかみを押さえた。
「なっちゃって、って……。そんな人数で勉強は無理だぞ」
 講義形式の授業ではなく、ひとりひとりの学力と進度に合わせて教えているため、三十人などとても一度に見てはやれない。
「……しゃーねえなあ、今回はおはなし会にするか。どうせ、お前らそれが目的なんだろ?」
 史郎がニヤリと笑うと、少年もニヤリとした。
「そんなにたくさん集まるなら、もうちっと豪華にしてやろうかね」
 史郎はぱちりとそろばんを弾く。珍しい話をしてくれる人物を呼べないかと算段しているのである。予定外の出費だが、今回の商売ではかなり儲かったことだし、少しくらいいいだろう。
「スメ……、じゃねえや、スーさんも来るかな。久々に会いたいよな」
 ひょんなことから友人となった人物のことを思い出して、史郎は呟いた。「俺のことはスーさんと呼んでくれ」なんて言って正体を隠しているつもりらしいが、史郎にはすぐわかった。彼が、このエトファリカの帝……スメラギであると。
「子どもたちはわかってないみたいだが……、すっかりお忍び成功してるつもりでいるからなあ、あの人」
 寺子屋にもたびたび現れては、子どもたちと全力で遊んでいく彼のことを思って、史郎はひとり、くすくすと笑った。

リプレイ本文

 エトファリカ連邦国、天ノ都。その片隅にある甘味屋は、この日いつになく賑わっていた。
「はいはい、寺子屋に来たやつは二階!」
 店の前ではしゃぐ子どもたちを史郎が誘導する。そうしながら、通行人への呼び込みも忘れない。
「お嬢さん方いかがですか、甘いものでも。ここの栗大福は絶品ですよ」
 整った顔立ちの史郎に愛らしく笑いかけられ、三名で連れ立っていた娘たちがきゃっきゃと笑って店の中へ入る。案内を済ませた史郎は、ハンターたちのところへやってきて挨拶をした。
「本日はありがとうございます。雇い主が、私のような若輩者で不安に思うこともおありかとは思いますが、よろしくお願い致します」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
 神代 誠一(ka2086)が対等な挨拶を返す。自分の稼ぎでハンターに依頼をしている史郎を、子ども扱いすべきではない。ジャック・J・グリーヴ(ka1305)も感心したように頷いた。
「ガキの癖に、とか思ってたが、なかなかやるじゃねえか」
「ええ、立派なものです」
 クオン・サガラ(ka0018)も頷く。
 甘味屋の店内はかなりの席が客で埋まっていた。中へ入り、おおらかな笑顔の女将に、史郎が一言声をかける。
「悪いな、女将さん。大げさになっちゃって」
「いいよお。史郎くんのおかげで今日はお客さんも多いし、大歓迎さ。あとでおやつ持って行ってあげるからね」
 女将はハンターたちにもにこにこ手を振って、おやいい男ばかりだねえ、などと言い、エアルドフリス(ka1856)がすかさず手を振り返した。
 細い階段を史郎はするすると進む。体の大きなカイン・シュミート(ka6967)は窮屈そうに肩を縮めた。
「確認なんだけどよ、俺が一方的に話さねぇでもいいよな?」
「はい、構いません。ああそうだ、私がまず子どもたちに説明をしますから、その間に準備をお願いします」
 史郎はそう言って、二階の部屋の襖を開けた。途端に子どもたちの声が溢れてくる。史郎兄ちゃん久しぶり、まーちゃんが叩いたー、ねえねえオレ昨日ね、などと様々な声が入り混じる。史郎はハイハイ、と慣れた様子で対応し、良く通る声で号令をかけた。
「知らせてあったとおり、今日はおはなし会だ。おはなしをしてくれる人が立つ場所を作るから、この畳より後ろに座ってくれ。そうそう、できるだけ詰めてな。おい、こらそこ、押すな」
 史郎が場を整えている間に、ハンターたちは話す順番を決めた。子どもたちが期待に満ちた目で彼らを見上げている前に、トップバッターを務めることとなったクオンが立つ。
「皆さんこんにちは」
 落ち着いたクオンの挨拶に、子どもたちは緊張気味でこんにちは、と返す。そんな中でひときわ元気よく返事を返す子がいた。
「こんにちはだんずー!」
 と、思えば、それは話し手側として参加しているはずの杢(ka6890)であった。子どもたちに違和感なく混じって、わくわくと話が始まるのを待っている。その様子に、周囲の子らの緊張がほどける。
「私は、リアルブルーから来ました。なので、リアルブルーの話をしたいと思いますが、なかなか話題にしにくいことが多いので、今回はサルヴァトーレ・ロッソの……、そうですね、皆さんにも馴染みがある、天気の話をしましょうか」
 クオンが穏やかにそう切り出す。
「一応……エトフィリカ連邦は基本的には温帯モンスーン気候だと考えていきますが……、今の時期だと、どうでしょう、秋の長雨に見舞われていませんか?」
 耳慣れない単語も飛び出したものの、問いかけられた子どもたちの中から、数名が声を出した。
「たぶん明日も雨だよ。きっと数日降り続く」
「雨の気配がするからね」
 それらの言葉に、クオンが軽く目を見張った。雲の流れから天気を予測する「天気予報」の技術について話そうかと思っていたのだが、雨の気配を感じ取れる、と来るとは思わなかったのだ。口々に返したのは主に農家の子であるようだった。
「雲でもわかるけど、匂いでもわかるよね」
「うん、草の匂いが強くする」
 それらは、すべて生活に根差した「生きている知識」だった。クオンは講釈をすることをやめ、子どもたちの知識に感心しながら天気に関する世話話を続けた。
「これからどんどん寒くなりますから、皆さん冬の備えをしっかりしてくださいね」
 最後はそう締めくくる。
 穏やかな話だったからだろう、部屋の後ろの方に座っている子どもたち、特に年齢の低い子は、早くもじっとしていられなくてそわそわしていた。史郎が注意するが、とても手が回らない。すると。
「さあ、前を向いて。また新しいお話が始まるよ」
 誠一がきょろきょろしている少年の頭に優しく手を置いて促した。少年は少し恥ずかしそうに、しかし嬉しそうに頷いて前に向き直った。
 前では、杢が話を始めようとしていた。元気よく挨拶をして皆の目を引く。
「おらドラグーンの杢だんず。宜しくおねげーするず」
 自分たちとそう変わらない歳格好の杢に、皆は驚きつつも親しみを感じたようだ。
「えー! 杢くんもハンターなの? ホントに?」
「ホントだんずよ。おらはこういう寺子屋に通ったことはねんだげど、ねっちゃとにっちゃが先生だったんず。たげーいい先生だんずよ、おかげでおらはハンターとしてやっていけるようになったんず」
 杢がこくこく頷きながら話を進める。
「ハンターになっで、妖怪白饅頭やたげでったら怪獣にもあったんず」
 これまでの依頼の話をすると、小さな子も面白そうに身を乗り出した。
「かいじゅう?」
「そうだんず。あ、森を元気にするために踊ったこともあるだんず」
「えっ、森を元気にする?」
「ハンターがいるとそれだけでじょうかさよう? されて元気さ戻ってくるらしいだんず」
 杢はそう言って、その「五穀豊穣の舞」を実際にやってみせた。楽しそうに踊る杢に、皆が歓声を上げる。
「れっつふぃーばーだんずー。みんなも踊るだんず」
 杢が促すと、小さな子を中心に、きゃあっとはしゃいだ声が上がって、わらわらと畳の上に立ち上がった。杢の動きを真似てわいわいと踊る。皆のテンションがどんどん上がっていくのを見て、盛り上がりすぎないように、と史郎が絶妙のタイミングで声をかける。
「皆そのへんにしておけー、下の店に響く」
「はーい!」
 苦労の多い子たちだ、人の仕事の邪魔をしてはいけないことはいかに年少であってもわかっている。皆、素直に返事をし、杢に拍手を贈った。最後の最後で顔から盛大に転んだ杢は、照れくさそうにお辞儀をした。
 杢のおかげですっかりあたたまった場に、次に登場したのはジャックだ。派手な出で立ちの彼がでん、と前に立つと、それだけで迫力がある。
「ようし、最高にイイ話を聞かせてやろうじゃねぇか!」
 自信満々なこのセリフから、話は始まった。
「てめぇらん中にはもう働いてるヤツが多いって話だがよ、そもそも何の為に金儲けをすると思うよ」
 ご飯を食べるため、と誰かが言う。家賃を払うため、とまた誰かが言う。ジャックはそれらすべてに頷いた。
「まぁ金儲けの理由なんざ人それぞれあるからな、コレといった正解はねぇ。だが敢えて俺様はこう理由付けるぜ、「力」の為だってな。世の中金だ、金のねぇ奴から死んでいくんだよ」
 場が、しん、となった。多くの子がジャックから視線を逸らすことなく聞いている。
「病になっても金がなけりゃ医者にかかれねぇ。金がなけりゃてめぇの身を守れねぇんだ。覚醒者にでもなりゃ話は別だろうさ。でも皆が皆なれるワケじゃねぇだろう。けどよ、金さえありゃ世の中何でも出来んだよ。大金つめば権力だって買えるだろうさ、てめぇの望む世界を創れる。つまり「金は力」だ」
 世の中金じゃない、なんて綺麗ごとに頷くような子は、少なくともこの場にはいない。史郎は、隣の女の子にちょっかいを出している目の前の男の子の頭を小気味よくハタきつつ、こいつらの心をつかむ話だな、と思った。
「実も蓋もねぇ話だよな。けど安心しろよ、元が貧乏人だろうと何だろうと金持ちにはなれる。まずは学を身に付けろ、それが一番手っ取り早ぇ。てめぇらにはそこの美少年様がいんだろ? そいつから学を盗め」
 そう言ってジャックは史郎を示した。
「え、美少年様って俺?」
 ジャック相手にもつい素が出て苦笑してしまった史郎の隣で、誠一がくすくすと笑う。史郎の年相応なところがようやく見られた。
「金を集めろよガキ共。集めて集めて、そんでてめぇの望む世界を創れ。俺からは以上だ」
 そう締めくくり、大きな拍手をもらったジャックだが。最後にぼそりとこう付け加えた。
「もう一つ大事な事があった。ギャルゲをやれ。以上」
 このセリフのおかげで、次に話を控えていたエアルドフリスは、そのフォローから入らねばならないこととなった。
「ぎゃるげ、って何?」
「えーっと……、うん、忘れてしまおうね」
 ジャックを横目でにらみつつ、エアルドフリスはこほん、と咳払いをして仕切り直し、話を始めた。
「俺は本業の話をしよう。今日はハンターだが普段は薬師をやっているんだ。わかるかね? 薬を作って売る仕事だよ」
 薬、という言葉は皆をひきつけた。それを買うために働いている子も、少なくないのだ。
「薬の材料は主に植物――薬草だ。西方にしか無い薬草もあるが東方にもある物もあるね。例えばこいつ。蓬だ。今は採集に適した季節じゃあないがね、何処にでも生えて何にでも効く。潰して塗れば切り傷の治りを早くするし煎じて飲めば胃腸に良い」
「蓬団子、作ったりするよ!」
 少女が手を挙げてそう言うと、エアルドフリスは笑って頷き返した。
「それは合理的だな、病気の予防になるぞ。……さて俺はこういうのを乾燥させたり刻んだりして薬の状態にして売るわけだ。薬草の知識、加工する為の技術は必要だが、最も大事なのは患者の話を聴く事かな。以前出会ったご婦人は不眠と動悸を訴えていたがね、よく話を聴くと度重なる戦乱と日常の悩みで心が疲れていた。身体を温め眠りを穏やかにする薬はお出ししたが、周囲の人と話をするよう勧めたよ」
 ふんふん、と頷いて真剣に聞いている子に向かって、エアルドフリスは微笑む。
「面白い仕事だぞ。人の体も植物の性質も判らん事ばかりでね。まだまだできる事はある筈だ」
 話を終えると、誰からともなく拍手が起こった。派手な話ではなかったが、子どもたちの心には随分としみたらしい。
 次は、カインであった。大きな体の彼を、皆は驚きの目で見上げる。カインは、そんな子らと視線を合わせるため、どかりと畳に腰を下ろした。
「俺はカイン・シュミートっていう。俺もまだペーペーだからこの辺のこと詳しくねぇ。後でお前ら俺の先生やってくれよ。色々聞きたい」
そう切り出すと、カインは腕まくりをして二の腕を出した。
「見ての通り、俺はドラグーン……龍の鱗持ってる奴だ。北に多いが俺は違うな。お前らドラグーン見たことあるか?」
 なーい、という声もあるー、という声も入り混じった返事が届く。カインは笑いつつ、かく言う俺もそんなに詳しくないんだがな、と前置きして、鱗の説明をした。
「ガチで鱗なんだぜ、コレ。この鱗、毎日洗って磨いてるぞー。俺の鱗の色だと汚れが目立つし。ま、半袖になんねぇとわかりにくいけど」
「毎日磨くの?」
 不思議そうな少年の声。触ってみたいー、という声もいくつも飛んだ。
「綺麗好きなんですぅ。ああ、触ってもいいぞ、後でじっくりな。あと何か質問あるか?」
「……ドラグーンって、大変なことある?」
「うーん……龍になれねぇこと、かな」
「ふうん。じゃあ、僕らと同じだね。僕らも龍にはなれないもん」
 質問をした少年が、そんなふうに返した。おそらく、カインの言葉の意味をわかってはいなかったのだろうが、その答えが至極まっとうに聞こえ、カインは大きく笑った。
「俺の話はこれで終わり、ありがとな。ああ、あとでお茶請けにいい菓子の情報よろしく」
 カインがそう言うと、皆は口をそろえてこう言った。
「ここのお店の栗大福!」
 まったく商売上手は誰に教わったんだか、と史郎はこっそりほくそ笑んだ。
 最後は、誠一だ。他のハンターの話の間も子どもたちの様子を気遣っていた彼は、すでに「せんせー」と呼ばれ、親しみを持たれているようだった。
 誠一はまず、話を終えたカインに鱗を触らせてもらうべく動き出している子どもたちを制するため、パンパンっと手を叩いた後、口元に指一本立てた。皆、ハッと静かになり、前に意識を向ける。本物の学校の先生ってやつはこういうことができるのか、と史郎は内心で舌を巻く。
「さあ、始めよう」
 そう言って取り出したのは、『薬草百科』とタイトルのついた本だった。ぱらりと開くと、そこには桔梗など、道端でも見かける草花が載っている。
「あ、おかーさんが好きな花」
 小さな指で開かれたページを指す子に微笑み返しつつ、誠一は違うページを開いた。そこには、史郎でさえも見たことのない植物が載っていた。
「俺の話は聞くだけじゃないぞ? 一緒に考えてもらおうか。わかった人は、手を挙げてね」
 誠一はくすりと笑うと、一同を見まわして質問を投げかけた。
「ここに載っているのは、とても珍しい、大変貴重な薬草だ。これが、もし自分の家にあったらどーする?」
 いくつもの手が元気に挙がる。そのうちの何人かを順番に当てると、売る、という子、薬にする、という子、様々な答えが出たが、誠一はそのすべてに「正解だ」と言って褒めた。
「今言ってくれた方法の他にも、選択肢はあるんだよ。種が実るまで大切に育てること、だ。そして人に分け与える。そこからまた増やす。皆で大事に育てるんだ。俺達は一人じゃ生きていけない。自分も金も大事だけど、皆が豊かで幸せになることってのは大事だよ」
 ジャックが先ほど語った、金の大事さを決して否定せず、皆と豊かになることを説く誠一の話は、実に見事だった。子どもたちは、幼い子ですら神妙な顔つきで頷いている。
 史郎はふっと微笑んで、真っ先に拍手をした。そこから、部屋いっぱいの拍手に、広がっていった。



「はーい、おまちどお! おやつだよ!」
 女将が運んできてくれたのは、お盆一杯の蒸かしイモだった。今年はサツマイモが安く手に入ったという。最後の誠一の話が効いているのか、子どもたちは我先にとイモに手を伸ばしはしたが、半分に割って隣の子に渡すなど、譲り合っていた。カインの鱗に触り、美味しいお菓子の情報を得意顔で教えている子、杢と踊っている子、クオンと天気について、エアルドフリスと薬について、熱心に話し込む子……。どの子の顔も、笑顔だった。
 また、ハンター呼んでおはなし会、してもいいかもな、と、史郎は頭の中でそろばんを弾きつつ、今度はスーさんも来て欲しいよな、と友人のことを思い浮かべていた。

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  • その力は未来ある誰かの為
    神代 誠一ka2086
  • いけ!ぷにっ子スナイパー
    ka6890

重体一覧

参加者一覧

  • 課せられた罰の先に
    クオン・サガラ(ka0018
    人間(蒼)|25才|男性|機導師
  • ノブレス・オブリージュ
    ジャック・J・グリーヴ(ka1305
    人間(紅)|24才|男性|闘狩人
  • 赤き大地の放浪者
    エアルドフリス(ka1856
    人間(紅)|30才|男性|魔術師
  • その力は未来ある誰かの為
    神代 誠一(ka2086
    人間(蒼)|32才|男性|疾影士
  • いけ!ぷにっ子スナイパー
    杢(ka6890
    ドラグーン|6才|男性|猟撃士
  • 離苦を越え、連なりし環
    カイン・シュミート(ka6967
    ドラグーン|22才|男性|機導師

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依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/10/14 22:03:20
アイコン 相談卓
神代 誠一(ka2086
人間(リアルブルー)|32才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2017/10/16 22:28:13